味覚刺激 と自律神経 脳活動 - srut.org · 味覚刺激と自律神経活動 動物にお...

10
The Japanese Association for the Study of Taste and Smell NII-Electronic Library Service The Japanese Assooiation for the Study of Taste and Smell 本味 匂学会誌 Vol20 No 2 PPI51 160 2013 8 特集 味覚 うま 味) 腔保健 より 健康 して 7 味覚刺激 自律神経 脳活動 関連 杉本 久美1 D 泰羅 雅登 2 2 東京 科歯科 歯学部 腔保健学科 2 東京 医科 歯科 学総究科 知神経 物学) 腔内 摂 り入食物 から 味覚情報 大脳皮質 次味覚野 え られ 知覚 認知され だけはなくらな 自律 神 経 を介 唾液分泌 消化器系 調節 引 き起 同時 大脳 縁系 られた 味覚情報 不快 情動を生じ評価結果が摂 食行動 とし出されるこの よ う な 味 覚 刺 激 に対 す る 生 体 反 応 が 味 によ 異な かと う点 調 るため 自律 神 経 なら 脳波 による 脳活動 解析を行 検討 した結果 自律 神 経 活動 唾液分泌促進効果 味刺激 交 感神 経活 動 がみ のに 嫌われ 苦味刺激 では 液分泌促 効果 交感神経活動 が上 昇す な らび に 感神活動 唾液分 量とには 相関 とが 明 らか とな り副交感神経を亢進さ せる うま味な どは 化器 用を及ぼすが 交感神経を亢進 せる 苦味 調節 行 う可 能性 示唆 されたまた脳 波 か ら情 基本的 4 感情すな ち喜 (満足感) 気落ち感) リラ 析 した結 果 酸味刺激中 満足感 E 苦味刺激中 のス レス とリ感低下など味質 によ り異 な 感情 変化 観察 され方法を用 刺 激 に 対 す る情 動 変 把握可能 が示 れた 本稿 紹介す 5 基本味刺激 自律 神 経 活 動 脳活動 情動 味覚唾液はじめに 食物 摂取 消化 過程 命維持 ために 涯繰 り返 され る 機能 を営 むため は きわめ な調節機能を備 系全体 にわ 外界 から 取り た食物 成分 性状 化学的 なら 機械 検出し情報を基に効率 消化液分泌 消化管 運動 調節を行 口か 取り れた 食物 は口 な感 覚器 激し情報は大脳皮質に到達し 度感覚 辛味 刺激性 )感覚 とし知覚され 的認 われる この き鼻 腔 抜け 食物 香り ) も総合 重要 要素 をな れら 情報 は同時 扁挑体など 大脳辺縁 に達しなわ まず た情動評 を生 み出 し食行動を調節す 食後 のデ 食欲 旦食 物を 冂に す る と食 が進 むと 口常的しさの 情動 きを活発 D さらなるけ入れ態 え られ また意識 らな 味覚 む口 腔内 感覚情報 は自 律神 経を介 し 反射性に消化 消化管 運動 促進 消化 器系 を受け入れる 備を開始さ 1 y 食塊が送られると機械 化 学 的刺 激 は よ り直 接 的 に反射性調を引 き起 消化管 には 2 神経叢がありよば 細胞 トワ クが 存在 Reoeived July lO 2013 Accepted Ju y 31 2013 Thc activities ofautonemic nerves and brainassociated with taste stimulation Kumiko Sugimoto SchQol ofOral Health Care Scicnccs Faculty ofDentistry Tokyo Medical and DenLal University 1 5 45 Yushima Bunkyo ku Tokyo ll3 8549 ksugimQto bohs tmd ac jp Fax81 3 5803 4640 151 N 工工 Eleotronio Library

Upload: others

Post on 07-Feb-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

日本味と匂学会誌 Vol.20 No .2 PPI51 −160 2013 年 8 月

総説特集 味覚 (うま味)と口腔保健 よ り健康な生活を 目指して一 7

味覚刺激 と自律神経 ・ 脳活動の 関連

杉本 久美子1)’

 ・土橋 な つ みD ・泰羅 雅登

2)・臼井 信男2)

   ([

東京医科歯科大学 ・歯学部 ・口腔保健学科、2

東京医科歯科大学大学院

          医歯学総合研究科 ・認知神経生物学)

