山形県医師会消化器検診中央委員会だより - med-3-...

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1 寄稿1 「胃がんリスク層別化検査(ABC 分類) データを正しく読み取るために」 胃がんリスク評価に資する 抗体法適正化に関する多施設研究から消化器検診中央委員会   副委員長 大泉 晴史 はじめに 胃がんの原因はH.pylori 感染であること が広く周知され、胃がんリスクに関する概 念が大きく変化してきた 。特に日本では、 若年層におけるH.pylori 感染率の低下が顕 著であることから、H.pylori 感染を胃がん リスクとした新しい胃がんリスク評価方法 遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇 遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇 山形県医師会消化器検診中央委員会だより H31 年3月31 No.22 はじめに 山形県の40 才以上の人口は横ばいで推移していますが、大腸がん検診の受診数もそれに合 わせて横ばいです。その一方で、胃X線検診を受診される方が目に見えて減少しています。 これはヘリコバクターの除菌が広まり、除菌後の定期検査としてかかりつけの先生での内視 鏡検査が増えたためと推測されています。また対策型内視鏡検診の本格導入も今後見込まれ ており、しっかりした検診体制を継続し、精度管理を行っていく必要があります。 たより22 号では、検診において理解しておくべきヘリコバクター関連の話題や内視鏡検診 の問題に加えて、大腸CTの寄稿をいただきました。講演の記録や推薦図書も是非参考にし ていただきたいと思います。伊藤先生の講演記録は少し長いですが、臨場感たっぷりです。 さらに今回はオムニバス方式で話題提供を試みてみました。           (武田) 験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験 目   次 1)はじめに…………………武田 弘明…1 2)寄稿1 胃がんリスク層別化検査 ……………………………大泉 晴史…1 3)寄稿2  山形県立河北病院における大腸 CT検査の現況…………深瀬 和利…6 4)寄稿3  米沢市胃がん内視鏡検診の進捗 レポート…………………中山 裕一…8 5)伊藤高広先生の講演より ……………………………半田 和広…9 6)推薦書(書評)…………田村 真明…25 7)消化管内視鏡スクリーニング認定制度 ……………………………大泉 晴史…27 8)平成29 年度検診データ…………………28 9)話題の広場………………武田 弘明…32 10 )おわりに…………………武田 弘明…34 験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験

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Page 1: 山形県医師会消化器検診中央委員会だより - Med-3- 研究は、本学会倫理審査委員会の承認を受 けた(承認番号;17001)。多くの解析がな

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寄稿1

「胃がんリスク層別化検査(ABC分類)

   データを正しく読み取るために」

 (胃がんリスク評価に資する

  抗体法適正化に関する多施設研究から)

消化器検診中央委員会  

副委員長 大泉 晴史

はじめに

 胃がんの原因はH.pylori感染であること

が広く周知され、胃がんリスクに関する概

念が大きく変化してきた敢。特に日本では、

若年層におけるH.pylori感染率の低下が顕

著であることから、H.pylori感染を胃がん

リスクとした新しい胃がんリスク評価方法

靴 轡遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇

靴轡 遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇遇

山形県医師会消化器検診中央委員会だより

H31年3月31日

No.22

は じ め に

 山形県の40才以上の人口は横ばいで推移していますが、大腸がん検診の受診数もそれに合

わせて横ばいです。その一方で、胃X線検診を受診される方が目に見えて減少しています。

これはヘリコバクターの除菌が広まり、除菌後の定期検査としてかかりつけの先生での内視

鏡検査が増えたためと推測されています。また対策型内視鏡検診の本格導入も今後見込まれ

ており、しっかりした検診体制を継続し、精度管理を行っていく必要があります。

 たより22号では、検診において理解しておくべきヘリコバクター関連の話題や内視鏡検診

の問題に加えて、大腸CTの寄稿をいただきました。講演の記録や推薦図書も是非参考にし

ていただきたいと思います。伊藤先生の講演記録は少し長いですが、臨場感たっぷりです。

さらに今回はオムニバス方式で話題提供を試みてみました。           (武田)

幻 弦験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験

目   次

1)はじめに…………………武田 弘明…1

2)寄稿1 胃がんリスク層別化検査

  ……………………………大泉 晴史…1

3)寄稿2 山形県立河北病院における大腸

  CT検査の現況…………深瀬 和利…6

4)寄稿3 米沢市胃がん内視鏡検診の進捗

  レポート…………………中山 裕一…8

5)伊藤高広先生の講演より

  ……………………………半田 和広…9

6)推薦書(書評)…………田村 真明…25

7)消化管内視鏡スクリーニング認定制度

  ……………………………大泉 晴史…27

8)平成29年度検診データ…………………28

9)話題の広場………………武田 弘明…32

10)おわりに…………………武田 弘明…34

幻 弦験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験験

Page 2: 山形県医師会消化器検診中央委員会だより - Med-3- 研究は、本学会倫理審査委員会の承認を受 けた(承認番号;17001)。多くの解析がな

が提案されており、「がん検診のあり方に関

する検討会」においても、その有用性は認

知されている柑。その代表的な方法が、血清

抗H.pylori抗体価と血清ペプシノゲン値を

評価する所謂「ABC分類」(胃がんリスク

層別化検査)である桓棺。近年自治体などが

実施している対策型検診の補助手段として、

胃がんリスク層別化検査は国内で急速に導

入されつつある。本法は検診対象の集約化

には有用な手段であるが、胃がんリスクが

ないとされる群(所謂A群)に少なからず

胃がん発生があることが報告され、本法の

深刻な問題として指摘されるようになった。

その主因の一つは、血清H.pylori抗体価の

基準値であることがヘリコバクター学会学

術集会などで多く報告されている。血清

H.pylori抗体検査として本邦で最も汎用さ

れている「Eプレート栄研H.ピロリ抗体Ⅱ」

は、本来H.pylori現感染症例を診断するた

めに開発、承認された定性試験であり、そ

のカットオフ値は10U/mLである。従って、

胃がん検診における「胃がんリスク層別化

検査(ABC分類)」に応用する際にも、こ

のカットオフ値が使用されてきた。ところ

が、抗体価3,0~9,9U/mLを示す症例群に、

H.pylori現感染や既感染の感染症例が高頻

度に含まれることが報告され款歓、胃がんリ

スク評価の為には従来のカットオフ値を

3.0U/mLに変更すべきとする提言がなされ

ている汗。以上のように、既存のカットオフ

値は胃がんリスクを評価するに資するカッ

トオフ値でないことは明らかであるが、そ

の基準値について学会からの提言はこれま

でなかった。

 胃がんリスク評価方法として血清診断が

担う役割は大きく、その基準値をどのよう

に決定するかの研究を行い、その成果を社

会に還元することは急務であること、更に

はヘリコバクター学会が責任ある提言を行

うことには、社会的にも重要な意義がある

との考えから、血清抗体価に関する臨床成

績を再検討し、「最適な胃がんリスク評価に

資する最適な測定基準値」を提示すること

を目的としたヘリコバクター学会主導の多

施設研究が実施されることとなった。

対象と方法

1.対象症例と報告項目

 症例登録の基準として、敢20歳以上の男

女、柑2000年1月1日以降に空腹時採血を

行い、血清抗H.pylori抗体価「Eプレート

栄研H.ピロリ抗体Ⅱ」を測定した症例、桓

上部消化管内視鏡検査が実施され、尿素呼

気試験(Urea Breath Test:以下UBT)、便

中抗原検査(H.pylori Stool Antigen Test:

以下HbSA)、迅速ウレアーゼ試験(Rapid

Urease Test:以下RUT)いずれかでH.pylori

感染状況を診断した症例、棺検診受診者、

病院受診者の別は問わないが、、各施設で適

切な同意のもとに血清が採取された症例、

以上4項目を満たすものとした。(除外基準

省略)

 報告項目は、年齢、性別、検診/診療の別、

血清抗H.pylori抗体実測値、H.pylori感染

状態(H.pylori感染の診断と治療のガイド

ラインを参照して判定)、木村・竹本分類に

よる内視鏡的萎縮境界、血清抗体以外の

H.pylori感染診断結果、とした。

研究デザイン

 多施設共同後ろ向き疫学研究で、症例登

録の終了後、研究のアウトライン(表1)

に沿って中央解析施設(広島大学消化器・

代謝内科)にて解析を実施した。なお、本

-2-

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研究は、本学会倫理審査委員会の承認を受

けた(承認番号;17001)。多くの解析がな

されたが、ここではより簡潔に理解して頂

くため、コアの部分を中心に述べることに

する。

結果

 研究参加15施設(表2)のうち、10施設

より登録のあった適格症例2,591例を対象

とした。全症例の特性は表3に示す如くで、

平均年齢は55.6歳、病院受診例、H.pylori

現感染例が多く含まれていた。

1)カットオフ値による各種統計指標

               (表4)

 5種の仮想カットオフ値(3.0, 3.1, 3.2,

3.5, 4.0U/mL)を設定した際の各種統計指

標を表4に示す。診断的中率は、カットオ

フ3.1U/mL並びに3.2U/mLの場合が97.1%

と最善であったが、カットオフ3.0U/mLに

おいても略同等の正診率(97.0%)を示した。

一方、陰性反応的中率については、カット

オフ3.0U/mLの場合が最も高値(95.6%)で

あり、カットオフ3.1U/mLないし3.2U/mL

の場合(94.2%)と比較し、1.4%の相違が

あった。

2)血清抗H.pylori抗体価とH.pylori感染

状態の関連

 全登録症例(2,591例)における、血清抗

体価とH.pylori感染状態との対比を表5に

示す。抗体価3.0U/mL未満においては、

90.8%がH.pylori未感染と診断されていた

が、H.pylori感染例 (既感染、現感染)も

約10%含まれていた。

 抗体価3.0U/mL未満の集団を年齢階層別

に解析したところ、59歳以下の比較的若年

者においては、H.pylori未感染者が94%と

高率であるが、60歳以上の比較的高齢者の

集団では、H.pylori未感染者の比率は82%

に低下していた(表6)。

 抗体価とH.pylori感染状態の関連を、内

(表1)

(表2)

(表3)

(表4)

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視鏡的萎縮のない症例(萎縮境界が C0,C1)

に限定して解析を行った。結果を表7に示

すが、抗体価3.0U/mL未満の場合、99%の

症例がH.pylori未感染と判定された。既感

染症例を検討対象から除外した場合、

H.pylori未感染症例が占める比率は99.8%

となった(表8)。

考察

 胃がんリスクが極めて低いH.pylori未感

染者を効率よくスクリーニングするために

は、高い陰性的中率を有するカットオフ値

を設定する必要がある。今回の研究結果か

ら、胃がんリスクスクリーニングに最も推

奨できる適切なカットオフ値は3.0U/mL未

満とすべきである。ただし、全検討集団に

おいて、抗体価3.0U/mL未満の10%弱は

H.pylori感染例であり、このカットオフ値

を用いた場合においても、抗体価単独でリ

スク診断を行うことは出来ない。特に60歳

以上の高齢者群において、H.pylori感染者

が混在する確率が高く注意が必要である。

 もう一つ残る課題として、測定有効域の

問題がある。既感染を考慮すればH.pylori

抗体値3.0U/mL未満の検討が必要になる。

しかし現キットの有効測定域は3.0以上

100U/mL未満であり、3.0U/mL未満の実測

値は存在しないため、至適測定領域を外れ

た部分での議論には限界がある。

 従って、実臨床では、H.pylori抗体値が

3.0U/mL未満であっても、特に60歳以上の

高齢者群では既感染者、現感染者が比較的

高率に混在することから、内視鏡検査で委

縮がない(C0/C1)ことを確認したうえで未

感染と診断すべきと考える。またH.pylori

抗体値3.0~9.9U/mLの陽性低値例につい

-4-

(表5)

