Download - 統計力学 講義ノート 2012 - 豊田工業大学...1 統計力学 講義ノート (2012年夏学期) 2012.4.9 by I. Kamiya 統計力学で何を学ぶか 0.統計力学とは何か?
1
統計力学 講義ノート (2012年夏学期)
2012.4.9 by I. Kamiya
統計力学で何を学ぶか
0.統計力学とは何か?
1.基本概念
アンサンブル、エントロピー(情報と統計)、エルゴード仮説、平衡・非平衡
熱力学と統計力学
2.統計分布
閉じた系と開いた系(物質の出入り)
ミクロカノニカル分布、カノニカル分布、グランドカノニカル分布
分配関数、大分配関数
3.量子統計
Maxwell / Boltzmann 分布、Fermi (-Dirac)分布、Bose (-Einstein)分布
黒体輻射、反転分布と負の温度、Bose-Einstein 凝縮
4.固体物理への応用
比熱、 格子欠陥
金属・半導体の電子状態、状態密度
電子デバイスの基礎
磁性、 合金
5.平衡・非平衡
6.数学的基礎
Stirling の公式
ガウスの積分公式 Γ関数
目標
・ 統計力学の原理
・ 数学的・理論的裏づけ
・ 物性物理への応用
2
0.統計力学とは
ミクロとマクロをつなぐ統計
物質の挙動 → 通常、マクロな量の測定 e.g. 古典力学
統計力学
ミクロな世界(電子、原子、等)の法則 → マクロな現象の理解
個別の粒子の物性測定は難しいが、この解析からマクロ物理が説明可能
1粒子、2粒子系は厳密に解析的に扱えるが、3粒子以上は不可能
従って、統計的に扱わざるを得ない
サイコロを振る時の出る目の数の合計を考える
1)1個の場合: どの目も 1/6
2)2個の場合: どの目も 1/6 だが、合計は 2: 1/36, 3: 2/36, 4: 3/36, 5: 4/36, 6: 5/36,
7: 6/36, 8: 5/36, 9: 4/36, 10: 3/36, 11: 2/36, 12: 1/36
3)3個の場合: どの目も 1/6 だが、合計は 3: 1/216, 4: 3/216, 5: 6/216, 6: 10/216,
7: 15/216, 8: 21/216, 9: 25/216, 10: 27/216, 11: 27/216, 12: 25/216, 13: 21/216,
14: 15/216, 15: 10/216, 16: 6/216, 17: 3/216, 18: 1/216
4)n個の場合: n : n61 , 1n : n
n C
61 , 2n : n
n C
62 , …
平衡と非平衡
AB + C ←→ A + BC
この様なバランスが取れた状態
熱(力学)的平衡: 熱の出し入れが無い状態
本講義では基本的に平衡状態を扱う。
但し、近年複雑系等、非平衡状態が物理・化学・生物学での興味の対象
では平衡状態とは何か?
各点(原子、電子)は動いていて、速度は変わるが、全体としての「分布」が
時間的に変化しない定常的なものになっている状態
重要事項
状態数(状態密度): 量子化された格子点を数える事に帰結
分布関数: 基本的に
TkB
jexp に比例
3
1 統計力学の基礎
1-01 エントロピー (Entropy: 乱雑さ)
情報理論におけるエントロピー 2進法のビット(bit) 情報の分からなさ加減
例えば、トランプで、カードを1枚引く事を考えると、
2枚で 1 bit → エントロピーは 1
4枚で 2 bit → エントロピーは 2
8枚で 3 bit → エントロピーは 3
では、3枚、6枚などでは? , ,
トランプではなく、色付きカードを考える。
3枚の異なる色のカードから1枚を引き出す時
のエントロピーはやはり で
ある。
4枚の異なる色のカードから1枚を引き出す時
のエントロピーは である。
4枚の内、2枚が同じ色(赤)の場合はどうか?
