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2 建築あいち 2018年7月号

第12回 愛知県建築士事務所協会 愛知建築賞� (経営委員会)

多機能型生活保護施設 愛恵園・愛恵園授産所愛知県岡崎市 株式会社小林清文建築設計室

敷地は、岡崎市中心部より少し離れた住宅地の一角にある2つの敷地である。計画は、「更生施設」と「授産施設」の2施設の建替だが、昨今、このような施設が、迷惑施設として扱われ、孤立、閉鎖して地域との関わりを控えることが多い。しかし、福祉施設は本来、地域と共に支え合うものではないか。我々は、車通りの少ない市道を挟んだ立地条件と、長きに渡り築かれた近隣との良好な関係を基に「まちとともに生きる生活保護施設」をコンセプトに、「施設」でなく「まち」

をつくることを目指した。建物は分棟化し、周辺とのスケール調和を図るとともに、内外部に変化に富んだ多様な場をつくり、沿道には、利用者の居場所となる作業所や休憩所や中庭、地域住民も利用できる売店やギャラリーを並べ、まちに開かれ賑わいのある通りを創り出している。外観には、県産スギの木製壁により親しみや温かみのある沿道景観を創るとともに、勾配屋根の集まりにより構成し山並みとの調和を図っている。

毎回審査に当たる委員は、応募書類に目を通した後、あらかじめ定めた数の作品を各自で選定して無記名投票したあと、その集計結果を見ながら全員で確認し、議論の末に各賞を選定することにしている。今年度はその投票できる数が足りず、難しい判断であったと語る委員が続出した程ハイレベルの戦いであった。共同参画型社会の実現に向けて建築をどう設計していくべきか、個々の施設を設計するのではなく、街路景観の

形成にどう貢献できるであろうか。消費型社会から脱却し、ストック型の社会に向かう事が出来るかという時代に、建て替えではなく既存の建築をどう再生できるか、そのノウハウが我々に蓄積されているであろうか。バラバラに作ってきた公共建築をどのように統合できるか。そのような所感を抱きながら受賞作品を参照しつつ審査と講評を終えた。

会 長 賞

総 評 審査委員長 谷 口  元 (名古屋大学名誉教授)

設計意図

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3建築あいち 2018年7月号

道路を挟んだ2つの用地に建てるという、設計する上では不利と思われる条件を逆手に取り、建物を公道側に開けはなった、文字通り「開かれた」福祉施設を具現化させた秀作である。「開かれた」という標語はしばしば使われてきたが、実際は周辺に背を向けたような設計であったり、運営や使用する側の人に受け止められず、失敗に終わっている例も多い。敷地の内外に展開されているイベント風景の写真を参照すると、ハードとソフトがうまくかみ合い成功していることが見て取れる。建築的にも洗練とヒューマニティの両立が追及されていると思われる。従来この種の施

設は、塀やフェンスで囲まれ、地域から隔絶された敷地内に設計されることが多かった。我が国の現代建築の多くは敷地の中に限定され、公共空間から離れた存在として設計され、建設されてきた。いつしか日本の街路空間は、互いに疎遠な建物群に囲まれた味気ない景観になりつつある中で、一つのモデルとなるような作品である。更に最も重要なことは、授産施設そのものが障がいを持つ方々の社会的自立を促すものであるが、加えて周辺地域の人々と共に、共助・互助と共生を促すきっかけになるような環境を形成していることであろう。

審査委員長講評

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4 建築あいち 2018年7月号

岡崎市市民会館リニューアル愛知県岡崎市 株式会社日建設計一級建築士事務所

日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社一級建築士事務所

優 秀 賞

長寿命建築という言葉が使われ始めて久しいが、高度経済成長時代に建てられた公共建築の多くが、耐震性、機能性、朽廃という名目で解体されて建て替えられるなどしており、この状況がこれからも続くと19、20世紀の近代化を支えた建築群は日本の街なかから姿を消し、失われた時代が到来するのではとの危機感を抱いている。本作品は昭和42(1967)年に新築された公会堂を大幅に改修し蘇らせた秀作として評価した。舞台の奥行きを客席側に拡大して、多様化する演劇や演奏に対応できるように

新たな舞台創造 未来に向けて文化を創る市民劇場市中心部近くに立地し、半世紀にわたり市民文化の殿堂として親しまれてきた岡崎市民会館のリニューアルである。岡崎市民会館は、昭和42年に公会堂として建設され、当時は最新の舞台・音響・照明を備えていたが、半世紀を経て、舞台機能、音響性能、客席環境の向上など、市民のニーズに応えられなくなってきた。昨今の公演ニーズの変化から、多目的な利用が行われていた1,000席を超える大型ホールを音楽・演劇の専用ホールとする大改修であり、市民文化の殿堂としての記憶を残すことを大切にしながら、ステージ、フライタワーの拡張や音響性能の向上、空調騒音の改善、バリアフリー化を行うなど、未来に向けて新たな舞台を創り出すことを目指し、右の6点のリニューアルを行った。

