加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析 › sebm › ronso › no7_3...

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加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析 ――エリア・マーケティングの展開に向けて―― ⽬次 はじめに 1.分析課題と分析フレーム 1-1 分析課題 1-2 分析フレーム 2.2002 年の3都市⼩売業の現状分析 2-1 ⼩売環境指標 2-2 ⼩売構造指標 2-3 ⼩売成果指標 2-4 分析のまとめ 3.3都市⼩売業の時系列⽐較分析 3-1 ⼩売環境指標の推移 3-2 ⼩売構造指標の推移 3-3 ⼩売成果指標の推移 3-4 分析のまとめ 4.2002 年の3都市飲⾷料品⼩売業の現状分析 4-1 ⼩売環境指標 4-2 ⼩売構造指標 4-3 ⼩売成果指標 4-4 分析のまとめ 5.3都市飲⾷料品⼩売業の時系列⽐較分析 5-1 ⼩売環境指標の推移 5-2 ⼩売構造指標の推移 5-3 ⼩売成果指標の推移 5-4 分析のまとめ 6.3都市⼩売業の集中度と販売額変動要因 6-1 店舗集中度と販売集中度 6-2 販売額変動要因の分析 7.3都市飲⾷料品⼩売業の集中度と販売額変動要因 7-1 店舗集中度と販売集中度 7-2 販売額変動要因の分析 8.基礎的環境要因の分析 8-1 3都市の⼈⼝構造分析 8-2 3都市の所得分析 9.エリア・マーケティングの展開に向けて ――加古川市飲⾷料品⼩売業の販売戦略―― 129 名城論叢 2006 年 11 ⽉

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加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析――エリア・マーケティングの展開に向けて――

仲 川 直 毅

⽬次

はじめに

1.分析課題と分析フレーム

1-1 分析課題

1-2 分析フレーム

2.2002 年の3都市⼩売業の現状分析

2-1 ⼩売環境指標

2-2 ⼩売構造指標

2-3 ⼩売成果指標

2-4 分析のまとめ

3.3都市⼩売業の時系列⽐較分析

3-1 ⼩売環境指標の推移

3-2 ⼩売構造指標の推移

3-3 ⼩売成果指標の推移

3-4 分析のまとめ

4.2002 年の3都市飲⾷料品⼩売業の現状分析

4-1 ⼩売環境指標

4-2 ⼩売構造指標

4-3 ⼩売成果指標

4-4 分析のまとめ

5.3都市飲⾷料品⼩売業の時系列⽐較分析

5-1 ⼩売環境指標の推移

5-2 ⼩売構造指標の推移

5-3 ⼩売成果指標の推移

5-4 分析のまとめ

6.3都市⼩売業の集中度と販売額変動要因

6-1 店舗集中度と販売集中度

6-2 販売額変動要因の分析

7.3都市飲⾷料品⼩売業の集中度と販売額変動要因

7-1 店舗集中度と販売集中度

7-2 販売額変動要因の分析

8.基礎的環境要因の分析

8-1 3都市の⼈⼝構造分析

8-2 3都市の所得分析

9.エリア・マーケティングの展開に向けて

――加古川市飲⾷料品⼩売業の販売戦略――

129名城論叢 2006 年 11 ⽉

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9-1 加古川市飲⾷料品⼩売業の特徴

9-2 加古川市飲⾷料品⼩売業の販売戦略の展開

9-3 SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)の構築

はじめに

地域⼩売業は,今や⼤きな転換期を迎えている。その要因として消費者の⽣活構造の変化や,情

報化の進展などがあり,さらに,消費者ニーズの変化も加速を続けている。そうした変化に⼩売業

は業態の変化などを⾏い,消費者ニーズに的確な対応をすることが求められている。なぜならば,

すべての⼩売商は消費者の欲求を充⾜することを基本的機能とする企業でなければならないからで

ある。さらに,市場のパイそれ⾃⾝が過去のように⼤きく伸びることが期待しにくい成熟市場にお

いて新規市場の開発はそれ相応に必要であるが,マーケットシェアを拡⼤し,それを具体的にとら

えうる市場の単位を考慮しなければならない。そのため,⼩売業(とくに流⾏性が低く,購買に際

して個⼈の嗜好や好みがあまり反映されない飲⾷料品⼩売業など)は,流通⽣産性の向上を⾏うと

ともに,地域特性を熟知したマーケティング活動,すなわち,エリア・マーケティングの概念を積

極的に競争のなかに取り⼊れる必要がある。

また,⼩売店の⽴地はいつの時代どこの国をとっても集積する傾向がある。当然,⼩規模店が単

独で存在したり,⼤型店が郊外のロードサイドなどに単独で出店することもあるが,全体的にまた

⻑期的にみると⼩売業には集積する傾向がみられる。⾔い換えれば,多様な業種,業態の店舗が集

積すれば売場⾯積の合計は拡⼤し,消費者にとってワンストップ・ショッピング性が増加し,商業

施設および,商業地域としての魅⼒度が⾼まるからである。⼩売業において集積する傾向が強いと

いうことはまた,⼩売業における競争を都市間,集積間,個店間というように多段階でとらえる必

要があるといえる。

そこで,今回,⼩売業における競争を都市間でとらえ,⼩規模都市である加古川市および⼤都市

の神⼾市,中都市の姫路市と隣接しながらも都市的特徴の異なる3都市をとりあげ⽐較することに

より,3都市⼩売業および飲⾷料品⼩売業の都市間競争の現状を把握し,商圏規模の⼤きい都市へ

の顧客流出が⾏われやすい⼩規模都市である加古川市の飲⾷料品⼩売業がどのような販売戦略を⾏

うべきかを考察していく。また,多数ある⼩売業のなかから飲⾷料品⼩売業の販売戦略について考

察していく理由としては飲⾷料品においては最寄性が⾼く,さらに,地域による特性も⼤きく,商

圏規模も⼩さいことから,エリア・マーケティングへの取り組みが⼩売業における重要な指標の1

つである販売額に⼤きく寄与すると考えられるからである。

分析⽅法として,はじめに兵庫県の加古川市,姫路市,神⼾市の3都市間における⼩売業全体の

競争の状況および現状をみていき,その後に3都市の飲⾷料品⼩売業の構造と動態を明かにし,今

後,加古川市の飲⾷料品⼩売業が,加古川市⺠だけでなく,他都市からより多くの顧客の流⼊をみ

ることのできる販売戦略をどのように展開していくべきかを姫路市,神⼾市との都市間での⽐較お

よび,時系列での⽐較などを⾏いながら検討していく。

なお,今回の分析⽅法は,1982 年に公刊された第1回九州流通⽩書(『都市⼩売業の環境・構造・

活動成果』九州流通政策研究会,1982 年)で提⺬された産業組織論的分析⽅法に主として依拠して

第7巻 第3号130

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いる。

1.分析課題と分析フレーム

1-1 分析課題

兵庫県の加古川市,姫路市,神⼾市を対象として,産業組織論的アプローチを⽤いて,各都市⼩

売業の環境・構造・成果の相互関連の様態を明らかにすることによって地域⼩売市場の特性を解明

し,エリア・マーケティングの基礎的資料を整理することを⽬的としている。また,分析対象時点

は,2002 年と 1985 年(対⽐年次)である。なお,分析対象時点をこの時点としたのは,この期間中

にバブル経済とその崩壊というかなり特殊な時期が含まれるので,その異常値を避ける必要がある

からである。また,1980 年代は⽇本経済が⾼度成⻑から安定成⻑の経済へと移⾏した時期でもあ

り,成熟化した社会における多様性など⼩売業を巡る環境に⼤きな変化が現れ始めた時期である。

さらに,1985 年は商業統計において中⼩⼩売業を中⼼とした商店数の激減がみられ(82 年の 172万

店が 85 年には 163万店に減少),これ以降,商店数の減少傾向はとどまることなく現在も続いてお

り,1985 年を⼩売業の環境が⼤きく変化した時点と考えることができるからである。

産業組織論は,産業経済学の⼀分野であり,特定の産業を構成する諸企業がそれを取り巻く環境

条件のなかでどのように⾏動し,それがどのような社会的成果をもたらすかを解明する理論的枠組

みを提供している。しかし,特定の『産業を個別に取り上げるといっても,理論的枠組みもなしに,

ただ産業界の⼀般動向や企業経営を叙述するという産業事情論とは異なり,あくまで価格理論の分

析枠組みに沿って効率性の観点から産業のパフォーマンスを検討し評価するところに産業組織論の

特⾊がある。この効率性の観点というのは,⾔い換えれば,消費者の欲する財やサービスが技術的

条件の許す最低の価格⽔準で供給されているかどうかを判断基準とすることであり,消費者の⽴場

を重視するという今⽇の時代的要請とも合致するものといえる1)。』しかしながら,『流通産業とりわ

け⼩売業は,直接消費者を対象とする⽴地産業としての特徴を有するため,鉄鋼業・⾃動⾞産業の

ような全国的市場を対象とするものとは違ってきわめて限定された地域的市場を対象とするもので

あり,実証分析の際の利⽤可能なデータの制約という⾯で,当該都市⼩売業の⾏動パターンを指⺬

する指標,たとえば,⼩売価格の決定⽅法や広告⽀出額などを統計的に⼊⼿することは不可能に近

く,市場構造や市場⾏動および市場成果の把握に際して特別の配慮が必要とされる。そこで,ここ

での分析枠組みとしては,構造(S)→⾏動(C)→成果(P)という通常の産業組織論の分析枠組み

に修正を加え,⼩売業環境→⼩売業構造→⼩売活動成果という因果序列による分析を⾏う2)。』

1-2 分析フレーム3)

