試 配点:八〇点 験...二〇二〇年度 第二回 晃華学園中学校 入 学 試 験 問...
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二〇二〇年度
第二回
晃
華
学
園
中
学
校入 学 試 験 問 題
【 国 語
】
時間:四〇分
配点:八〇点
答えはすべて解答用紙に記入すること。
問題は次のページから始まります。
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
千春は内気な小学五年生である。ある日ちょっとした出来事がきっかけで、何でも直す「修理屋」のおじさんと知り合う。おじさん
は自分のことを話すのが苦手な千春の話をよく聞いてくれ、「今日はたまねぎ、明日ははちみつ」と不思議な言葉を言う。これは「い
い日もあれば悪い日もある」ということらしかった。
五月の終わり、千春がお店へ入るなり、おじさんのほうから聞かれた。
「①今日はたまねぎか?」
よっぽどゆううつそうな顔をしていたらしい。
発ほったん端
は、週末に開かれた、サナエちゃんのお誕生日会だった。千春と紗さ
希き
もふくめ、クラスの女子の半分以上が招待されていた。
サナエちゃんから日程を知らされるなり、紗希は悔くや
しそうに断った。
「ごめん。あたし、行けない。塾じゅくの
全国テストなんだ」
「そっか。じゃあ、しょうがないね」
サナエちゃんも残念そうに答えた。怒おこ
っているふうには見えなかった。
でも②本音はそうじゃなかったらしい。お誕生日会の当日、集まったみんなの前で、サナエちゃんはおおげさにため息をついてみせ
たのだ。
「ガリ勉ってやだよね。友だちより勉強のほうが大事って、どうなの?」
サナエちゃんちの広々としたリビングが、しんと静まり返った。
お誕生日会の主役だから、反論しづらいというだけではない。クラス委員をつとめ、先生からも頼たよ
りにされているサナエちゃんは、
しっかり者で気が強い。堂々と反対意見をぶつけられるのは、同じくらい気の強い、当の紗希くらいなのだった。
それでも③勇気を振ふ
りしぼって、千春は言い返した。
「だけど、紗希もきたがってたよ」
本当のことだった。パーティーには参加できないかわりに、サナエちゃんのためにプレゼントを買って、休み明けに学校で渡わた
すつも
一
2−12−2
りだと聞いていた。
サナエちゃんがあわれむような目で千春を見た。
「前から思ってたけど、千春ちゃんも大変だよね?
あの子、最近塾ばっかりで、学校なんかどうでもいいって思ってるっぽくない?」
今度は、なにも言い返せなかった。それは千春もうすうす感じていることだったから。
紗希が塾通いで忙いそがしくなってから、いっしょに帰ったり、遊んだりする機会はめっきり減っている。最近はたまに、宿題を写させ
てほしいと頼まれるようにもなった。写させてあげること自体は、別にかまわない。これまで千春も、何度となく紗希に勉強を教えて
もらってきた。ただ、こんな宿題なんか意味あるのかな、と④こぼされても、なんとも答えられない。
紗希に悪気がないのは、千春にもわかっている。悪気なく、学校の授業はたいくつだとけなし、塾の先生や友だちの話ばかりする。
悪気がないとわかっていても、千春はなんだかすっきりしない。
お誕生日会の翌日、紗希になにをどう伝えるべきかと千春は悩んだが、その必要はなかった。
サナエちゃんの文句は、すでに本人の耳にも入ってしまっていたのだ。お誕生日会に出席した誰だれ
かが、こっそり告げ口したようだっ
た。
「こそこそ悪口言うなんて最低」
紗希は⑤息巻いていた。
「あたし、別にガリ勉じゃないし。将来のために必要なことをしてるだけだよ。いい学校を出て、いい会社に入って、いい人生を送り
たいんだもん」