 口腔内に摂 り入れ た 食物か らの 味覚情報は 、 大脳皮質 の 第一次 ・第二 次味覚野に伝え られ て 、味が知覚 ・

認知 され る だけで はな く、意識 に の ぼ らな い 形で 自律神経を介 して 唾液分泌を始め とする消化器系へ の 調節

を引 き起こす。 そ れ と同時に、大脳辺縁系に送られた味覚情報は快 ・不快の 情動 を生 じ、そ の 評価結果が摂

食行動として表出される 。 こ の ような味覚刺激 に対す る生体 反応が味 の 質に よ っ て 異な る の か と い う点を調

べ る た め 、自律神経の 応答な ら び に脳波 に よ る 脳活動 の 解析 を行 っ て 検討 した。そ の 結果、自律神経活動に

おい て は 、 唾液分泌促 進効果 の あ る うま味刺激で 副交感神経活動の 上昇が み られ た の に対 し、一様 に 嫌われ

る苦味刺激で は 唾液分泌促進効果が低 く、交感神経活動 が 上 昇す る こ と、な らび に 副交感神経活動 と唾液分

泌量 との 間 に は 正 の 相関が あ る こ とが明 らか とな り、副交感神経 を亢進 させ る うま味な ど は他 の 消化器 に も

促進作用 を及ぼすが、交感神経 を亢進させ る苦味は負の 調節を行う可能性が 示唆された。また、脳波か ら情

動の 基本的 4 感情 、 すなわち喜 (満足感)、怒 (ス トレ ス )、哀 (気落ち感)、楽 (リ ラ ッ ク ス 感)の レベ ル

を解析 した結果、甘味と酸味刺激中の 満足感の 一E昇や苦味刺激中の ス トレ ス 上昇 とリラ ッ クス 感低 下な ど、

味質に よ り異なる感情の変化パ ターン が観察され、こ の 方法を用 い て 刺激 に対す る情動変化の 客観的把握が

可能 と な る こ とが示 唆さ れ た の で 、本稿で紹介する。

キーワー ド ;5 基本味刺 激、自律神経活動 、脳活動 、情動 、 味覚唾液反射

は じめに

 食物 を摂取 し、消化、吸収す る 過程 は、生 命維持

の ために一生涯繰 り返さ れ る機能で あ る。こ の機能

を営むため に 生体は きわめ て 巧妙な調節機能を備 え

て い る 。 消化器系全体に わ た っ て 、外界か ら取 り入

れ た食物 の 成分 や 量・性状 の 情報を化学的な ら び に

機械的 セ ン サー

で 検 出 し、そ の 情報 を基に 、 効率よ

く消化液分泌や消化管運動 の 調節 を行 っ て い る 。

 まず、口か ら取 り入 れ た 食物は 口腔内 の様 々 な感

覚器を刺激 し、そ の 情報 は大脳皮質 に到達 して 、 味

覚 、 触 圧 覚、温度感覚あ る い は 辛味 (刺激性)感覚

として 知覚 され、食 の 総合的認知が 行わ れ る。こ の

と き鼻腔に抜ける食物の 香 り (フ レーバ ー

) も総合

的味わ い の 重要な要素をなす。一方、こ れ らの 情報

は同時 に 扁挑体 な どの 大脳辺 縁系に達 し、 快 ・不

快、す な わ ち、お い し い ・まず い とい っ た情動評価

を生 み出 し、摂食行動を調節する 。 食後の デ ザート

は 別腹 、 食欲が な くて も一

旦食 べ 物 を 冂 に する と食

事が進 む と い っ た 口常的体験 は、お い し さ の 情動が

胃の 働きを活発 に しD

、 さらなる受け入れ態勢を整

える ため と考え られ る。また、意識 に の ぼ らな い 形

で 、味覚を含む 口腔内の 感覚情報は 自律神経を介 し

て 反射性 に、消化液の 分泌 と消化管の運動を促進さ

せ 、 消化器系に 食 べ 物を受 け入れる準備 を開始させ

る1’y)

。 続 い て 、胃、腸に 食塊 が送 られ る と、機 械

的、化学的刺激 はよ り直接 的に反射性調節 を引 き起

こす蛔 。消化管の 壁 に は 2 層 の 神経叢 があ り、第

二 の 脳 と もよ ば れ る神経細胞の ネ ッ トワーク が存在

Reoeived July lO,2013;Accepted Ju■y 31,2013

Thc activities  ofautonemic  nerves  and  brain associated  with  taste stimulation ,’Kumiko  Sugimoto:SchQol ofOral  Health Care Scicnccs, Faculty ofDentistry , Tokyo  Medical and  DenLal University,1−5−45 Yushima ,Bunkyo −ku, Tokyo  l l3・8549;ksugimQto.bohs@tmd.ac.jp;Fax;

+ 81−3−5803−4640

一151 一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

日本味 と匂学会誌 Vo120  No .2 2013 年 8 月

           杉本 久美子 ・土橋

して い る た め、刺激が加わ る とこ の 内在神経系を介

して 腸内反射に よ る 消化管運動 な どの 調節が行 わ れ

る 。こ の 内在神経系 に 加 えて、副交感神経 と 交感神

経が腸管外か ら走行支配 し、そ れ ぞ れ促進性お よ び

抑制性 の 調節 を 行 う。 延髄 お よ び 脊髄 か ら 出 る 自律

神経 による調節 はさらに上位 の 脳か らも調節 を受 け

て い る 。 食物の お い し さや 楽し い 食事環境か ら生 じ

る快情動 は、副交感神経を介する促進性調節をよ り

強化 し、栄養摂取機能を高め る一

方で 、味気ない 食

事や ス トレ ス は交感神経 を介して 機能 を低 ドさせ る

要因とな る。こ の よ うに 生命維持 に 不可欠な栄養摂

取機能 に対 して、消化器の感覚か ら誘発 さ れ る 自律

神経活動と情動 は 重要な調節要素 と な る た め、本稿

で は味覚刺激が こ れ らの 神経活動 に 与え る影響 に つ

い て紹介 し、心身ともに健康な生活を送 る た め の 考

察 を 行 い た い 。

なつ み ・泰羅    雅登 ・臼井 信男

味質の 認知閾値 を求めた後、刺激が明確 な味 として

感じられか つ 中等度の 強 さ と な る よ う閾値の 約 3 倍

濃度 の 溶液 を本実験 に 用 い た。使用 した 最頻 の 濃度

は シ ョ 糖と NaC1 で 100  mM 、  MSG で 30  mM 、ク エ

ン 酸 で 3mM 、キ ニ ーネ で 3 μ M で あ っ た。こ れ

らの 味溶液 を 1分 間 口 に含ん で い る時 の 自律神経活

動を 、 無刺激時お よ び純水を口 に含ん だ時とウ ィ ル

コ ク ソ ン の 符号付順位検定に よ り比較した。その 結

果、副交 感神 経活動 は、無刺 激時 と比 較 し て 、

MSG 刺激 中有意 に L昇 し (p く O.05)、クエ ン 酸刺

激 中 に ト昇傾向 (p < 0.D を示 し た の に 対 し、キ

ニーネ刺激中は純水時 と比 べ て減少傾向 (p く 0.D

を示 した (図 IA)。一方、交感神経活動は、キ ニ

ネ刺激中 に 無刺激時、純水時 と比 較 して 有意 に 上 昇

した が (p く O.OI)、 他 の 4 基本味刺激で は有 意な変

化は認め られ なか っ た 〔図 IB)。

味覚刺激と 自律神経 活動

 動物 に お け る 自律神経活動 の 記録 か ら、味覚刺激

お よ び胃や腸に到達 した うま味 や 甘 味等の 成分が迷

走神経求心路 を活性化し、反射性 に迷走神経遠心路

の活動を変化させ る こ とが 明 らか に され て い る即 面

ヒ トで も同様 に味覚刺激に よる反射 が起 き る 際 に 自

律神経活動の 変化を伴うと考えられ 、 その 検証 を行

うた め、5 基本味の 溶液を 1分間 口 に 含 ん で い る 問

の 副交感神経 と交感神経 の活動変化を解析し た 。 自

律神経 活動 は、心 拍す な わ ち 心電 図 の R−R 間隔 の

変動 を周波数解 析 し、O.25Hz に ピーク を もつ 高周

波数 成分 (HF )を副交 感神経活動の 指標、0,07Hz

に ピーク を もつ 低周波 数 成 分 (LF ) を HF で 除 し た

値を交感神経活動 の 指標 と して 推計 しだ3〕

。 こ の 理

論的背景 は、呼吸に伴う肺受容器か らの信 号に よ る

心拍変動は副交感神経活動を反映 し、動脈の 圧受容

器か らの 信号 による心拍変動は交感神経 と副交感 神

経の 活動を反映する との考え に基づ くL4’ ls )

