事業所訪問 曙ブレーキ工業株式会社 ai-cityをお訪ねして ·...

鉄道車両工業 479 号 2016.7 今回の事業所訪問は、鉄車工専務理事の佐 伯、広報・情報システム部の小峰担当部長と 北川の3名で訪問しました。 Ai-City は、東武鉄道の羽生駅から自動車 で5分くらいのところにあります。車で道 路を走っていると左手に全面ガラス張りの ACW(Akebono Crystal Wing)が現れて斬 新な社屋にびっくりしました。 曙ブレーキ工業株式会社 Ai-City をお訪ねして Ai-City Ai とは、 Akebono Innovation の頭文字で曙の改革を示し、更に I は、IT(情 報技術)の頭文字も含んでいるとのことでし た。また、埼玉県の無形文化財に指定されて いる羽生市の「武州藍染め技術」にちなんだ 「藍シティ」にも通じ、羽生市と共に栄える という願いも込めているとのことでした。 Ai-City の主な建物をご紹介します。 ACW (Akebono Crystal Wing) ACS (Akebono Creative Square) (開発棟) Ai-Museum、モノづくりセンター ④モノづくりセンター ⑤新規センサー事業棟 ⑥ロジセンター Ai-Village ( 研修センター ) 73 事業所訪問 Ai-City 全景 ACW 風景 今回は、鉄車工職員3名で埼玉県羽生市東 5-4-71 の曙ブレーキ工業株式会社 Ai-City をお 訪ねして、会社及び製品の説明と Ai-City 内施設を見学させていただきました。 また、色々なお話を聞かせていただきましたので、ご紹介いたします。

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Page 1: 事業所訪問 曙ブレーキ工業株式会社 Ai-Cityをお訪ねして · 長、及び竹下インフラ・モビリティ営業2部 長のご出席をいただき、ご挨拶の後、会社の

鉄道車両工業 479 号 2016.7

 今回の事業所訪問は、鉄車工専務理事の佐伯、広報・情報システム部の小峰担当部長と北川の3名で訪問しました。 Ai-Cityは、東武鉄道の羽生駅から自動車で5分くらいのところにあります。車で道路を走っていると左手に全面ガラス張りのACW(Akebono Crystal Wing)が現れて斬新な社屋にびっくりしました。

曙ブレーキ工業株式会社Ai-City をお訪ねして

 Ai-CityのAiとは、Akebono Innovationの頭文字で曙の改革を示し、更にIは、IT(情報技術)の頭文字も含んでいるとのことでした。また、埼玉県の無形文化財に指定されている羽生市の「武州藍染め技術」にちなんだ

「藍シティ」にも通じ、羽生市と共に栄えるという願いも込めているとのことでした。 Ai-Cityの主な建物をご紹介します。①ACW (Akebono Crystal Wing)

②ACS (Akebono Creative Square)

 (開発棟)

③Ai-Museum、モノづくりセンター

④モノづくりセンター

⑤新規センサー事業棟

⑥ロジセンター

⑦Ai-Village (研修センター )

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事業所訪問

Ai-City 全景

ACW風景

 今回は、鉄車工職員3名で埼玉県羽生市東5-4-71の曙ブレーキ工業株式会社 Ai-Cityをお

訪ねして、会社及び製品の説明とAi-City内施設を見学させていただきました。

また、色々なお話を聞かせていただきましたので、ご紹介いたします。

Page 2: 事業所訪問 曙ブレーキ工業株式会社 Ai-Cityをお訪ねして · 長、及び竹下インフラ・モビリティ営業2部 長のご出席をいただき、ご挨拶の後、会社の

鉄道車両工業 479 号 2016.7

 敷地全体を都市に見立てたAi-Cityに入ると色々な建物と木々があり、航空写真に見るように敷地面積は、104,791m2 と東京ドームの約2倍強の広さです。 初めに応接室で、信元社長とのご挨拶の後、石毛インフラ&モビリティシステム事業部門長、中島インフラ・モビリティ開発部長、小林新規・センサ部長、熊田ブランディング室長、及び竹下インフラ・モビリティ営業2部長のご出席をいただき、ご挨拶の後、会社の概要、経営成績、事業分野及び製品等について説明をしていただきました。

