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臨 床

全眼球炎および化膿性脊椎炎を合併した

Edwardsiella tardaに よる敗血症の1例

久留米大学第2内 科

原 田 大 吉 田 博 大 曲 和 博

酒井 輝文 安 倍 弘 彦 谷 川 久 一

同 整形外科

有 吉 護 永 田 見 生 井上 明生

(平成1年8月1日 受付)

(平成1年9月27日 受理)

Key words : Edwardsiella tarda, Sepsis, Pyogenic spondylitis

要 旨

我 々 は,ヘ ビな どの爬 虫類 の腸 内常 在菌 として知 られ るEdwardsiella tarda(E.tarda)に よ る敗 血症

に全 眼球 炎お よび化 膿性 脊椎 炎 を合併 した 症例 を経 験 した.症 例 は39歳 男性.昭 和62年10月3日,発 熱,

腰痛,多 発関 節痛,右 眼視 力低下 を主 訴 に入院.化 膿性 脊椎 炎,右 全 眼球 炎を疑い,動 静脈血 培養,結

膜 ぬ ぐい 液培 養,関 節 液培 養 お よび,尿,便 培 養施 行 し,静 脈 血 よ りE孟azda,結 膜 ぬ ぐい液 よ り醜a一

phylococcus epidermidis (S. aureus), Staphylococcus aureus (S.aureus)を 分離 し,敗 血 症,全 眼球

炎 の診 断 にて ア ミカシ ン,セ フォタキ シ ム,塩 酸 セ ブ メノキ シ ム,ア ン ピシ リン等 を投 与,投 与 後 も解

熱 は見 られず,入 院12日 目に 眼球 内容除 去術 を施 行,眼 球 内容 よ りS. epidermidisを 分離,そ の後 も抗

生物 質投 与 を続 けた が,経 過 中腰椎CTscanに て骨 破 壊像 と骨新 生像 を認 め化 膿性 脊椎 炎 の合併 も認 め

た.以 後 抗 生物 質投与 で一 旦解 熱 した が,増 悪,椎 体 病巣 郭清 を行 な つた.椎 体病 巣 よ り菌 は 分離 され

なか った.以 上,全 眼球 炎,化 膿 性脊 椎炎 を合 併 したE. tardaに よ る敗血 症 の1例 を経 験 した ので報 告

した.

は じめに

E.tardaは1962年 坂崎ら1)によ り, Asakusa群

と言 う名称で腸内細菌の新 しい菌群 として報告さ

れ,そ の後Kingら2)に よ りBamtholomew群 と

称され,1965年Ewingら3)に よりE. tardaと 命名

されたGram陰 性菌である.本 来ヘビなど爬虫類

の常在菌の一種 と考えられてお り,人に対 しては,

腸炎起病性を持つ と言われてい るが,血 中より分

離 された症例は非常に少ない.今 回,我 々は,全

眼球 炎,化 膿性脊椎炎 の患者 静脈 血中 よ りE.

tardaを 分離 した症例を経験 したので報告する.

症 例

症例は39歳 男性,昭 和62年9月24日 より右肩,

腰部,両 側膝関節部の疼痛が出現 しその後,9月

27日 より38度以上の高熱が出現 し,右 眼視力低下

が出現 したため10月3日 当科に入院した.十 二指

腸潰瘍の既往があ り,日 本酒を3合10年 の飲酒歴

がある.