エントロピーの定義: ある事象 i が起こる確率を iP とおくと、エントロピー S は
i
ii PPS log
上の場合、赤が出る確率は 1/2, 白、青は各々 1/4
5.124
12
4
1
2
1
4
1log
4
1
4
1log
4
1
2
1log
2
1log
i
ii PPS
平たく言えば、この時の方がカードは当て易い事になる。
4
1-02 熱力学的エントロピー: 似て非なるもの
WkS B log Bk は Boltzmann 定数
1231038.1 KJ
N
Rk
A
B、
W は場合の数、または「熱力学的重率」
以下、底の記してない log は自然対数の底 e を用いている。
上のカードを並べる場合の数を考える。
この3枚は区別できるので、 6!3 通り
従って、 である。
Bk~
4枚の場合は、 24!4 通り。
従って である。
Bk~
この場合には、 通り
従って、 である。
Bk~
定義の意味は余り気にせず、習うより慣れろ、というのがお薦めだが、こだわる人には、こ
れが熱力学的エントロピーと一致する事を説明。
1)エントロピーは上記の様に、場合の数(W)に関係している。
2)エントロピーは示量変数である。 (即ち、物質・場の量・広がり、に比例する)
Helmholtz の自由エネルギーは
TSUF
で表され、 S をエネルギーに換算し得る。
例えば、各々の系に含まれる原子のエネルギー状態の場合の数が各々 BA WW , だとしよう。 両方
の系を合わせて一つの系と考えると、ここでの場合の数は BA WWW である。 ところが、エン
トロピーが示量変数であるという要請があるので、BA SSS である。 掛け算が足し算に置き換
わるという関係は指数・対数の関係なので、 WAS log とおく。
系A
WA, SA
系 B
WB, SB
5
トランプの補足
3枚、4枚から 1枚抜き出す: エントロピーの定義は「何 bitか?」という事
そのため、対数の底は 2
もっと簡単には、0 のカードと 1のカードがあって、その何れかを引いている
これが、0, 1, 2, 3 になったり、0, 0, 1, 2 になったりしている、と考えても良い。
並べる方法 → 熱力学的エントロピー
この時は自然対数の底を考えているが、これは定義と思った方が良い
状態量(State Function): 熱平衡にある系のマクロな状態で決まる物理量
示強変数(intensive)
物質の量に比例する変数・量
eg. 温度、圧力
示量変数(extensive)
物質の量に比例する変数・量
eg. 物質の質量、エネルギー、エントロピー
さて、今度は例として、気体の定温膨張を考える。
初期状態において、体積 1V , 粒子数 m (∴ molNm A
、AN は Avogadro 数)、個々の粒子が
占めうる状態数をM とする。 ここで、状態数とはエネルギー「状態」を考えるが、単位体積当りに
一定状態数(この場合 M )があると考える。
m個の粒子をM 個の状態に配分する方法は、 mM CW 1 通り。 これに対し、間のついたてを取
り除き、温度 T のまま膨張させた後の状態は、体積が倍であり、よって、占有し得る状態数は M2 。
よって、 mM CW 22 通り。
両者のエントロピーを求めると、(但し、Stirling の公式 NNNN log~!log を用いてよい)
)!(!
!loglo
11mMm
MACgAS mM
)!2(!
!2loglo
122mMm
MACgAS mM
V1
p1, T
V2 = 2V1
p2, T
6
mMmMMMmMmMMMA
mMmMmMmmmMMM
mMmMmMmmmMMMA
mMm
M
mMm
MASSS
loglog2log22log2
](logloglog
22log2log22log2[
)!(!
!log
)!2(!
!2log12
ここに mM より、
2loglog2log
loglog2log22log2
AmMmMmA
MmMMMMmMMMAS
熱力学の第一法則により、系の熱の出入りを Qd ' (仕事・熱量は状態量でない)、
内部エネルギーを U とおくと、 pdVdUQd '
そして、エントロピーは T
QddS
' で定義された。
ここに、粒子数を m としたので、 molNm A なので、 RT
N
mpV
A
である。
( R は気体定数、 113145.8 molKJ )
上の例で、定温膨張の時、内部エネルギーは一定なので、T
pdVdS
熱力学的エントロピーの変化を計算すると、
2loglog
log1
1
2
2
1
2
1
2
1
2
1
AA
V
V
A
V
VA
V
VA
V
V
N
mR
V
V
N
mR
VN
mRdV
VN
mRdV
VN
mR
T
pdVdSS
ここに定義より Boltzmann 定数
1231038.1 KJ
N
Rk
A
B であるから、
2logBmkS
これを上の結果と比較すると、BkA とすると、エントロピーが WkS B log で定義されたも
のと一致する事が見られる。
という訳で難しい理屈は兎も角、エントロピーが WkS B log で定義されると熱力学の結果も
説明できるので、以下、これを認めて議論。
問い)上記の計算で、粒子が識別できるとしたらどうなるか?
