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月刊ナーシング Vol.29 No.14 2009.12 33
Q&A第1特集 消毒・滅菌の疑問を解決!感染症・消毒薬の[新常識]
カフの消毒はどうすればいいのでしょうか?
「血圧計のカフの適正管理」は簡単なことのように思えて,実践レベルにおいてはさまざまな課題があることを実感します.感染防止に努め,対策について考える必要があります.
Part3小野 和代Kazuyo Ono東京医科歯科大学医学部附属病院看護部
1986年岡山大学医学部附属看護学校卒業後,岡山大学病院勤務を経て,1993年から現病院勤務.2001年に感染管理認定看護師資格取得.2008年東京医科歯科大学大学院医歯科学専攻修士課程医療管理政策学卒業
血圧計カフの汚染に対する認識の低さもありますが,処理しにくい材質・構造であることも大きな要因です.血圧計カフの感染リスクを示す研究からも適切に処理することの必要性は明らかです.ディスポーザブルでないかぎり,適切な処理を施し,患者間での交差感染防止に努めなければなりません.
カフの処理に関する基本的知識
血圧計のカフは傷のない正常な皮膚に触れる器材なので,スポルディングの分類3)ではノンクリティカル器材に分類されます.したがって,低レベル消毒または洗浄処理が一般的には適用
されます. カフには,二重カフ(外袋と内袋〈空気袋〉)と一重カフがあります.素材としては布製やナイロン製,プラスチック製やゴム製(内袋)などさまざまです.素材に適合する処理方法を選択する必要があり,基本的には製品の取り扱い説明書によりメーカー推奨の処理を行います.
カフの具体的処理方法
二重カフの場合は,内袋と外袋を分解し別々に処理します(図1).処理後,組立てる際には,内袋が折れ曲がっていないかなど,収納状況を十分に確認の上使用しましょう. 一重カフの場合は,図2に示すよう
な方法で行います.二重カフ,一重カフともに,汚染が少量の場合は,そのつど10倍希釈程度の中性洗剤で清拭したあと,しっかり拭き取り乾燥させます.消毒薬の使用が可能な場合は,指示された消毒薬(低レベル消毒薬またはアルコール)による清拭を行います.
カフの管理
カフは使用や保管による劣化は避けられないため,適切なタイミングで交換し,安全に使用しなければなりません. 交換時期に関しては,「カフは使用開始から約1年を目安に交換(内袋の寿命は加減圧30,000回が目安)」4)などの
Key Words
カフの消毒
ディスポーザブルカフ
マスク・ガウンの使用法
Q8
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メーカーの説明文もあります.しかし,汚染具合はさまざまでありその処理によるカフへの影響を加味することや,測定回数の把握が難しいことなどを考えると,カフごとに交換時期を判断することは現実的ではありません.施設で使用頻度や汚染具合などを考慮して,交換の目安をあらかじめ決めておき管理することが適切でしょう. ディスポーザブルカフの使用は交差感染防止の面で非常に有効です(図3).わが国においてもその需要は増していることが実感されます.ディスポーザブルとして適切な運用をしましょう.ディスポーザブルカフについての詳細はQ9を参照してください. カフ用のカバー(外袋をさらにカバーリング)などもあります.装着・脱着のわずらわしさといった難点がありますが,使用場面を選択し,使用すると効果的です.
