世界各国の建築物の地震防災対策...radu vacareanu...

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UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク(IPRED関連 2015 東京国際ワークショップ UNESCO International Platform for Reducing Earthquake Disasters (IPRED) 2015 Tokyo Workshop Report 世界各国の建築物の地震防災対策 ―技術協力で世界の建物を地震から守る―IPRED Earthquake Disaster Management in the World – IPRED Activities – 13 March, 2015 GRIPS, Tokyo 2015 3 13 政策研究大学院大学にて UNESCO, IISEE/BRI, GRIPS UNESCO建築研究所、政策研究大学院大学共催 1

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Page 1: 世界各国の建築物の地震防災対策...Radu Vacareanu :ルーマニア・ブカレスト工科大副学長 ルーマニアにおける確率論的地震ハザード分析の新開発

UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク(IPRED)

関連 2015 東京国際ワークショップ

UNESCO International Platform for Reducing Earthquake Disasters (IPRED) 2015 Tokyo Workshop Report

世界各国の建築物の地震防災対策

―技術協力で世界の建物を地震から守る―IPRED

Earthquake Disaster Management in the World

– IPRED Activities –

13 March, 2015

GRIPS, Tokyo

2015 年 3 月 13 日

政策研究大学院大学にて

UNESCO, IISEE/BRI, GRIPS

UNESCO、建築研究所、政策研究大学院大学共催

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UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク(IPRED)関連

2015 東京国際ワークショップ報告書

世界各国の建築物の地震防災対策

―技術協力で世界の建物を地震から守る―IPRED

2015 年 3 月 13 日

政策研究大学院大学にて

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UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク(IPRED)関連

2015 東京国際ワークショップ報告書 目次

序 ----------------------------------------------------- 4 IPRED 2015 東京国際ワークショップ

1. プログラム -------------------------------------------------- 5

2. あいさつ ----------------------------------------------- 6

3. 基調講演 ----------------------------------------------- 9

4. IPRED 各国発表 ---------------------------------------- 16

5. 日本からの発表 ---------------------------------------- 45

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序 巨大地震災害は世界のどこでも発生します。建築・住宅地震防災国際プラット

フォーム(IPRED)は、ユネスコのプロジェクトとして建築研究所と地震

災害の経験を有する9ヶ国の大学・研究機関が協力して2007年に開始され、

建築研究所国際地震工学センターがそのCOEです。 建築・住宅分野における世界の地震災害軽減のため、IPREDメンバー各国

間の協力を推進することを目的としています。そのために、地震災害軽減分野

の研究、研修、教育の国際的ネットワークが不可欠です。 IPREDの大きな活動の一つは、大地震が発生した際の国際的な調査団派遣

制度です。2011年トルコのバン地震、2014年のフィリピンのボホール

地震の際には、その制度を使って現地調査を実施しました。 地震災害は都市の建築物や地方の住宅といった人間が長い時間をかけて開発し

てきた努力を無にしてしまいます。2015年3月に仙台で開催された第3回

国連防災世界会議(WCDRR)の機会に日本に集まった私達は、各国と協力

してIPREDプロジェクトを今後も推進していく必要があります。 また今回石山先生他により、非構造住宅の耐震化のためのガイドラインである

New guidelines to improve the safety of informal buildings が UNESCO から

出版されています。皆さまの連携と協力に感謝するとともに国際的な地震災害

軽減がこのような情報交換を通してさらに推進されることを願っております。 この報告書は2015年3月13日に東京で開催された「世界各国の建築物の

地震防災対策‐IPRED」国際ワークショップの記録をまとめたものである。

安藤尚一 政策研究大学院大学教授 横井俊明 建築研究所国際地震工学センター長

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1. プログラム

UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク(IPRED)関連 東京国際ワークショップ 国際WS最終

世界各国の建築物の地震防災対策 -技術協力で世界の建物を地震から守る(IPRED)

趣旨:世界各地で近年地震による大被害が続いています。ぜい弱な建築物や住宅の倒壊が大きな原因で

あり、政策研究大学院大学(GRIPS)及びJICA と協力して地震研修を実施している建築研究所国際

地震工学センター(IISEE)での研究成果と共に各国政府、大学、研究機関の地震津波災害対策に

関する最新の情報を、UNESCO/IPRED の協力を得て広く発信する機会を設けます。

日時:2015 年3 月13 日(金)午前10 時~午後5 時00 分

会場:政策研究大学院大学 1階想海楼ホール 東京都港区六本木 定員:250 名

プログラム 司会:黄 俊揚(マイケル) 政策研究大学院大学博士課程

・主催者挨拶 10:00~10:20 西山 功 (独)建築研究所(理事)

増山 幹高 政策研究大学院大学(副学長)

安川総一郎 UNESCO(防災プログラムスペシャリスト)

午前の部 10:20~12:20 ・基調講演: 石山祐二 北海道大学名誉教授(IPRED 顧問)

地震防災対策をめぐる日本と世界の動き ・各国からの講演1:(各15 分)

Anita Firmanti:インドネシア公共事業省人間居住(RIHS)研究所長 よりよい都市計画のための地震リスクハザードマップの開発

Carlos Gutierrez M.:メキシコ国立防災研究所(CENAPRED)部長 メキシコの庶民住宅のための地震脆弱性評価

Carlos Zavala:ペルー国立工科大教授(CISMID 前所長) 新興市街地の恒常的なリスクであるノンエンジニアド建築

Yuksel Ercan:トルコ・イスタンブール工科大学(ITU)教授 典型的なRC 学校建築の地震安全評価と(耐震壁の増設による)耐震改修

午後の部 13:45~16:55 ・各国からの講演2: (各15 分)

Radu Vacareanu:ルーマニア・ブカレスト工科大副学長 ルーマニアにおける確率論的地震ハザード分析の新開発

Tanaktan Abakanov:カザフスタン(ISMES)地震研究所長 カザフスタンにおける石油・ガス地帯の総合動的地盤調査

Raúl Alvarez Medel:チリ・カトリカ大学構造工学教授 自然災害管理の総合的な国立研究センター(研究の方向)

Hatem Odah:エジプト国立天文地球物理研究所(NRIAG)所長 地震観測から警報発令に向けてのNRIAG の地震防災への取り組み

Edgar Peña:エルサルバドル国立大学教授・構造工学科長 エルサルバドルにおける地震工学と地震学の進展と挑戦(仮題)

・日本からの発表:(15:15~16:45+計10 分質疑応答)

岡崎健二 京都大学大学院教授 途上国におけるノンエンジニアド建築の実態

楢府龍雄 (独)国際協力機構(JICA)国際協力専門員 ノンエンジニアド建築の被害軽減に向けたJICA の支援

安藤尚一 政策研究大学院大学(GRIPS)教授 東日本大震災からの復興と津波避難ビルの全国調査

本多直巳 (独)建築研究所国際協力審議役 建築研究所国際地震工学センターの果たしてきた役割と今後の展望

小豆畑達哉 同 国際地震工学センター・GRIPS 連携教授 建築研究所における建築物の設計用地震力に関する最近の研究活動

・おわりに:(16:55~17:00) Jair Torres: UNESCO

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UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク(IPRED)関連 東京国際ワークショップ

世界各国の建築物の地震防災対策―技術協力で世界の建物を地震から守る(IPRED)

日時:2015 年 3 月 13日(金)10:00~17:00

会場:政策研究大学院大学 1階想海楼ホール

2. あいさつ (西山功 建築研究所理事)

増山 GRIPS 副学長、IPRED 参加国の代表

者の皆さま、日本の代表者の皆さま、お

はようございます。建築研究所の西山で

す。

本日ここに皆さまをお迎えして、世界

各国の建築物の地震防災対策に関する

IPRED ワークショップを開催すること

ができ、大変喜ばしく思っております。

最初に、関係の皆さま、特に、政策研究

大学院大学、国際連合教育科学文化機関、そしてそちらにおられます本日の基調講演をお

願いしている石山先生にお礼を申し上げます。

建築・住宅地震防災国際プラットフォームは、UNESCO のプロジェクトとして建築研究

所と地震災害の経験を有する 9 カ国の大学・研究機関が協力して、2007 年に開始されまし

た。IPRED は、建築・住宅分野における世界の地震災害軽減のため、メンバー国間の協力

を推進することを目的としています。この目的のためには、地震災害軽減分野の研究、研

修、教育の国際的なネットワークが不可欠です。IPRED の大きな活動の一つは、大地震が

発生した際の国際的な調査団の派遣制度です。2011 年のトルコのバン地震、2014 年のフィ

リピンのボホール地震の際には、その制度を使って現地調査を実施し、その報告書も出版

されていると聞いています。

地震災害は世界のどこでも発生します。その災害は都市の建築物や地方の住宅といった、

人間が長い時間をかけて開発してきた努力を無にしてしまいます。私たちは、IPRED プロ

ジェクトを今後も推進していく必要があるのです。ところで、昨年、ここにおられる石山

先生他の皆さまにより、非構造住宅の耐震化のためのガイドラインである『New guidelines

to improve the safety of informal buildings』が UNESCO から出版され、既に IPRED メンバー

によりスペイン語版の作成が進められていると聞いています。皆さまの連携と協力に感謝

いたします。国際的な地震災害軽減がこのような情報交換を通してさらに推進されること

を願っております。

最後に、政策研究大学院と UNESCO の皆さまにもう一度感謝を申し上げるとともに、

主催者の一人として、ご参加の皆さまに対して本日が実りあるワークショップになること

を希望いたします。どうもありがとうございました。

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(増山幹高 政策研究大学院大学副学長)

本日はご多数お集まりいただきまして、

誠にありがとうございます。世界中の防災

対策の専門家を私ども政策研究大学院大学

のキャンパスにお招きすることができ、大

変光栄に存じております。私は政策研究大

学院大学で副学長を務めている増山幹高と

申します。

政策研究大学院大学は 1997 年に設立さ

れ、世界中から未来の政策リーダーや研究

者を集め、国際的な研究拠点として政策プロフェッショナルを養成しています。特に、白

石隆学長のリーダーシップの下、私どもはアジア太平洋地域におけるプレミア・ポリシー・

スクールとなるとともに、ASEAN 諸国における教育研究機関のネットワークを形成し、

そのハブとなることを目指しています。防災対策としては、研究建築所国際地震工学セン

ターと共に、2005 年度より 1 年間の修士課程「防災政策プログラム・地震防災コース」、

2006 年度からは「津波防災コース」を実施しています。また、政策研究大学院大学の実践

的なコミットメントとして、世界、特に発展の著しい国々における政策研究と防災の英知

を結集するために、今後も建築研究所との連携を強化していきたいと考えています。

本日のワークショップで世界各地の地震・津波災害について国内の英知を結集した議論

が展開され、防災について実りある成果がもたらされることを祈念してご挨拶とさせてい

ただきます。ありがとうございました。

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(安川総一郎 UNESCO) UNESCO の

防災プログラムスペシャリストの安川総一

郎です。本日は、政策研究大学院大学、建

築研究所と私ども UNESCO の共催ワーク

ショップに多数お集まりいただき誠にあり

がとうございます。また、特に本日のワー

クショップの企画から具体的な実施まで担

当していただいた政策研究大学院大学およ

び建築研究所に深く感謝したいと思います。

UNESCO は 1946 年に教育、科学、文化

の協力と交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進を目的として設立されました。パリ

本部の他に地域レベルの活動を所管する地域事務所などを通じて組織のミッションを実施

しているところです。UNESCO における防災の特徴ですが、UNESCO では教育、科学、

文化といった所掌を生かして分野横断的な防災取り組みを行っている他、地域事務所にお

ける地域の実情を把握した防災の取り組み、あるいは 195 カ国の加盟国の専門家ネットワ

ークの形成による経験・知識の共有を通じた防災の取り組みを進めています。

実は本日講演いただく専門家の方たちも UNESCO の IPRED(International Platform for

Reducing Earthquake Disaster)の地震防災の専門機関のネットワークのメンバーです。IPRED

では、情報交換の他、防災意識啓発のための国際ワークショップの開催、あるいは地震被

害調査報告、技術的ガイドラインの作成などを通じた地震防災を進めているところです。

具体的には、この夏にノンエンジニアド建築を安全に建てるためのガイドラインを出版さ

せていただいています。

UNESCO では、防災対策は科学的知見が政策に反映され、それらが確実に実行されるこ

とが大事だと考えています。本日、世界中からの専門家による知見が政策へと反映され、

より防災が進むことを祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。どうもありが

とうございました。

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基調講演「地震防災をめぐる日本と世界の動き」

石山 祐二(北海道大学名誉教授、IPRED 顧問)

皆さん、おはようございます。ただ今紹

介していただいた石山です。今日は基調講

演ということで、「地震防災をめぐる日本と

世界の動き」という大きなタイトルですが、

私が感じていることをざっくばらんに話し

て、その後の専門家の話のお役に立ててい

ただきたいと思っている次第です。 目次といいますか、40 分ほどの講演の中

で、1~7 のようなことをしゃべることがで

きたらいいなと思っています。 こんなことから話さなくてもいいのかも

しれませんが、地震学・地震工学の始まり

を考えてみると、1880 年の横浜地震が一番初めではないかと個人的に考えています。この

横浜地震は大した地震ではなかったので、当時の日本人にはちょっとした地震が起きたな

という程度でしたが、その当時、明治政府に招かれた外国の研究者は地震を感じたことの

ない人が圧倒的に多かったので、それで非常に驚き、そのとき日本にいたジョン・ミルン

さん他、外国の研究者が日本人と一緒に世界で最初の地震学会(society of seismology)をそ

の直後に設立されています。 もっともこの地震学会は、現在の地震学会の前身ではありますが、地震学会がずっと続

いているわけではなく、途中で一度立ち消えになって、それからまた新しく地震学会がで

きているということになります。それから、1906 年にはアメリカでサンフランシスコ地震

が起こりました。サンフランシスコは大きな火災も起こり、死者も 7000 人といわれている

大きな地震でした。これも次の世界地震工学会議につながっていきました。これも忘れて

はいけない地震だと思います。 1908 年にイタリアのメッシーナ地震が起こりました。このときの死者は正確には分かり

ませんが、7 万~10 万人程度といわれています。この後に出版された委員会のレポートを

読むと、地震作用を等価な静的水平力として考えようということが書いてあり、これが水

平震度の考えを最初に公にしたレポートではないかと思っています。これも重要です。 日本では 1923 年に死者が 10 万人を超えた関東大震災が起こり、その翌年の 1924 年に日

本で水平震度を 0.1 とするという規定ができたのです。これが地震学、地震工学の最初の

重要な地震、出来事ではないかと思っています。

ジョン・ミルンさんの伝記、『近代地震学の父』という本がイギリスで出版されたのが

1980 年です。ちょうど横浜地震の 100 年後にこの本が出版されています。なお、日本語版

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も出版されており、もう絶版で本屋さんでは買えないかもしれませんが、図書館に行った

ら翻訳版も読むことができると思います。また、ジョン・ミルンさんは函館出身のトネさ

んという日本人の女性と結婚して、その後イギリスに帰国して、ジョン・ミルンさんが亡

くなった後、トネさんは日本に帰ってきて、お二人の墓が函館にあります。明日、北陸新

幹線ができますが、また 1 年後には函館まで新幹線が延びるので、もしも函館に行くチャ

ンスがありましたら、おいしい海鮮料理もいいですが、外人墓地の近くにお墓があるので、

行ってみるのもいいのではないかと思います。 次に、世界地震工学会議(WCEE)の話を少ししたいと思います。サンフランシスコ地

震が起こった 1906 年の 50 年後、1956 年にアメリカのサンフランシスコで世界地震工学会

議が開催されました。このときは、4 年ごとに開催されるであろうとは思ってはいなかっ

たようです。そして、その報告書(proceedings)には第 1 回とは書いていません。ですの

で、WCEE の報告書が出版されています。しかし、その第 1 回が非常に好評で非常に役に

立つということで、では続けようと、第 2 回が日本でその 4 年後の 1960 年に開催されるこ

とが決まりました。その結果、その後はほぼ 4 年ごとに世界各地で WCEE が開催されてい

ます。前回はポルトガル、次回はチリで開催されるということで、今、準備中と聞いてい

ます。

第 1 回の地震工学会議がサンフランシスコで開催されたころから、いろいろな世界的な

動きもありました。それから、日本では戦後の経済復興もあり、日本の地震学、地震工学

が進んでいるということで、日本で地震学、地震工学を勉強したいという若い人が少しず

つ増えてきたという状態でした。そして、1956 年の 4 年後の 1960 年には、第 2 回世界地震

工学会議が日本で開催することが決まっていました。そのような中で、1959 年に国連と日

本が国際地震工学研修に関する情報交換を始めました。そして、それから非常に行動が早

いです。今でも考えられないくらい非常に早いのではないかと思います。1960 年に国際地

震工学研修センターを設立するための準備委員会が日本にでき、すぐにその年の 1960 年 7月から第 1 回研修が行われました。この第 1 回研修は当時の東京大学で開催され、研修生

はその間に行われている第 2 回世界地震工学会議に出席することになりました。 その研修は第 1 回だけ東京大学で行われたのですが、それを 1 回で終わらせるのはもっ

たいないので、ぜひ恒久的にずっと続けてほしいという要望が出て、当時の建設省建築研

究所に国際地震工学部(IISEE)が 1962 年に設立されました。第 2 回の研修は 1961 年から

始まり、前半は早稲田大学で行い、後半は設立したばかりの新宿にあった IISEE で行われ

ました。その後は、毎年 IISEE が国際地震工学研修を行っていて、場所は東京から現在は

つくばに移っています。また、1962 年から 50 年たった、3 年前の 2012 年には、IISEE は設

立 50 周年を記念し、国際地震工学シンポジウムを行った次第です。 国際地震工学研修は 1960 年に始まり、最初の 1~2 年は創設期というか、場所を変えな

がらやってきましたが、UNESCO の共同事業が始まった 1962 年からは IISEE もでき、そ

の中で UNESCO との共同事業として行いました。UNESCO は専門家を IISEE に派遣して

協力してきたのです。これは、第 1 期と第 2 期に分かれて、合計 9 年になります。当時も

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今でもそうかもしれませんが、UNESCO がこのように同じ事業で、第 2 回というように継

続して協力するのは非常に珍しいと聞いています。この研修の有意義なこと、重要性を認

識してのことだろうと思います。そして、UNESCO の共同事業が終わった後の 1971 年に

は、学術会議他いろいろな研究の学会が、日本の政府に研修の継続を依頼しました。 その後は日本の独自の事業として、名前は建設省が国土交通省、OTCA は JICA、場所は

新宿からつくばと移りながらの現在もこの研修が続いています。また、IISEE は International Institute、建築研究所は Building Research Institute ですから、institute の中の institute というこ

