大学入試 数学 · 2019-05-24 ·...

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この冊子の内容は次の URL からもアクセスできます http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kou/math/ 学 校 法 人 河合塾 数学科講師  寺尾 仁志 2019 平成 31 年度 大学入試センター試験 および 国公立大二次・私大 大学入試 分析 対策

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Page 1: 大学入試 数学 · 2019-05-24 · 2019年度のセンター試験と,国公立二次・私大入試を 総括し,次年度以降の学習対策を述べることにする。

この冊子の内容は次のURLからもアクセスできますhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/kou/math/

学 校 法 人 河合塾数学科講師 寺尾 仁志

2019平成31年度数

大学入試センター試験および国公立大二次・私大

大学入試分析と対策

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 本稿ではいくつかの入試問題を引用していますが ,

紙面の都合上,設問の一部を省略したり表現を改変したりした箇所があります。 なお,大学入試センター試験の問題はトピックスが多いため,問題文を引用していません。問題文については河合塾のホームページなどをご覧ください。

 2019年度大学入試が終了した。2年後には大学入試改革を控えている今年度の問題はどうであったか。傾向や難易度の変化,トピックスなどを中心に本稿では,2019年度のセンター試験と,国公立二次・私大入試を総括し,次年度以降の学習対策を述べることにする。

 ここでは,主として「数学 I・A」および「数学 II・B」の2科目の出題内容についての分析と,次年度以降の学習対策を述べることにする。

(1) 大問構成

 今年度の大問構成は以下のようになった。ただし,括弧内は配点であり,★は選択問題(2問選択)である。数学Ⅰ・A

 問題の出題形式は昨年度と同様であった。必答問題は2題で,選択問題は3題から2題を選択する形であった。昨年度と比べるとマーク数,問題数ともに増加していた。

はじめに0

大学入試センター試験1

大問 単   元1 [1] 数と式(10)

[2] 集合と論理(10)[3] 2次関数(10)

2 [1] 図形と計量(15)[2] データの分析(15)

3 ★場合の数と確率(20)4 ★整数の性質(20)5 ★図形の性質(20)

数学Ⅱ・B

 問題の出題形式は昨年度と同様であった。必答問題は2題で,選択問題は3題から2題を選択する形であった。また,マーク数,設問数は昨年度に比べ増加した。

(2) 難易度の変化

 「数学 I・A」の平均点は59.68点,「数学 II・B」の平均点は53.21点であった。昨年度との比較は次のようになる。

 「数学 I・A」の平均点は昨年度より2.29点下がった。選択問題は少し難化したが,必答問題は易化した。 しかし,その易化した必答問題のなかに少々難しい問題もあり,その分平均点が下がったのだろう。 「数学 II・B」の平均点は昨年度より2.14点上がった。数学 I・Aに比べると,全体的に解きやすかったように思う。一方,標準偏差は「数学 I・A」は,20.07,「数学 II・B」は23.00と昨年度とほぼ同じであった。

(3) 「数学Ⅰ・A」の問題分析

 大学入試センターからは,大問別平均点は発表されていないので,河合塾が実施した「答案再現分析」による大問別平均点を次の表に示す。(「答案再現分析」とは,受験生がどの問題にどのマークをしたかを調査したもの。今年度は「数学 I・A」で8,390件,「数学 II・B」で8,041件のデータを収集した。なお,「答案再現分析」による平均点は「数学 I・A」で66.6点,「数学 II・B」で59.7点であり,答案再現分析により抽出された標本は,全母集団に比べてやや上方に分布している。)

大問 単   元1 [1] 三角関数(15)

[2] 指数・対数関数(15)2 微分法・積分法(30)3 ★数列(20)4 ★ベクトル(20)5 ★確率分布と統計的推測(20)

平成30年度 平成31年度数学Ⅰ・A 61.97 59.68

数学Ⅱ・B 51.07 53.21

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 次に,今回出題された問題についてのコメントと,次年度以降の学習対策について述べていきたい。なお,以降で登場する正答率はすべて上の「答案再現分析」に基づいたものである。