⒜ ⼩売環境指標

①⾏政⼈⼝の現在値とその変動値

現在値は 2002 年,変動値は 1985 年と 2002 年の対⽐(数値は倍率)。以下同じ。

⾏政⼈⼝は都市⼩売業にとって最も基本的な環境要因である。

②商店数の現在値とその変動値

商店数は,⾏政⼈⼝とともに,都市⼩売業にとって商業活動を⾏ううえでの最も基本的な環境要

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 131

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因である。

⒝ ⼩売構造指標

①⼩売店舗密度の現在値とその変動値

店舗密度=店舗数 /⾏政⼈⼝

この指標は,⼩売業集積の程度を端的に⺬す指標である。この店舗密度は当該都市における⾏政

⼈⼝あたりの集積(店舗集積)を表すとともに,当該都市への⼩売業の進出・出店の可能性,困

難性あるいは中⼩⼩売店の事業機会の程度などを表す指標である。

②平均店舗規模の現在値とその変動値

平均店舗規模=売場⾯積 /店舗数

この指標は,都市⼩売業の集積・競争構造を,売場⾯積の視点からとらえた物的な規模構造を⺬

す指標であり,店舗密度と同様,新規参⼊や増床の可能性,中⼩⼩売店の事業機会の程度などの

⼩売業相互間の競合の程度を⺬す指標でもある。その他,代替的な指標として店舗数あたりの従

業者からみた平均店舗規模,店舗数あたりの販売額からみた平均店舗規模がある。

⒞ ⼩売成果指標

� 販売活動効率指標

①売場効率の現在値とその変動値

売場効率=⼩売販売額 /売場⾯積

この指標は,物的効率とも呼ばれ,⼩売業集積の物的施設の効率性を⺬す指標である。

②⼈的効率の現在値とその変動値

⼈的効率=⼩売販売額 / 従業者数

この指標は,⼩売業の労働⽣産性を⺬す指標であり,物的効率である売場効率とともに販売効率

を表す。

� 顧客吸引⼒指標

①商業⼈⼝の現在値とその変動値

商業⼈⼝=都市⼩売販売額 / 県⼈⼝1⼈当たり⼩売販売額

商業⼈⼝は都市⼩売業の⼩売商圏の規模を端的に⺬す指標である。商業⼈⼝の増加は,当該都市

の⼩売商圏規模が拡⼤したということである。また,商業⼈⼝は,顧客吸引度指数を算出する基

礎資料としても⽤いられる。

②吸引度指数の現在値とその変動値

吸引度指数=商業⼈⼝ /⾏政⼈⼝

また,吸引度指数=都市⼈⼝1⼈当たり⼩売販売額 / 県⼈⼝1⼈当たり⼩売販売額

この指標は,便宜性指標,⼩売中⼼性指標あるいは顧客流出⼊⽐率と同じものである。この数値

が1を上回っている場合,当該都市は他の諸都市から顧客を吸引しているか,ないしは少なくと

も,他都市への流出を上回る当該都市への流⼊を⾒ていることになり,1を下回っている場合は

この反対のことが当てはまる。また,この指標が1以上ということは,その都市⼩売業は当該都

市の住⺠に便宜と満⾜を与えていることを間接的に表⺬している。

第7巻 第3号132

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2.2002 年の3都市⼩売業の現状分析

2-1 ⼩売環境指標

⑴ ⾏政⼈⼝

⾏政⼈⼝の集積は,都市⼩売業にとって最も基本的な環境要因である。なぜならば,⼩売業が消

費者(顧客)の需要に直接的に対応する商業の形態であるかぎり,都市の定住⼈⼝の規模は,都市

⼩売業の存⽴や動向,その可能性(潜在⼒)を左右する基礎的条件となるからである。つまり,⼩

売業は都市における⼈⼝集積に基づいた⽣活産業であり,⽴地産業であるということである。

2002 年の兵庫県の⾏政⼈⼝は,5,580,858 ⼈であり,神⼾市が 1,510,468 ⼈,姫路市が 480,187

⼈,加古川市が 266,558 ⼈となっている。3都市⼈⼝の県全体に占めるシェアをみてみると,神⼾

市が 27.1%と最も多く,神⼾市の⼈⼝集中度はかなり⼤きいといえる。

⑵ 商店数

商店数もまた都市⼩売業にとって基本的な環境要因である。なぜならば,店舗密度や店舗規模な

どの⼩売構造指標に直接的に影響し,さらに,商店数の増減により⼩売販売額も左右すると考えら

れるからである。

2002 年の兵庫県の商店数は,55,505 店であり,神⼾市が 15,552 店,姫路市が 5,558 店,加古川

市が 2,146 店となっている。3都市商店数の県全体に占めるシェアをみてみると,神⼾市が

28.0%,姫路市が 10.0%,加古川市が 3.9%となっている。2002 年の3都市間の⼩売環境指標を⽐

較すると,神⼾市,姫路市,加古川市の順となっていることがわかる。とくに,⾏政⼈⼝,商店数

ともに県全体に占めるシェアが 25%以上の⽔準を⺬していることから神⼾市に⼩売業が集中して

いるということがわかる。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 133

表2-1 3都市⼩売業の⼩売環境

⼩売環境指標(2002年) 兵庫県 加古川市 姫路市 神⼾市

⾏政⼈⼝(⼈) 5,580,858 266,558 480,187 1,510,468

対県シェア(%) 100.0% 4.8% 8.6% 27.1%

商店数(店) 55,505 2,146 5,558 15,552

対県シェア(%) 100.0% 3.9% 10.0% 28.0%

売場⾯積(m2) 5,636,026 291,698 628,473 1,529,372

対県シェア(%) 100.0% 5.2% 11.2% 27.1%

従業者数(⼈) 339,177 16,344 34,163 99,716

対県シェア(%) 100.0% 4.8% 10.1% 29.4%

販売額(万円) 550,628,428 25,074,437 58,074,543 177,567,188

対県シェア(%) 100.0% 4.6% 10.5% 32.22%

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版,

『商業統計表』各年版より作成。

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2-2 ⼩売構造指標

⑴ 店舗密度

2002 年の⾏政⼈⼝ 1,000 ⼈当たりの店舗数をみると,兵庫県全体では 9.95 店である。3都市間

では,姫路市が 11.57 店と最も⾼い⽔準を⺬しており,ついで神⼾市,加古川市と続いている。都

市⼩売業の競争構造を捉えるに際し,平均店舗規模の指標を看過することはできないが,店舗密度

のみで考えると,3都市間では,加古川市が⼩売業の事業機会が多く,新規参⼊が容易であり,姫

路市⼩売業の競合関係が厳しいものであると考えることができる。しかし,消費者(顧客)に対す

る利便性という⾯からみれば,店舗密度が3都市の中で最も⾼い姫路市は,消費者(顧客)に⾼い

満⾜を提供しているともいえる。

⑵ 平均店舗規模

平均店舗規模の代替的な指標としては,1店当たり従業者数,1店当たり売場⾯積,1店当たり

販売額が考えられるが,ここでは1店当たり売場⾯積で⺬される平均店舗規模から考察を加えるこ

とにする(以下,平均店舗規模といった場合,この1店当たり売場⾯積を指す)。

2002 年の兵庫県全体の平均店舗規模は 101.54m2である。3都市間では加古川市の平均店舗規模

(135.93m2)が最も⾼い⽔準であり,姫路市,神⼾市が続いている。この指標から,加古川市では

相対的に売場⾯積の⼩さい商店数が少なく,相対的に⼤きな店舗が多いということである。このこ

とから,店舗密度でみる加古川市は3都市間では新規参⼊の可能性が最も⾼いと考えられたが,こ

の平均店舗規模でとらえると,加古川市のそれは他都市に⽐べ著しく⾼く,3都市間で中⼩⼩売業

の⼤型店との競争状況が最も厳しいものであるといえる。

⑶ 施設密度

施設密度は,売場⾯積密度ともよばれるものであり,⾏政⼈⼝あたりの売場⾯積で⺬される指標

である。つまり,施設密度は当該都市における⾏政⼈⼝あたりの売場⾯積の集積の程度を表す指標

である。また,この施設密度は前述の店舗密度と平均店舗規模の合成変数でもある。

すでに⺬したように,店舗密度では姫路市が,平均店舗規模では加古川市の競争状況が最も厳し

いということである。これを2つの指標の合成変数である施設密度からみると,兵庫県全体では⾏

政⼈⼝ 100 ⼈当たり 101m2である。3都市間では姫路市の施設密度(131m

2)が最も⾼い⽔準であ

り,次いで加古川市(109m2),神⼾市(101m

2)となっている。このことから,3都市間の競争状況

第7巻 第3号134

表2-2 3都市⼩売業の⼩売構造

⼩売構造指標(2002年) 兵庫県 加古川市 姫路市 神⼾市

店舗密度(店) 9.95 8.05 11.57 10.30

平均店舗規模(m2) 101.54 135.93 113.08 98.34

施設密度(m2) 101 109 131 101

⼈的サービス率(⼈) 6.02 5.60 5.44 6.52

表2-1を元に作成

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は姫路市が最も厳しく,神⼾市が新規参⼊や事業機会の可能性が⽐較的⾼いものであるといえる。

⑷ ⼈的サービス率

売場⾯積(ここでは 100m2)当たり従業者数で⺬される⼈的サービス率もまた,都市⼩売業の競

争構造を把握する指標の1つである。

2002 年の兵庫県全体の⼈的サービス率は,6.02 ⼈であり,3都市間では神⼾市が 6.52 ⼈と最も

⾼く,加古川市,姫路市と続いている。したがって,3都市の中では神⼾市が最も⼈的サービス率

が⾼く,逆に姫路市が最もセルフサービス化が進展しているということを指摘することができる。

2-3 ⼩売成果指標

� 販売効率

⑴ ⼈的効率

従業者1⼈当たりの販売額を⺬す⼈的効率は,⼩売業の労働⽣産性を表す指標である。2002 年の

兵庫県全体での⼈的効率は,1,623万円である。3都市間では,神⼾市が 1,781万円と最も⾼く,姫

路市,加古川市が続いている。さらに,神⼾市と姫路市においては,兵庫県の⽔準よりも⾼く,神

⼾市,姫路市の労働⽣産性は兵庫県内でも⾼い⽔準にあるということがわかる。

また,加古川市の⼈的効率は,3都市間で最も低い 1,534万円であり,兵庫県全体の⽔準よりも

⼤幅に下回っており,兵庫県内における加古川市の労働⽣産性は低い⽔準のものであるということ

がわかる。

⑵ 売場効率

売場効率は,物的施設などの経営効率⾯から販売効率をとらえたものである。2002 年の兵庫県全

体の売場効率は,売場⾯積 1m2当たり 97.70万円である。3都市間では,神⼾市が 116.10万円と

兵庫県の⽔準よりも⾼く,神⼾市では物的効率性の⾼い⼩売業が相対的に多いことがわかる。

姫路市,加古川市は,兵庫県全体の売場効率よりも低く,姫路市,加古川市は兵庫県内では経営

効率が悪い都市であるということが指摘できる。とくに加古川市においては,⼈的効率,売場効率

ともに3都市間で最も低く,兵庫県全体の⽔準よりも下回っており,兵庫県内でも販売効率の悪い

都市であるということがわかる。これは,⼩売構造指標の平均店舗規模の⼤きさと,⼈的サービス

率と密接な関係があると考えることができる。つまり,加古川市では平均店舗規模は⼤きいが,そ

れに⽐較して⼈的サービス率は低い⽔準となっている。したがって,販売品⽬が⾷料品など単価の

安いものが多いと考えられるからである。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 135

表2-3-1 3都市⼩売業の販売効率

販売効率指標(2002年) 兵庫県 加古川市 姫路市 神⼾市

⼈的効率(万円) 1,623 1,534 1,700 1,781

売場効率(万円) 97.70 85.96 92.41 116.10

表2-1を元に作成

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� 顧客吸引⼒指標

⑴ 商業⼈⼝

当該都市の⼩売商圏における消費⼈⼝の集積⽔準を代替的に⺬す商業⼈⼝をみてみると,2002 年

の商業⼈⼝は,神⼾市,姫路市ともに⾏政⼈⼝よりも多く良好な商業活動成果に結びついていると

考えられるのに対し,加古川市においては商業⼈⼝が⾏政⼈⼝よりも少なく,加古川市⼩売業の競

争状況は厳しいものであるということがわかる。

⑵ 顧客吸引⼒

2002 年の3都市の吸引度指数の状況を⾒ると吸引度指数の状況をみると,神⼾市が 1.191,姫路

市が 1.163 であり,神⼾市,姫路市が周辺地域から顧客を吸引している流⼊都市であることがわか

る。また,加古川市は 0.953 となっており,顧客流出都市であることから良好な活動成果が得られ

ていないことがわかる。

2-4 分析のまとめ

2002 年の3都市⼩売業の現状分析を兵庫県全体との⽐較を通して試みてきた。競争(基礎的)環

境の要因である⾏政⼈⼝,商店数については3都市間では神⼾市,姫路市,加古川市の順になって

いる。⼩売構造指標でみると,平均店舗規模では,加古川市,姫路市,神⼾市となっている。販売

効率については⼈的効率,売場効率ともに神⼾市が3都市の中で最も⾼い⽔準であり,次いで姫路

市,加古川市となっている。神⼾市は豊富な⾏政⼈⼝をベースとして⾼い⼈的・物的効率を維持す

ることにより⾼い活動成果をあげている。⼩売活動成果である吸引度指数についても神⼾市が最も

⾼く姫路市,加古川市となっており,競争環境,販売効率と同様の結果となっている。

3都市間では神⼾市が最も良好な⼩売活動成果を出しており,次いで姫路市,加古川市となって

いる。逆に,加古川市では,平均店舗規模は⼤きく,さらに店舗密度も低く構造指標においては3

都市間では⾼い⽔準にあるが,その店舗規模の⼤きさが⼈的効率や売場効率の上昇に結びついてお

らず販売額が低く,販売効率が低いために良好な活動成果が得られていないと考えられる。

第7巻 第3号136

表2-3-2 3都市⼩売業の商業⼈⼝,吸引度指数

顧客吸引⼒指標(2002年) 加古川市 姫路市 神⼾市

商業⼈⼝(⼈) 254,139 558,609 1,799,716

吸引度指数 0.953 1.163 1.191

表2-1を元に作成

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3.3都市⼩売業の時系列⽐較分析

3-1 ⼩売環境指標の推移

ここで競争環境である⾏政⼈⼝と商店数の推移をみていくと,⾏政⼈⼝は,3都市とも兵庫県全

体の増加率よりも⾼い。とくに加古川市においては 227,311 ⼈から 266,558 ⼈へと 17.3%と3都

市のなかで最も⾼い増加率となっている。次に商店数についてみてみると,3都市すべてに減少が

みられるが,県全体の減少率 22.5%よりも若⼲低い数値となっている。

また,加古川市は,商店数の減少率は 14.2%と3都市の中では最も低い⽔準となっているが,基

礎的環境である従業者数,売場⾯積ともに3都市のなかで最も⾼い増加率となっており,商店数は

減少したにもかかわらず,従業者数,売場⾯積ともに⼤幅に増加したことから,この期間,加古川

市では⼩売店舗規模の⼤規模化が進展したといえる。この⼩売店舗規模の⼤規模化の傾向は神⼾

市,姫路市を含めた3都市⼩売業にみることができるが,基礎的環境,競争環境をみるかぎりでは,

⼩売店舗の⼤規模化は3都市⼩売業の中で加古川市において最も進展したと考えられる。

なお,商店数の増減と関連して,従業者数,売場⾯積および年間販売額の変化を⺬しておくと次

のようになる。

基礎的環境要因を各都市別に⽐較を⾏いながらみていくと,従業者数は兵庫県全体で 271,285 ⼈

から 339,177 ⼈へと 25.0%の増加がみられる。各都市別では,加古川市が 10,564 ⼈から 16,344 ⼈

へと 54.7%県全体の⽔準よりも⼤幅に増加している。神⼾市,姫路市とも従業者数に増加はみられ

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 137

表3-1-1 3都市⼩売業の⼩売環境の推移

⾏政⼈⼝(⼈,倍) 商店数(店,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 227,311 266,558 1.173 2,501 2,146 0.858

姫路市 452,917 480,187 1.060 7,064 5,558 0.787

神⼾市 1,410,834 1,510,468 1.071 19,821 15,552 0.785

兵庫県 5,278,050 5,580,858 1.057 71,645 55,505 0.775

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』

各年版,『商業統計表』各年版より作成。

表3-1-2 3都市⼩売業の基礎的環境要因の推移

従業者数(⼈,倍) 売場⾯積(m2,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 10,564 16,344 1.547 172,736 291,698 1.689

姫路市 29,082 34,163 1.175 445,946 628,473 1.409

神⼾市 80,145 99,716 1.244 983,806 1,529,372 1.555

兵庫県 271,285 339,177 1.250 3,737,814 5,636,026 1.508

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るが県全体の⽔準よりも低いものとなっている。売場⾯積は兵庫県全体で,3,737,814m2から

5,636,026m2へ 50.8%の増加となっている。3都市において売場⾯積は増加しているがそのなか

でも加古川市では 172,736m2から 291,698m

2へと増加している。さらに販売額においても加古川

市のみが兵庫県全体の⽔準を⼤幅に上回っている。基礎的環境でみると,加古川市は 1985 年と⽐

較すると3都市のなかでは最も改善がなされているものと考えられる。

3-2 ⼩売構造指標の推移

⑴ 店舗密度・平均店舗規模

1985 年から 2002 年にかけての店舗密度の推移をみると,3都市すべてに 25%以上の減少がみら

れ,店舗密度のみでみるかぎり,3都市の⼩売業の競争状況および新規参⼊の程度,中⼩⼩売業の

事業機会は漸次,緩和されてきているといえる。とくに,加古川市は,11.00 店から 8.05 店へ率に

して 26.8%の減少がみられ兵庫県全体よりも⾼い減少率となっている。

しかしながら,1985 年から 2002 年にかけての各都市の平均店舗規模の推移をみると,兵庫県全

体では 52.17m2から 101.54m

2への 94.6%の拡⼤,神⼾市で 98.1%,加古川市で 96.8%,姫路市で

79.1%と3都市ともに増⼤している。また,増加率では神⼾市が最も⾼い数値を⺬しているが,1

店当たりの規模としては加古川市が 135.93m2と3都市の中で最も⾼い⽔準となっている。した

がって,3都市⼩売業の競争状況および新規参⼊や増床の可能性は,同期間の店舗密度の低下傾向

とは異なり,平均店舗規模でとらえると,反対に競争状況は厳しさを増してきているといえる。

第7巻 第3号138

販売額(万円,倍)

1985年 2002年 02/85

加古川市 17,202,099 25,074,437 1.458

姫路市 48,912,826 58,074,543 1.187

神⼾市 136,442,079 177,567,188 1.301

兵庫県 422,759,672 550,628,428 1.302

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年

版,『商業統計表』各年版より作成。

表3-2-1 3都市⼩売業の店舗密度,平均店舗規模の推移

店舗密度(店,倍)

(⾏政⼈⼝1,000⼈当たり)平均店舗規模(m

2,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 11.00 8.05 0.732 69.07 135.93 1.968

姫路市 15.60 11.57 0.742 63.13 113.08 1.791

神⼾市 14.05 10.30 0.733 49.63 98.34 1.981

兵庫県 13.57 9.95 0.733 52.17 101.54 1.946

表3-1-1,3-2-2を元に作成

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しかも,この期間の兵庫県を含む3都市⼩売業の平均店舗規模の拡⼤傾向は,かかる指標の分⺟

を構成する商店数の減少と,分⼦を構成する売場⾯積の増加という結果からもたらされたものであ

る。そのため,3都市では,この期間に,売場⾯積の相対的に⼤きな店舗の進出がみられた⼀⽅,

その進出をはるかに上回る⽔準で,売場⾯積の⼩さな店舗の淘汰が進⾏したと考えられ,3都市内

部での⼤型店と中⼩⼩売店との競合関係はかなり厳しくなっていると指摘できる。

⑵ 施設密度・⼈的サービス率

3都市⼩売業の競争状況は,店舗密度では緩和傾向を⺬し,平均店舗規模では厳しさを増してき

ている。これを2つの指標の合成変数である施設密度からみると,率にして神⼾市 45.2%,加古川

市 43.4%,姫路市 33.7%の増加がみられる。つまり,この期間,3都市ともに⾏政⼈⼝は増加して

いるが,それ以上に売場⾯積が増加したため,⼩売業の売場⾯積でとらえた集積の度合いは進⾏し,

結果として3都市⼩売業の競争構造も厳しさを増してきているといえる。しかし,消費者サイドか

らみると,施設密度の上昇は施設の充実を意味しており,3都市の消費者満⾜の向上に寄与してい

ると評価することもできる。

次に⼈的サービス率をみると,兵庫県全体では 1985 年の 7.26 ⼈から 6.02 ⼈へ率にして 17.1%

の減少がみられる。3都市ともに 1985 年と⽐較すると減少している。また,神⼾市では 8.15 ⼈か

ら率にして 20.0%の減少がみられる。したがって,ここにも従業者数(同指標の分⼦)の伸びを上

回る⽔準での売場⾯積(同指標の分⺟)の伸びという状況をみることができるが,その背景として

は,セルフサービス化の進展などの要因を指摘することができる。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 139

表3-2-2 3都市⼩売業の⼈的サービス率,施設密度の推移

⼈的サービス率(⼈,倍)(100⼈あたり) 施設密度(m2,倍)(100⼈あたり)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 6.12 5.60 0.916 76 109 1.434

姫路市 6.52 5.44 0.834 98 131 1.337

神⼾市 8.15 6.52 0.800 70 101 1.452

兵庫県 7.26 6.02 0.829 71 101 1.426

表3-1-1,3-2-2を元に作成

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3-3 ⼩売成果指標の推移

� 販売効率

⑴ ⼈的効率

1985 年から 2002 年にかけての⼈的効率の推移をみると,兵庫県全体では 1,558万円から 1,623

万円と率にして 4.2%増加している。3都市の推移をみると,神⼾市が 1985 年の 1,702万円から率

にして 4.6%,姫路市が 1,682 万円と率にして 1.1%の増加がみられる。しかし,加古川市では

1,628万円から 1,534万円へと率にして 5.8%の減少となっている。1985 年と⽐較すると神⼾市,

姫路市の⼈的効率は,増加しており,さらに兵庫県の⽔準よりも⾼い⽔準にあることから,神⼾市,

姫路市⼩売業の従業者という⼈的資源に対する販売額の落ち込みはないといえるが,加古川市⼩売

業の⼈的効率は減少傾向にあり,兵庫県の⽔準よりも⼤幅に低いことから,⼈的資源に対する販売

額を維持することができていないといえる。

⑵ 売場効率

1985 年から 2002 年にかけての売場効率の推移をみると,兵庫県全体では 113.10万円から 97.70

万円と率にして 13.6%の減少しており,姫路市,神⼾市,加古川市の3都市においても減少がみら

れる。また,神⼾市では 1985 年の 138.69万円から率にして 16.3%と最も⾼い減少率となってお

り,さらに,姫路市,加古川市では,兵庫県全体の売場効率よりも低い⽔準となっており,加古川

市においては 2002 年の売場効率が 85.96万円と3都市の中で最も低い⽔準となっている。した

がって,3都市⼩売業の物的施設などの経営効率は 1985 年の時点と⽐較して悪化したと考えられ

る。

第7巻 第3号140

表3-3-1 3都市⼩売業の販売効率の推移

⼈的効率(万円,倍) 売場効率(万円,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 1,628 1,534 0.942 99.59 85.96 0.863