とで、非常に面白い表現かもしれません。これは、IISEE が独立した意味の institute であり、

日本の政府に継続を要望したときに、この名前を残して同程度の規模でやってほしいとい

う要望があったからと聞いています。当初は国際地震工学研修所、俗称「トレーニングセ

ンター」ということで、トレセンと言っていた覚えがあります。そのトレセンがその後、

国際地震工学部、現在は国際地震工学センターと日本語の名前は変化していますが、英語

はずっと同じ IISEE のままで続いています。 今までの研修生は 99 カ国から 1664 名になりました。この研修生は日本で 1 年ほどの研

修が終わった後、自国に戻る場合が多いのですが、最近ではインターネットによる情報を

共有するということで、IISEE-net というものを開始して、元研修生と一緒にいろいろな地

震災害軽減のための活動を行っています。

私が撮った写真ではなく、お借りした写真からこれを紹介します。左上が当時の新宿百

人町にあった建築研究所の中の国際地震工学部の 4 階建ての建物です。右上はアドバイザ

ーの方と撮った写真で、一番左が初代の国際地震工学部長の表俊一郎先生です。左下はア

ドバイザリーコミッティのメンバーで、ご存じの方もいるかと思いますが、だいぶ亡くな

った方が多いですが、私がぱっと見た感じでも何人か知っている方がいます。右側には当

時のスタッフミーティングということで、建築研究所のメンバー、外国から当時来ていた

UNESCO エキスパートと一緒に研修をどうやったらいいかという会議をやっている様子

があります。私は何人かご存じですが、皆さんはどうでしょうか。非常に懐かしい写真が

多いです。 UNESCOエキスパートというのは、UNESCOとの共同事業があったのは 1962年から 1972年のトータル 9 年になりますが、この中で私が特にお世話になったというか、いろいろ話

をしたことがあるのは、アメリカの Penzien 先生、カナダの Cherry 先生、ニュージーラン

ドの Skinner 先生、米国の Hanson 先生、米国の Bertero 先生です。非常にいろいろお世話に

なりました。最初に会ったときから非常に親しく話し掛けていただいて、IISEE のエキス

パートとして日本にいた経験があったから、当時私のような若輩者にも非常に親切にして

くれたのだろうなと思っている次第です。 次に、IISEE の研修コースのお話をしたいと思います。一番基本となるのが通年研修で

す。国際政策研究大学院は少し長いので、われわれは GRIPS と言っていますが、これは

GRIPS との共同で、2005 年から修士号を与えることができることになりました。内容は、

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地震学コース、地震工学コース、津波防災コースです。津波防災コースはインドネシアの

スマトラ沖のインド洋の大津波を契機としてできたものです。この三つが通年研修で修士

号をもらえるようになりました。個別研修は随時必要に応じてやっているようです。セミ

ナー研修は 1 カ月からせいぜい 2 カ月程度です。昔はフォローアップ・コースで行われた

こともあります。中国耐震建築研修コースは、中国の四川地震の後に 3 年間、短期間でし

たが、年に 2 回行った年もありまして、日本に来て学んだ研修生は 78 名と 100 名にも満た

ないのですが、その研修生が中国に行ってさらに何十人かを教え、教えられた何十人が他

の中国人何十名に教えたということで、研修で影響を受けた方はトータルで 1000 名近くに

なるのではないかと思っています。 その後、2015 年と書きましたが間違いです。昨年の 2014 年から、スペイン語で行う研

修の中南米地震工学研修コースが進行中です。グローバル地震観測研修が他にあり、これ

は 1995 年からやっています。CTBT 包括的核実験禁止条約にも寄与するということで、こ

の研修を行っています。地震観測を行って、その地震のメカニズム、どういう地震であっ

たか、地震はどのように起きたかということを調べると、自然で起こった地震と自然でな

い地震が分かるので、例えば核実験をこっそりやっても世界中から監視されているという

意味で、核開発を防止することに寄与するということで、これを IISEE の研修の一つとし

て行っています。もう一つ、第三国研修というものがあります。これは、IISEE だけでや

るわけではなく、JICA が支援している他の国、例えばインドネシアを支援して、インドネ

シアはインドネシアとインドネシア周辺の国の研修生を招いて、そこで効率的に研修をや

ろうというものです。これは幾つか既に行われています。 元研修生の分布が書いてあります。この大きな丸がたくさん来ているということですが、

これが先ほど説明した 99 カ国の 1664 名の元研修生の出身国を示しています。 次に、IPRED の話をしたいと思います。IPRED というのは、英語では International Platform for Reducing Earthquake Disasters と少し長いのですが、われわれは通称 IPRED と言っていま

す。日本では建築・住宅地震防災国際プラットフォームと呼んでいます。先ほど西山理事

の挨拶にあったかと思いますが、これは 2007 年に UNESCO によって、地震学、地震工学

における研究、研修、教育の協力を促進することを目的に設立され、今、継続中のもので

す。そして、IISEE は UNESCO と国交省の支援を受けて、その中の中心的役割として活動

しているということになります。なお、昨日、一昨日の 2 日間、IPRED のミーティングが

あり、それに参加した方が今日私の後に発表してくれます。 IPRED のメンバーはここにある日本を除いて 9 カ国です。チリのカトリカ大学、エジプ

トの国立天文・地球物理学研究所、エルサルバドル大学、インドネシアの人間居住研究所、

カザフスタンの国立地震研究所、メキシコの国立防災センター、ペルー国立工科大学地震

防災センター、ルーマニアの地震危険度研究センター、トルコのイスタンブール工科大学、

それから、日本は建築研究所の IISEE、政策研究院大学、国交省他が協力しているという

ことになります。

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Page 13: 世界各国の建築物の地震防災対策...Radu Vacareanu :ルーマニア・ブカレスト工科大副学長 ルーマニアにおける確率論的地震ハザード分析の新開発

その次は、英語と日本語で両方同じことが書いているのですが、どんな機関であったか

を書いています。一番右端には、日本との JICA を通したものが多いのですが、どういう協

力をしたか、いつしたかという年度が書いています。かぎ括弧の中の年度は、その中で第

三国研修を行った期間です。第三国研修を最初に行ったのがインドネシアの人間居住研究

所です。当時は建築研究所と言っていたと思いますが、そこで始まったのが最初で、これ

の立ち上げには私も参画した覚えがあります。次のペルーについては、地震防災センター

と書きましたが、正式な名前は日本・ペルー地震防災センターになっていて、私は CISMIDと言ったりしています。全部詳しく説明する時間がありませんが、一番下はエルサルバド

ルのプロジェクトで、通称「Taishin project」という日本語の名前を使ったプロジェクトを

行いました。 IPRED の目的については先ほどのご挨拶の中にもありましたが、まず、情報交換とこれ

からどうしたらいいのかという計画を提案します。それから、政策に反映するためにどの

ようにしたらいいかということで、研究からさらに一歩進めた実用的な、どうしたらいい

のかというところにも焦点を置いています。地震が発生したときには、速やかに近くにい

るメンバーがそこに行って調査できるように、派遣のシステムを構築します。その他にも

たくさんのことがあります。毎年 1 回ずつ総会を開催しており、昨日と一昨日の 2 日間、

今回は日本で開催されましたが、今までは日本の他にトルコ、インドネシア、チリ、ペル

ー、カザフスタンなどで行われています。

これも先ほどご挨拶の中にありましたが、これがノンエンジニアドのガイドラインの出

版物の表紙です。縁があって、インドの Arya 先生、インドネシアの Teddy Boen さんと私

が 3 人で以前出されたものを作り直したもので、UNESCO のサイトからダウンロードでき

ます。建築研究所の IISEE のホームページからもダウンロードできます。これは英語で書

いてありますが、今、スペイン語版が半分程度できているということで、近いうちに全部

がスペイン語版になると思っています。 ノンエンジニアドという言葉は日本語でもあまり使われないのですが、どういうものか

というと、ノンエンジニアド建物は、建築士や構造技術者の関与なしに、住民が独自に伝

統的工法によって建設する建物です。世界の都市ではない田舎に行くと、家を建てるとき

に自分、または近所の人、親戚の人に手伝ってもらって自分たちで造ります。そういうと

きには当然、法律などは適用されない、守られないことがあります。ノンエンジニアド工

法は世界で最も用いられ、地震に対して最も脆弱な工法です。日本の建物はノンエンジニ

アドには分類されないと思うかもしれませんが、1995 年の阪神・淡路大震災で倒壊した木

造建物の多くは、ノンエンジニアドに分類されてもいいのではないかと個人的には思って

います。 このガイドラインは実は 1986 年に出版されました。写真の丸が付いている人が

今回のガイドラインの著者 3 名ですが、出版されたときはその他に 5 名の方がいて、世界

の 8 名の方で作ったものです。右下の写真は、1984 年に世界地震工学会がサンフランシス

コで行われたときに会議を行ったときの写真です。丸が付いていますが、一番下の列の左

側には大沢先生が写っているのも分かると思います。

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この 8 名のうちの 3 名が、2008 年に日本の東京で行われた会議のときにたまたま顔を合

わせて、このガイドラインは今でも使われている、ネットでもあるけれど間違いもあると

いうようなことを話し合い、何とかこれを改訂したいということになりました。3 人はで

はやろうかということで、この中では私が一番若いので、ではやろうということで、私自

身、IISEE の協力を得て、まず古いものの英語をデジタル化しました。そのうちに、UNESCO、

IPRED の支援を受け、2010 年と 2011 年にニューデリー、シンガポールで 3 人で会ってこ

の本の改訂を行いました。ちなみにこの写真は、先ほどの写真から 26 年後、27 年後の年

を取った顔の 3 人です。

次に、少し話が違いますが、ISO の話をしたいと思います。ISO は皆さんご存じだと思

いますが、その中に TC98 というものがあります。TC(テクニカルコミッティ)は日本で

は技術委員会と訳していますが、その 98 番目の委員会は構造物の設計の基本を扱っている

委員会です。これは 1961 年に設立されているので、かなり長い期間活動しています。建築

物や土木構造物に統一した設計システムを構築するためにできたものです。しかし、実際

は各国には自国の基準があり、それを守っているということで、あまりこの ISO の TC98の活動が知られていないかもしれませんが、設計の考え方は統一できるはずだということ

で活動が起こっています。その中には三つの分科会、SC(サブコミッティ)というものが

あります。SC3 は「荷重、外力、その他の作用」というものです。その中に WG(ワーキ

ンググループ)があり、WG9 が「構造物への地震作用」ということで、地震に関すること

をやっています。SC3 の委員長は神田順先生、WG9 の主査は私がしています。 ISO で作った地震荷重ですが、ISO3010 構造物への地震作用というものの第 1 版は 1988年に出版されています。その後、第 2 版が 2001 年に出版されました。その後、2007 年には

地盤構造物への地震作用という ISO ができました。2013 年には非構造部材への地震作用と

いうものができました。そして現在、ISO3010 の第 3 版が作成中です。ワーキンググルー

プは昨年シアトルとコペンハーゲンで開催され、今年も 5 月にハワイで開催されることが

決まっていますが、ここ 2 年程度のうちには第 3 版が出ると思っています。 この中で地震作用をどのように評価しているかということですが、地震作用は変動作用

または偶発作用と考えようとしています。また、終局限界と使用限界の二つの限界状態で

設計しようということになっています。なお、ISO ではロード(荷重)という言葉はあま

り使わず、アクション(作用)と言っています。アクションの方は、ロードも含めたもう

少し広い意味に使われています。この 2 段階の設計は、世界では非常に珍しいです。日本

では 1 次設計、2 次設計ということで使われていますが、世界的には 1 段階の設計といい

ますか、設計レベルは一つなので、使用限界を省略し、終局限界のみでも設計できるよう

な表現になっています。それから、解析方法は一番多く使われている等価静的解析と動的

解析という二つは以前からありました。第 3 版にはそれに加えて、非線形静的解析(プッ

シュオーバー解析)も入れようという案ができています。

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ISO3010 の本文は非常に基本的なことです。ですので、建物は強度の他に粘りも持たせ

ましょうというような表現になっています。しかし、付属書(annexes)にはいろいろなこ

とが非常に具体的に書いてあります。たくさんあり、全部で 14 ありますが、黄色で書いて

いるのが今回新しく加わる annexes の一つです。ですので、動的解析は今回一つ annexes が増えました。 その他に耐力スペクトル法、地盤と構造物の相互作用、高層建築物の耐震設計、ノンエ

ンジニアド工法について、そして津波作用についても annexes ができることになっていま

す。津波については、インド洋の大津波の他に 2011 年の日本で起きた東日本大震災を踏ま

えて、津波についてのことも地震作用の中で注意を喚起する必要があるだろうということ

で入れた次第です。 最後に、今後の活動に対する期待を多少私なりに考えたことをお話ししたいと思います。

まず、IISEE には、通年の修士コースとグローバル地震観測コースはぜひとも長年継続し

ていただきたいと思います。これがもちろん一番重要ですが、1~2 カ月行うタイムリーな

セミナーコースもぜひタイムリーな内容、言語によって研修を継続してほしいです。英語

で行う場合がほとんどですが、その他のスペイン語、中国語、場合によっては他の言葉で

も必要があるかもしれません。 それから、レクチャーノートの充実です。これも現在だいぶ英語で公開されているもの

もありますが、それをさらに他の言語なり、毎年少しずつ改訂して、少しでもいいものに

していってほしいと思っています。それから、現在ですと、構造物などを設計する場合に

は、ほとんどの場合が汎用ソフトのコンピューターのプログラムを使って行うので、ソフ

トを使う研修とソフトの公開もしていただきたいと思っています。ですので、研修コース

だけではなく、レクチャーノートやソフトの継続的な改善をぜひこれからやっていただき

たいと思います。現在もう行っていますが、IISEE-net の継続と充実も非常に重要なことで、

日本で 1 年間研修を受けた研修生が自国に帰って、また他の国でも活躍するときには

IISEE-net からいろいろな新しい情報が得られるような仕組みをもっと充実させていただ

きたいと思っている次第です。

それから、IPRED に対する期待も若干書かせていただきました。年次会議を充実させ継

続するのは当然のことです。また、将来地震が起こったときの被害報告は速やかに発行し

ていただきたいです。それから、IISEE とも連携して、IPRED として、英語、その他の言

語のレクチャーノートを充実させて出版していただいたら、IISEE の研修生以外の方にも

使っていただけるのではないかと思います。現在ある種々の解析ソフト、設計ソフトをぜ

ひ改良し、それを使うためのマニュアルを作っていただき、それらのソフトが常にいいソ

フトになるように活用していただきたいと思っています。私が感じた IISEE、IPRED に対

する期待を書かせていただきました。 これで終わりたいと思います。ご清聴どうもありがとうございます。

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IPRED各国からの講演 1 「よりよい都市計画のための地震リスクハザードマップの開発」

Anita Firmanti(インドネシア公共事業省人間居住(RIHS)研究所長)

皆さん、おはようございます。今、ご紹

介のありました、Anita Firmanti と申します。

インドネシア公共事業省の人間居住研究所

の所長をしています。本日、「よりよい都市

計画のための地震リスクハザードマップの

開発」という題で発表させていただけるこ

とは、私にとって大変光栄です。 これが私の発表の概要です。初めに紹介、

それから一般的な地震マイクロゾーネーシ

ョンの手順、地震ハザード分析、そして脆

弱性分析、リスク分析、結論という順番で

す。

インドネシアは日本と同じように地震の危険性が非常に高い国です。四つの主要なプレ

ートが集まっています。インド・オーストラリア、ユーラシア、そして太平洋プレートで

す。小さなものはフィリピン海プレートです。とりわけスラウェシの北部に当たる地域に

あります。近年では、石山先生からも話があったように、2004 年にアチェの地震がありま

した。マグニチュードは 9 ぐらいでした。2006 年はジョグジャカルタ、2007 年はパダン、

2009 年は再びパダンで、それからニアスでも地震がありました。10 万人以上もの死傷者が

出ています。とりわけアチェの地震のときには津波による死傷者が多数出ました。今、地

震リスクの軽減戦略が求められています。 これが過去の地震データです。毎日とは言いませんが、頻繁に地震が起こっています。

時にはマグニチュード 5~6 ぐらいで頻発しています。特にこの部分です。地震による強い

影響を受けています。ただ、この部分は人口密度がそれほど高い地域ではないので、それ

は幸いと言えるのかもしれません。 さて、公共事業省は、国家防災庁の下にある、国家防災計画の調整省の一つです。科学、

工学的な防災プログラムを予防、応急計画として立てる、建物のための国家防災ガイドラ

インなども作成しています。 地震ハザードの軽減ですが、予防、応急、復旧、復興でさまざまな研究が行われていま

す。地震ハザードの分析、脆弱性分析、リスク分析、建築構造システムの研究です。また

今、2012 バージョンの建築基準の改正を進めています。マップは 2010 年に作り、今もこ

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れを改正中です。新しいマップは 2015 年に完成します。 地震マイクロゾーネーションも行っています。地震防災ですが、都市のスケールでマイ

クロゾーネーションづくりをやっています。首都ということもあり、ジャカルタが非常に

重要ですので、ジャカルタから始めています。さらに、バンドン工科大学、気象地球物理

庁、そして地方政府と組んで行っています。また、都市計画、建築設計などについてもリ

スク軽減戦略を立てています。 地震のマイクロゾーネーションの手順は他の国と同じだ

と思います。マイクロゾーニングをやるということです。マイクロゾーネーションのマッ

プを作って、脆弱性分析を行います。そして、ハザードマップが出来上がります。

これはジャカルタの地震ハザード分析です。ジャカルタはジャワ島にあります。南部の

インド・オーストラリアプレートによって影響を受けています。さらに、幾つか断層が走

っています。Semangko、Sunda プレート、Cimandiri プレート、多くの小さなプレートの周

りに断層が集まっています。 これがジャカルタの地震ハザード分析の結果です。これは、ベースロックに関してです。

500 年の確率、2500 年の確率で見ています。この岩盤は 0.18 から 0.22、2500 年は 0.33 から

0.39 という数字になっていますが、これは 1.5 倍ぐらいになるかと思います。以前のマッ

プに比べると 1.5倍ぐらいになっています。2010年に前回のマップが発表されたのですが、

その後、いろいろな記録も増えていろいろ学習したということがあります。幾つかの要素

をさらに盛り込んだということがあります。ジャカルタの地震リスクの予測ということで、

確率が上がっているということがあります。 さらに、地盤特性についても見ています。この地区での地盤特性をやっていますし、こ

こで記録されていないものが一つあります。アクティブなものは三つです。ですので、52から 250 ということです。 ジャカルタの地盤調査でボーリングを行った結果です。標準的な浸透テストもやってい

ます。これがボーリングの穴です。かなり財政的にコストが掛かったということもありま

すので、抗井を微動アレイと比較してみました。比較した結果、微動アレイが地盤特性を

評価するに当たってはいい方法だということが分かりました。ということで、ジャカルタ

ほとんど全体にわたって微動アレイ測定を行いました。 これが地盤特性で工学的基盤の深さです。ご覧になりますように、ジャカルタの北部は、

工学的基盤は 700m 以上の深さで、これはわれわれにとっては新しい情報です。というの

も、文献によると、300m ぐらいとされていたからです。ところが、微動アレイ測定をやっ

たところ、深さが 700m 以上あるということです。これは 30m の深さのところまでの地盤

の平均 S 波の速度です。 これはジャカルタ市の地震ハザード分析です。0.26 から 0.39、中には 0.42 ぐらいの地点もあります。確率論的な分析ということで、2500 年の期間で見て