① 数と式 [1]は,因数分解,無理数の計算,絶対値記号を含む式の計算の問題。因数分解,絶対値記号を外す計算の出来はかなりよかった。最後の aA 2 13= + となる a の値の出来が,正答率73.8%,51.2%であった。絶対値が外せれば正解できそうな問題だがこのような結果になっていた。教科書の研究,発展レベルまで幅広く学習しておいたほうがよい。 [2]は,条件の否定,命題の真偽の判定の問題。条件

p の否定が,「 m ,n の少なくとも一方は偶数である」ということがわかっていれば正解できる問題である。正答率は88.9%,70.5%であった。後半の誤答で最も多かったのは,1の奇数を選択していたもので24.0%もあった。

これは驚く数値である。受験生のおよそ 14

が否定をき

ちんと理解できていなかったのだろう。必要,十分を考えさせる問題は,  セ ,  ソ の出来はよかったが

 タ は正答率69.3%であった。対偶を考えればよいのだが,そのまま対偶をとらずに考えた生徒も多いだろう。対偶を考えさせたい問題とするなら,いささか中途半端な印象を受けた。また,必要でも十分でもないという解答は2016年度以来の出題であった。

② 2次関数 2次関数のグラフの頂点の座標,最大値,平行移動の問題。まず,2次関数のグラフの頂点の座標を求める問題であるが,さすがに例年出題されているだけあってよくできていた。次の b を a の関数と見て b の最大値を求める問題は正答率68.6%と悪かった。しかし次の平行移動の問題は,b の最大値が求められている生徒は正答率(65.8%

~68.1%)からするとほぼ正解していたようである。

③ 図形と計量 [1]は,3辺の長さが与えられた三角形において,余弦定理や三角比の定義を利用し,さらに三角形の面積を求める問題。後半の垂直二等分線が登場してからの出来は,70.8%,50.5%,36.5%となっている。  ク  ,  ケ については図を丁寧にかけば CAD+ が BAC+ の補角であることに気づくだろう。以降は,三角比の定義や面積公式で解ける問題なのでこのように正答率が落ちていくのは不思議である。ここでは数学Aの図形の性質と融合にならないように工夫して出題しているように感じる。よって,図形を丁寧にかき状況を把握すれば基本で解けるので基本をしっかり学習しておけばよいだろう。

④ データの分析 [2](1)は箱ひげ図からヒストグラムを読み取る問題。最大値にだけ注目すれば解答できる問題であった。(2)は箱ひげ図と散布図から正しくないものを選ぶ問題。直線 y x= と2本の平行な直線をうまく活用できたかがポイント。問題文の切片 15! と散布図の目盛りが異なる表現なので戸惑った生徒が多かったようである。出来は87.2%,70.2%とさほど悪くはなかった。(3)はデータの正規化の問題。センター試験では頻出となっている変数変換の問題である。偏差,平均,標準偏差は地道に計算すれば求まる。平均を0,標準偏差を1にする正規化なので知識があれば計算しなくても答えられた。出来は40.0%,28.8%,19.9%であった。次年度以降も出題される可能性が高いのでしっかり学習させておいたほうがよいだろう。最後は変換後のデータの散布図を選ぶ問題。平均が0になるような平行移動と標準偏差が1

より 1- と1の間にデータがおさまっていないものを選べばよい。出来は悪いだろうと正答率を見ると30.9%で意外とできているのに驚いた。しかし,よくよく考えて

みると,4つの図から正解を選ぶので確率 14

で正解す

るはずであるから,ほぼ理論どおりだなと納得した。ある生徒の話であるが,「解答は⓪か②で迷った後最初に解答がくるはずないと②の正解を選んだ」と言っていた。よいか悪いかは別にして,センター試験ならではだと思った。ちなみに誤答率は,① 選択が23.0%,③ 選択が20.8%,④ 選択が18.5%となっている。前述のように考える生徒の分だけ正解の正答率が少し高かったのだろう。次年度以降も同じようなテーマが出題される可能性が高いと思われる。

