沖大経済論叢 = okidai keizai ronso, 6(1): 1-30 issue...

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Title リーダーシップに対するコミュニケーション・アプロー -その論拠について- Author(s) 狩俣, 正雄 Citation 沖大経済論叢 = OKIDAI KEIZAI RONSO, 6(1): 1-30 Issue Date 1981-12-20 URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/6707 Rights 沖縄大学経済学会

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Title リーダーシップに対するコミュニケーション・アプローチ -その論拠について-

Author(s) 狩俣, 正雄

Citation 沖大経済論叢 = OKIDAI KEIZAI RONSO, 6(1): 1-30

Issue Date 1981-12-20

URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/6707

Rights 沖縄大学経済学会

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リ ー ダ ー シ ッ プ に 対 す る

コミュニケーシ ョン ・アプローチ

ーその論拠につ いて-

狩 俣 正 雄

Ⅰ は じめに

Ⅲ リーダーシップ論の展開

m コミュニケーションとJ)-ダーシップの関連性

Ⅳ 結び

l はじめに

リーダ-シップの研究は、リーダーシップ現象や リーダーシップの有効性

の規定要因、あるいはその条件を解明するために様 々なアプローチが行なわ

れ、それが様 々な理論ない しモデルとして表わされている。

しか し、それらは有効な リ-ダーシップとは何か、あるいは有効な リーダ

ーとはどのような リーダーか、ということに関 しては、まだ充分に解明 して

いないOそれは リーダ-シップの研究方法が多様であり、方法論に問題があ

るからであろう10)しか し、それ以上にこれ らの方法論と関連 して リーダ-シ

ップの問超や、 リーダ-シップにおける対人影響の過程、あるいはそれと相

互作用する組織の諸要因 との影響の過程が充分に解明されていないからであ

ろう.すなわち、それは、それらを解明するために リーダーシップに対する

統一的、総合的アプローチが行なわれていないからであるように思われる。

そこで本稿では、最近の代表的な リーダーシップ ・モデルをコミュニケー

ションの観点から検討 し、さらにコミュニケーションと[)-ダーシップの関

- 1-

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連性を考察することにより、 リーダーシップに対するコミュニケーション・

アプローチの論拠を明らかに し、 リーダーシップに対する統合的アプローチ

を探ることを意図するものである。

n リーダーシップ論の展開

リーダーシップの研究は、その有効性を規定する要因が何であり、あるい

は リーダーシップのどの側面を重視するか、ということによって様 々な確論

ない しモデルとして表わされているOそれらは、一般に特性理論、行動確論、

状況理論 として展開されてきている。

特性理論は、いわゆるリーダーの能力や知性などの個人的特徴が リーダー

シップの有効性を規定するという考え方で、 リーダ←のいかなる特性が リー

ダーシップを有効にするか、あるいは有効な リ--ダーと非 リー-ダーを区別す

る特性 とは何かについて論 じている (R.M.Stop,dill,1948)2三行動理論は、

リーダーの行動パターンとその有効性を関連づけ、どのような行動パターン

が望ましいパ ターンであるかとして論 じられている(R.Whlteiln(llk.LIPPitt,

1960;R.Llkert,1961)5).状況理論は、 リーダーシップの有効化は リーダー

を取 り巻 く環境要因によって規定されるとして、 リーダーと状況費因との関

係を中心に論 じられている(D.McGreglOr,1960,R.Tannenbaum,I.R.Wescher4)

andF.Massarik,1961)0

しか し、本節ではこれらの押論を検討するよりも、これらのPll.論のUl.1視点

を克服するものとして展開されている、巌近の代火的な リーダーシップ ・モ

デルを検討することにしたい。 まず初めに状況作品の鉱脈 として、 リーダ-

シップの有効性を規定する特定の状況や条件を明らかにしようとしているコ

ンテ ィンジェンシー理論から考察する。

1. コンティンジェンシー ・アプローチ

リーダーシップにおけるコンティンジェンシー・アプローチ(contlngenCy

- 2 -

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approaches)とは、 「ある種のリ-ダー行動又は リーダー特性が集団の業績

又は集団成員の満足度に関 して、他のリ-ダー行動又は リ-ダー特性よりも5)

優れている特定の状況又は条件を明らかにする研究方法の総称である」0

以下では、代表的な3つのコンティンジェンシー ・モデルにおいて、 リーダ

ーシップの有効性を規定する特定の状況や条件がどのようなものであるか眺

めることにしたい。

(1) Fiedlerのコンテインジ1ンシー ・モデル

F.E.Fiedlerのコンティンジェンシー ・モデルは、リーダーシップの有る)

効性は状況の有利性に依存 して決まる、というものである。すなわち、集団

業績の有効性は、(a)リーダーの動機づけパターンと(b)状況が リーダーの権限7)

や影響に与える度合いを条件とする。そこでFiedlerは、どのような リーダ

ーシソプ ・スタイルがどのような状況の場合に適合するか、を明らかにして

いる。

Fledlerによると、 リーダー行動の動機づけパターンはLPC(Least

Preferred Coworker)(最も好ましくない協働者 )尺度によって求められる。

LPC得点の低い リーダーは主に課業志向的であり、LPC得点の高い リー

ダーは関係息向的であるO

また、状況要素については次の3つの次元の点から考慮される。(1)リーダ

ーと部 卜の関係、(2)課業構造、(3)リーダーの地位の権限、がそれである.こ

れら3つの次元により、リーダーが課業を遂行するときの有利さの度合いに

従って分類すると、8つの状況が考えられる。それぞれの状況は、 リーダー

と部 Fとの間に良好な関係があり、構造化の度合いも高 く、地位の権限も強

い、というリーダーにとって有利fj:状況から、その逆の不利な状況まである。

F)edlerの実証的研究の結果は、課業志向型 (LPC得点の低い )のリー

ダーは、有利射 犬伽と不利な状況 Fで有効であり、関係志向型 (LPC得点

の高い )の リーダーは、可哨 度の有利倒犬況で有効であった8.)ということで

ある。

Fiedlerは以 Lの結果から、 リ-ダーのパーソナリティは安定的で永続的

であるので、 リーダーシップの有効性を向上させるためには、組織を [)-ダ

ー 3-

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-のパーソナリティに適合するように設計すべきである、と結論づけている。

