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20年新築住宅は築10年を過ぎればひと安心―。そんな常識が通用しなくなっている。民法の不法行為責任(時効は20年)を追及する欠陥住宅訴訟が続出しているからだ。

築10年を過ぎても、基本的な安全性を損ねる欠陥と過失があれば、損害賠償の対象となる。建て逃げは許されない。長期品質保証を前提としたリスク管理が不可欠だ。(小谷 宏志、荒川 尚美)

特集

民法の不法行為を問う訴訟が続々

10分で分かる基礎知識

─ P.2820年責任追及

されるワケ

最新判例で死角が浮き彫り

─ P.32地盤の賠償額は

1000万円超え

「建て逃げ許さじ」欠陥責任

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20年(イラスト:浅賀 行雄)

今日から始める対策

─ P.3820年後に負債

を残さない

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自分が建設に携わった住宅が、引き渡しから何年にわたり欠陥

責任を負うのか─。これは、住宅実務者にとって大きな関心事だろう。 住宅業界に広く定着しているのは、品確法(住宅の品質確保の促進

等に関する法律)の「10年」だ。構造躯体や雨水浸入を防ぐ部分については、瑕疵担保責任の存続期間は10年と明示されている。 ところが、築10年を超えても、設計者や施工者の賠償責任が問われる

ことがある。民法の不法行為責任が問われるケースだ。不法行為責任の時効(除斥期間)は「20年」。つまり、引き渡しから20年にわたり欠陥責任を問われる恐れがあるのだ。 これが注目されるきっかけとなった

1年→10年→20年。2000年以降、わずか11年の間に、住宅の欠陥責任の存続期間は飛躍的に延びた。住宅実務者にとって、まさに受難の時代。いつ誰が標的になるか分からない。

なぜ、20年もの欠陥責任を負わなくてはならないのか。これまでの経緯を振り返っておこう。

10分で分かる基礎知識

20年責任追及されるワケ

〔図1〕住宅実務者が負う欠陥責任については、品確法の瑕疵担保責任だけでなく、民法の不法行為責任にも注意する必要がある。瑕疵担保責任の存続期間は10年だが、不法行為責任の存続期間は20年だ(イラスト:浅賀 行雄)

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

のが、2011年7月の最高裁判所の判決だ。大分県別府市の欠陥マンションを巡る訴訟だったが、争いは最高裁に持ち込まれ、建築界に重大な影響を与える判決が出た。「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」については不法行為責任を問えるとし、具体例として構造躯体の瑕疵や漏水の発生などを挙げたのだ。 この判決を受け、不法行為責任をめぐる住宅欠陥訴訟が続出。戸建て住宅に関連するものだけでも、過去5年で12件の判例があり、そのうち5件で1000万円を超える損害賠償を命じている(本誌調べ、34ページ参照)。もはや、品確法だけを気にすればよい時代は終わった。民法と品確法の両にらみで対応しなくてはならない時代を迎えている〔図1〕。

「10年保証では淘汰される」 欠陥責任の存続期間をめぐるルールは、2000年以降のわずか11年間で1年→10年→20年と激変している〔図2〕。 1999年まで木造住宅の瑕疵担保責任の存続期間はわずか1年だった。当時の住宅工事に広く採用されていた「民間連合協定工事請負契約約款」にそう規定されていたからだ。それが、2000年4月の品確法施行で状況は一変。瑕疵担保責任の存続期間が、故意や過失の有無に関係なく10年と明示された。 それでも、住宅会社にとってのリスク負担は限定的だった。万一の事故が発生しても、保険金が支払われる体制が整備されたからだ。09年に施

〔図2〕1999年以前は木造住宅の瑕疵担保責任は引き渡しから1年とされていた。それが2000年の品確法施行で10年となり、さらに11年の最高裁判決で民法の不法行為責任の範囲が明示され、20年にわたって責任追及される時代が到来した。もはや建て逃げは許されない(資料:本誌)

品確法の10年と民法の20年両にらみで対応する時代に!

〔 1999年以前 〕欠陥責任はわずか「1年」

木造住宅の瑕疵担保責任は、引き渡しから「1年」(重過失、故意は5年) ※

それ以外の建物や地盤の瑕疵担保責任は、「2年」(重過失、故意は10年)

〔 2000年以降 〕欠陥責任負う期間が「10年」

品確法施行以後(2000年以後)、「構造耐力上主要な部分」または「雨水浸入を防ぐ部分」の瑕疵担保責任は「10年」(過失、故意に無関係)

2009年に住宅瑕疵担保履行法が施行され、施工者は、新築時に「住宅瑕疵担保責任保険」の保険料(または供託金)を納める

〔 2011年以降 〕20年にわたる責任追及の可能性

2011年の最高裁判決で、民法上の不法行為責任に基づく損害賠償の範囲として、「構造躯体」「漏水」などの瑕疵が明示された

民法の不法行為の時効(除斥期間)は20年

※民間連合協定工事請負契約約款より

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不法行為責任認定の「3要件」

具体的に示した!

現状は…

(1)設計者や施工者などに過失がある(2)金銭的な損害が発生している(3)建物の基本的安全性を損ねる

① 構造躯体の瑕疵② タイル落下の危険性③ 窓、ベランダ、階段の瑕疵(→転落)④ 漏水、有害物質

建て主と契約を結んでいない設計者や施工者の責任を問う訴訟も多発!

民事責任契約責任

不法行為責任

債務不履行責任

瑕疵担保責任(売買、請負)

契約当事者以外が、責任を負うことも

責任負うのは契約の当事者だけ

Point

行された住宅瑕疵担保履行法に基づいて住宅瑕疵の保険制度がスタート。「築10年までは保険で何とかしのげる」。そんな楽観的なムードが根強く残っていた。 そんな安易な考えに警鐘を鳴らしたのが前述の最高裁判決だ。欠陥責

任の存続期間は一気に20年へ。築10年を超える住宅でも基本的な安全性を損なう瑕疵が見つかれば、住宅会社は損害賠償の必要に迫られる。しかも、満期10年の通常の瑕疵保険では損失を穴埋めできなくなった。 国土交通省OBで一般財団法人・

住宅保証支援機構の椋周二専務理事は「大手住宅メーカーのなかには20年、30年の長期保証をすることで顧客を囲い込み、リフォーム需要に結びつけているところもある。そのような時代に10年保証に留まっていては、淘汰されることにもなりかねない」と警鐘を鳴らす。

攻めやすくなった建て主 欠陥住宅で不法行為責任が認定されるには、大きく3つの必要条件がある〔図3〕。 まず、設計者や施工者などに何らかの過失があること。例えば、雨漏りの痕跡が見つかったとしても、それだけで賠償責任を負わされることはない。透湿防水シートの未施工など、施工者側の過失が立証されないと損害賠償責任は認められない。シートの経年劣化などによる雨漏りは責任の範囲外だ。 2つ目は、建物の瑕疵によって補修費用など何らかの金銭的損害が生じていること。そして、3つ目が最高裁が示した「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が存在することだ〔注〕。最高裁は具体例として(1)構造躯体の瑕疵、(2)タイル落下の危険性、(3)開口部、ベランダ、階段などの瑕疵、(4)漏水や有害物質の発生の4項目を示した。 具体例が示されたことで、建て主は設計者や施工者の責任を追及しやすくなった。例えば、雨漏りが発生した場合、不法行為責任の対象になることが明確である以上、原因を調査して過失の存在を立証すればよい。実

