日本のESDの動向
阿部 治 (立教大学)
TEEN(2012 /10/24)、仙台
ESDとは
私たち一人ひとりが、世界の人々や将来世代、 また環境との関係性の中で生きていることを認 識し、行動を変革することが必要であり、そのた めの教育がESD (国内実施計画、2006) DESD以降、ESDは持続可能性のためのあらゆ る主体や活動、場などを時間・空間を超えてつなぐ 装置として機能
ESDと環境教育との関係
環境教育は自然環境の保全(循環と生物多様性の保全)をベースに持続可能な社会の構築に意識面からアプローチ。(=狭義の環境教育)
ESDは環境・社会・文化・経済のつながりを考慮しながら、持続可能な社会の構築に意識面からアプローチ。(=広義の環境教育) しかし、自然環境の保全が社会(生活・文化)や経済のベースである(生態系サービス)ので、(狭義の)環境教育はESDのベースである。
日本の環境教育の流れ 1960年代 環境教育黎明:公害教育、自然保護教育 1970年代 環境教育の導入:環境科学教育、環境研究 1980年代 環境教育の定着:日本環境教育フォーラム、 日本環境教育学会 自然教室、自然観察の森 1990年代 環境教育の発展:環境教育指導資料、生活科 自然学校、水辺の学校、田んぼの学校 子どもエコクラブ 2000年代 広義の環境教育(ESD)の登場: 総合学習、ESD(持続可能な開発のための教育) 環境教育推進法、CSR、持続可能な地域づくり
(阿部、2009)
法律名 制定・改正 環境教育に関する記述
環境基本法 1993年制定 環境の保全に関する教育、学習等(同法25条)
河川法 1997年改定 河川環境(水質、景観、生態系等)の整備と保全(同法1条)
食料・農業・農村基本法 1999年制定 多面的機能の発揮(同法3条)
循環型社会形成推進基本法 2000年制定 循環型社会の形成に関する教育および学習の振興等(同法27条)
森林・林業基本法 2001年改正 自発的な森林保全活動の促進(同法16条)
環境保全活動及び環境教育の推進に関する法律
2003年制定
政府(5省)が環境保全の増進及び環境教育の推進に関する基本方針策定など。環境教育とは環境保全についての理解を深めるための教育及び学習(同法2条)
教育基本法 2006年改正 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う(同法2条)、教育振興基本計画(同法17条)
学校教育法 2001年改正 2007年改正
自然体験活動その他の体験活動の充実(同法31条) 生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養う(同法21条)
エコツーリズム推進法 2007年制定 自然観光資源の持続的保護。環境教育の場として活用(同法3条)
温暖化対策推進法 1998年制定 2008年改正
地球温暖化防止活動推進委員(同法23条)、地球温暖化防止活動推進センター(同法24・25条)、地球温暖化対策地域協議会(同法26条)
社会教育法 2001年改正 2008年改正
自然体験活動その他の体験活動の機会を提供する事業の実施及びその奨励(同法5条)
生物多様性基本法 2008年制定 生物多様性に関する教育、自然とのふれあいの場の提供(同法24条)
環境教育等による環境保全の取り組みの促進に関する法律(新名称)
2011年改正 環境教育とは持続可能な社会の構築を目指して、環境と社会、経済及び文化とのつながりその他環境保全についての理解を深めるための教育及び学習(同法2条)
環境教育/ESD関連の法律一覧
阿部(2012)、『アジア・太平洋地域のESD(持続可能な開発のための教育)の進展開』より
(狭義の)環境教育から
ESD(広義の環境教育)へ 環境教育推進法(同法2条)における環境教育の定義の変化
○環境教育とは環境保全についての理解を深めるための教育及び学習(2003年) ○環境教育とは持続可能な社会の構築を目指して、環境と社会、経済及び文化とのつながりその他環境保全についての理解を深めるための教育及び学習(2011年)
自然系 アウトドア活動
ネイチャーゲーム 自然学習 自然保護教育 農林業体験など
生活系 公害教育 リサイクル教育 消費者教育 エネルギー教育 環境文化創世教育 歴史・文化教育 ボランティア活動
人権教育など
地球系 地球環境問題
開発教育 平和教育 人口教育 国際理解教育など
自 然
社 会
地 域 地球規模
日本における環境教育の範囲(過去)
阿部治 2000
社 会
生活系 公害教育 リサイクル教育 消費者教育 エネルギー教育
環境文化創世教育 歴史・文化教育
ボランティア活動 人権教育
ジェンダー教育など
総合系(ESD) 総合学習 環境自治体 自然学校/エコツーリズム 種々の持続可能なまちづくり 企業による社会的責任行動(CSR) など
自 然
地 域 地球規模
地球系 地球環境問題 開発教育 平和教育 人口教育 国際理解教育など
自然系 アウトドア活動 ネイチャーゲーム 自然学習 自然保護教育 農林業体験など
阿部治 2000
日本における広義の環境教育/ESDの登場
日本のESDの特徴 • DESD以前からESDに位置づけられる活動が展開されている。(総合的学習の時間、地域づくり、など)
• DESDを契機にESDの名の下に持続可能性にかかわる多様なセクター、場が統合した連携がなされている。(ESD-J、政府円卓会議、など)
• DESDを契機に教育基本法(教育振興基本計画)、学習指導要領の改正などが行われ、学校教育でのESD推進の枠組みが整備された。
