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博士論文 フィラー用無機粉体の表面改質及び 特性メカニズムに関する研究 平成28年3月

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博士論文

フィラー用無機粉体の表面改質及び

特性メカニズムに関する研究

平 成 2 8 年 3 月

児 子 英 之

岡 山 大 学 大 学 院

自 然 科 学 研 究 科

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i

目 次

第1章 緒論................................................................1

1.1 研究の背景............................................................2

1.2 本論文の構成..........................................................5

1.3 参考文献..............................................................6

第2章 電位差滴定によるリン酸モノブチルエステルの無機酸化物粉体

表面改質挙動の定量化.............................................11

2.1 緒言..................................................................12

2.2 実験方法..............................................................13

2.3 結果および考察........................................................14

2.4 結言..................................................................17

2.5 参考文献..............................................................18

第3章 炭酸カルシウム充填ポリプロピレンの熱酸化劣化に及ぼす

表面処理状態の影響...............................................31

3.1 緒言..................................................................32

3.2 実験方法..............................................................33

3.3 結果および考察........................................................34

3.4 結言..................................................................39

3.5 参考文献..............................................................40

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ii

第4章 ポリプロピレン/タルク/炭酸カルシウム複合材料の物性

に及ぼすフィラーの混錬順序の影響...............................59

4.1 緒言..................................................................60

4.2 実験方法..............................................................61

4.3 結果および考察........................................................63

4.4 結言..................................................................67

4.5 参考文献..............................................................67

第5章 シランカップリング処理シリカを配合した高分子材料の力学特性

に及ぼす表面処理状態の影響......................................83

5.1 緒言..................................................................84

5.2 実験方法..............................................................84

5.3 結果および考察........................................................88

5.4 結言..................................................................91

5.5 参考文献..............................................................92

第6章 総括..............................................................111

謝辞.........................................................................115

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第1章 緒 論

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1.1 研究の背景

一般的に,ゴムやプラスチック等の高分子材料では,強度,剛性,耐熱性等の特性や熱

伝導,難燃性,導電性等の機能など,各種特性・性質を改良あるいは付与するために,難

溶性塩,金属,金属酸化物,水酸化物などのフィラーを充填し,複合材料として用いられ

ており,今日,フィラーを充填した複合材料は高機能材料として欠かせない重要な素材と

なっている。

元来フィラーは,石灰石やクレー,タルクなどの無機鉱石を,樹脂などの増量材として

利用したのが始まりで,いかに本来の物性を損なわずにかさ上げするかと言うことが重要

課題であった。その後,母材である高分子材料の機械的強度や耐熱性向上の目的で用いら

れるようになった。さらに,フィラーは,導電性や磁性,圧電性,熱伝導性,ガスなどの

遮蔽特性,制振性など,本来高分子材料が有していない特性・性質を付与するために用い

られることとなった。近年は,成形,切断,切削,研削,研磨などの加工性向上を目的と

したフィラーの使用も急激に増加している。このように,かつては増量材として使用され

ていたフィラーの役割がより広範に,かつ,高度化するにつれ,フィラーの物性および機

能性の制御,フィラー表面の改質といった複合材料作製のための要素技術が重要度を増し

ている。

このため,新規なフィラーの探索と合成,フィラーの形態制御,フィラーに対する新規

な表面改質技法(カップリング剤による表面改質),フィラーの微細化,フィラーの界面制

御,フィラーの樹脂中での均一分散化,新規なフィラーの利用技術およびナノコンポジッ

ト材料1)の開発などが随所で行われてきた2)。中でも,フィラーの表面改質に用いられる

カップリング剤は“無機粉体と有機物との混合技術および分散化における必須な薬剤”と

して現在の地位を確立しており,無機,有機の両相界面での化学的または物理的結合性に

関して従来から様々な議論がなされ,基礎理論が確立されている。これら現在までに報告

されている,複合材料の特性・性質に関連する高分子系複合材料の作製時の因子を Table 1.1

にまとめた。

表に示したように,種類,組成など高分子樹脂やフィラーの材質に起因する因子だけで

はなく,フィラーの表面改質剤の種類や組成,改質方法に依存する改質剤濃度,表面改質

法,改質の結果とあるフィラーに対する表面改質状況が複合材料の特性・性質に影響する。

さらに,複合材料作製使用する混練機と,その操作条件である混練方法が複合材料の特性・

性質に関連する因子として材料設計の観点から指摘されている3)。

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このように材料作成時の種々の因子が複合材料の物性・特性に影響するが,その中でフ

ィラーの特性だけに着目しても,Table 1.2 にまとめたように,多くの物理的特性と化学的

特性が影響する。このため,高分子系複合材料の評価や解析に際しては,対象や項目を明

確にして研究開発指針の策定を行い,材料設計することが極めて重要なポイントである4)。

一方で,フィラー表面の化学的特性が複合材料の物性・特性に影響することから,フィ

ラーの表面改質を適切に行うことにより,複合材料の種々の物性が改善することが期待で

きる。例えば,フィラーの表面改質により,マトリックス樹脂とフィラー界面の濡れ性が

改善され,外的な負荷に対する応力集中が緩和され強度改善に繋がることが期待される。

また,両相界面での延性的塑性変形が発現し、耐衝撃強度が向上することも期待される。

外的変形に対してマトリックス樹脂中でのフィラーの移動が容易となる,一次粒子の凝集

塊が減少するため、外的な負荷に対してマトリックス樹脂/フィラー界面の均一な空隙が

形成され、引張強度、伸び率、衝撃強度の向上が期待できる、等が挙げられる5)6)。

一般に、市販のフィラー表面は親水性であるため、疎水性である石油系のポリプロピレ

ン系樹脂等に配合する際には、マトリックス樹脂/フィラー界面の親和性(濡れ性)を改

善することが重要である。そこで、フィラー表面を脂肪酸、樹脂酸、界面活性剤、リン酸

エステル系カップリング剤7)8)、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤等で

表面改質を施す必要性がある。複合材料の性能,機能のさらなる向上が求められるなかで,

これらの性能を設計通り発現させるためには表面改質技術によるフィラーの分散性制御や

マトリックス樹脂/フィラーの界面制御が重要な課題となっている。

しかし,前述のように,複合材料の系が複雑であり,その評価が難しいために,フィラ

ー表面の性質や構造,フィラー表面と表面改質剤との反応機構,マトリックス樹脂/フィ

ラー界面構造など表面改質条件がフィラー表面での表面改質剤の界面構造に及ぼす影響及

びその複合材料全体におよぼす影響など,複合材料設計に対して基礎的な部分が明らかに

されていない。最近,フィラーのマトリックス樹脂中への分散やフィラーの表面改質に対

し,粉体の表面の水酸基,吸着水,不純物などの粉体の化学的性質が大きく関与すること

が明らかとなってきている9)が,これら検討での表面状態の解析は,高真空状態,加熱状

態での評価が主であり,実際の使用状態に近い状態での表面の直接的な評価法は確立され

ていない。

このような背景から,本論文では、高分子系複合材料のフィラー分散に及ぼすフィラー

特性の要因を明確にし、フィラーの分散メカニズムの解明を通して,フィラー粒子の表面

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設計および複合材料に応じた表面処理技術の確立することを目的とした。このためには、

フィラーとマトリックスの両相界面での親和性評価として,フィラー表面の疎水度を把握,

すなわち,フィラー表面の水酸基の有無やその状態など水酸基挙動の把握が必要である。

フィラー表面の水酸基の挙動を評価することにより、フィラー表面へのカップリング剤の

吸着量を算出し、カップリング剤によるフィラー表面の被覆性の良否が確認できる。

ここで,フィラー表面の水酸基の有無や数量的評価を行う分析手法として,一般に、電

位差滴定法が優れており、評価法として周知されている10)。フィラーを添加していない

系での滴定曲線(一般的に“中和滴定曲線”と言われる)とフィラーを懸濁した滴定曲線

の交点は、等酸点と呼ばれている。ここでのシリカ、酸化チタンおよびアルミナの等酸点

は、pH4.5、pH6.7 および pH9.2 であるが、フィラー表面の水酸基にカップリング剤

が吸着すると等酸点が通常に比べて異なることが報告されている。そこで本研究では、あ

る pH 値における中和滴定曲線とフィラーを懸濁させた系のアルカリ滴下量の差より表面

水酸基に吸脱着する H+量を評価する方法を検討し,この手法をカップリング剤のフィラ

ー表面での吸着量を定量的に求める手法として確立する11)。

この評価法を基礎として,酸性フィラー(シリカ)、中性フィラー(酸化チタン)、塩基

性フィラー(アルミナ、タルク、炭酸カルシウム)を対象に,フィラーの表面特性(水酸

基)とマトリックス樹脂中でのフィラー分散の状態との関係を明らかにし、さらに,金属

酸化物(酸性フィラー、中性フィラー、塩基性フィラー)の化学的特性の違いと高分子系

複合材料の特性との関連を明らかにすることを目的とした12)。

具体的には,フィラー材料として幅広く用いられ,広い pH 範囲で安定なフィラー材料

として表面化学特性の異なるシリカ(SiO2)酸化チタン(TiO2)およびアルミナ(Al2O3)

を中心とした金属酸化物,表面改質剤としては,工業的に広く利用されているイオン結合

性のリン酸エステル,共有結合性とイオン結合性の両方の結合性を持つシランカップリン

グ剤を用いて検討を行った。その検討から,これら表面改質剤の粒子表面での改質反応お

よび界面構造の評価手法を確立し,複合材料でのキーテクノロジーであるフィラーの表面

改質のメカニズム解明に対する界面化学手法の有効性を明らかにする。また,これら表面

設計されたそれぞれのフィラーにおける応用事例として熱酸化劣化,材料物性(機械的物

性,熱的物性),力学特性のそれぞれに及ぼす表面改質フィラーの影響について検討する。

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1.2 本論文の構成

本論文は以下の6章から構成されている。

第1章では,カップリング剤によるフィラー用無機粉体の表面改質メカニズム解明の必

要性とその意義を述べ,これまで研究されていた金属酸化物(シリカ,酸化チタン,アル

ミナ,タルク,炭酸カルシウム)の表面に関する研究の概観を示した。これを踏まえて,

本研究の目指したフィラー用無機粉体の表面改質メカニズムに関する研究の進め方に対す

る基本的な考え方と本論文の構成について述べた。

第2章では,フィラーの酸・塩基性特性(電位差滴定による等酸点評価)を評価解析す

る観点から,「電位差滴定による無機酸化物粉体への表面改質挙動の定量化」として,フィ

ラー表面の改質挙動の解析および表面改質量の定量などの評価法について述べる。具体的

には,シリカ,酸化チタン,アルミナを測定対象とし,滴定曲線からフィラーの酸・塩基

性度の指標を検討する。さらにカップリング処理を施したフィラーの滴定曲線からカップ

リング剤のフィラー表面への吸着量の算出を行う。

第3章では,「熱酸化劣化に及ぼす表面処理状態の影響」として,ポリプロピレンに塩

基性フィラー(炭酸カルシウム)を充填した高分子複合材料の熱酸化劣化に及ぼすカップ

リング剤の効果について述べる。ここでの研究対象は,フィラー中に含まれる金属不純物

とリン酸エステル系カップリング剤によるキレート効果が熱酸化劣化過程に及ぼす影響と

した。実験ではリン酸エステル系カップリング剤の炭素鎖長や熱酸化劣化時間を変え,試

験片の黄変度,引張衝撃強度との関連性について検討した。

第4章では,高分子系複合材料の作製時の因子である「複合材料の物性に及ぼすフィラ

ーの混錬順序の影響」に着目し,ポリプロピレンに塩基性フィラーであるタルクと炭酸カ

ルシウムを混練した場合の混練順序が高分子系複合材料の機械的性質,熱的性質に及ぼす

影響について述べる。さらに,フィラーの表面改質の有無がポリプロピレン系複合材料の

物性に及ぼす影響についても検討事例を報告する。

第5章では,「複合材料の力学特性に及ぼす表面処理状態の影響」として,高分子材料

に酸性フィラーであるシリカを配合した高分子複合材料の機械的特性におよぼすカップ

リング剤の影響について述べる。高分子樹脂との化学的結合性の異なるシラン系カップリ

ング剤を用いて,高分子系複合材料の引張強度やシリカの樹脂中での分散性について検討

を行った。

第6章では,本研究で得られた結果ならびに結論について総括する。

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1.3 参考文献

1) 中條澄,“ポリマー系ナノコンポジット材料”,工業調査会,東京,37(2003).

