微生物で環境をきれいにする微生物で環境をきれいにする
-- バイオレメディエーションとは?バイオレメディエーションとは? --
国立環境研究所国立環境研究所
流域圏環境管理研究プロジェクト 流域圏環境管理研究プロジェクト
海域環境管理研究チーム 海域環境管理研究チーム 牧 秀明牧 秀明
本講演の構成
1. バイオレメディエーションとは
2. 国立環境研究所による
バイオレメディエーション現場試験の紹介
・有機塩素系溶媒による汚染地下水の
バイオレメディエーション
・海洋流出油のバイオレメディエーション
3. 今後の展望
化学物質汚染現場化学物質汚染現場((土壌・地下水,沿岸域土壌・地下水,沿岸域))の浄化方法の浄化方法
物理・化学的手法物理・化学的手法
汚染箇所の掘削・除去 汚染箇所の掘削・除去
溶媒洗浄・焼却,真空吸引 溶媒洗浄・焼却,真空吸引
汲み取り,拭き取り,高圧熱水洗浄 汲み取り,拭き取り,高圧熱水洗浄
・膨大な費用・労力が必要・膨大な費用・労力が必要
・生態系に与える影響が大きい・生態系に与える影響が大きい
・要する期間は短い・要する期間は短い
バイオレメディエーション(バイオレメディエーション(BioremediationBioremediation))““remediationremediation”” 改善,矯正,汚染修復改善,矯正,汚染修復
・自然界に存在する分解微生物を積極的に活用・自然界に存在する分解微生物を積極的に活用
⇒ ⇒自然浄化能の強化自然浄化能の強化
・穏和な条件・穏和な条件
⇒ ⇒生態系に与える影響が軽微生態系に与える影響が軽微
・費用的に安価・費用的に安価
・長い期間を要する・長い期間を要する
目 的
◇ 有効性の確認
分解微生物以外の多種多様な生物が生息し,
開放系である実現場において,実験室と同じ効果が
得られるか?
◇ 安全性・影響評価
バイオレメディエーションを行うことで,
副次的な悪影響は発生しないのか?
現場における実証試験が不可欠現場における実証試験が不可欠
・バイオスティミュレーション(・バイオスティミュレーション(BioBio--stimulationstimulation))““ stimulationstimulation”” 刺激,鼓舞,激励刺激,鼓舞,激励
元々,現場に生息する土着の分解微生物を,栄養塩や元々,現場に生息する土着の分解微生物を,栄養塩や
誘導基質を添加することにより現場で増殖させる。誘導基質を添加することにより現場で増殖させる。
バイオレメディエーションにおけるバイオレメディエーションにおける
分解微生物の汚染現場への供給方法分解微生物の汚染現場への供給方法
・バイオオーグメンテーション(・バイオオーグメンテーション(BioBio--augmentationaugmentation))““augmentationaugmentation”” 増強,拡大,添加物増強,拡大,添加物
分解微生物を別途培養し,外部から汚染現場に供給する。分解微生物を別途培養し,外部から汚染現場に供給する。
バイオレメディエーション現場試験事例バイオレメディエーション現場試験事例 1.1.
メタン酸化細菌によるメタン酸化細菌による
バイオスティミュレーションを利用したバイオスティミュレーションを利用した
トリクロロエチレン汚染地下水のトリクロロエチレン汚染地下水の
バイオレメディエーションバイオレメディエーション
重金属汚染293
VOC汚染23249
平成12年度土壌汚染調査結果(環境省)累積574件
HC C
ClClCl
トリクロロエチレン(TCE)とは?
揮発性有機塩素系溶媒(VOC)用途:半導体や機械類の洗浄溶剤
毒性:肝障害
環境基準:0.03 mg/L
トリクロロエチレン
178
C CCl
H
Cl
Cl
トリクロロエチレントリクロロエチレン((TCETCE))
共代謝による酸化共代謝による酸化 C CCl
H
Cl
Cl
O
ClCl-- + H+ H22O + COO + CO22
CHCH44メタンメタン誘導基質誘導基質
CHCH33OHOHメタノールメタノール
酸酸 素素
メタン酸化酵素メタン酸化酵素
共代謝によるトリクロロエチレンの分解共代謝によるトリクロロエチレンの分解
トリクロロエチレンの微生物分解促進には,トリクロロエチレンの微生物分解促進には,
メタンの添加が必要!メタンの添加が必要!