臨床現場で理想的なカフとは
臨床現場での使用において,カフの管理を徹底するためにはどのようなカフがよいのかを考えてみましょう.カフを採用する際には,多角的に十分な検討が望まれます.〈処理,取り扱いが簡便であること〉
カフの処理として最も簡便な方法は器械洗浄(洗濯)です.その際には,内袋と外袋との分解・組立てが簡便であること,もしくは一重カフで分解・組立ての必要がないことなど,扱い上の簡便さが求められます. 器械洗浄が可能な場合,さらに耐熱性であり熱水消毒が可能であれば「高レベル消毒処理」が達成でき効果的です. 少量の汚染の場合では,簡単な処理図2 一重カフの処理(例)
・ カフからチューブをはずし(①),洗浄専用のプラグ(フタ)を装着し密閉する(②)
・ 中性洗剤により洗浄,すすぎ,乾燥させる
* 中性洗剤による清拭,アルコールによる清拭消毒なども可能(メーカーの処理指示に従う)
①
②
《洗浄可》
袋内の空気を完全に抜いてからキャップを閉め,中性洗剤で洗浄後,すすぎ,乾燥させる
中性洗剤で洗浄後,すすぎ,乾燥させる
中性洗剤で洗浄後,すすぎ,乾燥させる
《洗浄不可》
水拭き
図1 二重カフの処理(例)
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(たとえば,微温湯での清拭,低レベル消毒剤含有クロス,アルコール含有クロスなどでの清拭消毒等)で清浄化できる素材であることは大きなメリットです.アルコール清拭が可能な素材であれば「中レベル消毒処理」が達成できます.〈適合性,汎用性にすぐれていること〉
各臨床現場では,複数メーカーのモニタが導入されていることもあります.複数メーカーのモニタとの適合性があり,汎用性にすぐれていることが求められます. 患者は状態や状況に合わせて移動します(たとえば,救急初療室から手術室へなど)ので,その際には汎用性があり,複数モニタに共通対応できるカフであれば「一患者一カフ」の管理がしやすくなり,交差感染防止に効果的です.〈皮膚への影響がないこと〉
長期間の使用においても皮膚への影響(皮膚障害やアレルギーなど)がないことが大切です.現時点でもラテックスフリー素材や皮膚障害に配慮し,開発されたカフがあります.モニタ監視
などでは長時間の装着もありえますので,カフの皮膚への影響に関するデータを確認し選択することや,使用時の観察を十分に行い異常の早期発見に努めることが重要です.〈測定結果の信頼性が高く安定してい
ること〉
一定の耐久性保証,カフサイズが豊富であるなど,信頼性の高い安定した測定結果が維持できることが大切です.医療現場でのモニタ類において,測定結果の正確性は絶対条件です.カフによる影響で測定結果に誤差が生じるようなことがあってはなりません. カフの適切な処理における機能低下がなく一定の耐久性が保証されること,またカフのサイズが豊富であり,常に最適サイズのカフが選択できることが望まれます.〈コストパフォーマンスがよいこと〉
交差感染防止に配慮し,適切な処理を簡便に実施するという視点で考えた場合「ディスポーザブルカフ」の使用がベストであることに異論はありません(Q9参照).しかし,すべての場面で「ディスポーザブルカフ」の使用とはな
っていないのは,コスト面での問題が大きいと考えます. リユースカフ(使い捨てでなく繰返し使用するカフ)も,再使用するには適切な処理が必要で,それにはある一定の処理コストがかかること,またリユースカフも消耗品であり,更新が必要であることを再認識しなければなりません.場面や使い方により,リユースカフ,ディスポーザブルカフのどちらの使用がトータルマネジメント的に有効であるのかを考えていく必要があります.
引用・参考文献1)CdeGialluly,VMorange,EdeGialluly,J
Loulergue,N van derMee, RQuentin :BloodPressureCuffasaPotentialVectorofPathogenicMicroorganisms:AProspectiveStudy in aTeachingHospital. InfectionControlandHospitalEpidemiology,27 (9) ,2006.
2)WalkerN, Gupta R, Cheesbrough J :Bloodpressurecuffs;friendorfoe?.JournalofHospitalInfection,63:167-169,2006.
3)RutalaWA:APICGuidelineforselectionand use of disinfectants .Am J InfectControl,24:313-342,1996.
