小耳寺集 パワーエレクトロニクスによるACドライブシステム ∪・D-C.〔占21.382.3.02る::d21.318.57〕.001.7
パワーデバイスの最近の進歩Recent ProgressofPowerElectronic Devices
進展著しい「パワーエレクトロニクス+を支える各種のスイッチングパワーデバ
イスについて,最近の動向及び将来の展開方向をまとめた。対象デバイスは,サイ
リスタ(一般電力用,高速サイリスタ,GTOサイリスタ),パワートランジスタ,ユ
ニポーラデバイス(MOSFET,SIT),複合素子(IGT)であるが,近年国内外各社か
らの発表が相i欠いでいる「高圧IC+についてもその概要に触れた。調査は国内外発
表文献によるが,特にサイリスタについては,日立製作所の最近の成果を中心に述
べた。いずれのデバイスも,先行のサイリスタ,パワートランジスタが培ってきた
基本のキーテクノロジーを軸として,大電流/化,高耐圧化,高速化の方向に向かっ
てその適用領域をますます拡大しつつあり,この傾向は新しいデバイスを中心に今
後も更に進展するものとみられる。なかでも注目すべきは,「複合素子+,「高圧IC+
であり,ディスクリートデバイスの利点を巧みに組み合わせて,全く新しい機能・
性能を生み出し,かつ多機能化を図るという展開が,今後の重点目標として進めら
れるであろう。ただし,いずれのデバイスも万能ではあり得ず,それらの機能・性
能を十二分に活用したシステムのパフォーマンス拡大が,不断の課題として存在す
るものと考えられる。
ll 緒 言
電力エネルギーの変換・制御技術,いわゆる「パワーエレ
クトロニクス+は,各種パワーデバイスの性能向上とあいま
って,着実に発展を続けている。ニれらパワーデバイスの変
遷をみると,1970年代の前半までは主にサイリスタが中心で,
その制御方式もアナログ回路が主体の大容量電子回路という
面が強かったが,,70年代の後半から'80年代へかけてVLSI技
術の実用化とその急激な発展に支えられ,微細加工技術を適
1948 '57 '61'63 '66'67 '75'76'78
トランジスタ
サイリスタ
GTOサイリスタ
トライアック
加圧接触平形パッケージ
プラスチックパッケージ
注:略語説明
GTO(Gate TurnOfり,Sl(Staticlnd]Ction)MOS FET(Meta10×ide Semiconductor Field
Sけイリスタ
MOS FET
サイリスタ
モジュール
光点弧サイリスタ
Effect Trans弓stor)
図l スイッチングパワーテノヾイスの変遷 「スイッチング素子+と
呼ばれるデバイス(含パッケージング技術)は,1980年以前にほぼそのすべてが
開発されている。
池田裕彦* ㍑5之`ん∫ん0戊ビ血
八尾 勉** Tゝzィわ椚〟‡七/sz`の
宮田健治** 舵邦ノg〟わ好Jα
用した種々の「自己消弧機能形スイッチング素子+が具現化
してきた。
図1は,各種パワーデバイス,及びその関連パッケージ技
術の開発時期をまとめたものであるが,いわゆる「スイッチ
ング素子+と呼ばれるデバイスは,1980年以前にほぼすべて
にわたってその芽が出現していることが分かる。これらは,
その後の応用技術,製作技術の進展とともに,生産安定化の
時代を経て現在に至っており,それぞれのデバイスが,大電
手先化,高耐圧化,高速化という方向へ向かって,その性能範
囲を拡大している。ここでは主として電動機制御の分野を中
心に,関連する電力用スイッチングパワーデバイスについて,
その現二状の進歩と将来の動向をまとめてみた。
なお,いわゆる「電力用+の範ちゅうではないが,最近,
寅内外各社の多くが参入を始めている「高圧IC+についても,
その概要に触れる。
臣l サイリスタ
サイリスタはそのスイッチング特性により,「電力用サイリ
スタ+と「高速サイリスタ+に区分される。
2.1 電力用サイリスタ
大電i充・高耐圧・高信束副生のスイッチング素子として,各
種の重電機器,産業機器に適用されてきた電力用サイリスタ
は,現在,電気点弧方式から光点弧方式へという,一つの大
