論 説 世界市場インプレッション...(irfc)からの借入資金3,000億ルピー(約...

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鉄道車両工業 494 号 2020.4 はじめに 昨年 12 月中旬から 3 月までの約3か月間における、世界の鉄道ビジネス関連のメディア報道 記事からのインプレッションである。 世界の鉄道関連ビジネスは、インド、中国、欧州など様々な地域で活発に繰り広げられている。 その中でも最近は、中国よりインドに関する記事が非常に多くなっている。一方では、2 月 17 日に、アルストムがボンバルディアを買収するという、ゲームチェンジにもなるかも知れない大 きな動きが報じられた。アルストムとシーメンスとの統合話が出た 2017 年 9 月から約 2 年半 経った現在、中国の欧州進出の脅威はさらに高まっていると思われ、この統合を 2019 年 2 月 に否認した EU の欧州委員会側の許認可の事情は少し変わったのであろうか。 そもそもボンバルディアは、2001 年に統合される前は旧ボンバルディア社 ( カナダ ) とアド トランツ社(ドイツ)の2社であり、そのアドトランツ社は、1996年以前のAEG(アルゲマイネ・ エレクトリツィテート・ゲゼルシャフト社/ドイツ ) と旧 ABB ( アセア・ブラウン・ボベリ社/ スウェーデン ) で、その旧 ABB は ASEA ( アセア社/スウェーデン ) と BBC ( ブラウン・ボベ リ社/スイス ) などが核であり、1990 年代に合体した一大欧州連合体であったことはよく知ら れた経緯である。その意味で今回の M & A は、シーメンス等の一部を除くが欧州大連合体の再統 合の意味合いがある。果たしてどうなるのか、行方が気になる今日この頃である。 なお、今回は取り上げていないが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う鉄道への影響に関する 記事も増えてきており、3 月はほぼ毎日のように運行停止や対策措置、支援要請等多々報じられ ている。今後とも輸送、流通、生産等において鉄道業界への影響が懸念されるところである。 1. アジア 1.1 インド 1.2 中国 1.3 スリランカ 2. 欧州 ( ドイツ ) 3. ボンバルディアとアルストム 3.1 アルストムのボンバルディア買収計画 3.2 最近のボンバルディアの話題 世界市場インプレッション 世界市場インプレッション ― メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き ― (その38) ( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会 鉄道工業ビジネス情報研究会 13 論 説 論 説 4. 世界の車両メーカの業績 4.1 ボンバルディア (12 月末締め ) 4.2 アルストム (3 月末締め ) 4.3 シーメンス (9 月末締め) 4.4 シュタドラー (12 月末締め ) 4.5 TMH (Transmashholding) (12 月末締め ) 4.6 CAF (12 月末締め ) 4.7 Trinity Industries (12 月末締め ) -内容-

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Page 1: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.4

はじめに 昨年 12 月中旬から 3 月までの約3か月間における、世界の鉄道ビジネス関連のメディア報道

記事からのインプレッションである。

 世界の鉄道関連ビジネスは、インド、中国、欧州など様々な地域で活発に繰り広げられている。

その中でも最近は、中国よりインドに関する記事が非常に多くなっている。一方では、2 月 17

日に、アルストムがボンバルディアを買収するという、ゲームチェンジにもなるかも知れない大

きな動きが報じられた。アルストムとシーメンスとの統合話が出た 2017 年 9 月から約 2 年半

経った現在、中国の欧州進出の脅威はさらに高まっていると思われ、この統合を 2019 年 2 月

に否認した EU の欧州委員会側の許認可の事情は少し変わったのであろうか。

 そもそもボンバルディアは、2001 年に統合される前は旧ボンバルディア社 ( カナダ ) とアド

トランツ社 ( ドイツ ) の 2 社であり、そのアドトランツ社は、1996 年以前の AEG(アルゲマイネ・

エレクトリツィテート・ゲゼルシャフト社/ドイツ ) と旧 ABB ( アセア・ブラウン・ボベリ社/

スウェーデン ) で、その旧 ABB は ASEA ( アセア社/スウェーデン ) と BBC ( ブラウン・ボベ

リ社/スイス ) などが核であり、1990 年代に合体した一大欧州連合体であったことはよく知ら

れた経緯である。その意味で今回の M&A は、シーメンス等の一部を除くが欧州大連合体の再統

合の意味合いがある。果たしてどうなるのか、行方が気になる今日この頃である。

 なお、今回は取り上げていないが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う鉄道への影響に関する

記事も増えてきており、3 月はほぼ毎日のように運行停止や対策措置、支援要請等多々報じられ

ている。今後とも輸送、流通、生産等において鉄道業界への影響が懸念されるところである。

1. アジア 1.1 インド 1.2 中国 1.3 スリランカ

2. 欧州 ( ドイツ )

3. ボンバルディアとアルストム 3.1 アルストムのボンバルディア買収計画 3.2 最近のボンバルディアの話題

世界市場インプレッション世界市場インプレッション― メディア報道に見る鉄道関連の世界市場とビジネスの動き ―

(その38)

( 一社 ) 日本鉄道車輌工業会鉄道工業ビジネス情報研究会

13

論 説論 説

4. 世界の車両メーカの業績 4.1 ボンバルディア (12 月末締め )

 4.2 アルストム (3 月末締め )

 4.3 シーメンス (9 月末締め)

 4.4 シュタドラー (12 月末締め )

