看護師の不安の変化 - 徳島赤十字病院 · 2015-07-05 ·...

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医院咽 癌化学療法時のチェックリストを使用しての 看護師の不安の変化 増田千代美 山岡 康代 河野静香 岡田志保 徳島赤十字病院 l 号棟 6 要旨 当病棟では 、入院患者の約72.2% が悪性疾患患者であり、その入院患者に対 しでほぼ毎ー日の ように化学療法が行われ ている 。煩雑な業務の 中での化学療法に対する看護 師スタッフの不安は大きい 。そこで、スタッフの不安の内容をクド ・ パス法を 用いて明らかにし 、それをもとにチェックリストを作成した。そして、化学療法を「施行する日 J r 施行しな い日 jの不安傾 向について STAI 法に より調査し 、質問紙に より不安の程度の判定を行った。結果、化学療法を「施行 する日 jの不安傾 向は強 く、チ ェッ クリス トを使 用 した結果 、使用前後の絶対値 ( t) 1% 以下で、不安の軽減に有効で、 あると考えられる 。 キーワード:不安、チ ェック リスト 、癌化学療法、STAI はじめに 癌化学療法とはおもに抗癌剤を用いた治療のことで ある。看護を行う上で毒性の高い薬物を使用すること を念頭におき 、薬剤の管理 ・患者への適切な使用 -副 作用の予防、早期発見を行わなければならない¥)。当 病棟では入院患者の約72.2%(H13. 5 月 末 現 在 )を白 血病 ・悪性リンパ腫 ・肺癌が占め、その入院患者に対 してほぼ毎日のように化学療法がお こなわれてい る。 私達看護師は日々煩雑な業務に追われながら化学療 法を行っている。そして、化学療法を行う際には特に 神経質になり 「何か起こりはしないかJ I 何か間違い を起こしはしないか」と いう不安を抱 えながら業務を 行っている。そこでスタッフの不安とは具体的にどの ようなものなのかを調査しその不安を軽減させること を目的としこの研究に取り組んだ。 化学療法時にチェック リス トを作成、使用すること でスタッフの不安の軽減に対す る効果を調査 しその有 用性が示されたので報告する 。 研究方法 1 )調査対象 徳島赤卜字病院 l 号棟 6 階に勤務する看護師 19 VO L. 8 NO. 1 MARCH 2003 2 )データ収集期間 : H13. 5. H13. 12.28 3 )データ収集方法 (1) 化学療法に対する不安の内容をクド・パス法に よ り収集 (2) 化学療法を「施行する 日J I 施行しない日」の 不安傾向を STAI 法に よ り調査 (3) (1) をもとに化学療法チェックリストを作成 (4) (1)をもと に不安についての 質 問 紙 を 作 成 し 化学 療法チェック リスト使用前 ・後に不安の程度がど のように変化す るか判定 4 )分析方法 各測定値の差の平均値、 差の標準偏差、差の不偏 分散を使用し t 検定を用いて判定 5 )倫理的配慮 看護師のプライパシーの保護 結果 1 )化学療法の不安内容(表 1 )については、副作用 についてが26%、血管外漏出が15%、輸液ポンプの 誤作動が11%、治療 が何例 も重なる ときが 8%、点 滴の順番についてが 6%、ライ ンフィ ルター につい てが 6% 、医師の居ないときの治療に ついて が 5% 抗癌剤の量のまちがいについてが 4% pH チェッ ク ・クライオセラピーについてが 4% 、穿 刺 か ら終 箔化学療法時のチェックリス トを使用しての看護師の 137 不安の変化

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Page 1: 看護師の不安の変化 - 徳島赤十字病院 · 2015-07-05 · 不安傾向をstai法により調査 (3) (1)をもとに化学療法チェックリストを作成 (4) (1)をもと