7
1-03 量子状態と状態数の考え方
統計力学の原理
・確率的に起こり易い方向へ安定化する。 (エントロピー増大則の別の表現)
・一般に、個々のエネルギー状態 j は
TkB
jexp に比例して占有される。
1-03-1 M準位系に N個の粒子を分配する場合の数の検討
1)2準位系
a) 2個の粒子を分配
粒子を区別して分配: 通り 区別せず分配: 通り
各々の準位に入る粒子数だけを考えると (2, 0): 通り
(1, 1): 通り
(0, 2): 通り
b) 4個の粒子を分配
粒子を区別して分配: 通り 区別せず分配: 通り
各々の準位に入る粒子数だけを考えると (4, 0): 通り
(3, 1): 通り (2, 2): 通り
(1, 3): 通り (0, 4): 通り
例題)8個の粒子では?
解)粒子を区別して分配: 通り 区別せず分配: 通り
各々の準位に入る粒子数を考えると (8, 0): 通り (7, 1): 通り
(6, 2): 通り (5, 3): 通り (4, 4): 通り
(3, 5): 通り (2, 6): 通り (1, 7): 通り
(0, 8): 通り
8
2)3準位系
a) 2個の粒子を分配
粒子を区別して分配: 通り 区別せず分配: 通り
各々の準位に入る粒子数だけを考えると
(2, 0, 0): 通り (1, 1, 0): 通り (1, 0, 1): 通り
(0, 2, 0): 通り (0, 1, 1): 通り (0, 0, 2): 通り
b) 3個の粒子を分配
粒子を区別して分配: 通り 区別せず分配: 通り
各々の準位に入る粒子数だけを考えると (3, 0, 0): 1通り
(2, 1, 0): 通り (2, 0, 1): 通り (1, 2, 0): 通り
(1, 0, 2): 通り (0, 2, 1): 通り (0, 1, 2): 通り
(1, 1, 1): 通り (0, 3, 0): 通り (0, 0, 3): 通り
3)5準位系に10個の粒子を分配
a) 全ての粒子が区別できるとすると、 通り
b) 粒子が区別できないとすると、N個の粒子とM-1個の仕切りを並べるのと同等
N+M-1 個の場所から M-1 個の仕切りを挿入する場所を選ぶと
通り
9
例えば、5準位系に10個の粒子を入れる 通りあり得る。
この内の3つを例に挙げたのが上の図であるが、これら各々が起こる場合の数は
左) 通り
中) 通り
右) 通り
各々のエントロピーは
左)
中)
右)
(問い)上記(5準位系に10個の粒子を配分する時)でエントロピーを最大にする様な分け方と
その時のエントロピー 1KJ を求めよ
(答)
10
1-03-2 エネルギーを考慮した M準位系に N個の粒子を分配する方法
次に、これらの準位に入る粒子はそれぞれ運動エネルギー ~ 5 を持つとする。 ここで、例え
ば上の三例では系の合計エネルギーは 左)20、中)21、右)22、である。
一方、上の三つは、何れも系の合計エネルギーは、20、であり、この様な組み合わせと場合の数を
求めると、 (n5, n4, n3, n2, n1; W) と書くと、
(0, 0, 0, 10, 0; 1),
(0, 0, 1, 8, 1; 90),
(0, 0, 2, 6, 2; 1260),
(0, 0, 3, 4, 3; 4200),
(0, 0, 4, 2, 4; 3150),
(0, 0, 5, 0, 5; 252),
(0, 1, 0, 7, 2; 360),
(0, 1, 1, 5, 3; 5040),
(0, 1, 2, 3, 4; 12600),
(0, 1, 3, 5, 1; 5040),
(0, 2, 0, 4, 4; 3150),
(0, 2, 1, 2, 5; 7560),
(0, 2, 2, 0, 6; 1260),
(0, 3, 0, 1, 6; 840),
(1, 0, 0, 6, 3; 840),
(1, 0, 1, 4, 4; 6300),
(1, 0, 2, 2, 5; 7560),
(1, 0, 3, 0, 6; 840)
(1, 1, 1, 1, 6; 5440)
(1, 2, 0, 0, 7; 360)
(2, 0, 0, 2, 6; 1260)
(2, 0, 1, 0, 7; 360)
という訳で、最も起こり易いのは (0, 1, 2, 3, 4) という分布。 合計エネルギーの束縛により、大きく
分布が変わっている事が分かる。
統計力学の原理
結論: 一般に、個々のエネルギー状態 j は
TkB
jexp に比例して占有される。
こうして、一般に、エネルギー j の状態に、 jN 個ずつの粒子が分布しているとすると、全粒子数
と全エネルギーは
j
jj
j
j nEnN (2.35, 36)
ここで、N 個の粒子をどの様に ,,,, 4321 nnnn と分配するかを考える。 更に、各エネルギー状
態j には
jg 個ずつ座席があると考える。
11
まず、粒子をどの様に分けるかを考えると、N 個の粒子から 1n 個を選び出すのは、
)!(!