問題番号 平均点 満点1 [1] 8.0 10

[2] 8.0 10

[3] 7.8 10

2 [1] 10.5 15

[2] 10.1 15

3 9.8 20

4 12.5 20

5 11.9 20

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⑤ 場合の数と確率 2つの袋に入った球を取り出す問題。(1),(2)の出来はよかった(正答率85%以上)。(3)は確率漸化式を解き慣れている生徒には解きやすかっただろう。正答率は40.0%とここでかなり出来が悪くなっている。しかし,この式を用いて考える次の問題の正答率は42.6%

と上がっている。これは前の問題を使わず2回目に白球が出る確率を求めたのだろう。しかしその発想では,3回目の操作は考えられなかったようで,次の正答率は27.9%になっていた。(4)の条件付き確率も前半の2回目の操作までの問題の正答率は24.3%で3回目の操作までの問題の正答率は9.8%とかなり悪かった。昨年度に引き続き,条件付き確率が2問出題された。やはり,条件付き確率はこれからも出題されるだろうから,しっかり練習しておきたい。

⑥ 整数の性質 (1)は昨年に引き続き1次不定方程式の問題。少々解は見つけにくい。互除法を用いてもよいが,解答欄を見ると x=  ア で x は1桁であるから頑張って見つけたほうがはやいだろう。正答率84.9%と他の選択問題の(1)と比べると少々出来が悪い。新課程になってから4年目のセンター試験であるが,1次不定方程式は3回出題されている。完璧に解けるようにしておいたほうがよいだろう。(2)の A ,B の差が1となる A ,B の正答率は76.3%で, A ,B の差が2となる A ,B の正答率は44.8%であった。同じように考える問題に関わらず,この出来の差は経験不足からくるものだと予想される。(3)のすべての自然数 a で a a a1 2+ +] ]g g が m の倍数の最大の m を求める問題の正答率は48.9%であり,3の倍数と答えたものが10.3%,2の倍数と答えたものが8.7%であった。3の倍数はわかるが,2の倍数は適当に答えたのだろう。(4)の最後の問題の b を求める問題は,素因数分解の結果と(2)を利用すればよいが難しかっただろう。出来は13.0%であった。 次年度以降も,1次の不定方程式を中心に整数の剰余による分類,n 進法など幅広く学習しておいたほうがよいだろう。

⑦ 図形の性質 今年度はかなり図形の計量の内容が含まれていた。前半は内接円の半径,接線の長さ,余弦定理の問題。余弦定理を用いるDEの長さを求める問題が59.4%と出来が悪かった。後半は,チェバの定理を用いる問題が正答率

60.5%,IQの長さを求める問題が42.9%であった。IQはQが内接円と辺BCの接点であることに気づかなかった生徒が多かったようである。最後は三角形DEFで正弦定理を用いるとよいが,出来は14.2%とかなり悪かった。今年度の問題を見る限り図形の計量との融合問題にも慣れておいたほうがよさそうである。

(4) 「数学Ⅱ・B」の問題分析

 「答案再現分析」による大問別平均点を次の表に示す。

① 三角関数 sini ,cosi の2次同次式の問題。頻出問題が出題された。(1)(2)は,ほぼ80%以上の出来でよくできていた。(3)の三角関数の合成は82.2%とよくできていた。最大の整数値 m の値,またそのときの i の値の出来は60.9%,57.8%と悪かった。単なる最大値ではなく,最大をとる整数値という出題だったのでこのような結果になったのであろう。基本的な公式を確実に理解し方程式,不等式,最大最小の問題を重点的に学習しておくべきである。

② 指数・対数関数 連立方程式の問題。全体的によくできていたが,連立方程式の解となる x ,y の値の正答率が51.6%,39.2%

と悪かった。ここでは,指数関数,対数関数のグラフの特徴を捉える問題や,最大値・最小値を求める問題など,計算やグラフにも慣れておきたい。

③ 微分法・積分法 (1)は,3次関数の極値に関する問題。基本的な問題であり正答率も高かった。(2)は,放物線の接線,面積の問題。面積の正答率は65.4%,65.8%であった。面積に関しては毎年出題されるから完璧に求められるように練習しておくべきである。(3)は接線が3次関数にも接する条件を加え面積 S を決定する問題である。x g xf -] ]g g を求める以降の問題の正答率は 37.0%,