姫路市 1,682 1,700 1.011 109.68 92.41 0.842

神⼾市 1,702 1,781 1.046 138.69 116.10 0.837

兵庫県 1,558 1,623 1.042 113.10 97.70 0.864

表3-2-2を元に作成

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� 顧客吸引⼒

⑴ 商業⼈⼝・吸引度指数

1985 年から 2002 年にかけての3都市の商業⼈⼝の推移をみていくと加古川市で 214,765 ⼈から

254,139 ⼈へ率にして 18.3%の増加,神⼾市で 1,703,460 ⼈から率にして 5.7%の増加している。

しかしながら,姫路市では 610,669 ⼈から 558,609 ⼈へ率にして 8.5%の減少にある。この期間,

姫路市では,活動成果としての販売額の維持ができていないということがいえる。

次に,3都市の吸引度指数であるが,1985 年の時点では,姫路市が 1.348 と最も⾼い⽔準であり,

ついで神⼾市が 1.207,加古川市が 0.945 となっている。しかし,2002 年の時点では神⼾市が

1.191 と率にして 1.3%の低下であるが,最も⾼い⽔準となっている。加古川市においては,0.945

から 0.953へ率にして 0.8%増加しており,1985 年からの推移では活動成果に改善をみることがで

きるが,1.000 を下回る顧客流出都市である。また,姫路市においては,2002 年で 1.163 と率にし

て 13.7%低下しており,この期間,姫路市⼩売業の顧客吸引⼒は弱まっているといえる。その要因

として,3都市ともに⾏政⼈⼝,販売額は増加しているが,姫路市においては,活動成果としての

販売額の伸び悩み,すなわち,姫路市を取り巻く競争環境の激化などがあげられる。

3-4 分析のまとめ

3都市⼩売業の 1985 年から 2002 年にかけての推移をみてきたが,まず競争環境であるが,⾏政

⼈⼝は増加,商店数は減少と3都市ともに同様の推移となっている。競争構造では店舗密度,⼈的

サービス率は減少,平均店舗規模,施設密度は増加と競争構造においても3都市ともに同じ傾向と

なっている。また,加古川市においては,店舗密度の減少率,平均店舗規模の増加率が3都市の中

で最も⾼く,1985 年と⽐較すると,新規参⼊が最も容易になり,施設が充実したといえる。

次に,販売効率指標においては,売場効率では減少がみられ,1985 年との⽐較では3都市ともに

経営効率は悪化している。これは,3都市⼩売業の店舗の⼤規模化による売場⾯積の増加が,販売

額よりも⼤幅に増加しているということが要因としてあげられる。⼈的効率では,神⼾市,姫路市

は増加しており,労働⽣産性は 1985 年と⽐較して向上しているが,加古川市では,売場効率と同じ

く⼈的効率も減少している。

活動成果である商業⼈⼝,吸引度指数であるが,姫路市では商業⼈⼝,吸引度指数ともに減少し

悪化の傾向にある。神⼾市では,商業⼈⼝は増加しているものの,吸引度指数は低下し,若⼲,鈍

化傾向にあることがわかる。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 141

表3-3-2 3都市⼩売業の商業⼈⼝,吸引度指数の推移

商業⼈⼝(⼈,倍) 吸引度指数

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 214,765 254,139 1.183 0.945 0.953 1.008

姫路市 610,669 558,609 0.915 1.348 1.163 0.863

神⼾市 1,703,460 1,799,716 1.057 1.207 1.191 0.987

表3-1-1,3-2-2を元に作成

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また,加古川市では,両指標とも増加しており,1985 年時点と⽐較して活動成果は改善されてい

るといえる。しかしながら,加古川市は,基礎的環境および規模の増加により活動成果は改善され

ているが,その活動内容である販売効率(⽣産性)の⾯での改善がなされていない。さらに,加古

川市⼩売業の時系列の成果指標の⽐較では改善がなされているが,2002 年時点での成果指標の絶対

値つまりその⽔準は 0.953 で1以下であり,購買⼒の流出都市となっており,ただその流出の程度

が改善されたに過ぎない。

他⽅,顧客吸引⼒指標の絶対値でみると,神⼾市は 1.191 で最も⾼く,姫路市も 1.163 で流⼊都

市ではあるがその吸引⼒の程度が 1985 年に⽐べて低下しているのである。

都市間の顧客吸引競争は激化しており,各都市とも売場⾯積や施設密度は⾼まっているが,売場

効率はどの都市でも低下しており,そのなかで都市規模が⼩さく商圏規模が⼩さい加古川市が⾏政

⼈⼝の増加に対応して売場⾯積を急速に拡⼤することにより有利となっているとみることができ

る。しかしながら,⼈的効率,物的効率の改善は進んでおらず⼈⼝の増加と商圏の狭さから明かに

⽇常品の購⼊に限定され,そうした⼤型店(⾷料品スーパーなど)が多い。それ故,次の飲⾷料品

の分析へとつながる。

加古川市……マクロレベルでの成果②は⾼まっているが,これはミクロレベルでの効率性の改善に

よってではなく,⾏政⼈⼝の増加に⽀えられた店舗規模や施設密度の増加によるもの

である。またマクロレベルでの成果の伸びは⾼いが,その絶対⽔準は神⼾市,姫路市

に⽐べかなり低いものとなっている。

姫路市………マクロレベルでの成果②の低下が⽬⽴っているが店舗規模や施設密度などの上昇にも

かかわらず,ミクロレベルの成果である売場効率が著しく低下しているため構造要因

の過剰化傾向が著しい。

神⼾市………ミクロレベルでの成果である商業⼈⼝が上昇しているのに吸引度指数に低下がみられ

るのは,⾏政⼈⼝ほどには商業⼈⼝(商圏)が伸びていないためと考えられ,ミクロ

レベルでの成果である⼈的効率の改善がマクロレベルの成果に貢献しているといえ

る。

第7巻 第3号142

表3-4 3都市⼩売業の⼩売環境,構造,成果の関連(まとめ)

都市 環境 構造 成果

⾏政⼈⼝の

変化

平均店舗規

模施設密度

ミクロレベル① マクロレベル②

⼈的効率 売場効率 商業⼈⼝ 吸引度指数

加古川市 ++ ++ ++ − − ++ +

姫路市 + + + + −− − −

神⼾市 + + ++ ++ −− + −

注)++(著しく⾼い伸び),+(⾼い伸び),−−(かなりの低下),−(低下)

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4.2002 年の3都市飲⾷料品⼩売業の現状分析

4-1 飲⾷料品⼩売環境指標

2002 年の⾏政⼈⼝については,先ほどの3都市⼩売業の分析と同じ数値である。2002 年の商店

数では神⼾市が最も多く 5,308 店と兵庫県全体の 28.3%のシェアとなっている。次いで姫路市の

1,632 店(8.7%),加古川市の 690 店(3.7%)となっている。

3都市飲⾷料品店の⼩売環境要因を⽐較すると,先ほどの 2002 年⼩売業の分析と同様に,神⼾市,

姫路市,加古川市の順となっている。また,神⼾市では,飲⾷料品店の⼩売環境要因の各指標が兵

庫県全体の 25%以上のシェアを占めることから⼩売業と同様,神⼾市に飲⾷料品⼩売業の集中度が

⾼いことがわかる。

4-2 飲⾷料品⼩売構造指標

⑴ 店舗密度

2002 年の兵庫県全体の飲⾷料品店の店舗密度は⾏政⼈⼝ 1,000 ⼈当たり 3.36 店である。3都市

間では加古川市が 2.59 店と最も低い数値であり,次いで姫路市(3.40 店),神⼾市(3.51 店)となっ

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 143

表4-1 3都市飲⾷料⼩売業の⼩売環境

⼩売環境指標(2002年) 兵庫県 加古川市 姫路市 神⼾市

⾏政⼈⼝(⼈) 5,580,858 266,558 480,187 1,510,468

対県シェア(%)(前掲) 100.0% 4.8% 8.6% 27.1%

商店数(店) 18,759 690 1,632 5,308

対県シェア(%) 100.0% 3.7% 8.7% 28.3%

売場⾯積(m2) 1,531,796 64,549 144,379 394,316

対県シェア(%) 100.0% 4.2% 9.4% 25.7%

従業者数(⼈) 134,452 5,818 12,147 39,490

対県シェア(%) 100.0% 4.3% 9.0% 29.4%

販売額(万円) 174,937,034 7,344,551 15,639,768 51,581,591

対県シェア(%) 100.0% 4.2% 8.9% 29.5%

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年

版,『商業統計表』各年版より作成。

表4-2 3都市飲⾷料⼩売業の⼩売構造

⼩売構造指標(2002年) 兵庫県 加古川市 姫路市 神⼾市

店舗密度 3.36 2.59 3.40 3.51

平均店舗規模(m2) 81.66 93.55 88.47 74.29

⼈的サービス率(⼈) 8.78 9.01 8.41 10.01

施設密度(m2) 27 24 30 26

表4-1を元に作成

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ている。

先ほどの 2002 年3都市の⼩売業の店舗密度では,姫路市が最も⾼い数値を⺬していたが飲⾷料

品店では神⼾市の店舗密度が3都市の中で最も⾼い数値を⺬しており,飲⾷料品⼩売業においては

神⼾市が新規参⼊の難易度が最も⾼い都市であるということがわかる。

⑵ 平均店舗規模

兵庫県全体の飲⾷料品⼩売業の平均店舗規模は,81.66m2であり,3都市⽐較では加古川市が最

も⾼い⽔準の 93.55m2と兵庫県の⽔準を⼤幅に上回っており,次いで姫路市(88.47m

2),神⼾市

(74.29m2)となっている。これは先ほどの3都市⼩売業⽐較と同じ順であり,加古川市は飲⾷料

品⼩売業においても⼩売業全体の場合と同様に店舗規模が相対的に⼤きいという特性を有してい

る。

さらに,もう1つの平均店舗規模の代替的な指標である1店当り販売額についてみてみると,兵

庫県全体では,9,325万円となっており,3都市⽐較では加古川市(10,644万円),神⼾市(9,718

万円),姫路市(9,583万円)となっており,売場⾯積規模による販売額の維持がなされている。つ

まり,加古川市は,3都市の中で相対的に売場⾯積の⼤きな飲⾷料品⼩売店が多く,売場⾯積が相

対的に⼩さい飲⾷料品⼩売店が少ない都市であるということがわかる。このことは,2002 年⼩売業

全体の3都市⽐較についても同じことがいえる。

また,姫路市は平均店舗規模 88.47m2と神⼾市の⽔準を上回っているが,1店当たり販売額でみ

た平均店舗規模では神⼾市の⽔準を下回っており,売場⾯積規模による1店当たり販売額の維持が

なされていない都市であるということがいえる。

⑶ 施設密度

2002 年の⾏政⼈⼝ 100 ⼈当たりの兵庫県飲⾷料品⼩売業の施設密度は,27m2であり,3都市で

は⼩売業全体と同じく,姫路市が最も⾼い⽔準の 30m2となっている。次いで,神⼾市(26m

2),加

古川市(24m2)となっており,兵庫県全体の⽔準を下回っている。また,⼩売業全体の施設密度で

は加古川市が神⼾市よりも⾼い⽔準であったが,飲⾷料品⼩売業の場合では神⼾市のほうが⾼い⽔

準となっている。

⑷ ⼈的サービス率

2002 年の⼈的サービス率は兵庫県飲⾷料品⼩売業では 8.78 ⼈となっており,3都市⽐較では神

⼾市が最も⾼く 10.01 ⼈と兵庫県の⽔準を⼤幅に上回っている。次いで加古川市(9.01 ⼈),姫路

市(8.41 ⼈)となっている。

⼩売業全体と同じく姫路市においては,3都市のなかで⼈的サービス率が最も低い⽔準となって

おり,飲⾷料品⼩売業においても⼩売業全体と同様に3都市の中では最もセルフサービス化が進展

していると考えられる。

第7巻 第3号144

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4-3 飲⾷料品⼩売成果指標

� 販売効率

⑴ ⼈的効率・売場効率

2002 年の飲⾷料品⼩売業の3都市の⼈的効率についてみてみると,神⼾市が 1,306万円と最も⾼

い⽔準で,兵庫県の⽔準を若⼲上回るものとなっている。また,姫路市(1,288万円),加古川市

(1,262万円)では兵庫県の⽔準を下回っている。

さらに,売場効率も神⼾市(130.81万円)が最も⾼い⽔準となっており,加古川市(113.78万円),

姫路市(108.32万円)となっている。加古川市,姫路市は売場効率も⼈的効率と同じく兵庫県の⽔

準よりも下回っている。

� 顧客吸引⼒

⑴ 商業⼈⼝・吸引度指数

2002 年の3都市飲⾷料品⼩売業の商業⼈⼝についてみてみると,神⼾市,姫路市は商業⼈⼝が⾏

政⼈⼝よりも多く,吸引度指数についても2都市ともに1を上回っており,良好な成果を上げるこ

とができているが,加古川市は商業⼈⼝が⾏政⼈⼝よりも少なく吸引度指数が1を⼤きく下回って

いるので良好な成果をあげることができていないといえる。

4-4 分析のまとめ

2002 年の神⼾市,姫路市,加古川市飲⾷料品⼩売業について分析を試みてきた。まず,基礎的環

境では神⼾市が兵庫県全体に占める割合が 25%以上と⾼い数値を⺬している。次いで,姫路市,加

古川市の順となっている。⼩売構造指標の平均店舗規模では,加古川市が最も⾼い⽔準となってお

り,⼩売業の場合と同様に飲⾷料品店も,3都市の中では店舗規模が相対的に⼤きいということが

わかる。これは,加古川市⼩売業の構造的特質であるといえる。次に,販売効率指標の⼈的効率で

は神⼾市,姫路市,加古川市となっており,売場効率では神⼾市,加古川市,姫路市となっている。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 145

表4-3-1 3都市飲⾷料⼩売業の販売効率

販売効率指標(2002年) 兵庫県 加古川市 姫路市 神⼾市

⼈的効率(万円) 1,301 1,262 1,288 1,306

売場効率(万円) 114.20 113.78 108.32 130.81

表4-1を元に作成

表4-3-2 3都市飲⾷料⼩売業の商業⼈⼝,吸引度指数

顧客吸引⼒指標(2002年) 加古川市 姫路市 神⼾市

商業⼈⼝(⼈) 234,307 498,941 1,645,561

吸引度指数 0.879 1.039 1.089

表4-1を元に作成

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⼈的効率,売場効率ともに神⼾市が最も⾼い⽔準であり,3都市のなかで神⼾市が販売効率のよい