 4.5 TMH (Transmashholding) (12 月末締め )

 4.6 CAF (12 月末締め )

 4.7 Trinity Industries (12 月末締め )

-内容-

Page 2: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.4 14

1.アジア1.1 インド インドの鉄道市場は、いろいろな方面で活

況になってきているようで、多くの出来事が

報じられている。

(1)ワブテックがインドのエンジニアリング

センター開設

 米国ワブテック社が、インドに「エンジニア

リングおよびテクノロジーセンター:Wabtec

India Engineering & Technology Center」

を開設した(2019年12月12日)。

 同センターは$5m (約5.5億円)を投じて

造られたもので、バンガロールのITCグリー

ンキャンパスの建物の5フロア分を使って、

同社のデジタルエレクトロニクス専門のエン

ジニアリングチームが現在600人集合してい

る。さらに、今後2020年末までに1,000

人以上に増大させる予定という。

 「当社のインド事業の成長をサポートする

ための大切な人材をプールすることを目的と

しており、鉄道およびデジタルプラットフォ

ームの仕事関連で250人のエンジニアを雇

います。」と、同センターのグローバル化担

当ディレクター ゴパラクリシナ・マダブシ氏

は述べている。

 このセンターでは、配電、ポジティブ・ト

レイン・コントロール(PTC)、トリップオプ

ティマイザー、電子式エアブレーキ、信号、

その他多くのワブテック製品関連の開発をす

る研究部署を持つことになる。

 「このインドチームが、欧州および米国の

開発チームとともにイノベーションを共同し

て推進するような環境を確立していく。」と、

グローバルチーフテクノロジーオフィサーの

ドミニク・マレンファント氏は述べている。

 エンジニアリング開発拠点の一つをインドのバンガロールに設置するという野心的で大

規模な投資事業であり、世界の他の開発拠点との連携も視野に入れているという。インドの知的集団を造り上げる画期的な試みとして、今後注目である。

(2)T - 18新型車両の国際調達

 インド国鉄が、最高速度160km/hの新型

車両T - 18を、3月24日を入札締切りとし

て国際調達する、と発表した(1月8日)。8

M8Tの16両44編成分で200億ルピー (約

330億円)の予算である。

 これは、1両当たり平均約4,700万円、MT車2両一組平均で約9,400万円になる。今回の量産車の入札は、記事からは不詳であるが、予算金額から推して、モータやトランス、コンバータ・インバータなどのプロパルジョン(駆動推進装置)等が対象と思われる。 T - 18は、インド 鉄道省の直轄のICF社(Integral Coach Factory)が設計・製作し、インド国鉄のRDSO (インド鉄道省研究設計標準機構(Research, Designs and Stan-dards Organization)) が試験と性能確認をして完成させた最新のインド製準高速電車である。入札の行方が注目される。

(3)列車運行業務民営化計画が拡大

 前回(493号2020.1 p20 ~ 21 1.1 (1)

項)取り上げたインド国鉄の列車運行業務を

民営化する計画は、対象路線を当初計画の

25路線から拡大し、150路線で100の民間

運行業者を参画させることで1月末に入札が

予定されているという(1月9日報道)。

(4)ロシアによる速度向上プロジェクトのFS

が完了

 2017年9月からロシア(RZD International

LLC)によって行われてきた、ナグプール~セ

カンドラバード線の最高速度を200km/hと

論 説論 説

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鉄道車両工業 494 号 2020.415

する速度向上プロジェクトのFS (feasibility

study、実現可能性調査)は、2019年12月に

完了した(1月9日報道)。線路、橋梁のみな

らず、架線、変電所、信号、保安システムに

至るトータルの技術的ソリューションを提案

している。

 ロシア国鉄の技術をインドに提供する動きとして、その行方に注目したい。

(5)欧州投資銀行が€600mの融資契約署名

 欧州投資銀行(EIB:European Investment

Bank)は、マハ・メトロ (Maharashtra Metro

Rail Corporation) との間で、プネメトロ

(インド西部マハラシュトラ州プネの都市高

速鉄道)に€600m (約720億円)を融資する

契約に署名した(1月31日報道)。この融資

には、建設中の2路線と30駅、メトロ車両

102両への融資分€200m (約240億円)が

含まれる。

 EIBは、既に供与済みのボパール、バンガ

ロール、ラクナウを含め、€2bn (約2,400

億円)を融資したことになる。

 プネメトロの車両は、インドのティタワゴン社が所有するイタリアのティタガ・フィレマ社が製作することで決まっている(*1)。 プネメトロは、他にフランス開発庁(AFD)による融資€€245m (約300億円)が信号、電源、架線、通信、その他一部インフラに充てられることになっている(*2)が、既にアルストムがその多くを2019年3月から4月にかけて受注しており、いわばフランスの案件でもある。

補注 1:鉄道車両工業誌 492 号 2019.7 p31 1.2 (3) 項参照

補注 2:鉄道車両工業誌 490 号 2019.4 p30 1.2 (4) 項参照

(6)インド国鉄の2020-21予算 約2.64兆円

 インド政府は、インド国鉄の来年度2020-

21 の支出予算額を前年度から微増の 1 兆

6,100億ルピー (約2.64兆円)にすると発

表した (2 月 1 日 )。これには、政府の予算

支援として7,000億ルピー (約1.15兆円)

が含まれているほか、インド鉄道金融公社

(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー (約

4,900億円)と、制度金融を通じて融資され

る2,800億ルピー (約4,600億円)、官民パ

ートナーシップPPPによる2,520億ルピー

(約4,100億円)などの原資が充てられる。

 前年並みとはいえ、インドとしてはかなりの大型予算であり、鉄道インフラ整備が重要な国策として打ち出され継続しているという印象である。全体の約16%に相応する約4,100億円が、PPPによる民間資金を当てにした計画となっている。財源の確保が、予算の実行性を左右する要因の一つでもある。

(7)ムンバイ~アーメダバード間高速鉄道プ

ロジェクトの課題の山に挑戦

 日印の政府関係者とエンジニアは、2月末

にムンバイ~アーメダバード間高速鉄道プロ

ジェクトが直面する新たな課題を検討する会

合を開催する(2月17日報道)。最新のニュー

スの報告によると、プロジェクト費用算定額

の$14.7bn (約1.6兆円)が、強化した橋梁

建設や21kmのトンネル掘削にTBM (Tunnel

Boring Machine:全断面トンネル掘進機)を

使用するというインド政府の要求のために、

$19.2bn (約2.1兆円)に費用が嵩むという。

当初のFSでは9,700億ルピー (約1.6兆円)