〔注〕2011年7月の最高裁判決では、危険が現実化している瑕疵だけでなく、「放置するといずれは危険が現実化」するものも「基本的な安全性を損なう瑕疵」に相当するとの判断を示している

〔図3〕欠陥住宅において民法の不法行為責任が認定されるには、原則として上の3条件が揃っていなくてはならない。重要なのが3つ目の「建物の基本的な安全性を損ねる」という条件で、最高裁は11年7月の判決で4つの具体例を示した。雨漏りも含まれている(資料:下も本誌)

〔図4〕契約当事者以外が責任を負うことも民法の不法行為責任は、契約当事者以外の責任を追及することも可能だ。建て主と直接契約を結んでいなくても、重大な瑕疵が見つかれば、建て主から不法行為責任を追及される可能性がある

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

際、外壁を剥がしてみると、何らかの過失が見つかることが多い。住宅実務者にとっては、安心できない状態が20年も続くことになる。

契約当事者以外も標的に ここ5年間で起こった不法行為責任をめぐる欠陥住宅訴訟を本誌が調べたところ、建て主が直接契約を結んでいない設計者や施工者を訴えているケースが意外と多い。これには不

法行為責任特有の理由がある。 民事上の責任は、契約責任と不法行為責任に大別される〔図4〕。契約責任では、契約を結んだ当事者が責任を負う。品確法の瑕疵担保責任もこの範ちゅうだ。ところが、不法行為責任の場合は、契約当事者以外の責任を追及することができる。これは、交通事故の加害者と被害者の関係を考えると分かりやすい。双方に契約関係がなくても、被害者は加害者の不

法行為責任を問える。 欠陥住宅を巡る不法行為責任も、それと同じ理屈だ。建て主と直接契約を結んでいない設計者や施工者でも、重大な瑕疵が見つかれば、建て主から不法行為責任を追及される可能性がある。いつなんどき矢面に立たされるか分からないのだ。 実際の訴訟では、どのような瑕疵が標的になったのか。次ページから最新の訴訟事例を見ていこう。

建築士個人の不法行為責任を認定

 雨漏りする住宅を引き渡したことは建築士の不法行為。建て主に補修費108万5000円を支払え。 そんな判決が13年6月、札幌地方裁判所で下された(その後、和解)。この判決は11年7月の最高裁判決が、雨漏り事故に適用された最初期の事例だ(本誌調べ)。 問題となったのは、2005年11月に札幌市内に完成した2階建ての戸建て住宅。建て主は設計・監理業務を設計事務所A社に、施工

を市内の住宅会社B社に依頼した。建て主側の代理人、小谷大介弁護士(札幌・石川法律事務所)によると、建て主は当初から雨漏りに悩まされたという。雨漏りの原因は、勾配が100分の1しかなかった金属屋根と、防水テープが未施工だったサッシ枠周辺だった。 建て主は、雨漏り発生のたびに住宅会社B社に修理してもらっていたが、10年に倒産。この住宅は瑕疵保証に未加入で(建設当時は

託契約上の責任も問えなかった。 そこで、小谷弁護士が取った戦術は、設計事務所A社の代表だったC氏個人の不法行為責任を追及することだった。建て主はC氏個人と契約を結んだわけではなく、設計事務所A社と契約を結んでいた。しかし、契約の当事者でなくても建築士としての不法行為責任を問うことができる。 判決では、施工ミスを見逃したC氏の工事監理者としての過失を認めた。この事例のように、契約当事者以外にも不法行為責任が及ぶので注意したい。

任意)、建て主は補修の依頼先を失った。また設計事務所A社も解散していたので、設計監理の委

〔写真1〕金属屋根のハゼ部分から雨漏り問題となった緩勾配屋根。横樋付近が逆勾配だったので、滞留した水がハゼから屋内に浸入した(写真:ハウスサポート)

〔写真2〕建て主の代理人を務めた、札幌・石川法律事務所の小谷大介弁護士(写真:本誌)

判例に学ぶ

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地盤の賠償額は1000万円超え

本誌は、最高裁判所が不法行為責任に当たる瑕疵の要件を示

した2011年7月以降に、木造建築で認められた判例を探し、12件を収集した。 その中でまず注目したいのは「基礎・地盤の不具合」と「防火性能の不足」が、不法行為責任に該当する「建物の基本的安全性を損なう瑕疵」(以下、安全性を損なう瑕疵)として認められていることだ〔図1、2、4〕。 最高裁が例示した4項目(構造躯体の瑕疵、タイル落下の危険性、窓・べランダ・階段の瑕疵、漏水や有害物質)以外にも、対象が広がっている

ことが分かった。特に基礎・地盤の不具合を認定した判例は6つもある。 基礎・地盤の不具合は損害賠償認定額が大きい。地盤改良を行わず布基礎にしたことが原因で東日本大震災後に1000分の6以上傾いたと認定された判例では約1460万円〔写真1、図4の12〕。擁壁兼基礎を支持する盛り土地盤と、その下にあるL型擁壁の強度不足が原因で、最大1000分の21傾いたと認定された判例では約1616万円〔図3、図4の3〕の支払いが命じられた。 瑕疵が複数にわたる場合も金額が膨らむ。基礎・地盤の不具合と防火

性能の不足、構造躯体の瑕疵が生じていた築15年の分譲住宅では、建て替え費用相当の約3048万円が認められた〔図4の2〕。一方、漏水だけが認められた判例の最高額は約176万円〔図4の8〕、構造躯体の瑕疵だけが認められた判例は約379万円〔図4の1〕に留まる。 「将来発生する可能性がある漏水」が安全性を損なう瑕疵だと認めた判例もある。新築住宅の外装工事で、専門工事会社がシーリングのバックアップ材を入れ忘れたうえ、プライマーも塗布していなかった事例だ〔図4の5〕。安全性を損なう瑕疵について

最新判例で死角が浮き彫りに

どのような事象が「建物の基本的安全性を損なう瑕疵」に当たり、なぜ故意・過失があると判断されたのか。

不法行為責任が認められた最新判例を紹介し、欠陥住宅訴訟に詳しい4人の弁護士に対策を聞いた。

瑕疵の分類 認定された瑕疵の例 損害賠償認定額

瑕疵が複数あり 防火性能の不足、基礎の鉄筋量不足、接合金物の欠如 1731万 ~ 3048万円

基礎・地盤の不具合 地盤改良しなかったことによる不同沈下、異種基礎による不同沈下 861万 ~ 1616万円

構造躯体の瑕疵 耐力壁のくぎ間隔が不適、接合金物の欠如 105万 ~ 379万円

漏水 屋根・壁の防水施工ミス、バックアップ材やプライマーの未施工 108万 ~ 176万円

〔図1〕不法行為が認められた瑕疵と損害賠償額

(資料:34ページの図4にもとづき本誌が作成)

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

〔図2〕不法行為責任が認められた判例のポイント Point

下段のL型擁壁盛り土

擁壁兼基礎2740~3185

住宅の基礎

南側隣地

推定断面

基礎天端レベルで最大1000分の21傾く

1800~2400

最高裁は、「居住者などの生命、身体または財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、放置するといずれは現実化することになる場合も相当する」と判断した。これに沿った判決だ。

契約してない設計者を訴える 不法行為責任で争うパターンの1つは、契約関係にない関係者を巻き込むことだ。転売された中古マンションの新たな所有者が、倒産した建設会社の代わりに設計事務所を訴えた11年7月の最高裁判決がまさにそうだった。本誌が収集した中でも、建て主や購入者が契約関係にない設計事務所や建築士を訴える判例が複数見られた〔図4の3、6、11、12〕。 建築訴訟を多数手掛ける日置雅晴