し、かつ舞台と客席との距離感を縮める効果が見て取れる。音響性能向上のために天井を取り払って気積を拡大するという大胆な改造もデザイン的にも興味深い。空調効果と騒音低減のためダクトを延長するため外部化し、新たにデザインされたルーバーを設置することでうまく隠し、それが再生された建築の新たな表情を生み出している。バリアフリー対策のために外構が大幅改修されたのも評価でき、公共性が担保されることになった。

1.舞台の拡張による演劇演奏の多様化に対応既存舞台の客席側に新たな前舞台と前フライを増設

2.舞台機能を守りながら耐震性能を向上既存の構造を活かして補強することにより、舞台機能を損なわずに耐震性能を向上

3.客席の気積を増やし音響性能を向上客席の既存天井を取り外し、空間を広げることによる残響時間を向上

4.室内ダクトを外部化し、客席騒音を低減ダクトの外部化による空調吹出しの低風速化と客席NC値を低減外部化したダクトをルーバーで覆い、新たな外観を創出

5.外構のフルフラット化エントランス前の外部階段をなくし、バリアフリー化を実現

6.施設間を結ぶ庇に囲まれた庭を創出各施設をつなぐ庇を設けて施設の一体感を醸成し、「創造の庭」を中心にした景観を創出

審査委員長講評

第12回 愛知県建築士事務所協会 愛知建築賞

設計意図

改修前

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5建築あいち 2018年7月号

阿久比町庁舎愛知県知多郡阿久比町 株式会社安井建築設計事務所 名古屋事務所

優 秀 賞

“豊かな自然と共生できるまち”阿久比町庁舎の現地建替。新庁舎は成長するまちの活動拠点として多目的ホールを併設した複合型庁舎として計画され、さらに、新築する施設と既存の施設とを一体的に運用できるように敷地全体の再整備を行った。配置計画の特徴として、町民の芝生広場「みんなの広場」を囲む形で、庁舎ロビー、ホールホワイエ、食堂などを配置し、半屋外の連続した軒下空間「縁側モール」で既存建

庁舎と公民館が分散して建っていた既存の敷地内を整備し、新庁舎と多目的ホール、食堂などを設け、それらをモールで連結した作品である。庁舎とホールは矩形であるが、モールと食堂が柔らかな曲線で構成されており、一体感と親しみやすさを演出している点が評価される。免震ピット

物の中央公民館までつないでいる。施設の一体感や動線の連続性を向上させつつ、「縁側モール」に面したあちこちに屋内外一体の明るい交流の場を敷地いっぱいに展開した。新庁舎は災害対策拠点でもある。想定される巨大地震に対応する構造設備計画により災害時も継続的に機能する。可変性を備えた多目的ホールは段床から大きな平土間の一時避難所へと変身し、食堂での炊き出しも含め、災害時にも「みんなの広場」を中心とした活動が想定されている。

や光庭を利用した自然通気の工夫や、井戸水の熱源利用も今日的である。モールの考えを上階の設計にも展開すべき事、また隣接する消防署や商工会、中学校との連携も書類に記されていることから、是非これらを具現化するべきであると考える。

審査委員長講評

第12回 愛知県建築士事務所協会 愛知建築賞

設計意図

撮影:エスエス名古屋

撮影:エスエス名古屋 撮影:エスエス名古屋

撮影:淺川 敏

撮影:淺川 敏

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6 建築あいち 2018年7月号

前回受賞した「倉坂の家 ~街並みに優しい家~」の設計者が、今回も受賞したとわかり、驚きと共に敬意を表明する。両作品とも画一的でありふれた日本の住宅地の風景に、インパクトを与えたいという作者の意図に賛同したい。さ

て本作品は、土地の高低差や厳しい斜線制限を逆手にとり、上階の外壁に緩やかな曲線を与えて特徴のある外観としたことに加え、子供室の広さや圧迫感の軽減に寄与しているようだ。インテリア全般も素材を活かし、洗練されている。

審査委員長講評

Rカべの家愛知県名古屋市 五藤久佳デザインオフィス有限会社

奨 励 賞

第12回 愛知県建築士事務所協会 愛知建築賞

Rカベの家は名古屋市の閑静な住宅密集地に建つ木造3階建ての住宅。幼いころから遊んでいた祖母の代から所有するポツンと取り残されたこの小さな土地に住みたいと若夫婦から相談を受けた。北の接道の幅や高低差、隣地がその土地より2m以上高いことなど、複雑な斜線制限が絡み合う。その条件を逆手に生かして建物のデザインに活かせないかと考えた。斜線制限をかわすための緩やかで優美な曲線を描く外壁は、空を広げ、光を届け、この辺りの空気を緊張させる。曲線を描く内カベは視覚的に空間に刺激を与えながら居住空間の圧迫感を軽減する。3階の子供室はRの内カベによって、頭が当たらず、空間

を広々と使え、優しく描くカーブが子供の成長に良い影響をもたらす。暗くなりがちな階段室をトップライトからの光がRの内カベを滑り落ちる。それは1階の玄関まで到達し、やわらかな光で訪問者を優しく迎える。1階から3階まで立体的に繋がるテラスは南からの良好な太陽光を得られない密集地においてリズム感よく最下階まで降り注ぐ。住宅密集地において厳しい条件を逆手に活かし、好条件に変換させてより豊かで質の高い空間をもつ住宅に設えることが出来た。

設計意図


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