深発地震の記象による土地の振動特性の研究* 本 文 彦**130 験震時報20 愈...

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/‘ ¥ 深発地震の記象による土地の振動特性の研究* 彦** OnVibrationalCharacteristicsoftheGroundAssumed fro lI1 SeismogramData F.Fujimoto (ObservationSection. C. M. 0.) 550.341 In this paperan investigation is made on energy of seismicwavesof variousperiods.whichappearedort .seismograms. Frommanyrecordstakenat' va r . iousplaces (byWiecher t' sSeismographs) ofadeep- focusearthquake(depth about560 km)which occurredinthenortheastern partofManι churiaonJuly'10 1940 amplitudes (A) andperiods (T) ofthe (P. Sand ScS) are measured.andbyuseofBlut'sequation H A 2 n' 2:VI sin2a. …, T sinα 一一ー, A2/Tbeingtakenasparameter relativevaluesofenergylevelamongvariousperiodsare obtained. Theresultsareasfollows: 1. The energydlstributionmaybeclassifiedintoseveraltypes. (a) Typeof the zones where the intensity is abnormally high (felt). Energy of shortperiodwa vesisextremely large.and energyisdecreasingforlongerperiods. (b) Continentaltype(Korea.Manchuria). Largeenergyliesinwavesuf long periods butnoorlit t1 eenergyinshortperiodwaves. (c) Typewithtwomaximaincertainperiods. (d) Typewjthonlyonemaximumincertainperiod. 2 . Featuresofenergydistributionfor ScS wavesentirelydifferfromthose 'for P andS waves. Evenintheabove-mentionedtypes (a) and (b). waves with periodsof2.-;4 secare exceedinglypredominant. 3. Fromtheabove.itmaybe. consideredthatwaveswith a widerangeofperiodwere sent outfroml the focusandthatthedifferentseismograms takenat variousstations might beduetothe fact that the waves stirred the groundinaccordance withthevibrational characteristicsoftheplaces. * Re eivedOct.7 1954 林中央気象台測候課 -1

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Page 1: 深発地震の記象による土地の振動特性の研究* 本 文 彦**130 験震時報20 愈 4号~ ,.序地震の記象を細かくみると,P波の部分にも, S波の部分にも長短いろいろの周期の波が重なっているのに気がつく.これは地震の波がある地点に入射したとき,そこで、二次的に起った振動を記

/‘

¥

深発地震の記象による土地の振動特性の研究*

藤 本 文 彦**

On Vibrational Characteristics of the Ground Assumed

frolI1 Seismogram Data

F. Fujimoto

(Observation Section. C. M. 0.)

550.341

In this paper・aninvestigation is made on energy distr~bution of seismic waves of

various periods. which appeared ort .seismograms.

From many records taken at' var.ious places (by Wiechert's Seismographs) of a deep-

focusearthquake (depth about 560 km) which occurred in the northeastern part of Manι

churia on July'10, 1940, amplitudes (A) and periods (T) of the wav~s (P. S and ScS) are

measured. and by use of Blut's equation

H A2n'2:VI sin2a. …,

T sinα 一一ー,

A2/T being taken as parameter, relative values of energy level among various periods are

obtained.

The results are as follows :

1. The energydlstribution may be classified into several types.

(a) Type of the zones where the intensity is abnormally high (felt). Energy of

short period wa ves is extremely large.and energy is decreasing for longer periods.

(b) Continental type (Korea. Manchuria). Large energy lies in waves uf long periods

but no or litt1e energy in short period waves.

(c) Type with two maxima in certain periods.

(d) Type wjthonly onemaximum in certain period.

2,. Features of energy distribution for ScS waves entirely differ from those 'for P and S

waves.

Even in the above-mentioned types (a) and (b). waves with periods of2.-;4 sec are

exceedingly predominant.

3. From the above. it may be. considered that waves with a wide range of period were

sent outfroml the focus and that the different seismograms, taken at various stations might

be due to the fact that the waves stirred the ground in accordance、 withthevibrational

characteristics of the places.