きな転機を迎えている。
中性子,電子線照射などのシリコン単結晶処理,ウニtハ
径大化,端面加工,バッシベーション(表面保護処理),平形
パッケージングなどは,電力用サイリスタの発展を支えてき
た基本技術である。これらはそのまま,後述する各種のスイ
ッチング/ヾワーテlバイスの信束頁性を支える大きなキ】テクノ
ロジーであり,これにVLSI技術が発展させた微細加工技術が
*
日立製作所【二1、tI二場**
H、ンニ…き望n三析11、一/二析′先巾
614 日立評論 〉OL.68 No.8(1986-8)
加わって,新しいパワーデバイスが具現化され展開を続けて
いる,ということができる。
図2は,電力用サイリスタの接合径と耐電圧・電流.容量の
関係を試算したものであるが1),
指数P=耐電圧(kV)×サージ電流(kA)
とすると,接合径40~80mmの問でそれぞれの指数Pは同国の
ようになり,ウェーハ径大化による大電i充・高耐圧化への効
果が明らかである。
電力用サイリスタの新しい展開として,点弓瓜回路部品の低
i成,光絶縁によるノイズの悪影響防止などによるいっそうの
信頼性向上を目的とした,光点弧方式の実用化が始まってい
る。1,500A,4,000V(直径80mm)(図3),3,000A,4,000V
(直径100mm)素子の開発は既に終わっておF)2)・3),3,000A,
8,000Vを一つの極限として,更に開発が続けられている。ま
た,信頼性をより向上させるため,過電圧に対して素子に自
己保護機能を付加する研究開発も盛んに行なわれている4)。今
後の電力用サイリスタは,従来の大容量展開方向よりも,こ
れらシステムの高信頼性を更に向上させるための,新しい価
値を付加する方向へ向かって進んでいくものと考えられる。
2.2 高速サイリスタ
高速サイリスタは,電力用サイリスタの大電流.・高耐圧特
性を犠牲にしない範囲で高速化を図ったものであるが,その
ために各種のライフタイム制御技術が開発された。しかし,
これらによって得られる性台巨改善はほぼ限界に近づいたとみ
られている。このような限界を打開するために,RCT(Reverse
Conducting Thyristor:逆導通サイリスタ),GATT(Gate
AssociatedTurn-OffThyristor:ゲート補助ターンオフサイ
リスタ)などの,構造改善あるいは機能向上が行なわれてきた。
RCTは,1枚のヴューハ内にサイリスタとダイオードを逆
並列に構成した素子であー),(1)システム応用の上で,逆並列
ダイオード付加が不要‥…・回路構成の容易性,(2)上記ダイオ
ードの配線インダクス分がないだけ,転流電流周期を低i成可
能‥・…転流回路の′+、形・軽量化,(3)逆方向耐電圧が不要のた
め,PNIPN構造の導入が可能……オン電圧とターンオフ時間
のトレードオフ改善などの特徴があるが5),定格電圧が2,500
0
0
0
4
0
4
(く三賀田へ1車
02nU60302二P▲
¢mm
80
60
50
40
0.1 0.4 4 10
耐電圧(kV)
図2 サイリスタの接合径と容量l) ゥェーハ径大化により,サイリ
スタの容量が着実に増大Lている。
図3 光点弧サイリスタの外観 l′500A,4,000V光点弧サイリスタ,
及び駆動用発光ダイオードの外観を,一例とLて示す。
Ⅴでやや低い。
一方,GATTは,一般の高速サイリスタと,後述するGTO
サイリスタ(Gate Tum Off Thyristor)の中間に位置するも
ので,ターンオフ時に外部転手元回路により陽極~陰極間電圧
を逆転させて主電流を遮断するとともに,オフ電圧の再印加
時にゲートー陰極問に逆バイアス電圧を印加し,強制的に残
留蓄積キャリヤをゲートに吸い出すことで,ターンオフ時間
を短くする機能をもっている5)・6)。この方式によれば通常の高
速サイリスタに比べ,一般的にいってターンオフ時間を÷以下に改善することが可能である6)。現在の製品は定格電圧1,200
V級であるが、GATTは,耐電圧及び電盲充容量をほとんど犠
牲にすることなくターンオフ時間を短縮でき,かつ従来の一