都市であることがわかる。さらに,活動成果である顧客吸引度指数では神⼾市,姫路市,加古川市

となっている。神⼾市,姫路市は吸引度指数が1を上回っており,⼩売業全体と同じく,飲⾷料品

についても顧客流⼊都市であることがわかる。しかし,加古川市は,顧客吸引度指数が1を下回っ

ており顧客流出都市である。加古川市は飲⾷料品店,⼩売業全体も含め,店舗規模が相対的に⼤き

いという構造的特質を有しているが,その構造的特質を⼗分に活⽤することができておらず⼈的効

率,売場効率の2つの販売効率指標,すなわち,⽣産性が低いため望ましい成果をあげることがで

きていないということが要因としてあげられる。

5.3都市飲⾷料品⼩売業の時系列⽐較分析

5-1 飲⾷料品⼩売環境指標の推移

1985 年から 2002 年にかけての3都市飲⾷料品⼩売業の推移をみていくと,⾏政⼈⼝は,先ほど

の⼩売業全体の分析と同様であり,商店数においては姫路市が 2,500 店から 1,632 店へ率にして

34.7%と減少しており,神⼾市(33.0%),加古川市(27.7%)と3都市すべてに⼤幅な減少がみら

れる。

また,飲⾷料品⼩売業においても⼩売業全体の場合と同様に商店数は減少したにもかかわらず,

従業者数,売場⾯積ともに⼤幅に増加したことから,3都市で⼩売店舗の⼤規模化が進展したと考

えられ,⼩売業全体の場合と同じく加古川市が3都市のなかで最も⼤規模化が進展した都市である

ということが指摘できる。

なお,商店数の推移を補⾜するものとして,従業者数,売場⾯積,年間販売額の推移をみておく

と表 5-1-2 のようになる。

1985 年から 2002 年にかけての3都市飲⾷料品⼩売業の基礎的環境の推移をみていくと,まず,

従業者数では加古川市が 4,072 ⼈から 5,818 ⼈へ率にして 42.9%と最も⾼い増加率を⺬しており,

さらに,姫路市(30.0%)神⼾市(27.5%)と3都市に増加がみられる。次に売場⾯積では,従業

者数と同様に加古川市が 47,492m2から 64,549m

2へと率にして 35.9%と最も⾼い増加率であり,

第7巻 第3号146

表5-1-1 3都市飲⾷料品⼩売業の⼩売環境の推移

⾏政⼈⼝(⼈,倍) 商店数(店,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 227,311 266,558 1.173 954 690 0.723

姫路市 452,917 480,187 1.060 2,500 1,632 0.653

神⼾市 1,410,834 1,510,468 1.071 7,920 5,308 0.670

兵庫県 5,278,050 5,580,858 1.057 28,135 18,759 0.667

全国 121,049,000 127,435,000 1.053 671,190 466,598 0.695

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版,

『商業統計表』各年版より作成。

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神⼾市(21.9%),姫路市(15.5%)ともに増加している。また,年間販売額においては,加古川市

が⼩売業全体と同様に3都市のなかで最も⾼い伸び率となっており,次いで姫路市(26.4%)神⼾

市(19.5%)となっている。⼩売業全体の推移をみると姫路市は3都市の中では,最も低い伸び率

となっているが,飲⾷料品⼩売業の場合においては神⼾市よりも⾼い伸び率となっている。

5-2 飲⾷料品⼩売構造指標の推移

⑴ 店舗密度・平均店舗規模

1985 年から 2002 年にかけての店舗密度は,⼩売業全体での推移と同様に兵庫県を含め3都市す

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 147

表5-1-2 3都市飲⾷料品⼩売業の基礎的環境要因の推移

従業者数(⼈,倍) 売場⾯積(m2,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 4,072 5,818 1.429 47,492 64,549 1.359

姫路市 9,345 12,147 1.300 124,952 144,379 1.155

神⼾市 30,975 39,490 1.275 323,561 394,316 1.219

兵庫県 103,467 134,452 1.299 1,243,328 1,531,796 1.232

全国 2,350,851 3,160,832 1.344 32,474,331 39,911,857 1.229

販売額(万円,倍)

1985年 2002年 02/85

加古川市 5,562,591 7,344,551 1.320

姫路市 12,377,479 15,639,768 1.264

神⼾市 43,165,363 51,581,591 1.195

兵庫県 143,975,690 174,937,034 1.215

全国 3,181,776,500 4,122,599,800 1.296

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年

版,『商業統計表』各年版より作成。

表5-2-1 3都市飲⾷料品⼩売業の店舗密度,平均店舗規模の推移

店舗密度(店,倍) 平均店舗規模(m2,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 4.20 2.59 0.617 49.78 93.55 1.879

姫路市 5.52 3.40 0.616 49.98 88.47 1.770

神⼾市 5.61 4.00 0.713 40.85 74.29 1.819

兵庫県 5.33 3.36 0.630 44.19 81.66 1.848

全国 5,55 3,66 0.660 48,38 85,54 1.768

表5-1-1,5-1-2を元に作成

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べてに減少がみられる。減少率は姫路市が 38.4%と最も⾼く,加古川市(38.3%),神⼾市(28.7%)

となっている。また,⼩売業全体の場合,店舗密度の減少率は加古川市が最も⾼い⽔準であったが,

飲⾷料品⼩売業の場合においては姫路市がわずかではあるが⾼い減少率となっている。

平均店舗規模の推移では加古川市が 49.78m2から 93.55m

2へ率にして 87.9%,神⼾市(81.9%),

姫路市(77.0%)と3都市に⼤幅な増加がみられる。増加率では神⼾市が姫路市よりも⾼い⽔準と

なっているが,1店あたりの規模では姫路市が 88.47m2,神⼾市が 74.29m

2と姫路市が1店当たり

の規模では⾼い⽔準となっている。さらに,1985 年の時点では,平均店舗規模は3都市の中では姫

路市が 49.98m2と最も⾼い⽔準であったが,2002 年の⽔準では1店当たりの規模,増加率ともに加

古川市が最も⾼い⽔準となっていることから,この期間,競争構造指標においても加古川市飲⾷料

品⼩売業が3都市の中で最も店舗の⼤規模化が進展した都市であるということがいえる。

また,3都市ともに店舗密度は減少,平均店舗規模は増加という傾向は⼩売業全体の推移と同様

であり,飲⾷料品の場合においても相対的に売場⾯積の⼤きい店舗の出現により,相対的に売場⾯

積の⼩さな店舗である中⼩飲⾷料品⼩売店の競合関係もかなり厳しくなっていると指摘できる。

⑵ 施設密度・⼈的サービス率

1985 年から 2002 年にかけての⾏政⼈⼝ 100 ⼈当たりの3都市飲⾷料品⼩売業の施設密度の推移

では,加古川市で 21m2から 24m

2へと率にして 14.3%,神⼾市(13.0%),姫路市(7.1%)と3都

市ともに増加がみられる。増加率においては,加古川市が最も⾼い⽔準となっているが,⾏政⼈⼝

100 ⼈当たりの施設密度の数値では,最も低い⽔準であり,最も低い増加率の姫路市が最も⾼い数

値の 30m2となっている。

次に,⼈的サービス率の推移も施設密度と同様に,姫路市では 7.48 ⼈から 8.41 ⼈へと率にして

12.5%,加古川市(5.1%),神⼾市(4.6%)と3都市ともに増加がみられる。また,増加率におい

ては姫路市が最も⾼い⽔準となっているが,2002 年時点の⼈的サービス率の数値では,神⼾市が

10.01 ⼈と最も⾼い⽔準であり姫路市は数値でみると最も低い⽔準となっている。さらに,⼩売業

全体では,⼈的サービス率は3都市ともに減少傾向であったが,飲⾷料品⼩売業では3都市ともに

増加の傾向を⺬している。店舗密度の減少および平均店舗規模,施設密度,⼈的サービス率の3つ

の指標の増加から,3都市ではこの期間,⼩売業のなかでもとくに,飲⾷料品⼩売業において店舗

の⼤規模化が進展したものと考えられる。

第7巻 第3号148

表5-2-2 3都市飲⾷料⼩売業の⼈的サービス率,施設密度の推移

⼈的サービス率(⼈,倍)(100⼈あたり) 施設密度(m2,倍)(100⼈あたり)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 8.57 9.01 1.051 21 24 1.143

姫路市 7.48 8.41 1.125 28 30 1.071

神⼾市 9.57 10.01 1.046 23 26 1.130

兵庫県 8.32 8.78 1.055 24 27 1.125

全国 7.24 7.92 1.094 27 31 1.148

表5-1-1,5-1-2を元に作成

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5-3 飲⾷料品⼩売成果指標の推移

� 販売効率

⑴ ⼈的効率

1985 年から 2002 年にかけての⼈的効率の推移をみていくと兵庫県全体では,1,392万円から

1,301 万円へ率にして 6.5%の減少がみられる。3都市においても加古川市(7.6%),神⼾市

(6.3%),姫路市(2.8%)と減少がみられる。

⼈的効率をみると飲⾷料品⼩売業の減少率は⼩売業全体と⽐べて⼤きい。労働⽣産性は,⼩売業

全体の場合と異なり飲⾷料品⼩売業では,3都市ともに⼈的効率は悪化している。その要因には,

他の⼩売業と⽐較して飲⾷料品⼩売業の場合,1店当たりの従業者数が多いことがあげられる。

⑵ 売場効率

売場効率の推移をみると,兵庫県全体では 115.80万円から 114.20万円へ率にして 1.4%の減少

しており,加古川市(2.9%),神⼾市(1.9%)の2都市は兵庫県全体の⽔準よりも⾼い減少がみら

れるが,姫路市においては 99.06万円から 108.32万円へ率にして 9.3%の増加がみられ,この期間,

姫路市飲⾷料品⼩売業の売場⾯積という物的資源に対する販売額は,兵庫県全体のなかで相対的に

⾼い⽔準で推移していることがわかる。

また,売場効率の⼩売業全体の推移では,兵庫県全体を含め3都市で 10%以上の減少がみられる

が,飲⾷料品⼩売業の場合,加古川市,神⼾市においても減少率は⼩さく,姫路市では増加がみら

れる。つまり,飲⾷料品⼩売業は他の⼩売業と⽐較して物的施設などの経営効率⾯では優れている

ということがわかる。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 149

表5-3-1 3都市飲⾷料⼩売業の販売効率の推移

⼈的効率(万円,倍) 売場効率(万円,倍)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 1,366 1,262 0.924 117.13 113.78 0.971

姫路市 1,325 1,288 0.972 99.06 108.32 1.093

神⼾市 1,394 1,306 0.937 133.41 130.81 0.981

兵庫県 1,392 1,301 0.935 115.80 114.20 0.986

全国 1,354 1,304 0.963 97.98 103.292 1.054

表5-1-2を元に作成

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� 顧客吸引⼒

⑴ 商業⼈⼝・吸引度指数

1985 年から 2002 年にかけての3都市飲⾷料品⼩売業の商業⼈⼝の推移をみていくと,加古川市

が 203,921 ⼈から 234,307 ⼈へ率にして 14.9%と最も⾼い増加率を⺬しており,姫路市(10.0%),

神⼾市(4.0%)と3都市において増加がみられる。次に吸引度指数をみると,神⼾市(2.9%),加

古川市(2.0%)ではわずかな減少がみられるが,姫路市では 1.002 から 1.039へと率にして 3.7%

の増加がみられる。

⼩売業全体では加古川市では吸引度指数1を下回っているものの商業⼈⼝,吸引度指数の両指標

において改善がみられる。しかし,飲⾷料品⼩売業では商業⼈⼝は増加傾向にあるが,吸引度指数

は減少と良好な成果をあげることができていない。また,姫路市は⼩売業全体で両指標ともに減少

がみられるが,飲⾷料品⼩売業の場合,両指標ともに増加がみられる。つまり,姫路市はこの期間,

⼩売業全体では商圏規模は縮⼩していたが,飲⾷料品⼩売業の場合においては,商圏規模は拡⼤し,

良好な成果をあげているということがわかる。

また,商業⼈⼝,吸引度指数を全国対⽐で算出したものと⽐較してみると,1985 年から 2002 年の

推移において商業⼈⼝,吸引度指数ともに県での対⽐よりも増加率は低く,減少率は⾼くなってい

ることがわかる。このことから,1985 年から 2002 年の推移のなかで兵庫県全体の飲⾷料品⼩売業

の商圏規模は縮⼩されたということがわかる。

5-4 分析のまとめ

3都市飲⾷料品⼩売業の 1985 年から 2002 年にかけての推移をみてきたが,まず競争環境である

が,⾏政⼈⼝は増加,商店数は減少と,⼩売業全体及び3都市ともに同様の推移となっている。競

第7巻 第3号150

表5-3-2 3都市飲⾷料⼩売業の商業⼈⼝,吸引度指数の推移

商業⼈⼝(⼈,倍) 吸引度指数

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 203,921 234,307 1.149 0.897 0.879 0.980

姫路市 453,750 498,941 1.100 1.002 1.039 1.037

神⼾市 1,582,413 1,645,561 1.040 1.122 1.089 0.971

(県対⽐)

商業⼈⼝(⼈) 吸引度指数

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 211,626 227,030 1.073 0.931 0.852 0.915

姫路市 470,895 483,446 1.027 1.040 1.007 0.968

神⼾市 1,642,203 1,594,455 0.971 1.164 1.056 0.907

兵庫県 5,477,479 5,407,535 0.987 1.038 0.969 0.934

(全国対⽐)

表5-1-1,5-1-2を元に作成

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争構造では,店舗密度は減少,平均店舗規模,⼈的サービス率,施設密度は増加と3都市ともに同

じ結果となっている。⼩売業全体では⼈的サービス率は減少しているが,飲⾷料品⼩売業のみの推

移でみると増加傾向にある。つまり,この期間,⼩売業のなかでもとくに,飲⾷料品⼩売業におい

て店舗の⼤規模化が進展したものと考えられる。

次に,販売効率をみてみると⼈的効率では3都市ともに減少がみられる。3都市⼩売業全体の推

移では,姫路市,神⼾市の2都市ではこの期間,⼈的効率は増加傾向にあり,労働⽣産性は向上し

ているが,⼩売業全体の場合と異なり飲⾷料品⼩売業では,3都市ともに⼈的効率は悪化している。

その要因には,他の⼩売業と⽐較して飲⾷料品⼩売業の場合,1店当たりの従業者数が多いことな

どがあげられる。また,売場効率の推移をみると,3都市⼩売業全体では,10%以上の減少がみら

れるが,飲⾷料品⼩売業では姫路市は増加,神⼾市,加古川市ともに5%以下の減少にとどまって

おり,飲⾷料品⼩売業は他の業態の⼩売業と⽐較して,物的施設⾯での経営効率が良好であるとい

うことがわかる。

活動成果である商業⼈⼝,吸引度指数の推移では商業⼈⼝では3都市ともに増加がみられるが,

吸引度指数においては神⼾市,加古川市で減少がみられる。姫路市は吸引度指数も上昇しており,

この期間において良好な成果をあげることができたといえる。それを⽀える要因として,販売効率

(⽣産性)の向上があげられる。また,加古川市は飲⾷料品⼩売業の場合においても規模の拡⼤に

依存する⾯がここでも⺬されている。

加古川市……マクロレベルでの成果②の商業⼈⼝では著しく⾼い伸びがみられるがこれは成果①の

販売効率の改善によるものではなく,⼩売業全体の場合と同様に⾏政⼈⼝の増加に⽀

えられた平均店舗規模や施設密度の増加によるものと考えられる。また,商業⼈⼝は

増加しているが,吸引度指数においては低下がみられることから,加古川市飲⾷料品

⼩売業の販売⼒の低下(商圏の縮⼩)をみることができる。

姫路市………マクロレベルでの成果②の両指標に増加がみられる。その要因として,⼩売構造指標

では低い⼈的サービス率による省⼒化や⼩売成果指標における成果①の売場効率の改

善などがあげられる。しかしながら,成果①の売場効率に改善がみられるものの,そ

の絶対⽔準は3都市のなかでは最も低い⽔準となっている。

神⼾市………⼩売業全体の場合と同様に成果②の商業⼈⼝は増加しているものの,吸引度指数に低

下がみられる。吸引度指数の低下から⾏政⼈⼝の増加ほど販売額が増加していないと

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 151

表5-4 3都市飲⾷料品⼩売業の⼩売環境,構造,成果の関連(まとめ)

都市 環境 構造 成果

⾏政⼈⼝の

変化平均店舗規模 施設密度

ミクロレベル① マクロレベル②

⼈的効率 売場効率 商業⼈⼝ 吸引度指数

加古川市 ++ ++ + − − ++ −

姫路市 + + + − + + +

神⼾市 + ++ + − − + −

注)++(著しく⾼い伸び),+(⾼い伸び),−−(かなりの低下),−(低下)