23.0%,16.8%とかなり悪かった。グラフの共有点の座

問題番号 平均点 満点1 [1] 11.9 15

[2] 10.8 15

2 18.5 30

3 8.0 20

4 10.9 20

5 7.1 20

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標から式を考えることができていないようである。この分野の問題はしっかり誘導にのって図を正確にかき,丁寧に計算をする練習をしておいたほうがよい。まだ4次以上の関数についての微分法や3次以上の関数についての積分法について出題されていないから注意しておきたい。

④ 数列 等比数列とその等比数列を階差数列にもつ数列の問題。(1)の出来はよかった。(2)の階差数列を用いてTn" , の一般項を求める問題の出来が45.1%であった。

階差数列の公式を用いた際, 4kk

n

1

1

=

-

! が現れるがシグマの公

式利用に比べると正答率は下がるようだ。本質的に理解していない生徒が多いことがわかる。(3)は隣接二項間漸化式の問題。まず Tn" , の一般項から Tn" , の漸化式を作る問題。出来は23.6%。次に an" , の一般項を求めるのにヒントとして, bn" , を与え bn" , の漸化式,一般項と求めていくのだが,正答率は7.8%,5.9%と全くヒントになっていなかった。やはりこれからも数列の出題は分量が多く,題材としても従来のセンター試験の問題より国公立大の二次試験の問題に近いものが出題されることが多いと覚悟して,出題の意図,誘導の意味などを見抜く力などを養成しておく必要がある。

⑤ ベクトル 前半は内積の演算の問題。正答率は65%以上あるが,(2)の最後の四角形ABCDの面積は37.3%と悪い。前半,図の状況把握をせず計算だけで押し通し,面積となったときに図の状況の把握ができていないため悪かったのだろう。(3)は,Hの位置を決定して,三角錐の高さ,体積を求める問題。条件より s , t の関係式を作り s ,t の値を決定するという生徒もこれまでしっかり練習してきた内容だが30%前後と出来は悪い。(4)は底面積の比から体積や高さを求める問題だが,(3)ができていないとここは苦しい。正答率は,28.7%,12.1%であった。「ベクトル」の問題は従来と変化はないと思われるが,図形的な分析や少し計算が煩雑な問題にも対応できるような練習をしておくことが大切である。

⑥ 確率分布と統計的な推測 (1)は,期待値,分散の計算の問題。(2)は,正規分布から標準正規分布への確率変数の変換,二項分布の問題。(3)は,母平均に対する信頼度区間90%の問題。確率密度関数が与えられた連続型確率変数の問題。

確率密度関数の登場は初めてであった。正答率は(1)の  ウ のみ73.4%であとは全て50%を切る結果だった。問題としてはすべて標準的な問題で教科書をしっかり学習しておけば解ける問題であった。これからも,確率変数の期待値や分散,二項分布や正規分布に加え,母平均や母比率の推定についても基本事項をしっかり学習しておけばよいだろう。

(5) 選択問題の選択率

 「答案再現分析」によると,「数学 I・A」の選択問題の選択率は「確率+整数」が40.1%で最も多く,続いて「確率+図形」の30.9%,「整数+図形」の30.8%となった。昨年度と異なり「確率+整数」が「確率+図形」の選択率を上回った。また,「数学 II・B」は「数列+

ベクトル」が97.9%であった。

(1) 今年度の特徴

 今年度の全国の入試問題を大学別に見渡すと,難易度的には例年通りの大学が多かった。中には,東京工業大のように,かなり難化していた大学もあった。また,広島大のように,すべての問題ではなく1問だけ難易度の高い問題を出題しているような大学もあった。内容的な特徴としては,昨年度まで複素数平面の問題は年々増加していたが,今年度はそれにストップがかかり問題数的には減少していた。さらに,データの分析の問題は例年出題する大学では継続して出題されていたように思う。それ以外の分野では,数列の漸化式の問題の出題が爆発的に増えていた。理由はわからないが,文理問わず(I・A,II・B型のほうが多かった)出題されていた。問題の詳細は以降に挙げていく。