以来、紗希とサナエちゃんはひとことも口をきいていない。
紗希の味方につく女子もいて、教室の中には⑥冷たい風が吹き荒れている。どういうわけか、担任の先生と男子たちは、まったく気
づいているそぶりがないけれども。
千春の話を聞き終えたおじさんは、低くうなった。
「ややこしいことになっちまってるなあ」
そのとおりだ。ものすごく、ややこしいことになっている。
2−2
「いわゆる価値観の相そうい違ってやつだ。小五でもあるんだなあ。そりゃ、あるか」
「カチカンノソーイ?」
またしても、千春にとってははじめて聞く言葉だった。
「生きてくうえで大事にしたいものが、ちがうってこと」
おじさんが補った。それなら、千春にもなんとなくわかる。
「有名な学校や大きな会社に入るのが、すごく重要だって考えるひともいる。そうじゃないひともいる」
正直なところ、紗希の主張を、千春も完全に理解できているわけではない。もちろん、「悪い学校」よりも「いい学校」で学び、「悪い
会社」よりも「いい会社」で働くに越こ
したことはないだろう。でも、「いい人生」と言われても、それが具体的にどんなものなのか、
どうもぴんとこない。
「価値観の相違っていうのは、おとなの世界でもよくあるんだ。それが原因でいろんな争いが起きてる。今も昔も、世界中でね」
おじさんは、うんざりした顔でため息をついている。
「友だちどうしのけんかだけじゃない。夫婦が離りこん婚したり、国どうしが戦争をおっぱじめたり」
「せ、戦争?」
「うん。極きょくたん端な
例だけどな」
千春にも、ため息が伝染した。そんなにむずかしい話だったのか。
「じゃあ、どうすれば仲直りできるの?」
「きみはどう思う?」
聞き返されて、頭を整理してみる。紗希とサナエちゃんの価値観とやらが食いちがってしまっているのが、問題らしい。ということ
は、
「どっちかに考えを合わせればいいの?」
「それは無理だろうな」
おじさんが首を振った。
「え?
でもさっき、価値観がちがうのが問題だって……」
2−32−4
「
だって言ったんだ。
じゃない。
は、そのちがいを受け入れられない人間がいるってこと」
きっぱりと言う。
「別に、同じにしなくたっていい。いや、すべきじゃない。みんな同じじゃ、つまらんからな。ほら、⑦カレーだってそうだろ?」
「へ?
カレー?」
「いろんな種類のスパイスを入れるから、味に深みが出ておいしくなる。カレー、作ったことないか?」
「あるけど」
去年、調理実習で作った。いろんな種類のスパイスなんか使わなかった。板チョコみたいなかたちのルウを砕くだ
いて、鍋なべ
に放りこんだ
だけだ。おじさんのたとえ話は、たまにわかりにくい。
だけど今は、カレーの作りかたはどうでもいい。とにかく一番知りたいことを、千春はたずねた。
「だったら、仲直りはできないの?」
「いいや、そうとは限らない。たとえばさっきの話だけど、きみはいい学校やいい会社に入りたい?」
急に話が飛んで戸とまど惑いつつ、千春は正直に答えた。
「よくわかんない」
「ほら、きみの価値観と、その友だちの価値観も、ぴったり同じってわけじゃない」
「あ」
「だからって、その子も受験なんかやめちまえとは思わないよな?」
千春はこくりとうなずいて、でも、とつけ足した。
「⑧ちょっとさびしい」
「そうか、そうだよな」
おじさんがつぶやいた。
「じゃあ、その子の受験がうまくいかなきゃいいと思う?」
「まさか」
そんなことは、思わない。クラスが上がったと報告してきた紗希のうれしそうな顔が、千春の頭に浮う
かんだ。
A
B
B
2−4
「そういうことなんだよ。価値観がちがったって、友だちでいられる」
おじさんが千春の顔をのぞきこんだ。
「認めればいい。自分とはちがう考えかたも存在するってことを。そのふたりも、おたがいを認められれば、仲直りできる」
「うん」
でも、どうやって?