います。

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これが、2500 年確率ということで、増幅したものです。マイクロゾーネーションから分

かった結果で、そして脆弱性分析もさらに加えています。 一部の建物についてはやはり損傷があるだろうということが分かっています。これは地

震シナリオを基に評価をしました。データを何千もの建物について収集しました。 これが人口密度との対比です。ちょうど中央部では 1ha 当たり 400 人以上となっていま

す。また、北部が最も密度の高い地区となっています。 これが構造の脆弱性を表しています。分かったことですが、右が建物のうちの 50%ぐら

いで、20%が中程度で、地震が起こったときの倒壊率は、Heavy となっているのが 1.83%ぐらいで、0.03%が全体での倒壊率です。

これがジャカルタの脆弱性マップです。人口密度と重ね合わせて見ています。そしてこ

れがリスク地図です。大統領のパレスは、このリスク地図が故にということではないので

すが、政治的な理由があって、今はボゴールの方に移っています。しかも、地震から見て

も、やはり安全だということもありますので、大統領府をそのように移しています。 プロジェクトですが、ジャカルタについては巨大な防波堤を造ろうということで、ちょ

うど人口が密集している地域の北部がありますので、政府に対して提言しようと考えてい

ます。住宅などの設計をどうするのか、いろいろ今度提言をしていきたいと思っています。

それから、また別のプロジェクトですが、100 万戸の住宅開発を 5 年間で進めます。今年、

政府としては 20 万戸を高層ビルの集合住宅として造ります。この赤い部分には住宅はでき

る限り造らないようにするということです。 地震ハザードマップ、脆弱性マップを重ね合わせるということは、基本的な構造面での

リスクのスコア、人口密度なども勘案して、13 の地区が中程度、九つの地区が高いリスク

地区とされています。人口密度がかなり高いところと郊外では、質の悪い建物が多いとい

うことでリスクが高くなっています。以上です。

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「メキシコの庶民住宅のための地震脆弱性評価」

Carlos Gutierrez M.(メキシコ国立防災研究所(CENAPRED)部長)

皆さま、おはようございます。GRIPS に

対して、この発表の機会を頂いたことにお

礼を申し上げたいと思います。最近の研究

結果についてご紹介したいと思います。 今日、お話をしたいのは、メキシコの庶

民住宅における地震脆弱性評価です。大型

の構造物実験室を使って、われわれのセン

ターでこのラボを 25 年間使ってきました

が、それを基に行った評価です。非常にい

い結果が出ています。日本の研究者、そし

て私たちの方からもいい結果が出てきてい

ます。

まず、簡単にこれが私たちが主に使っているスキームで、他の国々もそうだと思います

が、リスクの構成要素です。もちろんハザードというのは、この場合では地震ということ

になり、われわれの研究対象は歴史的な観点からも地震をハザードとして見ていますし、

また、制度的な面からも見ています。そして、もちろん危険にさらされた要素のコスト、

つまり、人間の人命というのは、金銭的に定量化するわけではありませんが、人命にも非

常に大きな関心を持っています。ここで重要なのは、住宅、建物ということです。定量化

のための単位は平米を使っています。金銭はドルとして表しています。 次に、脆弱性について話をするときには、住宅や建造物の非常に大きなユニバースがあ

る、つまり、いろいろな建築手法で建てられた建物がたくさんあります。住宅基準法がな

いところでも建てられています。そのような建築物を、使った建築材料や幾何学的な特徴

を基に分類していきます。そのためには非常に慎重な現地調査が必要になります。特に、

実際に地震が発生した後は慎重にしなければなりません。 これが今、話していたものです。最初にその影響を受けるシステムを理解しなければな

りません。そこで類型化して、タイポロジーを決めます。また、地理的な分布を見ます。

どこに建築物があるのか、地域やコスト、そして被災する可能性のある人口です。これが

exposed elements です。典型的な建築です。田舎の方に行くと、耐火レンガを使っている場

合もあるし、日干しレンガ、アドベを使っている場合もあります。中にはこのように木造

建築も存在します。このような類型のものに対しては、脆弱性関数を作らなければなりま

せん。そうしなければ、いいリスク評価ができないからです。 それに必要なデータですが、既に申し上げたとおり、exposed elements があります。その

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ためには、それぞれのエレメントごとの位置をはっきりしなければなりません。しかし、

この場合には非常に大きな居住地区となると、エレメントごと、つまり区画ごと、住宅ご

とに見ていくことは非常に難しくなります。そこで検討するのが、どれぐらいの割合ごと

にその分類の建物があるのかということです。例えば、市やメキシコシティのように大き

い場合にはやります。代表的な数値として平米を使います。さらに、それぞれのシステム、

あるいは地域に対し脆弱性関数を当てはめていかなければカタログ作りができません。数

字については後で説明します。これを脆弱性関数のカタログと呼んでいますが、この場合

には横軸に加速度が出ています。つまり、それがハザードを代表します。そして、縦軸が

損傷指数です。

この脆弱性関数を統合していくための三つの方法があります。最初に使う方法は、実証

的な方法です。これは物理的証拠に基づいていて、災害が起こった後の被災地の現地調査

から得てきます。この現地調査から出てきた情報には、いろいろな震度がありますが、そ

れを脆弱性関数のために調整していきます。キャリブレーションしていきます。わが国に

おきましては、公共政策として全ての州および市は、自分たちのハザードマップを作らな

ければならない、そして、リスクマップを作らなければならないことになっています。従

って、それをするためにどのような手法を使えばいいかというような文献がたくさん出て

いますが、ここに出ている右上の例は、物理的脆弱性評価のためのガイドですが、これま

での経験では州や市町村において専門的に普通の建築家やエンジニアたちが使うことがで

きる、つまり市町村レベルで担当している人たちがこういったハザードマップなどを作る

ことができるようにするためのガイドということで、これが高く評価されています。あま

り専門家向けということではありません。 次に、脆弱性関数に関して、実験的手法というものもあります。私たちは非常に大型の

ラボを持っています。郊外、あるいは都市地域でもそうですが、通常このような壁が使わ

れています。これは一つの例なのですが、われわれはこういった材料の場合にはどのよう

な不確実要素があるのかということをこの標本で見ています。 もう一つのアプローチは、分析的手法です。仮説と単純数式を使います。もう一つ、精

緻化されたモデルも使います。ほとんどの場合、私たちは現時点においては最先端のソフ

トウェアを手にしていません。しかし、この大学や他の研究機関と協力しながら、手に入

るソフトを使ってできるだけ精緻化された形で評価していこうとしています。 こちらに書いているのが、主な組積造の事例です。メキシコ各地で主要に使われている

組積造です。左上が枠組み組積造で、若干の補強が窓の部分にされています。でも、悪い

例の方では適切に枠組みが造られていません。通常、このような建物は 4~5 階ぐらいの建

物でそれほど大きな建物ではありません。左は補強コンクリートブロック造、真ん中は補

強レンガ造り、これは耐火レンガでやっています。3 階建てになっています。もう一つの

事例は、レンガによる壁埋めの手法です。infill を使っています。

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結果が出ています。ここに図があったはずなのですが、大体 130 の実験結果が出てきて

います。130 の実験が大規模ラボで行われ、ひび割れ、ストレス、応力、理論値、実験値

を出してそれで比較をします。計算値の方はもちろんオフィスで計算したもの、もう一つ

は実験中に得た数値で、それを比較するのですが、それで分かったことは、とてもキャリ

ブレーションのために有益だったということです。私たちのモデルをそれでキャリブレー

ションすることができました。方程式がここに載っています。また、近くの大学や工科大

などの研究者に、私たちと情報共有をして、こういった実験を続けてほしいと働き掛けて

います。 こちらに書いているのは、曲線補正についてです。これが脆弱性関数の曲線で

す。多くの国々において、ここでクラッキングが始まったとき、それが 1%の被害という

ことで決めます。そして、95%になると、倒壊が切迫している危険な状態であることを示

しています。 これが私たちの結果の一部をまとめたものです。脆弱性関数カタログについて、ここに

いろいろな曲線が出ています。この数字は何階建てかという階数を表しています。そして、

クラッキングがどのような段階であるかということを示しています。このような脆弱性関

数のときにどこでクラッキングが起こるかということ、参考としてここに地震加速度、軟

質地盤と書いています。A ゾーンの場合は震源からかなり離れたところ、マグニチュード

で言うと 8.2 というようなところ、最もエクスポーズされているのが D です。これを参考

にすることによって、脆弱性関数がうまく機能しているかどうかをチェックできます。 次に、数字で見たいと思います。こちらに書いているのは、先ほどのページでお見せし

たファミリーごとの数字です。ここに書いているのは階数で、1 階から 5 階ということで、

ここに書いているのがわれわれが考慮した主要なパラメーターです。こちらが壁の密度、

鉛直方向、そして有効範囲、どのぐらいの空間、空隙が残っているかを示しています。

Resistant stress、弾性モジュール、加速度係数、最後がその建造物の固有周期です。

最後になりますが、あと二つ事例を示します。われわれのラボで行った結果です。これ

は、組積造の壁ですけれども、それをこの溶接したワイヤーで固めています。実験結果は、

そのメリットを見ています。オリジナル、つまり、このような補強をしなかった場合はこ

うなります。ドリフト、ディストーション、ひずみなどです。こちらに「Rehabilitated」と

書いているので、補強をした標本です。非常にいい便益がこのような単純なやり方でも生

まれます。下のグラフは、オリジナルの方で、これが脆弱性曲線です。しかし、このよう

な補強、ワイヤーメッシュを使うことによって変化しました。 最後のスライドは、外側のコンクリートの壁の事例です。U 字型の補強をしており、そ

の結果がここに出ています。オリジナルの段階では非常に低品質だったものが、リハビリ

テーションしたことによって強化されました。 以上です。ありがとうございます。

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「新興市街地の恒常的なリスクであるノンエンジニアド建築」

Carlos Zavala(ペルー国立工科大教授、CISMID 前所長)

皆さん、おはようございます。まずは、

GRIPS、建築研究所、UNESCO の皆さま

に御礼申し上げたいと思います。講演の

機会を与えていただき、ありがとうござ

います。過去 2 年の研究の成果について

今日は発表させていただきたいと思いま

す。私からはノンエンジニアド建築、特

に新興市街地のリスクについてお話しさ

せていただきたいと思います。 石山教授から既にノンエンジニアド建

築とは何かについてお話がありましたが、

私たちにとってそれがどのような意味を

持つのかについてから始めたいと思います。 これが私たちの言うノンエンジニアド建築です。不適切な建築材料が使われており、統

一性のない構造が用いられています。そして、不整形です。例えば、ここにその例が見ら

れます。さまざまな材料が組み合わされて使われていることが分かります。土台は、この

ように丘の形をしています。そして、コンクリートの土台も使われているのですが、あま

り性能の良くないコンクリートです。1 階の部分は、硬いレンガを使っているものもあり

ますが、2 階のところでは空洞の多いレンガが使われています。そして、こちらの場合は

ここに道路があります。そして、その道路のすぐ横に建築物があります。これは、CISMIDに来た日本人の方はご存じだと思うのですが、大学の裏にある貧民街です。その貧民街の

写真を撮りました。この住宅はノンエンジニアド構造物で、非線形で、体系化されていな

いことが分かります。そして、こちらの写真ではフレームはあるのですが、ここは幅が広

く、この柱と平行でないことが分かります。少しずれてしまっています。3 階の部分は全

く柱がありません。全く補強をしないまま建築を行っていることが写真から分かります。

わが国の標準におきましては、二つのレンガが指定されており、それが構造壁に使われ

ることになっています。構造壁というのは、屋根を支えることができる壁です。基準にお

いては、硬いレンガを使わなければいけないとしており、密度としては穴の上限が 25%に

なっています。これが硬いレンガの写真です。工場で製造されたものです。こちらのレン

ガは手作りのレンガです。こちらには穴がありますが、工場で作られたもの、手で作られ

たものの双方があります。その一方で、不適切な材料が存在します。この建築材料ですが、

間仕切り壁用のレンガです。わが国においては、この間仕切り用の壁を使って構造壁を建

築することがあります。不適切な材料を使っています。空洞レンガが使われています。こ

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ういうものを使っているためにノンエンジニアド建築が大変危険なのです。 統一性のない構造物がこちらの写真で示されていますが、ノンエンジニアド建築の良い

事例であると思います。不整形ですし、場所によって高さが違います。こちらでもう少し

詳しく見えるのですが、空洞レンガを使っていることが分かります。 また別の不整形の事例です。これは、大学の裏にある町の写真です。私たちの大学の近

くにあるということで、ノンエンジニアドハウスを見つけるのはとても容易なことでした。 では、ノンエンジニアド構造物の脆弱性を低減するために何ができるのでしょうか。 メキシコと同じように、私たちはこういった住宅を補強しなければいけません。ペルー

政府は昨年プログラムを始めました。これは実験的なプログラムです。町の北部のコマス

から 300 の住宅を選定し、補強工事を行いました。所有者が補強した場合に補助金を出す

というプログラムでした。そして、そのプログラムの中でテストを行いました。ペルー政

府、JICA の協力を得て、SATREPS のプログラムとして材料試験、圧縮試験、そしてせん

断破壊試験を行いました。

緑は工場で作られた産業用のレンガ、青はクラフトレンガ、オレンジは間仕切り用の壁

に使われる空洞レンガ、赤はワイヤーメッシュ、コンクリートで補強した空洞レンガです。

四つのサンプルで実験を行いました。実験を通じてこのカーブを出しました。産業用のも

のが一番いいということが分かりました。二つ目はクラフトレンガです。圧縮の性能はそ

れが一番良く、空洞レンガが一番性能が悪いことが分かります。こういった空洞レンガを

使っている人はたくさんいます。しかし、地震があった場合に、これでは持ちません。荷

重に耐えられないからです。 では、壁に使った場合にどのようになるのかを見ていきましょう。産業用のレンガ、ク

ラフトレンガ、空洞レンガ、補強された空洞レンガを使った壁です。せん断強度がここか

ら分かります。この壁は空洞レンガを使った壁ですが、こちらの空洞レンガに関してはワ

イヤーメッシュで補強されています。補強されると性能が向上することが分かります。せ

ん断の強度が増すのです。産業用レンガは、ここからも分かるように、一番性能が良いで

す。 次のステップとして、実物大のテストを行いました。その結果をお見せしたいと思

います。性能を比較しました。無補強のもの、そして補強後の壁を比較した実験です。 先ほども申し上げたように、約 60%の人が都市部においてこのような住宅に住んでいま

す。特にリマではこのような建築物がよく見られます。2 階、3 階の建物になっています。

4 階の建物もあります。20t ほどが実際の荷重になるので、それを実験で使いました。この

ように設定して、そして荷重をかけました。ジャックに荷重をかけて、そして水平の荷重

もかけました。 これが結果です。左は硬いクラフトレンガを使った壁、右は空洞レンガを使った壁です。

産業用の壁との比較は行いませんでした。なぜなら性能があまりにも違い過ぎたからです。

硬いクラフトレンガを使った壁は、18t ほどの荷重に耐えることができました。しかし、空

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Page 24: 世界各国の建築物の地震防災対策...Radu Vacareanu :ルーマニア・ブカレスト工科大副学長 ルーマニアにおける確率論的地震ハザード分析の新開発

洞レンガを使った壁は、14t でも持たない荷重強度でした。つまり、性能が低いということ

です。ダクティリティも低いです。そして、こちらは 10mm もないです。 われわれは、メキシコと同じような容易な技法を使って補強することにしました。まず

は、土台に合わせくぎを固定します。そして、壁の一面から反対面にワイヤーメッシュを

固定します。ワイヤーを入れるのです。そして、石こうで固めます。セメントと砂の割合

は 1 対 4 です。ペンキを塗って表面のきめを細かくして仕上げます。 では、どうなるのでしょうか。左が補強した硬いクラフトレンガを使った壁です。キャ

パシティとしては 18t でした。そして、それが 40 になっています。右は補強した空洞レン

ガを使った壁です。もともとは 14 未満であったものが 35 まで強度が上がっています。つ

まり、強度が上がったということです。 性能のカーブを見ていきます。硬いクラフトレンガ、硬いクラフトレンガに補強を加え

たもの、空洞レンガに補強を加えたもの、空洞レンガです。空洞レンガの場合はここでカ

ーブが終わってしまいます。しかし、補強をした場合には、ここまで 2 倍ほど上がること

が分かります。硬いクラフトレンガの壁はここです。補強をすればさらに上がります。2倍ほどの強度になります。ここから分かるのは、このような簡単な技法であっても、補強

を行うことによって補強度を上げることができるということです。貧民街に住んでいる人

であっても、自分たちのやりたいように建築をしている人であっても、地方自治体が関与

していないものであっても、地方自治体はリスク管理に責任を持っているわけですが、そ

ういった建築物に対しては管理を行っていないのが実情です。そういうところに使うこと

ができる工法です。 硬いクラフトレンガのブロック壁に補強を加えたもの、そして空洞レンガのブロック壁

に補強を加えたものが写真です。

結論です。基準や法律があっても途上国の新興地域においては、ノンエンジニアド建築

物が建てられています。既存の壁の補強というシンプルなやり方でノンエンジニアド建築

物の性能を上げることができ、空洞レンガ壁の性能を高めることができます。地方自治体

が建築基準およびその建築に関する法律について知識を増やし是正措置を取ることで、コ

ミュニティーのリスクを減らしていくことが今後必要になっていくということが私の結論

です。 ご清聴ありがとうございました。

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「典型的な RC 学校建築の地震安全評価と(耐震壁の増設による)耐震改修」

Yuksel Ercan(トルコ・イスタンブール工科大学(ITU)教授)

皆さま、おはようございます。私も皆

さまと経験を分かち合いたいと思います。

典型的な RC 造りの学校建築の地震安全評

価と耐震壁の増設による耐震改修について、

イスタンブールの中でも人口密度の高い都

市と貧困地域の学校を取り上げて、それぞ

れの対応を比較したいと思います。これら

の研究から、政府が知見を得て、どのよう

な耐震改修の方法を RC 造りの建物や学校

に用いるべきなのか分かってくるでしょう。

国中で同じ荷重、同じ設計基準で造られて

います。以前、かなり損傷を受けて倒壊し

た経験もあります。 1 階の部分が全く崩壊してしまっています。86 人の子どもたちが地震によって死亡しま

した。この写真から分かりますように、1 階部分が全く消えてしまっています。多くの死

傷者が出ました。こういった経験が背景にあって、比較的発達した地域では、多くの学校

があり、耐震補強、耐震改修をすることが検討されました。 例えば、この写真でご覧になれますように、左の写真では建物がしっかりしていますが、

右の写真は地震が起った後です。適切な箇所にボルトが付かなかったためにこのような損

傷を受けてしまったということです。なぜこのような損害が出ているのかということを調

査しました。既存のいろいろなツールを使って分析を試みました。その知見を幾つかご紹

介したいと思います。

学校などの建物が非常に重要です。同じ設計を用いて幾つもの学校が造られています。

農村部は、ほんの少しだけ手直しをしています。 この二つの建物はほとんど同一の構造荷重設計になっています。その中にせん断壁を幾

つか入れているものがあります。 左側は崩壊した建物の設計図です。三つの RC のせん断壁があるわけですが、L 型、そ

して四角型で、異なる箇所に設けられています。最新の建物の設計図は、二つの小学校に

用いられていますが、同じようなせん断壁ですが、さらに反対のところにも設けています。

もともとの設計において変形ずれの可能性が指摘されたからです。 材質は特に郊外では

あまり良くないものが使われています。幾つか試験を行った結果を紹介します。 まず今、崩壊した建物で、構造について調査を行っています。なぜ左部分に崩壊が大き

いのか、損傷が集中しているのか、Y の方向、プラスマイナスの方向、それから、傾斜し

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た横荷重もかけられています。同じような倒壊の機序が見られました。荷重の方向性が倒

