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DPRIETI Discussion Paper Series 19-J-065

政策評価のための横断面前後差分析(DID)において系列相関及び処置の二次的影響の両方の可能性がある場合での

新たな対策手法について

戒能 一成経済産業研究所

独立行政法人経済産業研究所https://www.rieti.go.jp/jp/

RIETI Discussion Paper Series 19-J-065

2019 年 11 月

政策評価のための横断面前後差分析(DID)において系列相関及び処置の 二次的影響の両方の可能性がある場合での新たな対策手法について*

戒能一成(経済産業研究所)

要 旨

政策評価で多用される手法である横断面前後差分析(DID)については、確認が必要な前提条

件やその対策が必ずしも明確に整理・整備されておらず、特に系列相関や処置の二次的影響

の問題に対策を講じない場合、評価結果に偏差を生じることが懸念される。

本稿においては、経済学・社会学などの分野での主要先行研究から DID において処

置・対照群の同時存在性、結果指標と処置の独立性、系列相関及び処置の二次的影響の不存

在性の 4 つの主要な前提条件の確認が必要であることを帰納的に示し、ランダム化を用いた

実験的方法、マッチング又は合成対照群を用いた統計的方法の 3 つの主要方法論別に適用で

きる既存の対策手法などを整理した。

当該整理を基礎に特に対策手法などが十分でない統計的方法において、系列相関及び

処置の二次的影響の両方に起因した問題を生じる場合でも適用できる新たな対策手法を開

発した。当該対策手法では二次的影響の影響元不識別などの前提条件の下で、対照群の対象

毎に前後差(BAI)と横断面前後差(DIDI)の比をDIDIの逆数で回帰分析した際の定数項の有意

性を確認することなどにより、両方の問題に対応できることを示した。

具体的に当該手法を用い系列相関及び処置の二次的影響の両方の可能性がある東日

本大震災・福島第一事故前後での福島県産米価格について、当該震災・事故を処置と見なした

実証分析を試みた。併せて DID における 4 つの主要な前提条件別に対策を講じなかった場

合に生じる偏差の内訳を推計し、当該事例では処置の二次的影響の問題が最大の偏差を生じ

得ることを示した。

キーワード:処置効果評価(TE) 横断面前後差分析(DID) 処置効果の対象毎の安定性

(SUTVA)

JEL classification: C31, C32, C54

RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発

な議論を喚起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表

するものであり、所属する組織及び(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありませ

ん。

*本資料中の分析・試算結果等は筆者個人の見解を示すものであって、筆者が現在所属する独立行政法人経済産業研究所、

UNFCCC-CDM 理事会など組織の見解を示すものではないことに注意ありたい。

- Ⅰ -

政策評価のための横断面前後差分析(DID)において系列相関及び処置の二次的影響の両方の可能性がある場合での新たな対策手法について

- 目 次 -

1. 本稿の趣旨と位置づけ ・ 1

1-1. 本稿の趣旨 ・・ 11-1-1. 横断面前後差分析(DID)による処置効果評価に必要な前提条件整理の必要性 ・・・ 11-1-2. 系列相関及び処置の二次的影響の可能性がある場合の対策手法開発の必要性 ・・・ 11-1-3. 横断面前後差分析(DID)の前提条件に起因した偏差の内訳推計の必要性 ・・・ 21-1-4. 本稿の目的 ・・・ 2

1-2. 主要先行研究と本稿の関係及び本稿の新規性 ・・ 31-2-1. 処置効果評価に関する先行研究調査などの研究 ・・・ 31-2-2. 処置群・対照群の同時存在性(OVLA)又は結果指標と処置の独立性(CIA)に関す ・・・ 5

る主要先行研究

1-2-3. 系列相関の不存在性(NACA)及び処置効果の対象毎の安定性(SUTVA)に関する ・・・ 7主要先行研究

1-2-4. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故関係の主要先行研究 ・・・ 9

1-3. 研究の方法と本稿の構成 ・・ 101-3-1. 本稿の研究方法 ・・・ 111-3-2. 本稿において用いる用語・記述方法と誤差などに関する仮定 ・・・ 121-3-3. 本稿の構成 ・・・ 14

2. 横断面前後差分析(DID)の前提条件と方法論 ・ 15

2-1. 主要先行研究における横断面前後差分析(DID)の前提条件の帰納的整理 ・・ 152-1-1. Rubin 因果モデル(RCM)の考え方と前提条件 ・・・ 152-1-2. 横断面前後差分析(DID)に関する主要先行研究などにおける前提条件 ・・・ 162-1-3. 横断面前後差分析(DID)に関する前提条件の帰納的整理 ・・・ 182-1-4. 横断面前後差分析(DID)に関する前提条件の帰納的整理結果 ・・・ 22

2-2. 主要先行研究における横断面前後差分析(DID)を用いた方法論の帰納的整理 ・・ 222-2-1. 横断面前後差分析(DID)などに関する主要先行研究における方法論 ・・・ 222-2-2. 横断面前後差分析(DID)を用いた方法論の帰納的整理 ・・・ 242-2-3. 横断面前後差分析(DID)を用いた主要方法論の帰納的整理結果 ・・・ 26

2-3. 各方法論に共通した処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などの問題 ・・ 272-3-1. 各方法論に共通した試料の収集・管理に関する問題 ・・・ 272-3-2. 処置の単一種類性条件(SUTVA-ST)及び処置前後での処置群・対照群の構成 ・・・ 27

の安定性条件(SUTVA-CS)の問題2-3-3. 処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)の問題 ・・・ 28

- Ⅱ -

3. 横断面前後差分析(DID)の主要前提条件と既存の対策手法 ・ 30

3-1. 結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)の問題 ・・ 303-1-1. ランダム化を用いた実験的方法と結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・ ・・・ 30

CMIA)3-1-2. マッチングを用いた統計的方法と結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・ ・・・ 35

CMIA)3-1-3. 合成対照群を用いた統計的方法と結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・ ・・・ 42

CMIA)

3-2. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題 ・・ 483-2-1. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題に関する主要先行研究での指摘 ・・・ 493-2-2. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題と既存の対策手法 ・・・ 503-2-3. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題への対策と方法論の関係 ・・・ 54

3-3. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題 ・・ 563-3-1. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題に関する主要先行研究 ・・・ 56

での指摘

3-3-2. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題と既存の対策手法 ・・・ 583-3-3. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題への対策と方法論の関係 ・・・ 68

3-4. 横断面前後差分析(DID)の主要前提条件と既存の対策手法のまとめ ・・ 683-4-1. 横断面前後差分析(DID)の主要前提条件と既存の対策手法のまとめ ・・・ 68

4. 系列相関及び処置の二次的影響の可能性がある場合の新たな対策手法 ・ 71

4-1. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題への新たな対策手法 ・・ 714-1-1. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題と新たな対策手法の考え方 ・・・ 714-1-2. 「二対象化法」による系列相関の不存在性条件(NACA)の問題への対策手法 ・・・ 72

4-2. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題への新たな対策手法 ・・ 754-2-1. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題と新たな対策手法の ・・・ 75

前提条件

4-2-2. ”BAI-DIDI 比"の回帰分析などを用いた処置の二次的影響の有無の識別 ・・・ 784-2-3. 処置の二次的影響の有無を識別した対照群による処置効果の推計 ・・・ 86

4-3. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の新たな対策手法 ・・ 884-3-1. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の対策手法 ・・・ 894-3-2. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の新たな対策手法 ・・・ 93

の位置付け

- Ⅲ -

5. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故前後の産地・銘柄別米価格を用いた実証 ・ 96分析

5-1. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故前後の産地・銘柄別米価格と背景 ・・ 965-1-1. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故と福島県産農林水産物への影響 ・・・ 965-1-2. 東北被災地 3 県での本件震災・事故の主要農産物への影響 ・・・1005-1-3. 分析に用いる産地・銘柄別米価格の試料 ・・・102

5-2. 福島県産米価格への本件震災・事故による処置効果評価のための予備的検討 ・・1045-2-1. 処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などに起因した問題と対策 ・・・1045-2-2. 結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA)に起因した問題と対策 ・・・1055-2-3. 処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)など及び結果指標と処置の独立性 ・・・112

条件(CIA)の充足を確認した対照群による横断面前後差分析(DID)

5-3. 新たな対策手法を用いた本件震災・事故による処置効果評価 ・・1145-3-1. 新たな対策手法を用いた処置効果評価(1) 処置の二次的影響の不存在性条 ・・・114

件(SUTVA-NI)に起因した問題と対策5-3-2. 新たな対策手法を用いた処置効果評価(2) 系列相関の不存在性条件(NACA) ・・・121

に起因した問題と対策

5-3-3. 新たな対策手法を用いた横断面前後差分析(DID)の結果と 4 つの主要な前提 ・・・123条件に起因した偏差の内訳推計

6. 結果の整理及び考察 ・130

6-1. 実証分析結果に基づく処置効果の推計結果の整理及び確認・検証 ・・1306-1-1. 処置効果の推計結果の整理と確認・検証 ・・・1306-1-2. 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果の整理 ・・・1326-1-3. 本件震災・事故前の試料を用いた偽薬試験による確認・検証 ・・・133

6-2. 結果の考察 ・・1356-2-1. 新たな対策手法による処置効果評価の有効性 ・・・1356-2-2. 実証分析結果から抽出される対策手法上の問題点 ・・・138

6-3. 今後の課題 ・・1406-3-1. 新たな対策手法における今後の課題 ・・・1406-3-2. 横断面前後差分析(DID)の応用全般における今後の課題 ・・・141

補論 処置前における処置群・対照群に顕著な外的要因の影響が存在する場合での ・143”BAI-DIDI 比"の回帰分析上の問題点と対策について

参考文献 ・147

2019 年 10 月戒能一成 (C)

*1 DID: Difference-In-Difference は文献により単に"DD"と略称される場青がある。和訳としては「「差の差(分析)」などが用いられるが、本稿では「 DID 」と呼称する。

*2 例えば処置の二次的影響の問題を一般均衡効果に限定している Hechman・Lochter 他(1998)などを参照。

*3 条項番号は 2019 年 11 月現在。

*4 総務省行政評価局政策評価ポータルサイトにて各省庁の評価書へのリンクが作成されており閲覧できる。http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/seisaku_n/portal/index.html

- 1 -

1. 本稿の趣旨と位置づけ

1-1. 本稿の趣旨本節においては本稿における検討の背景及び目的などの趣旨について説明する。

1-1-1. 横断面前後差分析(DID)による処置効果評価に必要な前提条件整理の必要性横断面前後差分析 (DID: Difference-In-Difference*1)は、政策評価などの処置効果評価に

おいて多用される分析手法であり、その利便性・実用性から経済学・社会学などの人文科学

から医学・薬学などの自然科学まで分野を問わず広範に応用されている。

ところが DID の応用において確認が必要な前提条件については、本稿第 2 章で説明するとおり文献・分野毎にまちまちに説明されており、経済学分野で著名な教科書とされて

いる文献においてさえ確認すべき前提条件の内容と対策手法・確認手法について断片的な

説明が行われているに過ぎない状況にある。

このような状況を招いた一因は、従来の学術的な先行研究調査における特定の分野に限

定された数量重視の調査姿勢と、前提条件の内容やその効果を統一的に理解・説明しよう

としない安易な紹介・引用が反復・継続されてきたことにあると考えられる。例えば経済学

分野での先行研究には個人を対象とした特殊な条件下でのみ有効な前提条件を取上げあた

かも一般的な前提条件であるかの如く説明している文献 *2 など、学術的な視野の狭い調査

研究が見られることは大変残念なことである。

更に前提条件に起因した問題への対策手法・確認手法は DID を応用した処置効果評価の

方法論に依存して選択されていることが多いが、主要な方法論と前提条件への対策手法・

確認手法との対応関係についても十分整理されていない状況にある。

こうした状況を背景として、本稿においては経済学・社会学及び幾つかの自然科学分野

における先行研究を学際的な視野に立って調査し、DID を用いた処置効果評価において確

認が必要な前提条件を帰納的に整理することを試行する。更に簡単な処置効果モデルを用

いて主要な方法論毎に各前提条件が充足された場合の効果や対策手法・確認手法の考え方

を統一的に理解・説明することを試行するものである。

1-1-2. 系列相関及び処置の二次的影響の可能性がある場合の対策手法開発の必要性行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成 27 年 9 月法律第 66 号)第 9 条 *3 において

は研究開発、公共事業、政府開発援助及び各種税制措置など多くの行政分野について事前

評価が義務づけられ、同法第 6 条・第 7 条により各府省が既に実施した政策の効果に関する事後評価を計画的に実施することが義務づけられた結果、国内では毎年度同法に基づき

多数の評価が実施され公表されている *4 ところである。また同法第 9 条においては「事前評価に必要な政策効果の把握の手法その他の事前評価の方法が開発されていること」が政

- 2 -

策評価の事前評価における対象選定要件の一つとされており、同法においては政策評価に

おける手法の開発もまた重要な政策課題と位置づけられている。

1-1-1.で説明した本稿第 2 章における学際的・帰納的な先行研究調査の整理結果では、DID を用いた処置効果評価においては大きく分けて 4 つの主要な前提条件が存在し、処置群・対照群の同時存在性条件、結果指標と処置の独立性条件、系列相関の不存在性条件及

び処置の二次的影響の不存在性条件などを確認することが必要であると判明している。

ところがこれらの前提条件のうち系列相関の不存在性条件及び処置の二次的影響の不存

在性条件については、DID を用いた処置効果評価の先行研究の多くにおいて前提条件とし

て必ずしも正しく認識されておらず、またこれらの前提条件に起因した問題への対策手法

・確認手法については他の 2 つの主要な前提条件と比較して十分に整備されているとは言難い状況にある。

具体的には、系列相関の不存在性条件については Hansen(2007a・2007b)により包括的な対策手法が開発されているが、試料整備負担が大きく推計手法が複雑であるという難点が

あり具体的に活用されている事例は少ない様子である。処置の二次的影響の不存在性条件

については Hudgens and Halloran(2008)による対策手法が開発されているが、実験的方法の場合にしか適用できないなどの制約が存在する。

従って現状において統計的方法の場合に適用できる系列相関の不存在性条件についての

簡易な対策手法や、処置の二次的影響の不存在性条件への対策手法・確認手法は開発・整備

されていない状況にある。

こうした状況を背景として、本稿においては DID を用いた処置効果評価における主要

な方法論のうち合成対照群を用いた統計的方法など対象数よりも時点数が多い「時間方向

に長い」試料を用いた分析の場合に焦点を当て、当該場合に適用できる系列相関の不存在

性条件及び処置の二次的影響の不存在性条件への対策手法・確認手法を開発・整備し、DIDを用いた処置効果評価の適用範囲を拡大することを企図するものである。

1-1-3. 横断面前後差分析(DID)の前提条件に起因した偏差の内訳推計の必要性本稿第 2 章で説明するとおり、1-1-2.で説明した 4 つの主要な前提条件のうち、従来は

主として処置群・対照群の同時存在性条件及び結果指標と処置の独立性条件について対策

手法・確認手法が開発・整備され、マッチングや合成対照群を用いた統計的方法など DIDを用いた処置効果評価における主要な方法論は結果指標と処置の独立性条件を充足するた

めの対策手法として開発・整備されてきた。

他方で 1-1-2.で説明したとおり、系列相関の不存在性条件及び処置の二次的影響の不存在性条件については他の 2 つの主要な前提条件と比較して対策手法・確認手法が十分に整備されているとは言難い状況にあるが、これら 2 つの前提条件への対策を講じなかった条件下でどの程度の偏差が生じるのかは明らかではない。

こうした前提条件に起因した偏差の内訳を推計するためには、まず 4 つの主要な前提条件に関する対策手法・確認手法を開発・整備した上で比較研究を行うことが必要である

が、1-1-2.で説明したとおり特に処置の二次的影響の不存在性条件については統計的方法の場合に適用可能な対策手法・確認手法が存在せず従来はこうした比較研究を行うことが

不可能であった。

こうした状況を背景として、本稿においては東日本大震災・福島第一原子力発電所事故

前後における福島県産米価格の試料を用いて、DID を用いた処置効果評価において 4 つの

- 3 -

主要な前提条件を 1 つつづ充足させた推計結果を相互に比較することにより各前提条件毎に起因した偏差の内訳を推計し、これらの前提条件への対策を講じなかった場合に生じ

得る偏差の大きさを推計することを試行するものである。

1-1-4. 本稿の目的本稿においては、学際的・帰納的な先行研究調査の結果から DID を用いた処置効果評価

において確認が必要な主要な前提条件を整理し、DID の主要な方法論別に適用できる既存

の対策手法などを整理することを試みる。

当該整理を基礎として、特に対策手法などが十分でない統計的方法において系列相関及

び処置の二次的影響の両方の前提条件に問題を生じる場合でも適用できる新たな対策手法

を開発・整備する。また当該新たな対策手法を用いて、系列相関及び処置の二次的影響の

両方の可能性がある東日本大震災・福島第一事故前後での福島県産米の相対取引価格につ

いて、当該震災・事故を処置と見なした分析を試み新たな対策手法の有効性・実用性を実証

する。

更に当該実証分析の結果から、DID を用いた処置効果評価における主要な前提条件別に

対策を講じなかった場合に生じ得る偏差の内訳を推計することを試行する。

本稿はこれら一連の研究により、DID を用いた処置効果評価の前提条件を整理し、新た

な対策手法・確認手法を開発・整備することによって、当該分析手法の適用範囲を拡大し処

置効果の推計における偏差の低減に寄与し、以て政策評価の推進を図ることを目的とする

ものである。

1-2. 主要先行研究と本稿の関係及び本稿の新規性本節においては、本稿の学術的な位置づけとその意義を明らかにするため、学術誌又は

出版物に掲載された本稿に関連する主要先行研究の内容について簡単に紹介する。またこ

れら主要先行研究と本稿との関係及び本稿における研究の新規性について説明する。

1-2-1. 処置効果評価に関する先行研究調査などの研究本稿第 2 章においては、DID を行う際に確認を要する主要な前提条件や DID を応用し

た処置効果評価の方法論について、主要な先行研究の成果を基礎として帰納的に整理する

ことを試行している。

当該帰納的整理に関連して、DID を含む処置効果評価に関する先行研究調査などの主要

な事例について簡単に紹介し本稿との関係及び本稿の新規性について説明する。

1-2-1-1. 処置効果評価に関する先行研究調査など

1-2-1-1-1. 経済学分野経済学分野での処置効果評価に関する最近の主要な先行研究調査などの事例としては、

Winship and Morgan(1999)、Imbens(2004)、Angrist and Pischke(2008)、Brundell and CostaDias(2009)、Imbens and Wooldridge(2009)及び Athey and Imbens(2017)などによる網羅的な先行研究調査が挙げられる。

典型的な事例としては Imbens and Wooldridge(2009)による調査が挙げられ、Rubin 因果

*5 RCM: Rubin Causality Model

*6 CIA: Conditional Independence Assumption

*7 SUTVA: Stable Unit Treatment Value Assumption

- 4 -

モデル(RCM*5)と処置効果評価の基礎的概念、平均処置効果・処置群平均処置効果など推計の対象・目的と検定に用いる帰無仮説、ランダム化による実験とその効果、処置率型推計

やマッチングなど結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA*6)下での推計、DID など選択因

子・説明変数が不明の場合の推計、多段階・連続的処置の場合の推計の順に説明を展開し、

多数の先行研究を題材として処置効果評価の枠組みと代表的な分析手法について整理・紹

介している。

経済学分野で処置効果評価に関して特定の課題に焦点を絞った先行研究調査などとして

は、Heckman(2000)による経済史的視点からの研究、 Imai 他(2008)による実験的方法・統計的方法の比較に関する研究、Stuart(2010)によるマッチングに焦点を絞った先行研究調査、Lechner(2010)及び戒能(2017b)による DID に焦点を絞った先行研究調査などが挙げら

れる。

1-2-1-1-2. 社会学分野同様に社会学分野での処置効果評価に関する最近の主要な先行研究調査などの事例とし

ては、Sobel(2000)、Mouw(2006)及び Gangl(2010)などによる網羅的な先行研究調査が挙げられる。

典型的な事例としては Gabgl(2010)による調査が挙げられ、基本的な推計の枠組みと結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA)の問題、実験計画と識別の問題、CIA が成立して

いる場合での推計、CIA が潜在的に成立していない可能性がある場合の推計、社会学への

応用と処置効果の対象毎の安定性条件(SUTVA*7)問題について順に説明し、主要な社会学分野での先行研究での議論と分析手法について整理・紹介している。

1-2-1-2. 処置効果評価に関する先行研究調査などと本稿との関係及び本稿の新規性1-2-1-1.で紹介した経済学分野及び社会学分野の処置効果評価に関する網羅的な先行研

究調査においては、先行研究調査で適用されている評価分析の方法・手法別に分類して内

容の概略を解説・紹介したものが多く、各評価分析の方法・手法自体について多くの紙幅を

割いて解説したものはない。例えば Imbens and Wooldrodge(2009)では DID について 6 頁、Gangl(2010)では 2 頁強で説明しているのみである。従ってこれらの網羅的な先行研究調査は、処置効果評価の基本原理や考え方の枠組みな

どについては非常に参考になるものではあるが、DID に焦点を絞ってその前提条件や主要

方法論を帰納的に整理するという本稿第 2 章の取組みとは基本的な目的が異なるものである。

経済学分野で処置効果評価上の特定の課題に焦点を絞った先行研究調査についても整理

の方法論や着眼点などは非常に参考になるものの、DID 自体を取上げたものは少なく

Lechner(2010)及び戒能(2017b)が挙げられるのみである。Lechner(2010)と本稿の相違点としては、Lechner(2010)が先行研究の結果を単に羅列し

て紹介しているのに対し本稿では新たな手法を開発することを念頭に先行研究の結果を処

置効果モデルを用いて統一的に説明することに取組んでいる点、Lechner(2010)では DID

*8 OVLA: Overlap Assumption, 多くの先行研究で"Overlap"と呼称され、一部の先行研究では"CommonSupport"と呼称されている。

- 5 -

の前提条件をいずれの主要な先行研究とも整合しない独自の理解と分類に基づき 5 つと整理しているが、本稿では Rosenbaum and Rubin(1983・1984)など先行研究での記述内容に即した帰納的方法に基づき大きく 4 つの主要な前提条件に整理されるとしている点などが挙げられる。

本稿第 2 章の先行研究調査部分は戒能(2017b)を基礎としたものである。

1-2-2. 処置群・対照群の同時存在性(OVLA)又は結果指標と処置の独立性(CIA)に関する主要先行研究

本稿第 3 章においては、DID の主要な前提条件別に当該前提条件を充足するための対策手法や結果の確認手法を整理することを試みている。

本項では当該前提条件別での対策手法・確認手法の整理に関連して、処置群・対照群の同

時存在性条件(OVLA*8)又は結果指標と処置の独立性条件(CIA)に関連した主要な先行研究について簡単に紹介し本稿との関係及び本稿の新規性について説明する。

1-2-2-1. OVLA 又は CIA に関する主要先行研究

1-2-2-1-1. OVLA に関するものDID を用いた処置効果評価の前提条件うち、OVLA に関する主要な先行研究の事例とし

ては、LaLonde(1986)による米国の職業訓練政策の試料に関するランダム化を用いた実験的方法と統計的方法による処置効果評価結果の乖離に関する問題提起や、これを受けた

Heckman,Ichimura 他(1987・1988)による当該乖離要因の内訳推計と OVLA に起因した偏差

問題の指摘及びマッチングによる対策可能性の検討、Dehejia and Whaba(1999・2002)による当該乖離解消のための層化処置率マッチングを用いた OVLA への対策措置の実証、更

に Smith and Todd(2001)や Abadie and Imbens(2002)及び Michalopoulos 他(2004)によるマッチングなどの条件を変化させた上記一連の研究結果への追試・検証及び他分野での確認

に関する研究などが挙げられる。

同様に Henderson and Chatfield(2011)は米国の政治学の分野での先行研究におけるOVLA に起因した問題を批判的に検証し、OVLA に関する感度分析を推奨している。他方 Agodini and Dynarski(2004)は米国の不登校防止対策の試料ではランダム化を用い

た実験的方法とマッチングなどの統計的方法の結果に解消できない乖離が存在し、本人の

意志など統計的に観察できない要因が結果に影響を与える場合には上記 Dehejia andWhaba1999・2002)などの方法が有効ではないことを述べている。

Crump 他(2009)は、試料分布が不均一で局所的に OVLA に問題を生じる場合について、試料の損失を抑えつつ偏差の発生や分散の過大化を防止するための取捨選択の尺度とし

て、処置率が[0.1,0.9]となる区間内の試料を用いることが最適であることを示している。

1-2-2-1-2. CIA に関するものDID を用いた処置効果評価の前提条件のうち、CIA に関する主要な先行研究の事例とし

ては、大きく分けて実験的方法と統計的方法に分けることができる。

実験的方法においてランダム化を用いた CIA の対策としては Lalonde(1986)の研究、実

*9 ATE: Average Treatment Effect

*10 CMIA: Conditional Mean Independence AssumptionImbens(2000)は 、 Rosenbaum and Rubin(1983・ 1984)に お け る CIA と OVLA の 組 合 せ が "Strong

Unconfoundness"と呼称されているのに対し CMIA と OVLAの組合せを"Weak Unconfoundness"と呼称している。

*11 NACA: No Auto-Correlation Assumption

*12 SUTVA-NI: Stable Unit Treatment Value Assumption - No Interference

- 6 -

地での実験結果を用いた Miguel and Kremer(2004)などが挙げられる。統計的方法においてはマッチングを用いた CIA の対策手法が著名であり、Rosenbaum

and Rubin(1983・1984)による処置率を用いたマッチングによる CIA の対策手法の研究、

Heckman,Ichimura 他(1987・1988)によるマッチング及び並行推移性の確認による CIA の対

策手法の研究などが挙げられる。

統計的方法の中でマッチング又は並行推移性の確認を用いない CIA への対策手法とし

ては、Ichimura and Taber(2000)による結果指標の差や処置率を用いた誘導形による直接的推計による方法、Abadie(2005)による処置率と横断面前後差の 2 段階推計を行う方法、Abadie and Gardeazabal(2003)、Abadie 他(2010・2015)による合成対照群の推計による方法、Qin and Zhang(2008)による最尤法を用いた方法などが挙げられる。また前提条件としての CIA 自体に関する研究としては、Imbens(2000)により平均処置効

果(ATE*9)などの推計においては、当該前提条件を結果指標の平均値又は期待値と処置の独立性条件(CMIA*10)に緩和できることなどが示されている。更にこれらの CIA に関する対策手法全般について Doudchenko and Imbens(2016)は試料

の対象数・対象期間及び加重比率(ウェイト)に関する制約条件の相違の問題と捉え、これらを統一的に説明する枠組みを提唱している。

1-2-2-2. OVLA 及び CIA に関する主要先行研究と本稿との関係DID を用いた処置効果評価において重要な前提条件である OVLA 及び CIA については、

上記のように既に一定の先行研究の蓄積が存在していることから、本稿第 2 章においては先行研究の成果に基づきマッチングや合成対照群などこれらの前提条件を充足し確認す

るための既存の対策手法や確認手法を帰納的に整理している。

DID の前提条件に関する既存の対策手法を整理する必要上から、本稿第 3 章においては第 2 章で帰納的に整理した OVLA 及び CIA を充足するための既存の対策措置と系列相関

の不存在性条件(NACA*11)及び処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI*12)の 2 つの前提条件の関係について議論をしている。

他方で本稿における主題は、DID を用いた処置効果評価の前提条件のうちこれまであま

り議論されてこなかった NACA 及び SUTVA-NI に起因した問題であり、特にこれらの前提条件への対策手法が十分に整備されていない統計的方法による場合に焦点を当てた研究

を行うことを企図するものである。

従って本稿においてはマッチングや合成対照群など上記 OVLA 及び CIA に関連した対

策手法それ自身については、原則としてこれら主要先行研究の成果を基礎とした整理を行

うに止めている。唯一本稿第 5 章においては、検証の目的から並行推移性の定量的確認を行った対象の平均値を用いた新たな合成対照群の方法を試行しているが、これは最適ウ

ェイトを用いずに CIA を充足する合成対照群を推計するものであり、Abadie and

*13 FGLS: Feasible Generalizad Least Square

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Gardeazabal(2003)、Abadie 他(2010・2015)などによる従来の合成対照群とは異なるものである。

1-2-3. 系列相関の不存在性(NACA)及び処置効果の対象毎の安定性(SUTVA)に関する主要先行研究

本稿第 3 章においては、DID の主要な前提条件別に当該前提条件を充足するための対策手法や結果の確認手法を整理することを試みており、第 4 章においては NACA の問題と

SUTVA の部分条件の一つである SUTVA-NI の問題の両方が存在する可能性がある場合の新たな対策手法の開発・整備を行っている。

本項では当該前提条件別での対策手法・確認手法の整理に関連して、NACA 又は SUTVAに関連した主要な先行研究について簡単に紹介し本稿との関係及び本稿の新規性について

説明する。

1-2-3-1. NACA 及び SUTVA に関する主要先行研究

1-2-3-1-1. NACA 関係DID を用いた処置効果評価の前提条件うち NACA に関する先行研究の事例としては、

大きく時間方向の系列相関に関する問題と組織方向の系列相関に関する問題を扱ったもの

に分けることができる。

時間方向の系列相関の問題については、複数の対象・期間からなる試料を用いた固定効

果モデルでの系列相関に関する Nickell(1981)及び Solon(1984)の研究、米国の労働経済分野での分析における系列相関の危険性の注意喚起と対策手法の有効性の検証に関する

Bertland 他(2004)の研究などが挙げられる。組織方向の系列相関の問題については、多数の対象からなる試料での組織方向の系列相

関に関する Moulton(1986)及び Donald and Lang(2007)の研究などが挙げられる。これら時間方向及び組織方向の系列相関の問題に関しては、Hansen(2007a・2007b)によ

る実行可能一般化最小二乗法(FGLS*13)を用いた二段階推計法による包括的対策手法が提唱されている。

1-2-3-1-2. SUTVA 関係DID を用いた処置効果評価の前提条件うち、SUTVA に関する先行研究の事例としては、

大きく分けて理論的研究、実験的方法における研究及び統計的方法における研究の 3 つに分類することができる。

SUTVA に関する理論的研究としては、Fisher(1935)、Neyman(1935)及び Cox(1958)による実験計画法に関連した研究が挙げられる。これらの研究は Rubin(1978・1979・1980 他)による一連の研究に反映され RCM における前提条件として整理されている。他方で

Manski(1993)は SUTVA の内容を 3 類型に分類した上で回帰分析モデルを用いた識別の要件について検討し一般的な識別の困難性を問題提起している。Rosenbaum(2007)はランダム化と SUTVA の関係性について多数の事例を挙げて議論し、SUTVA への対策手法とし

てのランダム化の無効性を論証している。

*14 ”Hawthone 効果"とは、社会学で著名な Hawthone 実験を巡る議論の一つであり、処置群として処置を受けた対象と同一の組織に任命されたが直接的には何の処置も受けていない、本来は対照群となるべき対象の結果指標(労働生産性)が同時並行的に向上したように観察されることをいう。特に対象が実験管理者や観察者の「期待」を意識して無理に肯定的な回答を行う乃至本来必要がない努力を払うことに起因する場合を指す。

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他方で SUTVA の条件の内容自体に関する研究については、Rubin(1980・1986・2005)及び VanderWheel(2009)による処置の種類の単一性、処置群・対照群の入替りの可能性及び処置の二次的影響の不存在性などの部分条件への分割に関する研究が挙げられる。

SUTVA に関する実験的方法における研究としては、Halloran and Struchine(1991・1995)による感染性疾患に関する免疫学分野での研究、Hudgens and Halloran(2008)による 3 群を用いた実験設計による対策手法の研究など、医学分野での SUTVA への対策の理論的枠

組の研究が著名である。当該枠組みを実験的方法で応用した事例としては、Duflo 他(2003)による米国退職貯蓄・年金制度の選択の研究、Miguel and Kremer(2004)によるケニア学童の寄生虫駆除対策の研究、Sobel(2006)による米国での貧困層郊外移転補助政策の研究、Nickerson(2008)及び Sinclair 他(2012)による米国での選挙投票行動の研究などが挙げられるが、これらの研究はいずれも処置効果の評価対象となる個人の血縁・交友などの交流関

係に起因した二次的影響を取扱ったものである。

SUTVA に関する統計的方法における研究としては、Jones(1992)による系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性を考慮した 3 通りの時系列回帰モデルによる"Hawthone 効果*14"の検証に関する研究、Glaeser 他(1996・2002)による複数横断面分析データを用いた米国の都市別の犯罪発生率と犯罪者間の交流による二次的影響の研究、Heckman・Lochner他(1998)による一般均衡モデルを用い労働賃金を介した処置の二次的影響の可能性を考慮した大学授業料免除制度の研究、Angrist and Lang(2002・2004)による米国公立学校での人種融和のための転校促進政策と生徒間の二次的影響の研究、戒能(2017b)における東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の農林水産物需給への影響の研究などが挙げられる。

1-2-3-2. NACA 及び SUTVA に関する主要先行研究と本稿との関係及び本稿の新規性

1-2-3-2-1. NACA 関係の主要先行研究と本稿との関係及び本稿の新規性1-2-3-1-1.で紹介した NACA の問題に関する主要な先行研究については、パネルデータ

に よ る 一 般 的 な 分 析 の 場 合 (Nickell(1981)、 Solon(1984)、 Bertland 他 (2004)及 び

Hansen(2007a・2007b))又は試料において十分な対象数が得られる場合(Moulton(1986)及びDonald and Lang(2007))についての対策手法に関するものである。これらの対策手法のうち分析に用いる試料において、限られた対象数しか得られないが

十分な時点数が得られる「時間方向に長い」試料の場合に有効な対策手法は Hansen(2007a・2007b)による包括的な対策手法のみであるが、当該対策手法は非常に複雑であり実際に当該対策手法を応用した主要な先行研究の事例を見いだすことができなかった。

本稿においては、Bertland 他(2004)による「二期化法」を参考として、限られた対象数しか得られないが十分な時点数が得られる「時間方向に長い」試料の場合に有効でかつ十分簡

易な DID における NACA の問題への対策手法を開発し、かつその実用性について実証分

析を行うことを試行するものである。

1-2-3-2-2. SUTVA 関係の主要先行研究と本稿との関係及び本稿の新規性

*15 以下「本件震災・事故」と略称する。

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1-2-3-1-2.で紹介した SUTVA の問題に関する主要な先行研究のうち、理論的研究に関しては Rubin(1978・1979・1980 他)による RCM における前提条件の整理が著名であり、本稿

第 2 章での整理については RCM における前提条件を基礎とし、更に Rubin(1980・1986・2005)などによる SUTVA の条件分割の考え方を応用した整理を試行している。

SUTVA に関する実験的方法における研究としては Hudgens and Halloran(2008)による対策手法の研究が著名であり当該研究の基礎となった Halloran and Struchine(1991・1995)と併せて多くの応用事例が挙げられ、本稿第 3 章での整理及び第 4 章での新たな対策手法の開発においても当該研究を参考としている。しかし本稿においては特に SUTVA に起因

した問題への対策手法が実験的方法と比べ十分に整備されていない統計的方法による場合

に焦点を当てた研究を試みており、実験的方法自体は研究の対象とはしていない。

SUTVA に関する統計的方法における研究のうち、Glaeser 他 (1996・2002)及び Angristand Lang(2002・2004)の研究については、処置の二次的影響を受けていた可能性の高い試料と低い試料を比較するなど特殊な状況設定を利用して処置の二次的影響の存在を検証・

確認するに止まっており、本稿第 4 章及び第 5 章における処置の二次的影響の検出・補正のための対策手法や確認手法の開発及びこれらを応用した処置効果評価などへの取組みは

行われていない点が指摘できる。

同じく統計的方法において Jones(1992)及び Heckman・Lochner 他(1998)が分析の方法論として SUTVA などによる問題を念頭に時系列回帰モデルや一般均衡モデルを用いた分析

を行っている。特に系列相関と処置の二次的影響の両方の問題に対し時系列回帰モデルを

用いた対策手法を講じた Jones(1992)の研究は、本稿第 4 章における新たな対策手法の開発において大きな参考となったものである。これらの研究では処置を受けた対象の結果指

標について十分な数の説明変数が得られることを与件とし二次的影響の経路やモデルの構

造を特定化した推計となっているが、本稿においては必ずしもこうした説明変数の入手が

できない場合や二次的影響の経路やモデルの構造の特定化ができない場合に DID を応用

した処置効果の推計や実証分析を試みるものであり、分析における与件及び方法論が異な

っている。

本稿においては、実験的方法における Hudgens and Halloran(2008)の方法や統計的方法における Jones(1992)を参考として、限られた対象数しか得られないが十分な時点数が得られる「時間方向に長い」試料の場合に有効な DID における SUTVA の問題への対策手法を開発し、かつその実用性・有効性について実証分析を行うことを試行するものである。

1-2-4. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故関係の主要先行研究本稿第 4 章において開発した新たな対策手法については、第 5 章において東日本大震

災・福島第一原子力発電所事故 *15 前後での福島県産米の相対取引価格の試料を用いた実証

分析を行い第 6 章でその結果を評価・検証し考察している。当該実証分析に関連して、本件震災・事故などに起因した農林水産物の需給への影響に

関連した主要な先行研究について簡単に紹介し本稿との関係及び本稿の新規性について説

明する。

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1-2-4-1. 本件震災・事故などによる農林水産物の需給への影響に関する研究

1-2-4-1-1. 本件震災・事故に関するもの本件震災・事故による農林水産物の需給への影響に関する研究としては、古屋他(2011)

による卸売市場取引産品の価格・数量への影響の定量的分析、氏家(2012)による野菜・牛乳への消費者の支払意思関数の推計、関根(2012)、阿部(2013)、吉野(2013)及び戒能(2017a)による農林水産統計及び中央・地方卸取引市場などを用いた需給の分析、田島(2014)による滋賀県での加工食品への風評被害の影響分析などが挙げられる。

戒能(2017a)以外で米の価格を分析の対象としかつ DID を用いた分析としては、永田他

(2016)が 2010 年度の福島県産米と幾つかの他産地米の店頭小売価格の POS データを用いて、本件震災・事故後の消費者行動による風評被害の影響を既存の DID により定量的に分

析することを試みている。

1-2-4-1-2. 本件震災・事故以外に関するもの本件震災・事故以外の原子力事故被害又は農林水産物への風評被害に関する研究として

は、住田(2003)による茨城県東海村 JCO 臨界事故での風評被害に関する研究、辻・関谷

(2006)によるナホトカ号原油流出事故などによる風評被害の研究、上野(2005)及び吉川・上野(2007)による鳥インフルエンザ事件などによる消費者不買行動の研究、古屋他(2008)による牡蛎貝毒・ノロウィルスによる風評被害の定量的評価の研究、関谷(2011)による風評被害の発生・拡大機構に関する研究などが挙げられる。

1-2-4-2. 本件震災・事故関係の主要先行研究と本稿との関係及び本稿の新規性1-2-4-1.で紹介した本件震災・事故による農林水産物の需給への影響に関する研究につい

ては、古屋他(2011)、関根(2012)、阿部 (2013)及び吉野 (2013)など大部分が東京都中央卸売市場など卸取引市場での食肉類・青果類などの取引数量・価格を用いた分析を行ってお

り、氏家(2012)及び田島(2014)がアンケート調査や店頭販売データを用いた食品への影響分析を行っているが、これらは米の価格を分析の対象とはしておらず DID を分析手法と

して用いているものはない。同様に本件震災・事故以外による農林水産物の需給への影響

に関する研究において、米の価格を分析の対象としたものや DID を分析手法として用い

たものは見られなかった。

米の価格を分析の対象としかつ DID を用いた研究である永田他(2016)と本稿の相違点としては、本稿では 2010 年だけではなく 2002 年から 2019 年迄の米の卸売段階での相対取引価格を用い価格への影響の発生から収束迄の一連の過程を分析対象としている点、風評

被害など消費者行動だけに着目した分析を企図していない点、従来知られている DID の

手法ではなく系列相関や処置の二次的影響の可能性を考慮した新たな手法を適用している

点、合成対照群の推計など対照群の取捨選択方法を明確に示し必要な前提条件の充足を確

認した上で分析を試行している点などが挙げられる。

他に米の価格を分析の対象とした研究としては戒能(2017b)が挙げられるが、本稿の実証分析部分は当該研究を基礎として適用すべき手法を改良したものである。

1-3. 研究の方法と本稿の構成本節においては、本稿の研究の方法、本稿において用いる用語・記述方法と誤差などに

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関する共通の仮定及び本稿の構成について説明する。

特に本稿の研究の特性上から試料の時点と対象を厳密に区分し特定する必要があるが、

残念ながら DID に関する用語・記述方法は学術分野毎に大きく異なり統一されていないこ

とから、本稿各章において共通的に用いる対象の分類、モデルなどに関する用語・記述方

法並びに誤差及び変数に関する仮定について説明する。

1-3-1. 本稿の研究方法本稿の研究方法は以下のとおりである。

1-3-1-1. DID の前提条件と方法論の帰納的整理最初に、本稿が研究の対象とする DID において確認を要する前提条件と主要な方法論

について主要先行研究を用いて帰納的に整理する。

当該整理においては、最初に DID に関する計量経済学の教科書をはじめ経済学・社会学

などでの主要先行研究の前提条件に関する記述を比較・検討し、確認を要する主要な前提

条件が 4 つ、部分的な条件を含めると全部で 6 つ存在することを示す。同様に DID に関

連した主要先行研究での方法論の分類を帰納的に検討し、方法論が大きく 3 通りに分類できることを示す。

更に 4 つの主要な前提条件のうち、上記 3 通りの方法論に共通して処置効果評価を開始する時点において検討すべき OVLA など試料の収集・管理に関する前提条件について、

既存の確認手法などを整理する。

1-3-1-2. DID の主要前提条件と既存の対策手法の整理次に、DID において確認を要する主要な前提条件のうち残り 3 つの試料の性質に関する

前提条件である、CIA、NACA 及び SUTVA-NI の 3 つの前提条件について、上記 3 通りの方法論別に主要先行研究の結果からこれらの前提条件を充足するための既存の対策手法を

整理する。

当該整理においては、各方法論における主要先行研究の結果を基礎として各前提条件の

充足のために既に知られている対策手法やその確認手法について説明するとともに、これ

らの前提条件が充足された際の DID における効果について処置効果モデルを用いて統一

的に説明する。

1-3-1-3. NACA 及び SUTVA-NI の問題に対する新たな対策手法の開発1-3-1-2.での既存の対策手法についての整理を基礎として、対象方向よりも時間方向に

多数の試料が得られる場合における DID を用いた処置効果評価において、系列相関及び

処置の二次的影響の両方の問題が存在する可能性がある場合に適用可能な新たな対策手法

を開発する。

また当該新たな対策手法を適用する場合において必要な追加的前提条件を整理し、実際

に当該新たな対策手法を処置効果評価に適用する際の実施手順などの問題について検討し

た結果を示す。

1-3-1-4. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故前後の産地・銘柄別米価格を用いた実証

分析

1-3-1-3.において新たに開発した系列相関及び処置の二次的影響の両方の問題への対策

*16 統計学などの先行研究においては、用語・記述方法について十分な説明がないにもかかわらず処置の有無や処置群の選択の有無を括弧書で表現し時点・対象を式中で明示しない例や、時点・対象などを全部添字で表現している難解な例があることに注意。

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手法について、実際にこれら両方の問題の可能性が懸念される東日本大震災・福島第一原

子力発電所事故前後での福島県産米の相対取引価格への影響の事例を用いて、当該震災・

事故を処置と見なした分析を試行し、当該問題に対する新たな対策手法の有効性について

の実証分析を行う。

当該実証分析においては、新たな対策手法の適用手順に従って DID の 4 つの主要な前提条件への対策手法を順番に適用した結果を相互に比較することによって、各前提条件に

起因した偏差の内訳推計を行う。

1-3-1-5. 結果の整理及び考察最後に 1-3-1-4.での実証分析の結果を整理し確認・検証を行うことにより、1-3-1-3.で開

発した新たな対策手法の実用性・有効性とその問題点についての考察を行う。

更に当該整理及び考察を基礎として、新たな対策手法及び DID の応用全般に関する今

後の課題について説明を行う。

1-3-2. 本稿において用いる用語・記述方法と誤差などに関する仮定

1-3-2-1. 本稿において用いる試料の時点と対象についての分類と用語・記述方法最初に、本稿において用いる試料の時点と対象についての分類と用語・記述方法につい

て説明する。

本稿においては試料の時点と対象を明確に識別して記述するため、試料の時点を括弧書

きし対象を添字で表現する*16 こととする。

各変数における時点の記述については、単に時点を t として Y(t)などと表現した場合は時点を問わない当該変数を指すものとし、時点を t-s として Y(t-s)などと表現した場合は処置前、時点を t+u として Y(t+u)などと表現した場合には処置後を指すものとする。他方で括弧書による時点の記述のない変数は時点により変化しないことを示す。

ある対象が分析の目的となる処置を直接受ける群に含まれる場合については、当該対象

は処置群(Treatment Group)に属するとし、対象についての添字を k としてダミー変数 Dを用い Dk=1 と表現する。他方で対象が分析の目的となる処置を直接受けない群に含まれる場合については、当該対象は対照群(Control Group)に属するとし、対象についての添え字を i としてダミー変数 D を用い Di=0 と表現する。更に、処置群に含まれる対象 k が時点 t で実際に分析の目的となる処置を受けた状態に

ついてはダミー変数 T(t)を用いて Tk(t+u)=1 と表現し、処置群に含まれる対象であっても処置前の時点など処置を受けていない状態については Tk(t-s)=0 と表現する。対照群に含まれる対象 i については常に Ti(t)=0 と表現する。

1-3-2-2. 本稿において説明に用いる処置効果モデルと用語・記述方法

*17 当該処置効果モデルは誤差に関する仮定のみが異なっているがパネルデータ分析などで頻繁に用いられる固定効果モデルと本質的に同じものである。

固定効果モデルを処置効果評価やDIDの検討に用いた事例については Abadie and Gardeazabal(2003),Bertland 他(2004), Donald and Lang(2007)などの先行研究や、国内でも北村(2009)及び山本(2015)による教科書など多くの事例が存在しており、本稿において特殊なものではない。

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本稿における DID に関する説明に際しては、式 1-3-2-2-1-1.に示す処置効果モデル*17 を

用いてこれを行う。以下当該モデルに関連する用語・記述方法について説明する。

式 1-3-2-2-1-1.中の式 13221101 に示すとおり、当該処置効果モデルでは処置前の t-s 時点での処置群の対象 k の結果指標 Yk(t-s)について、観察可能な説明変数と係数の積 β・Xk(t-s)、未知の変数 Zk(t-s)及び誤差項 εk(t-s)で構成されると仮定する。更に式 13221105 に示すとおり当該未知の変数 Zk(t-s)部分は、対象 k 毎に個別的な未知の定数項 Zck、処置群・

対照群を問わず全対象に共通的な時間変動部分 Za(t-s)、対象 k 毎に個別的な時間変動部分 Zbk(t-s)で構成されていると仮定する。他方で式 13221102 に示すとおり時点 t で当該対象 k に処置が行われた処置後の t+u 時

点での対象 k の結果指標 Yk(t+u)については、観察可能な説明変数と係数の積 β・Xk(t+u)、未知の変数 Zk(t+u)、対象 k 毎に個別的な未知の処置効果 ZFk(t+u)及び誤差項 εk(t+u)で構成されると仮定する。

更に式 13221106 に示すとおり未知の変数 Zk(t+u)部分は対象 k 毎に個別的な未知の定数項 Zck、処置群・対照群を問わず全対象に共通的な未知の時間変動部分 Za(t+u)、対象 k 毎に個別的な未知の時間変動部分 Zbk(t+u)で構成されていると仮定する。同様に対照群の対象 i については処置前について式 13221103、処置後について式

13221104 に示すとおり観察可能な説明変数と係数の積 β・Xi(t-s)又は β・Xi(t+u)、未知の変数 Zi(t-s)又は Zi(t+u)及び誤差項 εi(t-s)又は εi(t+u)で構成されると仮定する。更に処置前について式 13221107、処置後について式 13221108 に示すとおり未知の変

数 Zi(t-s)又は Zi(t+u)の部分は、対象 i 毎に個別的な未知の定数項 Zci、処置群・対照群を問

わず全対象に共通的な未知の時間変動部分 Za(t-s)又は Za(t+u)、対象 i 毎に個別的な未知の時間変動部分 Zbi(t-s)又は Zbi(t+u)で構成されていると仮定する。

[式 1-3-2-2-1-1. 本稿において説明に用いる処置効果モデル]

Yk(t-s) = β・Xk(t-s) +Zk(t-s) +εk(t-s) |X, Dk=1, Tk(t-s)=0 式 13221101Yk(t+u) = β・Xk(t+u) +Zk(t+u) +ZFk(t+u) +εk(t+u) |X, Dk=1, Tk(t+u)=1 式 13221102Yi(t-s) = β・Xi(t-s) +Zi(t-s) +εi(t-s) |X, Di=0, Ti(t-s)=0 式 13221103Yi(t+u) = β・Xi(t+u) +Zi(t+u) +εi(t+u) |X, Di=0, Ti(t+u)=0 式 13221104

Yk(t-s) = β・Xk(t-s) +Zck +Za(t-s) +Zbk(t-s) +εk(t-s) |X, Dk=1, Tk(t-s)=0 式 13221105Yk(t+u) = β・Xk(t+u) +Zck +Za(t+u) +Zbk(t+u) +ZFk(t+u) +εk(t+u) |X, Dk=1, Tk(t+u)=1 式 13221106Yi(t-s) = β・Xi(t-s) +Zci +Za(t-s) +Zbi(t-s) +εi(t-s) |X, Di=0, Ti(t-s)=0 式 13221107Yi(t+u) = β・Xi(t+u) +Zci +Za(t+u) +Zbi(t+u) +εi(t+u) |X, Di=0, Ti(t+u)=0 式 13221108

t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)Yk(t-s), Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yi(t-s), Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について観察可能な説明変数

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Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Dk, Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Tk(t-s), Tk(t+u), 時点 t-s, t+u での処置実施ダミー (処置実施 1,処置不実施は 0)Ti(t-s), Ti(t+u) 時点 t-s, t+u での処置実施ダミー (処置不実施は 0)Zk(t-s), Zk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について未知の変数Zi(t-s), Zi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について未知の変数Zck, Zci 対象 k,i 毎に個別的な未知の定数項Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s,t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の時間変動部分Zbi(t-s), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎に個別的な未知の時間変動部分ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の処置効果εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎の誤差項εi(t-s), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項

1-3-2-3. 本稿において説明に用いる処置効果モデルと誤差及び変数に関する独立性の仮定

議論の便宜のため、式 1-3-2-2-1-1.で説明した処置効果モデル中の未知の変数部分 Z(t)又は Zc, Za(t), Zb(t)と、未知の処置効果部分 ZF(t)は互いに独立であると仮定する。処置効果モデル中の誤差項 ε(t)は、他の未知の時間変動部分 Za(t),Zb(t)や処置効果部分

ZF(t)などの変数から独立であり、期待値が 0 であるものと仮定する。また特に断らない限り誤差項 ε(t)は互いに独立であり組織方向又は時間方向に系列相関

などを持たないと仮定する。

従って本稿の主たる研究対象である系列相関の問題や処置の二次的効果の問題は、対象

毎に個別的な未知の時間変動部分 Zb(t)に生じる組織方向及び時間方向での系列相関の問題や、処置効果 ZF(t)による処置の二次的効果の問題に起因して生じるものとして取扱う。

1-3-3. 本稿の構成本稿の構成については以下のとおりである。

第 1 章においては本稿の趣旨、主要先行研究と本稿の関係及び研究の方法と本稿の構成について説明する。

第 2 章においては主要先行研究における DID の前提条件と方法論について帰納的に整

理し、DID において確認を要する 4 つの主要な前提条件など及び DID を用いた主要な 3つの方法論について説明する。

第 3 章においては主要先行研究における結果から DID において確認を要する主要な前

提条件への既存の対策手法などについて 3 つの方法論別に整理して説明する。第 4 章においては第 2 章及び第 3 章における整理を基礎として、本稿において開発し

た系列相関及び処置の二次的影響の両方の可能性がある場合に適用可能な新たな対策手法

について説明する。

第 5 章においては第 4 章において開発した新たな対策手法を応用し、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故前後での福島県産米価格を用いた実証分析の結果について説明す

るとともに、当該結果において 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計を行った結果について説明する。

第 6 章においては第 5 章の結果について整理し、確認・検証及び考察を行い今後の課題について説明する。

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2. 横断面前後差分析(DID)の前提条件と方法論

2-1. 主要先行研究における横断面前後差分析(DID)の前提条件の帰納的整理本節においては、処置効果評価に関する主要先行研究から横断面前後差分析(DID)の前

提条件について帰納的に整理する。Rubin 因果モデル(RCM)など横断面前後差分析(DID)に関する主要先行研究において提示されている前提条件について大きく 4 つの条件に整理されることを示し、本稿における横断面前後差分析(DID)の検討についての基礎とする。

2-1-1. Rubin 因果モデル(RCM)の考え方と前提条件

2-1-1-1. RCM の考え方

RCM は、Rubin による一連の研究(1978・1979・1980 他)において確立された処置効果評価の基本的枠組みであり、Holland(1986)により命名されたものである。図 2-1-1-1-1-1.に RCM による処置効果の推計の概念図を示す。

RCM の基本的な考え方は、「理想的な状況下において、処置効果は処置を受けた対象の

現実の結果指標と、同一時点において仮に処置を受けなかった場合に生じたであろう仮想

現実による結果指標との差に等しい」というものである。

現実には当該対象は処置を受けてしまっており、処置を受けた場合の結果指標だけが観

察可能であるため、「処置を受けなかった場合に生じたであろう仮想現実による結果指標」

は直接観察することはできず何らかの方法で推計することが必要である。

当該「処置を受けなかった場合に生じたであろう仮想現実による結果指標」の推計を行う

方法論としては様々なものが考えられるが、RCM においては方法論自体については何も

述べておらず、後述するとおりこうした方法論が満たすべき処置効果評価のための前提条

件を 3 つ述べているのみである。

[図 2-1-1-1-1-1. Rubin 因果モデル(RCM)による処置効果の推計の概念図]

結果指標 Yk,YiYi(t+u) | Di=0,Ti(t+u)=0 対照群 i の t+u での実績値

(k の仮想現実を推計する材料)対照群の対象 iYi(t-s) | Di=0,Ti(t-s)=0

Yi(t-s') | Di=0,Ti(t-s')=0 Yk(t+u) | Dk=1,Tk(t+u)=0 処置群の対象 k が処置を受けなかった場合に t+u で生じ

た仮想現実の結果指標(観察不能)Yk(t-s) | Dk=1,Tk(t-s)=0

処置効果

Yk(t-s') | Dk=1,Tk(t-s')=0処置群の対象k

Yk(t+u) | Dk=1,Tk(t+u)=1処置群の t+u での実績値

処置実施前 t-s t-s' 処置▲実施 t t+u 処置実施後 時 間 t

2-1-1-2. RCM と 3 つの前提条件Rosenbaum and Rubin(1983,1984)は RCM を実際に応用した典型的な事例であり、処置

*18 PSM: Propensity Score Matching

*19 SUTVA-ST: Stable Unit Treatment Value Assumption - Single Treatment

*20 条件 X'としては個人であれば年齢・職業・住所、企業であれば売上高・従業員数などが例として挙げられる。

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率を用いたマッチング(PSM*18)による処置効果評価の先駆的研究として著名である。これらの研究においては、RCM を基礎として偏差のない処置効果の推計を行うために

は 3 つの前提条件が充足されることが必要であると説明されている。当該 3 つの前提条件とは 1)処置効果の対象毎の安定性条件(SUTVA)、2)結果指標と処置の選択との独立性条件(CIA)及び 3)処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)であり、以下これらの内容を簡単に説明する。