弁護士は、「住宅実務者は建て主だけを見るのではなく、その住宅のライフサイクル全般に責任を負う時代になったと認識すべきだ」と話す。 2つ目のパターンは、瑕疵担保期間が過ぎたもの。品確法の施行前に完成した住宅などの判例が該当する〔図4の1、2、4、5、7、9〕。 また、元請けが下請けを訴えたパターンもある〔図4の5、7〕。元請けが無償で瑕疵を修復した費用を、下請けに請求したものだ。元請けがイメージダウンを恐れて無償対応しつつ、補修費の負担を下請けに転嫁しようとしているのだ。こうした事例は今後増える可能性がある。 弁護士が不法行為責任と瑕疵担保責任の両方で訴え、どちらも成立すると思われるのに裁判官が不法行

為責任を採用したパターンもある〔図4の8、10〕。 不法行為責任が採用されると、「瑕疵担保責任では請求できない転売利益などが認められて、損害賠償額が膨らむ可能性がある。弁護士費用も不法行為責任のほうが瑕疵担保責任より認められやすい」と欠陥住宅問題に詳しい河合敏男弁護士は説明する。

法令違反は過失となる恐れ 不法行為責任が成立するためには、故意または過失の立証が必要だ。収集した判例で原告側は、建築基準法や日本建築学会の指針、メーカーの施工マニュアルなどに反することで過失を主張していた。住宅会社はこれに備え、「法令を順守し、現時

①最高裁が例示した4項目以外として、「基礎・地盤の不具合」と「防火性能の不足」が基本的安全性を損なう瑕疵として認定されている②基礎・地盤の不具合は損害賠償額が1000万円を超える場合も③元請けと下請けが不法行為で争う事例もある④不法行為責任を認定するかどうかの裁判所の判断は、ばらつきが多く予測が難しい

〔写真1〕基礎・地盤の不具合で 約1460万円の損害賠償東日本大震災後に基礎に貫通するクラックが生じ、1000分の6以上不同沈下したと認定された。地盤改良を行わずに布基礎を選定したことは建基法施行令38条に違反し、注意義務に違反すると判断された(写真:AREX建築計画事務所)

〔図3〕基礎・地盤の不具合で 約1616万円の損害賠償擁壁兼基礎を支持する地盤の地耐力が不足したことで、最大1000分の21不同沈下したと認定された。建基法20条と施行令38条などに違反しているとして過失が認められた(資料:消費者のための欠陥住宅判例第7集をもとに本誌が作成)

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判例番号 判決年月日 購入・完成年月 分類 瑕疵の分類 不法行為責任が認められた経緯 故意・過失と判断されたこと原告 主な被告 認定された瑕疵の概要 損害賠償認定額

1札幌高裁2012年(平成24年)2月23日

1997年2月(品確法施行前)

建て主との請負契約 建て主 ①住宅会社 構造躯体の

瑕疵築11年の木造2階建て住宅において、耐力壁のくぎ間隔が不適切、通し柱の欠如 約379万円(補修費用相当)

民法上の瑕疵担保期間(5年)を経過しているため、不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ不法行為責任が認められる(本誌2011年4月号79ページ、2012年4月号65ページ、2013年8月号75ページ参照)

建基法20条、施行令46条、令43条、旧住宅金融公庫の「木造住宅工事共通仕様書」に反する

2大阪高裁2012年(平成24年)10月25日

1995年(品確法施行前) 売買契約 購入者

①工事発注者・売り主、②住宅会社、③設計者(監理契約はなしと認定)

瑕疵が複数あり

築15年の木造3階建て住宅において、布基礎の鉄筋量不足、壁量不足、接合金物の欠如、通し柱の欠如、防火戸などの不設置、開口部の技術的基準に不適合、柱梁・床天井の告示違反など

約3048万円(建て替え費用相当)民法上の瑕疵担保責任期間(5年)を経過しているため、不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ全員に不法行為責任が認められる。設計者の不法行為責任は京都地裁2011年(平成23年)12月6日で確定

建基法20条、施行令45条、令38条、令43条、法64条、令109条、法62条、令136条に反する

3名古屋地裁2012年(平成24年)12月14日

2000年1月 売買契約

購 入 者(裁判 中 に 死亡)、 そ の妻、子ども

①住宅・販売会社、②住宅・販売会社の代表者、③設計事務所、④設計事務所の代表者

基礎・地盤の不具合

築9年の木造2階建て住宅において、擁壁兼基礎の直下の地盤の地耐力不足による不同沈下(傾きは最大1000分の21)

約1616万円(補修費用相当)

完成から1年以上経過した住宅の売買契約は品確法の対象から外れるため、契約関係のあった住宅・販売会社に対しては売買の瑕疵担保責任と不法行為責任、契約関係のない設計事務所に対しては不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる

建基法20条、施行令38条、日本建築学会の「小規模建築物基礎設計の手引き」に反する

4大阪高裁2013年(平成25年)3月27日

1997年(品確法施行前) 売買契約 購入者

①住宅・販売会社、②住宅・販売会社代表者、③仲介会社社長でグループ会社オーナー、④仲介会社(倒産により和解、取り下げ)

瑕疵が複数あり

築10年超の木造2階建て住宅において、基礎の底盤厚さ不足、接合金物の欠如など

約1731万円(建て替え費用相当額)

住宅・販売会社に対しては瑕疵担保責任と不法行為責任を追及、その他の被告に対しては不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、被告全員に不法行為責任が認められる。一審では住宅・販売会社の瑕疵担保責任が認められたが、その他の被告に対する請求は棄却される

建基法施行令79条、旧住宅金融公庫の「木造住宅工事共通仕様書」に反する

5東京地裁2013年(平成25年)5月9日

2011年 下請けとの請負契約 元請会社 ①外壁工事会社 漏水

新築住宅の外装工事において、シーリング下のバックアップ材の欠如とプライマー未施工による将来の雨漏りの危険性

約137万円(補修費用相当)債務不履行の権利行使期間を経過しているため、不法行為責任を追及。孫請けのシーリング工事会社の施工が基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、使用者である下請けの不法行為責任が認められる。原告にも25%の過失相殺を認める

施工マニュアル、施工要領書、国土交通省の「公共住宅建設工事共通仕様書」に反する

6札幌地裁2013年(平成25年)6月28日

2006年12月 建て主との請負契約 建て主 ①設計・監理者 漏水

築5年の混構造2階建て住宅において、屋根勾配の施工ミスとサッシまわりの防水施工ミスで雨漏り

約108万円(補修費相当)建設会社が倒産、設計事務所が解散したため、契約関係にない設計・監理者個人に対し不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる。控訴審で増額和解(本特集31ページ参照)

施工ミスを監理者として見逃したことが注意義務違反とされた

7東京地裁2013年(平成25年)8月27日

2003年4月 下請けとの請負契約 元請会社

①A棟とB棟の木工事の下請け人、②D棟の木工事の下請け人

構造躯体の瑕疵

築7年の木造住宅において、接合部のドリフトピンの欠如

A棟とB棟の木工事の下請け人に対し約200万円、D棟の木工事の下請け人に対し約105万円(補修費用相当)

債務不履行の権利行使期間または消滅時効期間を経過しているため、不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵であり、放置すれば倒壊などを引き起こすと考えられるため、不法行為責任が認められる