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いうことがわかる。また,ミクロレベルでの成果①では両指標に低下がみられ神⼾市

⼩売業全体とは異なり神⼾市飲⾷料品⼩売業の販売効率の低下をみることができる。

6.3都市⼩売業の集中度と販売額変動要因

兵庫県内の神⼾市,姫路市,加古川市といった3都市の⼩売業および飲⾷料品⼩売業について,

それらの販売集積状況をとらえるため,産業組織論的分析に加え,販売集中度と販売額変動要因に

ついて考察を加えていく。まず,対象3都市の⼩売業の店舗集中度と販売集中度の状況について考

察を試みる。次いで3都市における⼩売販売額の変動要因について分析を試みる。

6-1 店舗集中度と販売集中度

⑴ 店舗集中度と⼈⼝集中度の推移

店舗集中度および⼈⼝集中度とは,都市の店舗数および⼈⼝が当該都市の所属県の総店舗数およ

び総⼈⼝に占める⽐率をいう。上の表は,神⼾市,姫路市,加古川市の3都市⼩売業の店舗集中度

と⼈⼝集中度を⺬したものである。まず,2002 年の3都市の店舗集中度をみると,神⼾市(28.02%)

の⽔準が最も⾼く,兵庫県の総店舗数の 25%以上が神⼾市に集中していることがわかる。ついで,

姫路市(10.01%),加古川市(3.87%)となっている。

1985 年から 2002 年にかけての店舗集中度の推移をみると,3都市ともに店舗集中度は上昇して

いるが,なかでも加古川市の上昇率(1.108倍)が最も⼤きい。また,3都市の⼈⼝集中度も同様に

増加しており,加古川市の増加率(1.109倍)が最も⾼い⽔準となっている。

さらに,店舗集中度を⼈⼝集中度で除した数値を表⺬した店舗集中度 /⼈⼝集中度⽐率をみると,

2002 年でこの数値が 100 を超えているのは神⼾市,姫路市で逆に 100以下となっているのは加古川

市である。

この⽐率が 100以上であるということは,⼀般的にいえば,都市における⼩売業集積が相対的に

過密気味であって競合関係も相対的に緊迫しているといえる。このような傾向が顕著に現れている

のは,3都市のなかでは姫路市であり,これに対し,この数値が 100以下となっている都市におい

ては,⼈⼝集積に⽐較して店舗数が相対的に少ないため,競合関係もまた⽐較的緩やかであるとい

第7巻 第3号152

表6-1-1 3都市⼩売業の店舗集中度と⼈⼝集中度の推移

店舗集中度 ⼈⼝集中度 店舗集中度/⼈⼝集中度

(A) (B) ⽐率指数(A/B)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 3.49 3.87 1.108 4.31 4.78 1.109 81.1 80.9 0.999

姫路市 9.86 10.01 1.016 8.58 8.60 1.003 114.9 116.4 1.013

神⼾市 27.67 28.02 1.013 26.73 27.07 1.013 103.5 103.5 1.000

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版,『商業統計表』

各年版より作成。

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えるが,このような傾向は,加古川市においてみることができる。

次に,1985 年から 2002 年にかけての店舗集中度 /⼈⼝集中度⽐率の推移をみると,姫路市では

この数値が上昇していることがわかる。姫路市においては,この期間に,⼈⼝集中度よりも店舗集

中度の伸びが⼤きかったので,姫路市⼩売業は競争関係が厳しくなり,競合関係が緊迫化したといっ

てよい。

また,加古川市では⽐率は 100 を下回っており,1985 年から 2002 年にかけての推移では低下が

みられ,⼀般的にいえば,⼩売業の競合関係はやや緩和したといえるが,先ほどの⼩売構造指標の

平均店舗規模の⼤幅な増加をみると,相対的に売場⾯積の⼩さな中⼩⼩売業の競合関係はこの数値

の低下とは逆に厳しくなっていると指摘できる。

⑵ 販売集中度の推移

販売集中度とは,都市⼩売業の販売額がその都市の所属県の⼩売業の総販売額に占める⽐率をい

う。店舗集中度が都市における⼩売業の集積構造や競合関係を⺬す指標であるのに対し,販売集中

度は,都市⼩売業の販売⼒ないし地域間競争⼒の実態を端的に表す指標であるといえる。

販売集中度から,3都市⼩売業の集積状況をとらえると,2002 年の3都市販売集中度は,神⼾市

が県全体の総販売額の3割以上を占めており,次いで姫路市,加古川市となっている。また,販売

集中度は,視点を変えれば購買⼒集中の程度を⺬しているともいえるので,神⼾市への販売⼒集中

ないし購買⼒集中がいかに⼤きいものであるかがわかる。

このような,販売集中度の状況は,⼈⼝集積や店舗集積と密接な関連を持っていると指摘されて

いる。すなわち,⼈⼝集中度の⾼い都市,店舗集中度の⾼い都市ほど,販売集中度ないし購買⼒集

中の⽔準も⼀般的には⾼いということである。しかし,現実には,都市のもつ特殊性を反映して,

販売集中度にかなりの差異がみられるという。

そこで,販売集中度の都市別特性を明かにするために,⼈⼝集中度に対する販売集中度の⽐率を

みると,この数値が最も⼤きい都市は3都市の中では姫路市(122.58)で,次いで神⼾市(119.15),

加古川市(95.34)となっており,姫路市,神⼾市の2都市では⼈⼝集積に対⽐して,販売集積が⼤

きいので,購買集中⼒も相対的に⼤きいといえる。

さらに,1985 年から 2002 年にかけての販売集中度の推移をみると,加古川市のみが販売集中度

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 153

表6-1-2 3都市⼩売業の販売集中度の推移

販売集中度 販売集中度/⼈⼝集中度

(C) ⽐率(C/B)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 4.07 4.55 1.119 94.48 95.34 1.009

姫路市 11.57 10.55 0.912 134.83 122.58 0.909

神⼾市 32.27 32.25 0.999 120.74 119.15 0.986

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年

版,『商業統計表』各年版より作成。

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を⾼めている。したがって,2002 年の時点では吸引度指数1を下回る顧客流出都市である加古川市

が,3都市間では,この期間に,顧客吸引⼒を実質的に⾼めたということが産業組織論的分析と同

様に集中度の⾯からもみることができる。

また,この期間に販売集中度を低下させている姫路市,神⼾市では,⼈⼝集中度はわずかに増加

したが,販売集中度が低下したために,⼈⼝集中度に対する販売集中度の⽐率も低下している。と

くに姫路市は,2002 年時点では,3都市間では,最も⾼い⽔準の⽐率であり,購買集中⼒も相対的

に⼤きい都市であるが,1985 年からの推移では,販売集中度が⼤幅に低下しているために,姫路市

への購買集中の⽔準は 1985 年と⽐較して著しく低下したといえる。

6-2 販売額変動要因の分析

⑴ 都市⼩売業の変動要因4)

都市⼩売業の内容を⺬す要因には,商店数,従業者数,売場⾯積,および年間販売額があるが,

これらの要因のうち,⼩売業の実態を明かにするものは販売額の⽔準やその変動の状況である。そ

こで,以下においては,神⼾市,姫路市,加古川市における⼩売販売額の推移とそれを規定してい

る活動要因との関係について⽐較分析を試みることにする。

販売額,商店数,1店当たり販売額の間には,⼀般に,次のような関係式が成り⽴つ。

販売額=商店数×1店当たり販売額……………(第1式)

1店当たり販売額は,従業者1⼈当たり販売額(⼈的効率)と1店当たり従業者数との積でもあ

るので,第1式は,次の関係式に表現しなおすことができる。

販売額=商店数×⼈的効率×1店当たり従業者数……………(第2式)

1店当たり販売額はまた,1m2当たり販売額(売場効率)と1店当たり売場⾯積との積ともいえ

るので,先の関係式は,次のように変形することができる。

販売額=商店数×売場効率×1店当たり売場⾯積……………(第3式)

また,販売額,売場⾯積および売場効率の間には,次のような関係式が成⽴する。

販売額=売場⾯積×売場効率……………(第4式)

これらの関係式が意味していることは,都市⼩売業の販売額の変動が店舗数や売場⾯積のほか,

1店当たり販売額,従業者1⼈当たり販売額(⼈的効率),1m2当たり販売額(売場効率),1店当た

り従業者数,1店当たり売場⾯積などの諸要因によって規定されているということである。した

がって,これらの関係式を基礎にして,都市⼩売業の活動成果に変動をもたらしている諸要因を分

析することが可能となるのである。

下の表は,1985 年を基準(1.000)にして,2002 年の3都市⼩売業の商店数,販売額,売場⾯積

を指数化し,さらに,3都市の1店当たり従業者数,1店当たり売場⾯積,⼈的効率,売場効率な

ど同様に指数化して⺬したものである。ここでは,この表に依拠しながら,3都市⼩売業における

活動成果について分析を試みることにする。

第7巻 第3号154

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⑵ 販売額,商店数,1店当たり販売額の関係

まず,販売額の変動指数を商店数の変動指数と1店当たり販売額の変動指数との積として表して

いる第1式を基礎として,これら3要因の関係を捕らえることにする。

1985 年から 2002 年にかけての3都市⼩売業の販売額の変動を全体としてとらえると,次のよう

な関係式で⺬すことができる。

1.315(販売額)= 0.810(商店数)× 1.622(1店当たり販売額)

すなわち3都市⼩売業の販売額は,この期間に,31.5%の増加を達成しているが,それは,商店

数が 19.0%の減少となっているにもかかわらず1店当たり販売額が 62.2%の⼤幅な増加によって

達成されたというものである。

このような販売額,商店数および1店当たり販売額との関係を都市別にみていくと,3都市とも

に商店数は減少,1店当たり販売額は⼤幅に増加しており,3都市においては,1店当たり販売額

の著しい伸びによって販売額の⽔準が上昇しているといえる。したがって,⼀般的にいえば,1985

年から 2002 年にかけての推移において販売額の増加に寄与した基本的な要因は,商店数ではなく

1店当たり販売額で⺬される店舗効率であるということである。さらに,1店当たり販売額の増加

率が⼤きい加古川市は,販売額の増加率も3都市の中で最も⼤きな⽔準となっている。

また,姫路市は商店数の減少率においても平均⽔準以下となっているが,もう1つの変動指数で

ある1店当たり販売額が,平均⽔準を⼤きく下回っていることが姫路市の販売額の伸びが平均⽔準

を⼤きく下回る要因としてあげることができる。

⑶ 1店当たり販売額,⼈的効率,1店当たり従業者数の関係

先ほどの第2の関係式が意味するところは,販売額の変動が,商店数の変動,⼈的効率の変動お

よび1店当たり従業者数の変動という3つの要因から成り⽴っているということである。したがっ

て,この関係式を⽤いて,3都市⼩売業の販売額の変動の原因をこれらの3つの要因に分けて⺬す

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 155

表6-2 3都市⼩売業の販売額変動要因の推移

販売額 商店数 従業者数 売場⾯積 1店当たり販売額

加古川市 1.458 0.858 1.547 1.689 1.699

姫路市 1.187 0.787 1.175 1.409 1.509

神⼾市 1.301 0.785 1.244 1.555 1.659

平均 1.315 0.810 1.322 1.551 1.622

⼈的効率 1店当たり従業者数 売場効率 平均店舗規模

加古川市 0.942 1.803 0.863 1.968

姫路市 1.011 1.493 0.842 1.791

神⼾市 1.046 1.586 0.873 1.981

平均 1.000 1.627 0.848 1.913

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計

指標』各年版,『商業統計表』各年版より作成。

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と次の式で表される。

1.315= 0.810× 1.000(⼈的効率)× 1.627(1店当たり従業者数)

しかし,販売額の変動に最も寄与した要因が1店当たり販売額であることは先ほど明かにしてき

たところであるので,ここでは,1店当たりの販売額を規定する要因としての⼈的効率と1店当た

り従業者数の関係をみることにする。

1店当たり販売額は,⼈的効率と1店当たり従業者数の積であることから次の式が成⽴する。

1.622= 1.000(⼈的効率)× 1.627(1店当たり従業者数)

すなわち,3都市⼩売業の1店当たり販売額は 1985 年から 2002 年にかけて 62.2%の増加となっ

ているが,この1店当たり販売額の増⼤に寄与した要因は,⼈的効率ではなく,1店当たり従業者

数が 62.7%増加したことが⼤きな影響を与えているといえる。

これを都市別にみていくと,⼈的効率が平均⽔準を上回っている都市は,神⼾市,姫路市で,加

古川市は平均⽔準を下回っている。また,1店あたり従業者数においては神⼾市,姫路市は平均⽔

準を下回っているが,加古川市では⼤幅に増加している。

⑷ 1店当たり販売額,売場効率,店舗規模の関係

先ほどの第3式は,販売額の変動が商店数の変動,売場効率の変動および平均店舗規模の変動と

いった3要因から成り⽴っていることを意味する。したがって,この関係式を⽤いて,3都市⼩売

業の販売額の変動の原因をこれらの3要因に分けて⺬すと,次の式で表される。

1.315= 0.810× 0.848(売場効率)× 1.913(平均店舗規模)

しかし,販売額の変動に最も⼤きく寄与した要因は1店当たり販売額の増加であると考えられる

ので,ここでも,1店当たり販売額ないし店舗効率という⼩売活動成果に規定的なインパクトを与

える要因としての売場効率と平均店舗規模の2要因についての関係をみることにする。

この1店当たり販売額の増加分は,売場効率の減少分および平均店舗規模の増加分との積に分解

されるので,以下の式が成⽴する。

1.622= 0.848(売場効率)× 1.913(平均店舗規模)

すなわち,1985 年から 2002 年にかけて3都市⼩売業の1店当たり販売額の増加率は,62.2%で

あるが,この増加をもたらした要因は,平均店舗規模の 91.3%増に基づくものである。3都市⼩売

業全体ともに売場効率は減少しているが,平均店舗規模は増加している。つまり,1店当たり販売

額の増加をもたらした⼤きな要因は,売場効率ではなく,平均店舗規模の著しい伸びすなわち,店

舗規模の⼤幅な拡⼤であるということがわかる。

また,1店当たり販売額の上昇に⼤きな影響を与えている要因としての平均店舗規模の推移につ

いてみると,神⼾市,加古川市は,平均⽔準を上回っているが,姫路市においては平均⽔準を下回

るものとなっている。

⑸ 1店当たり販売額,⼈的効率,売場効率,平均店舗規模の関係

以上,3都市⼩売業の1店当たり販売額を規定する要因として,⼈的効率,1店あたり従業者数,

売場効率,平均店舗規模についてみてきたが,これら4要因のうちでは,平均店舗規模の伸び(91.3%

増)が1店当たり販売額の増加に最も⼤きな影響を与えている。他の要因である⼈的効率は増減な

第7巻 第3号156

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し,売場効率においては減少がみられる。

この1店当たり販売額の変動を規定する要因としての諸要因の関係を都市別にみると,まず,諸

要因のうちで,売場効率においては3都市ともに減少がみられるので1店当たり販売額の増加に寄

与しているといえない。次に,⼈的効率では,加古川市においては減少,神⼾市,姫路市において

は若⼲の伸びが⾒られるものの1店当たり販売額の増加に寄与しているといえるほどの⼤きな変動

ではない。つまり,3都市⼩売業の1店当たり販売額の増加を規定する要因としては,平均店舗規

模の伸びが最も⼤きく寄与しているということがいえる。とくに加古川市においては,⼈的効率,

売場効率の2要因に減少がみられることから,1店当たり販売額の増加は平均店舗規模の伸びのみ

に依存しているということがわかる。

⑹ 販売額,売場効率,売場⾯積の関係

前出の第4式は,販売額の変動が売場⾯積の変動と売場効率の変動とに依存することを⺬してい

る。3都市⼩売業の販売額の変動を指数化して関係式を作成すると,次のようになる。

1.315(販売額)= 1.551(売場⾯積)× 0.848(売場効率)