。 測定 ・

分析方法の 詳細に つ い て は、他の 論文S’16)

を参照 い

た だ きた い 。

 5 種類 の 基本味刺激 と し て、3 〜 300mM シ ョ 糖、

1 〜 300mM  NaCl 、1 〜 300 mM グ ル タ ミ ン 酸 ナ ト

リ ウ ム (MSG )、  O.1〜 10mM ク エ ン 酸お よ び 0.3

〜 100 μ M 塩 酸 キ ニ ーネ (キ ニ ーネ ) の 5 −一 6 段

階濃度 の 溶液 をそれぞれ H一味、塩 味、うま味、酸味

お よ び苦味刺激 と して用 い た 。 まず全 口 腔法に て各

A    ms2

  700.0

副 600.0 .、交  500、0 .感

神 400・0

経 300.o活  200.0動  100.0

    0、0

B

41374365    44ア7    433.1

      十

*    529.54ss.6

                       .1

無刺激    練水   シ∋糖    NaCl  MSG  クエ ン酸 キ ニ ーネ

  7.00 −

  6.OG 一交

感 5・00 一

神 4.00

籌ii拍    2.71!.s7

ー目

口聖■鬮■

1

、、ll

圏,慧

無朿1]dV   純水  シ ョ糖    NeCI   MSG  クエ ン 酸 キ ニー

ホ廓:ρくO.01r 窟:Pく0.05.十:ρ

くO.1

図 15 基本味溶液刺激中 の 自律神経活動 の 変化

 A :副交感神経活動 。 無刺激時 と比 較 し て 、 うま

  味刺激中 の 有 意な上 昇 と酸味刺激 ri.1の ト昇傾向

  が認め られた。苦味刺激で は純水時と比較 して

  減少す る傾 向がみ られた 。

 B  交感神経活動。苦味刺激中は無刺激時お よ び

  純水時と比 較し て 有意な上 昇 が 認 め られ た が、

  他 の 味刺激では有意な変化 は認められなかっ た。

一152 一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

日本味 と匂学会誌  Vo120 No.2 2013年 8 月

味覚刺激 と自律神経 ・脳活動 の 関連

味覚刺激と唾液分泌

 味覚刺激 に よる自律神経活動変化 の ア ウ トプ ッ ト

と して 、ヒ トで最 も直接的 に観察で きる の が、味覚

唾液反射 による唾液分泌 で ある 。 口腔 内に加えられ

た 味覚刺 激 の 信号 は 鼓索神経、舌咽神経、大浅錐体

神経に よ っ て延髄孤束核の ニ ューロ ン に伝達 され、

その 情報が次 い で 延髄にある E ・「唾液核の ニ ュ

ロ ン に 送ら れ る。そ の 結 果、副交感神経系の 働 きに

よ り耳下腺 、 顎下腺 、 舌 ド腺か ら電解質を含む水様

性の 唾液が多量 に分泌される。一方、ス トレス な ど

に よ る 交感神経系 の 活性化は タ ン パ ク 質に富む粘性

の 高い 唾液を少量分泌 させ る 。 したが っ て 、 唾液分

泌 は 自律神経の 活動 バ ラ ン ス が 反映された結果 と捉

え る こ とが出来 る 。

 そ こ で 、前項の 自律神経活動測 定 の 際 に、味覚刺

激時 の 唾 液分泌速度 を測定 し、ウ ィ ル コ ク ソ ン の 符

号付順位検定に よ り無刺激時お よび 純水時 と の 比較

を行 っ た 。 その 結果 、 無刺激時お よ び純水時と比較

する と、5 基本味すべ て の 刺激 が 唾 液分泌速 度を有

意に増加 させ たが、そ の 中で 苦味刺激は促進効果が

他 の 味質 に比 較 して 弱か っ た (図 2>。こ れ らの 結

果を基 に、刺激時 の 唾液分泌速度と副交感神経活動

お よ び交感神経活動が どの ように 関連す るか を検討

した結果 を図 3 に示す 。 副交感神経活動 と唾液分泌

速 度 と の 問 に は 正 の 有 意 な 相 関 (r ≡O.359、p <

O.  1)が認 め ら れ 、 か つ 、交感神経活 動 と唾液分泌

速度と の 間 に は 弱 い な が ら有意 な負の 相 関 が 認 め ら

れ た (r =−0,294、p く 0.05)。

  gimi[

  200

  180

唾160

液 140

分 1.20泌 10e速

O.BO度

O,60  040

  0.20  000

a167165a

a155

ユ ヨ8

昏,置 b

匸c 鬣“ 1D1

0740 .7嫡 鰾卩1鷺隈、r1尺塚げi聾『.」3%ゴ『ヤr:こ恐’F丁■る瓲

無刺激   純水   シ ョ糖   NaOl

図 2 味覚刺激 に よ る 唾液分泌速度 の 変化

 5 基本味刺激す べ て が無刺激時お よ び純水時と比

 較 して 唾液分泌速度を上昇させ たが、苦味は他 の

 味質に 比較 して 促 進効果 が 低 か っ た。

 異な る ア ル フ ァ ベ ッ ト間は有意差 があ る こ と を示

 す (P く O.Ol)。

  こ こ まで の 結果を総合す ると、うま味や酸味刺激

は 副交感神経活動を高め て 唾液分泌 を効 果的 に 促進

す る こ と、さらには消化器系全体をも活性化する可

能性が示唆さ れ た 。

一方、苦味刺激 は、副交感神経

活動 の 低下 と交感神経活動の 上昇を生 じ、唾液分泌

へ の 効果 も低 い と い う特徴 が み られ た が 、これ は嫌

わ れ る味で ある こ とに 起 因して い る と推 測 され る 。

実際に、味の 好み に つ い て 5 段 階 (L 嫌 い 、2,どち

らか とい えば嫌 い 、3,どちらで もない 、 4.どちらか

と い え ば 好 き、5.好 き〉 で 回 答 を得 た結果、甘 味

4.42 ± 0.16 (平均値 ± 標準誤差、n =25)、 塩味 4,17

± 0.19、うま味 4.58 ± 0.13、酸味 3.96 ± 0.18、苦

味 2.42 ± 0.23 と な り、昔味以 外の 味質は 4 前後 と