* ReとeivedOct. 7, 1954 林中央気象台測候課

-1ー

Page 2: 深発地震の記象による土地の振動特性の研究* 本 文 彦**130 験震時報20 愈 4号~ ,.序地震の記象を細かくみると,P波の部分にも, S波の部分にも長短いろいろの周期の波が重なっているのに気がつく.これは地震の波がある地点に入射したとき,そこで、二次的に起った振動を記

130 験震時報 20愈 4号

~ ,.序

地震の記象を細かくみると ,P波の部分にも, S波の部分にも長短いろいろの周期の波が重なっ

ているのに気がつく.これは地震の波がある地点に入射したとき,そこで、二次的に起った振動を記

録したものであろうか,あるいは震源から記象紙に見られるような周期の異なった波が送り出され

るのであろうか.前者と思われる.ものも確かにあるが,震源から送り出された周期の異なる波が地

表に入射しで,観測所付近の土地をその振動特性に応じて大小さまざまにゆり動かして,われわれ

の見るような複雑な記象となるとも考えられる.この調査の目的はこれらの事情を明らかにする手

がかりを得ょうとするもので芯る.

~ 2. 資料と方法

昭和15年 7月10日14時51分ごろ,当時満洲国のー

東部に深さやく 560kmの地震が起った. 震央

(Fig. 1参照),および深さは気象要覧によるもの

であ・る.わが国の北海道,東北,関東両地方のい

わゆる異常震域で I"'ill程度に感じ,全国各測候

所の地震計に明りように記録された.Fig.1を見

れぼわかるとおり,震央位置を中心にして円を描

いてみると,東日本から西日本にかけ:ていくつか

の測候所が同じ円周上にのる.しかも,震央距離

の比較的小さい輪島,秋田付近をとおる円の半径

J

. Fig. 1. Epicenterand stations

はやく 1000kmであり,震央距離の大きい鹿児島,八丈島の付近を.とおる円の半径はやく 1500kmで,

本邦各測候所の震央距離はこの地震の走時曲線の変曲点より小さい.いま,ム=1000kmと1500km

における射出角を走時曲線から算出してみると, それぞれ 72042二72052'となる.したがって,

震源から各測候所に至る波線はある深さの層をほとんど等しい角で横切っていく.浅い地震の場合

にはj、震央距離によって観測点へ達する波線の最深点が異なるので,各層,ことに,表面近くの複

雑な構造で、受ける影響が一様でない.以上の点に注目してこの地震の各測候所の記象から P,Sの

波群中の周期の異なるいろいろの波の振幅と周期を読みとり,観測所ごとにどのくらいの周期の波

がどの程度の energy をもっているかを比べてみる. なお, この地震は多くの場所で明りような

ScSが記録されたので,ScSについても同様の ζ とを試みた.このまうな方法は地震計の性能がほ

ぼ同じであるととが必要であるが,わが国では Wiechert地震計がおもに使われているので,

Wiechert式の記録だけを用いた.読みとった観測所の位置は Fig.1に示してある.

~ 3.周期と振幅の読みとり

-.2 ー

Page 3: 深発地震の記象による土地の振動特性の研究* 本 文 彦**130 験震時報20 愈 4号~ ,.序地震の記象を細かくみると,P波の部分にも, S波の部分にも長短いろいろの周期の波が重なっているのに気がつく.これは地震の波がある地点に入射したとき,そこで、二次的に起った振動を記

深発地震の記象による土地の振動特性の研究一一藤木

周期と振幅の読みとりは普通む'

験測と同じ方法で行う.振幅は個

個の波の全振幅の半分をとるた

とえば, Fig. 2 a, b,ピの AA',

BB', CC', DD', EE',……などを

131

i州川4fir叫叩~ 帆刊州山

J

州T

いa Nagano b : Kobe c : Mito Fig: 2. Several records used in the present investigation

読んで,その二分のーをとるので

ある.読みとりの際, ,Fig. 2 aのような周期の長い振幅の大きい波の上に,振幅の小さい短周期の

波が重なっている場合には,双方とも比較的容易に,正しく読みうるが,異常震域などのように短

周期の波が大きい場合は,長い波を読みにくい場合が多い(たとえば, cの S波の部分). それで,

tracing paperを記象の上にのせて,長い波を前後から追跡して読んだものもある. 波の形とし

て読みうるものはすべて読んだ.二,三の例を Fig:2に示してある.ただし, trace し白たものな

ので,原記象の詳細がはっきり出ていないが,読みとりの例と方法を示すためにのせたものである.

地震計の周期よりず、っと周期の長い波は,短周期のものが優勢な場合には読みにくい土に,振動

倍率の補正でその振幅は信用し難いと思われるので, 5sec以上のものはとらないことにする.西日

本の一部の測候所では短い周期の波の振幅が小さそ, 6sec以上の長い波を明りように読みうる.こ

とに,高知の大森式地動計の記象には Sの部分に 10sec以上の長周期の波が明りように現れてい

て,そのようなものが相当.大きな energyをもっていることは疑いないが,ここでは Wiecherl

地震計の性能を考えて,ひとまず, 5sec以下の波を扱うことにする.