2) 株式会社 R&D 支援センター,“フィラーの混練・分散技術とカップリング処理および

分散状態の評価”,97(2013).

3) 中條澄,プラスチックエージ,8,142(1995).

4) 株式会社技術情報協会,”攪拌・混合技術とトラブル対策”,228(2014).

5) 光石一太,川野道則,渋谷惇夫,成形加工,6,883(1994).

6) 光石一太,成形加工,9,434(1997).

7) T. Nakatsuka, H. Kawasaki and K. Itadani, J. Colloid Int. Sci.,82,298(1981).

8) 光石一太,児玉総治,川崎仁士,田中 誠,Chemistry Express,2,281(1987).

9) 小林 亜男,浅野 秀樹,石川 鉄雄,高分子論文集 41(6),337-344,(1984).

10) 平井竹次,田里伊佐雄,化学総説 7,学会出版,111(1975).

11) 児子英之,永田員也,川崎仁士,武田真一,田里伊佐雄,日本接着学会誌,39,248,(2003).

12) H. Ishida and J.D. Miller, The 38th Annual Conf., Reinf. Plast. Compos. Inst., Session

4E,1(1983).

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Table1.1 Factor at the time of the manufacture to give characteristics and a

property of the Composite material

高分子樹脂 種類,組成,平均分子量,分子量分布,結晶性,末端基,立体規則性

フィラー 種類,組成,表面構造,表面組成,表面特性(表面張力・酸性度等),

純度,アスペクト比,粒度,粒度分布等

フィラーに対す

る表面改質

種類,組成,濃度,表面改質法(装置,湿度,時間,混練等)

フィラーに対す

る表面改質状況

表面組成,表面被覆率,濡れ性等

混練機 機械の構造(バッチ式と連続式),押出機(一軸と二軸),スクリュー

構造等,フィード方法等

混練方法 温度設定,せん断力,回転数,時間,比エネルギー等

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Table.1.2 Characteristics of the filler which has an influence

on the physical property of the polymer composite

物理的特性 種類,組成,表面構造(結晶構造,格子欠陥),表面形態

(凹凸構造),粉体形状(アスペクト比),表面特性(表面

張力,摩擦係数,硬さ,樹脂吸着性,疎水・親水性等),

表面改質特性(粉体表面の親和性)

化学的特性 組成(水酸基),表面電荷(ゼータ電位),酸・塩基特性(酸・

塩基量,電位差滴定による等酸点評価),純度(金属不純

物),表面改質特性(水酸基,酸・塩基量)

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第2章 電位差滴定によるリン酸モノブチルエステルの

無機酸化物粉体表面改質挙動の定量化

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2.1 緒言

高分子材料において,コストの低減,機能付与,物性の改善などの目的から,無機粉体

が充てん剤(フィラー)として用いられている1)。このフィラーの充てんに際して複合効

果を十分に発現させるためにはフィラーの均一分散が必要不可欠である。しかしながら,

マトリックス高分子と無機粉体のそれぞれの表面エネルギーが異なっているために,マト

リックス中にフィラーを均一分散をさせることは困難である2,3)。高分子材料にフィラー

を充てんした場合,フィラー/表面改質剤,表面改質剤/マトリックスのそれぞれに界面が

形成され,この両者を含めた界面層をいかに制御するかがフィラーを均一分散させる上で

重要となってくる。この界面設計制御のためには,フィラーの粒度分布,粒子形状,比表

面積などの物理的性質だけではなく,表面の水酸基数,水酸基の反応性,pH,不純物など

の化学的性質,フィラー/改質剤の結合性,改質剤層の構造,改質剤層/マトリックス間の

結合性や相互作用などを知る必要がある。

フィラーの分散性向上のために,従来から脂肪酸,脂肪酸セッケン,シランカップリン

グ剤などの有機物を用いたフィラーの表面改質が一般的に行われているが,その中でも,

シリカに対するシランカップリング剤の表面改質機構やそれらの間の結合状態については

多くの研究がなされている4)。シランカップリング剤によるシリカの表面改質では,シリ

カは加水分解したカップリング剤とシリカ表面の水酸基との間にシラノール結合(共有結

合)や水素結合が形成されることにより改質されている。このため,炭酸カルシウム

(CaCO3)などの共有結合を形成しないものには効果がない。

中司らは,表面改質剤としてリン酸エステル系5)表面改質剤を合成し,これを水性媒体

中に懸濁した CaCO3と反応させ,その表面改質効果について報告している6)。しかしなが

ら,CaCO3以外の金属酸化物とイオン性の表面改質剤であるリン酸エステルとの反応機構

については明らかにされていない。また,フィラーとして一般に用いられている SiO2,TiO2,

Al2O3 などの酸化物粉体表面は,水和による水酸基を有し,これらの粉体が親水性を示す

ことが報告されている7)。これら表面に OH 基を持つ無機粉体は Parks らの報告から粉体

表面と水溶液の間で平衡反応により酸・塩基的な作用を行なうことが知られている8)。こ

のフィラー表面への改質剤による表面改質量が,ポリマー中でのフィラーの分散性や複合

材料の力学的特性に影響を及ぼすことが知られているが9,10),その表面改質機構,およ

び改質量の定量法は分析化学手法によって判断するしかなく,簡便で迅速な解析方法が確

立されていない。

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そこで,本章ではフィラーとして一般的に用いられている SiO2,TiO2,Al2O3 粉体に対

し,リン酸モノブチルエステルを用いて表面改質を行い,界面化学的手法である電位差滴

定法を用いて11-13),リン酸モノブチルエステルによる粉体の表面改質量の定量,およ

び表面改質挙動の解析を試みた。

2.2 実験方法

2.2.1 試料粉体

試料粉体はα-Al2O3(昭和電工(株)製,UA-5055),ルチル型 TiO2(石原産業(株)

製 CR-EL),α-SiO2((株)高純度化学研究所製)を用いた。試料粉体は,空気気流下,

300℃で 24 時間熱処理を行った。これらの粉体の比表面積は Monosorb 比表面積計(湯浅

アイオニクス(株)製)を用いて測定した。また,粉体の平均粒径は光透過型遠心沈降式

粒度分布測定装置((株)堀場製作所製 CAPA-500)を用いて測定した。測定した粉体の

物性を Table 2.1 に示す。

2.2.2 炭素分析法によるリン酸モノブチルエステル表面改質量の定量

2.2.2.1 リン酸モノブチルエステルの平衡吸着量測定

平衡吸着量測定は,窒素ガスバブリング下,水溶液 100ml 中に粉体 5.00gを懸濁させリ

ン酸モノブチルエステル((株)大八化学工業所製,MP-4,純度 93.2%)を加え pH 5.0

に調整し,25℃の水浴中で 24 時間振とうし,その懸濁液をろ過し,ろ別した粉体を減圧乾

燥させ,粉体上に吸着したリン酸モノブチルエステルのブチル基の炭素量を炭素・硫黄分析

装置 EMIA-510((株)堀場製作所製)を用いて測定し,その量からリン酸モノブチルエ

ステルの吸着量を算出した。

2.2.2.2 リン酸モノブチルエステルの吸着量の pH 依存性測定

リン酸モノブチルエステルの吸着量の pH 依存性の測定は,pH 4.0~11.0 の所定の pH で

リン酸モノブチルエステルをほぼ滴定時間に相当する 1 時間粉体表面に吸着させ,それぞ

れ等 pH の水溶液で十分洗浄した後の SiO2,TiO2,Al2O3 表面のリン酸モノブチルエステル

残存量を炭素・硫黄分析装置を用いて測定し,その量からリン酸モノブチルエステルの吸着

量を算出した。

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2.2.3 プラズマ発光分光分析装置による粉体溶解性の検討

