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経済数学 I(春学期),経済数学 II(秋学期) 服部哲弥 START

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経済数学I(春学期),経済数学II(秋学期)

服部哲弥

START �

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ガイダンス○ 「経済数学」慶應義塾大学経済学部(水色のテキスト)春学期 経済数学 I 1-4章,秋学期 経済数学 II 5-7章

○ 評価は期末試験

○ 過去問(略解付)等 ウェブから自由にどうぞ:http://web.econ.keio.ac.jp/staff/hattori/2nen.htm

または 服部哲弥 で検索/日本語ホーム/講義/経済数学

○ 演習 (4回目頃以降,講義時間足りないことが多いので,主に自宅自習用)

○ 位置づけ(1) 1年の微分積分入門(微分積分)の微分・偏微分の続き(2) 1年の線形代数(線形代数続論)を履修済の前提(3) 来週は線形代数続論(1年秋学期)後半から復習

(4) 3年でミクロ経済学中級など数学を用いる科目や数学を用いることを謳うゼミ

を選ぶ予定ならば,2年で経済数学 I,IIの履修を薦める

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1.イントロ(1) 条件付き最小(大)値問題(未定乗数法):x4 + y4 = 1の条件下でf(x, y) = xy2の最小値はy2 =

√1 − x4としてg(x) =

f(x, y(x)) = x√

1 − x4としてもできなくはないが,… — 春はここまで —

不等式条件xy + x + y � 1, x � 0, y � 0, の下でxyの最大値は(条件が不等式

なので)やや難しい(2変数なら領域の図示で頑張るが,3変数以上だと…

・統一的方法(双対変数:Fritz–John条件,Kuhn–Tucker条件)←分離定理

(2) 凸集合の分離定理:最小値問題にだけでなく,専門科目(ミクロ中級他)で使うので,この機会に紹介,内容は秋の後半のお楽しみ

・春学期(復習,準備,証明の掘り下げ):1年の微分積分(数学概論)+線形代数の続きで等式条件下の極値まで・秋学期:不等式条件下の極値と凸集合

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補足経済学とのつながり? - 最小値問題も凸解析もミクロ経済学の講義の内容の数学的背景最小値問題の例「minimize (maximize) ** subject to **」

上記以外の理論経済学で凸解析(分離定理)が絡む場面:・数理ファイナンスの基本定理:「無裁定(arbitrage不存在)と同値マルチンゲール測度の存在は同値」・ベイズ統計学の基本定理:「許容的(admissible)な意志決定はベイズ解」・零和非協力ゲーム:「零和非協力ゲームにはナッシュ均衡解が存在」

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2.線形代数(復習)

正方行列:A =

⎝a11 · · · a1n... · · · ...

an1 · · · ann

・ ベクトルの「小箱」で整理した大きな引越荷物行列の演算・スカラー倍と和(ベクトルの線形結合を並べたもの)・積(行ベクトルと列ベクトルの「内積」を並べたもの), 単位行列 E

逆行列・1次方程式(鶴亀算) A−→x =

−→b

・A−→x =n∑

i=1

xi−→a i (足と頭をまとめたベクトルの)線形結合

● 以下,Aが正方行列の場合:・ ∃B; AB = E または ∃B; BA = Eならば

|A| �= 0かつB =1

|A|AがAB = BA = Eを満たす

・ AB = BA = Eを満たすBは上記ただ一つ A−1 =1

|A|A余因子行列 A(は,一回り小さい行列式を並べたもの→A−1 計算するときははき出し法など)

行列式 |A|が0でないことと逆行列A−1があることが同値(重要)

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行列式

|A| =∣∣∣∣∣∣

a11 · · · a1n... · · · ...

an1 · · · ann

∣∣∣∣∣∣

第1行での展開による定義・ 第1列での展開に等しい →  |tA| = |A| ・ 2つの行(列)を入れ替えると行列式の符号が反対になる(特に同一行(列)があれば行列式は0) (いずれも,帰納法で証明)・ 第 i行(列)での展開(符号に注意)  (証明は行を入れ替えて第1行での展開)・ 行線形性(i行のk倍,i行の和),j行のk倍を i行に加えても不変・ 列線形性,j列のk倍を i列に加えても不変 (証明は展開)・ 三角行列の行列式は対角要素の積