4)日本光電取扱い説明書:カフYP-702T/703T
図3 ディスポーザブルのカフ(例)
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血圧計のカフの使用では「単回使用で廃棄する」「清浄化し再使用する」「カバーリングなどで汚染を防止し再使用する」といった方法があります.どの方法であっても,カフによる感染リスクを十分に配慮し,適切に運用することが重要です. ディスポーザブル駆血帯や聴診器の使用が配慮されているアメリカなどにおいては,血圧計のカフもディスポーザブル製品の使用が考慮されています.わが国とは医療材料の流通現状の違いは否めませんが,考えるべきは,適切な処理がなされないまま使いまわしされている現状に対する対策です.メリット・デメリットについて考えることが重要です.
ディスポーザブルカフ使用のメリット・デメリット
メリット ・「一患者一カフ」の使用により交差感染のリスクが回避できる.・再使用するための処理が不要であり,その分に費やすランニングコス
トが削減できる.・比較的カフサイズが豊富であり,適切なサイズのカフが使用できる.
デメリット ・1セット当たりのコストが高い. *使い方いかんで,高コストは問題とならないこともある(Q8参照)・そのつどの廃棄によりゴミが増える.
ディスポーザブルカフの適応
コストパフォーマンスを考え,現状においては場面を限定した使用も考慮されます.たとえば救命救急センターなどに搬送された患者で,外傷などにより大量出血をみとめる場合,全身汚染が著明な場合,皮膚症状などから感染症を疑われるような場合などにおいては,後々の処理を考慮しディスポーザブルカフの使用が望ましいでしょう. そうした場合,患者はその後手術部や入院病床へと移動しますので,最初に装着したカフがどの部位のモニタであっても,面倒な操作なしでそのまま
使用可であることが理想です.それが可能であれば,「一患者一カフ」の使用により交差感染のリスク回避とともに,コスト面の問題もかなり軽減できます. そのほかの適応としては,「接触予防策」を必要とする疥癬,薬剤耐性菌やクロストリジウム・ディフシル菌,ノロウイルスなどが検出されている患者で環境を汚染する可能性が高い状況である場合も,ディスポーザブルカフの選択が望まれます.
ディスポーザブルカフの管理
ディスポーザブルカフは使用終了時,次に使いまわすことなく適切に廃棄します.また使用中はカフの破損がないかなど,観察を密に行うことはリユースカフの使用時と同様です.異常がある場合は新しいカフと交換します. ディスポーザブルカフの汚染が少量の場合,清拭などで清浄化できる場合は処理後に同一患者への使用は続行できると判断されますが,大量の汚染をみとめる場合などでは完全な処理は不可能です. 見かけ上処理ができたように思えても,単回使用資材である以上,処理後の機能性が保証されませんので,適切に廃棄し交換する必要があります.
ディスポーザブルのカフ(マンシェット)とはどういった物なのでしょうか?
わが国においてもディスポーザブルカフはすでに使用されています(p.○参照).今後,コスト面での課題,感染リスクの問題と適切な処理の徹底などを総合的に判断した場合,ディスポーザブルカフが選択されていく場面は多いと考えます.
Q9
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マスクやガウンはPPEの1つです.適切にPPEを用い感染伝播を防止することは,医療従事者と患者双方の安全を確保するうえで,きわめて重要です.どの用具を,どのタイミングで,どのような手順で使用するかを理解
し,確実に実践できるよう訓練しておきましょう.
マスク
一般的に医療機関で使用されるマスクには「サージカルマスク」と「濾過マ
スク(レスピレータ:N95微粒子用マスクなど)」があります.その使用目的や留意点を表1に示します.目的に合わせてマスクを選択し,使用上の留意点を守り適切に使用しましょう. サージカルマスクはベッドサイドの
OSHA:OccupationalSafetyandHealthAdministration,アメリカ労働安全衛生局PPE:personalprotectiveequipment,個人防護具
感染予防のためのマスクやガウンの正しい使い方は?
アメリカ労働安全衛生局(OSHA)は,個人防護具(PPE)を「感染性物質に対する防御のために職員によって着用される,特殊な衣服や器具」と定義しています.