 曙ブレーキ工業株式会社の沿革で主な転換期を重点に以下にご紹介します。・1929年(昭和4年) 納

おさめ

三さんじ

冶氏が、日本のモータリゼーションの黎明期、日本初のブレーキライニングメーカとして個人事務所「曙石綿工業所」を創業。なお、「曙」の由来は、納 三冶氏が、郷里・岡山県虫

むしあげ

明港で夜明けの美しさに感激して社名に取り入れられたとのことです。・1939年(昭和14年):・1960年(昭和35年):米国ベンディックス社とドラムブレーキに関する技術援助契約を締結。(第1の転換期総合ブレーキメーカとして飛躍)・1986年(昭和61年):米国GMとの合弁会社 AMbrake Corporation 設立。( 第 2 の転換期 初の本格的な海外展開)・2001年(平成13年):新社屋「Akebono Crystal Wing(ACW)」完成(埼玉県羽生市)・2009年(平成21年):北米ブレーキビジネス譲渡契約をRobert Bosch GmbHと締結。(第3の転換期 グローバル化を加速) 一方、鉄道車両用摩擦材及びブレーキ用摩擦材については、下記に沿革を示します。・1952年(昭和27年):近鉄車両の台車に取り付ける耐摩耗レジンスリ板が採用。・1958年(昭和33年):東京~大阪間のビ

ジネス特急こだま号に初めて合成制輪子と合成ディスクライニングが採用。・1964年(昭和39年):東海道新幹線の開業と同時に、初代0系新幹線に、銅系焼結ディスクライニングが採用。・1989年(平成元年):車輪-レール間の粘着性、耐散水性能の向上を目的に開発した焼結ブロック挿入型合成制輪子(ハイブリッド制輪子)の量産開始。・1990年(平成2年):東海道新幹線を最高速度270km/hで走行する300系新幹線に油圧式キャリパブレーキ装置が採用。・1992年(平成4年):高速での摩擦係数の安定を目的に開発した合成系摩擦材と銅系焼結合金摩擦材を組み合わせたハイブリッドタイプの合成ディスクライニングの量産開始。・2011年(平成23年):UIC規格形状の合成ディスクライニングの量産開始。

 上記のような沿革で、本年は創業より87年目にあたります。

 曙ブレーキ工業株式会社は、下記の企業理念、経営指針及び新中期経営計画を掲げられています。[企業理念] 私達は、「摩擦と振動、その制御と解析」により、ひとつひとつのいのちを守り、育み、支え続けていきます。[経営指針] APS(Akebono Production System /Akebono Philosophy & Spirit・ジャストインタイム/自働化・徹底したムダ取り・Akebono Production SystemからAkebono Philosophy & Spiritへ・間接業務への展開(オフィスからも間接業務 のあり方を見直す取り組み)[新中期経営計画] 直近のキーワードとして『「小規模専業独

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羽生製造所稼働開始。

事業所訪問

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立製造会社」として特徴を活かす』ことを信元社長が宣言されました。「小規模専業独立製造会社」とは、「小規模」であるが故の迅速な意思決定力を活かし、「専業」ならではの摩擦と振動に関する深い知見を活かして事業の裾野をさらに広げるチャレンジを行う事、そして「独立」であるが故の自由度を活かし、新たな分野への進出を試み、「製造」にこだわることで無から有を生み出す事、「会社」で大切なのは人財であるという意味です。上記の方針のもと、日々研鑽してお客様に安全と安心を提供されています。