(2) 分野の選択について

 今年度は,滋賀大(データサイエンス学部)では例年通りの数学Aと数学Bの選択ではなく,3で数学 I(2次関数),数学B(確率分布)の選択になっていた。また,鹿児島大でも例年通りの数学Bの数列,ベクトル,確率分布からの選択ではなく,3で数学A(確率),数学B

の内容(数列,ベクトル)からの選択となっていた。

国公立二次試験,私大入試など2

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(3) 「データの分析」の問題

 今年度国公立大で出題されたのは,信州大,福井大,神戸大,名古屋市立大などであった。出題された内容は,信州大では数列とデータの融合問題で,等差数列の平均,分散を求める問題,福井大では標準偏差,相関係数の問題でデータの傾向を読み取る難易度の高い問題であった。また,次の問題は神戸大(後期)で出題された,ベクトルとの融合問題で,相関係数がベクトルの内積における cos であることを利用した問題である。

 2つの科目 X ,Y の試験を受けた3人の生徒の得点と,それぞれの科目の得点の平均点と標準偏差を以下のとおりとする。 

 ただし, s 0x! かつ s 0y! とする。科目 X と科目 Y の得点の相関係数 r は

    r

x x y

x x y

y

y

i

i

i

i

i i

i

2

1

32

1

3

1

3

=

- -

- -

= =

=

]

] _

_g

g i

i! !

!

で与えられている。 座標空間内に3点O(0,0,0),A( x1 , x2 , x3 )B( y1 , y2 , y3 )をとる。Oを通り,方向ベクトルが

(1,1,1)の直線を l とする。l 上の点Pを PA と l

が垂直になるようにとり,l 上の点Qを QB と l が垂直になるようにとる。以下の問に答えよ。

(1)点P,点Qの座標と内積 PA・QB を   x,y,sx ,sy ,r を用いて表せ。

(2)asx y

y

=- とおくとき, BPAcos+ を a と r

   を用いて表せ。(3)(略)

 データの分析の出題は,国公立大では多いとは言えない。しかし,私立大ではほぼ毎年のように福岡大で出題されるほか,立命館大,関西学院大,同志社大などでも出題されている。また,今年度の福井大や神戸大のように他分野と融合になっているなど,難易度の高い問題が出題されている。よって,そういった問題に対処できるよう,少し高いレベルで基本的な統計量をしっかり求めたり,データから傾向を読み取ったりするような訓練が必要である。

(4) 「整数の性質」の問題

 頻出である不定方程式 ax by 1+ = の問題は金沢大,宮城教育大,和歌山大,福島大,鹿児島大などで出題された。小問程度で出題する大学が多い。また,約数,倍数に着目する問題の出題はさまざまにあったが,次の問題は東京大の問題である。

  n を1以上の整数とする。

(1)n 12+ と n5 92+ の最大公約数 dn を求めよ。

(2) n n1 5 92 2+ +] ]g g は整数の2乗にならないことを示せ。

 (1)は,ユークリッドの互除法を用いるが n を偶奇で場合分けして答える必要がある。(2)は,背理法を用いる。その際(1)を用いるのだが,互いに素や平方数の性質などの基本知識を使って論述しなければならない良問である。

 また,その他の大学で出題された整数問題の内容を挙げておく。• 不定方程式…山形大や,和歌山県立医科大,富山大,山口大,金沢大で出題されたが,特に和歌山県立医科大の問題では, x y789 789 622977+ - =-] ]g g とかなり大変な問題であった。• n 進法…問題数は減少していた。関西大では昨年に引き続き出題された。• 平方剰余…佐賀大,神戸大で出題された。神戸大では数列との融合問題であった。• 約数の個数…今年度は約数の個数問題も目立った。  大阪教育大,徳島大,大阪市立大(オイラー関数)などで出題された。• 素数…昨年度に引き続き京都大で出題され,首都大学東京ではメルセンヌ素数に関する完全数の問題が出題された。早稲田大などでも出題されている。