と見積もられていた。

 インド政府の今年の予算上では、$4.5bn

(約4,900億円)不足していることになる。さ

らにこの報告では、完成期限が2023年から

2028年に延ばされる可能性があるという。

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鉄道車両工業 494 号 2020.4 16

 インドの高速鉄道の建設と管理等を行うナ

ショナル・ハイスピード・レール公社(National

High Speed Rail Corporation Limited、以

下NHSRCL)のアカール・カレ所長は、「土

地の取得が遅れ気味であったり、建設工法が

変わったことはあるが、完成時期が遅れるか

は未だ憶測にすぎない」として、「土木の入

札が確定するまで、そのような問題は明確に

することはできない」、「プロジェクトの費用

は高架橋とトンネルの工法変更を含めて1兆

800億ルピー (約1兆7,700億円)であるこ

とは変わっていない」、と言っている。

 一方でJICA は、全プロジェクト費用の

81%となる8,800億ルピー (約1兆4,400

億円)を50年ローンで、0.1%の金利で融資

する。JICAの 永井プロジェクトマネージャ

ー (JICAインド事務所次長)は、設計、費用、

入札スケジュール等全ての事柄は、両政府の

役人によって議論されてきている、とIRJ誌

のインタビューで語った。

 NHSRCLは、2月1日にインドの財務大

臣Ms Nirmala Sitharamanが発表した他の

6つの高速鉄道路線の「ステージI:予備ルー

ト開発調査」を実施するため、入札を提示し

た。デリー~ワーラーナシー間 (865km)、デ

リー~アーメダバード間(886km)、デリー~ア

ムリトサル間 (459km)、ムンバイ~ナシック

~ナグプール間 (753km)、ムンバイ~プネ~

ハイデラバード間 (711km)、チェンナイ~マ

イソール~バンガロール間(435km)の6路線

で、2月21日までが入札締切となっている。

 インド高速鉄道の工程もいよいよ煮詰まってきた。関係者の苦労も絶えないことと思うが、そうこうしているうちに次の高速鉄道の調査も始まっている。急速に発展し変わろうとしているインドは、何とも目まぐるしい状況であるが、大きなビジネスチャンスがあるといえるであろう。

(8)BMRCLは216両の客車の契約を中国中

車に授与

 中国中車南京浦鎮は、バンガロールメトロ

鉄道公社(BMRCL) の「フェーズ2プロジェ

クト」向けの客車(coaches)36編成 (216

両)を、85億5,000万ルピー (約140億円)

で契約した(2月21日報道)。うち、204両

(34編成)は、インド国内で製造する約束と

なっている。BMRCLによると、2位との入

札価格差は23億5,000万ルピー (約38.5億

円)あったという。実に2位の入札価格より

約22%も安い価格での落札であったようで

ある。

 車両のうち126両(21編成)は、パープル

ラインとグリーンラインで運行し、90両(15

編成)はイエローラインで運行する予定である

が、BMRCLはこのイエローラインをCBTC

システムとしてGoA4レベル(完全無人自動運

転)で運行する予定としている。

 中国中車は最近、ムンバイ、ナヴィ・ムン

バイ、グルガオン、コルカタ、ナグプールの

各メトロに車両を納入している。

 客車の入札とはいえ、これを1両あたりで単純計算すると落札価格は1両平均約6,500万円で、2位の入札価格が約8,300万円、その差約1,800万円 (2位の約22%) もあったことになる。中国中車がインドで安値攻勢をしている具体例として注目である。また、このような安値がベースになると思うと、今後のインド市場はかなり厳しいことが懸念される。

論 説論 説

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鉄道車両工業 494 号 2020.417

③重慶:ループラインの南9.5kmの開業

 (12月30日)、

 建東浦西から美山へ1号線への1駅延長。

④広州:8号線までの1.8km延長

 (12月28日)、

 21号線までの35.3kmの延長開業

 (12月20日)。

⑤フフホト:最初のメトロ21.7km 開業

 (12月29日)。

⑥マカオ:最初のライト・メトロ9.3km開業。

⑦済南:新路線3号線21.6km開業

 (12月28日)。

⑧合肥:新路線3号線37.2km開業

 (12月26日)。

⑨廈門:新路線2号線41.6km開業

 (12月25日)。

⑩蘇州:新路線3号線45.3km開業

 (12月25日)。

 その他、⑪貴陽、⑫青島、⑬深圳セン

(9号線まで10.8km)、⑭天津、⑮

鄭州(2号線まで10.3km)における

各路線の延伸開業。

 継続する活発な中国国家プロジェクトの高速鉄道建設と同様、中国全土の大中都市においても都市交通の新線建設への投資が続けられている。地方都市の財政悪化が問題となりつつあると言われている中で、景気悪化や雇用不足を避けるための方策にもなるのか、交通インフラ投資への歯止めがかかっていないように思われる。

1.2 中国(1)中国15都市のメトロ建設プロジェクトが

続々完了

 2019年の中国の新線建設に関して、前号

では高速鉄道を取り上げたが、今回は、全国

の都市のメトロ新線の建設状況を報告する。

 2019年度内に、中国の下記の15都市で、

次々と新たなメトロプロジェクトが完了して

いる。

①北京:7号線16.6km延伸、バトン線開業

 (12月28日)。

 総延長699kmとなり、上海メトロ(約670

km)を抜いて北京メトロが世界最長となっ

た。

②成都:新路線5号線49km開通

 (12月27日)、

 南西に走る10号線25.8kmの延長。

図1 中国15都市のメトロ建設プロジェクト 

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鉄道車両工業 494 号 2020.4 18

1.3 スリランカ(1)中国中車製の車両が営業運転開始

 中国中車青島四方が納入している9編成

のS14型ディーゼル列車の第1編成が、ス

リランカの「コロンボ・フォート~バデゥーラ

(Colombo Fort-Badulla) 線」で営業運転

に入った。所要時間は8時間43分。

 S14型列車は、4軸ディーゼル機関車(74t、

1,950馬力)2両と中間に7両の客車で連結

する編成で、客車のうち2両の一等車にはエ

アコンや娯楽情報端末が備えられている。

 話は変わるが、中国企業が請け負った南部

高速道路延伸区間が2月23日開通し、スリ

ランカの大統領ゴタバヤ・ラージャパクサ

(2019年11月の選挙で就任した新大統領、

70歳)や中国の大使が出席する式典で、大統

領の兄で親中派で知られるマヒンダ・ラージ

ャパクサ首相 (74歳、大統領経験者)が、「こ

の高速道路は、コロンボとハンバントタ港を

結ぶもので、世界各国からハンバントタ港に

集まる貨物が円滑にコロンボに運ばれること

になり、スリランカの「一帯一路」建設での

地位向上につながる」と述べたという。

 地理的にも歴史的にも、鉄道を含めてインドとの結びつきが大変強いスリランカである。そして日本も、インドと手を取り合ってスリランカへの経済発展に手を貸そうとしていたと思う。しかし最近では、一帯一路政策による中国からの資金援助に返済ができず、ハンバントタ港の99年にも及ぶ租借権を取られたことが、世界的にも問題視されているところである。(鉄道車両工業誌 486号 2018.4 p32 コラム 新植民地主義 参照)

 その後も依然として、一帯一路政策の手を緩めることがない中国の国を挙げての戦略的な資金援助が続いており、その誘惑には勝てないのであろうか。中国依存が益々深まっているようであり、心配な情勢に思われる。