TiO2,Al2O3 粉体の硝酸およびリン酸モノブチルエステル溶液への溶解性は,溶液 100ml

中に粉体 5.00gを懸濁させ硝酸,リン酸モノブチルエステル,水酸化カリウムで所定の pH

に調整し,25℃の水浴中で 1 時間または 24 時間振とうし,その懸濁液をろ過し,ろ別した

溶液をプラズマ発光分光分析装置(ICP)(セイコー電子工業(株)製 SPS1200VR)を用い

て調べた。

2.2.4 電位差滴定

電位差滴定には,電位差自動滴定装置(京都電子工業(株)製 AT-410)を用いた。滴

定溶液は,硝酸(HNO3, 試薬特級,和光純薬(株)製)またはリン酸モノブチルエステル

を用い pH 3.0 に調製した水溶液に,支持電解質として 0.10 mol・l-1 の硝酸カリウム(KNO3,

試薬特級,和光純薬(株)製)を加えたものを用いた。水は,イオン交換水を超純水製造

装置(日本ミリポア(株)製 MILLI-Q SP.TOC.)で限外ろ過したものを用いた。

実験は,25℃で溶液 100 ml にそれぞれの粉体 5.00 g を懸濁させ,窒素ガスバブリングを

おこない 0.10 mol・l-1 水酸化カリウム(KOH, 試薬特級,和光純薬(株)製)を滴下するこ

とにより行った。

2.3 結果および考察

2.3.1 炭素分析法によるリン酸モノブチルエステル表面改質量の定量

2.3.1.1 リン酸モノブチルエステルの平衡吸着量

表面性質の異なる粉体へのリン酸モノブチルエステルの改質挙動を調べるために各々の

粉体におけるリン酸モノブチルエステルの平衡吸着量を測定した。その結果を Fig.2.1 に示

した。Al2O3 粉体の平衡吸着量は 0.25mg・m-2,TiO2 では 0.20mg・m-2 であった。リン酸モノ

ブチルエステル1分子の占有面積は,Chem 3D(CambridgeSoft 社製)を用いて計算したと

ころ 7.54×10-19 m2 であったので Al2O3, TiO2 粉体ともにリン酸モノブチルエステルの吸着

は単分子吸着であることがわかった。しかしながら,SiO2 粉体ではリン酸モノブチルエス

テルの吸着はほとんど認められなかった。

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- 15 -

2.3.1.2 リン酸モノブチルエステルの吸着量の pH 依存性測定

リン酸モノブチルエステルを吸着する Al2O3,TiO2 粉体,吸着しないと考えられる SiO2

粉体についてその pH 4.0 から pH 11.0 の所定の pH における吸着量を検討した。その結果

を Fig.2 に示している。Al2O3 粉体では pH 4.0 から pH 8.0 で 0.24mg・m-2 でほぼ一定の吸着

量でありそれ以降の pHで急激に吸着量は低下していった。TiO2粉体では pH 4.0から pH 6.0

で 0.10mg・m-2 でほぼ一定の吸着量でありそれ以降の pH で急激に吸着量は低下していっ

た。また,SiO2 粉体については平衡吸着量測定からリン酸モノブチルエステルの吸着はほ

とんどないことが示唆されたが,Fig.2.2 からもほとんどリン酸モノブチルエステルアニオ

ンの吸着がないという結果が得られた。

2.3.2 プラズマ発光分光分析装置による粉体溶解性の検討

一般的に水溶液中での溶解性があると言われている Al2O3 粉体の硝酸およびリン酸モノ

ブチルエステル溶液への溶解性を調べた結果を Fig.2.3, Fig.2.4 に示した。硝酸溶液では pH

3.0 から pH 11.0 において 1 時間で 5.0ppm,1 週間で 10ppm 程度の最大溶解量であった。

リン酸モノブチルエステル溶液では 1 時間で 1ppm,1 週間で 2ppm 程度であった。つぎに

TiO2 粉体の硝酸およびリン酸モノブチルエステル溶液への溶解性を調べた結果を Fig.2.5,

Fig.2.6 に示した。硝酸では,その溶解量は pH 3 から pH 11 において 1 時間で 2ppm,1 週

間で 8ppm程度であった。リン酸モノブチルエステル溶液では 1時間で 3ppm,1週間で 5ppm

であった。

2.3.3 粉体の電位差滴定

シランカップリング剤では金属酸化物表面の水酸基と加水分解したシラノールが脱水縮

合により表面改質されることが知られている14)。これらの表面改質反応において,粉体

表面水酸基へのシランカップリング剤の吸着が重要であることが報告されている10)。表

面改質剤としてリン酸モノブチルエステルを用いる場合もシランカップリング剤同様,粉

体表面水酸基へのリン酸モノブチルエステルの吸着が重要であると考えられる。

この粉体表面に形成されている水酸基の状態は,一定量の粒子が懸濁した水溶液に酸ま

たはアルカリを滴下し,その際の pH を測定して得られる酸塩基滴定により評価すること

ができる14)。Fig.2.7 に硝酸で pH 3 に調製した水溶液中に粉体を懸濁させた系の pH 滴定

曲線を示している。粒子を懸濁させていない系での滴定曲線(中和滴定曲線)と粒子を懸

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- 16 -

濁させた系の滴定曲線の交点は等酸点と呼ばれている。等酸点より酸性領域では粒子表面

は,溶液側の H+を吸着し,プラスに帯電している。一方,等酸点よりアルカリ側では,粒

子表面の水酸基は H+を溶液側へ放出し,粒子がマイナスに帯電している。本章で用いた

Al2O3 粉体の等酸点は pH 9.2,TiO2 粉体の等酸点は pH 6.7,SiO2 粉体の等酸点は pH 4.5 で

あった。イオン性の表面改質剤であるリン酸モノブチルエステルは等酸点より酸性領域で

粉体表面水酸基に吸着すると考えられる。Fig.2.8 にリン酸モノブチルエステル水溶液で pH

3.0に調製した水溶液中に粉体を懸濁させた系の pH滴定曲線を示している。その結果Al2O3

粉体 TiO2 粉体 SiO2 粉体それぞれの等酸点は pH 10.5,pH 8.5,pH 4.5 となった。Al2O3 粉体

TiO2 粉体の等酸点の変化はリン酸モノブチルエステル表面改質剤のそれぞれの粉体表面

への吸着による粉体表面の H+量の変化により起こっていると考えられる。また,SiO2 粉体

の等酸点が変化していないのは粉体表面へのリン酸モノブチルエステルの吸着がなく表面

改質反応が起こっていないためであると考えられる。従って,ある pH 値における中和滴

定曲線と粉体を懸濁させた系のアルカリ滴下量の差C1は,表面水酸基に吸脱着する H+量

に対応しており,粉体上の単位面積あたりの H+吸着量C(mol・m-2)を以下の式(1)から算

出することができる8,10)。

C = (C0-CS)/(W×A) (1)

ここで,C0(mol)はある pH での中和滴定曲線におけるアルカリ滴下量,CS(mol)はその

pH での粉体懸濁系の曲線におけるアルカリ滴下量,W(g)は粉体の懸濁量,A(m2・g-1)は粉

体の比表面積である。

Fig.2.9に硝酸およびリン酸モノブチルエステル水溶液にAl2O3粉体を懸濁させた系の pH

と電位差滴定曲線より算出したC の関係を示している。硝酸系では溶液に 0.10 mol・l-1 の

KOH を滴下していくと,直線的にC が減少した。この直線的なC の変化は,粉体表面

OH 基の溶液中への H+放出挙動に起因していると考えられる。一方,リン酸系では pH 5.0

から pH 8.0 の pH 領域においてC は硝酸系と異り,KOH 滴下量を増やしてもC が減少し

ない平坦部が現れた。pH 5.0 から pH 8.0 の領域での硝酸系との pH 変化の相違は,粉体表

面の OH 基から H+の脱着が起こっていないことによるものであると考えられる。これは粉

体表面に形成された-OH2+サイトとリン酸モノブチルエステルアニオンとの間に強固なイ

オン-イオン相互作用が pH 8.0 付近まで存在しているためであると考えられる。したがっ

て,C はリン酸モノブチルエステルによる粉体表面改質量に対応していると考えられる。

次に,TiO2 粉体で得られたC の結果を Fig.2.10 に示す。硝酸系では溶液に 0.10 mol・l-1

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- 17 -

の KOH を滴下していくと,Al2O3 粉体と同様に直線的にC が減少した。この直線的なC

の変化は,Al2O3 粉体と同様に粉体表面 OH 基の溶液中への H+放出挙動に起因していると

考えられる。一方,リン酸系では pH 4.0 から pH 7.5 の pH 領域において Al2O3 粉体と同様

の平坦部が現れた。これも Al2O3 粉体と同様,イオン-イオン相互作用が pH 7.0 付近まで存

在しているためであると考えられる。したがって,C は Al2O3 粉体と同様にリン酸モノブ

チルエステルによる粉体表面改質量に対応していると考えられる。

Fig.2.11に硝酸およびリン酸モノブチルエステル水溶液にSiO2粉体を懸濁させた系の pH

と電位差滴定曲線より算出したC の関係を示している。SiO2 では硝酸系およびリン酸系

において Fig.2.11 に示すように,C の違いが見られなかった。これは,リン酸モノブチル

エステルアニオンの SiO2 粉体表面上へのイオン-イオン相互作用による吸着が非常に少

なく表面改質が行われなかったことを示していると考えられる。

前述の,プラズマ発光分光分析装置による Al2O3 粉体,TiO2 粉体の溶液中への溶解度測

定の結果が,電位差滴定での測定領域において Al2O3 粉体では一週間浸漬後に硝酸溶液で

6.0 ppm,リン酸モノブチルエステル溶液で 2.3 ppm,TiO2 粉体の溶解度は一週間浸漬後に

硝酸溶液で 1.0 ppm,リン酸モノブチルエステル溶液で 0.6 ppm であったことより,粉体の

溶解のC vs pH の影響はほとんど無いと判断できる。このことを踏まえて,リン酸モノブ

チルエステルの吸着量は粉体の H+吸着量の変化しない pH 領域(平坦部)に対応している

と考えられ,その平坦部の領域でのC から,粉体表面に吸着しているリン酸モノブチル

エステル量を算出した。その結果,電位差滴定法により算出された Al2O3 粉体,TiO2 粉体,

SiO2 粉体へのリン酸モノブチルエステルの表面改質量は 0.24mg・m-2,0.09mg・m-2,0.00mg

・m-2 となり,炭素分析法により測定された吸着量 0.24mg・m-2,0.10mg・m-2,0.00mg・m-2 と

ほぼ一致していることがわかった。

2.4 結言

フィラーとして一般的に用いられている Al2O3,TiO2,SiO2 粉体に対し,リン酸モノブ

チルエステルを用いて表面改質を行い,界面化学的手法である電位差滴定法を用いて,改

質後の粉体のリン酸モノブチルエステルによる表面改質量の定量,および表面改質挙動の

解析を行った結果,以下のことが明らかとなった。

(1) 粉体へのリン酸モノブチルエステルの表面改質反応は粉体の等酸点より低 pH 側で粉

体表面の OH2+サイト上でリン酸モノブチルエステルアニオンが強固なイオン結合をする

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- 18 -

ことによって起こることが明らかとなった。

(2) pH 3.0 から pH 11.0 の測定 pH 領域での溶液 pH による粉体自身の溶解は微量であり電

位差滴定法による結果から見積もられる結果における影響はほとんどなかった。

(3) 粉体表面の性質の異なる 3 種の粉体 SiO2,TiO2,Al2O3 いずれにおいても,電位差滴

定法を用いた表面改質量の定量結果は分析化学手法を用いた定量値とほぼ一致したことか

ら電位差滴定法を用いることによりこれらの粉体のリン酸モノブチルエステルによる表面

改質量の迅速な定量が可能であることが明らかとなった。

2.5 参考文献

1) フィラー活用辞典,大成社.

2) A.D.Zimon:"Adhesion of dust and powder"p.45, Plenum Press (1969).

3) 荒川正文,色材,48, 165 (1975).

4) H.Ishida and J.L.Koenig, J. Colloid Interface Sci., 64,555 (1987).

5) 大西俊次,工業材料,20, [7], 8 (1972).

6) T.Nakatsuka,H.Kawasaki,K.Itadani,S.Yamashita,J Appl Polym Sci.,27(1),259 (1982).

7) H.P.Boehm,Disc.Faraday Soc.52,264 (1971).

8) G.A.Parks, P.L.de Bruyn,J.Phys.Chem.,66,967 (1962).

9) 永田員也,日笠茂樹,西勝志,岩蕗仁,児子英之,日本接着学会誌, 38, (5), 158 (2002).

10) K.Nagata, Y.Takahashi, S. Shibusawa, Y. Nakamura, J. Adhesion Sci. Technol., 16, (8),

1017 (2002).

11) 虫明克彦,増子昇,生産研究(東京大学)29(1),2 (1977).

12) 平井竹次,田里伊佐雄,化学総説 7,学会出版,p.111 (1975).

13) G.A.Parks, Chem. Rev., 65,177 (1965).

14) 田里伊佐雄,藤井清司,平井竹次,DENKI KAGAKU 49, (8), 517 (1975).