壊の原因ではないかということが分かってきました。

三つの大々的なケースの許容曲線を見てみました。黄色が一番低いもので、他の二つは

黄色よりも大きいものです。 幾つかの結論を引き出しています。パンフレットにも載っています。 第Ⅱ部に飛びたいと思います。この部分では、われわれは学校の建物の研究を行ってい

ますが、これは規模がかなり大きいものです。 こういう構造設計図が特に人口密度の高い都市で使われています。RC の構造材が入って

いますが、せん断壁は限定されている同じ方向に向いています。しかも、その寸法はこの

建物全体から見ると小さいということがあります。 幾つかの構造特性がありますが、4 階建て、5 階建ての RC の建物で、コンクリートの質

は C20 ですが、時には実際にはもっと低いものになってしまっているということです。加

速度は 0.4g ぐらい、また、学校のための設計ですので、さらに建物重要要素というものを

入れました。 また、既存の耐震基準にのっとって、補強されたせん断壁が置かれていま

す。特に、この末端のところで補強されているフックなどが適切な形で特にせん断壁のク

ロスセクションのところに設けられています。 それから、柱の補強の定義ですが、垂直、

水平の補強が適切に行われていることが分かります。

このような情報を使ってわれわれは数学的モデルを作ってみました。この Perform とい

うソフトを使いました。 幾つかクロスセクションの柱や梁、せん断壁について見てみま

した。 ご覧になりますように、自然の振動周期ということで、一つの方向はより緩いと

いうことが分かります。 性能基準で IO を当てはめてみると、1 階、2 階が X 方向では非常に脆弱であることが分

かります。多くの梁や柱がたゆんでしまう、ねじれてしまうということが分かります。

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LS ですけれども、構造材が脆弱なのは、先ほどと比べるとより少ないということが分か

ります。 同じプロセスを強い方向の方に繰り返すことができます。これはせん断壁など、あるい

は、柱の方向という理由もあるかもしれませんが、比較的丈夫であるということです。 それにさらに赤い部分の補強を加えました。これはせん断壁ということで、新たに補強

したものです。トータルで 8 カ所せん断壁をさらに付け加えています。 地盤特性で基礎がどうなっているかということで、一応仮定として地盤ばねを考えまし

た。強い場合と弱い場合を数学モデルに挿入いたしました。 これは FEMA の 695 を適用してこの許容度、耐力度を見てみました。幾つか知見が得ら

れています。先ほどの場合と比べてかなり良い結果が得られています。 弱い方向ですが、前の例に比べると、倒壊した梁、損傷した梁はかなり少なくなってい

ます。この方法では一部の梁のような構造材だけが弱いということが分かりました。 これらの情報に基づいて、われわれは脆弱性曲線を作ってみました。より理にかなった

結果が出ています。この場合、損傷条件は軽度、中程度、かなりの損害が出た場合で見て

います。3 本の曲線があります。赤はもともとの計数、青と緑が補強した場合です。2 種類

の地盤特性で見ています。

このグラフで見られるように、0.6g のケースですと、もともとの損害が赤と比べて大き

く違う、0.6 は 90~95%の既存の建物の損害比率ですが、補強された場合は特に地盤特性

が強い場合には特性がかなり違ってくるということが分かります。 それでは、まとめに入ります。2%50 でありますが、LS で脆弱性曲線を見てみますと、

分かったことが既存の建物の 92%の確率ということです。地盤特性で、緩い場合と硬い場

合でそれぞれ 50%、19%という結果になっています。以上です。 ご清聴感謝します。

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質疑応答 (黄) Ercan 教授、ありがとうございました。大変情報量の多い、洞察に富んだプレゼ

ンテーションをインドネシア、メキシコ、ペルー、トルコから頂きました。ここからは質

疑応答のセッションに移りたいと思います。フロアの皆さまで四つのプレゼンテーション

に質問がある方は手を挙げてください。マイクをお持ちします。コメントや質問がありま

すか。日本語でも英語でも構いません。どうぞ。 (Q1) 皆さん、おはようございます。Carlos Cuadra と申します。ペルーから来ています。

こちらの大学で働いています。ノンエンジニアド構造物に関するコメントをさせていただ

きます。この場合ですが、われわれエンジニアが国民に対し、まだ古い技術しか提供でき

ていないということでしょう。ということは、これは全てのエンジニアにとっての課題と

言えるでしょう。構造工学について研究を今後続けなければならないということです。そ

して、新たな材質、材料、技術を模索していかなければならない、いわゆるハイテクの資

材や技術を開発して国民に提供していかなければならないということです。というのも、

他の分野ではスマホやプラズマテレビなど高度な技術が出てきていますが、片や住宅部門

ではまだまだノンエンジニアド構造材、構造物などを使い続けています。ニーズがあるの

かもしれませんが、しかし、もっと新しい技術を開発していかなければならないと考えま

す。 発表を伺っていて気付いたのですが、もともとの材料に戻って研究を重ねる必要がある

のではないでしょうか。例えば、質の悪いコンクリート、質の悪いレンガ、不適切な材料

が使われてしまっています。それから技術についても誤った理解がされていることに起因

する問題があります。例えば、組積造では、非常に質の悪いモルタルを 1 対 5 や 1 対 8 で

使っていることがあります。同じ比率でセメントを使えば、それでも質の悪いモルタルに

なってしまいます。ただ、材料が違うということで、砂も違います。ですので、いろいろ

研究してみるということも必要かもしれません。もともとの材料にさかのぼってもっと研

究、検討を重ねることも必要かもしれません。 Zavala さんに質問をしてみたいと思います。空洞レンガの壁についてですが、柱も使っ

ていらっしゃいますね。せん断壁で柱の場合ですが、比率はどうなっていますか。教えて

ください。 (Zavala) Cuadra さん、ご質問どうもありがとうございます。正確な数字は分からない

のですが、コンクリートの比率は 6 割以上だったと思います。ですので、補強がなければ

全く駄目ということでしょう。また、コメントなのですが、写真がありますね。ペルーの

場合ですが、われわれは本当に豪華なマチュピチュのようないろいろな建築物があるので

すが、歴史を振り返ってみるとこれは石造りです。人類にとっての遺産である世界遺産で、

今でも壊れずにきちんと建っています。これは壁の密度です。非常に厚い、分厚い密度に

なっているということです。 それから、右の方はアレキパのサンタカタリーナです。これは尼僧の僧院です。植民地

時代に建てられたものなのですが、この建築物はスペインから輸入された方法、資材を使

っています。また、壁の密度も 80cm ぐらいの分厚いものになっています。リマでは高層

ビルが建ち並んでいます。ただ、リマのスラム街に住んでいる人たちは誤った建築法を用

いた住宅に住んでいます。というのも、地方政府がそれを許してしまって認めてしまって

いるからです。昨日、IPRED の会合の中でも議論していたと思いますが、われわれはこう

いう人々にとっての言語を変えるべきではないでしょうか。非線形性や材質などという用

語を使うわけですが、われわれはエンジニア、建築士ですのでよく理解しています。どう

設計したらいいのか、耐震建築はどうあるべきかよく分かっています。ただ、実際にこう

いう建築物を規制するのは地方自治体のレベルです。ところが、自治体レベルでは全然気

にしていないということがあります。 地震が起こった場合に人命を失うのを防ごうと、2011 年に私の国では法律を変えました。

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もし人命が失われれば、市長などを逮捕するということになりました。刑事手続きに付す

ということです。ですので、昨年からいろいろと変わってきて、新しい法律ができて、責

任を問われるということになったということが分かってきました。ですので、技術者では

ないような人々の教育指導が必要です。納税者のお金を使っているわけですから、この地

域社会においてどのように補強工事、耐震工事を進めていくのかをやはりチェックしなけ

ればなりません。わが国の建設省がパイロットプログラムを打ち出しています。300 戸あ

る地域社会で、まず耐震補強をやろうということです。市長などの首長に対し、どうやる

べきかをお手本として示そうということです。もちろん時間はかかると思いますが、これ

までとやり方を変えなければならない、悪い慣習に染まった人たちに対しきちんと理解さ

せなければならないということです。票を勝ち取るためには行動を取らなければならない

と分からせるということです。人命を失わないようにするということです。ただ、彼らと

どう話をするのか、ここが課題です。私どもは 30 年以上、こういう仕事に関わってきてい

ます。それでも市長や首長にどう話をしたらいいのかが厄介で複雑なので、まだ分かって

いません。 (黄) Zavala 先生、ありがとうございました。実務家、研究者、そして政策決定者の皆

さんがこの場に集っているということが素晴らしいと思います。では、午前中のセッショ

ンをここで終わらせたいと思います。

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午後の部 IPRED各国からの講演 2 「ルーマニアにおける確率論的地震ハザード分析の新開発」

Radu Vacareanu(ルーマニア・ブカレスト工科大学副学長)

皆さま、こんにちは。本日はこのように

お話しすることができ、光栄にうれしく思

います。まず GRIPS、UNESCO、そして BRIに対し、こういった機会を頂きましたこと

に御礼申し上げます。 ルーマニアにおける確率論的地震ハザー

ド分析の新開発についてお話をいたします。

最初に、はじめにという部分で少しお話し

して、地震活動分析の話をし、そして PSHAで使った地震動予測式、ロジックツリー、

確率論的地震ハザード分析の結果、ハザー

ドマップについてお話をしたいと思います。 わが国において、これが全く新しい研究というわけではなく、既往文献も存在していま

す。これらは最大のデータベースに基づいており、最先端の方法を使って、今回の今日発

表する分析がなされています。 ルーマニアにおいては、13 の地殻内震源、一つの地殻下

震源がありまして、それがルーマニアに被害を及ぼしています。

ご存じかもしれませんが、これらの震源がこちらにあり、ルーマニア国内のものもあり、

また国外にも幾つか存在しています。例えばこちらです。しかしながら、最も重要な震源

は、ルーマニアに影響するところではここのところです。ここが最も重要で、これは地殻

下です。つまり、深度は 60km 以下になるということで、通常は 60~70km、あるいは 100kmぐらいの深度で発生する地震が中心となります。 そこで、ヨーロッパの SHARE プロジェクトにおいて、国立地球物理学研究所が作って

いるカタログを使います。それぞれの震源について、コンプリートネスマグニチュード、

マキシマムマグニチュードで定義していきます。ここに書いてあるのは全てモーメントマ

グニチュードです。わが国に関してはブランチャサブクラスタルが先ほど申し上げた最も

重要な震源となり得るわけですが、それはマキシマム・モーメント・マグニチュードが 8.2、それ以外の地殻内のソースについては、これはブルガリアのものですが、7.8 で最高となっ

ています。 この seismicity について議論をした後に、どのような地震動予測式を使ったかということ

です。GMPE です。四つの予測式を使いました。これらは SHARE プロジェクトで使って

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いるものから選び、その後に Global Earthquake Model(GEM)プロジェクトで使いました。

このように、Youngs、Zhao、Atkinson、Boore、Lin などが出しているものです。でも、こ

れらの予測式は特定の特徴を持っていて、それは後でまた話をしたいと思います。 ルーマニアにはカルパチアン山脈があります。これがカルパチアン山脈ですが、この山

脈にある震源は、ブランチャから見ると、この特定地域にあります。この非常に異なる地

震波のアテニュエーションがあります。この山脈の前弧と背弧のところでは変わってきま

す。従って、この地震動予測式は、ブランチャに関してはこのような特徴を盛り込んだも

のです。このために新しい地震動予測式をつくりました。この予測式で考慮しているのは、

いろいろな式のアテニュエーション(減衰)で、ブランチャ地域の四つについてです。こ

こでは予測式で、Cauzzi と Faccioli、Akkar と Bommer、Idriss などのものを使いました。 もちろん予測式についてはテストしました。もちろんそのままでは使うことができない

ので、重み付けをするためにテストをしたわけです。そこでテスト結果に基づいて、幾つ

かの論文を発表しています。テストですが、この二つのデータベースに対して行われまし

た。最初のデータベースは左側です。これはブランチャ・サブクラスタル・ソースです。

ご覧のように、デジタルの記録、アナログの記録、デジタルとアナログ両方を使っていま

す。この強震の記録というのは、ソイルクラス A~C です。これは NEHRP ではなく、

Eurocode8 を使っています。従って、ソイルクラス A というのは岩盤、B と C は地盤、土

壌ということになります。これがサブクラスタルのデータベースです。右側にあるのが、

クラスタル、地殻内のデータベースです。

これはルーマニアの地図です。震央は 10 の地震のものを取って見ていきました。 この 10 の地震で、サブクラスタルの方は、このように震央が出ています。Seismic stationにおいて、非常に強震が記録されています。 テストをした後に、数値を使って、その重み付けの提案をします。ロジックツリーを作

るためです。それぞれの予測式において重み付けがあって、それぞれの予測式においてテ

ストをして、その加重平均を最終的な結果として使います。この上に書いてあるのが、

SHARE と GEM プロジェクトで提案されている重み付けで、下にあるのが私たちが提案し

ている重み付けです。この確率論的分析のために、サブクラスタル、クラスタルソース、

両方について、これらのものを私たちは提案しています。 それではロジックツリーの話に入りたいと思います。この二つの枝があって、一つは地

殻下、もう一つは地殻内のソースです。しかし、それを追加しています。その枝を分けて、

それぞれ異なるコンプリートネスマグニチュード、異なるマキシマムマグニチュード、そ

れぞれの地震動を予測式で、ブランチャ地域ということで分けています。従って、分析に

おいてこのように分けて考えています。

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これが地震ハザードマップです。ピークグラウンド加速度はガルで示しています。50 年

間の平均を取っており、周期としては 500 年ということです。エピセンターは 0.5g、そし

てその後に下がってきます。遠隔地域になると、0.1g ぐらいになります。特にここで顕著

なのは、腎臓のような形をしていることです。これはカルパチアン山脈があるわけであっ

て、その前弧と背弧において異なる予測式を使わなければ、このような腎臓のような形を

したものにはならないわけです。でも、この腎臓型は、全てのルーマニアで記録されてい

る地震に基づいて出てきたものです。 こちらにある地図ですが、これはスペクトラルアクセラレーションです。0.4 秒までです。

これは 10%で 50 年の確率があります。遠隔地に行くと、1.4g から 0.2g までです。

もちろんこのブランチャの中震度の震源が強く影響していることは明らかです。これら

の地域は全て非常に高い地震活動があり、ハザードが高いということですが、それらは全

てブランチャ地域に近いです。でも、もう一つ分かることは、地震ハザードでブルガリア

に関するところでは、トランシルバニアの影響もあるということです。 これはブカレストのハザードマップ、ルーマニアの首都になります。ご覧のように、10%で 50 年のプロバビリティの場合には、380 ガルという自動加速度があります。 もう一つのハザードマップでその他の大きな都市を取っていますが、それはブランチャ

の影響を受けない、しかしながら、地殻内ソースの影響を受けるところです。この地震ハ

ザードマップの曲線が全く違うということが分かります。 この国家プロジェクトは教育省がスポンサーとなっているものです。そこで提供してい

る今の結果は、今の段階でのベストエスティメイトということになります。最終的には

2016 年末にプロジェクトが完了します。この地震学と地震工学の溝を埋めるために、ハー

モナイズされた形での結果を、最終的な地震ハザードマップとして、プロジェクトが終了

したら提供することになります。 謝辞として、UNESCO、BRI、GRIPS、そして IISEE にお招きいただきましたことにお礼

申し上げますとともに、現在のプロジェクトについては、教育省に対しても御礼申し上げ

ます。また、仙台の減災会議にも参加する予定です。

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「カザフスタンにおける石油・ガス地帯の総合動的地盤調査」

Tanaktan Abakanov(カザフスタン(ISMES)地震研究所長)

このように皆さまとお会いできて、大変

うれしく思っています。私の発表では、わ

が国にとって非常に難しい問題を取り上げ

ます。地殻の動的地盤調査についてお話し

します。Zhezkazgan 油田の例を挙げたいと

思います。 カザフスタンの領土の 35%に人口の 4 割が集中しています。しかも地震活動が活発

な地域です。国際的な MSK-64 の震度 7~9の地震が起こるところです。1887 年から

1911 年までに、3 回も強大な震災が起こり

ました。ティエンシャン山脈北部のアルマ

ティ市で起こりました。1887 年、Vernenskoeでマグニチュード 7.9、1889 年、Chilikskoe でマグニチュード 8.3、1911 年、Keminskoe 地震、

マグニチュード 8.2 でした。1911 年以降、20 くらいもの地震がカザフスタンでは起こって

います。こういった地震の強度ですが、震央では震度 7~8 ぐらいです。これも MSK-64 の

スケールで言うとそのくらいでした。

ということで、地震活動はこの 10 年は比較的落ち着いていると言えるでしょう。われわ

れは細かさがさまざまなレベルにわたる地震ハザードマップを作っています。カザフスタ

ン全土について、それから主要な特定の都市について作っています。これらの地図は、地

震が頻発する地域の建物や構造物を新たに建設する際に、また、その設計や復旧のために

も使おうと考えています。最近では、石油、ガス、その他の資源の開発が行われている地

域で、地殻変動による地震が起こってきています。以前は全く起こらなかったような地域

で地震が起こるようになっています。物的被害も人的被害も出てきています。だからこそ、

油田、ガス田、その他の資源の鉱山などがあるような地域で、全ての施設の耐震性・安全

性の向上が必要になってきています。 これは炭化水素、いろいろな資源の開発が盛んな地域を表しています。石油、ガスなど

の埋蔵量が豊富です。多くの油田やガス田が、特に西部に集中しています。あるいは南部

にもたくさんあります。 それでは二つの例を挙げたいと思います。鉱物資源の開発地域として、Zhezkazgan 油田

があります。1994 年、マグニチュード 4.7 の地震が起こりました。人的被害も出ました。2回目の地震は 2005 年に起こっています。マグニチュード 3.9 でした。さて、この Zhezkazgan油田と Kenkiak 油田の例ですが、こういった油田、ガス田のあるところで地震が起こるよ

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うになってきています。Karachaganak、Kenkiak の二つの例を見ていただきましたが、