!
111 nNn
NCnN
(1A.1)
通りである。 次に、残った粒子1nN 個の粒子から
2n 個を選びだすのは、
)!(!
)!(
212
1
11 nnNn
nNCnnN
(1A.2)
通りである。 これを繰り返していくと、N 個の粒子を ,,,, 4321 nnnn に分配するのは
!!!!
!
4321 nnnn
N (1A.3)
通りとなる。 この様に記述されるミクロな状態が、同じ確率で起こっているのが、「熱平衡」の状態
であり、こう考えるのが等確率の原理である。
更に、各エネルギー状態j には
jg 個ずつ座席があるという条件を考えると
この時、全ての場合の数は
4321
4321
4321
4321!!!!
!,,,,
nnnngggg
nnnn
NnnnnW (1A.4)
となる。
ここに、Stirling の公式 )1( l o g!l o g NNN (1.4)
を用いて、上の状態のエントロピーを定義に従って求める事を考える。 すると、比例定数 Bk はさ
ておき、 Wlog を求めなくてはならないから、
j
jjj
nnnn
ngnNNN
ggggnnnn
NnnnnW
1logloglog
!!!!
!log,,,,log 4321
4321
4321
4321
(1A.5)
最も起こる事が確からしい状態はこの Wlog が最大になる時であるが、ここに合計粒子・エネ
ルギーの条件
j
jj
j
j nEnN (2.35, 36)
を取り入れるには、Lagrange の未定係数法を用いる。 (2章3節で扱う)
jg
12
1 統計力学の基礎
1-1 統計力学の考え方
ミクロとマクロをどう繋げるか?
多体問題は解析的には扱えない
Avogadro Number のオーダーの粒子を扱う事は困難
粗視化
現象を細かく見ると複雑すぎる場合に、粗く見る事
→ 統計的取り扱い
確率分布
気体分子を左右に分ける ある瞬間に左にn 個、右に nN 個(p.5 図1-2)
場合の数は !!
!
nNn
N
n
N
よって、確率は !!
!
2
1
nNn
NnP
N
N
(1.2)
規格化条件は 10
N
n
N nP (1.3)
これは、二項定理を用い、
N
n
nnNNba
n
Nba
0
において
2
1 ba とおくことで証明可。
確率を具体的に計算すると、 10N の場合(図1-3(a))
1024
10
!110!1
!10
2
11
10
10
P
1024
45
!210!2
!10
2
12
10
10
P
1024
120
!310!3
!10
2
13
10
10
P
1024
210
!410!4
!10
2
14
10
10
P
1024
252
!510!5
!10
2
15
10
10
P
1024
210
!610!6
!10
2
16
10
10
P
分子数が大きくなった時は、計算は大数に利用できる Stirling の式を導入
)1(log!log NNN (1.4)
N
nN
N
nN
N
n
N
nN
nNnNnnNNN
nNnNnNnnnNNNN
nNnNnnNNN
nNnNNnNn
NnP
N
N
loglog2log
logloglog2log
logloglog2log
1log1log1log2log
!log!log!log2log!!