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Table 2.1 Charactarization of inorganic oxide powders

particle size [m]

surface area [m2・g-1]

SiO2(-quartz) 0.8 11.0

TiO2(rutile) 0.4 7.0

-Al2O3 0.4 4.8

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0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4

Fig. 2.1 Adsorption isotherm of C4H9OPO(OH)2

on various fine particles at pH 5

Al2O3

TiO2

SiO2

Am

ounts

of

adso

rption

[m

g・m

-2]

Equilibrium concentration [g・(100ml)-1]

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- 21 -

0

0.1

0.2

0.3

0.4

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.2 Amounts of adsorption of C4H9OPO(OH)2 vs. pH

Al2O3

TiO2

SiO2

Am

ounts

of

adso

rption

[m

g・m

-2]

pH [-]

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- 22 -

0

5

10

15

20

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.3 Dissolved Al2O3 vs. pH in HNO3 aq. solution

1hour

1week

Dis

solv

ed A

l2O

3 [

ppm

]

pH [-]

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- 23 -

0

1

2

3

4

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.4 Dissolved Al2O3 vs. pH in C4H9OPO(OH)2 aq. solution

1hour

1week

Dis

solv

ed A

l2O

3 [

ppm

]

pH [-]

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- 24 -

0

2

4

6

8

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.5 Dissolved TiO2 vs. pH in HNO3 aq. solution

1hour

1week

Dis

solv

ed T

iO2 [

ppm

]

pH [-]

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- 25 -

0

1

2

3

4

5

6

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.6 Dissolved TiO2 vs. pH in C4H9OPO(OH)2 aq. solution

1hour

1week

Dis

solv

ed T

iO2

[ppm

]

pH [-]

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- 26 -

2

4

6

8

10

12

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

Fig. 2.7 Titration curves by KOH on inorganic powder suspended in HNO 3 aq. solution. DC1 : The difference between the

amounts of KOH necessary to produce the same pH value in the reference solution and the suspension.

blankAl2O3

TiO2

SiO2

pH

[-]

KOH [mmol eq]

C1

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- 27 -

2

4

6

8

10

12

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

Fig. 2.8 Titration curves by KOH on inorganic powder suspended in C4H9OPO(OH)2 aq. solution

blankAl2O3

TiO2

SiO2

pH

[-]

KOH [mmol eq]

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- 28 -

-3

-2

-1

0

1

2

3

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.9 Relationship between DC and pH for Al2O3

HNO3

C4H9OPO(OH)2

C

10-

6 mol

・m-2 ]

pH [-]

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- 29 -

-3

-2

-1

0

1

2

3

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.10 Relationship between DC and pH for TiO2

HNO3

C4H9OPO(OH)2

C

10-

6 mol

・m-2 ]

pH [-]

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-3

-2

-1

0

1

2

3

2 4 6 8 10 12

Fig. 2.11 Relationship between DC and pH for SiO2

HNO3

C4H9OPO(OH)2

C

10-

6 mol

・m-2 ]

pH [-]

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第3章 炭酸カルシウム充填ポリプロピレンの熱酸化劣化

に及ぼす表面処理状態の影響

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3.1 緒言

ポリプロピレン(PP)系複合材料においては,タルク,炭酸カルシウム,ガラス繊維,ガラ

スフレークなどが剛性,耐衝撃性,耐熱性,価格の観点から充填剤として使用されてきた1),

2)。しかし,無機粉体を配合した複合材料では,微量の金属酸化物の存在に基づく熱酸化劣

化が進展するとの指摘がある3)。これには,PP と無機粉体相互間における熱膨張率や成形

収縮時の熱応力や両層界面での空隙が要因と予測される。さらに,天然の鉱物を粉砕分級

した無機粉体においては,粉体表面に存在する微量の Fe2O3,MnO2,CuO,Al2O3などの金属

酸化物の影響により PP 材料の熱酸化劣化が推進される場合があり,結果として無機粉体充

填材料の機械的性質の大幅な物性低下や素材の変色(ここでは,黄変)をもたらすことがあ

る4)。

著者らは,以前から様々なカップリング剤(チタネート系,リン酸エステル系)や脂肪酸

系などで表面改質した炭酸カルシウム(以下,炭カル)を充填した PP 材料の熱酸化劣化に

ついて検討してきた5),6)。その結果,表面改質を施した無機粉体を使用することにより,PP

材料の熱酸化劣化の大幅な改善が可能となった。

一般的な熱酸化劣化抑制の対策には,ラジカル連鎖禁止剤や過酸化物分解剤が安定剤と

して使用される。前者はヒンダードフェノール系,アリルアミン系,後者はホスファイト系,

チオエステル系などが主な主成分である。そのため,本実験で使用した様々なリン酸エス

テル系においても,熱酸化劣化防止の機能が期待されるため耐熱酸化劣化に対する効能の

評価を試みた。安田らは,プレンライザーMK(味の素ファインテクノ㈱製の樹脂用安定剤で

あり,カルボン酸と多価アルコールのエステルのタイプで金属キレート効果がある)がポ

リオレフィン用の熱酸化劣化防止剤として効能を指摘して,PP/タルク系に関する実施事

例を報告している7)。この薬剤は,酸化防止助剤としてフェノール系酸化防止剤との併用に

より,劣化防止をより高めると共にフェノール系酸化防止剤の添加量を低減する役割があ

ると推測できる。

一方,自動車部品や家電製品の量産化と高性能化に伴い,ポリオレフィン樹脂に対して

低弾性,高衝撃性から高弾性,高強度と広範囲な樹脂特性が市場からの要望がある。前者

ではブロック PP の応用,後者では補強用フィラー添加や高結晶性樹脂の実施例がある。補

強用充填剤に関しては,炭カルに替わりタルク,ガラス繊維が一般的であり,各種グレー

ドの充填剤が PP 用の添加剤として設定される。このような状況の中で,PP 系複合材料の

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熱酸化劣化対策は,高分子材料の耐久性向上の観点から重要な課題であり,従来から酸化

防止剤の添加により耐久性を保持してきた。

ここでは,炭カルに含まれる微量の金属酸化物が PP 系複合材料の熱酸化劣化に及ぼす

影響を調べると共に,炭カルへの表面改質と炭カル充填 PP 材料の熱酸化劣化との関連性

について検討することを目的とする。

3.2 実験方法

3.2.1 材料

高分子材料には,2 種類の PP(エースポリマー㈱,ホモポリマー系,ショーアロマ SA710,

MFR=2.0g/10min,以下 HPP,ブロック共重合体系,ショーアロマ SK711,MFR=4.0g/10min,

以下 BPP)を用いた。無機粉体には,工業用炭カル(A社製,重質炭カル,平均粒子径 0.6μ

m),試薬用炭カル(和光純薬工業㈱製,沈降性炭カル,平均粒子径 3.0μm)を用いた。な

お Fig.3.8,3.12,3.13,Table 3.2 以外は工業用炭カルのみを用いたため,記載は炭カル

とした。

Table 3.1 には,本実験で用いた様々なリン酸エステル系の表面改質剤を記載した。処

理剤は,アルキル鎖長の異なるモノアルキルリン酸エステル8)(MP),アクリル酸系リン酸

エステル(AE),オレイン酸系リン酸エステル(OE),フェニルホスホン酸(PHP)およびス

テアリン酸(ST)である。

3.2.2 炭カルの表面改質

表面改質は,炭カル(100g),表面改質剤(1g)及びエタノール(300ml)をナス型フラスコに

入れ懸濁させた後,ロータリー型エバポレーターを用いて,減圧下において 50±5℃でエタ

ノールを除去することにより実施した。次に表面改質した炭カルを 105℃で 2Hr 熱風乾燥

の後,乳鉢で粉砕して PP 混練用配合剤とした。

3.2.3 試験片の作製

PP と炭カルの混練は,電熱ロール機(関西ロール㈱,ロール表面温度 180±5℃,ロール回

転数,前ロール 20rpm,後ロール 24rpm)を使用した。混練は,PP(100g)をロールに巻き付け

た後,炭カル(50g)を添加して 10min 間混練して混練物を調製した。混練物は,圧縮プレス

成形機(㈱神藤プレス工業所)を用いて,加熱温度 230±2℃で 3min 予熱の後,同温度で圧

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力 14.7MPa の条件下で 1min 間加圧して溶融物を得た。溶融物は,水冷プレス機(25±5℃)