般電力用サイリスタとほぼ容量的に同等のゲート回路で駆動
できるので,転i充回路を小形化することも可能である6)。高速
サイリスタの展開を図る上で,一つの有効な技術と言えよう。
2,3 GTOサイリスタ
GTOサイリスタは,従来の一般電力用サイリスタ,高速サ
イリスタに比べ,自己消弧機能をもつ点に大きな特徴がある。
GTOサイリスタの歴史は古いが,特性のトレードオフ改善,
生産プロセスの安定化などに対して,デバイスパラメータの
微妙なコントロール上の難点があり,実用化が遅れていた。
しかし,微細加工技術の進歩及びライフタイムキラーのドー
ピング廃止とアノード短絡構造の併用による安定生産方式の
導入7)-8),更にはPベース層を中心としたパラメータ解析の精
度向上9)などにより,1977年以降,飛躍的な発展を遂げてきた。
中容量GTOサイリスタの分野では,20~300A,1,200Vの製
品シリーズ化が図られ10)・11),特に200A以上の素子については,
モジュール構造の採用とともに,図4に示すような200A・300
A・600A,1,200Vの新しいシリーズ製品が実用化された12)。
今後は更に1,600V化,許容接合i且度の向上,高速化などを目
指Lて440V・575V電i原電圧対応への発展が期待されている。
大電流.,高耐圧の大形GTOサイリスタについては,現在の
ところ我が国の独り舞台であり,既に2,000A・3,000A,4,500
Vの素子が開発されている13)・14)。4,000A,4,500Vが用途面か
らみて一つの頂点と考えられ,その到達も間近いとみられて
いるが,今後は,増幅ゲート15)・16),埋込ゲート15)・17)などによ
るゲート周辺からの性能改善,逆導通GTO18〉,逆阻止GTO19)
などの構造的な工夫と改良などによって,スイッチング時間
と各種特性の間のトレードオフに関する改善が図られ,高速
化へ向けて更に新しい分野が開けるであろう。また,GTOサ
イリスタはゲート逆バイアス条件による性能への影響が大き
パワーデバイスの最近の進歩 615
ゲート
絶縁膜
-◆
一■ヰ■
ゲートソース ソース
N+ N+
N+
ゲート ゲート
ソース
N+
ゲートソース
N+
卜う主
L
3 4 5 6 ツ
(a)200A・300A,l′200V GTOモジュール
γ9-
「8ト
ー〉7・J
‥†6ト+5‥
=14ノ.
け〉2
けー仁U-
い5∴
(b)600A,し200V GTOモジュール
図4 GTOサイリスタモジュール外観 200A・300A・600A,l′200V
定格のGTOサイリスタ モジュールが実用化されている‥
い素子であり20),駆動回路・駆動条件によって素子のもつ性能
を十分に引き出しながら活用する方向への展開も,並行して
進んでいく ものと考えられる。
臣】パワートランジスタ
サイリスタと並んで古〈からあるスイッチング素子として
のパワートランジスタは,プレーナ形が主流であr),ガード
リング,バッシベーション技術の進歩によって,高耐圧化が
図られてきた。また,大電手元化及び高耐圧化指向での電子充増
幅率改善のため,VLSI技術による微細加工技術を応用したメ
ッシュ,リング方式などの新しいエミッタ構造により,ベー
ス周辺長を増加させて電流集中の緩和が図られている20)。パワ
ートランジスタのモジュール構造は早くから実用化されてお
り,この構造はその「使い勝手+とともに定着,普及してき
た。現在,300A,1,20()Ⅴが最大定格20)であるが(小電流領域
では1,400Vも達成されている21)。),最近,400A・500A,600
Vの大形モジュールも発表されており,放熱構造,放熱方式の
進展とともに,更にモジュールの大容量化が図られていくも
のとみられる。
田 電界効果トランジスタ,静電誘導トランジスタ
前章までは,いわゆるバイポーラデバイスについて述べて
きたが,ここでユニポーラ形のパワーデバイスについて展望
する。
4.1 電力用MOS FET
FET(FieldEffectTransistor:電界効果トランジスタ)は,