すなわち,1985 年から 2002 年にかけて3都市⼩売業の販売額の伸び率(31.5%)を実現する契機

となったものは売場⾯積の伸び(55.1%増)である。また,都市別にみても同様の結果がみられ,

販売額の増加は,売場⾯積の伸び(増床)のみに依存しているという傾向があり,販売効率の改善

が3都市⼩売業にとっての課題であるということがいえる。

⑺ 分析のまとめ

加古川市……販売額および店舗効率を⺬す1店当たり販売額の増加率は3都市のなかで最も⾼い⽔

準となっている。それを⽀える要因として売場⾯積,平均店舗規模,の⼤幅な増加が

あげられる。しかし,売場効率,⼈的効率の両指標ともに減少しており,販売効率は

販売額の増加に貢献していないといえる。

姫路市………1店当たり販売額,売場⾯積,平均店舗規模が3都市のなかでもっとも低い⽔準となっ

ている。とくに平均店舗規模の増加が加古川市,神⼾市と⽐較して著しく少ないため,

販売額の伸びが3都市のなかで最も低い⽔準となっている。

神⼾市………平均店舗規模の増加による1店当たり販売額の増加が販売額の増加に寄与している。

また,販売効率指標の⼈的効率が3都市のなかでは唯⼀増加しているが,販売額の増

加に貢献できるほど⾼い⽔準ではないといえる。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 157

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7.3都市飲⾷料品⼩売業の集中度と販売額変動要因

7-1 店舗集中度と販売集中度

⑴ 飲⾷料品⼩売業の店舗集中度と⼈⼝集中度の推移

上の表は,神⼾市,姫路市,加古川市の3都市の飲⾷料品⼩売業の店舗集中度と⼈⼝集中度を⺬

したものである。まず,2002 年の3都市の店舗集中度をみると,神⼾市(28.30%)の⽔準が最も⾼

く,⼩売業全体と同様,兵庫県の総店舗数の 25%以上が神⼾市に集中していることがわかる。つい

で,姫路市(8.70%),加古川市(3.68%)となっている。

1985 年から 2002 年にかけての店舗集中度の推移をみると,神⼾市,加古川市では店舗集中度は

わずかに上昇しているが,姫路市においては減少がみられ,先ほどの⼩売業全体の店舗集中度の推

移とは様相を異にしている。

1985 年から 2002 年にかけての店舗集中度の推移をみると,3都市ともに店舗集中度は上昇して

いるが,なかでも加古川市の上昇率(1.108倍)が最も⼤きい。また,3都市の⼈⼝集中度も同様に

増加しており,加古川市の増加率(1.109倍)が最も⾼い⽔準となっている。

さらに,店舗集中度を⼈⼝集中度で除した数値を指数表⺬した店舗集中度 /⼈⼝集中度⽐率をみ

ると,2002 年でこの数値が 100 を超えているのは神⼾市,姫路市で逆に 100以下となっているのは

加古川市である。

また,3都市のなかでは神⼾市の⽐率が最も⾼く,加古川市が最も低い⽔準となっている。先ほ

どの⼩売業全体の⽐率においては,姫路市が最も⾼い⽔準となっていたが,飲⾷料品の場合では店

舗集中度に減少がみられることから,姫路市の 1985 年から 2002 年にかけての店舗集中度増加には

飲⾷料品⼩売業以外の⼩売業が影響しているということがわかる。しかしながら,姫路市飲⾷料品

⼩売業の⽐率においても 100 を越えていることから飲⾷料品⼩売業も⼩売業全体と同様に競争関係

が厳しくなり,競合関係は緊迫しているといえる。

次に,1985 年から 2002 年にかけての飲⾷料品⼩売業の店舗集中度・⼈⼝集中度⽐率の推移をみ

ると,3都市ともに減少していることがわかる。つまり,3都市飲⾷料品⼩売業においては,この

期間,店舗集中度の増加および減少よりも,⼈⼝集中度の増加が多かったので⽐率に減少がみられ,

⼈⼝集中度および店舗集中度のみでみるかぎりには3都市飲⾷料品⼩売業の競合関係はやや緩和し

第7巻 第3号158

表7-1-1 3都市飲⾷料品⼩売業の店舗集中度と⼈⼝集中度の推移

店舗集中度 ⼈⼝集中度 店舗集中度/⼈⼝集中度

(A) (B) ⽐率(A/B)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 3.39 3.68 1.085 4.31 4.78 1.109 78.73 77.01 0.978

姫路市 8.89 8.70 0.979 8.58 8.60 1.003 103.55 101.11 0.976

神⼾市 28.15 28.30 1.005 26.73 27.07 1.013 105.31 104.55 0.993

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版,『商

業統計表』各年版より作成。

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たといえる。

⑵ 販売集中度の推移

都市⼩売業の販売⼒ないし地域間競争⼒の実態を端的に表す指標である販売集中度から,3都市

飲⾷料品⼩売業の集積状況をとらえると,2002 年の3都市販売集中度は,神⼾市が 29.49%と県全

体の総販売額の約3割を占めており,次いで姫路市(8.94%),加古川市(4.20%)となっている。

上の表から⼩売業全体と同様,飲⾷料品⼩売業においても神⼾市への販売⼒集中ないし購買⼒集中

がいかに⼤きいものであるかがわかる。

また,販売集中度の都市別特性を明かにするために,⼈⼝集中度に対する販売集中度の⽐率をみ

ると,この数値が最も⼤きい都市は3都市の中では神⼾市(108.94)で,次いで姫路市(103.91),

加古川市(87.90)となっており,姫路市,神⼾市の2都市では⼈⼝集積に対⽐して,販売集積が⼤

きいので,購買集中⼒も相対的に⼤きいといえる。

さらに,1985 年から 2002 年にかけての販売集中度の推移をみると,姫路市,加古川市が販売集中

度を⾼めている。また,この期間に販売集中度を低下させている神⼾市では,⼈⼝集中度はわずか

に増加したが,販売集中度が低下したために,⼈⼝集中度に対する販売集中度の⽐率も低下してい

る。とくに姫路市は,⼩売業全体の推移では,販売集中度および販売集中度 /⼈⼝集中度の⽐率と

もに減少がみられるが,飲⾷料品⼩売業においては,両指標とも増加しており,⼩売業全体の推移

とは異なり,飲⾷料品⼩売業では購買集中の⽔準は 1985 年と⽐較して増加したといえる。

7-2 3都市飲⾷料品⼩売業における販売額変動要因の分析

表 7-2 は,1985 年を基準(1.000)にして,2002 年の3都市飲⾷料品⼩売業の商店数,販売額,

売場⾯積を指数化し,さらに,3都市の1店当たり従業者数,1店当たり売場⾯積,⼈的効率,売

場効率などの変動値を指数化して⺬したものである。ここでは,⼩売業全体と同様に,この表に依

拠しながら,3都市飲⾷料品⼩売業における活動成果について分析を試みることにする。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 159

表7-1-2 3都市飲⾷料品⼩売業の販売集中度の推移

販売集中度 販売集中度/⼈⼝集中度

(C) ⽐率(C/B)

1985年 2002年 02/85 1985年 2002年 02/85

加古川市 3.86 4.20 1.087 89.71 87.90 0.980

姫路市 8.60 8.94 1.040 100.18 103.91 1.037

神⼾市 29.98 29.49 0.983 112.16 108.94 0.971

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町

別主要統計指標』各年版,『商業統計表』各年版より作成。

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⑴ 販売額,商店数,1店当たり販売額の関係

まず,第1式を基礎として,これら3要因の関係を捕らえることにする。

1985 年から 2002 年にかけての3都市飲⾷料品⼩売業の販売額の変動を全体としてとらえると,

次のような関係式で⺬すことができる。

1.260(販売額)= 0.682(商店数)× 1.848(1店当たり販売額)

すなわち3都市飲⾷料品⼩売業の販売額は,この期間に,26.0%の増加を達成しているが,それ

は,商店数が 31.8%の⼩売業全体の減少率を上回る⼤幅な減少となっているにもかかわらず1店当

たり販売額が 84.8%の⼤幅な増加によって達成されたというものである。

このような販売額,商店数および1店当たり販売額との関係を都市別にみていくと,⼩売業全体

の場合と同様,3都市ともに商店数は減少,1店当たり販売額は⼤幅に増加しており,3都市にお

いては,1店当たり販売額の著しい伸びによって販売額の⽔準が上昇しているといえる。したがっ

て,⼀般的にいえば,1985 年から 2002 年にかけての推移において販売額の増加に寄与した基本的

な要因は,商店数ではなく1店当たり販売額で⺬される店舗効率であり,とくに飲⾷料品⼩売業に

おいてはその傾向が顕著にみることができる。また,⼩売業全体では加古川市が1店当たり販売額,

販売額の両指標とも最も⾼い⽔準であったが,飲⾷料品⼩売業の場合では販売額は加古川市が最も

⾼い⽔準であるが,1店当たり販売額においては姫路市が最も⾼い⽔準となっている。つまり,こ

の期間,姫路市飲⾷料品⼩売業の店舗効率は⼩売業全体の推移とは異なり,⼤幅な伸びがあったと

いえる。

⑵ 1店当たり販売額,⼈的効率,1店当たり従業者数の関係

先ほどの第2式を⽤いて,3都市⼩売業の販売額の変動の原因をこれらの3つの要因に分けて⺬

すと次の式で表される。

1.260= 0.682× 0.945(⼈的効率)× 1.956(1店当たり従業者数)

第7巻 第3号160

表7-2 3都市飲⾷料品⼩売業の販売額変動要因の推移

販売額 商店数 従業者数 売場⾯積 1店当たり販売額

加古川市 1.320 0.723 1.429 1.359 1.826

姫路市 1.264 0.653 1.300 1.155 1.936

神⼾市 1.195 0.670 1.275 1.219 1.783

平 均 1.260 0.682 1.335 1.244 1.848

⼈的効率 1店当たり従業者数 売場効率 平均店舗規模

加古川市 0.924 1.975 0.971 1.879

姫路市 0.972 1.991 1.094 1.770

神⼾市 0.937 1.902 0.981 1.818

平 均 0.945 1.956 1.015 1.823

(資料)『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版,『兵庫県市区町別主要

統計指標』各年版,『商業統計表』各年版より作成。

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次に,1店当たりの販売額を規定する要因としての⼈的効率と1店当たり従業者数の関係をみる

ことにする。1店当たり販売額は,⼈的効率と1店当たり従業者数の積であることから次の式が成

⽴する。

1.848= 0.945(⼈的効率)× 1.956(1店当たり従業者数)

すなわち,3都市⼩売業の1店当たり販売額は 1985 年から 2002 年にかけて 84.8%の増加となっ

ているが,この1店当たり販売額の増⼤に寄与した要因は,⼈的効率ではなく,1店当たり従業者

数が 95.6%増加したことが⼤きな影響を与えているといえる。また,⼈的効率は,⼩売業全体の⽔

準よりも低く,1店当たり従業者数においては⼤幅に上回っており,飲⾷料品⼩売業の場合1店当

たり販売額の増加に1店当たり従業者数の増加が⼩売業全体と⽐較して⼤きな影響を与えているも

のと考えられる。

これを都市別にみていくと,⼈的効率が平均⽔準を上回っている都市は,姫路市のみで,神⼾市,

加古川市は平均⽔準を下回っている。しかし,⼈的効率が平均⽔準を上回っている姫路市において

も 1985 年からの推移では 2.8%の悪化がみられる。また,1店あたり従業者数では3都市ともに

90%以上の増加がみられ,⼩売業全体と⽐較しても⼤幅な伸びであることがわかる。

⑶ 1店当たり販売額,売場効率,店舗規模の関係

第3式は,販売額の変動が商店数の変動,売場効率の変動および平均店舗規模の変動といった3

要因から成り⽴っていることを意味し,3都市飲⾷料品⼩売業の販売額の変動の原因を3要因に分

けて⺬すと以下の式で表現される。

1.260= 0.682× 1.015(売場効率)× 1.823(平均店舗規模)

ここでも先ほどと同様に,1店当たり販売額ないし店舗効率という⼩売活動成果に規定的なイン

パクトを与える要因としての売場効率と平均店舗規模の2要因についての関係をみることにする。

この1店当たり販売額の増加分は,売場効率の減少分および平均店舗規模の増加分との積に分解

されるので,以下の式が成⽴する。

1.848= 1.015(売場効率)× 1.823(平均店舗規模)

すなわち,1985 年から 2002 年にかけて3都市⼩売業の1店当たり販売額の増加率は,84.8%で

あるが,この増加をもたらした要因は,売場効率の 1.5%増,平均店舗規模の 82.3%増に基づくも

のである。つまり3都市全体としてみると飲⾷料品⼩売業においても,売場効率にあまり増加はみ

られず平均店舗規模の著しい伸びが3都市の飲⾷料品⼩売業の1店当たり販売額の増加をもたらし

た要因であると考えられる。ともに売場効率は減少しているが,平均店舗規模は増加している。し

かし,⼩売業全体の売場効率の推移では,3都市ともに減少がみられたが,飲⾷料品⼩売業では姫

路市において増加がみられ神⼾市,加古川市の2都市の減少率も低いことから,飲⾷料品⼩売業は

他の⼩売業と⽐較して,売場の効率性が⾼いということがいえる。

また,1店当たり販売額の上昇に⼤きな影響を与えている要因としての平均店舗規模の推移につ

いてみると,神⼾市,加古川市は,平均⽔準を上回っているが,姫路市においては平均⽔準を下回

るものとなっている。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 161

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⑷ 1店当たり販売額,⼈的効率,売場効率,平均店舗規模の関係

1店当たり販売額の変動を規定する要因として,3都市飲⾷料品⼩売業では,平均店舗規模の伸

び(82.3%),売場効率の伸び(1.5%)の2要因の影響が1店当たり販売額の伸びに影響を及ぼし

ているようである。

この諸要因の関係を都市別にみていくと,神⼾市,加古川市の2都市では⼈的効率,売場効率の

2要因で減少がみられるため,1店当たり販売額の増加は平均店舗規模の伸びのみに依存している

ということがわかる。姫路市においては,平均店舗規模の伸びは3都市の中で最も低い⽔準となっ

ているが,3都市間で唯⼀,売場効率に増加がみられるため,飲⾷料品⼩売業の1店当たり販売額

の伸びが3都市間では最も⾼い⽔準の伸びとなっており,わずかではあるが売場効率の伸びが1店

当たり販売額の増加に寄与しているといえる。

⑸ 販売額,売場効率,売場⾯積の関係

3都市飲⾷料品⼩売業の販売額,売場⾯積,売場効率の変動を指数化して関係式を作成すると,

次のようになる。

1.260= 1.244(売場⾯積)× 1.015(売場効率)