施工ミスを見逃した。法令などの違反に関する記載はない

8東京地裁2014年(平成26年)1月31日

2003年9月 建て主との請負契約 建て主 ①住宅会社 漏水

築7年の混構造3階建て住宅において、サイディングやバルコニーの手すり壁などに防水施工ミスがあり、天井に雨漏り、手すり壁の内部に腐朽、蟻害

約176万円(補修費用相当)瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる。通気工法を採用していなかったことは不法行為責任に当たらないとして棄却される

メーカーの施工要領書、日本窯業外装材協会の標準施工基準と技術資料、水道法施行令、住宅金融支援機構の「木造住宅工事共通仕様書」などに反する

9名古屋高裁2014年(平成26年)10月30日

1998年5月(品確法施行前) 売買契約 購入者 ①住宅・販売会社 基礎・地盤

の不具合

築8年の木造平屋建て住宅において、軟弱地盤にもかかわらず地盤調査、地盤改良を行わなかったことによる不同沈下(傾きは最大1000分の8.71)

約1312万円(補修費用相当) 民法上の瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる。瑕疵担保責任の現状回復請求権は棄却される

建基法施行令38条、旧建設省告示111号などに照らし、地盤調査しなかったことが注意義務違反とされた

10東京地裁2015年(平成27年)2月24日

2012年10月 売買契約 購入者 ①住宅・販売会社 漏水築1年未満の住宅において、犬走りの防水施工ミスで地下駐車場が雨漏り。雨水に含まれていたコンクリート成分が車に付着

約123万円(車の補修費用相当) 瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる

法令などの違反に関する記載はない。防水施工で配慮すべき注意義務を怠った

11千葉地裁2016年(平成28年)6月22日

2009年1月店舗経営会社との請負契約

店舗経営会社

①設計・監理者、②施工会社

基礎・地盤の不具合

築2年の木造店舗において、布基礎とべた基礎を併用した異種構造の基礎の一部が東日本大震災後に不同沈下(沈下量は200mm)

施工会社に対し約861万円(補修費用相当)、このうちの約807万円は設計・監理者が不法行為責任で連帯債務を負う

契約関係のない設計・監理者に対しては不法行為責任、契約関係のある施工会社に対しては瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。設計・監理者に対しては不法行為責任、施工会社には瑕疵担保責任が認められる。異種構造の基礎と地震で不同沈下したことの因果関係は認められない

建基法20条、施行令36条、令38条に反する

12東京地裁2016年(平成28年)9月29日

2002年8月 建て主との請負契約

建て主、その妻 ①住宅会社 基礎・地盤

の不具合

築10年の木造2階建て住宅において、地盤改良を行わず布基礎にしたことで東日本大震災後に不同沈下(傾きは最大1000分の6以上)

約1460万円(補修費用相当)、このうちの約292万円は妻に対する不法行為責任分に該当(共有持ち分相当)

設計の債務不履行と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、夫への債務不履行が認められる。妻が契約者であるとの訴えが棄却された代わりに、妻への不法行為責任が認められる(本誌2016年11月号9ページ参照)

建基法施行令38条、日本建築学会の「建築基礎構造設計指針」と「小規模建築物基礎設計の手引き」に反する。他社の地盤調査結果を見ていたのに検討しなかった

〔図4〕2011年7月以降で不法行為が認められた主な欠陥住宅の判例

■ 売買契約■ 建て主などとの請負契約■ 下請けとの請負契約

■ 瑕疵が複数あり■ 基礎・地盤の不具合■ 構造躯体の瑕疵■ 漏水

34 NIKKEI HOME BUILDER 2017-2

Page 10: 民法の不法行為を問う4c281b16296b2ab02a4e0b2e3f75446d.cdnext.stream.ne.jp/...の瑕疵、(4)漏水や有害物質の発生 の4項目を示した。 具体例が示されたことで、建て主

特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

判例番号 判決年月日 購入・完成年月 分類 瑕疵の分類 不法行為責任が認められた経緯 故意・過失と判断されたこと原告 主な被告 認定された瑕疵の概要 損害賠償認定額

1札幌高裁2012年(平成24年)2月23日

1997年2月(品確法施行前)

建て主との請負契約 建て主 ①住宅会社 構造躯体の

瑕疵築11年の木造2階建て住宅において、耐力壁のくぎ間隔が不適切、通し柱の欠如 約379万円(補修費用相当)

民法上の瑕疵担保期間(5年)を経過しているため、不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ不法行為責任が認められる(本誌2011年4月号79ページ、2012年4月号65ページ、2013年8月号75ページ参照)

建基法20条、施行令46条、令43条、旧住宅金融公庫の「木造住宅工事共通仕様書」に反する

2大阪高裁2012年(平成24年)10月25日

1995年(品確法施行前) 売買契約 購入者

①工事発注者・売り主、②住宅会社、③設計者(監理契約はなしと認定)

瑕疵が複数あり

築15年の木造3階建て住宅において、布基礎の鉄筋量不足、壁量不足、接合金物の欠如、通し柱の欠如、防火戸などの不設置、開口部の技術的基準に不適合、柱梁・床天井の告示違反など

約3048万円(建て替え費用相当)民法上の瑕疵担保責任期間(5年)を経過しているため、不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ全員に不法行為責任が認められる。設計者の不法行為責任は京都地裁2011年(平成23年)12月6日で確定

建基法20条、施行令45条、令38条、令43条、法64条、令109条、法62条、令136条に反する

3名古屋地裁2012年(平成24年)12月14日

2000年1月 売買契約

購 入 者(裁判 中 に 死亡)、 そ の妻、子ども

①住宅・販売会社、②住宅・販売会社の代表者、③設計事務所、④設計事務所の代表者

基礎・地盤の不具合

築9年の木造2階建て住宅において、擁壁兼基礎の直下の地盤の地耐力不足による不同沈下(傾きは最大1000分の21)

約1616万円(補修費用相当)

完成から1年以上経過した住宅の売買契約は品確法の対象から外れるため、契約関係のあった住宅・販売会社に対しては売買の瑕疵担保責任と不法行為責任、契約関係のない設計事務所に対しては不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる

建基法20条、施行令38条、日本建築学会の「小規模建築物基礎設計の手引き」に反する

4大阪高裁2013年(平成25年)3月27日

1997年(品確法施行前) 売買契約 購入者

①住宅・販売会社、②住宅・販売会社代表者、③仲介会社社長でグループ会社オーナー、④仲介会社(倒産により和解、取り下げ)

瑕疵が複数あり

築10年超の木造2階建て住宅において、基礎の底盤厚さ不足、接合金物の欠如など

約1731万円(建て替え費用相当額)

住宅・販売会社に対しては瑕疵担保責任と不法行為責任を追及、その他の被告に対しては不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、被告全員に不法行為責任が認められる。一審では住宅・販売会社の瑕疵担保責任が認められたが、その他の被告に対する請求は棄却される

建基法施行令79条、旧住宅金融公庫の「木造住宅工事共通仕様書」に反する

5東京地裁2013年(平成25年)5月9日

2011年 下請けとの請負契約 元請会社 ①外壁工事会社 漏水

新築住宅の外装工事において、シーリング下のバックアップ材の欠如とプライマー未施工による将来の雨漏りの危険性

約137万円(補修費用相当)債務不履行の権利行使期間を経過しているため、不法行為責任を追及。孫請けのシーリング工事会社の施工が基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、使用者である下請けの不法行為責任が認められる。原告にも25%の過失相殺を認める