入院時現症 としては体格,栄 養とも中等,意 識

清 明,体 温40度,脈 拍96/分,整,血 圧150/70

mmHg,眼,胸 部,口 唇に白斑を認め右角膜混濁,

右結膜充血を認めた.胸 部では,第2肋 間胸骨左

別刷請求先:(〒830)久 留米市旭 町67番 地

久留米大学医学部第2内 科 原田 大

感染症学雑誌 第64巻 第5号

Edwardsiella tardaに よる敗血症 621

Table 1 Laboratory data on admission

Table 2 Antibiotics sensitivity of E. tarda

縁 に 最 強 点 を 持 つLevine II/VIの 収 縮 期 雑 音 を

聴 取,腹 部 で は肝 を 正 中 線 上 に2横 指 触 知,鈍 で

や や 硬,四 肢 で は右 肩 関 節,右 肘 関 節,右 股 関 節,

両 側 膝 関 節 の 腫 脹 と可 動 制 限 を 認 め た.入 院 時 検

査 成 績 で はTable 1の よ うに,血 沈 高 度 亢 進,

CRP陽 性, RBC, 188万/mm3と 貧 血 を認 め, WBC

17,600/mm3と 増 加,血 液 生 化 学 検 査 で はGOT

112K.U., GPT38K.U.,γ-GTP144mIUと 軽 度

の アル コー ル 障 害 型 の肝 障 害 を認 め た.免 疫 学 的

検 査 で は,C3228mg/dlと 補 体 の 上 昇 とIgA510

mg/dlとIgAの 上 昇 を認 め た.抗 核 抗 体 等 の 自己

抗体は陰性で リンパ球サブセ ットも異常を認めな

かった.ま た好中球の過酸化脂質産生 も正常で

あった.細 菌学的検査では静脈血 よりE劾z吻,

眼分泌物よ りS. aureus, S. epidermidisを 分離 し

た. E. tardaぬの抗生物質感受性を別表(Table 2)

に示す.髄 液,骨 髄液,関 節液,尿 の培養は陰性

であった.入 院後の経過を(Fig.1)示 す.入 院後

頭部CT scan(Fig.2)に て右眼球は腫大,視 神

経は腫脹,水 晶体は消失 してい・た. 99mTc-MDPに

よる骨 シンチグラフィーでは,両 側肩関節,右 胸

鎖関節,第4腰 椎に集積を認めた.腰 椎CT scan

(Fig.3)で は骨破壊 と同時に骨新生を認めた.以

上より,全 眼球炎,化 膿性脊椎炎,敗 血症の診断

で,ア ミカシン,セ フォタキシム,塩 酸セブメノ

キシム,ア ンピシ リン等分離菌に感受性のある抗

生物質,γ-グ ロブリンによる化学療法を施行,入

院12日 目に右眼球内容除去術を施行,以 後 イ ミペ

ネム等の抗生物質の投与を続けた.入 院3週 目の

腰椎X-rayで は,正 面像で第3,4腰 椎間の狭小

化 と側面像で骨破壊像を認めた.そ の後,症 状は

軽快 したが,腰 痛が再燃したため外科的に腰椎の

病巣郭清を行なった.病 巣部の培養では菌は陰性

であつた.術 後の経過は良好で軽快退院 した.

平成2年5月20日

622 原田 大 他

Fig. 1 Clinical course

Fig, 2 Cranial CT scan shows swelling of the right

eye ball and destruction of the right lens.

Fig. 3 Spinal CT scan shows destruction of the

fourth lumbar vertebral body and osteogenesis.

考 案

E.tardaは,自 然 界 に広 く存 在 し て お り,魚

類4)5),ト カゲ6),蛇1)7)8),牛9),豚10),な どよ り分 離

さ れ て い る.人 に お い て は,小 野 川 ら11)が学 童 の

0.1%,成 人 の0.01%の 糞 便 よ りE. tardaを 検 出

して お り,外 国 に お い て は,地 方 に よ つて は1%

の 検 出率 を 示 した 地 方 も あ る8).人 に 対 す る 病 原

性 に 関 して は 胃腸 炎 の症 例 よ り検 出 され た も の が

多 く12)～16)他髄 膜 炎17),肝 膿 瘍16),胆 管 炎17),肺 癌,

胃癌,糖 尿 病,胆 管 炎17),肺 炎13)患者 よ り検 出 さ れ

た報 告 が あ る.血 液 よ りE. tardaが 検 出 され た例

は,我 々 の 調 べ た か ぎ りで は14例13)17)で あ り,こ れ

ら の多 くは,SLE,心 疾 患,白 血 病,ア ル コ ール

性 肝 障 害,糖 尿 病,肝 癌,抗 癌 剤 投 与 な どのcom-

promised hostで あ る.本 症 例 で は悪 性 腫 瘍 等 の

合 併 は な く,免 疫 学 的 検 査 よ り自己 免 疫 疾 患 や 免

疫 不 全 症 の 合 併 も認 め な い が,常 習 飲 酒 者 で あ り,

常 習飲 酒 者 に お い て は 易 感 染 性 を 認 め,網 内 系 機

感染症学雑誌 第64巻 第5号

Edwardsiella tardaに よ る敗血 症 623

能 も低下状態にあることが知られてお り18),また

エタノールは細菌の腸管からの透過性を亢進させ

る19)という報告 もあ り,こ の影響で敗血症を誘発

したものと思われる.な お本症例におい ては,全

眼球炎,化 膿性脊椎炎の起因菌を本菌 と同定す る

ことは出来なかったが,血 行性に腰椎に感染 し化

膿性脊椎炎をひき起 こした可能性 もあ り,今 後の

E.tarda感 染症の症例の検討が望まれ る.以 上,

血液 より稀な人の病原菌であるE. tardaを 分離

した症例を経験 したので報告 した.