★ 積の行列式 |AB| = |A| |B|(証明は,帰納法と行展開で得られる

∣∣∣ A O

C B

∣∣∣ =

∣∣∣ A D

O B

∣∣∣ = |A||B|を用いる技巧)

特に |P−1||P | = 1, |P−1AP | = |A|→対角化

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対称行列の対角化固有多項式ϕA(t) = |tE − A|,固有値α1, · · · , αn(重複度),固有空間W (αi) = {−→x ∈ R

n | A−→x = αi−→x } は数ベクトル空間R

nの部分線形空間・ 部分線形空間は基底(一次独立,生成)がある→次元dimW (αi) � αiの重複度・ 対角化可能と上記が全て等号とが同値(一般の正方行列)

内積(−→a ,−→b )(双線形,ノルム‖−→a ‖(シュワルツ,三角))

直交行列 tP P = E (直交行列の各列は正規直交基底)

★ 実対称行列は直交行列によって対角化可能,固有値は実数:

A =n∑

i=1

−→p iαit−→p i = P D tP , P = (−→p 1 · · · −→p n), D =

⎝α1

. . .αn

2次形式 t−→x A−→x =n∑

i=1

(−→x , −→p i)2αi

・ 正定値 ⇔ 全ての首座小行列式が正: |Ar| > 0, r = 1,2, · · · , n

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3.集合の位相R

n:ノルム,ε近傍,開集合,閉集合

空間を(点あるいはベクトルの)集合と見た上で,近い・遠いを集合の言葉で記述

定義を直感でとらえるのは限界があるので,常識を排した厳格な記述と厳密な証明によって正しさを担保するのが数学(講義では過去の数学者の成果を大幅に信じて駆け足で)

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4.関数の連続性D ⊂ R

n,関数f : D → Rが連続とは…,

例:f(x, y) = exp(x2 + y2) = ex2+y2

は連続関数f(x, y) = log(x2 + y2)は(x, y) �= (0,0)で連続

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5.連続関数による開集合・閉集合の像・ {−→x ∈ R

n | f(−→x ) < c}は開集合,{−→x ∈ Rn | f(−→x ) � c}は閉

集合

・ 位相と関数の連続性の(最大最小問題における)重要性:最大値の定理(極限の取り扱いの難しさを乗り越えるケース)

・ 有界な点列は収束する部分列を持つ(R

nが極限に関して持つやさしい性質)

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6.多変数関数の微分

f : Rn → R, fxi =

∂ f

∂xi(偏微分可能)

fがC1級とは,fxi, i = 1, · · · , n, が全て連続 C2級も同様∇ f = (fx1 · · · fxn)

Hf = ∇(t ∇ f):ヘッセ行列  ・ f ∈ C2なら対称行列・ 平均値の定理(復習):

微分可能なら,∃θ ∈ (0,1); f(x) = f(a) + f ′(a + θ (x − a)) (x − a)

・ C1級なら,全微分可能:f(−→x ) = f(−→a )+∇ f(−→a ) (−→x −−→a )+ δ(−→x ) ‖−→x −−→a ‖ に対してlim−→x →−→a

δ(−→x ) = 0

・ C1級 → 全微分可能 → 連続,かつ,偏微分可能1変数と違って逆は成り立たないことがあるので用語を使い分けるが,この講義では全部成り立つ場合しか考えない

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7.合成関数の微分合成関数の微分 f : R

m → R, f ∈ C1について,・(1変数)−→g : R → R

m微分可能ならばF = f ◦ −→g は微分可能・−→g : R

n → Rmに対して,ヤコビ行列 ∇−→g

・(n変数)−→g : Rn → R

m偏微分可能ならばF = f ◦ −→g は偏微分可能

・ 「代入してから微分」を「微分してから代入」で表す定理・ fの定義域は−→g の値域を含む必要・ 代入されるfは変数がどう近づくかわからないからC1を仮定

・(線形変換) fが−→a と−→a +−→b を結ぶ線分を含む開集合でC1級な

らば,F (t) = f(−→a +t

−→b )に対してF ′(t) = ∇ f(−→a +t

−→b )