~ 4. Blutの式

地震波の energyを周期と振幅によって表わすものに,.Blutの式がある.これは1932年, Blut

が弾性波の反射屈折に対する energyの配分を計算する際,導き出したものである.(本多博士「地

震波動」の新版に詳しく書いてある).すなわち, 周期

Tなる入射 P波の一周期のあいだの energyを H と

すると

ここで, energyは地表面にαなる角をもって面積 I

なる部分にだけ入射するものどする (Fig.3).

さらに A:'振幅 p 弾性体の密度 'T:周期,

V1:弾性体を伝わる Pの速度とそれぞれする.

Fig.3. lncident pencil of energy b

Sについても同じ形の式が成立する.

α

qL

n

oo

川一

mdI

fT

=

H

れ大」わ表で

--3 -

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132 験震時報., 20巻 4号

一観測点では 7t, p, V1, T,αはconstantであるから,A,TからA2/Tをparameterとして計

算して, どの周期の波がどの程度の energy白をもって入射するかを比較できる.

、観測点が異なれば ρ,Vb αが異なるので相互の比較はできないが, これらの量の差の大きくない

ことを考えて,orderの比較をする程度のことはさしっかえないであろう.

Blutの式は homogeneousな二つの弾性体を仮定して導かれたものであるから,複雑な地殻構

造の中を通ってくる波に適用するのは不適当であるが,近似的に成り立つとして使用する.

いま, 縦軸にA2/T(A:ミクロン,T: sec)唱をとり,横軸に周期をとる.読みとった振幅と周期

から A2/Tを求めて plotする.Aは読みとった同じ周期の波の中で,最大のものをとることにす

、る.周期の読みとりはドラムの回転の不均一ーや, 線の太さなどから考え,土 0.2secくらいの誤差

が考えられるので横軸は 0.5secおきにとる.すなわち, 0.8--1. Osecと読みとった周期は lsecと

して扱う.0.5sec以下のごく短いものは一応そのま斗とってある. 波の振幅は三成分を合成すべ

きであるがi一成分で読んだ波に対応するものを他の成分で求めることはむずかしいので N--S,

E--Wを別々に plotしたき

図の記号は次のとおりである.

特 :Pの N--S成分 X:Pの E--W成分 番多 :Sの N,....,S成分

0:8のE""W成分 ぬ :8cSの N--S成分 ム :8cSの E--W成分

各点の横に物!のように感嘆符のついているものは, その周期の波が著しく卓越しているとい

う意味で, ヘのようにポイントを付したものは, その周期の波が他にない弧立して現れた波で-あ

る.波の形がくずれて一つの波であるかどうか疑わしいものは, O?のように疑問符を付した.

各点をつらねて曲線を引いてあるが,これは大体の傾向を示すためのもので曲線そのものに意味

はない.また,K=lのように記入してあるのは, 勝又技官発による振幅の地盤係数で、ある. ただ

し,読みとった振幅にはこの補正はしていない.

~ 5. A2/T-:T図について

以上のようにして得た図 (10--12ページ参照)を比較検討していく.

この際,発震機構を考慮して震央からほぼ、同じ方位にある観測所を比べることにする.

i 異常震域の特性 宮古は深発地震の異常震域として良く知られているが(この地震では震

度 Iであった〉 秋田はそうでない.一目して宮古においては短周期の波が優勢であることがわか

る.特に P,8 ともに O.5secの周期の波が大きな energyをもつばかりでなく,圧倒的な頻度

で現れている.一方,秋田は 0.5sec程度の波の energyはずっと小さいが 2sec付近の周期の波

が最大の energyをもっとともに,相当な頻度で現れている.全‘体として, 宮古よりも長周期の

*勝叉 護:地震動振幅の地盤係数(そのー),験震時報 19(1955), No. 3---4, 77~80.

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Page 5: 深発地震の記象による土地の振動特性の研究* 本 文 彦**130 験震時報20 愈 4号~ ,.序地震の記象を細かくみると,P波の部分にも, S波の部分にも長短いろいろの周期の波が重なっているのに気がつく.これは地震の波がある地点に入射したとき,そこで、二次的に起った振動を記

深発地震の記壊による土地の振動特性の研究一一藤木 133

P波が優勢であることを示している.