!log
2
1loglog
(1.5)
13
2
1
N
nx と定義すると、 1x と考える事ができ、x を連続関数とみなし、
xp
xxxxN
N
nN
N
nN
N
n
N
nNnP
N
N
log
2
1log
2
1
2
1log
2
12log
loglog2loglog
2
22
22
2
222
122
2
1
2log222
12log22
2
12log
2log21log2
12log21log
2
12log
2
1log
2
1
2
1log
2
12log
xN
xxxxxxN
xxxxxxN
xxxxN
xxxxN
よって、 22exp NxCxpN だが、規格化条件を考えて、また、
公式 (A.2) a
dxe ax
2
を用い
12
2exp 2
N
CdxNxCdxxpN
(1.8)
∴
NC
2
よって、 22exp2
NxN
xpN
(1.7)
分布の広がりの程度は、公式 (A.3) 23
2 1
2
2
adxex ax
を用い
NN
NdxNxx
Ndxxpx N
4
1
2
1
2
22exp
2
23
2222
∴ N2
1 (1.9)
14
(以下、参考)因みに、(1.7) を利用して、誤差関数 が定義され、 1 の時、
!253
2
!253
2
!21
221)(
53
0
53
0
42
0
22
ttt
dtt
tdtedteerf tt
すると例えば ppm のズレの場合は 610 で、
29
186
563666 10
3
1010
2
!25
10
3
1010
2)10(
erf
さて 22exp2
NxN
xpN
を用いると、
dxNxN
dxNxN
dxxpN
0
22 2exp2
212exp2
11
xNt 2 とおくと、 dxNdt 2 であり
10
2
3
22
21
exp2
1exp2
12211
53
2
0
2
2
0
2
NNN
dttdttN
Ndxxp
NN
N
可逆と不可逆、平衡と非平衡
2粒子衝突は基本的に時間反転対称 → だが、粒子の集合体の衝突は不可逆
何故か? → 初期状態の特殊性 : これをどう評価するか?
熱平衡状態: マクロに変化の無い状態
非平衡状態: マクロに変化し続ける状態
15
1-2 エネルギーの移動と熱平衡
固体の量子状態
固体原子の振動を3方向の振動子を用いて考える
aN 原子系では aNN 3 の同じ振動子からなる振動子系
エネルギーは 固有振動数 を用いて
,2,1,0nnn (1.10)
とおくことができる。 ここに
sJh
3410054.12
Dirac 定数 (1.11)
sJh 3410626.6 Planck 定数 (1.12)
振動子 1, 2, 3, …, N が各々量子状態 (n1, n2, n3, …, nN) を取ると
N
NN
nnnnM
M
nnnnnnnnE
321
321321 ,,,
(1.13)
N 個の振動子にM個のエネルギー単位を分ける分け方は
!1!
!111
NM
NMCHMW NNMNMN (1.14)
ここに、M, N が十分大きい数である場合 Stirling の公式により
NN
M
N
M
N
M
N
MN
NN
MN
N
MM
N
MNM
N
MN
NMN
MNM
N
MN
NNMMNMNM
NNMMNMNM
NNNMMMNMNMNM
NM
NMMWN
log1log1
loglog1loglog1
logloglog1
logloglog
1log1log1log1
11log1log11log1
!1!
!1loglog
(1.15)
即ち、 MWN は Ne のオーダーの数
系は MWN 個の量子状態間を絶えず不規則に移り変わっている。
16
2つの固体の接触とエネルギー配分の確率
2つの固体を A, B とし、振動子数を NA, NB エネルギーを EA, EB とする。
周囲から孤立していれば
constEEE BA constNNN BA (1.16)
「量子状態」というのはどれも同じ確率で実現している(等確率の原理)と考える。
→ 即ち、量子状態の数が多ければ、それに比例してその様な状態が実現する。
すると、エネルギー配分 BA EE , の実現する確率は、
AA ME , BB ME (1.17)
を満たす量子状態の数に比例する。
固体 A がエネルギー EA を持つ量子状態の数は AN MWA
、
固体 B がエネルギー EB を持つ量子状態の数は BN MWB
よって、この様な状態の実現確率は
MW
MWMWEEP
N
BNAN
BABA, (1.18)
この様な中で最も高い確率で実現するのは、分子の最大化を考えると
BNANBA MWMWEEWBA
, (1.19)
の最大化を考える事である。 この対数を
BNANBABA MWMWEEWEEBA
loglog,log, (1.20)
と書くと、(1.14) より
!1!
!1
NM
NMMWN
なので、(1.15) の結果(Stirling の公式 (A.1) )を用いて
B
B
B
B
B
B
B
BB
A
A
A
A
A
A
A
AA
BB
BB
AA
AA
BNANBA
N
M
N
M
N
M
N
MN
N
M
N
M
N
M
N
MN
NM
NM
NM
NM
MWMWEEBA
log1log1log1log1
!1!
