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He における Rb スピン偏 大学  システム 08256024 2012 3 1

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卒業論文超流動 He中における Rb原子のスピン偏極緩和時間測定

東京農工大学 物理システム工学科

畠山研究室

学籍番号:08256024

窪田 翔

2012年 3月 1日

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目次

1 序論 11.1 研究背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.2 本研究の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11.3 本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1

2 実験方法の原理 22.1 アルカリ原子のエネルギー準位構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

2.1.1 微細構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22.1.2 核スピン . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22.1.3 ゼーマン効果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.2 光ポンピング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52.2.1 偏光による励起現象 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52.2.2 Rb原子の光ポンピング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.3 スピン偏極緩和 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.3.1 スピン緩和時間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.3.2 セル内でのスピン緩和要因 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62.3.3 He原子との相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

3 基本的な実験方法 73.1 実験装置 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 73.2 回路図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 123.3 実験方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.3.1 タイミングチャート . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 133.3.2 偏極度および円偏光度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 143.3.3 解析方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4 Rbガスセルでのスピン緩和時間測定 164.1 Rbガスセル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 164.2 測定条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 174.3 測定および解析データ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5 HeII中でのスピン緩和時間測定 205.1 クライオスタット . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

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5.2 HeIIへの Rb原子の導入 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 215.3 シャッター動作改善 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 235.4 測定条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 235.5 測定データ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

6 総論 25

7 付録 267.1 HeII中での原子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

7.1.1 超流動 He . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 267.1.2 原子バブル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

7.2 ガスセルでの Rb原子スピン偏極緩和時間の計算値導出 . . . . . . . 27

8 謝辞 29

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1 序論

1.1 研究背景

本研究は理化学研究所と共同の OROCHI ( Optical RI-atom Observation in Condensed Helium as

Ion-catcher )プロジェクトの一環として行われた。理化学研究所の仁科加速器センターでは未知の

不安定核原子(RI原子)を生成することが可能である。しかしながらこれらの原子は生成量が少

なく短寿命であることから、通常の方法ではその核構造を調べることが困難である。これらの問題

を解決するため OROCHIグループでは、超流動 He中に導入した不安定核原子(RI原子)をスピ

ン偏極し、二重共鳴によってその核構造を調べている。

超流動 He(HeII)は凝縮相であることから、効率的に RI原子を捕獲できる媒質密度 (0.145 g/cm3)

があり、10 cps程度の導入原子数でも分光可能と見積もられている。また He原子はスピンを持た

ず、分極率も非常に小さいので導入原子への摂動が小さく、分光環境に適していると言える。そし

て安定な原子ではあるが、実際に加速器から生成された 87Rbの捕獲、励起、さらに偏極(原子の占

有数を特定の磁気準位に偏らせること)までが実験によって確認されている。また現在 OROCHI

の確立にあたり、加速器ではなくクライオスタット内に設置したサンプル由来の安定原子を対象と

した研究も進められている。通常、光ポンピングを用いたレーザー・RF二重共鳴では原子の核ス

ピンが、レーザー・MW二重共鳴では原子の核磁気モーメントが決定できる。そして HeII中にお

いても 85,87Rbおよび 133Csに関してはこれらの値が既に測定され、真空中での値(文献値)との

差異は 1 %以下であることが報告されている。[1],[2]

1.2 本研究の目的

本研究は HeII中におけるスピン緩和時間測定を、これまで値が知られていなかった Rb原子で

試みたという点で新しいものである。原子をスピン偏極して二重共鳴を行うには十分長い偏極保持

時間が必要であり、生成された偏極が崩れる緩和時間が重要となってくる。さらに HeII中におけ

る電子スピン偏極の緩和時間の研究が進めば、不純物原子と HeIIの相互作用の体系的理解、さら

にはスピン緩和の詳細なメカニズム解明への寄与が期待される。既に 133Csでは 2 sを越える長い

緩和時間が OROCHIグループによって測定されており [3]、本研究はその記録を参考に測定システ

ムの再構築から Rb原子での測定までを行った。

1.3 本論文の構成

以下に本論文の構成を述べる。2章で本研究の理解に求められる物理的原理を示し、3章で実験

方法の詳細を記述する。4章(Rbガスセル中実験)および5章(HeII実験)ではスピン緩和時間

測定から得られた解析結果について考察する。最後に6章で本研究のまとめと今後の展望を示す。

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2 実験方法の原理

2.1 アルカリ原子のエネルギー準位構造

原子と光の相互作用の研究では、価電子が 1個で比較的構造が単純なアルカリ原子を用いること

が多い。この節では,本実験で用いる Rb原子のエネルギー準位構造について詳しく述べる。[4]

2.1.1 微細構造

原子のエネルギー準位は主量子数 nで表され、エネルギーは離散的な値をとる。nが同一であっ

てもスピンの存在を考慮した場合には、原子のエネルギー準位はより微細な構造をもつ。特に電子

スピン sと電子の全軌道角運動量 lとのスピン軌道相互作用によって分裂するエネルギー準位は微細構造(fine structure)と呼ばれる。電子の全角運動量 J は L-S結合(Russel-Saunders結合)に

より           J = l + s

と表され、その大きさを表す量子数 J の取りうる値は

J =| l − s |, | l − s + 1 |,・・・, l + s

となる。これにより微細構造準位は 2s + 1 (s ≤ l)または 2l + 1 (s ≥ l)個である。

このとき角運動量量子数 l、電子スピン sによる磁気モーメントはそれぞれ

µl = −glµBl~

(1)

µs = −gsµBs~

(2)

と表されるが、これらは結合されて式 (4)のようになる。ここでボーア磁子:µB =e~

2mc(|l| = ~の電子の磁気モーメント)、g因子:gl = 1、電子の g因子:gs ≈ 2.0023である。

微細構造のエネルギー分裂は

W f = as · l = 12

a{J(J + 1) − l(l + 1) − s(s + 1)} (3)

となる。ここで aはスピン軌道結合定数であり、微細構造間隔は原子ごとに定まっている。

2.1.2 核スピン

電子同様、原子核もスピン角運動量 I をもつ。Rbの核スピンは 85Rbでは 52、

87Rbでは 32 であ

る。核スピンに付随した磁気双極子モーメントは

µI = gIµnI

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で表される。ここで gI は核の g因子、またMを陽子質量として µn =e~