−→b , 0 � t � 1

C2級ならば,F ′′(t) = t−→b Hf(−→a + t

−→b )

−→b , 0 � t � 1

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8.テイラーの定理・1変数のテイラーの定理(復習): f : R → R がa ∈ Rの近傍で2階微分可能のとき,0 < θ < 1が存在して

f(x) = f(a) + f ′(a) (x − a) +1

2f ′′(a + θ (x − a)) (x − a)2

・多変数の平均値の定理:f : Rn → Rが−→a ∈ R

nの近傍Uε(−→a ) でC1級のとき,0 < θ = θ(−→x ) < 1が存在してf(−→x ) = f(−→a )+∇ f(−→a + θ (−→x −−→a )) (−→x −−→a ), −→x ∈ Uε(−→a )(θは−→x によるが,−→x の成分間で共通)(証明は線形変換との合成関数の微分)・多変数のテイラーの定理:f : R

n → RがUε(−→a ) でC2級のとき,−→x ∈ Uε(−→a )に対して0 < θ < 1が存在して

f(−→x ) = f(−→a ) + ∇ f(−→a ) (−→x − −→a ) +1

2t(−→x − −→a )Hf(

−→a +

θ (−→x −−→a )) (−→x −−→a )・(全微分可能→)関数値の変化は変数の差の1次式に近い 1次式=勾配ベクトルと変数の差のベクトルの内積=‖∇ f(−→a )‖‖−→x −−→a ‖ cosϕ

 変数の差が一定ならϕ = 0のとき関数値の変化最大 =勾配ベクトルの方向が関数値の変化最大の方向�� 12(�)

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9.多変数関数の極値対称行列A(2次形式t−→x A−→x )の符号(復習):正定値,非負定値,負定値,非正定値,不定符号・ 固有値の符号列との同値関係,首座小行列式の符号列との同値関係

多変数関数f : Rn → Rが−→a ∈ R

nで極小値をとるとは,−→x ∈ Uε(−→a ) ⇒ f(−→x ) � f(−→a ),となるε > 0がとれること・極小(大),強い意味の極小(大)   ・「お山の大将」(考察範囲が後出し)

・(極値の必要条件)fが−→a で極小(大)値をとるとき,fが(−→a の近傍で)C1級ならば∇ f(−→a ) = 0

fが(−→a の近傍で)C2級ならばHf(−→a )は非負(非正)定値

特にHf(−→a )が不定符号ならば−→a で極値を取らない(鞍点,峠点)

・(極値の十分条件)fが−→a の近傍でC2級,∇ f(−→a ) = 0, Hf(−→a )

が正(負)定値,ならば,fは−→a で強い意味の極小(大)

�� 13(�)

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10.多変数関数の極値(証明)・(必要条件,1階微分)各成分xi毎に1変数関数の結果・(必要条件,2階微分)多変数テイラーの定理で−→x = −→a + t

−→b ,上

の結果と−→b が任意なこと

・(十分条件,正定値の場合)Hf(−→x )の首座小行列式 |Ak(

−→x )|は連続で正,連続性からHf(

−→x ) > 0, −→x ∈ Uε(−→a )となるε > 0があり,テイラーの定理と∇ f = 0から

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11.多変数の等式条件下の極値・2変数のラグランジュ乗数法(復習):f, g : U ⊂ R

2 → R, C1級,条件g = 0の下でfが(a, b)で極小または極大をとるならば,(1) gx(a, b) = gy(a, b) = 0 (条件の退化),または(2) L = f + λgについて Lx(a, b) = Ly(a, b) = 0 となるλがある(証明は,(1)でないとき,陰関数定理でgを解いてfに代入)

★ (1)または(2) ⇔∣∣∣∣∇ f(a, b)∇ g(a, b)

∣∣∣∣ = 0

・2変数の陰関数定理(復習):g : Uε(a, b) → R, C1級,g(a, b) = 0, gy(a, b) �= 0ならば,ε′ > 0がとれて,φ(a) = b, g(x, φ(x)) = 0, |x − a| < ε′, を満たす連続関数がただ一つ決まり,微分可能