2.欧州(ドイツ)(1)ドイツDB-Cargo社が東芝にハイブリッ

ド機関車を発注

 ドイツ鉄道(DB)の子会社で欧州最大の鉄

道貨物運営会社DB-Cargo社は、東芝イン

フラシステムズ(株)のドイツ現地法人である

東芝鉄道システム欧州社(Toshiba Railway

図2 スリランカの鉄道

図3 スリランカと一帯一路

論 説論 説

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鉄道車両工業 494 号 2020.419

Europe GmbH)に50両のハイブリッド機関

車を発注した(1月23日)。同社は、さらに

50両の機関車を入換用機関車の置換えとし

てリースする計画もある。製造はDB-Cargo

社のメンテナンス工場であるロストック工場

で行い、2021年から製造に向けた準備を開

始する。

 この機関車は、ディーゼル発電とバッテリ

ーからの電力を使用するハイブリッド機関車

で、出力は750kWであり、120kWhのバッ

テリーはリチウムイオン二次電池「SCiB™」

(東芝インフラシステムズ(株)の商標名、TUV

ラインラント社から「Functional Safety」の

認証取得済)を用い、主電動機には定格効率

97%の高効率な永久磁石同期電動機PMSM

(Permanent Magnet Synchronous Motor)

を採用し、従来のディーゼルエンジンのみを

搭載した機関車と比べ、30%以上の排出ガス

低減が可能という。また、ディーゼルオイル

の使用量を、年間100万リットル節約する見

込みであるという。

 2016年9月より、DB-Cargo社、東芝鉄道システム欧州社、ヘンシェル社の3社は、旧式ディーゼル機関車のハイブリッド機関車への改造プロジェクトを手掛けてきている。

(鉄道車両工業誌481号 2017.1 p33 1.3(3)項参照)。

 今回の受注は、こうした地道な努力が実ったものと考えられる。同時に、日本で培った技術が、ドイツのニーズに応えたということであり、大変喜ばしい。 ところで、InnoTrans2018でデモ機が展示され話題になったことで記憶されておられる方も多いかもしれないが、ドイツDBの別の子会社DB Netz社は、中国中車株洲から同様なハイブリッド入換用機関車(750kW、最高速度100km、30%以上の省エネ運用)20両の購入契約を2018年6月にしている。

(鉄道車両工業誌488号 2018.10 p33 2.1(1)項参照)。

 間接的ではあるが、日本と中国のメーカが、

ドイツの入換機関車市場で競争している状況のようである。

(2)ワブテック社、ドイツにブレーキ工場を

新設

 ワブテック社(2016年にフランスのブレーキ

メーカであるフェブレ社を買収)が、ドイツの

ボーフム(Bochum)にブレーキの開発と製造、

およびブレーキとカプラーの保守を行う工場

を設立する起工式を行った(2月7日)。完成

すると、9,200m2 が生産スペース、5,100m2

が資材エリア、5,600m2 がオフィスエリアで、

全体でおよそ20,000m2となる。

 プロジェクト開発を担ったPanattoni Eu-

rope社いわく、管理棟の屋根を緑化し、地熱

暖房設備、インテリジェント光制御機能、ソ

ーラーパネルなどを導入するなどして、環境

に優しい施設を目指したという。また、電気

自動車や電動自転車用の充電ステーションも

提供する。

 「世界中のお客様向けに、セグメント化さ

れた従来からのブレーキディスクのアプリケ

ーションやブレーキ制御システムなど、さ

まざまなトランジット・ブレーキ(transit

brake:旅客車両あるいは自動車用ブレーキ

と思われる)のソリューションを提供する、

環境に配慮した施設になります。」とワブテ

ック社のトランジットセグメント社長 リリア

ン・ルルー氏は語っている。

 ドイツといえば競合先のクノール・ブレムゼの拠点であり、大変刺激的な施策にみえる。両社は、ドイツ国内でますますしのぎを削ることになるように感じられる。

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鉄道車両工業 494 号 2020.4 20

3.ボンバルディアとアルストム3.1 アルストムのボンバルディア買収計画(1) 買収計画の発表

 アルストムが、ボンバルディア・トランスポ

ーテーションを100%買収する合意契約に至

ったことを発表した(2月17日)。認可を待

って、2021年の前半までには決定される予

定である。買収額は、€5.8bn ~ €6.2bn(約

7,000億円~ 7,500億円)。また、現在ボン

バルディアの一部(32.5%)の株を保有して

いる CDPQ ( カナダのケベック州貯蓄投資

公庫)は、この売却で得る現金€1.93bn ~

€2.08bn(約2,300億円~ 2,500億円)と、

さらに €0.7bn(約850億円)をアルストム

に再投資することとしており、新生アルスト

ムの18%を保有する筆頭株主になることも

予定されている。

 アルストムの会長兼 CEOの アンリ・プパ

ール・ラファージュ氏 は、「この買収は、成長

する鉄道市場でグローバルに戦っていくため、

独自でまたとない機会となる強化策である。

ボンバルディアの持つ地域的な強みと技術的

基盤が、アルストムの弱いところを補完し、

環境対応の新たな改革の推進力を著しく増大

させることになる。」と買収の意図を語った。

 一方、ボンバルディアの社長兼CEO アレイ

ン・ベルマーレ氏 は、商用航空機(Commercial

aircraft)市場からの撤退に続いて、この鉄道

部門の売却によりビジネスジェット(Business

aircraft)事業に専念できる、と語っている。

(2) 新アルストムの広がる事業範囲

 この買収によって新たなアルストムの事業

規模は、受注残約€75bn(約9.1兆円)、売

上高約€15.5bn(約1.9兆円(*1))になると

いう。さらに、技術面及び研究開発の人材面

図4 世界の鉄道車両・部品メーカの売上高

論 説論 説

売上高推定は、次の資料によるデータをもとに為替レートも加味して当研究会で独自に推定・年次報告書(annual report)・IRJ (Sept 2018) p8

2,000

2,300

2,500

2,700

2,700

3,100

4,200

4,200

6,200

6,300

9,200

9,700

9,800

10,700

19,500

24,000

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000

三菱電機(日)

シュタドラー(スイス)

CAF(スペイン)

Trinity Industries(米)

Greenbrier(米)

Progress Rail (旧GM)(米)

TMH(ロシア)

Knorr-Bremse(独)

日立(日)

CRSC(中)

Wabtec(米)

ボンバルディア(独)

アルストム(仏)

シーメンス(独)

新アルストム(ボ社買収後)