(表6)

(表7)

(表8)

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ても、現感染者以外、既感染・未感染者も

高頻度に混在するため(表5)、除菌に当

たっては尿素呼気試験(UBT)による正確

な感染診断を行ったうえで適切に対応する

必要がある。

まとめ

1) H.pylori未感染者を効率よくスクリー

ニングするためには、高い陰性的中率を

有するカットオフ値を設定する必要があ

り、H.pylori未感染者のスクリーニング

に最も推奨できる適切なカットオフ値は

3.0U/mL未満である。その場合の陰性的

中率は96.0%であった。

2)カットオフ値(3.0U/mL未満)でH.pylori

未感染者が占める割合は年齢により異な

り、60歳未満では94%と高率であったが、

60歳以上では82%と低率であった。

3)抗体価が3.0U/mL未満、かつ、内視鏡

的萎縮を認めない(C0ないしC1)の場合、

99%以上はH.pylori未感染者であった。

 日常診療、検診・健診の場においては上

述の内容を理解して頂き、適切な対応をお

願いいたします。また、日本ヘリコバクター

学会からの勧告文、血清抗体と画像診断に

基づく胃がんリスク層別化と保険診療の推

奨指針も表とともに載せていますので是非

参考にご覧下さい。

文献1.Sugano K,Tack J,Kuipers E,et al.Kyoto global

consensus report on Helicobacter pylori gastritis.Gut

2015;64(9):1353-1367

2.がん検診のあり方に関する検討会中間報告書,平成27

年9月29日

3.Miki K.Gastric cancer screening using the serum

pepsinogen test method.Gastric Cancer 2006;9:245-

253

4.Miki K.Gastric cancer screening by combined assay

for serum anti-Helicobacter pylori IgG antibody and

serum pepsinogen levels -”ABC method”.Proc Jpn

Acad Ser B Phys Biol Sci 2011;87(7):405-414

5.Itoh T,Saito M,Marugami N,et al.Correlation

between the ABC classification and radiological

findings for assessing gastric cancer risk.Jpn J Radiol

2015;33:636-644

6.Kotachi T,Itoh M,Yoshihara M,et al.Serological

evaluation of gastric cancer risk based on pepsinogen

and Helicobacter pylori antibody:Relationship to

endoscopic findings.Digestion 2017;95(4):314-318

7.加藤勝章,笹島雅彦,伊東公訓,他.E-プレート'栄研’H.

ピロリⅡの抗体価陰性高値の取扱いについて-胃がんリ

スク層別化のための血清H.pylori抗体価の適正な判定基

準とは-.日本ヘリコバクター学界誌 2017;18(2):64-71

(表9)

(表10)

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寄稿2

「山形県立河北病院における

      大腸CT検査の現況」

山形県立河北病院内科 深瀬 和利

1.はじめに

 山形県医師会消化器部会の先生方にはい

つもお世話になっております。県立中央病

院から河北病院へ異動し、4年目となりま

した。当院で積極的に施行されている大腸

CT検査(CT colonography:以下CTC)に

ついてご紹介させていただきます。

2.CTCの歴史と大腸がん検診への応用

 CTCは、腸管前処置を行った後に大腸を

炭酸ガス等で拡張させ、CT装置で撮像を行

い、得られたデータからワークステーショ

ンを用いて2次元(3次元)像を構築し読

影する検査方法です。1994年のViningの報

告1)が嚆矢とされています。その後はCT機

器の高機能化とも相まって、米国のみなら

ず全世界的にも施行されるようになりまし

た。日本では2012年4月に大腸CT加算が

保険収載されました。

 CTCによる大腸がん検診への応用と精

度検証は、2000年代に欧米から報告されま

した。Pickhardtらの報告2)では10mm以上

の病変に対する感度が94%だったのに対

し、Johnsonら の 報 告3)で は35-72%、

Cottonらの報告4)では55%、Rockeyらの報

告5)では59%とばらつきが見られました。

この差は腸管前処置時に経口造影剤を加

えるtagging(タギング)の有無によるも

のと考えられていました。そこで、最新

の検査法を取り入れた American College

of Radiology Imaging Network (ACRIN)

によるnational CT colonography trialでは

2600症例の大規模な検証が実施され、

感度90%という成績が報告6)されまし

た。そして日本でも、Japanese National

CT Colonography Trial(JANCT)が施行

され、92%と報告7)、大腸がん検診に対す

る精度検証がなされました。米国では、CTC

は有効な大腸がん検査法として、大腸がん

検診ガイドライン8)に掲載されています。

3.当院のCTC検査について

 前処置は、前日にセンナとマグコロール

Pに検査食を併用した、標準的な前処置法

で行っており、大腸内視鏡時の前処置

PEG2リットル法より患者負担は少ないと

思われます。病変と残渣を区別するため、

経口造影剤で残渣のCT値を上昇させて標

識するfecal taggingのために、ガストログ

ラフィンも混合して内服させます(図)。

 検査には腸管拡張が必要なため、左側臥

位で経肛門的に炭酸ガスの注入を自動送気

装置によって行い、仰臥位と腹臥位で撮影

し、撮像は10分程度で終了します。当院の

CTは、2012年に導入された320列MDCT装

置Aquilion ONE (東芝社製)を使用して

います。

 読影は当院の常勤の放射線科医が行って

いますが、画像構築等はトレーニングを受

けた放射線技師の力も借りなければならず、

読影結果を患者さんに説明するまでには、

検査から2週間程度の期間をいただいてい

ます。

4.当院におけるCTCの現況

 当院では2012年から、放射線科の螻医師

と消化器内科の安達医師の尽力により導入

されました。現在は火曜日と木曜日の午前

-6-

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中に2枠ずつ通常枠は設定されています

(その他大腸CTドック枠が存在します)。

2017年12月末には施行件数は1000件に到

達し、2019年1月下旬現在では1,155件に

至っています。

 当院CTCの安全性の検証では、2013年4

月から2015年9月までの589例の検討で、

検査後経過観察を要した血管迷走神経反射

1例(0.17%)、無症状の腸管気腫1例

(0.17%)の発生がありましたが、重篤な偶

発症は認められませんでした。しかし、

CTCでも穿孔は稀ながら認められており、

その頻度は0.064-0.13%と報告9)-12)され

ており、検査前には必ず偶発症の説明もさ

せていただいています。

 上記の検討内容は2016年6月に、当院の

山中医師が第55回日本消化器がん検診学

会総会(鹿児島)のパネルディスカッショ

ン「大腸がん検診の精検におけるCTコロノ

グラフィーの位置付け」において、「偶発症

からみたCTコロノグラフィーの安全性に

ついての検討」の演題名で採択され、発表

させていただきました。

5.おわりに

 大腸がん検診における精密検査のゴール

ドスタンダードは大腸内視鏡検査です。し

かし、大腸内視鏡検査深部挿入困難例や

様々な合併症をお持ちの高齢者における大

腸スクリーニング検査など、CTCはリスク

を伴う大腸内視鏡検査を補完し得る有用な

検査法と思われます。またその侵襲度の低

さからも、大腸がん検診の二次精検におけ

る偶発症回避の選択肢の一つでしょうし、

精検受容度を高め得る検査法とも考えられ

ます。集検での便潜血反応陽性であれば、

CTCは保険診療下で受けることが可能で

すので、症例に応じて、また患者さんから

のご希望等ございましたら、ご紹介いただ

ければ幸いです。

 おかげさまで、西村山郡はもとより、北

村山郡、山形市、遠くは置賜地区からも

CTC目的のご紹介をいただくようになり

ました。これからも症例を増やし、レベル

アップに努めていく所存ですので、今後と

もよろしくお願い致します。

【文献】1)Vining DJ, et al : Non-invasive colonoscopy using helical CT scanning, 3D reconstruction and virtual reality. Maui (USA) : 23rd annual meeting, Society of Gastrointestinal Radiologists : 19942)Pickhardt PJ, et al : Computed tomographic virtual colonoscopy to screen for colorectal neoplasia in asymptomatic adults. N Engl J Med 349 ; 2191-2200 : 2003

3)Johnson CD, et al : Prospective blinded evaluation of computed tomographic colonography for screen detection of colorectal polyps. Gastroenterology 125 ; 311-319 : 2003

4)Cotton PB, et al : Computed tomographic colonography (virtual colonoscopy) : a multicenter comparison with standard colonoscopy for detection of colorectal neoplasia. JAMA 291 ; 1713-1719 : 2004

5)Rockey DC, et al : Analysis of air contrast barium enema, computed tomographic colonography, and colonoscopy : prospective comparison. Lancet 365 ; 305-311 : 2005

6)Levine B, et al : Screening and surveillance for the early detection of colorectal cancer and adenomatous polyps, 2008 : a joint guideline from the American Cancer Society, the US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer, and the American College of Radiology. CA Cancer J Clin 58 ; 130-160 : 20087)永田浩一, 他 : 多施設共同臨床試験Japanese National CT Colonography Trial (JANCT) による大腸3D-CTの精度検証. Gastroenterol Endosc 54 ; 2626 : 20128)Johnson CD, et al : Accuracy of CT colonography for detection of large adenomas and cancers. N Engl J Med 359 ; 1207-1217 : 2008

9)Bellini D, et al : Perforation rate in CT colonography : a systematic review of the literature and meta-analysis. Eur Radiol 24 ; 1487-1496 : 201410)Halligan S, et al : CT colonography in the detection of colorectal polyps and cancer : systematic review, meta-analysis, and proposed minimum data set for study level reporting. Radiology 237 ; 893-904 : 2005

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11)Bowles CJ, et al : A prospective study of colonoscopy practice in the UK today : are we adequately prepared for national colorectal cancer screening tomorrow? Gut 53 ; 277-283 : 200412)Sosna J, et al : Colonic perforation at CT colonography : assessment of risk in a multicenter large cohort. Radiology 239 ; 457-463 : 2006

寄稿3

「米沢市胃がん内視鏡検診の進捗レポート」

米沢市医師会         

中山胃腸科内科医院 中山 裕一

 2016年2月厚労省の改正通知により内

視鏡検査が胃がん検診の検診項目に加えら

れたが、同年10月には本委員会においては、

県全体で内視鏡検診を進めることは困難で

各地区ごと実情に合わせて内視鏡検診に取

り込むことが話し合われた。

 一方米沢市は胃がん検診受診率が県内で

もかなり低く、従来の方法では受診率向上

がなかなか見込めない状況が続いているこ

とから、検診手段の選択肢を増やし比較的

少ない費用と労力で実現が可能と考えられ

る個別検診として、「内視鏡一次検診」を計

画した。おりしも市の提唱する “目指せ!!

