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日本の携帯電話メーカーの国際競争力喪失の軌跡
~音楽サービスの事例とバリューネットワークによる分析~
大塚孝之 ・ 教授 宮崎久美子東京工業大学 大学院
イノベーションマネジメント研究科1
研究・技術計画学会第28回年次学術大会2B13
本日の発表の流れ
1.本日のテーマ•日本市場についての認識の共有
2.本研究の目的と手法
3.事例分析結果•携帯電話向け音楽サービス
4.推察どのようにして、国内メーカーは競争力を失ったのか?
5.研究の制限と今後の研究課題
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1. 本日のテーマ
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日本のモバイルインターネットサービス: 音楽サービス
テクノロジーイノベーション
サービスイノベーション
音楽サービスプラットフォーム
AA+B
インターネット
音楽サービスプラットフォーム
Aインターネットに依存しない
音楽サービスプラットフォームAAA+BB+C
インターネット
• 国内携帯電話メーカーが国内においても、「シェアを失った要因」について、推察すること。• 携帯電話の進化はサービスの進化と連動しているとの観察から、サービスの進化過程におけるメーカーの対応や役割に注目をした分析を試みる。
バリューネットワークプレーヤー
バリューネットワークプレーヤーバリューネットワークプレーヤー
サービスプラットフォーム: どのようなサービスか?
日本の端末プレーヤーに何が起こったのか
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図1: 日本の携帯電話加入者数、人口普及率、3Gサービス加入率
表1 :携帯電話サービスと技術の進化
1996: 最初の音楽サービス1999: i-mode / NTT ドコモ(ドコモ)
携帯電話のインターネット接続提供i-mode 音楽サービス
2008: スマートフォン普及開始/ iPhone携帯からのインターネット接続がPCからの接続を超えるssインターネットを通じた携帯向け音楽サービス
認識の共有: 日本の携帯電話市場
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日本の端末メーカー市場占有率 2012 Q1-Q3 表2: 2012‐2013年メーカーシェアの変化
2008-2012
2008: スマートフォンが急速に普及開始2008-2012日本のメーカーが市場シェアを失った
認識の共有: 日本の携帯電話市場
2. 本研究の目的と研究手法日本の携帯電話メーカーの国際競争力喪失の軌跡~音楽サービスの事例とバリューネットワークによる分析~
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日本のモバイルインターネットサービス: 音楽サービス
テクノロジーイノベーション
サービスイノベーション
音楽サービスプラットフォーム
AA+B
インターネット
音楽サービスプラットフォーム
Aインターネットに依存しない
音楽サービス プラットフォーム
AAA+BB+C
インターネット
バリューネットワークプレーヤー
バリューネットワークプレーヤーバリューネットワークプレーヤー
サービスプラットフォーム: どのようなサービスか?
日本の端末プレーヤーに何が起こったのか
研究の目的
日本の携帯電話メーカーはなぜ競争力を失ったのかを推察すること
• 公開情報• 関係者へのインタビュー
バリューネットワーク分析
(VNA)
2. 研究手法
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分析方法 ケースへの適合
バリューネットワーク分析
• インターネットサービスの分析に最適• (Funk/ Li and Whalley / Peppard and Rylander /
Weiner, Nohira, Hichman and Smite)
• 企業と顧客間の多岐にわたる複雑な相互のやり取りが、社内におけるプロセスよりも競争力の維持に強い影響を与えるようなケース
バリューチェーン分析
• 産業の戦略分析に最適 (Porter)
• 原材料から製品への製造工程の価値創造の変化の流れが競争力の維持に強い影響を与えるようなケース
2. バリューネットワーク分析(VNA)の手順
Step1 • ネットワークの目的の特定
Step2•参画するプレーヤーの特定
Step3• プレーヤーの役割と価値の特定
Step4• プレーヤー間の関係の特定とそのやり取り関係図の作成
Step5• プレーヤー間の関係とその背景を分析
• プレーヤー間で交換されているものを特定 有形資産 無形資産
2. バリューネットワーク分析(VNA)の手順
音楽サービス
プレーヤーC
プレーヤーD
プレーヤーB
プレーヤーG
プレーヤーE
外部VN-Z
外部VN-Y
外部VN-X
プレーヤーA
プレーヤーF
Step1 • ネットワークの目的の特定Step2
•参画するプレーヤーの特定Step3
• プレーヤーの役割と価値の特定Step4
• プレーヤー間の関係の特定とそのやり取り関係図の作成
• プレーヤー間のやり取りの特定
有形資産 無形資産
Step5• プレーヤー間の関係とその背景を分析
3. 各事例とバリューネットワーク分析結果
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1996199920081999
1996
2008
デンソーによるイノベーション
• 着信音の作曲機能 : 1996
• メーカー主導によるテクノロジー イノベーションが発生
• 他の産業を刺激 >>>> 音楽が携帯電話サービスとなった
• 出版産業
• 広告産業
• 音楽産業11
3. 事例携帯電話向け音楽サービス
A)メーカー主導による 音楽機能の進化 -1996
1.最初の携帯電話向け音楽サービス誕生のきっかけ• 着信音 : 単音ブザー
• プリセット着信音 (ユーザーによる追加はできない)
• 競争基準 : 実装されたヒット曲の数
• 最新楽曲の実装は不可能: 開発-生産のリードタイム (6か月以上)
IDO D319 by Denso/1996
(C)JDP/GOOD DESIGN AWARD/ http://www.g-mark.org
2. 出版物による 着信音 データの配布