好 む者が多か っ た の に対 し、苦味は ほ とん どの 被験

者で嫌わ れ る味で あ っ た。こ の こ とか ら、口 腔内 に

味覚刺激が加わ る と、基本的に は副交感神経系 を介

する無条件反射の経路 を介 して 唾液分泌 が促進され

るが、嫌 い (不快)の 情動 を生 じ る味の 場合 は交感

神経活動 の 上昇 も伴 い 、基本の 反射性調節に修飾を

加え る 可能性が示唆された 。

味覚刺激と情動 :脳波か らの解析

 食物を味わ う時に 生 じる快 ・不快 の 情動 は 、 前述

の よ うに自律神経を介する 反射性調節 に影響 を与 え

る だけ で な く、摂 食行動に直接的か つ 強力な影響を

及 ぼ す。 好物を摂取する ときに は、食物 に 関す る視

覚、味覚、嗅覚、口腔内体性感覚の 情報 が総合 され

て、過去 の 経験 に照 ら して こ の食べ 物は お い しく身

体 に有益 とい う情動評価 がな され、食欲 は増進 さ

a

                    gfmln

                    400

                    350

                    300

                  唾

                  液2・s°

                  分                  泌 200

                  速

                  度 150

                    100

M $G  クエ ン酸  キ ニー

ネ       050

                    000

.一◆一一一一 一

            ■

    ゆゆ

:籍傷一

 ◇

 一 〇

      ◆ ◆ .一●     ◆

.◆一◆

.一

gimin400350

  ◆

300   .

250200150100050000  軸

巍 …◆

鐙垂

 

 一

    0     500   1000   1500msz     O    2   4    6     8

      副交感神経活動             交感神経活動

図 3  自律神経活動と唾液分泌速度 との 閧係

 唾液分泌 速度は 、 副交感神経活動 と正 の 相 関 (r

 =O.359,p く 0.Ol) を示 し、交感神経神経活動 とは

 負 の 相関 (r =−0.294,p < O.05) を示 した 。

一153一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

口本味 と匂学会誌 Vo1.20  No .2 2013 年 8 月

               杉本 久美子 ・.L橋

れ 、 積極 的 に摂取 す る行 動 と して 表 出 され る 。 逆

に、あ る 食物 を摂取 して 食中毒や ア レ ル ギーを起 こ

す とい っ た経験をす る と、負 の 情動体験とな り、そ

れ 以 降そ の 食物を忌避して摂取 しない と い う行動 が

定着す る 。こ の よ うに食物 を味わ う際 に は、味 の 知

覚 ・認知に加えて情動に関わ る脳の 活動が 生 じて お

り、

一人ひと りが感 じる情動 を客観的 に提え る事が

で きれば、言語的 コ ミ ュ ニ ケ ーシ ョ ン が 困難な 認知

症患者等に お い て も、 内的に どの ように感 じて い る

の か を把握す る こ とが可能とな る。

 味覚刺激時の ヒ トの 脳活動を非侵襲的に検出する

方法として 、 近年 、 Magnetoencephalography(M 巳G :

脳 磁 図)]TTek

  hmctional Magnetic Resonance Imaging

〔fMRI : 機能的磁気共鳴両像法)2°.zz)

、  Near−lnfrared

Spectoroscopy(NIRS : 近赤外 分光法)231,

な どが利用

され て い る。特 に、MEG や fMRI は 空 間解像 能 が

高い た め 、味覚刺激時 の 脳内活動領域 と その 応答性

に つ い て こ れ らを用 い た詳細 な検討が 行われ て い

る。活動 領域 と し て、大脳皮質第一

次味覚野 で あ る

島皮質、前頭 ・頭 頂弁蓋部 は共通 して報告 され て お

り、そ の 中 で も各基本 味に対して よ り強く選択的に

活性化 され る領域があ る との 報告もな され て い るユ2〕

さら に、第一

次味覚野 から情報を受け、嗅覚 など他

の 感覚情報 も総合 して 高次 の 食 の 総合判断が行わ れ

る眼窩 前頭皮質 で は、快 と不快 の 刺激 で 異な る領域

が活性化 さ れ、情動処理 に 重要 な扁桃体 は両刺激 に

よ り活性化され る こ とが報告 され て い る1°”。こ の よ

うに、味覚刺激中に活性化され る 脳領域につ い て の

知見 は得 られつ つ あ る もの の 、そ の活動に伴 っ て 実

際 に どの よ うな情動 を生 じて い る の か に つ い て 客 観

的 に 分析 し た報告は まだない 。

 そ こ で、今回、大 が か りな設備 を必要 と せ ず、

フ ィー

ル ドで の デー

タ採取が可 能 な脳 波計測 を行

い 、味の種類に よっ て 生 じる情動の違い を捉える こ

と を試み た 。 脳波は臨床的 に も確立 され て い る脳活

動 の 記録 方法 で あ る が 、従来、味覚刺激に よ る誘発

電位を 100 回以 上加算平均する こ とに よ り有意 な信

号 を得 る 試 み が行 わ れ て きた峨,一方、本 研 究 で 使

用 した感性 ス ペ ク トル 解析シ ス テ ム ((株)脳機能研

究所〉は 、 1 回の 計測 で 情 動解析が可能 とい う利点

を有 し、国際 10−20 法 に したが っ て 、頭 皮 上 に 設 置

した 10箇所の 電極か ら導出 した脳波を分析す る25’26)