「きみが手助けしてあげれば?」
千春の疑問を読みとったかのように、おじさんがにっこり笑った。
(瀧羽麻子『たまねぎとはちみつ』)
問一
︱︱︱線部①「今日はたまねぎか?」とありますが、千春にとって「たまねぎ」だったのはどのような出来事なのですか。次の
ア~エの中から最も適当なものを選び、記号で答えなさい。
ア
サナエちゃんのお誕生日会に一人で行ったこと
イ
仲良しのはずの紗希と最近あまり話が合わないこと
ウ
紗希とサナエちゃんが仲なかたが違
いしてしまったこと
エ
サナエちゃんに誕生日会で意地悪を言われたこと
問二
︱︱︱線部②「本音」とありますが、サナエちゃんの本音はどのようなことだったのですか。三十字以内でわかりやすく書きな
さい。
問三
︱︱︱線部③「勇気を~言い返した」とありますが、その理由として最も適当なものを次のア~エの中から一つ選び、記号で
答えなさい。
ア
サナエちゃんの思い違ちが
いを責めたかったから
イ
紗希のことを悪く言われたくないと思ったから
ウ
紗希にどうしても伝えてほしいと言われていたから
エ
普段からサナエちゃんの態度が気に入らなかったから
2−52−6
問四
︱︱︱線部④「こぼされて」、⑤「息巻いて」の意味として最も適当なものはどれですか。次のア~エの中からそれぞれ選び、
記号で答えなさい。
ア
小声で言われて
ア
ひどく怒って
④ 「こぼされて」
イ
不満を言われて
⑤「息巻いて」
イ
反論して
ウ
何度も聞かされて
ウ
しつこく言って
エ
質問されて
エ
馬ば
か鹿にして
問五
︱︱︱線部⑥「冷たい風が吹き荒れている」とはどのような様子を表していますか。説明として最も適当なものを次のア~エの
中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア
みんなが仲違いをしたまま、季節が変わるほど長い時間がすぎてしまったということ
イ
クラスの女子の人間関係が悪くなり、対立しているような状態になっていること
ウ
クラスの中で悪い噂うわさが
流れ、紗希と千春の二人が孤こりつ立
してしまったということ
エ
教室の中が紗希とサナエちゃんの仲違いをきっかけに大おおさわ騒ぎになっていること
問六
、
に当てはまる言葉の組み合わせとして、最も適当なものを次のア~エの中から選び、記号で答えな
さい。ただし、二か所ある
には同じ言葉が入ります。
ア
A=結論
B=問題
イ
A=原因
B=結果
ウ
A=原因
B=問題
エ
A=方法
B=原因
問七
︱︱︱線部⑦「カレーだってそうだろ?」とありますが、これはカレーのたとえを用いてどのようなことを言おうとしたものだ
と考えられますか。四十字以内でわかりやすく説明しなさい。ただし、必ず「人間」という言葉を用いること。
A
B
B
2−6
問八
︱︱︱線部⑧「ちょっとさびしい」とありますが、これはなぜだと考えられますか。次のア~エの中から最も適当なものを選び、
記号で答えなさい。
ア
紗希が受験することで、千春から離はな
れて遠くにいってしまうように感じたから
イ
価値観が違う紗希とは、もう友だちではなくなってしまったのだと思ったから
ウ
紗希がクラスで孤立していると、千春も話しかけにくくなるのではないかと考えたから
エ
紗希と同じようにいい学校に入らないと、見放されてしまうかもしれないと思ったから
次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
「するする」社会が切り捨てるもの
行動的であることを優先し、移動性や機動性や運動性を重視し、いかに効率的にモノや人や情報を移動させるかを競きそ
い合あ
う「動的」
な社会。それが①「するする」社会。移動のための邪じゃま魔になるようなものはどんどん取り除く。国と国、地域と地域の間にあるバリア
もすべてどけて、「すること」で地球を覆おお
い尽つ
くしてしまおう、というのが「するするグローバリズム」だ。