!1log
!1!
!1log
loglog,
B
B
B
B
B
B
B
BB
A
A
A
A
A
A
A
AA
N
E
N
E
N
E
N
EN
N
E
N
E
N
E
N
EN
log1log1
log1log1
(1.21)
EA、EB を連続関数と見做し微分すると ( constEEE BA を考慮して)
0,
A
BA
dE
EEd (1.22)
17
が極値を取る条件。 AB EEE
B
A
B
A
B
A
B
AB
A
A
A
A
A
A
A
AA
B
B
B
B
B
B
B
BB
A
A
A
A
A
A
A
AABA
N
EE
N
EE
N
EE
N
EEN
N
E
N
E
N
E
N
EN
N
E
N
E
N
E
N
EN
N
E
N
E
N
E
N
ENEE
log1log1
log1log1
log1log1
log1log1,
を考慮し
0
log1log1
log1log1
log1log1
log1log1
log1
1log1
log1
1log1
11log
1
1
1
111log
1
11log
1
1
1
111log
1
,
B
B
B
B
A
A
A
A
B
A
B
A
A
A
A
A
B
A
BB
A
B
B
A
A
AA
A
A
A
B
B
AB
A
B
A
B
B
B
AB
A
B
A
B
B
A
A
AA
A
A
A
A
A
A
AA
A
A
A
A
A
A
BA
N
E
N
E
N
E
N
E
N
EE
N
EE
N
E
N
E
N
EE
NN
EE
NN
N
E
NN
E
NN
N
N
EEN
EE
N
EE
N
N
N
EEN
EE
N
EE
N
N
N
N
EN
E
N
E
N
N
N
EN
E
N
E
N
NdE
EEd
即ち
B
B
B
B
A
A
A
A
N
E
N
E
N
E
N
Elog1log
1log1log
1
これは、N
E
N
E
N
E
B
B
A
A (1.23) の時成立。 即ち、1粒子当りの平均エネルギーが等しい時。
次にエネルギー配分が (1.23) からずれた場合を検討。
18
EN
NEE
N
NE B
BA
A , (1.24)
とおくと、(1.21) より
N
E
N
E
N
E
N
EN
N
E
N
E
N
E
N
EN
N
E
N
E
N
E
N
ENEE
B
ABA
log1log1
log1log1
log1log1,0
(1.26)
を利用して
BBB
BBB
B
AAA
AAA
A
BBBB
B
AAAA
A
BA
NN
E
NNN
E
N
E
NN
E
NNN
E
N
E
N
NN
E
NNN
E
N
E
NN
E
NNN
E
N
E
N
NN
E
NN
E
NN
E
NN
EN
NN
E
NN
E
NN
E
NN
EN
EE
loglog
1log1log1
loglog
1log1log1
log1log1
log1log1
,
ここに、 2
2
1log1logloglog
X
x
X
xX
X
xXxX
2
2
11log1log1log
11log1log1log
ENN
N
ENN
N
N
E
ENN
N
N
E
NE
N
N
E
NN
E
AAA
A
A
19
2
2
1log1loglog
1logloglog
EN
N
EN
N
N
E
EN
N
N
E
NE
N
N
E
NN
E
AAA
A
A
22
2
2
22
2
2
0
22
2
2
22
2
2
2
1log
2
1
2
11log
2
11
2
1log
2
1
2
11log
2
11
2
1log
2
1log
2
11log
2
11log1
2
1log
2
1log
2
11log
2
11log1
log1log1
log1log1
,
EN
N
EN
N
N
E
NEN
N
EN
N
N
E
ENN
N
ENN
N
N
E
N
ENN
N
ENN
N
N
E
N
EN
N
EN
N
N
E
NEN
N
EN
N
N
E
ENN
N
ENN
N
N
E
N
ENN
N
ENN
N
N
E
N
EN
N
EN
N
N
E
NEN
N
EN
N
N
E
N
E
ENN
N
ENN
N
N
E
N
ENN
N
ENN
N
N
E
N
E
N
EN
N
EN
N
N
E
NEN
N
EN
N
N
E
N
E
ENN
N
ENN
N
N
E
N
ENN
N
ENN
N
N
E
N
E
N
NN
E
NN
E
NN
E
NN
EN
NN
E
NN
E
NN
E
NN
EN
EE
BBBBB
BBB