ScSについては,宮古は読みとりにくいが,秋田は明りょうで,しかも 1.5--4secくらいのわり

あい広い周期にわたって現れている.2.5sec付近のものが大きい.後述するが,ScSは全体的に

みて 2.5--4secてらいの比較的長いものが多く, 異常震域においも、 P,5 と異なり,他の地域と

同じであるのは注意を引 ιくことである.

11 本911'1中央部の状況 Fig. 1に示してあるような, 震央を中心とした細い扇形の地域をな‘

がめてみよう.

この地域は測候所の数が多いばかりでなく,異常震域とそうでないところがいりまじり複雑な所

である.この地震で感じたのは横浜,宇都宮,小名浜,輪島の四か所であるが,東京,水戸,福島,

・'柿岡などは他の深発地震ではしばしば感じることは良え知られている.輪島はこの地震では震度 I

であったが,太平洋方向の深発地震ではたい宅い無感である.

以上の事がらを考慮して,この地域の図を比較していぐ (Fig.4参照).

輪島を見ると,P波の 1secの波が著しい energyをもち,かつ,頻度も圧倒的である .5につ

いても同じことがいえる .P,5とも 3sec前後で小さくなるが, 4.5--5secで再び大きくなってい

る傾向がみられる.これを付近の相川,富山,長野のものと比べてみると, ener:gy分布に著しい‘

差のあることがわかる.これらの三か所は 1sec以下の波では orderちがいであるが,や L長い

周期の波では sameorder 'iJ、逆に輪島のほうが小さくなる 6

富山では ~sec くらいの波が相当な energy をもっている. 相川では 2sec程度の S波が最

大の energyを示しており,長野は 3'--4 secのものが大きく,頻度も大きい.

5cSは各所とも 2.5ゃ 4sec程度のものに限られ,P, 5とも 1.sec周期の波が圧倒的な輪島に

おいても 4sec程度のものが大きく短周期のものは見当らない.

甲府,船津,三島を見ると,三島では P,5とも 1secのものがきわめて顕著であり, 4--5 sec

でや L大きな energyを示しているが,中聞はない. 甲府では 1sec付近に山が現れ,長い周期

のほうで小さくなっている.船津は山が少し長いほうにずれて 2sec付近で最大になっているが,

長い方では小さい.5c5はいずれも 2--3. 5secに限られている.甲府の 3secのも、のは特に著し

い.以上三か所はいずれも異常震域ではない.

関東地方の各観測所の energy分布をしらべていくと, 異常震域の中にも長周期の波が相当な

energyをもっている所があることがわかる.横浜,宇都宮を見ると(両域とも震度 1)P,.Sとも

1 sec以内の短周期が卓越していることは予想どおりであるが, 2 sec付近でーたん小さくなり,

それより周期の長い波が割合大きな energyをもって現れてくる.宇都宮は 3sec付近で, 短、

周期のものより大きくなっている.横浜も 4.5sec付近に energyの大きなものがあ弘、宮古の

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134 験震時報 "20巻 4号

energy分布と比べるとおなじ異常震域でも相違が見られる..ScSは双方 3--4.5secで割に大き

丈現れていあ.

前橋,富崎はこれらに近い分布をしている.たどし,前橋は山がや L長い方にずれ(1.5sec),

短周期のほうはず‘っと小さい.富崎は 1sec付近が最大で, それより短い波も長周期のものと

orderを比べると小さくはないが,宇都宮, 横浜の短周期の波に比べると orderちがいに小さい.

前橋,富崎は深発地震は感、じないところである.

次に筑波山,柿岡,銚子,小名浜,水戸および扇形領域からや与はずれるが福島を検討する.以

上の各地は銚子を除いては,深発地域に対してしばしば感じるところである.共通の傾向として

,1 sec、ないしその前後に山が出て,長い周期のほうに向かつて一様に低くなっていること,および

O.5sec以下の極短周期の波が相当大きな energyと頻度で現れていることである筑波山では山&

が 1.5sec付近に現れ,他に比べてわずかに長い方にずれている.

これらの地域でこの地震を感じ、たのは小名浜だけであるが,水戸,柿岡,福島は短い波の energy

が相当太きく,加速度も宮古,宇都宮と比べて変らないように思われるが, ζ の'場合,波の energy

の絶対値を比較できないのである.たれこれらの各地がしばしば異常震域となり,この地震を感

じたかどうかにかかわらず,同じような energy分布をしている。ことは注意すべきことである.