2-1-1-2-1. SUTVASUTVA とは「処置群の対象がある処置を受けた際に、当該処置後における処置群・対照

群の結果指標は処置群・対照群の構成や観察方法により変化することなく安定して観察さ

れること」という前提条件である。

当該条件に抵触する場合については幾つかの類型が考えられ、処置の種類が単一でない

場合、処置群・対照群で対象が入替わった場合及び処置群・対照群に処置の二次的影響が及

んでいる場合などが考えられる。当該前提条件については抵触する問題の類型に応じて

Rubin(1980・1986・2005)により、1)処置の内容単一種類性条件(SUTVA-ST*19)及び 2)処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)に条件を分割できることが示されている。

2-1-1-2-2. CIACIA とは、ある条件 X’ を満たす処置群・対照群の対象について、その結果指標の大きさ

が処置を受けるか否かの選択から独立であること、という前提条件である。

条件 X'とは処置効果評価の必要に応じ対象となる個人・企業の属性を特定・限定する条件*20 であり、処置群・対照群の対象がいずれも充足すべき条件である。

Rosenbaum and Rubin(1983)においては、当該前提条件が充足されている場合には処置群・対照群の対象の選択は結果指標から独立であって、各対象は条件 X'を満たす集合からあたかもランダムに選択されて各群に振分けられたと見なせる、と説明されている。

当該前提条件は 1-2-2-1.で説明したとおり Imbens(2000)により ATE などの推計におい

ては処置とこれに対応する処置群・対照群の結果指標の平均値・期待値が独立であればよい

とする CMIA に緩和できることが示されている。

2-1-1-2-3. OVLAOVLA とは、分析の対象がある条件 X’ を満たす範囲において処置群・対照群の対象が必

ず両方存在していること、という前提条件である。

多くの先行研究において当該条件は、処置率を用いることによりある条件 X’ の下で処置率が 0 と 1 の間にあること、という形で表現されている。

2-1-2. 横断面前後差分析(DID)に関する主要先行研究などにおける前提条件

2-1-2-1. Wooldridge(2003)による前提条件計量経済学の教科書である Wooldridge(2003)においては、処置効果評価全般に関する項

*21 SUTVA-CS: Stable Unit Treatment Value Assumption - Composition Stability

*22 CPTA: Common Trend / Parallel Trend Assumption

*23 IIDA: Independently and Identically Distributed Assumption (単に ”i.i.d.”と略される場合多し)

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目において 2-1-1.で説明した RCM の場合とほぼ同じ下記 3 つの前提条件が充足されることが必要であると説明している。但し DID について特定した記述ではなく、処置効果評

価全般に関する部分での説明であることに注意が必要である。

Wooldridge(2003)における処置効果評価の 3 つの前提条件は、1)SUTVA、2)CIA 又は CMIA及び 3)OVLA であると説明されている。

2-1-2-2. Cameron and Trivedi(2005)による前提条件計量経済学の教科書である Cameron and Trivedi(2005)においては、DID など処置効果評

価に関する項目において 2-1-2-1.で説明した Wooldridge(2003)と類似の下記 3 つの前提条件が充足されることが必要であると説明している。

Cameron and Trivedi(2005)における処置効果評価の 3 つの前提条件は、1)SUTVA の一部、2)CIA 又は CMIA 及び 3)OVLA である。ここで Cameron and Trivedi(2005)が SUTVA の概念を限定していることに注意が必要である。

Cameron and Trivedi(2005)においては、SUTVA について Heckman・Lochner 他(1998)による一般均衡効果を通じた二次的影響を指すものとし、RCM における SUTVA の概念を

限定して説明している。

2-1-2-3. Angrist and Pischke(2008)による前提条件比較的最近の計量経済学の教科書である Angrist and Pischke(2008)においては、処置効

果評価の項目で DID などを用いた労働経済学分野での先行研究を順に説明し、その過程

において合計で以下 6 つの前提条件について説明している。Angrist and Pischke(2008)における処置効果評価の 6 つの前提条件は。1)処置効果の対

象毎の安定性条件の一部である処置前後での対照群・処置群の構成の安定性条件

(SUTVA-CS*21)、2)CIA 又は CMIA、3)OVLA、4)処置群・対照群の結果指標の処置前における並行推移性条件(CPTA*22)、5)誤差の独立・均質分布性条件(IIDA*23)及び 6)NACA である。

Angrist and Pischke(2008)においては、SUTVA のうち SUTVA-CS についてのみ説明しており、RCM における SUTVA の概念を限定しているものと推定される。

CIA・CMIA 及び OVLA については、Wooldridge(2003)とほぼ同様の内容である。CPTA については、DID における識別のための条件であるとした上で、DID を用いた著

名な処置効果評価の事例である Card and Kruger(1994・1998)及び Pischke(2007)の事例を説明し、処置群・対照群の結果指標を処置前の複数時点について観察し両者の並行推移性

を確認していることを説明している。

IIDA 及び NACA については、理由は不詳であるが特段の事例に触れず単に誤差に関し

て充足が必要な前提条件であると説明している。

Angrist and Pischke(2008)においては前述のとおり先行研究を説明する過程や一般的な議論において合計 6 つの前提条件の充足が必要であると個別に説明しているため、これら 6 つの前提条件の相互の関係については何も述べていない点に注意することが必要である。

*24 ”John-Henry 効果"とは、対照群となるべき対象が比較が行われることを認識した上で特殊な行動をとり処置群との単純な比較が行えなくなってしまう効果をいう。当該名称は 1870 年代に蒸気削岩機と生産性を競い驚異的な連続作業でこれを打負かしたものの直後に心臓発作で他界した実在の土木作業員名に由来する。

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2-1-2-4. Gangl(2010)による前提条件計量社会学の分野における代表的な先行研究調査である Gangl(2010)においては、DID

を含む処置効果評価について初期の基礎的議論から説明を開始し、処置効果評価の前提条

件を 2 つ紹介し前提条件別に主要な方法論の展開を時系列で網羅的に整理・紹介している。当該 Gangl(2010)における 2 つの主要な前提条件は 1)SUTVA 及び 2)CIA 又は CMIA の 2

つである。これらの前提条件は Wooldridge(2003)同様に Rosenbaum and Rubin(1983)を基礎とするものと考えられるが、理由は不詳であるが OVLA についての説明は見られない。

Gangl(2010)によれば計量社会学の分野において SUTVA に関連する問題が重視される理由として、そもそも血縁・交友関係など人的交流による二次的影響そのものが社会学にお

ける重要な研究対象であることに加え、計量社会学の草創期より"Hawthone 効果"や"John-Henry 効果*24"など SUTVA に関連する問題の存在が認識され古くから議論が行われてきたことに起因するとされている。

2-1-2-5. Columbia 大学 Mailman 校公衆衛生学講座公開資料(2017)による前提条件自然科学分野のうち公衆衛生学の分野における事例として、Columbia 大学 Mailman 校

公衆衛生学講座公開資料(2017)による処置効果評価についての資料の中で、DID による処

置効果評価に必要な前提条件として以下の 4 つを説明している。当該 Columbia 大学 Mailman 校公衆衛生学講座公開資料(2017)における 4 つの主要な前

提条件は 1)CMIA、2)CPTA、3)SUTVA-NI 及び 4)SUTVA-CS である。CMIA については、Imbens(2000)による CMIA について述べているものと考えられる。

CPTA については、公開資料の中で図を用いて処置群・対照群の結果指標を処置前の複

数時点について観察し両者の並行推移性を確認すべきことを説明している。

SUTVA-NI については 2-1-1-2.で説明した Rubin による SUTVA-NI と同じ内容であり、SUTVA-CS については 2-1-1-2-3.で説明した Angrist and Pischke(2008)による SUTVA-CSと同じ内容であることが確認される。

2-1-3. 横断面前後差分析(DID)に関する前提条件の帰納的整理

2-1-3-1. 主要先行研究における DID の前提条件の一覧化2-1-1.においては Rosenbaum and Rubin(1983・1984)などによる RCM での前提条件につ

いて説明し、2-1-2.においては更に主要な学術分野の先行研究 5 事例における前提条件について説明したが、ほぼ全部の先行研究について前提条件が相互に少しづつ異なっており

整理がなされていないことが理解される。

このため DID に必要な前提条件の帰納的整理を試みるべく、最初に 2-1-1.及び 2-1-2.で説明した主要先行研究における前提条件を分類し一覧化する。

2.1.3.1.1 DID の前提条件の一覧化表 2-1-3-1-1-1.に主要先行研究における DID の前提条件を一覧化した結果を示す。当該一覧化の結果から、SUTVA、CIA・CMIA 及び OVLA など RCM において必要とされ

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ていた 3 つの前提条件については、細かい相違点はあるもののその一部又は全部が主要な先行研究において前提条件として確認が必要とされていることが理解される。

[表 2-1-3-1-1-1. 主要先行研究における DID の前提条件の一覧化]

/ 先行研究 Ro&Ru. Rubin Woold. Ca&Tr. An&Pi. Gangl Colmb.前提条件 (1983・4) (80-05) (2003) (2005) (2008) (2010) (2017)

SUTVA ○ ○ ○ △ △ ○ △

-ST -- ○ -- -- -- -- ---CS -- -- -- -- ○ -- ○

-NI -- ○ -- -- -- -- ○

CIA・CMIA ○ ○ ○ ○ ○ ○ △

CIA ○ ○ ○ ○ ○ -- --CMIA -- -- ○ ○ ○ -- ○

CPTA -- -- -- -- ○ -- ○

OVLA ○ ○ ○ ○ ○ -- --IID -- -- -- -- ○ -- --NACA -- -- -- -- ○ -- --

(前提条件)SUTVA 処置効果の対象毎の安定性条件 Stable Unit Treatment Value Assumption

-ST 処置の単一種類性 - Single Treatment-CS 処置前後での処置群・対照群の構成の安定性 - Composition Stability-NI 処置の二次的影響の不存在性 - No Interference

CIA 結果指標と処置の選択との独立性条件 Conditional Independence AssumptionCMIA 結果指標の期待値・平均値と処置の選択との独立性条件 Conditional Mean Ind. As.CPTA 結果指標の処置前における並行推移性条件 Common Trend / Parallel Trend As.OVLA 処置群・対照群の同時存在性条件 Overlap AssumptionIIDA 誤差の独立・均質分布性条件 Independently and Identically Distributed AssumptionNACA 系列相関の不存在性条件 No Auto-Correlation Assumption

(先行研究)Ro&Ru Rosenbaum and Rubin (1983・1984) (統計学)Rubin Rubin (1980・1986・2005) (統計学)Woold. Wooldrdge (2003) (経済学)Ca&Tr. Cameron and Trivedi (2005) (経済学)An&Pi. Angrist and Pischke (2008) (経済学)Gangl Gangl (2010) (社会学)Colum. Columbia Univ. Mailman School (2017) (自然科学)

(記載内容)○ 説明あり△ 該当する前提条件の一部についてのみ説明あり-- 説明なし

2.1.3.1.2 DID の前提条件の一覧化と論点更に当該一覧化の結果から、前提条件の内容毎に以下の 4 点が指摘される。

(1) SUTVA の条件分割SUTVA については、ほぼ全部の先行研究が何らかの形で当該条件について言及してい

るものの、当該条件を分割した部分条件のうちでどの部分を前提条件として確認すること

が必要かという点について、見解の相違がある。

(2) CIA・CMIA と CPTA の関係CIA・CMIA については、ほぼ全部の先行研究が当該前提条件の確認が必要であるとして

*25 SUTVAの部分条件への分割については、当該 3 類型の他にも類型が存在する可能性は否定できないが、少なくとも RCM により SUTVA の概念が提唱されてから約 30 年が経過した現状において経済学・社会学などの主要文献において当該 3 類型しか記載がないことを考慮すれば、他に類型が存在する可能性は低いものと考えられる。

- 20 -

いるが、他方で一部の先行研究では更に CPTA を前提条件として確認する必要があると

している。しかしそもそも RCM では CPTA を確認を要する前提条件として位置づけておらず、両者の関係は明らかではない。

(3) OVLA の妥当性OVLA については、大部分の先行研究が当該前提条件の確認が必要であるとしている。

(4) NACA などの確認の必要性NACA 及び IIDA については、一部の先行研究において当該前提条件の確認が必要であ

るとしているが、RCM では NACA 及び IIDA を確認を要する前提条件として位置づけていない。

従って以下本項においては、大部分の先行研究において見解が一致している(3)処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)を除いた上記 3 つの点について議論し、DID において確

認すべき前提条件の内容の帰納的整理を進めていくものとする。

2-1-3-2. SUTVA の条件分割について2-1-3-1.においては主要先行研究における前提条件の一覧化結果から、SUTVA について

は当該条件を分割した部分条件のうちでどの部分を前提条件として確認することが必要か

という点について、見解の相違があることが指摘される。

ここで、2-1-1.及び 2-1-2.での主要先行研究における SUTVA の部分条件への分割については、当該一覧化の結果から 1)SUTVA-ST、2)SUTVA-CS 及び 3)SUTVA-NI の 3 類型がある*25 ことが理解される。

これら 3 類型の部分条件は、2-1-1-2.で説明したとおり SUTVA の「処置群の対象がある

処置を受けた際に、当該処置後における処置群・対照群の結果指標は処置群・対照群の構成

や時点により変化することなく安定して観察されること」という基本的前提に抵触する類

型が複数存在することに起因して派生したものである。

従って、これら 3 類型の部分条件は分析の背景・状況に応じてその発生の蓋然性は異なるものの、原則として全部の確認を要するものと考えられる。

2-1-1.及び 2-1-2.での主要先行研究において SUTVA の部分条件への分割と確認の必要性について見解が分かれた理由としては、各学術分野において上記 3 類型による基本的条件への抵触が問題とされる頻度が異なっていることに起因したものと推察される。

当該 3 類型のうち SUTVA-ST は試料の収集・管理に関する問題であり、分析を開始する時点で処置の内容を確認し収集する試料の分析対象・期間などを取捨選択することにより

前提条件の充足を確認・担保することが可能である。同様に SUTVA-CS も試料の収集・管

理に関する問題であり、実験試料や統計個票の管理・確認により入替わりなど構成上の問

題を排除することにより前提条件の充足を確認・担保することが可能である。

他方で SUTVA-NI については、試料の性質に関する問題であって処置効果評価を開始する時点での対処方法が制約されるため、当該前提条件の充足を確認・担保することが非常

*26 当該 SUTVA-NIに関連する問題については、3-3.において詳細に議論する。

*27 例えば Manski(1993)や Athey and Imbens(2017)中の SUTVAに関連した項目での議論を参照。

*28 Heckman・Ichimura 他(1997・1998)ではマッチングを用いた処置効果評価の前提条件として CIA は過重であり CMIA で十分であることを述べている。

*29 当該 CPTA と CIA・CMIAの関係については更に 3-1-2-2.において詳細に説明する。

- 21 -

に困難*26 な場合がある*27 とされている。

2-1-3-3. CIA・CMIA と CPTA の関係について2-1-3-1.においては主要先行研究における前提条件の一覧化結果から、CIA・CMIA の前

提条件に加えて一部の先行研究では更に CPTA を前提条件として確認する必要があると

しているが、そもそも RCM では CPTA を確認を要する前提条件として位置づけておらず、両者の関係が明らかではないことが指摘される。

結論から言えば、CPTA は処置効果評価の手法の一つであるマッチングを用いる場合に、CMIA*28 の前提条件の充足を確認するための方法として Heckman・Ichimura 他(1997・1998)により考案された方法であり、CPTA は当該マッチングを手法として用いる場合において

CMIA を充足するための十分条件となっている*29。

他方で DID などの処置効果評価において CIA・CMIA の前提条件の充足を確認するため

の方法は、上記 Heckman・Ichimura 他(1997・1998)にょるマッチングと CPTA を組合せた

方法に限定される訳ではなく、他に Abadie and Gardeazabal(2003)などによる合成対照群を用いた方法や Qin and Zhang(2008)による最尤法を用いた方法などが考案され一部は実際に用いられている。

従って、CPTA と CIA・CMIA の関係については、CPTA は DID において一般的に確認が必要な前提条件ではなく、マッチングなど特定の方法論に基づいて CMIA の前提条件の充足を確認するための方法の一つであると整理される。

2-1-3-4. NACA などの確認の必要性について2-1-3-1.においては主要先行研究における前提条件の一覧化結果から、NACA 及び IIDA

については一部の先行研究において当該前提条件の確認が必要であるとしているが、RCMでは NACA 及び IIDA を確認を要する前提条件として位置づけていない。ここで IIDA の問題については DID に限定されない計量経済学において普遍的な問題で

あることから、以下 NACA について議論する。当該見解の相違については、2-1-1-1-1.で述べたとおり RCM が理想的状態を前提とした

処置効果評価の枠組みであることを考えれば当然に生じ得ることと理解される。NACA は

実験結果や公的統計などの試料を用いた現実の計測において発生する問題であって、理想

的状態を前提とする限りにおいては考慮する必要がないものである。

他方で、DID を含む現実の処置効果評価において何らかの計測は不可避であり、この際

に系列相関など誤差の性質に起因した問題への対策は不可避である。

従って、RCM を基礎とした DID を用いた処置効果評価において、実験結果や公的統計

などの試料を用いた現実の計測に伴う NACA の問題については、当然にその前提条件の

充足を確認することが必要であると考えられる。

NACA の問題については、2-1-1-3-2.で述べた SUTVA-NI の場合と同様に試料の性質に関する問題であり処置効果評価を開始する時点での対処方法が制約されるため、実験結果や

*30 当該系列相関の不存在性(NACA)に関連する問題については、3-2.において詳細に議論する。

*31 例えば Bertland 他(2004)や Hansen(2007a・2007b)の議論を参照。

*32 以下試料の収集・監理に関する OVLA、SUTVA-ST及び SUTVA-CSの問題を「 OVLA など」と呼称する。

*33 Cameron and Trivedi(2005)ではマッチング及び処置率を用いた方法について、LaLonde(1986)及び Dehejiaand Whaba(1999・2002)の事例を用いて、処置後の処置群・対照群の横断面分析により処置群平均処置効果(ATET: Average Treatment Effect on Treated)を推計する方法として説明し、DIDについては試料に特段の選別を行わない場合と説明しているが、マッチング及び処置率と DID を組合せた方法を排除している訳ではない。

*34 RDD: Regression Discontinuity Design 単に RD と呼称される場合もある。

- 22 -

公的統計など試料の性質により当該前提条件の充足を確認・担保することが非常に困難 *30

な場合がある*31 とされている。

2-1-4. 横断面前後差分析(DID)に関する前提条件の帰納的整理結果2-1-3.における帰納的整理結果から、DID において確認を要する前提条件は大きく 4 つ

に分類され、更に SUTVA の 3 類型の部分条件を考慮すると全部で 6 つに分類されることが理解される。

DID の前提条件は、大きく分けて 1)SUTVA、2)CIA 又は CMIA、3)OVLA 及び 4)NACAの各前提条件が充足されていることを確認することが必要である。

更にこのうち SUTVA については、1a)SUTVA-ST、1b)SUTVA-CS 及び 1c)SUTVA-NI の 3類型の部分条件の充足を全部確認することが必要である。

またこれらの前提条件は、試料の収集・管理に関する問題としての OVLA、SUTVA-ST及び SUTVA-CS*32 と、試料の性質に関する問題としての CIA 又は CMIA、NACA 及び

SUTVA-NI に分類することができる。

2-2. 主要先行研究における横断面前後差分析(DID)を用いた方法論の帰納的整理本節においては、処置効果評価に関する主要先行研究に基づいて横断面前後差分析(DID)

を用いた方法論について帰納的に整理する。横断面前後差分析(DID)に関する主要先行研究において用いられている方法論を整理し 3 つに類型化することにより、本稿における横断面前後差分析(DID)に関する検討についての基礎とする。

2-2-1. 横断面前後差分析(DID)などに関する主要先行研究における方法論

2-2-1-1. Cameron and Trivedi(2005)による方法論の分類Cameron and Trivedi(2005)においては、計量経済学で用いられている DID について、処

置効果評価の推計手法の 1 つとして分類し説明を行っている。Cameron and Trivedi(2005)では、各種の推計手法についての説明に入る前に分析の枠組

みとしての RCM について説明し、当該枠組みで分析に用いる試料についての説明の中で、

ランダム化を用いた実験的試料と自然実験・準自然実験などこれに準じた統計的試料が存

在する点について説明し、それぞれの試料を用いる利害得失や留意点について述べている。

更に当該試料に対し適用する処置効果評価の推計方法として、1)マッチング及び処置率を用いた方法、2)DID を用いた方法 *33、3)不連続回帰(RDD*34)を用いた方法及び 4)操作変数を用いた方法について説明している。

*35 CIC: Change-In-Change CICは 処置効果として 結果指標の処置前後での単純な平均値の差を評価するのではなく、結果指標の処置前後での分布密度の差や変化を評価する方法である。

Athey and Imbens(2002)においては CIC を DID の一種であると説明しているが、推計の方法及び結果が通常の DIDと大きく異なっているため、本稿では Imbens and Wooldridge(2009)に従い DID とは別の独立した方法論として取扱う。

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2-2-1-2. Mouw(2006)による方法論の分類Mouw(2006)においては、計量社会学で用いられている分析手法について 5 つに分類し、

これらの手法について説明を行っている。

具体的には、1)時系列データを固定効果モデルにより時系列回帰分析する方法、2)識別のための暫定的な操作変数を用いた構造推計による方法、3)理論整合的な操作変数を用いた構造推計による方法、4)ランダム化を用いた実験的方法による方法及び 5)自然実験など準・実験的な状況設定を利用した方法を挙げている。

2-2-1-3. Imai 他(2008)による方法論の分類Imai 他(2008)においては、処置効果評価における分析手法を実験的方法と統計的方法に

2 分した上で、それぞれの手法において生じ得る推計上の偏差について議論している。具体的には実験的方法の典型的な事例としてランダム化を用いた方法、統計的方法の典

型的な事例としてマッチングを用いた方法を挙げている。

2-2-1-4. Imbens and Wooldridge(2009)による方法論の分類Imbens and Wooldridge(2009)においては、処置効果評価の主要な分析手法を体系的・網

羅的に紹介しているが、そのうち DID については下記のように分類して先行研究におけ

る議論を紹介している。

具体的には、1)横断面試料の 2 時点での比較による方法、2)複数対象の複数時点での試料による方法、当該場合における標準誤差の問題及びパネルデータを用いる場合の問題、3)分布前後変化分析(CIC*35)を用いた方法及び 4)合成対照群を用いた方法を挙げている。

2-2-1-5. Brundell and Costa Dias(2009)による方法論の分類Brundell and Costa Dias(2009)においては、処置効果評価の分析手法を 6 つに分類し前

提条件・適用性及び必要な試料の 3 つの観点からその横断的評価を試みている。具体的には 1)ランダム化を用いた管理下実験による方法、2)自然実験による DID など

を用いた方法、3)マッチングによる DID などを用いた方法、4)操作変数を用いた方法、5)不連続回帰(RDD)を用いた方法及び 6)構造方程式などの制御関数を用いた方法を挙げている。

2-2-1-6. Gangl(2010)による方法論の分類Gangl(2010)においては、計量社会学で用いられている統計的方法について 4 つに分類

し、これらの手法について説明を行っている。

具体的には 1)不連続回帰(RDD)を用いた方法、2)操作変数を用いた時系列回帰分析による方法、3)固定効果モデルなどを用いた時系列回帰分析による方法及び 4)DID を用いた方

法を挙げている。

*36 現実にはランダム化を用いていない実験的方法が存在するが、本稿では例外とする。当該ランダム化を用いていない実験的方法の問題について、ランダム化を用いていない実験的方法で得

られた試料に対して再ランダム化抽出や回帰分析、変数調整や処置率補正などの二次的処理を行い、同一内容のランダム化を用いた実験的方法により得られた試料と比較し試料抽出・割当の偏差を評価した事例としてはShadish 他(2008)の研究が挙げられる。

他方で統計的方法においては Qin and Zhang(2008)の方法などマッチング又は合成対照群のいずれをも用いない統計的方法が存在するが、実際に主要先行研究において当該分析手法を応用した DID の事例を見出すことができなかったため、統計的方法での当該 2 つの方法論以外については例外とする。

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2-2-2. 横断面前後差分析(DID)を用いた方法論の帰納的整理

2-2-2-1. 主要先行研究における DID を用いた方法論の一覧化2-2-1.においては処置効果評価に関する主要先行研究から DID に関する方法論の類型に

ついて説明したが、大部分の先行研究において研究の目的や対象が異なることから方法論

の分類が少しづつ異なっていることが理解される。

このため DID を用いた典型的な方法論の帰納的整理を試みるべく、最初に 2-2-1.で説明した主要先行研究における方法論を分類し一覧化する。

表 2-2-2-1-1-1.に主要先行研究における DID を用いた方法論などの一覧化結果を示す。

[表 1-2-2-1-1-1. 主要先行研究における DID を用いた方法論などの一覧化結果]

/ 先行研究 Ca&Tr. Mouw Imai et. In&Wo. Br&Co. Gangl方法論 (2005) (2006) (2008) (2009) (2009) (2010)

横断面前後差分析(DID) ○ -- -- ○ ○- ○

実験的方法 ○ ○ ○ △ ○ --ランダム化による方法 ○ ○ ○ -- ○ --

統計的方法 ○ ○ ○ △ ○ --マッチングによる方法 ○ -- ○ △ ○ --合成対照群による方法 -- -- -- ○ -- --

他の方法論 △ △ -- △ △ △

時系列回帰分析 ○ ○ -- △ △ ○

操作変数 ○ ○ -- -- ○ ○

分布前後変化分析(CIC) -- -- -- ○ -- --不連続回帰(RDD) ○ -- -- -- ○ ○

(先行研究)Ca&Tr. Cameron and Trivedi (2005) (経済学)Mouw Mouw (2006) (社会学)Imai et. Imai, King and Stuart (2009) (統計学)In&Wo. Imbens and Wooldridge (2009) (経済学)Br&Co. Brundell and Costa Dias (2009) (経済学)Gangl Gangl (2010) (社会学)

(記載内容)○ 説明あり△ 該当する方法論の一部についてのみ説明あり-- 説明なし

当該一覧化の結果から、DID を用いた主要な方法論としては大きく分けて 1)ランダム化を用いた実験的方法、2)マッチングを用いた統計的方法及び 3)合成対照群を用いた統計的方法の 3 つに分類*36 されることが理解される。

*37 NSW: National Support Work

*38 PSID: Panel Study of Income Dynamics , CPS: Current Population Survays

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2-2-2-2. DID に関する方法論別の主要事例と特徴2-2-2-1.においては DID を用いた主要な方法論が 1)ランダム化を用いた実験的方法、2)

マッチングを用いた統計的方法及び 3)合成対照群を用いた統計的方法の 3 つに分類されること示したが、以下各方法論の代表的な事例と特徴などを説明する。

2-2-2-2-1. ランダム化を用いた実験的方法の主要事例と特徴ランダム化を用いた実験的方法の主要事例としては、Lalonde(1986)など米国での労働

政策プログラムに附随して実施された一連の実験的試料を用いた事例や、Miguel andKremer(2004)など実地での実験結果から得た試料を用いた事例が挙げられる。

LaLonde(1986)は、1970 年代に米国で行われた麻薬・犯罪更生者など就労弱者支援のための試験就労プログラム(NSW*37)においてランダムに選定され経過・追跡観察された処置群・対照群の労働者の所得などの調査値を用いた実験的方法とこれに対応する公的統計調

査からの数値を用いた統計的方法を比較し、両者の一致性が悪く統計的方法の方が不確実

性が大きく実験的方法に比べて相対的に大きな偏差が含まれている可能性がある点を問題

提起している。具体的には実験的方法により男性について処置群 297 試料との類似性が確認された対照群 425 試料を用いて処置効果を評価した場合と、統計的方法により PSIDや CPS*38 などの公的統計調査から作成された対照群 2,942 試料を用いかつ各種の回帰推計手法やいわゆる Heckman 二段階推計法を適用した場合を相互に比較した結果、統計的方法では対照群の選択如何により結果が大きく変動すること、現状で適用可能な計量モデル

の特定化検定により問題は改善できないが二段階推計法(2SLS)の適用により推計結果が改善する場合があることを述べている。また雇用政策の評価という観点から見た場合、女性

では実験的方法より統計的方法の方が結果が大き目に評価される傾向があるが多くの場合

に推計結果は正確であり、男性ではその逆であって大きな不確実性が伴うとしている。

2-2-2-2-2. マッチングを用いた統計的方法の主要事例と特徴マッチングを用いた統計的方法については、Rosenbaum and Rubin(1984)、Heckman・

Ichimura 他(1997・1998)などの事例が挙げられる。Rosenbaum and Rubin(1984)は、米国での心臓病患者 1,515 人についての手術治療 590

人・投薬治療 925 人からなる経過観察の試料から Logit モデルにより処置率を推計し 303人毎の 5 分位に階級分類した処置群・対照群の対を作成し、半年・1 年・3 年後の生存率と治癒率について手術治療と投薬治療の処置効果評価を実施し手術治療の方が 3 年後における治癒効果が有意に高いことを示している。当該研究においては他臓器疾患の有無など

74 項目の特性が各分位で概ね一致していることを F 検定により確認し、処置率別階級分

類による手法を用いてランダム化などの処理を施していない CIA を概ね充足した処置群・

対照群の対からなる試料を作成できることを実証している。但し当該結果を得るために

Logit モデルの構造を試行錯誤・改良しており、結果として説明変数は 45 で 7 つの交絡項と 1 つの二乗項を含む非常に複雑なものとなったことを報告している。当該事例では対象数が 1,515 と多いが時点数が処置前・後の 2 点に集約されており、マ

ッチングを用いた統計的方法では時点数よりも対象数が多い統計的試料を用いることが特

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徴である。

2-2-2-2-3. 合成対照群を用いた統計的方法の主要事例と特徴合成対照群を用いた統計的方法については、Abadie and Gardeazabal(2003)、Abadie 他

(2010・2015)などの事例が挙げられる。Abadie and Gardeazabal(2003)は、1970 年代中盤から活発化したスペイン・Basque 地方

での分離独立運動によるテロ活動が同地域での 1 人当域内総生産や潜在生産ギャップに与える影響を評価すべく、1955 ~ 75 年のスペインの他の 16 地域の域内総生産・人口などの統計値を合成して得た合成対照群を用いて DID による評価を実施している。具体的に

は Basque 地域以外の地域の 16 地域の 1 人当域内総生産の時系列を加重平均して現実のBasque 地域と最も近い時系列が得られる構成比を推計し合成対照群を作成し、1980 ~2000 年に外挿することによりテロリズムがなかった場合の Basque 地域の 1 人当域内総生産の予測値を推計している。当該評価の結果、Basque 分離独立運動によるテロリズムは 1970 年代以降同地域の 1 人当域内総生産に平均で 10 %近い負の影響をもたらしており、テロリズムの頻度・犠牲者数と負の影響に明確な相関が見られることを報告している。

更に当該手法の妥当性を検証するため、当該 Basque 地域に対する推計手順と全く同じ手順を Catalonia 地域に当てはめた偽薬試験を行い、Basque・Catalonia を除く 15 地域から推計した合成対照群と現実の Catalonia 地域の 1 人当域内総生産の乖離は大半の年で微少であり最大でも 4 %の正の乖離で負の乖離は見られなかったことを確認している。当該事例では処置群の対象数は 1 で対照群の対象数が 16 のみであるが、時点数は処置

前だけで 21 時点が用いられており、合成対照群を用いた統計的方法では対象数よりも時点数が多い統計的試料を用いることが特徴である。

2-2-3. 横断面前後差分析(DID)を用いた主要方法論の帰納的整理結果2-2-2-1.における帰納的整理結果から、DID を用いた主要方法論は 1)ランダム化を用い

た実験的方法、2)マッチングを用いた統計的方法及び 3)合成対照群を用いた統計的方法の3 つに大別される。

1)ランダム化を用いた実験的方法は、DID の実施に必要な試料を管理された実験下でラ

ンダム化の手法を用いて収集し処置群・対照群の対象に分類して行う分析の方法である。

他方で 2)及び 3)の統計的方法については、DID の実施に必要な試料を公的統計資料な

どから収集して処置群・対照群の対象に分類して行う分析の方法であり、適用する分析手

法により 2)マッチングを用いた統計的方法及び 3)合成対照群を用いた統計的方法に分類される。

処置効果評価に用いられる試料の特徴としては、2-2-2-2.での代表的事例で見たとおり 1)ランダム化を用いた実験的方法では推計精度を向上させるべく非常に大きな対象数での試

料を用いて処置効果評価が行われている。統計的方法のうち 2)マッチングを用いた統計的方法については1)ランダム化を用いた実験的方法と同様であり、時点数よりも対象数

が多い統計的試料が用いられている。

他方で統計的方法のうち 3)合成対照群を用いた統計的方法ではその逆であり、対象数よりも時点数が多い「時間方向に長い」統計的試料が用いられる。

*39 実験の実施可能性に関連した制約とは、社会的・経済的要因や倫理的要因により実験の実施が制約を受ける場合の問題をいう。戦争・震災や恐慌など実験の実施が社会的・経済的に困難な場合や疫病・犯罪など実験の実施が倫理的に不適切な場合を想定ありたい。

*40 現実には Agodini and Dynarski(2004)の不登校児童の研究における「本人の意思による観察できない選択の存在」の事例などの本質的制約が存在するが、こうした問題は実験的方法に限った問題ではないと考えられる。

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2-3. 各方法論に共通した処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などの問題本節においては、2-1 で整理した横断面前後差分析(DID)による処置効果評価の推計に必

要な前提条件のうち、処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)など 2-2.で整理した 3 つの方法論に共通した、処置効果評価を開始する時点において検討すべき試料の収集・管理に

関する前提条件についてその確認手法などを説明する。

2-3-1. 各方法論に共通した試料の収集・管理に関する問題2-1.では DID に関する前提条件が、試料の収集・管理に関する問題としての SUTVA-ST、

SUTVA-CS 及び OVLA とそれ以外の試料の性質に関する問題としての CIA、NACA 及び

SUTVA-NI に分類できることを説明した。2-2.では DID の主要な方法論について 3 つの方法論に分類できることを示したが、これ

らの方法論のいずれに該当する場合でも処置効果評価を開始する時点においては最初に試

料を準備することが必要であり、試料の準備に当たっては試料の収集・管理に関する上記 3つの前提条件の充足について検討することが必要である。

本項ではこれら各方法論に共通して処置効果評価の最初に検討すべき、OVLA など試料

の収集・管理に関する 3 つの前提条件について説明する。実験的方法により試料を収集する場合においては、実験の実施可能性に関連した制約 *39

を別とすれば、試料の収集・管理に関する 3 つの前提条件に起因した問題は全て実験設計の一環として事前に対処可能である。また必要があれば再実験などの措置により、前提条

件が充足されるまで試料の収集・管理をやり直し試料・情報を追加的に収集することが可能*40 である。

他方で統計的方法により試料を収集する場合においては、試料の収集・管理に関する 3つの前提条件に起因した問題は統計調査に収録された試料の収集対象・期間などを調整す

ることにより対処することとなるが、統計調査が行われた時点は過去であるため統計調査

によって得られない対象や期間に関する試料・情報を追加的に収集することができないと

いう本質的制約が存在する。

2-3-2. 処置の単一種類性条件(SUTVA-ST)及び処置前後での処置群・対照群の構成の安定性条件(SUTVA-CS)の問題

2-3-2-1. SUTVA-ST に起因した問題2-1-3-2.で説明したとおり、SUTVA-ST とは処置群の対象が受けた処置の内容が単一で

複数存在しないこと、という前提条件である。

実験的方法の場合においては、実験対象のうち処置群に与える処置の内容が単一である

よう措置することにより当該前提条件の充足を容易に担保することが可能である。

他方で統計的手法の場合においては、統計資料から処置群として選択した試料が分析の

*41 例えば体重が同じ児童 100 人の試料を抽出しランダムに処置群を選んだにもかかわらず、偶然にも処置群の対象が女子に偏り性別に関する条件 X'の分布が対照群と一致しなくなってしまった場合を想定ありたい。

この場合には最初に性別に関するブロッキングを行い、男子・女子別にランダム化した処置群・対照群の割当を行うことにより問題に対処することが可能である。

*42 ランダム化を用いた実験的方法において、試料抽出と処置割当における観察可能な条件 Xt と観察不可能な条件 Xu が存在する場合での偏在の問題については、Imai 他(2008)が網羅的な検討を行っている。

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対象とする処置以外の同時発生した要因により影響を受けていた可能性が考えられ、試料

が主として分析の対象とする処置により影響を受けたものか否かを確認し取捨選択するこ

とが必要である。このため統計的手法の場合には、試料の収集対象や期間を限定して試料

を再選定することが必要となる場合や、分析の実施そのものが制約を受ける場合がある。

2-3-2-2. SUTVA-CS に起因した問題2-1-3-2.で説明したとおり、SUTVA-CS とは処置前後での処置群・対照群の構成が安定し

ており入替わりなどの問題が存在しないこと、という前提条件である。

実験的方法の場合においては、実験対象として選択した処置群・対照群の対象の管理に

より当該前提条件の充足を容易に担保することが可能である。

他方で統計的手法の場合においては、統計資料から処置群・対照群として選択した試料

が地理的移動や属性変化によって相互に入替わっていた可能性が考えられ、個票試料によ

る「名寄せ」などの確認作業によって入替わりなどがなかったことを確認し取捨選択するこ

とが必要である。従って SUTVA-ST の場合同様に統計的手法の場合には、試料の収集対

象や期間を限定して試料を再選定することが必要となる場合や、分析の実施そのものが制

約を受ける場合がある。

2-3-3. 処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)の問題2-1-1-2.で説明したとおり、OVLA とは分析の対象がある条件 X'を満たす範囲において

処置群・対照群の対象が必ず両方存在していること、という前提条件である。

2-3-3-1. 実験的方法の場合の OVLA実験的方法の場合においては、処置群を抽出した際に条件 X'の分布が偏らないよう、

予め条件 X'に従い試料をブロッキングしてランダム化抽出を行うこと *41 が考えられる。

また条件 X'が事前に判明しない場合や観察可能でない場合には、予め十分な数の試料を用意した上でランダム化抽出を行うことによって当該前提条件を担保する *42 必要がある

と考えられる。

2-3-3-2. 統計的方法の場合の OVLA他方で統計的方法の場合においては、実験的方法と異なり統計資料に収録されている試

料について条件 X'の分布を事前に管理することは不可能である。このため、SUTVA-STや SUTVA-CS の場合と同様に試料の収集対象や期間を限定して試料を再選定することが

必要となる場合や、分析の実施そのものが制約を受ける場合がある。

当該問題に関しては、2-2-2-2.で紹介した LaLonde(1986)が問題を指摘したものと同じ統計調査から、OVLA の充足を確認しマッチングを用いて試料を取捨選択することによっ

て実験的方法と概ね同様の分析結果が得られることを実証した Dehejia and Whaba(1996・

*43 当該 Dehejia and Wahba(1999・2002)による結果から考慮すれば、マッチングを用いずに OVLA の充足を確認しつつ NSW の試料と対応した合成対照群を推計し試料の取捨選択による対策を行なうことも可能であると推察される。本稿の問題意識を外れるため当該問題についてはこれ以上立入らない。

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2002)の事例が著名 *43 である。

Dehejia and Wahba(1999・2002)は、LaLonde(1986)による米国の試験就労プログラム(NSW)に関する実験的方法と統計的方法の比較結果について、LaLonde(1986)が使用した 2種類の公的統計調査による試料に Rosenbaum and Rubin(1983)の手法に倣い処置率を推計し層化処置率マッチング処理を適用して比較結果の再検証を行っている。当該再検証の結

果、LaLonde(1986)の用いた PSID 及び CPS などの公的統計調査による試料を処置率により 5 %刻みで 20 層に分類を行ったところ、NSW の処置群と対応しない対照群の試料が

PSID では 2,490 試料中 1,333, CPS では 15,992 試料中 12,611 も含まれており、OVLA が充足されていないことが両者の大きな乖離や偏差の原因となっていたことを述べている。

層化処置率マッチングによりこれら NSW の処置群と対応しないものを取除いた対照群を

用いた場合では、年齢・就学年数・人種比率・家庭状態などが NSW の処置群と非常に強い

類似性を持った結果が得られること("Balancing")を感度分析を行い確認している。当該層化処置率マッチングによる再推計では、NSW でのランダム化を用いた実験的方法による

処置効果の推計値$1,794 に対し、PSID 及び CPS などの公的統計調査による試料から

$1,473 ~$1,774 という概ね類似した統計的方法による処置効果の推計値が得られることを報告している。

2-3-3-3. OVLA と定量的尺度実際の処置効果評価においては、実験的方法か統計的方法かを問わず分析に用いる試料

の全ての区間について OVLA の充足を担保することが困難な場合がある。このような場合に「具体的にどの程度の処置群・対照群の試料が最低限存在すれば OVLA

に関する前提条件に抵触しないと考えられるか」という問題については、処置率において

0.1 から 0.9 の範囲とすべきとした Crump 他(2009)の研究が著名である。Crump 他(2009)は、RCM を用いた処置効果評価において説明変数に対応した一部の区

間において処置群・対照群の対象のいずれかの試料が少数しか得らず OVLA に問題を生じ

る場合に、具体的にどのような条件を設けて試料を選別・除外すれば試料の損失を抑えつ

つ偏差の発生や分散の過大化防止を両立できるかという問題に対して検討を行っている。

当該検討の結果、処置群・対照群の選別・除外の条件としては極端な処置率が観察される区

間を除くことを条件とすることが適切であるが結果が処置率の統計分布に影響されること

を示している。更に処置率が β 分布に従い均一分散であることを仮定した場合には、処置率が[0.1,0.9]の範囲内となるような処置群・対照群の試料のみを用いることが最適であることを論証している。

*44 例えば新たな癌の治療薬の治験者を募集して抽出した際に、患者の中でも余命の少ない重篤な患者ばかりが選択的に応募し治験者の属性が偏ってしまった場合を想定有りたい。

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3. 横断面前後差分析(DID)の主要前提条件と既存の対策手法

3-1. 結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)の問題本節においては 2-1.で整理した横断面前後差分析(DID)による処置効果評価の推計に必

要な前提条件のうち、結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)に起因した問題について方法論毎での既存の対策手法について処置効果モデルを用いた説明を行う。

以下の説明において、特に断らない限り 2-3.で説明した処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)など試料の収集・管理に関する前提条件については、方法論を問わずこれらの前提条件の充足が確認されているものとする。

また系列相関の不存在性条件(NACA)及び処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題については、次節及び次々節で取扱うこととし本節では取扱わない。

3-1-1. ランダム化を用いた実験的方法と結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)

3-1-1-1. ランダム化を用いた実験的方法と CIA・CMIA での条件分割ランダム化を用いた実験的方法により得られた試料で DID を行う場合において、CIA・

CMIA は更に 1)試料抽出の結果指標からの独立性と 2)処置の試料抽出及び結果指標からの独立性に関する 2 つの条件に分割できることが Stuart 他(2011)により提言されている。式 3-1-1-1-1-1.に Stuart 他 (2011)によるランダム化を用いた実験的方法において CIA・

CMIA を充足するために必要な、試料抽出と処置実施の独立性に関する 2 つの条件について示す。

[式 3-1-1-1-1-1. ランダム化を用いた実験的方法において CIA・CMIA を充足するために必要な試料抽出と処置実施の独立性に関する 2 つの条件(Stuart 他(2011))]

1) 試料抽出の結果指標からの独立性S ⊥ [Yi(t-s), Yk(t-s)] | X 式 31111101

2) 処置の試料抽出及び結果指標からの独立性T ⊥ [S, Yi(t-s), Yk(t-s)] | X 式 31111102

S 試料抽出の条件・方法

T 抽出された試料に対する処置割当の条件・方法 (="ランダム化")Yi(t-s), Yk(t-s) (処置前における)対照群の試料 i・処置群の試料 k の結果指標X 試料について観察可能な説明変数

⊥ 独立

(式注) 出典: Stuart他(2011), 原典では OVLAを加えた 3 つの前提条件として説明されている。

試料抽出の結果指標からの独立性は、母集団から観察を行うための対象を試料として抽

出する際に、試料抽出の条件・方法が試料の結果指標から独立であるという条件*44 である。

当該条件は「試料抽出の際に観察できない変数が存在し抽出に影響を与えていないこと」と

*45 ランダム化を用いた実験的方法であっても処置の実施・不実施を処置対象が(内生的に)選択できる際には、CIA・CMIAが成立しない場合があることが Manski(1996)及び Imbens and Rubin(1997)などにより指摘されている。例えば患者にランダムに薬が配布されるが飲む・飲まないを何らかの因子に従い患者が決めている場合を想定ありたい。当該場合には処置の試料抽出及び結果指標からの独立性における「処置」を「処置群への選択」ではなく「処置の実施」と定義・解釈することにより上記 Stuart 他(2011)の枠組の中で検討することが可能である。

*46 3-1-1-1.における 2 つの条件のうち、処置の試料抽出及び結果指標からの独立性については既に説明したとおり抽出された試料に対しランダム化により処置が実施されていることを確認すれば良いため、実験的方法において実質的に問題となるのは試料抽出の独立性条件である。

- 31 -

いう条件に言換えることができる。現実の実験において当該条件の充足は自明ではなく、

試料抽出の条件・方法が処置群及び対照群に偏差を生じていない点について何らかの確認

が必要である。

処置の試料抽出及び結果指標からの独立性*45 は、抽出した試料から処置の対象とする処

置群を選択する際に、処置選択の条件・方法が試料抽出の条件又は試料の結果指標の両方

から独立であるという条件である。当該条件は抽出された試料に対し、ランダム化により

処置を行い処置群と対照群に分けることにより比較的容易に充足することが可能である。

Stuart 他(2011)は、ランダム化を用いた実験的方法において当該 2 つの条件に OVLA を加えた 3 つの条件の充足が確認されている場合には、Rosenbaum and Rubin(1983a)による"Strong Ignorbility"(OVLA 及び CIA)の前提条件が充足されていると見なすことができるとしている。

3-1-1-2. ランダム化を用いた実験的方法における CIA・CMIA と試料抽出の独立性条件の充

足の確認方法

ランダム化を用いた実験的方法において 3-1-1-1.で説明した 2 つの条件のうち試料抽出の結果指標からの独立性*46 が充足されているか否かを確認する方法として、Stuart 他(2011)は 2 通りの方法を提唱している。

2 通りの方法とは、1)抽出された試料と母集団での抽出の処置率の差を確認する方法及び 2)処置率を用いて対照群と母集団をマッチングした結果と当該マッチングをしない結果を比較する方法である。マッチングについては統計的方法として次項で詳細に説明する

こととし、以下においては 1)抽出された試料と母集団での抽出の処置率の差を確認する方法について概要を説明する。

式 3-1-1-2-1-1.に Stuart 他(2011)による抽出された試料と母集団での抽出の処置率の差を確認する方法の概要を示す。

[式 3-1-1-2-1-1. 抽出された試料と母集団での抽出の処置率の差を確認する方法の概要(Stuart他(2011))]

pi ≡ P(Si=1) | Xi 式 31121101

pilog = β0 + β1・X1i +β2・X2i + ・・・ + βj・Xji 式 311211021 -pi

1 1△ p = ― ・Σ pi - ・ ・Σ pi 式 31121103n i ∈{Si=1} (N -n) i ∈{Si=0}

E(△ p) =0 式 31121104

pi , pi 試料 i の抽出の処置率 及び その推計値

- 32 -

Si 試料 i の抽出ダミ- (抽出=1, 非抽出=0)Xi 試料 i について観察可能な変数 (Xi ∈{X1i・・・Xji})N,n 母集団の試料数 N, 抽出された試料数 n△ p 母集団と抽出試料の抽出の処置率の差

P( ・ ) 確率

E( ・ ) 期待値

β0, β1 ~ β 定数項及び Xji の係数

(式注) 出典: Stuart 他(2011), 本稿での記述方法に合わせて一部の記号を置換している。

一般に処置率は処置を受けるか否かの確率として用いられているが、当該方法では式

3-1-1-2-1-1.中の式 31121101 に示すとおり母集団から抽出された試料について抽出されるか否かの確率として「抽出の処置率」を定義している。式 31121102 により母集団と抽出試料に関して試料 i についての抽出の処置率 pi を観察可能な変数 Xi を説明変数として用いた Logit モデルにより推計し、式 311211103 において母集団と抽出試料についての抽出の処置率の差を算定する。

仮に母集団から抽出試料が偏りなく抽出され両者の性質が一致しているのであれば、

Rosenbaum and Rubin(1983a)がマッチングにおいて処置群と対照群の性質の類似性を処置率で評価したのと同様に、式 31121104 に示すとおり抽出の処置率の差の期待値は 0 となるはずである。

従って当該母集団と抽出試料についての抽出の処置率の差が 0 と見なせるかか否かを統計検定することにより、試料抽出の結果指標からの独立性に関する条件及び DID にお

ける CIA・CMIA の充足を確認することができる。

3-1-1-3. ランダム化を用いた実験的方法において CIA・CMIA の充足が確認された場合での

DID への効果ランダム化を用いた実験的方法において 3-1-1-1.で説明した 2 つの条件の充足が確認さ

れ CIA・CMIA が充足されたと見なせる場合に、CIA・CMIA による DID への効果について処置効果モデルを用いて検討する。

式 3-1-1-3-1-1.にランダム化を用いた実験的方法において CIA・CMIA の充足が確認され

た場合での DID への効果について示す。

[式 3-1-1-3-1-1. ランダム化を用いた実験的方法において CIA・CMIA の充足が確認された場合での DID への効果]

(処置群の前後差)BAk(s,u) = Yk(t+u) - Yk(t-s) | X, Dk=1

= β・Xk(t+u) + Zck + Za(t+u) + Zbk(t+u) + ZFk(t+u) + εk(t+u)- (β・Xk(t-s) + Zck + Za(t-s) + Zbk(t-s) + εk(t-s)) | X, Dk=1

= β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Za(t+u) -Za(t-s) +Zbk(t+u) -Zbk(t-s)+ ZFk(t+u) +εk(t+u) -εk(t-s) | X, Dk=1

式 311311011 MBAk(s,u) = ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Za(t+u) - Za(t-s) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

+ ZFk(t+u) + εk(t+u) - εk(t-s))1 M= Za(t+u) - Za(t-s) + ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

- 33 -

+ ZFk(t+u) + εk(t+u) - εk(t-s))式 31131102

(対照群の前後差)

BAi(s,u) = Yi(t+u) - Yi(t-s) | X, Di=0= β・Xi(t+u) + Zci + Za(t+u) + Zbi(t+u) + εi(t+u)

- ( β・Xi(t-s) + Zci + Za(t-s) + Zbi(t-s) + εi(t-s)) | X, Di=0= β・(Xi(t+u) - Xi(t-s)) + Za(t+u) - Za(t-s) + Zbi(t+u) - Zbi(t-s)

+ εi(t+u) - εi(t-s) | X, Di=0式 31131103

1 NBAi(s,u) = ― ・Σ ( β・(Xi(t+u) - Xi(t-s)) + Ya(t+u) - Ya(t-s) + Ybi(t+u) - Ybi(t-s)N i=1+ εi(t+u) - εi(t-s))

1 N= Ya(t+u) - Ya(t-s) + ― ・Σ ( β・(Xi(t+u) - Xi(t-s)) + Ybi(t+u) - Ybi(t-s)N i=1+ εi(t+u) - εi(t-s))

式 31131104(DID)

DIDki(s,u) = BAk(s,u) - BAi(s,u)= Yk(t+u) - Yk(t-s) - ( Yi(t+u) - Yi(t-s) ) | X, Di=0, Dk=1= ZFk(t+u) + β・( Xk(t+u) - Xk(t-s) - (Xi(t+u) - Xi(t-s) )

+ Zbk(t+u) - Zbk(t-s) - ( Zbi(t+u) - Zbi(t-s) )+ εk(t+u) - εk(t-s) - ( εi(t+u) - εi(t-s) ) | X, Dk=1,Di=0

式 31131105DIDki(s,u) = BAk(s,u) - BAi(s,u)

1 M 1 N= ―・Σ (Yk(t+u) - Yk(t-s)) - ―・Σ (Yi(t+u) - Yi(t-s))M k=1 N i=1

1 M= ― ・Σ (ZFk(t+u))M k=1

β M β N+ ―・Σ (Xk(t+u) - Xk(t-s)) - ―・Σ (Xi(t+u) - Xi(t-s))M k=1 N i=1

1 M 1 N+ ―・Σ (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - ― ・Σ (Zbi(t+u) - Zbi(t-s))M k=1 N i=1

1 M 1 N+ ―・Σ (εk(t+u) - εk(t-s)) - ― ・Σ (εi(t+u) - εi(t-s))M k=1 N i=1式 31131106

E(DIDki(s,u))= E Yk(t+u) - Yk(t-s) - ( Yi(t+u) - Yi(t-s) ) | X, Di=0, Dk=1

= E ZFk(t+u) | X, Dk=1

+ E β・(Xk(t+u) - Xk(t-s) - (Xi(t+u) - Xi(t-s))) | X,Dk=1,Di=0

+ E (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - (Zbi(t+u) - Zbi(t-s)) | X,Dk=1,Di=0

∵ ∀ εi(t),εk(t) i.i.d., E[εi(t)]=E[εk(t)]=0式 31131107

1 M= lim ― ・Σ (ZFk(t+u))M →∞ M k=1

β M β N+ lim ―・Σ (Xk(t+u) - Xk(t-s)) - ―・Σ (Xi(t+u) - Xi(t-s))M,N→∞ M k=1 N k=1

1 M 1 N+ lim ―・Σ (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - ―・Σ (Zbi(t+u) - Zbi(t-s))M,N→∞ M k=1 N i=1

- 34 -

式 31131108= ZF(t+u)

+ β・(X(t+u) - X(t-s) - (X(t+u) - X(t-s)))+ Zb(t+u) - Zb(t-s) - Zb(t+u) + Zb(t-s) ∵ k,i ∈{H}

= ZF(t+u)式 31131109

t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)k, i 処置群の対象 k, 対照群の対象 i (k,i ∈{H}, Hは共通の母集団)M, N 処置群の対象kの試料数 M, 対照群の対象 i の試料数 NYk(t-s),Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yi(t-s),Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について観察可能な説明変数Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数X(t-s), X(t+u) 時点 t-s, t+u での観察可能な説明変数 X の平均値

(十分に大きな試料数 M,Nを用いた場合における平均値)β 観察可能な説明変数 Xの係数Dk , Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Zck , Zci 処置群の対象 k, 対照群の対象 i 毎に個別的な未知の定数項Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎に個別的な未知の時間変動部分Zb(t-s), Zb(t+u) 時点 t-s, t+u での対象毎に個別的な未知の時間変動部分の平均値

(十分に大きな試料数 M,Nを用いた場合における平均値)ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の処置効果ZF(t+u) 時点 t+u での平均処置効果εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎の誤差項εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項BAk(s,u) ,BAk(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群の対象 k の前後差及びその平均値BAi(s,u) ,BAi(s,u) 時点 t-s と t+u の間の対照群の対象 i の前後差及びその平均値DIDki(s,u),DIDki(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 k・対照群 i の横断面前後差とその平均値E[ ・ ] 期待値

処置群の対象 k に関する時点 t-s,t+u 間での前後差は式 31131101 のとおりであり対象毎に固有の未知の定数項部分が消去され、対象 k の結果指標は観察可能な説明変数と係数の積、全対象に共通的な未知の時間変動部分、対象 k に個別的な未知の時間変動部分及び誤差項の前後差と対象 k に個別的な未知の処置効果部分で構成される。処置群の対象 k を試料数 M 個集めた際での結果指標の平均値は式 31131102 のとおりとなる。対照群の対象 i に関する時点 t-s,t+u 間での前後差は式 31131103 のとおりであり対象毎

に固有の未知の定数項部分が消去され、対照 i の結果指標は観察可能な説明変数と係数の積、全対象に共通的な未知の時間変動部分、対象 i に個別的な未知の時間変動部分及び誤差項の前後差で構成される。対照群の対照 i を試料数N個集めた際での結果指標の平均値は式 31131104 のとおりとなる。ランダム化を用いた実験的手法における DID は、式 31131105 による処置群の結果指標

と対照群の結果指標の差についての平均値であり式 31131106 のとおり算定される。処置群の試料数 M 及び対照群の試料数 N が十分大きな数である場合には誤差項の平均

値はいずれも 0 となり、DID の期待値は式 31131107 及び式 31131108 のとおり平均処置効果に対応する第 1 項と、処置群及び対照群の観察可能な説明変数と係数の積からなる第 2 項の部分、処置群及び対照群の個別的な未知の時間変動部分の前後差からなる第 3

*47 具体的な処置群や対照群の試料数については試料の分散などに基づき決定されるべきであるが、例えば代表的なランダム化を用いた実験的方法による先行研究の事例において、LaLonde(1986)では処置群 297 と対照群 425、Imai 他(2008)では処置群 428 と対照群 434、Stuart 他(2011)では処置群 485 と対照群 480 を用いた分析が行われている。

- 35 -

項の部分の形に整理することができる。

ここで 3-1-1-1-1.で説明した 2 つの前提条件が充足され試料抽出と処置実施の独立性が充足されている場合、処置群及び対照群は同一の分布を持つ共通の母集団から完全なラン

ダム化により抽出され 2 群に分けられた試料と見なすことができる。処置群の試料数 M及び対照群の試料数 N がいずれも十分に大きな試料数である場合 *47 には、処置群及び対

照群の観察可能な説明変数と係数の積の前後差からなる第 2 項の部分並びに処置群及び対照群の個別的な未知の時間変動部分の前後差からなる第 3 項の部分は、上記共通の母集団における観察可能な説明変数と係数の積の前後差と個別的な時間変動部分の平均値の

前後差に収束することとなる。

この結果、式 31131109 に示すとおり式 31131107 及び式 31131108 の第 2 項と第 3 項は相殺して 0 となり、DID の結果は平均処置効果 ZF(t+u)を推計していることとなる。従って、ランダム化を用いた実験的方法による試料を用いた分析については、3-1-1-1-1.