2Mc である。

原子内では、電子の全角運動量 J に伴う磁場と µI との磁気双極子相互作用が生じている。これ

に対応するハミルトニアンはH1 = A jI · J

となり、A j は磁気双極子相結合定数である。この磁気双極子相互作用や、原子の電荷分布による

電気四重極相互作用によって微細構造準位はさらに細かく分岐し、これを超微細構造(hyperfine

structure)という。しかしながら本ガスセル実験環境では、原子の圧力広がり等によって励起波長

をこのレベルでは分離できないので、簡単のため以後考慮しない。

ただし核スピンはスピン交換衝突に関係し、緩和時間に影響を与える。スピン交換衝突とは、原

子衝突により二つの原子の電子がスピンの向きを保存したまま交換する現象である。また以下で

ゼーマン効果に関連して述べる磁気準位においては、スピンの向きは一意的に定まる。

2.1.3 ゼーマン効果

原子に外部磁場を加えると、原子の磁気モーメントと外部磁場との相互作用により、分離してい

なかったエネルギー準位が分離する。同様の効果にパッシェンバック効果もあるが、外部磁場が

F = I + J の結合を崩さない程度に小さい場合、この現象をゼーマン効果という。微細準位が分裂する場合、分裂した各準位は電子の全角運動量 J(核スピンを考慮した場合は F)に対応する磁気量子数 m j(同じく m f)で表され、

m j = −J,−J + 1,・・・, J − 1, J

より 2J+1個のゼーマン副準位となる。この時、磁気モーメントは以下で定まる。

µ j =J|J| [µl ·

J|J| + µs ·

J|J| ] = −g jµB J (4)

ここで g j は、式 (1), (2)より

g j = gl ·J(J + 1) + l(l + 1) − s(s + 1)

2J(J + 1)+ gs ·

J(J + 1) + s(s + 1) − l(l + 1)2J(J + 1)

これよりゼーマン効果によるエネルギー分裂幅は

Δ E jzmn = −µ j · B = g jµBm jB (5)

となり、外部磁場 Bの大きさに依存して変化するが、本実験環境では光学的には分離していない。

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・本研究で対象とする Rb原子のエネルギー準位構造を例として以下に示す。

 (ここでの構造は核スピンを考慮してないので、85Rb,87Rb共通である。)

図 1 Rb原子のエネルギー準位構造

量子論によると光子は E = hν のエネルギーを有する。原子に光を照射した場合、光のエネル

ギーと原子のエネルギー準位幅 ∆E が一致するときのみ、原子は光を吸収して高いエネルギー準位

へと遷移する(共鳴遷移)。このとき、基底準位 5S 1/2 から 5P1/2 への遷移を D1遷移、5P3/2 への

遷移を D2遷移という。

本研究の Rbガスセル実験ではポンピング光で Rb原子を D1励起 (794.981 nm)し、D2発光波長

(780 nm)の光を観測した。これは D1励起された原子の一部が衝突によって 5P3/2 の準位まで励起

され、基底準位へ落ち込むときの脱励起光を見ている。これにより LIFシグナルのバックグラウン

ドから、散乱したポンピング光を大幅に減らすことが可能である。HeII 実験では励起波長が短波

長にシフトする(付録参照)ので、D1励起 (783 nm)し、D1発光波長(794 nm)の光を観測した。

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2.2 光ポンピング

特定のゼーマン副準位に原子が偏っている状態をスピン偏極という。これを実現する手法とし

て、Kastlerによって光ポンピングが提唱されたのは 1950年のことである。光ポンピングでは、円

偏光の照射によって光のスピンを原子に移して原子のスピンを偏極させる。この方法は単純であり

ながら原子の準位の占有数を変化させることが可能であり、現在でも精密な副準位分光など原子の

研究で幅広く利用されている。

2.2.1 偏光による励起現象

光は電磁波であり、その偏光状態には σ+, σ−、π の3つがあり、角運動量はそれぞれ +1,−1, 0

である。共鳴遷移波長の円偏光を原子に照射すると、原子は光を吸収して励起されるだけでなく、

その光のもつ角運動量までも吸収する。すなわち励起先として特定のゼーマン副準位のみが選択さ

れる。

このとき        σ+ 円偏光ならば ∆m j = +1

            σ− 円偏光ならば ∆m j = −1

             π偏光ならば ∆m j = 0

という磁気量子数変化の遷移が選択される。なお、光ポンピングはレーザー発明以前からの技術で

あるが、現在では単色性、指向性に優れるレーザー光を用いるのが通常である。

2.2.2 Rb原子の光ポンピング

以下に Rb原子における光ポンピングの概念図を示す。

・Rb原子群に D1波長の σ+ レーザー光を照射した場合

図 2 Rbの D1-Line波長光ポンピング

原子は基底準位 5S 1/2 から 5P1/2 へと励起されるが、磁気量子数に関する選択則により m j = − 12

から + 12 への遷移しか起こりえない。原子が励起状態に留まれる寿命は定まっており、一定時間経

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過後に原子は          ∆m j = ±1or0

の選択則に従って脱励起すると共に LIF(Laser Induced Fluorescence:レーザー誘起蛍光)を放出

する。基底準位に落ちた原子は再び σ+ 円偏光を吸収して励起・脱励起を繰り返すが、このとき

5S 1/2 において最大の磁気量子数(m j = +12)の副準位にある原子は、励起先が存在せず σ

+ 円偏光

を吸収することができない。このサイクルを繰り返すことで原子の占有数が基底準位の m j = +12

の状態に偏る。これがスピン偏極であり、完全偏極の状態では σ+ 円偏光を吸収できる原子は存在

せず、LIFが観測されなくなる。

なお、ここでは本研究で採用した D1遷移の場合について述べたが、D2遷移では完全偏極によ

り LIFが最大になるなど、スピン偏極に関連して観測される現象は場合により異なる。

2.3 スピン偏極緩和

2.3.1 スピン緩和時間

光ポンピングによって得られた電子スピンの偏極は、外部からのさまざまな要因によって崩れて

(緩和して)いく。この偏極が崩れる時間をスピン緩和時間という。緩和時間が長いことは高い偏

極度につながり、高分解能の核磁気共鳴や高感度な磁気センサーなどの実現において重要である。

スピンの高偏極の達成は OROCHIによる RI原子の核構造測定においても望まれ、He中での緩和

時間を知ることで偏極限度の判断が可能となる。

2.3.2 セル内でのスピン緩和要因

スピン緩和が引き起こされる要因には、偏極対象原子同士の衝突、緩衝ガスの他原子との衝突、

壁との衝突が考えられる。中でも、光ポンピングの標準的な実験環境である室温アルカリ金属蒸気

セル(低密度の場合)において、最も問題となるのがセル壁面との衝突である。ガラス壁に衝突

した原子の偏極は 1回でほぼ 100 %崩れる。これを防ぐ方法としてはセルのコーティング、また

は緩和を起こしにくいバッファーガスの導入が挙げられる。本研究では予備実験として He バッ

ファーガス入りの Rbガスセルを用いたが、Rb原子が He気体原子に衝突して偏極が崩れるまでに

は、およそ 108 回の衝突を要する [5]。またほとんどの場合、偏極対象の同種原子同士の衝突の影

響は無視できるほど小さい。

2.3.3 He原子との相互作用

アルカリ原子と He原子の衝突によるスピン緩和は、アルカリ原子の電子スピン Sとアルカリ-

He原子ペアの回転角運動量 Nとの結合であるスピン回転結合(spin-rotation coupling)γS − Nに起因する。ここで結合定数 γ は原子間距離 Rの関数である。この緩和効果には強い温度依存性が