ScSについてみると, この地域の一部(福島,小名浜,柿同)にゃく 1secの短い波が現れて

いる. しかし正長周期の波の energyと比べると,P, Sの場合と異なり長い波のほうが優勢であ

る. このことから, 異常震域の P,Sの部分の短周期の大きな振幅の波は地震本来のものと考え

るべきであろう..さらに,八丈島,をしらべてみると 1sec付近に比較的大きな energyが現れて

いるが, 3 --5 secの波がほど同じ大きさで並んでいるのは,関東地方の他の測候所と違っている.

iii 東海,近畿地方 箱根以西は彦根などー,二を除いては一般に深発地震は感じないことが

知られている.

この地方の各地の ener.gy分布を見ると, 一般的な傾向があって形に多少のちがいが・あるが,

.1 sec前後に一つの山があο,それからずっと低く, 2 --3 s"ecで谷と.なり, それより周期の長い

ほうに向かつて再び高くなってい,る J

前述の前橋,横浜,富山奇i宇都宮などがこれと似たような分布をしていたが,この場合は和歌山

を除いては長い周期の山が短いほうの山よりもずっと高くなって,いるのが違っているところである.

浜松, 亀山,神戸は 4sec付近,名古屋では 3sec付近が長い周期の山になっているようである.

大阪のものをみると,短周期の部分が比較的小さく,だんだん大きくなり,長いほうで圧倒的に大

きく'"著しい頻度で現れている. 3 sとc付近で幾分小さくなヲ,ているようであるが,大阪の型は例

外である.岐阜のものば明らかでないが,Pの部分だけについてみると,やはりこの地方の一般的

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深発地震の記象による土地の振動特性の研究一一藤本 135

傾向に含めうる.

ScSーはいず‘れも 3sec前後のものが優勢である.この地方を全般的にみて,東日本に比べて長周

期の波が卓越していることが目だつ.ScSはこの地方でも長周期のものより;3sec程度のものが優

勢であることを注意しておきたい.

これまでの全体を通じて 1sec付近に energyの一つの山が出ているところが多い.西日本の一

部にも同じような傾向があり,実際に震源から,との程度の周期の波が相当大きな energyで送り

出されたとも考えられる.

iv 西日本 四国南部の室戸岬,清水の energy分布は 5sec以上の長い部分で顕著である.

広島は地震計が不i調であったが同じような傾向がみられる.さらに図はないが,高知i山陰の浜田

も 5sec以上の長い波からな'る簡単な記象をしている.松山を除いた中国, 四国の特徴のようで

ある.なお,清水,室戸岬の P の部分に energyは小さいがごく短周期の波が現れているが,S

の部分にはこれに当るものが見当らない.

九州は北部の福岡と中部以南の宮崎,熊本,鹿児島,および名瀬では energy分布が大いに産っ

ている.

福岡は後に述べる大陸のものに似て,Sの長い波 (5sec以上}が大きい.Pにはやふ短い波も

見られるが S は 3sec以下のものは見当らない.

熊本,宮崎,鹿児島のものは山と谷をもっ型であるが,その位置は少しずつずれている.すなわ

ち,宮崎は 1sec付近が山で 2--3 secで谷正なり, さらに 5sec付近で前の山とほど同ι程度

になっている.熊本は 1.5sec鹿児島は 2.5sec付近が前の山であるが, 4.5--5 secで再び大き《

なっている.宮崎,熊本は東海,近畿地方のものと似ている.名瀬は O.5secのごく短い波が顕著

で-energy分布は異常震域型であるが 5sec付近の波が中間の波巳比Lてや L大きな energy

をもっている.

ScSについては, 3 --4 sec付近の波が優勢であるのは他のものと変りはな、い.

v 北海道 この地方は南東部に異常震域をもち,南方沖にはきわめて地震が多いので,この

調査には本州中央部とともに重要であるが, Wiechert地震計のあるのは札幌,森,根室である.

これらのうちで, 手もと伝記象紙のあるのは札幌だけで,しかも,$の部分は sc:aleout.L.てと

れなかった.それで,P, ScSについて同じく図を作ったが,Pについてみると秋田の型に近<,

2 se巳付近が山で両側は小さくなっている.

Vl その他 以上のほかに買当時日本の、ナ部であった朝鮮の大郎,大連,父島,那覇.樺太の

大泊と恵、須取の記象紙があったので同様の図を作った.