施工マニュアル、施工要領書、国土交通省の「公共住宅建設工事共通仕様書」に反する

6札幌地裁2013年(平成25年)6月28日

2006年12月 建て主との請負契約 建て主 ①設計・監理者 漏水

築5年の混構造2階建て住宅において、屋根勾配の施工ミスとサッシまわりの防水施工ミスで雨漏り

約108万円(補修費相当)建設会社が倒産、設計事務所が解散したため、契約関係にない設計・監理者個人に対し不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる。控訴審で増額和解(本特集31ページ参照)

施工ミスを監理者として見逃したことが注意義務違反とされた

7東京地裁2013年(平成25年)8月27日

2003年4月 下請けとの請負契約 元請会社

①A棟とB棟の木工事の下請け人、②D棟の木工事の下請け人

構造躯体の瑕疵

築7年の木造住宅において、接合部のドリフトピンの欠如

A棟とB棟の木工事の下請け人に対し約200万円、D棟の木工事の下請け人に対し約105万円(補修費用相当)

債務不履行の権利行使期間または消滅時効期間を経過しているため、不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵であり、放置すれば倒壊などを引き起こすと考えられるため、不法行為責任が認められる

施工ミスを見逃した。法令などの違反に関する記載はない

8東京地裁2014年(平成26年)1月31日

2003年9月 建て主との請負契約 建て主 ①住宅会社 漏水

築7年の混構造3階建て住宅において、サイディングやバルコニーの手すり壁などに防水施工ミスがあり、天井に雨漏り、手すり壁の内部に腐朽、蟻害

約176万円(補修費用相当)瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる。通気工法を採用していなかったことは不法行為責任に当たらないとして棄却される

メーカーの施工要領書、日本窯業外装材協会の標準施工基準と技術資料、水道法施行令、住宅金融支援機構の「木造住宅工事共通仕様書」などに反する

9名古屋高裁2014年(平成26年)10月30日

1998年5月(品確法施行前) 売買契約 購入者 ①住宅・販売会社 基礎・地盤

の不具合

築8年の木造平屋建て住宅において、軟弱地盤にもかかわらず地盤調査、地盤改良を行わなかったことによる不同沈下(傾きは最大1000分の8.71)

約1312万円(補修費用相当) 民法上の瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる。瑕疵担保責任の現状回復請求権は棄却される

建基法施行令38条、旧建設省告示111号などに照らし、地盤調査しなかったことが注意義務違反とされた

10東京地裁2015年(平成27年)2月24日

2012年10月 売買契約 購入者 ①住宅・販売会社 漏水築1年未満の住宅において、犬走りの防水施工ミスで地下駐車場が雨漏り。雨水に含まれていたコンクリート成分が車に付着

約123万円(車の補修費用相当) 瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、不法行為責任が認められる

法令などの違反に関する記載はない。防水施工で配慮すべき注意義務を怠った

11千葉地裁2016年(平成28年)6月22日

2009年1月店舗経営会社との請負契約

店舗経営会社

①設計・監理者、②施工会社

基礎・地盤の不具合

築2年の木造店舗において、布基礎とべた基礎を併用した異種構造の基礎の一部が東日本大震災後に不同沈下(沈下量は200mm)

施工会社に対し約861万円(補修費用相当)、このうちの約807万円は設計・監理者が不法行為責任で連帯債務を負う

契約関係のない設計・監理者に対しては不法行為責任、契約関係のある施工会社に対しては瑕疵担保責任と不法行為責任を追及。設計・監理者に対しては不法行為責任、施工会社には瑕疵担保責任が認められる。異種構造の基礎と地震で不同沈下したことの因果関係は認められない

建基法20条、施行令36条、令38条に反する

12東京地裁2016年(平成28年)9月29日

2002年8月 建て主との請負契約

建て主、その妻 ①住宅会社 基礎・地盤

の不具合

築10年の木造2階建て住宅において、地盤改良を行わず布基礎にしたことで東日本大震災後に不同沈下(傾きは最大1000分の6以上)

約1460万円(補修費用相当)、このうちの約292万円は妻に対する不法行為責任分に該当(共有持ち分相当)

設計の債務不履行と不法行為責任を追及。基本的な安全性能を損なう瑕疵とみなされ、夫への債務不履行が認められる。妻が契約者であるとの訴えが棄却された代わりに、妻への不法行為責任が認められる(本誌2016年11月号9ページ参照)

建基法施行令38条、日本建築学会の「建築基礎構造設計指針」と「小規模建築物基礎設計の手引き」に反する。他社の地盤調査結果を見ていたのに検討しなかった

(資料:取材、消費者のための欠陥住宅判例第6集と第7集(欠陥住宅被害全国連絡協議会編、民事法研究会発行)、ウエストロー・ジャパンで検索した判例をもとに本誌が作成)

■ 瑕疵担保期間などを経過している■ 契約関係にない相手を追及する■ 上記以外で瑕疵担保責任と不法行為の両方を追及する

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点で一般的な設計・施工技術を採用するとともに、それを示す証拠写真や書類を残すことが欠かせない」と多くの弁護士は口をそろえる。 図面どおり施工していない場合も過失に当たる可能性が高い。それだけでなく、「図面どおりに施工しても瑕疵が見つかれば過失になる場合がある」と富田裕弁護士は注意を促す。

福岡高裁12年1月判決(最高裁からの第二次差し戻し審)では、「図面の不備を指摘することなく図面どおりに施工したことは過失がある」と指摘している。 不法行為に当たる瑕疵が広がっているのは事実だが、認められなかった判例も少なくない〔図5〕。 「判例がまだ少なく、裁判官の間で

ばらつきがあるので、個々の事象が不法行為に該当するか否かの判断は難しい」と複数の弁護士は語る。 被害の程度や範囲、過失の重さなどによって、ケース・バイ・ケースで責任の認定がされており、判決が下るまでどちらに転ぶかの予測がつきにくい。住宅会社はより安全側の対策を講じるようにしたい。

専門家の力を借りて責任の有無を判断 「住民から10年を超えた既存住宅の瑕疵を主張されたら、どう対応すればよいか」、「責任の有無はどう判断すればよいか」という相談を住宅会社から多く受ける。 20年まで責任を負う不法行為が成立する瑕疵の例としては、「雨漏りが続き外装材を外すと柱が腐っていて、建物が倒壊する寸前だった」、「手すりがぐらぐらで寄り掛かると落下してしまう」など、建物に具体的・現実的な危険がある場合だ。さらに、設計や施工方法が当時の法基準

や標準的なやり方に合致していないなどの故意・過失が要件になる。 瑕疵担保期間を過ぎた部分の瑕疵の訴えに対しては、原因を調査したうえで不法行為に該当する瑕疵か否かを慎重に判断し、該当する可能性がある場合は潔く無償で対応するよう助言する。該当しないと思われる場合は、その根拠を丁寧に説明し、有償で対応することへの理解を求める努力が必要だ。第三者の専門家に瑕疵の原因調査を依頼し、調査結果を説明してもらうことも、住民の

理解を得る方法として勧める。 裁判を警戒して、住民の訴えに安易な判断で無償対応することはよくない。取りあえず請求しておこうという安易な考えを助長しかねない。安易な無償対応をして、その負担を下請けに押し付けたり、下請けの瑕疵担保期間を強制的に20年に延長したりすることもよくない。 (談)

秋野 卓生(あきの・たくお)弁護士2001年に秋野法律事務所を開設、06年に弁護士法人匠総合法律事務所を開設して代表社員弁護士に就任。住宅会社側の代理人を数多く手掛ける

欠陥住宅問題に詳しい弁護士に聞く

(資料:本誌)

エントランスホールへの雨水浸入 建物の基本的な安全性を損なう瑕疵に当たるとまではいえない 福岡高裁2012年(平成24年)1月10日(最高裁からの第二次差し戻し審)外階段の手すりの高さ不足 高さが0.71m以上は確保されているうえ、現実に事故も起きていないのであ