あり、低温になるほど緩和時間が長くなることが知られている。[5]

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3 基本的な実験方法

3.1 実験装置

図 3が実験装置の概要である。分光対象である Rb原子群にレーザー光を照射し、それによって

発生する LIFをカウントする。その際、シャッターと EOMの作動タイミングを DAQ回路で制御

しており、測定までの時間を変化させることで偏極度の時間依存性を調べている。

図 3 測定装置図

光ポンピング自体にはゼーマン効果は必要ないが、保持磁場がない場合はレーザーに対して平行な

スピンをもつ Rb原子しか σ+ 円偏光を感じず、偏極効率が著しく悪くなることからヘルムホルツ

コイルで外部磁場を加えている。

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• Ti:Sa Laser(COHERENT  899LING LASER)

  Rb原子のポンピング光源として用いた。Nd:YAGレーザーで Ti:Sa結晶を励起すること

で、波長が 690 ∼ 1030 nmの範囲で可変な高出力レーザーを発振することから、Rb原子の

励起に適している。図はビームプロファイラーで測定したレーザー強度分布であり、レー

ザー径(ガウシアンなので、ピーク値の 1e2 となる全幅で定義)はおよそ 1.0mm(HeII実験

時)である。

図 4 Ti:Saレーザー強度分布

• ビームサンプラー 入射した光の少量を反射し、レーザー光路を分岐させる素子である。本実験では透過、反

射レーザー光の強度比が約 9 : 1 となるものを用いた。これによりポンピング光を分割し、

緩和時間測定と並行して波長モニタリングを行った。

• 波長計(COHERENT WaveMate Deluxe)

  Ti:Saレーザーの波長測定に用いた。0.001 nmの精度で表示可能である。

これは緩衝ガス圧力 100 torrの Rbガスセルを用い、D1遷移波長 794.7 nm(∼ 377240 GHz

に対応)のポンピング光で励起している本実験環境では必要かつ十分な値である。またHeII

中では導入 Rb原子の吸収スペクトルがより広がるのでこの精度で問題ない。

 以下に概算ではあるがその根拠を示す。100 torrでは Rb原子の吸収スペクトルは、圧力

広がりにより ∼2.4 GHzの半値全幅をもっている。従って、E = hνより励起に必要なエネル

ギーは E = h(377240+ 1.2GHz)から E = h(377240− 1.2GHz)の幅をもっている。それぞれ

の νに対応した波長は、光速度 c = 299792458 m/sより、794.6970214 nm、794.7020773 nm

である。以上より、0.001 nmの精度で波長を合わせられれば、十分に励起可能だといえる。

• 平面ミラー 本実験では Al膜コーティングを施した全反射ミラーを用いた。これは Rb励起波長を含

む幅広い波長域に対応し、角度依存性もほとんどなく汎用性が高いものである。

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• NDフィルター

 レーザー強度を弱めて調整するために用いた。具体的には吸収の飽和が起こらない 5 mW

以下のパワーになるよう設定した。吸収の飽和とは原子が励起された状態にあり、共鳴波長

の光をそれ以上照射しても光の吸収量が増加しないことをいう。

 緩和時間測定にはポンピング光で飽和を起こしてプローブ光の吸収スペクトル変化を観測

する方法と、ポンピング光のみを照射して LIF(脱励起光)変化を観測する方法がある。本

実験では後者を用いることから、吸収の飽和が起きた状態は余分なポンピング光の散乱が多

くなり、S/N比 (Signal to Noise ratio)が悪くなるので避けるべきである。またこの状態は、

望まない偏光成分による励起が相対的に増加し、偏光度が下がることからも望ましくない。

• シャッター(UNIBLITZ  LS6T2)

 任意のタイミングでポンピング光を on/offするために使用した。以下は He-Neレーザー

を用いたシャッター動作確認のデータである。信号入力後 ∼ 1.5 msで開き始め、開ききる

までに ∼ 180 µsかかる。信号を切ってから ∼ 2.3 msで閉まり始め、閉じるのに ∼ 240 µsか

かる。なお T ′ = T + 0.8 msと差がある。

図 5 シャッター動作

• EOM(材質:KD*P(KD2PO4))

 任意のタイミングでポンピング光の σ+ 偏光、直線偏光切り替えに用いた。電気光学効果

により、媒質に加える電圧に依存して、透過する光の円偏光度を調整できる。なお円偏光達

成には波長に応じて決まった印加電圧があり、以下の式から求まる。

Vπ =λ

2n30r63

(6)

本研究で使用した材質では、n0 = 1.503、r63 = −25.8である。[6]

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• クォーツセル(材質:S iO2)

  Gas cell、または Rb原子を導入する HeIIを入れる容器である。実験にはメタノール中で

各面 15分ずつ超音波洗浄後、メタノールとアセトンで1回ずつ表面を拭いたものを用いた。

• ヘルムホルツコイルガスセル用(導線径:0.2 mm、直径:1050 mm、コイル間距離:60 mm、巻き数:80回)[7]

HeII用(導線径:1.0 mm、半径:60 mm、抵抗:2.5Ω、巻き数:50回)[13]

 一定磁場を発生させ、Rb原子のゼーマン効果を引き起こすのに用いた。コイルに流す電

流とコイルからの距離に依存して、磁場の大きさが決まる。

• 集光系 図のように3枚のレンズを用いて、Rb原子からの光を集光した。

図 6 集光系

• モノクロメーター(JASCO CT-25C)

 集光した光から LIFのみを検出するために、脱励起波長のみを選別するために使用した。

内部に組み込まれた回折格子は 3 nmの分解能(スリット幅 1 mmの場合)をもち、その中

心値は 0.1 nm単位での設定が可能である。なお光が入射するスリットの幅はレーザー径と

同程度が望ましい。

• PMT: Photon Multiplier Tube(Hamamatsu R633-10)