しかしこのモデルについては多くの間鐘点が指摘されている'O)特にこのモデ

ルでは、 リーダーのどのような行動が部下に影響を与えるのか、逆に部下の

どのような行動が リーダーに影響を与えるのか、すなわちリーダーと部下の

相互作用の過程が明らかにされていないのである。

(2) Vroom-Yettonの意思決定モデル

V.H,Vr。。m とP.W.Yett.la)lま、ある状況で リーダーはいかなる。_ダー

シップ ・スタイルを選択すべきか、という規範的モデルを展開 している。彼

らはそのモデルにおいて、 リーダーの意思決定スタイルと意思決定特性間の

条件適合性を問題としている。

リーダーの意思決定スタイルには、部下を問題解決にどれほど参加させる

かによって、専制的、協議的、集団的スタイルがある。

リーダーはこの意思決定スタイルのいづれを用いるか、を状況の性質 (問

題の性質 )によって決める。その場合、意思決定の有効性に影響を与える3

つの基準がある。(1)意思決定の質、(2)部下による意思決定の受容、(3)意思決

定に必要とされる時間の量、がそれである。これら3つの基準に従って状択

要素が考慮されるのである。

状況の性質は、部下を意思決定に参加させるかどうか、という観点から考

慮される。それは次の7つである。(勾意思決定の質の重要性、(B)リーダ-の

情報の保有度、(C)問題の構造化の度合い、の)意思決定の効果的な遂行にとっ

て意思決定の受容が重要である度合い、駐)専制的意思決定が部下に受零され

る事前確率、軒)部下の組織目標の共有度、G)解決案についての部下間の不一

致の度合い、の7つである。

リーダーは、どの意思決定スタイルを用いるかをこれら7つの状況の性質

によって決定する.すなわち、 リーダーは、状況の性質をAから順番に質問

する形で診断する。そして、 「はい」、「いいえ」という二分法で答えるこ

とによってGまで進み、自己の意思決定スタイルを選択する。意思決定スタ

イルが 2つ以上選択可能の場合に、(3)の基準、つまり時間の量で決めるので

ある。

- 4-

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以上のようにして、Vroomと Yettonの意志決定モデルでは、リーダーの

最適な意思決定スタイルが規範的に尊びかれるのであるC.

しかし、このモデルにおいても意思決定が具休的な状況下でなされていな

いなどの批判がなされているn.)特にこのモデルでもFiedle,と同様 .)-ダー

と部下の相互作用の過程が明らかにされていないのである。

(3) Houseのパス ・ゴール ・-モデル

パス・ゴール (path-goal)理論は、期待理論に根源を有 し、部下は リ

ーダーの行動が期待および影響を与える度合いに応 じて動機づけられる、と

いう考え方を基礎にしている12)R.∫.Houseと T.R.Mitcheu の理論において、 リーダーの行動スタイ

ルは、(I)指揮的、(2)支持的、(3)参加的、(4)達成志向的スタイルの4つである。

これらのスタイルが効果的であるかどうか、の判断は以下の考慮によってな

される15)

まず、この理論は、2つの命題から成っている。第 1の命題は、部下が リ

ーダーの行動を満足の直接の源泉、あるいは将来の満足の手段 とみる範囲内

で、 リーダーの行動は部下に受け容れられ、満足される、という命題である。

第2の命題は、 リーダーの行動は、次の範囲で動機づけの要因となる、とい

・う論題である。すなわち、(1)リーダーの行動が効果的な業績を条件として部

下の要求を満足させる、(2)リーダーの行動が、効果的な業績に必要なコーチ、

ガイダンス、支持、報酬を与えることによって、部下の環境を補完する、そ

の2つの範囲内で、 リーダーの行動は部下の努力を高める、というものであ

る。

ところで、.この理論においては、2つのコンティンジェンシー変数が取扱

われている。つまり、(1)部下の個人的特徴、(2)環境の圧力と要求、がそれで

ある。

ここで部下の個人的特徴は、第 1の命題と結びついている.すなわち,部

下の個人的特徴は、第 1の論題を知覚する上において、それを知覚するかど

うかを部分的に決定する、と仮定 しているのである。

部下の環境は、(1)部下の課業、(2)組織の公式権限システム、(3)第 1次作業

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集団である. これ らの環境を評価することによって、明確な リーダーの行動

が部下の動機づけに及ぼす影響 とその量を予測することが可能 となる0

パス ・ゴール ・モデルは、以上の論点から、 リーダーの行動とそれが適合

する条件を明らかにしているのである。

`しか し、その理論にも、 リーダー行動、部 Fの受容、満足と業績との関係

が静能的条件を扱っており、 リーダーの行動が状況モデ レーターにどのよう

に影響を与えるのか、そのモデレーターは特定の リ-ダー行動をどのように

刺激するのか、などの問題点が指摘されているのである14)

(4) 総合的コメント

以上、代表的なコンティンジェンシー ・モデルを 3つ眺めてきたが、それ

らのモデルは、それぞれどのような条件の場合 どのような リーダーシップ ・

スタイルが有効であるか、ということを示している。すなわち、これらのモ

デルは、 リーダーシップの有効性の規定要因とその条件とを明らかに したも

のである。特に、パス ・ゴール ・モデルでは、 「=--所与の状況下において,

どのスタイルが最 も有効であるか、を示すだけではなく、なぜそれが最 も有

効であるか、ということを説明 しようと試みている」105)このように コンティ

ンジlンシー ・モデルは、全体的状況の中で リーダーシップの有効性の条件

を明らかにしたものである。 この意味で、コンテ ィンジェンシー ・アプロー

チは、マクロ・レベルの分析を行なった ものであるといえる。16)

しか し、第 1表でみられるように、それぞれのモデルにおいて、 リーダー

の行動、状況要因、有効性の基準がそれぞれ異なっている。こういう相違点

は、明 らかに個々の研究者の リーダーシップに対する観点の相違に起因 して

いる。彼 らは、 リーダーシップを全体状況の中 で捉えるという共通認識はあ

っても、 リーダーシップの何を説明するのか、何が重要な要因であるのか、

とい う点で異なっている。特に、それらのモデルに共通 して言えることは、

リーダーと部下が相互作用 しあうとき、彼らはどのように行動するか、とい

うことについてほ とんど明らかに していないことである。すなわち、コミュ

ニケーションの観点からリ-ダーと部下との相互作用の関係が明 らかにされ

ていないのである。

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第 1表 3つのコンティンジェンシー ・モデルの要素の比較

モ デル リーダー行動 コンティンジェンシー要因 結果基準

FiedlerのLPC

Vroom-Ye一l(1nの意思決定

Houseのパス ・

コ一・ノレ

課業志向 (低い

LPC)関係志向 (高い

L㍗C)