健康長寿日本一” の考えにも合致するもの

で、県内初の対策型検診(住民検診)とし

ての導入をめざして米沢市から積極的に計

画を推進していただけることとなり、目標

の平成31年度初め(5月)からの実施が現

実のものとなりつつある。

 平成30年度の活動としては、米沢市医師

会保健検診委員会内に胃内視鏡検診準備小

委員会を設置し12回開催した。ここでは実

施要綱の作成、検査医の認定、内視鏡撮影法、

検診データの管理方法、データ管理に必要

な機器の選定、検診精度管理の方法、合併

症対策などについて検討したほか、米沢市

健康課とともに検診実施方法の詳細を協議

した。一方医師会員対象の研修会として宮

城県対がん協会の加藤勝章先生を迎えての

講演会の開催、先進地を学ぶ目的で前橋市・

新潟市への視察を実施した。また山形県医

師会からは地域保健研究事業として

「内視鏡による胃癌個別検診事業の実施と

啓発事業−内視鏡検診が地区胃がん検診の

成績向上に果たす役割を検証する−」

を取り上げていただき、本年度では研修会

や視察活動へのご支援いただいている。

 検診初年度となる平成31年度は、日本消

化器内視鏡学会の専門医の資格を有する7

医療機関7医師が市の個別検診として実施

(予定)し、集合読影による二重読影体制を

とることとなった。受診対象者は、国が推

奨するものとは異なるも、従来のX線検診

の基準に倣い40歳以上の米沢市民に逐年

-8-

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検診として行うこととした。また検診費用

は14420円(+消費税)、受診者負担金は70

歳未満3000円、70歳以上無料の案で3月末

までの審議中である。市では受診者数の予

想を500人としているが、2月の検診希望

調査や3月1日の市報に掲載された予告記

事にはかなりの反響があり、来年の実績が

楽しみである。

「背景粘膜を考慮した胃がんX線検診」

 奈良県立医科大学放射線医学教室

      伊藤高広先生の講演から

消化器検診中央委員会  

委員 半田 和広

【はじめに】

 平成30年12月1日山形市医師会館にて

山形県医師会消化器検診研修会が開催され

ました。

 伊藤先生は背景胃粘膜診断のバイブルと

も言われる文光堂より昨年4月に出版され

た「X線と内視鏡の比較で学ぶH.pylori胃

炎診断」の著者のお一人です。今後の胃が

んX線検診で重要となる背景胃粘膜読影の

重要性とその読影法などについて詳説して

いただきました。以下に講演の概要をご報

告いたします。

【講演】

自己紹介

 私が居りますのは奈良市の少し南の橿原

市で、藤原京があったところです。天智天

皇のお嬢様、持統天皇が藤原京を建てられ

日本の骨格を作られました。今の財務省、

外務省など官庁制度やお酒の一合二合など

の単位が定められたのも藤原京の時代です。

恐れ多いことにこの持統天皇が今、橿原市

のマスコットキャラクターになっておられ

ます。その藤原京のあった場所に奈良医大

がいま建っており、私はそこで仕事をして

おります。私は放射線科医なのですが、放

射線科医で一番有名な人は近藤誠先生で、

検診をする人からするとちょっと敵のよう

に思う方がいるかもしれません。学会で私

の発表に普通に質問してこられたことがあ

りまして、その場で質疑応答をしました。

私の上司がそのことをいつまでもネタにし

まして、伊藤君はあの近藤さんをやりこめ

たと言ってずいぶん自慢しまして、非常に

汗をかいた思い出があります。至極普通で

真っ当な方でいらっしゃいます。また、私

は放射線科ですけれども、教室では内視鏡

もずっとやっており、内視鏡とX線を使っ

た検診をしている教室にいましたので今の

私に至っております。手前味噌ですけれども、

西日本の大学病院で初めて経鼻内視鏡を行

いました。私が非常に内視鏡好きだというこ

とをまず分かっていただければと思います。

1.胃内視鏡検診と胃X線検診について

 内視鏡検査とX線検査をどうしていくの

かということです。現在、胃X線検診、胃

内視鏡検診、胃がんリスク層別化検査

(ABC分類)、ピロリ菌検査、ペプシノゲン

法の5つ検診法がございます。今後どうし

ていくのか、整理して考えないといけない

と思います。

 2016年2月に厚労省からがん予防重点

健康教育及びがん検診実施のための指針が

出ました。X線検診は当面40歳から年一回、

内視鏡検診は50歳から2年に一回で、ABC

分類はリスク評価に有用で、今後X線・内

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視鏡との適切な組合せを検討とされ、ペプ

シノゲン、ピロリ菌検査それぞれ単独はす

すめられないとされました。大事なことは

40代をどうしていくのかという問題であ

ります。それから、X線と内視鏡の組合せ

について全く触れられておりません。それ

から、リスク検査は検討に値すると認めら

れましたが、除菌後の検診法について全く

触れられていません。

 また、よく胃がんの発見率は内視鏡の方

が3倍以上とする発表・報告が多いのです

が感度・特異度で見ると、意外に差がない

のです。圧倒的に内視鏡が良いというもの

ではありません。そこをよく見極めないと

いけないと思います。内視鏡検診が認めら

れた基になるある研究では、エビデンスが

出たのは3年以内に一度でも胃内視鏡検診

をした場合のみで、3割の胃がん死亡率減

少効果を認めました。ところが、胃X線検

診では効果は証明されませんでした。バリ

ウム検査は非常に逆風ばかりで『週刊ポス

ト』の記事にも危ない点ばかり拾われ

キャッチーなタイトルで煽るようなことが

書かれているように思います。胃X線検診

と内視鏡検診を比較すると、内視鏡は医師

しか行えない、内視鏡の消毒が必要、ダブ

ルチェックが容易でない、偶発症が比較的

多いなどと、かなり乗り越えるべき点があ

ることが分かります。それを乗り越えてで

もやるのはがん発見率が高いからです。し

かし、そもそもがん検診の目的は発見率競

争ではないということは押さえておくべき

かと思います。また、内視鏡検診で本当に

見逃しが少ないのかということですが、X

線検査と比較して偽陰性率(見逃し)が意

外に高いことが分かります。奈良医大の実

験データでは、噴門部の進行がんが2年前

の内視鏡で見逃されていました。2007年東

京都がん検診センターの細井薫三先生の直

弟子でいらっしゃる水谷先生はその非常に

高いレベルの施設でも48%見逃している

と報告されました。日頃よくご指導いただ

いている京都の小林先生も35%というこ

とで、バリウム検査と偽陰性率はさほど変

わりありません。自験例ですが、経鼻内視

鏡で発見した進行胃がんがあります。私が

経鼻内視鏡を始めた時は大変なバッシング

に遭いました。しかし、“通常内視鏡”で前

回指摘された糜爛が、そのまま放置されて

2年後に進行がんになっていました。つま

り如何に診断するかが重要であり、機器に

よるものではないと思います。

 内視鏡検診の見逃しの原因についてです

が、九州の満埼先生の発表では、対象期間

中の発見癌115例中逐年受診者からの発見

早期胃がん39例を対象に前回内視鏡写真

を検討した結果、陰がんの部分を見直して

も診断できない10例(8.7%)。隠振り返っ

てみると診断できる18例(15.7%)。さらに、

韻がんの部分が撮影されていない11例

(9.6%)でした。そこで、本来の見逃しは

隠の18例で15.7%と結論されました。しか

し、韻のがんの部分が撮影されていないの

はそもそも不完全な検査であり、これも見

逃しとカウントすべきでないか、つまり見

逃しは隠+韻の25.7%と私は思います。と

いうことで、内視鏡検診では網羅的な撮影

を心懸けるべきということが盛んに言われ

ています。

 さらに見逃し例です。1年前内視鏡が行

われており、写真を見直すと胃体部大弯に

がんがありました。意外と、大湾側も見逃

してしまうことが分かります。また、ある

ご開業の先生で早期胃がん検診研究会の中

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にも症例を出されるようなすごい先生です

が、胃角部から前庭部にかけて多発胃潰瘍

を認め、直ちに除菌された。生検の結果、

“por”で慌てて大学に紹介して下さいまし

た。前庭部の病変だというお話だったので

すが、X線検査では実際にはずっと広く4

型の進行がんでした。内視鏡で診断できた

範囲は病変の3分の1ぐらいしかありませ

ん。ということでバリウム検査は危ないと

言われますけれども、内視鏡検査も危ない

と思います。胃体下部大弯の2cm大の0-

IIc未分化型早期胃癌のX線検査の術前精

査の依頼がありました。これは出せないよ

と思っていましたが、びっくりしました。

胃体部のびまん浸潤型の進行がんでした。

内視鏡を見直しましたが、進行癌部の写真

がありませんでした。すーっと通り抜けて。

ベテランの先生は「そういうことよくある

ね。」とおっしゃるかもしれませんが、最初

から内視鏡をしていてこういうことだと大

丈夫なのかなと心配もあるわけです。

 ホームラン王の王さんの胃がんです。年

2回内視鏡検査を受けられています。とこ

ろが進行胃癌を指摘され、術前胃X線検査

を行いました。それにしても半年前異常な

しとは、どういうことなのかなと思いまし

た。著書の中で、ご自身を振り返って胃カ

メラだけでやっていた、これが良くなかっ

たと振り返っていらっしゃる。かなり内心

お怒りだったみたいです。「全体像をつかむ

にはバリウムは欠かせないらしい。だから、

みんなもちゃんと併用した方が良いよ。」と

いうふうに取り巻きの記者さんにはおっ

しゃったそうであります。併用ということは、

これからのポイントだと思うのですが、全然

どこでも話題に上がっていなくて、実際方法

は難しいと思いますがこれは考えていかな

いといけないと、個人的には思っています。

 ちょっとくどいのですが、内視鏡の恐ろ

しい事例をお示しいたします。進行胃がん

の症例。大学では放射線科といっても今は

もうCT、MRI、IVRばかりで、バリウム検

査は誰もしないのですが、一応研修医には

一通りやらせるのです。ある一年目の研修

医の先生に撮らせていると、研修医「先生、

食道に何かあります。」私「そんなわけない

やろ。内視鏡終わってるんやで」。しかし、

確かに進行食道癌がありました。紹介して

きた先生は気づいてなかったということで、

見てなかったということになります。こう

いう危ない例がたくさんありますけれども、

このぐらいにしておきます。国家試験でも

全体像をつかむという意味でX線は欠かせ

ないということを厚生労働省も考え、2016

年2月の医師国家試験で出題されました。

 さて、話題変わりまして、胃がんは今ど

のような状況なのかということです。がん

罹患数予測は男性で1位に復帰しました。

胃がんは減少したのではないのかというこ

とですけれども、死亡数に関しても男性で

は肺がんに次いで2位です。ただ、女性の

方を見ますと、膵がんに抜かれて4位に落

ちています。そして、年齢調整死亡率を見

てみますと、ものすごい下がり方でこの20

年で半分に減っています。つまり、高齢者

の疾患になってきたということが言えるか

と思います。そのことはちょっと念頭に置

きつつやっていかねばならないと思います。

 がん検診の4大不利益をどう克服するの

かという未来への課題があります。正常の

人をがん疑いとする疑陽性、がんの所見を

見落として正常とする偽陰性、検査により

身体に障害を受ける偶発症、そしてがんの

診断は正しいが実際には余命に関係ない状

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況である過剰診断です。過剰診断は不必要

な治療につながります。もちろんなんとか

やる側が克服していかないといけないので

すけれども、受診者の人にも説明する必要

があるのではないかなと思います。特に、

冒頭近藤誠先生のことを言いましたが、過

剰診断については大きな問題と思います。

泌尿器科の大御所の先生ですけれども、が

ん検診は過剰診断時代と名付けておりまし

た。なんと、検診発見がんの8割が治療不

要だというふうに言い切っておられました

が、受診率を100%にすれば11万人を救命

できるというふうにもおっしゃっています。

つまり年間36万人のがんで亡くなる方の3

割を救命できるということをおっしゃって

います。私の恩師が所長をやっているとこ

ろでは「現在の医療ではどのがんが生命を

脅かすのか完全にわからないため、生命を

脅かすことがないがんであっても、治療が

行われることがある」というリーフレット

を作って、受診者の方に過剰診断の説明を

しています。

 胃がんの未来予想図です。この15年間で

罹患数は3万人増えていますが、死亡数は

あまり変わりません。医学部の学生さんに

その理由を考えてもらうと、胃がんの診断

がすごく進歩し良く治るようになったとい

う単純な見方する生徒さんが多いです。し

かし、私がベストアンサーに選んだ問題点

をしっかり把握している人たちもいます。

全然根拠はないですが、多分今後罹患数は

増え続けるものの死亡数は変化しないので

ないかと私は思っています。“恐れていま

す。”という方が正しいかもしれません。ど

んどん高齢化していきますので内視鏡検診

導入により罹患数は増え続け、胃がん死数

は減らないのでないかなと密かに恐れてい

ます。ただ、今までバリウムで見逃された

という話はよくありますが、内視鏡で見逃

されたということになると、果たして受診

者の感情として許せるのかどうか。昨年、

放射線科の先輩で獨協医大の石川勉先生は

内視鏡検診に関しては偽陰性の許容値を決

めておかないと危ないのでないかとおっ

しゃいました。まさに私もそう思っていま

す。あまり言う人はいないですけれども。

それから、内視鏡にはやはり市町村がお金

を出しているという問題があります。今ま

で集団検診では全国一律4千円でやってい

た。ところが、個別検診で内視鏡になると

1万何千円となって全然違います。その値

段では市町村によっては出せませんので格

差が拡大するだろうと思います。そして、

先ほど申しました過剰診断が顕在化する恐

れがあるのではないかなと。問題をかなり

はらんだものと思っています。

2.X線による背景胃粘膜診断 −検体検査

によるリスク診断との比較を含めて−

 今日の本題に入って行きます。その前に、

実を言うと胃X線検診の未来は受診希望者

の減少、受診者の高齢化、検診専門技師の

高齢化と減少、読影可能医の高齢化と減少

など良いことがあまり考えらません。ある

先生に、「君にX線の幕引きを担って欲し

い。」と言われ、「えーっ」と思っているん

です。それはさておき、このX線検診の歴

史です。ここ東北では、仙台に行きますと、

胃がん検診発祥の地という碑があるらしい

のですが、1953年に私のいる奈良医大の教

室も奈良県下2町15村で胃がん検診を

行っています。そして胃がんの6名が発見

されました。小規模なものですが、当時誰

もやっていませんでしたので多分地球史上

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初めての胃がん検診でないかなと思います。

この背景には、奈良県が胃がんワースト1

だったということがあり県と医大でやりま

しょうということになりました。あまり知

られていない歴史なのですが、その当時検

診という概念のないこの6人は、全員治療

を拒否したということです。なので、その

後はうまく行かなくなったということです。

なかなか難しい問題があります。

 さて、X線のお話をしていきます。ちょっ

と釈迦に説法かなと思いますが、ピロリ未

感染のX線所見は以下の特徴があります。

皺襞に注目しますと、細くて滑らか、直線状。

胃小区は通常描出されず、前庭部の辺りに

ちょっと網目みたいなもの見えることがあ

り、これをどうするかという問題がござい

ます。滋賀の中島先生は鮫肌状とおっ

しゃっていますが私は縮緬状と言っていま

す。いずれにしても、非常にファインな所

見を見ることがあって、これは未感染とい

うことになっています。ただ、やっぱり迷

いますよね。東京大学の山口先生とディス

カッションしたことがありまして、彼は網

状胃小区像の原因は軽度萎縮、自然除菌後、

攣縮など機械刺激、胆汁逆流などとまとめ

てくれました。これも奥が深くて、未感染

で心配ないよと済ませられないところもあ

るのかなと思います。ここも課題とすべき

かと思います。

 胃底腺ポリープの問題はこれも奥が深く、

全国でちょっと前までは問題化しておりま

した。がん化しないということはかなり以

前から言われていましたが精査に回す人が

後を絶ちませんでした。最近になって学会

レベルでも精検・経過観察不要ということ

にようやくなりました。しかし、HP除菌の

方が大変増えてきまして、除菌後の胃底腺

ポリープをこの頃非常によく見るように思

います。私だけでしょうか。非常によく見

ます。なので、これはちょっと困ったなと、

実は思っています。未感染の胃底腺ポリー

プで、はい異常なしと流そうとすると、実

は除菌後15年だったということがありま

した。多分リスクは減っていると思うので

すが、やはりピロリ既感染ということで、

ハイリスクであることには変わりないと思

います。ここを注意しなければならない難

しい時代かなと思います。

 ピロリ菌感染胃のX線所見は陰皺壁は太

く、屈曲・蛇行する。大弯側に偏在して分布。

隠胃小区間溝が明瞭で粗大から微細顆粒状

まで様々な形状をとる。韻粘液が付着し造

影剤は不均一に付着。などがあります。こ

れは今の慢性胃炎、ピロリ感染胃炎という

ことでカテゴリー2にしましょうというこ

とになりました。これは新しい展開と言え

るかと思いますが、結局精検不要なのでそ

の後どうするか解決がなく、今もいろんな

ところで手探りで行われているように思い

ます。一応、精検不要者には、必要に応じ

てピロリ感染や除菌治療の情報提供・啓発

などを行うということになっています。こ

こをどうするかは、なかなか対策型におい

ては難しいところです。任意型でしたら、

細かく一人ひとり対面してお話しできると

思うのですが、ハガキ1枚でというのは難

しいですし、どうしてゆくのかは課題です。

私もなかなか答えは持っていないわけです。

 今の新しいカテゴリーは2016年2月の

厚生労働省のがん予防重点健康教育及びが

ん検診実施のための指針改正を先取りして

いまして、非常に素晴らしかったと思うの

ですけれども、2016年になって初めてヘリ

コバクターピロリの除菌が胃がんの予防と

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認定されています。この通達には「胃がん

検診と緊密な連携が確保された実施体制を

整備するなど、効率的・効果的な実施に配

慮する。」とあり、“どないしたらいいんや”