で 2min 間冷却して,物性測定用の板状試料(たて 150mm×よこ 150mm×厚さ 1.0mm)を作製

した。

3.2.4 MP の酸価測定

本実験で用いた MP の酸価は,電位差滴定法を用いて,KOH による中和滴定を行ない,MP1

g 当たりの KOH 量を測定した。

3.2.5 熱酸化劣化試験

熱酸化劣化試験は,JIS K 7212 に準拠した空気循環電気恒温槽を用いて行った。120℃の

恒温槽に試験片を静置し,暴露時間 100,200,300Hr で耐熱試験を実施した。

3.2.6 物性測定

熱酸化劣化試験の各種物性として,PP 系複合材料の引張試験,衝撃試験,色変化の測定を

実施した。引張試験は,ダンベル1号試験片を用いて,引張速度 50mm/min で行い,引張降

伏応力(σy),引張破断強さ(TB)及び伸び率(TE)を求めた。衝撃特性は,引張衝撃

試験機(東洋精機㈱,テンサイルインパクトテスター)を用いて短冊状試験片に対して高速

引張を行い,単位断面積当たりの衝撃強度に換算した。色差は,デジタル測色色差計(東京

電色㈱,TC-1500MC)を用いて CIE 色度図上で,標準白板からの色差を求めた。

3.3.結果および考察

3.3.1 PP 系複合材料の物性に及ぼす炭カル表面改質

Fig.3.1~3.3 には,未処理炭カル充填 PP 及びアルキル鎖長の異なる MP を用いて処理し

た MP 処理炭カル充填 PP のσy,TB,TEを示す。なお未処理炭カル充填 HPP のσy

(22.5MPa),TB(24.5MPa),TE(300%),未処理炭カル充填 BPP のσy(18.6MPa),TB

(22.5MPa),TE(350%)である。表面改質により, σyの向上は認められないものの,TB

及びTEに物性向上が見られた。しかし MP のアルキル鎖長の影響では,明確な差異は認め

られなかった。なお Fig.3.2 のn=1,4 においては,HPP 系と BPP 系のTB値が同じであり

プロット点が重なっている。以下特に記載がない場合,MP はアルキル鎖長の炭素数 4 を用

いた。

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- 35 -

Fig.3.4 には,PP 単独,未処理炭カル充填 PP 及び MP 処理炭カル充填 PP の衝撃強度を示

す。表面改質の影響では,BPP 系が HPP 系に比べて衝撃強度の大幅な増加が認められた。

これは,耐衝撃性向上に対してブロック共重合体 PP が無機粉体による応力集中を分散緩

和させ,樹脂の延性的破壊を促したものと推察される。これらの結果は,従来から指摘され

ている粒子分散系複合材料の耐衝撃性強化メカニズムの概念と内容的に概ね一致する1),

9)。

3.3.2 熱酸化劣化前後における PP 系複合材料の衝撃強度

3.3.2.1 炭カルにおける表面改質剤の影響

Fig.3.5 には,熱酸化劣化試験前後における PP 系複合材料の衝撃強度と表面改質剤の有

無,PP の種類,加熱時間との関係を示す。BPP(PP 単独)では,加熱時間と共に衝撃強度は

増加する傾向にあり,300Hr で衝撃強度は 0Hr の約 1.7 倍まで上昇した。BPP はホモポリマ

ー系 PP をベースとして,PP 内部にエチレンプロピレン共重合体が結合したブロック共重

合体を含む構造を成す。このため加熱処理に対する HPP と BPP を比較すると,BPP 中のブ

ロック共重合体が 120℃近傍ではゲル化,結晶化もしくは架橋構造を形成することが特徴

的である。それ故,熱酸化劣化試験前後で耐衝撃性に大幅な差異が現われた。HPP でも圧

縮成型時のひずみの緩和などが発生するが,衝撃性に対する著しい変化は 120℃では認め

られなかった。この現象は,本実験での加熱条件による結果である。

一般的に HPP は側鎖にメチル基を配置しているため,熱に対して酸素の攻撃を受け易い

構造である。BPP ではエチレンプロピレンブロック共重合体の存在により,酸素吸収性が

低下し熱酸化劣化は HPP と異なる挙動をもたらす。一方 PP は熱酸化劣化に対して弱点が

あるため,樹脂自体に酸化防止剤が配合される。配合濃度は不明な場合が多く,樹脂に含

有する微量の酸化防止剤の種類や量を同定することも極めて難しい。さらに HPP や BPP に

対する酸化防止剤の種類や量はメーカーにより独自に設定され,これらの要因や PP 構造

が熱酸化劣化に影響したものと推察される。

BPP 系では,未処理炭カル及び MP 処理炭カルのいずれにおいても,加熱時間の増加に伴

い衝撃強度の保持もしくは増加の様相を呈していた。

一方 HPP 系では,PP 単独の強度変化は明確に見られないものの,未処理炭カル及び MP 処

理炭カルでは両者に大きな差異が確認できた。未処理炭カルでは,加熱時間 0Hr において

30kN・m/m2であるにも拘らず,100Hr では試験片は脆化した。MP 処理炭カルでは,100Hr にお

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- 36 -

いて 150kN・m/m2となり PP 単独(150kN・m/m2)の衝撃強度に匹敵するなど表面改質による

効果が発現した。しかし,加熱時間が 100Hr から 300Hr になるにつれ衝撃強度は減少傾向

となった。この現象は,PP 中に存在する微量の金属酸化物が熱酸化劣化を引き起こす要因

との報告がある3)。なお熱酸化劣化の原因では様々な議論があるが,なかでも金属酸化物に

基づく触媒効果が特に主要な要因と考えられる。

前述したように「プレンライザーMK400」は,タルク充填 PP 材料の耐熱劣化改善を目的と

した研究報告であるが,その原因については金属酸化物との間のキレート構造の可能性を

フーリエ変換赤外分光分析測定(FT-IR)から相互作用を指摘している7)。幾田は,無機粉体

中に存在する Al3+が PP の劣化に関与していることを FT-IR から同定して,劣化機構を考察

している。そのため,Al3+とキレート化することにより,劣化防止が期待できる10)。

3.3.2.2 表面改質剤のアルキル鎖長の影響

Fig.3.6 及び 3.7 に,加熱時間の異なる BPP 系及び HPP 系における MP の炭素数と衝撃強

度との関連性を示す。未処理炭カル充填 BPP では,加熱試験前の衝撃強度は 105kN・m/m2で

あるが, 100Hr で 120kN・m/m2,200Hr で 155kN・m/m2,300Hr で 120kN・m/m2程度であった。

しかし,MP 処理炭カル充填 PP の衝撃強度は,未処理と比較して 2~4 倍程度と大幅に増加

している。しかし,何れの加熱時間においてもアルキル鎖長依存性は明確に認められず,本

実験では,100Hr 加熱時が も高い値を示した。これは BPP 系では,耐衝撃性が HPP 系と比

較して極めて高く,アルキル鎖長が衝撃強度の改善に明確に反映していないと推察される。

一方 HPP 系では,BPP 系と比較してアルキル鎖長の依存性が確認され,MP の炭素数の多

いもの程高い衝撃値を示した。加熱試験前では,炭カルの MP 処理により炭カル表面に疎水

性のアルキル鎖が固着し,PP 系複合材料中の PP と炭カルとの親和性を改善させ,結果と

して衝撃強度の向上に寄与している。加熱試験後では,HPP 自体の衝撃強度が変化しない

ため,PP と炭カル界面のひずみの緩和や熱による MP の変化(詳細は現時点で不明のため,

検討中である)が総合的に関与したものと考えられる。

3.3.2.3 炭カル(工業用,試薬用)の違いによる影響

本実験における炭カルに含まれている金属酸化物の原子吸光分析の測定例を Table 3.2

に示す。工業用は天然の鉱石を粉砕分級した無機粉体を用いているため,Fe2O3,MnO2などの

金属酸化物を含んでいるが,試薬用では 1/10~1/100 以下の含有量である。金属酸化物の

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- 37 -

PP に対する触媒効果では,多数の研究事例があり11),なかでもポリオレフィンに対するス

テアリン酸塩の接触作用では,Co>Mn>Cu>Fe の順序となっている。

Fig.3.8 には炭カル(工業用,試薬用)充填 HPP の熱酸化劣化試験の衝撃強度の結果を

示す。試薬用では,未処理においても工業用ほどの大幅な強度低下は見られず,加熱温度

依存性は明確ではなかった。さらに MP 処理を施すと 300Hr 加熱時においても 240 N・m/m2

と高い衝撃値を示した。

ポリオレフィンへの熱酸化劣化に対する金属酸化物の影響は複雑であるため,その影響

を一義的に評価することは困難な面が多い。ここでは金属酸化物の存在により,高分子材

料の熱酸化劣化を促進させることが確認できた。

3.3.3 色差変化

3.3.3.1 炭カル充填 PP の色差変化

炭カルは,古くから樹脂や紙などに対する増量剤として位置付けられてきた。現在にお

いて,樹脂のカラー化が進展する中で光沢や色彩的な視覚的イメージが消費動向に多大な

影響を与える。顔料としての炭カルは,酸化チタンや酸化亜鉛と比較して隠蔽力が小さい

ため,白色度の改善は極めて困難である。また,天然品を粉砕分級すると Fe2O3や Al2O3など

の金属酸化物の存在により樹脂配合の際に変色(黄変)するという欠点を発現する。その

ため,炭カルを PP へ配合した時の配合物の色変化について検討した。

Fig.3.9 には,炭カル充填 PP の色差と加熱時間との関係を示す。ここでは,炭カルは未処

理のものを用いた。HPP 系では,加熱時間の増加に伴い色差は増加し黄変が進行した。加熱

試験前において HPP 系と BPP 系に差異が見られるが,これはロール混練,二軸混練や熱プ

レスなどの工程で熱履歴を受けたためと解釈できる。BPP 系では,未処理炭カルを配合して

も加熱時間に伴う変色は極めて少なかった。

次にMP処理炭カル充填HPPの色差変化に及ぼすMPの炭素数の影響をFig.3.10に示す。

加熱試験前では,未処理炭カル充填 HPP の色差は 12.5,MP 処理炭カル充填 HPP の色差は,

n=1 で 10,n=4 で 8.5,n=8 で 10,n=10 で 10,n=13 で 10.2 となった。ここで加熱試験前

の色差に及ぼすアルキル鎖長の影響では,MP の炭素数が 4 の時が も小さい値を示した。

またアルキル鎖長が 10 以上となると 200Hr 以上の加熱で,未処理より黄変が進んでいる結

果が得られた。

しかしアルキル鎖長の違いにより,加熱試験前の色差が異なるため,各々の加熱試験前

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- 38 -

の値を基準として加熱試験後の色差変化(ΔEb-ΔEa,ΔEa:加熱試験前の色差,ΔEb:加熱

試験後の色差)を Fig.3.11 に示す。未処理炭カル充填 HPP のΔEb-ΔEaは,加熱時間 100Hr

で 1.0,200Hr で 3.0,300Hr で 3.5 となった。なお加熱時間 100Hr では,n≧8 においてΔ

Eb-ΔEaは約1程度となり,300Hr では n=4 が 小値となった。さらにアルキル鎖長の増加

に伴いΔEb-ΔEaは 6 以上となり,未処理炭カル充填 PP の 3.5 を大幅に上まわった。これ

は MP が加熱試験により黄変することを意味する。

3.3.3.2 MP の耐熱性評価

MP 処理炭カル充填 PP の黄変に関して,ここでは MP 自体の耐熱性(色相変化)の検討が

必要である。MP 自体の耐熱性試験は,乾燥機中で加熱試験を実施すれば黄変の程度は把握

できる。

以下の手法で加熱試験を実施した。スライドガラス上に MP を塗布し,乾燥機中で暴露試

験を行なった。加熱時間 100Hr で褐変(ΔE>40)し,熱酸化劣化の概略を把握できた。し

かし,炭カル充填 PP の黄変と MP 自体の劣化挙動を直接関連づけることには解決すべき問

題がある。これは MP 濃度,分子量,MP と空気の接触状態などの系統的な検討が今後必要

となる。

そこで炭カルに含有する金属酸化物の影響を極力抑えて,MP の耐熱性を評価することを

試みた。ここでは,金属酸化物の影響が小さい試薬用炭カル充填 HPP の加熱試験を行い,

間接的ではあるが MP の耐熱性の指標とした。Fig.3.12 には, 未処理試薬用炭カル充填 PP

の色差と加熱時間との関係を示す。加熱時間の増加に拘らず色差は,ほぼ一定であった。

この結果は,炭カルの存在が本実験範囲において HPP の熱酸化劣化を促進しない点を示し

た。そのため,MP 処理試薬用炭カル充填 PP の色差に及ぼす MP の炭素数及び加熱時間の影

響について検討を加えた結果を,Fig.3.13 に示す。アルキル鎖長が増加する程ΔEb-ΔEaは

増加する傾向となり,MP の黄変が立証できた。

3.3.3.3 PP 系複合材料の色差に及ぼす MP の酸価と耐熱性

炭カルと MP との相互作用を考察するため MP の酸価を測定し,その結果を Fig.3.14 に

示す。アルキル鎖長の炭素数が増すにつれ,MP の酸価は急激に低下した。酸価が低下する

と炭カルとの相互作用(酸塩基反応)が低下すると共に,キレート剤としての効力が低下し,

黄変が進展すると推察できる。一般的には,①酸塩基反応から考慮すると炭カルと MP との

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- 39 -

親和性は,アルキル鎖長が小さくなる程向上する。②MP 処理炭カル充填 HPP の引張強さや

衝撃強度から判断すると,n=1を除いて炭カルのHPP中での分散性は良好である(n≧4)。

③Fig.3.13 からアルキル鎖長が長くなる程,MP の黄変が進行する。これらの点を総合的に

解釈すると,n=4 が も色差が小さいものと推測できる。

一方,Fig.3.7 と Fig.3.10 から n=10 は,n=4 と比較して黄変は進行するが高い衝撃値

を保持している。これは MP の酸価で黄変と衝撃強度を同時に説明することは困難であり,

両者を分離して解釈することが必要である。

3.3.3.4 表面改質剤の種類の影響

Fig.3.15 には,炭カル充填 HPP における各種表面改質剤の色差に与える影響を示す。表

面改質剤による違いは明確には認められなかったが,加熱時間の増加が劣化を促進させて

おり,今後樹脂劣化の経時変化の詳細なメカニズムの検討が必要である。これは,リン酸エ

ステル系およびステアリン酸などによる無機粉体表面に存在している Fe2O3 や MnO2 などの

金属酸化物によるキレート効果と変色との関連性の論議が必要不可欠であることを意味し

ている。

3.4 結言

ポリプロピレン(ホモポリマー系,ブロック共重合体系)に表面改質を施した炭酸カル

シウムを配合して,複合材料を作製した。複合材料に対して,熱酸化劣化試験(温度 120℃,

大加熱時間 300Hr)を実施した。表面改質剤としては,アルキル鎖長の異なるモノアルキ

ルリン酸エステル,アクリル酸系リン酸エステル,オレイン酸系リン酸エステル,フェニル

ホスホン酸,ステアリン酸を用いた。機械的性質では,引張衝撃強度と加熱時間について評

価を加えた。また,色差測定では,加熱時間依存性に及ぼすアルキル鎖長の影響について検

討した。

(1) ブロック共重合体系では,引張衝撃強度は表面改質により未処理と比較して 2~4 倍の

向上が認められた。しかし加熱時間(100,200,300Hr)における特性に及ぼすアルキル鎖長

の依存性は明確に認識できなかった。

(2) ホモポリマー系では,未処理炭酸カルシウム充填ポリプロピレンは加熱時間 100Hr で

脆化した。しかし炭酸カルシウムの表面改質により,加熱時間 100Hr においても PP 単独程

度の衝撃強度を有していた。

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- 40 -

(3) ホモポリマー系では,アルキル鎖長の炭素数 4 の場合の色差が 小値を示した。さら

に加熱時間を増加させるとアルキル鎖長の炭素数が大きいもの程,ポリプロピレン系複合

材料の色差は増加し黄変が進行した。

3.5 参考文献

1) 光石一太:ポリファイル,47,No.561,25(2010).

2) 技術情報協会編,“シリカ微粒子の特性と表面改質および分散、凝集の制御”,技術情

報協会,東京,193(2009).

3) 高木謙行,佐々木平三,プラスチック材料講座〔7〕,“ポリプロピレン樹脂”,日刊工

業新聞社,東京,95(1979).