専制的スタイル

協議的スタイル

集団的 スタイル

指揮的スタイル

支持的スタイル

達成志向的スタ

イル

参加的スタイル

リーダー ・メンバーの関

課業構造

リーダーの地位の権限

意思決定の質の重要性

リーダーの情報の保有度

問題の構造化の度合い

意思決定の受容の重要性

受容の事前確率

部下の組織目標の共有度

解決案についての部下間

の不一致の度合い

部下の特徴 と個人的知覚

環境要因 :課業

権限システム 第 1次

作業集団

リーダーの

有効性

意思決定の

部下による

意思決定の

受容

意思決定に

到達するの

に必要な時

部下の満足

リーダーの

受容

報酬を得る

ための努力

しか し、 リーダーシップが 2人以 Lの人々の関係で起 こるものであり, コ

ミュニケーションを通 じて行なわれる限り、コミュニケーションの視点を欠

いた リーダーシップの研究では不充分であるように思われる。 コミュニケー

ションのプ良木は、コミュニケーションを行なう人が交互的であり、相互作用

することであるこ7)リーダーシップにおいて、 リ-ダーが部下に影響を与える

といっても、一方的影響 として捉えることは、コミュニケーションの一方的

流れという観点から捉えたものである。前述 したコンティンジェンシー・モ

デルはそれぞれ リーダーの観点からのみ捉え、部下が リーダーのコミュニケ

ーションの結果としてどのように反応 (行動 )するか、 という点がほとんど

考慮 されていないのである。部下の反応 (行動 )が有効であるかどうかを、

- 7-

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リーダーの.コミュニケーション行動 とほとんど関連 させず、その他の組織変

敬 (状況 )と関連させ、 リーダーシップの有効性の条件を解明しようとして

いるのであるOしか し、 リーダーシップの基本は、コミュニケーションを第

1に捉えることであるように思われる。すなわち、 リーダ-シップの研究で

は、まず第 1に リーダーと部下の関係での対人影響の過程が明らかにされる

必要があると思われるのである。それが解明されたとき、その関係は状況が

異なったときどのようになるのか、あるいはどのような環境条件が、 リーダ

ーと部下の関係を促進 したり、あるいは制約するか、といったことが解明さ

れると思われるのである。

コンティンジェンシー理論で有効な業績に結びつく特定の状況や条件を解

明 したとしても、もしもリーダーの職能が、R.N.Osborn らの主張するよ

ぅに1.8)現在の業績と望ましい業績との間のギャップ、あるいは部下の欲求と

現在の満足水準との間のギャップを埋めることであるとすれば、それらの条

件下において も、 リーダーシップの有効性の解明のためには、それらのギャ

ップをどのように埋めるのかを解明することが必要であると思われるのであ

る。そのためには、 リーダーと部下 との間の対人影響の過程が明らかにされ

る必要があるのである。

さらに、これ らのモデルでは、有効性の基準を一時点で捉えた静能的分析

で行なわれている。すなわち、 リーダーシップの有効性を目的結果変数とし

てのみ考慮し、 リーダーが部下の反応 (行動 )に応じてどのように対応する

のか、.ということはあまり考慮されていないのである. しかし、現実の組織

で リーダーと部下が相互作用の関係にあり、相互依存的な影響にあり、また、

リーダーの行動 と部下の行動に リー ド・ラグの関係があるとすれば、リーダ

ーシップの研究は、 リ-ダーと部下との相互作用を考慮に入れ、諸条件の変

化も考えた動態的分析で行なわれる必要があるのである.以下では、これら

の点を考慮 した リーダーシップのオペラント・アプローチについて考察する。

2.オペラン ト・アプローチ

オペラント(Operant)理論は、B.F.Skinnerの提唱によるものと言わ

- 8-

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れ、それは人間の行動を解釈するにあたって、有機体の内部の出来事に言及

することなしに充分に説明できる、とするものである。すなわち、それらは

強化のコンティンジェンシー(ReinforcementContingencies)(諸条件 )杏

独立変数 とし、反応を従属変数 とする関数関係を分析 し、記述するものであ

る0本節ではリーダーシップにおけるオペラント・アプローチについて、H.

P.SimS,Jr.のそれについて考察する。

まず強化のコンティンジェンシーについて概略的に示せば次の通りである。

先述 したよ うにオペラン ト理論は、人間の行動を説明するにあたって、有

機体内部の心理的過程な しに観察可能な刺激変数と反応変数との関数関係に

よって行動を説明しようとする立場である。そのために生 じている行動を観

察 し、分析 し、説明を加えようとする。そこで観察対象となる行動が坐体の

自発するオペラン ト(Operant)行動である。ここでオペラント行動とは、

生体が意図的、随意的に行なう行動のことである。

では、どのようにしてある特定の行動が選びとられ、その出現頼度に変化

が生 じるようになるか、と問えば、それは、このオペラン ト行動にともなっ

て生 じる環境の側の変化によってであるOこの特定の行動の出現額度なり、

確率が変化していく過程がオペラン ト条件づけであるo

ところで、オペラン ト行動においては、強化 (reinforcement)の操作が

重要であるが、この強化は自発的行動にともなう環境の変化である。その基

本的な働きは、自発行動を促進する(出現頻度、確率を増大させる)か、抑

制する働きをする。このとき、環境に変化を与える機会 となるものや手がか

り、あるいは信号が弁別刺激 (discriminativestimul▲)(SD'S)と呼ば

れる。この弁別刺激は、食物が腹をすかした動物の唾液を引き出すように、

オペラントを引き出すものではない。それは単にオペラントの誘因 (ocasion)

を設定 し、オペラントが起 こる確率を高めるものであるにすぎないのである。

以上のことから、人間の行動は、従属変数として 「反応率」を用いること

によって、その行動と環境 との相互作用を公式化できるのである。これらは

次の3つの相互作用によってなされる。(1)反応が起こる契機、(2)反応自体、

(3)強化をもたらす反応結果、の3つである…0)

- 9-

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この 3つ.の相互作用が強化のコンティンジェンシーであるが、これを リー

●ダーシップに適用すれば、(1)リーダー行動の誘凶を設定する弁別刺激(SD'S)、

(2)1)-ダーのオペラン ト行動、(3)それ らのオペラン トを強化する結RL,の3つ

が分析されるのである三1)

SlmSは、 リー-ダーシップを考慮する際に、上と同様なオペラン ト(ある

いは強化 )観に基づいている.22)

Simsは リーダーシップを考えるにあたって、 リ-ダ-の行動は部下の行

動 (業績 )に応 じて (条件として )行動するもの、と考える。すなわち、 リ

ーダーは、部下の行動に影響を与える強化コンテ ィンジェンシーの管用者 と

みなす ことができるのである025)

この強化 コンティンジェンシーは、一般に、3つの構成要素から成ってい

るO(1)刺激ない し環境、(2)反応ないし業績、(3)結果ないし強化、がそれであ

るo前述 したように、刺激は反応が起こる誘因を設LjfL、強化 (その蜘 L-hを

条件 として与えられる )は結果である。第 1凶は、正の強化 (positive

reinforcement)を表わしている204)すなわち、止の射 ヒは.その加 古を条件

とするスケジュール (schedule) に従って与えられるのである。

Simsは、以上のようなオペラン ト(強化 )観に基づいて リーダーシップ・

モデルを構築する。

第 1図 強化コンティンジェンシー(正の強化)

SD-⇒R-ナR+ここで

SD-弁別刺激

R-反応

R+-正の結果 である

その際、第 1の仮説は、部下の作業行動は組織環境の強化 コンティンジェン

シーによって主に決定されるということである.組織の強化 コンティンジェ

-10-

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ンシーは、理論的に、報酬支給の源泉に従って区分されるが、それらは次の

ように分類される㌔5)

(1)組織が与える強化 (例えば、給与、付加給付、物理的作業条件 )

(2)同僚が与える強化 (例えば、親交、社会的相互作用 )

(3)仕入先や顧客が与える一強化

(4)課業が与える強化 (いわゆる職務の 「内的」側面)

(5)監督者が与える強化 (例えば、賛辞、承認、職務の割当て)

組織の強化コンテ ィンジ1ンシーは以上のようないろいろな源泉がある.