まず,大陸の energy分布を見る.と,長い周期の波が圧倒的に優勢であるのが特徴?である .Pの

-7-":"

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136 験震時報 20雀 4号

部分には短い波も見られるが,sについては他で見らhるような短周期はないのに気が付く.九州

北部,四国,中園地方の一部の測候所もこれに似ている.

ScSはやはり 3sec程度の波が現れている.父島,那覇は方位が大分ちがうが震央距離はあま

り違いはないので二つを比べてみる.那覇では Pがきわめて小さいので Sだけを plotした.こ

れによると, 1.5sec, 3 sec付近のものがごく短い波や長い波に比べて大きい.3.5sec程度の ScS

は Sよりず.っと大きな energyをもっている.父島では 2--3 secの部分が,その前後に比べて

大きな energyを示している.

樺太の大泊,恵須取はいずれも 3seじ付近が大きな山とな,り,頻度も大きいが両側では小さい.

ことに,恵、須取では 3sec前後にしぼ、られ,短いものも長いものもない.

いずれも秋田や札幌のものと同じ型である.

~ S.結論

日本全国にわたり A~/T-T diagramをつくり,比較したものを総、括すると次のようになる.

1. energy分布図は各所でさまざまであるが,大きくみて下の各型に分類できる.

a. 異常震域型:宮古,福島などが代表的なもので, 短周期の波が圧倒的に大きな energy

をもち,周期の長いものほど‘ずっと減少している.柿岡,筑波山,小名浜などがこれにはいる.こ

の型は予想されるところであるが"異常震域には宇都宮,横浜のように,短い波だけでなく長い波

もネ目当な energyをもっているものもある.

b. 大陸型:大連,大郎のように長い周期の波が著じい energyをもち, 短い波が現れない

か energyが微弱なもの.北九州,四国,中園地方にはこの型に近いものが多く,大阪もやや似て

いる.

c. .山と谷のあるもの:この型は関東地方, 東海, 近畿地方, 九州中南部など広い範囲にわ

たって, いずれも 1--2 sec付近にーっρ山があり,それから減少して谷となるが 4--5 secの

長い周期のほうで再び大きくなる.前の山が後より大きいものと,その逆のものがある.横浜,富

崎は前者で、あち,東海,近畿地方のものは後者が多い.

d. 山が一つあるもの:異常震域型の山を長いほうへ移Lたような形である.秋田の山は 2

sec付近でその両側は小さい.大泊,恵須取,札幌,父島がこれにはいる.船津も似ている.これ、

らはすべて深発地震には感じないところである.

2. ScSは P,Sの energy分布と全く無関係に独自の分布をする.異常震域型のところも,大

陸型も, その中間の波 (2~5-- 4 sec)が大きな energyをもつが, この狭い範囲に限られるのは

いかなる.意味があるのかわからないが,異常震域における S波の長い周期のものと, 短い周期の

波との関係、を ScSの両者の関係と比べてみると S波のごく短い大きな振幅の波は,二次的なも

-8ー

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深発地震の記劉こよると土地の振動特性の研究一一藤本 137

のでないと考えられそうである.

3. 各地の P,Sの energy分布からみて, 震源から相当広い幅にわたる波長の波が送り出さ

れ,入射地点の土地の振動特性に従って複雑な記象を書くと考えて良いのではないかと思われる.

特に多くの所でみられる 1sec付近の山は震源から, この周期の波が比較的大きな energyで送

り出され 1secの振動特性をもっ測候所に天きく現れたと考えて良さそうである.このように考-

えると, 地震の規模により送り出される energyspectrumが違うときには energy分布は変っ

てくるであろう.ざらに方法を改良し,充分な資料によってこの種の調査が行われることを希望す

ζの調査は 1951年末ごろから 1953年ごろにかけ,筆者が地震課に勤務していたとき,公務の余

暇に手をつけたもので,細かく検討する余裕がなかったため,内容にずさんな点があることは認め

る.特にある周期の頻度などは数量的に表現すべきであった.また,本州北東部,北海道南東部の

資料がなく彦根などがないことも心残りであったが,この種の調査は行われていないので,不備を

承知の上で発表する次第である.

最後に発表に至るまで種々有益な御意見を聞かせていただいた地震課勝又技官ならびに,読みと

りに当って参考意見を伺がった験震係諸氏に持く感謝する.

また,この論文作成に当り,御激励をたまわった広野博士,執筆をしばしばすすめてくださった

宇佐美技官にあっくお礼を申し上げる.

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