で説明した 2 つの前提条件が充足されかつ処置群の試料数 M 及び対照群の試料数 N が十

分に大きな数である場合には、DID での CIA・CMIA の条件が充足され平均処置効果を推計することができる。

3-1-2. マッチングを用いた統計的方法と結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)

3-1-2-1. マッチングを用いた統計的方法と CIA・CMIAマッチングを用いた統計的方法とは、3-1-1.でのランダム化を用いた実験的方法と異な

り、ランダム化されていない公的統計調査などの結果による試料を用いて、マッチングに

より試料の取捨選択を行うことによって処置群及び対照群の観察可能な変数に関する分布

の類似性を確保し CIA・CMIA を充足する方法である。3-1-1.で説明したランダム化を用いた実験的方法では同じ母集団から処置群及び対照群

を抽出して処置を行うため、十分大きな試料数が確保されていれば処置群及び対照群の変

数に関する分布は観察可能な変数か未知の変数かを問わず原理的に同一となる。しかし統

計的手法においてこのような保証はなく、処置群及び対照群で母集団が異なっており処置

の割当に偏りがある可能性があるため、マッチングなどの処理により試料を取捨選択し変

数に関する分布の類似性を確保することが必要である。

具体的なマッチングの方法には様々な種類があるが、Stuart(2010)による分類ではマッチングにおける処置群及び対照群の対象間での観察可能な変数に関する類似性の指標とし

ての「距離」の種類に基づき、1)完全マッチング、2)Mahlanobis マッチング、3)処置率マッチング及び 4)線形処置率マッチングの 4 種類に分類されている。式 3-1-2-1-1-1.に Stuart(2010)によるマッチングに用いる変数の「距離」に基づく分類につ

いて示す。

DID など処置効果評価においてマッチングを行う目的は CIA・CMIA を充足させることであるが、当該目的からはマッチングにおいて最小化されるべき「距離」を構成する説明変数

*48 処置群及び対照群の対象についての処置率は対象について観察可能な変数の代表値であり、従ってマッチングにおいては処置率(又は線形処置率)のみを用いれば足りるとされている。しかし処置率を推計するためにはこうした観察可能な変数を網羅的に用いる必要があることに注意が必要である。

実際に 2-2-2-2.で説明した Rosenbaum and Rubin(1984)による事例では、処置率を推計するために 46 の説明変数を用いていることを想起ありたい。

- 36 -

の選択が重要である。

式 3-1-2-1-1-1.における 1)完全マッチング及び 2)Mahlanobis マッチングの場合には、処置群及び対照群について結果指標を除いた可能な限りの観察可能な変数 X'を用いたマッチングを行うことが必要である。他方で式 3-1-2-1-1-1.における 3)及び 4)の処置率を用いた場合には、結果指標を除いた観察可能な全ての変数を代表する値としての処置率 *48pk,piを用いたマッチングを行うことによりこれに代えることができるとされている。

[式 3-1-2-1-1-1. マッチングに用いる変数の「距離」に基づく分類(Stuart(2010))]

1) 完全マッチング Exact:

0 if Xk = XiDSki = 式 313211101

∞ if Xk ≠ Xi

2) Mahlanobis マッチング Mahlanobis:

DSki = (Xk - Xi)'・Σ-1・(Xk -Xi) 式 313211102

3) 処置率マッチング Propensity Score:

DSki = | pk - pi | 式 313211103

4) 線形処置率マッチング Liniar Propensity Score:

DSki = | logit(pk) -logit(pi) | 式 313211104

DSki 対象 k,i 間でのマッチングに用いる変数の「距離」Xk,Xi 対象 k,i について観察可能な説明変数 (ベクトル、結果指標 Yk,Yi を含まない)Σ 対象 k,i について観察可能な説明変数 X の分散・共分散行列pk,pi 対象 k,i の処置率 (0< pk,pi <1)| ・ | 絶対値

logit(・) Logitモデル

(式注) 出典: Stuart (2010), 本稿での記述方法に合わせて一部の記号を置換している。

3-1-2-2. マッチングを用いた統計的方法における CIA・CMIA の充足の確認方法マッチングを用いた統計的方法においては観察可能な変数を用いた試料の取捨選択を行

った後で CIA・CMIA が充足されているか否かを確認するために、処置群及び対照群の変

数に関する分布の類似性が確保されていることを何らかの方法で確認することが必要であ

る。

具体的に当該処置群及び対照群の変数に関する分布の類似性を確認する方法について

は、Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による結果指標の平均・分散の差などを確認する方法、Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による結果指標の並行推移性を確認する方法などが挙げられる。

*49 具体的に当該処置前での試料の時点数の問題に起因して、Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による並行推移性による方法ではなく当該方法を用いている実例として Legewie(2013)が挙げられる。

*50 既に 2-1-3-3.で説明したとおり Heckman・Ichimura 他(1997・1998)ではマッチングを用いた処置効果評価の前提条件として CIA ではなく CMIA で十分であることを述べている点に注意。

- 37 -

3-1-2-2-1. Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による結果指標の平均・分散の差などを確認する方法の概要

Rubin(2001)及び Imai 他(2008))においては、マッチングにより得られた処置群及び対照群で変数に関する分布の類似性が確保されていると見なせる定量的範囲について、処置前

の結果指標の平均・分散などの統計的指標が以下の 2 つの範囲内にある場合とすべきことを述べている。

当該 2 つの範囲とは、1)処置群及び対照群の間での規格化された結果指標の平均値の差が処置前において標準偏差の 0.25 倍以内の範囲にあること及び 2)処置群及び対照群の間での結果指標の分散の比が処置前において 0.5 から 2.0 の間の範囲にあることである。マッチングにより得られた処置群及び対照群の試料について処置前での結果指標が上記

2 つの範囲内にある場合には、マッチングにより平均値及び分散が概ね等しい分布を持った処置群及び対照群が得られたものと見なすことができる。従ってこの場合には処置群及

び対照群について未知の変数部分を含めた変数に関する分布の類似性が確保されており、

間接的に CIA・CMIA が充足されていると推定できることを述べている。ここで当該 2 つの範囲については、Rubin and Thomas(1996)による処置群及び対照群が

いずれも正規分布に従う場合でかつ線形処置率マッチングを用いた場合での理論的考察を

基礎とした定量的範囲であることに注意を要する。

後述する Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による結果指標の並行推移性を確認する方法と比較した場合、並行推移性では処置前での試料が 2 時点以上について必要であるが当該方法では処置前での試料が 1 時点で済む利点 *49 がある。他方で当該方法では結果指標

の平均・分散の差を評価する必要があるため、処置群・対照群ともに非常に多くの対象を試

料として準備する必要があるという問題点が挙げられる。

3-1-2-2-2. Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による結果指標の並行推移性を確認する方法の概要

Heckman・Ichimura 他(1997・1998)においては、マッチングを行った処置群及び対照群についての結果指標を処置前の 2 時点以上で観察した場合に、処置群及び対照群の結果指標が並行して推移している場合には、未知の変数部分を含めて変数に関する分布の平均値

に関する類似性が確保され CMIA*50 が充足されていると見なせることを述べている。

式 3-1-2-2-2-1.に Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による並行推移性を用いた CMIA の

確認の概要について示す。

[式 3-1-2-2-2-1. 並行推移性を用いた CMIA の確認の概要(Heckman・Ichimura 他(1997・1998)) ]

(並行推移性における観察不可能な変数と偏差)

Yk(t)= gk(X(t)) + Zk(t), Yi(t) = gi(X(t)) + Zi(t)) 式 31222101

*51 Heckman・Ichimura 他(1998)では観察不可能な変数 Z(原典では"U")の期待値は 0 であることを仮定している(p1026 式(8))が、仮に変数 Z の期待値が異なる値となった場合でも、当該値が時間変化しない定数項である限りは処置群及び対照群の間の偏差 B(Z)の差を考える際に Z の期待値の前後差は相殺するはずであり、DID に応用する場合に限っては当該仮定を若干緩めることが可能であると考えられる。

- 38 -

E( Zk(t) ) = E( Zi(t) ) = 0 式 31222102

B( Z(t) ) = E( Zk(t) | X, Dk=1 ) - E( Zi(t) | X, Di=0 ) 式 31222103

(並行推移性: CPTA)

B( Z(t+u) ) - B( Z(t-s) ) = 0 式 31222104

E( Zk(t+u) | X, Dk=1 ) - E( Zi(t+u) | X, Di=0 )- ( E( Zk(t-s) | X, Dk=1 ) - E( Zi(t-s) | X, Di=0 ) ) = 0 式 31222105

⇒ E( Zbk(t+u) | X, Dk=1 ) - E( Zbi(t+u) | X, Di=0 )- ( E( Zbk(t-s) | X, Dk=1 ) - E( Zbi(t-s) | X, Di=0 ) ) = 0 式 31222106

E (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - (Zbi(t+u) - Zbi(t-s)) | X, Dk=1, Di=0 = 0 式 31222107

(並行推移性の確認)

B( Z(t-s') ) - B( Z(t-s) ) = 0 式 31222108

E (Zbk(t-s') - Zbk(t-s)) - (Zbi(t-s') - Zbi(t-s)) | X, Dk=1, Di=0 = 0 式 31222109

Yk(t), Yi(t) 時点 t における処置群 k,対照群 i の結果指標t+u,t-s,t-s' 処置後の時点 t+u,処置前の時点 t-s,t-s' (t,s,s'>0, s,s'は任意)Dk, Di 処置の実施・不実施ダミ- ("処置実施"=1,"処置不実施"=0)gk(X(t)),gi(X(t)) 時点 t において観察可能な変数 Xの関数Zk(t), Zi(t) 時点 t において未知の対象 k,i 毎に個別的な変数B( Z(t) ) 時点 t における処置群及び対照群の間の偏差Za(t) 時点 t における全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t), Zbi(t) 時点 t において対象 k,i 毎に個別的な未知の時間変動部分Zck, Zci 時点 t において対象 k,i 毎に個別的な未知の定数項εk(t),εi(t) 時点 t における対象 k,i 毎の誤差項 ( E(εk(t)) = E(εi(t)) =0 )E( ・ ) 期待値

(式注) 出典:Heckman・Ichimura 他 (1997・1998), 本稿での記述方法に合わせて一部の記号を置換している。

式 3-1-2-2-2-1.中の式 31222101 のとおりマッチングを行った処置群及び対照群の結果指標が観察可能な変数Xによる共通の関数 g(X(t))と観察不可能な対象毎に個別的な未知の変数 Z(t)で構成されると仮定する。また式 31222102 のとおり観察不可能な対象毎に個別的な未知の変数 Z(t)の期待値は 0 であると仮定*51 する。

マッチングを実施した後では処置群と対照群の観察可能な変数については分布の類似性

が確保されているはずであり、処置群に関する gk(X(t))と対照群に関する gi(X(t))の分布は概ね等しくなっているものと考えられる。

*52 式 31222104 のとおり任意の処置前の時点 t-s に対して処置群及び対照群の処置前後 t-s,t+u での偏差の差が 0 であるならば、他の処置前の時点 t-s'と処置後 t+u の偏差の差も 0 であり、従って処置前の異時点 t-s',t-sの差も 0 でなければならない。このため処置前の 2 時点について偏差の差が 0 であることを確認することは、処置前後での偏差の差が 0 であることを確認することと同じ意味となる。

- 39 -

当該仮定の下で、式 31222103 のとおり処置群と対照群の間の偏差 B(Z(t))を時点 t における観察不可能な対象毎に個別的な未知の変数 Z(t)の差であると定義した場合、式31222104 のとおり並行推移性は処置の前後を問わず異なる時点での偏差 B(Z(t+u))とB(Z(t-s))の差の期待値が 0 であることと表現できる。本稿における処置効果モデルを用いて記述した場合には、Z(t)は対象毎に個別的な定数

項 Zc、全対象に共通的な時間変動部分 Za(t)、対象毎に個別的な時間的変動 Zb(t)及び誤差項 ε(t)に対応する。従って偏差 B(Z(t))の異なる時点での差の期待値においては定数項及び共通的な時間変動部分 Ya(t)が相殺し誤差項 ε(t)は 0 に収束するため、式 31222105 は式31222106 に示すとおり変形でき更に式 31222107 のとおり対象毎に個別的な時間的変動Zbk(t),Zbi(t)に関する条件として記述できる。従って Hecikman・Ichimura 他(1997・1998)による並行推移性の条件は式 31222107 のとお

りマッチングを実施した後の処置群及び対照群の対象毎に個別的な未知の時間変動部分

Zbk(t),Zbi(t)の処置前の時点 t-s と処置後の時点 t+u での差の期待値が 0 でなければならないという条件であると解釈できる。

実際には処置後の時点 t+u での処置群の結果指標には処置効果が含まれている場合があり当該偏差を直接に観察・確認することができないため、式 31222108 のとおりマッチングを行った後の処置群及び対照群についての平行推移性の確認は、処置効果が含まれてい

ない処置前の 2 時点 t-s,t-s'における偏差 B(X(t-s')),B(X(t-s))の差が 0 か否かを確認することにより行う*52 こととなる。従って処置前の 2 時点以上でマッチングを行った後の処置群及び対照群の結果指標の平均値を観察した場合に、処置群及び対照群の結果指標の平均値が

並行して推移していることが確認できれば、処置群及び対照群について CMIA が充足されていると見なすことができる。

このため並行推移性の確認は式 31222109 のとおり処置群及び対照群の対象毎に個別的な時間変動部分 Yb(t)について、処置前の 2 時点 t-s,t-s'での差の期待値が 0 であることを確認することと等価である。

3-1-2-2-1.での Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による結果指標の平均・分散の差などを確認する方法と比較した場合、式 3-1-2-2-2-1.において明らかなとおり並行推移性を確認する方法では結果指標の分散については要件が課されておらず試料数に関しての要件も課さ

れていないことから、マッチングが実施でき並行推移性が確認できるだけの対象数が確保

できていればよい点が利点として挙げられる。他方で並行推移性を確認するためには処置

前において必ず 2 時点以上での観察を必要とする点が問題点として挙げられる。

3-1-2-3. マッチングを用いた統計的方法において CIA・CMIA の充足が確認された場合での

DID への効果マッチングを用いた統計的方法において、3-1-2-2.で説明した 2 つの方法のいずれかに

より CIA・CMIA が充足されていることが確認された場合に、CIA・CMIA による DID への効果について処置効果モデルを用いて検討する。

*53 ATET: Average Treatment Effect on Treated

- 40 -

以下に説明するとおり、3-1-2-2.で説明した 2 つの方法で確認を行った場合には DID の

結果によりいずれの方法でも処置群平均処置効果(ATET*53)が推計されるが、処置群及び対照群の試料数に関する要件が異なっていることに注意が必要である。

3-1-2-3-1. Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による結果指標の平均・分散の差を確認した場合3-1-2-2-1.で説明した Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による処置群及び対照群の間での規

格化された結果指標の平均値の差及び結果指標の分散の比の範囲の両方について確認でき

た場合には、平均値及び分散が概ね等しい分布を持った処置群及び対照群がマッチングに

より得られたものと見なすことができる。

この場合での DID における効果については、式 3-1-1-3-1-1.で説明したランダム化を用いた実験的方法による場合と概ね同じであって、処置群の試料数 M 及び対照群の試料数 Nがいずれも十分に大きな試料数である場合には、処置群及び対照群は異なる母集団ではあ

るものの平均値及び分散が概ね等しい分布を持った 2 つの母集団からそれぞれ抽出されたものと見なすことができる。このため、処置群及び対照群における観察可能な説明変数

と係数の積の前後差及び個別的な未知の時間変動部分の前後差はいずれも概ね等しい値の

前後差に収束するものと見なすことができる。

このため、ランダム化を用いた実験的方法の場合と同様に、マッチングを用いた統計的

方法であって Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による処置群及び対照群の間での規格化された結果指標の平均値の差及び結果指標の分散の比の範囲の両方について条件の充足が確認

できた場合には、式 3-1-1-3-1-1.中の式 31131109 で説明したとおり式 31131107 及び式31131108 の第 2 項と第 3 項が相殺して 0 となることが理解される。他方でマッチングを用いた統計的方法においては、処置群及び対照群の対象の選択がラ

ンダムに行われている訳ではないため、対照群の対象に処置を行った場合の結果について

の情報を得ることはできない。このため、マッチングを用いた統計的方法による DID の

結果は ATE ではなく ATET を推計していることに注意が必要である。従って、マッチングを用いた統計的方法による試料を用いた分析について、3-1-2-2-1.

で説明した Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による 2 つの条件の充足が確認されかつ処置群の試料数 M 及び対照群の試料数 N が十分に大きな数である場合には、DID での CMIA の条件が充足され ATET を推計することができる。

3-1-2-3-2. Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による結果指標の並行推移性を確認した場合3-1-2-2-2.で説明した Heckman・Ichimura 他(1997・1998)によるマッチングを行った処置

群及び対照群について並行推移性が確認された場合においては、対象毎に個別的な未知の

時間変動部分の前後差の差がほぼ相殺する処置群及び対照群が得られたものと見なすこと

ができる。従ってこの場合にはマッチングにより処置群及び対照群の変数に関する分布の

類似性が確保されていることから、間接的に CMIA が充足されているものと推定できる。式 3-1-2-3-2-1.に Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による並行推移性を確認した場合で

の DID における効果について示す。マッチングを用いた統計的方法において、何の確認も行わない状態での DID の結果は

式 3-1-1-3-1-1.中の式 31131107 で示したとおりであり、処置群での処置効果の期待値

- 41 -

(ATET)である第 1 項、処置群及び対照群における観察可能な説明変数と係数の積の前後差の差の期待値である第 2 項並びに処置群及び対照群における個別的な未知の時間変動部分の前後差の差の期待値である第 3 項の和となっているはずである。この場合に Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による並行推移性が確認できている場合

には、式 3-1-2-2-2-1.中の式 31222107 で説明したとおり、処置群及び対照群における個別的な時間変動部分 Zbk(t),Zbi(t)の前後差の差の期待値は 0 となる。このためマッチング処理を行った処置群及び対照群について並行推移性が確認できた場

合には、式 31232103 及び式 31232104 に示すとおり式 31131107 の第 2 項及び第 3 項部分の期待値はいずれも 0 となり、DID の結果から ATET が推計できることが理解される。ここで並行推移性を確認する場合には、3-1-1.で説明したランダム化を用いた実験的方

法による場合や 3-1-2-2-1.で説明した Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による 2 つの条件を確認した場合とは異なり、処置群の試料数 M 及び対照群の試料数 N がいずれも十分に大き

な試料数であることという条件は必ずしも必要ではない。

従って、マッチングを用いた統計的方法において 3-1-2-2-2.で説明した並行推移性が確認された場合、CMIA の条件が充足され ATET を推計することができる。

[式 3-1-2-3-2-1. Heckman・Ichimura 他(1997・1998)による並行推移性を確認した場合での DID における効果]

(DID)DIDki(s,u)

= Yk(t+u) - Yk(t-s) - ( Yi(t+u) - Yi(t-s) ) | X, Di=0, Dk=1= ZFk(t+u) + β・( Xk(t+u) -Xk(t-s) - ( Xi(t+u) - Xi(t-s) ))

+ Zbk(t+u) - Zbk(t-s) - ( Zbi(t+u) - Zbi(t-s) )+ εk(t+u) - εk(t-s) - ( εi(t+u) - εi(t-s) ) | X, Dk=1,Di=0

式 31232101(式 31131105(再掲))E(DIDki(s,u))

= E Yk(t+u) - Yk(t-s) - ( Yi(t+u) - Yi(t-s) ) | X, Di=0, Dk=1

= E ZFk(t+u) | X, Dk=1

+ E β・(Xk(t+u) - Xk(t-s) - (Xi(t+u) - Xi(t-s))) | X,Dk=1,Di=0

+ E (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - (Zbi(t+u) - Zbi(t-s)) | X, Dk=1, Di=0

∵ ∀ εi(t),εk(t) i.i.d., E[εi(t)]=E[εk(t)]=0式 31232102(式 31131107(再掲))

(マッチング処理)

E β・(Xk(t+u) - Xk(t-s) - (Xi(t+u) - Xi(t-s))) | X,Dk=1,Di=0 = 0式 31232103

(並行推移性: CPTA)

E (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - (Zbi(t+u) - Zbi(t-s)) | X, Dk=1, Di=0 = 0

式 31232104(式 31222107(再掲))

*54 具体的に Abadie and Gardeazabal(2003)の処置群の試料数は 1 で対照群の合成に用いた試料数は 2 である。

- 42 -

(DID(再))

E(DIDki(s,u))

= E Yk(t+u) - Yk(t-s) - ( Yi(t+u) - Yi(t-s) ) | X, Di=0, Dk=1

= E ZFk(t+u) | X, Dk=1 ∵ 式 31232103 及び式 31232104

= ZFk(t+u) 式 31232105

t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)k, i 処置群の対象 k, 対照群の対象 iYk(t-s),Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yi(t-s),Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について観察可能な説明変数Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Dk , Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の時間変動部分Zbi(t-s), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎に個別的な未知の時間変動部分ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の処置効果ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群平均処置効果(ATET)εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎の誤差項εi(t-s), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項DIDki(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 k・対照群 i の横断面前後差E[ ・ ] 期待値

3-1-3. 合成対照群を用いた統計的方法と結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA)

3-1-3-1. 合成対照群を用いた統計的方法と CIA合成対照群を用いた統計的方法とは、ランダム化されていない公的統計調査などの結果

による試料を用いて、処置群の対象に対応した合成対照群の対象を推計することにより処

置群及び対照群の類似性を確保し CIA を充足する方法である。合成対照群を用いた統計的方法においては 3-1-1.で説明したランダム化を用いた実験的

方法や 3-1-2.で説明したマッチングを用いた統計的方法と異なり、幾つかの対照群の候補となる対象の結果指標に影響を与える因子を最適なウェイトにより加重平均し個々の処置

群に対応する(必ずしも実在しない)対照群の対象を合成することによって CIA を充足させ

ている。

従って処置群の試料数 M は 1 以上であればよく、対照群の試料数 N も最適なウェイト

が推計できる限りにおいて少なくてよい*54 が、後述するように処置群及び対照群ともに処

置前において時間方向に多数の時点での試料を必要とする点が大きく異なっている。

合成対照群を用いた処置効果評価は Abadie and Gardeazabal(2003)において初めて用いられた方法であるが、Abadie 他(2010)においてその推計原理が詳細に説明されている。近年では Doudochenko and Imbens(2016)のように合成対照群の最適なウェイトの考え

方と試料数への要件を枠組みとして捉えて処置効果評価の方法論を統一的に説明しようと

*55 Abadie 他(2015)の事例においては東西ドイツ統一による経済効果という頻繁に取扱われる政策評価の問題を再評価している。Peri and Yasenov(2017)の事例においては更に焦点を絞り Card(1990)による 1980 年のキューバから米国 Florida 州 Maimi 市への Mariel 難民流入と賃金の関係の分析とこれを批判的に検証した Borjas(2015)他の分析を再評価している。

*56 Athey and Imbens(2017)では Abadie 他による合成対照群の開発を「過去 15 年の処置効果評価における最も重要な革新(p9)」として非常に高く評価している。

*57 Abadie 他(2015)においては、更にウェイトの構成要素は全て正であるという非負条件が課されている。他方で Doudochenko and Imbens(2016)によりウェイトの合計を 1 とする条件及び各要素が非負である旨

の条件を課すことは必然ではないことが示されているが、本稿では Abadie 他(2010・2015)に従うこととする。

- 43 -

する試みや、Abadie 他(2015)や Peri and Yasenov(2017)のように同一の問題に関し対立する複数の分析事例 *55 を当該枠組みを用いて統一的に再評価する試みなどが行われており、

その応用範囲は徐々に拡大*56 しつつある。

3-1-3-2. 合成対照群を用いた統計的方法における CIA の充足

3-1-3-2-1. Abdie 他(2010)による合成対照群の推計原理の概要合成対照群を用いた統計的方法において、幾つかの対照群の候補となる対象から合成対

照群を推計することにより個々の処置群の対象に対する CIA を充足できる推計原理につ

いては、Abadie 他(2010)中の補論 B にその詳細が示されている。式 3-1-3-2-1-1.に Abdie 他(2010)による合成対照群の推計原理の概要について示す。Abadie 他(2010)においては、式 3-1-3-2-1-1.中の式 31321101 に示すとおり処置群及び対

照群の候補となる対象の結果指標を、対象に共通の変数 δ(t)、対象毎に観察可能な変数 Xの関数、観察不可能な未知の変数 Z の関数及び誤差項 ε(t)により表現している。ここで式 31321102 のとおり構成要素 wi の合計が 1 となるウェイト W*57 を考え、この

うち式 31321103 のように対照群の候補となる対象(2 ≦ i ≦ J)にウェイトを乗じた際の結果指標及び観察可能な変数が、処置群の対象(i=1)の結果指標及び観察可能な変数と一致するようなウェイトを最適なウェイト W*とする。処置群の結果指標から最適なウェイト W*を乗じた対照群の候補となる対象の結果指標

の差は式 31321104 のとおり表現され、これを時間方向に合計したものは式 31321105 のとおり表現されるが、これを用いて式 31321106 のとおり未知数 Z を消去することができる。

ここで、上記のとおり対照群の候補となる対象に最適なウェイト W*を乗じた結果は処置群の結果指標及び観察可能な変数に一致するため、処置群と最適なウェイト W*を乗じた対照群の候補となる対象の差は式 31321107 に示すとおり、1)処置群の誤差の時間方向の合計値、2)対照群候補に最適なウェイトを乗じた誤差の合計値及び 3)最適なウェイトを乗じた処置群と対照群候補の誤差の差にそれぞれ λ の関数(λ・(λp’・λp)-1・λp)を乗じた 3 つの誤差に関する項の和と等しくなる。

これら 3 つの誤差に関する項についての時間方向での期待値を考えた場合には、1)及び3)の項は明らかに 0 に収束するため式 31321108 に示すとおり 2)の項のみが問題となる。詳細は Abadie 他(2010)の補論 B に譲るが、Cauchy-Schwarts の不等式、Hölder の不等

式及び Rosental の不等式から式 31321109 のとおり当該 2)の項についての上限が定まり、当該上限は時間方向に時点数 To が大きくなった場合の期待値が 0 に収束するため、2)の項についても 0 に収束することとなる。

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[式 3-1-3-2-1-1. 合成対照群の推計原理の概要(Abadie 他(2010))]

Yj(t) = δ(t) + θ(t)・Xj + λ(t)・Zj + εj(t) 式 31321101

J-1W ; Σ wj = 1 式 31321102j=2

∃ W* ;J-1 J-1 J-1Σ w*j・Yj(1) = Y1(1), ・・・・ Σ w*j・Yj(T0) = Y1(T0) and Σ w*j・Xj = X1j=2 j=2 j=2

J-1 J-1⇔ Y1

p - Σ w*j・Yjp = 0 and X1 - Σ w*j・Xj = 0j=2 j=2

式 31321103J-1

Y1(t) - Σ wj・Yj(t)j=2

J-1 J-1 J-1= θ(t)・ X1 - Σ wj・Xj + λ(t)・ Z1 - Σ wj・Zj + Σ wj・(ε1(t) -εj(t))j=2 j=2 j=2 式 31321104J-1

Y1p - Σ wj・Yj

pj=2

J-1 J-1 J-1= θp・ X1 - Σ wj・Xj + λp・ Z1 - Σ wj・Zj + Σ wj・(ε1

p -εjp)j=2 j=2 j=2 式 31321105

J-1Y1(t) - Σ wj・Yj(t)j=2

J-1= λ(t)・(λp'・λp)-1・λp'・ Y1

p - Σ wj・Yjp

j=2

J-1+ (θ(t) - λ(t)・(λp'・λp)-1・λp')・θp)・ X1 - Σ wj・Xjj=2

J-1- λ(t)・(λp'・λp)-1・λp'・ ε1

p - Σ wj・εjp

j=2

J-1+ Σ wj・(ε1(t) -εj(t))j=2 式 31321106

J-1Y1(t) - Σ w*j・Yj(t)j=2

J-1= λ(t)・(λp'・λp)-1・λp'・ Y1

p - Σ w*j・Yjp

j=2

J-1+ (θ(t) - λ(t)・(λp'・λp)-1・λp')・θp)・ X1 - Σ w*j・Xjj=2

J-1- λ(t)・(λp'・λp)-1・λp'・ ε1

p - Σ w*j・εjp

j=2

J-1+ Σ w*j・(ε1(t) -εj(t))j=2

J-1= - λ(t)・(λp'・λp)-1・λp'・ ε1

p - Σ w*j・εjp

j=2

J-1+ Σ w*j・(ε1(t) -εj(t)) (∵ 式 31321103)j=2 式 31321107

J-1Et Y1(t) - Σ w*j・Yj(t)j=2

J-1= Et λ(t)・(λp'・λp)-1・λp' ・ Σ w*j・εj

pj=2

J-1+ Et - λ(t)・(λp'・λp)-1・λp'・ε1

p + Σ w*j・(ε1(t) -εj(t))j=2

J-1= Et λ(t)・(λp'・λp)-1・λp' ・ Σ w*j・εj

p (∵ Et(εi(t)) =0 )j=2 式 31321108J-1

Et Y1(t) - Σ w*j・Yj(t)j=2

J-1= Et λ(t)・(λp'・λp)-1・λp' ・ Σ w*j・εj

pj=2

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J-1 T0 T0 -1= Σ w*j ・Σ λ(t)・ Σ λ(n)'・λ(n) ・λ'(s)・εj(s)j=2 s=1 n=1

λ2・Λ mp1/p σ

≦ C(p)1/p ・ ・J1/p ・maxζ T0

1-1/p , T01/2 式 31321109

λ2・Λ mp1/p σ

lim C(p)1/p ・ ・J1/p ・max = 0To →∞ ζ T0

1-1/p , T01/2 式 31321110

J 対照群・処置群を含む試料数 (処置群 1, 対照群 J-1)T0 時点数 (0<T0)Yj(t) 対象 j、時点 tでの結果指標 (j=1; 処置群、J ≧ j ≧ 2; 対照群)Yj

p対象 j の時点 1 から T0 迄の時間方向の結果指標 Yi ベクトル

W, wj 対照群の候補に対するウェイトのベクトル(1 x J-1 ベクトル) 及びその要素W*, w*j 時間方向に最適化された最適ウェイト W*及びその対象 j に関する要素 w*j

δ(t) 時点 tにおいて全対象に共通の変数Xj 対象 j について観察可能な説明変数Zj 対象 j について観察不可能な未知の変数θ(t) 時点 tにおける対象 j について観察可能な説明変数の係数θp

時点 1 から T0 迄の観察可能な説明変数 Xi の係数 θ(t)のベクトルλ(t) 時点 tにおける対象 j について観察不可能な未知の変数の係数λp

時点 1 から T0 迄の観察不可能な未知の変数 Zi の係数 λ(t)のベクトル(λp’・λp

は逆行列を持つ正則行列)λ λ(t)の絶対値の最大値 (定数)εj(t) 対象 j, 時点 tでの誤差項 (平均 0)εj

p対象 j の時点 1 から T0 迄の誤差項 εi(t)のベクトル

p 任意の偶数 (2 ≦ p)C(p) パラメータを 1 とするポアソン分布の p 次モーメントΛ λp

の対象方向の次数

ζ λp'・λpの固有値の下限値

mp 誤差項の絶対値の最大値

σ 誤差項の分散の最大値の平方根

Et[ ・ ] 時間方向での期待値

(式注) 出典: Abadie 他 (2010), 本稿での記述方法に合わせて一部の記号を置換している。

従って、処置群の結果指標と対照群の候補となる対象に最適なウェイト W*を乗じた合成対照群の結果指標の差は、処置前において時間方向に十分な時点数 To が得られる場合には時点を問わず 0 に収束し、よって CIA が充足されることが理解される。合成対照群を用いた統計的手法が 3-1-1.でのランダム化を用いた実験的手法や 3-1-2.で

のマッチングを用いた統計的手法と異なる点は、処置群や対照群の候補となる対象の試料

数は最適なウェイト W*が得られる限りにおいて 2 つか 3 つ程度の少数の試料でも問題がない点及び個別の処置群の対象についての処置効果を推計することが可能である点と、そ

の反面で時間方向に多数の時点での試料を必要とする点である。

3-1-3-2-2. Abdie 他(2010)による合成対照群と CIA の充足3-1-3-2-1.では Abadie 他 (2010)による合成対照群による推計原理を説明したが、式

31321109 及び式 31321110 から明らかなとおり当該方法では処置群の対象と合成対照群は処置前の任意の時点で結果指標が概ね一致しており差が 0 と見なせることとなる。従ってこのような最適なウェイトが適用された対照群が合成されている場合には

- 46 -

3-1-2-2-2.で説明した並行推移性は自明に充足されることとなる。以下当該合成対照群を用いた統計的方法の場合での、DID における効果について処置効

果モデルを用いて説明する。

3-1-3-3. 合成対照群を用いた統計的方法において CIA の充足が確認された場合での DID における効果

3-1-3-2.では Abadie 他(2010)による合成対照群を用いた統計的方法における推計原理とCIA の充足について説明したが、次に当該推計原理を基礎として本稿における処置効果モ

デルを用いて DID に合成対照群の方法を適用した場合での効果について説明する。式 3-1-3-3-1-1.に合成対照群により CIA を充足した場合の DID における効果について示

す。

[式 3-1-3-3-1-1. 合成対照群により CIA を充足した場合の DID における効果]

Yk(t-s) = β・Xk(t-s) + Zck + Za(t-s) + Zbk(t-s) + εk(t-s) 式 31331101

Yj(t-s) = β・Xj(t-s) + Zcj + Za(t-s) + Zbj(t-s) + εj(t-s) 式 31331102N

Yk(t-s) - Σ w*j・Yj(t-s)j=1

N N N= Zck - Σ w*j・Zcj + Zbk(t-s) - Σ w*j・Zbj(t-s) + εk(t-s) - Σ w*j・εj(t-s)j=1 j=1 j=1

N N∵ Za(t-s) - Σ w*j・Za(t-s) = 0, β・Xk(t-s) - Σ w*j・β・Xj(t-s) = 0j=1 j=1

(∵ 式 31321103)式 31331103

NEs Yk(t-s) - Σ w*j・Yj(t-s) = 0j=1

N N⇒ Es Yk(t-s) - Σ w*j・Yj(t-s) - Yk(t-s') + Σ w*j・Yj(t-s') = 0j=1 j=1

N N∴ Es Zbk(t-s) - Σ w*j・Zbj(t-s) - Es Zbk(t-s') + Σ w*j・Zbj(t-s') = 0 for ∀ s,s'j=1 j=1

式 31331104DIDk,wi(s,u)

N N= Yk(t+u) - Yk(t-s) - Σ w*j・Yj(t+u) + Σ w*j・Yj(t-s)j=1 j=1

N N= ZFk(t+u) + β・Xk(t+u) - Σ w*j・β・Xj(t+u) - β・Xk(t-s) + Σ w*j・β・Xj(t-s)j=1 j=1

N N+ Zbk(t+u) - Σ w*j・Zbj(t+u) - Zbk(t-s) + Σ w*j・Zbj(t-s)j=1 j=1

N N+ εk(t+u) - Σ w*j・εj(t+u) + εk(t-s) - Σ w*j・εj(t-s)j=1 j=1

N N= ZFk(t+u) + Zbk(t+u) - Σ w*j・Zbj(t+u) - Zbk(t-s) + Σ w*j・Zbj(t-s)j=1 j=1

N N+ εk(t+u) - Σ w*j・εj(t+u) + εk(t-s) - Σ w*j・εj(t-s)j=1 j=1

(∵ 式 31331103) 式 31331105Es(DIDk,wi(s,u))

= ZFk(t+u)N N

+ Es Zbk(t+u) - Σ w*j・Zbj(t+u) - Es Zbk(t-s) + Σ w*j・Zbj(t-s)j=1 j=1

= ZFk(t+u) (∵ 式 31331104) 式 31331106

*58 具体的な処置前の時点数としては、Abadie and Gardeazabal(2003)では 20 年分、Abadie 他(2010)では 19年分の時点数による分析を行っている。

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t-s, t-s',t+u 処置前の時点 t-s,t-s' 及び処置後の時点 t+u (s,s',u >0, s ≠ s')k, j 処置群の対象 k, 対照群の候補となる対象 jYk(t-s),Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yj(t-s),Yj(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の候補となる対象 j の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u で処置群の対象 k について観察可能な説明変数Xj(t-s), Xj(t+u) 時点 t-s, t+u で対照群の候補となる対象 j について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Za(t-s) 時点 t-s での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の時間変動部分Zbj(t-s), Zbj(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の候補となる対象 j 毎に個別的な未知の時間変

動部分

w*j 最適なウェイト W* の対象 j に関する要素 (0<w*j, Σj w*j =1)ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k の処置効果εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の誤差項εj(t-s), εj(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の候補となる対象 j 毎の誤差項DIDkwi(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 k・合成対照群 wi の横断面前後差Es[ ・ ] 時間方向の期待値

処置群の対象 k の結果指標が式 31331101 で表現され、対照群の候補となる対象 j の結果指標が式 31331102 で表現される際に、処置群と対照群の候補となる対象から最適なウェイト W*により構成された合成対照群の結果指標の差は式 31331103 で表現されることとなる。

3-1-3-2.で説明したとおり最適なウェイト W*を用いて構成された合成対照群では処置群との結果指標の時間方向での期待値が 0 となることから、式 31331104 で示すとおり異時点の処置群と合成対照群の結果指標の差の期待値もまた 0 となる。異時点の処置群と合成対照群の結果指標の差の期待値が 0 である場合には、処置群の

対象 k に個別的な未知の時間変動部分と最適なウェイト W*で合成された対照群の候補となる対象 j に個別的な未知の時間変動部分の異時点での差は 0 である。全ての対象に共通的な時間変動部分は相殺して 0 となり、また誤差項は期待値によって 0 に収束することから、処置群の対象 k と最適なウェイト W*で合成された対照群の候補となる対象 j の観察可能な説明変数と係数の積の異時点での差は式 31331104 に示すとおり 0 となるはずである。

従って、処置群と合成対照群の DID を推計した場合に、処置前の時点で時間方向に多

数の時点数 *58 が得られ最適なウェイト W*による合成対照群が推計されている場合には、処置群の対象に個別的な時間変動部分と合成対照群の個別的な時間変動部分の異時点での

差は式 31331106 に示すとおりいずれも 0 となり、当該 DID の結果により処置効果を推計できる。

3-1-3-4. 合成対照群を用いた統計的方法における CIA の充足と偽薬試験による推計結果の検証

合成対照群を用いた統計的方法については、他の方法論とは異なる推計原理により CIAを充足していることから、体系的・網羅的な偽薬試験により推計結果の検証が行われてい

ることが特色として挙げられる。

*59 勿論ランダム化を用いた実験的方法やマッチングを用いた統計的方法においても類似の偽薬試験を用いた検証を行うことが可能である。しかしこれらの方法論においては推計の過程において試料の分散が容易に算定可能であるため 95 %信頼区間を用いた感度分析が検証に用いられている。

- 48 -

ランダム化を用いた実験的手法における 3-1-1-2.での Stuart 他(2011)による確認方法やマッチングを用いた統計的手法における 3-1-2-2.での Rubin(2001)及び Imai 他 (2008)やHeckman・Ichimura 他(1997・1998)による確認方法では CIA・CMIA の充足を確認することができる点について説明したが、合成対照群では対象数より時点数が多い試料を用いる関係

上からこれらの方法をそのまま確認方法として適用することは困難である。

このため合成対照群を用いた統計的方法では、偽薬試験を積極的に活用した手法を適用

することにより CIA の充足の確認のみならず、CIA の充足を含めた処置効果の評価結果全体の妥当性及び頑健性を検証すること *59 が行われている。

式 3-1-3-3-1-1.中の式 31331104 で説明したとおり、処置が行われていない対照群の候補となる対象の 1 つに対して他の対照群の候補となる対象から合成対照群を構成し偽薬試験を実施した場合には、式 31331106 に示すとおり両者の個別的な時間変動部分の異時点での差のみが観察されるがその期待値は 0 となるはずであり、処置効果は観察されないはずである。

具体的には Abadie and Gardeazabal(2003)では処置群である Basque 地方でのテロリズムによる効果を確認する際に、全く同じ分析手順を対照群の候補となる地域の 1 つである Catalonia 地方に適用し処置効果に相当する影響が観察されないことを確認している。

Abadie 他(2010)では California 州での禁煙政策による処置効果を確認する際に、同様の政策措置が行われていた州を除く対照群の候補となる 19 州に同じ分析手順を適用し処置効果に相当する影響が偶然に検出される確率が非常に低いことを確認している。

処置を受けていない対象ではなく処置が行われていない時点を用いた偽薬試験の例とし

ては Montalvo(2011)が挙げられる。Montalvo(2011)はスペインで 2004 年に起きた Madridでの爆弾テロ前後での投票行動の変化を合成対照群を推計して評価する際に、当該テロが

起きる前の 2000 年に架空のテロを想定した分析を試行し処置効果に相当する影響が観察されないことを確認している。

3-2. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題本節においては 2-1.で整理した横断面前後差分析(DID)による処置効果評価の推計に必

要な前提条件のうち系列相関の不存在性条件(NACA)に起因した問題について、主要先行研究である Bertland 他(2004)、Moulton(1986)及び Donald and Lung(2007)などの議論を参照として処置効果モデルを用いた検討を行う。

以下本節の説明において、特に断らない限り 2-3.で説明した処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)など試料の収集・管理に関する前提条件及び 3-1.で説明した結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)については、方法論を問わずこれらの前提条件の充足が確認されているものとする。

また処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題については、次節で扱うこととし本節では取扱わない。

*60 CPS-MORG: Current Population Survay - Merged Outgoing Rotation Group

*61 Efron and Tibshirani(1994)による方法。

*62 Kiefer(1980)による方法。

*63 Kezdi(2002)他による方法。

- 49 -

3-2-1. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題に関する主要先行研究での指摘

3-2-1-1. Bertland 他(2004)の指摘による時間方向での系列相関の問題Bertland 他(2004)は DID の推計における時間方向での系列相関の問題について 1)先行研

究調査、2)典型的な賃金統計に偽薬試験を適用したシミュレーション及び 3)対策手法の有効性の検証を行い、DID を用いた処置効果評価における系列相関に起因した偏差の問題に

対して注意喚起を行っている。

Bertland 他(2004)は先行研究調査として米国で 1990 ~ 2000 年の間に刊行された労働経済関係の先行研究を分析し、複数年度の試料を使った DID 分析を行っている 92 論文についての系列相関に関する対策について調査した結果、明確に対策を講じていたものは 5論文のみであり他の大部分の論文では系列相関への対策が何も行われていなかった点を指

摘している。

当該結果を基礎として、系列相関に起因した問題が DID による処置効果評価の結果に

与える影響について考察するため、労働経済学の分野で頻繁に利用されている典型的な賃

金統計である米国 CPS-MORG*60 データの 1979 年から 1999 年の 21 年間・50 州別での女性賃金を用いて偽薬試験によるシミュレーションを行っている。具体的には、実際には存在

しない賃金政策を仮定してランダムな 25 州づつからなる時系列での処置群・対照群の対を作成し、賃金政策の評価結果が統計的に有意と言えるか否かについてシミュレーション

を試行している。当該評価結果において系列相関の問題を考慮していない場合には、系列

相関に起因して標準誤差が過小となり実際には存在しない賃金政策の 45 %が統計的に「有意」として誤検出されてしまったことを報告している。

更に系列相関に起因した問題への対策手法について同じ CPS-MORG データを使い

Monte-Carlo 法を用いて有効性を検証することを試みている。具体的には 1)自己相関項(AR)・移動平均項(MA)の特定化、2)Block Bootstrap 法 *61、3)時系列推計の停止と処置前・後の二期化、4)演繹的分散・共分散行列の設定*62 及び 5)暫定的分散・共分散行列の設定*63 の 5つの対策措置について誤検出がどの程度改善するか、また試料数が減少した場合の影響は

どうかについて検証している。当該検証の結果、第一に時間方向の試料が過小であるため

に 1)自己相関項 (AR)・移動平均項 (MA)の特定化は有効ではないこと、第二に 2)BlockBootstrap 法、4)演繹的分散・共分散行列の設定及び 5)暫定的分散・共分散行列の設定は一定の効果はあるが試料数が更に減少した場合には対策の効果が低下すること、そして最後

に 3)時系列推計の停止と処置前・後の二期化による推計は、試料数が減少した場合でも有効であり対策の効果が認められることを報告している。

3-2-1-2. Moulton(1986)及び Donald and Lung(2007)の指摘による組織方向の系列相関の問題

3-2-1-2-1. Moulton(1986)による指摘Moulton(1986)は DID の推計において、試料として用いる対象が何らかの組織に属し組

*64 Moulton(1986)により指摘された組織方向での系列相関の問題については「組織効果」又は「 Moulton 効果」と呼称される場合がある。本稿においては時間方向・組織方法の系列相関を区別せずいずれも系列相関として取扱うものとする。

- 50 -

織内に共通した要因の影響を受けている場合の系列相関 *64 の問題について問題点の指摘を

行い、一般化最小二乗法(GLS)の活用による対策手法を提言している。多数の対象を試料として用いた DID において、対象の一部が何らかの社会的・経済的組

織に属している場合には組織内に共通した要因により対象の誤差が相関を持つ場合があ

り、この場合には通常の最小二乗法(OLS)の標準誤差が異常に小さくなるため処置効果の誤検出のおそれがあることを指摘している。

当該問題への対策として、組織効果の存在を前提として一般化最小二乗法(GLS)の解を最大尤度法(Maximum Likelihood)を用いて求めるかあるいは当該結果により補正した標準誤差を用いる必要があることを論じている。

更に具体的に組織の大きさや組織内の対象間での誤差の相関の大きさが異なる 3 つの事例について説明し、通常の最小二乗法(OLS)と一般化最小二乗法(GLS)による推計結果を対比して示した上で当該問題が様々な事例で普遍的に発生し得ることを示している。

3-2-1-2-2. Donald and Lung(2007)による指摘Donald and Lang(2007)は、DID において上記 Moulton(1986)が指摘した試料内の組織構

造の存在による誤差の相関の問題について、更に試料内の組織の大きさなどが異なる場合

について処置効果モデルを用いた理論的検討を行い、更に Monte-Carlo 法によるシミュレーションを用いて当該問題への対策措置について考察している。

当該考察の結果から、試料内の組織構造の数が少ない場合には通常の最小二乗法(OLS)・一般化最小二乗法(GLS)などによる t 統計値は正規分布とはならないこと及び当該問題に関連して計量分析ソフト"STATA” における"Cluster"コマンドの有効性は当該仮定に依存していることを指摘している。

従って当該問題への対策としては、1)各組織構造を構成する対象数が大きくかつ誤差が正規分布である場合には、Amemiya(1978)の手法に基づき最初に個別効果部分を一般化最小二乗法(GLS)で推計した上で組織・時系列効果部分を一般化最小二乗法(GLS)で推計する二段階での推計法が適用でき、当該場合には t 統計量は正しく t 分布に従い効率的推計が可能であること、2)各組織構造を構成する対象数が小さい場合においても上記の二段階推計法を適用することが望ましいが、t 分布に従う効率的推計を行うためには組織構造間で誤差の分散が等しいなどの特別な条件が成立っていることが必要であることなどについて

説明している。

3-2-2. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題と既存の対策手法

3-2-2-1. 時間方向及び組織方向の系列相関に起因した問題3-2-1.では Bertland 他(2004)、Moulton(1986)及び Donald and Lung(2007)の指摘の概要に

ついて説明したが、次にこれらの指摘の本質である系列相関に起因した問題について考察

する。

式 3-2-2-1-1-1.に通常の最小二乗法(OLS)を用いた DID のためのパネルデータ分析と系列

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相関に起因した問題について示す。

[式 3-2-2-1-1-1. 通常の最小二乗法(OLS)を用いた DID のためのパネルデータ分析と系列相関に起因した問題]

Yj(t) = β・Xj(t) + Zj(t) + εj(t) 式 32211101

βOLS = (Xj(t)'・Xj(t))-1・Xj(t)'・Yj(t)= β + (Xj(t)'・Xj(t))-1・Xj(t)'・(Zj (t) + εj(t))

式 32211102(Zj(t) + εj(t)) '・(Zj(t) + εj(t)) kk

σ2OLS =

N -K 式 32211103SEOLSk = ( σ2

OLS・(Xj(t)'・Xj(t))-1kk )0.5

式 32211104βOLSk

tOLSk =( σ2

OLS・(Xj(t)'・Xj(t))-1kk )0.5 式 32211105

Yj(t) 時点 t での対象 j の結果指標 (処置群・対照群の両方の対象を含む)Xj(t) 時点 t での対象 j について観察可能な説明変数ベクトルZj(t) 時点 t での対象 j について観察不可能な未知の変数ベクトルεj(t) 時点 tでの対象 j の誤差ベクトルβ 観察可能な説明変数ベクトル Xの係数ベクトルβOLS 説明変数の係数ベクトルの最小二乗法(OLS)による推計値σ2

OLS 最小二乗法(OLS)による分散の推計値N, K 試料数 N (処置群・対照群を含む), 説明変数の数 KSEOLSk 最小二乗法(OLS)による k 対角成分に関する標準誤差tOLSk 最小二乗法(OLS)による k 対角成分に関する係数の検定指標( ・ )kk 行列の k 対角成分

式 3-2-2-1-1-1.中の式 32211101 に示すとおり本稿で用いている処置効果モデルによる処置群・対照群の対象の結果指標 Yj(t)について、観察可能な説明変数ベクトルと係数の積 β・Xj(t)、観察不可能な未知の変数ベクトル Zj(t)及び誤差項 εj(t)を用いたパネルデータ分析を行う場合を考える。平均処置効果は説明変数ベクトル Xbj(t)中の処置ダミー成分 Tj(t)に対する係数として推計されるものとする。ここで観察不可能な未知の変数ベクトル Zj(t)が対象間の組織方向又は時間方向に系列相関を持っているものと仮定する。

当該結果指標 Yj(t)を被説明変数とし説明変数 Xj(t)でパネルデータ分析により回帰分析する際に、何の系列相関についての対策も行わないまま最小二乗法(OLS)により係数 βOLS を

求めた場合には当該係数は式 32211102 のとおり推計される。当該回帰分析の残差の分散σ2 は式 32121104 のとおり推計され、これを用いて係数の k 対角成分に対する標準誤差SEOLSk 及び当該係数の k 対角成分の検定指標 tOLSk は式 32211104 及び式 32211105 のとおり推計されることとなる。

一般にパネルデータ分析では個々の対象が時間方向に系列相関を持っていた場合でも、

多数の時点・対象を用いたパネルデータを構成した際には 1 期毎に別の対象の試料が介在することとなるため時間方向の系列相関が発生しにくいとされている。しかし Bertland他(2004)が事例とした賃金の場合など対象の大部分が均整に時間方向の系列相関を持っている場合には、別の対象の試料であっても時間方向に独立であるとは言えずパネルデータ

分析は時間方向での系列相関に対して有効な手段ではなくなってしまう。

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具体的には最小二乗法(OLS)を用いた場合に式 32211101 の Yj(t)を構成する各要素が独立で残差には系列相関が存在せず分散・共分散行列には対角成分しか存在しないことを仮

定するため、系列相関により分散・共分散行列に対角成分以外の成分が存在している場合

には当該仮定が成立せず対角成分以外の成分に相当する分だけ標準誤差が小さくなってし

まう。

従って DID による処置効果評価の際に単純な最小二乗法(OLS)によるパネルデータ分析を適用した場合、Bertland 他(2004)や Moulton(1986)などが指摘するとおり検定に用いるべき標準誤差が過小となり存在しない処置効果を誤検出してしまう恐れがあることが理解さ

れる。

3-2-2-2. 時間方向での情報を集約した処置前・後の二期化による対策手法NACA に起因した問題への対策手法については、最も単純なものとして Bertland 他

(2004)が指摘する時間方向での情報を用いない処置前・後の二期化によるパネルデータ分析を行う対策手法(「二期化法」)が挙げられる。

図 3-2-2-2-1-1.に時間方向での情報を集約した処置前・後の二期化による対策手法の概念図を示す。

[図 3-2-2-2-1-1. 時間方向での情報を集約した処置前・後の二期化による対策手法]

結果指標 Y

対照群処置後平均

対照群処置前平均 (集約化)対照群処置前後差

(時間方向での情報を用いない時間変動分は全て分散の一部) 横断面前後差分析(DID)

による処置効果

処置群処置前平均 (集約化) 処置群処置後平均

処置実施前 t-s' 処置▲実施 t t+u 処置実施後 時 間 t

当該対策手法では、処置群及び対照群の対象が持つ時間方向での情報を基本的に用いず、

処置前・後での処置群及び対照群の対象の結果指標をそれぞれ平均して集約して 2 期としたパネルデータ分析によって DID を行い平均処置効果を推計する。処置効果の推計の際の係数の検定においては、3-2-2-1.で説明した最小二乗法(OLS)によ

る残差の分散を用いるのではなく、対象内の組織による系列相関の存在により分散・共分

散行列に対角成分以外の要素が存在することを念頭に一般化最小二乗法(GLS)などによって処置前の時点での処置群及び対照群の対象の分散を用いた検定を行う。

当該対策手法では最小二乗法(OLS)を用いないため、時間方向や組織方向の系列相関による標準誤差の変化が処置効果の推計の際の係数の検定結果に影響を与えることはない。

他方で、処置前における処置群及び対照群の対象の時間変動については、時間方向に 2期とする際に対象に共通した時間変動であれ対象毎に個別的な時間変動であれ全て試料の

*65 Bertland 他(2004)は時間方向に 21 年分しかない CPS-MORG という特定のデータについての評価を行っているためか、当該対策手法自体の問題点について何も指摘していない。

*66 いわゆる ”Dynamic Panel Data Analysis”がこれに相当する。3-2-1-1.で説明したとおり Bertland 他(2004)では Block-Bootstrap 法や演繹的分散・共分散行列の設定などの