4)小林亜男,浅野秀樹,石川鉄雄:高分子論文集,41(5),337(1984).

5) 光石一太,児玉総治,川崎仁士:高分子論文集,42(5),351(1985).

6) 光石一太, 第 13 回フィラーシンポジウム講演予稿集,44(2004).

7) 安田直樹,田中祐之,第 9 回フィラーシンポジウム講演予稿集,44(2004).

8 ) K.Mitsuishi,K.Nishi,S.Kodama, and H.Kawasaki, Die Angewandte Makromolekulare

Chemie,189,13(1991).

9) 光石一太:成形加工,9(9),434(1997).

10) 幾田信生,第 12 回フィラーシンポジウム講演予稿集,23(2004).

11) 高木謙行,佐々木平三,プラスチック材料講座〔7〕,“ポリプロピレン樹脂”,日刊

工業新聞社,東京,113(1979).

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- 41 -

Table 3.1 Surface modifiers for calcium carbonate

CnH2n+1OPO(OH)2

n=1, 4, 8, 10, 13 (MP)CH2=CHCOO(CH2CH2O)5PO(OH)2 (AE)C18H35OPO(OH)2 (OE) C6H4OPO(OH)2 (PHP) C17H35COOH (ST)

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- 42 -

Fig.3.1 Relationship between yielding stress of filled polymer and carbon number of

mono alkyl phosphoric ester (MP). ○,HPP; ●,BPP. (Industrial use)

0

5

10

15

20

25

0 5 10 15

Yie

ldin

g s

tress

[MP

a]

Carbon number of MP

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- 43 -

Fig.3.2 Relationship between tensile strength of filled polymer and

carbon numberof mono alkyl phosphoric ester ( MP).

○,HPP; ●,BPP. (Industrial use)

0

5

10

15

20

25

30

35

0 5 10 15

Tensi

le s

trengt

h [

MP

a]

Carbon number of MP

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- 44 -

Fig.3.3 Relationship between tensile elongation of filled polymer and

carbon number of mono alkyl phosphoric ester (MP).

○, HPP;●,BPP. (Industrial use)

0

100

200

300

400

500

600

0 5 10 15

Tensi

le e

longa

tion [

%]

Carbon number of MP

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- 45 -

Fig.3.4 Impact strength of PP/CaCO3 composites (Industrial use)

0 50 100 150 200 250 300

MP treated

Untreated

BPP

MP treated

Untreated

HPP

Impact strength [kN・m/m2]

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- 46 -

Fig.3.5 Impact strength of PP/CaCO3 composites for various aging time.

Aging time 0Hr, ; 100Hr, ; 300Hr, . (Industrial use)

0 100 200 300 400

MP treated

Untreated

BPP

MP treated

Untreated

HPP

Impact strength [kN・m/m2]

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- 47 -

Fig.3.6 Relationship between impact strength of PP / CaCO3 composites and

carbon number of mono alkyl phosphoric ester ( MP) for BPP.

Aging time 0Hr,○; 100Hr,●; 200Hr,▲; 300Hr,■. (Industrial use)

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0 5 10 15

Impa

ct s

tren

gth

[kN

・m/

m2 ]

Carbon number of MP

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- 48 -

Fig.3.7 Relationship between impact strength of PP / CaCO3 composites and

carbon number of mono alkyl phosphoric ester ( MP) for HPP.

Aging time 0Hr,○; 100Hr,●; 200Hr,▲; 300Hr,■. (Industrial use)

0

50

100

150

200

250

300

350

0 5 10 15

Impact

stre

ngt

h [kN

・m/m

2]

Carbon number of MP

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- 49 -

Table 3.2 Metallic impurity in calcium carbonate (ppm)

Fe Mn Cr Cd Pb Cu

Industrial CaCO3 180 30 1.0 0.6 0.8 0.6

Reagent CaCO3 10 0.3 0.6 < 0.1 < 0.1 < 0.1

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- 50 -

Fig.3.8 Impact strength of PP / CaCO3 composites for various aging time.

Aging time 0Hr, ; 100Hr, ; 300Hr, . (Industrial use or Reagent)

0 50 100 150 200 250 300

Untreated

(Industrial)

MP treated

(Industrial)

Untreated

(Reagent)

MP treated

(Reagent)

HPP

Impact strength [kN・m/m2]

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- 51 -

Fig.3.9 ΔE of PP / CaCO3 composites for various aging time.

○,HPP; ●,BPP. (Industrial use)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

0 100 200 300 400

ΔE

Aging time [Hr]

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- 52 -

Fig.3.10 Relationship between ΔE of PP / CaCO3 composites and carbon number of

mono alkyl phosphoric ester (MP) for HPP.

Aging time, 0Hr,○; 100Hr,●; 200Hr,▲; 300Hr,■. (Industrial use)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 5 10 15

Carbon number of MP

ΔE

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- 53 -

Fig.3.11 Relationship between ΔEb-ΔEa of PP / CaCO3 composites and

carbon number of mono alkyl phosphoric ester( MP) for HPP.

Aging time, 100Hr,●; 200Hr,▲; 300Hr,■. (Industrial use)

0

2

4

6

8

10

12

0 5 10 15

Carbon number of MP

ΔE

bーΔ

Ea

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- 54 -

Fig.3.12 ΔE of PP / CaCO3 composites for various aging time.

○,HPP; ●,BPP. (Reagent)

0

2

4

6

8

10

12

14

0 100 200 300 400

ΔE

Aging time [Hr]

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- 55 -

Fig.3.13 Relationship between ΔEb-ΔEa of PP / CaCO3 composites and

carbon number of mono alkyl phosphoric ester (MP) for HPP.

Aging time, 100Hr,●; 200Hr,▲; 300Hr,■. (Reagent)

0

1

2

3

4

5

0 5 10 15

Carbon number of MP

ΔE

b-Δ

Ea

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- 56 -

Fig.3.14 Relationship between acid value and carbon number of mono alkyl phosphoric ester (MP)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

0 5 10 15

Carbon number of MP

Acid

valu

e (

KO

Hm

g/g)

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- 57 -

Fig.3.15 Relationship between ΔE of PP / CaCO3 composites for various type modifier.

Aging time, 0Hr, ; 300Hr, .

(Industrial use) ,acryloyl oxyethyl phosphoric ester(AE),

mono alkyl phosphoric ester (MP), oleyl acid phosphate(OE),

phenyl phosphoric acid(PHP), stearic acid(ST).

0 5 10 15 20

ST

PHP

OE

MP

AE

Untreated

ΔE

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第4章 ポリプロピレン/タルク/炭酸カルシウム複合材

料の物性に及ぼすフィラーの混錬順序の影響

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- 60 -

4.1 緒 言

古くからポリ塩化ビニルなどのポリマーの増量剤として使用されてきた炭酸カルシウ

ムやタルクに代表される無機フィラーは,1970 年代以降はポリオレフィン,特にポリプロ

ピレン(以下,PP)の機械的性質,熱的性質の補強剤として多量の需要が見込まれてきた。

補強用のフィラーとしては,タルクは剛性,耐熱性の向上に著効があり,炭酸カルシウム,

特に超微粒炭酸カルシウムは耐衝撃性の向上に有効である。補強性フィラーを複合化した

PP は,コストと性能(剛性,耐衝撃性,耐熱性など)のバランスが良好であるために自動

車部品,家電部品,食品容器,工業部品などの分野の主力材料として使用されている。

補強用フィラーを複合化した PP などの性能をさらに向上することを目的として,針状

(ガラス繊維など),板状(タルクなど),粒状(炭酸カルシウムなど)のように形状の異

なるフィラーを併用することも通常なされている。しかしながら,針状,板状,粒状フィ

ラーの混練順序が複合材料に及ぼす影響についての検討例は極めて少ないのが現状である

1-5)。これは,フィラーの混練順序により,二軸押出機やニーダー内での粒子の流動状態,

配置及び分散状態が異なるため,機械的性質への反映が極めて複雑になるためである。さ

らに複数のフィラーを併用使用すると,同一フィラーの凝集により材料中での偏在が発現

すると共に,混合フィラーのマスターバッチ作製時にペレットの色合いやフィラーの配合

割合に差異が生ずるなど解決すべき問題が山積している。

本章では,PP/タルク/炭酸カルシウム複合材料において,タルクと炭酸カルシウムの

混練順序を変えた材料を作製し,混練順序が複合材料の機械的性質,熱的性質に及ぼす影

響を超音波探査法によるフィラーの分散状態計測及び,走査型電子顕微鏡(SEM)によるフ

ィラーの配向状態観察などによって解析することを目的とした。本章ではさらに,フィラ

ーの表面改質の有無が PP 複合材料の物性に及ぼす影響についても検討を行った。

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- 61 -

4.2 実験方法

4.2.1 材料

高分子材料は PP(エースポリマー㈱,ブロック系,SK711,MFR=4.0g/10min)を用い,無機

フィラーはタルク(日本タルク工業㈱,平均粒径 0.8μm)及び炭酸カルシウム(備北粉化

工業㈱,平均粒径 0.6μm)を用いた。

4.2.2 炭酸カルシウムの表面改質

表面改質は,炭酸カルシウム(100g),ステアリン酸(1g)及びエタノール(300ml)をナス

型フラスコに入れ懸濁させた後,ロータリー型エバポレーターを用いて減圧下で,50±5℃

でエタノールを除去することにより実施した。次に表面改質した炭酸カルシウムを 105℃

で 2Hr 熱風乾燥の後,乳鉢で粉砕して PP 混練用配合剤とした。以下,未処理及び表面改質

の表記は,本節で実施した炭酸カルシウムの場合に限定する。タルクは,105℃,2Hr 熱風

乾燥の後,PP 混練用配合剤とした。

4.2.3 試験片の作製

PP とフィラーの混練には,電熱ロール機(関西ロール㈱,ロール径 152.4mm,ロール表

面温度180±5℃,ロール回転数,前ロール20rpm,後ロール24rpm)を使用した。混練順序は,

以下に示す3種類の手順により試料を作製した。混練はPP(100g)をロールに巻き付けた後,

タルク及び炭酸カルシウムを以下の条件の基に添加して混練物を調整した。

①PP にタルク及び炭酸カルシウムを同時に混合して 5min 及び 10min 混練(以下,「同時

混練」)。

②PP にタルクを混合して 5min 混練,その後炭酸カルシウムを添加して 5min 混練(以下,

「タルク先混練」)。

・ タルク混練時間(10min),炭酸カルシウム混練時間(5min)

③PP に炭酸カルシウムを混合して 5min 混練,その後タルクを添加して 5min 混練(以下,

「炭酸カルシウム先混練」)。

・ タルク混練時間(5min),炭酸カルシウム混練時間(10min)

ここで,PP/タルク/炭酸カルシウム系の配合比は,100/25/25 である。混練物は,圧

縮プレス成形機(㈱神藤プレス工業所)を用いて加熱温度 230±2℃で 3min 予熱の後,同温

度で圧力 14.7MPa の条件下で 1min 間加圧して溶融物を得た。溶融物は,水冷プレス機(25

±5℃)で 2min 間冷却して,物性測定用の板状試料(厚さ:1mm)とした。電熱ロール機によ

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る混練試験では,混練方向に対して平行又は垂直により機械的性質が異なることが予測さ