中国中車(中)

億円

世界の鉄道車両・部品メーカ 鉄道部門売上高ランキング(2018年度ベース)

為替レート 121円/€、109円/$、15.7円/元

売上高推定は、次の資料によるデータをもとに為替レートも加味して当研究会で独自に推定・年次報告書(annual report)・IRJ (Sept 2018) p8

2,000

2,300

2,500

2,700

2,700

3,100

4,200

4,200

6,200

6,300

9,200

9,700

9,800

10,700

19,500

24,000

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000

三菱電機(日)

シュタドラー(スイス)

CAF(スペイン)

Trinity Industries(米)

Greenbrier(米)

Progress Rail (旧GM)(米)

TMH(ロシア)

Knorr-Bremse(独)

日立(日)

CRSC(中)

Wabtec(米)

ボンバルディア(独)

アルストム(仏)

シーメンス(独)

新アルストム(ボ社買収後)

中国中車(中)

億円

世界の鉄道車両・部品メーカ 鉄道部門売上高ランキング(2018年度ベース)

為替レート 121円/€、109円/$、15.7円/元

Page 9: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.421

においても、非常に大きな利益となるであろ

う。また、アルストムが活動する地域の中で、

ドイツ、英国、北米、中国では現状にも増し

て充実するであろうし、東欧、メキシコ、中

国の製造拠点においてはコストの最適化が図

られ、さらにドイツ、英国などの成熟市場に

おいては一層のサービス拠点の充実を図るこ

とができるであろう。

 製品範囲も広げられ、ボンバルディアの持

つ、特にニッチな分野で得意とするモノレー

ルやピープルムーバなどの車両のレパートリ

ーが加わる。また、保守サービス拠点のネ

ットワークも広がり、約2万両に及ぶといわ

れる大量の納入車両の保守サービス資産の活

用、展開ができることになる。

 今後は、北米全体の本社をモントリオール

とし、さらに、優れた設計とエンジニアリン

グおよび高度な研究開発活動をするセンター

を確立させるという。

 合併による実際的かつ実行可能なシナジー

効果として、4~ 5年の間は年間€400m(約

480億円)の増益が見込める。

補注1:約1.9兆円は、ボンバルディアの最新の2019年度売上高を用いた値と考えられる。ボンバルディアの売上高の落ち込んだ額約500億円(=0.05兆円)分、グラフの2018年度の数値1.95兆円より低くなっている。

(3)シーメンスとの合併申請のときと何が違うか

 前回、シーメンス・アルストムの合併の申

請をEUの独禁法対応の委員会が約1年前に

却下したが、そのときの理由は、①「信号関

連と次世代高速車両が独占状態となり、市場

では高いものを買わされることになる可能性

があること」、さらに、②「中国中車が欧州

市場に入り込む事態には、未だ当分はならな

い」、として合併が必要であるという申し立

てを排除したためであった。

 アルストムの アンリ・プパール・ラファー

ジュ会長兼CEOは、「欧州市場は、今や以前

と異なる環境にある。当社にとって、この買

収はヨーロッパのチャンピオンを創り出すと

いうよりはむしろ、アルストムそのものを強

くすることを目指した買収である。会社の国

籍などが問題なのでは無い。」と、フィナンシ

ャル・タイムズ社にきっぱりとした口調で述

べたという。そして、2019年2月にシーメ

ンス・アルストムの合併を却下したEC(委員

会)の公正取引コミッショナー (Competition

Commissioner)マルグレーテ・ヴェスター

ゲル氏が、2019 年 12 月 9 日においては、

「EUの取締委員側(EU regulators)が、20

年以上経た規則そのものを国際化とデジタル

化が進む世界の実情を考慮して見直すであろ

う」と述べた。これは、判断する根拠となる

規則そのものの見直しをすることを示唆して

いる。

 ちなみに、中国中車によるドイツのフォス

ロー社のディーゼル機関車事業部門買収も

2019年8月に発表されたが、その後9月2

日にUNIFE(欧州鉄道産業連盟)は、公平な

競争環境を整えるようEUに法律の変更を要

請しており(*1)、未だに決着していないまま

の状況である。

補注1:鉄道車両工業誌492号 2019.10 p33 ~ 35 2.1(2)項および2.2(1)項参照

(4)買収の見通しに関する経済アナリストの見方

 UBS社(*2)のアナリストは、「今回の買収

は、前よりも問題は少なく、また精査するこ

とも少なくて済むであろう。結局のところボ

ンバルディアとアルストムは60 ~ 65%の売

上を欧州で出しているが、前回のシーメンス・

アルストム合併計画で問題となった車両や信

号の分野などのような、それほど重複し独占

化する恐れがある領域は無い。」と語っている。

 別のBI(*3)のアナリスト2人も、「この買

収は、アルストム・シーメンスの合併が失敗

に終わったのに比べて、独禁法をクリアする

Page 10: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.4 22

道は容易であるように思われる。これから要

請されるであろう出資の引揚げの金額への対

応次第で、この買収の成否が決まるのではな

いか。」と、買収成立の可能性があるとの見

方を強くしているようである。

補注2:UBS社は、150年以上続くスイスに本店を持つグローバル金融機関。元は、Union Bank of Switzerlandで銀行であったが、現在では、資産運用などのウエルス・マネジメント業務などを幅広く手掛けているソリューション、サービス会社。

補注3:BI(ビジネスインテリジェンス)は、企業のデータなどを、収集・分析することで、経営などに役立てる手法や技術を持つ専門家。

 アルストムやボンバルディアが、何ら勝算なしに事を起こすとは思えない。一方、これに異を唱える競合メーカの筆頭には、前回却下された当事者であり、その時点で自社の鉄道部門をコア事業から外しているシーメンスがいる。また、今回の買収劇では、独仏政府も以前のシーメンス・アルストムの合併のときのように関係する。少なくとも仏政府は支持するものと思われるが、今回は加えてカナダの思惑も絡むことになるかもしれない。果たしてどういう展開となるのであろうか。 我国としても、関係する業界全体の問題として、その行方に注目するとともに、2018年度の中国中車の鉄道関連売上高約2.4兆円に迫る約1.9兆円のグローバル展開企業が出現した場合の市場動向を想定し、その対応策を考えておく必要があると考える。 

3.2 最近のボンバルディアの話題(1)ドイツに鉄道車両試験設備を開設

 ボンバルディアは、バウツェン(Bautzen)