 モノクロメーターも通過した微かな光を電気的に増倍し、検出するために用いた。なお熱

的ノイズを減らすために実験時はチラーで冷却水を循環させて使用した。

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• DAQ回路

 データ取り込みのためのシステムである。任意のタイミングでシャッター、EOMを作動

させるために用いた。AND回路、NAND回路などが組み込んであり、入力パルスに対して

Delay,パルス幅を変化させた出力信号が容易に実現できる。実験では PMTからの信号をプ

リアンプで増幅後、DAQ回路のディスクリミネーターで入力電圧を足切りし、S/N比がよ

くなるよう設定した。

図 7 DAQ回路

• BOX Gate and Delay Generator(GD535)

 デジタルで数値設定が可能な高精度 Delay回路である。ただしサイズが大きく、研究室で

の所有数も限られるので、DAQ回路の補助として用いた。

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3.2 回路図

タイミングチャートを実現するために作成した回路を以下に示しておく。

図 8 回路図

Function Generator:これを起点に測定が始まる。

L.A (Level Adopter):NIM(下に 1.6 Vのパルス信号)と TTL(上に 3.6 V)の変換を行う。

FAN In/Out:OR回路として用いた。

V.Sca (Visual Scaler):信号をデジタル化して表示する。

MCS:信号をパソコンに取り込み、時系列で積算表示できる。st:トリガー、in:信号入力。

G.D.G (Gate and Delay Generator):入力信号に任意の Delay、幅の変化を加えて出力できる。

OP:各 OPに対応し、ポンプ光を遮るシャッターのドライバーへと繋がっている。

femt:フェムト秒パルスレーザーを遮るシャッタードライバーへと接続されている。

VETO(○で示した):ここに信号が入っている間は、入力信号があっても出力されない。

4-Fold coincidence:Switchまたは信号の分割に用いた。AND回路としても使える。

YAG:アブレーション用 Nd:YAGレーザーのトリガーである。

Clock:回路の動作確認に用いた。

Amp:PMTからの信号を増幅する。

Discriminator:入力電圧の足切りを行う。ULTでは上、LLTでは下の値を決める。

RATE METER:単位時間あたりの信号強度をメーターで表す。

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3.3 実験方法

σ+ 円偏光が照射されると Rb原子は瞬時に偏極され LIFが減衰し、一定の偏極度に達したとこ

ろでそれ以上偏極しなくなり LIFは一定となる。原子の偏極生成にかかる時間は、レーザー強度に

もよるが 1 ms程度で十分であると見積もられる [8]。このときの偏極限度は円偏光度、磁場の均一

具合、緩和時間に依存して決まる。また、直線偏光では偏極生成されないので、LIFのカウントは

常に一定である。本実験ではまず Rb原子の偏極を生成し、偏極度が時間経過とともに崩れていく

過程を観測した。以下にそのタイミングチャートを示す。

3.3.1 タイミングチャート

図 9 タイミングチャート

 まず OP1 で偏極をつくり、τ 経過後に OP2 が入った瞬間の LIF をカウントする。その直後

に直線偏光 OP3で偏極を壊し、OP4が入った瞬間に無偏極状態での LIFをカウントしている。τ

を変化させて測定を行うことで OP2での LIFカウントが変化し、τの増加とともに LIFは増加、

τ >> T1 では OP2と OP4による LIFの減衰は等しくなるはずである。ここで OP2、OP3、OP4

の間隔は 1.5 msである。

 解析では OP2の両端の値を I1, I2、OP4の両端の値を I3, I4 として用いた。ここで OP1でなく

わざわざ OP4の値を採用するのは、原子数補正を施すためである。HeII実験では、観測領域にお

いて偏極される Rbの原子数 NRb は Heの熱流により変動するので、OP1では Rb原子の偏極度だ

けでなく原子数も OP2と大きく異なる。そして LIF ∝ NRb(1 −σP)が成り立つことから [3]、原子

数が測定値に大きく関わるのである。

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3.3.2 偏極度および円偏光度

• 偏極度 まず偏極度の定義を述べる。P:スピン偏極度、Γpump:ポンピングレート、Γ:緩和レー

トとすると,

P =Γpump

Γpump + Γ(7)

が成り立つ [1]。ここで Γ−1 = T1 である。これよりポンピングレートが十分な励起波長で

は、緩和時間 T1 が大きいと偏極度が高く、T1 が小さいと偏極度が低くなる。

 これより、測定した LIF値と偏極度の関係を示す。無偏極状態の原子に励起波長の σ+ 円

偏光を照射したときの LIFを LIFdepol、磁場を加えて偏極状態にした原子に励起波長の σ+

円偏光を照射したときの LIFを LIF pol とすると、

Γpump ∝ (LIFdepol + LIFbg) − (LIF pol + LIFbg)

= LIFdepol − LIF pol

また LIF pol ∝ Γより

(Γpump + Γ) ∝ (Γpump + LIF pol) = LIFdepol

以上より、

P =Γpump

Γpump + Γ=

LIFdepol − LIF pol

LIFdepol (8)

が成り立つとして、偏極限界に達したときの偏極度を測定値から概算した。

• 円偏光度 円偏光度は平均全光パワーと偏光した光の強度比で定まる。そこで EOM後に偏光板とパ

ワーメーターを設置し、測定値から円偏光度を概算した。偏光板角度を変えたときの最大、

最小レーザーパワーをそれぞれMax、Minとすると、

円偏光度 [%] = {1 − Max − Min( Max+Min

2 )} × 100 (9)

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3.3.3 解析方法

ここでは測定値から偏極度の τ依存性を調べることを目的とする。

以下で LIFカウント数から偏極度の比を求められる。

NRb は分光領域内の Rb原子数、

σは円偏光度、

Pz(τ)は時間 τ経過後の偏極度、

Pdepolz はほぼ直線偏光のレーザーを照射したときの偏極度、

Ppolz はほぼ σ+ 円偏光を照射して偏極限界に達したときの偏極度、

Ibg はポンピング光やノイズなど LIFのバックグラウンドを表している。

I1 = αNRb[1 − σPz(τ)] + Ibg (10)

I3 = αNRb[1 − σPdepolz ] + Ibg (11)

I2 = I4 = αNRb[1 − σPpolz ] + Ibg (12)

これらよりI1 − I2,4

I3 − I2,4=

Ppolz − Pz

Ppolz − Pdepol

z

(13)

よってP(τ)

Ppolz

= 1 − I1 − I2,4

I3 − I2,4(1 − Pdepol

z

Ppolz

) (14)

