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経済原論 1イントロダクション

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経済原論

第1回

イントロダクション

今日話すこと

1. 講師の自己紹介

2. 経済学とはどのような学問か?

–経済学はどのようにして生まれたか?

–いろいろな経済学

–経済学の十大原理

3. この授業のルールとすすめ方

1

覚えていってもらいたいこと

• 経済学がどのように誕生したか(アダム・スミス)

• マクロ経済学とミクロ経済学という言葉の意味

• 経済学の考え方(経済学の十大原理)

• この授業のすすめ方・ルール

2

授業のルール

• 映画館のマナー

• 分からないことがあったら

–質問をする

– メモをとる

• 途中で5分間、休憩します

3

2.経済学の誕生

• アダム・スミス

(1723-1790)

– グラスゴー大学 論理学教授、道徳哲学教授

スコットランド関税委員

グラスゴー大学名誉総長

– 『道徳感情論』(1759)

– 『国富論』(1778) • 見えざる手

4

2.経済学はどのようにして生まれたか

5 William Hogarth “Beer Street”

2.経済学はどのようにして生まれたか

6 William Hogarth “Gin Lane”

2.経済学はどのようにして生まれたか

• 人々が幸福になるにはどうすればよいのか?

• 『道徳感情論』

– 「健康で、負債がなく、良心にやましいところのない人に何をつけ加えることができようか」

–最低水準の富が必要。

• それ以上の幸福には2つの道がある

–賢人の歩む徳への道

–弱い人の歩む財産への道

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2.経済学とはどのような学問か?

• 経済学者の研究対象

–人々はどのように物事を決めるか

• どれだけ働き、何を買い、どれだけ貯蓄するか、投資をするか

–人々がどのように影響し合うか

• 多数の売り手と買い手がどのように販売量と価格を決めるか

–経済全体に影響する様々な要因を分析

• 平均所得

• 失業率

• 物価の上昇

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2.経済学とはどのような学問か?

• 経済学者の研究方法

–物理学におけるニュートンの場合

• りんごが木から落ちるのを見る。

• 万有引力の法則の理論をみつける。

• りんごが木から落ちること以外にも、万有引力の法則が当てはまることがわかる。

9

2.経済学とはどのような学問か?

• 経済学者の研究方法

–経済学者の場合も同じ

• ある国において、物価が上昇するのを観察。

• そこから、政府が紙幣を刷りすぎると、インフレーションが起こることを発見する。

• 別の国、別のシチュエーションにおいても、同様の結果になるかを観察する。

–世界の全てを観察することはできない

• 経済のあらゆる事象は、複雑かつ密接に結びついているが、それらを全て一度に観察できないし、1つの理論だけで記述できない。

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2.いろいろな経済学

• だから、こまかい分野がたくさんある

–国際経済学

–公共経済学

–医療経済学

–労働経済学

–産業組織論

–農業経済学

–環境経済学

–地域経済学, etc…

11

–経済学史

–経済史

–数理経済学

–計量経済学

2.いろいろな経済学

• 経済原論(The Principles of Economics)

–経済学

「経済現象を研究する学問」

–原論

「根本になる理論。また、それを論じたもの」

12

2.いろいろな経済学

• ミクロ経済学(Micro Economics)

–分析の対象が個人や家計、企業などがどのように意志決定をするか、それらがどのように関わり合っているのかを研究する学問。

• マクロ経済学(Macro Economics)

– インフレーションや、失業、経済成長など、国や世界・地域の経済全体に関わるものごとを研究する学問。

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2.経済学とはどのような学問か?

• 経済学者の意見は一致しない

– 格差は拡大したか

– 景気回復の処方箋

– 震災の復興資金

• 経済学の十大原理

– グレゴリー・マンキュー

『マンキュー 入門経済学』東洋経済新報社

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2.経済学とはどのような学問か?