こういう社会では、何を「する」かによって、そしてそれをどのように「する」かによって、人は評価され、その人の価値が決まる。
一方、「いる」や「ある」や「……である」といった「静的」なあり方は、その価値を認められにくい。「これまでずっとここにいたし、
今もいる」とか、「今までも……であったし、これからも……であろう」だけではあまり意味がない、と見なされている。「それがどう
したの?」と聞き返されるのがおちだ。「で、どうするの?」と。
「何もしないで、ただそこにいる」ことを褒ほ
められる人はめったにいない。「どうしたの、調子悪いの?」と心配してくれるならまだ
いいほうで、暗い、消極的だ、後ろ向きだ、弱虫だなどと非難されてもおかしくない。逆に、「すること」をたくさん抱かか
えて、それらを
せっせとこなしていく人は、健康的で、明るくて、行動的で、積極的で、前向きで、強い意志をもっているなどと評価される。「する
する社会」では、「する」人ばかりが優ゆうぐう遇
され、「いる」人は軽視され、バカにされがちだ。
そんな社会で、誰だれ
もが「する」人をめざしたとしても不思議はない。
だが、そこで考えてみてほしいのだ。「するする」社会とは、決して居いごこち
心地のいい場所ではないということを。
二
2−72−8
まず、「するする社会」では、自然環かんきょう境が損そこ
なわれるだろう。自然界はもちろんただそこに「ある」わけではない。今日、ぼくたち
が生態系サービスと呼んでいるさまざまな営みを、人間や他の生きものたちのために、絶え間なくやってくれている。しかし、「する
こと」に追われて忙いそがしい人には、自分と自然の間にあるはずの深いつながりに思いを馳は
せることもますます難しくなっている。
次に、「するする社会」では、伝統的な文化が衰すいたい退
していくだろう。もちろん、伝統の中には失われたほうがかえっていいようなこ
ともいろいろあるだろう。しかしそれは同時に、人々のアイデンティティや帰属感や生きがい︱︱つまり、自分がどこの何者であるか、
何のために生きているのかといった感覚
︱︱
を幾いくせだい
世代にもわたって育んできた場所なのだ。
かつて伝統的な社会で、人が生きていくために欠かせなかったコミュニティは、「するする社会」の中で崩ほうかい壊に向かうしかなかった。
もともと、家族、親族、地域共同体といったコミュニティは、会社や軍隊と違ちが
って、何かを「する」という目的のために集まったり、
集められたりした集団ではない。敢あ
えて言えば、「共に生きている」ということ以外に、人々が一いっしょ緒
にいる理由はない。いわば、「一緒
にいるために一緒にいる」のである。
もちろん、生きているからには「すること」や「しなければならないこと」はいっぱいある。でも、薪まき
を伐き
る私は、薪を伐るために
コミュニティの一員になったのではない。コミュニティに生きているために、薪を伐る。そういう私がいる。それだけだ。何かを「する」
から仲間になれるといった条件もなく、メンバーになるのに何か「できる」という資格がいるということもない。
「いてくれる」だけでいい世界
思えば、昔の地域共同体にも、親族や家族の中にも、とりあえずは、そこにいてくれるだけでいい、という人たちがいっぱいいたは
ずなのだ。
障がい者、幼い子ども、妊にんぷ婦
、乳ち
の飲み子ご
を抱えた女性、高こうれいしゃ
齢者、病人のことを考えてみればすぐわかる。一時的かどうかを別にして、
これらはみな、何らかの「すること」が十分にできない人たちだ。
思想家で、重複障がいの娘むすめをもつ最さいしゅ首悟さとる
さんは、「障がい」という言葉を ②「差さ
し障さ
わ
りがあること」と言い
い換か
えてみることを提案し
ている。そうすると障がいの意味が広がって、いわゆる障がい者ばかりでなく、幼い子どもも、高齢者も、病人も、みんな差し障りが
ある人たちだ、ということがわかる。
そればかりではない。ふだん健常者とか健全者と呼ばれ、また本人もそう思っている人たちだって、多かれ少なかれ、何らかの意味
2−8