ここで Pdepolz

Ppolzは、Pz(τ)が 0となる OP1を照射しなかったときの値から定めた。なお得られたデー

タは He原子との相互作用による緩和に加えて、短時間であるが OP2と OP4との間隔における拡

散の影響も含んでいる。

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4 Rbガスセルでのスピン緩和時間測定

本研究の目的は HeII中でのスピン緩和時間測定であるが、測定システムの評価そして測定値比

較のためにガスセルでの予備実験を行った。DAQ 以外の部分は、OROCHI グループで行われた

Rbガスセルでの超微細構造測定をもとにシステムを構築した [9]。この測定より明らかになった測

定系の問題点は改善したが、それ以外の部分はガスセル実験、HeII実験ともに共通である。

4.1 Rbガスセル

本実験では円筒形 ( 直径 3.0 cm、幅 3.95 cm) の Rb ガスセルを用いた。ガスセル内は He バッ

ファーガス (圧力 100 torr:購入時 )で満たされており、セル壁面との衝突による緩和が起こりに

くい。この緩和防止効果には圧力依存性があることが知られているが、Heガスは年月経過に伴っ

てセル外部へと抜け出ていくので配慮が必要である。なお図でガスセルの黒い部分は散乱光よけの

ビニルテープである。

 圧力広がりは大気圧 (∼ 750 torr)で ∼18 GHzであり、100 torrでのスペクトルは ∼2.4 GHzの

幅をもつ [10]。なお真空セルもしくは低圧のセルでは圧力広がりの影響が小さいので 85Rb, 87Rb

の吸収スペクトルの分離も考慮する必要がある。また当然のことながら、緩衝ガス圧力は緩和時間

にも影響してくる [15]。

Rbガスセル

(100 torr Heバッファーガス封入)

図 10 Rbガスセルでの緩和時間測定セットアップ

図のようにクォーツセル内にガスセルを設置して実験を行った。このときポンピング光に対して

垂直方向に集光系、モノクロメーターおよび PMTを設置し、散乱したポンピング光の影響を極力

受けないようにした。また Rb原子のゼーマン分裂を起こす外部磁場が、ポンピング光に対し平行

に発生するようにヘルムホルツコイルを配置した。

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4.2 測定条件

• 実験室の蛍光灯全消灯

• Ti:Saレーザー

波長:D1-line 794.981 nm(真空での値)

パワー:3.38 mW(ガスセル直前)

レーザー径:直径 2 mm以上

• EOM

EOM後の偏光板角度を変えたときのレーザーパワー(調整時)

Max:28.75 mW

Min:23.25 mW

円偏光度 = {1 − Max − Min( Max+Min

2 )} × 100 = 78.8%

このときの電圧:2.64 kV

電圧が計算値と異なるのは、レーザーが EOM結晶の中心を通っていなかったためと考えら

れる。(この状態では位置の微調整が非常に難しくなる。)

• ヘルムホルツコイル印加電流:0.22 A、印加電圧:7.03 V、磁場:3.014 G

• モノクロメーター  スリット幅:1.0 mm

• PMT  供給電圧:1400 V

• ディスクリミネーターモノクロメーター波長 785 nm、磁場ありで  226 cps

モノクロメーター波長 780 nm、磁場なしで  96657 cps

モノクロメーター波長 780 nm、磁場ありで  49884 cps

モノクロメーター波長 775 nm、磁場ありで  163 cps

モノクロメーターのシャッター閉の状態で  109 cps

• 偏極度 P

(96657 − 49884

96657) × 100 = 48.39%

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4.3 測定および解析データ

以下はMCSによって得られた測定データ(積算 517回)の一部である。いずれもシャッターの

開閉に一定時間かかるので、次のような場合分けに従いフィッティングを施している。OP1,OP2

(τ> 10 ms)ではシャッターが開ききるのに 320µsかかるとし、そこからから 450 ms間をフィッ

ティング範囲として採用した。OP2(τ< 10 ms),OP4ではシャッターが開ききるのに 420µsか

かるとし、そこから 400 ms間を同様に採用した。

図 11 LIFカウント数の τ [10µs]依存性

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・ P(τ)Ppol

zの τ依存性

測定データから得られた各フィッティング関数の両端値に、先の解析方法を適用し、 P(τ)Ppol

zの τ依

存性を示したものが下図である。

図 12 P(τ)

Ppolzの τ依存性

ここでは対数表示で直線になる範囲で A = 0.85 ± 0.08としてフィッティングを行った。フィッ

ティング関数 Aexp(−Γτ)の時定数 Γ = 0.032 ± 0.006より、本実験で使用したガスセルでの Rbス

ピン緩和時間は T1 = Γ−1 ∼ 32 msと見積もられる。

・考察

ガスセル実験の条件から導かれる計算値の値は ∼ 20sである(導出は付録参照)[15],[11] [12]。

これと測定より得られた値は一致していない。これは経年に伴って Heガスがセルから抜け出たこ

とによるもの、または低偏極度から緩和を最後まで見きれていなかったことによるものと考えられ

る。しかしながら、偏極生成過程はMCSで確認できたことから、偏極度を向上などの改善を施せ

ば、同様の装置・方法を用いて、より長い緩和時間が予想される HeII中での値の測定を行うこと

は妥当だと考えられる。なおシャッター開閉時間は偏極生成時間よりも短いので問題ないと判断し

たが、He中の測定ではシャッター通過時のビーム径を絞るなどして精度向上を目指すべきである。

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5 HeII中でのスピン緩和時間測定

HeII環境の実現および維持には、2.2 Kという極低温かつ真空状態を保つ機構が必要である。そ

のため本実験ではクライオスタットを使用して超流動を実現後、クォーツセル上のサンプルにレー

ザーを照射し、Rb 原子を HeII へと導入した [13]。またガスセル実験での経験に基づいてシャッ

ター動作を改善し、測定精度を高めて実験に挑んだ。

5.1 クライオスタット

本実験で用いたクライオスタット(Oxford Instruments plc.)は 3槽からなる。

・真空断熱槽:真空によって外部からの熱を遮断する。

・LiqN2 槽:液体窒素温度 77Kに保たれることで、内部を低温に保つ。

・LiqHe槽:真空引きでの気化熱放出を利用し、He温度の低下、超流動状態を実現する。

図 13 クライオスタット内部構造

以下に超流動 He分光環境を実現するための手順を示す。

1、断熱槽を 10−5 torr程度までロータリーポンプ Aとターボポンプで真空引きを行う。

  (以下、断熱槽は排気し続ける。)

2、He槽をロータリーポンプ Bで真空引き後、大気圧を越えるまで N2 ガスで満たす。

3、N2 槽、He槽に LiqN2 を入れ、77Kまで予冷却を行う。(断熱槽 10−6 torr)