• DESDを契機に高等教育機関の改革が始まった。 • 実践面に比べて研究面がまだ活性化されていない。 (ESDの評価、など)
国連・持続可能な開発のための教育の10年 (2005~2014年)
<政府による推進事業> ・ユネスコスクール(文科省) ・ESDの10年強化事業 (環境省) ・環境人材育成コンソーシア
ム(環境省)/+ESD
<教育機関のネットワーク> ・ユネスコスクール支援大学間ネットワーク(ASPUnivNet) ・大学ネットワーク (HESDフォーラム) ・環境人材コンソーシアム
<官民の協議の場> ・ESDの10年円卓会議 (内閣官房) ・ESD地域推進協議会 (岡山市、北九州市など)
<民間のネットワーク>
・「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議(ESD-J) ・CEPAジャパン(国連生物多様性の10年推進組織) ・ESDの10年世界の祭典推進フォーラム ・日本環境教育フォーラム ・開発教育協会 ・ユネスコ・アジア文化センター
(ACCU) ・日本ユネスコ協会連盟 ・学会(日本環境教育学会、国際理解教育学会、他) ・民間企業(CSR)
<国会議員のネットワーク>
ESD推進議員連盟
<国際的なネットワーク> ・ESDの地域実践拠点(RCE)(国連大学) ・アジア環境大学院ネット
ワーク(ProSPER.Net)
日本のESD推進組織・ネットワーク
<政府による推進の仕組> ・ESDの10年関係省庁連絡会議 ・日本ユネスコ国内委員会
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日本政府による ESDの推進�【総合的な計画】
*ESDの10年 国内実施計画発表 (2006年)
*教育基本法改正(2006年)、教育振興基本計画 (2008年)
ESDを重要な理念として位置づけ、今後5年間に推進すべき施策として明記
【学校教育】
*学習指導要領改訂 (2008年、2009年)
小中学校、高校の様々な教科、生活科等にESDの理念を盛り込む
*ユネスコ・スクールの推進
【高等教育】 *大学教育カリキュラムの再編成、サスティナビリティ学の研究 *ESD拠点(RCE)整備 *アジア環境人材育成イニシアティブ など
【地域・民間活動の推進】 *RCE環境省ESD促進事業、ESD登録事業(+ESD) その他
国内のESD事例
• 新たな活動:ESD拠点(国連大学RCE,環境省ESDモデル事業)、ユネスコスクール、大学GP事業、他
• 従来からの活動:霞ヶ浦アサザプロジェクト、豊岡コウノトリの里、水俣市、西宮市、他
• 自然学校(持続可能な地域づくりの拠点、里山の生物多様性の保全の拠点、生物資源の持続的利用)
地域づくりとしてのESD(日本の特徴) • 地域における教育(場の教育) 地域の教材化、他。しかし、グローカルな視点
• 地域再生/地域づくり • 自然学校 自然資本+社会(関係)資本+文化資本 =地域再生、持続可能な地域づくりの拠点 (コミュニティービジネス、スモールビジネス) 生物資源の持続的利用 =里山の生物多様性保全の拠点 ・国連生物多様性の10年(2011-2020)との連携
• 水俣病による地域の崩壊 • 環境・健康・福祉のまちづくり(もやい直し) • 地元学による地域の見直し • 生活博物館(生活学芸員、生活職人) • 環境マイスター制度 • ○○版環境ISO • 教育旅行の誘致 • 環境企業の誘致 • 都市農村交流 • 水俣環境大学
⇒学びをベースにした環境・社会・文化・経済の統合
水俣市のESD
もやい直し(つながりの再構築)
環境首都・水俣 (環境モデル都市)
学校�環境教育・人権教育�
地域�地元学�
環境・社会・�経済の統合�
環境産業の誘致�
教育旅行の誘致�
生活博物館�
○○版環境ISO �
環境マイスター制度�
水俣環境大学�
水俣における地域再生としてのESD
学叔
(阿部、2012)
共に生きる力、社会に参画する力・・・・
岡山市のESD • 市民からの発案・取組がきっかけ • 人づくり:担い手育成 • 地域づくり:文化の伝承、都市農村交流、共生(世代、多文化、福祉、自然)
• 仕組みづくり:推進体制(市ESD推進室、RCE、岡山大学(ユネスコチェア)
• ESDの10年最終会合(RCE世界会議、ユネスコスクール世界会議、CLC世界会議など)の一部招致
自然学校
自然学校は
‒ ①「場(施設やフィールド)」、 ‒ ②「人(人と自然をつなぐインタープリター)」、 ‒ ③「プログラム(体験的な活動のまとまり)」 の三つを持っている 「自然体験を中心とした学習施設」「自然を舞台に教育を展開する施設」 �
全国に3700の「自然学校」。(1996年では76校、「自然学校全国調査2010より)
⇒ 環境教育・体験活動の拠点 地域再生の拠点
持続可能な地域づくりの拠点 自然エネルギー、エコツーリズム、スモールビジネス、 地域の担い手・社会的企業、 様々な資源・素材を有機的(統合的・総合的)につなぎ合わせることで、人づくりを事業化し、社会・経済的にも地域の自立性を高めることができる。
ESDのより一層の推進のための提言 ・政府の推進体制のより一層の強化
・ESD普及に向けた広報戦略の策定と実施 ・ESD登録事業/コンテスト(+ESD事業など)などによるESDの可視化 ・ESDコーディネーション機能の充実 ・学校教育におけるESDの強化(教員養成、免許更新研修、評価など)
・ESDネットワークの多様化、活性化 ⇒オールジャパンによるESD世界会議(岡山、愛知・名古屋)」 ・ESD提唱国としてのDESDの成果の発信 ⇒「ESD推進全国センター(仮称)など」