で差し障りがあるものだということが見えてくる。みんな幼かった時があり、刻々と年をとっている。老いればみな、以前は難なく
やっていた「すること」ができなくなる。また、誰にだって好不調の波はある。病気もする。何ひとつ思うようにならない日もある。
気分が乗らない日も、落お
ち込こ
んでいる日も。
人間なんて所しょせん詮
、そんなに強い存在ではない。「今日は何もしないで、ここにこうしているだけでやっと……」という気分は誰にも
覚えがあるはずだ。ならば、こう言ってもいいのではないか。世界中、誰もみな差し障りだらけの人生を生きているのだ、と。
誰もがある種の「不能性」をもっている。つまり、みんな、「すること」がちゃんと「できない」存在なのである。それなのに、あ
る人が何かができないからといって、生きる資格を問われたり、人間としての価値を疑われるなどということがあっていいだろうか。
コミュニティの中で、誰かができない分を他の人がするというふうに、みんながお互たが
いに足りないところを補い合いながら、助け合い、
支え合って生きる。それが人間的な社会というものだろう。
つまり、こういうことだ。もともとぼくたちはみな、この世界というコミュニティの中にいるだけでいいのだ。その上で、何をする
か、何ができるか、はおまけのようなもの。そう言って悪ければ、「する」は「いる」という
のようなもの。
もちろん、生きているだけのために、「すること」や「しなければならないこと」はたくさんあって絶えることがない。「すること」
が生きがいになることもあれば、生きる目的だと感じられることもあるだろう。それでも、「すること」が目的になって、「いること」
がそのための単なる手段になり下がるということがあってはならない、とぼくは思う。
でも、そのあってはならないことを現実化してきたのが、ぼくたちが生きている「するする社会」だ。最首さんが指してき摘するように、
人間にはつきものの「些ささい細
なミス」が許されない、「ゴロッと横になりたい気分」のやり場に困る、「のんべんだらりとした時間」を過
ごす余地がない、窮きゅうくつ屈なストレス社会なのだ。
「するする社会」は障がい者や高齢者にとって生きづらいばかりではない。今は健康で、若さと競争力にあふれていると感じ、膨ぼうだい大
な
「すること」リストを抱えて張り切っている人にとって③さえ、結局のところ、ろくな社会ではない。まともな社会とは、強い人も弱
い人も、元気な時にも病気の時にも、差し障りがあろうがなかろうが、誰もが一人前の人間として、「そこにいること」を認め合い、
「共に生きていること」を尊重し合うことのできる社会を言うのだ。
ビジネスにおける④弱さの力
A
2−92−10
会社という言葉が、社会の二文字をひっくり返したものだというのは面おもしろ白い。会社は「するする社会」のミニチュアだと思われ
がちだが、新自由主義とかアメリカ型経営とか能力主義とかが、日本に⑤怒ど
とう濤
のごとく押お
し寄よ
せるまでは、多くの会社がコミュ
ニティとしての性格を色いろこ濃く持っていたのだと思う。父親がかつて経営していた会社を含ふく
め、ぼくが人生の中で出会った会社は、
「
」という形容詞が単なる経営者の宣伝文句にとどまらない実質的な意味を持っていた。
ぼくがアメリカに暮らしていた八〇年代、もとは首くびか狩りを意味した「ヘッド・ハンティング」という言葉が、高給を餌えさ
にして他社の
優ゆうしゅう
秀な幹部を自社へと引っ張り込むということを意味するようになった。それはやがて日本にも上陸、ビジネス用語として広く使われ
るようになる。それは要するに、すでにできあがっている強者を力で集めて最強の組織をつくるという、じつに単純な組織論だ。こん
なふうにしてつくられる組織というものは、しかし、じつはひどく脆もろ
いものにすぎないのではないか。
ヘッド、つまり頭ばかりが集まっていて、生身の身体も心もない。そこには事故も、病気も、障がいも、老いも、死も、入り込む余