Karachaganak がこちらです。 2008 年にマグニチュード 5.1 の地震が二つの小さなまちを襲って崩壊させました。これ

は Shalkarskie という場所ですが、カザフスタンでは 200 以上もの油田、ガス田があります

し、数十もの鉱山が存在しています。同時に全てを観測するのは、もう不可能です。とい

うことで、われわれは特定の地域で、カザフスタンの西部で、Karachaganak の油田、ガス

田、コンデンセート田で動的地盤調査を行っています。

直径が 2~10m、深さが 4~12m のクレーターが形作られています。このクレーターは地

震の後に見られます。Karachaganak では 2 回地震が起こっていますが、直径 100m、深さ 500mですので、なかなか動的地盤調査といっても難しいところがあります。石油、ガス、コン

デンセートの開発地域ですが、Karachaganak は、中央アジアからヨーロッパにかけて、最

大級の鉱物資源の開発地域です。 動的地盤調査を行っていますが、第一に、自然、人工的に引き起こされる地震動につい

ての調査、さらに測地なども行っています。衛星による GPS や高精度の調査などもやって

います。比重測定、水文動的地盤調査、磁気、重力電気効果などを測るような調査も行っ

ています。こういった包括的なモニタリングから得た情報を使って、フィールドモデルを

作っています。信頼に足る形で動的地盤のプロセスをコントロールしようということです。

そして、地震が起こるその進展の状況を予測しようということです。できる限り人工的な

地震、地震動については、防いでいこうということです。 七つの地震観察ステーションがあります。3、4、5、6、7 というふうに分散しています。

これは地震計が置かれているところです。139 の精密レベリングと比重測定の地点とを組

み合わせたものになります。41 の GPS の地点があります。このあたりです。それから 1本、掘削調査も行っています。抗井を掘って調査しているということです。

微動地震観測ですが、このシステムは、125 番の掘削井で確立されました。七つの地震

計が置かれています。この抗井は深さ 4200m です。八つのレベルがあります。それぞれに

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地震計が置かれています。3660m ぐらいから 4200m で、また八つのレベルということです。

地震計ですが、これを使って震央での地震の測定を行います。地震の深さがどのくらいな

のか、震源の深さを測るための掘削調査ということになります。われわれのやり方が適切

だということが分かっています。

宇宙レーダーの干渉計観測、40km×40km の範囲ということです。衛星、SkyMed を使っ

ており、6 カ月で 30 の衛星画像が必要になります。確度、精度は、20mm までの垂直のず

れを測ることができます。この宇宙レーダーは、モニタリングをこのように行っています。 これほどの精密レベリングと組み合わせることによって、干渉計から得たデータと共に

見た場合ですが、水平移動、垂直移動が分かります。GPS の観測で 2010 年に分かっていま

す。われわれはこのような複雑なシステムを 2010 年に設計しました。さらに、その他の油

田・ガス田地域でも動的地盤調査を今後重ねていきたいと思っています。今回はロシアと

協力して行っています。また、イギリスの専門家とも協力しています。ロシアでもやはり

多くの地震が起こるということで、そしてイギリスはこういった地殻、テクノジェニック

な地震を調査したいということです。特に大西洋で応用ができればということになります。

カスピ海におけるテクノジェニックな場所での動的地盤調査を重ねていきたいと思ってい

ます。将来的には、われわれ独自のいろいろな資料なども発表できればと思っています。

非常に豊かな大量のデータなどを Karachaganak 油田で得ていますので、ご紹介できればと

思っています。 ご清聴感謝します。

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「自然災害管理の総合的な国立研究センター(研究の方向)」

Raúl Alvarez Mede 氏(チリ・カトリカ大学構造工学教授)

ありがとうございます。大変失礼いた

しました。時間を間違えておりました。

ここからプレゼンテーションをさせてい

ただきます。私は自然災害管理に関して、

お話をさせていただきたいと考えていま

す。この調査は、チリ・カトリカ大学の

Rodrigo Cienfuegos 教授と一緒に行いまし

た。 私どもの国立研究センターは学際的な

研究を行っており、主たる目標は、社会

的、科学的、技術的な知識をつくり出し

て、それを統合させ、広めることによっ

て、自然災害の社会的影響を最小化する

ことです。同時に、自然災害研究の世界リーダーとしての地位を確立すべく、科学および

技術的な能力を醸成するということです。このセンターの所長は Rodrigo Cienfuegos、次長

は Aldo Cipriano、私の同僚は仙台の減災会議において、過去 2 年に行ってきた活動につい

て発表する予定です。

スタッフの写真です。研究者としては 6 人の主任研究員、25 人の研究員、それ以外の研

究員が 23 人います。そして、教育の観点からはポスドクのフェローが 9 人、学部生が 47人、修士の学生は 57 人、PhD の学生は 24 人います。これまで 53 の出版物を出しています。

そして国際的な協力の下、16 の論文を発表しており、一つの本をセンターの方で出してい

ます。 研究の一つ目はGonzález教授が率いている固体地球とそれに関連するハザードについて

の研究、構造地質学や地殻構造、地震学の研究をされています。次は地表水とハザード、

Rodrigo Cienfuegos 先生がリードしています。海岸過程、津波研究、洪水、土砂崩れなどに

ついて研究されています。物理社会システムの脆弱性とリスク解析は、Juan Carlos De la Llera先生がリードしています。地震工学や防止などを専攻されています。次は、緊急対応、そ

して管理ですが、Paule Repetto 先生がリードしている分野で、メンタルヘルスや社会心理

的な回復力の決定要因などについて研究しています。次に、持続可能なリスク緩和は

Roberto Moris 先生がリードしていて、都市計画やリスク認識、そして持続可能な再建につ

いて研究されています。最後は、情報、自動化技術で、Aldo Cipriano 先生がリードされて

います。初期対応システム、決定支援システム、リモートセンシング、センサーネットワ

ーク、コミュニケーションを緊急時にどのように行うかといった研究をされています。

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さまざまな専門分野があります。地質学、水文学、都市地域計画、土木工学、環境工学、

人文地理学、行動科学、健康保健科学、情報自動化技術、管理・ロジスティック、政治学、

そして教育があります。 研究の総合的な戦略ですが、先ほど申し上げたように六つの研究分野があります。 情報、コミュニケーション、災害マネジメントといったものがあります。ハザード評価、

リスク分析と緩和、社会・人間の対応、ハザードモニタリング、初期対応などがこの統合

研究分野となっています。異常事象のシナリオとしては、チリ北部の地震・津波の極限的

なシナリオ、そしてチリ中部における洪水予測などを行っています。社会の知識移転とし

ては、リスク分析、実験室、アウトリーチ、技術移転などが挙げられます。 最初の研究分野です。プレート間カップリングを行い、津波を予測する。プレート間の

コンタクトから上部プレートの応力転位を見る。そして古地震学によって断層のすべり率

は 1 年当たり平均で 0.5mm ということが分かっています。そして、この巨大断層のすべり

と上部プレートの断層との関係、チリ北部の地震破壊のモデリング、地震、津波後の調査

チームを 2014 年 4 月に派遣したといったような実績があります。 次の二つ目の分野、地表水とそれに関連するハザードですが、津波、洪水による浸水の

高画質モデルの開発と検証、あらかじめモデル化した津波シナリオデータベースを緊急警

報放送向けにつくること、水理気象を地理的変数評価およびその変数と極度の洪水、土砂

崩れの発生との関係を首都圏について見ていくということ、チリ中部で実験的に指定した

分水地点のリアルタイムの観察、水理気象変数の予報などが挙げられます。来月、仙台の

会議において、これらの研究の成果を発表します。 三つ目の分野ですが、エージェントベースの人の避難プロセスのモデル、チリ北部の物

理的レイアウトと社会機構、地震による損害評価の確率的なモデル、地震保護による減災、

重要物理インフラの脆弱性といった分野において研究を行っています。 次に 4 番目の緊急対応の分野においては、チリにおける心理的初動対応の分析、メンタ

ルヘルスの結果、2010 年のマウレ地震、津波での決定因子となったものは何か、そして

PTSD に関連して、社会経済状態の脆弱性指数などの研究を行っています。避難訓練やサ

イン、そして準備をどのように行うかといった研究、避難所の位置のモデリング、救助の

提供の仕方のモデリングをチリ北部に関して行っています。 次に 5 番目の持続可能なリスク緩和の分野ですが、土地計画、リスク削減のための法的

枠組み、ツール、政策策定のためのデータの収集も行っています。そして、避難計画や心

理・社会的要因が避難行動へどのように影響するかという研究、公衆のリスク認知、忍容

性、受容性の判断のデータ収集と分析を行っています。復興対応の意思決定のモデルを使

って、住居、都市整備などにつなげる研究も行っています。 6 番目の自動化技術、災害管理に関連する研究の分野ですが、無線センサーネットワー

クの配備を分水地点において実験的に行っています。そしてソーシャルネットワークに使

われる技術、態度、集団の影響、ソーシャルメディアの影響に関する研究などが行われて

います。初期対応システム、早期警戒システムの研究も行われています。

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次に国際的なネットワークですが、研究者の交流プログラムや大学院生のためのサマー

スクール、大学院共同学位のプログラムなどが挙げられます。ノートルダム大学、コーネ

ル大学、アメリカ地質調査所、カリフォルニア工科州立大学、FEMA、ダルムシュタット

工科大学、DLR、ドイツ・GFZ、デルフト工科大学、グルノーブル大学、ボルドー大学、

Global Earthquake Model、サンルイス大学、ペルーの Ingeniería 国立大学、CISMID、アジア

太平洋地域においては、気象庁、気象研究所、港湾空港技術研究所、関西大学、東北大学、

東京大学、JICA などとの協力があります。

次に対話、アウトリーチ、技術移転の活動ですが、CIGIDEN および CCHC は復興に関

してセミナーを開きました。これは日本の復興庁の局長の参加の下にセミナーが行われま

した。応用科学などの分野の専門家が集まったセミナーでした。ノートルダム大学と共に

セミナーを行ったり、また SATREPS のプログラムなど、そして、KIZUNA プロジェクト、

これはチリと日本が、人とコミュニティーに自然災害が与える影響について対話する分野

です。 幾つか成果が生まれています。例えば津波浸水モデルのベンチマーキングなどです。日

本と同じように、チリは地震国です。大津波も 2010 年に経験しています。イキケにおいて

は 2014 年に同じような体験をしました。さまざまな形の津波を経験してきました。このよ

うなプログラムを行っていくことによって、伝播・浸水モデルの検証を行い、チリの文脈

からベンチマーキング、実験を行っていきます。高画質の動的浸水マップを作り、そして

港湾のコンテナへの影響を見るための津波モデルを検証していくこと、避難計画を評価し、

減災のためのオプションを見ていくことが目的です。 ラボの事例とベンチマーキングについてのスライドがこちらです。チリ北部で起きた地

震を使って、予測シナリオのシミュレーションも行いました。行った実験の一つがこちら

です。ダムを決壊させるような波に関連する実験です。モデルを作って、その実証を行い

ました。ラボスケールの自然の地形でのダム決壊に関連するモデルです。さまざまなモデ

ルを作りました。そして検証を行ったわけです。 浸水マップの作製も行われています。地形、海底地形などをここから見ることができま

す。データを取って、それぞれの研究の成果を比べています。さまざまなシミュレーショ

ンも行っています。浸透、そして浸水の分野に関連するモデルを使って、前回の地震の情

報を使いながら検証を行いました。タルカワノのチリ北部で起こった地震のデータを使っ

て作ったモデルです。コンテナがどうなるかといったような情報を探っているわけです。

さまざまな研究分野において、このような研究が行われています。5 年の研究なのですが、

ちょうど 2 年がたったところです。私からのプレゼンテーションは以上です。どうもあり

がとうございました。

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「地震観測から警報発令に向けての NRIAG の地震防災への取り組み」

Hatem Odah(エジプト国立天文地球物理研究所(NRIAG)所長)

皆さま、こんにちは。われわれの研究所

における地震の研究について発表したいと

思います。今日のプレゼンテーションは、

「NRIAG の地震観測から警報発令に向け

ての地震防災への取り組み」です。NRIAGというのはエジプトの国立天文地球物理研

究所です。この研究所において、地震防災

の取り組みもしています。 たくさんの地震がこの 1 世紀で起こりま

した。でも、ほとんど地震に対する研究は

なされてきませんでした。最初は 1981 年に

起こったもので、マグニチュード 5.4 でし

た。これは砂漠の真っただ中で起こったので人災はありませんでしたが、政府および国民

がパニックを起こしました。というのは、ダムに近いところにあったからです。1 年後、

1982 年になって、NRIAG においては、初めてのローカルの地震ネットワークをアスワン

ダムの近くにつくりました。 2 番目の地震は 1992 年にカイロにおいてです。これはかなり死亡者も出ました。5.8 の

規模の地震で、600 人が死亡し、1 万人が負傷しました。これがそのときの写真です。この

ように液状化も起こりました。 3 番目は、その後の 3 年後で、1995 年のことでした。ア

カバで起こりました。7.2 の規模です。これがそのときの被害の状況です。 この二つの大地震の後、NRIAG はエジプト国立地震ネットワーク(The Egyptian National Seismic Network:ENSN)を構築しました。1997 年末から 1998 年初めにかけてのことです。

それはわが国の地震研究において、非常に大きな第一歩であったと思います。それ以降、

エジプト全土に地震計を設置してカバーしようとしてきましたし、またキャパシティビル

ディングの努力をして、技術系、そして地震学者の養成をしてきました。それと同時に、

われわれの通信もブロードバンドに移行してきました。私たちは地中海に面していますが、

そちらではかなり活発な地震活動があります。

2011 年に津波研究も始めました。その論文の結果、三つの活発な地中海の地域において、

クレタ島、ギリシャ、南トルコで地震が起こった場合、エジプトの沿岸にも津波が起こり

得るということです。マグニチュード 7.5 の場合、エジプト沿岸までの津波の到来時間は、

トルコの南の方から 30 分、クレタ島から 40 分、ギリシャから 45 分になるということです。 これは私たちの地震ネットワークです。これは地震によってクレタ島の辺りから津波が

起こった場合のシミュレーションです。60 分、あるいは 80 分たつと波高が 3m になり、そ

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して津波が到来するということです。3~10m という波の幅があります。この研究の後、戦

略をつくってきました。SNS、e メールなどを使って国民に対して警報を出すということで、

それぞれのエジプトの関係機関にもコンタクトします。例えば首相、市庁舎、沿岸地域に

住む人たちに警報を出すわけです。地震が発生したら、解決策として自動的に警報を発令

するわけですが、この場合は津波が到達するのに 30~40 分かかるということですので、そ

のような形で早期警報を国民に出します。 津波の研究をしましたが、私たちは津波に関して、あまりいい経験を持っていません。

まだ研究が進んでいません。そこでアルジェリアなど、ストラスブール大学の人たちと共

に、昨年の夏、津波堆積物を求めて遠征に出掛けました。今年も 2~3 カ月かけてこの研究

を続けていく予定です。 そこから彼らが選んだ場所はこの二つの場所です。エジプトの

沿岸で El Alamein と Kafret Saber というところです。 Kafret Saber 地域では、このように活断層調査、トレンチングをしています。五つのコア、

そして五つのトレンチングをしています。ここにあるように津波ユニットということで、

白い砂、この中には沿岸のところでボールダー(巨礫)を見つけました。その中には

dendropoma が入っていました。こちらが白い砂ということで、津波があったということを

示しています。エックス線でスキャニングをします。ここにあるように白い砂が存在して

いることが分かります。トレンチの中にシェルが入っていました。

El Alamein というもう一つの場所です。これはちょうどドイツ兵墓地の前にある地域で

す。ここにも白い砂の堆積物がありました。二つのサイトの距離は 350km 離れています。 次に炭素 14 を使って、カーボンデーティングをしました。津波が起こったのが 1870 年

6 月だったということがそのカーボンデーティングで分かりました。これは予備的な研究

結果なので、次にそれを検証していくことになります。また、このように非常に大きなボ

ールダーがあって、これも津波を示唆しています。 さらに、トレーニングセンターをわれわれの研究所でつくりました。アラブ諸国、アフ

リカの地震学者を養成していくためです。また、JICA カイロ事務所を通じて、アフリカ人

向けのトレーニングコースで支援を受けています。 例えば、アラブ諸国との協力では、7 人の専門家がフルタイムで、われわれの Arabic seismic network でカタールやドバイなどでやっています。トレーニングコースは先進的なもので、

いろいろな地震学のトピックをカバーしていますし、これまでアラブ諸国に専門家を年間

250 日派遣しています。オンラインで、技術支援を e メール、電話、ビデオカンファレン

スを使って提供しています。 去年 10 月、天文地球物理アラブ会議がありました。これを

機会に、UNESCO、JICA と学校の安全性に関する議論をして、エジプトはこのプロジェク

トをぜひエジプトで実践していきたいと思っています。この会議の後、モロッコ、スーダ

ン、南アフリカなどの国々から集まった人たちが、このように 1 週間のアフリカの地震ハ

ザードについての会議に参加しました。

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また、いいコミュニケーションおよび協力がアフリカともされています。この

seismotectonic map をアフリカで作ろうと、来年の IGC で発表することになっています。

また、北アフリカのハザードマップを GIS に発表済みです。 次は、東アフリカのハザードマップを作る研究が進んでいます。 アフリカには多くの国がありますが、川にたくさんのダムを造り、依存しています。わ

れわれはそういった国々に対して、私たちの経験を共有したいと思います。私たちは 1982年以降、30 年以上にわたってダムを運用した経験があるので、地震ネットワークなどを使

って共有していきたいと思います。あらゆる地球物理学、マグネティックグラビティなど

を通じて、最近では海洋地球物理学などの知見も使いながら研究を進めています。 さらに、地滑りなどがあった場合には、地震において地質工学的な問題が起こるという

ことで特定することができます。これを使った、Sharm El Sheikh、Mokattam hills、カイロの

写真です。 さらに全ての地球物理学的な知見を使って、リスクアセスメントをしていま

す。とても有名な考古学遺跡で、ルクソールにあるところでやっています。

ネットワークの開発についてです。ネットワークについてナイル・デルタで、強震観測

網をつくっており、エジプトにおいて 3 年間にわたって進めてきましたが、今後 3 年間の

うちにナイル・デルタだけではなく、エジプト全体をカバーする予定です。これによって

メーンセンターとリアルタイムのコミュニケーションをすることができます。またエジプ

トの原子力発電所などの施設もモニターするということで、原子力エネルギー庁と合意が

なされています。 将来的には、この強震ネットワークをさらに強化して、コアサンプルを津波堆積物につ

いてもっと調べていきたい、さらに巨礫の分布について研究したい、近隣諸国との知見の

共有をしたい、パートナーや資金を今後求めていきたいと考えています。学校の安全性に

も関心があります。

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「エルサルバドルにおける地震工学と地震学の進展と挑戦」

Edgar Peña(エルサルバドル国立大学教授・構造工学科長)

皆さん、ありがとうございます。IISEE、UNESCO の皆さま、今日はエルサルバドル

において行ってきた活動について発表する

機会を頂き、本当にありがとうございます。 エルサルバドルにはさまざまな震源があ

ります。ココスプレート、カリブ海プレー

ト、北米プレートに囲まれているのがエル

サルバドルです。多くの地域的な地震が起

きています。そして火山地帯もあります。

ですので、多くの問題があるわけです。こ

ちらのインテンシティマップを見ていただ

きますと、地震がどのような破壊的なダメ

ージを与えたかということが分かります。1986 年、一番破壊的な地震が起こりました。マ

グニチュードは 5.6 ほどだったのですが、死者数は 7000 人ほどに上りました。 2001 年の地震は、1 月と 2 月に、1 カ月おいて起きたわけですが、太平洋に面したとこ