 次の問題は,京都大の問題である。

  f x x x2 23 2= + +] g とする。 f n] g と f n 1+] g がともに素数となる整数を求めよ。

 この問題は, f n] g ,または f n 1+] g が偶数になることと,偶数の素数は2に限ることがポイントになる問題である。京都大では昨年に引き続き,素数をテーマにした問題が出題された。年々整数問題のレベルが上がって

生徒1 2 3 平均値 標準偏差科目 X x1 x2 x3 x sx

科目 Y y1 y2 y3 y sy

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きているので,整数の性質を幅広く学習し,しっかり論証できる力を身につけておくことが必要である。

(5) 「確率」の問題

 条件付き確率の出題は,山形大,千葉大,広島大,九州工業大,熊本大などで出題された。熊本大では三角関数との融合問題であった。昨年度に比べれば出題する大学も増えていた。私立大でも,早稲田大,関西学院大,立命館大などかなりの大学で出題されている。また,条件付き確率以外でも確率の最大を求める問題が早稲田大,点の移動の確率が四国の香川大,高知大,徳島大,昨年に引き続き東京大などで出題されている。東北大(後期)の反復試行の確率で2進法表示にして考えるとよい問題はレベルも高くおもしろい。最後は条件付き確率である。 やはり確率も条件付き確率だけにとどまらず幅広く学習しておくべくだろう。

(6) 「漸化式」の問題

 今年度はかなり多くの漸化式の問題が出題された。一部を次に挙げてみる。

 上記以外でも,秋田大,名古屋大,広島大,島根大,大分大,岡山大,横浜市立大,静岡大,琉球大などかなりの大学で漸化式の問題が出題された。漸化式を解く問題では,誘導がついている出題が多いが,東北大(文)でヒントなしで両辺対数をとる漸化式が出題されている。解法を知らないと厳しいので日頃学習するときは,ある程度形を見てどのように変形すればよいか方針を立てられるように学習しておくべきだろう。今年度は,広島大,東北大,静岡大,琉球大など対数をとるタイプの出題が多かった。それ以外では,秋田大,名古屋大,大分大では連立の漸化式,山梨大ではフィボナッチ数列の

出題もあった。また,横浜市立大では漸化式を立式させる問題が出題された。漸化式は,確率や複素数平面との融合でもよく出題されるのでしっかり学習しておくことは大事である。

(7) 「微分法・積分法(数学III)」の問題

 数学 IIIの微分法・積分法に関しては大きな変化はないが,どのような出題があったかを報告する。

 福島県立医大では, limsinxx

1x 0

="

の証明が出題され

た。2013年に大阪大で出題されたときはノーヒントであったが,今回は参考図が与えられているので,かなりヒントになったのではないだろうか。(2)は,定義にしたがって sinx の微分が出題されている。やはり,しっかり基本から学習することが大事である。京都大や東京大でもやはり基本的な内容は出題されている。