地はない(そんなのは保険会社の仕事)。あるのは、競い合いによって研と
ぎ澄す
まされた「する」能力ばかり。だが、ビジネスを成功さ
せるために「するべきこと」を「する」という目的以外に、彼かれ
らビジネスマンたちが「そこにいる」理由は何もない。これでは⑥まる
で高性能の最さ
いしんえい
新鋭ロボットを揃そ
ろ
えたようなものだ。
「すること」「できること」が誰の目にも明らかに見える間はいい。しかし、世の中が変わり、その「すること」の意味が改めて問わ
れるような時が来れば、強者の集まりとしての「するする会社」は脆ぜいじゃく弱だ
。いざとなれば、誰もが抱えているはずの「弱さ」を否定し
てきた組織ほど本当の意味で弱いものはない。逆に、互いの「弱さ」を認め合いながら、補い合い、支え合ってきた組織こそが粘ねば
り強づよ
さを発揮することだろう。
(辻信一『「しないこと」リストのすすめ
人生を豊かにする引き算の発想』)
B
2−10
問一
︱︱︱線部①「『するする』社会」の説明として適当なものはどれですか。次のア~オの中からすべて選び、記号で答えなさい。
ア
国や地域が協力してバリアを取り除くことで、「するするグローバリズム」が実現される
イ 「…である」というあり方はあまり高く評価されず、何をどのように「する」かが重要とされる
ウ
人間と自然の間の深いつながりをどう取と
り戻もど
すか、という難問に取り組もうとする
エ
アイデンティティや帰属感や生きがいを感じ、持ち続けていくことが難しくなる
オ
人々が「共に生きている」ということだけを理由にしてコミュニティが成り立っている
問二
︱︱︱線部②「『差し障りがあること』と言い換えてみる」とありますが、この言い換えを通して筆者が伝えようとしたことと
してふさわしくないものはどれですか。次のア~エの中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア
障がい者であるか健常者であるかに関係なく、誰にでも差し障りはある
イ 「する」ことができずに、「いる」ことで精せいいっぱい
一杯な時もある
ウ
人間の価値を損なってしまう「不能性」をなくす努力が必要である
エ 「生きていること」を互いに認め合うのが望ましい社会のあり方である
問三
に当てはまる言葉は何ですか。次のア~エの中から最も適当なものを選び、記号で答えなさい。
ア
幹から分かれ出る枝葉
イ
花を美しく育てる水
ウ
実の中に含まれる栄養分
エ
根をしっかり支える土
問四
︱︱︱線部③「さえ」と同じ性質の「さえ」を用いているものはどれですか。次のア~エの中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア
風か
ぜ邪がひどくて薬さえ飲めない
イ
話すどころか会うことさえしない
ウ
謝あやまり
さえしてくれれば文句は言わない
エ
この地図さえあれば道に迷わない
問五
︱︱︱線部④「弱さの力」とありますが、そのような力を持っている集団は、問題文ではどのように表現されていますか。問題
文から三十字以内で探し、最初と最後の三字を書きなさい。
問六
︱︱︱線部⑤「怒濤のごとく」の意味として最も適当なものはどれですか。次のア~エの中から選び、記号で答えなさい。
ア
段階を追って
イ
絶え間なく
ウ
反対を押し切り
エ
激しい勢いで
A
2−112−12
問七
に当てはまる言葉は何ですか。次のア~エの中から最も適当なものを選び、記号で答えなさい。
ア
家族のような
イ
社会に貢こうけん献
する
ウ
やりがいを大事にする
エ
高収入も夢ではない
問八
︱︱︱線部⑥「まるで~ような」とありますが、ここで筆者が考えている「ビジネスマン」は、どういう状態ですか。問題文中
の言葉を用いて、五十字以内で説明しなさい。
次の①~④の︱︱︱線部のカタカナを漢字に直しなさい。
①
シジツに基もと
づく物語
②
その条件にはショウフクしかねる
③
会計係をツトめる
④
山やまおく奥
のチョスイチ
B
三
2−12