ということで、意味が分からないのです。

すぐ除菌を勧奨するとも言ってないですし、

なかなか難しいです。取りあえず、奈良県

でどうしているかといいますと、まずピロ

リ菌を調べ陽性なら除菌を勧めましょうと

いうことになりました。ところが、奈良県

では全国に先駆けて検診機関実際の問診票

でピロリ菌検査の有無を聞いており、そこ

で陰性とされている人がかなりいらっしゃ

います。この人は、もう自分は陰性だと思

い込んでいるわけです。X線を受けてくれ

ているのでいいのですけれども。千名ほど

の胃がん検診受診者のHP検査歴を調べて

みましたら、検査歴のある方は28%で、HP

陽性16%、HP陰性12%という結果でした。

HP検査歴があり陰性だと言われた人のX

線を見ると非常にきれいな胃粘膜で、これ

は確かにそうだなと言えます。しかし、こ

の人はいかがでしょうか。まず、この全体

を見た時に、私はまず胃の輪郭を見なさい

というふうに、若い先生には言っています。

このカチカチと硬い感じがします。まずそ

れを見て、そして中を見ていく。襞の分布

です。ちょっと少なくなっています。胃角

越えてほしいところが越えていない。それ

から、襞の一本一本太いですし、蛇行して

いると。まさにカテゴリー2じゃないのか

なと思ったら、ご本人の問診歴にはピロリ

検査をして陰性と言われています。これは

稀なケースなのかということですけれども。

これも、みんなカテゴリー2で良いと思う

のです。この人は、襞が全く見えなくなっ

ていまして、かなり萎縮の進んだ方だな、

危ない方だなということが分かるのですが、

問診上は陰性だということです。ご本人は、

ピロリはいないと信じているわけです。と

いう問題に、ちょっとぶち当たるわけであ

ります。問診上HP陰性者の半分がX線上、

現感染または既感染のカテゴリー2の判定

になりました。非常に危ないことです。ピ

ロリ菌単独検診はそもそも国から認められ

ていません。ピロリ菌検診単独は危険で胃

X線検診との組合せが必要と思われます。

 6年前に胃がんX線検診受診者における

ピロリ問診とX線所見に関し論文にしまし

た。その結果陽性の方は大体合っていまし

たが、問診上ピロリ陰性となっている方の

3分の2はX線上原感染または既感染の像

を示し、陰性陽性トータルすると4分の1

に乖離がありました。この結果からもピロ

リ検査は、単独では非常に危ないと思って

います。ピロリ検査の方が正しいのではな

いかという方もいらっしゃるかと思います

がもう一度X線はどのようなものを反映し

ているかをお話ししてみたいと思います。

炎症を反映するのは胃小区の粗大、襞の腫

大・蛇行で、萎縮を反映するのは胃小区の

微細化、襞の縮小・偏位があります。そこ

で、襞と胃小区に注目いたします。

 襞の分布を見ていきたいと思います。襞

の分布が少なくなっているということは、

ピロリが陽性で萎縮が進んでいるというこ

とを意味しています。それを定量化できな

いかなと思い、九州の中原先生の9分割法

を簡略化し4分割を提唱させていただいて

います。襞が0-1区域のみに認められる

と高度萎縮と見ていくわけです。大体、2

区域までのところでピロリ陽性というふう

に線が引けるのかなと思っています。ペプ

シノゲン法との相関ではきれいに相関し、

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0-1区域はPG陽性、2区域はグレイ

ゾーン、3-4区域はPG陰性でした。

 襞の分布以外に、皺襞の幅と形状、それ

から胃小区について見ていきたいと思いま

す。襞の幅細いか太いかですが。一番目立

つところを測ってみますと、カットオフ値

が 3.9mmになりました。この数字は、ヘリ

コバクターピロリ感染と診断治療のガイド

ラインに採用されています。あくまで目安

に過ぎませんが。東京大学の山道信毅先生

が、X線上の皺襞肥厚の有無から胃がん発

生の前向き検討をされたところ襞の幅が広

い人から多くがんが発生していると証明さ

れました。それから、これは後ろ向き検討

ですけれども、兵庫県の西林先生は、皺襞

幅4mm以下を1とした時に、1mm増え

るごとにがんのリスクが上がっているとい

うことを示されました。特に6mm以上で

は未分化型が多いと示されました。広い皺

襞幅はピロリ感染のみならず、未分化型の

発生の危険性も示すことになります。

 皺襞の形状は、なかなか数値化しにくい

ところです。最初に私が言った頃に、先輩

には「襞見たらみんな蛇行してるやないか。

なにが蛇行や。」というふうに怒られました。

強いて言いますと、ピロリ陽性の蛇行の場

合屈曲部に角がある、腫大を伴う、幅に不

同があると思います。数値化しにくいとこ

ろですが、これが現感染のみならず既感染

のヒントにもなるかなと思っています。

 胃小区につきましては、HP(-)の時は

見えない(平滑)で、HP(+)の時は見え

る(粗造)とずいぶん単純だと言ったところ、

またある先生にも怒られましたが、あくま

で広く使っていただけるようにと思い簡便

化したものです。

 この4つの因子(ひだ分布、ひだ幅、ひ

だ性状、胃小区像)を見て、いずれか2因

子以上陽性の時ピロリ菌感染判定は正診率

93.3%でした。割と簡便で、使い易いと思っ

ています。襞分布を4区域で判断し、先の

4因子でも判断する。慢性胃炎の診断法

4×4ということで覚えていただきやすい

のではないかなと思っております。

 今日はスペシャリストの方も多いという

ことで、胃小区について、すこし振り返っ

てみたいと思います。放射線科医の大先輩

である山本鼎先生はなんと胎児から小児ま

での検討をなさいまして、胃小区は4歳か

ら認められると報告されました。これは、

今日ピロリ感染が5歳までに成立すると言

われる説と一致していると思います。その

山本先生のすごい研究なのですが、今でし

たら絶対倫理委員会を通らない大変な研究

ですけれども、胎児を見たものです。その

研究では3歳までは胃小区は認めず4歳か

ら見えてくる。しかも、大きさがだんだん

大きくなっていくということです。この山

本先生の論文にも、慢性胃炎の像として10

歳の女の子が出ていますが、成人と変わり

ません。萎縮は年と共に進行するというふ

うに昔習いましたが、そうではなくかなり

早期に決まっているということが、これで

分かります。

 問題の鳥肌胃炎です。もう一般の方も知

るようになってきました。これは、昔から

言われていた“état mammelonné” で、こ

れ違うという先生もいて私も正直未だによ

く分からないですが、アメリカの放射線学

会誌で7歳の女児で繰り返す腹痛嘔吐を主

訴とする症例報告が有り、小児鳥肌胃炎の

X線像が提示されています。原因の1つと

してピロリ感染胃炎も鑑別の一つに上がる

と思います。この鳥肌状態が成人で20~30

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代ぐらいまで持続した方に未分化型胃がん

が発症してあっと言う間に亡くなってしま

うというパターンがございます。これを防

ぐためには、中高生へのピロリ菌検診、そ

して除菌ということになるのですが、山形

県では村山市、鶴岡市で実施されていると

いうことです。つい最近小児栄養消化器肝

臓学会から、無症状の中高生の除菌に反対

だと表明されたようですが、防ぐためには

早期除菌しかないかなと思いますし難しい

ところです。

 これは、実際に鳥肌胃から早期胃癌が発

見された40代女性で、生検ではリンパ濾胞

が目立つ像です。川崎医大の鎌田先生から

お借りしたデータですけれども、鳥肌胃炎

合併胃がんはかなり幅広い年代で認められ

ました。若い人の疾患というイメージがあ

りますが、年齢を重ねるほど、高率にがん

が発生しているということが分かります。

 あまり取り上げられないものをご紹介し

たいと思います。有名な馬場先生のお弟子

さんの保坂先生は非常に素晴らしい論文を

残していらっしゃいます。早期胃がんの手

術例を分割しがんの周囲粘膜のX線像を観

察されました。胃小区を短径2.5mm以上の

大顆粒と1.5mm未満の小顆粒とに分ける

と大きいものは萎縮が軽度で、小さいもの

は萎縮が高度ということが分かります。そ

して形ですが胃底腺領域では多角形のもの

が、幽門腺領域ではダイヤモンド型・菱形

が萎縮のあまり進んでいない人によく見受

けられます。また、円形・楕円形のものは

萎縮が強いと報告されました。

 香川の安田先生も素晴らしい論文を発表

されていますが、その胃小区像分類はなか

なか真似ができず、この間も一緒に検討し

たのですが安田分類を付けるのになかなか

難渋いたしまして、難しいなと思いました。

私なりに噛み砕いてみたいと思います。安

田先生がおっしゃっている、このB-1a 、B-

1b というのは、これは胃小区が大きくて、

角張っているものを指しておられます。こ

れは私の勝手な解釈です。これはHP陽性、

PG陰性のABC分類のB群相当の胃だと考

えられる。このように胃小区から襞も関係

なく鑑定できるということです。

 先ほどの保坂先生と共通していると思う

のですが、角張っているということはまだ

萎縮がそれほど進んでいないということを

意味しています。そして、B-2、B-3につい

ては、胃小区模様が不均一で非常に小さい

ものがB-3です。また大小混在しているも

の、角張ったり丸かったり混在しているも

のはB-2です。このあたりは、ちょうどPG

も陽性になってくる胃だそうです。HP陽性

/陰性、PG陽性のABC分類のC/D群に相当す

るとされています。これらはデータでちゃ

んと突き合わせて出されているものであり

ます。ということで、胃小区でABC分類に

相当する萎縮判定もできるということを、

安田先生は示されました。

 私はちょっと真似できませんが、似たよ

うなことをがんの症例でやってみました。

がんの背景胃小区を平滑、微小、微小+粗大、

粗大と大きさで4段階に分類しました。そ

うしますと、未分化型の人は粗大+微小や

微小な胃小区の人の方が多いということが

分かりました。また、分化型胃がんの背景

の胃小区は、非常に細かいものがほとんど

で、つまり萎縮が進んでいる人からは分化

型、萎縮が少し軽めの人から未分化型とい

うことが胃小区の像からもよく反映できた

ということになります。これをなんとかが

ん発見の方に活かしていきたいところであ

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-17-

ります。

 この萎縮に関してもまた山道先生が若干

違った分類されているのですが、要は萎縮

がある箇所を前向きに追いかけると、萎縮

がある方からがんが発生していることを示

しておられます。カテゴリー2のまさに根

拠になっていると思います。萎縮の判定と

言いますとABC分類ということになりま

すが、本当に企業検診ではABC分類をされ

ているところがあって、自治体でも使われ

ています。

 井上和彦先生のご報告です。ペプシノゲ

ンとピロリ菌と組み合わせる場合の問題点

としては、胃がん発見例から振り返ってみ

ると、胃癌発見例にA群は少なくないです

し、A群の一部は画像上明らかなハイリス

クです(偽A群問題)。カットオフ値を変更

すると、A群とC(D)群 が入れ替わって

しまいます。若年者未分化型胃癌はB群に

多いのに軽視されています。胃がんリスク

検診マニュアルが出た時はこれでもう決ま

りかなと思いましたが、そうでもないとい

うことがだんだん分かってきました。ピロ

リ抗体価で栄研化学E-プレートで10未満

は陰性とされていますが、3~10の場合萎

縮性胃炎を示す例が続出しました。これが

問診との解離例です。ピロリ菌単独でやっ

ていると10未満で陰性だと信じている方

も多いと思います。日本ヘリコバクター学

会は陰性高値(3~9.9)は慎重にと声明を

出しましたが、正式なカットオフ値は変更

されていません。一般の人が見るとは思え

ませんがなかなか難しいと思います。

 60歳男性でA群(HP-,PG-)のX線写真

です。X線上明らかなハイリスクの粘膜で

す。ピロリ抗体は9.5とギリギリの数字です。

PGI/II比も3.45とちょっと微妙です。HP抗

体価のカットオフ値を3にするとこの人は

B群(HP+,PG-)になります。PGI/II比3が

低すぎるということでカットオフ値を4に

するとD群(HP-,PG+)になりますし、両

方変えるとC群(HP+,PG+)になります。

つまりABCD群どれでも行けるという非常

に不安定な要素を含んでいるということが

言えます。X線を見れば、もう明らかにハ

イリスクと迷うことはありません。この問

題をどうしていくのか、なかなか難しいと

思います。

 A-2(HP抗体陰性高値)というHP抗体価

が3~10で先ほどの陰性高値と言われる

ものですが、皺襞の4区域法で検討すると、

BC群と同じような(皺襞の領域)数になっ

ています。皺襞幅も同様です。他の報告も

同様で、抗体価3~10は危ないなというこ

とがもう一般に知られているかなと思いま

す。消化器がん検診学会からも注意喚起が

出ています。一般の方は見られますかね。

非常に心配です。新しいガイドライン出さ

れているのですけれども、一般のご開業の

先生方やいろんな施設に、本当に普及して

いるのかなとちょっと心配なわけでありま

す。このガイドラインの中で素晴らしいの

は、X線による萎縮というのが入っている

のです。つまり、ちょっと待てよという時

には内視鏡のみならずX線でも萎縮を判定

して、それで次のことを考えようというふ

うことになっています。

 大阪で2番目に大きな堺市というところ

で早速このABC検診が導入されました。あ

る人がピロリ抗体価3.8で陽性のためB群

となりました。普通、内視鏡に行くのです

けれども、この方はどうしても内視鏡受け

たくないのでX線を受けることになりまし

た。非常にきれいな粘膜で、問題なしとなり、

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従来基準で良かったのに要精査となったわ

けです。逆のパターンもあるわけです。X

線を最初からしていたら低リスクだったの

に、引っ掛かっちゃったと、こういうこと

になります。なかなか難しいです。いろん

な問題があるかなと思います。陰性高値も

危ないと言いましたけれども、逆に今まで

の基準通りできれいな陰性の方もいらっ

しゃるので、今後扱うというのは非常に問

題かと思います。

 これは徳島の青木先生からお借りした症

例で、従来基準ならA群と言われました。

たまたま、一緒にX線をやった人がいてA

群の胃ではないのです。このことをちょっ

と解明してみたいと思います。なぜA群で

あったかというとHP抗体価が4.9、それか

らPGI 79.7、 PGI/II 1.7(つまりPGII 46.9)。

これⅠ/Ⅱ低いのですけれどもⅠが70以

上。Ⅰの値もおかしいですよね。70以上

だったら大丈夫ですけれども、おかしいで

すね。あとでやり直されたら、ちゃんと陽

性なので。だけど、ABCだけでやっている

と、この人はAになってしまっているわけ

です。実際にはHP陽性だということです。

(*この症例を後で言及)