4、He槽内の LiqN2 を N2 ガスで追い出し、ロータリー Bで真空引きを行う。

5、He槽が大気圧 (∼ 750 torr)を越えるまで Heガスで満たす。

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6、He槽へ LiqHeを供給する。(断熱槽 10−7 torr)

7、He槽を 80 torr付近までロータリー Bで,以後メカニカルブースターポンプも加え排気する。

8、He槽内は圧力 ∼ 37 torrで 2.2 Kに達し、超流動状態となる。(以後、排気は続ける。)

9、その後 He槽内部に設置したクォーツセルへと HeIIを汲み上げ、分光環境を実現した。

5.2 HeIIへの Rb原子の導入

本実験では RbCl サンプルを Nd:YAG パルスレーザーでアブレーションすることで Rb 原子団

(クラスター)を HeII 内へ導入、その後フェムト秒パルスレーザをクラスターに照射、HeII 中で

Rb原子へと解離させた。この手法は不純物原子導入による HeIIの熱流が小さく、不純物原子の分

光領域からの逸脱が少ないというメリットをもつ。しかしながら導入直後は熱流の影響が大きく、

分光領域における導入原子数変動が著しいことから、解離レーザ照射後 ∼ 500ms経過してから測

定を行った。また測定中も導入原子は拡散しているため、タイミングチャートで述べたように原子

数補正を行っている。

図 14 HeII中への Rb原子導入

• サンプル(豊島製作所)  RbClをステンレス製のホルダーにシリコンシーラントで接着して用いた。RbClは潮解

性があるので、長時間空気に触れないよう注意が必要である。また、またアブレーションに

より放出される粒子はサンプル表面に垂直方向に多く放出されるので、その向きが観測領域

に合うようサンプルを設置した。

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• レーザーアブレーション 高出力レーザーを照射により固体表面をスパッタリングし、原子、電子、イオン、クラス

ターなどを放出させる技術をレーザーアブレーション法という。この時、アブレーションが

起きていれば、照射点からのプラズマ発光が確認できる。アブレーションにより発生したク

ラスターは HeII液中へ浸入するが、原子は HeIIのポテンシャルに阻まれて HeII液中には

侵入できない。

 なおサンプルの一箇所のみをスパッタリングし続けると、表面に溝ができアブレーション

効率が低下してしまう。これを防ぐため、本実験ではステッピングモータ(シグマ光機)で

集光レンズを周期的に動かし、Nd:YAGレーザーの集光点をずらしつつ照射した。

(NEW WAVE  Tempest pulsed Nd:YAG laser使用)

 波長:532 nm、ATTENUATOR(パワーを表す):200で実験を行った。なおATTENUATOR

が小さい値でアブレーションできる程効率が良く、測定は 130でアブレーションプラズマが

確認できる位置に集光レンズを設置して行った。

• フェムト秒パルスレーザーによる解離(QUANTRONIX  Integra-c使用)

  He 中に導入されたクラスターを Rb 原子単体へと解離するために、周期 500 Hz、波長

800 nm のフェムト秒パルスレーザーを用いた。しかし今回使用した波長 800 nm は Rb 原

子の励起波長に近いので、倍波結晶を用いて 400 nmのレーザー光を生成することが望まし

い。本実験でも倍波で準備を進めていたが、本測定時にアライメントが崩れパワーが解離に

十分でなくなり断念した。

 本実験はパワー 170 mW(集光レンズ直前)で行ったが、ここではブレークダウンが起こ

らないパワーに調整する必要がある。この現象は解離レーザー強度が強すぎるために、液体

Heをアブレーションしてしまい白色発光が生じ、LIFがノイズと判別できなくなるもので

ある。また吸収の飽和が起きないのは、He原子との衝突で Rb原子のコヒーレンスが崩れ

るので衝突広がりが大きく、光の吸収量が減少するからである。

 図は 133Csを対象とした HeII実験において、解離レーザーを遮断してからの LIF強度を観測したものである [3]。LIFの急激な減少は観測領域からの逸脱と対応しており、これは解離レーザー

によって発生する HeIIの熱流によるものである。図よりおよそ500 msで LIF強度が約 1

10 になり、以後一定の割合で減っている

ものの 104 cpsの範囲に収まっていることがわかる。そこで本実験では解離レーザー offから ∼ 500 ms経過後にポンピング光を照射して偏極生成、緩和時間測定を行っている。

図 15 133Csの LIF強度変化 [3]

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5.3 シャッター動作改善

図 16 ビーム径変化によるシャッター動作改善

ガスセル実験結果を踏まえ、レーザー ON,OFFの切り替え時間を短縮するため、レンズを用いて

シャッター通過時にレーザー径を ∼ 0.2 mmに絞った。これにより OPENは ∼ 160 µs、CLOSEで

は ∼ 160 µsと改善が見られた。なおシャッター通過後に別のレンズでレーザー径を元に戻した。

5.4 測定条件

• 実験室の蛍光灯点灯

• Ti:Saレーザー

波長:D1-line 783.325 nm(真空での値)[1]

   HeIIでは原子バブルにより励起スペクトルが広がり、短波長側にシフトする。[14]

パワー:253.7 mW(クライオスタット直前)

• EOM

EOM後の偏光板角度を変えたときのレーザーパワー(調整時)

Max:116.5 mW

Min:101.5 mW

円偏光度 = {1 − Max − Min( Max+Min

2 )} × 100 = 86.2%

このときの電圧:3.86 kV

• ヘルムホルツコイル印加電流:0.22 A、印加電圧:7.03 V、磁場:∼0.17 G [13]