ろで起き、エルサルバドル全域で感じることができるものでした。こちらでは土砂崩れが

たくさん起き、700 人が死亡しました。二つ目の地震は、最初の地震のときにダメージを

受けていた家屋に多くの倒壊をもたらしました。これは大きな問題です。最初の地震のと

きには建物が倒壊しなかったから大丈夫だと思っていたのですが、この二つ目の地震で全

ての住宅が倒壊してしまいました。

地震ハザード研究をこれまで私たちはたくさんやってきましたが、そのハザード研究の

中で役に立ってきたのは 1979 年の服部定育先生の地震リスクマップです。また、Blume 先生が中米の地震ハザードマップを 1970 年代に作られています。そういった研究に基づいて、

さまざまなモデルをつくってきました。1986 年、サンサルバドルで地震が起きましたが、

その際に、メキシコ国立自治大学が研究を行いました。1994 年に地震に関連する法律を作

るときに、この研究を基にしようとしたわけです。メキシコ、ドイツ、イタリアがこの地

震に関しては同じ研究をしましたが、同じデータを使ったのにもかかわらず、異なる結果

が出てきたということがありました。 2008 年に地震が起きたときに、イタリアに委託して、研究してもらうように頼みました。

PGA 値などについて出してもらうように頼みました。500 年確率で出してもらいました。 こういった研究に基づいて耐震基準が変わってきました。最初の耐震基準は 1966 年に出

されましたが、1965 年に地震が起きて、首都圏が壊滅的な状況になったからです。1966 年

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の基準は、ずっと変更されないままでした。アカプルコと同じ基準を持っていました。し

かし、1989 年に新しい基準ができました。1986 年に大きな地震が起きたからです。その際

に改正したところとしては、この地震に基づいて UBC コードを使って、見ていくというも

のでした。1989 年にさまざまな提案が出ましたが、区分けを変えたのですが、政治的な圧

力などもありまして、区域などが変わったというようなことがあります。 これは耐震基準に関連したガイドラインなどを示しています。建築物の構造、安全性に

関連して、多くの技術的なガイドラインがあります。しかし誰もこれを使っていません。

ACI の基準に従っていましたが、1989 年ではそれを使っている人はほとんどいませんでし

た。現在では、2008 年、この ACI などを非公式に使うようになっています。メキシコやア

メリカの基準などを使って作られた基準です。住宅に関連しては、建設のための基準が別

個にあります。 これに興味があればぜひ読んでいただきたいのですが、それぞれの耐震基準がどのよう

に変遷してきたのかについて示したものです。パラメーターが異なっています。1966 年、

1989 年、1994 年です。1966 年はエルサルバドルにとって重要な年で、高層ビルが初めて建

てられた年です。ですから、高層ビルの建設の初めが 1966 年であったわけです。 2001 年に地震が起きてから、政府は各国に助けを求め、そこでたいしんプロジェクトが

始まりました。フェーズⅠとフェーズⅡがあります。住宅の性能にどのようなものがあっ

たのかということをフェーズⅠで見ていきました。そして戦略をつくり、その戦略を広め

ていくことが、このたいしんプロジェクトの中で求められていくことになりました。 このプログラムは、エルサルバドル大学、中米大学、FUNDASAL という NGO が関わり

ました。さらに公共事業省なども関わっています。専門家なども JICA などから加わってい

ます。8 年のプロジェクトで、さまざまな研究が行われました。 エルサルバドルの典型的な住宅がこちらにあります。アドベ補強型、枠組み組積造、コ

ンクリートブロック造、ブロックパネル造の 4 形態があります。このブロックパネルとい

うのは、レンガなどを組み立てたものです。プレハブ的なものもあります。 2004 年以前には、エルサルバドルにおいてはラボがなかったのです。実はこういったラ

ボについては、私たちは知見はほとんどありませんでした。しかし中米大学において、こ

ういった実験室がつくられていきました。また、傾斜台など、さまざまな機材がそろうよ

うになっています。また、加力フレームシステムもあります。これはエルサルバドル大学

にあるものです。

私たちが作り出した素材を人々に広める必要がありました。技術的な情報を全てスペイ

ン語に翻訳しました。人々に対して情報をコミュニケーションする際には、こういったハ

ンドブックが必要であると考えて、ハンドブックを配布しました。そして時として、専門

家がさまざまなところに出張して、出張授業を行うこともあります。建設において間違い

を犯した場合に何が起こり得るのかといったようなことを説明する機会を設けています。 これは私たちの国にとって大変良いプロジェクトだったのですが、そういった成功を見

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て、エルサルバドルに対してニカラグアが助けを求めてきました。ぜひニカラグアでも同

じようにやってもらいたいということだったのです。もちろんとてもお金が掛かるのです

が、そういった普及活動に私たちも携わっていくことになりました。ホンジュラスやグア

テマラ、ハイチにも広げていす。ハイチなどにおいても同じような状況だったのですが、

ローカルのたいしんプロジェクトを始められるようサポートを行いました。また、国際地

震工学センターによって行われた耐震工学の修士課程を、大学の教授陣がそれぞれの大学

用に構築しました。エルサルバドル大学では耐震工学の修士課程が設置されています。2年間のプログラムです。 それと並行して、IISEE と共に、エルサルバドルでの体験に基づく、ラテンアメリカ諸

国での研修コースが実施されるようになっています。ラテンアメリカ諸国はスペイン語圏

なので、スペイン語によって、私たちの経験を直接コミュニケーションすることができま

す。 2012 年には UNESCO の IPRED に加入しました。エルサルバドルはエルサルバドル大学

を代表として参加しています。IPRED で行った主要なプロジェクトとしては、まず安全な

学校パイロットプロジェクトが挙げられます。これは大変課題の多い活動でした。私たち

が使った手法は、簡単なやり方で学校施設の地震に関する評価を行うというものでした。

100 校を選定して、学生のトレーニングを行い、学校の安全性に関するパイロットプロジ

ェクトを行いました。

2013 年から 2015 年にかけて、住宅都市開発省が私たちに対し、ぜひ補完的な研究をし

てほしいとリクエストを下さいました。たいしんプロジェクトに続くフォローアップの予

算を付けてくれました。国立大学において、ラボでさまざまな実験が行われました。 2013 年には国連の UNIDO、そして住宅都市開発省が技能者のための研修コースの開発

を行っています。現在は、都市部における地震リスク評価に携わっています。これは世銀

も関連しているプロジェクトです。 また、公共事業省は建築基準法改良のための提言を策定するために、さまざまな会合を

行っています。 2004 年にたいしんプロジェクトが始まるまで、耐震基準に関連する進行はとても遅いも

のでした。しかしその後、加速しています。建築基準法を私たちは改善しようとしていま

す。そして建築ガイドラインも作り出そうとしています。また、エンジニアや技能者の研

修プログラム、さらには特別な施設、病院や学校などの耐震評価などを行っています。 エルサルバドルにおける災害管理を、こういった活動を通じて行っていきたいと考えて

います。課題はありますが、将来に向けてその活動を続けていきます。以上です。ありが

とうございました。

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日本からの発表

「途上国におけるノンエンジニアド建築の実態」

岡崎 健二(京都大学大学院教授)

皆さん、こんにちは。私からは、午前中

も少し話がありましたが、ノンエンジニア

ド建築の世界の実態について簡単にお話を

したいと思います。 これはよく使うのですが、この表からお

話を始めたいと思います。これは過去 30年の死者数の多い災害ワースト 10 です。死

者数の少ない方から、アルメニア、イラン、

ベネズエラ、イラン、パキスタン、中国、

ミャンマー、バングラデシュ、ハイチ、イ

ンドネシアとなっています。これを見てい

ろいろなことが言えるのですが、一つは、

死者数の多い災害は地震が原因であることが多いということです。例えばバングラデシュ

では 1970 年、ボーラ・サイクロンという非常に大きな台風が来て、30 万~50 万人が亡く

なったという非常に悲惨な災害がありました。例えば同じ程度、あるいはそれより強い台

風がその後、1991 年や 2007 年に来ましたが、各段に死者数は減っています。最近の 2007年のサイクロン・シドルは 4000 人ぐらいだったと思います。防潮堤やサイクロンシェルタ

ーを造ることで、サイクロン被害は劇的に減っています。 洪水も長期予測が可能になったことで減っていますが、地震だけは相変わらずというか、

むしろ増えています。ワースト 10 のうち七つが地震によって引き起こされています。津波

が一つトップにありますが、それを除いても半分以上は地震です。それから大変残念なこ

とに、たくさんの人が亡くなる地震が最近増えています。1980 年代は一つしかなく、1990年代は三つです。他は全て 2000 年に入ってから起こっています。科学技術については、今

朝からいろいろな話がありますし、耐震補強の技術もできているのですが、実際は脆弱な、

特にノンエンジニアドの建物を中心にして死者が増えているのが実態だと思います。

非常に有名な言葉として、「地震が人を殺すのではなく、建物が殺すのだ」ということが

よくいわれます。洪水や津波は水で直接人間が死にますが、地震の場合は大変アイロニッ

クなのですが、自然の脅威から身を守るために造ったはずの自分の建物で死んでしまうこ

とが非常に多いです。これも他の災害との比較で言うと、まず地震は予測できません。突

然襲います。それから、ほとんどの被害者は自分の建物が壊れて死にます。今、言ったこ

とですね。もう一つは、世界の半数以上の非常に多くの人がノンエンジニアドの建物に住

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んでいます。技術は、例えば鉄筋コンクリート造や鉄骨造等については非常に進んでいま

すが、ノンエンジニアドについては対策が遅れているのが実態だと思います。それを幾つ

か紹介します。 俗にノンエンジニアドといわれるのは、組積造という積み上げていくタイプが多いです。

アドベ造は日干しレンガともいわれますが、最も伝統的な造り方です。他にはレンガ造、

石造、木造があります。ここには国土交通省の方もいらっしゃって、木造をノンエンジニ

アドと言うと怒られると思いますが、木造をあえてここに書いています。石山先生が午前

中におっしゃったように、木造の基準法上の取り扱い、実際の使われ方、勝手に増改築が

行われていること、メンテナンスが悪く耐震性が急速に失われているということをもろも

ろ考えると、非常にノンエンジニアドに近い実態ではないかと思います。 日本にいると木造住宅が一般的だと思う人が多いと思いますが、世界的に見ると非常に

珍しいです。ほとんどの国はレンガ造、古くは土壁、アドベ造です。一方、日本にはレン

ガ造がほとんどないという状況があります。これはご存じの方も多いと思いますが、明治

のときに、銀座にレンガの建物をたくさん造って推奨したのですが、関東大震災でバタバ

タと壊れて、日本ではもう禁止ということになったというのが、歴史的な経緯として大き

く働いていると思います。 アドベ、日干しレンガは、今朝方から発表があった、例えばペルーなどでは、非常に危

ないということで既に禁止されています。しかし、郊外部や農村部など、古い住宅が残っ

ているところにはたくさんこのような住宅があります。子どもでも造れます。写真があり

ますが、泥を型枠に入れて形を整えてそのまま太陽で乾かすという構造ですから、非常に

もろいです。大きさは普通のレンガサイズからコンクリートブロックより大きなものまで、

国によってたくさんあります。とにかくそれを積み上げていくだけです。泥をモルタル代

わりに使うことが多いのですが、より弱いということです。これはたまたまアフガニスタ

ンのカブールに行ったときの写真です。こういう構造の日干しレンガの建物がずっと急斜

面を駆け上っていて、地震のときは悲惨な状態になると思われます。 レンガ造は今朝から幾つか取り上げられたので、もう大体お分かりになっていると思い

ますが、一番シンプルなのは柱なし、梁なしで、単純に積み上げたパターンです。いろい

ろな国にたくさんあります。一番特徴的なのはネパールのレンガ造です。この特徴はよく

見られるのですが、1 階部分よりも 2 階部分が広くなっていることです。2 階より 3 階が広

い、3 階より 4 階が広いということで、これは力学的に単純に非常に危ないです。さらに

ネパールの知り合いに聞いたのですが、今、カトマンズは道路が狭くて交通渋滞が激しい

ということで、道路拡張をしています。例えば、道路を広げるためには 1 階部分をよく削

るのです。削って、2 階から上はそのままということで、とても危ない建物もできつつあ

ると話されていました。 やや強いのはコンファインドメーソンリーといい、枠にはめ込む造りです。一般にはレ

ンガの壁を積み上げてからコンクリートを打ち込むので、かなりレンガと柱が一体的に造

られます。コンファインド(confined)はもともと締め付けるといったような意味があるの

で、そういう意味で、やや強い構造になっているということです。ちなみにこれはインド

ネシアのジョグジャカルタの地震の後、新しく造っていた住宅です。これは先ほど紹介の

あったペルーの建物です。いずれにしても柱が真っすぐ通ってなかったりするケースも多

いということで、これもきちんと造らないとかなり危ないです。これが柱がだんだん太く

なる、いわゆる RC の鉄筋コンクリート造で、後からレンガを入れるタイプになるとコン

クリートインフィルといい、さらにやや強い構造になります。 それから石造です。石があるところはたくさんできます。例えば、スイスやイタリアの

山岳地帯は石造がたくさんあります。途上国でも石がたくさん採れるところはたくさんこ

ういう形でありますが、やはり簡単に壊れてしまいます。 幾つかの国ではコンクリートブロック造がレンガに代わってよく使われています。安価

であることが大きいと思います。例えば一つはハイチです。中南米はコンクリートブロッ

ク造が割と多いです。アジアではなぜか知りませんが、フィリピンのマニラを中心として、

コンクリートブロック造が多く普及しています。ただ、これもきちんと造らないと、ハイ

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チの地震のように、たくさんの住宅が壊れてなくなってしまうことになります。 ここで簡単にノンエンジニアド組積造の特徴を整理しています。これも説明があったの

でさっといきます。一つ目は、非常に材料の質が悪いことです。レンガなどは基本的には

生産地のそばや近くの田んぼで作ることが多いです。二つ目は、工学的関与が少ないこと

です。もちろん技術者、建築士の関わりはほとんどありません。三つ目は、施工の品質が

劣っていることです。実際の現場ではほとんど技術のない、トレーニングを積んでいない

ワーカー、建設業労働者がやる上に、きちんとした監督検査が行われないということで、

ますます品質が落ちるというのが実態です。

これは私が政研大にいたときの調査なのですが、幾つか特徴が分かるので紹介します。

一つは誰が建てているかということです。もちろん家主が建てるのですが、実際にやって

いるのは、家族や近所の人、友達などのコミュニティー、石工・大工などのメーソン、資

格のあるきちんとした職人、建設会社が挙げられます。古くに建ったものは分かりません

が。それで見ると、フィジーやフィリピンは、まだ家族、コミュニティーで建てることが

多いです。この赤はいわゆるメーソンで、職人が建てることが一般的には非常に多いです。

トルコでは、既に建設会社が中心になって建てています。今、ほとんど集合住宅を建てて

いるので、そういうことになっています。そういう傾向の違いがあります。 どのように建てているかも国によって少し違いがあります。労働契約というのは、われ

われ日本人にはちょっと想像がつかないのですが、労働力だけ提供してもらうものです。

レンガなどは建てる人が買って与えます。労働力だけ提供してくださいというのが非常に

多いです。このブルーの部分です。もう少し進むと、職人にお金をあげて、必要な部品、

材料は買ってきなさいということでやってもらうのが労働・材料契約です。フィリピンは

それが多いです。そういう違いがあります。 住宅を建てる職人に、自分の建てている住宅の安全性をどう認識しているかを聞いてみ

ました。「全然被害がないだろう」「ちょっとぐらい被害があるかもしれない」というのが

緑までなのですが、要は職人は、自分の造っているものは安全だと信じこんでいます。 一方、「建築基準法は知っていますか」と聞くと「聞いたことがない」「聞いたことある

けれども知らない」「現場ではもう使っていない」というのが大半です。従って、基準法や

ガイドラインのことは全然知らないけれども、何となく安全性には自信を持っているとい

うのが実態です。 「もしあなたが造った住宅が壊れたら誰の責任ですか」と聞くと、自分が悪いと思って

いる人はほとんどおらず、「誰のせいでもない」「エンジニアが悪い」「政府が悪い」と思う

傾向が強いというのが一つの例です。時間があまりないので少し急ぎます。 もう一つ、アチェの復興が急速に、大量に行われたので、それが実際にどのように行わ

れたのかを調べたので紹介します。 当然、柱梁には鉄筋を通すのですが、鉄筋は十分な太さがなければいけない、それから

緊結しなければいけないといろいろありますけど、あまり守られてないということです。

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例えば、10mm の径が必要なときには 8mm だったり、6mm だったりします。 レンガは一般にはきちんと焼くのですが、特にこういう災害の後は復興需要が発生して、

大量に資材が必要になる、粗悪品も出回るということで、雨で濡れるようなレンガがあっ

てはいけないのですが、時々、爪で引っかいたら跡が残るようなレンガも見られます。

このように、本当はきちんとした砂なりを使わなければいけないのですが、いいかげん

なものが使われているとか、施工がいいかげんですから、施工途中で壊れてしまったもの

があります。 要は、基準法なりガイドラインをきちんと守ればいいのです。数年たった古い住宅はき

ちんと補強すればいいのです。言うのは簡単です。これさえ守ればノンエンジニアド住宅

も結構安全になるのですが、特に既存建築の耐震補強の部分が、今朝からあるように、耐

震補強技術はあるのですが、実際にはなかなか使ってくれない、補強する決心をしてくれ

ないという現実があります。

従って、いろいろなプロジェクトが行われています。モデルを使って、耐震補強をして

いるものと、していないものを実際に揺らして、耐震補強をしている方は壊れない、して

いないと壊れてしまうということを見せて、できるだけコミュニティーに理解してもらっ

て、より多くの人に耐震補強をしてもらうということを進めています。ただし、実際には

なかなか難しいというのが現状です。 ということで、どうもありがとうございました。

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「ノンエンジニアド建築の被害軽減に向けた JICA の支援」

楢府 龍雄((独)国際協力機構(JICA)国際協力専門員)