すなわち,1985 年から 2002 年にかけての3都市飲⾷料品⼩売業の販売額の伸び率(26.0%)は,

売場⾯積の伸び(24.4%)と売場効率の伸び(1.5%)によって達成されたものであるといえる。つ

まり,3都市飲⾷料品⼩売業全体としてみると,売場⾯積の伸びが売場効率の伸びをはるかに上回っ

ているのである。都市別にみると加古川市においてこの傾向が顕著に現れている。

以上,3都市飲⾷料品⼩売業の販売額変動要因についてみてきたが,販売額増加において3都市

ともに,規模の拡⼤に依存する⾯が強く,⼩売業全体と同様に⼈的効率,売場効率などの販売効率

⾯での改善が3都市飲⾷料品⼩売業にとっての課題であるといえる。

また,⼩売業全体の場合と異なる点として,⼈的効率は⼩売業全体と⽐較して低い⽔準であるが

1店当たり販売額は⾼い⽔準で推移していることがあげられるが,販売額変動要因に平均店舗規模

の⼤幅な増加が⼤きく寄与していることは⼩売業全体と同様であり,3都市ともに飲⾷料品の⼩売

業において店舗の⼤型化が進展しているということがいえる。

⑹ 分析のまとめ

加古川市……販売額,平均店舗規模の増加率は3都市のなかでは最も⾼い⽔準であるが,売場効率

が3都市のなかで最も低い⽔準となっており,販売効率の両指標ともに3都市のなか

で最も低い⽔準となっている。

姫路市………平均店舗規模は3都市のなかで最も低い⽔準であるが,1店当たり販売額の⼤幅な増

加が販売額の増加に貢献している。また,販売効率の両指標が3都市のなかで最も⾼

い⽔準であることが,1店当たり販売額の増加に⼤きく寄与しているといえる。

神⼾市………販売額の増加率が3都市間で最も低い⽔準となっている。その要因として1店当たり

販売額が3都市のなかでもっとも低い⽔準であることと,売場効率,⼈的効率の両指

標ともに減少していることがあげられる。

第7巻 第3号162

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8.基礎的環境要因の分析

8-1 3都市の⼈⼝構造分析

都市⼩売業にとって⼈⼝構造の分析は最も重要な要因であり,エリア・マーケティングを展開す

るにあたり⼈⼝構造を把握することは,⼩売業が販売戦略を⾏うために⾮常に有意となる。先ほど

の産業組織論的分析に加え,⼩売業における基礎的環境要因である3都市の⼈⼝構造の分析を⾏っ

ていく。

まず,⾏政⼈⼝の変化であるが,産業組織論的分析で⾏ったように3都市ともに増加傾向がみら

れる。次いで世帯数であるが,3都市ともに増加がみられ,加古川市では 64,965世帯から 92,016

世帯へと 1985 年から 2002 年の推移では3都市のなかで最も⾼い⽔準である 41.6%の増加がみら

れる。姫路市,神⼾市においても 25%以上の増加がみられる。また,1世帯当たり⼈数においては,

姫路市が最も⾼い 17.6%の減少がみられ,加古川市,神⼾市の2都市についても 15%以上の減少が

みられ,1985 年から 2002 年の期間,3都市ともに1世帯当たり⼈数の減少が進展していることが

わかる。

さらに,2000 年の 15歳から 64歳までの⽣産年齢⼈⼝の推移においては,加古川市で 22.3%の増

加,姫路市 6.4%,神⼾市 5.6%の増加がみられる。⼀般的に,⽣産年齢⼈⼝に減少傾向がみられる

と,消費,教育,住宅など多くの分野で需要が減少し,市場は縮⼩するといわれている。しかしな

がら,3都市において⽣産年齢⼈⼝は増加傾向にあり,とくに加古川市においては 20%以上の増加

がみられ,1985 年と⽐較すると消費等の需要は増加しているということができる。この加古川市の

⽣産年齢⼈⼝の増加要因として,昼間⼈⼝⽐率が他の2都市と⽐較して,86.8%と⼤幅に低く(姫

路市 105.4%,神⼾市 103.0%),加古川市がベットタウンとしての機能が強いということがあげら

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 163

表8-1-1 3都市の⼈⼝構造の推移

⾏政⼈⼝(⼈) 世帯数(世帯)

1985年 2002年 02/85(倍) 1985年 2002年 02/85(倍)

加古川市 227,311 266,558 1.173 64,965 92,016 1.416

姫路市 452,917 480,187 1.060 135,618 174,449 1.286

神⼾市 1,410,834 1,510,468 1.071 487,849 628,280 1.288

兵庫県 5,278,050 5,580,858 1.057 1,666,981 2,100,565 1.260

⼀世帯当たり⼈数(⼈) ⽣産年齢⼈⼝(15∼64歳)

1985年 2002年 02/85(倍) 1985年 2000年 00/85(倍)

加古川市 3.499 2.897 0.828 152,321 186,220 1.223

姫路市 3.340 2.753 0.824 305,629 325,135 1.064

神⼾市 2.892 2.404 0.831 977,902 1,033,013 1.056

兵庫県 3.166 2.657 0.839 3,581,543 3,776,483 1.054

(資料)『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版より作成。

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れる。

3都市の⼈⼝構成⽐率では,0歳∼ 14歳までの年少⼈⼝割合においては姫路市が 34.8%と最も

⾼い減少率を⺬しており,加古川市,神⼾市の2都市においても同様に⼤幅な減少がみられる。ま

た,65歳以上の⽼年⼈⼝割合は,3都市ともに 60%以上の増加がみられ,とくに加古川市において

は 72.2%と⼤幅な増加傾向を⺬している。しかしながら,この⼤幅な増加は,1985 年時点の割合が

7.9%と3都市間で最も低い⽔準であったことが⼤きな要因であり,3都市のなかで加古川市の⽼

年⼈⼝割合は最も低い⽔準の 13.6%となっている。さらに3都市の⽼年⼈⼝割合と年少⼈⼝割合

を⽐較してみると,神⼾市では⽼年⼈⼝割合が年少⼈⼝割合を上回っており,姫路市ではほぼ同じ

割合になっているのに対し,加古川市においては,年少⼈⼝割合が⽼年⼈⼝割合を上回っており,

⼈⼝⽐率割合のみでみると,少⼦⾼齢化は3都市ともに進展しているが,加古川市は3都市のなか

で相対的に少⼦⾼齢化の進展の度合いが遅いものと考えられる。

次に,⼈⼝増減の要因である⾃然増減と社会増減についてみていく。⼈⼝の増減には,出⽣・死

亡による「⾃然増減」と,転⼊・転出による(社会増減)の2つの要因がある。⾃然増は,晩婚化

や出⽣率の低下により,全国的に減少傾向にあり,このような状況での都市の活⼒は⾃然増減より

も社会増減が⼤きなウェイトを占めているといえる。3都市のそれぞれ対前年度の社会増減数をみ

ていくと,神⼾市のみ 4,320 ⼈の増加で,加古川市(1,400 ⼈),姫路市(746 ⼈)の減少がみられ

る。姫路市では,1985 年と⽐較すると 2,156 ⼈の減少から 746 ⼈への減少と社会増減数に改善がみ

られるが,加古川市においては,712 ⼈の増加から 1,400 ⼈の減少へと⼤幅な減少をみることがで

第7巻 第3号164

表8-1-2 3都市の年少⼈⼝割合,⽼年⼈⼝割合の推移

年少⼈⼝割合(0∼14歳)(%) ⽼年⼈⼝割合(65歳以上)(%)

1985年 2000年 00/85(倍) 1985年 2000年 00/85(倍)

加古川市 22.8 16.3 0.715 7.9 13.6 1.722

姫路市 25.0 16.3 0.652 9.8 15.7 1.602

神⼾市 20.5 13.8 0.673 10.1 16.9 1.673

兵庫県 21.8 15.0 0.688 10.3 16.9 1.641

(資料)『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版より作成。

表8-1-3 3都市の⼈⼝増減の推移

⾃然増減数(⼈) 社会増減数(⼈)

1985年 2002年 1985年 2002年

加古川市 1,721 918 712 −1,400

姫路市 3,141 1,616 −2,156 −746

神⼾市 7,499 1,859 3,921 4,320

兵庫県 31,522 10,231 −5,928 1,188

(資料)『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版より作成。

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きる。都市のおける転出数の増加は顧客の流出と同様のことであり,加古川市⼩売業にとって⼤き

な問題であるといえる。

8-2 3都市の所得分析

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 165

表8-2 3都市の年間収⼊階級

加古川市年間収⼊階級 姫路市年間収⼊階級 神⼾市年間収⼊階級

1998年 構成⽐ 1998年 構成⽐ 1998年 構成⽐

200万円未満 8,410 10.13% 22,940 14.59% 98,300 17.56%

200∼300 8,170 9.84% 19,270 12.26% 66,090 11.81%

300∼400 9,770 11.76% 21,880 13.92% 66,640 11.91%

400∼500 10,060 12.11% 20,800 13.23% 57,230 10.22%

500∼700 18,630 22.43% 28,250 17.97% 86,170 15.39%

700∼1,000 15,940 19.19% 24,240 15.42% 85,690 15.31%

1,000∼1,500 6,990 8.42% 11,730 7.46% 47,760 8.53%

1,500万円以上 1,870 2.25% 3,680 2.34% 17,090 3.05%

普通世帯総数 83,060 100.00% 157,190 100.00% 559,730 100.00%

(資料)『住宅・⼟地統計』1998年より作成。

図 8-2 3都市の所得階級⽐率

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3都市の所得の状況を 1998 年の住宅・⼟地統計による年間収⼊階級をみてみると,所得 200万円

未満の世帯が加古川市では 10.13%と低い⽔準であるのに対し,姫路市(14.59%),神⼾市(17.56%)

と⾼い⽔準になっている。また,年間収⼊階級の構成⽐が 20.0%を超えているのは3都市のなかで

加古川市の年間収⼊ 500∼ 700万円のみであり,3都市の各世帯の所得は分散傾向にあるといえる。

さらに図 8-2 に⺬すように,神⼾市は所得の分化が進んでおり,姫路市は低所得者層が多いが,加

古川市においては中産階級の世帯が多い都市であるということがわかる。しかしながら,この所得

の分散傾向は分析対象時点である 2002 年では加古川市においても進展していると考えられる。以

前は,中流層に⽬を向けたマーケティング活動のみを⾏っていれば事⾜りていたが,現在では「低

価格訴求」と「価値訴求」という消費の⼆極化という,市場構造の出現により,今後は,顧客の細

分化および各細分化層のニーズへの対応が⼩売業者に求められている。

9.エリア・マーケティングの展開に向けて――加古川市飲⾷料品⼩売業の販売戦略――

9-1 加古川市の飲⾷料品⼩売業の特徴

加古川市の飲⾷料品⼩売業の販売戦略を考察するに当たり,先ほどの産業組織論的分析などから

姫路市,神⼾市飲⾷料品⼩売業との⽐較分析および 1985 年と時系列⽐較を⾏ってきた。この分析

のなかで加古川市飲⾷料品⼩売業が他の2都市と⽐較して優位である点,また,劣っている点,お

よび都市的な特徴をあげると次のようなことがいえる。

まず,時系列での⽐較および,姫路市,神⼾市の飲⾷料⼩売業との⽐較で加古川市が他の2都市

よりも最も優位であるといえる点は,基礎的環境要因の⾏政⼈⼝である。⼈⼝の規模は3都市のな

かで最も⼩さいものであるが,増加率が 1985 年からの推移のなかで 17.3%と姫路市,神⼾市と⽐

較して 10%以上⾼い⽔準となっている。また,⼈⼝構造においても世帯数増加率,1世帯当たり⼈

数,⽣産年齢⼈⼝割合の増加率が3都市のなかで最も⾼い⽔準となっている。さらに,⽼年⼈⼝割

合についてであるが,増加率においては3都市のなかで最も⾼い⽔準となっているが,その⽔準は

13.6%と3都市の中では最も低い⽔準であり,⽼年⼈⼝割合と年少⼈⼝割合を⽐較してみると,神

⼾市では⽼年⼈⼝割合が年少⼈⼝割合を上回っており,姫路市ではほぼ同じ割合になっているのに

対し,加古川市においては,年少⼈⼝割合が⽼年⼈⼝割合を上回っており,この指標の⼈⼝⽐率割

合のみでみると,少⼦⾼齢化は3都市ともに進展しているが,加古川市は3都市のなかで⽐較的少

⼦⾼齢化の進展が緩やかであり,他の2都市と⽐較して少⼦⾼齢化が原因による消費の減少傾向は

まったくないとはいえないが,相対的に減少傾向は⼩さいものであると考えられる。また,所得構

造の要因であるが3都市ともに所得格差はあるものの加古川市は3都市の中では年収 300万円以下

の低所得者層割合が低く3都市のなかでは相対的に所得格差の進展は緩やかであり,加古川市⺠が

価格訴求型ではなく,価値訴求型である可能性が⾼いということがいえる。すなわち,中産階級層

が⽐較的多いということは,価格が⾼くてもより安全で安⼼のできる⾷品を選択する可能性が⾼い

ということが考えられる。

もう1つ,優位である点として考えられるのは,平均店舗規模の増加である。加古川市飲⾷料品

⼩売業の平均店舗規模は⽔準,増加率ともに3都市のなかで最も⾼い⽔準となっている。この平均

店舗規模の増加は,施設の充実によるワンストップ・ショッピング性も増加したと考えられ,消費

第7巻 第3号166

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者(顧客)に対する利便性や満⾜の上昇に貢献していると考えられる。この平均店舗規模の⽔準の

⾼さおよび⼤幅な増加は加古川市の飲⾷料品⼩売業の都市的な特徴としてとらえることができる。

次に,加古川市の飲⾷料品⼩売業が姫路市および神⼾市の飲⾷料品⼩売業よりも劣っている点と

して販売効率が3都市のなかで最も⾼い減少率にあることがあげられる。また,⼈⼝構造では社会

増減数が 1,400 ⼈減と3都市のなかで最も⾼く,⼩売業にとっては顧客の流出をみているのと同様

のことになる。また,吸引度指数をみると姫路市,神⼾市においては顧客の流⼊がみられるが,加

古川市では商業⼈⼝において⼤幅な増加がみられるが,吸引度指数1を下回る顧客流出都市である

ということが⼤きな課題であるということがわかる。

9-2 加古川市の飲⾷料品⼩売業の販売戦略の展開

加古川市飲⾷料品⼩売業は最も基礎的な環境要因である⾏政⼈⼝要因において⼈⼝規模は3都市

ともに異なっているが 1985 年からの推移や⾏政⼈⼝に対しての割合をみるかぎりでは加古川市は

3都市の中で基礎的環境要因においては最も優位な位置にあるといえる。しかしながら,⼤きな課

題として顧客吸引度指数を1以上の顧客流⼊都市にする必要がある。そのためには販売額の⼤幅な

増加をみることのできる販売戦略を考察しなければならない。なぜならば,販売額は⼩売成果指標

を⼤きく左右させる要因を持つものだからである。

⼩売業の競争を都市間で捉えた場合,加古川市の飲⾷料品⼩売業の⾏う販売戦略の1つとして加

古川市を含めての地産池消の展開が考えられる。販売戦略として飲⾷料品⼩売業における地産地消

のさらなる展開が必要である理由として現在,価格やおいしさと同様に⾷に対する安全性や安⼼を

得るための⽅策として⽣産履歴の開⺬等が消費者(顧客)から強く求められているからである。地

産地消(産直)に先駆的に取り組んできた⽣協は,その⽤件を産直3原則として次のように定式化

している。第1に⽣産者が明確であること,第2に⽣産の⽅法が明かであること,第3に消費者と

⽣産者とが交互に交流できることである。これは消費者が⾃らの⾷⽣活に必要な⾷材を「⾃分たち

の⽬と声の届く範囲」に取り戻すことであり,顔の⾒える取引であるということを意味しており,

消費者ニーズである⾷の安全,安⼼を得るための⽣産履歴の開⺬という要件を満たすものであると

いえる。

また,地産地消のメリットは,提携にもとづく特定の⽣産者との関係を通じて,商品交換を超え

た情報の交換と蓄積が可能となり,このことを通じて消費者の商品への関与が,単なる品揃え形成

の問題を超えて商品開発や⽣産⽅法の改善など,⽣産過程にまで直接及ぶことになる。さらにその

情報交換を⼀⽅向的ではなく双⽅向的にすることにより消費者ニーズに適合した商品開発を進める

⼀⽅で,同時に,⽣産サイドの事情を含めた商品の開発とそれに即した消費の組織化を⾏うことが

できる。これにより消費者は⽣産現場の様⼦が⾒えやすい安全でニーズに適合した⾷材を購⼊する

ことができる。さらに,W/R⽐率(卸売販売⾦額 /⼩売販売⾦額)の低下による中間マージンのカッ

トやリードタイムの短縮化をみることができ,⼩売業者の利益率の向上に寄与することになる。こ

のように地産地消においては情報の共有を基礎とした⽣産と消費の経路を形成することができ,そ

れを通じて消費者ニーズや供給量に事前に把握,調整することができ,⼤量消費,⼤量⽣産のもと

で軽視されていた⾷品本来の価値の⾒直しを実現することになる。さらに,地産地消は,消費者に

新鮮でおいしく,かつ安価な⾷材を供給するだけでなく,地元の農漁業に対する住⺠の理解を⾼め,

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 167

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間接的ではあるが⾷料⾃給率の向上などの地域経済のバランスある発展に貢献するものである。ま