しかし、リーダーシップの観点からすれば、(5)の監督者が与える強化が重要

である.すなわち、オペラント観に従えば、 リーダーシップは作業環境にお

ける強化 コンティンジェンシーについて監督者が構造化する過程とみなされ

るのである。

リーダー以外によって与えられる強化 コンティンジェンシーも重要である

がミム)しか し、多くの粗鰍 こおいては、監督者は樹 ヒコンティンジェンシーの

細目を示す点において重要な役割を演 じている。

それでは、監督者はこれをどのようにして行なうであろうか。 Simsによ

れば、それは、(1)リーダーの組織づ くり、(2)リーダ-の目標明細化、(3)部下

の行動 (業績 )を条件として リーダーが報酬を与える行動,によってである.

(1)は、いつ、どこで、どのようにして行動が行なわれるべきかを明らかにす

る。また、(2)は、他の人が何を行な うべきかを示すので、目標を明細にする

行動は、反応に対する誘因を設定 し、弁別刺激と解釈 されるのである。(3)は、

強化 コンティンジェンシーを明確にするのに必要であり、強化 コンティンジ

ェンシーの結果と関係 しているリーダーシップの次元と解釈される.

simsは以上のようなオペラント観に基づいたリーダーシップ ・モデルを

構築 しているが、それを図示すると第 2図のようになる207)このモデルにおい

て、 リーダーの組織づくりは、その行動が部下の反応の誘因を確立するので

重要である。目標を明細に示すことも弁別刺激を確立するように作用する。

他方、コンティンジェントな リ-ダーの報酬行動は、強化- 部下の反応の

結架- として作用するのである。

-ll-

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第 2図 リーダーが与える強化のコンティンジェンシ-

,オ\ 十 人′ \ l

ヽ l II)-ダーの r)-ダーの 部下の リーダーの

組織づ くり 目捺明細化 反応 正の強化

以上がSimsのオペラン ト観に基づ くリーダーシップ・モデルである。こ

のモデルは異なった リーダー行動 と強化コンティンジェンシーの別 の々部分

を関連づけるのに有用である。また、そのモデルは、業績を静態的な目的緯

果変数 としてみなすよりも、部下の業鎖に応じて反応するリ-ダーの行動を

考慮 しているので、動態的モデルと思われる。

このように、これまでの リーダーシップ ・アプローチが部下への リーダー

行動の影響を中心的に考えていたのに対して、オペラント・アプローチは、

リーダーシップの関係を上司と部下との互恵的な影響の関係として捉え、 リ

ーダーは部下の行動を条件 として行動するという考え方に基づいている。こ

のようなことから、このモデルは、コミュニケーションの基本関係を考慮 し

ているように思われる。というのは、 リーダーが部下の行動を条件 として行

動するということは、コミュニケーションの送り手 (リ-ダー )が、受け手

(部下 )のフィー ドバック(反応 )を利用することであり、送り手 (リーダ

ー )の一方的コミュニケーションではなく、二方向的コミュニケーション杏

示 しているからである.反応がフィー ドバ ックとして送 り手に利用され、送

り手の反応に影響する、として捉えることは、送り手 (リーダー)と受け手

(部下 )を相互作用の関係として捉えることであり、コミュニケーションの

関係 として捉えているのである。このようにオペラント・アプローチはリー

ダーシップに対する有用なアプローチであるように思われる。

しか しながら、このモデルについてはSims自身、上司と部下の2者関係

というクローズ ド・システムでの問題と、いろいろな強化 コンテインジェン

-12-

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シーも考慮 したオープン・システムでの間複を指摘 している.28)

確かに、このモデルは リーダーシップを ミクロ・レベルで分析 し、 I)-ダ

ーと部下の相互作用を明らかにしようとしているが、 I)-ダーと部下の基本

関係やその相互作用の過程が充分に明らかにされず、知覚の問題をどのよう

に扱 うのか、また、リーダーの行動の結果として、部下の行動-(業績 )の変

化にリー ド・ラグが生じるときの問題、さらには、 リーダーの強化行動にお

ける強化の中身とそれが連続的に行使 される場合のそれの相乗効果(ないしは

相殺効果 )がどのようになるのか、などの問題点が明らかにされていないの

である.29)以上、最近の代表的な ()-ダーシップ ・モデルとその問題点を考察 してき

たが、それらの問題を解明するためには、基本的には、.リーダーシップをコ

ミュニケーションの観点から捉えることが必要であるように思われる。以下

では、 リーダーシップがコミュニケーションの観点から捉えられる論拠を明

らかにすることにしたい。 しか し、その前に l)-ダーシップの有効性を決定

する影響の源泉について考察する。

Ⅲ コミュニケーションとリーダーシップの関連性

1. 影響の源泉

コミュニケーションであれ、 リーダーシップであれ、組織における対人的

な行動は、それに関連する人々が知識、態度、行動に影響を及ぼすことと関

係 している。コミュニケーションが送り手 と受け手の間に情報、考え方、意

図を共有化することであるとすれば、送り手のコミュニケーションの結果、

受け手に、知識の変化、態度の変化、行動の変化などが起こることが予想さ

れる。このような変化が起こるときに、一般には、影響があると言われるの

であるOこの影緋について、D.CartwrlghtとA.Zatlderは、 「もしも0(影響

を及ぼす人 )がP(影響を受ける人 )の特定の状態の変化を起こすような行

為を行なうならば、0はその状態に関 してPに影響を及ぼしたという

-13-

jo)iL,

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ている。さらに、彼らは、この影響の潜在的なものを勢力 (power)である

として、次のように説明 している。 「もしも0がある状態に関してPに影響

を与えることができるならば、0はその状態に関 してPについて勢力を持っ

という三'らこの影響 と勢力の関係については、J.R.P.French,Jr.とB.Raven

は、勢力を影響の点から定義 し、影響を心理的な変化から定義 して、次のよ

うに述べているQ 「影響とは運動状態にある勢力 (Kineticpower)であり、

勢力とは潜在的状態にある影響 (potentialpower)であるO」52)

それでは、人々は何故に自己の価値、態度、行動などを変えるのであろう

か。他の人の知識、態度、行動の変化に作用するような勢力の基礎は何であ

ろうか。FrenchとRavenは、勢力の基礎をその勢力の源泉となっている0

とPとの関係と定義 して、それが次の五つの源泉から生 じるとしている.55)(1)報酬勢力 (rewardpower)、(2)強制勢力 (coercivepower)、(3)正当