ご紹介いただきました楢府です。岡崎先

生のお話に続きまして、ノンエンジニアド

についてお話しさせていただきたいと思い

ます。私ども JICA の取り組みについてお話

しさせていただくのと併せて、今回の東日

本大震災でも実は日本のコンクリートブロ

ック構造の組積造がありますので、そのお

話もさせていただきたいと思います。 先ほど岡崎先生が、地震被害は非常に死

者が多いという話をされました。そのお話

の繰り返しになるのですが、これが近年の

大規模な地震の被害を被害額ベースで見た

ものです。上の方は見慣れない格好になっていますが、実はこの長さが 5 倍先の方まであ

り、非常に長いです。それ以外のトルコ以下の国に比べると極端に長いという状況です。

東日本大震災は巨額な被害額になっています。中国の四川大地震、阪神大震災も、同じグ

ラフに載りきらないような、非常に大きな被害額になっています。一方、ハイチは非常に

多くの方が亡くなられたのですが、被害額でいくとこんなものだという状況です。 これを被害者ベースで見るとがらっと変わるという状況です。死者・行方不明者の数は、

東日本大震災はご案内のように約 2 万人ですが、ハイチ、インドネシアのアチェといった

ところはそれよりもはるかに多いです。途上国では被害額よりも死傷者が非常に大きいと

いうことが見ていただけるのではないかと思います。 その主たる原因が、先ほど来、岡崎さんにご説明いただいているような、ノンエンジニ

アドの住宅が倒壊することによる圧死です。これは中部ジャワ地震のときの被災地の写真

です。見ていただくと分かるように、学校なのですが、完全に倒壊しているという状況で

す。ところが、家具はそのまま立っています。日本の常識からいけば、家具が倒れないよ

うに工夫しましょう、家具を固定しましょうという話をされます。ただ、それは住宅が倒

れないという前提で、途上国では家具が倒れるよりも前に住宅が倒壊するということが一

般的にあります。中部ジャワが特殊な例ではなくて、他のところでも同じようなことが起

こっています。 それを震度階で見てみるとはっきりするのですが、日本の震度階は、震度 5 弱で不安定

な家具が倒れることがあるとされています。震度 6 強になると、耐震性の低い木造建物は

倒れるものが多くなるということです。5 弱、その上が 6 弱、6 強ということですから、2段階ぐらい違うということです。2 段階違うというのは、震度的には随分違います。皆さ

ん方も直感的に分かると思いますが、まずは家具が倒れて危ない、よほどのことがない限

りは建物が倒れることを心配されることがないと思いますが、途上国の多くの場合は、家

具が倒れるより前に住宅が倒れてしまう。そういう非常に脆弱な状況になるということで

す。 特に途上国の建物の特徴ですが、先ほど来のご説明にありますように、石レンガ、日干

しレンガ、コンクリートブロックなどの材料を積み上げるタイプ、組積造が多いです。組

積造の建物、補強を行わない組積造は地震に対して弱いということがあります。もう一つ

の特徴として、この写真で見ていただくと分かるのですが、木造の場合だと、倒れても家

具など固めのものがあれば、それに引っ掛かって中に空間ができることが期待できるので

すが、建物の中に生存空間、人が生き残れるような隙間がなくなってしまいます。こうい

う中に取り残されれば、確実に圧死するという状況があるという特徴があります。

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一方、途上国での地震対策の難しさがあります。地震は、水害や干ばつなど他の災害に

比べると、再現周期、起こる頻度が非常に長いです。それにより、被害を記憶し、それを

教訓にして安全にしようということがなかなかできにくいです。それから、めったに起こ

らない災害ですから、それに対して費用を投じて安全にしようというモチベーションがな

かなか生まれないという難しさがあります。 日本は長年にわたって頻発する地震を経験してきたということがあり、それに対して非

常に多くの研究者の方々が努力を積み重ねられ、調査、研究を積み重ねてきているという

部分があります。そういった対策は、恐らく世界中でトップレベルの知見があると言って

いいと思いますが、そうしたものを活用して途上国の地震被害軽減につなげていくのは極

めて有意義だと考えられます。

そんなことから、これまで JICA もかなり多くの地震防災に関係するプロジェクトを実施

してきています。それをグループ分けすると、七つぐらいになると思います。一つ目は、

地震防災計画策定プロジェクトです。日本でもよくされていますが、例えば首都直下地震

が起こったら、どれぐらいの被害が起こるかということをやります。それと同じようなこ

と途上国でもやります。想定される地震が起きたとして、それによる被害がどれぐらいに

なるか、それに対して、現状の防災対策がどうなっていて、どの辺が足りないかというこ

とを、ざっと全体包括的に防災計画を作って差し上げるという協力をしてきています。 二つ目は、地震防災研究センタープロジェクトです。各国の地震防災、地震学、地震工

学に関する研究のセンター的な施設をつくり、人材育成をするプロジェクトです。日本で

は、建築研究所が地震学、地震工学についての研究をしてきているのですが、各国の日本

の建築研究所に当たるような研究機関をつくりましょうということでやっているプロジェ

クトです。本日、海外からプレゼンテーションされている 9 カ国の方々は、実は JICA が過

去に行った地震防災研究センタープロジェクトのカウンターパート機関、相手方の国の機

関の方々です。 三つ目は、地震災害復興支援プロジェクトです。地震災害の復興に当たって単純な応急

対応ではなく、次に起こる地震に対して被害軽減をする取り組みに対して支援しています。

四つ目は、人材育成・能力向上プロジェクトです。地震防災に関わる人材を育成したり、

能力を向上したりします。五つ目は、技術の開発・普及プロジェクトです。耐震技術の開

発や普及に関して行うプロジェクトです。六つ目に、建築研究所で長年やっていただいて

いる地震工学研修も一つの大きな活動です。七つ目は、5 年ほど前から始まった科学技術

協力プロジェクトです。主に研究開発と技術協力をペアで行う取り組みで、この中でも地

震防災対策に幾つか取り組んでいます。 こういったものが全体なのですが、本日はそのうちのノンエンジニアドに関するものを

見ていきたいと思います。ノンエンジニアドに関する技術協力は必ずしも多くありません。

どちらかといえば、やはりエンジニアド、鉄筋コンクリートであったり、地震工学そのも

のであったり、そういったものが多いのですが、そんな中で JICA もこれまでに幾つかノン

エンジニアドに関しての技術協力をしてきています。ここに七つほど挙げております。そ

のうちの幾つかについて、その概要をご説明させていただきたいと思います。

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一つ目は、インドネシアの 2006 年中部ジャワ地震に関しての地震災害復興支援のプロジ

ェクトです。このときは、復興住宅に関して中央政府から補助金が出ました。建設費の 7~8 割をカバーできるぐらいの補助金が出されました。そのときにそのまま自由に建てて

くださいというと、従前と同じようなものを建てます。あるいは先ほど岡崎先生の話があ

りましたが、災害のときのどさくさですから、もっと質の悪いものができてしまうという

ことなので、国の補助金を使って建てる以上はきちんとした住宅を建ててくださいという

ことをやろうとしました。ただ、どうやってやるかというと、なかなか簡単ではありませ

ん。インドネシアも耐震基準はありました。ただ、耐震基準というものは、先進国から、

その国のビルやショッピングセンターという大きな建物を建てるために導入されていると

いうのがほとんどで、非常に複雑で難しいものになっています。先ほどのお話にもありま

したように、実際こういった住宅を造っている人たちは地域の職人さんだったり、住宅を

建てる家族だったりするわけですから、そういう人たちがそういう基準なんかを見てくれ

るはずがありません。 そこで考えたのがこのポスター1 枚に入る基準です。セメントと砂の配合の比率はこう

してください、鉄筋の接続はこうしてくださいという、この 1 枚に入ることだけは守って

くださいということにしました。こういった住宅は小規模の住宅で 1 階建てですから、高

いビルの場合にやらなければいけないような難しいことをやる必要はないのです。これに

よってかなりの水準が守れるだろうという割り切りでやりました。 その基準を皆さんに説明するために、こういった普及活動をしました。それから、この

場合は、建築の許可を取ってもらうことによって基準を守ってもらおうとしたので、その

際の行政による建築したい人の相談窓口をつくりました。申請を受ける側の行政官の方も、

技術基準を守る、あるいは審査するなんてことをしたことがない人たちがほとんどですか

ら、職員のトレーニングもしました。 工事現場での管理についてチェックするための、

簡単なチェックリストを作って使ってもらっています。

次はエルサルバドルの事例です。これはもう先ほど Edgar さんが一部紹介されましたが、

耐震工法について研究開発を行い、それに基づいて国としての基準を作りました。 活動の大きな一つの特徴として、その工法を使った住宅の実物を造り、それを見て理解

してもらったり、パンフレット類を作ったり、見学会をしたり、こんな活動をしています。 もう一つ、これはアドベに関してペルーで行ったプロジェクトです。アドベ住宅は、基

本的に住民の方が自分で造るのが基本です。ですから、住民の方々に参加を募り、関心が

ある人たちに集まってもらって、住民の人たちに実際の建物を造ってもらうことによって、

その技術を学んでもらおうということでやったプロジェクトです。 その主体はペルーで低所得者対策に取り組んでいる NGO で、段階ごとに座学の講義を

行い、これに基づいて実際の建物を指導の下に造っていきました。以上が幾つかの代表的

な事例です。 補論と書いていますが、これから東日本大震災についてのものをご説明させていただき

たいと思います。組積造というのは一般的に地震に弱いといわれています。それは事実だ

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と思うのですが、実はちゃんと補強すれば十分に強いということが実証されています。日

本には組積造はほとんどないのではないかと思われる方が多いと思うのですが、実は日本

も終戦直後のセメントが潤沢に使えなかった時代は、安くて耐火性のある住宅としてコン

クリートブロック造を推奨していました。年配の方はご存じだと思いますが、簡易耐火と

いう言い方で呼ばれており、1 階建て、2 階建ての公的な住宅で大量に造っています。その

ころの住宅は、実はまだまだ相当残っています。こういったものです。 今回の東日本大震災で建築学会が出している報告書や新聞報道、学会の有志が調査した

成果から、本当に数は限られているのですが、10 棟ほどの事例を引っ張り出してきました。

そのうちの 8 棟が津波により冠水しているという状況です。そのうち 6 棟が、周辺住宅が

流出して、ほとんど周りの住宅がなくなってしまっているという状況ですが、構造体の被

害はほとんど認められない程度にとどまっているというものです。そのうち 1 棟は洗掘に

よりかなり大きく傾いています。非常に大きな傾きです。ただ、それでも構造体の被害は

ほとんどありません。もう 1 棟は、津波の浮力によって、10~20m 動かされて、ひっくり

返って地面に落ちているという状況で、これはもう土の中に埋まってしまっているひどい

状況になっています。こういうものもありますが、大部分の住宅はほとんど構造体に被害

がない状況です。それから 2 棟は津波被災地域ではないのですが、2 棟いずれも構造体の

被害なしと報告されています。

そのうちの事例が幾つかあるのですが、これは地元紙で何度か取り上げられて有名にな

っているものなのです。1960 年、昭和三陸地震を経験した地元の大工さんが、木造住宅で

は津波に対しては全然駄目だということで、それに耐えられるものをということで、当時、

自分たちの手が届くものとしてコンクリートブロック造を積極的に造ったということです。

その自宅が被災しました。その大工さんの奥さん 81 歳の方が被災し、この建物の 2 階まで

達するような津波を受けました。そのときに、もう立っていたら水没してしまうという状

況なのですが、長押につかまって、天井との隙間にある空気を吸いながら生き延びたとい

うことが報道されています。 これは津波の浮力で運ばれてひっくり返ってしまった写真です。こういったものもある

ということなのですが、大部分のコンクリートブロック造はほとんど構造体の被害がない

という状況です。ですから、組積造でも適切な設計、施工がなされれば、地震、津波に対

して相当程度の安全が確保できるということです。こういった一つのことが実証されてい

るということです。 こんなことも考えながら、今後、さらに途上国の被害軽減に貢献できればと思っていま

す。ありがとうございました。

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「東日本大震災からの復興と津波避難ビルの全国調査」

安藤 尚一(政策研究大学院大学(GRIPS)教授)

今から「東日本大震災からの復興と津波

避難ビルの全国調査」というタイトルで発

表させていただきます。今日は政策研究大

学院大学、主催者の一人として、まず皆さ

ん、ご参加いただきまして誠にありがとう

ございます。それから、発表いただいた海

外の IPRED のメンバーの方、岡崎先生、

JICA の楢府さんに感謝いたします。私のプ

レゼンは、基本的には東日本大震災の話が

中心になりますが、最後に現在、実施して

おります津波避難ビルの全国調査の話も触

れさせていただきたいと思います。 ご承知のとおり、一昨日で東日本大震災から 4 年たち、明日からほぼ 1 週間、仙台で 10年に 1 回という国連の防災世界会議が始まります。それも、この東日本大震災があったこ

とから仙台で行われます。今、私は政研大にいますが、東日本大震災があったときには国

際地震工学センター建築研究所の IISEE におりまして、地震があったときにはつくばにい

たのですが、ちょうど研修生の人たちが研修をしている最中に地震が起こって、まず彼ら

の安全を確保するというのが私の最初の仕事でした。その後、1 カ月間は現地に行くこと

を建築研究所でも控えておりましたが、4 月以降、複数回にわたって現地を調査したとき

に、私も調査メンバーの端くれとして加わったときに撮った写真を中心に、まずはご紹介

したいと思います。 それぞれの写真にいろいろな人のいろいろな思いが詰まっています。例えばこの大槌町

の赤浜地区の船です。これは津波から 1 カ月半後ぐらいに撮ったものですが、この 1 カ月

後には、既にこの船は海に戻されていました。いろいろな理由がありますが、この下の建

物が、まず余震があったときに崩れて危ないというものもありましたし、この「はまゆり」

は観光船ですが、また海に戻して使えるという話もあって戻されたと聞いています。 これが、建築研究所がいろいろ調査した中で津波の被害としては一番衝撃的であったも

のです。これは鉄筋コンクリートの一部 4 階建ての建物ですが、鉄筋コンクリート造でも、

普段考えられないような崩壊が起こったときに、基礎のところにくい、パイルがあったに

もかかわらず引き抜かれて転倒しています。ベタ基礎のものは幾つかやはり倒れています

が、くいがあるにかかわらず倒れたということで、非常に衝撃だったものの一つです。

これは有名な田老の防潮堤です。建築研究所の地震工学センターの研修では、津波が起

こる前から毎年、特に津波コースの研修生を連れて、ここに行って「日本はこういうのを

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造ってるんだぞ」と言っていました。防潮堤自体は残っていますが、防潮堤が防潮堤の機

能を果たせなかったということになります。 同じ田老の港の防波堤もこのような壊滅的な被害を受けています。 ここからはちょっと数字が並ぶかもしれませんが、東日本の被害データ、主に大きな被

害を受けた岩手、宮城、福島の 3 県の比較をしています。人的被害では宮城、特に石巻が

多いですが、全壊の住宅でもそうですが、全壊住宅 100 戸当たりの死者・行方不明者数と

いう単位で見ると、岩手が地震、津波の被害程度が大きかったということになるかもしれ

ません。 今のをちょっと図に落としただけですが、その死者・行方不明者の率、それか

ら倒壊の戸数を比べています。 今のは県別ですが、市町村別に見たものがこれです。まず人的な被害、絶対値では、市

町村別にいくと、石巻市が圧倒的に多いです。物的被害、全壊の住宅数でいくと、実は石

巻市よりも仙台市の方が 2 万 5000 件を超えて大きくなっています。仙台市の死者・行方不

明者数を見てみると約 700 名です。つまり、石巻と仙台はどちらも 2 万棟以上の住宅が壊

れたのに対して、石巻で亡くなった方は 4000 人近くなのに対して、仙台市は 700 人ぐらい

ということです。 これはなぜかというのを次にご説明します。まず、三陸地域が青で、仙台平野以南の比

較的平らなところが緑です。浸水面積当たりの死者行方不明者率、もしくは浸水面積当た

りの全壊戸数を見ると、やはり三陸の方が面積当たりは激しい被害を受けていることが分

かります。 それを図にしたものですが、やはり被害程度としては、三陸の地域のものが

非常に大きくなっています。 これは人的被害と物的被害の絶対値を並べたものです。石巻市と仙台市が人的被害も物

的被害も圧倒的に飛び抜けているというのが市町村別で見ると言えます。

なぜ石巻市と仙台市は全壊住宅数は同じくらいなのに、死者・行方不明者が 5 倍違うの

かというのは、一つはやはり都市計画に大きな理由があると考えられます。これは同じ縮

尺の、都市計画図と、津波で浸水した地域の図です。仙台市の中心はここですが、新幹線

の駅のあるところは海から 10km以上離れているので、津波の被害は全く受けていません。

海岸から 5km ぐらいの範囲が大きく浸水しています。都市計画図で見ると、ほとんど白く

なっています。白いのは市街化調整区域で、基本的には田んぼです。ササニシキ、今はコ

シヒカリの方がここは多く作っていると言っていましたが、どちらにしても田んぼで、基

本的には新築住宅が農家以外は作れないという地域になっているので、ある意味では幸い、

壊れた住宅は確かに多かったのですが、浸水の程度としては都市部が直接被害を受けたと

いう形にはなっていません。 それに対して石巻は、ピンクが浸水区域で、黄色が市街化区域です。それ以外は市街化

調整区域です。例えば女川へ行くと、黄色い市街化区域がほぼ津波に遭っています。市街

化区域だけが津波に遭っています。石巻は仙台と違って、市街化区域の大半が津波に襲わ

れてしまいました。 また宮古に戻りますが、2007 年の津波が来る前の宮古と、2011 年の

津波から 1 カ月後の宮古を比べたものです。

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それ以外にも、これは津波から 1 カ月半後の女川と、津波から半年後の女川を比べたも

のです。日本は後片付けが早いことが分かるかと思います。今の東日本大震災の話につい

て言えば、今日のワークショップもそうですが、建築研究所と政研大が共同事業という形

でやっているので、政研大と建築研究所が撮った写真をこのような 1 冊の本にまとめてお

配りしていると思います。この中に今のような写真のもう少し詳しい版、比較版も含めて

出ていますし、津波被害に関して、もともとは日本語版で、日本語版のサイトが書いてあ

りますが、それを英訳したものの紹介版が後ろに付いています。 東日本大震災でこういった被害がありました。明日から仙台で始まる国連防災世界会議

の目的は、ちょうど 10 年前に兵庫で行われてつくられた Hyogo Framework for Action の項

目をもう一回レビューして、新たな次の 10 年に向けて見直すことです。このうち、特に 4番「潜在的なリスク要因(危険な建物等)の削減」が、建築関係の話が多く含まれている

ところです。 国連機関にはさまざまなものがあります。UNESCO、それから JICA は国連ではありま

せんが、UNDP に当たるような開発を支援する機関です。国連というのは非常にいろいろ

な幅広い機関があって、その中で UNISDR が防災に関するまとめ役をやっています。実は

国連機関はそれぞれみんな張り合っているので、明日からの仙台会議はそういう張り合い

の中で、それぞれ自分たちの主張を述べるという、バトルみたいなものが始まるというよ

うにも理解してもいいかもしれません。ぜひ UNESCO に頑張っていただきたいと思いま

す。 これは耐震建築普及に当たっての諸課題です。岡崎先生、楢府さんに一般の住宅につい

てお話を頂きましたが、今、高層住宅もどんどん増えていますし、途上国で住宅、もしく

は建築を造る際の一般的な課題がたくさんあることが分かります。 翻って、日本は昭和 25 年に建築基準法を作った後、地震被害を受けて新たな仕組みを作

ったり、地震被害がなくても新しい研究を行ったりして、それをベースに、長い年月をか

けて今のような状況になっているという歴史があります。 これからも日本ではさまざまな課題、特にコミュニティーの衰退という課題があります

し、南海トラフをはじめとした津波対策も全国的な課題になっているので、そういったも

のに対する取り組みを研究機関、大学、こういった国際的なネットワークを通じて広めて

いくのが求められていると思います。 最後に津波避難ビルの話ですが、これは東日本大震災の被害を受けた市町村別に津波避

難ビルの数がどう変わってきているかを追ったものです。この図では青森や茨城が急に伸

びていますが、宮城や岩手は津波避難ビルが減っています。特に岩手県は現在、津波避難

ビルが 1 棟もない状況になっています。 これが岩手県に二つだけあった津波避難ビルのうちの一つです。釜石のこのビルは、津

波が来たのは上の住宅よりも下までで、上の住宅は生き残りましたし、津波があって 2 年

半後の状態では、今もそうですが使っています。使っているのですが、この津波避難ビル

マークを市が解除しました。住民に逃げるときはここに逃げないで、裏に 100m 行ったと

ころにある山に逃げてくださいと言うために、せっかく機能もしたし、今も使われている

ビルを津波避難ビルの指定から解除しています。これはレベル 2 だけではなく、レベル 3、もしくは人によってはレベル 4、レベル 5 という、10 万年に 1 回、100 万年に 1 回の事象に