るから、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵に当たるとは認められない

リフォーム工事における天井の吊りボルトの振れ止めの不設置

天井の吊りボルトが外れたとしても直ちに天井が脱落する状況になく、建物の基本的安全性を損なう瑕疵に該当するとはいえない

東京地裁2013年(平成25年)11月29日断熱層の不備による結露・カビを

原因とする健康被害5年間、結露やカビ、これによる被害は発生しておらず、将来的に身体的または財産的被害が発生する危険性があることを認めるに足りる証拠はない

通気工法を採用しない施工 建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があると認めることができない 東京地裁2014年(平成26年)1月31日、図4の8

基礎底盤の厚さ不足と不均一(設計寸法の150mmを下回る) 基礎の耐力を全体としてみる限り、将来的にみて建物の基本的な安全性を損

なう蓋然性(がいぜんせい)があるとまでは認められない東京地裁2015年(平成27年)6月26日基礎のかぶり厚さ不足と不均一

(建基法施行令79条を一部下回る)

〔図5〕「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵」と認められなかった不具合の例

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

地盤の安全性も争点に

裁判官の判断が揺れている

危うい設計は頼まれても断る

 不法行為責任が追及された最近の住宅訴訟をみると「地盤の安全性」が争点になった事例が目につく。 最高裁は「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵」として4つの事例を示したが、地盤の安全性には特に言及していない。

 しかし、軟弱地盤を放置したまま適切な地盤改良工事を実施しなければ、建物の不同沈下を招き、躯体の構造耐力に悪影響を及ぼす恐れもある。地盤の安全性も構造耐力に直結する要因として、不法行為責任の対象に浮上してきた。 地盤を判断するうえで特に重要なのが、切り土や盛り土の履歴を見極

 2011年の最高裁の判決後の判例を整理して見えてきたのは、何を「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵」とするのか、裁判官の判断が揺れていることだ。似た事案なのに異なる判決が下されることがある。例えば、12年の福岡高裁第二次差し戻し審では、エントランスホールの雨漏りに対し、雨が吹き込む構造なので

 過去には、瑕疵担保責任期間を過ぎると瑕疵担保責任だけでなく不法行為責任の請求も棄却する下級審の判決が時々見られた。最高裁が20年まで責任を負う場合があると示してからは、そうした判断がなくなったことは被害者側にプラスだ。 建て主など契約者から、雨漏りのリスクや身体に危険性のある特殊な

めることだ。切り盛りがあったのに十分な地盤改良工事を行わないと、住宅会社の過失が認められるケースが多い。この点には注意が必要だ。 もう1つ、不法行為責任のリスクを軽減するために、住宅会社の施工者に知ってほしいことがある。それは、瑕疵が見つかったときに「設計者の図面通りに工事したので、我々施工者に責任はない」と弁明しても通らない場合があることだ。 責任の有無は、常識的に考えて施工者が図面の誤りに気付けるかどうかで判断されることが多い。例えば、高度な構造計算に基づいて、鉄筋の本数や間隔が図面に記載されている

基本的安全性を損なう瑕疵には当たらないとした〔図5〕。一方、15年の東京地裁判決では、新築住宅の駐車場の雨漏りを認めている〔図4の10〕。裁判官のさじ加減1つで、判決が変わってしまう状況だ。 このような状況下では、住宅会社はより安全側の対策を講じるようにしたい。不法行為は契約当事者以外

設計などを要望されたとしても、聞き入れないほうがいい。建て主はそれでよくても、転売した場合に新たな所有者から不法行為責任を追及される恐れがあるからだ。元の建て主と危険性を伴う設計で合意したとしても、かえって危険性を認識していたのに対処しなかったと裁判官が受け取る恐れもある。建基法違反も過失

場合、施工者がその間違いに気付くことは難しい。しかし、室内用火災報知機を誤って屋外に取り付けるよう図面に指示されている場合、施工者はその誤りに気付かなくてはならない。実際、そのような理由で施工者の責任も認めた判決がある。 図面を頭から信じ込む受け身の姿勢ではなく、常識的な判断を働かせ、図面の意図や要点を押さえながら施工することが大切だ。 (談)

でも責任を追及される場合がある。「言った」「言わない」の水掛け論になることも多い。それを防ぐためにも、工事過程の写真や書類をきちんと残しておくことが重要だ。 (談)

になるので、依頼されても対応してはならない。住宅実務者は建て主だけを見るのではなく、住宅のライフサイクル全般に責任を負う時代になったと認識すべきだ。 (談)

河合 敏男(かわい・としお)弁護士重富・古山法律事務所を経て、1998年に河合敏男法律事務所を開設。欠陥住宅全国ネット幹事、住宅リフォーム紛争処理支援センター研修等検討ワーキンググループ主査を務める

日置 雅晴(ひおき・まさはる)弁護士1992年に日置雅晴法律事務所、2008年に神楽坂キーストーン法律事務所を開設。現在早稲田大学、立教大学、上智大学の法科大学院で講師を務める

富田 裕(とみた・ゆう)弁護士1989年、東京大学法学部卒業後、建設省入省(法律職)。96年に同大学院建築学科修了。富田裕建築設計事務所などを経て2012年からTMI総合法律事務所。一級建築士

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20年後に負債を残さない「不法行為責任=20年」の時代を迎え、住宅実務者はどうリスク軽減を図ればよいのか。

大手住宅メーカーが20年、30年の長期品質保証を打ち出すなか、地域に根ざした工務店も、建て主を安心させる「客観的な長期保証」の仕組みが必要だ。

今日から始める対策

「不法行為責任の存続期間は20年。今、われわれ現役世

代が問題を抱えた住宅をつくると、これから入社する将来の社員に苦労をかける。20年後に負債を残さないよう、今できる最大限のことをしたい」 そう話すのは、名古屋市に本拠を置く住宅会社、玉善の庄司卓矢・建設本部長だ。同社は難度の高い軒ゼロ住宅を多数施工しているにもかかわらず、住宅瑕疵保険の支払いを伴う雨漏り事故はゼロ。技術力の高さには定評のある住宅会社だ。 同社は、雨漏り防止対策の1つとして、自社設計施工の戸建て住宅に使う透湿防水シートには、20年防水性能保証付き製品の使用を原則としている。実際に使っているのは、旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ(以下、旭デュポン)の「デュポンタイベックシルバー」だ〔写真1〕。 庄司本部長は言う。「ほかの10年保証の透湿防水シートと比べると、タイベックの製品価格は少し割高だが、20年分の安心を確保できると考えればむしろ安上がりだ」 玉善の品質保証のスタンスは、明快だ。それは、建材メーカーや下請け

〔写真1〕名古屋市の住宅会社、玉善では、20年の防水性能保証の付いた透湿防水シート「デュポンタイベックシルバー」を使うことを原則としている。写真は、名古屋市内の戸建て住宅の建設現場で、同社の冨田伸彦工事主任が、透湿防水シートの施工状況を点検しているところ(写真:本誌)

20年防水性能保証の

透湿防水シートを採用

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

解体現場でサンプルを採取

防水試験

工事会社に責任を転嫁しないこと。「最終責任を負うのはあくまで当社」(庄司本部長)だからだ。 それだけに、建材や下請け会社の選定には厳しい目を光らせる。例えば、ライフラインのテレビ、インターネット、電話の引き込み工事については、自社の基準書通りに施工する企業だけを選定している。20年保証の透湿防水シートを選ぶのも理由は同じ。最終責任を負う以上、自社の厳格な基準に適合する施工会社や防水材料を選ぶ必要があるからだ。