勢力 (legitimatepower)、(4)準拠勢力 (referentpower)、(5将 門勢

刀 (expert power)がそれである。それ らは次のように説明されている054)(1)報酬勢力。これは、Pに対 して報酬をもたらす能力を0がもっていると

いうPの認知に基づいている。0のPに対する勢力の強さは、0がPに対 し

て仲介 しうるとPが認知する報酬の大きさとともに増大する。また、報酬勢

力の範囲は、Pの同調に対 して0が報酬を与える領域に限られる。

(2)強制勢力。 これは、Pに対 して罰を加える能力を0がもっているという

Pの認知に基づくものである。0のPに対する強制勢力は、0の影響の試み

に対 して,もしPが同調 しなければ、0から罰を受けるであろうというPの

側の期待から生ずる。強制勢力の強さは、脅威と感 じる罰のもつ負の誘意性

の量 と、同調によって罰をさけうるとPが認知する確率の積である。

(3)正当勢力。これは、Pの行動を規制する正当な権利を0がもっていると

いうPの認知に基づいている。0はPに影響を与える正当なる権利をもち、

かつPはその影響を受け入れる義務があることを指示するようなPに内在化

した価値から生ずる勢力である。この正当勢力の基礎になるものは、文価的

価値、社会的構造、正当性があると認められた行為休による指定などである。

(4)準拠勢力。 0のPに対する準拠勢力は、0に対するPの同一視にその基

-14-

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礎をおいている。ここでいう同一視とは、Pが0に対 して抱 く一休惑わ:いし

同一化への要求である。個人Pが他の人0に非常に魅力を感 じている場合、

Pが0との間にすでに緊密なる結びつきをもっている場合、0に対する同一

視は大きくなる。従って、0に対するPの同一視が強 くなるほど、それだけ

0のPに対する準拠勢力は大きくなる。

(5博 門勢力。これは、0がある特殊な知識を持っているとか、あるいは0

は専門家であるというPの認知に基づいている。0のPに対する専門勢力の

強さは、特定の領域内で0のもっている知識や知覚がどの程度のものである

とPが考えているかによって決まってくる。

以上がFrenchとRavenによる勢力の源泉の分頬であるが、この分華削ま、

主に、Pの認知を中心にした分類である。 しかし、Cartwrlghtと Zander

は、勢力の分析は0の観点とPの観点から分析される必要があることを指摘

している。そして、それを(a)0の特質 (勢力の源泉 )と(b)Pの要求ないし価

悼 (Pの動機的基礎 )とに分けて分析 しているのである505)

CartwrighとZanderによると、Pの欲求に基づいた勢力の基盤は次の通

りである.56)

(l)報酬を受け、罰を避ける欲求 (desireto recelVereward orayoid

punishment)。これは、Pが欲 しているものを得るために、0の影響の試

みを受け零れる影響である。

(2)敬服者のようになりたいという欲求 (desire tobelikean admired

person)。これは、0がPに魅力ある人であったり、Pが望む人であると

きに起 こる影響である。0と密接な一体的な関係を持ちたいというPの欲求

は、0の持っ信念、価値、行動をモデルとするのである。

(3)人の価Lltiに従いたいという欲求 (desire toabidebyone's values)o

Oが持っている公平、合坤件、寛大、正直、勇敢などのよう価値をPが適当

なものとして受け容れるとき、0の働きかけは大きくなる。それは、Pもそ

のようになりたいと願 うからである。

(4)正 しくありたいという欲求 (deSlretObecorrect)。 これは、Pが

現実について正しい見解を持ちたいという願望である。もしもPが0を専門

-1 5 -

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的な知識を持っていると見るならば、PはLOの影響を受容する。

(5)集団志向的欲求 (group-orienteddesires)0 Pが集団のある績栗に

コミットしていて、0による影響の試みがこの結果の達成の手段とみなされ

るとき、pは0の影響を受け容れる。

(6)本来的充足 (intrinsicgratification)00 の働きかけをPが本来的な

報酬とみるとき、Pはそれを受容する。

以上がPの欲求に基づく分類であるが、これは、FrenchとRavenの分頬

とほとんど同様である。

一万、0の側からの影響を与えるかどうかの決定は、次によって行なわれる

のであるご7)

(1)影響を与える行為を遂行する際の、その個人にとっての純の利益。

(2)集団にとってのその行為の結果。

(3)その行為が成功するだろうという主観的確率。

(4)役割期待を遂行する際の報酬予想。

0はたとえなんらかの勢力の基盤を持っているといっても、以上のような

動機がなければ、勢力を行使 しないのである。

以上、勢力の基礎について、Pの側 と0の側から考察 してきた。前者につ

いてはPの欲求と認知、後者については0の持つ勢力の資源となるのである。

しか し、0の持つ資源は、客観的資源 というよりも、Pが0は資源を持って

いると認知するかどうかにかかっているのである。従って、本節では、0の

資源それ自体は取 り上げず、その勢力行使の動機を述べたのである。影響の

流れは、0がPに影響を与えようとする動機がなければ、その勢力の資源を

持っていて も起らないのである。そして、実際の影響の流れはそのこと杏P

が知覚するかどうかにかかっているのである。

それでは、このように勢力を持っている人は、他人に対してどのように影

響を与えるのであろうか。

F.E.KastとJ.E.Rosenzweigは行動に影響を与える方法の範関について第

2表のように示していi.8)そして、彼 らは、それを次のように説明 している5.9)

(1)模倣 (emulation)、これは個々人の間に直接の接触はないが、 しかし、

- 1 6 -

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第 2表 行動に影響を与える手段の範Bil(Spectrum )

影響 の範囲

模 倣 示 唆 説 得 強 制

同等ないし卓越す ある人が考慮や あるものを行な 強制的な圧迫、

る努力をすることo 行為を心にいだ わせるために助 無理 じい、物理

同等ないし卓越す く前に (ある考 言、せきたて、 的な圧力、圧縮o

る努力を模倣する え、提案、計画 説 き伏せ、勧誘

ことo同等性に近 等 )を提出した によって人を説

づき、あるいはそ り、もたらすこ き伏せることo

有名人が彼らの行動を模倣されるように、人 は々、しばしば、ある行動パターン

を取り出し、彼 らと同等であること、あるいは彼 らより卓越 しようと努力する。

これらの行動パターンがモデル (model)となり、それらの行動パターンは、

そうなりたいと思っている人によって取られるのである。

(2)示唆(suggestion)、これは個々人、あるいは個人 と集団との間の直接

の意識的な相互作用であるが、ある考えを示 したり、あるいは特定の行為の

指針を提唱することによって、行動に影響を与えようとする明白な試みであ

る。

(3)説得 (persuasion)、これは、望ましい反応を引き出すために、ある誘

因を用いたり、せきたてたりすることである。

(4)強制 (coercion)、これは物理的な圧力を含む強制的な圧迫である。

以上が影響の範囲であるが、 しか し、これは影響を与える方法というより

も、その範囲について述べているのにすぎないのである。

cartwrightとZanderは、影響の方法について、次の五つを示 している4.0)