 ABCリスク検診のカットオフ値で、ペプ

シノーゲン(胃粘膜萎縮の指標)はPGI70

以下及びPGI/II3.0 以下(栄研化学LZテス

ト)と規定されていますが、いろんな問題

がございます。陰PGI 70以上の頻度は低く、

むしろ異常?PGI/II 3は甘く群馬県高崎市

では4.0以下を採用している。隠PGII 30以

上は胃がん高危険群とする報告あり。ただ

し、基準は変えない。韻PG陰性から若年者

未分化型胃癌が発生する。などです。

 ペプシノゲン法のお話をさせていただき

たいと思います。このように、カットオフ

値によって1+、2+、3+とグレード化さ

れ、それぞれの胃がん発見率は1%、2.2%、

2.8%なのです。これだけ見ると非常に有用

だと思われますが、PG法陰性胃がんは一定

の頻度で存在します。3~4割とも言われ

ていますので、ペプシノゲン法だけでは拾

えないということでピロリ感染評価を併せ

てABC検診 になったんです。ここは釈迦に

説法ですけれども、PGIは襞のある胃底腺

領域を反映し、PGIIは胃全域を反映します。

萎縮性胃炎になると襞のある胃底腺領域が

減るためPGIが低下し、PGIIは変わらない

ためにPGI/IIが低下するということです。

 B群はPGが陰性でリスクは低く検査間

隔推奨3年とされていましたが、ここから

若年者の未分化型胃がんが出てくるわけで、

軽視されているということになります。こ

れは井上先生のB2分類です。B群の中の

PGII>30は危ないと言い出され、PG30以

下のB1群と、30を超えるB2群に分けられ

ました。そしたらABCじゃなくなったじゃ

ないですかと言ったのですけれども。それ

はさておきまして。

 和歌山の吉田先生はB群(HP陽性、PG

陰性)におけるPGII値の重要性を明らかに

しました。同じPG陰性でも、PGIIが高い方

では未分化型胃がんが非常に発生しやすい

ということが分かります。また同じ陰性で

も、PGI 70とⅠ/Ⅱ 30を境に分類しますが、

それらの人たちはどうするのかという問題

がございます。α(PG陰性、萎縮無し)、

β(PG陰性、PGI低値群)、γ(PG陰性、PGI/II

低値群)と仮に名前をつけました。北村先

生の報告では若年者胃癌高危険群である鳥

肌胃炎は、PG法陰性の方に非常に多いこと

がまず分かります。先ほどのα、β、γで

すけれどもこの中に鳥肌胃炎が含まれてい

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るということになります。B群(ピロリ陽性、

PG陰性)のなかでPGI/IIを見てみますと、

PGI/IIが低値の群で未分化型胃癌の累積発

生率はぐっと高いです。これはγ群が相当

いたします。先ほどの方(*の症例)を見

てみますと、Ⅰ/Ⅱ比 1.7、それからPGII

46.9ということで、非常に危ない胃だとい

うことが、このペプシノゲンの値を見ただ

けで分かります。ですから、ABC分類を導

入するのであれば、普遍的な基準が作れな

いのであれば、これを見て分かる専門家を

置いてチェックしないと大変なことになり

ます。全然低リスクの胃ではありません。

この方は未分化型じゃなくて実は分化型

だったみたいですけれども、がんが見つ

かったということであります。井上先生で

言えばB2群ということで、これも危ないと

いうことをちゃんと報道しないといけない

のかなと思っています。

 ざっくりと言わせてもらいますと、胃が

んの進展には炎症発がんルートと萎縮発が

んルートがあります。そこでペプシノーゲ

ン・ピロリ感染(ABC分類)に注目します

と、B群の中でPGIIが高い方は炎症発がん

ルートに気をつけないといけない。それか

ら、萎縮のあるC/D群の中でも、特にPGI

が低い方は萎縮発がんルートに気をつけな

いといけないということです。ちょっと前

後しましたが吉田先生はC群(HP陽性、PG

陽性)におけるPGIの重要性を明らかにし

ました。C群においてはPG1が低ければ低

いほど分化型胃がんが発生しています。つ

まり、C群においてはPGIが重要だという

ことを吉田先生は示されました。

 まとめますと、胃がんリスク検査(ABC

分類)を受けた時に、陰あなたはA群だと

言われたら・・Hp抗体価を見ましょう。3

-9.9なら危険です。隠あなたB群ですと言

われたら・・PGII(I/II)の値をみましょう。

30以上(I/IIは3未満)なら危険です。韻あ

なたはC群ですと言われたら・・PGIの値

を見ましょう。30未満なら危険です。キッ

トによって若干違いますが、そういったと

ころを着目して見ていくことでABC検診

を補完することができるかなと思います。

そんなこんなで、胃がんリスク検診マニュ

アル第2版になったら、なんと層別毎の検

査間隔の推奨年がなくなり“担当医と相談

して決定する”へと変わっちゃいました。

ただ、非常に奥が深くてリスク評価として

大変優れた検査と思うんです。ただ、誰で

も分かるということを盛んにおっしゃる方

がいるのですけれども、とんでもないこと

だと思います。ちゃんと専門家がモニタリ

ングする必要がある。必ず画像と組み合わ

せて評価すべきだというふうに思います。

その意味でも、X線は大変有用ではないか

なと思っております。

3.背景粘膜を考慮した胃がんX線検診−

新しいカテゴリー判定を含めて−

 バリウム検査は相変わらず逆風がひどい

です。近藤慎太郎氏の『日本一まっとうな

がん検診の受け方、使い方』という本の表

紙には“え!! バリウム検査まだ受けている

の?”なんてひどいことが書かれています。

しかし、これ実は良い本です。頭から見な

いのではなくて、ちゃんと読むことが大事

だと思います。ただ、バリウム検査に関し

ては食道がんが見つからない、これが決定

的にいけないところだと書いてあり、これ

はちょっと反論しにくいところかなと思っ

ています。

 それはさておき、胃がんX線検診の精度

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管理のための読影判定区分(カテゴリー分

類)を見ていきたいと思います。1は胃炎

/萎縮のない胃、2は慢性胃炎を含む良性

病変ということで、精検不要の方をリスク

分類するという意義があります。奈良県で

はどうしていたのかということをご紹介し

ますと、2を2aと2bに分けました。良性の

中で、2aは精検不要、2bは要経過観察(次

年度受診勧奨)としました。精検不要とい

うだけでなく、具体的には、胃底線ポリー

プは学会の分類ですと1にしなさいという

ことですけれども、なんらかの所見はある

ので一応良性の中で大丈夫な方という意味

で2aにさせてもらっています。慢性胃炎

(萎縮性胃炎)は2bにさせてもらっていま

す。これは、あくまでも奈良県の分類です

けれども。

 胃底線ポリープの取扱いとしては、人間

ドック学会では判定B(軽度異常)、消化器

がん検診学会ではカテゴリー1(正常)、奈

良県ではカテゴリー2a(良性、精検不要)