実際 の実験 の 様子 と プ ロ トコ ール を図 4 に示す 。

なつ み ・泰羅     雅登 ・臼井 信男

の 解析 シ ス テ ム は、喜 (満 足感)、怒 (ス トレ ス )、

哀 (気落 ち感)、楽 (リ ラ ッ ク ス 感) の 各要素を主

観的に純粋体験 して い る ときの 脳波パ ターン との 相

互相関 を分析す る こ とで、様 々 な感覚経験 をして い

る 時 の 情 動 の 4 要素 の レ ベ ル を推計する もの で あ

る 。 本シ ス テ ム を用 い て、被験者が口腔内に注入 さ

れた 5ml の刺激溶液を閉眼状 態で 20〜 30 秒間味

わ う際 の 情動変化 を解析 した 。 刺 激溶液 は、明確に

味 の 質 を感 じられ情動 を伴 う条件 とするため に 高め

の濃度 と し 、 O.5 M お よ び 1.OM シ ョ 糖 、 O.03 M ま

た は 0,1M ク エ ン 酸、0.5 M  MSG 、0.3 mM キ ニー

ネを用 い た。さらに、お い しさを高め る た め に使用

され る辛味成分 の カ プ サ イ シ ン (0.03mM また は

0.1 皿 M )を刺激 に 用 い 、感作 を避 け る た め に刺激

順序は最後と し た 。

 各刺激 に よ る 4 基本感情 (怒 ・喜 ・哀 ・楽)の 変

化例 を図 5 に示 す。こ の被験者に お い て は、シ ョ 糖

刺激時に ス トレ ス の 下降と満足感 ・リラ ッ ク ス 感 の

上 昇が み られ、MSG 刺激 時に ス トレ ス の 下 降と満

足感 の 上昇、キ ニ ーネ刺激時に ス トレ ス・気落ち感

の 上 昇と リラ ッ クス 感 の ド降な どの 変化 がみ られた

が、カ プ サ イ シ ン で は 主観 的辛さ が 弱か っ た こ と を

反映 して、大 きな変化は み られ なか っ た 。 感情 レベ

ル は個人 に よ る ば らつ きが大 きい ため、各被験者 の

データ を Z 変換 に よ り規準 化 し た うえで 、閉 眼 無

刺激時 を基準 と し て各刺激時に お け る被験 者 12名

の 平均 を 求 め た 結 果 (図 6)、味の 質に よ り異な る

感情変化を生 じる 囗∫能性が示唆さ れ た 。 被験者数が

少な い た め 、 純水 と比較 した変化が有意 とな らない

もの が 多 い もの の 、シ ョ 糖で は、ス ト レ ス の低 ドと

満足感 ・リ ラ ッ ク ス 感 の 上昇、ク エ ン 酸 で は 、ス ト

レ ス ・リ ラ ッ ク ス感の 低下 、 満足感の 上昇 、キニー

ネで は、ス ト レ ス・気落ち感 の 上昇 と リ ラ ッ ク ス 感

低下 とい っ た味 の 質に よる特徴的変化パ ターンが 得

ら れ た 。 慨括する と 、 全員に好 まれ る甘味 で はポジ

テ ィ ブ な感情変化 が み られ 、嫌 わ れ る苦味で は ネ ガ

テ ィ ブ な感情変化が 生 じて い る こ とが明確 に示され

た 、,一方、MSG で 明確.なパ タ

ーン が み ら れ なか っ

た 要 因 と して は、全 員 うま味 自体は 好 む もの の 、

MSG 溶液 を単独で 味 わ うと お い し く感 じ られず、

塩 味 な ど の 他 の 味 と混合 して 始めて お い しく感 じ ら

れる性 質があ る た め と考え られ 、今後混合刺激 を用

い て検討する 必要がある 。 シ ョ 糖 、ク エ ン 酸 お よ び

一154 一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooia し ion  for  し he  Sし udy  of  Tast 」e  and  Smell

口本味 と匂学会誌 Vol.20 No .2 2013 年 8 月

味覚刺激 と自律神経・脳活動の 関連

A

C

B 酵

’嶋

喬心

畫成

演ρ}

 

.、

   

 

 

 

 

 

刺激亅 刺激2

臨 鬮 厚費 旛 ( t 械 (

瞠s響,E  呈

     註占

雫        し

翩懇盈隅ノ リ糾 、97 一 欝

      騨

馴擘 軟 ゆ 山 L 弓 潮 い ・ア ン ケ u ヰ ー 管 ..........弔”  

1 囎

喉 を 禰 1ナマ下 さい.畦 眇

出 し て 下 さ

」、.うり嘱しt費

LI ト さい

哩響q を 朝 lt

て下さい.テユーブ 蛋

/;さ ん で 下

」’

ロ Ee ”

盈e

壇’

騨閉

                    1  輔 水                     5   DSM グ厂レタミン酬8                    1  D 脚  ソ r 紬            8  1鰍 )ヨ鷺                    a  eorZZI 寥t:301 剛 ク T.‘●    

]  03 耐  亀 靤 dF

−一孑

                    4   駅                l  O.OhM ま t=t±Ol 叩M  カブ サ イ”一・

図 4  味覚 ・辛味刺激 に よ る 脳波変化 の 記録実験

 A :被験者の [1内 に 外径 4mm の チ ューブ を挿人 し、コ ン トロ ール 装置で シ リ ン ジを押

  す こ とに よ り 5 ml の 各溶液を一一

定速度で 注入 し た。

 B : 国 際 10−20 法 に 従 い 、赤丸で 示し た 10箇所 の 電極 よ り脳波を導出 した。

 C : 実験の プ ロ トコ ール 。 閉眼時 を規準と し て刺激時 の 変化 を抽出 し た。

や 怒 (ス トレス )一聾 喜 〔満足惑 )r 鈩 哀 〔気 落ち 感}尋 棄 (リラックス 惑)

