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第 2章3.格付会社の情報生産• 前回授業に関する質問
–格付会社は複数必要か?–ランクが低い(信用度が低い)企業に格付はメリットがあるか?
• →社債を発行しようとすると格付を取得せざるをえない。社債を発行して一旦格付を取得すると、投資家のための事後フォローとして、格付がどんなに低下しようと格付会社は格付を継続して付ける。
–格付変更の頻度は?–企業との間に癒着・賄賂等の問題が発生しないか?
• →複数の担当アナリスト、格付委員会(担当アナリストの他にベテランが数名)
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○格付けの信頼性と利益相反–格付け対象の企業との癒着が生じないか、中立性は確保されるのか?
• 同一人・組織が二つの相反する利害に同時に関わりを持つ状況で、一方の利益を図ることで他方の利益を侵害する(恐れがある)こと
–格付会社は、投資家と債券発行者と両方にサービスを提供し、両方の利害に関わっており、利益相反の危険性がある。
–利益相反の可能性が存在する中で、格付会社による格付けの中立性・品質を保証する制度が存在するか?
–⇒存在しない
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– しかし、格付けの信頼確保につながるメカニズムが全く存在しない訳ではない
• 甘い格付け→格付けが高い企業でもデフォルトが多発→投資家がその格付会社の格付けを信用しない(その格付会社の評判が悪くなる)→その格付会社から高い格付けを取得しても、低い金利で債券が発行できない→債券発行企業がその格付会社に格付けを依頼しなくなる
– 投資家は格付会社のこれまでの実績から、その格付けの信頼性を判断する
– しかし、こうした評判のメカニズムだけでは不十分であることが、サブプライム金融危機で示された。
• 危機後には金融規制が強化され、格付会社の情報開示を強化→評判のメカニズムがより働きやすい情報環境を作る
4Turner Review, March 2009 p.77, Financial Service Agency, U.K.
・格付別デフォルト率:企業格付実績として、格付が高い程、デフォルト率は低い
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・サブプライムローンの延滞率は住宅価格下落に伴い急上昇
日本銀行「金融市場レポート」 2008年 7月 p.6
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・米英日の住宅バブルの発生と崩壊
『経済財政白書』平成 21年版 p.96
Gross Domestic Product:国内総生産 日本の住宅価格:3大都市圏住宅地公示価格(国土交通省)
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・米国の証券化商品発行額は、金融危機( 2008年)以降急落
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
CE/ 標準
CE/ 標準
CE/ 標準
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000
・米国証券化商品発行推移:単位 10 億ドル
ABS( 左軸 )民間 MBS (左軸)
SIFMA
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・ ABSCDO (再証券化商品)の格下げ状況
・民間 RMBS の格下げ状況 09.08.07 現在 発行当初 AAA(05-07) : 格下げ率: 63% BB 以下への格下げ: 52%
IMF, Global Financial Stability Report, Oct.2009, p.93,88
・すべての証券化商品で大量・大幅な格下げが生じた訳ではない:格下率 (Moody’s)
米国ABSCDO
米国サブプライム RMBS
米国クレジットカード ABS
米国CMBS
米国証券化全体
日本
2007年
20% 18.5 0 0.8 8.1 0.3
2008年
90.8 54.3 4.5 4.3 38 1.8
○ サブプライム金融危機と格付の信頼性
RMBS :住宅ローン担保証券、 CMBS :商業不動産ローン担保証券
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・ サブプライム住宅ローンの証券化 RMBS (住宅ローン担保証券)・ RMBS を再度証券化した CDO (債務担保証券): ABSCDO
IMF. Global Financial Stability Report April 2008 p.60
・ ABSCDO:再証券化商品
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• サブプライム RMBSの格付の問題点
• 当初の推定損失率が低過ぎた←データに基づく– サブプライムローンの推定損失率の度重なる改定( S&P)→大量の大幅格下げ
» 当初 (06年 ): 6 ~ 7% → 12 ~ 14%(07年 7月 ) → 19% (08年 1月 )
• データの信頼性– サブプライム住宅ローンは新しい商品であるため、デー
タ期間が短い– データの期間は住宅価格上昇の時期であり、損失率が小さい
– 2006 ~ 07年には虚偽の情報に基づく貸出(オリジネーターのモラルハザード)が横行
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• 格付会社と証券化商品格付け–当時、世界の大手格付会社の収入の 5 割以上は証券化商品の格付けからであった
–証券化商品格付け (SF格付け )では、格付依頼が少数の大手の金融機関からに限定
–→格付け依頼側の力が相対的に強い
• 企業格付けでは外部から債務償還能力を評価–証券化商品が投資家に売却できる形で、何とか
案件を成立させようという誘因が格付会社に働く( )
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○格付会社規制
• 格付会社への規制の導入–米国: 2006年格付機関改革法( SECによる監
督)、 2010年ドッド・フランク法–日本: 2009年金融商品取引法改正(金融庁による監督)
– EU: 2009年格付機関規制法– 登録制導入、情報公開の強化、金融規制( e.g. 銀行の自己資本比率規制)上利用する格付は登録格付会社のものでなければならない
• Cf. リスク・アセット方式の自己資本比率規制–規制・監督当局による格付内容への介入は禁止
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• 金融危機後の規制強化:米国の例を中心に–利益相反の防止:
• 顧客対応部門と格付付与部門との分離の徹底、格付会社によるアレンジャーへの提案行為禁止
• 格付アナリストに対するローテーション制度の導入(欧州と日本)
– 欧州:連続 4年(日本は 5年)が上限で、 2年間のインターバル
• 証券化格付上利用された情報(原資産の性質・パフォーマンス、証券化の法的ストラクチャー等)の他の登録格付会社への提供
–格付けのパフォーマンス・手続き・手法の情報開示
• 格付けの種類(事業会社、金融機関、証券化、政府)毎に、 1年、 3年、 10年の格付パフォーマンス統計(格付の推移、デフォルト率)の作成・公表
• 証券化の原資産情報の検証やオリジネーターの質の評価についての情報開示
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– 格付ランク以外の情報の提供• 変動可能性:格付が大幅に変動する可能性• 損失感応度:損失予想変化に対して格付がどれだけ変化するか
• 投資家支払いモデルへの回帰は可能か?– 格付会社の収入が激減し、精密な分析に必要な人員・経費を確保できなくなり、格付けの精度が低下する危険性がある
• Cf. 米国の Eagan Jones社は投資家支払いモデルの格付会社:規模は小さい、主要企業約 1000社を格付け
– 「投資家支払いモデル+第三者機関が発行体から格付料を集め格付会社に配分する」等のアイデアあり
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• 第 2章参考文献• 格付投資情報センター『格付け Q&A』日経新聞社.第 2章 2001年
• 格付投資情報センター「ソブリン格付けの考え方」• 黒沢義孝『格付けの経済学』 PHP 新書 1999年• 江川由紀雄『サブプライム問題の教訓:証券化と格付けの精神』商事法務 2007年
• 江川由紀雄「証券化商品の大量格下げが示した統計モデルの限界」『金融財政事情』 08年 2月 25日号
• 福田徹「証券化商品に対する格付けを考える」『証券レビュー』 48 巻 1 号 08年 1月
• 小立敬「日米欧の新たな格付機関規制の方向性」『野村資本市場クォータリー』 2009 Winter
• 淵田康之『グローバル金融新秩序』日本経済新聞社 第Ⅳ章. 2009年