(1)・Pに対する利益や費用を統制する、(2)説得、(3)0によって影響 される方向

にPの態度を使用する、(4)Pの環境について統制する、(5)資源を再配分する、

の五つである。このような方法を用いて他人に影響を与えるとしているので

ある。

また、Woffordらは、他人に影響を与える方法として、 (1)シェー ビング

ー 17-

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(shaping)、 (2)モデル化、(3)カウンセl)ングとコーチング、(4)個人的影響、

(5)参加、(6)環境の変化を挙げている。4')

以上のように他人に影響を与える方法は様々であるが、この方法が行動と

なって現われてくるのである。それが対人関係において様々な行動形態とし

て現われ、コミュニケーションの観点からすればコミュニケーション行動と

して現われてくるのである.これはまた リーダ-シップの観点からみれば、

リーダーの行動として表わされる。このようなことから、この影響行使の方

法は、 リーダーシップ研究やコミュニケーション研究にとっては重要である

と思われる。というのは、その影響行使の方法は、行動となって現われるた

めに、その行動に接する人は、その行動について、自己の知覚や動機によっ

て判断したり、評価 し、そのことが様 々な感情を生み出すからである。その

ことが、たとえ自己にとってなんらかの正当なる勢力を持っている人である

と知覚 しても、あるいは、その行動が単なる情報伝達の一形態であると知覚

しても、その影響行使の方法 (行動 )によっては、そのまま受け容れられず、

様 々な反作用を引き起こすことになるのである。このようなことから、コミ

ュニケーションの研究は、その効果性を考慮に入れるときは、情報の廃れ、

感情の流れ、影響の流れの3つの側面から行なわれる必要があると思われる

のである。以下では、この点を考慮に入れて、コミュニケーシヲンとリーダ

ーシップの関連性について考察する。

2.コ ミュニケーションとリーダーシップの的連性

以上、影響の流れを何 らかの意図を持った(影響を及ぼす )人とそれを受

ける人との関係で明らかにしてきた。しかし、その影響の流れは、先に述べ

た勢力関係の基礎からして、0の動機と0が勢力を持っているというPの知

覚によって決定されるのである。ここに、コミュニケーションの効果の問題

(リーダーと部下の関係で言えば、 リーダーシップの有効性のrLi)超 )が/Eじ

て くる。すなわち、0が自己は勢力の資源を持っており、そのことによりP

に影響を及ぼそうと意図しても、Pがそれを知覚 しなかったり、あるいはそ

の勢力を受け容れようとする欲求がなければ、Pの側の状態の変化は起こら

-18-

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ず、実際には、影響は起こらないのである。

このことから、コミュニケーションの効果は、送り手 (影響を与える人 )の

意図だけではなく,それを受ける受け手 (影響を受ける人 )の反応で考慮さ

れなければならないのである。このことは、 リーダーシップの有効性にも同

じことである。 リーダ-シップの有効性は、 リーダーの働きかけだけではな

く(リーダーの単独の行為)、部下の反応との関係で捉えられなければなら

ず、 リーダーの意図 した行動とそれに対する部下の反応 との関係で捉え、 l)

-ダーと部下との闇の相互作用の結果として捉えなければならないのである。

しかしながら、コミュニケーションの効果 (リーダーシップの有効性 )を

捉える場合、送り手 (リーダー )の影響を与えようとする意図とそれに対す

る受け手 (部下 )の反応を区別する必要が生 じてくる。このことは、部下の

反応は リーダーの意図 した行動になるとは限らず、部下の知覚能力、あるい

は部下を取り巻 く状況 (例えば、集団規範、役割、風土など)によっても影

響を及ぼされるからである。このことから部下の反応は リーダーの意図 した

行動とその他の要田によって影響を受けた行動とを区別することが必要にな

ってくるのである. コミュニケーション効果 (リーダーシップの有効性 )杏

考慮する場合、この点が区別されなければならないと思われるのである。

B.M.Bassは、リーダーシップについて試みの リーダーシップ、成功的 リ

ーダーシップ、効果的 1)-ダーシップを区別している。Bass はリーダーシ

ップについて次のように考える4.2)ぁる人 (A)の目標が他の人 (B)を変え

ることであるとき、あるいはBの行動の変化がAに報酬をもたらし、あるい

はAの行動を強化するとき、目標を達成 しようとするAの努力は r)-ダーシ

ップであるOそ して、 リーダーシノブは、単に、Aの行為というよりもAと

Bとの間の相互作用である、としているのである。Aが自分の目標を達成す

るかどうかは、Bによる活動ないしは不活動を意味し、Bの活動はAの行動

を強化 し、Aのその後の行動を修正するからである。Bassは リーダーシッ

プについてこのように捉え、試みの リーダーシップ、成功的 リーダーシップ

効果的 リーダーシップを次のように説明している三5)もしもAの目標がBを変

えることであるならば、AはBを変える試みが観察される。これが試みられ

-19-

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た リーダーシップ (attemptedleadership) である. もしもBがAの努力

の結果 として彼 の行動を実際に変えるな らば、これは成功的 リーダーシップ

(succesfulleadership)と言われ る。もしもBの変化が Bの満足、報酬な

い し目標達成につながれば、これは効果的 リーダーシップ (effective

leadership) と言われるのである。

これ らは、明らかに リ-ダーの意図 した行動、それに対する部下の反応、

その反応が組織目標などの組織の有効性 に結びつ くかどうか、とい う3つの

側面を区別 して、 リーダーシップを捉えているのである。

それでは、 リーダーシップとコミュニケーションはどのように関連するの

であろうか。 リーダーシップは コミュニケーションの観点からどのように捉

えられるのであろうか。

Woffordらは、コミュニケーションと関連するリーダーシップ ・モデルを

第 3図のように示 している4.4)このモデルでは、 リーダーのコミュニケーショ

第 3図 リ-ダーシップの過程

リーダーの特徴 媒介状況変数 部 下の特徴 目 標 達 成

(内的影響) (外的影響 ) (内的影響) (列的一円的)

ー20-

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ンー 影響行動は、状況によって波過され、それから部下に続き、目標達成の有