(a'芋FETソース
N十
N+
N+
ドレーン
(b)鳶形MOS FET
カソード
N一
ゲート ゲート
P+
ドレーン
(0)sIT
注:略語説明 S】T(StaticlnductionTransistoり
アノード
(d)Sけイリスタ
図5 ユニポーラ形パワーデバイス3)・22) 縦形MOS FET(a)の改良
形(b),及びMOS FETのゲート部をP-N接合とLたSIT(c〉,それにエミッタ層
(P十層)を付加LたSlサイリスタ(d)など,ユニポーラ形パワーデバイスがラ主日
を集めている(。
バイポーラトランジスタと異なり熱的不安定現象をもたず,
二次降伏という安全動作上の問題もない。また,少数キャリ
ヤの蓄積効果がないためスイッチング性能は本質的に優れて
おり,許容才妾合温度も高い。更に,MOS FET(MetalOxide
Semiconductor FET)は,入力インピーダンスが高く電圧形
制御方式であるため,駆動回路が簡易化されるという利点も
もっている3)・22)。しかし,本質的にオン電圧が高く有効電流密
度が小さいという難点から,大容量化の方向に対しては不適
とされてきたが,やはりVLSI技術進歩の横展開によl),微細
電極パターンをもつマルチナャネル形電力用MOS FETの開
発が急速に進んでいる。現在のところ,5A級,1,000Vが最大
定格とみられるが,図53),22)に示すような平面接合部(a)の高
耐圧化,溝形構造(b)の採用,更には超高集積電極パターンの
展開などにより,その高速性を保持しながら大電i充・高耐圧
化を図る方向が模索されている。耐電圧だけに限っていえば,
1,600V級デバイスが開発されているという報告23)もある。
4.2 SIT
MOS FETのゲート構造をP-N接合で構成すると,SIT
(StaticInduction Transistor:静電誘導トランジスタ)に,
更にドレーン部の外側にエミッタ層(P+層)を付加すると,SI
(StaticInduction)サイリスタになる3)・24)〔図5(C),(d)〕。
SITではMOS FETと同様,高耐圧化に伴うオン電圧の増大
は避けられないが,ゲートがP-N接合で形成されていること
を活用し,オン状態でゲート部に順バイアスを加えてベース
616 日立評論 〉0+.68 No.8(1986-8)
電流を流入することによって,オン電圧を改善することがで
きる。一方,SIサイリスタでは,P+エミッタ層から注人され
るキャリヤによって高抵抗層(N‾層)の導電率が変調され,高
耐圧デバイスでもオン電圧を下げることができる。また,ゲ
ート部に逆バイアスを印加することで,いわゆる自己消弧機
能をもつターンオフサイリスタとしても適用が可能となる25)。
ユニポーラデバイスとしての本質的な高速性は維持されてい
るので,前述のGTOサイリスタよりも更に高速の動作が期待
できるスイッチング素子である。SIサイリスタはこれらの利
点から着実に開発が続けられており,既に300A,2,500V級の
素子が実用化されている24)。更には,二つの光パルスでオン・
オフ(光トリガ・光ターンオフ)が可能なSI光サイリスタの開
発も報告されておりZ6)・27),多様な可能性をもつデバイスとし
て注目を集めている。
これらユニポーラデバイスは,「高速性+という本質的な特
徴をもっており,これをできるだけ保持Lながら,簡単な駆
動回路で,いかに大電流・高耐圧化を図っていくかが今後の
課題であるとともに,展開の大きな方向であるとも言えよう。
b 複合素子
先に述べたように,バイポーラデバイスには,低オン電圧,
及び大電主充・高耐圧化の容易さという利点があり,ユニポー
ラデバイスには,高速性及び熟的安定性という利点がある。
したがって,これら両方の利点を結びつけて活用すれば,新
しい機能・性能をもつ優れたデバイスの具現化が可能と考え
られ,いわゆるBトMOS(Bipolar-MOS)デバイスが公表され
てきた。ここでは,バイポーラとユニポーラを組み合わせた
デバイスという意味で,これらを「複合素子+と称すること