 次の問題は京都大の問題である。

 次の定積分の値を求めよ。

(1) cos xxdx2

0

4r

#

(2) cosxxd

0

r

#

 日頃から,部分積分や置換積分などをコツコツ練習していれば解答できる問題である。また,東京大(理)でも第1問で次のような問題が出題されている。

 次の定積分を求めよ。

xx

x

x

x

xdx

1 11

12

20

1

2 2+

++

+ +e e

]o

go#

 この問題は展開してそれぞれの項を置換積分を活用していけば求められる。 類題としては,2007年京都大で,

x

xdx

4

2 12

0

2

+

+#が出題されている。

大学 漸化式鹿児島大 a pa n n3 3n n1

2= + ++

熊本大 aa2

1nn

1= ++

山口大 aa

23

nn

1= ++

鳥取大 a a an

12

n n n1- = ++ d n

山梨大 a a an n n2 1= ++ +

東北大 a a a2n n n2 1 12=+ + +

一橋大 a a a 13n n n2 1= - ++ +

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 やはり基本は大事である。その他の内容としては,九州大では積分方程式,名古屋大,三重大などでは積分の漸化式と積分法が中心の出題となっている。また,面積の出題では,一橋大の双曲線関数や神戸大の媒介変数表示の問題などがあった。特に,神戸大の問題は媒介変数表示された関数の2階微分の出題もあり,その他の大学でも出題があった。授業では,しっかり微分の方法の確認が必要だと再認識させられた。体積の出題は多かったが,群馬大では極方程式で表された曲線を y x=- のまわりに回転してできる立体の体積が出題された。テーマは違っても,いずれの問題も基本的に微分する,積分するといった基本計算のうえで成り立っている問題がほとんどなので,まずしっかり計算できるようになることが大事であると感じた。

(8) 「入試問題トピックス」

( i )「有理数の生成」の問題次の問題は大阪大の問題である。

 下の図は, 11

から始めて分数 qp

の左下に分数

p qp+

,右下に分数 qp q+

を配置するという規則でで

きた樹形図の一部である。このとき以下の問いに答えよ。

(1) この樹形図に現れる分数はすべて既約分数であることを示せ。

(2) すべての正の有理数がこの樹形図に現れることを示せ。

(3) この樹形図に現れる有理数はすべて異なることを示せ。

(4) 1449

はこの樹形図の上から何段目の左から何番

   目に配置されるか答えよ。

     

 これは有理数を生成する樹形図の問題である。すべての有理数がこの樹形図に現れる点が興味深い。互除法 , ,, ,G p q G p GG p q p qq 1 1/ / /+ +] ] ] ]g g g g を用いれば(1)は示せる。(2)(3)は背理法を利用すればよいがなかなか難易度は高い。最後の問題は,樹形図の上から左下への移行を0,右下への移行を1と表し,目標数までの数を2進法で表したうえで10進法に直せば,左から何番目というものは求められる。一橋大の後期でも同じ構造の2進法の問題が出題された。もちろん,個数を地道に考えてもよいが,合格した受験生でもなかなか手が出なかったようである。

( ii )「空間分割」の問題 次の問題は東京工業大の問題である。

 H1 ,H2 ,…,Hn を空間内の相異なる n 枚の平面とする。H1 ,H2 ,…,Hn によって,空間が

, , ,T H H Hn1 2 g] g 個の空間領域に分割されるとする。例えば…(省略)

(1) 各 n に対して , , ,T H H Hn1 2 g] g のとりうる値のうち最も大きいものを求めよ。

(2) 各 n に対して , , ,T H H Hn1 2 g] g のとりうる値のうち2番目に大きいものを求めよ。ただし,n 2F とする。

(3) 各 n に対して , , ,T H H Hn1 2 g] g のとりうる値のうち3番目に大きいものを求めよ。ただし,n 3F とする。

 今年度,東京工業大はかなり難易度が上がった。中でもこの問題が特に解答することが難しい。空間なので,n 枚の平面がある状態に n 1+ 枚目の平面を加え最大いくつの空間が増えるかを考える。    • どの2面も平行でない    • どの3面も1本の直線を共有しない    • どの3面も三角柱を作らない    • どの4面も1点を共有しないこれを満たすように平面を配置すれば,空間の増える個

数は最大となる。(1)は, n n61

5 63+ +] g 個,(2)は,

(1)の結果より1つ少ない n n61

53+] g 個,(3)は

, ,n 3 5 6g= のとき n n61

5 63+ -] g 個であるが,n 4=

のとき12個となる。これが13にはならないことの証明が大変である。 限られた時間内でしっかり記述するのは厳しいだろう。

12

13 2

332

13

11

12

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10

(iii)「2019」問題 次の問題は秋田大(医)の問題である。

 自然数 n の各位の数の和を S n] g で表す。たとえば,    S 2019 2 0 1 9 12= + + + =] g

である。次の問いに答えなさい。

(1)n S n 100+ =] g を満たす n を求めなさい。

(2)S n 100=] g を満たす最小の n を求めなさい。

(3) n S n27 2019E +] g を満たす最大の n を求めなさい。

 この問題は,思考力をはかる問題としてはいい問題だと思う。(1)は n a b10= + とおき不定方程式を解く問題。(2)は S 99999999999 99=] g であることを利用する。(3)は n S nF ] g であることに注意して,文字を限定する問題である。経験だけに頼らず考える癖をつけることが大事だと実感する問題。