れるため,本実験では混練方向における試験片を採取し測定に供した。

なお PP/タルク/炭酸カルシウム系との比較の上で,PP に炭酸カルシウムを充填した試

料の検討も実施した。PP/炭酸カルシウム=100/50 であり,炭酸カルシウムの粒径は 0.6,

1.0,4.5μm を用いた。なお炭酸カルシウムの表面改質は,4.2.2 の手法と同様である。

4.2.4 物性測定

引張試験は,ダンベル1号試験片を用いて引張速度 50mm/min で行い,引張降伏強さ,引

張破断強さ及び伸び率を求めた。引張弾性率は,チャック間距離 100mm,試料幅 10mm,試験

速度 2mm/min で試験を実施した。衝撃特性は,引張衝撃試験機(東洋精機㈱,テンサイルイ

ンパクトテスター)を用いて短冊状試験片に対して高速引張を行い,単位断面積当たりの衝

撃強度に換算した。

4.2.5 超音波探査法による反射強度の測定

超音波探査影像装置(日立建機㈱,AT-7500)を用いて,試料内部の超音波反射強度を測

定した。超音波反射強度の強弱により試料内部に存在する凝集粒子の形状や量を定量化す

ることができれば,フィラー分散状態の把握が可能となる。

超音波探査法の測定原理を,Fig.4.1 に示す。試料を水槽内に置き 3 軸スキャナーに取り

付けられた超音波センサーの自動走査により対象が測定できる。超音波センサーから発信

したパルス電圧が音響レンズを備えた接触子に印加され超音波に変換される。そして音響

レンズで集束された超音波は,試料上に入射される。材料中で反射した超音波は再び探触

子で受信される。一方,受信された超音波は極めて微弱なため電気信号に変換されたあとで

増幅され,反射強度として抽出される8)。超音波探触子には,周波数 25MHz,焦点距離 9mm,

口径 8mm を用いた。

ここでは,超音波反射強度から得られる複合材料の不均一構造に由来する有効凝集塊率

(φa)を算出した6-8)。なおφaの算出方法は,以下の通りである。

① 超音波探査法による PP 複合材料中の凝集塊の検出限界は

10μm 程度である。そのため検出限界から考慮して,平均粒径が約 10μm 以上の材料を標

準試料に用いる必要がある。ここでは,10μm 以上で均一な粒径を有するタルクや炭酸カル

シウムを使用するのが最良であるが,これらを満足する粉体の調整は極めて困難である。

そのため,便宜上,音響インピーダンスがタルク(1.3×106N/m/s)や炭酸カルシウム(1.2

×106N/m/s)と同程度で各種粒径のあるガラスビーズ(1.2×106N/m/s)を標準試料とした。

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最初に平均粒径及び添加量が異なるガラスビーズ(GB,平均粒径 40,70,150μm,体積分

率 0.016,0.032,0.064,0.09,0.145)を配合した PP/GB 系の試験片を作製し,試験片の超

音波反射画像を求める。

② 超音波反射画像に対して,“しきい値”により反射強度の

二値化処理を行い,不均一構造の二値化面積率を算出する。

③ PP/GB 系の二値化面積率と GB 添加量が一致する“しきい

値”を求める。

④ 試験対象として,PP/タルク/炭酸カルシウム系の超音波

反射強度を測定する。

⑤③の“しきい値”を用いて求めた④の二値化面積率をφa

とする。この値を有効凝集塊率とする。ここでのφaの検出限

界は 0.01%である。

超音波探査法の分解能は,10μm 程度であるため複合材料内部を詳細に把握する最適な

手法とは言い難いが,凝集塊を概括的に評価できる手法であり,凝集構造の増加に伴う強度

低下などの相対的な意味づけを検証できるデータとして有効である。

4.2.6 熱分析による評価

示差走査熱量計(セイコー電子工業㈱,DSC120/220)を用いて,昇温及び降温過程におけ

る吸熱及び発熱挙動について検討した。Fig.4.2 には,昇温及び降温過程における熱分析

測定条件を示す。昇温過程では,10℃/min,200℃で 3min 保持する。ここでは,融解エンタル

ピー(ΔHm),融点のトップピーク温度(Tm)を測定した。降温過程では,3℃/min で試験を

行い,結晶化エンタルピー(ΔHC),結晶化のトップピーク温度(TC),結晶化の初期温度(Tin),

結晶化の最終温度(Tfi)を求めた。

4.3 結果および考察

4.3.1 PP/タルク/炭酸カルシウム系の機械的性質

タルクや炭酸カルシウムの混練順序を変えて PP 複合材料を作製して,引張特性(降伏強

さ,破断強さ及び伸び率)の評価を実施した。ここでは炭酸カルシウムは,未処理のものを

用いた。電熱ロール機による混練時間の影響を考え,タルクと炭酸カルシウムを同時にロ

ール混練機で混合して,混練時間 5min と 10min で作製した試験片の引張特性を Table 4.1

に示す。両者間において,何れの特性とも明確な混練時間依存性は確認できなかった。そ

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こで本実験の混練時間 5~10min 程度では,評価対象の物性に大差がないと判断し,以降混

練時間は 5min とした。

Table 4.2 は,各種混練順序による PP 複合材料の引張特性を示す。炭酸カルシウムは,

未処理系と表面改質系の両方を用いた。降伏応力では,混練順序や表面改質の有無は,明

確に見られず 22~23MPa 程度であった。未処理系の引張強さや伸び率は,「同時混練」,「タ

ルク先混練」が「炭酸カルシウム先混練」と比較して増加する傾向が認められた。「炭酸カ

ルシウム先混練」の場合では,PP 中でのフィラーの分散性が他の混練法に比べて悪く延性

特性の低下を引起したものと推察される。さらに表面改質系でも引張強さや伸び率は,未

処理系と同様の傾向となり,混練順序の影響が極めて大きい点が窺える。

混練順序により引張特性が異なる点について考察するため,凝集粒子の指標である超音

波探査法による有効凝集塊率の測定結果を以下に示す。本実験における未処理系のφaで

は,「同時混練」は 10%,「タルク先混練」は7%,「炭酸カルシウム先混練」は 15%,表

面改質系のφaでは,「同時混練」は 0.5%,「タルク先混練」は 0.2%,「炭酸カルシウム

先混練」は 5%であり,混練順序や表面改質の有無により差異が見られた。φaが減少する

ほど引張強さや伸び率が増加しており,本実験系でも凝集粒子の減少が引張特性の向上に

寄与している点が示された。なおφa値は,Table 4.3 に示す。

Table 4.3 は,各種混練順序による PP 複合材料の引張弾性率,引張衝撃強度及びφaを示

す。引張弾性率は,混練順序や表面改質の有無の違いは明確に認められず,凝集粒子の大小

は引張弾性率には概ね関与しない旨が示された。引張衝撃強度では,混練順序や表面改質の

有無の違いが顕著に反映し,「タルク先混練」「同時混練」「炭酸カルシウム先混練」の順で

引張衝撃強度は減少し,φa値との相関性が見受けられた。この現象は引張強さ及び伸び

率と同様であり,フィラー分散の評価指標として,φa値の意味付けが得られた。

4.3.2 PP/タルク/炭酸カルシウム系の SEM 観察

Fig.4.3(A),(B)及び(C)は,「同時混練」,「タルク先混練」及び「炭酸カルシウム

先混練」の破断面の SEM による観察結果である。Fig.4.3(A)において,記号 a1は粒状

の炭酸カルシウムを示し,記号 b1,b2は板状のタルクを示す。「同時混練」「タルク先混練」

のタルクは,破断面から垂直方向に配向したフィラー(記号 b1)並びに破断面に沿って存在

するフィラー(記号 b2)などに分類できる。しかし破断面のタルク分散状態では,観察面内

での板状フィラーの方向性はランダムであり規則性はなかった(記号 b3)。なお Fig.4.3

(C)「炭酸カルシウム先混練」では,破断面にタルクが何枚も重なった集合体(記号 b4)

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が観察され,タルク同士が凝集している結果が得られた。さらに何れの場合も,PP 複合材

料内部においてフィラー同士が凝集している箇所には空隙などの欠陥構造が随所に存在し

た。

一方,Fig.4.4(A),(B)及び(C)は,表面改質系における「同時混練」,「タルク先混

練」及び「炭酸カルシウム先混練」の破断面の SEM 写真である。Fig.4.4(A)を参照する

と,タルク(記号 b5)並びに炭酸カルシウム(記号 a2)の分散性も良好であり,タルクと炭

酸カルシウムが識別できる。何れの図でもタルクが破断面に対して垂直に配向した状態で

あると共に,観察面内において各々のタルクが同一方向に配向する規則性(Fig.4.4(B),

記号 b6)を発現した観察結果が得られた。この点が未処理系との明確な相違である。Fig.4

(C)の場合では,タルクが破断面に沿って存在(記号 b7)やタルクの配向方向に若干の乱

れ(記号 b8)が確認できた。

これはフィラー表面が親油性であるタルクを最初に PP に配合すると,タルクと PP の親

和性が向上してフィラーの混練性や分散性が向上する。そのため,次に配合する炭酸カル

シウムはタルクとタルクの間隙に分散混合したものと推測できる。なお炭酸カルシウムを

最初に配合するとタルクが,炭酸カルシウムが存在することによりロール混練方向に対し

て規則的に配列することが困難となり,フィラー配向が乱れ,タルクの凝集体や空隙の増加

を引き起こし機械的性質の低下を引き起すものと予測できる。SEM 観察では,この原因の

明確な観察結果を提示する事はできなかったが,φa値は混合順序の違いを明らかにするこ

とができた。さらに炭酸カルシウムの表面改質はタルクの観察面内の配向をより顕在化さ

せ,タルクと炭酸カルシウムの併用使用が剛性と衝撃性のバランス的向上の推進に寄与し

ている。

この様にタルクの配向状態の定量的評価に関しては,SEM,及び超音波探査映像装置を活

用し,タルクや炭酸カルシウムの配置を明確化し数値データとして整理が可能である。この

解析手法はフィラーの分散状態を把握する手段として価値があり,今後における材料設計

研究の進展に向けたツールとなりうると思われる。

熱可塑性樹脂の衝撃強度を向上させる因子には,①フィラーの分散性向上と凝集防止

②フィラー充填材料の均一変形と応力分散化 ③破壊に際して,フィラー/樹脂界面の剥

離が容易である点などが考慮の対象となる。そのため,フィラーの表面改質,マスターバッ

チ化,フィラーと樹脂の相溶性,フィラーの混練順序,樹脂やフィラーの組合せを工夫する

ことが重要である9)。

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ここでは,衝撃強度の増加理由として,①を中心に補強効果について検討を加える。超