にする。その代表的なものは,米匡1GE社のIGT(InsulatedGate
Transistor)であ り28),米国RCA杜のCOM FET,米国
Motorola社のGEM FET,株式会社東芝のBIFETなども,
同様な動作原理に基づくデバイスである29)I23)
基本構造は図6に示すように,縦形MOS FETのドレーン
部の外側にエミッタ層(P+層)を付け加えたものである3),23)。先
の図5(c),(d)と比較してみると明らかであるが,このP+エミ
ッタ層から注入されるキャリヤによって導電率変調が起こり,
高抵抗層(N‾層)のオン電圧を下げることができる,という動
作原理を活用しており,高耐圧MOS FETの最大の難点であ
るオン電圧の増大を改良し,かつ電圧制御形というMOS FET
本来の利点を保持したところに特徴がある。この素子は1982
ゲート
絶縁膜
エミッタゲート
N+ N+
P+
コレクタ
図61GTの基本構造23)・3) 米国GE(GeneralElect‖C)社の旧T(lns山ated
Gate Trans■StOr)を,BトMOSデバイスの代表例とLて示す。図5と比較すると,
そのねらいが勇、かりやすい。
【L
ゲート絶縁膜
エミッタゲート
N-←
P+
N+
P十
+P
タクレコ
深いP+層
N十バッファ層
図71GTの改良構造(一例)29)・23) 性能のトレードオフ改善のため,
種々の試みが行なわれてきている。
年に学会で発表され30)注目を集めたが,(1)導電状態ではバイ
ポーラモードになるため,スイッチング速度が犠牲になる,
(2)PNPNサイリスタ接合が寄生しているため,ラッチングに
よるゲートターンオフ不能現象が起こる,(3)上記からみて,
定格電流の上限に大きな制限がある,などの問題点があっ
た23)。これらについては,種々の改良試作が行なわれてきたが,
図7にその構造の一例を示す29)。改良の主な内容は,(a)高抵
抗層(N‾層)に再結合中心を導入(電子線照射など)して,少数
キャリヤのライフタイムを短くする,(b)Pベース層の一部を深
くして,シート抵抗を下げる,(c)N+バッファ層を加えて,P+
エミッタ層からの注入効率を下げるなど23)で,スイッチング速
度の向上,及びターンオフ性能の向上が図られている。この
結果,25A,500V,ターンオフ時間0.2-1叫sの実用的な素子
が開発されており2即,更に高耐圧化への検討も進められて,75
A,1,200V素子の試作結果も報告されている31)。
これらの複合素子は,VLSI技術の進歩をそのまま採-)入れ
て発展させることができるという,好適な環境下にある。ま
た,いわゆる「ディスクリート+と呼ばれてきた製品に,更
に新しい機能を付加するとともに,それぞれの利点を巧みに
組み合わせて,全く新しい機能・性能をもつデバイスを生み
出せる可能性をもってし、る32)。パワーデバイスの新しい方向を
開くものとして極めて注目すべき分野であー),今後の大きな
進展が予想されている。
l田 高圧IC
前述の複合素子を更に多機能化したもの,あるいはLSIの大
容量化を図ったものとして,「高圧IC+と呼ばれる製品群が新
しく登場を始めている。これらは,いわゆる電力用パワーデ
バイスの範ちゅうからやや外れるが,各種のシステム応用を
考えた「パワーエレクトロニクス+の今後の展開に閲し重要
な位置を占めてくるデバイスとみられるので,その概要につ
いて触れておく。
図8は,「高圧IC+と呼ばれる製品群の展開範囲を示す。こ
れを可能にLたキーテクノロジーは「誘電体分離方式+であ
り,その基本構造を,従来の「接合分離方式+と比較して
図9に示す33)。
「誘電体分離方式+の特徴は,
(1)高耐圧素子でのチップサイズの縮小
(2)ラッチアップ現象の防止(ラッチアップ フリー)
(3)基根の漏れ電流が高i且動作時でも少
(4)各種の素子(接合形FET,MOS形素子、拡散抵抗など)を
パワーデバイスの最近の進歩 617
1,000
500
0
0
0
0
2
1
(>)世肘璧倒
`‾‾‾`‾‾‾‾‾‾‾‾\高圧IC \
リニアIC
ディジタルIC