解体現場からサンプル採取 玉善が採用しているデュポンタイベックシルバーは、メーカーの旭デュポンが2013年5月に20年の防水性

能保証を付けた。透湿防水シートのメーカーでは初めてだ。 同社が20年保証に踏み切った理由は2つある。1つは、実際に施工して20年以上経過した透湿防水シートの試験結果が十分蓄積されてきたことだ〔写真2〕。同社は住宅の解体現場に頻繁に足を運び、そこでタイベックが使用されていた場合には、サンプルを採取して社内に持ち帰り防水試験を実施している。 同社建材グループの市川卓主任は「築20年以上経過した住宅から採取したシートの防水性能を調べたところ、耐水圧は12~15kPaの範囲に収まった。JISの耐久性能規格値は8kPa。基準値を大幅に上回る結果が出たことで技術的な裏付けが取れ

た。実験室の暴露試験とは異なり、住宅の解体現場から採取したサンプルは決定的な意味を持つ」と話す。 もう1つの理由は、建て主の防水性能に対する関心の高まりだ。「ここ数年、雨漏りトラブルによる訴訟案件の相談が増えている。建て主や施工者から保証や施工についての問い合わせが多い。建て主に安心感を与えるためにも、より高いレベルの施工、より長い期間の製品保証が求められると考えた」(市川主任) 一般に建材の保証期間は10年であることが多い。それが20年となれば、住宅実務者や建て主にとっても安心だ。同社の20年保証は、ほかの建材設備メーカーの長期保証を促す呼び水になるかもしれない。

〔写真2〕旭デュポンでは、住宅の解体現場に足を運び、同社製の透湿防水シートが使われていた場合には、サンプルを採取して防水試験を実施している。上の写真は、関西地方で2016年秋にサンプル採取した築23年の住宅。14.2kPaの耐水圧を示した(写真:旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ)

メーカーの取り組み

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建て主からクレームを受けて補修をしたとき、有償で対応する

か、それとも無償にするか、多くの住宅会社が頭を痛めている問題だ。 現状では10年までを無償対応とし、それ以降を有償とする住宅会社が多い。しかし、最長20年の不法行為責任が問われる今、従来の紋切り型の対応では建て主が納得しないケースもでてくる。

雨漏りは顧客の責任にあらず 国内有数の行列ができる住宅会社として知られるシンケン(鹿児島市)では、築30年の住宅で発生した雨漏りでも無償対応を原則としている。同社の迫英徳社長は「雨漏りはお客様の責任ではない。引き渡しから何年経っても、経年劣化に起因するもの以外はつくり手の責任。これは、お客様の立場に立って考えれば明白なこと。無償で直すのは当然だ」と話す〔写真3〕。 同社では、引き渡し後のアフターサービスを100%子会社の「シンケンユーザーズサポート」が担う。サポート会社は建て主の要望やクレームを受けて現地を訪問し、直すべき部分を原則無償で直す。その出張費や補修費用は、親会社であるシンケンに請求する〔図1〕。サポート会社が熱心に活動すればするほど、親会社のコスト負担が増大するはずだが、迫社長は「それでいい」と話す。 「いただいた要望やクレームは新築部門にフィードバックされ、問題につながる施工が改善される。はじめに全責任を持つと決めれば現場の心構えも変わり、技術も磨かれる。サポー

〔写真3〕シンケンを率いる迫英徳社長。「引き渡しから何年経っても雨漏りしてはならない。築30年以上経過しても、雨漏りが生じたら無償で直す」と話す。同社は鹿児島市内に拠点を置く住宅会社。これまでに建てた住宅の棟数は1700棟を超える(写真:シンケン)

〔図1〕シンケンが進めるアフターサービスの特徴

1、 顧客満足度が最優先。引き渡しから何年経過しても、自社に少しでも問題があれば無償で直す。

2、 クレームが多いと親会社のコスト負担は増すが、子会社(サポート会社)の売り上げは伸びるので意欲的に取り組める。

3、 解決したトラブル情報は、本社にフィードバック。原因と対策を整理してデータベース化。技術力向上につなげる。

4、 新築時には、グループ全体でアフターサービスにかかる経費を必要コストとして見込んでおく。

5、 建て主の安心感を含め、長い目で見た総合的な費用対効果の高さがセールスポイント。

シンケンのアフターサービスの特徴は、新築住宅を受注した時点で、サポートにかかる経費をグループ全体で必要なコストとして捉えていることだ。そのうえで、グループ全体で利益を確保できるように住宅の価格を設定する。長い目で見た費用対効果の高さに重点を置いている(資料:取材をもとに本誌が作成)

築30年の雨漏りに無償対応

疑わしきは建て主の利益に

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

ト会社への支出は、技術力向上と将来の問題を未然に防ぐための先行投資だとも言える」(迫社長)〔図2、3〕

揉め事は信頼なくすだけ 同社は、新築住宅を受注した時点で、アフターサービスにかかる経費をグループ全体の必要コストと捉えている。そのうえで、利益を確保できるように住宅の価格を設定する。 また、住宅瑕疵担保履行法には、保険金でなく供託ルートで対応している。補修費用について保険会社にお伺いをたてる必要もないので、即座に対応できる。こうしたスピード感が、不満の芽を摘みトラブルを未然に防ぐ役割を果たす。建て主にとって、何かあったときにすぐ対応してくれるのは大きな安心材料だ。 迫社長はこう話す。「住宅会社が綿 と々存在し続けるためには、顧客の信用の輪をつないでいく以外にない。お客様の立場に立ったサポートを続けていくことで、信用は連鎖しお客様もつながっていく」 さらにこう続ける。「逆にお客様と揉め事を抱えることは、負の連鎖を拡げてしまう。長い時間軸の中で考えると、自ら不利な環境を作り出しているようなもの。地域で仕事をしている以上、そうなることは必然だと思う」 建て主の安心感を含め、長い目でみた費用対効果の高さが同社のセールスポイントだ。住宅会社にとって、建て逃げが許されなくなっている今、同社のアフターサービスはストック時代を先取りする経営形態の1つと言えそうだ。

〔図2〕シンケンの雨漏り対応の流れアフターサービスは、100%子会社であるシンケンユーザーズサポートが対応する。引き渡しから何年経っても、自社に少しでも問題があれば、無償で直すのが同社の方針。ただし、住宅がほかの不動産会社経由で売買された場合、築10年以上の補修は原則有償としている(資料:シンケン)

〔図3〕サポート費用は子会社が親会社に請求サポート部隊は、建て主の要請を受けて現地を訪問し、修理すべき部分を原則無償で直す。出張費や補修費用は、親会社のシンケンに請求。解決できた情報は本社にフィードバックする。こうした形で建て主の満足度を高め、信用の連鎖を広げるのが最終目標だ(資料:取材をもとに本誌が作成)

建て主

シンケン本社 シンケンユーザーズサポート

利益を付加して費用を請求

引き渡し

新築請負契約

サポート

補修対応

クレーム

サポート依頼

情報をフィードバック

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不法行為責任の存続期間である「20年」は、住宅瑕疵保険の