効性に作用することが示されている。 しか し、このモデルでは、部下からの

フィー ドバックが示 されているものの、 リーダーから部下へ一方的に働きか

ける関係であり、 リーダーと部下のコミュニケーションの関係は充分に明ら

かにされず、また、コミュニケーションが リーダーシップの全体状況で関連

していることを示しているだけであり、どれがコミュニケーションの側面で、

どれが リーダーシップの側面か、明確にされていないのである.以下これら

の点を考慮して リーダーシップとコミュニケーションの関連性について考察

する。

リーダーシップとコミュニケーションの関連性を考察するとき、まず第 1

に着目しなければならない点は、 リーダーシップが 2人以上の人 々の関係で

ぁるならば4.5)それはコミュニケーションを必要とし、コミュニケ-シ;ンに

よって行なわれる、ということである。 リーダーシップはコミュニケーショ

ンなしには成立 しえないのである。このことから、 リーダーシップの研究も

コミュニケーションの観点から捉えられるのである。 しかし、コミュニケー

ションは、それが機械システムでの通信伝達でない限り、人々の間のコミュ

ニケーションであるならば、情報の流れ、感情の流れ、影響の流れ、の3つ

の側面から捉えられなければならないのである。

第2は、もしリーダーシップが リーダーの共通目標を達成するための部下

への働きかけであるとすれば4,6)リーダーは共通目榛を達成することに関する

様 々な情報を伝達することが必要になる。 ところが、 リーダーシップの様々

な問題はこの点にあるのである.もしリーダーシップを、対面状況下におけ

る部 Fの行動に影響を与えようとする意図的なリーダーの行動に限定 して捉

えるならば、 リーダーシップは次の3つの側面に限定されるo(1)は、組織目

標を明確に示す。(2)は、部下がその目標を積極的に達成するように動機づけ

ること。(3)は、その目標を容易に達成できるように部下の熟練度を高めるよ

ぅにすること。以上の3つである4.7)(1)は、 リーダ-は課業目標を明確にし、

それを設定する際に部下を助けることができる。(2)は、課業に作用する部下

の意思決定、部 Fの努力の水準、部下の課業に執着する度合いで、 リーダー

- 211

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が動機づけることができる要因である。(3)は、個人の熟練水準で、これはリ

ーダーがよい教師のようにすぐれた指導者であれば、高められる要因である。

これらの点からリーダーシップを捉えると、第 1に、 リーダーは部下に目

標に関する情報を提供しなければならないことになる。ところがリーダーが

この目標に関する情報を伝達する場合、その情報伝達の方法が本節で述べた

ように様 々であり、そして、この伝達の方法は感情を含んでおり、しかも、

それはリーダーの行動となって現われるのである。これをコミュニケーショ

ンから捉えると、目標の明確化や目標設定は情報の伝達という情報の流れで

ある。 しか し、これは行動 となって現われるので リーダーの行動となる。こ

の点からコミュニケーション行動とリーダー行動は共通なものとして捉えら

れるのである。

ところが、これらの行動に対 して、部下は先に述べたように、自己の知覚

や動機に基づいて反応 (行動 )することになる. しかも、この虎応 (行動 )

は, リーダーの送る情報的側面というよりも、 リーダーの送る感情的側面に

よって反応 (行動 )する傾向が強いのである。そして、この部 Fの反応 (行

動 )が組織目標の達成度合い (組織の有効性 )を決定するのである。

このことから、 リーダーは第 2に、組織の有効性を高めるために、部下が

組織目標を積極的に達成するように動機づけることが必要である。ところが、

この動機づけもコミュニケーションを通 じてしか行なえないのである。この

動機づけのためのコミュニケーションではその方法が問題となると思われる。

すなわち、コミュニケーションの感情の流れが重要 となるのである。という

のは、それが動機づけのための r)-ダーの行動となって現われ、それを部Tは

自己の知覚や認知能力によって知覚 し、積極的に目標を達成するかどうか決

定すると思われるからである。

一般に、これまでのリーダーシップ研究で、従業中心的、民主的、参加的、

あるいは配慮といわれているものは、コミュニケーションにおける感情の流

れに着目したものであると思われる。 リーダーシップにおけるこれらの要因

が、一般に部下を動機づけるのに役立つと言われるのは、まさに部 Fに対す

るリーダー行動で、これらの要因が感情の流れとして現われ、それが部下の

- 2 2-

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好反応を引き起こすと思われるからである。

また、課業志向や組織づ くりといわれるものは、情報の流れに強調点を置

いたものであると思われる。

これらのことから、 リーダーが部下を動機づける場合、コミュニケーショ

ンの方法が大切となってくるのである。

以上の目標に関する情報の提示、動機づけのほかに、さらに、 リーダーの

第3の役割は部下が目標を容易に達成できるように部下の熟練度を高めるこ

とである。目標達成に関する部下の熟練度は、明らかに組織 目標の達成度合

い (組織の有効性 )に大きく結びついてくるo従って、 リーダーは部下が目

標を容易に達成できるように、教育 したり、訓練する必要があるのである。

しかもまた、これもコミュニケーションによって行なわれ、目操を達成する

技術に関する適切な情報が必要であるが、その伝達の方法も、部下の知覚能

力によっては問題となるのである。

以上、 リーダーシップの重要な次元をコミュニケーションの観点から取り

あげてきたが、これまでのリーダーシノブ研究では、これらの次元が区別さ

れず、一緒に論 じられているために、 リーダーシップにおける問在が混乱 し

て論 じられる結果となっているのである。 しかし、これらは リーダーシップ

においても別々の次元であり、コミュニケーションの観点からは明確に区別

されるのである。

コミュニケーションとリ-ダーシップの関連性についての第 3点は、組織

(集団 )規範や風土などのような組織変数に関連している.上で述べた情報

の伝達、動機づけなどの方法も、規範や風土などによって促進されたり、制

約されたりする。すなわち、対人関係や対人コミュニケーションは、集EZl規

範、役割、地位、風土などによって促進されたり、制約されたりするのであ

る。例えば、対人関係に信頼があり、集団風土が良好であれば、そこでは、

コミュニケーションの方法はそれほど問題 とな らないであろう。従って、

コミュニケーション行動、あるいは リーダー行動は、集団の規範や風土、あ

るいは組織 (集団 )での役割、地位によって促進されたり、制約されたりす

るのである。

-23-

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ところが.,これらの規範や風土は、組織成員、なかんず くリーダ-のコミ

ュニーションによって大きく影響されるのである.48)

従って、これ らもコミュニケーションの観点か ら捉えられるのである。こ

のことにより、 リーダーシップの状況変数 として捉 えられているこれらの要

素が コミュニケーションという同一次元で論 じられ、これらの要素が リーダ

ーと部下との関係に及ぼす影響が明 らかにされるのである.