玉突一

一医院咽

一経一

一床一

一臨一

癌化学療法時のチェックリストを使用しての

看護師の不安の変化

増田千代美 山岡 康代 河野静香 岡田志保

徳島赤十字病院 l号棟 6階

要旨

当病棟では、入院患者の約72.2%が悪性疾患患者であり、その入院患者に対 しでほぼ毎ー日のように化学療法が行われ

ている。煩雑な業務の中での化学療法に対する看護師スタッフの不安は大きい。そこで、スタッフの不安の内容をクド ・

パス法を用いて明らかにし、それをもとにチェックリストを作成した。そして、化学療法を「施行する日Jr施行しな

い日jの不安傾向について STAI法に より調査し、質問紙に より不安の程度の判定を行った。結果、化学療法を「施行

する日jの不安傾向は強 く、チェッ クリス トを使用した結果、使用前後の絶対値(t)は1%以下で、不安の軽減に有効で、

あると考えられる。

キーワード:不安、チェック リスト 、癌化学療法、STAI

はじめに

癌化学療法とはおもに抗癌剤を用いた治療のことで

ある。看護を行う上で毒性の高い薬物を使用すること

を念頭におき 、薬剤の管理 ・患者への適切な使用 -副

作用の予防、早期発見を行わなければならない¥)。当

病棟では入院患者の約72.2% (H13. 5月末現在)を白

血病 ・悪性リンパ腫 ・肺癌が占め、その入院患者に対

してほぼ毎日のように化学療法がお こなわれている。

私達看護師は日々煩雑な業務に追われながら化学療

法を行っている。そして、化学療法を行う際には特に

神経質になり 「何か起こりはしないかJI何か間違い

を起こしはしないか」と いう不安を抱えながら業務を

行っている。そこでスタッフの不安とは具体的にどの

ようなものなのかを調査しその不安を軽減させること

を目 的としこの研究に取り組んだ。

化学療法時にチェック リス トを作成、使用すること

でスタッフの不安の軽減に対する効果を調査 しその有

用性が示されたので報告する。

研究方法

1 )調査対象

徳島赤卜字病院 l号棟 6階に勤務する看護師19名

VOL. 8 NO. 1 MARCH 2003

2 )データ収集期間 :H13. 5. 23~ H13. 12.28

3 )データ収集方法

(1) 化学療法に対する不安の内容をクド ・パス法に

より収集

(2) 化学療法を「施行する 日JI施行しない日」の

不安傾向を STAI法に より調査

(3) (1)をもとに化学療法チェックリストを作成

(4) (1)をもと に不安についての質問紙を作成し化学

療法チェック リスト使用前 ・後に不安の程度がど

のように変化するか判定

4 )分析方法

各測定値の差の平均値、 差の標準偏差、差の不偏

分散を使用し t検定を用いて判定

5 )倫理的配慮

看護師のプライパシーの保護

結果

1 )化学療法の不安内容(表 1)については、副作用

についてが26%、血管外漏出が15%、輸液ポンプの

誤作動が11%、治療が何例 も重なる ときが8%、点

滴の順番についてが 6%、ライ ンフィ ルター につい

てが6%、医師の居ないときの治療についてが 5%、

抗癌剤の量のまちがいについてが4%、pHチェッ

ク ・クライオセラピーについてが4%、穿刺から終

箔化学療法時のチェックリス トを使用しての看護師の137

不安の変化

Page 2: 看護師の不安の変化 - 徳島赤十字病院 · 2015-07-05 · 不安傾向をstai法により調査 (3) (1)をもとに化学療法チェックリストを作成 (4) (1)をもと

了までの患者様の状態観察についてが4%、他チー

ムの抗癌剤を点滴するときが4%、患者様の理解に

ついてが 2%、人間違いについてが 2%、薬剤部よ

り溶き上がってこないときが 1%、静脈内注射をす

ることについてが 1%という 15項目であった。

表 1 不安内容

副作用出現について 26%

血管外漏出について 15%

輸液ポンプの誤作動について 11%

治療が重なるとき 8%

点滴の順番について 6%

ラインフィルターの選択について 6%

医師のいない時の治療 5%

抗癌剤の量のまちがいについて 4%

PHチェッ ク、クライオセラピーについて 4%

穿刺から終了までの観察について 4%

他チームの抗癌剤点滴をする とき 4%

患者様の理解について 2%

人まちがいについて 2%

薬剤部より溶き上がってこないと き 1%

静脈内注射をすると き 1%

2) STAI1去による化学療法を「施行する日」と「施

行しない日」の不安傾向については、「施行する1:1J で平均値 (図1)が状態不安52.6点、「施行しない日」

は41.6点であった。特性不安(図2)は「施行する日j

が平均値51.6点、「施行しない日」カ斗5.1.点であ っ

た。状態不安 (図 3)の差の平均値は10.1点差の標

準偏差は15.1点、差の不偏分散は240.0点となり絶

対値 tの値は2.828とな った。特性不安の差の平均

値は6.9点、差の標準偏差は6.7点、 差の不偏分散は

46.9点となり絶対値 tの値は4.242とな った。各不

安内容における不安点数 も軽減がみられた。

3 )化学療法時のチェッ クリスト (表2、3、4、5)