・多変数のラグランジュ乗数法:f : Uε(−→a ) → R, −→g : Uε(−→a ) →R

m, 両方C1級,条件−→g = 0の下でfが−→a で極小または極大をとるならば,(1) ∇−→g (−→a )のm次小行列式が全て0 (条件の退化),または(2) L = f +

∑mi=1 λigiについてLxi(

−→a ) = 0, i = 1, · · · , n, となるλi, i = 1, · · · , m, がある

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12.多変数の等式条件下の極値(証明)・ (1) ⇔ ∇ gi(

−→a ), i = 1, · · · , m, が1次従属★ (1)または(2) ⇔ ∇ f(−→a ), ∇ gi(

−→a ), i = 1, · · · , m, が1次従属

⇔(

∇ f(−→a )∇−→g (−→a )

)のm + 1次行列式が全て0 ⇔ rank

(∇ f(−→a )∇−→g (−→a )

)� m

・多変数の陰関数定理(結果のみ):

−→x =

( −→x 1−→x 2

), −→x 1 =

⎝x1...

xn−m

⎠, −→x 2 =

⎝xn−m+1

...xn

⎠, (−→a

も同様に分解表記),−→g : Uε(−→a ) → Rm, C1級,−→g (−→a ) = 0,

|∇−→x 2−→g (−→a )| �= 0 ならば,ε1 > 0がとれて,

−→Φ(−→a 1) = −→a 2,

−→g (−→x 1,−→Φ(−→x 2)) = 0, −→x 1 ∈ Uε1(

−→a 1), を満たす連続関数

−→Φ : R

n−m → Rmがただ一つ決まり,C1級である

・(後ろm成分が1次独立になる並べ替え;−→a 1と−→a 2が2成分のaと bに対応)

・多変数のラグランジュ乗数法の証明:多変数の陰関数の定理を用いてfの後ろのm変数を消去

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13.非負条件と等式条件下の極値S = {−→x ∈ R

n | −→g (−→x ) =−→0 , −→x � −→

0 }は有界閉集合とする→最大値の定理から,連続関数はSで最大値と最小値がある

・m < n, f : {−→x ∈ Rn | −→x � −→

0 } → Rと−→g : {−→x ∈ Rn | −→x �−→

0 } → Rm は連続で,内部でC1級とし,fが−→a ∈ Sで最大(最小)

をとるならば(0) a1 · · · an = 0(ここだけ新しい),または,(1) −→a >

−→0 かつ∇−→g (−→a )のm次小行列式が全て0,または

(2) −→a >−→0 かつL = f +

∑mi=1 λigiについてLxi(

−→a ) = 0, i =

1, · · · , n, となるλi, i = 1, · · · , m, がある(証明は,境界点 (ai = 0が少なくとも1つの iで成り立つ)以外での極値は,非負条件が関係なくなるから,等式条件だけの場合に帰着)

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14.等式条件下の極値,十分条件・ f : Uε(−→a ) → R, −→g : Uε(−→a ) → R

m, 両方C2級,−→g (−→a ) =−→0,次の(1)(2)を満たすλi, i = 1, · · · , m, があるとする:(1) L = f +

∑mi=1 λigiについてLxi(

−→a ) = 0, i = 1, · · · , m

(2) −→u ∈ 〈∇ gi(−→a ), i = 1, · · · , m〉⊥ \ {0} ⇒ t−→u HL(−→a )−→u >

0

このとき,条件−→g = 0の下でfは−→a で強い意味の極小

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0.秋学期ガイダンス○ 標準のテキスト(水色)「経済数学」慶應義塾大学経済学部春学期 経済数学 I1-4章,秋学期 経済数学 II5-7章・ テキストの春学期の内容(および1年の数学の内容)は前提とする

・ 評価は期末試験・ (プリントは各回配布し,可能なら演習の時間も作るが)

○ 過去問(略解付)等 ウェブから自由にどうぞ:http://web.econ.keio.ac.jp/staff/hattori/2nen.htm

または 服部哲弥 で検索/日本語ホーム/講義/経済数学

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秋の内容(1) 条件付き最小(大)値問題春学期:等式条件下の未定乗数法

秋学期:不等式条件下(Fritz–John条件,Kuhn–Tucker条件)・「領域Dにおける関数fの最小(大)値」=極値問題(内部の点)と領域の境界でのfの値の比較領域を不等式で表すと,不等式条件下の最小(大)値問題(例:円の内部x2 + y2 � 1)