リーダーシップ とコミュニケーションの第 4の関連性は、コミュニケーシ

ョン効果と、 リーダーシップ有効性であるo送 り手と受け手との間のコミュ

ニケーションの効果は、 リーダーと部下 との間の リーダーシップの有効性と

して捉えることができる。ところが リーダ-シップ研究におけるリーダーシ

ップの有効性は、それをどのように捉えるかということによってその規定要

因 も異なるので.49)リーダーシップ研究方法上の大きな問超である。本節で論

じたように、試みの リーダーシップか、成功的 リーダーシップか、効果的 リ

ーダーシップか、ということはリーダーシップ研究にとって重要なのである。

しか し、コミュニケーションの問題 としてこれ らを考慮すれば、これらの間

嶺は取 り除くことができると思われるのである。

最後に、 リーダーシップ研究における静態性と動態性の問題 も、現実の組

織において、 リーダーと部下が相互に作用 しあ う関係にあり、相互依存的影

響にあるとすれば、すなわちコミュニケーションを通 じた関係であれば、 リ

-ダーシップの研究は、 リーダーと部下の相互作用を考慮に入れ、諸条件の

変化 も.考えた動態的分析で行なわれる必要があるのである。

以上、示 してきたように リーダーシップは、それが2人以上の人々の関係

であれば、コミュニケーションの観点から捉えられる。そして、これまで示

してきたようにリ-ダーシップにおける様 々な問題 もコミュニケーションの

側面か ら捉えることによって統一的に捉えられ、明確にされるのである。従

って、今後は リーダーシップをコミュニケーションの観点か ら捉えた研究が

必要であるように思われるのである。

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Ⅳ 結 び

以上において、最近の代表的な リーダーシップ ・モデルをコミュニケーシ

ョンの観点から検討 し、 リーダーシップがコミュニケーションの観点から捉

えられる論拠について示 してきた。

最近のほとんどの リーダーシップ研究は、 リーダーシップを組織全休 との

関係で捉え、組織変数のようなマクロ変数を考慮に入れて、 リーダーシップ

の有効性の成立する状況や条件などの解明を中心に展開されている。 このこ

とは リーダーシップが組織の中で発揮 される以上当然のことであり、 リーダ

ーシップをマクロ的に分析す ることは望ましいことであるo しか し、これら

の方法では、状況やコンティンジェンシー要因を強調す るあまり、 リーダー

シップ研究にとって基本的な リーダーと部下 との関係、すなわち、 リーダー

と部下との闇にどのような相互作用があり、 I)-ダーのどのような行動が部

下に影響を及ぼ し、部Tはどのように反応するか、ということは充分に明ら

かにされていないのである。

そのために、 リーダーシップの研究を対面状況下での リ-ダーと部下 との

2者関係に制限すべきである、というミクロ的分析さえ主張されるのである。

しか し、以上の問題もリーダ-シップを コミュニケーションの観点か ら捉

えることで、対立するアプローチというよりも統合的に捉えることができる

ように魁 われ るO すなわち、 リーダーシップが 2人以上の人 々の関係であ

り、それがコミュニケーションを通 じて行なわれるならば、それはコミュニ

ケーションの観点から捉えられ、そのことにより2者関係や対人影響の過程

から全体組織の影響の過程までも明らかにされると思われるからである。な

ぜなら、組織が 2人以上の人々の協働 システムであるならば、対人関係はコ

ミ▲ユニケ-ションを通 じた相互作用の過程であり、対人ゴミュニケーション

は対人関係の基本であるため、対人影響の過程はコミュニケーションの観点

から明らかにされるからである。また、 コミュニケーションは組織活動の中

心であり、それはコミュニケーション行動とし捉えられるために㌣)全体組織

とリーダーと部下の影響の過程 もコミュニケーションに よって明らかにされ

-25-

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るからである。

さらに、前節で述べたように、 l)-ダーシップの次元における諸間複もコ

ミュニケーションの側面か ら捉えることにより、それらがコミュニケーシ-A

ンの次元によって統一的に捉えられ、明らかにされるのである。従 って、今

後は リーダーシップをコミュニケーシ⇒ンの観点か ら捉えた研究が必要であ

るように思われる。このことにより、 リーダーシップの有効性を規定する要

因やその条件が解明されると思われるのである。

1)A.J.Melcher,lLeader血ipModelsandReSearCh Approaches/ inJ.G.

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23)Iaid., P.137.

24)Ibid., p.128.

25)Iaid., p.134.

26)例 えば、課業が明確に与 られておれば、それだけ組織づ くりは少なくなる.

27)Ibid" P.136.

28)Ibfd., pp.135-137.

29)オペラント・7プp-チの聞蔑点については、拙稿 「T)-ダーシ ソプのオペラ

・/ト・7ブローチについて」琉球大学現代管理科学研究会編 r現代管押科学セ

ミナーj第 1巻 く1979年 )を参照された し0

30)D.CartwrightandA.Zander,oil.cit・,P.216・

31)Iaid.,P.216.

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32)∫.R.P French,Jr.,andB.RavenlTheBasesOfSocialPower"inD.CaTト

wrlt!htandALZander,of,.cit,, P。216, 同訳書 ,P.730。

33)Ibid.,PP262-263,同訳書 ,P。734,

34) Ibid.,PP262-268,同訳書 ,PP.734-745.

35)D.Cartwright andA。Zander.op.cit・, P 217

36)Ibid.,PP 225-227.

37)Ibid.,PP.218-219.

38)FEIKastand J・EIRosenzweig・OrganiR:ationandManagement:

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39)Ibidリ PP.3111313.

40)D.CartwrightandA Zander,01,.cit・,PP.2191224U

41)J.C.WoffordlE A Gerloffand,R C.Cumm.ns, Organizational

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43)Ibid" P.90_

44)J,CWofford,E.A.GerloffandR.C.Commins,oi).cit.,p321_

45)D G Bowersand S.E Seashore,'predlCtlngOrganlヱationalEffective-

nesswithaFour-FactorTheoryofLeadership,nAdministrative

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46)Ibid.,P,239D

47)JPCampbell,RTheCuttingEdgeofLeadership:AnOvervew," in

J.G HuntandL.L.Larson(eds.),oi).cit.,PP.223-225.

例えば、Campbellは部下の業績行動を次の式で表わ している.

業績 能力 熟練 達成目標 課業に作用す どの程度の努力 を行

行動 =水準 ×水準 ×の理解度 ×る意駄決定 ×なうべきかの選択

仕事 に対す 個々の .)-ダーに影響され

×る執着心 ×ない促進条件 と阻害条件

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この式から、 リーダーが部下に及ぼす影響は、目標の促進者、動横づけ先行要

因の統制者、熟練度 を高める教師、 とい う3つの形態で現われるとしている。

48)G.H.LitwinandR.A.Stringer,Jr・.MotivationandOrgant'2:attAo-

nalClimate,(presidentandFellows ofHarv8rdCollege,1968),

(占部都美監訳 『経営風土』白桃書房 ,昭和49年 ),P.186.

49)拙稿 「.)-ダーシップ 1 .)-ダーシップの研究方法について-」r星陵台論叢』

第 12巻 ,2号 (昭和 54年 ),PP.2-4.

50)拙稿 「細絵におけるコミュニケ-ショソ ー 対人 コミュニケーショ-/を中心にし

て-」FI沖大経済論叢』第 5巻 ,第 l号 (昭和156年 ).「粗稔 とコミュニケー

シ ヨソの関連性について」 Fてネジメソト・リヴュー ー 理論 と実践 - ■第

1巻 (1981年 )を参照 されたし。

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