あり方にも影響を与えている。 住宅瑕疵保険会社の住宅保証機構(東京都港区)は、保険期間10年が満了した後に、保証を延長できる商品「まもりすまい延長保険」を2015年4月に発売した。10年延長と5年延長の二種類を用意しており、10年延長の場合は点検とメンテナンス工事を実施することが条件だ。 点検とメンテナンスは、新築後の満9年から満10年の1年間で実施するか、築10年の保険期間が満了して5年以内に行うか、どちらかを選択できる。保険料を支払うのは点検・メンテナンスを行う住宅事業者で、支払い金額は、建物規模や保険金支払い限度額などで異なるが6万円台から7万円台が中心だ〔図4、5〕。 住宅保証機構・営業推進部の手塚泰夫部長によると「延長保険の開始後、1年半の間に約80件の加入があった。制度を活用している住宅会社は、技術力の高い企業ばかり。事故やトラブルに備える側面より、長期品質保証の体制を整備することにより、顧客に安心感を与えることを重視する企業が多い」と話す。 この延長保険を最初に活用した高砂建設(埼玉県蕨市)の風間健社長は「最大の狙いは、延長保険の制度を有効に活用してお客様と持続的な関係を築くこと。延長保険によって、お客様との接点が20年以上維持されることになる。それが結果的に将来のリフォームや建て替えにつながるのが理想だ」と話す〔写真4〕。

〔写真4〕高砂建設の風間健社長。住宅保証機構が瑕疵保証の延長保険をスタートさせたとき、真っ先にそれを活用したのが風間社長だ。「大手住宅メーカーと同じ土俵で戦うには、客観性を備えた長期品質保証の仕組みが不可欠。その一環として延長保険を活用した」と話す(写真:本誌)

瑕疵保証の10年延長で

建て主と持続的な関係を

保険金支払い限度額

満期住宅適用料金(住宅支援機構の保険に加入していた場合の料金)

特約なし リフォーム特約 給排水管路・設備等特約 給排水管路特約

500万円 ¥61,230 ¥67,710 ¥66,770 ¥64,600

1000万円 ¥64,100 ¥70,580 ¥70,460 ¥67,950

2000万円 ¥65,130 ¥71,610 ¥71,710 ¥69,110

延長保険の保険料は、住宅事業者が支払う。上は、地上2階建て、延べ床面積120m2程度の戸建て住宅の場合の保険料。同社の住宅瑕疵保険に入っていた住宅会社が保険を延長する場合の価格だ

〔図4〕保証期間を10年延長

〔図5〕10年延長プランの料金例

住宅保証機構の「まもりすまい延長保険」の仕組み。5年延長と10年延長の2コースがあり、10年延長では点検・メンテナンスを義務付ける。これは、10年の満期が過ぎて行うことも可能だ(資料:下も住宅保証機構の資料を基に本誌が作成)

新築住宅の瑕疵担保責任期間

新築住宅の瑕疵担保責任期間

保険期間10年間

10年

10年

保険期間10年間

新築引き渡し日

新築引き渡し日

点検・メンテナンス

点検・メンテナンス

(2)新築後10年を経過してからメンテナンス工事を実施する場合

(1)新築後10年以内にメンテナンス工事を実施する場合

新築後、9年から10年以内にメンテナンス工事を実施

新築後10年を満了する日から、5年以内にメンテナンス工事を実施

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特集 「建て逃げ許さじ」欠陥責任20年

 「お客様には、新築時にこの延長保険とリフォーム瑕疵保険などをセットで説明し、30年以上にわたる長期保証を整備していることを訴求している。大手住宅メーカーと同じ土俵で戦うには、こうした第三者による長期保証の仕組みが不可欠だ」 風間社長によると、築10年程度の顧客に延長保険への加入を勧めても、塗装やシーリング材の劣化が顕在化していないため、保険に加入する人は少ないという。築15年程度で劣化を認識し、この段階で点検・メンテナンス工事を実施し、延長保険に加入する顧客が多いそうだ。

瑕疵保証の範囲と期間を明示 地盤の保証期間は20年、構造躯体や屋根の工事、外装工事などは10年─。こんな風に瑕疵保証の範囲と期間を事細かに一覧表にまとめ、顧客に提示している住宅会社がある。東京都新宿区に拠点を置くアキュラホームだ。建具、水栓器具、テレビ配線など、室内仕上げから付帯設備に至るまで、あらゆる部位の範囲と期間を明示している〔図6〕。 同社建築推進部の志村慶充部長は「当社は、品確法施行前の1990年代半ばくらいからこのようなリストを作成し、お客様に説明してきた。現在も、技術水準の向上に合わせ、保証範囲や期間を拡充している」と話す。 例えば、地盤については以前は10年保証としていたが、市場ニーズの高まりを受け、地盤調査会社と連携して2014年に20年に延長した。 「ただし、当社に責任がある瑕疵に

は、この一覧表の規定を適用しない。例えば、当社が規定する施工方法との違いがあった場合には、築10年を超えていても当社が無償で修理する。一覧表を作成した目的は、あくまでお客様に安心感を与えること」(志

村部長) トラブル発生の発端は、責任の所在をめぐる認識ギャップにあることが多い。各部位の保証期間を明示することは、認識ギャップの解消に役立つかもしれない。

〔図6〕アキュラホームは、瑕疵保証の範囲と期間を部位別に事細かく明示し、これを建て主に提示している。新築住宅の保証期間は、構造躯体や屋根の工事、外装工事などで10年、地盤で20年だ(資料:アキュラホームの資料を基に本誌が作成、写真は本誌)

保証の範囲と期間を明示

相互の認識ギャップなくす

保証対象部位 適用範囲 期間 特定免責事項

構造耐力上主要な部分

〔基礎工事〕基礎および基礎杭〔構造躯体工事〕土台、大引、柱、横架材(梁、胴差し、桁など)床版、斜め材(筋かい、火打ち、方づえなど)、屋根版(小屋束、母屋など)

▪�不同沈下などにより構造強度に影響を及ぼす変形、損傷で基本性能が著しく損なわれているもの

▪�構造強度に影響を及ぼす傾斜、たわみ、脱落、破損などにより基本性能が著しく損なわれているもの

新築住宅系10年

上記以外5年

▪�コンクリートなどの材質的な収縮に起因する構造上特に支障のない亀裂、変形▪�木造の乾燥、材質的な収縮に起因する構造上、特に支障のない亀裂、破損

▪�十分な除湿、換気が行われず、これに起因するもの▪�水蒸気を多量に発生された場合の結露に起因するもの

▪�浸水に起因するもの▪�当初予定をしない重量物の積載に起因するもの

雨水浸入を防止する部分

〔屋根工事〕屋根〔外装工事〕外壁(開口部回りも含む)シーリング部分〔防水工事〕ベランダ

▪�室内仕上げ面を汚損したり、室内にしたたるような屋根面よりの雨漏り

▪�雨漏りによる構造上主要な骨組みの著しい損傷

新築住宅系10年

上記以外5年

▪�屋根葺き材、外壁材などの維持管理の不備に起因するもの

▪�当社以外が施工した屋根面の設置物、およびその施工に起因するもの

▪�雪下ろし時の損傷などに起因するもの

▪�枯れ葉などの異物の詰りに起因するもの

地 盤

▪�指定地盤調査を行い、調査に基づく指示の不備に起因する地盤の不同沈下による建物の損傷

20年

▪�指定地盤調査以外の調査によるもの▪�地盤調査結果の指定基礎工法以外によるもの

▪�店舗併用住宅・共同住宅などの休業補償・生活補償、共同住宅などの入居者の生活補償

シロアリ

▪�ヤマトシロアリ、イエシロアリの発生による食害

新築住宅系10年

▪�指定防蟻標準仕様以外のものは5年

上記以外5年

▪�引越し後、土壌の変更をした場合

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