• 経済学を学ぶ時の苦労

1. 用語が専門的

• インフレーションとデフレーション、需要と供給、効用、

余剰、弾力性、市場、etc….

2. 数学の知識を必要とする

• 連立方程式、微分….

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

①人々はトレードオフに直面している

* トレードオフ(Trade-off)

– 「一方を追求しようとすれば、もう一方を犠牲にしないといけないという状態や関係」

• たとえば…

–昼ご飯の選択

– 「大砲かバターか」「生活保護」などの政策

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

②あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である

• 大学に入学したことの2つの費用

–学費、教科書代、下宿代、食費、飲み代が費用?

–失われた時間(働いていたら得られた収入や経験)

* 機会費用(Opportunity Cost)

– 「あるものを獲得するために、放棄したもの」 17

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

③合理的な人々は限界的な変化で意志決定をする

* 限界的な変化(Marginal Changes)

– 「既存の計画に対する微調整」

• たとえば…

– ものを食べるか絶食するかではなく、

ポテトチップをもう一つかみ食べるか考える

–徹夜するかしないかではなく、

眠い朝、もう5分だけ寝るかを考える

18

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

• 限界的な便益(喜び)と限界的な費用(悲しみ)

–ポテトチップ

• おいしい(便益)

• 夕飯が食べられなくなる(費用)

– 5分間眠る

• 眠気がとれる、ぬくい(便益)

• 服を選ぶ時間がなくなった。

朝食をとる時間がなくなった。(費用)

• この講義の便益と費用を考えてみよう

19

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

④人々はさまざまなインセンティブに反応する

* インセンティブ(誘因)(Incentive)

– 「合理的な人の行動に変化を与える誘因」

– 「誘因」は「ある事柄を誘い出す原因」

• たとえば…

–歯医者に行ったらアイスクリームを買ってあげる

→ 歯医者に行くインセンティブが高まる

–賃金を上げる

→ 会社にのこるインセンティブが高まる 20

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

①~④は、人々の意志決定について考えた

• 人は、何かを手にするときに、同時に何かを諦める(トレードオフ)

• 手にした何かにかかった費用は、それを手にするときに諦めたものの価値である(機会費用)

• 選択するときは大胆な選択をするのではなく、微調整をして決める(限界的な変化)

• 人は、何かを手にした時に得られる利益が増えれば、それを手にしようとする(インセンティブ)

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑤交易(取引)はすべての人々をより豊かにする

• それぞれが得意な分野で財・サービスの生産を行えば、経済全体の総生産が増加する。

• たとえば

– イチローが野球をして、寿司職人が寿司を握る。

–日本は自動車を輸出して、農作物を輸入する。

*比較優位(Comparative Advantage)

– 「個人や国には相対的に優位な仕事・産業があって、それによって全ての個人や国が利益を得られるという考え方」 22

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑥市場は経済活動を組織する良策である

*市場(Market)

– 「特定の財・サービスを扱う買い手と売り手の集まり」

• 政策決定者が、どれだけ財・サービスを生産するかを決めて、誰がどれだけ財・サービスを消費するかを決めるよりも、市場経済によって決まった、財・サービスの生産量や価格の方が望ましい。

*神のみえざる手(Invisible Hand of God)

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑦政府は市場のもたらす成果を改善できることもある

• 市場の機能を守る政府の役割

–警察・司法

• 市場の失敗に対する政府の役割

* 市場の失敗(Market Failure)

– 「市場が自分の力で資源を効率的に配分するのに失敗した状況」

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

• 市場の失敗の原因

* 外部性(Externality)

– 「ある者の行動が周囲の人間の経済的福祉に与える影響」

–環境汚染

*市場支配力(Market Power)

– 「1人、もしくは数人の小集団が市場価格に対して実質的にもっている影響力」

–電力会社、井戸

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑤~⑦は人々がお互いに影響し合うことを考えた

• 人々は、取引をすることで、より豊かになることができる(比較優位)