BB
B
AAAAA
AAA
AA
A
BBBBB
BBB
BB
B
AAAAA
AAA
AA
A
BBBB
B
AAAA
A
BA
20
の3次以上の項を無視して、
EN
N
ENN
N
N
E
N
E
NN
EN
N
ENN
N
N
E
N
E
NN
EN
N
N
E
NEN
N
N
ENN
N
N
E
NENN
N
NN
EN
N
N
E
NEN
N
N
ENN
N
N
E
NENN
N
NN
EN
N
N
E
NEN
N
EN
N
N
E
ENN
N
N
E
N
ENN
N
ENN
N
N
EN
N
EN
N
N
E
NEN
N
EN
N
N
E
ENN
N
N
E
N
ENN
N
ENN
N
N
EN
N
EE
BBB
B
AAA
A
BBBB
BBBB
B
AAAA
AAAA
A
BBBB
BB
BB
B
AAAA
AA
AA
A
BA
2
2
2
2
2
2
2
2
0
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
0
2
2
2
2
0
2
1
2
11loglog
2
1
2
1log1log
log2
1
1log2
1
log2
1
1log2
1
log2
1
1log
2
1
log2
1
1log
2
1
,
2
2
0
2
0
22
0
22
22
0
2
1111
2
1
11
2
111
2
1
2
1
2
11log
2
1
2
11log
ENE
N
NNENE
N
NN
N
EENN
N
EENN
N
EN
N
ENN
N
E
N
EN
N
ENN
N
E
N
BABA
BA
BB
AA
21
よって
2
02
,
BA
BAN
N
N
N
EEN
NEE
(1.25)
この第2項が負なので、∑0 を実現する条件 (1.23) は最大となる条件。
確率については、
2
02
expexp,exp, BA
BABAN
N
N
N
EEN
NEEEEP
(1.27)
ここに、BA NN , NE とすれば、
2
22222 E
N
EE
N
N
N
N
N
EEN
N
BA
のオーダー
(1.9) と同様にして、エネルギー配分 (1.23) からのずれは
N
E~ (1.28)
22
1-3 等確率の原理とエントロピー
等確率の原理
孤立したマクロな物体では、十分に長い時間でみると、実現可能な量子状態は全て等しい確
率で実現する。
孤立した物体A,Bを考える。
A,Bがエネルギー BA EE , を持つ時の各々の量子状態を AA EW 、 BB EW とする。
それらの量子状態に各々番号をつけたとすると、2つの物体をまとめて1つの系と考えた時の全系の
量子状態は、Aの量子状態 An と、Bの量子状態
Bn との組 BA nn , で指定される。
An は AA EW 通り、Bn は BB EW 通りあり、各々の系が独立なので、全系の量子状態数は
BBAABA EWEWEEW , (1.29)
となる。
2つの物体を接触させると、物体間でエネルギーのやり取りが起こり、
EA, EB は、非保存
BA EEE は保存。 (1.30)
ここで、特定のエネルギー配分 BA EE , が起こる量子状態の数は
BA EEE
BA EEWEW , (1.31)
である。
等確率の原理より、この様なエネルギー配分が起こる確率 BA EEP , は量子状態の数に比例し
EW
EEWEEP BA
BA
,, (1.32)
エントロピーと温度
EWkES B log (1.33)
1231038.1 KJkB : Boltzmann constant (1.34)
対数を用いるのは、エントロピーを示量数として扱い足し算ができる様にしたいため
BABBABBABBA ESESEWkEWkEEWkEES loglog,log,
(1.35, 36)
ES と EW は単調増加の関係なので、 EW 最大、即ち確率最大は ES の最大で求まる。
よって、 constEEE BA の下で、
B
B
A
A
A
B
A
A
A
BA
dE
EdS
dE
EdS
dE
EdS
dE
EdS
dE
EEdS
, (1.37)
これが 0 となるのは、
23
B
B
A
A
dE
EdS
dE
EdS (1.38)
これを満たすBA EE , を
00 , BBAA EEEE (1.39)
とすれば、 00 , BA EE が実現確率最大のエネルギー配分
エネルギー配分が (1.39) よりずれている場合、
00 , BBAA EEEE (1.40)