となっています。奈良県では、学会より2

-3年先行してこれはもう精査は不要だと

いうふうにしています。

 竹内千尋先生のグループの方の研究です

けれども、胃ポリープのある群とない群計

6433例を前向きに比較検討されました。そ

の結果、少なくとも3年間はない群からの

み胃がんが発生しています。つまり、ポリー

プを引っ掛けるということは、胃に関して

は、大腸と違って必要ないということが言

えるかと思います。2018年の国家試験に胃

底腺ポリープに関して出題されました。い

かがでしょうか。これなかなか難しいん

じゃないかなと思うんのですけれども。鳥

肌胃炎で有名な、来年がん検診会長をされ

る鎌田先生にも聞いてみました。これ難し

くないですかと言ったら、難しいですね、

これ学生さんは無理じゃないですかって

言っていました。正解は胃底線ポリープと

いうことで経過観察というのがネット上の

正解になっていて、そうだろうと思います。

しかし、まず異常として指摘されたこと自

体がおかしいのです。それから経過観察と

いうのは人間ドック学会で言えば判定Cに

なりますのでちょっとやりすぎじゃないか

なと思います。そもそも、この問題文が間

違いじゃないかなと。もう学会で指摘しな

いことになっているのです。私の回答とし

ては、“安易に異常を指摘しない。”ですが

最初申しましたように、そうとも言い切れ

ないんです。除菌の方が非常に多いので

ちょっと困ったなと思っています。このポ

リープを精査ということは間違いではない、

とは言えるかなと。学生さんに聞きますと

結構CのHelicobacter pylori除菌と言う人

がいるのです。どうでしょうか。なかなか

難しいものがあります。

 次に慢性胃炎です。これは、カテゴリー

2はこれまでのお話通りなのですけれども、

奈良県では陽性だけど要経過観察というふ

うにしました。これは実施要項に書いてあ

るので各市町村の方はこれに一応従うこと

になっていますが、胃がん検診受診者には

ピロリ菌感染に関する情報提供を行った上

で慢性胃炎と判定された旨を通知するとし

ています。あくまでも命令というほどでは

ないのですが、県はそのように定めており

ます。そして、受診者への説明として、“慢

性胃炎と診断された場合は配布されたリー

フレットをお読みいただき、参考になさっ

て下さい。”と書いています。リーフレット

にはピロリ菌に関していろんな説明を書い

ています。がんとの関連そして除菌のこと

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を書いておりまして、これを配布していま

す。これは北海道の浅香先生に見ていただ

いたもので、奈良県のホームページからダ

ウンロードできますので、もしご興味があ

ればダウンロードしていただければと思い

ます。このようなことをやってきてそれが

実際にどう反映したかというのは、あくま

で現象を見ているだけですので自慢できる

かどうか全く分からないのですけれども、

新しい基準を導入しますと、がん発見率そ

して陽性反応適中度は共に上昇し、1回落

ちた時期がありましたがまたなんとか無事

回復しました。実は、次の年ちょっと落ち七

転び八起きで難しいとは思いますが、背景粘

膜を見ることで奈良県の胃がんX線検診は

成績が上がってきたのかなと思っています。

 カテゴリー判定の実際について。ちょっ

と今日のご要望と離れるかもしれませんが、

要精検となる3以上を見ていきたいと思い

ます。3aは存在が確実でほぼ良性だが、精

検が必要な所見。3bは存在または質的診断

が困難な所見。4は存在が確実で悪性を疑

う所見。5はほぼ悪性と断定。となってい

ます。それでは、過形成性ポリープはどう

したらいいでしょうか。発がん率1%から

4%と言われていますが、どうすべきか難

しいですね。2bかそれとも3aかと。2bとい

うのは奈良県の基準で、良性だが要経過観

察です。あるいはほぼ良性だが精検は必要

とする3aが良いでしょうか。背景を見てい

くということが大事で、先ほどの胃底線ポ

リープとの違いです。一応、奈良県では

2cm以上で3aにしましょうということに

はしています。ここは、ちょっとご議論の

あるところかなと思います。

 胃潰瘍判定をどうするのか。これも学会

の時にちょっと揉めましたけれども、どう

でしょうか。初回では2bというのは奈良県

の判定で、学会では2ですけれども。初回

は3aとせざるを得ないんじゃないかなと

思うのですけれども、いかがでしょうか。

 胃の襞の集中を見た時に、どうでしょう

か。1つ症例です。これ私の後輩でありま

して、びっくりして慌てて、明日内視鏡や

るぞと言っていたのですが、どう思われま

すか。やっぱり、ちょっと身内だとなかな

か目が曇ると言いますか。よく見ると、が

んの所見はあまりないような感じですね。

よく聞きますと、大量に鎮痛剤を飲んだ既

往があるということでありました。

 どう考えていくかですけれども、悪性は

除外できないと考えたら3a、質的診断がで

きなければ3bと。逐年検診必要と考えたら

カテゴリー2ですし、不要なら1というこ

とです。なかなか難しいものをはらんだも

のだと思います。結局、ピロリ菌感染の確

認というのも対策型の中では難しいかもし

れませんが、必要かなと思います。どうす

るのかですけれども、良性でまず間違いな

いけれども確認しようと思ったら3a。ピロ

リ陰性胃がんかもしれないなと。やっぱり

質的診断が難しい、がんかもしれないと

思ったら3b。これはもう大丈夫だよ、大丈

夫なのだけれども、一応来年も見ようなら

2。良性で間違いないので1。どの判定が

正しいでしょうか。というようなところも

はらんでおりますが、こういったふうにカ

テゴリーを使っていくということでありま

す。こういったニッシェ見ることもなかな

か少なくなってきましたけれども、原則論

で行きますと、これ判定2になるかなと思

います。それじゃあいかんというので3aが

作られたわけです。良性で間違いないけれ

ども、やっぱり精検にしましょう、でもが

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んは疑わないよという意味で3aが作られ

たということです。私は個人的には反対で

すが。それは3aと3bってなかなか難しいで

す。3で良いかなと私は思っています。同

じがんを見た時も、3aと質的診断をやって

判定するということです。 3bがなかなか難

しい問題があります。これを現実的にはど

うしたら良いのか。病変が確実に存在する

と判断できない所見、あるいは存在確実だ

が良悪性の判定が難しいと。実際にはこう

いうところからがんが見つかるので、ここ

をどうしていくのかというところがなかな

か難しいところであります。いかがでしょ

うか。3bの説明は難しいですよね。関西風

に言うと、「無いかもしれへんけど、あった

らくせやで」という所見であります。

 このお方は精密検査すると、IIaの病変が

あってがんなのですが、このわずかなはじ

きを捉えるということです。ちょっと分か

らなければ3bとして拾い上げるというこ

とかなと思います。

 ちょっと今から私の痛恨の症例を見てい

ただきたいと思います。ある医師会でお見

せすると、これはもう指摘しないと駄目で

すよと怒られましたけれども、いかがで

しょうか。私ではなく学会の認定指導医が

指摘できなかったわけなのです。というふ

うにバイアスが掛かると指摘しそうになり

ますけれども、普段見ているとどんな感じ

でしょうか。この3枚の中に所見が。怪し

く見出したら見えますかね。一応は2bとし

ていたわけなのですけれども、1年経って

こう(進行癌へ)なりました。なので、や

はり2というのを使う場合ここで考えさせ

られるものがあるわけです。この方は2年

弱で亡くなっておりまして。せっかくずっ

と検診を受けておられたのですけれども。

やはり2をどうするのか、まさに考えさせ

られるところです。やはり内視鏡が有能な

のかなと思ったりもするのですけれども、

さてX線ではどう見るべきでしょうか。こ

のラインが余計ですね。この変なラインが

出ています。ここを指摘しないといけない

と、ある医師会の先生にはご指導いただき

ました。平面はちょっと伸びが悪いかなと

思います。こっちはちょっと非特異的です。

余計な線が1本ある。1つのポイントかな

と思います。

4.H.pylori陰性時代の胃X線検診

 −H.pylori感染診断の次にくるもの−

 最後に、ちょっとピロリ陰性時代の話を

させていただかないといけないかなと思い

ます。

 これからHP未感染が増えていって、仕事

がなくなるのかなということです。ただ現

感染の方はどんどん見つけて除菌しますが、

その分既感染の方が増えて要経過観察対象

者数は減らない状況にあります。これをど

うしていくのかということです。一方、未

感染の方が増えてきた時に、一つまたやっ

かいなのが印環細胞癌で、内視鏡でよく見

つかります。症例は30代女性、スクリーニ

ングで胃底線ポリープがあってHp陰性で

すけれどもここに褪色域があります。これ

をX線で出せと。これが私の仕事でして、

えーっと思ってがんばって撮っているので

すけれども。これはもう、普段X線検診で

見ていたら異常なしと、さらっと流しそう

になりそうになりますね。ここにわずかな

はじきとして見えるかなと。粘膜面にほと

んど露出していないので、ちょっと出すの

は難しいかなと思いますけれども。このよ

うな癌がいっぱい見つかるようになったら、

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ちょっと大変だなと思います。ただ、この

病変は当時は手術していたのですけれども、

今はESD ですよね。本当にこれで死ぬのか

と専門家の方から言われるようになってい

ます。

 今度は除菌後です。除菌によって発がん

が抑制されると言われていますけれども、

逆に言うと3分の1にしかならないという

ことで、ずっと見ていかないといけないだ

ろうと思います。たくさんの例を見ても。

やはり内視鏡万能ではなくて、除菌後も長

期のフォローが必要だということが分かり

ます。これは、多施設で検討された結果で、

ご存じの方も多いと思います。上村直実先

生の有名なニューイングランドジャーナル

だと、慢性胃炎は0.4%の年間胃がん発生率

だというふうに書かれていたと思います。

中島先生、加藤先生ら39施設の共同研究で

除菌前の疾患別に除菌後胃がんの発生率を

調べたところ、早期胃癌では2.87%、慢性

胃炎では0.46%、鳥肌胃炎では0.00%など

となっていました。そうしますと慢性胃炎

で除菌しても同じなのかなというふうに思

いません?確かに胃がんには有効なので

しょうね。除菌してなければ7~8%の発

がん率と言われていますので、確かに3分

の1なのでしょうけれども、それ以外のと

ころで果たしてどれ位効果があるのか、

ちょっと疑問なわけであります。除菌前の

背景疾患によって除菌後の胃がん発生率は