• 最初の音楽サービスは通信による配信ではなく、紙(雑誌)媒体だった
• 技術仕様が統一されていなかったので、楽曲の入力方法はバラバラ
• 出版社がメーカーに働きかけ、いくつかのグループ仕様の統一がされていった
• サービスイノベーションがテクノロジー イノベーションを誘因
• 産業間の協働 : 端末メーカーと雑誌の出版社
• ユーザーからのフィードバックを活用しサービスの品質と使い勝手を向上
12図2: 着信音 の入力方法が提供された雑誌と入力方法の例
IDO D319 by Denso/1996(C)JDP/GOOD DESIGN AWARD/ http://www.g-mark.org
3. 事例携帯電話向け音楽サービス
A) i-mode開始以前の 音楽サービス 1996-
3. 事例携帯電話向け音楽サービス
1996年~ 紙媒体による音楽サービスの分析結果
13図4. 1996年~ 紙媒体による音楽サービスの分析結果
有形資産の交換
無形資産の交換
• 出版社が中心となり音楽サービスが形成されていた。
• 「着メロ」は楽譜データのため、著作件団体への著作権料の支払いで完結していた。音楽業界のコントロールは薄い。誰でもサービスの提供が可能であった。
• メーカーの独自開発を制限するサービス仕様など、通信事業者によるコントロールはなかった。
A) i-mode開始以前の 音楽サービス 1996-
• i-modeによる音楽サービスの分析結果
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• NTTドコモが中心となり音楽サービスが形成されていた。
• メーカーの独自開発を制限するサービス仕様が制定され、通信事業者が端末メーカーの技術進化に影響を与え、「モジュール化」を促進させ、端末の「コモディティー化」が進んだ。
• 端末メーカーは自発的なイノベーションを起こすための企業内体制が失われていった。
• フェイス社による、音楽再生品質の均一化を狙った、コンテンツの最適化ツール
• 1楽曲あたり、最適化のため最大100種類のデータが提供された
有形資産の交換
無形資産の交換
図5. 1999年~ i-modeによる音楽サービスの分析結果
3. 事例携帯電話向け音楽サービス
B) i-modeによる合成音楽(録音ではない)データサービス 1999-
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音楽楽譜PC SW ツー
ル
音楽キーボード
デジタル化オリジナルファイルフォー
マット
SMF
着信音への変換
ドコモ 着信音ツール
ドコモ独自形式のMfi ファイル同時発音数の違い x チップの違い x 端末の違い
4163264128
ロームヤマハ
Yamahaフュートレック
他
合計100以上の端末別のファイル
テスト と最適化調整
テスト用端末x
深化熟成した調整技術
最終パッケージ
メタデータ、著作権情報、
著作権保護技術の追加
フェイス社が確立した音楽再生品質均一化の工程
3. 事例携帯電話向け音楽サービス
B) i-modeによる合成音楽(録音ではない)データサービス 1999-
図7. Music 着信音 Data Creation Process
3. 事例携帯電話向け音楽サービス
• インターネット経由による音楽サービスの分析結果
16図6. 2008年~ インターネット経由による音楽サービスの分析結果
• 携帯電話向けとPC向けのサービスが融合(レコチョク、Music.jp、アップルのiTunes)
• スマートフォンの普及拡大につれ、ドコモ(のみならず他の事業者も)の音楽サービスに対する端末とサービス仕様の主導力は弱化
• 外部ネットワークである音楽産業による携帯電話向け音楽サービスプラットフォームに対する影響力が拡大
• 音楽サービス/機能が再び端末メーカー間の差別化競争力を発揮する場となる
• 日本のメーカーは、マーケティングやセールスの現場と製品開発サイクルを有機的に結合する組織体制の確立が進んでいない。
有形資産の交換
無形資産の交換
C) インターネット経由による録音音楽サービス 2008-
4. 推察どのようにして、国内メーカーは競争力を失ったのか?
1.事業者仕様による機能の画一化
2.サービスプラットフォームのタイムマシン効果• サービス品質の均一化によるモジュール化効果の促進による、日本市場でのコモディティー化
• サービスプラットフォームによるタイムマシン効果によるコモディティー化によって開発投資回収が制限されたことによる負の循環
3.市場情報からの隔絶によるマーケティング活動の停止
4.製品開発におけるイノベーションサイクルの不全
5.国際競争力の低下
推察: 国内メーカー競争力低下を引き起こした要因
コモディティー化
サービスプラットフォームのタイムマシン効果
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端末メーカーの競争力価値
サービスプラットフォームの運用効率
T1 T2
サービスプラットフォームは技術のコモディティー化促進により
メリット最大化する
デバイスメーカーは、技術のコモディティーサイクルが短くなることで、
イノベーションのメリットを失う
5. 研究の制限と今後の研究課題
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検証事例の制限• 音楽サービスの変遷にのみ注目したものである。このことから推察結果に対する立証が不十分である。
• ゲーム、ビデオ、書籍など、同様に技術やサービスの提供方法の世代による変遷をたどった検証も可能であると考える。
成功事例の検証• 同じメーカーが携帯電話とは異なる製品分野では国内、海外においても競争力を維持している成功事例の検証に
よって、今回の事例と異なる点の発見があるかもしれない。電気製品以外の海外における成功事例の検証も対象となりえる。カメラ、自動車、バイクなど。
イノベーションロスの定量的な測定
海外メーカー/サービスの日本市場における成功の分析• 市場からの情報の活用方法、市場への参画手法、リーダーシップなどの視点での分析は興味深い。
サービスプラットフォームによるタイムマシン効果の事例• 参画するバリューネットワークによる技術開発投資メリットが異なる事例の収集と分析
• コモディティー化の意図的な促進により、イノベーションを起こす力がどの程度の損失を受けたのか• 特許件数や社外技術発表活動の変化などで測定が可能かもしれない。
Thank you!
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