工場にドイツのザクセン州知事とカナダ大

使を含むゲストを招いて、€16m(約19億

円)をかけて造った車両試験施設を開設した

(2019年12月12日)。

 この施設には、約50人の従業員が勤務し、

3シフト制で3つの異なるタイプの車両(最

大120m)を同時に試験できる設備を有して

いる。また、自動で車両の形状に合わせて試

験ができる防水試験システムや、4軸の輪軸

を組み合わせて測定するコーナーロード測定

装置、試験走行用の軌道、顧客それぞれに対

応できる適合結果の確認をするホール、など

がある。

 ボンバルディア・トランスポーテーション

のドイツ取締役会長 ミカエル・フォーレル

氏 は、「今日開設のこの試験センターは、昨

年完成したデジタル技術を導入した最終組立

ホールとともに、革新的な製品を未来に向け

て生み出すために、最新の試験技術を装備し

ています。開拓者の役割を担う当社にとって、

近郊車両や長距離用車両からメトロ車両やト

ラムに至る車両レパートリの生産の要となる

センターになります。」と語っている。

 欧州の多くの企業が合併して、今日の地位を築いたボンバルディア・トランスポーテーションである。旧来の試験設備や方式を一新して事業改革を進めていることを印象付けるような、新しい経営投資である。

(2)納期遅延が続くボンバルディア

 ここ最近、ボンバルディア社では、車両の

納期遅れと不具合発生が続いている。

①アベリオ社向け納期遅延と車両出荷再計画

 ボンバルディアは、アベリオ社 (Abellio Rail

Baden-Württemberg(ABRB))とドイツのバ

ーデン・ビュルテンベルク州運輸当局とに対

し、納期遅延しているTalent2 電車(21編成)

について、1月末までに拘束力のある実行可

能な納入スケジュールを提供することを約束

させられた(1月27日報道)。

 もともと2016年に契約されたこの車両

は、2019 年 6 月までに 16 編成、同 12 月

論 説論 説

Page 11: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.423

までに25編成、2020年6月までに7編成、

2020年秋までに残り4編成を納めることと

なっていた。しかし、これまでも多くの車両

で納期が遅れており、今回2019年12月末

までが納期の41編成が、12月15日時点で

わずか19編成しか納入されていなかった。

加えて、既に納入された車両においてもソフ

トウエアの欠陥があり、運用上のトラブルが

発生していたという。

 こういった状況から、アベリオ社はボンバ

ルディアの車両生産能力に強い不信感を抱い

ている。

 納期遅れにより、次々と不信を生んでいるのは、会社の組織運営や体制に問題があるのではないか、と思ってしまう。バウツェン工場に導入される新しい試験設備は、その解決策のひとつにもなるのだろうか。

②ドイツ鉄道(DB)がIC2の納入を差し止め

 ドイツ鉄道(DB)の子会社であるDB Long

Distanceは、ここ数週間で重大な障害が続

いて発生したことから、ボンバルディアに発

注した残りのIC2二階建プッシュプル25編

成の受け入れを停止した(1月31日報道)。

 DBが注文した契約では、全69編成を3回

に分けて納入する計画であった。列車はすべ

て、Twindexx 2階建客車5両と、その一端

に電動客車が配置された6両を1編成として

いる。

 最初の27編成の内18編成は、2016年

春の営業投入に間に合っていない。そして次

の17編成が、2018年から2019年に納入さ

れた。より最新の装備を持つTraxxAC3class

147.5型機関車が納入されたが、これがソフ

トの不具合によりたびたび故障を発生させて

いる。さらに最後の2017年に発注された

25編成では、2019年が納期であるにも関

わらず、2019年末近くになっても未だ4両

しか納まっていない事態になった。しかも、

この編成の機関車は、重大なソフト関連の欠

陥があり、突然車両が停止し、その都度車上

機器の再立ち上げに1時間も要していると報

告されている。

 そしてDBは、既納4編成を含むこの25

編成すべてを、ソフトの信頼性が得られるま

で受け入れを拒否することを決定した。

③ソフトウエアの不具合(ドイツ以外)

 IC2のソフトの不具合の問題は、既に同様

なことがドイツやイギリス(ロンドンのクロ

スレール向け車両Aventra)やスイス(スイス

国鉄向け二階建車両Twindexx)の新車にお

いても発生しており、軒並み大きな納期遅延

を引き起こしている原因であるという。ちな

みに、このソフトの開発は、英国、スウェー

デン、インドを含む複数個所で行われている。

 その後、3月3日のことであるが、ロンドン

のAventraは、ロンドン交通所管の副市長ハ

イジ・アレクサンダー氏立ち合いの下、1編成

の走行試験が行われ、ようやく正常に運転す

ることが確認された、という。実に1年以上

の納期遅れで、納入後も不完全な状態で、運

行を制限しながら運用されていたものである。

 納期遅れや不具合の問題が繰り返された結果、対策費とともに、ペナルティ費用も嵩み、利益を圧迫するなどで経営の悪化に直接繋がり、株価も大幅に下げる結果を招いたようである。英国ではAventraが正常に運転できることが確認されたが、他の同様な納期遅れの案件も解決していくことができるのか、注目したい。