た,加古川市⺠の所得が⽐較的⾼いということは⾼くてもより安全な⾷品を選択する可能性が⾼い

というメリットもある。

⼀⽅,地産地消のデメリットとして,⽣鮮⾷料品に関していえば安定した供給や品質が確保され

ないということがあげられる。その要因として通年販売ができないことなどがあげられる。⼩売業

にとって売れ残りによる廃棄ロスよりも品切れによる機会ロスのほうがダメージは⼤きく,地産地

消を⼩売業の主要な販売戦略として⾏っていくことに対して⼆の⾜を踏むのである。そのため⽣産

者から消費者までの⼀貫流通システムの構築,すなわち,川上(産地)から川下(⼩売業)に⾄る

までを⼀元的に管理する SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の構築が有効であると考えら

れる。この⼀貫流通システムの構築には県や市の政策や指導,協⼒も重要となってくる。なぜなら

ば,地産地消活動は⾷育や⾷農などの啓蒙活動や農業振興なども含まれる多様な側⾯を持つもので

あるため都市の「まちづくり」とも深くかかわってくるからである。

9-3 SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)の構築

地産地消のデメリットを改善するための⽅策として川上(産地)から川下(⼩売業)に⾄るまで

の SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)の構築が有効である。SCM(サプライ・チェーン・

マネージメント)(以下 SCM)とは,消費者に製品が届くまでの部品供給業者―製造業―卸―⼩売

などの複数の企業にまたがる調達,⽣産,販売,流通といった⼀連の業務である供給部分を全体最

適という点から効率化し市場変化に迅速に対応させる経営⼿法である。また,SCMを構成する概

念として『重複や⾮⽣産的な仕事を除去することによって効率を改善することのできる,⾼度に効

率的,効果的なビジネスが連結されたネットワークを意味する5)。』としている。この効率的ネット

ワークの構築を⾏うことは加古川市⼩売業の販売戦略において⾮常に重要となってくる。なぜなら

ば,安価で新鮮でありかつ安全性の⾼い⾷料品の供給においては⽣産者―卸―⼩売―消費者にとっ

ての個々の最適解ではなく⽣産から消費までの全体の最適解を求める必要があるからである。しか

しながら,⼀般に個々の最適解は全体の最適解ではなく,全体の最適解は個々の最適解ではないと

いうことがいえる。これについては,全体の最適解について個々が理解を深めるとともに,個々の

最適解のレベルを上げることによりにより全体の最適解へと近づけることが必要である。

⽣産から消費まで SCM構築を⾏う際に,考察すべき問題点は多くある。まず⽣産,製造段階に

おいての問題点は需要の不確実性であると考えられる。これは,⼩売段階での販売実績や販売の実

態が⽣産,製造段階ではみることができず⾮常に⼤きな需要の変動しか,製造,⽣産の段階では観

測できないからである。この問題については⽣産から消費にいたるまでの情報の共有化が必要であ

る。また,卸,⼩売段階における問題点としては,不良在庫,⽋品率の減少があげられる。この不

良在庫の減少は新鮮な⾷品の供給を⽋品率の減少は消費者ニーズにこたえるということをそれぞれ

意味している。この問題には正確な販売予測に基づく早期の発注や,発注数量の若⼲の変動には迅

速に対応できる仕組みが必要であるといえる。すなわち,⼩売から⽣産まで多段階における発注シ

ステムの構築により中⻑期的⽣産,販売計画を⽣産から⼩売段階までが共同で⾏うことが必要であ

る。また,⽣鮮⾷料品においては⼩売段階からの発注の精度を上げるためには⽣産者から⼩売業者

の⼿に届くまでのリードタイムの短縮が不可⽋である。なぜならば,⽣産地と消費地が近郊であれ

第7巻 第3号168

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ばあるほど物流コストを削減し,安価で新鮮な⾷料品の流通が可能となり,⽣産者から消費者まで

の情報の共有が⽐較的容易となり,消費者⾃らが安全性の⾼い⾷品であるかまたニーズに合致した

ものであるかどうかということを検討することができるからである。このことは加古川市飲⾷料品

⼩売業の販売戦略を考察するに当たっては,地産地消を⾏うことが望ましいということを⺬唆して

いる。また情報の共有が遠隔地よりも容易に⾏えるということはということは,情報劣化が起こり

にくく「ブルウィップ効果6)」の抑制につながるという利点もある。さらに,⽣産から消費までの情

報の共有化は「市場変化や需要の不確実性に対して,不良在庫を最⼩化する」ことと「消費者ニー

ズへの対応および⼩売段階におけるチャンスロスの最⼩化を⾏うためリードタイムを短縮し,⾷料

品を供給する」という2つの課題に対応できるものであるといえる。この近郊における⽣鮮⾷料品

流通の SCMの効率化のためには,⽣産者から消費者までの協⼒的な関係の構築が必要不可⽋であ

る。

なぜならば,この⽣産者から消費者までの協⼒的な関係の構築によって SCMの効率化が図られ

るのであるが,SCMの効率化のためには⽣産から消費に⾄るまでのそれぞれの箇所で協⼒関係を

⾏うことのメリットを与える必要がある。つまり,それぞれの箇所で協⼒関係を⾏うことのメリッ

トがなければ,全体の最適解よりも個々の最適解のみを優先し,SCMの効率化に⽀障をきたすおそ

れがあるからである。また,近郊における⽣鮮⾷料品流通のメリットとしては,①顔が⾒える流通

である,②鮮度維持が容易,③旬の⾷材が流通される,④適熟品の取引が可能,⑤輸送による品質

劣化が少ない,⑥流通コストの削減につながる,⑦域外産地に対するけん制になる,等があげられ

る7)。これは,消費者にとっては安全性の⾼い,新鮮な⾷料品が安い価格で購⼊できるというメリッ

トがある。また卸売,⼩売業者にとっては安全性,鮮度が⾼い⾷料品を低い流通コストにより安価

で仕⼊れることができ,安全性の⾼い⾷料品を低価格で販売することにより,店舗としての信⽤を

販売することができ,消費者のストアロイヤリティを⾼めることができるというメリットがある。

さらに⽣産者においては卸,⼩売業者と契約を⾏い,⽣産物を相対取引にすることにより,需給不

均衡による価格変動の激しいセリ取引よりも,コンテナ単位で値決めされる相対取引のほうが年間

収⼊の予測などが⽴て易い事にメリットが⾒られる8)。また,加古川市および加古川市近郊の野菜

産地の多くは⼩規模で零細的であるのでまとまった物量の集荷を⾏うために産地仲買業者による集

荷を⾏うことが考えられる。その役割としては,①多くの場合,産地仲買業者が⽣産者の圃場を巡

回集荷することから,⾼齢⽣産者を中⼼に出荷労働の節減効果が⼤きい,②産地仲買業者の(⽣産

者への)⽀払い価格には,集荷⾯で競合関係にある卸売市場の価格が常に反映されており,価格形

成においても信頼できること,等が挙げられる9)。このような⽣産から消費までの SCMを⾏うこと

で得られるメリットについては先述のように互いの信頼関係,協⼒関係の構築,互いの理解を深め

ることが重要な課題となるのはいうまでもない。そのために提携にもとづく特定の産地や⽣産者と

の関係を通じて,信頼関係,協⼒関係の構築の⾏いやすい地産地消活動を⾏うことが⽣産から消費

にいたるすべての部分でメリットを得ることができる加古川市飲⾷料品⼩売業の販売戦略の1つと

して考えられる。さらに,地産地消活動をさらに効率よく推進するためには県や市と卸,⼩売業者

が連携して近郊でとれた⾷品の宣伝活動を⾏うことや加古川市が加古川市⺠に対して⾷育,⾷農,

農業振興(グリーンツーリズム)や,提携関係をもつことのできる⽣産者を育成,組織化すること

などを⾏うことも重要であるといえる。

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 169

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しかしながら,地産地消活動についてのデメリットとして安定した品質や供給が確保できないこ

とや通年販売ができないということは消費者ニーズを満たしているとはいえず,近郊⾷料品での⾷

料品流通を主要な販売戦略としておきながら卸売市場の集荷能⼒を利⽤し,品質,安全性の⾼い⾷

料品を広域から取り寄せることによって⾷料品の安定した品質,供給の確保,通年販売を⾏うこと

により消費者ニーズに対応する必要がある。

なぜならば,この販売戦略は主要とする顧客の主体が地元の消費者であるということであり,地

元住⺠との関係作りをすすめるのと同時に,さらに他都市の顧客との関係作りを⾏っていく必要が

あり,さまざまな消費ニーズに向けて多様で重層的な戦略の展開が求められているからである。加

古川市が顧客吸引度指数を1以上の顧客流⼊都市となるように加古川市飲⾷料品⼩売業が地産地消

活動を販売戦略として成功させるためには,まず加古川市⺠を顧客として他都市へ流出することを

防ぎ,⽣産者から消費者までがお互いに理解を深め,信頼,協⼒関係を構築するとともに,県や市

とも連携を⾏い「まちづくり」の観点から地産地消活動における協⼒関係を持ち,消費ニーズや加

古川市および周辺都市の地域特性を⼗分に把握した地域に根付いたマーケティング活動を地道に展

開していくことが望まれている。

おわりに

産業組織論的分析⼿法を⽤いて加古川市,姫路市,神⼾市飲⾷料品⼩売業および⼩売業の実態に

ついて 1985 年から 2002 年までの推移と3都市⽐較を⾏い,⼩売業における競争を都市間でとらえ

加古川市飲⾷料品⼩売業が商圏を拡⼤できる販売戦略について考察してきた。

まず,基礎的環境要因である⾏政⼈⼝では,都市の規模は違うが最も良好な結果がみられている

が,競争構造である販売効率が減少しているため,活動成果である顧客吸引度指数が1を下回ると

いう結果となっている。しかしながら,この期間の加古川市⼩売業および飲⾷料品⼩売業の販売額

は⼤幅な伸びを⺬しておりこのことから加古川市の販売額増加要因は平均店舗規模の拡⼤のみに依

存するものであるということが理解でき,販売効率の改善や吸引度指数の増加が今後の加古川市飲

⾷料品⼩売業および加古川市にとっての課題であるということがわかる。

その課題を克服するための販売戦略の1つとして⼩売業と加古川市が連携して地産地消活動を

⾏っていくということがあげられる。地産地消活動には⽣産から消費までの⼀元管理システムであ

る SCMの構築が必要であり,その効率化のためには⽣産者から消費者および加古川市との協⼒関

係の構築が必要不可⽋である。そのためには協⼒関係を構築することによるメリットを関係者すべ

てに与えることが必要である。

また,⼤型⼩売店舗においては地場野菜の販売など⾏い,顔の⾒える⽣鮮⾷料品の販売をしてお

り,年々近郊で収穫された⽣鮮⾷料品の販売品⽬や売場⾯積が拡⼤している傾向にあり,加古川市

飲⾷料品⼩売業は地産地消活動として地場野菜や近郊で収穫された⾷料品を販売しているのみでは

⼤型⼩売店舗や他都市との競争に勝つことはできない。この都市間での競争に勝つためにはまず⽣

産から⼩売までが市との協⼒関係を構築して加古川市のどの零細⼩売店においても加古川市近郊で

収穫された新鮮で安全かつ安価な⾷料品を販売できるような販路の確保などを⾏う必要がある。さ

らに協⼒関係を消費段階まで伸ばして消費者に理解と信頼を得ることにより,加古川市飲⾷料品⼩

第7巻 第3号170

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売業のどの店舗で販売される⾷料品も安全,安⼼で信頼できるという商品特性を持たせることによ

り加古川市の⾏う地産地消活動に稀少性を存在させ差別化を⾏うことが他都市との競争に勝つこと

のできる⽅策といえる。

また,地産地消活動やどのような販売戦略を⾏うにしても,地域住⺠のニーズや地域の特性を⼗

分に理解したマーケティング活動が必要であり,そのためには⼩売活動を⾏っている販売員の不断

の努⼒や販売に対する熱意,販売員1⼈1⼈の販売に対する意欲こそが,加古川市⼩売業全体が加

古川市⺠のみならず顧客を他都市から吸引するために最も重要なことである。

なお本稿は,兵庫⼤学経済情報研究科修⼠論⽂「地域市場の特性分析――エリア・マーケティン

グの展開に向けて――」を加筆・修正したものである。

注記

1)新庄浩⼆「産業組織論」[1995]有斐閣,2ページ

2)阿部真也「分析視⾓」九州流通⽩書編集委員会編[1982]『都市⼩売業の環境・構造・活動成果』九州流通政策

研究会,4ページ

3)同上論⽂,5-6ページ

4)鈴⽊武「都市⼩売業の集中度と販売額変動要因」建野堅誠 /岩永忠康編[1999]『都市⼩売業の構造と動態』創

成社,243ページ

5)松浦春樹 /島津誠他訳『サプライチェーン・ロジスティクス』[2004]朝倉書店,3ページ

6)久保幹夫「ロジスティクス⼯学」[2001]朝倉書店,47∼ 62ページ

7)藤⽥武弘「地場流通と卸売市場」[2000]財団法⼈農林統計協会,15ページ

8)藤⽥武弘「地場流通と卸売市場」[2000]財団法⼈農林統計協会,82ページ

9)藤⽥武弘「地場流通と卸売市場」[2000]財団法⼈農林統計協会,114ページ

参考⽂献

⑴ 新庄浩⼆[1995]『産業組織論』有斐閣

⑵ 渡辺達朗[2003]『流通政策⼊⾨』中央経済社

⑶ 建野堅誠 /岩永忠康編[1999]『都市⼩売業の構造と動態』創成社

⑷ Richard Caves [1967] American Industry : Structure, Conduct, Performance, 2nd ed. (Englewood Cliffs, New

Jersey : Prentice-Hall, Inc.)(⼩⻄唯雄訳[1968]『産業組織論』東洋経済新報社)

⑸ 九州流通⽩書編集委員会編[1982]『都市⼩売業の環境・構造・活動成果』九州流通政策研究会

⑹ 九州流通⽩書編集委員会編[1983]『都市における消費構造と消費ニーズの動向』九州流通政策研究会

⑺ ブレーン編集部編[1981]『実践的エリア・マーケティング』

⑻ ⽶⽥清紀[1977]『エリア・マーケティング』ダイヤモンド社

⑼ ⽜窪⼀省[1981]『商圏開発の戦略と実践』ダイヤモンド社

⑽ ⼤林⼀三[1990]『地域販売戦略』サンマーク出版

⑾ 関根孝 /横森豊雄編著[1998]『街づくりマーケティングの国際⽐較』同⽂舘

⑿ ⼩林隆⼀[2000]『基本エリア・マーケティング』評⾔社

⒀ 岩崎邦彦[1999]『都市とリージョナル・マーケティング』中央経済社

⒁ 福岡市商業近代化推進協議会編[2004]『⽴ち上がれ! 地域に⽀持される商店街を⽬指して』福岡市商業近代

化推進協議会

⒂ 九州経済調査会編[2004]『フードアイランド九州』九州経済調査会

加古川市・姫路市・神⼾市における市場の特性分析(仲川) 171

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⒃ 阿部真也監修[1993]『現代の消費と流通』ミネルヴァ書房

⒄ 三島徳三[2005]『地産地消と循環的農業』コモンズ

⒅ 三島徳三[2003]『暮らしのなかの⾷と農④地産地消が豊かで健康的な⾷⽣活をつくる』筑波書房

⒆ ⼆⽊季男[2004]『地産地消マーケティング』家の光協会

⒇ 松浦春樹 /島津誠他訳[2004]『サプライチェーン・ロジスティクス』朝倉書店

� 久保幹夫[2001]『ロジスティクス⼯学』朝倉書店

� ⽇本フードスペシャリスト協会編[2003]『⾷品の消費と流通――フードマーケティングの視点から――』建帛

� 藤⽥武弘[2000]『地場流通と卸売市場』財団法⼈農林統計協会

� ⽇本農業市場学会編集[1999]『現代卸売市場論』筑波書房

参考資料

⑴ 兵庫県統計協会『兵庫県の商業(商業統計調査結果表)』各年版

⑵ 兵庫県統計協会『兵庫県市区町別主要統計指標』各年版

⑶ 経済産業省経済政策局調査統計部編『商業統計表』各年版

⑷ 総務省統計局『住宅・⼟地統計』1998 年

第7巻 第3号172