5431

o

.1

一1

・3

.4

一5

図 5 味覚お よ び辛味刺激 に よ る 4 基本感情の 変化 例

 味覚刺激に よ り変動 した部分を赤枠 で 示 し た。

一155一

N 工工一Eleo ヒ ronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

日本味と匂学会誌 Vo1.20 N ・ .2 2013 年 8 月

杉本 久美子・土橋 なつ み

・泰羅 雅登・臼井 信男

  ■ 怒(ス トレス ) 鬮 喜〔満足感) 驥 哀(気落ち感) 膃 楽(リラックス 感〕

2、5

2

15

0

n .5

一1.5

.r「「  . …w「尸广…ヒ

.一..一『r..一.「曜、广、尸

累…

1 . 遭 看    .

iI一『「 w「距、

rヨ

」__...__一一Ii

ず {  萼  ち

i1し

…E

L≠

看,…

1+1.7…w「丗「w−.「

意1丿

調 1

丶堅

「 ◎9h广

“も

r….  ,i i 厨

「尸…、尸“油一曲幅一

ilI

一..一一  … “  …一

广  亀

lL_内曲_ _.一._.一 一¶.

買r

.」. …

                         *

:ρ く 0.05,t:ρ く O.1

図 6 味覚お よび辛味刺激 に よ る 4 基本感情の 変化

 Z 変換に よ りノーマ ラ イ ズ し て 閉眼時 を 規準 と した 12名の 平均値 を示

 し、エ ラーバ ー

は標準誤差 を示す。味 の質に よ り異な る変化パ ターン が

 み られ た 。 ウ ィ ル コ ク ソ ン の 符号付順位検定を 行 い 、 純水 を口 に 含 ん

 だ場合 と比 較 し て有意 な変化 ま た は 変化傾 向が み られ た もの に マ ーク

 を附 した 。 クエ ン 酸 とカ プサイ シ ン の 各濃度 に つ い て は被験者は 6 名。

カ プサ イシ ン は 2 段階の 濃度を使用 し た が 、前 2 刺

激は濃度に かか わ らず同様の 感情 パ ター

ン を示 した

の に 対 し、カ プ サ イ シ ン で は濃度に よ るパ ターン の

違 い が認め られた。低濃度カ プ サ イ シ ン で は ス トレ

ス 低下 が み られ た が 、高濃度 で 辛みが強 くな る と逆

に ス トレス が 上 昇する 結果 と なり、刺激性 の 上昇 に

伴 っ て 、生 じる感情 パ ター ン も変化する こ とが示 さ

れ た 。

  さらに、図 7 に示 す よ うに 基本感情を加減す る こ

とに よ り、 複合感情 (好奇心 、 無力感 、 疲労感、心

地 よ さ感、鎮静感、気分良さ感)を求め る こ とも可

能 とされ て お りZフ〕、こ の方法に従 っ て刺激時の 複合

感 1青変化を検討 した結果 を図 8 に 示す 。 各刺激 につ

い て 純水の パ ターン と の 比 較 で 表 して い る が、好 ま

れる甘味刺激で は心 地よさ、気 分 よさ、鎮静感など

が強 ま り、嫌が られ る苦味刺激で は心地 よ さ感や鎮

静感が低下 し、疲労感が上昇 した,また、刺激性 の

強 い ク エ ン 酸、キ ニ ーネお よ び カ プ サ イ シ ン は 共通

して 好奇心 を高めたが、ク エ ン 酸 と低濃度の カ プ サ

イ シ ン に は キ ニー

ネ と異 な り、心 地 よ さ感 や 気分 よ

さ感 を高め る効果が 認 め ら れ た 。 摂食 ・嚥下障害患

者 に対 し、感覚 を覚醒 さ せ る た め に、ク エ ン 酸や カ

図 7 基本感情 と複合感情の 関係

〔株}脳搬能研究所より資料提供

プサイ シ ン の 刺 激が利用 さ れ て い る が 、こ の 結果 は

そ れ らの 刺激が 不快を 生 じな い 可能性 を示 す と考 え

られ る 。

 今回、脳波記録か ら基本感情お よ び複合感情の 分

析を行っ た 結果 、 好 まれ る 味 と嫌 わ れ る味に対 して

異 なるパ ター

ン の 感情変化が捉え られ た こ とは、逆

に い え ば 、 脳波 パ ター

ン か ら客観的 に 味の快 ・不快

を推測 で きる可能性を示唆する と考えられる 。

一156一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

日本 味と匂学会誌 Vo120  No.22013 年 8 月

D

疲労感

無力感

気分よさ感

ショ 糖

心 地よさ感

鎮静 感

味覚刺激 と自律神経 ・脳活動の 関連

,OM ショ糖

気分よさ感

地 よさ感

静 感

圜0.3mM      好奇心

キニ ー

疲労 感

無力懸

気分よさ感

D

疲労感

匳 ]。 1M

   好奇心   クエ ン 酸  2

無 力感

f

気 分よさ感

カプサイシ ン

心地よさ感

        DOO3Mクrxン 酸

鎮静感

気分 よさ感

mM

叶イシ ン

図 8 基本感情の 結果 (図 7)か ら求めた味覚・辛味刺激 に対す る 複合感情 の変化

 各刺激につ い て 、 純水を口 に含ん だ時との 比較で示 した。

おわ りに

 味覚刺激に対する感性解析に加えて 、現在、頭皮

上 21 箇所 に 設置 した電極 の 記録か ら、一定 の 周波

数帯域 の ニ ューロ ン活動量を検出、マ ッ ピ ン グする

方法 (NAT :Neuronal Activity Topography)2s〕

を 用 い

て、刺激時に特定 の 周波数帯域 の 脳波活動 が高まる

領域 の 同定を試み て い る 。 現時点で は 、脳波か らの

分析は空 間的解像度 が 悪 く、味 の 種類 に よ る 反 応パ

ターン の 違 い は全 く見出 されて い ない 。 しか し、 味

覚刺激 と カ プサイ シ ン に よ る体性感覚刺激で は若干

の 違 い が 認 め られ て お り、4 〜 8Hz の θ帯域 で は

味覚刺激中両側頭部近辺 に ニ ュー

ロ ン 活動量 の 増加

がみ られ、カ プサ イ シ ン で は頭頂部近辺で の活動増

加が 観察 さ れ た。ま た 、8 〜 13Hz の a 帯域 で は、

味覚刺激中に前額部や 右前頭部を中心 に ニ ュー

ロ ン

活動 の 増加 が み ら れ て お り、NIRS で 観察さ れ た 活

動領域 の 前頭 前野23}

との 対応、情動 と の 関連が 示

唆 され る が 、 こ の 分析に 関 し て は今後さ らに検討を

重ね る 必 要があ る 。

 本稿で 、味覚刺激 中 の 自律神経活動お よ び脳波の

分析か ら他覚的 、 客観的に刺激に対する 生体反応 と

情動変化を検出する試み を行い 、味の快 ・不快の 違

い が 異なる 自律神経活動 と脳活動 を 引 き起こすこ と

を報告した。今回は基本 的味刺激 の み を用 い て い る

が、今後実際 の 食物の 味わ い に近づ ける よ うに、複

雑 な味 や うま味 をお い しく感じ ら れ る条件下 で 実験

を行い 、こ の 方法の有用性 を検証 して い きた い と考

えて い る 。 特 に 、 脳波 に よ る分析は、大が か りな装

置 を必要 とせ ず、フ ィー

ル ドに お い て も利用 で きる

利点が ある た め 、主観的感 じ方を言語表現 で きない

認知症等 の 対象者 に 対 し て、そ の 内面 を推 し量 る 上