(iv)「新傾向」の問題 次の問題は奈良県立医科大(前)の問題である。

 以下の問に答えよ。直線上で距離 L だけ離れた2地点P,Qを考える。時刻 t 0= に初速 cA でPを出発してQに向かって動き出した移動体Aの時刻 t での速度が, v t c eAA

kt= -] g

であるとする。ただし,cA も k も正の定数である。時刻 T にAがいる地点をRとする。同時刻 T にRを出発しQに向かう移動体Bの,時刻 t TF] g での速度は v t c e k t

B BT= - -] ]g g であるとする。ただし,cB は

正の定数である。以下の問いに答えよ。

(1) 移動体A,Bの時刻 t までの移動距離をそれぞれ txA] g , x tB] g で表す。 t 0F に対し txA] g を, t TF に対し x tB] g を求めよ。さらに,移動体A,Bの移動可能距離の上限,すなわち以下の定義する量 LA ,LB を求めよ。

      limL x tAt

A="3

] g , limL x tt

B B="3

] g

(2) , ,,L L L L L LL BAA B1 1 2+ の条件のもとで,移動体BがQに到達する時刻を t0 とする。t0 が最小となるようなRが定まる。そのときのPR間の距離を LA ,LB ,L を用いて表せ。

 2年後から始まる新入試に向けてこの問題はいい題材である。生活に密着した問題,読解力や思考力を要する

問題という意味でこれからこういった問題が増えるのではないだろうか。いささか物理選択者が有利になる問題設定という意味では気になるが,これからの対策として良問である。

 その他のトピックスを挙げておく。• 東京工業大:平面の方程式 例のなかで平面の方程式が与えられた。• 京都府立大:ブラーマグプタの証明 円に内接する四角形の面積公式の証明問題。• 東北大:複素数平面でラグランジュ型の恒等式

  z w z w z z z w z ww w1 1 2 22

12 2

12

1 22

2 122

2+ = + + - -] ]g g

 の証明。• 産業医科大:モーザー数列  円周上に n 個の点をとり,その全ての2頂点間を線分で結んで円をN個の領域に分ける問題。

 N n n n n241

6 23 18 243 24= - + - +] g である。

• 大阪大:球面の束の問題  文理共通問題として出題された。今年度は奈良県立医科大(前)でも出題された。

 今年度の問題を見渡し,知識があれば解きやすい問題,その場でしっかり考え抜く問題などさまざまな問題があるが,基本をしっかり学習し定着させ,それをフルに生かして思考する訓練がやはり最も大事であると再確認した。

 今年度の入試問題は,複素数平面や,条件付き確率など新課程となって入ってきた分野も落ち着いてきたように思う。当初は易しい問題も多かったが,整数問題など,難易度も増ししっかり学習していかなければ太刀打ちできない問題も多い。また,教科書で発展的な扱いとなっている内容(平面の方程式,合同式)なども学習しておいたほうがよい。全体的な難易度は,横ばいから少し上がり気味に感じる。よって,確固たる学力を身につけることがこれからは必要だと感じる。これから,我々もより深く入試問題を研究,分析し教育に生かしていきたい。

おわりに3

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寺尾 仁志(てらお・ひとし) 「全統高1模試」チーフ,高1・2教材で使用する「重要事項集」チーフを担当。河合サテライト講座,河合塾マナビスなど映像授業も多く担当している。学習指導要領を深く研究するとともに,模試の答案分析を通して生徒の弱点を分析し,教材や模試に反映させている。授業は高校1年から大学受験科,また東大・京大を目指すトップレベルから,スタンダードレベルまで幅広く担当。 問題の解法だけでなく,その中にある基本事項や重要事項などを生徒にしっかり理解させることを重視した生徒の学力に応じた丁寧な指導には定評がある。