• 取引は政策決定者(政府)が決めるのではなく、市場によって行われることが望ましい(神のみえざる手)

• 政府は、市場のもたらす成果を改善することもある(市場の失敗)

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑧一国の生活水準は、財・サービスを生産する労働者の生産性に依存している

*生産性(Productivity)

– 「労働者が1人1時間あたりに生産する財・サービスの量」

• 生産性の高い国では、ほとんどの人々が高い生活水準を享受している。

• 中国の生産性と日本の生産性には差がある。

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

• 日本・アメリカ・中国の名目GDP(単位:ドル)

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資料) IMF “World Economic Outlook Database, 2010, October”

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

• 日本・アメリカ・中国の人口一人辺り名目GDP(単位:ドル)

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アメリカ

日本

中国

資料) IMF “World Economic Outlook Database, 2010, October”

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

• OECD加盟国の人口一人辺り名目GDP(単位:ドル)

30 資料) United Nations “National Accounts Main Aggregates Database”

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

メキシコ

トルコ

ポーランド

ハンガリー

韓国

チェコ

ポルトガル

ニュージーランド

ギリシャ

スペイン

日本

イタリア

イギリス

ドイツ

フランス

カナダ

アメリカ合衆国

ベルギー

オーストラリア

オーストリア

フィンランド

スウェーデン

オランダ

アイルランド

デンマーク

スイス

ノルウェー

ルクセンブルク

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑨政府が紙幣を印刷しすぎると物価が上昇する

• 1920年代のドイツ

31

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

• 1923年、パンのハイパーインフレーション

– 1918年12月 0.5マルク

– 1921年12月 4マルク

– 1922年12月 163マルク

– 1923年 1月 250マルク

– 1923年 5月 482マルク

– 1923年 7月 3,465マルク

– 1923年 9月 1,512,000マルク

– 1923年 11月 201,000,000,000マルク

– 11月15日1兆マルク:1マルクのレンテンマルクの発行

• 1923年11月ナチス党のミュンヘン蜂起 32

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑩ 社会は、インフレ率と失業率のトレードオフに直面している

• インフレ率(インフレーション率)

–物価上昇率

• 失業率

– 15歳以上人口で、主婦や学生やニートを除いた人たちの中で、仕事を探している人の割合。

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2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

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1971

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19981999 20002001 2002

20032004200520062007

2008

2009

y = -8.483ln(x) + 11.394R² = 0.5688

-5

0

5

10

15

20

25

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0

物価上昇率(

%)

失業率(%)

2.いろいろな経済学 – 経済学の十大原理

⑧~⑩は経済全体の機能について考えた

• 国全体の経済が大きさではなく、生産性(ひとりひとりがどれだけの生産をしたか)がその国の生活水準を高める。

• 政府が紙幣を刷りすぎると、インフレーションが起こる

• 物価が上がりすぎることも問題であるが、物価が下落すると、失業率が高くなる。

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2.経済学とはどのような学問か?

• 経済学を学ぶ理由(便益)

–自分が暮らしているこの世界を理解する

–経済の参加者であるための準備

–経済学の可能性と限界を見極める

–経済学者やエコノミストにだまされないように

(トレードオフを忘れずに)

• この授業の目標

–経済学の基礎を学ぶ。

• 再び経済学を学びたいときの基礎になればいい。

–若干の公務員試験対策 36

3.この授業のすすめ方

• 授業のスケジュール(1年間)

–前期:ミクロ経済学

• 価格の決定

• ゲーム理論

• 市場の失敗

• 不確実性と不完全情報

–後期:マクロ経済学

• マクロ経済学の指標

• 貨幣の役割

• 経済政策

• 経済成長 37

3.この授業のすすめ方

• 授業のスケジュール(1回)

–前半

• 図や表、数式を使った概念の理解

–休憩時間

–後半

• 計算問題の練習、前半の応用

• 試験

–前期と後期に1回ずつ

–小テストを不定期に行う

• 連絡先

[email protected] 38