とおき、 BA EES , を について展開して2次まで残すとすると
BABA ESESEES ,
で、Taylor 展開を用い
2
02200
2A
A
A
AAA
dE
ESd
dE
EdSESES
2
02200
2B
B
B
BBB
dE
ESd
dE
EdSESES
1次微分の項は0なので、
2
0220
2
0220
22,
B
BB
A
AABABA
dE
ESdES
dE
ESdESESESEES
2
02
2
02200
2,
B
B
A
ABA
dE
ESd
dE
ESdEES
(1.41)
00 , BA EES が BA EES , の最大であるためには、(1.41) の 2 項の係数が負でなくてはならない。
02
02
2
02
B
B
A
A
dE
ESd
dE
ESd (1.42)
前節で、これがそうである事を示し、またこの絶対値が 1/N のオーダーである事は示した
(1.38)
B
B
A
A
dE
EdS
dE
EdS が満たされていない時、即ち
(a)
B
B
A
A
dE
EdS
dE
EdS or (b)
B
B
A
A
dE
EdS
dE
EdS (1.43)
の時は、2物体間でエネルギーのやり取りをして、熱平衡に達する。 これは両者の温度が等しくな
る事に相当。 そこで、
TdE
dS 1 (1.44)
24
で定義する。 すると、物体A,Bの温度は
AA
A
TdE
dS 1 ,
BB
B
TdE
dS 1 (1.45)
と表され、熱平衡の条件 (1.38) は
BA TT (1.46)
(1.43) は、
(a) BA TT or (b)
BA TT (1.47)
(a) では、BからAへ、(b) では、AからBへ、エネルギーが移動する。
エントロピーとミクロカノニカル分布
EWkES B log (1.33)
の意味を再考する。 離散的な状態を有限粒子で考える時も成立つか?
→ 厳密には成立たない
が、物体の量子状態数が NeW ~ の時には成立。
→ 問題は「孤立した物体ではエネルギーが一定」という仮定
「ゆらぎ」の概念の導入
「ゆらぎの幅」を E とすると、 EW はエネルギー E と EE の間にある量子状態数
マクロな物体の量子状態のエネルギーは微小な間隔 で分布
よって、状態密度 E を導入すると、エネルギー E と dEE dE の間にある量子
状態数は dEE であり、また
EEEW (1.48)
ここに、 E はランダムに取っているが、これを変化させ、 E とした事を考えると
EEEW (1.49)
∴ EWkES B log (1.50)
すると、 ∴
E
EkESES B log (1.51)
NeW ~ なので、 ESESNkES B~ ∴ E の取り方に余り依存しない
前節の振動子系では、 がエネルギーの単位だったので、この程度のゆらぎを許すと
MWE N (1.52)
(1.15) 式 NN
M
N
M
N
M
N
MNMWN
l o g1l o g1l o g より
EM
とおき、
25
N
E
N
E
N
E
N
ENk
EEkEWkES
B
BB
log1log1
loglog
(1.53)
この様に「孤立」した系は外界と「弱い相互作用」をしながら多数の量子状態を駆け巡る。
この量子状態の変化を長時間に渡って追跡した時、系の各状態が占める確率の分布をミクロカノニカ
ル分布という。
エントロピー増大の法則
温度が異なる物体は熱平衡にはない
しかし、接触が弱い場合、個々の物体は「およそ」熱平衡を保ちながらエネルギーを移動
2物体は「局所平衡」
化学反応が進む際も、「部分平衡」
エントロピー最大が熱平衡
状態量
示量的変数: 足し合わす事が可能 エネルギー
示強的変数: 足し合わす事が不可能 温度
(1.35) BABA ESESEES , より 0000 , BABA ESESEES (1.55) は自明。
2物体が孤立している時のエネルギーのゆらぎの幅を E
接触した2物体間で起こるエネルギーのゆらぎの幅を E
とすると、
E
E
EWEW
EW
BBAA
00 (1.56)
前節の議論より、ミクロなエネルギーの幅を とすれば NE ~ 。 ~E とすれば
N
E
E
EWEW
EW
BBAA
~00
0000~ BBAABBAA EWEWEWEWNEW
エルゴード仮説
「孤立系を十分に長く放置すると、物体の実現可能な量子状態は全て等確率で実現する」
「時間平均とアンサンブル平均が一致する」