 資本金は、199億円(2016年3月末現在)、売上高は、2,813億円(2015年度連結)で下記グラフに製品別、地域別売上比率を示します。

 上記グラフより、自動車用が96.5%と大部分を占めて、次いでフォークリフト等の産業用と鉄道車両用ブレーキは各1.4%、センサーとその他が各0.2%です。 2016年3月末現在での従業員数は、世界13ケ国でグローバル化が図られて9,238名、その内、日本の従業員数は 3,224 名、Ai-Cityは、1,120名、ACW執務フロアーは、約350名です。

 事業分野としては、製品別事業部制で下記の5事業があります。(1)ハイパフォーマンスブレーキ事業 高性能量販車向けディスクブレーキ、パッド。

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(2)ファウンデーションブレーキ事業 ディスクブレーキ、ドラムブレーキなど機構部品。(3)社会インフラ&モビリティ事業 鉄道車両用製品、産業機械用製品、センサー製品。(4)フリクション事業 ブレーキパッド、ライニングなど摩擦材製品。(5)アフターマーケット事業 ブレーキパッド、ライニングなどの補修品。

 前述の会社の沿革にもありましたが、1939年以降、羽生製造所において製造を行っておられましたが、順次グループ会社に製造が移されて2011年には、Ai-Cityでの製造は完全に廃止されました。 一部、以前工場建屋であったと思わせる三角屋根が見受けられました。

 国内の拠点としては、Ai-City以外に本店(グローバル本社)、中部オフィスを含めて15拠点があり、特に鉄道車両向けを製造しているグループ会社としては、下記の会社があります。・曙ブレーキ福島製造株式会社 新幹線用焼結ディスクライニング、鉄道車両用制輪子、在来線用レジンディスク等・曙ブレーキ岩槻製造株式会社 新幹線用ディスクブレーキまた、海外のセールス、研究開発や製造拠点としては、北米に6社、欧州に6社、アジアに7社とグローバル展開を行っておられます。

 次に鉄道車両用主力製品の日本でのシェア(2015年度)について教えていただきました。(1)新幹線ディスクブレーキキャリパー:約  40%(2)新幹線ディスクブレーキ用摩擦材:約50%(3)JR在来線制輪子(合成+焼結):約50%(焼結は100%)

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質改善活動を週2回実施。その活動内容のレビュー会を月1回、工程にて実施、各メンバーへの共有化を図っておられます。

(4)汚れを見える化(白色)した新規製造ライン 床や設備を白色にすることより、汚れが顕著化→直ぐ掃除を行う→汚れないように改善に繋げる活動。

(5)品質パスポート 2006年より、担当する工程の品質に対する意識向上を図ると共に適正資格の見える化を実施。

(6)4M(材料、機械、人、方法)変更連絡用紙・用紙入れ 2006年より、製造現場での4Mの変化が発生した場合、現場や間接の人が変化した事の見える化によって、安全に不良を発生、流出を未然に防ぐ活動。

 品質に関して曙ブレーキ工業株式会社では、グループ会社も含めてISO9001,ISO14001を取得されています。また、QC活動も盛んで内外の各拠点の各職場で活動されて毎年11月にTQMとして世界大会を開催されています。参考に製造を担当しているグループ会社における生産工程における品質向上取組み事例について報告がありました。(1)職場の入り口に安全の門を設置。 2013年度の年度方針より「安全はすべての作業の入り口」として各拠点(含むグループ会社)の入り口に設置して全従業員、工程に入る際に安全に対する意識付けをこの門を通ることで実施されています。

(2)Let us make tomorrow better than today! (皆で今日より良い日にしよう! )の看板掲示。 信元社長が北米での事業展開するに当たり、行動モットーとして掲げたもので2015年から国内外各拠点の行動モットーとして改めて掲示し、全体のチームワーク向上に活用されています。

(3)朝市活動 製造現場の担当工程を決めて間接業務スタッフをそれぞれ分けて多機能チームで品

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事業所訪問

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 次にAi-Museumを見学しました。ここでは前社長の執務室や興味深い色々な製品や歴史関係書籍等が展示されていました。