他の方法を試行しているが、3-2-2.での二期化による方法や Hansen(2007a,2007b)による方法と比較して試料数が減少した場合には改善効果が低下することが報告されており、主要先行研究における応用事例も見当たらないことから本稿ではこれら他の方法については説明を捨象する。

*67 Box and Jenkins(1976)及び Box, Jenkins and Reinsel(2008)による時系列回帰分析の標準的手順。

*68 VAR: Vector Auto Regression, Sims(1980)による多変数時系列回帰分析の方法。

*69 AR: Auto Regression, MA: Moving Average

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分散の一部として扱われることとなる。このため、時間方向に長い試料や時間変動が大き

い試料の場合には処置前における試料の分散が大きくなる問題を生じる*65。

処置前・後の二期化による対策手法においては、試料の時間方向での情報は全て失われ

てしまい時間変動は全て試料の分散の一部として扱われることとなるが、時間方向での系

列相関の問題は発生しないこととなる。

3-2-2-3. 自己相関項(AR)などの特定化による対策手法系列相関に関する問題のうち時間方向での系列相関の問題への対策手法としては、パネ

ルデータ分析において自己相関項(AR)などを特定化した分析*66 を行うことが考えられる。

Box-Jenkins 法 *67 やベクトル自己回帰分析(VAR*68)などによる時系列回帰分析と同様に、パネルデータ分析においても自己相関項(AR)及び移動平均項(MA)*69 を正しく特定化するこ

とにより時間方向での系列相関の問題を解消することは原理的には可能である。

但しパネルデータにおいて自己相関項(AR)などの特定化には試行錯誤を要し体系的な特定化の方法は知られていないため、Bertland 他(2004)が述べているとおり米国 CPS-MORGデータのように時間方向に 21 年しかない試料を用いている場合では、自己相関項(AR)などの適切な特定化が困難であり当該方法は有効な対策ではなくなってしまう。

他方で合成対照群を用いた統計的方法における場合など、時間方向に十分な試料を用い

ている場合においては Bertland 他(2004)が指摘する系列相関の問題に対し他の対策手法が適用できる可能性は否定できず、条件如何によっては当該方法を用いた自己相関項(AR)などの特定化はなお有効な対策手法の一つであると考えられる。

3-2-2-4. Hansen(2007a・2007b)による系列相関問題への包括的対策手法Hansen(2007a・2007b)は、上記 Moulton(1986)及び Bertland 他(2004)の結果を受けてパネ

ルデータ分析における典型的な 2 種類の系列相関の問題である 1)Moulton 効果など対象内の組織構造の影響による系列相関及び 2)対象の時系列構造の影響による系列相関の両方に対応可能な実行可能一般化最小二乗法(FGLS: Feasible Generalized Least Square)による包括的対策手法を提唱している。

式 3-2-2-4-1-1.に Hansen(2007a・2007b)による系列相関問題への包括的対策手法の概要を示す。

当該手法では Amemiya(1978)の手法を応用して最初に個別効果部分と系列相関部分を実行可能一般化最小二乗法(FGLS)で推計した上で、別途当該系列相関部分について組織毎に個別的な効果と共通的な効果による影響を推計し分離することによって系列相関による

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偏差を補正するという二段階での推計方法を提唱している。

具体的には Amemiya(1978)の手法を応用して最初に一般化最小二乗法 (GLS)により式3-2-2-4-1-1.中の式 32241101 を推計して組織及び時系列による系列相関の影響部分の推計値 Cs(t)を得、次に一般化最小二乗法(GLS)により当該推計値 Cs(t)について式 32241102 を推計し、組織毎に個別的な効果と共通的な効果による影響を推計している。

当該二段階での推計により、式 32241101 と 32241102 を組合せた単一の式を推計する場合と比較して推計に要する逆行列の次数を大幅に下げることが可能となり、実行可能一

般化最小二乗法(FGLS)による推計が容易となる。更に Bertland 他(2004)が用いた手法に倣い米国 CPS-MORG データを用いた実際には存

在しない賃金政策に対して、当該対策手法を適用した結果について Monte-Carlo 法による検証を行い、単純な最小二乗法(OLS)では 40%以上であった誤検出を上記の実行可能一般化最小二乗法(FGLS)を用いた二段階補正推計法によって 6 %から 7 %程度迄に低減できることを実証している。

Hansen(2007a・2007b)による対策手法はパネルデータ分析における組織方向及び時間方向の 2 つの系列相関の問題に包括的に対処できる優れた方法であるが、その推計手順が複雑であること及び対象方向及び時間方向に相当数の試料を必要とすることなどの問題点

があり、主要先行研究において実際の応用事例を見つけることができずあまり活用されて

いない様子である。

[式 3-2-2-4-1-1. 系列相関問題への包括的対策手法の概要(Hansen(2007a・2007b))]

Yis(t) = β0・Wis(t) + Cs(t) + εjs(t) 式 32241101

Cs(t) = β1・X's(t) + β2s・Z's(t) + us(t) 式 32241102

us(t) = νs(t) + (Cs(t) - Cs(t)) 式 32241103

Yjs(t) 時点 tでの組織 s に属する対象 j の結果指標Wjs(t) 時点 tでの組織 s に属する対象 j 毎に固有の観察可能な説明変数Cs(t), Cs(t) 時点 tでの組織及び時系列による系列相関の影響部分とその推計値Xs(t) 時点 tでの組織 s による s に共通的な影響に関する説明変数Zs(t) 時点 tでの組織 s による s に個別的な影響に関する説明変数β0,β1,β2

s説明変数の係数

εjs(t), νs(t) 時点 tでの組織 s に属する対象 j の)誤差項 (いずれも他の変数から独立)

(式注) 出典: Hansen (2007a・2007b), 本稿での記述方法に合わせて一部の記号を置換している。

3-2-3. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題への対策と方法論の関係

3-2-3-1. ランダム化を用いた実験的方法と NACA に起因した問題への対策ランダム化を用いた実験的方法においては、一般に試料数は多いが時点数が少ない試料

を扱うことが多いことが特徴である。

3-2-2-2.で説明した時間方向での情報を用いない処置前・後の二期化による対策手法については、時間方向での系列相関の影響を防止する有効な対策手法であると考えられる。

他方で 3-2-2-3.で説明した自己相関項(AR)などの特定化による対策手法については、時点数が少ない試料において自己相関項(AR)などを正しく特定化することは非常に困難であり、Bertland 他(2004)が指摘するとおり有効な対策ではないと考えられる。

*70 当該時間方向の試料が多い場合での NACA の問題への新たな対策手法については、第 4 章で詳細に説明する。

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3-2-2-4.で説明した Hansen(2007a・2007b)による実行可能一般化最小二乗法(FGLS)を用いた二段階推計法による対策手法については、処置前において時間方向に一定の時点数が

得られる場合には有効な対策手法であると考えられるが、時間方向に 2 ~ 3 期の時点数しか得られない場合には適用が困難であると考えられる。

他方で Bertland 他(2004)の先行研究調査が示唆するとおり、従来は DID を用いた主要な先行研究において NACA に起因した問題に十分な注意が払われてこなかったためか、ラ

ンダム化を用いた実験的方法のうち当該問題への対策手法を明確に応用した主要な先行研

究を見つけることができなかった。

3-2-3-2. マッチングを用いた統計的方法と NACA の問題への対策マッチングを用いた統計的方法においては、ランダム化を用いた実験的方法と同様に試

料数は多いが時点数が少ない試料を扱うことが多く、系列相関の問題への対策はランダム

化を用いた実験的方法と概ね類似している。

3-2-2-2.で説明した時間方向での情報を用いない処置前・後の二期化による対策手法については、時間方向での系列相関の影響を防止する有効な対策手法であると考えられる。

他方で 3-2-2-3.で説明した自己相関項(AR)などの特定化による対策手法については、時点数が少ない試料において自己相関項(AR)などを正しく特定化することは非常に困難であり、Bertland 他(2004)が指摘するとおり有効な対策ではないと考えられる。

3-2-2-4.で説明した Hansen(2007a・2007b)による実行可能一般化最小二乗法(FGLS)を用いた二段階推計法による対策手法については、処置前において時間方向に一定の時点数が

得られる場合には有効な対策手法であると考えられるが、時間方向に 2 ~ 3 期の時点数しか得られない場合には適用が困難であると考えられる。

ランダム化を用いた実験的方法の場合と同様に、マッチングを用いた統計的方法におい

ても当該 NACA に起因した問題への対策手法を明確に応用した主要な先行研究を発見す

ることができなかった。

3-2-3-3. 合成対照群を用いた統計的方法と NACA の問題への対策合成対照群を用いた統計的方法を応用する場合については時間方向に長い試料を分析に

用いることが多く、更に推計に際して処置前での試料の時間方向での情報を用いて最適な

ウェイトを算定することが特徴である。

3-2-2-2.で説明した時間方向での情報を用いない処置前・後の二期化による対策手法については、処置前の試料を用いて最適なウェイトを算定したにもかかわらず試料を時間方向

に 2 期に集約してしまうこととなり、対策として非常に奇異である。特に処置群が 1 つしかない場合に対応する合成対照群を 1 つ推計した際には、試料方

向での情報を用いない時間方向に長い 2 つの試料が得られる訳であり、当該対策手法とは別の考え方による対策 *70 が存在すると考えられ、何らかの方法により 3-2-2-3.で説明した自己相関項(AR)などの特定化による対策手法を応用することが考えられる。

3-2-2-4.で説明した Hansen(2007a・2007b)による実行可能一般化最小二乗法(FGLS)を用いた二段階推計法による対策手法については、処置群及び対照群について一定の試料数が

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得られる場合には有効な対策手法であると考えられる。

合成対照群を用いた統計的方法については、Abadie 他(2010)による合成対照群を用いた統計的方法における推計原理を説明した補論 B において、具体的な対策手法は示されて

いないものの NACA に起因した問題への対応が可能である旨が明示的に記載されている。ところが、合成対照群を用いた統計的方法において NACA に起因した問題について具体

的にこれを取扱った主要な先行研究を見つけることができなかった。

3-3. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題本節においては、横断面前後差分析(DID)において確認を要する前提条件のうち処置の

二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)に起因した問題について、当該問題に関する主要先行研究である Rubin(1980・1986)などの議論を基礎として処置効果モデルを用いた検討を行う。

3-2.同様に以下の説明において、特に断らない限り 2-3.で説明した処置群・対照群の同時存在性(OVLA)など試料の収集・管理に関する前提条件、3-1.で説明した結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)及び 3-2.で説明した系列相関の不存在性条件(NACA)については、方法論を問わずこれらの前提条件の充足が確認されているものとする。

3-3-1. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題に関する主要先行研究での指摘

3-3-1-1. Rubin(1980・1986)による SUTVA に関する指摘Rubin(1980・1986)は、Fisher(1935)による実験計画法に関する議論において 2 種類の異

なる処置によるランダム化を用いた比較実験の結果を例として、処置効果を推計する際に

必要な前提条件としての SUTVA について詳細に説明している。特に Rubin(1980)においては当該条件について Fisher(1935)による「ある処置がこれを受

けた対象の結果指標に生じる効果は単一で安定しており複数の効果が生じないこと」とい

う条件を充足するためには、必然的に 2 つの部分条件の充足が必要であると説明している。

当該 2 つの部分条件とは Cox(1958)による「処置の影響が対象間で独立であること・処置効果の二次的影響が存在しないこと」(SUTVA-NI)という部分条件により他の対象を介した間接的影響による効果の不安定性を遮断する必要があること及び Neyman(1935)による「処置の内容が単一であり複数の種類が存在しないこと」(SUTVA-ST)という部分条件により処置と結果指標の関係が一対一対応であることの 2 つであり、これらの部分条件の両方が同時に充足される必要がある点を説明している。

当該 2 つの部分条件からなる SUTVA が成立することを与件として、ランダム化による実験などが分析対象の CIA・CMIA の充足を保証し、比較の結果を統計的に検定することによって処置効果が推計できることを述べている。

3-3-1-2. Manski(1993)による SUTVA に関する指摘Manski(1993)は、計量社会学の分野で SUTVA が成立せず分析対象が処置により他の対

象・組織から影響を受ける「社会効果:"Social Effects"」の問題について、その効果を影響元の差異に従い 1)処置群の内部組織による「内部効果:"Endogenous"」、2)外部の対象・組織に

*71 Sobel(2006)が公表された時点においては 3-3-2-1.で説明する Hudgens and Halloran(2008)による対策手法はまだ確立されていなかった点に注意。

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よる「外部効果:"Exogenous(Contextual)"」及び 3)処置群の特性が本質的に類似していることによる「共通効果:"Common"」に 3 分類した上で、これらが相互に識別可能となる条件について幾つかの回帰分析モデルを用いて議論している。

当該議論の結果から、一般に「社会効果」の存在の有無自体は識別が可能であるが、特に

横断面分析の場合に上記 3 つの効果の内訳が識別できるためには多数の前提条件が必要であり、一般には非常に困難である点を説明している。

更に例えば対象が処置群内の組織毎の挙動の平均値に影響されるとする「内部効果」は、

分析側が処置群内の組織の構成を予め把握しており当該内部組織を規定する因子"X"と結果指標に直接的な影響を与える外部因子"Z"が互いに直接の関数関係になくかつ統計的に独立でもない中間的な「緩い」相関関係にある場合においてのみ他の効果から識別が可能で

あることを論証している。

3-3-1-3. Sobel(2006)による SUTVA-NI に関する指摘Sobel(2006)は、米国で実施された都市部貧困層への郊外住宅移転補助("MTO: Moving To

Opportunity")政策に関する分析を基礎として、移転補助を受けた対象者が補助を受けられなかった近隣の対象者との間で人種・血縁・交友などの人間関係に伴う相互作用の影響下に

あり SUTVA-NI が成立しない場合での処置効果評価上の問題について議論している。仮に当該条件を前提条件から外し成立たないとした場合には、試料がランダム化により

選定されていた場合であっても処置群と対照群の結果指標の差などの指標は処置群への直

接的な処置効果と対照群への間接的な二次的影響による効果の差でしかなく、処置効果を

示すものではないことを論証している。

当該結論に基づき Sobel(2006)は Halloran and Struchiner(1995)を参考として対象をランダム化により選定した複数の群を用意した上で、処置群の中の一部の対象にのみ処置を講

じ対象間での相互作用が及ぶ範囲を限定した上で間接効果を分離して推計する方法により

問題が解決できる可能性*71 につぃて述べている。

3-3-1-4. Rosenbaum(2007)による SUTVA-NI に関する指摘Rosenbaum(2007)は、統計学で良く用いられるランダム化を用いた実験的方法による処

置効果評価と SUTVA-NI の関係について議論している。著名な実験的方法を用いた評価分析の事例と幾つかの統計量での結果の不安定性の例を

用いた議論から、通常の試料のランダム化による対策は、対象間に血縁・交流及び競合な

ど何らかの相互作用がある場合には偏差のない結果の推計に寄与するとは限らないことを

説明している。

他方、対象間に何らかの相互作用があり当該前提条件が成立たない場合であっても、評

価の概念において「効果の有無」と(相互作用の影響による)「処置群・対照群間の相対的効果の有無」を明確に識別した上で、変数の類似化("Balancing")による方法など特定の統計分布に依存しない形態でのランダム化試験を適用し推計の精度を向上させることによって、処

置の効果の程度や信頼区間などに関する情報を得ることが可能な場合があることを述べて

いる。

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3-3-2. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題と既存の対策手法

3-3-2-1. SUTVA-NI に起因した問題3-3-1.では Rubin(1980・1986)など主要な先行研究における SUTVA-NI に関連した指摘に

ついて説明したが、次にこれらの指摘の本質である SUTVA-NI に起因した問題について考察する。

3-3-2-1-1. SUTVA-NI に起因した問題が存在する場合の DID と偏差式 3-3-2-1-1-1.に DID における SUTVA-NI に起因した問題と偏差について示す。

[式 3-3-2-1-1-1. DID における SUTVA-NI に起因した問題と偏差]

(対照群の対象 i)

(処置前)Yi(t-s) = β・Xi(t-s) + Zci + Za(t-s) +Zbi(t-s) +εi(t-s) | X, Di=0

式 33211101(処置後)

MYi(t+u) = β・Xi(t+u) + Zci + Za(t+u) + Σ αki(t+u)・ZFk(t+u) +Zbi(t+u) +εi(t+u) | X, Di=0k=1

式 33211102(対照群前後差)

BAi(s,u) = Yi(t+u) -Yi(t-s)M

= Σ αki(t+u)・ZFk(t+u) +Za(t+u) -Za(t-s) + Zbi(t+u) -Zbi(t-s) + β・Xi(t+u) -β・Xi(t-s)k=1

+ εi(t+u) -εi(t-s) | X, Di=0 式 33211103BAi(s,u)

1 N= ― ・Σ ( β・(Xi(t+u) - Xi(t-s)) + Za(t+u) - Za(t-s) + Zbi(t+u) - Zbi(t-s)N i=1

M+ Σ αki(t+u)・ZFk(t+u) + εi(t+u) - εi(t-s))k=1

1 N= Za(t+u) - Za(t-s) + ― ・Σ ( β・(Xi(t+u) - Xi(t-s)) + Zbi(t+u) - Zbi(t-s)N i=1

M+ Σ αki(t+u)・ZFk(t+u) + εi(t+u) - εi(t-s))k=1 式 33211104

(処置群の対象 k)

(処置前)Yk(t-s) = β・Xk(t-s) + Zck + Za(t-s) +Zbk(t-s) +εk(t-s) | X, Dk=1

式 33211105(処置後)

MYk(t+u) = β・Xk(t+u) + Zck + Za(t+u) + ZFk(t+u) +Σ αlk(t+u)・ZFl(t+u) +Zbk(t+u) +εk(t+u)l=1

| X, Dk=1,Dl=1(l ≠ k) 式 33211106(処置群前後差)

BAk(s,u) = Yk(t+u) -Yk(t-s)M= ZFk(t+u) + Σ αlk(t+u)・ZFl(t+u) + β・Xk(t+u) -β・Xk(t-s) +Za(t+u) -Za(t-s)l=1

+ Zbk(t+u) -Zbk(t-s) + εk(t+u) -εk(t-s) | X, Dk=1,Dl=1(l ≠ k)式 33211107

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BAk(s,u)1 M= ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Za(t+u) - Za(t-s) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

M+ ZFk(t+u) + Σ αlk(t+u)・ZFl(t+u) + εk (t+u) - εk(t-s)) (l ≠ k)l=1

1 M= Za(t+u) - Za(t-s) + ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

M+ ZFk(t+u) + Σ αlk(t+u)・ZFl(t+u) + εk(t+u) - εk(t-s)) (l ≠ k)l=1

式 33211108(DID)

DIDki(s,u) = BAk(s,u) - BAi(s,u)1 M M 1 N M= ―・Σ ZFk(t+u) + Σ αlk(t+u)・ZFl(t+u) - ―・Σ Σ αki(t+u)・ZFk(t+u)M k=1 l=1 N i=1 k=1

β M β N+ ―・Σ (Xk(t+u) - Xk(t-s)) - ―・Σ (Xi(t+u) - Xi(t-s))M k=1 N i=1

1 M 1 N+ ―・Σ (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - ― ・Σ (Zbi(t+u) - Zbi(t-s))M k=1 N i=1

1 M 1 N+ ―・Σ (εk(t+u) - εk(t-s)) - ― ・Σ (εi(t+u) - εi(t-s)) (l ≠ k)M k=1 N i=1

式 33211109t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)k, l, i 処置群の対象 k 及び l (l ≠ k), 対照群の対象 iM, N 処置群の対象k及び l の試料数 M, 対照群の対象 i の試料数 NYk(t-s),Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yi(t-s),Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について観察可能な説明変数Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Dk , Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Zck , Zci 処置群の対象 k, 対照群の対象 i 毎に個別的な未知の定数項Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の時間変動部分Zbi(t-s), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎に個別的な未知の時間変動部分ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k 毎に個別的な未知の処置効果αkl(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k が他の処置群の対象 l から受ける未

知の処置の二次的効果 (l ≠ k,l のうち少なくとも 1 つは αkl が 0 でない)αki(t+u) 時点 t+u での対照群の対象 i が処置群の対象 k から受ける未知の

処置の二次的効果 (k のうち少なくとも 1 つは αki が 0 でない)εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎の誤差項εi(t-s), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項BAk(s,u) ,BAk(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群の対象 k の前後差及びその平均値BAi(s,u) ,BAi(s,u) 時点 t-s と t+u の間の対照群の対象 i の前後差及びその平均値DIDki(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 k・対照群 i の横断面前後差の平均値

式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211102 に示すとおり、SUTVA-NI に起因した問題が存在する場合に対照群の対象 i は処置群の対象 k からの二次的影響により処置後の時点においてαki(t+u)・ZFk(t+u)の影響を受けるものとする。ここで各対象 i について少なくとも 1 つの対象 k からの影響 αki(t+u)の係数は 0 でないものとする。この場合、式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211103 及び式 3321104 に示すとおり、対照群の対

象 i の処置前後の時点での結果指標の前後差には全ての処置群の対象 k からの二次的影響である αki(t+u)・ZFk(t+u)の合計値が含まれることとなる。

*72 処置効果や平均処置効果が正しく推計できた場合の結果については、例えば式 31131105 を参照。

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式 33211106 に示すとおり、SUTVA-NI に起因した問題が存在する場合に処置群の対象 l(l≠ k)に対する処置の二次的影響により処置群の対象 k は処置後の時点において αlk(t+u)・ZFl(t+u)の影響を受けるものとする。ここで各対象 k について少なくとも 1 つの対象 l からの影響 αlk(t+u)の係数は 0 でないものとする。この場合に式 33211107 及び式 3321108 に示すとおり、処置群の対象 k の処置前後の時

点での結果指標の前後差には対象 k 以外の全ての処置群の対象 l からの二次的影響であるαlk(t+u)・ZFl(t+u)の合計値が含まれることとなる。当該設定の下で、M 個の処置群の対象 k と N 個の対照群の対象 i を用いた DID を推計

した結果は式 3321109 のとおり 8 項からなる値となるが、3-1.で説明したとおり各方法論により CIA・CMIA の充足が確保され十分な数の試料が用いられている場合などでは第 3 項から第 8 項は 0 と見なすことができる。しかし、式 3321109 の第 1 項及び第 2 項から明らかなとおり、何の対策も行わないま

までは二次的影響に基づく αlk(t+u)や αki(t+u)の存在によって処置効果 ZFk(t+u)やその平均値(平均処置効果)を推計することはできない*72 ことが理解される。

ランダム化を用いた実験的方法など各 DID の方法論においては、3-1.で説明したとおりいずれも処置前の時点における結果指標などの情報を用いて対照群の試料を取捨選択する

などの措置により、CIA・CMIA が充足され式 3321109 の第 3 項以降が 0 と見なせるよう措置している。

しかし、αlk(t+u)や αki(t+u)が含まれる式 3321109 の第 1 項及び第 2 項は処置後においてのみ発生する項であり、ランダム化を用いた実験的方法の場合に Rosenbaum(2007)が指摘したとおり、これらの方法論における対策手法はいずれも当該 SUTVA-NI に起因した問題に対して有効な対策とはなり得ないことが理解される。

3-3-2-1-2. SUTVA-NI に起因した問題が存在する場合の偏差についての概念図(1) 処置群の対象から対照群の対象への二次的影響が存在する場合図 3-3-2-1-2-1.に DID と SUTVA-NI に起因した問題のうち、処置群の対象から対照群の

対象への二次的影響が存在する場合の問題点について理解を助けるための概念図を示す。

式 3-3-2-1-1-1-1.中の式 33211102 から式 3321104 に示したとおり、処置群の対象から対照群の対象への二次的影響が存在する場合には、処置群の対象から対照群の対象への処置

の二次的影響によって処置後の時点における対照群の結果指標が変化してしまうため、

RCM における処置群の処置を受けなかった場合の仮想現実に処置の影響が及んでしまう

こととなる。

その結果、図 3-3-2-1-2-1.中の a.に示すとおり処置群の対象から対照群の対象へ正の二次的影響が及ぶ場合には、DID で推計される処置効果又は平均処置効果が二次的影響に相

当する分だけ過小評価となる方向に偏差が生じることとなる。反対に図 3-3-2-1-2-1.中のb..に示すとおり処置群の対象から対照群の対象へ負の二次的影響が及ぶ場合には、DID で

推計される処置効果又は平均処置効果が二次的影響に相当する分だけ過大評価となる方向

に偏差が生じることとなる。

更に図 3-3-2-1-2-1.中の c.及び d.に示すとおり処置群の対象から対照群の対象への二次

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的影響が及ぶ場合では、対照群の構成が変化した場合や処置後の評価分析時点が変化した

場合に、同一の処置群についての評価分析であっても DID で推計される処置効果又は平

均処置効果がその都度変化してしまうこととなる。

これらの処置群の対象から対照群の対象への二次的影響による問題は、式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211109 中の第 2 項(αki(t+u)を含む項)に起因するものである。

[図 3-3-2-1-2-1. DID と処置の二次的影響に起因した問題の概念図処置群の対象から対照群への対象への二次的影響が存在する場合]

a. 対照群への正の二次的影響の場合 b. 対照群への負の二次的影響の場合

結果指標 Y 結果指標 Y

処置の二次的影響処置の二次的影響

(仮想現実)

推計される処置効果対照群 i 対照群 i

推計される処置効果本来の処置効果

本来の処置効果 (仮想現実)

処置群 k 処置群 k

処置前 処置▲実施 処置後 処置前 処置▲実施 処置後

c. 対照群の構成が異なっている場合 d. 対照群への二次的影響が時間変化する場合

結果指標 Y 結果指標 Y

対照群の構成"a" 処置の二次的影響

処置の二次的影響

対照群の構成"b"

(仮想現実"a") (仮想現実)対照群 i 対照群の 対照群 i

構成 a での処置効果対照群の 推計される処置効果構成 b での処置効果 (仮想

現実"b")

処置群 k 処置群 k

t+u t+u'

処置前 処置▲実施 処置後 処置前 処置▲実施 処置後

(2) 処置群の対象間での二次的影響が存在する場合図 3-3-2-1-2-2.に DID と処置の二次的影響に起因した問題のうち、処置群の対象間での

二次的影響が存在する場合の問題点についての理解を助けるための概念図を示す。

式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211106 から式 3321108 に示したとおり、処置群の対象間での二次的影響が存在する場合には、処置後の処置群の結果指標が相互に影響を及ぼすことと

なる。

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その結果、図 3-3-2-1-2-2.中の a.及び b.に示すとおり処置群の構成が変化した場合や処置後の評価分析時点が変化した場合、同一の処置群についての評価分析であっても DIDで推計される処置効果又は平均処置効果がその都度変化してしまうこととなる。

ランダム化を用いた実験的方法では、処置群の構成は実験設計に依存して決定されるた

め、統計的方法同様に実験に用いた処置群の構成に依存した二次的影響を含んだままの処

置効果又は平均処置効果のみが推計されるものと考えられる。また複数回の実験を行う場

合には、実験の際の処置群の構成が変化すると実験により推計しようとする処置効果又は

平均処置効果も変化してしまい結果が確定しないこととなる。

他方でマッチングを用いた統計的方法や合成対照群を用いた統計的方法では統計調査の

時点において既に処置群の構成は確定しているため、単一の処置群の構成に基づいて二次

的影響を含んだままの処置効果又は平均処置効果のみが推計され、処置群の対象間での二

次的影響が存在する場合であってもその影響について識別することは困難であると考えら

れる。

これらの対照群の対象間での二次的影響による問題は、式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211109中の第 1 項後半部分(αlk(t+u)を含む部分)に起因するものである。

[図 3-3-2-1-2-2. DID と処置の二次的影響に起因した問題の概念図処置群の対象間での二次的影響が存在する場合]

a. 処置群の構成が異なっている場合 b. 処置群の間での二次的影響が時間変化する場合

結果指標 Y 結果指標 Y

対照群 i 処置群の 対照群 i構成 a での処置効果

処置群の 推計される処置効果構成 b での処置効果 Yb

Ya

処置群 k 処置群 k

t+u t+u'

処置前 処置▲実施 処置後 処置前 処置▲実施 処置後

3-3-2-2. 実験的方法の場合における Hudgens and Halloran(2008)による SUTVA-NI の問題への対策手法

Hudgens and Halloran(2008)は、Halloran and Struchiner(1991,1995)による実験的方法を用いた感染性の疾病での予防効果の評価に関する研究を基礎として、SUTVA-NI が成立せず一部の対象への措置が他の対象に二次的影響を与える場合であっても推計に偏差を生じ

ない一般的な対策手法を提唱している。

式 3-3-2-2-1-1.及び図 3-3-2-2-1-1.に Hudgens and Halloran(2008)による実験的方法の場合における SUVA-NI に起因した問題への対策手法の概要を示す。当該方法では、実験試料の準備段階において処置群・対照群の選択をランダム化するの

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みならず、処置群の中で処置をする対象と処置をしない対象をそれぞれランダム化により

選択した上で、処置群・対照群の間では相互作用など処置の二次的影響が生じないよう措

置しておく。その上でランダム化により選択された処置群の一部の対象についてのみ処置

を行い、処置群の中で処置を受けた対象と処置を受けていない対象との結果指標の差を「直

接効果」、処置群の中で処置を受けていない対象と(全く処置の影響を受けていない)対照群の対象との結果指標の差を「間接効果」として識別して実測する手法を提唱している。

また Hudgens and Halloran(2008)では当該手法により推計される各効果の分散を推計し処置効果の有意性の検定を行う方法について説明し、更に Sobel(2006)が議論した郊外住宅移転補助(MTO)などの問題への当該手法の応用について議論している。

[図 3-3-2-2-1-1. 実験的方法の場合における SUTVA-NI に起因した問題への対策手法の概要(Hudgens and Halloran(2008))]

処置群 Di=1 対照群 Di=0処置あり対象 Ti=1 処置なし対象 Ti=0 (Ti=0,Si=0)

(処置あり) (処置なし・二次的影響あり) (処置なし・二次的影響なし)

二次的影響あり(Si=1)

二次的影響なし(Si=0)

出典) Hudgens and Halloran(2008)のうち処置を 1 種類とし分類を処置群・対照群のみとした場合を示す。処置群・対照群の選択(Di)及び処置群の対象への処置の有無(Ti)は事前にランダム化により選択する。

[式 3-3-2-2-1-1. 実験的方法の場合における SUTVA-NI に起因した問題への対策手法の概要(Hudgens and Halloran(2008))]

TE-D(t+u) = E( Yi(t+u) | Di=1,Ti=1,Si=1 - Yi(t+u) | Di=1,Ti=0,Si=1 )TE-I(t+u) = E( Yi(t+u) | Di=1,Ti=0,Si=1 - Yi(t+u) | Di=0,Ti=0,Si=0 )TE-T(t+u) = E( Yi(t+u) | Di=1,Ti=1,Si=1 - Yi(t+u) | Di=0,Ti=0,Si=0 )TE-O(t+u) = E( Yi(t+u) | Di=1 - Yi(t+u) | Di=0 )

TE-D(t+u) 処置後の時点 t+u での処置の直接効果TE-I(t+u) 処置後の時点 t+u での処置の間接効果TE-T(t+u) 処置後の時点 t+u での処置の合計効果TE-O(t+u) 処置後の時点 t+u での処置の総効果Yi(t+u) 処置後の時点 t+u での対象 i の結果指標Di 処置群・対照群の選択ダミー (処置群 Di=1, 対照群 Di=0)Ti 処置のあり・なしの選択ダミー (処置あり Ti=1, なし Ti=0)Si 処置の二次的影響の存在・不存在ダミー (存在 Si=1, 不存在 Si=0)

式注) 原典では処置が多種類存在し(Zi,Zi')対象の分類 i も多種類存在することを前提とした記述となっているが、処置が 1 種類のみで対象の分類が処置群・対照群のみであるとして記号を置換している。

3-3-2-3. 実験的方法の場合における Hudgens and Halloran(2008)による SUTVA-NI の問題への対策手法の効果

直接効果

間接効果

*73 ランダム化を用いた実験的方法において式 33211107 の第 2 項から第 7 項が相殺して 0 と見なせる理由については、式 3-1-1-3-1-1.を参照。

*74 当該実験的方法における処置効果評価の結果が実験設計に依存して異なる結果となり他の事例に外挿できない問題については「外部的有効性 External Validity 」の問題の一形態であると考えられる。当該外部的有効性の問題と外挿可能性の問題については実験室実験について Pritchett and Sandefur(2015)、自然実験についてDehejia 他(2015)及び Bisbee 他(2015)などにおいて詳細に議論されている。

Dehejia 他(2015)が自然実験の事例を用いて議論しているとおり、原理的には処置群・対照群の構成や評価分析時点を複数変化させた実験を繰返し体系的に実施することで、処置群の間での処置の二次的影響について識別できる可能性が考えられる。しかし 3-3-3-1.で説明するとおり主要先行研究において SUTVA-NI の問題に関連して当該問題を取扱っている事例を見出すことができなかった。

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3-3-2-2.では実験的方法の場合における SUTVA-NI の問題への対策として Hudgens andHalloran(2008)による対策手法について説明したが、以下では式 3-3-2-1-1-1.での枠組みを用いて当該対策手法の効果について説明する。なお議論を簡略化するため以下処置の種類

は 1 種類であると仮定する。式 3-3-2-3-1-1.に処置効果モデルを用いた Hudgens and Halloran(2008)による対策手法の

効果についての説明を示す。

3-3-2-3-1. Hudgens and Halloran(2008)による対策手法の利点Hudgens and Halloran(2008)による対策手法の利点は、実験設計において SUTVA-NI に

起因した問題が存在することを念頭に、1)処置群の中で処置を行う対象と行わない対象を設けること及び 2)処置の二次的影響を全く受けていない対照群を設けることの 2 つの対策により、処置群から対照群への処置の二次的影響を処置効果又は平均処置効果から明確

に識別できる点にある。

具体的に当該対策手法においては、実験設計により式 3-3-2-3-1-1.中の式 33231101 に示す処置の二次的影響を全く受けていない対照群及び式 33231103 に示す処置を行わない(処置の二次的影響は受けている)処置群の対象を試料として準備する。ランダム化を用いた実験的方法により CIA・CMIA の充足を確保した上で十分な数の試料を用い DID を行うこ

とにより、式 33231107 の第 2 項から第 7 項は相殺して 0 と見なすことができる*73 ため、

第 1 項の処置を行わない処置群の対象が受けた処置の二次的影響部分を推計することができる。

3-3-2-3-2. Hudgens and Halloran(2008)による対策手法の問題点他方で当該対策手法の問題点としては、実験的方法においてのみ有効な手法であること、

何らかの方法で対照群が処置の二次的影響を全く受けておらず独立であることを確保する

必要があること、処置群・対照群の構成を変化させた場合や評価分析時点を変化させた場

合には推計される処置効果・平均処置効果が異なる値となり他の事例・時点に外挿できず

「外部的有効性」が成立しない可能性があること *74 などが挙げられる。実験的方法において

のみ有効であることは自明として、以下後者 2 つの問題点について以下詳しく説明する。(1)対照群の処置の二次的影響からの独立性の確保

Hudgens and Halloran(2008)による対策手法では、実験設計により対照群が処置の二次的影響を全く受けず独立であることを確保する必要があるが、具体的に当該独立性を確保

する方法やこれを確認・検証する方法については何も述べられていない。

一般論として処置効果評価の対象が個人である場合には、例えば Miguel andKremer(2004)による方法など処置群の個人に対し人的交流や直接的関与の可能性がない地

*75 企業・組織などの法人においては、経済的な競合・提携関係の存在などの影響が非常に大きいため、地理的・社会的に遠隔していることは処置の二次的影響からの独立性を必ずしも保証しないものと考えられる。

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理的・社会的に遠隔した地域の個人を対照群として選定するなどの方策が考えられる。

しかし、このような地理的・社会的な遠隔性を利用するなどの方策は SUTVA-NI の充足を保証するものではなく、また企業・組織など法人に適用することが困難である *75 という

問題点が存在する。

つまり Hudgens and Halloran(2008)による対策手法は実験的方法の場合におけるSUTVA-NI に起因した問題への対策として概念上は優れた枠組みではあるが、実際の応用において対照群の処置の二次的影響からの独立性の確保やその確認・検証手法が確立され

ていないことが指摘できる。

(2)処置を行った処置群の対象間での二次的影響と外部的有効性前述のとおり処置の二次的影響については 1)処置を行った処置群の対象から処置を行

わない処置群の対象や対照群の対象への二次的影響と 2)処置を行った処置群の対象間での二次的影響の 2 つが存在する。このためランダム化を用いた実験的方法により CIA・CMIA の充足を確保した上で十分な数の試料を用いた場合であっても、式 3-3-2-3-1-1.中の式 33231105 に示すとおり処置を行った処置群の結果指標には処置による直接的影響に加えて他の処置群の対象から受ける二次的影響が含まれている。

従って式 33231108 に示す処置を行った処置群の対象と対照群の間での DID の場合又は式 33231109 に示す処置を行った処置群の対象と処置を行わない処置群の対象の間でのDID の場合のいずれであっても、処置による処置群の対象への直接的影響と他の処置群の

対象から受ける二次的影響を識別することは非常に困難であることが理解される。

つまり Hudgens and Halloran(2008)による対策手法では処置を行った処置群から処置を行わない処置群への二次的影響は識別できるが、処置を行った処置群の間での二次的影響

を直接には識別できないことが理解される。

[式 3-3-2-3-1-1. 処置効果モデルを用いた Hudgens and Halloran(2008)による対策手法の効果の説明]

(対照群の対象 i・処置後及び前後差の平均値)Yi(t+u) = β・Xi(t+u) + Zci + Za(t+u) + Zbi(t+u) + εi(t+u) | X, Di=0, Ti=0

式 332311011 NBAi(s,u) = Za(t+u) - Za(t-s) + ―・Σ ( β・Xi(t+u) - β・Xi(t-s) + Zbi(t+u) - Zbi(t-s)N i=1

+ εi(t+u) - εi(t-s)) 式 33231102

(処置を行わない処置群の対象 kn・処置後及び前後差の平均値)MtYkn(t+u) = β・Xkn(t+u) + Zckn + Za(t+u) + Σ αktkn(t+u)・ZFkt(t+u) + Zbkn(t+u) + εkn(t+u)kt=1

| X, Dkn=1, Tkn=0式 33231103

1 Mn MtBAkn(s,u) = Za(t+u) - Za(t-s) + ―・Σ ( Σ αktkn(t+u)・ZFkt(t+u) + β・Xkn(t+u) - β・Xkn(t-s)Mn kn=1 kt=1

+ Zbkn(t+u) - Zbkn(t-s) + εkn(t+u) - εkn(t-s))式 33231104

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(処置を行った処置群の対象 kt・処置後及び前後差の平均値)MtYkt(t+u) = β・Xkt(t+u) + Zckt + Za(t+u) + ZFkt(t+u) + Σ αklkt(t+u)・ZFkl(t+u) + Zbkt(t+u) + εkt(t+u)kl=1

| X, Dkt=1, Tkt=1, kl ≠ kt 式 332311051 Mt MtBAkt(s,u) = Za(t+u) - Za(t-s) + ―・Σ ( ZFkt(t+u) + Σ αklkt(t+u)・ZFkl(t+u)Mt kt=1 kl=1

+ β・Xkt(t+u) - β・Xkt(t-s) + Zbkt(t+u) - Zbkt(t-s) + εkt(t+u) - εkt(t-s)) (kl ≠ kn)式 33231106

(処置を行わない処置群の対象 kn と対照群の対象 i の DID)

DIDkni(s,u) = BAkn(s,u) - BAi(s,u)1 Mn Mt= ―・Σ Σ αktkn(t+u)・ZFkt(t+u)Mn kn=1 kt=1

β Mn β N+ ―・Σ (Xkn(t+u) - Xkn(t-s)) - ―・Σ (Xi(t+u) - Xi(t-s))Mn kn=1 N i=1

1 Mn 1 N+ ―・Σ (Zbkn(t+u) - Zbkn(t-s)) - ―・Σ (Zbi(t+u) - Zbi(t-s))Mn kn=1 N i=1

1 Mn 1 N+ ―・Σ (εkn(t+u) - εkn(t-s)) - ―・Σ (εi(t+u) - εi(t-s))Mn kn=1 N i=1

式 33231107(処置を行った処置群の対象 kt と対照群の対象 i の DID)

DIDkti(s,u) = BAkt(s,u) - BAi(s,u)1 Mn Mt= ―・Σ ZFkt(t+u) + Σ αklkt(t+u)・ZFkl(t+u)Mt kt=1 kl=1

β Mt β N+ ―・Σ (Xkt(t+u) - Xkt(t-s)) - ―・Σ (Xi(t+u) - Xi(t-s))Mt kt=1 N i=1

1 Mt 1 N+ ―・Σ (Zbkt(t+u) - Zbkt(t-s)) - ―・Σ (Zbi(t+u) - Zbi(t-s))Mt kt=1 N i=1

1 Mt 1 N+ ―・Σ (εkt(t+u) - εkt(t-s)) - ―・Σ (εi(t+u) - εi(t-s)) (kl ≠ kt)Mt kt=1 N i=1

式 33231108

(処置を行った処置群の対象 kt と処置を行わない処置群の対象 kn の DID)

DIDktkn(s,u) = BAkt(s,u) - BAkn(s,u)1 Mt Mt 1 Mn Mt= ―・Σ ZFkt(t+u) + Σ αklkt(t+u)・ZFkl(t+u) - ―・Σ Σ αktkn(t+u)・ZFkt(t+u)Mt kt=1 kl=1 Mn kn=1 kt=1

β Mt β Mn+ ―・Σ (Xkt(t+u) - Xkt(t-s)) - ―・ Σ (Xkn(t+u) - Xkn(t-s))Mt kt=1 Mn kn=1

1 Mt 1 Mn+ ―・Σ (Zbkt(t+u) - Zbkt(t-s)) - ― ・Σ (Zbkn(t+u) - Zbkn(t-s))Mt kt=1 Mn kn=1

1 Mt 1 Mn+ ―・Σ (εkt(t+u) - εkt(t-s)) - ― ・Σ (εin(t+u) - εkn(t-s)) (kl ≠ kt)Mt kt=1 Mn kn=1

式 33231109t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)kt, kl 処置を行った処置群の対象 kt及び kl (kl ≠ kt)kn 処置を行わない処置群の対象 kn (処置の二次的影響を受けている)i 対照群の対象 i (処置の二次的影響を受けていない)Mt 処置を行った処置群の対象 kt及び kl の試料数 MtMn 処置を行わない処置群の対象 kn の試料数 MnN 対照群の対象 i の試料数 NYkt(t-s),Ykt(t+u) 時点 t-s, t+u での処置を行った処置群の対象 kt の結果指標Ykn(t-s),Ykn(t+u) 時点 t-s, t+u での処置を行わない処置群の対象 kn の結果指標

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Yi(t-s),Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xkt(t-s), Xkt(t+u) 時点 t-s, t+u での処置を行った処置群の対象 kt について観察可能な説明変数Xkn(t-s), Xkn(t+u) 時点 t-s, t+u での所著を行わない処置群の対象 kn について観察可能な説明変数Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Dkt , Dkn, Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Tkt(t+u),Tkn(t+u),Ti(t+u) 処置の実施・不実施ダミー (処置実施は 1,処置不実施は 0)Zckt, Zckn,Zci 処置群の対象 kt, kn, 対照群の対象 i 毎に個別的な未知の定数項Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbkt(t-s), Zbkt(t+u) 時点 t-s,t+u での処置群の対象 ktに個別的な未知の時間変動部分Zbkn(t-s), Zbkn(t+u) 時点 t-s,t+u での処置群の対象 kn に個別的な未知の時間変動部分Zbi(t-s), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i に個別的な未知の時間変動部分ZFkt(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 kt に個別的な未知の処置効果αklkl(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 kt が他の処置群の対象 kl から受ける未知の処置の二

次的効果 (kl ≠ kt, 少なくとも 1 つは 0 でない)εkt(t-s), εkt(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 kt毎の誤差項εkn(t-s), εkn(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 kn 毎の誤差項εi(t-s), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項BAkt(s,u) ,BAkn(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群の対象 kt又は kn の前後差の平均値BAi(s,u) 時点 t-s と t+u の間の対照群の対象 i の前後差の平均値DIDkni(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 kn・対照群 i の横断面前後差の平均値DIDkti(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 kt・対照群 i の横断面前後差の平均値DIDktkn(s,u) 時点 t-s と t+u の間の処置群 kt・処置群 kn の横断面前後差の平均値

3-3-2-4. 統計的方法の場合における SUTVA-NI の問題への対策3-3-2-2.及び 3-3-2-3.では実験的方法の場合における SUTVA-NI に起因した問題への対策

として Hudgens and Halloran(2008)による対策手法について説明したが、1-2-3-1.で説明したとおり現状では統計的方法の場合についてはこのような対策手法は知られていない。

実験的方法と異なり、統計的方法では対照群のうち処置の二次的影響を受けた対象と受

けていない対象を事前に選別・設定することができない。他方で対照群の中から事後的に

処置の二次的影響を受けた対象と受けていない対象を識別・選別することは Manski(1993)などが指摘するように不可能ではないと考えられるが、主要な先行研究においてこのよう

な方法が開発・適用されている事例を見つけることはできなかった。

概念的には Hudgens and Halloran(2008)による対策手法に倣い、過去の処置について調査された統計的試料の中から処置を受けた対象、処置を受けていないが処置の二次的影響

を受けている対象及び処置の二次的影響を全く受けていない対象を識別することができれ

ば、これらの対象のうち CIA を満たす対象間での DID により処置効果を評価することは

可能なはずである。

しかし 3-3-2-3-2.で説明したように Hudgens and Halloran(2008)による対策手法を応用した場合であっても SUTVA-NI の充足を事後的に確認・検証する方法は知られておらず、十分な実験設計を措置することが不可能な過去の統計調査の対象の中からこうした対象を識

別し選定することは非常に困難であると考えられる。

従って現状ではマッチングを用いた統計的方法の場合又は合成対照群を用いた統計的方

法の場合を問わず、統計的方法を用いた DID において SUTVA-NI の問題についての直接的な対策手法は存在しないものと考えられる。

*76 具体的には、Athey and Imbens(2017)の ”Causal Effects in Networks and Social Interactions"の節を参照。

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3-3-3. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題への対策と方法論の関係

3-3-3-1. ランダム化を用いた実験的方法での SUTVA-NI の問題への対策手法とその展開処置効果評価の分野においては、特に評価分析の対象となる個人の人的交流・相互作用

が問題となる社会学・免疫学の分野を中心に、SUYVA-NI に関連する問題が古くから議論されてきた。

これらの分野においては 1-2-3-1.で説明したとおりランダム化を用いた実験的方法により Halloran and Struchiner(1991・1995)による方法やこれを基礎に発展させた Hudgens andHalloran(2008)による SUTVA-NI に起因した問題への対策手法が応用されている。他方で 3-3-2-3-2.で説明したとおり Hudgens and Halloran(2008)などによる対策手法であ

っても、なお処置群・対照群の構成や評価分析時点が変化した場合には評価分析結果が変

化してしまう問題点が残るが、当該問題点を取扱っている先行研究は見つけることができ

なかった。

3-3-3-2. マッチング又は合成対照群を用いた統計的方法での SUTVA-NI の問題への対策1-2-3-1.で説明したとおり、現状において DID を用いた処置効果評価のうち統計的方法

の場合における SUTVA-NI の問題への対策手法は知られていない。他方で統計的方法においても Glaeser 他(1996)や Jones(1992)など SUTVA-NI に関連し

た問題を扱っている先行研究は存在するが、これらは特殊な状況設定を利用したもの又は

二次的影響の経路やモデルの構造を特定化したものであり、現状において SUTVA-NI に起因した問題への一般的な対策手法は存在しないものと考えられる。

従って現状において統計的方法による処置効果の評価分析において SUTVA-NI に起因した問題が存在する可能性が疑われる場合には、Athey and Imbens(2017)*76 が提唱するとお

り別途 Hudgens and Halloran(2008)による対策手法を応用した実験的方法を援用する必要があると考えられる。

3-4. 横断面前後差分析(DID)の主要前提条件と既存の対策手法のまとめ本節においては、3-1.から 3-3.において説明した横断面前後差分析(DID)において確認を

要する主要前提条件について方法論別に既存の対策手法を整理して示す。

3-4-1. 横断面前後差分析(DID)の主要前提条件と既存の対策手法のまとめ図 3-4-1-1-1-1.に DID の主要前提条件と方法論別での既存の対策手法などの整理とその

位置づけに関する概念図を示す。

DID における主要な方法論としては、2-2.で整理したとおりランダム化を用いた実験的方法、マッチングを用いた統計的方法及び合成対照群を用いた統計的方法の 3 つが挙げられるが、これらの方法論における試料の特徴として前 2 者は試料の対象数が多く時点数が少ない試料が用いられることが多いのに対し、合成対照群を用いた統計的方法では試

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料の対象数が少なく時点数が多い試料が用いられることが多いことが指摘できる。

DID において確認を要する主要前提条件としては、2-1.で整理したとおり大きく分けて 4つの前提条件がある。このうち OVLA などの試料の収集・管理に関する前提条件について

は方法論を問わず充足が必要であるため、CIA・CMIA、NACA 及び SUTVA-NI の 3 つの前提条件と方法論の関係を整理することが必要である。

[図 3-4-1-1-1-1. DID の主要前提条件と方法論別での既存対策手法などの整理とその位置づけに関する概念図]

/ 方法論 実験的方法 統計的方法

主要前提条件 ランダム化を用いた方法 マッチングを用いた方法 合成対照群を用いた方法

(試料の特徴) 対象数多・時点数少 対象数多・時点数少 対象数少・時点数多

結果指標と処置選択の

独立性条件(CIA・CMIA)- 対策手法 ・処置ランダム化割当 ・処置/対照群マッチング ・合成対照群

- 確認手法 ・抽出処置率差確認 ・平均分散比較

・並行推移性確認 (並行推移性確認)系列相関の不存在性条

件 (NACA)- 対策手法

(複雑対策手法) ・Hansen の方法 ・Hansen の方法 ・Hansen の方法

(簡易対策手法) ・「二期化法」 ・「二期化法」

- 確認手法 (二期化により時間方向 (二期化により時間方向の系列相関を回避) の系列相関を回避)

処置の二次的影響の不

存在性条件(SUTVA-NI)- 対策手法 ・Hudgens & Halloran

の方法

- 確認手法

(図注) 1- 全ての方法論に共通して処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などの試料の収集・管理に関する前提条件は充足が必要であるため記載を省略している。

2- 破線囲 は該当する場合における対策手法・確認手法が知られていない領域を示す。

(1) CIA・CMIACIA・CMIA に起因した問題については、3 つの主要な方法論毎に各方法論を特徴付ける

形で対策手法・確認手法が存在している。

3-1-1.で説明したランダム化を用いた実験的方法では、CIA・CMIA について条件を 2 つに分割した上で 1)試料抽出の結果指標からの独立性を抽出の処置率の母集団との差異を確認し、2)処置の試料抽出及び結果指標からの独立性を処置群・対照群をランダム化により割当てることにより措置することが必要である。

3-1-2.で説明したマッチングを用いた統計的方法では、当該前提条件については処置率や説明変数を用いたマッチングを行った上で、処置群・対照群の結果指標の平均・分散など

の差を確認するか、処置群・対照群の処置前における結果指標の並行推移性を確認するこ

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とにより措置することが必要である。

3-1-3.で説明した合成対照群を用いた統計的方法では、当該前提条件については最適なウェイトを用いた合成対照群を推計することにより措置することが必要である。また当該

方法においても並行推移性の確認を行うことも可能である。

(2) NACANACA に起因した問題に対しては、 3-2-2.で説明したとおり方法論を問わず

Hansen(2007a・2007b)による 2 段階推計法が適用可能であるが、対策手法として手順が複雑であり対象数・時点数ともに相応の試料数を揃える必要があるという問題点がある。

当該問題に対する簡易な対策手法としては、3-2-3.で説明したとおり試料の対象数が多く時点数が少ないランダム化を用いた実験的方法及びマッチングを用いた統計的方法にお

いては処置前・処置後の時点を 2 時点に集約してしまう「二期化法」が適用可能である。他方で合成対照群を用いた統計的方法においては NACA に起因した問題への簡易な対

策手法や確認手法は知られていない。

(3) SUTVA-NISUTVA-NI に起因した問題に対しては、3-3-2.で説明したとおりランダム化を用いた実

験的方法の場合については Hudgens and Halloran(2008)による方法が適用可能である。但し、対照群の処置の二次的影響からの独立性の確保の問題や処置を行った処置群の対象間

での二次的影響の問題など実用上の問題がなお存在し、当該前提条件の充足についての確

認手法は知られていない様子である。

他方マッチングを用いた統計的方法や合成対照群を用いた統計的方法については、現在

のところ SUTVA-NI の問題に対する対策手法や確認手法は知られていない。

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4. 系列相関及び処置の二次的影響の可能性がある場合の新たな対策手法

4-1. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題への新たな対策手法本節においては系列相関の不存在性条件(NACA)に起因した問題について、3-2.における

主要先行研究についての考察を基礎とした上で、試料の対象は少数であるが時間方向に多

数の試料が得られる場合に適用できる新たな対策手法について検討する。

3-2.同様に以下本節の説明において、特に断らない限り 2-3.で説明した処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)など試料の収集・管理に関する前提条件及び 3-1.で説明した結果指標と処置の選択の独立性条件条件(CIA・CMIA)については、方法論を問わずこれらの前提条件の充足が確認されているものとする。

また処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題については、次節及び次々節で扱うこととし本節では取扱わない。

4-1-1. 系列相関の不存在性条件(NACA)の問題と新たな対策手法の考え方

4-1-1-1. NACA に起因した問題への既存の対策手法と検討の方向性3-2.においては Bertland 他(2004)などの主要先行研究における議論から、NACA に起因

した問題への既存の対策手法について、1)時間方向での情報を集約した処置前・後の二期化によるパネルデータ分析を行う対策手法(「二期化法」)、2)Hansen(2007a・2007b)による系列相関問題への包括的対策手法などが主要な既存の対策手法として挙げられることを説

明した。

DID の方法論との関係で考えた場合、 2-2-3.で説明した 3 つの方法論に共通してHansen(2007a・2007b)による系列相関問題への包括的対策手法は適用可能であるが、手法として複雑であり実際の応用事例が少ないという問題点がある。他方で「二期化法」につい

ては、ランダム化を用いた実験的方法やマッチングを用いた統計的方法などの時間方向の

試料が少なく対象方向の試料が多い場合の分析に適しているが、合成対照群を用いた統計

的方法などその反対の場合には適用に問題があることを説明した。

従って、本項における NACA に起因したの問題への新たな対策手法への取組みとして

は、合成対照群を用いた統計的方法など対象方向の試料は少ないが時間方向の試料が多い

「時間方向に長い」試料の場合の分析に適用できる簡易な対策手法に焦点を当てていくこと

とする。

4-1-1-2. NACA の問題と「二対象化法」3-2-3.において議論したとおり、合成対照群を用いた統計的方法など時間方向の試料が

多いが対象方向の試料が少ない場合の分析では、時間方向の情報を処置前・後の二期に集

約してしまう「二期化法」を適用することは奇異であり、時間方向の試料が持つ情報を活か

した何らかの方法によって 3-2-2-3.で説明した自己相関項(AR)などの特定化による対策手法を応用することが考えられる。

具体的には合成対照群の応用などにより処置群及び対照群の試料をそれぞれ単一の時系

列からなる試料に集約し、単一の処置群の時系列試料と単一の対照群の時系列試料に集約

して分析する方法(以下「二対象化法」と呼称する。)が考えられる。図 4-1-1-2-1-1.に NACA の問題への対処方法としての「二期化法」と「二対象化法」の概念

- 72 -

図を示す。

「二期化法」では試料の時間方向の情報を処置前・後の 2 期に集約することにより時間方向の系列相関の問題を回避し、一般化最小二乗法(GLS)などを用いて対象方向での組織による系列相関の問題に対処している。