(2) 凸集合の分離定理最小値問題(FJ条件,KT条件の導出)としてだけでなく,他にも多様な応用

- 最小値問題も凸解析もミクロ経済学の講義の内容の数学的背景

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分離定理(春学期イントロ再掲)分離定理・数理ファイナンスの基本定理:「無裁定(arbitrageの不存在)と同値マルチンゲール測度の存在は同値」・ベイズ統計学の基本定理:「許容的(admissible)な意志決定はベイズ解」・零和非協力ゲーム:「零和非協力ゲームにはナッシュ均衡解が存在」

�� 22(�)

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1.不等式条件下の極値(Fritz–John条件)・(Gordanの定理) Aをn × m行列とすると(1)(2)が同値:(1) A−→p =

−→0 , −→p � −→

0 , −→p �= −→0 を満たす−→p ∈ R

mがあることと,(2) tA−→y < 0を満たす−→y ∈ R

nが無いこと,・次の定理で(2)→(1)を使う.線形空間+凸集合の分離定理,証明は学期終盤

◎設定X: −→a ∈ Rnとε > 0と−→a のε近傍U,f : U → Rと−→g : U → R

mはC1

級,fが−→a で条件−→g � 0の下での極小値を取る.

・定理.設定X ⇒ −→a でFritz-John条件が成立:∃µ0, µ1, · · · , µm;

µ0∇ f(−→a ) +m∑

i=1

µi ∇ gi(−→a ) =

−→0 , µ0 � 0,

µi � 0, µigi(−→a ) = 0, i = 1, · · · , m, (µ0, µ1, · · · , µm) �= −→

0

�� 23(�)

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2.Gordanの定理からFritz–John条件の導出◎設定X: −→a ∈ R

nとε > 0と−→a のε近傍U,f : U → Rと−→g : U → RmはC1

級,fが−→a で条件−→g � 0の下での極小値を取る.

・定理.設定X → −→a でFritz–John条件成立・証明の気持ち:・I(−→a ) = {i | gi(

−→a ) = 0}★ gi(

−→a ) < 0 (i �∈ I(−→a ))のとき,この条件は制限にならない ⇒µi = 0,★ gi(

−→a ) = 0 (i ∈ I(−→a ))のとき,「gi < 0側でfが大きい」

・証明:f(−→a + t−→u ) < f(−→a ), gi(−→a + t−→u ) < 0, i ∈ I(−→a ), なる

t > 0, −→u が無いことからGordanの定理

�� 24(�)

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3.Kuhn–Tucker条件と制約想定◎設定X: −→a ∈ R

nとε > 0と−→a のε近傍U,f : U → Rと−→g : U → RmはC1

級,fが−→a で条件−→g � 0の下での極小値を取る.

○設定Xかつ∇ gi(−→a ), i ∈ I(−→a ), 1次独立⇒ Kuhn–Tucker条件:

∃λ1, · · · , λm; ∇ f(−→a ) +m∑

i=1

λi ∇ gi(−→a ) =

−→0 ,

λi � 0, λigi(−→a ) = 0, i = 1, · · · , m

・証明:∇ gi(−→a )が1次独立なのでF–J条件でµ0 > 0

・KT条件は,凸関数で最小値の同値条件になるので,伏線的紹介

○ 制約想定:不等式条件下極小値問題からFJ条件より強いKT条件を得る十分条件・設定XかつCottleの制約想定:「−→a ∈ U , −→g (−→a ) � 0 ならば ∃−→u ; ∇ gi(

−→a )−→u < 0, i ∈ I(−→a )」⇒ Kuhn–Tucker

・−→g が凸関数ならSlaterの制約想定と同値(後述)�� 25(�)

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4.例1例1 −x2

1 +2x2 � 0, x21 +x2

2−3 � 0 の条件下でx1+x2の最大値

�� 26(�)

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5.例2例2 x2

1 + x22 + x2

3 − 1 � 0 の条件下でx31 + x3

2 + x33の最小値

�� 27(�)