差があるということです。鳥肌胃炎は多分

Nが少なかったのかと思います。

 画像で除菌判定する、除菌後胃がんの

サーベランスをするということについてで

す。もうご存じかと思いますが、除菌前後

で粘膜像は非常にきれいになるのです。そ

れでこのX線が慢性胃炎を拾い上げるだけ

でなくて、除菌判定にも使えるというふう

に思います。非常によく変わり、鳥肌胃炎も、

鳥肌状態が薄まっていくと思います。年を

経るごとに、最初は劇的に改善しその後

徐々に正常粘膜に近づいていくイメージで

す。例えば、除菌後未判定という方も結構

いらっしゃいます。あなたはちゃんと判定

した方が良いですよ、というふうにX線で

コメントすることもできるかと思います。

この方は、除菌を尿素呼気試験で判定した

ら失敗だということです。(除菌3ヶ月後の

きれいになった胃X線を指摘され)除菌成

功してますよね。成功だと思うのですけれ

ども、どうでしょうか。しかし、この人は

カットオフ値を信じたために、失敗だとい

うことで3次除菌されています。2次と3

次でほとんど変わっていないです。すでに

この時点で除菌されている、と思っている

のですけれども、いかがでしょうか。とい

うことで、X線による判定もちゃんと加味

するのが良いのではないかなと、私は思っ

ています。この症例は日本医事新報社の『第

2版 胃炎をどうする?』に掲載されてい

ますので、興味がありましたらご覧いただ

ければと思います。

 ピロリ感染診断が保険適用となり普及し

まして、除菌例が急増しました。除菌で安

心する人が検診脱落して除菌後胃癌死する

ということにならないようにしなければな

らないと思います。先ほど言いました上村

直実先生が、学会で発言されていたのです

けれども、除菌後に進行がんで死んだ人い

ないよねとおっしゃっていたのでびっくり

しました。そんなことあるでしょうか。

 40代の女性でピロリ除菌5年後ですけ

れども、3型進行胃がんでみつかりました。

5年間検診を受けておられませんでした。

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別の40代の女性、除菌後3年検診を受けず

3年後4型進行胃癌を発見されました。除

菌時の内視鏡は異常なしでした。これで3

年後スキルス胃がんです。

 この60代の女性は、除菌後毎年内視鏡を

受けておられて、3年後に0-IIc早期胃が

んで発見されました。また私のところでX

線検査をさせてもらって、これを出しなさ

いと。厳しいところだったのですけれども、

わずかに陥凹の中に、陥凹内隆起が一応捉え

ることができたかなと思います。定期的に見

ていくということがやっぱり大事ですね。

 除菌後X線検診はどうなのかについてで

す。除菌後、X線に変えて大丈夫なのかと

いうことです。これは徳島検診センターの

青木先生にお借りした例です。これ技師の

方、素晴らしいですね。バリウムを流した

瞬間しか見えないものをきれいに捉えてい

ます。除菌後、毎年X線を受けておられて

5年目に早期がんを発見されて、ESD治療

されたということであります。

 単独で除菌後胃をX線で診断できるかど

うかという問題があります。これ実はピロ

リ陰性だと思って失敗した例です。えっと

思ったのですが、よく見るとおかしいです

ね。襞の径不同があります。ちょっと太め

ですよね。除菌前を見たら明らかなのです

けれども、この方も襞が少なくて分かるん

です。当たり前ですけれども、前回写真は

必ず確認するということです。問診はあて

にならないことが多いので。ただ、単独で

診断できるかどうかということですけれど

も、除菌後1年の症例です。まず皺襞に着

目します。皺襞分布範囲は少し狭く、細い

が径に不同があり太かったり細かったりし

ます。造影剤付着はやや不均一で独特のす

りガラス状となります。胃小区は見えます

が胃小区間溝は不明瞭化し、すりガラス状

を呈するということです。もう一つ、分か

りやすいのは十二指腸球部の変形です。球

部変形は1つのポイントですが、今の若い

先生は球部変形が診断できないのです。こ

の間もちょっと指導したところですが、な

かなか十二指腸潰瘍を見ない時代です。

 ピロリ陰性時代は胃がんの背景が変化し

てきました。これはバレット腺癌です。背

景は非常にきれいな粘膜です。胃がんがで

きそうにない粘膜なのですけれども。ここ

(噴門部)です。ちょっとX線でまさか見落

とさないようにしないといけないですね。

噴門部に注目です。これは内視鏡で見つけ

られました。萎縮のない胃で逆流を見たと

き、逆流をどう扱うのかというのは問題で

す。逆流を見た時には、逆流したところを

必ず二重造影で確認する必要があります。

これも60代男性のバレット食道に発生し

たバレット腺がんです。この方は残念なが

ら2年で亡くなっております。バレット腺

がんも厳しいです。50代前半の男性です。

この方も非常にきれいで、検診で見ている

とまあ異常なしだな、次行こうってなりそ

うですが、行かないようにしないといけま

せん。ここ(食道胃接合部)に病変があり

ます。なんか食道ポリープみたいな感じに

なりますけれども、ポコッと隆起で。これ

もバレット腺がんです。萎縮のないきれい

な胃粘膜(ピロリ陰性胃)の人では食道胃

接合部に注目するということです。

 最後に胃がん検診の未来予想図です。胃

がん治療後も長い人生がございまして、ピ

ロリ菌サバイバーという目で最初の診断の

時点から広く見ていく必要があるのではな

いかなと思います。がん治療後もフォロー

する必要があると思います。これからのX

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線検診はまず背景粘膜を判定するというこ

とです。そして、除菌後はどうしても中心

になってまいります、除菌後胃がん。この

2つですね。そしてがん治療後の定期検診

も考えていかないと。なかなかどこにも本

に書いてないですけれども、やらないとい

けないんじゃないかなと思います。会が少

なくなっていく中で施設認定制度、そして

放射線技師の方に読影補助認定制度がいま

学会で検討されていますし、AI遠隔読影も

急速にいま進もうとしております。この辺

りがどう絡んでいくのか、予想と言いまし

ても、予想は私つかないところなのですけ

れども、いろんな展開が待っているかなと

いうふうに思っております。これは私の提

言です。一般論ですけれども、一次予防

(がん教育)は小児を対象とするがん予防教

育・検診が必要です。1.5次予防(先制医

療)は胃がんリスク判定と除菌ですね。二

次予防(過剰診断の克服)は先ほどから言

いましたが、病理のがんがgold standardで

なく、生命予後をgold standardとするがん

検診。そして三次予防です。がんが治った

あとも長生きする時代です。ピロリ菌感染

時点からのサバイバーを対象とするがん検

診、胃がん初期治療後の検診法を確立する

ことです。これら全体を包括するようなが

ん検診が今後必要ではないかなというふう

に思っております。

 ご静聴ありがとうございました。

【あとがき】

 伊藤先生の御講演はスライド約200枚の

非常に情報量の多いもので、講演時間は1

時間を優に超えました。今回、スライドを

借用し先生の講演の趣旨に合うようにまと

めさせていただきました。これまでX線検

診の短所に注意が向きがちでしたが、王選

手の経験などから内視鏡検査だけでも限界

があること、全体像を把握するための胃X

線検査の重要性を再認識しました。また、

H.pylori感染診断やペプシノゲン法などの

検査にもそれぞれに限界があり、組み合わ

せて総合的に判断することの重要性を学ん

だように思います。今回は研修会の実際の

画像を掲載できませんでしたが、後日伊藤

先生御自身による講演の報告が掲載される

とのことですので、その際に今回の速報に

ある症例画像を御確認していただければ幸

いです。

書籍紹介

「X線と内視鏡の比較で学ぶH.pylori胃炎診断

   ・・・新時代の胃癌検診を目指して」

    編集:ピロリ菌感染を考慮した

       胃がん検診研究会

              文光堂

消化器検診中央委員会  

委員 田村 真明

 2018年4月に文光堂から上梓された上

記書籍はH26年に当地でもご講演頂いた地

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域医療推進機構滋賀病院 総合診療科部長

 中島滋美先生が代表世話人を務める「ピ

ロリ菌感染を考慮した胃がん検診研究会」

で活躍されている諸先生方により執筆され

たものです。既にお読みになられた先生方

も多いと思いますが、X線と内視鏡、血液

検査等の所見を総合した「H.pylori感染を

考慮した背景胃粘膜診断胃がん検診」の啓

発本であり、これまでの研究成果の集大成

と言える胃がん検診に携わる医師必読の名

著と思われますのでこの紙面をお借りして

紹介させて頂きます。

 1章:診断法ではまず血清Hp抗体、ペプ

シノーゲン法の各検査キットによる特徴、

陰性高値の説明、ABC分類、胃炎の経過と

PG値の推移、健常者のPG値などが詳細か

つ簡潔に説明されています。次にX線によ

るHp感染状態の判定方法についてHp未感

染例の特徴(背景粘膜:平滑型、ひだ:正

常型)、Hp現感染例の特徴(背景粘膜:粗

型、ひだ:異常型~消失型)、Hp既感染

例の特徴(背景粘膜:中間型、ひだ:中間

型~消失型)、などの基礎的な読影法、さら

に次の頁ではHp感染状態判定のための重

要なカギとなる“背景胃粘膜の三角”(体部

の胃小区、前庭部の胃小区、ひだの性状と

分布)がX線とシェーマ、表を使って解説

されています。見事に整理されていますが

すごい情報量であるためここはなかなか読

み進めませんでした。内視鏡によるHp感

染状態の診断方法では胃炎の京都分類の所

見に基づいて、簡潔ですが丁寧に解説され

ており、たとえ初級レベルの医師であって

も容易に理解できそうです。また、判定に

難渋する非典型例の提示とその場合の判定

のポイントや自己免疫性胃炎、PPI関連胃

症、non-Helicobacter pylori Helicobacter

(NHPH)感染胃炎についても解説されてお

り貴重な知識が得られます。

 2章:症例提示では2例のHP未感染、6

例の現感染、2例の既感染症例がX-Pと

内視鏡を対比させながら経時変化も示され

て詳細に解説されています。日常診療での

内視鏡検査時もX線でどんな風に描出され

るのかを常にイメージしているつもりです

が、実際対比してみると空気量の違いなど

によりイメージと相当乖離した画像になる

場合があること、内視鏡よりもX線の方が

HP感染状態をより敏感に反映している症

例が多いことなどが分かり感銘させられま

した。また、A型胃炎や、内視鏡画像から

はちょっと想像しかねるようなX線画像に

なる胃敷石状粘膜(PPI関連胃症)、non-

Helicobacter pylori Helicobacter(NHPH)