④米国ニューヨーク市R179メトロ車両の納

期遅延

 ニューヨーク市による監査で、ボンバルデ

ィア・トランスポーテーションとニューヨー

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鉄道車両工業 494 号 2020.4 24

ク大都市圏交通公社(MTA)とのR179メト

ロ車両300両の契約において、車両の納入が

長期にわたり遅れている問題を取り上げ、そ

の報告書(全46ページ)が提出された(2019

年12月9日)。

 2012年に交わされた契約(300両、$599m

(約653億円))は、もともと2017年までが納

期であった。しかし、2017年までには、たっ

たの18両しか納入されていなかった。延滞補

償として$36m(約39億円)に相当する18両

を加えることになり、全318両となったが、

35か月遅れの現在(2019年12月9日)未だ

305両までしか納入されていない。この時点

で残り13両は12月中には納入される予定と

なっていた。

 大幅な遅延を起こした大きな原因は、2013

年12月に発見された溶接部の「ホットクラ

ック」という問題で、これを解決するために

18か月要したことが挙げられるという。監

査報告には、受発注側双方に対し、契約内容、

納期、仕様決定プロセスなどのプロジェクト

管理など計20項目にも及ぶ改善要求が挙げ

られている。

 しかし、この報告があった2019年12月

9日の後、12月24日に、営業中のR179車

両でドア故障が発生するとともに、車両が駆

動ができないトラブルが発生した。さらに、

1月3日には2回目のドア故障が発生し、ド

アロック機構に安全にかかわるシステム的な

問題があることが判明した。その結果、1月

7日には、納入された車両を営業運転から外

す事態になった。

 事業主であるニューヨーク地下鉄のバイフ

ォード社長はこの事態に業を煮やし、「ボン

バルディアに全責任があり、本件に限らずこ

こに至る契約案件上の今までの他の問題も含

めて賠償の法的手続きをとりつつある」、と

の発言が報じられた(1月13日)。

 その後、ドアの問題に対するボンバルディ

アからの見解として、「2つのドアロックの

メカニズムが予期できない非常にまれな組み

合わせと運用状況によって引き起こされるも

のである」、という報告がなされた。そして、

全5,000枚以上のドアの開閉動作の安全検

査が実施され、1月25日には営業運転から

引き抜かれていた車両はすべて、また営業運

転にもどされたという(1月29日報道)。

 今回のニューヨークのMTAへの大幅納期遅れや故障の数々を含めて考えると、かなりひどい品質管理体制か、あるいは対策の生ぬるさが常習化しているように思われる。一方では、R179のドア5,000枚以上にも及ぶ動作の不具合回収と検査、そして営業線復帰がほぼ2週間余りで行われたことは、驚異的な「早業」と言わざるを得ず、底力を感じさせられる。

4.世界の車両メーカの業績4.1 ボンバルディア(12月末締め)<鉄道プロジェクトの遅延により利益が低迷>

 ボンバルディアは全社の2019年第4四半

期および通年の見通しを発表した(1月16日)。

以前予測した業績よりも悪化するものと予想

している。この発表を受けて、同社の株価は

最大36%落ち込んだ。この主な原因は、鉄

道部門での難しい鉄道プロジェクトへの(不

具合対策を含む)対応、入金時期の遅れ(ずれ)、

新規受注案件における多くの課題や、航空機

部門でのGlobal 7500型航空機4機の納期

の遅れ(2020年第1四半期にずれ込んだ)な

どが挙げられる。

 鉄道部門の2019年度の売上高は$8.3bn

(約9,050億円)で、2018年度の$8.9bn(約

9,700億円)に対し、6.7%減の結果である。

鉄道部門の第4四半期の利益(adjusted EBIT)

は、$230m(約251億円)の損失となってい

るが、この中にはイギリス(ロンドン)のクロ

論 説論 説

Page 13: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.425

スレール向けAventra車両などのプロジェク

トの問題、スイス国鉄向け電車Twindexxの

トラブルと納期遅れ、ドイツでの製造コスト

の増大など、およそ$350m(382億円)にお

よぶ対策費やペナルティ費用などが含まれて

いる。

 2019年度通期では、利益(同) $70m(約

76億円)、対売上高利益率0.8%になるなど、

極端に落ち込んでいる。ちなみに、2018年

度の利益は$750m(818億円)、対売上利益

率は8.4%であった。

 ドイツでの製造部門の問題は、本誌2019年10月号(鉄道車両工業492号 p33 2.1(1))で取り上げたDB向け高速車両ICE4の溶接不良に基づく全数修復作業が大きなところと思われる。一方では、2019年12月にはドイツ ザクセンのバウツェン工場に、最新の車両試験設備やその環境を整えている側面もある。業態改善策の進行と、足元をすくうように続く納入車両の故障や納期遅れ対策とが同居しているようである。 そのような状況下でのアルストムへの鉄道関係事業の売却は、利益が落ち込んでいる航空機事業の立て直しと、選択・集中という本社カナダの強い方針によるものと考えられる。鉄道事業の本社ドイツ・ベルリンではどのような意向を持っていたのであろうか、気になるところではある。

4.2 アルストム(3月末締め)<第3四半期までの受注は減、売上は堅調>

 アルストムは、2019-20会計年度の最初の

9か月(2019.4~12)で€8.2bn ( 約9,900億

円)の受注高を計上したが、これは、前年同期

の€10.5bn (約1兆2,700億円)から22%減

少している結果であった。第3四半期の受注

は€3.56bn (約4,310億円)と好調で、前年

同期の€3.38bn (約4,090億円)を上回って

いる(1月21日報道)。

 2019年12月末における受注残は、過去

最大の€43bn (約5兆2,000億円)を記録し、

将来の売上に関して力強い見通しであるとア

ルストムは語っている。この第3四半期の受

注の大半は欧州からであり、イギリス向け振

り子車両の修繕と保守に€755m (約914億

円)、この他に、スペインのマルセイユメトロ

車両のリニューアルと自動化契約、イル・ド・

フランスとパリ地下鉄向けに車両44編成の

契約などがある。

 アジア太平洋地域でも€1.2bn(約1,450

億円)と好調で、これにはオーストラリアの

パース鉄道網の保守付きの車両契約€800m

(約970億円)や、シドニーメトロの延長対応

の自動運転車両やデジタル信号システムなど

がある。

 信号および保守サービス部門においても、そ

れぞれ€593m (約718億円)および€1.2bn

(約1,450億円)の規模で、この期にそれぞれ

契約しており極めて好調であった。

 また、この2019年10月~12月の売上も堅

調で、€2bn(約2,420億円)であった。2019

年度当初から9か月間の車両の売上が、対前

年比 11% 増の€2.8bn( 約3,390 億円)、保

守サービスは2%減、システム部門は22%減

となっている。

 ボンバルディアの業績期間と同じ期間の業

績が比較できるよう、第3四半期までの業績

図5 ボンバルディアの売上高

Page 14: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.4 26

データを用いて、2019年1月~ 12月まで

の売上高と、その前年2018年の売上高を

2018年/ 2019年の売上高としてグラフに

示す。

 2019年度の売上および利益は、2018年

度の例外的に高い売上高と利益の後を受け、

成長が一段落するとみられている。つまり、

主要なシステム契約が終了するビジネスサイ

クルと車両プロジェクトの大量の仕込み期間

に当たるため、売上高と利益率の伸びは平均

以下になるものと見込まれる。

 しかし、今後の見通しとしては、2023年3

月までの目標として、2019年度から2022

年度までの平均売上成長率を約5%、2022年

度の利益率(adjusted EBIT)を約9% (*1)と

している。

 アルストムの会長兼CEOのアンリ・プパ

ール・ラファージュ氏は、「鉄道市場は、環境

関連産業として非常に好調な伸びを呈してお

り、持続可能な輸送手段を提供する我々の製

品が、将来の脱炭素社会への移行に必ずや貢

献できるものと確信している」、と述べている。

 アルストムの業績は、堅調に推移しており、今後3年間の成長に関しても見込み通りである、としている。売上高は年5%の成長を続け、2023年3月までに対売上利益率を9%にするという非常に高い目標を掲げており、大変強気である。ボンバルディアの買収はこ