トリクロロエチレントリクロロエチレン((TCETCE))汚染現場の汚染現場の
バイオレメディエーション実証例バイオレメディエーション実証例
発見発見 19901990年年
汚染箇所汚染箇所深さ深さ1414~~23 23 mm
((第1帯水層上部)第1帯水層上部)
汚染源汚染源 電子部品工場電子部品工場
処理方法処理方法 汲み上げ・汲み上げ・ばっばっ気気
汚染現場概要汚染現場概要
--14 14 mm
--23 23 mm
12 12 mm
ばっばっ気処理気処理メタン,栄養塩添加メタン,栄養塩添加
((地下水中のメタン酸化細菌活性化のため地下水中のメタン酸化細菌活性化のため))
0 0 mm
トリクロロエチレントリクロロエチレン((TCETCE))汚染現場の汚染現場の
原位置バイオレメディエーション模式図原位置バイオレメディエーション模式図
汲み上げ井戸汲み上げ井戸
地下水の流れ地下水の流れ
注入井戸注入井戸
80806060404020200000
22
44
66
88
1010
経過日数経過日数
(( TC
E m
g/L)
TCE
mg/
L)
ばっばっ気水気水注入開始注入開始
トリクロロエチレン(トリクロロエチレン(TCETCE))濃度と濃度と
メタン酸化細菌数の変化メタン酸化細菌数の変化
注入注入停止停止
(MPN
/ml)
100
101
102
103
104
105
106トリクロロエチレン濃度
トリクロロエチレン濃度
メタン酸化細菌数
酸素注入開始酸素注入開始
メタンメタン注入開始注入開始
この期間この期間((4040日間日間)),本来なら,本来なら注入を止めれば注入を止めればTCETCEの濃度がの濃度が
上昇上昇((復活復活))するところを,するところを,分解菌の働きにより抑制できた。分解菌の働きにより抑制できた。
4040日間の日間のTCETCE除去量除去量(汲み上げ量:一日(汲み上げ量:一日100100トン)トン)
メタン注入前のメタン注入前のTCETCE濃度濃度0.8 0.8 mg/Lmg/L 0.5 0.5 mg/Lmg/L
0.8 0.8 mg/Lmg/L××4040日×日×100100トントン//日日= 3.2 = 3.2 kgkg‥①‥①
0.5 0.5 mg/Lmg/L××4040日×日×100100トントン//日日= 2.0 = 2.0 kgkg‥②‥②
TCETCE分解量分解量①-②①-② = 1.2 = 1.2 kgkg
バイオレメディエーションバイオレメディエーション
バイオレメディエーションによるバイオレメディエーションによるトリクロロエチレン(トリクロロエチレン(TCETCE))分解量の算定分解量の算定
(分解期間(分解期間4040日間)日間)
バイオレメディエーション現場試験事例バイオレメディエーション現場試験事例 2.2.
海洋流出油のバイオレメディエーション
流出油による海洋汚染
97年日本海沖ナホトカ号タンカー事故東京湾ダイアモンドグレース号タンカー事故
02年スペイン沖プレステージ号タンカー事故島根,鹿児島,大島,茨城沖での貨物船座礁事故
今年米国マサチューセッツ州沖,韓国釜山港内タンカー事故
石油の微生物分解にとっての律速因子である
栄養塩を外部から付与
石油の微生物分解にとっての律速因子である
栄養塩を外部から付与
海洋流出油のバイオレメディエーションの要点
一般の海域では,微生物が石油を資化
するために見合うだけの窒素・リンが不足
一般の海域では,微生物が石油を資化
するために見合うだけの窒素・リンが不足
操作可能な因子:
試験現場概要試験現場概要
兵庫県香住町海岸部兵庫県香住町海岸部
日本海側日本海側
種子島東海岸部種子島東海岸部太平洋側太平洋側
オホーツク海側オホーツク海側
紋別港内海岸部紋別港内海岸部
人工の石油海砂混合物の調製
現場への実験材料,装置の設置模様現場への実験材料,装置の設置模様
石油試料
緩効性肥料粒
プランクトンネット製袋
二ヶ月後肥料非添加肥料非添加((対照対照)) 肥料添加肥料添加
原油中の主成分のアルカン類の分解と菌数の変化
0日目(実験開始時)
ピーク強度 保持時間
原油のガスクロマトグラフィーチャート
肥料(栄養塩)の添加に
より原油成分の分解が
大幅に促進された。
経過日数
0
25
50
75
100
0 14 28 42 56
アルカン
残存率(
%)
106
107
108
109
1010
菌数
バイオレメディエーション終了時のバイオレメディエーション終了時の汚染汚染海砂中の原油残存率海砂中の原油残存率(%)(%)
0 25 50 75 100
肥料非添加肥料非添加((対照対照))肥料添加肥料添加
全体量として,油はどのくらい除去されるか?全体量として,油はどのくらい除去されるか?
原油汚染海砂・礫
石油分解菌石油分解菌実質的な微生物分解実質的な微生物分解
2020~~30%30%
炭酸ガス+水炭酸ガス+水
海海
剥離・流出剥離・流出((物理的な除去物理的な除去))
4040~~50%50%
油除去の収支油除去の収支
全部微生物分解によるものなのか?