 そして、企業理念の「摩擦と振動、その制御と解析」の新規事業として3次元の高精度小型加速度センサーを鉄道車両に搭載して振動を測定・解析し、車両の異常を検出して車両に知らせる装置例を見せていただきました。この装置は、JR西日本殿に車両異常挙動検知システムとして採用されたとのことでした。

     次に前述の経営方針のAPSや新中期経営計画で信元社長が宣言された人財育成の場であるモノづくりセンターを佐藤センター長の説明で見学しました。入り口の安全の門を入ると非常に広いスペースにびっくり、色々な製造機械が置かれていました。これらの機械は機械の仕組みや製品知識を習得することを目的として展示され、あらゆる階層に研修が行われているとのことでした。海外の拠点からも研修に参加して現在は、各拠点でリーダとしてモノづくりを教えているとのことでグローバルに人財育成されていました。また、

 上記のようにグループ会社でも盛んに品質向上活動や見える化活動を実施されていることが判りました。 以上、色々会社概要や品質関係のお話を伺った後、まずACWを見学させていただきました。 執務フロアは、2階にあり、床面積が5,248m2

で長さ145mの壁のないワンフロアで廊下側等全てがガラス張りで非常に明るい職場と感じました。ここでは、営業、調達、経理、品質保証、総務部門が仕事をされていました。

 

 決まった自分の机がないフリーアドレスを早くから採用されて個人用のワゴンを引いて席へ就く方式を採用されて書類が減り、部門の垣根を取り払ってテーマ毎に集まる合理的な環境作りをされていました。また、フロアには各部門の人の写真が貼られており見える化が図られていました。 次に開発棟を見学させていただきました。鉄道車両の現車相当の負荷を与えて制輪子やライニングの性能を確認するダイナモメータを見せていただきました。新幹線用は最高速度500km/h、在来線用は最高速度160km/hまで試験できるとのことでした。

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執務フロア全景

新幹線用車輪ディスクブレーキ

鉄道車両用センサーの展示

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鉄道車両工業 479 号 2016.7

技術伝承については、高度な技術についてその作業内容を数値化してマニュアルを作成し、だれでもできるようにしておられるとのことでした。

 次に折り紙をイメージした斬新なデザインのAi-Village(研修センター )を西沼施設管理課長の説明で見学させいただきました。 Villageとは、村という意味で普通は英語の発音では「ビレッジ」であるが、ここでは

「ビラージュ」と呼んでいるそうです。信元社長がフランスに住んでおられたことからフランス語読みにされたとのエピソードを伺いました。 最初にプレゼンテーションルームを見学させていただきましたが、下記写真で見るように大学の講義室のような設備の整った室内です。特にスクリーンが大きく、机は前後に傾き、人の移動に邪魔にならないようにされていました。人財育成の観点からもここで国内外の人が集まって研修を行い研修結果報告などの発表を行われているとのことでした。

 プレゼンテーションルームの後、建物内を色々見学させていただきました。建物の中央には、中庭があり、壁には色々な掲示物があり見える化を実践されていました。また、宿泊用の部屋を見せていただきましたがちょっとしたホテル並みで全体的にホテルのようなすばらしい研修センターです。

    今回、曙ブレーキ工業株式会社殿のご厚意で見学させていただいた件の御礼と質疑応答を行いました。見学で感じたこととして信元社長の信念である「人は財産なり」から人を人材と呼ばず人財と読まれて全従業員に対して人財教育を実践されて効果が上がっていること、また、見える化や品質向上に精力的取り組まれていること等、非常に感動しました。今後、機会があれば鉄車工の活動で見学したい旨のお願いをしました。

 最後に今回、お忙しい中、会社の紹介及び事業所見学や質疑応答にご対応いただきまして誠にありがとうございました。

(鉄車工 北川 好弘)

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プレゼンテーションルーム風景

研修センター内掲示物

モノづくりセンターのグローバル化

集合写真

事業所訪問