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6.凸集合,凸関数S ⊂ R

nが凸集合とは,(∀−→x ,−→y ∈ S)(∀0 < λ < 1) λ−→x + (1 −λ)−→y ∈ S

・例 {−→x ∈ Rn | ‖−→x ‖ � M}, {−→x ∈ R

n | A−→x � −→b }

S ⊂ Rn: 凸集合のとき,f : S → Rが(下に)凸関数とは,

(∀−→x ,−→y ∈ S)(∀0 < λ < 1) f(λ−→x + (1 − λ)−→y ) � λf(−→x ) + (1 − λ)f(−→y )−→g : S → R

mが(下に)凸関数とは,各成分が凸関数のこと

・ −→g : Rn → R

mが凸関数→{−→x ∈ Rn | −→g (−→x ) <

−→0 } は凸集合

注 凸=グラフで「下に凸」 convex (2階微分の符号重視)★以下,凸関数の最小値のみを考察する

�� 28(�)

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7.凸関数の微分による特徴付け・ 開凸集合S ⊂ R

nとf : S → Rにおいて(1) f ∈ C1のとき, fが凸 ⇔ f(−→x )−f(−→a ) � ∇ f(−→a ) (−→x −−→a )

(2) f ∈ C2のとき, fが凸 ⇔ HfがSで非負定値

注 f ∈ C1が擬凸: ∇ f(−→a ) (−→x −−→a ) � 0 ⇒ f(−→x ) � f(−→a ) が成り立つこと(1)の証明は,⇒は平均値の定理,⇐は∇ f(λ−→x + (1 − λ)−→a )(2)の証明はテイラーの定理(⇐ではλ → 0も)・(平均値やテイラーの定理は−→x ∈ Uε(−→a )だが,証明でλ → 0として使うので,)(1)(2)の−→x , −→a は離れていてもよい(Slater ⇔ Cottle の証明で使う)

・1次関数は凸かつ凹, ・非負定値対称行列の2次形式は凸, ・f ′′(x) > 0ならば凸, ・凸関数の和は凸関数

�� 29(�)

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8.凸関数の最小値の同値条件◎主張Y:開凸集合S,C1級の凸関数f : S → Rが−→a ∈ Sで最小値

・(拘束条件無い場合) Y ⇔ ∇ f(−→a ) =−→0

証明:⇒は凸性不要で既出,⇐は凸性から・(線形等式条件)

−→b ∈ R

n, m × n行列A; rankA = m < n,A−→x =

−→b の下でY ⇔ ∃−→λ ∈ R

m; ∇ f(−→a ) + t−→λ A =−→0

証明:⇒は凸性不要で既出,⇐は凸性とA−→x =−→b から

例.平面ax + by + cz = d上の点P(x, y, z)とQ(x0, y0, z0)の距離f(x, y, z) = (x − x0)

2 + (y − y0)2 + (z − z0)

2,

m = 1, n = 3, A = (a b c),−→b = d

�� 30(�)

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9.凸関数の最小値の同値条件(不等式条件)※設定Z:−→g : R

n → Rm,C1級凸,S = {−→x ∈ R

n | −→g (−→x ) � 0}定義: −→g が−→a でSlaterの制約想定を満たすとは,∃−→b ∈ S; (∀i ∈ I(−→a )) gi(

−→b ) < 0

定理: Cottleの制約想定成立とSlaterの制約想定成立は同値

※主張Y(再掲):C1級の凸f : S → Rが−→a ∈ Sで最小値

定理:  −→g (−→b ) <

−→0 なる点

−→b ∈ Sがあるとき,

設定Zの下での主張Y ⇔ −→a でKuhn–Tucker条件成立証明:⇐は,−→b の存在不要で,凸性とKuhn–Tucker条件と−→g (−→x ) � −→

0 ,−→λ � 0

⇒は,−→g (−→b ) < 0からSlater⇒Cottle ⇒「Cottle+極小→Kuhn–Tucker」

(既出)

例.x1 + x2 � 3, 3x1 + x2 � 5 の下で,x21 + x2

2の最小値

�� 31(�)