微生物の作用に微生物の作用により油の物理的より油の物理的な除去も促進な除去も促進
残存残存 2020~~40%40%
剥離剥離 5.6%5.6%
残存残存 94.4%94.4%肥料非添加肥料非添加((対照対照))
残存残存57.3%57.3%
剥離剥離42.7%42.7%
硝酸アンモニウム(無機態窒素)
生分解生分解 17.5%17.5%剥離剥離 52.5%52.5%
残存残存 30.0%30.0%尿尿 素素(有機態窒素)(有機態窒素)
異なった窒素肥料による油除去の効果の比較異なった窒素肥料による油除去の効果の比較
無機態窒素より有機態窒素の効果がより大きい
剥離剥離49.3%49.3%
残存残存 32.0%32.0%架橋型尿素架橋型尿素(有機態窒素)(有機態窒素)
生分解生分解 0%0%
生分解生分解 0%0%
生分解生分解 18.7%18.7%
海洋小動物を用いた生物試験海洋小動物を用いた生物試験
ヨコエビヨコエビ
日本の沿岸部に広く分布する甲殻日本の沿岸部に広く分布する甲殻((端脚端脚))類類
バイオレメディエーション実施時のバイオレメディエーション実施時の海水中におけるヨコエビ海水中におけるヨコエビ幼体幼体の生残率の生残率
現場試験経過日数現場試験経過日数((試験海水採取日試験海水採取日))
00
2525
5050
7575
100100
00 1010 3131 5555 7373 9494
生残率
生残率((%%))
肥料添加肥料添加
肥料非添加肥料非添加((対照対照))
肥料(栄養塩)の添加
による悪影響は
見られなかった。
これからのバイオレメディエーション研究開発の展望
国立環境研究所の役割 1.・修復事業そのものをやっているのではない
・現場ごとのバイオレメディエーションの適用性の評価
・公正な評価
物理化学的な除去によるものか?
本当に微生物分解によるものなのか??
・事前事後の評価:例)微生物生態系と機能の解析
「バイオレメディエーションは万能の技術ではない」
元々,自然浄化能を活用するものであって,
適用範囲は自ずと限られる
肥料添加 肥料非添加
δ-ProteobacteriaGreen non-sulfurCytophagales
低GCグラム陽性β-Proteobacteria
γ-Proteobacteria
α-ProteobacteriaThermus/DeionococcusNitrospira
ActinobacteriaPlanctomycetes
Verrucomicrobium
微生物の種構成の変化微生物の種構成の変化
実験終了実験終了
33ヶ月後ヶ月後
98年
8月⑧
98年
8月⑪
98年
12月⑧
98年
12月⑪
99年
4月⑧
99年
4月⑪
マーカー
マーカー
マーカー
98年
9月⑪
98年
9月⑧
遺伝子解析による遺伝子解析による
微生物多様性の変化の評価微生物多様性の変化の評価
ほぼ同じように回復したほぼ同じように回復した
これからのバイオレメディエーション
研究開発の展望
国立環境研究所の役割 2.
・目標設定:例)生物生息地としての回復
・行政機関による指針作成の材料提供
・市民による理解と受け容れ
謝 辞
-トリクロロエチレンバイオレメディエーション現場試験-
岩崎一弘
(国立環境研究所 生物多様性研究プロジェクト)
矢木修身(現東京大学大学院)
環境省
企業コンソーシアム
日本総合研究所,NKK,荏原製作所,オルガノ 関東建設,住友金属鉱山,熊谷組,竹中工務店
同和鉱業
謝 辞
-海洋流出油バイオレメディエーション現場試験-
柴山漁業協同組合,香住町,兵庫県,環境省柴山漁業協同組合,香住町,兵庫県,環境省
兵庫県立健康環境科学研究センター兵庫県立健康環境科学研究センター
三菱化学㈱三菱化学㈱,チッソ旭肥料㈱,㈱,チッソ旭肥料㈱,㈱関西総合環境センター関西総合環境センター((KANSOKANSO))
立山漁業協同組合,種子島漁業協同組合,西之表市立山漁業協同組合,種子島漁業協同組合,西之表市
鹿児島県漁連鹿児島県漁連,鹿児島県,,鹿児島県,㈱三菱総合研究所㈱三菱総合研究所
紋別漁業協同組合,紋別市,紋別海上保安部,北海道紋別漁業協同組合,紋別市,紋別海上保安部,北海道
㈱オホーツク流氷科学研究所㈱オホーツク流氷科学研究所
荻野暁史,石木広志,平山則子,荻野暁史,石木広志,平山則子,酒井毅,鈴木雅博,井沢俊二酒井毅,鈴木雅博,井沢俊二
藤掛元,五十嵐剛,中野潤子,西宮ゆき,加藤三保子,木村敏彦藤掛元,五十嵐剛,中野潤子,西宮ゆき,加藤三保子,木村敏彦
樋渡武彦,越川海,木幡邦男,内山裕夫,渡辺正孝(敬称略)樋渡武彦,越川海,木幡邦男,内山裕夫,渡辺正孝(敬称略)