を作成し、使用前 ・後の不安の程度を点数化した結

果、チェックリスト使用前の不安点数は45点満点で

平均25.8点、使用後の不安点数は14.9点であった。

差の平均値は10.9点、 差の標準偏差は10.3点、 差の

不偏分散は112.9点と な り絶対値 tの値は4.4688と

なった。

腐化学療法時のチェック リストを使用しての看護師の138

不安の変化

不安点数

不安点数

不安点数

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。状態不安 特性不安

図 STAIによる平均値の変化

80 |口施行する目 白施行しない日

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スタ ッフ19名

図2 特性不安結果

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70

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2 3 4 5 6 7 8 9 1011 1213 14 15 16 1718 19

スタ ッフ19名

図3 状態不安の結果

Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal

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考察

今回、当病棟の看護師19名に対して化学療法におけ

る不安内容について調査 ・分析を行った。STAI法に

より化学療法を「施行する日j1""施行しない日」の不

安傾向に差があるかどうかを調査した結果(図 1)、

あきらかに化学療法を「施行する日」に不安傾向が強

いことがわかった。看護師の化学療法に対する不安内

容をあきらかにし、それをもとにチェ ックリストを作

成した。チェック リス ト使用前 ・後の絶対値 tの値は

1%以下で、チェ ック リス トを使用することにより不

安の軽減に有効であると考えることができる。また、

不安内容の各項目別について、不安点数の差(図 4、

5 )をみてみると不安の軽減に有効であったと考え

る。

おわりに

今回、化学療法時における看護師の不安内容を調

査 ・分析 し、不安の軽減のためにチェ ックリス トを作

成した。それを使用したことで化学療法時における看

護師の不安の軽減が図れたとともにこれまでは化学療

法時における看護記録が個人差があり、記入されてい

たりされてなかったりしていたが、確実に記録として

残せるようになり 、記録内容も統ーされ、 化学療法を

行う患者様に対して最初から最後まで観察を行うこと

ができた。また、他チームの化学療法を行う際にも

チェ ックリストを使用することにより、情報の共有化

を図ることができるようになった。今後、さらにチェッ

クリス トを見直していき、今後の化学療法についての

様々な副作用 ・実施に関するマニュアルの作成と充実

が必要と考える。

文 献

1 )川西良子:輸液事故防止.エキスパートナース 5

月増刊号:76-83, 2001

2 )西田麻子 :手術経過報告に よる家族の不安度の変

化-STAI調査とアンケー ト調査に よる評価か

ら一.第31回看護総合学会収録集 :6 -7, 2000

3 )芳賀 繁:不安全行動のメカニズム.信学技報

29, 1999

4 )古川由記子,中辻香邦子,梅田睦子, 他:がん化

学療法の副作用対策.渡辺孝子他編「がん治療の

副作用対策と看護ケア一化学療法を中心に-j,

p120-199,先端医学社,東京, 2000

5 )田村雅子 :抗癌剤による被曝と取り扱い上の注意

点.渡辺孝子他編「がん治療の副作用対策と看護

ケアー化学療法を中心に-j, p200-211,先端

医学社,東京, 2000

6 )飯野京子 :癌化学療法の基礎知識.渡辺孝子他編

「がん治療の副作用対策と看護ケア 化学療法を

中心に j, p1l2-119,先端医学杜,東京, 2000

Changes in Nurses' Anxiety about Cancer Chemotherapy after the Adoption of a Checklist for Chemotherapy

Chiyomi MASUDA, Yasuyo YAMAOKA, Shizuka KAWANO. Shiho OKADA

1-6 th Floor. Nursing Stu旺s.Tokushima Red Cross Hospital

Over 70% of inpatients have cancers in our hematology/oncology ward. and chemotherapy is performed in

these patients almost everyday. Among various complicated jobs in th巴 hospital.most nurses are markedly

anxious about cancer chemotherapy. To begin with. we clarified the details of nurses' anxiety by the CUDBAS

(CUrriculum Development method Based on Ability Structure). then prepared a checklist for chemotherapy to

relieve the anxiety. Following the adoption of a checklist. the degree of anxiety on the days with or without

chemotherapy were evaluated by a questionnaire survey using ST AI (State-Trait Anxiety Inventory). Although

most nurses tended to be markedly anxious on the day of chemotherapy. the use of a checklist was e任ective

for decreasing the absolute value for anxiety to less than 1 %.

痴化学療法時のチェック リスト を使用しての看護師の140

不安の変化Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal

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Key words: anxiety. cancer chemotherapy. a checklist for chemotherapy, ST AI

Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal 8 : 137-141, 2003

VOL. 8 NO, 1 MARCH 2003 癌化学療法時のチェックリストを使用しての看護仰の,~"' .,. - 141

不安の変化