感染胃炎の内視鏡像と診断のポイントと知

見、更には余りにも稀でおそらく一生遭遇

することが無いと思いますが一度見たら忘

れられない collagenous gastritisなどの画

像や解説も必読一見の価値があります。ま

た、さらに症例を重ねて勉強したい先生方

に向けて背景胃粘膜診断のオンライン学習

システムへのログイン方法もついています。

 3章:今後の展開ではリスクを考慮した

胃がん検診の現状と課題として対策型内視

鏡検診の現状と課題(偶然除菌も含む既感

染例の増加、経鼻内視鏡の有用性、胃がん

リスク層別化検査を併用しての検診対象を

絞り込む今後の「静岡方式」や通常では胃

がん検診の対象にならない40~49歳の年

齢へ胃がんリスク層別化検査を提供する水

戸方式の紹介)、Hp画像診断と対策型検診

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の今後、Hp画像診断と任意型検診の今後、

胃がん予防、胃がん撲滅の戦略、等につい

て述べられています。

 本書籍はX線所見と内視鏡所見を対比し

ながら膨大な量の情報を見事にまとめて背

景胃粘膜診断を解説するという、大変困難

な大仕事を「ピロリ菌感染を考慮した胃が

ん検診研究会」で活躍されている諸先生方

が総力を挙げて達成された快挙であると思

います。山形縁のお二人の先生(間部克裕

先生、吉澤和哉先生)も執筆されています。

 まだお読みでない方は是非ご一読されて

みて下さい。

揮 机寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄寄

消化管内視鏡スクリーニング認定医制度が始まります

消化器検診中央委員会 副委員長 大泉 晴史

 日本消化器内視鏡学会では、来るべき対策型内視鏡検診が広まる時代に備えて実臨床ある

いは検診の場で、“安全かつ質の高いスクリーニング内視鏡検査の担保”が重要であると考

えています。先日の委員会で従来の専門医と別に消化管内視鏡スクリーニング認定医の制度

を決定しました。上部、下部、上下部の3種類になるようですが、日本消化器内視鏡学会員

であることが必須条件となります。是非、入会いただき山形県の検診精度の向上にご協力を

いただきたいと思います。

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消化器検診中央委員会  

委員長 武田 弘明

仕胃がんX線検査における隔年検査は危険

 2016年に厚生労働省は内視鏡による胃

がん検診を正式に認めました。しかしなが

ら、今回の改訂では、対象年齢も40才以上

から50才以上に変更となったことに加え

て、胃がん検診そのものが隔年で施行する

ことが基本となりました。ただし、当面の

間は胃X線検査においては毎年の施行も容

認されました。

 内視鏡検査では施行する側のマンパワー

や被験者の負担を考慮して隔年という発想

もあり得ると思いますが、逐年こそが重要

とされてきた胃X線検査については2年に

1回(隔年)になった場合に精度が低下す

るというデメリットが懸念されます。この

点に関して、宮城県対がん協会の加藤先生

らが日本消化器がん検診学会雑誌56(3),

266-79, 2018に報告しています。結論とし

ては、“逐年検診の場合,胃X線検診のスク

リーニング感度は73.8%であったのに対し,

隔年検診を想定した場合は45.8%と有意に

低値となった。胃X線検査による隔年検診

については検診精度の低下を招く恐れもあ

るため,慎重な対応が必要と考える”とし

ています。この論文は新聞のコラムでも一

般に紹介されました。胃X線検診は毎年施

行が現時点では基本と考えられます。

仕胃がんリスク層別化検査におけるB群の

 取り扱い

 “結構B群の方の受診が最近多いな”とお

感じの先生はおられませんか。これは平成

29年に胃がんリスク層別化検査における

ヘリコバクター抗体検査のカットオフ値が

10から3に引き下げられたからと考えら

れます(栄研Eプレート)。ちなみに一般の

臨床におけるヘリコバクター抗体検査の

カットオフ値は10のままですのでご注意

ください。さて、このようなB群患者さん

に対して先生方は除菌をどうされています

か。B群は抗体陽性だから全員除菌します

とはなりません。

 胃がんリスク層別化検査において、ヘリ

コバクター抗体のカットオフ値が従来の

10から3に変更になった背景には、従来の

カットオフ値ではA群の中に既往感染や現

感染が相当数含まれてしまうことが指摘さ

れていました。カットオフ値が3になった

結果、B群と判定される方が増えることに

なりますが、逆に抗体価は3以上10未満の

方の中には相当数の未感染(約32%)が含

まれることも分かっています。従って、新

たなB判定で来院された場合、内視鏡検査

で萎縮の診断を行うことは必須ですが、さ

らに除菌を行うかどうかの決定にはUBT

などを加えで現感染を確認する必要があり

ます。

 抗体価が3未満の場合はA群になるわけ

ですが、この3未満の群でさえ、ヘリコバ

クター現感染あるいは既往感染が10%弱

含まれていることも分かっていますので、

最終的には内視鏡検査で萎縮の有無を見極

めるべきとされています。抗体に関する詳

細な解説は本たよりの大泉晴史先生の寄稿

をお読みください。さらにご興味のある先

生は、ヘリコバクター学会誌19(2), 133-8,

2018を参考にご覧下さい。

話 題 の 広 場

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仕総合認定医制度が始まりました

 平成31年1月に日本消化器がん検診学

会では、総合認定医制度(平成30年6月~)

に基づいた第1回目の試験が行われました。

本県からもごく少数の先生が受験されまし

た。従来の認定医制度(胃、大腸、肝胆膵)

は2022年までとなり、2023年からは試験を

ともなうこの新たな総合認定医のみの申請

になります。このことで胃・大腸・肝胆膵

の領域制が撤廃され幅広い知識が求められ

るあらたな認定医像が目標になります。さ

らには医療倫理、安全管理、禁忌事項、チー

ム医療などへの配慮が求められる点が従来

とは異なった大きな特徴かと思われます。

旧制度も新制度も会員歴3年以上が最低限

の条件でありますので、まずは学会への入

会をお願いします。

仕全国のがん罹患数2016年が公表されま

 した

 2016年のがん罹患数が厚生労働省から

発表されました。これはがん登録が制度化

されて初めて正式にとりまとめられたもの

です。従来の罹患数は推計値でしたが、実

数が把握できるようになった意義は非常に

大きいと思います。実際に2015年までの順

位と若干入れ替わりがみられます。新たな

データによるトップ3は、男性では胃、前

立腺、大腸の順で、女性では乳房、大腸、

胃でした。男女の合計では、大腸、胃、肺

となっています。結局のところ、上位を占

めるのは胃と大腸であり、消化器がん検診

が重要であることが改めて示されました。

仕がん教育の義務化が迫る

 2020年から小学校で、2021年からは中学

校で、2022年には高校でそれぞれがん教育

が義務教育の中でとり扱われます。がん教

育の協力体制について県医師会からアン

ケート調査などが行われましたので御存知

の先生もあろうかと思います。がん教育の

意義は、“知識を得ることで、がんを決して

忌み嫌うべきものではない”ことを教える

ことも重要とされていますが、 “いのちの

教育の一環”として考えられますので、か

なり幅広い意味での教育となります。実際

には、緩和ケアや仕事の両立まで学びます

し、勿論がん検診も重要なテーマのひとつ

として扱われます。父兄にあたる世代は、

ちょうどはたらき盛りですので、今後子供

さんから検診を受けてと促された父兄が検

診を受けに来たという場面も増えるかもし

れませんし、むしろそうなって欲しいとも

思います。ついでに、職域の大腸がん精検

受診率が上がってくれればさらにありがた

いと思います。

仕マイクロRNAとエクソソームをご存知で

 すか?

 採血で早期にがんの存在が判定できれば

いいのにというのは、本当に叶ってほしい

テーマのひとつかと思います。一般的な採

血による通常の腫瘍マーカーは残念ながら

そうなっていません。

 しかしながら、がん細胞が出す微量な

RNAを検出することで各種がんの発見が

できる可能性が相次いで報告されており注

目を集めています。小胞にRNAやDNAなど

を閉じ込めたものはエクソソームと言われ、

血中を循環し全身の臓器のクロストークの

一端を担うことが知られはじめています。

ステージⅠのがんでも検出できる可能性が

示されています。がん検出のエビデンスや

検査費用など、今後の課題は山積のようで

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す。しかし、将来の検診の姿を大きく変え

る可能性を秘めているものかもしれません。

仕医療における行動経済学から

 医療における医者と患者のこころのすれ

違いが注目されています。この問題を取り

上げた“医療現場の行動経済学(東洋経済)

(2018年8月刊)”をみつけました。患者さ

んに決断をしていただくときに医者側から

どのように上手にナッジ(肘で促す仕草のこ

と)すべきかなどが論じられています。その

本の中で、損失フレームを使った大腸がん検

診受診率向上の実例がのっていました。

 便潜血検査による検診の現場で添える

メッセージにより2群に分けて検討されま

した。まず、“今年度、便潜血キットを使っ

てもらえば、来年度もキットを送ります”

という素直な表現の群に対して“今年度便

潜血キットを使わない場合、来年はキット

を送りません”と受診者に損失をイメージ

させた群を設定して比較しました。実際に

翌年に便検査を提出してくれたが、正攻法

の前者が22%であったのに対して、被検者

へ損失をイメージさせた後者では29%で

あったとのことです。患者さんの心理をい

かに利用するかですが、検診もしたたかさ

が求められるのかもしれません。

 山形県の年齢調整の胃がん死亡率は

75才未満に限れば10位に改善しました

が、全年齢を含めた死亡率は従前と同様

の3位にとどまり、今後もまだまだ改善

の余地ありと言えます。改善を模索して

いく中で、同時進行で内視鏡検診の導入

などダイナミックな変化が今後みられる

ことは間違いありません。内視鏡検査の

マンパワー不足の解決策のひとつとして、

非専門医の先生の参加が議論されており、

実臨床を含めて検診の場において消化管

内視鏡のスクリーニング認定医をあらた

に認定する構想も現実となろうとしてい

ます(大泉先生の掲稿を参照下さい)。一

方、大腸がんの県別の死亡率をみると本

県は46位(良い方から2番目)となって

おります。数年前までは悪い方から数番

目であったことから、先生方の努力がむ

くわれたものと思っております。しかし、

まだまだ検診以外で見つかる癌も多いの

が現状です。今後とも会員の先生方の検

診へのご協力お願いしたいと思います。

(武田)

お わ り に