備えるべきだという議論ともつながりますが、やはり津波は山に逃げるのが基本だという

のが釜石市役所の見解です。 そういったものを現在、全国にわたって調査していますが、ちょっとその結果はまとめ

られていないので、今日はここまでということにしておきます。ご清聴ありがとうござい

ました。

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「建築研究所国際地震工学センターの果たしてきた役割と今後の展望」

本多 直巳((独)建築研究所国際協力審議役)

建築研究所の本多です。私からは「建

築研究所国際地震工学センターの果たし

てきた役割と今後の展望」というタイト

ルでご紹介させていただきたいと思いま

す。 まず、国際地震工学センターの話に入

る前に、建築研究所そのものの話を少し

だけ紹介させていただきたいと思います。

まず沿革です。昭和 17 年に国の機関の一

つとしてできました。最初は大蔵省の中、

それから建設省に移りまして、それがず

っと続いていました。場所は最初、新宿

の方にあったのが、昭和 54 年につくばに移転しました。ご存じのとおり、つくばは東京か

ら電車で 1 時間ぐらいのところで、非常に研究や勉強に取り組みやすいというか、六本木

なんかと違いまして誘惑がないところですので、1 年間の研修に非常に没頭できるいい環

境だと思います。また、国全体のいろいろな組織改正があり、国の中の機関から、独立行

政法人になり、今度 4 月から国立研究開発法人と少し名前が変わります。国立の研究開発

をするところと、名前的には非常に分かりやすくなります。

次に建築研究所の使命、役割です。まずどんなことをやっているかというと、先ほど来、

話に出ているような、耐震、それから日本は木造の家が多いので、火災の安全性、それか

ら省エネルギーというのも非常に大事なテーマです。それから少子高齢化に対応した住宅

というようなことで、そういったものの居住性の向上ということを主に研究開発のテーマ

としてやっています。 いろいろなことをやっているのですが、何のためにやっているかが 2 番目にまとめてあ

ります。ただ研究をやるのではなくて、主には国の法律に基づく技術基準などに生かして

いけるようなものという観点での研究を主にやっています。法律としてはここに書いてい

るような、その他いろいろありますが、建築基準法等の技術基準のサポートということで

す。 3 番目に書いてあるのが、研究以外でもいろいろな社会貢献をやっていまして、例えば

研究でできたものを成果普及していくとか、それから今日のテーマですが、国際地震工学

センターでやっているような研修をやっております。その他の国際貢献もやっています。 次に、ではそういうことをやるのにどんな組織なのかというのをざっと紹介すると、職

員は 90 人ぐらいです。これが全体で、あとは役員や管理部門があって、実際にやるのは研

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究部門が六つ、先ほどのテーマにほぼ応じた形でありまして、それから国際地震工学セン

ターが位置しています。ちなみに研究者の 8 割が博士という構成になっています。 次から IISEE 国際地震工学センターの話になります。まず、どんな研修をやっているか

ですが、先ほどもう石山先生の方から非常に分かりやすい話がありましたので、ちょっと

飛ばし飛ばしになるかと思います。まず大きく分けて、通年研修とグローバル地震観測研

修があります。これは 3 カ月間です。それから中南米地震工学研修があります。これが 2カ月間と分かれています。1 年間の通年研修の中で、地震学、地震工学、津波防災という

ことでやっています。 歴史的に見ると、通年コースが最初に 1960 年にできて、それがずっと続いています。そ

れ以外にいろいろな研修が、その時々の要請に応じて創設されてきたという流れです。 研修の特徴的なところをお話しします。まず IISEE がやっている研修ではありますが、

国土交通省と JICAとの協力の下にやっておりまして、IISEEは研修の実施機関になります。

具体的に言うと、研修生が日本に来たり、滞在したりといった部分は JICA の方でやってい

ただいて、それから国土交通省の支援を受けながら、IISEE が研修のテキストを作ったり、

講師を手配したりといったことをやっています。ちなみに国土交通省からの評判もなかな

か良くて、毎年、大臣を表敬させていただいています。 これはもう先ほど石山先生の話にありましたが、UNESCO の支援も創設以来、ずっとで

はないのですけれども、その時々に応じて受けながらやってきています。

卒業生はどういったところから来ていただいてるかということです。地震が多いところ

は人数も多いのですが、中南米、インドネシア、中国、中近東、アフリカといったような

ところが多いです。それ以外にも小さな丸ですが、全世界的にいろいろな国から来ていた

だいています。 次は通年コースの目的です。1 年間しっかり学んでいただきますので、それぞれの地震

学、地震工学、津波防災に関して、先進的な技術を与える。その国に帰っていただいて、

研修生にそれをまた移転、利用、普及していただくことを目的にしながらやっています。 地震学と地震工学コースは最初から始まっているコースです。最初、1960 年から始まり、

その後ずっと続いています。これは最初のころ、第 2 回の写真で、ペルーの Julio Kuroiwa教授という、ペルーでは地震工学の父といわれているような人です。これは一例ですが、

他にも各国の地震工学、地震学の大御所になっているような方がいらっしゃいます。それ

だけ実績を上げてきていると言えると思います。 津波防災コースが 2004 年のスマトラ地震を契機として創設されました。 特徴としては、修士号を GRIPS と一緒になって与えることになっており、JICA の研修

としては結構珍しいケースです。こういった修士を取れるというのが一つの大きなメリッ

トだと思います。今まで 197 名、修士号を取得しています。

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これは個人研修のトピックスということで、いろいろな分野にわたっているということ

です。学位の他にも、いろいろな賞を与えたりすることでやる気を上げる工夫をしながら

やっています。 それからグローバル地震工学研修も結構やっていて、今まで 186 名ということで、ちょ

うど今日、修了式をやっているところです。 これはもう終わってしまった研修なのですが、中国耐震建築研修を 2009 年から 3 年間や

りました。これは非常にいい例だと思います。まず 2008 年の地震を契機にして、すぐ 2009年に始まりました。非常にスピーディーに始まりました。特徴の一つとして、4 年間で 72名の構造技術者を育成しました。その人が中国に帰って、324 名の中核的な構造技術者を

育成しました。さらに、その人たちがずっと講習会をやって、8800 名余りの技術者を育成

したということで、IISEE の研修が広がりを持った一例で、非常に成果が上がったと思い

ます。 去年から始まった中南米研修です。先ほどもう説明がありましたが、中南米地域を対象

にした 2 カ月の研修です。特徴の一つは、スペイン語でやっていることもそうなのですが、

各国の研究者と、研究だけではなくて行政や普及に携わるような人とペアで来てもらいま

す。その国に帰ってよりすぐに、ストレートにいろいろな技術を広めていくことに役立っ

てほしいということで、今やっております。

最後になりますが、今後の展望ということで、まず基本になるのは研修をしっかりやっ

ていくことです。まだ数名しか来ていないような国もありますので、新たな研修生も増や

していきたいです。それから、IPRED というしっかりした組織が UNESCO でできたので、

それとのネットワークを持ち、情報発信拠点と書いていますが、情報発信を行いながら、

そういうことのエンジンになっていきたいと考えております。ご清聴ありがとうございま

した。

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「建築研究所における建築物の設計用地震力に関する最近の研究活動」

小豆畑 達哉((独)建築研究所国際地震工学センター・GRIPS 連携教授)

国際地震工学センターの小豆畑です。私

からはタイトルにございますように、設計

用地震力に関する建築研究所の最近の研究

活動について、ざっと紹介させていただき

たいと思います。 私の発表では、スライドに示す三つの取

り組みについて概要を述べたいと思ってお

ります。 1 番目は、建築基準法 2000 年改正につい

てです。本改正では構造基準の性能規定化

に向けて、従来の計算法に加えて、新たな

計算法を導入しました。その際に、建築研究所がこの計算法の詳細を求めるための基準作

成のための技術的支援を行ってきました。 次のスライドからは地震について紹介したいと思っております。計算法ですが、ここに

概要を示しております。いわゆるキャパシティ・スペクトル・メソッドという方法です。

本計算法を導入する際に、地震動についても見直しを行いました。これは概要ですが、一

番特徴的なのは、地震力の基準を工学的基盤上で設定したことです。 ここで従来の方法との比較を示しています。従来では地震力を上部構造のベースシア係

数を基準に定めていたのに対し、今回の新しい基準では、工学的基盤での加速度応答スペ

クトルを基準に定めているということです。これにより、表層地盤による地震動の増幅や

地盤-構造物の動的相互作用をより直接的に評価することができるようになったというこ

とです。 この計算基準につきまして、ざっと今から紹介いたします。まず工学的基盤の設計用加

速度応答スペクトルを決める際の基準ですが、それは従来の基準と整合できるようにしま

した。赤い線は 1 質点系の応答スペクトルです。一見して、従来の黒い線で示す基準を上

回っているように見えますが、その場合の有効質量は 0.8 倍になっているので、結果とし

ては大体等価になるということで、それについては、従来の基準との整合性を確保したと

いうことです。表層地盤ですが、このように多層分析をしまして、1 次モードの増幅なり

周期を求められるようにしました。このように単純な評価式を与えて、赤い線で示してい

るように、地震動の増幅が簡単に出るようにしました。そういうことについて、われわれ

の建築研究所では研究に取り組んだということです。

これは動的相互作用効果のうち、入力の相互作用を評価した方法です。灰色は建築物の

地下室を表していて、地下部分では地震力を低減できるということをβという印で表して、

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自由地盤上の増幅係数をβという数値を使って低減できるようにしたということです。こ

れについては後でまた地震観測を説明いたしますので、それで入力損失の効果については

再度触れたいと思っております。 一方、動的相互作用効果のうち、いわゆる慣性の相互作用といわれるものについても評

価できるようにしました。一般には慣性の相互作用によって、建築物の周期が伸びますが、

この式によって周期の伸びを評価できるようにしたということです。これについても、次

に建築物の地震観測の取り組みについて説明いたしますので、それで再度取り上げたいと

考えています。 2 番目の話題ですが、建築物の強震観測について説明したいと思っております。近年に

日本で観測された地震動の応答スペクトルと、基準法の設計スペクトルを比較しておりま

すが、黒い実線で示している設計地震動応答スペクトルに対して、実際の地震動の応答ス

ペクトルは上回るケースも多々見られます。ただし、地震観測で認めた応答スペクトルに

おいては、地盤-構造物の動的相互作用効果の影響が入っていないので、これについては

地震観測を行って、その効果についてしっかりと見極めたいと考えております。 建築物の地震観測の例を示しています。これは建築研究所で精力的に地震観測を行った

一例です。左上は地震計の配置を示しています。地震計を建築物の中と同時に周辺の地盤

に配置していることが特徴です。右側にグラフがあります。横軸に地表面最大加速度を取

り、縦軸に建物内部の最大加速度を取っています。加速度が等しい場合は緑の線で示して

いるラインに点がプロットされますが、実際には、最大加速度は低減されて、このように

やや下がっています。周辺地盤の最大加速度に対して、建物内部では約 40%まで軽減され

るという結果になります。従って、建築物の設計震度を考える場合には、動的相互作用を

考える必要があるということです。 これは建築研究所が国土交通省の国土交通政策研究所と共同で行っている地震観測の体

制です。全国で 59 棟、観測地点があります。ただし、この場合は建物と地盤を両方測って

いる場合のみをカウントしていきます。建物だけを測るところはもう少しあるのですが、

地盤と建物を同時に観測している観測地点は全国に 59 棟あります。59 棟につきまして地

震に関する周波数を収集して、分析して、いわゆる相互作用の影響を明らかにするという

研究に建築研究所は取り組んでいます。

これは分析結果の一例です。これは 3 層建物で、この建物についてはくい基礎が付いて

います。赤いライン、赤いプロットは地震計の配置です。GL の記録、1F の記録、3F の記

録を分析して、フーリエスペクトル比という値を求めて、これでプロットしたということ

です。フーリエスペクトル比を取ると、この建物の場合は地盤ばねが効いていて、建物の

周期が伸びていくということが読み取れます。 これはまた別の建物ですが、同じように 3 層です。この場合はくい基礎ではなく、直接

基礎です。地下 1 階があります。同じようにスペクトル比を取ると、今度はあまり周期が

伸びないで、入力損失の効果が見られるという結果になっています。建築研究所としては、

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こういうデータを集めてきて、実際の建物に対する相互作用効果の影響を明らかにしてい

くという研究をしています。 これは定量的に、相互作用はどれだけ建物に影響するかを分析する手法を示しています。

ステップ 1、ステップ 2、ステップ 3 という段階を経て、スウェイ・ロッキングモデル(SRモデル)の諸元と入力損失係数が同定され、地震応答解析を行って、相互作用効果の影響

を見ます。詳細な説明は省きますが、最終的には相互作用効果のうちの入力損失と地盤周

期の伸びの影響が評価できるということです。 これが結果です。結論だけ申しますと、相互作用の影響によって、それを無視した場合

に対して、6 割ぐらいまで応答が減るということで、それは非常に大きな効果になります。

このグラフは、建物の変形の原因は地盤の変形が非常に大きな部分を占めているという結

果です。 先ほど入力損失という話がありましたが、その簡易評価式を、現行の基準を配

慮して、もう少し詳細に見てやる評価式を考えて、それで地盤、シミュレーションは良い

結果が得られています。 最後に、現在、日本で問題になっている長周期地震動の問題について、簡単に概要を紹

介したいと思っています。南海トラフに近い将来、確実に巨大地震が発生するといわれて

います。その際に、長周期地震動の発生が予測されています。これは過去の長周期地震に

よる被害の例です。これは石油タンクの例ですが、超高層についても長周期地震は観測さ

れているということです。 この建物について建築研究所で地震観測を行っておりまして、これは東北地震の際の周

期です。1 層に対して、高層階で、長周期の影響によって、応答は非常に大きい値を指し

ているということです。 これに対して、建築研究所では経験式を提案していくということです。これは、いわゆ

る距離減衰式で、振幅を評価しようということです。非常に数多くの回帰係数がございま

すが、これについては、建築研究所のウェブ上で公開しております。 これは長周期地震動の予測の一例です。デジタルデータについてはやはり建築研究所の

ウェブ上で公開しております。これを見ると、赤いラインに対して、長周期部分で非常に

大きな地震動が予想されるということです。これについてはまだまだ検討中でございまし

て、それを踏まえて、長周期地震動の超高層建物の安全対策を今後考えていくことが、今

の課題です。

まとめます。私の発表では、初めに 2000 年建築基準法の改正を述べさせていただきまし

た。地震力は工学的基盤を基準に設定するということが特徴です。現在の取り組みとして、

一つは地盤-構造物の動的相互作用効果の検証のために、建築物の強震観測を精力的に行

っていく。もう一つは、工学的基盤の長周期地震動の経験式を提案したいということです。

以上でございます。

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おわりに (Jair Torres:UNESCO) 皆さま、こん

にちは。まず全員に感謝を申し上げたいと

思います。非常に実り多い会議になったか

と思います。質問が出なかったということ

は、皆さん、もう納得をされたのでしょう。 さて、最後の言葉として、日本のパート

ナーであります建築研究所、政策研究大学

院大学、建築研究所の下の国際地震工学セ

ンターの皆さま、感謝申し上げたいと思い

ます。UNESCO は防災対策ということでか

なり活動を展開してきておりまして、十分

な災害対策を取るということでさまざまな

試みを進めてきております。とりわけ世界各国からおいでいただいた方々に感謝を申し上

げたいと思います。皆さまの経験を分かち合って、知識を語っていただきました。どのよ

うに防災、減災を実現していくのか、エンジニアリングの側面、そしてエンジニアリング

以外の側面について、建築物、住宅、それぞれの国の状況を語っていただきました。この

知識の共有化は大変重要です。科学や知識や理解について、工学エンジニアリングについ

て話し合うだけではなく、社会の状況を語り合い、社会の中でどのように居住区が広がっ

ているかといった側面も含めて、情報を分かち合うということは重要です。 とりわけ朝、石山先生から基調講演を頂き、ノンエンジニアド構造物について、どのよ

うに補強をしていくのかというお話がありました。それだけではなく、彼らが分かる言葉

で分かりやすく話し、知識を地元の社会で普及して、リスクの軽減を図ることが大事だと

お話を頂きました。これまでの 30 年間、さまざまな科学の分野、そしてさまざまな社会の

分野で協力することによってコミュニケーションを図ってきました。30 年前は、地震工学

も社会学も、それぞれがばらばらに、縦割りの形で、お互いに関係性を持たず、交流もせ

ずに存在してきました。ところがこの 10 年ぐらい、とりわけ兵庫行動枠組等をはじめとし

て、ますます必要だと思われている学際的な協力を進めることによって、いかに災害リス

クを軽減するかということが議論されるようになりました。UNESCO としても、リスクの

軽減に関わる活動に大いに関心を持っています。これはわれわれに与えられた付託事項の

一部でもあります。教育、科学、文化、この三つの重要な社会にとっての問題を、災害リ

スクの軽減を図るためにも、結び合わせて生かしていくことが重要であると思います。 皆さまにはわざわざ貴重なお時間を取っていただいて、興味深いいろいろな発表を聞い

ていただいたことを感謝いたします。また、関心を持っていただき、皆さまの研究や知識、

本当に素晴らしいいろいろなアイデアを持ち寄っていただいて、より安全な世界のために

貢献していただいていることに感謝します。今後も皆さまとたびたびお目にかかることを

楽しみにしています。 (黄) Jair Torres さん、ありがとうございました。以上をもちまして、UNESCO 建築・

住宅地震防災国際ネットワーク、東京国際ワークショップ「世界各国の建築物の地震防災

対策―技術協力で世界の建物を地震から守る」を終了させていただきます。本日はご参加

いただき、誠にありがとうございました。

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UNESCO 建築・住宅地震防災国際ネットワーク IPRED 関連 2015 東京国際ワークショップ 世界各国の建築物の地震防災対策 ―技術協力で世界の建物を地震から守る―IPRED 最終報告書 2016 年1月 政策研究大学院大学 (GRIPS) 建築研究所 (BRI) 国際地震工学センター (IISEE)

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