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10.分離定理『n次元空間R

nの中の共有点を持たない2つの凸集合は,n − 1次元空間(超平面R

n−1)をうまく選ぶとそれによって仕切られる別々の半空間に収めることができる』凸集合の定義(テキスト第6章冒頭既出).例:円,多角形,第 i象限, 線形部分空間,{B −→y | −→y ∈ R

m}分離定理:A, BがR

nの凸集合でA ∩ B = ∅のとき,−→x ∈ Aならば(−→x ,−→p ) � c,−→y ∈ Bならば(−→y ,−→p ) � c,

となる−→p ∈ Rnと定数cがある.  (−→u ,−→v )は内積

注:−→y 0 ∈ Bを選んで c = (−→y 0,−→p )とおける.−→x 0 ∈ Aを選んで c = (−→x 0,−→p )とおくことも可能

『−→w の方程式(−→w −−→y 0,−→p ) = 0で定義される(超)平面に関して,集合Aは−→pの方向の半空間,集合Bは−−→p の方向の半空間,にそれぞれ含まれる.』注:閉集合で無くても成り立つ.特に接している場合は接線(接平面,…)で仕切るので数学的に当たり前ではなくなる例:A = {(x, y) | (x + 1)2 + y2 < 1}とB = {(x, y) | (x − 1)2 + y2 < 1}閉集合の場合の分離定理は証明がやさしい(のでその場合で説明)A, Bが凸 → A − Bも凸A ∩ B = ∅ → A − B �� −→

0閉凸の場合,連続関数f(−→v ) = ‖v‖についての最小値の原理�� 32(�)

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11.Gordanの定理Gordanの定理(第5章既出):−→a 1, . . . ,−→a m ∈ R

nについて(1)(2)は同値:(1) p1

−→a 1 + · · · + pm−→a m =

−→0 かつ

pi � 0, i = 1, . . . , m, (p1, . . . , pm) �= (0, . . . ,0) なるpiたちがある(2)(−→a i,

−→y ) < 0, i = 1, . . . , m, なる−→y ∈ Rnはない

分離定理のAをV,BをTと書き直してから,A = (−→a 1, . . . ,−→a m),V = {tA−→y | −→y ∈ R

n}, T = {−→x ∈ Rm | −→x <

−→0 }

で分離定理から(A−→p ,−→y ) = (−→p , tA−→y ) � c

Tの形からc � 0, −→p � −→0.−→y = −A−→p を代入するとA−→p = 0

Fritz–John条件(不等式条件−→g (−→x ) � −→0 の下でf(−→x )の最小値):

例:g1(a, b) = g2(a, b) = 0を満たす点(a, b)の場合(n = 2, m = 3)f , g1, g2のx偏導関数をfx, g1,x, g2,x

J =

⎝fx(a, b) fy(a, b)

g1,x(a, b) g1,y(a, b)g2,x(a, b) g2,y(a, b)

⎠ = tA

�� 33(�)

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0.秋学期まとめ• 第5章 (場合分けすればすむことを1セットの条件にまとめる話)不等式条件下での極値 =⇒ Fritz–John条件(証明はGordan (2)→(1))

• 第6章 (凸集合上の凸関数なら極値が1つでそれが最小)凸関数では「ほとんど」Kuhn-Tucker条件が最小値の必要十分条件凸関数不等式条件下での凸関数の最小値⇐= Kuhn–Tucker条件凸関数不等式条件下での凸関数の最小値+Slater制約想定=⇒ Kuhn–Tucker条件全ての不等式条件が一斉に負(0でなく)になる点が1つあれば,領域のどこでもSlaterが成立!

• 第7章 (「へこみのない領域」の線形代数による特徴付け)分離定理(共通点のない2つの凸集合は超平面の仕切りで別々の半空間にわけられる)Gordanの定理(Fritz–John条件の未定乗数≧0条件の由来)

場合分けすればすむことを未定乗数λを用いて1セットの条件にまとめた結果,「凸(+Slater)」の場合,L(x, λ) = f(x) + (λ, g(x)) のxについての最小値がλについての最大値と一致→ 鞍点定理(ミニマックス定理),(アフィン関数の場合さらに)双対定理(経済数学3)

�� 34(�)

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文献標準のテキスト(水色)「経済数学」慶應義塾大学経済学部

春学期 経済数学 I 第1-4章秋学期 経済数学 II 春学期の続き 第5-7章

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/hattori/2nen.htm

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