の強気の事業戦略の一環なのであろうと思われる。

補注1:アルストムが2015年11月に2020年度に向けて設定した目標は、売上高年5%のずつの増加と2020年までに対売上高利益率を7%にすることであった。(鉄道車両工業誌 480号 2016.10 p24 ~ 25 2.2(1)項参照)

4.3 シーメンス(9月末締め) シーメンス・モビリティの2019年度(2018

年 10月~2019 年9月) の業績は既に報告

されており、売上高€8,916m (1兆800 億

円、対前年比1.1%増)、受注高€12,894m

(1兆5,600億円、同17%増)、利益€983m

(1,190 億 円、 同 2.6% 増 )、 対売上利益率

11.0% (前年10.9%)である。

 シーメンス・モビリティは、売上高、受注

高ともに増加して1兆円の大台を継続しつつ、

利益(Profit)、利益率ともに前年度より伸ば

して好調であった。

 なお、シーメンス・モビリティの2019年

10月~ 12月、すなわち2020年度第一四

半期の売上高は、€2,180m(2,640億円)

で、前年同期の€2,174m(2,630億円)とほ

ぼ同額であった。従って、シーメンス・モビ

リティの2019年1月~ 12月の売上高は、

€8,922m(約10,796億円)である。

図6 アルストムの売上高

図7 シーメンスの売上高

論 説論 説

Page 15: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.427

4.4 シュタドラー (12月末締め)<2019年は記録的受注>

 スイスのシュタドラー社は、2019年の受

注高がSFr 5.1bn (約5,800億円)、受注残

高が対前年比14%増のSFr15bn (約1.7兆

円)と、過去最高額を記録した。

 一方、全社売上高は、2018 年のSFr2bn

(約2,300億円)を 60% も上回るSFr3.2bn

(約3,600億円)となった。2018年より80%

多い444両の納車をしたが、一方では、主と

して英国のフランチャイズGreater Angliaと

の契約案件であるが、納期遅延や損金の発生

などにより、売上は当初予定よりは少ない。

同社のサービスと部品供給事業の売上は予想

を大幅に上回るSFr833.5m (約942億円)と

なった。全売上高に占める割合が2018年は

12%であったのに対し、26%を占めるに至っ

ている。

 また、利益(EBIT)はSFr193.7m(約219

億円)と、28%増えたものの、利益率(Ebit

margun)は約6.1%で2018年より低い結果

となった。

 従業員は10,900人となり23%増で、現

在は約2,000人の入社教育を行っている。さ

らに今年は、特にドイツ、スペイン、ベラル

ーシからのスタッフの雇用を進めている。

 2020年も売上高の2桁成長を見込んでい

るが、多大な投資や特別な費用が発生するた

め利益率は引き続き上がらないであろう、と

みている。

 2019年4月に上場したシュタドラーであるが、さらに世界に向けて事業拡大が続きそうである。車両製造だけでなく信号部門への参入も進めている中で、2019年10月からはオランダで自動運転の試運転を行うなど、多角的に製品分野も広げているように思われる。

4.5 TMH(Transmashholding) (12月末締め) ロシアのTMH(トランスマッシュホールディ

ング)社の2019年度の売上高は2,860億ル

ーブル(約5,300億円)と、対前年比約27%

増の好調な結果であった。これは、RA-3型

DMU(ディーゼル動車)56両の納入をはじ

め、DL281 両、貨物用 EL514 両、産業用

EL15両、2階建客車154両など多くの車両

の納入をしたためである。

 2018年度の売上高が約4,200億円であったが、今般は約5,300億円と大幅増であり、世界での売上ランキングを上げることになるかもしれない。

4.6 CAF(12月末締め) スペイン CAFの 2019年度の売上高は、

€2.60bn (約3,100億円)で、対前年比27%

増と好業績であった。これは、2018年に

併合したバスとトラム車両を製作している

ソラリス社(ポーランドSolaris)と、2019

年7月に買収したスウェーデンの保守会社図8 シュタドラーの売上高

図9 TMH(Transmashholding) の売上高

Page 16: 論 説 世界市場インプレッション...(IRFC)からの借入資金3,000億ルピー(約 4,900億円)と、制度金融を通じて融資され る2,800億ルピー(約4,600億円)、官民パ

鉄道車両工業 494 号 2020.4 28

Euro Maint社を含めた合算の結果である。

利益(Adjusuted Ebitda)も€244m (約295

億円)と、対前年比21%向上した。受注残高

は、€4bn( 約 4,800 億円 ) となり、前年の

€2.9bn(約3,500億円)を大幅に上回ること

になった。

 地域別にみると、スペインを含む欧州が

70%ほどで、その他30%が欧州以外であ

る。欧州各国は、英国14%、自国スペイン

11%、オランダ9%、ドイツ7%、ポーラン

ド6%、ベルギー 6%、その他の順となって

いる。

 製品別では、車両46%、バス25%、保守

サービス18%、部品、信号、その他が11%

となった。

 約9割が輸出であり、以前にもましてさらに海外依存度が高くなった。地域的にみれば、欧州向けが 7割を占める。国内依存が少ないとはいえ、欧州のメーカにとっては欧州全体が自国のようなものと考えることができ、それほど特殊ではないのかもしれない。

4.7 Trinity Industries(12月末締め) 米国の貨車製造会社 Trinity Industries

(トリニティ・インダストリー ) 社は、2019年

の売上高は$3.0bn(約3,300億円)で、対

前年比約20%増である。生産した貨車は、

9.2%増の年間21,960両であった。

図10 CAFの売上高

 2020 年 の 予測 は、売 上 高が$2.5bn ~

$2.7bn (約2,700億円~2,900億円)、生産

両数も16,000両程度と、減少を見込んでい

る。

 米国の貨物輸送量は、石油関連がシェールオイルの影響のためか大幅に減少しており、貨物輸送への設備投資はしばらく縮小されるように思われる。

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なお、本稿で用いた主な為替レートは次の通り。109円/ $、121円/€、113円/ SFr (スイスフラン)1.86円/ルーブル、1.64円/ルピー

図11 Trinity Industriesの売上高

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