文 献

1) 坂崎利一:腸 内細菌の新しい起因群について.日

本細菌学会誌,17:616-617,1962.2) King, B.M. : A previously undescribed group

of Enterobacteriaceae. Am. J. Clin. Pathol., 41: 230-232, 1964.

3) Ewing, W.H. : Edwardsiella, a new genus of Enterobacteriaceae based on a new species, E. tarda. Int. Bull. Bact. Nomen. Taxon, 15: 33,

1965. 4) Aoki, T.: Detection of R plasmids in natu-

rally occuring fish pathogenic bactreia. Edwar-dsiella tarda. Microbiol. Immunol., 21 : 77-83, 1977.

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6) Tan, R.J. : Intestinal bacterial flora of the household lizard, Gecko gecko. Res. Vest. Sci., 250 : 262-263, 1978.

7) Iveson, J.: Strontium chloride Band E.

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8) Kournay, M.: Edwardsiellosis in man and

animals in Panama : Clinical and

epidemiological characteristics. Am . J. Trop.

Med. Hyg., 26: 1183-1190, 1977.

9) Cenci, P.: Microbiological pollution of the

environment due to breeding. I. Enterobacter-

iaceae due to cattle breeding. Booll. Ist . Sier-

oter. Milan., 46: 351-361, 1977.

10) Owens, O.A.: Isolation of Edwardsiella tarda

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11) 小 野 川 尊: 健 康 人 か ら のEdwardsiella tardaお

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10-17, 1976.

12) Makulu, A.: Edwardsiella tarda infections in

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14) Marsh, P.K. : Invasive Enterocolitis caused by Edwardsiella tarda. Gastroenterology, 82: 336-338 , 1982.

15) Nagel, P.: Edwardsiella tarda Gastroenteritis assoceated with a pet turtle. Gastroenterology, 82: 1436-1437, 1982.

16) Jordan, J.W. : Human infection with Edwar-disiella tarda. Ann. Intern. Med., 70 : 283-288,

1969.17) 森 清志: Edwardsiella tardaに よる敗 血 症. 感

染 症誌, 57: 273-278, 1983.

18) 河原 敏 彦: Kupffer細 胞 に 及 ぼ す慢 性 エ タ ノール

投与 の影 響. アル コー ル代 謝 と肝, 5: 262-270,

1986.

19) Bode, J.C. : Jejunal microflora in patients with chronic alcohol abuse. Hepatogastroenterol.,

31: 30-34, 1984.

平成2年5月20日

624 原田 大 他

A Case of Sepsis Caused by Edwardsiella tarda Complicated Panophthalmitis and Pyogenic Spondylitis

Masaru HARADA, Hiroshi YOSHIDA, Kazuhiro 00MAGARI, Teruhumi SAKAI, Hirohiko ABE & Kyuuichi TANIKAWA

The Second Department of Internal Medicine, Kurume University School of Medicine Mamoru ARIYOSHI, Kensei NAGATA & Akio INOUE

Orthopedics, Kurume University

Edwardsiella tarda (E. tarda) is gram negative enterobactereaceae which has been found generally in animal hosts and occasionally in human feces. We have reported a case of sepsis caused by E. tarda, complicated panophthaimitis and pyogenic spondylitis. A-39-year old patient suffered from fever,

polyarthralgia and lumbago. We performed blood culture, from which E. tarda was isolated. Spinal CT scan showed destruction and osteogenesis of the fourth and fifth lumbar vertebral body and cranial CT scan showed destruction of the right lens. So we diagnosed sepsis with pyogenic spondylitis and

panophthalmitis. We suspected that chronic ethanol administration reduced the resistance to infection of E. tarda which caused sepsis.

感染症学雑誌 第64巻 第5号