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• モノクロメーター  スリット幅:1.5 mm

• PMT  供給電圧:1400 V

• ディスクリミネーターULT電圧:-10.02 V    LLT電圧:-0.432 V

モノクロメーター波長 798 nm、磁場なしで  1931 cps

モノクロメーター波長 793 nm、磁場なしで  17143 cps

モノクロメーター波長 788 nm、磁場なしで  2056 cps

モノクロメーターのシャッター閉の状態で  16 cps

5.5 測定データ

Nd:YAGレーザー、フェムト秒パルスレーザーを照射し続けたとき、モノクロメーター波長 798

nm, 788 nmでは同じ条件で測定を繰り返しても、Visual Scalerでの観測光強度の変動は以下のよ

うに 100 cpsの範囲に収まっていた。しかし、モノクロメーター波長 793 nmでは値が測定ごとに

変動した。

  モノクロメーター波長 798 nm、磁場なし  1931 cps

                      1861 cps

   モノクロメーター波長 788 nm、磁場なし  1763 cps

                   1831 cps

   モノクロメーター波長 793 nm、磁場なし  20176 cps

                        84496 cps

                        57780 cps

                        24053 cps

                        43721 cps

これより、Rb発光波長のみで信号が強いことから LIFは観測できたが、レーザーアブレーショ

ンおよび逸脱による原子数変動の影響がかなり大きいと判断した。そして実際この状態では磁場を

かけたときの LIF変化は見られず、偏極は確認できなかった。そこで Nd:YAGおよびフェムト秒

パルスレーザーを 15 秒間照射し、off になった瞬間から測定を行い磁場の有無による変化を調べ

た。しかしフェムト秒パルスレーザーの項で述べたように、解離レーザーを切った瞬間から LIF強

度が急激に減少して 170 ∼ 540 cpsとなり、ノイズに埋もれてやはり偏極確認できなかった。この

ときヘルムホルツコイルに流す電流を ∼0.4 A(磁場 3 G)にしても同様であった。また測定タイミ

ングを合わせたMCSで測定を試みるも信号がうまく観測できず、こちらでも偏極確認には至らな

かった。

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6 総論

Rbガスセル(100 torr He緩衝ガス封入)での測定では Rb原子の偏極生成、緩和を示す LIF変

化が観測された。この測定を τを変化させて行った結果をまとめて、緩和時間はおよそ 32 msと見

積もられる。この値は緩衝ガス圧力依存性があり、今回使用した 100 torrでの理論値 20 sとは一

致していない。この値は Heガスが経年に伴ってセルから抜け出ていくこと、低偏極度による S/N

比の悪さによるものであると考えられる。

ただし偏極生成過程が確認できたので、上記の点を改善すれば測定には問題ないと判断して、

HeII 実験には測定システムを改良を施して挑んだ。またレーザー遮断用シャッターの開閉時間の

影響を小さくするためビーム径を絞って測定精度向上を目指した。しかしながら、HeII での実験

時にはレーザー径がもとから 1.0 mmと小さくなっており、それ以下の径ではレンズで絞る効果は

薄いことが判明した。

次に行った HeII 中での測定では、緩和時間を推定する段階に今回は達しなかった。これは He

熱流に伴う、Rb原子の観測領域からの逸脱による LIF変化に埋もれて、偏極が確認できなかった

ためと考えられる。HeII中でのスピン偏極緩和時間は測定できなかったが、LIFを観測するまでに

至った本実験のデータは今後の測定にとって重要である。

以下に今後の展望を述べる。HeII 中実験では RbCl サンプルにレーザーを照射して、解離した

Rb原子を HeII中に供給する。しかし、それに伴う HeIIの熱流によって生じる、Rb原子の観測領

域からの逸脱が観測を妨げる要因になっている。従って、逸脱の影響も含めて Rb原子の供給効率

がより高いレーザー強度を決定し、同時にスピン偏極度を向上させれば、HeII中における Rb原子

のスピン偏極緩和時間測定が実現するであろう。

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7 付録

7.1 HeII中での原子

本実験では分光環境として HeII を用いた。そのため He 原子と導入原子との相互作用により、

真空や大気中での分光とは異なる部分ががある。そこでこの節では測定に関連する、HeII および

HeII中での原子の振る舞いについて述べる。

7.1.1 超流動 He

液体 Heの超流動現象は 1937年、ピョートル・カピッツァによって発見された。これは 4Heが

2.17 K以下の温度に達すると、ボース=アインシュタイン凝縮が起こり、液体の粘性がゼロになる

ものである。また 1972年に同位体の 3Heでも超流動現象が 2 mKという極低温で発見されたが、

こちらは 4Heとは異なる機構によるものである。

HeIIに特有の現象としてファウンテン効果がある。これは細管を差し込んだ HeII液を微かに加

熱したとき、圧力の上昇によって超流動成分のみが細管内を伝わり上部から噴き出す現象である。

本実験でもクォーツセル内に HeIIをくみ上げる際、この効果を利用している。そのため He槽圧

力が 37 torrになり HeII状態に達した後も排気を行い、超流動成分が多くなる 1.0 torr以下になっ

てから実験を行った。

7.1.2 原子バブル

図 17 原子バブルによるスペクトル変化 [1]

HeII 中に導入した原子の周囲には He 原子との相互作用によって空乏層が形成され、これは原

子バブルと呼ばれる [14]。この状態では導入原子の励起スペクトルは短波長側にシフトし、幅も

広がることが知られている。これは原子が励起されるためには、周囲の Heを押しのける分のエネ

ルギーを余分に必要とし、その作用の大きさは導入原子の電子と He原子の位置関係ごとに異なる

からだと考えられる。図は HeII 中での Rb 原子の励起スペクトルである。真空中では 794 nm の

D1-Lineが 783 nmに、真空中では 780 nmの D2-Lineが 775 nmにシフトしていることがわかる。

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7.2 ガスセルでの Rb原子スピン偏極緩和時間の計算値導出

Rbガスセルにおける緩和レート(緩和時間の逆数)は以下で定義される [11], [12]。

Γst = γ = Nσstv (15)

ここで、N:緩衝ガス数密度、σst:衝突断面積、v:衝突ペアの平均相対速度である。

PV = nRT = N0kBT

であるので、1 torr=133.322 Pa、T=273+25=298 K(標準状態)として、

N =N0

V=

PkBT

=13332.2

1.38 × 1023 times298= 0.324 (16)

また He原子と Rb原子の平均相対速度 vは以下で求まる(uは原子質量単位)。

{8kBTπ

(1

mHe+

1mRb

)} 12

= {1.0472 × 10−20 × (1

4.0026 × u+

185.4678 × u

)}

= 1284.3 ms

そして 150 ◦Cのとき σ = 0.087 × 10−26 m2 で温度依存性 T 3.7[11]をもつことより、

σst=σ × (273 + 25273 + 150

)3.7 = 0.0238 × 10−26

これよりΓst = γ = Nσstv = 0.990

核スピンも考慮して、

ΓI = Γst ×2

(2I + 1)2 = Γst ×118= 0.05

よってT1 = γ

−1 = Γ−1I = 20s

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参考文献

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of Nuclear Structure”, Osaka, December, 2007.

[2] 藤掛浩太郎、修士論文、明治大学、2009

[3] T. Furukawa, Y. Natsuo, A. Hatakeyama, Y. Fukuyama, T. Kobayashi, H. Izumi, and T. Shimoda,

“Measurement of Long Electronic Spin Relaxation Time of Cesium Atoms in Superfluid Helium”

, PHYSICAL REVIEW LETTERS 96, pp.095301 1-4, Osaka, Riken, and Tokyo, Japan, March.

2006.