Q10
表1 マスクの使用目的と留意点サージカルマスク 濾過マスク
使用目的・着用者の呼気から排出される飛沫の飛散防止・血液や体液のしぶきが着用者の鼻腔・口腔粘膜へ付着す
ることの防止
・結核菌などの感染性エアロゾル(飛沫核)の吸入防止
使用上の留意点
・鼻,口,顎を覆うようにしっかりと広げる・可変式の鼻部分を鼻梁にフィットさせる
・はずす際は,汚染表面に触れないようヒモまたはゴム部分を持ってはずし,すみやかに廃棄する
・鼻,口,顎を覆う・可変式の鼻部分を鼻梁の上にフィットさせる・ひも/ゴムバンドで頭にしっかり固定し,フィットする
よう調節する・ユーザーシールチェック*1を使用ごとに行う
*1:両手でマスクを覆って息を吐き,マスクの周囲からの息漏れがないかを確認する
製品選択
・材質(耐水性),防御能力(細菌濾過効率や圧力差など),耐久性,機能性,デザイン性,装着感,価格を総合的に判断する
・防御能力の保証された濾過マスクを何種類か準備する・フィットテスト*2を行い,自分にフィットする濾過マス
クを選択する(種類,サイズ)*2:テストキットを用い顔面の密着性の適否を評価する
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みならず,汚染器材の処理などにおいては手袋やガウンと同時に,サージカルマスクを使用します.目への飛散も考慮し,フェイスシールド付マスク(または,サージカルマスク+ゴーグル)が適切でしょう. 濾過マスクは,飛沫核の吸入防止が目的ですので,すき間がなく顔にしっかりとフィットした状態で使用します.事前にフィットテストを行い,自分に適合するマスクを確認し,装着方法を訓練しておきます.また,使用のたびにシールチェック(表1)を行い,息漏れがないか,フィット状況を確認します.
濾過マスク(N95微粒子用マスク)は汚染・破損しなければフィルターが機能するまで使用できます.型くずれしないよう,また十分乾燥させるように配慮した個別収納できるボックスや,紙袋などを使用し,適切に保管します.
ガウン(エプロン)
ガウンやエプロンは,処置やケア中に衣服や肌が血液・体液・分泌物,排泄物に接触することが予想されるときに使用します.また,予測される曝露状況(接触範囲,曝露量等)によってガウンやエプロンを使い分けます.汚染が広範囲で衣服全体や腕を覆う必要があ
る場合はガウンを,汚染が体幹部分に限定させる場合はエプロンを選択します. 素材は,綿製,不織布製,プラスチック製などがありますが,防水性を有し,血液や体液が飛散しても透過しにくいことが求められます(図4). 使用上の留意点として,目的に合ったガウンやエプロンを選択することと,使用後のはずし方があげられます.使用後はすみやかに,周囲への汚染を拡大しないよう,また自分自身が汚染を受けないよう,汚染面を中に封じ込めるようにはずします(図5).
図4 エプロン,ガウンの用途に合わせた使い分け
プラスチックガウン広範囲の創部洗浄など,液体の飛散が多いと予測される場合
エプロン吸引,尿の廃棄処理など
アイソレーションガウン下部消化管内視鏡時,曝露状況が予測しにくい場合など
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引用・参考文献1)Guideline for Isolation Precautions :
PreventingTransmission of InfectiousAgents inHealthcareSettings2007(http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/gl_isolation.html)
2)ASTMF2100-04:StandardSpecificationfor Performance ofMaterialsUsed inMedicalFaceMask.2004
a:アイソレーションガウン
b:エプロン
ひもをほどく 首と肩から脱ぎ下ろす
汚染した外側を内側へとくるくる巻いてゆく小さくまとめて(汚染面が中)廃棄する
文献1)より
腰の後のリボンを切るたたみ,まるめて一束にして廃棄する
エプロンの裾部分の内側に手を入れ,裾を持ち上げ,汚染面を中に折込む
首の後のヒモを切る 前あてを前に垂らす
図5 防護具のはずし方