他方で「二対象化法」では試料の対象方向の情報を処置群・対照群それぞれ 1 つの対象に集約することにより対象方向での組織による系列相関の問題を回避し、Box-Jenkins 法やベクトル自己回帰分析(VAR)など自己相関項(AR)・移動平均項(MA)を特定化する時系列回帰分析によって時間方向の系列相関の問題に対処する。

当該考え方に従い、以下「二対象化法」の詳細について説明していくこととする。

[図 4-1-1-2-1-1. NACA の問題への対処方法としての「二期化法」と「二対象化法」の概念図]

「二期化法」の概念(Bertland 他(2004)) 「二対象化法」の概念(新規)

処置前 処置後 時間方向 処置前 処置後 時間方向

対照群

対照群

(1 対象に集約)

処置群 処置群

(1 時点に集約)(1 時点に集約) (1 対象に集約)

対象(組織)方向 対象(組織)方向

4-1-2. 「二対象化法」による系列相関の不存在性条件(NACA)の問題への対策手法

4-1-2-1. NACA の問題への対策手法の適用手順の一例4-1-1.においては NACA の問題への対策手法として「二対象化法」の考え方について説明

した。具体的に「二対象化法」による対策には様々な手順が考えられるが、本項では一例と

して混合推計による対策手法の適用手順について説明する。

図 4-1-2-1-1-1.に DID を用いた混合推計による時系列回帰分析に基づく NACA の問題への対策手法の手順例を示す。

(1) 処置群・対照群の試料の集約化1) 最初に「二対象化」のための集約化を行う。3-1.で説明した何れかの方法により CIA・

CMIA の充足が確認されている処置群・対照群の対象からなる試料をそれぞれ 1 つの時系列に集約し、処置群・対照群の 1 対の時系列試料を作成する。集約の方法については、処置群又はその平均値に対して合成対照群を推計する方法又は処置群・対照群それぞれの対

*77 合成対照群を推計する方法と処置群・対照群のそれぞれの対象の平均値を算定する方法の相違点は、対照群に対し最適なウェイトを適用するか否かという点にある。対照群の対象数が過小であったり多重共線性により合成対照群の推計に必要な最適なウェイトを計算できない場合には後者の方法を適用することが考えられる。

*78 通常の Box-Jenkins 法による時系列回帰分析においては ADF検定(Augumented Dickey-Fuller unit-root検定, Dickey and Fuller(1979)による方法)を用いた定常性の確認のための単位根検定や Granger 因果性検定(Granger(1969)による方法)などを実施するが、当該手順においては CIA・CMIA の充足が確認された処置群・(合成)対照群から DID の時系列試料を作成している関係上、少なくとも処置前において被説明変数は必ず定常であり、かつ処置実施ダミーから処置群・対照群の結果指標への逆因果性も存在しないはずである。

*79 AIC; 赤池情報量基準(Akaike's Information Criterion, Akaike(1974)による方法), BIC; ベイズ情報量基準(Bayesian Information Criterion, Schwarz(1978)による方法)

*80 BGLM 検定: Breusch-Godfrey Lagrange Multiplier 検定, Breusch(1978)及び Godfrey(1978)による系列相関の有無に関する検定手法。

*81 Portmanteu "Q" 統計量。Ljung and Box(1978)による系列相関の検定手法。

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象の平均値を算定する方法など*77 が考えられる。

(2) DID の時系列試料作成2) 次に DID の時系列試料を作成する。処置前に基準時点を 1 つ定め、当該基準時点か

ら処置前・処置後の全時点について 1)で集約化した処置群・対照群の時系列試料を用いたDID を行い、時系列試料を作成する。(3) 処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析

3) 更に処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析を行う。2)で作成した DID による時系列試料について、処置前・処置後の試料を含めて処置実施ダミーと

季節ダミ-を説明変数として用いた時系列回帰分析を行う。

但し推計の関係から処置実施ダミーは連続する 2 期以上について設定する必要がある。当該時系列回帰分析においては Box-Jenkins 法を用いて自己相関項(AR)及び移動平均項

(MA)とその係数を推計 *78 し、系列相関が残留しない自己相関項(AR)及び移動平均項(MA)の説明変数の組合せの中で赤池情報量基準(AIC)又はベイズ情報量基準(BIC)*79 が最小とな

る組合せを採用する。

系列相関の残留の有無の確認については、BGLM 検定*80 や Correlogram を用いた"Q 検定

"*81 などを用いて危険率 5 %で判定し確認することが考えられる。(4) 処置効果の推計

4) 最後に処置効果の推計を行う。3)の時系列回帰分析において危険率 5 %で統計的に有意な処置実施ダミーの係数は当該時点における有意な処置効果に相当することから、当

該結果を用いて処置効果の推計を行う。

4-1-1.で説明したとおり、当該対策手順では対象方向の組織による系列相関については1)での集約化によってこれを回避し、時間方向の系列相関については 2)及び 3)でのBox-Jenkins 法による処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析により自己相関項(AR)・移動平均項(MA)を正しく特定することによってこれに対応し、NACAに起因した問題への対策を行うことができる。

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[図 4-1-2-1-1-1. DID を用いた混合推計による時系列回帰分析に基づく NACA に起因したの問題への対策手法の手順例]

1. 処置群・対照群の試料の集約化処置群・対照群の試料をそれぞれ 1 つの時系列に集約し、1 対の時系列試料を作成する。

- 処置群又はその平均値に対する合成対照群の算定 又は

- 処置群・対照群の平均値の算定

2. 横断面前後差分析(DID)の時系列試料作成処置前の時点に基準時点を 1 つ定め、当該時点から処置前・処置後の全時点について DID を行い時系列試料を作成する。

処置群・対照群の 1 対の時系列試料 横断面前後差分析(DID)の時系列試料

結果指標 結果指標

(基準時点 t0) 対照群 (基準時点 t0)

Yi(t) 横断面前後差分析(DID)の時系列試料(集約後)

Yi(t0) DIDik(t)

処置群

Yk(t0) (集約後)Yk(t)

処置前 処▲置 処置後 時間 処置前 処▲置 処置後 時間

3. 処置実施ダミー・季節ダミ-を説明変数に用いた時系列回帰分析

2.で作成した DID の時系列試料に対して、Box-Jenkins 法を用い処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数とした時系列回帰分析を行う。当該時系列回帰分析においては、BGLM 検定又は"Q"検定により系列相関が危険率 5 %で残留していない自己相関項(AR)及び移動平均項(MA)の組合せのうち、赤池情報量基準(AIC)又はベイズ情報量基準(BIC)が最小となる組合せを選択する。

U S t-t0 t-t0DIDik(t) = Σ β(t)・Tk(t) + Σ γs・Ss(t) + Σ δ(v)・AR(t-v) + Σ ζ(w)・εd(t-w) + εd(t)t=to s=1 v=1 w=1

DIDik(t) 時点 t での「二対象化」試料による DID の時系列試料Tk(t) 時点 t での処置実施ダミー (処置実施=1, 処置不実施=0, 但し連続する 2 時点以上)Ss(t) 時点 t での季節ダミー (月次・四半期・年度など)AR(t-v) DIDik(t)の自己相関項 U(= DIDik(t-v) - Σ β(t-v)・Tk(t-v) )

t=t0

εd(t-w) DIDik(t)の移動平均項εd(t) DIDik(t)の処置効果の推計誤差β(t) 時点 t での処置実施ダミーの係数(="処置効果")γs 季節ダミーの係数

δ(v),ζ(w) 自己相関項・移動平均項の係数

4. 処置効果の推計処置後の各時点における処置効果を処置効果ダミーの係数(β(t))の有意性検定結果に従い推計する。

4-1-2-2. 「二対象化法」による NACA に起因した問題への対策手順の応用4-1-2-1.においては NACA に起因した問題への対策手法の例として「二対象化法」による

対策手順について説明した。しかし既に 4-1-2-1.で述べたとおり「二対象化法」を用いた対

*82 4-1-2-1.(3) 処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析の項目を参照。

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策手順としては他にも様々なものが考えられる。

例えば 4-1-2-1.では DID を用いた混合推計による時系列回帰分析を行ったが、処置群・

対照群の試料となる対象についてそれぞれ対応する説明変数が得られる場合には、直接的

に「二対象化」した処置群・対照群の時系列試料を時系列回帰分析に掛ける方法が考えられ

る。

ここで、4-1-2-1.の方法では DID を用いることによって定常化を措置し、処置実施ダミ

ーのみを説明変数として用いることで逆方向の因果性が生じないよう措置することによっ

て通常の Box-Jenkins法の手順を大幅に省略可能*82 であった。

しかし、直接的に「二対象化」した処置群・対照群の時系列試料を時系列回帰分析する際

には、ADF 検定などを用いて試料を定常化した上で、Granger 因果性検定により説明変数から結果指標に対して逆方向の因果性の有無を調べ逆方向の因果性が存在する場合には

VAR 分析を適用し、逆方向の因果性が存在しない場合には通常の Box-Jenkins 法を用いた分析を適用するなど、相応の手順の変更が必要である。

4-2. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題への新たな対策手法本節においては処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)に起因した問題について

3-3.で説明した実験的方法の場合における Hudgens and Halloran(2008)による方法などを参考とした上で、統計的方法に対して適用できる新たな対策手法について検討する。

3-3.及び前節と同様に以下本節の説明において、特に断らない限り 2-3.で説明した処置群・対照群の同時存在性(OVLA)など試料の収集・管理に関する前提条件、3-1.で説明した結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA・CMIA)及び 3-2.で説明した系列相関の不存在性条件(NACA)については、方法論を問わずこれらの前提条件の充足が確認されているものとする。

4-2-1. 処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題と新たな対策手法の前提条件

4-2-1-1. SUTVA-NI に起因した問題への既存の対策手法と検討の方向性3-3.では実験的方法の場合における Hudgens and Halloran(2008)による方法として 1)処

置群の中で処置を行う対象と行わない対象を設けること及び 2)処置の二次的影響を全く受けていない対照群を設けることの 2 つの対策を講じることにより、処置群から対照群への処置の二次的影響を処置効果又は平均処置効果から識別する方法について説明した。

しかし当該方法は実験的方法においてのみ有効な手法であることから、本稿における

SUTVA-NI に起因した問題への新たな対策手法への取組みとしては、統計的方法の場合に適用できる対策手法に焦点を当てていくこととする。

Hudgens and Halloran(2008)による方法では最初に実験設計によって処置の二次的影響が及ぶ対象(処置を行わない処置群)と処置の二次的影響が及ばない対象(対照群)を区別して措置しておき、次に処置を行った処置群と対照群及び処置を行わない処置群と対照群の

間でそれぞれ DID を行うことにより処置効果を推計している。

*83 Hudgens and Halloran(2008)の方法では実験設計により処置群の中に処置を行う処置群の対象と処置を行わないが二次的影響を受ける処置群の対象を設定するよう措置するが、統計的方法では観察された結果指標などは既に過去のものでありこのような措置は不可能である。

このため統計的方法においては処置を行った処置群とそれ以外(対照群)を区別し、対照群の中から二次的影響を受けている対照群の対象と受けていない対照群の対象を識別することが必要となる。

*84 既に 3-3-2-3.で説明したとおり、処置を行った処置群の対象間での二次的影響については、実験的方法の場合には処置を行う処置群の構成を変化させた実験を繰返し実施することにより識別する可能性が考えられる。

しかし統計的方法においては過去に生じた処置の効果を観察・記録した統計調査を基礎とした分析を行う訳であり、同じ条件下で処置群の構成を変化させた場合の結果指標を観察することは不可能である。このため統計的方法では処置を行った処置群の対象間での二次的影響を識別することは非常に困難であると考えられる。

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当該手順を参考として、本項においては統計的方法において最初に処置の二次的影響が

及んでいる対象と及んでいない対象を対照群の中から識別する方法を検討し、次に処置の

二次的影響の有無が識別された対照群の対象を用いた DID を行うことにより処置効果を

推計する方法を検討する*83 こととする。

以下当該処置の二次的影響が及んでいる対象と及んでいない対象を対照群の中から識別

する方法において必要な 4 つの前提条件について説明する。

4-2-1-2. SUTVA-NI に起因した問題への対策手法と前提条件(1) 処置群間の二次的影響の不

考慮

既に 3-3-2.で説明したとおり、SUTVA-NI の問題には 1)処置群の対象から対照群の対象への二次的影響と、2)処置を行った処置群の対象間での二次的影響の問題が存在する。しかし 3-3-2-3.で説明したとおり、工夫を凝らした実験設計に基づく Hudgens and

Halloran(2008)の対策手法を以てしても 2)処置を行った処置群の対象間での二次的影響を識別することは困難な訳であり、一般に実験的方法と比べて反復試行が不可能で試料入手

に関する制約の多い統計的方法において当該処置を行った対照群の対象間での二次的影響

を識別することは非常に困難である*84 と考えられる。

このため、本節において開発する SUTVA-NI の問題への新たな対策手法については、統計的方法の場合に 1)処置群の対象から対照群の対象への二次的影響を識別し処置効果を推計する方法に焦点を当てていくこととする。当該方向性は、本節における新たな対策手

法について「処置を行った対照群の対象間での二次的影響は存在しない又は当該二次的影

響を含めて処置効果であると仮定する」旨の前提条件を設けた上で適用可能な対策手法を

検討することに相当する。

当該前提条件により、「処置を行った処置群の対象間での二次的影響」(式 3-3-2-1-1-1.中の式 3211109 の第 1 項後半部分)は捨象することが可能となる。

4-2-1-3. SUTVA-NI に起因した問題への対策手法と前提条件(2) 処置群から対照群への二次

的影響の影響元の不識別と短期的時間安定性

3-3-2.で説明した SUTVA-NI の問題については、4-2-1-2.での「処置群の対象間での二次的影響の不考慮」の前提条件だけでは、なお未知数が過多で識別が困難である。

具体的には、4-2-1-2.での処置群の対象間での二次的影響の不考慮の前提条件の下で式3-3-2-1-1-1.中の式 33211109 での第 1 項後半部分(αlk(t+u)を含む部分)は考慮する必要がなくなるが、第 2 項(αki(t+u)を含む項)部分が残るため二次的影響の係数に関して処置群と対照群の個数の積である M*N 個分の未知数がなお残ることとなり、このままでは識別が困

*85 当該処置効果を評価分析する際に処置の二次的影響の有無を識別するために設定する「ある期間」の長さについては、4-2-2-4-2.において詳細に議論する。

*86 当該前提条件についての充足を厳密に検証するためには、同じ対照群を用いて二次的影響の影響元である処置群の構成を変更した試行を反復的に実施することが必要であるが、4-3-1-2.で述べたとおり統計的方法においてこのような試行を行うことは不可能である。

*87 当該前提条件において結果指標と処置の選択の独立性条件について取扱う対照群の対象は 1 つのみであり、結果指標の平均値・期待値が処置と独立であるとする CMIA ではなく CIAを確認することとなる。

*88 上記のとおりここでは対照群の対象 1 つづつについて CIA の充足を確認する必要があるため、3-1-2-2-1.で説明した Rubin(2001)及び Imai 他(2008)による処置群・対照群の結果指標の分布について平均・分散を比較する方法は適用が困難であると考えられる。

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難である。

このため「処置群の対象から対照群の対象への二次的影響については影響元 k を識別せず対照群毎に一律に一定の二次的影響が生じ、かつ当該一定の二次的影響については少な

くとも 2 期間以上の一定期間(「ある期間」*85)について安定しており同一の値と見なせると仮定する」旨の前提条件を設けることとする。

当該前提条件により、対照群が受ける処置の二次的影響の係数は αki(t+u)ではなく一定の「ある期間」 t+u1 から t+u2 について αi | t+u1<t+u<t+u2 (0 < u1 < u2)となり、当該処置効果を評価しようとする「ある期間」内においては対照群毎に一定と見なすことが可能となり、

処置の二次的影響についての識別が容易となる。

当該前提条件のうち影響元の不識別が自明に成立する場合としては、処置群の対象が 1つのみで対照群に対する二次的影響の影響元が 1 つしかなくそもそも識別をする必要がない場合が挙げられる。他に当該前提条件が成立する場合*86 としては、例えば卸売市場に

おいて災害などで特定の産地からの供給が減少した際に災害を受けなかった各産地に対し

一定の構成比で代替供給が行われた場合や、選挙において特定の政党の得票減少が他の政

党に対し一定の構成比で得票増加につながる場合などが該当する。

他方で処置の二次的影響の短期的時間安定性については、処置群と対照群の間での二次

的影響の原因となる競合・連携などの関係が時間的に安定的であれば成立することとなる

が、こうした関係が一時的で不安定である場合には少なくとも 2 期間以上の複数の期間での評価分析結果を観察した場合には二次的影響の係数 αi は 0 と有意な差がないものとして観察されると考えられる。

4-2-1-4. SUTVA-NI の問題への対策手法と前提条件(3) 処置群・対照群の対象間での結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA*87)の確認

更に処置の二次的影響の有無を識別するためには、4-2-1-2.及び 4-2-1-3.の前提条件に加えて、個々の対照群の対象が処置群の対象又は処置群の平均値に対して結果指標と処置の

選択の独立性条件(CIA)を充足していることを確認することが必要である。個々の対照群の対象について処置群の対象又は処置群の平均値に対し CIA が充足され

ていることを確認する方法としては、3-1-2.で説明した並行推移性の確認や、3-1-3.で説明した合成対照群の推計など*88 が挙げられる。

当該前提条件により個々の対照群の対象が処置群又は処置群の平均値に対して CIA を

充足している場合には、式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211109 における第 3 項から第 8 項の部分は全て相殺して 0 であると見なすことができ、以下の DID の推計が大幅に簡素化される

*89 当該顕著な外的要因の影響が処置前の時点に存在する場合での"BAI-DIDI 比”の回帰分析などにおける問題点については、補論において詳細に説明する。

- 78 -

こととなる。

4-2-1-5. SUTVA-NI の問題への対策手法と前提条件(4) 処置前又は処置後における顕著な外

的要因の影響の不存在性

処置の二次的影響の有無を識別する際には、処置前又は処置後における顕著な外的要因

の影響の不存在性が前提条件として充足されていることが必要である。

分析に用いる処置群及び対照群の結果指標において、処置効果評価の目的である処置以

外に顕著な外的要因の影響が処置後において存在した場合、当該外的要因が処置前・後の

いずれの時点に生じたかを問わず 4-2-2.で説明する処置の二次的影響の有無の識別手法は当該外的要因の影響が混在した処置の二次的影響を識別してしまう*89 こととなる。

従って処置前後における処置群・対照群の結果指標を時系列で観察し、処置前において

顕著な外的要因の影響が存在する場合には、当該対象を試料から除外するか、あるいは一

定の期間について試料から除外するなどの措置が必要である。

他方で処置後において顕著な外的要因の影響が存在する場合には、当該外的要因の影響

を受けている対象や期間が特定できる際には処置前の場合と同様に当該対象や期間を試料

から除外するなどの措置が可能であるが、こうした特定が困難な際には「処置後において

顕著な外的要因の影響は存在しなかった」という前提条件が充足されているものと仮定し

た上で処置効果評価を行うことが必要である。

4-2-2. ”BAI-DIDI 比"の回帰分析などを用いた処置の二次的影響の有無の識別

4-2-2-1. 処置の二次的影響の有無の識別手法(1) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などの推計

4-2-1.においては SUTVA-NI の問題と新たな対策手法の考え方について説明し、4-2-1-2.から 4-2-1-5.においては新たな対策手法では 4 つの前提条件が充足されている必要があることについて説明した。

本項では具体的にこれら 4 つの前提条件が充足されている場合において、処置の二次的影響の有無を識別する手法について説明する。

最初に対照群の個々の対象について処置の二次的影響の有無を識別するため、処置群に

対して対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などについて考える。式 4-2-2-1-1-1.に対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などの推計について

示す。

[式 4-2-2-1-1-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などの推計]

(処置群前後差)BAk(s,u) = Yk(t+u) -Yk(t-s)

= ZFk(t+u) + β・Xk(t+u) -β・Xk(t-s) +Za(t+u) -Za(t-s) + Zbk(t+u) -Zbk(t-s)+ εk(t+u) -εk(t-s) | X, Dk=1

式 42211101

- 79 -

BAk(s,u)1 M= ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Za(t+u) - Za(t-s) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

+ ZFk(t+u) + εk(t+u) - εk(t-s))1 M= Za(t+u) - Za(t-s) + ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

+ ZFk(t+u) + εk(t+u) - εk(t-s))

式 42211102(対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BAI))

BAI(s,u) = Yi(t+u) -Yi(t-s)M

= αi ・Σ ZFk(t+u) + β・Xi(t+u) -β・Xi(t-s) + Za(t+u) -Za(t-s) + Zbi(t+u) -Zbi(t-s)k=1

+ εi(t+u) -εi(t-s) | X, Di=0 式 42211103

(対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI))

DIDI(s,u) = BAk(s,u) - BAi(s,u)1 M= ―・(1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)M k=1

β M+ ―・Σ (Xk(t+u) - Xk(t-s)) - β・ (Xi(t+u) - Xi(t-s))M k=1

1 M+ ―・Σ (Zbk(t+u) - Zbk(t-s)) - (Zbi(t+u) - Zbi(t-s))M k=1

1 M+ ―・Σ (εk(t+u) - εk(t-s)) - (εi(t+u) - εi(t-s)) | X, Dk=1, Di=0M k=1

1 M= ―・(1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u) (∵ CIA)M k=1式 42211104

t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)k, i 処置群の対象 k 及び対照群の対象 iM 処置群の対象 k の試料数 MYk(t-s),Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yi(t-s),Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について観察可能な説明変数Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Dk, Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s,t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の時間変動部分Zbi(t-s), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i に個別的な未知の時間変動部分ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の処置効果αi 時点 t+u 前後で対照群の対象 i が処置群の対象から受ける未知の処置の二次的

効果 (0 の場合を含む, 2 期以上の一定期間内で同一)εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎の誤差項εi(t-s), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項BAk(s,u) 時点 t-s・t+u の間の処置群の対象 k の前後差BAk(s,u) BAk(s,u)の平均値BAI(s,u) 時点 t-s・t+u の間の対照群の対象 1 つだけに関する前後差DIDI(s,u) 時点 t-s・t+u の間の対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差

最初に処置群前後差については、4-2-1-2.での「処置群間の二次的影響の不考慮」の前提条件により、式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211108 から式 4-2-2-1-1-1.中の式 42211102 へと大幅に簡素化される。

*90 当該結果から本稿における SUTVA-NI に関する一連の手法は、SUTVA-CS に問題があり対照群の中に処置群の対象が混在している場合においても有効であると考えられる。この場合には「処置の二次的影響」は「混在した処置群の対象の処置効果」と読替えて適用する。

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次に対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BAI)は、4-2-1-3.での「処置群から対照群への二次的影響の影響元の不識別と短期的時間安定性」の前提条件により、式 3-3-2-1-1-1.中の式 33211103 における αki(t+u)が式 4-2-2-1-1-1.中の式 42211103 のとおり 2 期以上の一定期間(「ある期間」)内という限定の下で αi に簡素化される。

対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)については、処置群前後差と対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BAI)の差であり、4-2-1-4.での「処置群・対照群の対象間での結果指標と処置の選択の独立性 (CIA)」の前提条件が充足されている場合には式

3-3-2-1-1-1.中の式 33211109 の第 3 項から第 8 項に相当する部分が全て相殺して 0 と見なすことができ、従って式 4-2-2-1-1-1.中の式 42211104 のとおり大幅に簡素化される。更に 4-2-1-5.での「処置前又は処置後における顕著な外的要因の影響の不存在性」の前提

条件により、処置の二次的影響を考慮した上での推計結果は処置効果であると見なすこと

ができる。

以下 4-2-1-2.から 4-2-1-5.の前提条件の下で、式 4-2-2-1-1-1.に従い処置の二次的影響の有無の識別について検討を進めていくこととする。

4-2-2-2. 処置の二次的影響の有無の識別手法(2) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果による場合分けと結果が全部 0 である場合

4-2-2-2-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果による場合分け複数の対照群の対象について式 4-2-2-1-1-1.中の式 42211104 における対照群の対象を 1

つだけ用いた横断面前後差(DIDI)を行った場合には、1)いずれの対象についても当該横断面前後差(DIDI)の結果が 0 と有意な差がある場合、2)幾つかの対象については当該横断面前後差(DIDI)の結果が 0 と有意な差があるが他の対象については 0 と有意な差があるとは言えない場合及び 3)全部の対象について当該横断面前後差(DIDI)の結果が 0 と有意な差があるとは言えない場合の 3 通りに分かれることが予想される。

1)及び 2)の場合は次の 4-2-2-3.で説明する当該横断面前後差(DIDI)の結果が全部 0 ではない場合に該当する。

以下では上記場合分けのうち 3)の場合に該当する、ある期間について式 4-2-2-1-1-1.中の式 42211104 における対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が全部0 と有意な差があるとは言えない場合について説明する。

4-2-2-2-2. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が全部 0 である場合対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が全部 0 と有意な差があると

は言えない場合については、1)処置の二次的影響の係数 αi が 1/M であり式 42211104 の前半部分(1 - M・αi の部分)が 0 である場合と、2)処置群の対象における処置効果が全部 0 であり式 42241104 の後半部分(ZFk(t+u)の合計部分)が 0 である場合の 2 通りが考えられる。前者の 1)の場合は、当該横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差があるとは言えない対象は

2-3-2.で説明した SUTVA-CS が充足されておらず誤って対照群に分類された処置群の対象

である*90 か、又は偶然に処置の二次的影響が平均的な処置効果と等しくなっている対照群

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の対象だけが選定されてしまったものと推定される。

後者の 2)の場合は、そもそも処置群への処置がどの対象にも処置効果を生じているとは言えず、処置効果がない状態であると推定される。

これらの場合には、以下の試行を行い処置群から対照群への処置の二次的影響の有無な

どを更に識別することができる。

(1) 処置群と幾つかの対照群の総平均値を対照群として用いた横断面前後差(DIDA)の試行当該場合での識別手法としては、処置群と対象数の異なる対照群の対象を幾つか選定し

て結果指標の総平均値を試料として作成し、これを対照群として用いた横断面前後差

(DIDA)を試行することが考えられる。処置群と対象数の異なる対照群の対象を幾つか選定して結果指標の総平均を算定して対

照群とした場合、処置群の対象の処置効果と幾つかの対照群の対象の処置の二次的影響の

部分の一部が相殺することとなる。従って仮に個々の対照群への処置の二次的影響の総和

が 1/M であった場合でも、処置群の処置効果が全部 0 でない限りは上記横断面前後差(DIDA)の結果は 0 となることはない。このため、処置群と対象数の異なる対照群を幾つか選定した結果指標を総平均した試料

を作成し、これを対照群として用いた横断面前後差(DIDA)を試行することにより、処置群から対照群への処置の二次的影響の有無を識別することができる。

(2) 処置群と幾つかの対照群の総平均値を対照群として用いた横断面前後差(DIDA)の結果が 0 と有意な差がある場合上記(1)の方法による横断面前後差(DIDA)の試行による結果が 0 と有意な差がある場合

には、最初に対照群として用いた対象は全部処置の二次的影響の係数 αi が 1/M であり式

42211104 の前半部分(1 - M・αi の部分)が 0 となっているものと考えられる。つまりこれらの対象は 2-3-2.で説明した SUTVA-CS 上の問題がある対象であるか、又

は偶然に処置の二次的影響が平均的な処置効果と等しい対象であると識別できる。

当該場合は分析に使用した対照群の対象が均整に平均的な処置効果を受けており全部処

置群であることと等価であり、2-3-3.で説明した OVLA に抵触することとなる。従って分

析に用いた対照群の試料からは DID によって処置効果を推計することはできない。当該場合における対策としては、対照群の対象の中に少なくとも 1 つ処置の二次的影

響について αi が 1/M となっていない対象が存在していることが必要であるため、1)処置群の対象と対照群の対象を一部入替えて全部の対照群の対象について等しく αi が 1/M と

ならないよう措置するか又は 2)分析に用いようとする統計試料を再度見直して対照群に αi

が 1/M とならない別の対象を加えた上で再度 4-2-2.での識別手法を試行するなどの措置が考えられる。

(3) 処置群と幾つかの対照群の総平均値を対照群として用いた横断面前後差(DID)の結果が0 と有意な差があるとは言えない場合上記(1)の方法による横断面前後差(DIDA)を対照群の構成を変更して再試行してもなお

結果が 0 と有意な差があるとは言えない場合には、処置群の対象における処置効果が全部 0 であり式 42241104 の後半部分(ZFk(t+u)の合計値部分)が 0 である場合に該当すると考えられる。

処置群の対象における処置効果が全部 0 で処置効果が存在しなければ、当然に処置の二次的影響もまた存在しないものと考えられる。

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4-2-2-3. 処置の二次的影響の有無の識別手法(3) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果の全部が 0 ではない場合

4-2-2-2.では式 4-2-2-1-1-1.中の式 42211104 における対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 と有意な差があるとは言えない場合(4-2-2-2-1.の場合分けの 3)の場合)について説明した。以下においては 4-2-2-2.の場合分けのうち全部又は一部の対照群の対象について当該結

果が 0 と有意に異なっている場合(4-2-2-2-1.の場合分けの 1)及び 2)の場合)における処置群から対照群への処置の二次的影響の有無を識別する手順について説明する。

4-2-2-3-1. 処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法4-2-1-2.から 4-2-1-5.での識別のための 4 つの前提条件の下で、式 42211104 における対

照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が 0 と有意に異なっている対照群の対象については、以下に説明するとおり対照群の対象を 1 つだけ用いた前後差(BAI)と横断面前後差(DIDI)の比(”BAI-DIDI 比")などを算定し、これを当該横断面前後差(DIDI)の逆数で回帰分析して有意な定数項の有無を確認することによって処置の二次的影響の有無を

識別することができる。

式 4-2-2-3-1-1.に対照群の対象を 1 つだけ用いた前後差(BAI)と横断面前後差(DIDI)の比などを用いた処置の二次的影響の有無の識別について示す。

式 4-2-2-1-1-1.で説明したとおり 4-2-1-2.から 4-2-1-4.での 3 つの前提条件が充足されている場合には、処置群前後差の平均値(BAk(s,u))、対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BAI)、対照群をの対象を 1 つだけ用いた横断面前後差 (DIDI)については、それぞれ式42231101、式 42231102 及び式 43331103 のとおりとなる。

[式 4-2-2-3-1-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた前後差(BAI)と横断面前後差(DIDI)の比などを用いた処置の二次的影響の有無の識別]

(処置群前後差の平均値)BAk(s,u)

1 M= ― ・Σ ( β・(Xk(t+u) - Xk(t-s)) + Za(t+u) - Za(t-s) + Zbk(t+u) - Zbk(t-s)M k=1

+ ZFk(t+u) + εk(t+u) - εk(t-s))

式 42231101(式 42211102 再掲)(対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BAI)

BAI(s,u) = Yi(t+u) -Yi(t-s)M

= αi ・Σ ZFk(t+u) + β・Xi(t+u) -β・Xi(t-s) + Za(t+u) -Za(t-s) + Zbi(t+u) -Zbi(t-s)k=1

+ εi(t+u) -εi(t-s) | X, Di=0 式 42231102(式 42211103 再掲)

(対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI))

DIDI(s,u) = BAk(s,u) - BAi(s,u)1 M= ―・(1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)M k=1

式 42231103(式 42211104 再掲)(”BAI-DIDI 比")

BIDR(s,u) = BAI(s,u) ・ DIDI(s,u)-1

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Mαi ・Σ ZFk(t+u) + β・Xi(t+u)-β・Xi(t-s) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbi(t+u)-Zbi(t-s) +εi(t+u)-εi(t-s)k=1

= 1 M―・( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)M k=1

M・αi M・(β・Xi(t+u)-β・Xi(t-s) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbi(t+u)-Zbi(t-s) +εi(t+u)-εi(t-s))= + M

( 1 - M・αi ) ( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)k=1 式 42231104

(”BAK-DIDI 比")BKDR(s,u) = BAk(s,u) ・ DIDI(s,u)-1

1 M― ・Σ (ZFk(t+u) + β・(Xk(t+u)-Xk(t-s)) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbk(t+u)-Zbk(t-s) + εk(t+u)-εk(t-s))M k=1

= 1 M―・( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)M k=1M

1 Σ (β・Xk(t+u)-β・Xk(t-s) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbk(t+u)-Zbk(t-s) +εk(t+u)-εk(t-s))k=1= + M

( 1 - M・αi ) ( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)k=1 式 42231105

t-s, t+u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)k, i 処置群の対象 k 及び対照群の対象 iM 処置群の対象 k の試料数 MYk(t-s),Yk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k の結果指標Yi(t-s),Yi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i の結果指標Xk(t-s), Xk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k について観察可能な説明変数Xi(t-s), Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Dk, Di 処置群・対照群ダミー (処置群は 1,対照群は 0)Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Zbk(t-s), Zbk(t+u) 時点 t-s,t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の時間変動部分Zbi(t-s), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i に個別的な未知の時間変動部分ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の処置効果αi 時点 t+u 前後で対照群の対象 i が処置群の対象から受ける未知の処置の二次的

効果 (0 の場合を含む, 2 期以上の一定期間内で同一)εk(t-s), εk(t+u) 時点 t-s, t+u での処置群の対象 k 毎の誤差項εi(t-s), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項BAk(s,u) 時点 t-s・t+u の間の処置群の対象 k の前後差の平均値BAI(s,u) 時点 t-s・t+u の間の対照群の対象 1 つだけに関する前後差DIDI(s,u) 時点 t-s・t+u の間の対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差BIDR(s,u) BAI(s,u) と DIDI(s,u)の比 ("BAI-DIDI 比", DIDI(s,u)≠ 0)BKDR(s,u) BAk(s,u) と DIDI(s,u)の比 (”BAK-DIDI比", DIDI(s,u)≠ 0)

4-2-2-3-2. ”BAI-DIDI 比"を DIDI の逆数で回帰分析する識別手法ここで時点 t-s,t+u の間の期間において対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BAI)を対

照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)で除した比(”BAI-DIDI 比")を考える。当該 ”BAI-DIDI 比"において、分母の対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)

と、分子の対照群の対象 1 つだけに関する前後差(BDI)の(二次的影響を含めた)処置効果に関する項には、共通して処置効果の総和(ZFk(t+u)の総和)が含まれる。上記 ”BAI-DIDI 比"の項はその大部分の項が時点 t-s 又は時点 t+u の関数であるが、対照

群の対象への処置の二次的影響の項については処置効果の和(ZFk(t+u)の総和)が相殺するため、式 42231104 の第 1 項のとおり αii と M だけからなる項(M・αi/(1 - M・αi))となる。他方で処置の二次的影響以外の項については式 42231104 の第 2 項のとおり時点 t-s 又は時

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点 t+u の関数のままである。このため、任意の対照群の対象 1 つについて時点 t-s から時点 t+u 迄の ”BAI-DIDI 比"の

試料を s,u を変えて多数用意し、これを対応する時点 t+u での当該対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の逆数で回帰分析した場合、上記式 42231104 の第 1 項に相当する αii と M だけからなる項(M・αi/(1 - M・αi))は時点 t-s 及び時点 t+u と無関係であり、Mは 0 でない既知の整数であるため、αi が 0 でない限りは当該項は有意な定数項として検出されるはずである。

従って任意の対照群の対象 1 つについて時点 t-s から時点 t+u 迄の ”BAI-DIDI 比"の試料を s,u を変えて多数用意し、対応する時点 t+u での当該対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の逆数で回帰分析した際に有意な定数項が存在する場合、当該対照群の対象については αi に相当する処置群からの処置の二次的影響を受けているものと推定さ

れる。

反対に有意な定数項が存在しない場合には、当該対照群の対象については αi を 0 と見なすことができ、処置群からの処置の二次的影響を受けているとは言えないものと推定さ

れる。従って当該回帰分析の結果における有意な定数項の有無を統計的に検定することに

より、個々の対照群の対象における処置の二次的影響の有無を識別することができる。

4-2-2-3-3. ”BAK-DIDI 比"を DIDI の逆数で回帰分析する識別手法同様に任意の対照群の対象 1 つについて時点 t-s から時点 t+u 迄の処置群前後差の平均

値(BAK)を、対応する時点 t+u での当該対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)で除した比(”BAK-DIDI 比")を考える。当該 ”BAK-DIDI 比"において、分母の対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)

と、分子の処置群前後差の平均値(BAK)の処置効果に関する項には、共通して処置効果の総和(ZFk(t+u)の総和)が含まれる。上記 ”BAK-DIDI 比"の項はその大部分が時点 t-s 又は時点 t+u の関数であるが、処置の二

次的影響の項については処置効果の和(ZFk(t+u)の総和)が分母と分子で相殺するため、式42231105 の第 1 項のとおり αi と M だけからなる定数項(1/(1 - M・αi))となる。他方で処置の二次的影響以外の項については式 42231105 の第 2 項のとおり時点 t-s 又は時点 t+u の関数のままである。

従って上記の「 BDI-DIDI 比」の場合と同様に、任意の対照群の対象 1 つについて時点 t-sから時点 t+u 迄の ”BAK-DIDI 比"の試料を s,u を変えて多数用意し、対応する時点 t+u での当該対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の逆数で回帰分析した際に定数項が 1 と有意な差があると判定される場合には、当該対照群の対象については αi に相当す

る処置群からの処置の二次的影響を受けているものと推定される。

反対に定数項が 1 と有意な差がないと判定された場合には、当該対照群の対象については αi を 0 と見なすことができ、当該対象は処置群からの処置の二次的影響を受けているとは言えないものと推定される、従って当該回帰分析の結果における定数項が 1 と有意な差があるか否かを検定することにより、個々の対照群の対象における処置の二次的影

響の有無を識別することができる。

4-2-2-3-4. 処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法の等価性4-2-2-3-2.及び 4-2-2-3-3.では処置の二次的影響の有無の識別手法として、4-2-2-3-2.での

”BAI-DIDI 比"を DIDI の逆数で回帰分析する手法と 4-2-2-3-3.での ”BAK-DIDI 比"を DIDI の

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逆数で回帰分析する手法を説明したが、両者は基本的に同じものである。

これらの手法は識別に必要な試料数がほぼ同じであり、処置の二次的影響の識別におい

て得られる効果も同一であるため、処置の二次的影響の有無を識別する目的からはこれら

の識別手法のいずれか一方を適用すれば良いものと考えられる。

ここで ”BAK-DIDI 比"を用いる方法では定数項が有意に 1 と異なるか否かを検定する必要があるが、”BAI-DIDI 比"を用いる方法では定数項が有意に 0 と異なるか否かつまり定数項の統計的な有意性のみを検定すれば良いため、4-2-2-3-2.で説明した ”BAI-DIDI 比"を DIDIの逆数で回帰分析する手法の方が比較的簡単である。

4-2-2-4. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が 0 でない場合における処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法と問題点

4-2-2-4-1. 処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法と時間方向での多数の試料の必要性

4-2-2-3.で説明した対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が 0 でない場合における処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法は、統計的方法によりDID を行う場合において対照群の対象への処置の二次的影響の有無の識別を可能とする新

たな手法であると評価される。

他方で 4-2-2-3.で説明した処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法の本質的な問題点としては、時間方向での多数の試料の必要性が挙げられる。

4-2-2-3.での説明から明らかなとおり、当該識別手法は処置群及び対照群に関して異なる時点 t-s 及び時点 t+u についての多数の試料が入手可能であって、回帰分析による定数項の有意性の判定に十分な試料数が得られることが必要である。

このため当該識別手法はマッチングを用いた統計的方法の場合など対象数が多いが時点

数が少ない試料に対して適用することは非常に困難であり、合成対照群を用いた統計的方

法の場合など対象数は少ないが時点数が多い試料に適した識別手法であると考えられる。

4-2-2-4-2. 処置の二次的影響の有無についての 2 つの識別手法の前提条件と「ある期間」の試行錯誤の必要性

4-2-2-3.での識別手法の問題点としては、処置群・対照群の対象が 4-2-1-2.から 4-2-1-5.で説明した 4 つの識別のための前提条件を充足していることが必要である点が挙げられる。これらの 4 つの前提条件が 1 つでも欠けている処置群・対照群の組合せについては当該

識別手法では処置の二次的効果の有無についての正しい識別結果を得ることができない

が、直接的に前提条件の確認・検証が可能なのは 4-2-1-4.での「処置群・対照群の対象間での結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA)の確認」と 4.2.1.5 での「処置前又は処置後における顕著な外的要因の影響の不存在性」のうち処置前の時点で顕著な外的要因が存在する

場合のみである。

他方で 4-2-1-2.での「処置群間の二次的影響の不考慮」については統計的方法においてこれを直接的に確認・検証することは困難である。4-2-1-3.での「処置群から対照群への二次的影響の影響元の不識別と短期的時間安定性」の前提条件においては式 4-2-2-1-1-1.中の式42211103 のとおり 2 期以上の一定期間(「ある期間」)内という限定の下で αi が安定してい

るものと仮定しているが、当該仮定についても直接的に確認・検証を行うことは困難であ

る。更に 4.2.1.5 での「処置前又は処置後における顕著な外的要因の影響の不存在性」のう

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ち処置後の時点で顕著な外的要因が存在する場合についても、直接的に確認・検証を行う

ことは困難である。

また 4-2-1-3.での αi が安定しているものと仮定する 2 期以上の一定期間(「ある期間」)については、先験的には決定できず以下に説明するとおり試行錯誤が必要である。

処置効果の評価区間幅である「ある期間」を長く取った場合、4-2-2-3.での 2 つの識別手法において処置の二次的影響の係数 αi が時間に対して安定である場合には定数項を用いた識別は容易であるが、逆に不安定である場合には定数項の識別が困難であり、更に時間

方向での分解能が低下し識別のために時間方向により多くの試料が必要となる問題が生じ

ることが懸念される。反対に評価区間幅である「ある期間」を短く取った場合であっても、2~ 3 期では処置の二次的影響の係数 αi が時間に対して不安定であり 5 ~ 6 期を平均した方が安定的である場合も起こり得ることとなる。

従って当該「ある期間」については先験的には決定できず、複数の期間を設定して結果を

比較した上で結果が安定的な評価区間幅のうち 2 期以上のなるべく短い期間により設定することが必要であると考えられる。

4-2-3. 処置の二次的影響の有無を識別した対照群による処置効果の推計

4-2-3-1. 処置の二次的影響を受けている可能性についての識別結果と場合分け4-2-2.では統計的方法において対照群の中から任意の対象を 1 つだけ用いて、当該対象

が処置群から二次的影響を受けているか否かを識別する手法について説明した。

以下当該識別の結果を用いて処置効果を推計する手法について説明する。

4-2-2.での識別手法を用いて対照群の対象毎の処置の二次的影響の有無を識別した結果としては、対象及び評価区間毎に 4-2-2-3.での ”BAI-DIDI 比"を用いた回帰分析における定数項が 0 と有意な差があるとは言えず対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がない場合と、その反対に定数項が 0 と有意に異なり対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がある場合に分けられる。

4-2-3-2. 対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がない場合最初に 4-2-2.での識別手法を用い対照群の対象を識別した結果において、対象及び評価

区間毎に 4-2-2-3.での ”BAI-DIDI 比"を用いた回帰分析における定数項が 0 と有意な差があるとは言えず対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がない場合を考える。

対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がない場合には、当該対象は当該評価区

間において処置の二次的影響の係数 αi が 0 と見なすことができる。従ってこの場合には当該対照群の対象を用いて通常の DID により直接的に処置の二次的影響に起因した偏差

のない処置効果を推計することが可能である。

4-2-3-3. 対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がある場合次に 4-2-2.での識別手法を用い対照群の対象を識別した結果として、対象及び評価区間

毎に 4-2-2-3.での ”BAI-DIDI 比"を用いた回帰分析における定数項が 0 と有意に異なり対照群が処置の二次的影響を受けている可能性がある場合を考える。

当該場合においては、以下の手法による補正を行うことにより処置効果を推計すること

*91 仮に全ての対象が処置群であって対照群が全く存在しない場合や SUTVA-CS が成立しない場合であっても、処置群の対象の中に処置の効果が異なっている複数の群が存在し各対象について十分な時間方向の試料が入手可能である場合には、本稿で開発した新たな対策手法を応用して処置の効果が異なる処置群間での DIDを行い偏差を補正することにより処置効果が推計することが可能である。

この場合には処置群のうち処置の効果が相対的に大きい対象を「処置群」とし、相対的に小さい処置群の対象を「対照群」と読替えて一連の手法を適用する。

- 87 -

が可能*91 である。

4-2-2-3.における対照群の対象を 1 つだけ用いた前後差(BAI)や横断面前後差(DIDI)などを用いた ”BAI-DIDI 比"又は ”BAK-DIDI 比"の試料を回帰分析する識別手法においては、例えば ”BAI-DIDI 比"による手法では回帰分析における定数項が有意に 0 と異なるか否かを検定することとなる。このため対照群の対象が何らかの処置の二次的影響受けている場合と

は、例えば ”BAI-DIDI 比"では対照群の対象について 0 と異なる有意な定数項が回帰分析により確認された場合に相当する。

式 4-2-3-3-1-1.に対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意に異なるなど当該対象がある評価区間において処置の二次的影響を受けている可能性がある場合の

推計について示す。

当該場合においては、対象 i を用いた識別手法により確認された有意な定数項を Γ0i と

すると、例えば ”BAI-DIDI 比"を用いた回帰分析において係数の比較により当該定数項 Γ0i

は式 4-2-2-3-1-1.中の式 42231104 の第 1 項部分(M・αi/(1-M・αi)部分))に相当することとなる。同様に ”BAK-DIDI 比"を用いた回帰分析において定数項 Γ0i は式 4223105 の第 1 項部分(1/(1-M・αi)部分))に相当することとなる。ここで上記いずれの場合においても処置群の対象数 M は既知であるため、有意な定数

項 Γ0i を用いて αi を推計することが可能である。具体的には式 42331104 及び式 42331108に示すとおり、対照群を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)中の偏差部分の未知数であった処置の二次的影響の係数 αi が推計できる。

従って式 42331110 のとおり処置の二次的影響による偏差が含まれた対照群の対象を 1つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果から、当該偏差部分を補正した処置効果を推計可能であることが理解される。

[式 4-2-3-3-1-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意に異なるなど当該対象がある評価区間において処置の二次的影響を受けている可能性がある場

合の推計]

(”BAI-DIDI 比"を用いた回帰分析の場合)

BIDR(s,u) = BAI(s,u) ・ DIDI(s,u)-1

M・αi M・(β・Xi(t+u)-β・Xi(t-s) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbi(t+u)-Zbi(t-s) +εi(t+u)-εi(t-s))= + M

( 1 - M・αi ) ( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)k=1

式 42312101(式 42231104 再掲)BIDR(s,u) = Γ0i + Γ1i・DIDI(s,u)-1+ εb(s,u)

式 42331102M・αi

⇒ Γ0i = ( 1 - M・αi ) 式 42331103

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Γ0iαi = M・( 1 + Γ0i ) 式 42331104

(”BAK-DIDI 比"を用いた回帰分析の場合)

BKDR(s,u) = BAk(s,u) ・ DIDI(s,u)-1

M1 Σ (β・Xk(t+u)-β・Xk(t-s) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbk(t+u)-Zbk(t-s) +εk(t+u)-εk(t-s))

k=1= + M( 1 - M・αi ) ( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)

k=1式 42331105(式 42231105 再掲)

BKDR(s,u) = Γ0i + Γ1i・DIDI(s,u)-1 + εb(s,u)式 42331106

1⇒ Γ0i = ( 1 - M・αi ) 式 42331107( Γ0i - 1 )αi = M・Γ0i 式 42331108

(横断面前後差(DIDI)の偏差部分の補正)1 MDIDI(s,u) = ―・(1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)M k=1

式 42331109(式 42211104 再掲)1 MDIDi(s,u)* = ―・Σ ZFk(t+u)M k=1

= DIDI(s,u)・(1 - M・αi)-1

式 42331110

s, u 処置前の時点 t-s, 処置後の時点 t+u (s,u >0)k, i 処置群の対象 k 及び対照群の対象 iM 処置群の対象 k の試料数 MZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の処置効果αi 時点 t+u 前後で対照群の対象 i が処置群の対象から受ける未知の処置の二次的

効果 (0 の場合を含む, 2 期以上の一定期間内で同一)αi "BAI-DIDI 比"又は"BAK-DIDI 比"を DIDI(s,u)-1

で回帰分析した定数項から推計した

αi の推計値

BAk(s,u) 時点 t-s・t+u の間の処置群の対象 k の前後差の平均値BAI(s,u) 時点 t-s・t+u の間の対照群 1 つだけに関する前後差DIDI(s,u) 時点 t-s と t+u の間の対照群を 1 つだけ用いた横断面前後差BIDR(s,u) BAI(s,u) と DIDI(s,u)の比 ("BAI-DIDI 比", DIDI(s,u)≠ 0)BKDR(s,u) BAk(s,u) と DIDI(s,u)の比 ('BAK-DIDI比", DIDI(s,u)≠ 0)Γ0i, Γ1i "BAI-DIDI 比"又は"BAK-DIDI比"を DIDI(s,u)-1

で回帰分析した際の係数

εb(s,u) "BAI-DIDI 比"又は"BAK-DIDI比"を DIDI(s,u)-1で回帰分析した際の誤差

DIDi(s,u)* 対照群を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI(s,u))から処置の二次的影響に起因した偏差を補正して推計した処置効果

4-3. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の新たな対策手法本節においては系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合において、4-1.

で説明した系列相関の可能性がある場合の新たな対策手法と 4-2.で説明した処置の二次的影響の可能性がある場合の新たな対策手法を組合せて用い、これら両方の問題に対処する

ことを可能とする新たな対策手法の手順について説明する。

また本稿において開発した系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合に適

用可能な新たな対策手法について、既存の対策手法と比較した位置づけについて整理して

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説明する。

4-3-1. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の対策手法

4-3-1-1. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合での対策手法の考え方4-1.においては NACA に起因した問題を生じる可能性がある場合での新たな対策手法に

ついて説明し、4-2.においては SUTVA-NI に起因した問題を生じる可能性がある場合での新たな対策手法について説明した。

以下に系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合において、これらの新た

な対策手法を組合せて適用する場合での対策手法の考え方について説明する。

4-1.での NACA に起因した問題への対策に関しては、原理的に系列相関の残留を確認し

ようとする際の処置群・対照群の結果指標が確定していることが必要であり、推計手順の

中ではこれらが確定した後で実施することが必要である。

他方で 4-2.での SUTVA-NI に起因した問題への対策に関しては、最初に個々の対照群の対象について処置の二次的影響の有無の識別手順を適用し、試行錯誤により評価区間幅を

決定し、更に必要に応じて 4.2.3.3 の方法により DID の推計結果を補正することが必要で

ある。

従って、系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合には、最初に SUTVA-NIに起因した問題への対策手法を適用し処置群・対照群として用いる対象の結果指標を確定

させた上で、NACA に起因した問題への対策手法を適用するという順序により推計を行う

ことが必要である。

4-3-1-2. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の対策手法の適用手順4-3-1-1.においては系列相関と処置の二次的影響の両方の問題を生じる可能性がある場

合での対策手法の考え方について説明した。

以下当該考え方に基づいて、対策手法の具体的な適用手順について説明する。

図 4-3-1-2-1-1.に統計的方法において系列相関と処置の二次的影響の両方の問題を生じる可能性がある場合での新たな対策手法の適用手順について示す。

4-3-1-2-1.SUTVA-NI の問題に対する対策手法最初に SUTVA-NI に対する対策手法から適用を行う。

(1) 試料の収集・整備と識別のための前提条件の確認まず 1.試料の収集・整備と識別のための前提条件の確認を行う。OVLA などが充足され

るよう収集・整備した試料について、4-2-1-2 から 4-2-1-4.で説明した識別のための 4 つの前提条件を設定し、このうち 4-2-1-4.の CIA について、処置群に対して合成対照群の推計

又は個々の対照群の並行推移性の定量的確認を実施する。また 4-2-1-5.の処置前での顕著な外的要因の影響のある評価区間の試料を取捨選択する。

(2) 評価区間幅の仮決定次に 2.処置効果の評価区間幅を仮設定する。4-2-1-3.で説明した評価区間幅を複数設定し、3.から 6.迄の一連の分析を試行する。

(3) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の算定次に 3.対照群の全部の対象について、対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などを

算定する。4-2-2-1.での説明に従い横断面前後差(DIDI)などを算定する。

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[図 4-3-1-2-1-1. 統計的方法において系列相関と処置の二次的影響の両方の問題を生じる可能性がある場合での新たな対策手法の適用手順]

処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題に対する対策手法

1. 試料収集・整備と識別のための前提条件の確認 (本文 4-2-1-2.から 4-2-1-5.)

○ 試料収集・整理の段階において処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などを確認。○ 識別のために必要な前提条件は 4 つあるが、このうち結果指標と処置の選択の独立性条件

(CIA)を確認。

- 処置群間の二次的影響の不考慮 (演繹的仮定)- 処置群から対照群への二次的影響の影響元の不識別と時間安定性 (演繹的仮定)- 対照群と処置群の結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA)の確認

確認・検証手法として a.合成対照群の推計 又は b.並行推移性の定量的確認 を実施。- 処置前又は処置後における顕著な外的要因の影響の不存在性 (演繹的仮定・試料の取捨選択)→ 2.へ

2. 処置効果の評価区間幅の仮設定 (本文 4-2-1-3.及び 4-2-2-4.)○ 少なくとも 2 期以上の期間を 2 つ以上評価区間幅として仮設定。

→ 3.へ

3. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などの算定 (本文 4-2-2-1.)○ 分析しようとする処置群・対照群の全ての対象について、処置前の時点 t-s 及び処置後の時点 t+u における以下の試料を時系列で算定。

- 処置群前後差の平均値 BAk(s,u), 対照群の対象 1 つだけに関する前後差 BAI(s,u)- 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差 DIDI(s,u)→ 4.へ

4. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)による場合分けと条件分岐 (本文 4-2-2-2-1.)○ 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差があるか否かを判定し、判定結果に従い分析手順を分岐。

4-1. 全部の対照群の対象について DIDIが 0 と有意な差がない場合 → 5.へ4-2. 全部又は一部の対象の DIDIが 0 と有意な差がある場合(4-1.以外の場合) → 6.へ

5. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 と有意な差がない場合での識別(本文 4-2-2-2-2.)

○ 処置群と幾つかの対照群の対象の総平均値を対照群として用いた横断面前後差(DID)を試行し、当該横断面前後差(DID)の全部が 0 と有意な差がないか否かを判定。

○ 上記識別手順による判定結果に従い分析しようとする処置群・対照群の試料について以下の

2 通りのいずれに該当するかを識別。

1) 全部の対照群の対象が処置の二次的影響を受けている場合 (上記試行の結果が一部のみ 0)→ 分析しようとする対照群の対象への二次的影響が全部平均処置効果と等価、

当該対照群の試料からは横断面前後差分析(DID)により処置効果が推計困難。→ 処置群・対照群の対象を一部入替えるか、二次的影響が異なる別の対象を対照群候補に加えた上で 1.に戻って分析を再試行。 [試料の対象を変更し分析再試行]

2) 全部の処置群の対象における処置効果が 0 である場合 (上記試行の結果が全部 0)→ 当該処置群については処置効果が全部 0 と推定。 [分析完了]

6 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差がある場合での識別(本文 4-2-2-3.)

○ 1.の CIA の確認で a.合成対照群を推計した場合、当該合成対照群につき以下 2 つの識別手順のいずれかを実施し、各評価区間で有意な定数項が識別されるか否かにより処置の二次的影響の有無を識別。

○ 1.の CIA の確認で b.並行推移性の定量的確認を行った場合、対照群の全部の対象につき以下 2 つの識別手順のいずれかを実施し、各対象・評価区間で有意な定数項が存在するか否かにより処置の二次的影響の有無を識別。

- ”BAI-DIDI 比"を DIDIの逆数で回帰分析する方法

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対照群の対象 1 つだけに関する前後差 BAI(s,u) を対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差 DIDI(s,u) で除した比("BAI-DIDI比")を異なる時点 t-s,t+u について算定し、これを DIDI(s,u)の逆数で回帰分析した際の定数項が有意に 0 と異なるか否かを検定。

- ”BAK-DIDI比"を DIDI の逆数で回帰分析する方法処置群の前後差の平均値 BAk(s,u) を対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差 DIDI(s,u)で除した比("BAK-DIDI 比")を異なる時点 t-s,t+u について算定し、これを DIDI(s,u)の逆数で回帰分析した際の定数項が有意に 1 と異なるか否かを検定。

○ 処置効果の評価区間幅を変更して 3.~ 6.の手順を反復実施し、有意な定数項の検定結果を比較し安定性を確認。結果が安定的な評価区間幅のうち 2 期以上で最も短い区間幅を採択。(本文 4-2-2-4.)→ 3 に戻り複数の評価区間幅を試行した後、評価区間幅を確定した上で 7.へ

7 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差がある場合での推計(本文 4-2-3-1.から 4-2-3-3.)