\\
カニ:\\0.02 0.05 0,1 0.2 0.5
定格電流(A)
10
図8 「高圧IC+のデバイス領土或 】50V以上の高耐圧分野に展開中であ
り,300V級のデバイスは既に実用化されている。
単結晶シリコン
多結晶基板
(a)誘電体分離方式
SiO2
P十 N-エビタキシァル層
N十
P一基板
P+
(b)接合分離方式
図9・分離方式の比較33) 多結晶層とSiO2膜により,単結晶部を島状に
形成Lたところに,「誘電体分離方式+の特徴がある。
同一チップ内に搭載可能
(5) コレクタ基板内の容量小(高周波化が可能)
などであるが,難点はプロセスの増加によるコストの増大で
ある。
「高圧IC+では,メーンのスイッチング素子を周辺の制御回
路とともに一つのチップ内に集積することにより,パッケー
ジ,配線及びインタフェース回路をまとめて,小形化,信相
性向上に寄与て、きる。既に電子交換機,各種プリンタなどへ
の適用が成されているが,今後はこれらOA(Office
Automation),通信分野の情報処理機能だけでなく,自動車,
家庭電器・音響機器などの分野にも幅広く適用されていく も
のとみられ,国内外各メーカーの動きが,注目を集め始めて
いる34)。
104
が
(>)出師蟹槻
GTOサイリスタ
Slサイリスタ
バイポーラトランジスタ
MOS FET
\
芋二㌍ミ\1
10 102
定格電流(A)
(a)定格電流一電圧範囲
103 104
GTO
サイリスタ
1が
0
0
(<・>)市田定置
102
バイポーラ
トランジスタ
MOS FET
103 104 105
動作周波数(Hz)
(b)動作周波数一制御電力範囲
106
図川 各種パワーデバイスの適用領土或(=24) いずれのデバイスも不
断の進展を続けており,二の領域を更に拡大する方向へ展開Lているので,一
つで万能なデバイスはあり得ない。
也 結 言
以上.述/ヾたように,従来,サイリスタとパワートランジス
タが中心的役割を占めていた「パワーエレクトロニクス+は,
VLSI技術,シリコン単結晶処理技術,接合パラメータ制御技
術,バッシベーション技術,パッケージング技術など,基本
的なキーテクノロジーの着実な進歩によって多彩な「スイッ
チングパワーデバイス+の展開を生み,それらがそれぞれに
優れた特徴をもっているところから,その応用の範囲はます
ます広がっている。これらのデバイスが適‥用される領域をま
とめて,図1024),図Il35)が報告されている。休みなく進展を続
けているデバイスであるため,その良否を一義的に主夫めるこ
とは難しいことが,これらの例からみてもよく分かる。いず
れにせよ,現状あるいは将来を含めて,それぞれのデバイス
がその領域を更に拡大していくとみられるため,一つで万能
なデバイスが出現することはあり得ない。したがって,それ
ぞれのデバイスの特徴を把握し,その性能を十二分に活用し
て,いかに応用システム,応用装置の信根性を含むパフォー
マンスを最大にするかが,不断の課題として存在するものと
考えられる。
618 日立評論 VOL.68 No.8=986-8)
GTOサイリスタ
lGT
「1,000
100
10
く工
紫紺建碑
100
10
0.1
圭
一R押収くテ禁
バイポーラトランジスタ
OS F巨丁
1980 1990
年 代(西暦)
(a)1,000V級パワーデバイスの将来
MOS FET
バイポーラトランジスタlGT
2000
102 103 10ヰ 105 106
動作周波数(Hz)
(b)1,000V級パワーデバイスの周波数特性
注:略語説明IGT(lnsulated Gate Transistor)
なお,lGTとは,米国GE社が開発したバイポーラとユニポーラとを組み合わ
せたデバイスの名称である。
図Il各種パワーデバイスの適用領域(2)35) いずれのデバイスも不
断の進展を続けており,この領域を更に拡大する方向へ展開Lているので,一
つで万能なデバイスはあり得ない〔+
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