[4] 平野功、「原子スペクトル入門」、技報堂出版、2000年

[5] 畠山温、「飽和ヘリウムバッファーガスを封入した低温アルカリ原子気体セルの実現と光ポン

ピング」、2001年

[6] 黒田和男、「光機能材料およびデバイスの基礎 I」、Japan, June. 2000.

[7] 山口康広、卒業論文「三軸ヘルムホルツコイルを用いたレーザー RF二重共鳴法による Rbの

核スピン測定法」、明治大学、2011年

[8] T. Kinoshita, Y. Takahashi, and T. Yabuzaki, “Optical pumping and optical detection of the mag-

netic resonance of alkali-metal atoms in super-fluid helium”, PHYSICAL REVIEW B, VOL-

UME49, NUMBER5, Kyoto, Japan, February, 1993.

[9] 幕田将宏、卒業論文「超流動ヘリウム中におけるルビジウム原子の超微細構造測定」、東京農工

大学、2011年

[10] M.V.Romails, E. Miron, and G .D. Cates, “Pressure broadening of Rb D1 and D2 lines by 3He,4He, N2, and Xe: Line cores and near wings”, PHYSICAL REVIEW A, VOLUME56, NUM-

BER6, Princeton University, 1997.

[11] William Happer, Yuan-Yu Jan, and Thad G. Walker, “Optically Pumped Atoms” , WILEY-VCH,

pp.178-179, 2009.

[12] L. C. BALLING, “Advances in Quantum Electronics 3 OPTICAL PUMPING” , ACADEMIC

PRESS, New Hampshire, USA, 1975.

[13] 松浦佑一、修士論文「超流動ヘリウム環境下での Au原子のスピン偏極とレーザー・RF二重

共鳴」、明治大学、2011年

[14] 佐々木彩子、修士論文「超流動ヘリウム中でのレーザー核分光のための蛍光検出系の開発」、

東北大学、2009年

[15] ROBERT A. BERNHEIM, “Spin Relaxation in Optical Pumping”, THE JOURNAL OF CHEM-

ICAL PHYSICS, VOLUME36, NUMBER1, New York, January, 1962.

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8 謝辞

 本論文は東京農工大学工学部物理システム工学科畠山研究室 2011年度卒業論文として、理化

学研究所 OROCHIグループとの共同研究成果を記したものである。本研究は多くの方々の助けな

くしては成し得なかったものであり、そのお力添えがなければこの論文はここにありませんでし

た。心より感謝申し上げます。

指導教官の畠山温准教授には理化学研究所で研究する機会を与えていただき、大変感謝しており

ます。また物理に関しての様々なご指導も非常に為になりました。1年間ご指導どうもありがとう

ございます。

理化学研究所の皆さんは些細な疑問にもいつも丁寧に答えてくださり、実験時には終電や朝まで

の実験に付き合っていただき本当に助かりました。人手が必要な時はぜひ呼んでください。

理化学研究所の松尾由賀利研究員には研究を進める現場で大変お世話になりました。研究で問題

に当たる度に多くを教えていただき、ありがとうございます。

理化学研究所の小林徹研究員にはいつでも暖かく見守っていただき、装置の面はもちろん心理的

にも非常に心強かったです。

首都大学東京の古川武助教授には、OROCHI全般におよぶ鋭いご指摘にいつも驚嘆させられて

いました。DAQ等のご指導ありがとうございます。

北京大学の Yang Xiaofei氏には、Ti:Saレーザー周りで大変お世話になりました。教えていただ

いた中国語も忘れません。

明治大学の加藤裕樹氏には、装置の使い方など基本から様々なことを教えていただきました。実

験に当たるときのその力強さを見習いたいと思います。

明治大学の今村慧氏には可能な限り実験に携わる志の高さに刺激を受け、またその守備範囲の広

さに助けられました。今度中本に行きましょう。

明治大学の山口康広氏とは、よく帰りの終電を共にし疲れを忘れさせてもらいました。

東京学芸大学の筒井正機氏には、クライオ関連でお世話になりました。関西弁ならではのその癒

し力は今後も維持してください。

東京学芸大学の手塚博紀氏には、大変な作業時でも明るいその人柄からエネルギーをもらいまし

た。記憶に残る仁科での朝まで散乱光測定も案外楽しかったです。

明治大学の井澤正治氏には同学年ということもあり、気軽に研究外のことも話せて良かったで

す。ボストンの土産話を待ってます。

明治大学の三津谷洋助氏には実験で多くをお手伝いしていただきました。理研にきて 1週間後、

台風で二人して新宿から帰れなくなった日が昨日のことのようです。

京都大学のWang Xiaolong氏とは、どうも Ti:Sa使用時期が重なりましたね。ご親切な心遣いに

よく助けられました。

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東京農工大学畠山研究室の皆様には大学生活で非常にお世話になりました。また皆様のおかげで

大学での研究室生活も素晴らしいものになりました。どうもありがとうございます。

M2の石川陽平氏の、ゼミなどでの常に的確な発言は M2の凄さを思い知らされました。またい

つかピンボールできたら嬉しいです。

M2 の高杉祐太氏の分野を問わない鋭い意見には、時に驚かされ、時に参考になり、また楽し

かったです。吉祥寺から三鷹まで歩いたのも良い思い出です。

M2 の寺田裕之氏には研究室 HP の更新や LaTeX の導入など大変お世話になりました。席が近

かったこともあり、色々と話せて楽しかったです。

M2の八角幸平氏が語る話はいつも面白く、特に異国での珍道中は記憶に残っています。洞窟に

挑む冒険心を見習いたいと思います。

M1の清水智仁氏には研究室の企画、そして日常でも自然に盛り上げる力で良い空間を創ってい

ただき感謝しています。

M1 白石有為氏の物事に真摯に取り組む姿勢は大いに参考になり、困ったときに頼れる存在で

した。

B4の池野智大氏にはレポート提出前の夜中に研究室でよくお会いしましたね。心強かったです。

B4の安藤俊介氏、小渕博之氏とはふとした合間にワイワイでき、忙しさで張りつめていた時も

気が休まりました。

B4の後藤航平氏には研究室生活で色々とお世話になりました。後輩も入ってくるので、いずれ

は研究室を引っ張っていって下さい。

村山研究室の幕田将宏氏には、理化学研究所に行くにあたり心構えを教えていただきました。

鵜飼研究室の島田紘行助教授には、手伝いテーマのレーザー冷却実験で大変お世話になりまし

た。あの時に学んだ実験の進め方は大いに役立ちました。ありがとうございます。

研究面で多大なる助言、助力してくださった方々を含め、ここに書ききれなかった多くの方々の

支えがあったからこそ、ここに至ることができました。皆様本当にありがとうございました。

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