○ 上記 6.での識別により、処置の二次的影響を受けていない(定数項が有意に 0 又は 1 と異ならない)対象・評価区間については、当該対象により横断面前後差分析(DID)を行った結果から直接的に処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)を充足する処置効果を推計可能。

○ 上記 6.での識別により、処置の二次的影響を受けている可能性がある(定数項が有意に 0 又は1 と異なる)対象・評価区間については、当該対象により横断面前後差分析(DID)を行った結果を当該有意な定数項の情報を用いて補正することにより、処置の二次的影響の不存在性条件

(SUTVA-NI)を充足する処置効果を推計可能。(本文 4-2-3-3.)→ 8.へ

系列相関の不存在性条件(NACA)の問題に対する対策手法

8. 処置群・対照群の試料の集約化 (本文 4-1-2-1. 1))

○ 処置群及び処置の二次的影響を識別された対照群の試料をそれぞれ 1 つの時系列に集約し、1 対の時系列試料を作成。- 1.の CIA の確認で a.合成対照群を用いた場合には、各処置群に対応する合成対照群を使用- 1.の CIA の確認で b.並行推移性を用いた場合には、各処置群に対し並行推移性を充足する対照群の平均値を算定し 1 対の時系列試料とする→ 9.へ

9. 横断面前後差分析(DID)の時系列試料作成 (本文 4-1-2-1. 2))

○ 処置前の時点に基準時点を 1 つ定め、当該時点から処置前・処置後の全時点について 10.で作成した 1 対の試料を用いて横断面前後差分析(DID)の時系列試料を作成。→ 10.へ

10. 処置実施ダミ-・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析 (本文 4-1-2-1. 3))

○ 9.で作成した横断面前後差分析(DID)の時系列試料に対して、Box-Jenkins 法を用い処置実施ダミー・季節ダミ-のみを説明変数とした時系列回帰分析を実施。推計の関係上から処置実施ダミーは連続する 2 期以上について設定する必要がある。

○ 当該時系列回帰分析においては、BGLM 検定又は Portmanteau"Q"検定により系列相関が危険率 5 %で残留していない自己相関項(AR)及び移動平均項(MA)の組合せのうち、赤池情報量基準(AIC)又はベイズ情報量基準(BIC)が最小となる組合せを選択。→ 11.へ

11. 処置効果の推計 (本文 4-1-2-1. 4))

○ 10. での時系列回帰分析の結果から、危険率 5 %で統計的に有意な処置実施ダミーの係数により各期間における処置効果を推計。

○ 統計的に有意な係数が得られない期間については処置効果が 0 であるものと見なす。○ 7.での推計において、処置の二次的影響を受けている可能性がある(6.での識別で定数項が有意に 0 又は 1 と異なる)対象・評価区間がある場合については、処置実施ダミーの係数を上記 7.下段での方法(本文 4-2-3-3.の方法)により補正。 [分析完了]

- 92 -

(4) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)による場合分け次に 4.対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)による場合分けと条件分岐を

行う。4-2-2-2-1.での場合分けにおいて、当該横断面前後差(DIDI)が対照群の全部の対象について 0 と有意な差がない場合には 5.へ進み、それ以外の場合には 6.に進む。(5) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 である場合の識別

5. は対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 と有意な差がない場合であり、4.における判定により当該横断面前後差(DIDI)が対照群の全部の対象について 0と有意な差がないと判定される場合に該当する。4-2-2-2-2.での説明に従い以下の判定・識別を行う。

当該場合には処置群と幾つかの対照群の対象の総平均値を対照群として用いた横断面前

後差(DIDA)を試行し、当該横断面前後差(DIDA)の全部が 0 と有意な差がないか否かを判定することにより、1)全部の対照群の対象が処置の二次的影響を受けている場合に該当するか又は 2)全部の処置群の対象における処置効果が 0 である場合に該当するかを識別する。

1)の場合には当該処置群・対照群の対象からは DID により処置効果は推計できないため、対照群の対象を入替えて再試行を要する。2)の場合には全部の処置群の対象における処置効果が 0 であると推定し分析を完了する。(6) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 ではない場合の識別

6.は対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 と有意な差がある場合であり、4.における判定により当該横断面前後差(DIDI)が幾つかの対照群の対象について 0と有意な差があると判定される場合に該当する。

当該場合には 4-2-2-3.で説明したとおり ”BAI-DIDI 比"を DIDI の逆数で回帰分析する方法又は ”BAK-DIDI 比"を DIDI の逆数で回帰分析する方法のいずれかを試行し、定数項が有意に 0(又は 1)と異なるか否かを統計的に検定する。更に当該場合には 4-2-2-4.での説明に従い、2.で仮決定した評価区間幅を変更して 3.か

ら 6.迄の分析の試行を反復し結果を比較することにより、結果が安定的な評価区間幅のうち 2 期以上で最も短い期間を選択する。(7) 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 ではない場合の推計最後に 7.対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が全部 0 と有意な差がある

場合での処置効果の推計を行う。上記 6.(4-2-2-3.)での結果に従い 4-2-3-1.での場合分けにより以下の手順により推計を行う。

6.での ”BAI-DIDI 比"を DIDI の逆数で回帰分析する方法などにより各対象・評価区間において定数項が有意に 0(又は 1)と異なるとは言えない場合、4-2-3-2.での説明どおり当該対象により DID を行った結果から直接的に SUTVA-NI を充足する処置効果を推計可能である。

反対に各対象・評価区間において定数項が有意に 0(又は 1)と異なる場合、4-2-3-3.での説明どおり当該対象により DID を行った結果を、当該有意な定数項の情報を用いて補正

することにより SUTVA-NI を充足する処置効果を推計可能である。

4-3-1-2-2.NACA の問題に対する対策手法上記一連の SUTVA-NI の問題に対する対策手法を適用した後に、4-1-2-1.での説明に従

い「二対象化法」を用いて NACA に対する対策手法を適用する。(8) 処置群・対照群の試料の集約化及び(9) DID の時系列試料の作成

- 93 -

最初に 8.処置群・対照群の試料の集約化を行う。処置群及び処置の二次的影響を識別された対照群の試料をそれぞれ 1 つの時系列に集約し、1 対の時系列試料を作成する。次に 9.DID の時系列試料作成を行う。処置前の時点に基準時点を 1 つ定め、当該時点か

ら処置前・処置後の全時点について 8.で作成した 1 対の試料により DID の時系列試料を作成する。

(10) 時系列回帰分析及び(11) 処置効果の推計次に 10.処置実施ダミ-・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析を行う。9.で作

成した DID の時系列試料に対して、Box-Jenkins 法を用い処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数とした時系列回帰分析を実施する。

最後に 11.処置効果の推計を行う。10.での時系列回帰分析での処置実施ダミーの係数の有意性検定結果から、必要に応じて 7.後段での有意な定数項から推計した対照群の処置の二次的影響の係数を用い偏差を補正した上で処置効果を推計し、一連の分析を完了する。

4-3-1-3. 系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合において Hansen の方法と処置の二次的影響の新たな対策手法を組合せる場合の考え方

4-3-1-2.では 4-1.及び 4-2.で説明した新たな対策手法を組合せた方法について説明したが、 3-2-2-4.において説明したとおり NACA に起因した問題への既存の対策として

Hansen(2007a・2007b)の方法が適用できることが知られている。系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合においても、4-3-1-2.とは異な

り NACA の問題への対策として Hansen(2007a・2007b)の方法を適用し、SUTVA-NI の問題への対策として 4-2.で説明した新たな対策手法を適用することが可能である。この場合も 4-3-1-1.での考え方と同様に NACA に起因した問題への対策については処置

群・対照群として用いる対象の結果指標が確定していることが必要であるため、最初に 4-2.において説明した SUTVA-NI に関する新たな対策手法を適用し、当該結果に基づき NACAについて Hansen(2007a・2007b)の方法を適用し処置効果を推計するという順序により推計を行うことが必要である。

4-3-2. 系列相関と処置の二次的影響の可能性がある場合の新たな対策手法の位置付け3-4-1.では DID において確認を要する主要前提条件について方法論別に既存の対策手法

を整理しその位置づけについて説明したが、以下 4-1.、4-2.及び 4-3-1.で説明した本稿で新たに開発した一連の対策手法に関する同様の整理と位置付けについて説明する。

4-3-2-1. 本稿で新たに開発した対策手法に関する整理と位置付け図 4-3-2-1-1-1.に DID の主要前提条件と方法論別での既存対策手法及び新たな対策手法

の整理とその位置づけに関する概念図を示す。

当該概念図における DID において確認を要する主要前提条件及び主要な方法論別の枠

組みは基本的に図 3-4-1-1-1-1.と同じである。当該概念図と図 3-4-1-1-1-1.の比較から明らかなとおり 4-1.から 4-3-1.で説明した本稿で

新たに開発した対策手法は、いずれも主要先行研究の整理において既存の対策手法などが

知られていない領域に関する新たな対策手法であると位置付けられることが理解される。

- 94 -

[図 4-3-2-1-1-1. DID の主要前提条件と方法論別での既存対策手法及び新たな対策手法の整理とその位置づけに関する概念図]

/ 方法論 実験的方法 統計的方法主要前提条件 ランダム化を用いた方法 マッチングを用いた方法 合成対照群を用いた方法

(試料の特徴) 対象数多・時点数少 対象数多・時点数少 対象数少・時点数多

結果指標と処置選択の

独立性条件(CIA・CMIA)- 対策手法 ・処置ランダム化割当 ・処置/対照群マッチング ・合成対照群

- 確認手法 ・抽出処置率差確認 ・平均分散比較

・並行推移性確認 (並行推移性確認)系列相関の不存在性条

件 (NACA)- 対策手法

(複雑対策手法) ・Hansen の方法 ・Hansen の方法 ・Hansen の方法

(簡易対策手法) ・「二期化法」 ・「二期化法」 ・ 「二対象化法」

- 確認手法 (二期化により時間方向 (二期化により時間方向 ("Q"検定又は BGLMの系列相関を回避) の系列相関を回避) 検定などが適用可)

処置の二次的影響の不 (組合せて適用可能)存在性条件(SUTVA-NI)

- 対策手法 ・Hudgens & Halloran ・対照群への二次的影

の方法 響を識別した推計

- 確認手法 ・"BAI-DIDI比"などの回帰分析による識別

(図注) 1- 全ての方法論に共通して処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などの試料の収集・管理に関する前提条件は充足が必要であるため記載を省略している。

2- 太線囲 は 4-1.及び 4-2.で説明した本稿で新たに開発した対策手法・確認手法を示す。

3- 破線囲 は該当する場合における対策手法・確認手法がなお存在しない領域を示す。

4-3-2-1-1. NACA の問題に対する新たな対策手法4-1.では「二対象化法」を用いて DID の時系列試料を作成し、当該時系列試料を時系列回

帰分析に付する方法が適用可能であることを示した。

当該「二対象化法」を用いた対策手法は、合成対照群を用いた統計的方法による場合など

試料の対象数が少なく時点数が多い「時間方向に長い」試料の場合における簡易な NACAに起因した問題への対策手法として位置づけられる。

当該対策手法を適用した場合の確認手法としては、時系列回帰分析に関する既存の系列

相関の検定手法である Portmanteu の"Q"検定や BGLM 検定などが適用可能である。

4-3-2-1-2. SUTVA-NI の問題に対する新たな対策手法4-2.では統計的方法の場合において一定の前提条件の下で個々の対照群に関する処置の

二次的影響の有無を識別し、DID の結果から処置の二次的影響に起因した偏差部分を補正

する手法が適用可能であることを示した。

当該対策手法を適用する場合の確認手法は、上記個々の対照群の対象に関する二次的影

- 95 -

響の有無の識別方法そのものであり、対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の結果が有意に 0 と異なるか否か及び対照群の対象 1 つの前後差 (BAI)と DIDI の比("BAI-DIDI 比")を DIDI の逆数で回帰分析した際に有意な定数項が存在するか否かの情報から、個々の対照群の対象について処置の二次的影響の有無を識別することが可能である。

当該対策手法は、統計的方法において SUTVA-NI に起因した問題を生じる可能性がある場合のうち、主として対照群となる対象の対象数が少なく時点数が多い「時間方向に長い」

試料が得られる合成対照群を用いた統計的方法の場合などに適用できる新たな手法である

と位置づけられる。

更に系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合には、4-3-1.で説明したとおりの対策手順に従い上記 2 つの新たな対策手法を組合せて適用することが可能である。

- 96 -

5. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故前後の産地・銘柄別米価格を用いた実証分析

5-1. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故前後の産地・銘柄別米価格と背景本節においては、実際に 4.1 及び 4.2 において開発した新たな対策手法を応用した処置

効果評価の事例として、系列相関及び処置の二次的影響の両方の問題を生じる可能性があ

る本件震災・事故前後での福島県産コシヒカリなど産地・銘柄別の米価格推移を用いた分析

と背景について説明する。

5-1-1. 東日本大震災・福島第一原子力発電所事故と福島県産農林水産物への影響

5-1-1-1. 東日本大震災の発生と被害東日本大震災は 2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分に三陸沖でマグニチュード 9.0 及び最大

震度 7 の本震が発生し、岩手県から千葉県に至る東北地方太平洋岸の広範囲で当該震災により震度 6 以上が観測されるなど我が国未曾有の大震災であった。更に当該震災では本震発生から同年 4 月の期間を中心に最大震度 4 以上で合計 383 回もの余震が発生しており、本震による被害と併せて本件震災による被害が拡大した要因の一つとなっている。

また、当該本震により 3 月 11 日 15 時 18 分(岩手県大船渡)から 16 時 52 分(茨城県大洗)に掛けて最大高さ 10m に達する津波が発生して沿岸部に襲来し、震源に近い沿岸部では

市街地中心部が全滅し多数の死者を出す被害をもたらした。

表 5-1-1-1-1-1.に東日本大震災による主要県別死者数と住家全半壊被害件数を示す。表 5-1-1-1-1-1.から明らかなとおり、本件震災による被害は震源地に近い宮城県・岩手県

及び福島県の 3 県に集中していることが理解される。

[表 5-1-1-1-1-1. 東日本大震災による主要県別死者数と住家全半壊被害件数]

震災死者数 (同構成比) 住家全半壊被害件数 (同構成比)

計 19,667 (1.000) 402,748 (1.000)

宮城県 10,566 (0.537) 238,134 (0.591)岩手県 5,140 (0.261) 26,079 (0.065)福島県 3,846 (0.196) 96,027 (0.238)

他都道県 115 (0.006) 42,508 (0.106)うち 茨城県 66 (0.003) 27,633 (0.069)

千葉県 22 (0.001) 10,755 (0.027)東京都 8 (0.000) 243 (0.001)神奈川県 6 (0.000) 41 (0.000)栃木県 4 (0.000) 2,379 (0.006)青森県 3 (0.000) 1,009 (0.003)山形県 3 (0.000) 14 (0.000)群馬県 1 (0.000) 7 (0.000)北海道 1 (0.000) 4 (0.000)埼玉県 1 (0.000) 223 (0.001)

出典: 総務省消防庁「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について(第 158 報)」

5-1-1-2. 福島第一原子力発電所事故の発生と被害一方東日本大震災による地震・津波は東北・北関東太平洋岸にある原子力発電所にも被害

を与え、福島第一原子力発電所事故を発生させる契機となった。

*92 原子力災害対策特別措置法(平成 11 年(1999 年)法律第 156 号)。以下「原災法」と略称する。

*93 2019 年現在も摂取制限が指示されている産品は福島県東部産の葉茎菜類・キノコ類・ヤマメ・イノシシ肉など 4 品目のみである。

- 97 -

福島第一原子力発電所では 3 月 11 日の地震で外部送電系統が破損した上に津波襲来によって非常用発電機の大部分が失われ、運転中の 1 ~ 3 号機が炉心崩壊を起こし水素爆発を起こして大破し定期検査中の 4 号機も延焼し、破損した原子炉から発電所周辺地域に放射性物質が放出される大事故となった。

図 5-1-1-2-1-1.に福島第一原子力発電所事故による避難指示区域などの概念図を示す。当該事故により 3 月 11 日深夜から原子力災害対策特別措置法*92 に基づき周辺住民の避

難が実施され合計 16.8 万人が避難を強いられた。現在もなお福島県東部の一部地域については放出された放射性物質による汚染によって立入が制限される「帰還困難区域」などが

設定された状態が継続している。

[図 5-1-1-2-1-1. 福島第一原子力発電所事故による避難指示区域などの概念図]

出典: 福島県(2019) 経済産業省公表の概念図をもとに同県作成。

5-1-1-3. 福島第一原子力発電所事故と農林水産物などの出荷制限・摂取制限指示

5-1-1-3-1. 原災法による農林水産物などの出荷制限・摂取制限5-1-1-2.で説明したとおり福島第一原子力発電所事故により放射性物質が放出され近隣

地域に降下して汚染を引起こしたが、当該汚染の結果として近隣地域で栽培・飼育・採取さ

れていた農林水産物などの摂取を介した人体への影響が懸念されることとなった。

このため国は 3 月 21 日付で原災法第 20 条の規定に基づき原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)名で福島・茨城・栃木・群馬の 4 県の知事に対し農林水産物の出荷制限を指示し、さらに 3 月 23 日付で福島県知事に対し食品の摂取制限*93 を指示している。

*94 厚生労働省による食品安全基準については、事故直後は 500Bq/kg の暫定基準値が適用されていたが、2012年 4 月に一般食品 100Bq/kg, 乳児用食品・牛乳 50Bq/kg, 飲料水 10Bq/kg に改訂強化されている。

*95 厚生労働省「食品の摂取制限及び出荷制限(福島原子力発電所事故関係)」を参照。

- 98 -

出荷制限は地方公共団体などによる検査によって厚生労働省が定める食品安全基準 *94 を

超過した検体が発見された場合の措置であり、さらに当該検査によって人体への直接的な

影響のおそれがある異常な高濃度で汚染した検体が発見された場合には、出荷制限品目の

中から摂取制限品目が追加的に指定され措置される関係にある。

表 5-1-1-3-1-1.に福島県における福島第一原子力発電所事故に関連した出荷制限品目の指定経過を示す。

事故当初は出荷制限などの対象品目は福島県産の 3 品目(ホウレンソウ・カキナ・原乳)のみであったが、以降汚染の実態が判明するにつれて数十次にわたり地域及び品目が追加さ

れた。指定の追加は 2011 年度内に大部分が完了したが、厚生労働省資料によれば福島県を中心に東北・北関東の最大 15 県において青果・畜産・水産品や米(水稲)・茶など延べ 203品目が指定*95 されている。

[表 5-1-1-3-1-1. 福島県における福島第一原子力発電所事故に関連した出荷制限品目の指定経過(解除済品目含む)]

対象品目 指定時期 (備 考)

穀類・雑穀類*米 米(県の出荷検査外のもの) 2011 年 11 月 17 日~ 会津・中通地域は 2014 年産から解除豆類 大豆・小豆 2012 年 11 月 15 日~ (2016 年 11 月に全面解除)

乳肉類

食肉 イノシシ・クマ・ノウサギ肉等 2011 年 11 月 9 日~カルガモ・キジ・ヤマドリ肉等 2013 年 1 月 30 日~牛肉(県の出荷検査外のもの) 2011 年 7 月 19 日~

原乳 原乳 2011 年 3 月 21 日~ 会津・中通地域は 2011 年 4 月解除野菜類

茸山菜 野生キノコ・コシアブラ等 2011 年 9 月 6 日~タケノコ 2011 年 5 月 9 日~ゼンマイ・タラノメ・ワラビ等 2012 年 5 月 2 日~露地栽培シイタケ 2011 年 4 月 13 日~施設栽培シイタケ・畑作ワサビ 2011 年 7 月 19 日~

果物 クリ・ウメ・ユズ・キウィ 2011 年 6 月 2 日~葉茎菜 ホウレンソウ・カキナ 2011 年 3 月 21 日~ 会津・中通地域は 2011 年 5,6 月解除

コマツナ他非結球性葉茎菜 2011 年 3 月 23 日~ (同上)キャベツ他結球性葉茎菜 2011 年 3 月 23 日~ (同上)アブラナ科花蕾類(ブロッコリ等) 2011 年 3 月 23 日~ (同上)

根菜類 カブ 2011 年 3 月 23 日~ (同上)水産物*淡水魚 ヤマメ・ウグイ・コイ・フナ等 2012 年 3 月 29 日~ 会津地域は 2012 ~ 14 年度で解除海産魚 クロダイ他貝類含む 16 種 2012 年 6 月 22 日~ (当初 48,うち 32 種は 2016 年に段

階解除)

表注: 厚生労働省「食品の摂取制限及び出荷制限(福島原子力発電所事故関係)」を集約して作成。各時点での正確な制限品目・制限地域については当該原出典資料を参照ありたい。

*96 他に福島県及び茨城県北部では水産物の「出漁自粛」が行われている。

*97 福島県の行政区分において、県東部太平洋岸の相馬市からいわき市に至る地域を「浜通地域」、県央部の阿武隈産地と奥羽山地の間の福島市から白河市に至る地域を「中通地域」、奥羽山地以西の会津若松市などを「会津地域」と呼称して区分している。

*98 文部科学省原子力損害賠償紛争審査会「東京電力株式会社福島第一・第二原子力発電所事故による原子力損害賠償中間指針」を参照。

- 99 -

5-1-1-3-2. 出荷制限・摂取制限に附帯した米(水稲)の「作付自粛」*96

米(水稲)については、当該事故直後から福島県東部の浜通 *97 地域を中心とした「帰還困

難区域」での水田での作付は不可能となっている。また「帰還困難区域」周辺地域の水田に

おいても出荷制限の実施を受けて、関連する農家による除染後農地での保全管理及び試験

栽培のための作付を継続的に行う場合を除いては作付を自主的に停止する「作付自粛」が行

われている。

当該「作付自粛」などによる被害については、国の原子力損害賠償紛争審査会による 2013年 1 月の中間指針第三次追補において、具体的に対象となる業種を明示した上で「かかる判断がやむを得ないものと認められる場合」には出荷制限同様に当該事故の直接的被害

であると認定し損害賠償の対象とすべきことを示している。

5-1-1-4. 福島第一原子力発電所事故に起因した農林水産物などの風評被害福島第一原子力発電所事故の発生直後においては、5-1-1-3.で述べたとおり福島県産の

農林水産物を中心に多数の品目が次々と出荷制限品目として追加的に指示されたため、消

費者や流通関係者においては福島県産や近隣地域産の農林水産物に対する漠然とした汚染

への不安や懸念が形成されたものと推定される。

当該漠然とした汚染への不安や懸念に起因して、当該事故後での福島県の農林水産物な

どの産品では検査を受けて安全性が確認された上で出荷されている品目やそもそも出荷制

限が行われていない品目についても、消費者による買控えや流通関係者による取引停止な

どが行われ、卸取引市場での取引数量・価格が大きく下落して生産者側に大きな経済的被

害をもたらすこととなった。

国の原子力損害賠償紛争審査会では 2011 年 8 月に策定した中間指針 *98 において、こう

した農林水産業などにおける消費者による買控えなどに起因した経済的被害を「いわゆる

風評被害」であると判断し、以下のとおり事故と相当因果関係がある場合には出荷制限な

どによる損害と同様に賠償項目を定めて損害賠償の対象とすべきことを示している。

(原子力損害賠償紛争審査会中間指針 第7 いわゆる風評被害について 1 一般的基準

(抄))

「いわゆる風評被害については確立した定義はないものの、この中間指針で「風評

被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する

放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品又はサー

ビスの買い控え、取引停止等をされたために生じた被害を意味するものとする。「風

評被害」についても、本件事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とする。

その一般的な基準としては、消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件

事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的

・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合とする。」

*99 以下福島・宮城及び岩手県を「東北被災地3県」と呼称する。

- 100 -

5-1-2. 東北被災地 3 県での本件震災・事故の主要農産物への影響

5-1-2-1. 東北被災地 3 県での主要農産物への影響5-1-1-1.では東日本大震災の被害が福島県・宮城県及び岩手県の 3 県に集中していたこと

を説明し、5-1-1-2.から 5-1-1-4.では福島第一原子力発電所事故により福島県を中心に出荷制限や風評被害などの農林水産物への被害が集中していたことを説明した。

ここで本件震災・事故による福島県・岩手県及び宮城県の 3 県*99 での農林水産物への被害

などの影響についての分析に入る前に、全体像を把握するために本件震災・事故直前の

2010 年度時点における東北被災地 3 県の主要農産物などの産出額について概観しておく。

5-1-2-1-1. 東北被災地 3 県での 2010 年度における主要農産物などの産出額表 5-1-2-1-1-1.に東北被災地 3 県での 2010 年度における主要農産物などの産出額上位

10 品目を示す。東北被災地 3 県での 2010 年度における農産物の産出額においては、県別の自然条件な

どを反映した差異が存在するものの、共通して米・肉用牛などが上位を占めていたことが

理解される。特に米については東北被災地 3 県合計で最大の産出額を占めており、福島県及び宮城県において単一の品目として突出した産出額を占めるなど重要な位置づけにあ

ることが理解される。

[表 5-1-2-1-1-1. 東北被災地 3 県の 2010 年度における主要農産物などの産出額上位 10 品目]

福島県 岩手県 宮城県 (東北被災地 3 県合計)(億円・名目)

耕種・畜産物 (順位別)1 米 791 ブロイラ- 499 米 667 米 1,9142 肉用牛 155 米 456 肉用牛 193 ブロイラ- 5673 鶏 卵 130 豚 238 鶏 卵 153 肉用牛 5564 きゅうり 113 生 乳 212 生 乳 129 豚 4465 豚 101 肉用牛 208 豚 107 生 乳 4396 も も 101 鶏 卵 115 いちご 52 鶏 卵 3987 生 乳 - 98 りんご 87 ブロイラ- 42 きゅうり 1768 トマト 80 葉たばこ 53 きゅうり 33 りんご 1669 日本なし 74 きゅうり 30 ね ぎ 26 トマト 126

10 りんご 70 ひな(他県) 26 大 豆 22 も も 101

(総計) 2,330 2,287 1,679 6,296うち穀物等計 977 651 745 2.373うち畜産物計 510 1,272 624 2,406うち野菜計 551 260 288 1,099うち果樹計 292 104 22 418

水産物(総計) 187 385 777 1,349

出典: 農林水産省東北農政局「農林水産統計年報」第 59 次、「漁業産出額統計」 2010 年

5-1-2-1-2. 東北被災地 3 県での主要農産物などの産出額推移図 5-1-2-1-2-1.から 5-1-2-1-2-4.に東北被災地 3 県合計及び県別での本件震災・事故前後

- 101 -

での主要農産物などの産出額推移を示す。

5-1-1-3.及び 5-1-1-4.で説明したとおり福島県産農産物については本件震災・事故後に多数の品目が出荷制限・作付自粛などの対象となり、更に風評被害による消費者の買控えな

どの影響を受けていた。しかし図 5-1-2-1-2-2.での福島県における農産物産出額の推移を見た場合には野菜及び畜産物では 2011 年度に明確な産出額の下落が観察されるのに対し、米に関しては 2011 年度の産出額の変化は相対的にあまり明確ではなくむしろ会津・中通地域で米の出荷制限が解除された 2014 年度に大きな下落が観察される。勿論、当該福島県産米の産出額についての観察結果は外的要因の影響などを全く考慮し

ていない概観的なものに過ぎず、当該結果により本件震災・事故が米の需給に与えた影響

を評価することはできない。実際に本件震災・事故が米の需給に与えた影響を処置効果と

見なした上で正しく評価するためには、次節以降で説明する新たな対策手法などを応用し

前提条件の充足を確認した上で処置効果評価を行い結果を判断することが必要である。

[図 5-1-2-1-2-1.~ 4. 東北被災地 3 県での主要農産物などの産出額推移]

出典: 農林水産省東北農政局「農林水産統計年報」、「漁業産出額統計」 各年版

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

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0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

10000

産出額 (億円・名目)

水産計食鳥鶏卵豚生乳肉用牛果樹計野菜計他穀物等米

宮城・岩手及び福島県合計農業産出額推移

2003

2004

2005

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2008

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0

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1500

2000

2500

3000

産出額 (億円・名目)

水産計食鳥鶏卵豚生乳肉用牛果樹計野菜計他穀物等米

福島県農業産出額推移

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

0

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1000

1500

2000

2500

3000

産出額 (億円・名目)

水産計食鳥鶏卵豚生乳肉用牛果樹計野菜計他穀物等米

岩手県農業産出額推移

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

産出額 (億円・名目)

水産計食鳥鶏卵豚生乳肉用牛果樹計野菜計他穀物等米

宮城県農業産出額推移

*100 1990 年から 2011 年迄存在した財団法人全国米穀取引・価格形成センタ-の通称。当該センターの入札価格の詳細については社団法人米穀安定供給確保支援機構(「米穀機構」)の HP において実績値が公開されている。

- 102 -

5-1-3. 分析に用いる産地・銘柄別米価格の試料

5-1-3-1. 農林水産省などによる産地・銘柄別米相対取引価格調査主要農産物のうち米(主食用・水稲)については 1994 年迄実施されてきた食糧管理制度な

どの歴史的経緯上から卸取引市場を経由した取引が殆ど行われてこなかったため、他の農

産物と異なり中央・地方卸取引市場での取引数量・価格などの調査対象からは外れている。

しかし食糧管理制度の変遷に伴い農林水産省関連団体による産地・銘柄別の入札取引価

格の調査や、主要出荷団体・業者を対象とした相対取引価格の調査などが実施されており、

同省により結果の一部が公表されている。

2002 年から 2008 年度迄の米の産地・銘柄別での月次取引価格については 2011 年迄存在したコメ価格形成センタ- *100 による産地別・銘柄別入札価格情報が利用可能であり、

2002 ~ 2008 年各月の主要産地・銘柄別の価格については当該入札価格情報の試料を利用することが可能である。

また 2006 年 10 月分から国内については農林水産省による主要出荷団体・業者を対象とした相対取引価格の調査により、都道府県別(新潟・福島県産などでは更に県内地域別)・銘柄別に月次での食用 1 等・60kg 当での相対取引価格の平均値が公表されている。更に 2013年 2 月分からは同様の産地・銘柄別分類により取引数量の集計値が公表されている。表 5-1-3-1-1-1.に農林水産省「米の相対取引価格・数量」における統計値の産地・銘柄分類

例(東日本主要道県・2015 年産分での分類)を示す。これら農林水産省などによる統計調査を使用する利点としては、米(主食用・水稲)の価

格に関する事実上唯一の公的統計であること、各産地・銘柄の価格についてほぼ同一条件

で時間的に連続した試料が得られるため時系列での観察に適していること及び公的統計値

であり数値の信頼性が確保されていることが挙げられる。

他方でこれらの統計調査を使用する留意点としては、農林水産省による調査対象が集荷

・卸売段階などの流通段階のどこに該当しているのかは不明であり識別できないこと、

2013 年度迄取引数量が調査されていなかったため本件震災・事故前では価格しか判明しないこと及びコメ価格形成センター試料による補完を行ってもなお欠測が多く価格が連続し

て観察できる産地・銘柄が限定されることなどが挙げられる。

[表 5-1-3-1-1-1. 農林水産省「米の相対取引価格・数量」における統計値の産地・銘柄分類例](東日本主要道県, 2015 年度産分での分類)

東北被災地 3 県

宮城 ササニシキ ひとめぼれ

岩手 あきたこまち ひとめぼれ いわてっこ福島 コシヒカリ(会津・中通・浜通) ひとめぼれ 天のつぶ

他東日本道県

北海道 きらら 397 ゆめぴりか青森 まっしぐら つがるロマン

秋田 あきたこまち めんこいな山形 はえぬき つや姫

茨城 コシヒカリ あきたこまち ゆめひたち

- 103 -

栃木 コシヒカリ あさひの夢 なすひかり

群馬 あさひの夢 ゆめまつり ゴロピカリ

千葉 コシヒカリ ふさこがね ふさおとめ

山梨 コシヒカリ あさひの夢

静岡 コシヒカリ きぬむすめ あいちのかおり

長野 コシヒカリ あきたこまち

富山 コシヒカリ てんたかく石川 コシヒカリ ゆめみずほ

福井 コシヒカリ ハナエチゼン

新潟 コシヒカリ(魚沼・岩舟・佐渡・一般) こしいぶき

出典: 農林水産省政策統括官「米の相対取引価格・数量」報告対象者は全農・道県経済連・県単一農協・道県出荷団体(玄米仕入数量年 5,000t 以上)・出荷業者(直接販売数量年 5,000t 以上)、価格は運賃・包装代・消費税含む食用米 1 等 60kg の相対取引価格。

5-1-3-2. 福島県産米の代表的価格推移5-1-3-1.で説明した農林水産省などによる産地別・銘柄別での米の相対取引価格調査の結

果を用いて、本稿で新たに開発した対策手法を応用し分析の対象とする福島県産米の代表

的な価格推移について他産地・銘柄米と対比して概観する。

図 5-1-3-2-1-1.に国内産米の全銘柄平均月次価格及び年産別国内収穫量推移を、図5-1-3-2-1-2.に福島県中通産コシヒカリの価格推移について示す。国内産米の価格は消費者嗜好の多様化による需給軟化を受けて緩慢に下落傾向にあり、

また毎年度の収穫量の多寡や月次での需給状況を反映して大きく変動して推移している。

福島県中通産コシヒカリの価格推移については、本件震災・事故前は国内産米の全銘柄平

均月次価格と概ね同様の推移を示していたが、本件震災・事故後の 2011 年度から 2017 年度に掛けて価格が相対的に下落して推移していたことが観察される。

以下当該本件震災・事故による福島県産米価格への影響を推計することを試みる。

[図 5-1-3-2-1-1. 国内産米の全銘柄平均月次価格及び年産別国内収穫量推移 及び

図 5-1-3-2-1-2. 福島県中通産コシヒカリ価格推移]

(図注) 価格はコメ価格形成センター資料及び農林水産省政策統括官「米の相対取引価格・数量」各月版、国

内収穫量は農林水産省「作物統計調査」各年度版による年度での値。

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

度 2

018年

2019年

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg

7500

7750

8000

8250

8500

8750

9000

9250

1000t

全銘柄平均月次価格

年次国内収穫量(右軸)

国内産米月次価格及び年次収穫量推移

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

2019年

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)

福島県産を除く他産地米

福島県中通産コシヒカリ

福島県中通産コシヒカリ価格推移

*101 当該欠測率1%での 12 産地・銘柄のうち 3 産地・銘柄は 5-2-1-2.で説明する SUTVA-ST又は SUTVA-CSの問題に抵触する可能性がある岩手県及び宮城県産米の試料であり、これらを除くと実質 9 産地・銘柄分の試料しか得られないこととなる。

- 104 -

5-2. 福島県産米価格への本件震災・事故による処置効果評価のための予備的検討本節においては、5-1.で説明した本件震災・事故による福島県産米価格への影響を新た

に開発した対策手法を適用して評価するに先立って、2-3.及び 3-1.から 3-3.で説明した横断面前後差分析(DID)の在来の対策手法を適用した予備的検討を行う。具体的には、5-1-3.で説明した国内産の産地・銘柄別での米価格の試料を用いて、処置群

・対照群の同時存在性条件(OVLA)など試料の収集・管理に関する前提条件の充足を確認し、更に結果指標と処置の独立性条件(CIA)に関する前提条件の充足について確認を行い、在来の対策手法による処置効果評価の結果を比較のために整理しておく。

5-2-1. 処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)などに起因した問題と対策

5-2-1-1. 国内産米価格における OVLA に起因した問題本件震災・事故による福島県産米価格への影響について、本件震災・事故を処置と見なし

た DID による処置効果評価を行い推計することを考える。最初に処置効果評価に用いる試料を収集・整備することが必要であるが、5-1-3.で説明し

た国内産の産地・銘柄別での米価格の試料については、必ずしも毎月・毎年度全部の産地・

銘柄が調査対象となっている訳ではなく調査対象となった企業・組織が相対取引を行った

場合にのみ試料が得られるため、いずれの試料についても高頻度で欠測している。

このため本件処置効果評価においては、5-1-3.で説明した国内産米価格の試料の中から、処置群である福島県中通産コシヒカリの試料に対して 2-3-3.で説明した OVLA を充足する他産地・銘柄米の試料を抽出して収集・整備することが必要である。

具体的には、5-1-3.で説明した国内産米価格の試料において、本件震災・事故前における2002 年 9 月から 2011 年 2 月迄の 102 ヶ月間に処置群とする福島県中通産コシヒカリでは 66 ヶ月分について価格の試料が得られる。福島県産米以外の他産地・銘柄米については本件震災・事故前での試料が全部で 42 産地・銘柄分あるが、上記福島県中通産コシヒカリの価格の試料に対して欠測率 5 %未満である他産地・銘柄米の試料は 16 産地・銘柄分である。

当該欠測率の基準を 1 %未満に厳しくすると試料が 12 産地・銘柄分しか得られない*101

結果となり、他方で欠測率の基準を 10 %未満に緩くすると試料が 17 産地・銘柄分得られるがほぼ 1 年近く連続して欠測した試料などが対照群に入ることとなるためいずれも不適切である。

このため本件処置効果評価においては福島県中通産コシヒカリを処置群とし、欠測率 5%未満を判定基準として OVLA を充足する福島県産以外の 16 産地・銘柄別の米価格を対照群の候補として試料を収集・整備する。

5-2-1-2. 国内産米価格における SUTVA-ST 及び SUTVA-CS に起因した問題5-1-1.で説明したとおり本件震災と事故は 2011 年 3 月 11 日に同時発生しており東北被

災地 3 県において震災と事故の影響を識別することは非常に困難である。

*102 例えば新潟県南魚沼市においては 2013 年に「南魚沼市コシヒカリの普及促進に関する条例」を制定し、南魚沼地域のコシヒカリ農家への技術支援や販路開拓などに官民一体となって積極的に取組んでいる。

- 105 -

具体的に 5-2-1-1.で OVLA を充足する対照群とした福島県産以外の 16 産地・銘柄のうち岩手県産あきたこまち、岩手県産ひとめぼれ及び宮城県産ひとめぼれの 3 産地・銘柄が岩手県及び宮城県産の米に該当する。

岩手県及び宮城県産農産物については 5-1-2.で説明したとおり農産物への出荷制限などの影響は福島県と比べ限定的であり、米についても出荷制限・作付自粛などが行われてお

らず相対的には震災の影響の方が大きかったものと考えられる。

このため本件震災・事故の両方の被害が深刻であった福島県産米の価格と、相対的に震

災の被害が深刻であった岩手県及び宮城県産米の価格の両方を処置群と見なして DID を

行った場合には、潜在的に 2-3-2.で説明した SUTVA-ST の問題に抵触する可能性が考えられる。従って本件震災・事故に関する処置効果評価において福島県産米を処置群とする場

合には、岩手県及び宮城県産米は処置群から除くことが必要である。

他方で本件震災・事故による影響を受けた岩手県及び宮城県産米の価格の試料を対照群

に入れた場合には、少なくとも震災による影響部分については処置群を対照群の候補の中

に混在させることに等しく、2-3-2.で説明した SUTVA-CS の問題に抵触し処置効果評価の

結果に偏差を生じる可能性が考えられる。

従って SUTVA-ST 及び SUTVA-CS の充足を確保するためには、5-1-1.で収集・整備した他産地・銘柄米の価格の試料のうち岩手県及び宮城県産米価格の試料は処置群・対照群の両

方から除外し、以下 OVLA を充足した 16 産地・銘柄のうち岩手県及び宮城県産以外の 13産地・銘柄別の米価格を対照群の候補として分析を進めることとする。

5-2-2. 結果指標と処置の選択の独立性条件(CIA)に起因した問題と対策

5-2-2-1. 国内産米価格における CIA に起因した問題次に本件処置効果評価を行うに当たり、CIA に起因した問題を生じる可能性について検

討する。

5-1-3.で説明した国内産米価格の試料については、米の卸売取引市場において相互に競合関係にあり価格には一定の裁定が働くと推定され、本件震災・事故前では価格裁定によ

りいずれもある程度類似した価格推移を示していたことが判明している。

他方で新潟県魚沼産コシヒカリなど一部の国内産米については品質面での管理強化やブ

ランドイメージの形成など差別化のための取組み *102 が進められており、こうした取組み

の効果により近年の価格推移についても相応の差異が生じていると考えられる。

従って福島県産米を処置群と見なした場合に、5-2-1.で説明した OVLA などの前提条件

を満たした対照群の候補 13 産地・銘柄米の全部を利用するのではなく、上記の価格裁定と差別化の兼合いにおいて CIA の観点からの取捨選択を行うことが必要である。具体的に本件処置効果評価における国内産米価格における CIA に起因した問題への対

策として、最適ウェイトによる合成対照群の推計及び並行推移性を定量的に確認した対象

*103 以下並行推移性を定量的に確認した対象の平均値による合成対照群を「並行推移性を用いた合成対照群」と略称する。

*104 対象数が少なく時間方向に多時点での試料が得られる場合には、合成対照群の推計による CIA への対策が適しており、次節での SUTVA-NIなどへの対策においても工数が少なくて済む利点がある。

ここで Abadie and Gardeazabal(2003)などによる最適ウェイトを用いた合成対照群は最適ウェイトに課された条件により必ず合成できるとは限らないことから、本稿においては確認・検証の意味を込めて最適ウェイト合成対照群の推計に加えて並行推移性を定量的に確認した対象の平均値による合成対照群を用いた CIA への対策を併せて実施する。

*105 本項において推計の基礎とした Abadie 他(2015)においては、King and Zeng(2006)による不適切な対照群の選択に関する問題提起を受けて、ウェイトの適用結果が試料の凸包(Convex Hull)内に存在し現実に存在しない極端な対照群の対象を比較基準としないこと及び外挿による予測誤差・偏差が存在しないことを担保するため当該 2 つの条件が必要である旨が説明されている。

他方で 3-1-3-2.で説明したとおり当該 2 つの条件の妥当性については Doudchenko and Imbens(2016)により異なる見解が示されていることに留意することが必要である。

*106 実際には式 52211103 及び式 52211104 の条件の下で、処置群の対象の試料と対照群の候補となる対象の試料にウェイト W を乗じた値の平均予測誤差二乗和平方根(RMSPE: Root Mean Square Prediction Error)を最小化する Wを求める。Abadie 他(2015)を参照ありたい。

- 106 -

の平均値による合成対照群*103 の推計の 2 通りの対策手法とその適用結果*104 について説明

する。

5-2-2-2. 最適ウェイトを用いた合成対照群の推計による CIA に起因した問題への対策本件処置効果評価において CIA の充足を確認する方法としては、3-1-3.で説明した最適

ウェイトを用いた合成対照群の推計による方法が考えられる。

本項では 5-2-1.で説明した OVLA などを充足した 13 産地・銘柄別の米価格推移を用いて、福島県中通産コシヒカリの価格に対する最適ウェイトを用いた合成対照群の推計を行

う。

5-2-2-2-1. 最適なウェイトの推計ある処置群の対象に対して最適ウェイトを用いた合成対照群を推計するためには、3-1-3.

で説明したとおり幾つかの対照群の候補となる対象の結果指標や説明変数を用いてこれに

乗じるべき最適なウェイト W*を推計することが必要である。式 5-2-2-2-1-1.に Abadie 他(2015)による合成対照群における最適なウェイト W*の推計方

法について示す。

当該最適なウェイト W*は、結果指標又は説明変数毎に処置群の対象 k の試料とウェイト W を乗じた対照群の候補となる対象 i の試料の差の二乗和を算定し、更に当該結果を結果指標又は説明変数に関する相対的重要度のウェイト vj を乗じた結果を最小化するような W を算定することにより推計できる。

但し式 5-2-2-2-1-1.中の式 52221103 及び式 52221104 に示すとおり当該ウェイト W に

ついては、対照群の候補となる対象 i 毎の構成要素 wi はいずれも 0 又は正の値であり、その総和が 1 であるという条件*105 を満たす必要がある。

本件処置効果評価においては、処置群の対象は福島県中通産コシヒカリの 1 つだけで、利用可能な試料は 13 産地・銘柄別の米価格に関する結果指標だけであり j は 1 つで vj は 1である。このため最適なウェイト W*は構成要素が非負で合計が 1 となるウェイトのうち、処置群である福島県中通産コシヒカリの価格とウェイト W を乗じて得られる対照群の候

補である 13 産地・銘柄別の米価格の差の二乗和が最小化*106 されるものを推計すればよい。

- 107 -

表 5-2-2-2-1-1.に国内 13 産地・銘柄別の米価格を用いた福島県中通産コシヒカリ価格に対する最適なウェイトの推計結果を示す。

当該最適なウェイトの計算においては、国内 13 産地・銘柄別の米価格を本件震災・事故前の 2002 年 9 月から 2010 年 2 月迄の 66 ヶ月分の試料を用いている。当該推計結果においては、茨城県産コシヒカリなど 5 産地・銘柄の米価格が正の構成要

素となり、千葉県産コシヒカリなど 8 産地・銘柄については構成要素が 0 となっている。

[式 5-2-2-2-1-1. 合成対照群における最適なウェイト W*の推計方法(Abadie 他(2015))]

JW*; min Σ vj・(Xkj - Xij・W)2

j=1 式 52221101

W = [w1, w2, ・・・・ , wN] 式 52221102

∀ i wi ≧ 0 式 52221103NΣ wi = 1 式 52221104i=1

Xkj 処置群の対象 k の結果指標又は説明変数 j ( 1 ≦ j ≦ J )Xij 対照群の候補となる対象 i の結果指標又は説明変数 j ( 1 ≦ j ≦ J )vj 結果指標又は説明変数 j に関する相対的重要度のウェイトW 対照群の候補となる対象 i のウェイト (最適化の対象)wi 対照群の候補となる対象 i 毎の Wの構成要素 ( 1 ≦ i ≦ N )

[表 5-2-2-2-1-1. 国内 13 産地・銘柄別の米価格を用いた福島県中通産コシヒカリ価格に対する最適なウェイトの推計結果]

産地・銘柄名 構成要素 wi 産地・銘柄名 構成要素 wi

茨城コシヒカリ + 0.386 新潟岩船コシヒカリ (0.000)秋田あきたこまち + 0.330 富山コシヒカリ (0.000)栃木コシヒカリ + 0.236 石川コシヒカリ (0.000)新潟魚沼コシヒカリ + 0.024 福井コシヒカリ (0.000)新潟一般コシヒカリ + 0.023 滋賀コシヒカリ (0.000)千葉コシヒカリ (0.000) 島根コシヒカリ (0.000)長野コシヒカリ (0.000)

(合 計) + 0.999

(表注) 本件震災・事故前での 2002 年 9 月から 2010 年 2 月迄の試料のうち欠測を除く 66 試料を使用。

5-2-2-2-2. 最適ウェイトを用いた合成対照群の推計による CIA の措置結果5-2-2-2-1.では 5-2-1.で説明した OVLA などを充足した 13 産地・銘柄別の米価格推移を用

い、茨城県産コシヒカリなど 5 産地・銘柄からなる福島県中通産コシヒカリの価格に対する最適なウェイトを推計した。

次に当該最適なウェイトと本件震災・事故前での 5 産地・銘柄の試料を用いて、福島県中通産コシヒカリの価格に対する最適ウェイトを用いた合成対照群の推計を行った。

図 5-2-2-2-2-1.に福島県中通産コシヒカリの価格に対する最適ウェイトを用いた合成対照群の推計結果を示す。

福島県中通産コシヒカリの価格に対する最適ウェイトを用いた合成対照群の価格推移に

ついては、本件震災・事故前において処置群の価格推移と良好に一致して推移しているこ

とが観察される。

*107 3-1-2.で説明したとおりマッチングを用いた統計的方法などの場合には、並行推移性の確認は処置群及び対照群の結果指標を処置前の 2 時点以上において並行に推移しているかどうかを目視で確認するという定性的方法により行われる(例えば Angrist and Pischke(2008) 第 5 章での説明など)。

しかし当該方法では判断基準が不明朗で乖離がどの程度の範囲であれば「並行」と判定し得るのかが曖昧である上に、本件処置効果評価の場合のように対照群の対象が多数あり時間方向にも多数の時点で試料が得られる場合には全部の対象・時点の組合せについて悉皆で結果指標の観察を繰返すことは冗長である。

このため、処置群・対照群の時系列回帰分析により係数が有意に+1 と異なると言えるか否かを判定することで、並行推移性を定量的に確認することが正確かつ合理的であると考えられる。

- 108 -

当該結果から、当該最適ウェイトを用いて推計した合成対照群の価格推移の試料につい

ては、処置群である福島県中通産コシヒカリの価格推移に対し CIA を充足した試料とな

っていることが確認される。

[図 5-2-2-2-2-1. 福島県中通産コシヒカリの価格に対する最適ウェイトを用いた合成対照群の推計結果]

5-2-2-3. 並行推移性を用いた合成対照群の推計による CIA に起因した問題への対策

5-2-2-3-1. 並行推移性の定量的確認による CIA の確認手法本件処置効果評価において CIA の充足を確認する方法としては、5-2-2-2.で説明した最

適ウェイトを用いた合成対照群の推計による方法の外に、並行推移性を用いた合成対照群

の推計による方法が考えられる。

並行推移性を用いた合成対照群を推計するために、5-2-1.で説明した OVLA などを充足

した 13 産地・銘柄米について、本件震災・事故前における福島県中通産コシヒカリの価格推移を被説明変数とし当該他産地・銘柄米の価格推移を説明変数とした時系列回帰分析を

行い係数に関する条件から並行推移性の定量的確認を行う。

具体的には、当該時系列回帰分析の結果において説明変数の係数が有意に+1 と言えるか否かを係数の信頼区間についての情報から危険率 5 %で統計的に検定し、対照群の対象である他産地・銘柄米について個別に並行推移性を定量的に確認する*107。

式 5-2-2-3-1-1.に並行推移性の定量的確認のための時系列回帰分析について示す。

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

2019年

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)

福島県中通産コシヒカリ

合成対照群

福島県中通産コシヒカリ価格に対する合成対照群の推計(最適ウェイトを用いた合成対照群)

- 109 -

[式 5-2-2-3-1-1. 並行推移性の定量的確認のための時系列回帰分析]

(ARMAX モデル: Granger 因果性検定により危険率 5 %で逆因果性が棄却される場合)J1 J2Yk(t-s) = βp0 + βp1・Yi(t-s) + Σ δpj1・AR(t-s -j1) + Σ δpj2・MA(t-s -j2) + εpi(t-s)j1=1 j2~1

式 52231101(VAR モデル: Granger 因果性検定により危険率 5 %で逆因果性が棄却できない場合)

J3Yik(t-s) = Bp0 + Σ Bp1・Yik(t-s -j3) + Ep(t-s)j3=1

式 52231102

Yk(t-s) 処置前の時点 t-s での処置群(福島県中通産コシヒカリ)の価格又はその階差Yi(t-s) 処置前の時点 t-s での対照群(他産地米)の価格又はその階差Yik(t-s) 処置前の時点 t-s での処置群・対照群の価格又はその階差のベクトルAR(t-s-j1) j1 次の自己相関項MA(t-s-j2) j2 次の移動平均項εpi(t-s),Ep(t-s) 誤差項及び誤差ベクトル

βp0,Bp0 定数項及び定数ベクトル

βp1,Bp1 対照群(他産地米)の価格に関する係数及び係数ベクトル (確認対象)δpj1,δpj2 自己相関項・移動平均項の係数

最初に ADF 検定を用いて被説明変数(福島県中通産コシヒカリ価格)及び説明変数(他産地・銘柄米価格)を定常化する。福島県中通産コシヒカリ及び 5-2-1.で説明した OVLA など

を充足する 13 産地・銘柄の合計 14 産地・銘柄の価格に関する試料は全部が 1 階階差により定常化するため、以下試料の 1 階階差を用いた回帰分析を行う。次に Granger 因果性検定により危険率 5 %で被説明変数から説明変数方向への「逆因果

性」が棄却できるか否かを検定する。

Granger 因果性検定により逆因果性が棄却される場合には、式 5-2-2-3-1-1.中の式52231101 による ARMAX モデルを適用し、Box-Jenkins 法に従い AIC が最小となる自己相関項(AR)・移動平均項(MA)の組合せにより説明変数の係数及び 95 %信頼区間の上限・下限を算定する。Granger 因果性検定により逆因果性が棄却される場合には、式 5-2-2-3-1-1.中の式 52231102 による VAR モデルを適用し、過去分を含めた説明変数の一連の係数の和

及び 95 %信頼区間の上限・下限の和を算定する。当該時系列回帰分析の結果において説明変数である対照群の対象の価格の係数について

の 95 %信頼区間又は一連の係数についての 95 %信頼区間の和が上限と下限の間に 1 を含む場合には、当該対照群の対象である産地・銘柄米については並行推移性が確認され CIAが充足されていると判断される。

他方で係数についての 95 %信頼区間又は一連の係数についての 95 %信頼区間の和が上限と下限の間に+1 を含まない場合には、並行推移性が確認できず当該産地・銘柄米については CIA が充足されていないものと判断される。

5-2-2-3-2. 並行推移性の定量的確認による CIA の確認結果5-2-2-3-1.で説明した並行推移性の定量的確認方法に従って、具体的に福島県中通産コ

シヒカリの価格を被説明変数とし 5-2-1.で選定した 13 産地・銘柄の価格を説明変数として用いた時系列回帰分析を行った。

表 5-2-2-3-2-1.に国内 13 産地・銘柄別米価格での並行推移性の定量的確認による CIA の

*108 詳細な説明は省略するが、念のため 13 産地・銘柄を全部 VAR モデルにより並行推移性を確認することを試みた場合でも同様の結果となる。

*109 5-2-2-2.での最適ウェイトを用いた合成対照群の推計においては、茨城県産コシヒカリは福島県中通産コシヒカリに対して最も大きなウェイトを占めていたが、当該結果から茨城県産コシヒカリ単体では並行推移性を必ずしも充足しないことが理解される。反対に富山県産コシヒカリなどは最適ウェイトを用いた合成対照群の推計ではウェイトを 0 とした産地・銘柄であるが、単体では並行推移性を充足していることが理解される。

- 110 -

確認結果について示す。

Granger 因果性検定による逆因果性の有無に関する結果に従い、逆因果性が棄却されARMAX モデルを適用した 6 産地・銘柄については説明変数の係数の 95%信頼区間が上限・下限の間に 1 を含むか否かにより並行推移性を確認し、逆因果性が棄却できず VAR モデ

ルを適用した 7 産地・銘柄については説明変数による一連の係数の 95%信頼区間の上限・下限の和がその間に 1 を含むか否かにより並行推移性を定量的に確認*108 した。

5-2-1.で選定した OVLA などを充足した他産地米の試料は 13 産地・銘柄であったが、当該結果から 5-2-2-2-1.での並行推移性の定量的確認により CIA の充足が確認された試料は

6 産地・銘柄となり、茨城県産コシヒカリ*109 など 9 産地・銘柄については当該確認ができないという結果となった。

[表 5-2-2-3-2-1. 国内 13 産地・銘柄別米価格での並行推移性の定量的確認による CIA の確認結果]

産地・銘柄名 係数 βp1 (同 p 値) 有意性 95 %信頼区間上下限 自己相関・移動平均項 AIC 判定

(ARMAXモデル適用産地・銘柄)