で 有用な ツー

ル に なる可能性があ り、内面理解を対

象者へ の 対応に活か し、 健康 とQOL の 向上ため の

サポー

トに役 立 て い くこ と が期待さ れ る。

謝  辞

 本研究実施 に あた り多大な ご協力をい ただい た東

京医科歯科大学大学院医歯 学総合研 究科小児歯科学

分 野 の 三 輪 全 三 先 生 、 上 原 奈緒子 先生 な ら び に

(株)脳機 能研 究所の 武者利光先生、田 中美枝子先

生 に深 く感謝申し上げ ます 。

一157一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

TheJapanese Association for

HJas zata\k- -ff.S

the Study of Taste and Smell

VbnO No.2 20134P8n

i9 7P A. ce ,i, ・ ± as kois ・

y wt1 ) Inui-Yarnamoto C, Furudono Y and Yamamoto T:

Hedonics of taste influence the gastric emptying in

rats. PhysiolBehav P6, 717-722 (2009)2 ) Jiang ZY and Niijima A: EITects of taste stimuli on

the efferent activ{ty of the gastric vagus nerve in

rats. IVeurosci Lett 69, 42-46 (1986)3 ) Ikuno H and Sakaguchi T: Gastric vagal functional

distributionin the secrction ofgastric acid produced

by sweet taste. Brain Res Bull 25, 429-431 (1990)4 ) Mattes RD: Physiologic responses to sensery stimu-

lation by fbod: nutritional implications. JAm Diet

Assoc 97, 406-413 <1997)5 ) Neyraud E, Sayd T, Morzel M and Dransfield E:

Proteemic analysis ofhuman whole and parotid sa-

livas fo11owing stimulation by different tastes. J

Proteome Res 5, 2474-2480 (2006)6 ) Proctor GB and Carpenter GH: Regulation of sali-

vary gland function by autonomic nerves. Autonotn

IVettrosci: Basic & Clinical 133, 3-18 (2007)7 ) Harthoorn LF, Brattinga C, Van Kekem K, Neyraud

E and Dransfield E: Effects of suerose on salivary

flow and composition: differences betwecn real and

sharn intake. Jnt J Food Sci Nutr 60, 637-646

(2009)s) t97NAI[]r : VRtt ・ 5 rk entnreptff?fitz. wa

2 e=-.-k 17, 109.t15 (2010)9 ) Niljima A: Etfects of oral and intestinal stimulation

with umarni substance on gastric vagusactivity.

PbysiolBehav 49, 1025-1028 (1991)10) Horn CC: Ejectrophysiology of vagaL atferents:

Amino acid detection in the gut. Ann N YAcad Sci

11 70, 69-76 (2009)1 1 ) Tbyomasu l4 Mochiki E, Yanai M, Ogata K, Tabe 14

Ande H, Ohno T, Aihara R, Zai H and Kuwano H:

Intragastrie monosodium L-glutamate stimulates

motility of upper gut via vagus nerve in conscious

dogs, Am J Plp)siol - Regt integr Comp Ploisiol 298,

Rl125.Rl135 (2010)12) Kitamura A, Sato Wl Uneyama H, Torii K and Niiji-

ma A: Effects of intragastric infusion of inosine mo-

nophosphate and L-glutainate on vagal gastric affer-

ent activity and subsequent autonomic reflexes, J

as ee ng + Ell# tE.-

Pbysiol Soc 6i, 65-71 (2011)13) Kamath MV and Fallen EL: Power spectral analysis

ot' heart rate variability: a noninvasive signature of

cardjac autonomic function. Crit Rev Biomed Eng

21,245-311 (1993)

14) Smith ML, Carlson MD and Thamcs MD: Rcflex

control of the heart and circulatien: implication for

cardiovascutar electrophysiology. J Cardiovasc

Eleetmphysioi 2, 441-449 (1991)

15) Ori Z, Monir G, Weiss J, Sayhouni X and Singer

DH: Heart rate variability. Frequency domain analy-

sis, Caldiol Clin 10, 499-537 (1992)16) Uehara N, lhkagi Y Miwa Z and Sugimoto K: Ob-

jectlve assessment of internal stress in children dur-

ing dental treatment by ana}ysis of autonomic ner-

vous activity. Internatl JPaediatrie Dent 22, 331-

34I (2012)

17) Kobayakawa T, Endo H, Ayabe-Kanamura S, Kum-

agai T, Yamaguchi Y, Kikuchi g Takeda T, Saito S

and Ogawa H: The primary gustatory area in human

cerebral certex studied by magnetoencephalography.

