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Page 1: 大正デモクラシー...− 66 − 高校講座・学習メモ テレビ学習メモ 第4章 近代国家の形成と国民文化の発展 シャントン 第33回 大正デモクラシー

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高校講座・学習メモ

テレビ学習メモ

第4章 近代国家の形成と国民文化の発展

シャントン

第33回

大正デモクラシー 執筆・講師

季武嘉也

大正年間(1912~1926)の日本の特徴は、政治をはじめとして国民の声がさまざまな分野で反映されるようになったことである。このような現象を総じて「大正デモクラシー」と呼んでいるが、なぜ大正デモクラシーは起きたのだろうか。これを国内・国外両面から考える。さらに、大正デモクラシーの重要な成果である日本初の本格的政党内閣の原敬内閣はどのような内閣であったのだろうか。

第一次護憲運動

日露戦争の勝利によって日本は安全保障上の不安を解消し、列強の仲間入りを果たした。その結果めばえた「一等国」意識は、今度は国内政治に向けられるようになり、それまで「臥

薪しん

嘗しょう

胆たん

」していた国民はしだいに自らの要求を表に出すようになった。そのようななかで、1912年に第一次護憲運動がおこった。中国の辛

しん

亥がい

革命に対応すべく陸軍は二個師団の増設を西

さい

園おん

寺じ

公きん

望もち

内閣に要求したが、内閣がそれを拒否すると陸軍大臣は辞職し、さらに誰も後任大臣を引き受けなかった。そのため西園寺内閣は総辞職し、後継首相には長州藩出身で陸軍大将であった桂

かつら

太た

郎ろう

が就任した。国民は、この一連の動きの背後では同じく長州藩出身の元老・山

やま

県がた

有あり

朋とも

が糸を引いており、彼ら藩閥政治家が政権を私物化していると考えた。こうして強い不満を持った人々は議会を取り囲み、桂内閣の退陣を要求した。これに対し、桂内閣も天皇の詔勅を利用してこの窮地を脱しようとしたが、これがさらに人々の怒りを誘い、ついに総辞職せざるを得なくなった。こうして自らの手で政権交代を実現した国民は、この後さらに自分たちの力を自覚するようになっていく。

第一次世界大戦の影響

1914年、ヨーロッパで第一次世界大戦が勃発すると、その戦火はまたたく間に世界中に広まった。世界の一体化が急速に進行していたのである。日本の位置する東アジアもその例外ではなく、まず日本が最初に反応し、日英同盟にもとづいてドイツに宣戦布告した。ただし日本の狙いは、欧州列強が欧州大陸での戦争に集中している隙に、中国での権益を拡大しようとするものであった。そして、山

さん

東とう

省青チン

島タオ

を拠点としていたドイツ軍を破った日本は、翌1915年には「二十一か条の要求」を中国に示し、強引に承認させた。その内容は、山東省ドイツ権

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高校講座・学習メモ

� 大正デモクラシー

リュイシュン 

ターリエン益の継承、旅

りょ

順じゅん

・大だい

連れん

の租借期限の延長、中国最大の製鉄会社の共同経営権などであった。しかし、長期化した第一次世界大戦は日本に思わぬ影響を与えることになった。まず、総力戦を強いられた欧州諸国では国民の戦争への協力と引き換えに、参政権などさまざまな権利を与えたため、民主化が大きく前進した。また、民族自決の動きが世界中で広まり、中国では外国に奪われた権益の回収を求める声が、朝鮮では独立を求める声が強まった。この結果、日本国内では吉

よし

野の

作さく

造ぞう

の民みん

本ぽん

主義論にも刺激されて、ますますデモクラシーを求める動きが強まり、他方で中国・朝鮮では日本に対する反発が高まった。

原内閣の成立

第一次世界大戦によって日本経済は大きく成長したが、それに伴って物価も上昇した。特に、1918年にシベリア出兵が発表されると、投機目的で米価が急上昇した。こうして米を買うことが困難となった国民は、富山県の漁村の主婦たちの抗議行動の報道を契機に全国各地で暴動を起こした。米騒動である。この日本社会を根底から揺るがした事件は、藩閥政治家や官僚に大きな危機感を与えた。天皇に首相を推薦する役割を担う元老の山県有朋も例外でなく、ついに彼も立憲政友会総裁で衆議院議員の原

はら

敬たかし

を首相に推薦せざるを得なかった。原は閣僚ポストのほとんどを立憲政友会の党員によって固め、鉄道など交通機関の充実、産業の奨励、高等教育機関の拡充など、国民の要望に応じた政策を実行した。しかし、当時、盛んに主張されていた普通選挙は時期尚早として実現されなかった。


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