秋田あきたこまち +0.963 (0.000) *** +0.899 +1.028 AR(1), MA(2,5) 958.4 ○

茨城コシヒカリ +1.132 (0.000) *** +1.069 +1.194 AR(2,4), MA(1,5) 932.8 ×栃木コシヒカリ +1.040 (0.000) *** +0.954 +1.126 AR(2,4), MA(1,5) 955.0 ○

富山コシヒカリ +1.018 (0.000) *** +0.933 +1.103 MA(1,4,5) 941.5 ○

石川コシヒカリ +1.135 (0.000) *** +1.064 +1.206 AR(2), MA(1,9) 976.8 ×島根コシヒカリ +1.197 (0.000) *** +1.091 +1.303 AR(2,4), MA(1,5) 964.4 ×

(VAR モデル適用産地・銘柄)

千葉コシヒカリ +0.073 -0.843 +0.988 Maxlag 2 1967.5 ×長野コシヒカリ -0.106 -1.309 +1.097 Maxlag 2 1964.1 ○

新潟一般コシヒカリ -0.466 -0.702 +0.069 Maxlag 4 1995.6 ×新潟魚沼コシヒカリ +0.091 -0.511 +0.692 Maxlag 4 2070.9 ×新潟岩船コシヒカリ -0.439 -1.094 +0.215 Maxlag 4 1968.4 ×福井コシヒカリ +2.181 +0.759 +3.602 Maxlag 3 1902.6 ○

滋賀コシヒカリ +0.378 -0.607 +1.363 Maxlag 3 1950.9 ○

(表注) 上記は福島県中通産コシヒカリの価格を被説明変数とし 5-2-1.で対照群候補とした 13 産地・銘柄の価格を説明変数として用いた時系列回帰分析の結果である。被説明変数・説明変数は全て危険率 5 %

で ADF検定により 1 階階差により定常化が確認されるため、1 階階差による分析結果を示す。式 5-2-2-3-1-1.で Granger 因果性検定により ARMAX モデルが適用される産地・銘柄については、表

中で「係数 βp1 」は説明変数に用いた対照群の価格に対する係数を示す。「有意性」は「***」が危険率 1 %で係数が有意、「**」が危険率 5 %で係数が有意、「 - 」は危険率 5 %で係数が有意でないことを示す。「自己相関・移動平均項」は"Q"検定により危険率 5 %で系列相関がなくなった際の自己相関項・移動平

均項を「 AIC 」はその際の赤池情報量基準(AIC)を示す。式 5-2-2-3-1-1.で Granger因果性検定により VARモデルが適用される産地・銘柄については、表中で「係数 βp1 」は説明変数に用いた対照群の価格に対する一連の係数の和を示し「有意性」は省略する。「自己相関・移動平均項」は VAR モデルに用いたラグ項

の最大次数を示し「 AIC 」はその際の赤池情報量基準(AIC)を示す。

- 111 -

「判定」は係数についての 95 %信頼区間の上下限又は一連の係数についての 95 %信頼区間の上下限が+1 を含むか否かを判定した結果を○及び ×で示す。

図 5-2-2-3-2-1.に福島県中通産コシヒカリに対する並行推移性の定量的確認の事例を示す。

単純に目視しただけでは、本件震災・事故前において富山県産コシヒカリと新潟県岩船

産コシヒカリの価格推移はいずれも福島県中通産コシヒカリの価格推移と並行的に推移し

ているように見える。従って従来の処置群及び対照群の結果指標を処置前の 2 時点以上において観察するという定性的方法を用いた場合には、いずれの産地・銘柄も並行推移性

の条件を満たしていると判定される。

ところが上記時系列回帰分析を用いた並行推移性の定量的確認結果により、富山県産コ

シヒカリでは危険率 5 %で並行推移性が確認されるが、新潟県岩船産コシヒカリについては危険率 5 %では並行推移性が確認できない結果となっている。当該差異は数ヶ月程度での短期的な DID においては処置効果評価の結果に大きな影響を与えないと考えられ

るが、複数年度に亘る長期的な分析を行う必要がある場合には明らかに影響があり、並行

推移性を確認できない対象をそのまま対照群の対象に用いることは適切ではないと考えら

れる。

当該結果から、以下の分析においては 5-2-2-2.で説明した最適ウェイトを用いた合成対照群に加えて、上記並行推移性を定量的に確認した 6 産地・銘柄の平均値による並行推移性を用いた合成対照群を応用した分析を進めていくものとする。

[図 5-2-2-3-2-1. 福島県中通産コシヒカリに対する並行推移性の定量的確認の事例]

5-2-2-4. 顕著な外的要因の影響が認められる処置前の期間の除外と処置後の仮定4-2-1-5.で説明したとおり 4-2.及び 4-3.での対策手法は、処置効果評価の対象とする処

置以外の顕著な外的要因の影響が存在する場合には、当該顕著な外的要因の影響が混在し

た処置の二次的影響を識別してしまうこととなる。

本件震災・事故前の処置前の期間においては、図 5-2-2-2-2-1.及び図 5-2-2-3-2-1.などにより明らかなとおり 2003 年度に価格の顕著かつ一時的な高騰が観察され、何らかの外的

2003

年度

2004

年度

2005

年度

2006

年度

2007

年度

2008

年度

2009

年度

2010

年度

2011

年度

2012

年度

2013

年度

2014

年度

2015

年度

2016

年度

2017

年度

2018

年度

2019

年度

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)

富山県産コシヒカリ

新潟県岩船産コシヒカリ

福島県中通産コシヒカリ

福島県中通産コシヒカリに対する並行推移性の 定量的確認の事例

*110 当該外的要因は図 5-1-3-2-1-1.で示したとおり全国的な米の凶作に起因したものであり、2003 年度産米の国内収穫量が例年と比較して大きく減少したため価格の高騰が生じたものである。当該外的要因を考慮せず2003 年度の試料を除外しなかった場合の結果については、補論の説明を参照ありたい。

*111 以下の図においては作図の技術的都合から 2003 年 9 月から 2004 年 8 月の価格についても図示するが、一連の分析における試料からは除外していることに注意ありたい。

*112 次節 5-3.における新たな対策手法を用いた処置効果評価の結果と比較するため、評価区間幅は 5-3.での結果と揃えて 3 ヶ月値の 2 評価区間平均値を用いる。

*113 以下各四半期を!1Q","2Q","3Q"及び"4Q"と略称する。本件震災・事故前における処置群の欠測により本件処置効果評価において"3Q"が評価できない点については以下の分析において同様である。

- 112 -

要因の影響 *110 が存在したものと推定される。従って以下の評価分析においては当該高騰

に対応する 2003 年 9 月から 2004 年 8 月迄の期間を試料から除外する*111 ものとする。

他方で本件震災・事故後の処置後の期間においては、特段の顕著な外的要因の影響は見

られず識別ができないため、以下一連の評価分析では「本件震災・事故後において顕著な外

的要因の影響は存在しなかった」という仮定を設けた上で処置効果評価を行うこととする。

5-2-3. 処置群・対照群の同時存在性条件(OVLA)など及び結果指標と処置の独立性条件(CIA)の充足を確認した対照群による横断面前後差分析(DID)

5-2-3-1. OVLA など及び CIA の充足を確認した対照群による DID5-2-1.及び 5-2-2.においては 5-1-3.で紹介した国内産米価格の産地・銘柄別試料を用いて、

欠測率による試料の取捨選択及び 2 通りの合成対照群の推計により OVLA などの前提条

件及び CIA の充足が確認されることを説明した。本項においては、次節 5-3.で説明する新たな対策手法を用いた本件震災・事故による処

置効果評価の結果との比較を行うため、予備的検討の一環として 5-2-2-2.での最適ウェイトを用いた合成対照群による DID 及び 5-2-2-3.での並行推移性を用いた合成対照群によるDID による推計結果について説明する。表 5-2-3-1-1-1.並びに図 5-2-3-1-1-1.及び図 5-2-3-1-1-2.に OVLA などの前提条件及び CIA

の充足を確認した処置群・対照群による DID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値*112、最

適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)について示す。本件処置効果評価の結果については、以下本件震災・事故前の 2002 年 10 月から 2010

年 2 月迄の期間における福島県中通産コシヒカリの平均価格¥16,676-/60kg を基準とし、各評価区間における当該基準からの乖離を比率により表現する。

本件処置効果評価において、処置群である福島県中通産コシヒカリの価格に関する試料

は本件震災・事故前での第 3 四半期("3Q")*113 において頻繁に欠測していることから、本件

震災・事故後の各評価区間での評価において 3Q については評価を行うことができないこ

とに注意が必要である。

表 5-2-3-1-1-1.及び図 5-2-3-1-1-1.に示すとおり、OVLA などの前提条件及び CIA の充足

を確認した最適ウェイトによる合成対照群による DID の結果から、2011 年 2Q の本件震

災・事故直後から 2016 年 2Q 迄の約 5 年間に亘り福島県中通産コシヒカリの価格は有意に下落していたと評価される。当該有意な価格の下落幅については 2014 年 4Q に最大とな

っており、約 11 %前後であったと推計される。最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の結果を並行推移性を用いた合成対照群

- 113 -

の結果と比較した場合、2014 年から 2015 年頃に後者の下落幅が前者による下落幅より大きくなっているなど若干の差異が見られるが、図 5-2-3-1-1-2.に示すとおり後者の結果は前者による評価結果の 95 %信頼区間内に収まっている。

[図 5-2-3-1-1-1.及び-2. OVLA などの前提条件及び CIA の充足を確認した処置群・対照群によるDID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値, 最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)]

[表 5-2-3-1-1-1. OVLA などの前提条件及び CIA の充足を確認した処置群・対照群による DID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性合成対照群

評価区間 信頼区間上限 信頼区間下限

2011 年 2Q-2011 年 4Q -0.053 -0.015 -0.092 -0.040(0.000) (0.055)***

2012 年 1Q-2012 年 2Q -0.100 -0.061 -0.138 -0.093(0.000) (0.000)*** ***

2012 年 4Q-2013 年 1Q -0.051 -0.013 -0.089 -0.043(0.010) (0.038)** **

2013 年 2Q-2013 年 4Q -0.066 -0.028 -0.105 -0.077(0.001) (0.000)*** ***

2014 年 1Q-2014 年 2Q -0.091 -0.052 -0.129 -0.104(0.000) (0.000)*** ***

2014 年 4Q-2015 年 1Q -0.113 -0.075 -0.151 -0.151(0.000) (0.000)*** ***

2015 年 2Q-2015 年 4Q -0.092 -0.054 -0.129 -0.118(0.000) (0.000)*** ***

2016 年 1Q-2016 年 2Q -0.063 -0.025 -0.101 -0.093(0.002) (0.000)*** ***

2016 年 4Q-2017 年 1Q -0.027 +0.011 -0.065 -0.040(0.162) (0.052)

2017 年 2Q-2017 年 4Q -0.030 +0.008 -0.068 -0.030(0.117) (0.139)

2018 年 1Q-2018 年 2Q -0.022 +0.016 -0.060 -0.021(0.248) (0.306)

2018 年 4Q-2019 年 1Q -0.020 +0.018 -0.058 -0.021(0.300) (0.305)

2002年

2004年

2006年

2008年

2010年

2012年

2014年

2016年

2018年

-0.200

-0.175

-0.150

-0.125

-0.100

-0.075

-0.050

-0.025

0.000

0.025

0.050

対 本件震災・事故前平均 比率

最適ウェイト合成対照群

信頼区間上限

信頼区間下限

同時存在性(OVLA)等・処置の独立性(C IA)を確認し た処置・対照群による横断面前後差分析(DID)結果

2002年

2004年

2006年

2008年

2010年

2012年

2014年

2016年

2018年

-0.200

-0.175

-0.150

-0.125

-0.100

-0.075

-0.050

-0.025

0.000

0.025

0.050

対 本件震災・事故前平均 比率

最適ウェイト合成対照群

信頼区間上限

信頼区間下限

並行推移性合成対照群

同時存在性(OVLA)等・処置の独立性(C IA)を確認し た処置・対照群による横断面前後差分析(DID)結果

- 114 -

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.の方法により推計した最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の結果及び 95 %信頼区間上限・下限、「並行推移性合成対照群」は 5-2-2-3.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄の平均値を用いた合成対照群による DID の結果を示す。

数値は本件震災・事故前における福島県中通産コシヒカリの平均価格に対する比率であり、数値下

の( )内は p 値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

5-3. 新たな対策手法を用いた本件震災・事故による処置効果評価5-2.での予備的検討においては、比較のために既知の手法に従い OVLA などの前提条件

及び CIA の充足を確認した処置群・対照群を用いて横断面前後差分析(DID)を行った。本節においては当該 5-2.における予備的検討を基礎として、実際に 4-3.で説明した新た

な対策手法を応用した本件震災・事故による福島県産米価格への影響についての処置効果

評価を行った結果について説明する。最初に処置の二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)への対策手法を適用した結果について説明し、次に系列相関の不存在性(NACA)への対策手法を適用した結果について説明する。

また当該結果を用いて、横断面前後差分析(DID)における 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計を行った結果について説明する。

5-3-1. 新たな対策手法を用いた処置効果評価(1) 処置の二次的影響の不存在条件(SUTVA-NI)に起因した問題と対策

5-3-1-1. 試料収集・整備と識別の前提条件の確認(5.2 での予備的検討)本項においては 4-3-1-2.で説明した系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある

場合の対策手法の適用手順のうち、SUTVA-NI に起因した問題への対策手法を応用した処置効果評価について説明する。

5-2.での予備的検討は 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の「 1.試料収集・整備と識別の前提条件の確認」に相当する。

5-2.においては OVLA などの充足が確認できる試料を収集・整備し、当該試料の中から

CIA の充足が確認できる試料を取捨選択し合成対照群を推計した。具体的には試料の取捨選択により福島県中通産コシヒカリの価格に対し欠測率 5 %未

満で OVLA などの充足が確認できる試料が 13 産地・銘柄分得られ、当該産地・銘柄の試料の中から更に CIA を充足する試料として 5 産地・銘柄分の試料から最適ウェイトを用いた合成対照群を推計し、6 産地・銘柄分の試料から並行推移性を用いた合成対照群を推計した。

また顕著な外的要因の影響の不存在性に関する前提条件から、本件震災・事故前の期間

のうち 2003 年 9 月から 2004 年 8 月迄を試料から除外することとした。

5-3-1-2. 処置効果の評価区間幅の仮決定次に 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の「 2.処置効果の評価区間幅の仮決定」に従い処置

効果の評価区間幅を 2 ヶ月以上の複数の長さで仮決定しておくことが必要である。図 5-1-3-2-1-2.における福島県中通産コシヒカリの価格推移などから明らかなとおり、

- 115 -

国内産米価格は該当年産米の作柄を反映して収穫期である 9 月から翌年の収穫期直前である 8 月迄の 12 ヶ月を単位として大きく変動している。このため、評価区間幅として 2 ヶ月、3 ヶ月、6 ヶ月の 3 通りに仮決定し分析を進める。

5-3-1-3. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などの算定次に 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の「 3.対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後

差(DIDI)などの算定」に従い、対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)などの算定を行う。処置群である福島県中通産コシヒカリの価格に対し最適ウェイトを用いた合成

対照群による横断面前後差(DIDI)及び並行推移性を定量的に確認した 6 産地・銘柄の価格をそれぞれ 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の試料などを算定する。更に 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の「 4.対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後

差(DIDI)による場合分けと条件分岐」に従い、上で算定した各評価区間において対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差があるか否かを判定する。表 5-3-1-3-1-1.に対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の算定結果(評価区

間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均の場合)を示す。

[表 5-3-1-3-1-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の算定結果 (評価区間幅 3ヶ月・2 評価区間平均の場合)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性確認対象

評価区間 秋田あ 栃木コ 長野コ 富山コ 福井コ 滋賀コ

2011 年 2Q-2011 年 4Q - 889 -1373 - 809 -1475 + 347 - 520 -1344(0.008) (0.076) (0.012) (0.107) (0.428) (0.091) (0.037)*** ** **

2012 年 1Q-2012 年 2Q -1659 -1763 -1293 -1963 - 316 -1166 -1830(0.000) (0.036) (0.009) (0.030) (0.140) (0.017) (0.014)*** ** *** ** ** **

2012 年 4Q-2013 年 1Q - 854 - 733 - 769 - 893 + 138 - 855 -1149(0.010) (0.248) (0.036) (0.415) (0.316) (0.037) (0.055)** ** **

2013 年 2Q-2013 年 4Q -1106 -1561 -1025 -1104 - 585 -1247 -1837(0.001) (0.053) (0.018) (0.268) (0.082) (0.014) (0.014)*** ** ** **

2014 年 1Q-2014 年 2Q -1509 -2491 -1338 -1941 -1284 -1438 -1922(0.000) (0.010) (0.008) (0.031) (0.021) (0.009) (0.012)*** ** *** ** ** *** **

2014 年 4Q-2015 年 1Q -1886 -3317 -1729 -3218 -1933 -1912 -2987(0.000) (0.003) (0.003) (0.002) (0.007) (0.003) (0.002)*** *** *** *** *** *** ***

2015 年 2Q-2015 年 4Q -1529 -2661 -1389 -2699 -1188 -1477 -2141(0.000) (0.008) (0.007) (0.005) (0.026) (0.008) (0.008)*** *** *** *** ** *** ***

2016 年 1Q-2016 年 2Q -1048 -2073 - 894 -2030 - 952 - 753 -1921(0.002) (0.020) (0.025) (0.025) (0.040) (0.049) (0.012)*** ** ** ** ** ** **

2016 年 4Q-2017 年 1Q - 446 - 927 - 167 -1522 - 142 - 511 - 712(0.162) (0.176) (0.196) (0.094) (0.195) (0.093) (0.140)

2017 年 2Q-2017 年 4Q - 504 - 528 - 230 - 923 - 77 - 473 - 211(0.117) (0.345) (0.166) (0.393) (0.219) (0.102) (0.360)

2018 年 1Q-2018 年 2Q - 369 - 665 - 117 - 525 +164 - 688 + 153(0.248) (0.278) (0.223) (0.309) (0.328) (0.058) (0.416)

2018 年 4Q-2019 年 1Q - 328 - 825 - 285 - 581 - 91 - 440 - 291(0.300) (0.212) (0.142) (0.348) (0.213) (0.112) (0.315)

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.の方法により推計した合成対照群による横断面前後差(DIDI)の結果、「並行推移性確認対象」は 5-2-2-3.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄を 1 つだけ対照群に用いた横断面前後差(DIDI)の結果を示す。産地・銘柄名は「秋田あ」:秋田あきたこまち、「栃木コ」から「滋賀コ」は各県産コシヒカリを表す。数値は各対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)の値(¥/60kg)であり、数値下の( )内は p

*114 2011 年 2Q については本件震災・事故後の期間にある評価区間であるが、処置群(福島県中通産コシヒカリ)の価格の試料が欠測により 2011 年 4 月分しか得られない。このため、以下の 2 四半期平均での分析においては当該評価区間を含めるが、単一四半期単位での分析については当該評価区間を除外する。

*115 4-3-1-2.での対策手法の適用手順に従えば、5-3-1-4.の結果から 2016 年 4Q以降の評価区間については処置効果が 0 と推定されて分析完了となり以降の分析を行う必要はない。しかし本項においては参考のため 2016年 4Q 以降についても"BAI-DIDI 比"の回帰分析などの分析を行い、得られた結果を確認しておく。

- 116 -

値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。

最適ウェイトを用いた合成対照群による横断面前後差(DIDI)及び並行推移性の定量的確認を行った 6 産地・銘柄をそれぞれ 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)について、評価区間毎に 0 と有意な差があるか否かを危険率 5 %水準で検定した結果、2011 年 2Q から

2016 年 2Q 迄の期間での評価区間については、合成対照群及び並行推移性を確認した対

照群の対象の大部分について 0 と有意な差がある結果となった。他方で 2016 年 4Q 以降では合成対照群及び並行推移性を確認した対照群の対象の全部

について横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差があるとは言えない結果となった。2016 年 4Q以降については、4-2-2-2-2.で説明した処置群と幾つかの対照群の総平均を対照群として用いた横断面前後差(DIDA)を試行した場合でも結果は同様であり、従って当該評価区間において処置群の対象での処置効果は 0 であると推定される。当該結果から、本件震災・事故後の 2011 年 2Q から 2016 年 2Q 迄の期間については、

処置群である福島県中通産コシヒカリの価格について本件震災・事故による有意な処置効

果が認められ、更に SUTVA-NI などに関する分析を進める必要があると考えられる。他方で 2016 年 4Q 以降については、福島県中通産コシヒカリの価格について有意な処

置効果は認められず、本件震災・事故による影響は既に収束していたものと考えられる。

5-3-1-4. 対照群の対象を 1 つだけ用いた ”BAI-DIDI 比"の回帰分析による判定

5-3-1-4-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた ”BAI-DIDI 比"の回帰分析5-3-1-3.での結果から本件処置効果評価において対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面

前後差(DIDI)から 2011 年 4Q*114 から 2016 年 2Q 迄の期間での評価区間については処置効

果が全部の対象について 0 の場合には該当しないことが判明した。従って、次に 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の「 6.対照群の対象を 1 つだけ用いた横

断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差がある場合での識別」を実施する*115。

当該「 6.対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差がある場合での識別」に従い、各評価区間において 4-2-3-3.で説明した対照群の対象を 1 つだけ用いた ”BAI-DIDI 比 ” を DIDI の逆数により回帰分析を行い、有意な定数項が存在するか否かを危険率 5 %で検定することにより当該対象・評価区間において処置の二次的影響が存在するか否かを判定する。

表 5-3-1-4-1-1.に対照群の対象を 1 つだけ用いた ”BAI-DIDI 比"の回帰分析による定数項が 0 と有意な差があるか否かの検定結果(評価区間幅 3 ヶ月の場合)を示す。当該検定結果から、合成対照群の推計による場合か並行推移性の定量的確認による場合

かを問わず、2011 年 4Q から 2016 年 2Q 迄の期間での評価区間の大部分においては

”BAI-DIDI 比"の回帰分析による定数項が 0 と有意な差がある結果となっていることが理解

- 117 -

される。

但し 2013 年 2Q については合成対照群及び並行推移性の定量的確認を行った対照群の

全部について定数項が 0 と有意な差があるとは言えない結果となり、並行推移性の定量的確認を行った産地・銘柄のうち福井県産コシヒカリについては 2011 年 4Q から 2016 年2Q 迄の大部分の期間で定数項が 0 と有意な差があるとは言えない結果となっている。従って合成対照群の推計による米価格や、並行推移性の定量的確認を行った対照群の 6

産地・銘柄の米価格については、期間や産地・銘柄により程度の差はあるものの、本件震災

・事故後の 5 年間に亘り処置群である福島県中通産コシヒカリの米価格の下落による処置の二次的影響を受けていた可能性があるものと推定される。

他方で 2016 年 4Q 以降の期間での評価区間については、大部分の区間及び産地・銘柄に

おいて定数項が 0 と有意な差があるとは言えない結果となり、5-3-1-3.での結果と整合的であることが確認される。

[表 5-3-1-4-1-1. 対照群の対象を 1 つだけ用いた ”BAI-DIDI 比"の回帰分析による定数項が 0 と有意な差があるか否かの検定結果(評価区間幅 3 ヶ月平均の場合)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性確認対象

評価区間 秋田あ 栃木コ 長野コ 富山コ 福井コ 滋賀コ

2011 年 4Q 2.637 0.401 1.732 0.747 1.732 0.521 0.063(0.000) (0.073) (0.000) (0.044) (0.215) (0.622) (0.824)*** *** **

2012 年 1Q 2.073 1.064 1.770 0.330 0.960 0.319 0.330(0.000) (0.000) (0.000) (0.022) (0.000) (0.485) (0.250)*** *** *** ** ***

2012 年 2Q 2.108 1.016 1.804 1.971 3.844 0.238 0.464(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.745) (0.000)*** *** *** *** *** ***

2012 年 4Q 3.973 0.798 2.241 -0.418 -1.285 3.319 3.160(0.000) (0.000) (0.000) (0.672) (0.637) (0.466) (0.335)*** *** ***

2013 年 1Q 3.264 0.706 1.266 1.514 4.173 6.030 8.040(0.000) (0.000) (0.075) (0.001) (0.478) (0.022) (0.395)*** *** *** **

2013 年 2Q -0.458 0.230 0.812 1.004 1.874 0.220 -0.215(0.772) (0.236) (0.684) (0.698) (0.335) (0.622) (0.941)

2013 年 4Q 2.255 1.084 1.798 1.161 1.197 0.268 0.957(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.001) (0.577) (0.003)*** *** *** *** *** ***

2014 年 1Q 2.183 0.939 0.918 0.640 2.776 0.052 -2.242(0.000) (0.000) (0.339) (0.164) (0.000) (0.944) (0.000)*** *** *** ***

2014 年 2Q 2.200 0.034 0.401 0.992 0.417 0.662 0.035(0.000) (0.825) (0.268) (0.000) (0.650) (0.141) (0.968)*** ***

2014 年 4Q 2.101 1.143 1.811 1.131 1.211 0.379 1.198(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.274) (0.000)*** *** *** *** *** ***

2015 年 1Q 2.082 1.159 1.284 1.088 1.243 0.446 1.515(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.222) (0.000)*** *** *** *** *** ***

2015 年 2Q 1.907 1.106 1.399 1.073 1.102 0.308 1.494(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.399) (0.000)*** *** *** *** *** ***

2015 年 4Q 1.245 0.861 2.755 -0.288 1.191 0.295 -2.876(0.000) (0.000) (0.000) (0.582) (0.000) (0.481) (0.000)*** *** *** *** ***

2016 年 1Q 2.963 0.647 1.833 -0.083 -0.089 0.326 1.173(0.000) (0.004) (0.000) (0.673) (0.696) (0.455) (0.000)*** *** *** ***

2016 年 2Q 3.389 0.556 3.181 0.934 1.217 0.082 -1.915(0.000) (0.004) (0.000) (0.000) (0.000) (0.778) (0.000)*** *** *** *** *** ***

- 118 -

2016 年 4Q (参考) 0.430 3.689 2.285 0.772 2.791 1.289 1.569(0.772) (0.046) (0.005) (0.581) (0.112) (0.298) (0.001)

** *** ***2017 年 1Q (参考) 3.700 0.943 3.247 1.451 0.134 -3.025 1.033

(0.108) (0.111) (0.203) (0.154) (0.894) (0.160) (0.498)

2017 年 2Q (参考) 1.129 1.017 0.860 -0.850 2.846 -0.355 4.537(0.315) (0.041) (0.374) (0.579) (0.456) (0.917) (0.328)

**2017 年 4Q (参考) -1.920 4.135 1.756 1.679 -0.068 -3.688 -5.380

(0.780) (0.170) (0.004) (0.105) (0.978) (0.179) (0.059)***

2018 年 1Q (参考) 2.374 1.443 -0.245 1.099 -7.012 1.027 43.489(0.150) (0.118) (0.809) (0.653) (0.299) (0.747) (0.293)

2018 年 2Q (参考) 1.616 1.720 -0.475 -3.657 1.601 1.464 1.553(0.521) (0.264) (0.659) (0.088) (0.057) (0.175) (0.170)

2018 年 4Q (参考) -0.130 1.518 1.164 0.017 0.599 -3.854 -3.837(0.963) (0.001) (0.354) (0.979) (0.684) (0.016) (0.011)

*** ** **2019 年 1Q (参考) 2.679 2.310 0.207 1.074 -3.127 2.111 2.800

(0.001) (0.168) (0.930) (0.029) (0.037) (0.294) (0.112)*** ** **

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.の方法により推計した合成対照群を用いた"BAI-DIDI 比"の回帰分析の結果、「並行推移性確認対象」は 5-2-2-3.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄を1つだけ用いた"BAI-DIDI比"の回帰分析の結果を示す。産地・銘柄名は「秋田あ」:秋田あきたこまち、「栃木コ」から「滋賀コ」は各県産コシヒカリを表す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。数値は各対照群の対象を 1 つだけ用いた前後差 (BAI)と横断面前後差(DIDI)の比を横断面前後差(DIDI)の逆数で回帰分析した際の定数項であり、数値の下の( )内は p 値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。

5-3-1-4-2. 処置効果の評価区間幅の決定5-3-1-2.では処置効果の評価区間幅を 2 ヶ月・3 ヶ月及び 6 ヶ月に仮決定したが、ここで

は 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の「 6.対照群の対象を 1 つだけ用いた横断面前後差(DIDI)が 0 と有意な差がある場合での識別」に従い、仮決定した各評価区間幅について5-3-1-4-1.での対照群の対象を 1 つだけ用いた ”BAI-DIDI 比"の回帰分析を行い定数項の推計結果の安定性や相関について比較した。

表 5-3-1-4-2-1.に評価区間幅を 2 ヶ月・3 ヶ月及び 6 ヶ月とした場合での ”BAI-DIDI 比"の回帰分析の定数項の推計値間での相関係数を示す。

表 5-3-1-4-2-1.での結果から、最適ウェイトを用いた合成対照群では 2 ヶ月-3 ヶ月及び 3ヶ月-6 ヶ月の相関が 2 ヶ月-6 ヶ月の相関より高くなっており、3 ヶ月を採択した場合に他との乖離が最も小さくなることが理解される。また並行推移性を用いた合成対照群では

6 ヶ月と 2 ヶ月又は 3 ヶ月の相関が負となっており、6 ヶ月を選択することは適切ではないことが理解される。

図 5-3-1-4-2-1.及び図 5-3-1-4-2-2.に評価区間幅を変えた場合での ”BAI-DIDI 比"の回帰分析の定数項の推計結果(最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)について示す。図 5-3-1-4-2-1.の最適ウェイトを用いた合成対照群の場合について見た場合、本件震災・

事故後の 2011 年 4Q から 2014 年 2Q 迄の期間において評価区間幅を 2 ヶ月とした場合と3 ヶ月とした場合の定数項の推計結果は概ね一致しているが、評価区間幅を 6 ヶ月とした場合の定数項は欠測などの関係で 2011 年から 2014 年に掛けて 2 ヶ月や 3 ヶ月の場合の結果と大きく乖離していることが観察される。また評価区間幅を 2 ヶ月とした場合には、

- 119 -

2017 年以降に何回か定数項の推計値が非常に大きく変動して推移しており、3 ヶ月や 6ヶ月の場合の結果と大きく乖離し安定性を欠いていることが観察される。

図 5-3-1-4-2-2.の並行推移性を用いた合成対照群の場合について見た場合も上記最適ウェイトを用いた合成対照群の場合と概ね同様であり、2011 年 4Q から一貫して評価区間

幅を 2 ヶ月とした場合と 3 ヶ月とした場合の定数項の推計結果は概ね一致しているが、評価区間幅を 6 ヶ月とした場合の定数項は欠測などの関係で 2 ヶ月や 3 ヶ月の場合の結果と乖離している。また評価区間幅を 2 ヶ月とした場合には 3 ヶ月とした場合に比べて2013 年や 2017 年以降に定数項の推計値が非常に大きくなっており安定性を欠いていることが観察される。

従って、当該結果から本件処置効果評価における評価区間幅については、3 ヶ月とすることが適切であると考えられる。

[表 5-3-1-4-2-1. 評価区間幅を 2 ヶ月・3 ヶ月及び 6 ヶ月とした場合での ”BAI-DIDI 比"の回帰分析の定数項の推計値間での相関係数]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性合成対照群

相関係数

2 ヶ月-3 ヶ月 0.5123 0.59486 ヶ月-3 ヶ月 0.5410 -0.11082 ヶ月-6 ヶ月 0.3741 -0.1596

(表注) 相関係数を算定した区間は本系震災・事故後の 2011 年 9 月から 2019 年 5 月迄である。

[図 5-3-1-4-2-1. 及び-2. 評価区間幅を変えた場合での ”BAI-DIDI 比"の回帰分析の定数項の推計結果 (最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)]

(図注) 各評価区間において 0 と有意な差があるとは言えない定数項については 0 として表示している。「最適ウェイトを用いた合成対照群」と「並行推移性を用いた合成対照群」については、処置群に対する

横断面前後差(DIDI)の値がそもそも異なるため定数項の推計値は必ずしも一致しない。

5-3-1-5. 新たな対策手法のうち SUTVA-NI のみの対策手法を適用した対照群を用いた DIDの結果

2012

年度

2013

年度

2014

年度

2015

年度

2016

年度

2017

年度

2018

年度

2019

年度

-2.00

-1.00

0.00

1.00

2.00

3.00

4.00

5.00

6.00

定数項

2ヶ月 3ヶ月 6ヶ月

評価区間幅を変えた場合の最適ウェイトを用いた 合成対照群での”BAI-DIDI"回帰分析の定数項

2012

年度

2013

年度

2014

年度

2015

年度

2016

年度

2017

年度

2018

年度

2019

年度

-2.00

-1.00

0.00

1.00

2.00

3.00

4.00

5.00

6.00

定数項

2ヶ月 3ヶ月 6ヶ月

評価区間幅を変えた場合の並行推移性を用いた 合成対照群での”BAI-DIDI"回帰分析の定数項

- 120 -

4-3-1-2.での対策手法の適用手順を若干外れるが、ここでは比較のために新たな対策手法のうち SUTVA-NI のみの対策手法を適用した対照群を用いた DID の結果について説明

する。

表 5-3-1-5-1-1.並びに図 5-3-1-5-1-1.及び図 5-3-1-5-1-2.に OVLA など、CIA 及び SUTVA-NIの充足を確認した処置群・対照群による DID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値、最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)について示す。表 5-3-1-5-1-1.及び図 5-3-1-5-1-1.に示すとおり、OVLA など、CIA 及び SUTVA-NI の充

足を確認した 2 通りの合成対照群による DID の結果から、2011 年 2Q の本件震災・事故直

後から 2016 年 2Q 迄の約 5 年間に亘り福島県中通産コシヒカリの価格は危険率 5 %水準で有意に下落していたと評価される。

当該有意な価格の下落が見られる期間や価格の下落幅が最大となる評価区間については

5-2-3-1.での結果とほぼ同様であるが、SUTVA-NI の問題への対策手法を適用した結果として当該有意な価格の下落幅については結果が大きく異なっており、最適ウェイトを用い

た合成対照群による DID の結果では 2014 年 4Q 頃に約 34 %迄非常に大きく価格が下落したものと推計される。同様に並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果では 2014年 4Q 頃に約 31%迄大きく価格が下落したものと推計される。当該 2 通りの合成対照群による DID の結果の推移を時系列で比較した場合、図

5-3-1-5-1-2.に示すとおり並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果は、最適ウェ

イトを用いた合成対照群による結果の 95 %信頼区間内に収まっており、両者の結果の間には本質的な差異はないと考えられる。

従って、本件処置効果評価においては OVLA など及び CIA の前提条件を充足するため

の対策手法を適用した DID と、更に SUTVA-NI の前提条件を充足するための対策手法を適用した DID の結果の間には非常に大きな差異が存在し、SUTVA-NI の問題への対策手法を適用する必要があることが理解される。

[図 5-3-1-5-1-1.及び-2. OVLA など、CIA 及び SUTVA-NI の充足を確認した処置群・対照群によるDID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値, 最適ウェイトを用いた合成対照群

及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)]

2002年

2004年

2006年

2008年

2010年

2012年

2014年

2016年

2018年

-0 .550

-0.500

-0.450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

最適ウェイト合成対照群

信頼区間上限

信頼区間下限

同時存在性(OVLA)・処置の独立性(C IA)及び処置 の二次的効果の不存在性(SUTVA-NI)を確認した 処置・対照群による横断面前後差分析(DID)結果

2002年

2004年

2006年

2008年

2010年

2012年

2014年

2016年

2018年

-0 .550

-0.500

-0.450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

最適ウェイト合成対照群

信頼区間上限

信頼区間下限

並行推移性合成対照群

同時存在性(OVLA)・処置の独立性(C IA)及び処置 の二次的効果の不存在性(SUTVA-NI)を確認した 処置・対照群による横断面前後差分析(DID)結果

- 121 -

[表 5-3-1-5-1-1. OVLA など、CIA 及び SUTVA-NI の充足を確認した処置群・対照群による DID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性合成対照群

評価区間 信頼区間上限 信頼区間下限

2011 年 2Q-2011 年 4Q -0.138 -0.090 -0.185 -0.055(0.033) (0.013)** **

2012 年 1Q-2012 年 2Q -0.308 -0.102 -0.515 -0.200(0.003) (0.473)***

2012 年 4Q-2013 年 1Q -0.215 +0.014 -0.443 -0.093(0.150) (0.121)

2013 年 2Q-2013 年 4Q -0.151 -0.104 -0.199 -0.125(0.000) (0.000)*** ***

2014 年 1Q-2014 年 2Q -0.289 -0.216 -0.362 -0.115(0.138) (0.002)

***2014 年 4Q-2015 年 1Q -0.338 +1.474 -2.149 -0.314

(0.831) (0.414)

2015 年 2Q-2015 年 4Q -0.244 -0.200 -0.288 -0.205(0.000) (0.000)*** ***

2016 年 1Q-2016 年 2Q -0.264 -0.194 -0.334 -0.188(0.000) (0.000)*** ***

2016 年 4Q-2017 年 1Q -0.029 +0.872 -0.930 -0.068(0.109) (0.354)

2017 年 2Q-2017 年 4Q -0.026 +0.303 -0.355 -0.037(0.835) (0.653)

2018 年 1Q-2018 年 2Q -0.027 +1.122 -1.176 -0.017(0.866) (0.915)

2018 年 4Q-2019 年 1Q -0.022 +1.021 -1.065 -0.021(0.796) (0.926)

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.及び 5-3-1-4.の方法により推計した合成対照群による DID の結果及び 95 %信頼区間上限・下限、「並行推移性合成対照群」は 5-2-2-3.及び 5-3-1-4.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄の平均値を用いた合成対照群による DID の結果を示す。

数値は本件震災・事故前における福島県中通産コシヒカリの平均価格に対する比率であり、数値下

の( )内は p 値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

5-3-2. 新たな対策手法を用いた処置効果評価(2) 系列相関の不存在性(NACA)に起因した問題と対策

5-3-2-1. 処置群・対照群の試料の集約化と DID の時系列試料作成5-3-1.では 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の前半部分に基づき、OVLA など、CIA 及び

SUTVA-NI の前提条件を充足した処置群・対照群を用いた分析を実施した。また当該分析の過程で 3 通りの評価区間幅に関する比較結果から、評価区間幅を 3 ヶ月とすることが適切であることを示した。

本項では引続き 4-3-1-2.での対策手法の適用手順の後半部分に基づき、これらの前提条件に加えて NACA に関する対策手法を適用し、DID における 4 つの主要な前提条件を全て充足した処置群・対照群を用いた分析を行う。

4-3-1-2.での対策手法の適用手順においては最初に処置群・対照群の試料の集約化及びDID の時系列試料作成を行い、4-1-2-1.で説明した「二対象化法」を適用する必要がある。

- 122 -

当該手順については既に 5-3-1.での分析過程で実施した、処置群である福島県中通産コシヒカリ価格に対する 2 通りの合成対照群の推定がこれに該当することから、本項では引続きこれらの試料を用いて分析を進めていくこととする。

5-3-2-2. 処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析NACA に起因した問題への対策手法として、4-3-1-2.での対策手法の適用手順の前半部

分において算定した DID の時系列試料について、処置実施ダミー及び季節ダミーを説明

変数に用いた時系列回帰分析を実施し、各時点における処置実施ダミーの係数の有意性を

判定する。

表 5-3-2-2-1-1.に処置実施ダミー及び季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析の結果 (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値)を示す。

[表 5-3-2-2-1-1. 処置実施ダミ-及び季節ダミ-を説明変数に用いた時系列回帰分析の結果 (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性合成対照群

説明変数 係数 (p 値) 有意性 係数 (p 値) 有意性

季節ダミー(四半期)1Q + 228.94 (0.738) + 80.59 (0.790)2Q - 424.01 (0.219) - 649.50 (0.016) **

処置実施ダミー

2011 年 2Q-2011 年 4Q -1798.60 (0.000) *** - 905.61 (0.032) **2012 年 1Q-2012 年 2Q -6024.53 (0.000) *** -3375.19 (0.000) ***2012 年 4Q-2013 年 1Q -2986.42 (0.000) *** -1471.50 (0.113)

2013 年 2Q-2013 年 4Q -2446.87 (0.001) *** -2077.22 (0.000) ***2014 年 1Q-2014 年 2Q -4948.45 (0.000) *** -2035.29 (0.819)2014 年 4Q-2015 年 1Q -6284.21 (0.000) *** -5413.02 (0.000) ***

2015 年 2Q-2015 年 4Q -3833.52 (0.000) *** -3334.52 (0.000) ***2016 年 1Q-2016 年 2Q -3841.64 (0.000) *** -3005.82 (0.000) ***2016 年 4Q-2017 年 1Q - 993.56 (0.578) -1232.56 (0.023) **

2017 年 2Q-2017 年 4Q - 269.07 (0.906) - 580.00 (0.941)2018 年 1Q-2018 年 2Q - 480.50 (0.857) - 256.09 (0.896)2018 年 4Q-2019 年 1Q - 388.63 (0.961) - 336.95 (0.773)

定数項 + 140.18 (0.677) + 16.67 (0.931)

自己相関・移動平均項

AR(1) -0.4472 (0.239) ---AR(2) --- -0.2351 (0.120)MA(1) -0.4317 (0.010) ** ---MA(3) +0.7726 (0.184) ---

試料数 47 47

赤池情報量基準(AIC) 778.04 772.25

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.及び 5-3-1-4.の方法により推計した合成対照群による DID を時系列回帰分析した結果を、「並行推移性合成対照群」は 5-2-2-3.及び 5-3-1-4.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄の平均値を用いた合成対照群による DID を時系列回帰分析した結果を示す。

自己相関・移動平均項欄は、系列相関が残留しない組合せのうち最小の赤池情報量基準('AIC)を与える自己相関項(AR)・移動平均項(MA)の組合せであり、( )内は次数を示す。数値は DIDによる価格差(¥/60kg)に対応し、数値右の( )内は p 値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、"

*116 当該時系列回帰分析において処置後の期間で用いる処置実施ダミーについては、評価区間幅の 2 つ以上の区間に設定しなければ係数の有意性や信頼区間などの情報を得ることができない。当該問題は本稿において新たに開発した対策手法の問題点の 1 つであり考察において詳しく説明する。

*117 当該結果に基づく一連の新たな対策手法を用いた処置効果評価の結果については次項 5-3-3.で説明する。

- 123 -

** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

5-3-1-5.では最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の 2種類の DID を試みたが、ここでは当該評価区間幅を 3 ヶ月とした 2 種類の DID の時系列

試料を、本件震災・事故後の 2 四半期(評価区間幅 3 ヶ月の 2 区間分*116)毎の処置実施ダミーと各四半期に対応する季節ダミーにより Box-Jenkins 法を用いて時系列回帰分析を行い処置実施ダミーの係数を推計 *117 した。

表 5-3-2-2-1-1.左葉の最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の時系列回帰分析結

果においては、2011 年 2Q から 2016 年 2Q 迄の 5 年間弱について処置実施ダミーが危険率 5 %で有意に負となっており、福島県中通産コシヒカリの価格が下落していたと評価される。

他方で表 5-3-2-2-1-1.右葉の並行推移性を用いた合成対照群による DID の時系列回帰分

析結果では、2011 年 2Q から 2017 年 1Q 迄の 5 年間について処置実施ダミーが危険率 5%で有意に負となっている。

両者はいずれも 2014 年 4Q から 2015 年 1Q において最小となる点では一致しているも

のの、並行推移性を用いた合成対照群による結果では 2012 年 4Q から 2013 年 1Q 及び

2014 年 1Q から 2Q において危険率 5 %で係数が有意でない、2016 年 4Q から 2017 年 1Qにおいて危険率 5 %で係数が有意であるなどの差異が見られる。

5-3-3. 新たな対策手法を用いた横断面前後差分析(DID)の結果と 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計

5-3-3-1. 新たな対策手法を用いた DID の結果5-3-1.及び 5-3-2.においては、4-3.で説明した系列相関及び処置の二次的影響の両方の可

能性がある場合での新たな対策手法を手順に沿って適用した結果について説明した。

当該新たな対策手法により、OVLA など、CIA、SUTVA-NI 及び NACA の DID における 4つの主要な前提条件を全部充足した処置効果評価を行うことができる。

本項においては、5-3-1.及び 5-3-2.での結果に基づき、4-3.で説明した一連の新たな対策手法を適用した処置効果評価の結果について説明する。

表 5-3-3-1-1-1.、図 5-3-3-1-1-1.及び図 5-3-3-1-1-2.に 4 つの主要な前提条件全部の充足を確認した処置群・対照群による DID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値、最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)について示す。

5-3-3-1-1. 最適ウェイトを用いた合成対照群の推計による DID の結果表 5-3-3-1-1-1.左葉及び図 5-3-3-1-1-1.における最適ウェイトを用いた合成対照群を用い

た DID による結果においては、2011 年 2Q から 2016 年 2Q 迄の約 5 年間について価格の下落が危険率 5 %で有意となっており、当該期間については福島県中通産コシヒカリの

- 124 -

価格が下落していたと評価される。当該有意な価格の下落幅については、2014 年 4Q か

ら 2015 年 1Q 頃に最大となっており、約 38 %であったと推計される。

[図 5-3-3-1-1-1.及び-2. 4 つの主要な前提条件全部の充足を確認した処置群・対照群による DID(評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値、最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)]

[表 5-3-3-1-1-1. 4 つの主要な前提条件全部の充足を確認した処置群・対照群による DID (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性合成対照群

評価区間 信頼区間上限 信頼区間下限

2011 年 2Q-2011 年 4Q -0.108 -0.076 -0.140 -0.054(0.000) (0.032)*** **

2012 年 1Q-2012 年 2Q -0.361 -0.269 -0.454 -0.202(0.000) (0.000)*** ***

2012 年 4Q-2013 年 1Q -0.179 -0.137 -0.221 -0.088(0.000) (0.113)***

2013 年 2Q-2013 年 4Q -0.147 -0.057 -0.236 -0.125(0.001) (0.000)*** ***

2014 年 1Q-2014 年 2Q -0.297 -0.260 -0.334 -0.122(0.000) (0.819)***

2014 年 4Q-2015 年 1Q -0.377 -0.333 -0.421 -0.325(0.000) (0.000)*** ***

2015 年 2Q-2015 年 4Q -0.230 -0.159 -0.301 -0.200(0.000) (0.000)*** ***

2016 年 1Q-2016 年 2Q -0.230 -0.123 -0.337 -0.180(0.000) (0.000)*** ***

2016 年 4Q-2017 年 1Q -0.060 +0.150 -0.269 -0.074(0.578) (0.023)

**2017 年 2Q-2017 年 4Q -0.016 +0.252 -0.285 -0.035

(0.906) (0.941)

2018 年 1Q-2018 年 2Q -0.029 +0.285 -0.342 -0.015(0.857) (0.896)

2018 年 4Q-2019 年 1Q -0.023 +0.923 -0.969 -0.020(0.961) (0.773)

2002

年度

2004

年度

2006

年度

2008

年度

2010

年度

2012

年度

2014

年度

2016

年度

2018

年度

-0 .550

-0.500

-0.450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

対 本件震災・事故前平均 比率

最適ウェイト合成対照群

信頼区間上限

信頼区間下限

4つの主要前提条件全部を確認した処置群・ 対照群による横断面前後差分析(DID)結果

2002

年度

2004

年度

2006

年度

2008

年度

2010

年度

2012

年度

2014

年度

2016

年度

2018

年度

-0 .550

-0.500

-0.450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

対 本件震災・事故前平均 比率

最適ウェイト合成対照群

信頼区間上限

信頼区間下限

並行推移性合成対照群

4つの主要前提条件全部を確認した処置群・ 対照群による横断面前後差分析(DID)結果

*118 厳密には各前提条件に対する対策手法の適用手順を変えた場合に対策手法間の相乗効果の影響などにより結果が異なることが考えられ、当該内訳推計の結果は近似値であることに注意ありたい。

- 125 -

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.,5-3-1-4.及び 5-3-2-2.の方法により推計した合成対照群による DID の結果及び 95 %信頼区間上限・下限、「並行推移性合成対照群」は

5-2-2-3.,5-3-1-4.及び 5-3-2-2.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄の平均値を用いた合

成対照群による DIDの結果を示す。数値は本件震災・事故前における福島県中通産コシヒカリの平均価格に対する比率であり、数値下

の( )内は p 値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

5-3-3-1-2. 並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果及び最適ウェイトを用いた合成対照群による結果との比較

表 5-3-3-1-1-1.右葉及び図 5-3-3-1-1-2.における並行推移性を用いた合成対照群によるDID の結果については、2011 年 2Q から 2017 年 1Q 迄の期間で価格の下落が危険率 5 %で有意となっており、下落幅は 2014 年 4Q から 2015 年 1Q 頃に約 33 %であったと推計される。

最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の結果と比較した場合、図 5-3-3-1-1-2.のとおり並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果については、最適ウェイトを用

いた合成対照群による DID の結果の 95 %信頼区間内で概ね推移しており、いずれも 2014年 4Q から 2015 年 1Q において下落幅が最大となっている。しかし 5-3-2-2.で見たとおり並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果では

2012 年 4Q から 2013 年 1Q 及び 2014 年 1Q から 2Q において危険率 5 %で係数が有意でなくまた上記最適ウェイトによる合成対照群による DID の結果の 95 %信頼区間を外れること、2016 年 4Q から 2017 年 1Q において危険率 5 %で係数が有意であることなどの差異が見られる。また 2011 年 2Q から 2013 年 1Q 迄の本件震災・事故直後の 2 年程度の期間については、最適ウェイトを用いた合成対照群の推計による DID の結果と比較して並

行推移性を用いた合成対照群による DID の結果は下落幅が概ね半分程度で推移しており、合成対照群の推計による結果の 95 %信頼区間を外れていることが観察される。

5-3-3-2. 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計の方法5-3-3-1.で説明した新たな対策手法により 4 つの主要な前提条件全部の充足を確認した

DID の結果については、当該結果を用いて以下の方法により 4 つの主要な前提条件の幾つかが充足されなかった場合の偏差を推計することが可能である。

5-2.及び 5-3.においては、4-3-1-2.で説明した新たな対策手法の適用手順に従って 4 つの主要な前提条件の充足を順番に確認しながら分析を進めてきたが、個々の前提条件に対す

る対策手法を適用した場合と適用しなかった場合での DID による処置効果評価の結果を

比較することにより、各前提条件により潜在的にどの程度の偏差が生じ得たのかを推計す

る*118。各対策手法を適用した場合についての定義は以下のとおり。

5-3-3-2-1. 「無対策」の場合5-2-1.においては 5-1-3.で説明した国内産の産地・銘柄別の米価格の試料のうち福島県産

米以外の産地・銘柄が 42 産地・銘柄分得られることを説明した。

- 126 -

処置群として福島県中通産コシヒカリの価格を用い、当該 42 産地・銘柄の価格の平均値を対照群として用いた DID の結果を「無対策」と定義する。

5-3-3-2-2. OVLA などの充足を確認した場合(「 OVLA 」)5-2-1.においては上記国内産の 42 産地・銘柄別の米価格の試料のうち、2002 年 9 月から

2011 年 2 月迄の期間で欠測率 5 %で OVLA の充足が確認できかつ東北被災地 3 県産に該当せず SUTVA-ST 及び SUTVA-CS を充足する試料が 13 産地・銘柄分得られることを説明した。

処置群として福島県中通産コシヒカリの価格を用い、当該 13 産地・銘柄の価格の平均値を対照群として用いた DID の結果を「 OVLA 」と定義する。「 OVLA 」と「無対策」の差は、OVLA、SUTVA-ST 及び SUTVA-CS により潜在的に生じ得

る偏差を表している。

5-3-3-2-3. OVLA など及び CIA の充足を確認した場合(「 OVLA+CIA 」)5-2-2.においては、5-2-1.で OVLA などの充足を確認した 13 産地・銘柄別の試料を用い

て 5 産地・銘柄の試料から最適ウェイトを用いた合成対照群を推計し、また 6 産地・銘柄の試料から並行推移性を用いた合成対照群を推計することにより、これらの試料で CIAの充足が確認できることを説明した。

処置群として福島県中通産コシヒカリの価格を用い、当該 2 通りの合成対照群を用いた DID の結果を「 OVLA+CIA 」と定義する。

2 通りの合成対照群による DID における「 OVLA+CIA 」と「 OVLA 」の差は、CIA により潜在的に生じ得る偏差を表している。

5-3-3-2-4. OVLA、CIA 及び SUTVA-NI の充足を確認した場合(「 OVLA+CIA+SUTVA 」)5-3-1.においては、5-2-2.で推計した 2 通りの合成対照群の試料について、”BAI-DIDI 比"

の回帰分析により SUTVA-NI の充足が確認できることを説明し、更に 5-3-1-5.では具体的に新たな対策手法のうち SUTVA-NI のみの対策手法を適用した結果を説明した。処置群として福島県中通産コシヒカリの価格を用い、当該 SUTVA-NI の対策手法を適用

した 2 通りの合成対照群を用いた DID の結果を「 OVLA+CIA+SUTVA 」と定義する。2 通りの合成対照群による DID における「 OVLA+CIA+SUTVA 」と「 OVLA+CIA 」の差は、

SUTVA-NI により潜在的に生じ得る偏差を表している。

5-3-3-2-5. 4 つの主要な前提条件全部を確認した場合(「全部対策」)5-3-2.及び 5-3-3-1.においては、5-3-1.での DID の結果から更に処置実施ダミーなどを用

いた時系列回帰分析により、NACA の充足を確認した処置効果評価の結果を説明した。当該結果による DID の 4 つの主要な前提条件全部の充足を確認した DID の結果を「全部

対策」と定義する。

2 通りの合成対照群による DID における「全部対策」と「 OVLA+CIA+SUTVA 」の差は、

NACA により潜在的に生じ得る偏差を表している。

5-3-3-3. 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果5-3-3-2.で説明した方法により、本件処置効果評価における DID の 4 つの主要な前提条

- 127 -

件に起因した偏差の内訳推計を行った。

図 5-3-3-3-1-1.及び表 5-3-3-3-1-1.に最適ウェイトを用いた合成対照群による DID におけ

る 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果を示す。同様に図 5-3-3-3-1-2.及び表 5-3-3-3-1-2.に並行推移性を用いた合成対照群による DID に

おける 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果を示す。

[図 5-3-3-3-1-1.及び-2. 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果(最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)

[表 5-3-3-3-1-1. 最適ウェイトを用いた合成対照群による DID における 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果]

対策手法 「無対策」 「 OVLA 」 「 OVLA+CIA 」 「 OVLA+CIA 「全部対策」

評価区間 +SUTVA 」

2011 年 2Q-2011 年 4Q -0.069 -0.059 -0.053 -0.138 -0.108 ***2012 年 1Q-2012 年 2Q -0.100 -0.084 -0.100 -0.308 -0.361 ***2012 年 4Q-2013 年 1Q -0.037 -0.020 -0.051 -0.215 -0.179 ***2013 年 2Q-2013 年 4Q -0.078 -0.055 -0.066 -0.151 -0.147 ***2014 年 1Q-2014 年 2Q -0.090 -0.067 -0.091 -0.289 -0.297 ***2014 年 4Q-2015 年 1Q -0.140 -0.136 -0.113 -0.338 -0.377 ***2015 年 2Q-2015 年 4Q -0.124 -0.116 -0.092 -0.244 -0.230 ***2016 年 1Q-2016 年 2Q -0.086 -0.072 -0.063 -0.264 -0.230 ***2016 年 4Q-2017 年 1Q -0.029 -0.014 -0.027 -0.029 -0.0602017 年 2Q-2017 年 4Q -0.025 -0.001 -0.030 -0.026 -0.0162018 年 1Q-2018 年 2Q +0.004 +0.025 -0.022 -0.027 -0.0292018 年 4Q-2019 年 1Q -0.020 +0.016 -0.020 -0.022 -0.023

(表注) 対策手法欄の記号などは本文 5-3-3-2-1.から 5-3-3-2-5.による定義に基づく。数値は本件震災・事故前における福島県中通産コシヒカリの平均価格に対する比率である。「全部対策」欄の右側の記号は" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