IVeurosci LeU 212. 155-158 (1996)18) Yamamoto C, Takehara S, Morikawa K, Nakagawa

S, Yamaguchi M, Iwaki S, Tonoike M and Yarnamo-

to T: Magnetoencephalographic study of cortical ac-

tivity cvoked by electrogustatory stimuli. Chem

Senses 28, 245251 (2003)19) Onodera K, Kabayakawa T, Ikeda M, Saito S and

Kida A: laterality of human primary gustatory cor-

tex studied by MEG, Chem Senses 30, 657-666

(2005)20) Faurion A, Cerf B, Van De Moortele P-F, Lobel E,

Leod PM and Bihan DL: Human taste cortical areas

studied with functional magnetic resonance imaging

: evidence of functional LateraliLation rclated to

handedness. Neurosci Lett 277, 189-]92 (1999)

21) O'Doherty J, Rolls ET, Francis S, Bowte]] R and

McGlone F: Representation ofpleasant and aversive

taste in the human brain. J Neumpio)siol 85, 1315-

1321 (2001)22) SchoenfeId MA, Neuer G, Ternpelmann C, SchtiBler

K, Noesselt T, Hopt' J-M and Heinze H-J: Function-

al magnetic resonance tornography correlates of

-158-

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

凵 本味 と匂学会誌 Vol.20 No .2 2013 年 8 月

味覚刺 激 と自律神経 ・脳活動 の 関連

  taste perception in the human primary tas1c cortex ・

  1>leurosci/27,347−353 (2004>

23)Okalnoto M, Dan H, Clowney L, Yamaguchi  Y and

   Dan  I:Activation in vcntro −1ateral prefronta]cortex

  during the act  of  tasting:An fNIRS study . Nerosci

  Lett 45/,129−133 (2009)

24)Mizoguchi C, Kobayakawa T, Salto S and  Ogawa  H :

  Gustatory evoked  oortical  actMty [n humans stud−

  ied by simultaneous  EEG  and  MEG  recording .

  Che 〃1 Senses 27,629−634 (2002)

25)Musha T, Terasakiヱ Haque  HA  and  Ivanitsky GA :

    Feature extraction f士om  EEGs  association  with  emo −

  tions.1i 殍1ズLife Rol)otics /,15−19 (1997)

26)Musha エ Kimura S, Kaneko K , Nishida K 跚 d Se一

  kine  K : Emotion   spectrum   analyg . is  method

  (ESAM )for monitoring  the effects of art therapy

  applied  on  demented patients. Cyber Psychol Behav

  3,441−446 (2000>

27)萩原一平 : こ こ ろ へ 働 きか け る 商 品 開発 と

  ニ ューロ マ ネジ メ ン ト.研究開発 リ ーダ

ー 4,

  26−34 (2007)

28)Musha  T, Matsuzaki H , Kobayashi Y, Okamoto Y,

    Tanaka M  and  Asada  T :EEG  markers  for character −

  izing anomalous  activities of cerebral  neurons  in

  NAT (Neurona 且Activity Topography )rnethod .

  Biomed  Engin 60,2332 −2338 (2013)

〈 著者紹介 〉

杉本 久美子 (す ぎもと  くみ こ )氏略歴

 1973 年    大阪大学薬学部卒業

  1973年    東京医科歯科大学歯学部技官

  旦983 年    薬学 博士 の 学位取得 (大阪大学)

 1986〜1987年 米国モ ネル 化学感覚研 究所 研究員 (Postdoctora且fellow)

 1992年    東京医科歯科大学大学院歯学研 究科助手

 且997年    同講師

 1997 年    米 国 ル イ ジ ア ナ州立大学生物科学研 究員

 2004〜2010 年 東京医科 歯科大学 歯学部冂腔保健学科教授

 2011 年〜   東京医科歯科大学 歯学部 口 腔保健学科口腔保健工学専攻教授

土橋 なつ み (つ ちはし なつ み)氏略歴

 2007年 九 州大学歯学部卒業

 2012年 東京医科歯科大 学大学 院医歯学 総合研 究科口 腔機能再構 築 学系

     (小 児歯科学)専 攻博士 課程修了

 2012年 東京医科歯科大学歯学部 口 腔保健学科口 腔保健 工 学専攻 口 腔保健     蝋 、

     基礎 工 学講座 口腔基礎科学分野非常勤講師             ・」

一159一

N 工工一Eleotronio  Library  

The Japanese Association for the Study of Taste and Smell

NII-Electronic Library Service

The  Japanese  Assooiation  for  the  Study  of  Taste  and  Smell

日本味と匂学会誌 Vo1.20 No .2 2013 年 8 月

杉本 久美子 ・土橋 なつ み ・泰羅 雅登 ・臼井 信男

泰羅

  1981年3 月

  1985 年 3 月

  1985 年 4 月

  1987年 4 月

 1990 年ll月

  1991年 7 月一

  1993 年 3 月

  2004 年 5 月

  2005年 4 月

 2010 年 5 月

雅登 (た い ら  まさと)氏略歴

東京医科歯科大学歯学部卒業

東京医科歯科大学大学院歯学研 究科 博士課程修了

(財)東京都神経科学総合研究所流動研究員

日本大学医学部 (第一生理学)

米国 Johns Hopkins大学客員研究員 (兼任)

米国 Minnesota州立大学客員講師 (兼任)

冂本大学総合科学研 究所教授

日本大学大学院総合科学研究科教授

東京医科歯科 大学大学院医歯学総合研究科教授

臼井 信男 (うす い の ぶ お)氏略歴

 1990 年      [1本大学 文理学部心理学科卒業

 1992 年      日本大学 大学院文学研究科心理 学専攻博士 前期課 程修了

  1998年      日本 大学大 学院文学研究科心理学専攻博士後期課程 修了 博士

     (心理学 )

 1997年 山梨県環境科学研究所環境生理学研究室 研究員

 2002 年 科学技術振 興事業団 (社会技術研究 シ ス テ ム) 研究員

 2004 年 科学技術振興機構 (CREST ) 研究員

 2011年 東京医科歯科人学大学院医歯学総合研究科認知神経生物学分野

      技術補佐 員

一160一

N 工工一Eleotronio  Library