200

2年

200

4年

200

6年

200

8年

201

0年

201

2年

201

4年

201

6年

201

8年

-0 .450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

0.100

対 本件震災・事故前平均 比率

無対策

OVLA

OVLA+CIA

OVLA+CIA+

SUTVA

全部対策

前提条件毎の要因別偏差推計結果 ( 最適ウェイト合成対照群 )

2002年

2004年

2006年

2008年

2010年

2012年

2014年

2016年

2018年

-0.450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

0.100

対 本件震災・事故前平均 比率

無対策

OVLA

OVLA+CIA

OVLA+CIA+

SUTVA

全部対策

前提条件毎の要因別偏差推計結果 ( 並行推移性合成対照群 )

- 128 -

[表 5-3-3-3-1-2. 並行推移性を用いた合成対照群による DID における 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果]

対策手法 「無対策」 「 OVLA 」 「 OVLA+CIA 」 「 OVLA+CIA 「全部対策」

評価区間 +SUTVA 」

2011 年 2Q-2011 年 4Q -0.069 -0.059 -0.040 -0.055 -0.054 **2012 年 1Q-2012 年 2Q -0.100 -0.084 -0.093 -0.199 -0.202 ***2012 年 4Q-2013 年 1Q -0.037 -0.020 -0.043 -0.093 -0.0882013 年 2Q-2013 年 4Q -0.078 -0.055 -0.077 -0.125 -0.125 ***2014 年 1Q-2014 年 2Q -0.090 -0.067 -0.104 -0.115 -0.1222014 年 4Q-2015 年 1Q -0.140 -0.136 -0.151 -0.314 -0.325 ***2015 年 2Q-2015 年 4Q -0.124 -0.116 -0.118 -0.205 -0.200 ***2016 年 1Q-2016 年 2Q -0.086 -0.072 -0.093 -0.188 -0.180 ***2016 年 4Q-2017 年 1Q -0.029 -0.014 -0.040 -0.068 -0.074 **2017 年 2Q-2017 年 4Q -0.025 -0.001 -0.030 -0.037 -0.0352018 年 1Q-2018 年 2Q +0.004 +0.025 -0.021 -0.017 -0.0152018 年 4Q-2019 年 1Q -0.020 +0.016 -0.021 -0.021 -0.020

(表注) 対策手法欄の記号などは本文 5-3-3-2-1.から 5-3-3-2-5.による定義に基づく。「無対策」及び「 OVLA 」の結果は表 5-3-3-3-1-1.の合成対照群の結果と同じである。数値は本件震災・事故前における福島県中通産コシヒカリの平均価格に対する比率である。「全部

対策」欄の右側の記号は" *** "は危険率 1 %水準で有意、" ** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

5-3-3-3-1. 最適ウェイトを用いた合成対照群による偏差の内訳推計結果

最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の結果と並行推移性を用いた合成対照群

に よ る DID の 結 果 は 概 ね 類 似 し て お り 、 い ず れ の 結 果 で も 「 全 部 対 策 」 と

「 OVLA+CIA+SUTVA 」による処置効果評価の結果は概ね一致している。他方で「 OVLA+CIA 」、「 OVLA 」及び「無対策」の 3 つの場合はいずれの結果でもほぼ一

致しているものの、これらは「全部対策」による処置効果評価の結果からは大きく乖離して

おり、処置効果評価の結果が過小推計側に非常に大きな偏差を持っていることが観察され

る。

当該結果から本件処置効果評価における 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳については、OVLA などや CIA に起因した偏差あるいは NACA に起因した偏差と比較して、SUTVA-NI に起因した偏差が非常に大きな内訳を占めていたことが理解される。例えば最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の結果のうち下落幅が最も大きか

った 2014 年 4Q から 2015 年 1Q 迄の評価区間において、「無対策」と「全部対策」の間での

偏差全体を 100 とした指数で表現すると、NACA に起因した偏差が+16.5、SUTVA-NI に起因した偏差が+94.8、CIA に起因した偏差が-9.3、OVLA に起因した偏差が-1.9 であり、SUTVA-NI に起因した偏差が最も大きいことが確認される。

5-3-3-3-2. 並行推移性を用いた合成対照群による偏差の内訳推計結果

並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果については、2014 年 4Q から 2015 年1Q 迄の評価区間において、「無対策」と「全部対策」の間での偏差全体を 100 とした指数で表現すると、NACA に起因した偏差が+6.0、SUTVA-NI に起因した偏差が+87.9、CIA に起因した偏差が+8.6、OVLA に起因した偏差が-2.5 であり、最適ウェイトを用いた合成対照

- 129 -

群での結果と同様に SUTVA-NI に起因した偏差が最も大きいことが確認される。見方を変えれば、DID における 4 つの前提条件のいずれかについて対策を講じなかった

場合には処置効果の評価結果に偏差を生じることとなるが、本件処置効果評価においては

OVLA などや CIA に起因した偏差あるいは NACA に対策を講じなかった場合に生じ得る偏差は相対的に小さいが、SUTVA-NI に対策を講じなかった場合には非常に大きな偏差を生じ得ることが理解される。

- 130 -

6. 結果の整理及び考察

6-1. 実証分析結果に基づく処置効果の推計結果の整理及び確認・検証本節においては 5.での実証分析の結果を整理し、当該結果について偽薬試験などを用

いた確認・検証を行った結果について説明する。

6-1-1. 処置効果の推計結果の整理と確認・検証

6-1-1-1. 処置効果の推計結果の整理5.においては 4-3.で説明した系列相関及び処置の二次的影響の両方の可能性がある場合

での新たな対策手法を用い、福島県中通産コシヒカリの価格について本件震災・事故を処

置と見なした DID による処置効果評価を実施した。5-3-3-1.において図 5-3-3-1-1-1.及び図 5-3-3-1-1-2.並びに表 5-3-3-1-1-1.を用いて説明し

たとおり、当該処置効果評価の結果は新たな対策手法のうち最適ウェイトを用いた合成対

照群による DID の結果と並行推移性を用いた合成対照群による DID の結果が概ね一致し

ており、細部においては相違が見られるもののいずれの対策手法を用いた場合でも大筋に

おいて同様の結果が得られることが確認された。

当該評価の結果において、本件震災・事故の影響により福島県中通産コシヒカリの価格

は本件震災・事故直後の 2011 年 2Q から最長で 2016 年 2Q 迄の約 5 年間の期間に亘って価格が下落する影響を受けていたものと評価された。

本件震災・事故の影響は福島県会津及び中通地域での米の出荷制限が解除された 2014年 4Q から 2015 年 1Q 迄の評価区間において下落幅が最大となり、本件震災・事故前の

2002 年 9 月から 2010 年 2 月迄の平均価格¥16,676-/60kg に対し最適ウェイトによる合成対照群の推計による評価においては約 38 %も価格が下落していたものと評価された。ここで本件震災・事故の影響については、処置群である福島県中通産コシヒカリの価格

を下落させたのみならず、図 3-3-2-1-2-1.中の a に示すように広汎な範囲で他産地・銘柄の米価格に二次的影響を及ぼし価格を下落させていたものと推定される。その結果、処置の

二次的影響を考慮しない場合と考慮した場合で DID による処置効果評価の結果が大きく

異なり、図 5-2-3-1-1-1.で示したとおり処置の二次的影響を考慮しない場合には最適ウェイトを用いた合成対照群による場合でも約 11%の価格の下落であると推計され、処置効果が著しく過小推計となることが判明した。

6-1-1-2. 現実の米相対取引価格推移との比較による確認・検証6-1-1-1.で説明したとおり本件震災・事故の影響により福島県中通産コシヒカリの価格は

最大で約 38 %も価格が下落していたものと評価されたが、最初に現実の価格推移との比較によりこのような極端な価格の下落が起き得るものか否かを確認・検証する。

具体的には、処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し当該処置効果評

価の結果を加算した価格推移は、仮想現実である本件震災・事故がなかった場合での福島

県中通産コシヒカリの価格推移を表しており、また当該価格推移と合成対照群又は並行推

移性を定量的に確認した対象の平均値の価格推移の間の差異は、合成対照群の最適ウェイ

トの構成要素となった 5 産地・銘柄や並行推移性の定量的確認を行った 6 産地・銘柄の価格が受けていた処置の二次的影響の大きさを表していると考えられる。

- 131 -

従って処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し当該処置効果評価の結

果を加算した価格推移が「現実にあり得ない不自然な挙動」を示していると言えるか否かを

観察することにより、新たな対策手法を用いた DID による処置効果評価の結果を一定の

精度で確認・検証することができる。

図 6-1-1-2-1-1.及び図 6-1-1-2-1-2.に現実の米価格推移との比較による処置効果評価結果の確認・検証(最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)について、図 6-1-1-2-1-3.及び図 6-1-1-2-1-4.に同様の確認・検証において処置効果評価結果の信頼区間下限値を用いた場合について示す。

[図 6-1-1-2-1-1.及び-2. 現実の米価格推移との比較による処置効果評価結果の確認・検証(最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の場合)]

(図注) 「処置群+処置効果」は処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し処置効果評価の結果を加算した価格を示す。

[図 6-1-1-2-1-3.及び-4. 現実の米価格推移との比較による処置効果評価結果の確認・検証(最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群,信頼区間下限値)]

(図注) 「処置群+処置効果」は処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し処置効果評価の結果を加算した価格を示す。

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

2019年

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)処置群(福島県中通産コシヒカリ)

最適ウェイト合成対照群

処置群+処置効果

現実の米価格推移との比較による確認・検証 ( 最適ウェイトを用いた合成対照群 )

2003

年度

2004

年度

2005

年度

2006

年度

2007

年度

2008

年度

2009

年度

2010

年度

2011

年度

2012

年度

2013

年度

2014

年度

2015

年度

2016

年度

2017

年度

2018

年度

2019

年度

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)

処置群(福島県中通産コシヒカリ)

並行推移性合成対照群

処置群+処置効果

現実の米価格推移との比較による確認・検証 ( 並行推移性を用いた合成対照群 )

2003年

2004年

2005年

2006年

2007年

2008年

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2010年

2011年

2012年

2013年

2014年

2015年

2016年

2017年

2018年

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5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)処置群(福島県中通産コシヒカリ)

最適ウェイト合成対照群

処置群+処置効果 (信頼区間下限)

現実の米価格推移との比較による確認・検証 ( 最適ウェイト合成対照群/信頼区間下限 )

2003

年度

2004

年度

2005

年度

2006

年度

2007

年度

2008

年度

2009

年度

2010

年度

2011

年度

2012

年度

2013

年度

2014

年度

2015

年度

2016

年度

2017

年度

2018

年度

2019

年度

5000

7500

10000

12500

15000

17500

20000

22500

25000

27500

30000

\/60kg(名目)処置群(福島県中通産コシヒカリ)

並行推移性合成対照群

処置群+処置効果(信頼区間下限)

現実の米価格推移との比較による確認・検証 ( 並行推移性合成対照群/信頼区間下限 )

- 132 -

処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し処置効果評価の結果を加算し

た価格推移を見た場合、最適ウェイトを用いた合成対照群による DID の結果及び並行推

移性を用いた合成対照群による DID の結果ともに 2012 年度から 2013 年度については福島県中通産コシヒカリや合成対照群などの価格推移と比較してかなり高めの価格が仮想現

実として推計されていたことが観察される。

他方で 2012 年度から 2014 年度に掛けては米価格全体が上昇しており、推計された仮想現実は「現実にあり得ない不自然な挙動」と迄は言えない水準で推移している。

更に処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し信頼区間下限に相当する

処置効果評価の結果を加算した価格推移を見た場合、2 通りの合成対照群による DID の結果ともに上記の 2012 年度から 2013 年度で見られた乖離は大幅に縮小し、仮想現実の価格は処置の二次的影響を考慮すれば起きていたとしてもおかしくない水準となることが観

察される。

従って本件処置効果評価においては、本稿において開発した新たな対策手法の結果に相

応の推計誤差が含まれており、5.における処置効果評価の結果において推計誤差が処置効果が過大評価となる側に働いているものと推計される。

このように特に合成対照群の推計において「かなり高めの価格」が仮想現実として推計さ

れる原因については、本件震災・事故による二次的・三次的影響の存在、本件震災・事故以

外の外的要因の影響や何らかの偶発的要因の影響の存在により"BAI-DIDI 比"の回帰分析において定数項の推計に誤差を生じたためと考えられる。特に本件処置効果評価において

SUTVA-ST 及び SUTVA-CS の観点から処置群・対照群の両方から除外した岩手県及び宮城県産米については、本系震災・事故直後に価格の下落が生じていることから、当該 2 県産の米から他産地・銘柄米への二次的影響が生じ誤差となった可能性は十分に考えられる。

他方で SUTVA-NI に起因した問題を全く考慮しない処置効果の推計は明らかに不適切であり、5-2-3-1.で推計した OVLA など及び CIA への対策手法だけを適用した結果が過小推

計で、5-3-3-1.で推計した 4 つの主要な前提条件全部への対策手法を適用した結果が過大推計であることを考えれば、現実の本件震災・事故による処置効果は両者の間にあったも

のと推察される。

従って当該結果からは、4-3.において新たに開発した対策手法においても推計に相応の誤差が存在し、結果の解釈には幅を持って行うことが必要であることが理解される。

また当該推計結果の信頼性・頑健性を確認する上では、本稿 5.で実施したように CIA に

起因した問題への対策手法として最適ウェイトを用いた合成対照群の推計と並行推移性を

用いた合成対照群の推計を併用することが有効であると考えられる。

6-1-2. 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計結果の整理5.においては 4-3.で説明した系列相関及び処置の二次的影響の両方の可能性がある場合

での新たな対策手法を用い、DID における 4 つの主要な前提条件の充足を確認した上で福島県中通産コシヒカリの価格について本件震災・事故を処置と見なした DID による処置効

果評価を実施した。

5-3-3-3.で説明したとおり当該結果において 4 つの主要な前提条件の充足を 1 つづつ順番に確認した分析結果を相互に比較することにより、4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳を推計した結果、本件処置効果評価においては SUTVA-NI に起因した偏差が非常

*119 合成対照群や並行推移性の定量的確認を行った対象は OVLA など及び CIA の充足を確認済であり、またNACA に起因した問題は主として DID の結果を評価する標準誤差に影響を与えることから、処置群に対し処置効果評価分を加算した結果が合成対照群や並行推移性を定量的に確認した対象の平均値を大きく上回って推移する場合は、対照群の対象などへの正の二次的影響による SUTVA-NI に起因した問題が大きい場合に限定される。

*120 処置群である福島県中通産コシヒカリの価格においては、2005 年度から 2008 年度に掛けての試料のうち多数の月次において欠測が見られ、また 2002 年度から 2004 年度に掛けては需給逼迫により一時的な価格の高騰が生じていたことから、2008 年度以降の本件震災・事故前において偽薬試験の対象評価区間を選定した。

- 133 -

に大きな内訳を占めていることが示された。

具体的には本件処置効果評価において福島県中通産コシヒカリの価格の下落幅が最大と

なる 2014 年 4Q から 2015 年 1Q の評価区間において、偏差全体を 100 とした場合に合成対照群による結果では 94.8、並行推移性を定量的に確認した 6 産地・銘柄の平均値を用いた結果では 87.9 が SUTVA-NI に起因した偏差であると推定された。当該結果については直接的にこれを確認・検証する手段は存在しないものの、6-1-1.にお

いて処置群である福島県中通産コシヒカリの現実の価格に対し処置効果評価の結果を加算

した価格推移が 2 通りの合成対照群の価格推移を上回って推移していたことは、本件処置効果評価において SUTVA-NI に起因した偏差が非常に大きな内訳を占めていたことを間接的に示唆している*119 ものと考えられる。

また当該偏差の内訳推計の結果からは、6-1-1.で議論したとおり仮に本件処置効果評価において"BAI-DIDI 比"の回帰分析において定数項の推計の誤差などにより 5-3-3-1.で推計した 4 つの主要な前提条件全部への対策手法を適用した結果が過大推計であったとしても、SUTVA-NI に起因した偏差の大きさは圧倒的であり他の前提条件に起因した偏差よりなお大きかったものと推察される。

更に 5-3-3-3.の結果において OVLA など及び CIA の前提条件に起因した偏差は負の値となる場合があることから、DID に関する在来の対策手法に基づいて OVLA など及び CIA への対策手法を適用しただけでは正しい処置効果の推計が行えない場合があることが実証さ

れたものと考えられる。

6-1-3. 本件震災・事故前の試料を用いた偽薬試験による確認・検証偽薬試験については、3-1-3-4.で説明したとおり処置の効果又は二次的影響が及んでい

ない対象に処置効果評価を行う「対象に関する偽薬試験」と、処置の効果が存在しない処置

前の時点で処置効果評価を行う「時点に関する偽薬試験」が存在する。

ところが本件処置効果評価においては、5.における結果から合成対照群及び並行推移性を定量的に確認した 6 産地・銘柄の価格はいずれも本件震災・事故後の大部分の期間において処置の二次的影響を受けていたことが判明している。このため、OVLA など及び CIAを充足しかつ SUTVA-NI を充足する対象が存在しないため、これを用いた「対象に関する偽薬試験」を行うことは不可能である。

従って、本件処置効果評価においては本件震災・事故前の 2009 年 1Q から 2009 年 2Q、2009 年 4Q から 2010 年 1Q 及び 2010 年 2Q から 2010 年 4Q の 3 つの評価区間*120 につい

て、最適ウェイトを用いた合成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群の価格により「時

点に関する偽薬試験」を行い結果の確認・検証を行うこととする。

表 6-1-3-1-1-1.に本件震災・事故前での時点に関する偽薬試験の結果を示す。

- 134 -

[表 6-1-3-1-1-1. 本件震災・事故前での時点に関する偽薬試験の結果 (評価区間幅 3 ヶ月・2 評価区間平均値)]

対策手法 最適ウェイト合成対照群 並行推移性合成対照群

説明変数 係数 (p 値) 有意性 係数 (p 値) 有意性

季節ダミー(四半期)1Q - 426.04 (0.399) +137.86 (0.702)2Q - 38.02 (0.915) - 532.21 (0.099)

偽薬試験ダミー

2009 年 1Q-2009 年 2Q - 616.63 (0.793) - 753.45 (0.838)2009 年 4Q-2010 年 1Q - 666.34 (0.880) - 826.46 (0.813)2010 年 2Q-2010 年 4Q - 729.26 (0.777) - 727.73 (0.737)

処置実施ダミー

2011 年 2Q-2011 年 4Q -2438.22 (0.000) *** -1169.78 (0.011) **2012 年 1Q-2012 年 2Q -5770.43 (0.000) *** -3600.78 (0.000) ***2012 年 4Q-2013 年 1Q -3422.73 (0.000) *** -1611.84 (0.001) ***2013 年 2Q-2013 年 4Q -2505.45 (0.000) *** -2269.50 (0.000) ***2014 年 1Q-2014 年 2Q -5238.49 (0.000) *** -2290.74 (0.219)2014 年 4Q-2015 年 1Q -6357.16 (0.000) *** -5648.63 (0.000) ***2015 年 2Q-2015 年 4Q -4040.51 (0.000) *** -3494.44 (0.000) ***2016 年 1Q-2016 年 2Q -4143.83 (0.000) *** -3161.84 (0.000) ***2016 年 4Q-2017 年 1Q - 974.25 (0.333) -1423.89 (0.010) **2017 年 2Q-2017 年 4Q - 550.35 (0.826) - 753.66 (0.720)2018 年 1Q-2018 年 2Q - 618.69 (0.958) - 446.06 (0.867)2018 年 4Q-2019 年 1Q - 533.66 (0.987) - 485.02 (0.759)

定数項 + 113.77 (0.641) + 141.30 (0.445)

自己相関・移動平均項

AR(1) -0.1789 (0.299) +0.3180 (0.054)AR(2) --- +0.1115 (0.652)MA(1) -1.0000 (0.000) *** -1.0000 (0.000) ***

試料数 47 47

赤池情報量基準(AIC) 765.91 763.36

(表注) 対策手法欄の「最適ウェイト合成対照群」は 5-2-2-2.及び 5-3-1-4.の方法により推計した合成対照群による DID を時系列回帰分析した結果を、「並行推移性合成対照群」は 5-2-2-3.及び 5-3-1-4.の方法により並行推移性を確認した 6 産地・銘柄の平均値を用いた合成対照群による DID を時系列回帰分析した結果を示す。

自己相関・移動平均項欄は、系列相関が残留しない組合せのうち最小の赤池情報量基準('AIC)を与える自己相関項(AR)・移動平均項(MA)の組合せであり、( )内は次数を示す。数値は DIDによる価格差(¥/60kg)に対応し、数値右の( )内は p 値、" *** "は危険率 1 %水準で有意、"** "は危険率 5 %水準で有意を示す。本件震災・事故前における処置群の欠測の関係から毎年 ”3Q”は評価ができないことに注意。

具体的に当該偽薬試験においては、5-3-2-2.で実施した処置実施ダミー・季節ダミーを説明変数に用いた時系列回帰分析の際に、上記本件震災・事故前の 3 評価区間に対応する「偽薬試験ダミ-」を追加した上で同様の分析を行い、偽薬試験ダミーの係数の有意性を判定

することによって推計結果の確認・検証を行った。

時系列回帰分析において偽薬試験ダミーを新たに 3 つ追加したため、5-3-2-2.における表 5-3-2-2-1-1.での時系列回帰分析結果とは係数の有意性及び大きさ並びに自己相関項・移

- 135 -

動平均項の構成が若干変化している点に注意する必要があるが、最適ウェイトを用いた合

成対照群及び並行推移性を用いた合成対照群による DID の時系列試料を回帰分析した結

果は概ね同様であり、追加した 3 つの偽薬試験ダミ-の係数はいずれも有意ではないことが観察される。

従って、上記偽薬試験の結果から本件処置効果評価の結果が偶発的に観察された性質の

ものではなく、相応の意味を持ったものであることが確認・検証されたと考えられる。

6-2. 結果の考察本節においては、5.での実証分析の結果について考察するとともに、当該結果から問題

点を抽出し新たな対策手法の有効性とその問題点についての考察を行う。

6-2-1. 新たな対策手法による処置効果評価の有効性

6-2-1-1. 新たな対策手法による処置効果評価の結果本稿においては 4-3.で新たに開発した対策手法を応用して、国内 42 産地・銘柄米の相対

取引価格を用い、DID による処置効果評価において確認が必要な 4 つの主要な前提条件を全部確認した上で、本件震災・事故を処置と見なした福島県中通産コシヒカリの価格への

処置効果評価を行った。

当該結果では、CIA を充足する対策手法として合成対照群を推計した場合及び平行推移

性を定量的に確認した対象の平均値を対照群に用いた場合のいずれについてもほぼ同様の

結果が得られ、2011 年 3 月の本件震災・事故後から福島県中通産コシヒカリの価格は 2014年 4Q から 2015 年 1Q 迄の評価区間において最大で本件震災・事故前の平均価格から 38%近く下落していたが、2016 年 2Q から遅くとも 2017 年 2Q 迄には影響が収束していたこ

とが確認された。

当該試行の結果から、識別のための 4 つの前提条件の下で新たに開発した対策手法を応用することにより、DID における 4 つの主要な前提条件を全部充足したことを確認した上で処置効果評価を行うことが可能であることが実証された。

特に統計的方法の場合において有効な SUTVA-NI に起因した問題への対策手法については主要な先行研究には事例が見られず、4-2.において開発した新たな対策手法は DID によ

る処置効果評価の応用範囲を拡大することに寄与するものと評価される。

但し、6-1-1.での整理及び検証・確認において説明したとおり、新たな対策手法による推計結果には相応の誤差が含まれる場合があることが確認されたことから、当該推計結果に

ついては幅を持って解釈することが必要であると考えられる。

6-2-1-2. 新たな対策手法による 4 つの主要前提条件に起因した偏差の内訳推計の結果6-2-1-1.での推計結果において、DID における 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の

内訳推計を行った場合には、最適ウェイトを用いた合成対照群及び平行推移性を用いた合

成対照群のいずれについてもほぼ同様の結果となり、4 つの主要な前提条件のうちSUTVA-NI が最も大きな偏差を生じ得ることが示された。具体的には福島県中通産コシヒカリの価格の下落幅が最も大きかった 2014 年 4Q から

2015 年 1Q 迄の評価区間において、「無対策」と「全部対策」の間での偏差全体を 100 とし

*121 例えば最適ウェイトを用いた合成対照群の推計においては、5-2-2-2.で説明したとおり茨城・栃木産コシヒカリや秋田産あきたこまちなどの福島県近隣産地の米が大きなウェイトを占めていたことを想起ありたい。

- 136 -

た指数で表現すると、NACA に起因した偏差が+16.5、SUTVA-NI に起因した偏差が+94.8、CIA に起因した偏差が-9.3、OVLA に起因した偏差が-1.9 と推計された。当該試行の結果から、従来の統計的方法における DID を用いた処置効果評価において

は OVLA など及び CIA に起因した問題への対策が重視されてきたが、現実の処置効果評

価において SUTVA-NI や NACA に起因した偏差の方が大きい場合が存在しこれらの前提

条件についての対策を講じない場合には偏差のない処置効果を推計することができない場

合があることが実証された。

特に最も価格の下落幅が大きかった 2014 年 4Q から 2015 年 1Q 迄の評価区間におい

て、OVLA など及び CIA のみの対策を講じなかった場合の偏差は負であり、4 つの主要な前提条件への対策手法を全部実施した場合とは反対の処置効果が推計されてしまい、何も

対策を実施しない方が偏差が少ない場合があることが示された。

6-2-1-3. 新たな対策手法による処置効果評価と 4 つの主要前提条件に起因した偏差の内訳推計の結果からの考察

6-2-1-1.及び 6-2-1-2.における処置効果評価の結果と 4 つの主要な前提条件に起因した偏差の内訳推計の結果とその背景について更に考察する。

本稿においては 4-3.で新たに開発した対策手法を応用して、国内 42 産地・銘柄米の相対取引価格を用い、本件震災・事故を処置と見なした福島県中通産コシヒカリの価格への処

置効果評価を行った。

本件処置効果評価における処置群・対照群の試料は全て米の相対取引市場での実績値で

あるが、5-1-3.で説明したとおり福島県産のコシヒカリは本件震災・事故前において会津・中通・浜通産別に取引されるなど、福島県は新潟県と並ぶ国内有数のコシヒカリの産地で

あった。ところが 5-1-1.で説明したとおり本件震災・事故後から 2014 年度迄の期間において、福島県産のコシヒカリは出荷制限又は作付自粛の対象となって出荷量が減少し、米の

相対取引市場での取引価格も下落する結果となった。

6-2-1-3-1. 米の相対取引市場での買手側関係者の挙動ここで、米の相対取引市場の買手側関係者が福島県産のコシヒカリの出荷制限分を埋合

わせるべく、同等品質の他産地・銘柄米を入手する対策をとった場合には、他産地・銘柄米

には負の二次的影響が及び相対的に価格が上昇したものと推定される。

他方で、米の相対取引市場の買手側関係者が福島第一原子力発電所事故により放出され

た放射性物質による汚染の波及を懸念して、近隣地域などの他産地・銘柄米についても取

引を控えた場合には、他産地・銘柄米には正の二次的影響が及び相対的に価格が下落した

ものと推定される。

本稿における分析結果からは、5-3.で説明したとおり処置群である福島県中通産コシヒカリに対する 2 通りの合成対照群の構成要素となった他産地・銘柄米についてはほぼ例外なく正の二次的影響が及び価格が下落していたことが確認される。

従って米の相対取引市場の買手側関係者においては本件震災・事故に直面した際に、福

島県産米のみならず近隣地域*121 などの他産地・銘柄米についても極めて予防的に判断して

*122 米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(平気 21 年法律第 26 号)。同法の施行は取引記録の作成と保存が 2010 年、産地情報の伝達については 2011 年からである。同法の立法経緯については本田(2012)に詳細な説明がある。

*123 牛肉については BSE 問題を背景に 2003 年に「牛トレーサビリティ制度(牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(平成 15 年法律第 72 号))」が既に施行されており、牛の個体識別番号による「産地偽装」の防止措置が関係者の間で履行・活用されていたことが判明している。本田(2012)を参照。

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取引を控えるという行動をとっていたものと推察される。

また 5-3.で説明したとおり、本件震災・事故後の福島県中通産コシヒカリの価格への影響については、本件震災・事故直後の 2011 年から 2012 年に大きな価格下落の影響があった後で 2013 年頃に一旦回復している。ところが福島県会津及び中通地域で米の出荷制限が解除された 2014 年から 2015 年に掛けて、福島県中通産コシヒカリにおいては再度大きな価格下落の影響があったことが観察される。

更に 5-3.での結果からは当該 2014 年から 2015 年での再度の価格下落において、福島県中通産コシヒカリのみならず近隣地域などの他産地・銘柄米についても再度正の二次的

影響が及んでおり価格が下落していたことが確認される。

福島県中通産及び会津産コシヒカリについては 2014 年度に福島県による全数検査態勢が整い安全性が確認された上で出荷制限が解除された訳であるが、本件震災・事故の影響

が 2016 年 2Q 頃まで残ったことや当該影響が正の二次的影響を伴っていたことから考え

れば、相対取引市場の買手側関係者は検査を受けて出荷されている福島県産米のみならず

その近隣産地・銘柄の米に対しても取引を控えていたということが推察される。

6-2-1-3-2. 米の相対取引市場での買手側関係者の挙動と背景米においてこのような長期間かつ広範囲な二次的影響を伴う価格下落が生じた背景につ

いては、米トレーサビリティ法(平成 21 年法律第 26 号)*122 の立法経緯に見られるとおり、

産地・銘柄の区別がつきにくい米穀においては中国産米など他産地・銘柄米の偽装や食用に

適さない加工用米の混入といった一連の「産地偽装」問題が本件震災・事故直前に大きな問

題となっており、買手側関係者の懸念を増幅させていたことが指摘できる。

当該「産地偽装」問題を根絶するために同法が制定されたが、偶然にも本件震災・事故時

点で施行直後であったため関係者間で制度が十分浸透していなかった *123 ことも問題の背

景として指摘できる。

当該問題を背景に、米の相対取引市場の買手側関係者は 2011 年の本件震災・事故後のみならず 2014 年の出荷制限の解除に際しても汚染した米の流通段階での混入や偽装をなお懸念し、検査を受けて出荷されている福島県産米に加えて近隣地域などの他産地・銘柄

米についても「容易には信用しなかった」ものと推察される。

当該買手側関係者の挙動は 5-1-1-4.で説明したいわゆる「風評被害」の一形態であるが、上記のように「産地偽装」という米の相対取引市場における産地・銘柄間での特殊な背景が

問題を長期間化・広範囲化させた一因であったものと考えられる。

6-2-1-3-3. 関連性のある産品の価格を分析対象とした処置効果評価への示唆本件処置効果評価の対象は米の相対取引価格であるが、国内の米の相対取引市場に本件

震災・事故前から存在した「産地偽装」などの問題を背景に、本件震災・事故による米価格へ

の影響については非常に長期間かつ広範囲な二次的影響を生じたものと推察される。

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また本件処置効果評価の対象は米の相対取引価格であるため相応の価格粘着性が存在す

ると想定されるが、実際に 5-2-2.においては系列相関の存在が観察されたことから、産品の価格を分析する際に系列相関の問題に十分注意する必要があることが再確認される。

従って本件処置効果評価と同様に、処置群・対照群の対象間に競合関係や補完関係ある

いは混入可能性などの関係が存在している産品を分析対象とする際や、特にその価格を分

析対象とする際には、DID を用いた処置効果評価において系列相関や処置の二次的影響に

ついての対策を講じなければ結果に大きな偏差が生じ得ると考えられ、本稿において開発

した新たな対策手法を応用することが有効な対策となるものと考えられる。

6-2-2. 実証分析結果から抽出される対策手法上の問題点

6-2-2-1. 評価に必要な試料の対象数・時点数の問題本稿においては、福島県中通産コシヒカリなどの国内 42 産地・銘柄米の相対取引価格

について 2002 年 9 月から 2011 年 2 月迄の 102 ヶ月間分の試料を予め準備した上で、新たに開発した対策手法を用いた DID による処置効果評価を試行した。他方で現実の処置効果評価においては、このような多数の対象及び時間方向の試料が得

られる保証はなく、対象数が数件しか試料が得られない場合や処置前に数時点しか試料が

得られない場合が考えられる。

このような場合であっても処置後に一定期間の試料が得られれば本稿で新たに開発した

対策手法の適用は可能であると考えられるが、具体的に処置前・後に何期間の試料が必要

かという点については議論の余地がある。

従って本稿で新たに開発した対策手法を応用する際に、試料の対象数や処置前・後の時

点数などを減らした場合に、どの程度の範囲内であれば安定した推計結果が得られるのか

という問題については現時点では未知であり、今後様々な分野・種類の試料を用いた評価

が必要である。

6-2-2-2. 時間方向での分解能の問題6-2-1-1.で述べたとおり本稿においては米の相対取引価格について多数の対象及び時間

方向の試料を準備した上で、新たに開発した対策手法を用いた DID による処置効果評価

を試行している。

ここで新たに開発した対策手法のうち、4-1.で説明した系列相関の不存在性条件(NACA)に起因した問題に関する「二対象化法」の適用においては、時系列回帰分析での係数の有意

性を検定する必要上から、処置実施ダミーを連続する 2 評価区間以上に設定することが必要である。

また 4-2.で説明した SUTVA-NI に起因した問題に関する"BAI-DIDI 比"の回帰分析などの適用においては、4-2-1-3.の「処置群から対照群への二次的影響の影響元の不識別と短期的時間安定性」の前提条件により 2 期間以上の一定期間について処置の二次的影響が安定しているとの仮定の下で回帰分析などを行う必要がある。

従って本稿において新たに開発した対策手法においては、処置効果の評価分析において

4 期間の試料を必要とし、月次試料においては 4 ヶ月、年次試料であれば 4 年以下の短期間については原則として評価が困難であるという分解能の制約が存在するものと考えられ

る。

- 139 -

当該問題への対処については「二対象化法」の評価区間と"BAI-DIDI 比"の回帰分析の期間を重複させるなど様々な方法が考えられるが、このような対処を行った場合での精度上の

問題については現時点では未知であり、なお評価が必要である。

6-2-2-3. 対策手法の選択の問題(1) 合成対照群のウェイトの問題本稿においては新たに開発した対策手法のうち CIA を充足する方法として、最適ウェ

イトを用いた合成対照群の推計と並行推移性を用いた合成対照群の推計の 2 通りを試行し、結果の大部分において両者がほぼ同様の結果となることを示した。

これら 2 通りの方法における差異は、合成対照群の推計に用いた対照群候補の対象と適用されるウェイトの差異に起因するものであり、一連の推計における誤差の影響が当該

2 通りの方法により異なることを利用して、2 通りの方法の試行が処置効果評価の結果の検証・確認の手法として使えることを示した。

しかし他の試料を用いて処置効果評価を試みた場合に、本稿のように 2 通りの合成対照群の推計がほぼ同様の結果を示すかどうかは不明であり、どのような条件の下で 2 通りの方法が同様の結果を示すのかという点については現時点では未知である。

また上記並行推移性を用いた合成対照群において、並行推移性の確認については時間方

向に十分な試料が得られることを前提に時系列回帰分析により危険率 5 %水準で係数が+1 と有意な差があるか否かを判定尺度とした確認を行ったが、時点数に制約がありこのような判定尺度を適用できない場合にどの程度の精度で「並行推移性」を確認しておけば合

成対照群として妥当な推計結果が得られるかという点についても現時点では未知である。

従って合成対照群により CIA を充足する方法の選択については、今後様々な分野・種類

の試料を用いた評価が必要である。

6-2-2-4. 対策手法の選択の問題(2) Hansen による方法の選択の可能性本稿においては新たに開発した対策手法において、系列相関の不存在性条件(NACA)へ

の対策手法として 4-3.で説明した「二対象化法」を用いた DID による処置効果評価を試行

した。

他方で NACA への対策手法としては 4-3-1-3.で説明したとおり「二対象化法」の他にHansen(2007a・2007b)の方法が一般的に適用できることが知られている。本稿で用いた本件震災・事故前後での米の相対取引価格の試料においては、SUTVA-NI

に起因して生じ得る偏差が圧倒的に大きいと考えられるため、「二対象化法」を用いた場合

と Hansen(2007a・2007b)の方法を用いた場合に大きな差異はなく概ね本稿同様の結果が得られると予想される。

しかし他の試料を用いた試行において、NACA への対策手法として「二対象化法」を用い

た結果と Hansen(2007a・2007b)の方法を用いた結果が良好に一致する条件については現時点では未知であり、今後様々な分野・種類の試料を用いた評価が必要である。

6-2-2-5. 系列相関及び処置の二次的影響の可能性の簡易な事前評価本稿においては、識別のための 4 つの前提条件の下で新たに開発した対策手法により

DID における 4 つの主要な前提条件を全部充足したことを確認した上で処置効果評価を行うことが可能であることを実証した。

しかし 4-3.で説明した系列相関と処置の二次的影響の両方の可能性がある場合の対策手

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法の適用手順はなお複雑かつ煩瑣であり、実用上は OVLA 及び CIA の充足を確認した際

に、分析しようとする試料に系列相関と処置の二次的影響のいずれかの可能性があるか否

かをなるべく簡易に、可能であれば事前に評価できることが望ましい。

従って系列相関及び処置の二次的影響の可能性の簡易な事前評価の手法についても、今

後様々な分野・種類の試料を用いた評価が必要である。

6-2-2-5-1. 系列相関の可能性の事前評価系津相関の可能性の事前評価については、5-2-2-3.での時系列回帰分析を用いた並行推

移性の定量的確認を行った際には、試料に自己相関項・移動平均項が存在するか否かを判

定し系列相関の問題が存在する可能性を一定の精度で評価できると考えられる。

しかし、合成対照群の推計のみを行う場合に同様の事前評価を行う手法については現時

点では未知である。

現時点で考えられる系列相関の可能性の簡易な事前評価については、処置群及び幾つか

の対照群の候補の試料を用いて、並行推移性の定量的確認同様の時系列回帰分析を試行し

系列相関の可能性の有無を確認する方法が挙げられる。

6-2-2-5-2. 処置の二次的影響の可能性の事前評価処置の二次的影響の問題については、5-2-2-3.での時系列回帰分析を用いた並行推移性

の定量的確認を行った際に、Granger 因果性検定により処置群から対照群の候補への「逆因果性」が確認された場合には、試料に処置の二次的影響の問題が存在する可能性がある

と推定される。

しかし Granger 因果性検定の結果は処置前における処置群と対照群の候補の関係を示しているに過ぎず、本件震災・事故のように過去には全く見られなかった未曾有の事態が処

置の内容であった場合にも Granger 因果性検定が処置の二次的影響の問題が存在する可能性を正しく示すか否かは現時点では未知である。

また系列相関の問題同様に合成対照群の推計のみを行う場合に同様の事前評価を行う手

法については現時点では未知である。

現時点で考えられる処置の二次的影響の簡易な事前評価については、例えば OVLA 及

び CIA の充足を確認した試料による DID の結果を暫定的に用いて、このうち最も大きな

処置効果が観察される評価区間 1 つについて本稿で新たに開発した"BAI-DIDI 比"の回帰分析などを試行し処置の二次的影響の有無を確認する方法が挙げられる。しかし、他に更に

簡易な方法が存在するか否かは現時点では未知である。

6-3. 今後の課題本節においては本稿における一連の検討や分析の結果に基づいて、新たに開発した対策

手法及び横断面前後差分析(DID)の応用全般に関する今後の課題について説明する。

6-3-1. 新たな対策手法における今後の課題

6-3-1-1. 新たな対策手法の他の事例への適用・展開と実証結果の蓄積6-2-2.で説明したとおり、本稿において開発した新たな対策手法については、未だ本件

震災・事故前後での福島県産米の相対取引価格の試料を用いた実証分析を 1 例行ったに過

*124 当該 Hudgens and Halloran(2008)における処置を行った処置群の対象間での二次的影響と外部的有効性の問題については、大部分が本稿で開発した新たな対策手法における処置群間の二次的影響の不考慮の前提条件に関する問題と重複しており、当該問題は本稿で開発した新たな対策手法と密接に関連している。

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ぎず、なお当該新たな対策手法の有効性とその限界について検討すべき課題が少なくない。

他方で 6-2-2.の各項目で説明した課題についての検討を進める上では、本件震災・事故前後での福島県産米の相対取引価格の試料を用いた検討には限界があることから、今後様

々な分野・種類の試料を用いた評価を展開し実証を重ねていくことが必要である。

6-3-1-2. 新たな対策手法における前提条件の緩和可能性の検討4-2-1.で説明したとおり、本稿において開発した新たな対策手法のうち SUTVA-NI に関

する対策手法の部分については、4 つの前提条件を与件として処置の二次的影響について推計を行っている。

当該 4 つの前提条件のうち、CIA については既存の対策手法や確認手法が整備されているが、処置群間の二次的影響の不考慮、処置群から対照群への二次的影響の影響元の不識

別と短期的時間安定性及び顕著な外的要因の影響の不存在性については対策手法や確認手

法が未整備であり、4-3.での手順において評価区間幅の選定に試行錯誤を要するなど新たな対策手法が複雑化する要因ともなっている。

従って処置群間の二次的影響の不考慮、処置群から対照群への二次的影響の影響元の不

識別と短期的時間安定性及び顕著な外的要因の影響の不存在性の 3 つの前提条件については、有効な対策手法や確認手法を開発・整備し条件の緩和可能性を検討していくことが

必要である。

6-3-2. 横断面前後差分析(DID)の応用全般における今後の課題

6-3-2-1. ランダム化を用いた実験的方法における SUTVA-NI の確認手法の開発・整備3-3-2.で説明したとおり、ランダム化を用いた実験的方法の場合における SUTVA-NI の

対策手法としては、Hudgens and Halloran(2008)による実験設計において 3 群の試料を用意する対策手法が知られている。

ところが当該対策手法については現実の処置効果評価への応用を考えた場合に 1)対照群の処置の二次的影響からの独立性の確保及び 2)処置を行った処置群の対象間での二次的影響と外部的有効性 *124 について対策手法や確認手法が十分に開発・整備されていない問

題が存在する。

特に 2)処置を行った処置群の対象間での二次的影響と外部的有効性の問題については、統計的方法において当該問題への対策手法を開発することは原理的に非常に困難であるこ

とから、実験的方法における有効な対策手法や確認手法の開発・整備を進めていくことが

必要である。

6-3-2-2. マッチングを用いた統計的方法における SUTVA-NI の対策手法及び確認手法の開発・整備

3-3-2.での既存の対策手法についての説明及び 3-4.におけるまとめで説明したとおり、マッチングを用いた統計的方法の場合における SUTVA-NI の問題については、未だ対策手法及び確認手法が知られていない。

*125 例えば本件処置効果評価において用いた福島県産米の相対取引価格について、他産地・銘柄米をマッチングにより対照群として選定し目視で並行推移性を確認して DID を行った場合を想定ありたい。そのような分析の結果は 5-3-3-3.で示した「 OVLA+CIA 」の結果に近いものとなっているはずであり、SUTVA-NI に起因した非常に大きな偏差が残留していると推定され、当然に再検証の必要があるものと考えられる。

- 142 -

本稿においては時間方向に多数の試料が得られることを与件として、主として合成対照

群を用いた統計的方法を念頭に 4-2.及び 4-3.で説明した"BAI-DIDI 比"の回帰分析などの手法を用いて個々の対照群の対象についての性質を調べることにより当該問題への対応を図

っている。

しかし、一般に多数の対象の試料を用いるものの時間方向の試料が相対的に少ないマッ

チングを用いた統計的方法においては、個々の対照群の対象について利用可能な情報が少

ないため、本稿が用いた手法に類似した手法が適用できる可能性は非常に低いものと考え

られる。

他方でマッチングを用いた統計的方法を適用した場合においても SUTVA-NI に起因した問題が生じる可能性は十分に存在する訳であり、当該方法を用いた処置効果評価の場合で

あっても有効な対策手法や確認手法の開発・整備を進めていくことが必要である。

更にマッチングを用いた統計的方法によって過去に行われた主要な処置効果評価の結果

のうち、SUTVA-NI に起因した問題の存在が疑われるものについては、本稿において開発した新たな対策手法や今後開発されるべきマッチングを用いた統計的方法での新たな対策

手法などを用いて再検証を行うことが必要*125 であると考えられる。

- 143 -

補論 処置前における処置群・対照群に顕著な外的要因の影響が存在する場合での

"BAI-DIDI 比"の回帰分析上の問題点と対策について

本論の 4-2-1-5.では処置の二次的影響の不存在性条件(SUTVA-NI)の問題への対策手法における前提条件として、処置前又は処置後における顕著な外的要因の影響の不存在性が充

足されていることが必要であることを説明したが、以下当該前提条件が充足されなかった

場合の問題点と対策について説明する。

4-2-1-5.で説明したとおり、一般に処置後においては顕著な外的要因の影響が存在する場合を特定し識別することは困難であり、「処置後において顕著な外的要因の影響は存在

しなかった」という前提条件が充足されているものと仮定した上で処置効果評価を行うこ

ととなる。

このため、本補論では処置前において顕著な外的要因の影響が存在する場合について説

明する。

また、本補論では"BAI-DIDI 比"の回帰分析上の問題点について説明するが、"BAK-DIDI比"の回帰分析の場合であっても問題点は全く同様であるため説明を省略する。

1. 処置群又は対照群のいずれかにのみ顕著な外的要因の影響が存在する場合処置前の処置群又は対照群のいずれかにのみ顕著な外的要因の影響が存在する場合に

は、4-2-1-4.で説明したとおり処置の選択の独立性条件(CIA)の充足に問題を生じることとなる。

従って、対照群の対象に処置群に見られる顕著な外的要因の影響が見られない場合や、

対照群の対象に処置群にはない顕著な外的要因の影響が見られる場合には、合成対照群の

推計や並行推移性の定量的確認の過程において CIA が充足されるよう対照群の対象を取

捨選択することによって問題を回避することが可能である。

2. 処置群及び対照群の両方に顕著な外的要因の影響が存在する場合処置前の処置群及び対照群の両方に顕著な外的要因の影響が存在する場合でも、処置群

と対照群の影響が大きく異なっている場合には上記 1.と同じであり、CIA が充足されるよう対照群の対象を取捨選択することによって問題を回避することが可能である。

他方で処置前の処置群及び対照群の両方に顕著な外的要因の影響がほぼ同程度に存在す

る場合には 4-2-1-4.で説明した CIA は充足されることとなるが、以下の 3.で説明するとおり当該場合においては"BAI-DIDI 比"の回帰分析上での問題を生じるため、顕著な外的要因の影響が存在する期間の試料を当該分析から除外するなどの措置が必要である。

ここで「顕著」か否かの基準については、本論で用いた福島県産など国産米の相対取引価

格の事例では 2002 年度に凶作の影響で平年の 1.5 倍近い価格上昇が生じているが、このような場合には「顕著」な外的要因の影響が存在する場合であると考えることができる。

本論の図 5-1-3-2-1-1.などを参照ありたい。

3. 処置群及び対照群の両方にほぼ同程度に顕著な外的要因の影響が存在する場合式補 1-1.に処置群及び対照群の両方にほぼ同規模の顕著な外的要因の影響が存在する場

合の問題点について示す。

処置群に対して対照群の対象を 1 つだけ用いた"BAI-DIDI 比"は式補 1101 のとおりであ

- 144 -

り、本論の式 4-2-2-3-1-1.中の式 42231104 に示すとおりである。本論 4-2-2-3.で説明した処置の二次的影響の有無の識別手法は、式 42231104 の第 2 項

部分が時点 s,u の関数であることを利用し、多数の時点 s,u について処置群・対照群の対象の試料を用意した上で式補 1102 に示す本論の式 4-2-3-3-1-1.中の式 42331102 で説明した回帰分析により式 42231104 の第 1 項部分を定数項 Γ0i として検出することにより識別を行っている。

仮に当該顕著な外的要因の影響が処置前の時点 t-s*にのみ存在しているとし、当該顕著な外的要因の影響を Za(t-s*)とする。当該 Za(t-s*)は「顕著」であり処置効果や他の時間変動部分などよりも大きいとする。

当該対照群が処置群との間で CIA が充足されている場合、式補 1101 の分母部分である当該対照群の対象だけを用いた横断面前後差"DIDI"では Za(t-s*)は処置群と相殺されて消滅するが、式補 1101 の分子部分である当該対照群の対象だけに関する前後差"BAI"にはZa(t-s*)が含まれることとなる。上記のとおり処置前の特定の時点 t-s*にのみ外的要因の影響 Za(t-s*)が存在する場合に

は当該特定の時点のみの影響は s の関数ではなく、更に評価分析を行おうとする時点 t+uにおける処置効果 ZFk(t+u)が u が変化したもほぼ等しい場合には Za(t-s*)と ZFk(t+u)の比もほぼ一定となるため、多数の時点 s,u に関して試料を集めて回帰分析を行った場合であっても時点 t-s*については式補 1105 の第 2 項に示すとおり二次的影響の係数 αi と無関係な

定数項が生じてしまうこととなる。

仮に Za(t-s*)が他の時点での時間変動と同程度のものである場合には、評価時点と当該時点の共通的な時間変動の差(Za(t+u)-Za(t-s*))は式補 1101 の第 2 項の一部として扱われ"DIDI"の逆数の係数となり定数項には影響を与えない。また仮に Za(t-s*)が極端に大きくない場合や試料時点数が十分に大きい場合には当該時点 t-s*における二次的影響の係数 αi

と無関係な定数項部分は式補 1102 の εb(s,u)に示す回帰分析の誤差として扱われ定数項に大きな影響を与えないはずである。

しかし現実の試料時点数には制限があり、Za(t-s*)が「顕著」であって非常に大きい場合には定数項の推計結果に偏差を生じることとなる。

また評価分析を行おうとする処置後の時点 t+u における処置効果 ZFk(t+u)が u が変化してもなおほぼ等しいかどうかは、処置効果評価を行う前には判別できず識別に用いること

はできない。

従って処置群及び対照群の両方にほぼ同程度に顕著な外的要因の影響が存在する場合に

おいては、仮に CIA が成立している場合であっても、当該顕著な外的要因の影響が存在

する期間について処置群・対照群とも分析に用いる試料から除外することが必要である。

[式補 1-1. 処置群及び対照群の両方に顕著な外的要因の影響が存在する場合の問題点](本論の式 4-2-2-3-1-1.及び式 4-2-3-3-1-1.を参照)

(”BAI-DIDI 比")BIDR(s,u) = BAI(s,u) ・ DIDI(s,u)-1

M・αi M・(β・Xi(t+u)-β・Xi(t-s) +Za(t+u)-Za(t-s) +Zbi(t+u)-Zbi(t-s) +εi(t+u)-εi(t-s))= + M

( 1 - M・αi ) ( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)k=1

式補 1101(式 42231104 再掲)

- 145 -

(”BAI-DIDI 比"を用いた回帰分析)

BIDR(s,u) = Γ0i + Γ1i・DIDI(s,u)-1+ εb(s,u)式補 1102(式 42331102 再掲)

M・αi

⇒ Γ0i = ( 1 - M・αi ) 式補 1103(式 42331103 再掲)Γ0iαi = M・( 1 + Γ0i ) 式補 1104(式 42331104 再掲)

(特定の時点 t-s*にのみ顕著な外的要因の影響 Za(t-s*)が存在する場合)BIDR(s*,u) = BAI(s*,u) ・ DIDI(s*,u)-1

M・αi M・( Za(t-s*) -Za(t+u))= - M

( 1 - M・αi ) ( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)k=1

M・(β・Xi(t+u)-β・Xi(t-s*) +Zbi(t+u)-Zbi(t-s*) +εi(t+u)-εi(t-s*))+ M

( 1 - M・αi )・Σ ZFk(t+u)k=1

Za(t-s*) >> Za(t+u), Za(t-s) | s ≠ s* 式補 1105

s, s*, u 処置前の時点 t-s, t-s*, 処置後の時点 t+u (s,s*,u >0)k, i 処置群の対象 k 及び対照群の対象 iM 処置群の対象 k の試料数 MXi(t-s),Xi(t-s*),Xi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i について観察可能な説明変数β 観察可能な説明変数 Xの係数Za(t-s), Za(t+u) 時点 t-s, t+u での全対象に共通的な未知の時間変動部分Za(t-s*) 時点 t-s*での全対象に共通な未知の時間変動部分(顕著に大)Zbi(t-s),Zbi(t-s*), Zbi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i に個別的な未知の時間変動部分εi(t-s),εi(t-s*), εi(t+u) 時点 t-s, t+u での対照群の対象 i 毎の誤差項ZFk(t+u) 時点 t+u での処置群の対象 k に個別的な未知の処置効果αi 時点 t+u 前後で対照群の対象 i が処置群の対象から受ける未知の処置の二次的

効果 (0 の場合を含む, 2 期以上の一定期間内で同一)αi "BAI-DIDI 比"又は"BAK-DIDI 比"を DIDI(s,u)-1

で回帰分析した定数項から推計し

た αi の推計値

BAI(s,u), BAI(s*,u) 時点 t-s,t-s*,t+u の間の対照群 1 つだけに関する前後差DIDI(s,u),DIDI(s*,u) 時点 t-s,t-s*,t+u の間の対照群を 1 つだけ用いた横断面前後差BIDR(s,u),BIDR(s*,u) BAI(s,u)と DIDI(s,u)の比 又は BAI(s*,u)と DIDI(s*,u)の比Γ0i, Γ1i "BAI-DIDI 比"を DIDI(s,u)-1

又は DIDI(s*,u)-1で回帰分析した係数

εb(s,u) "BAI-DIDI 比"を DIDI(s,u)-1又は DIDI(s*,u)-1

で回帰分析した誤差

4. 処置前における処置群・対照群に顕著な外的要因の影響を考慮しなかった場合の偏差の例

具体的に本論で実証分析に用いた本件震災・事故前後での福島県産米価格などの事例に

おいて、処置前における処置群・対照群に顕著な外的要因の影響を考慮しなかった場合の

偏差について推計する。

本論での推計においては、4-2-1-5.での SUTVA-NI の問題への対策手法における前提条件を充足すべく 2002 年 9 月から 2003 年 8 月迄の凶作による価格高騰期での処置群・対照群の試料を分析から除外しているが、当該期間を分析から除外した場合と除外しなかった

場合を比較することにより顕著な外的要因の影響を考慮しなかった場合の偏差が推計でき

る。

図補 1-1.に本件震災・事故前後での福島県産米価格などの事例において処置前における処置群・対照群に顕著な外的要因の影響が存在する場合での偏差の推計について示す。

- 146 -

図補 1-1.において「外的要因の影響あり」は最適ウェイトを用いた合成対照群の推計による DID について凶作による国内産米価格への顕著な外的影響の要因が存在した 2003 年 8月から 2004 年度 9 月迄の試料を処置前の試料として除外せずに一連の推計を行った結果を示し、「外的要因の影響なし」は本論のとおり当該期間の試料を除外して推計を行った結

果を示している。

当該図補 1-1.において観察されるとおり、「外的要因の影響あり」の場合には「外的要因の影響なし」の場合と比較して価格の下落幅が極大となる 2014 年 1Q から 2Q 迄の評価区

間において処置効果評価が 95 %信頼区間を外れ約 10%過大推計となることが確認される。

[図補 1-1. 本件震災・事故前後での福島県産米価格などの事例において処置前における処置群・

対照群に顕著な外的要因の影響が存在する場合での偏差の推計]

200

2年度

200

4年度

200

6年度

200

8年度

201

0年度

201

2年度

201

4年度

201

6年度

201

8年度

-0 .550

-0.500

-0.450

-0.400

-0.350

-0.300

-0.250

-0.200

-0.150

-0.100

-0.050

0.000

0.050

対 本件震災・事故前平均 比率

外的要因の影響なし

信頼区間上限

信頼区間下限

外的要因の影響あり

顕著な外的要因の影響による偏差の推計( 2003年度の価格高騰の影響の有無による推計)

- 147 -

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