音波探査法によるφa値は,未処理系及び表面改質系の何れも「タルク先混練」→「同時混

練」→「炭酸カルシウム先混練」の順番でφaが増加して,フィラー凝集による分散不良が

推察できる。Fig.4.5 には引張衝撃強度とφaとの関係を記載したが,両者間に相関性が認

められ、混練順序の如何に関わりなく衝撃強度はφaの関数で概ね表記できる点が示され

た。●印は,本実験で作製した PP/タルク/炭酸カルシウム系,○印は PP/炭酸カルシウム

系である。○印のデータは,Table 4.4 に示す。

なおφaが 0.5%以下になると,耐衝撃性の大幅な増加が観察される。数値自体に直接意

味があるわけではないが,凝集塊を概括的に評価できる手法として有効である。

②では,直接的な検討は実施してないが,一般的な概念として表面改質フィラーの存在

によるフィラー近傍の応力の分散化と外的負荷に対する PP 複合材料の均一変形が期待で

きる。さらに③では,フィラー/樹脂界面おけるカップリング剤層の介在により,破壊様式

が延性的挙動を呈し界面剥離が容易となり,Fig.4.5 に示した様に衝撃強度の大幅な増加

に繋がったものと推察できる。

4.3.3 PP/タルク/炭酸カルシウム系の熱的性質

Table 4.5 には,各種混練順序による PP 複合材料の熱分析測定の結果を示す。未処理系

および表面改質系の何れにおいても,昇温過程では Tm 及びΔHm の混練順序による違いは見

られない。しかし,降温過程の熱的特性では,混練順序の影響が認められたため,以下の考

察を行う。未処理系の Tin-Tfiは 21~24℃,ΔHcは 36~37J/g であり,混練順序の違い

は明確化できなかった。一方表面改質系では, Tin-Tfiは 19~21℃,ΔHcは 39~41J/g と

結晶化のピーク幅は狭く且つ結晶化エンタルピーが増加している点が認められ,未処理系

との大きな差異が得られた。これは,フィラーが微分散することで結晶化が迅速に進むと

共に結晶化度が増加することを意味するが,混練順序の影響は表面改質系においても得ら

れなかった。

一般的にフィラーを複合化した PP の熱的特性(融解及び結晶化)は,フィラーの粒径,

種類,添加量,表面改質の有無などに依存することが知られている。なかでも降温過程での

Tc, Tin, Tfi,ΔHc に対して前述した因子が多大な影響を与える旨の事例が随所で報告され

ている10-12)。炭酸カルシウムやタルクを例にあげると,PP 複合材料の Tcは,粒径の小

さい方が,フィラー添加量の多い方が,炭酸カルシウムよりタルクの方が,より高温側にシ

フトする点が周知されている10)。またフィラーの表面改質は, Tcを低温側にシフトさせ

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るとの事例もある11)。しかし本実験では,Tin-Tfi やΔHCにおいては,表面改質の有無の違

いは見られるものの,混練順序の違いは明確に得られていない。これは,フィラーの微分散

以外の要因が,結晶化挙動に反映しているものと推測できる。そこで,要因の解明にあたっ

て,SEM 観察による表面改質系のタルクの配向が良好である点(平行で同一方向に配列)

に,真相究明の糸口があることを見出した。なぜなら光石らは,PP/タルク系及び PP/炭酸

カルシウム系複合材料の延伸試料に対して,PP マトリックスの配向係数を測定しているが,

タルク配合系の配向係数が炭酸カルシウム配合系と比較して約 10%程度の増加を指摘し

ている13)。これは,タルクの配向によりタルクに近接するマトリックス樹脂の配向が増

加し,結果としてΔHCの増加を引き起こしたものと考えられ,タルク配向の重要性を示すデ

ータと思われる。

4.4 結言

PP/タルク/炭酸カルシウム複合材料において,タルクと炭酸カルシウムの混合順序を

変えた材料を作製し,混練順序が複合材料の機械的性質,熱的性質に及ぼす影響を超音波

探査法によるフィラーの分散状態計測結果及び走査型電子顕微鏡によるフィラーの配向状

態観察結果などによって解析した。さらにフィラーの表面改質の有無が PP 複合材料の物性

に及ぼす影響についても検討を行った。その結果,以下の 3 点が明らかとなった。

(1)「同時混練」,「タルク先混練」の方が,「炭酸カルシウム先混練」に比較して,引張破断

強さ,伸び率及び引張衝撃強度は大幅に向上し有効凝集塊率は大きく減少した。また炭酸カ

ルシウムの表面改質は,この傾向をより顕著に発現させた。

(2) 未処理系では,観察面内(引張方向に対して垂直方向)においてタルクの配向はラン

ダムで規則性は確認できなかった。しかし,表面改質系では,観察面内において各々のタ

ルクが平行で同一方向に配向する規則性を有していた。

(3) 熱分析測定では,表面改質系における降温過程の結晶化エンタルピーは未処理系に比

べて3~5J/g増加したが,混練順序による差異は明確に見られなかった。

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4.5 参考文献

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2) 奥村俊彦,濱田泰以,成形加工学会年次大会 2004,365(2004).

3) 奥村俊彦,濱田泰以,永田員也,成形加工シンポジア 2004,267(2004).

4) 永田員也,日笠茂樹,酒木大助,小林淳,三橋いずみ, 第 10 回フィラーシンポジウム

講演予稿集,12(2002).

5) 光石一太,常定健,川野道則,成形加工シンポジア 1999,267(1999).

6) 光石一太,成形加工,9(6),434(1997).

7) 光石一太,川野道則,渋谷惇夫,成形加工,6(12),883 (1994).

8) 光石一太,山中忠衛,藤田浩行,渋谷惇夫,繊維学会誌,50,163(1994).

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10) Joseph.C.Salamone,Polymeric Materials Encyclopedia, Polypropylene

Agents,Vol9(P),p6602-p6609,CRC Press,USA(1996).

11) T.Kowalewski,A.Galeski,J.Appl.Polym.Sci.,32,2919(1986).

12) F.Rybnikar,J.Appl.Polym.Sci.,42,2727(1991).

13) 光石一太,児玉総治,川崎仁士,田中 誠,高分子論文集 44,551(1987).

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- 69 -

Fig.4.1 Profile of scanning acoustic microscopy

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- 70 -

Fig.4.2 Experimental progress of DSC measurement

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- 71 -

Table.4.1 Mechanical properties of PP / Talc / CaCO3 composites

Yielding stress

[MPa]

Tensile strength

[MPa]

Tensile elongation

[%]

Untreated

PP → Talc / CaCO3

5min 10min

22 23

5min 10min

28 27

5min 10min

300 320

Treated

PP → Talc / CaCO3

5min 10min

22 22

5min 10min

32 30

5min 10min

450 470

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- 72 -

Table 4.2 Yielding stress, tensile strength and tensile elongation of

PP / Talc / CaCO3 composites for various mixing method

Yielding stress

[MPa]

Tensile

strength

[MPa]

Tensile

elongation

[%]

Untreated

① PP → Talc / CaCO3

② PP → Talc → CaCO3

③ PP → CaCO3 → Talc

22

23

23

28

27

24

300

320

150

Treated

① PP → Talc / CaCO3

② PP → Talc → CaCO3

③ PP → CaCO3 → Talc

22

23

23

32

31

27

450

470

300

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- 73 -

Table 4.3 Tensile modulus ,impact strength and φa of PP / Talc / CaCO3

composites for various mixing method

Tensile modulus

[GPa]

Impact strength

[kN・m/m2]

φa

[%]

Untreated

① PP → Talc / CaCO3

② PP → Talc → CaCO3

③ PP → CaCO3 → Talc

1.64

1.65

1.58

98

152

49

10.0

7.0

15.0

Treated

① PP → Talc / CaCO3

② PP → Talc → CaCO3

③ PP → CaCO3 → Talc

PP

1.63

1.62

1.60

0.80

343

420

127

176

0.5

0.2

5.0

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- 74 -

Fig.4.3(A) Scanning electron micrograph of PP / Talc / CaCO3 composites

(Untreated system, PP→Talc / CaCO3)

a1

b1

b2

b3

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- 75 -

Fig.4.3(B) Scanning electron micrograph of PP /Talc / CaCO3 composites

(Untreated system, PP→Talc→ CaCO3)

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- 76 -

Fig.4.3(C) Scanning electron micrograph of PP / Talc / CaCO3 composites

(Untreated system, PP→CaCO3→Talc)

b4

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- 77 -

Fig.4.4(A) Scanning electron micrograph of PP / Talc / CaCO3 composites

(Treated system, PP→Talc / CaCO3)

a2

b5

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- 78 -

Fig.4.4(B) Scanning electron micrograph of PP / Talc / CaCO3 composites

(Treated system, PP→Talc→CaCO3)

b6

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- 79 -

Fig.4.4(C) Scanning electron micrograph of PP / Talc / CaCO3 composites

(Treated system, PP→CaCO3→Talc)

b7

b8

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Fig.4.5 Relationship between tensile impact strength and φa

●, PP / Talc / CaCO3 system; ○, PP/CaCO3 system

0

100

200

300

400

500

600

0.01 0.1 1 10 100

Tensi

le im

pact st

rengt

h [kN

・m

/m

2]

φa [%]

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Table 4.4 Impact strength and φa of various size of CaCO3 filled with

polypropylene

Impact strength[kN・m / m2]

Particle size[μm] Untreated Treated

0.6

1.0

4.5

100

130

80

400

460

480

φa

Particle size[μm] Untreated Treated

0.6

1.0

4.5

8

2

5

0.4

0.1

0.08

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Table 4.5 DSC behavior of PP / Talc / CaCO3 composites

Heating Cooling

Tm ΔHm Tc Tin Tfi ΔHc

[℃] [J/g] [℃] [℃] [℃] [J/g]

Untreated

① PP → Talc / CaCO3 162 35 126 135 111 37

② PP → Talc → CaCO3 162 35 126 133 112 36

③ PP → CaCO3 → Talc 162 35 126 135 112 36

Treated

① PP → Talc/CaCO3 163 37 125 133 112 41

② PP → Talc → CaCO3 162 35 125 134 114 39

③ PP → CaCO3 → Talc 162 36 125 133 114 39

PP 161 54

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第5章 シランカップリング処理シリカを配合した高分子

材料の力学特性に及ぼす表面改質状態の影響

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5.1 緒 言

高分子材料に対して,機械的特性(引張強度や曲げ強度)の向上,熱伝導性や電気伝導

性の機能付与などを目的として,粒子を混合・複合化した材料の作製は極めて多い。その

ような複合材料では,材料強度に及ぼす混合粒子の材質や形状,表面特性の影響などが留

意されてきた1-3)。

なかでも,複合材料の機械的特性には粒子の分散状態の関与が極めて大きく,分散性改

善に寄与する改質剤の事例報告が多い4,5)。しかし,粒子の分散状態を定量化し,材料強

度との関連性を明確に評価解析した事例は少ないのが現状である。また,高分子材料と粒

子との親和性を改善するため,粒子表面を化学的に改質する場合があるが,改質の程度と

粒子の分散状態,材料強度への効果についても詳細な検討は不十分である。

そこで本章では,複合材料設計の最適化のための基本的指針を見出すと共に,高分子複

合材料の機械的特性におよぼす表面改質剤の影響について検討を加えた。

5.2 実験方法

5.2.1 シリカ粒子

本実験には,表面改質状態の異なる 2 種の気相合成された球形シリカ粒子(SE-3(以下,

未処理品),SE-3 疎水化処理品(以下,完全疎水化処理品),株式会社トクヤマ)を用いた。

5.2.2 シリカ粒子の親水化処理

シランカップリング処理(以下,シラン処理)を行う前処理段階の方法により試料を調

製した。エタノール,イオン交換水,アセトンで未処理品を洗浄した後,さらに 5wt% H2O2

水溶液,イオン交換水,アセトンの順で粒子表面を洗浄し,120℃で乾燥させた。本試料を

SE-3 親水化処理品(以下,親水化処理品)とする。

5.2.3 シリカ粒子のシラン処理

シラン剤には,Fig.5.1 に示す構造を有するトリメトキシ系を用いた。シラン処理では,

アルキル炭素鎖の数がシリカ粒子表面の性質に多大な影響を与えるため,トリメトキシプ

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ロピルシラン:T1801,東京化成工業株式会社,トリメトキシへキシルシラン:H0879,東

京化成工業株式会社の 2 種類のシラン剤を用いて表面改質を行った。本試料を SE-3 シラン

処理品(以下,シラン処理品)とする。

シラン処理方法は,以下の手法により実施した。100ml テフロンビーカーにシリカ粒子

7.0g を懸濁させ,超音波洗浄器(BRAMSON 1200,yamato)で 10 分間照射した。その後約 200℃

でエタノールを蒸発,乾燥させた。さらに,イオン交換水,アセトンの順に加えで洗浄し,

乾燥させた。次に調製した 5wt% H2O2水溶液を,先のテフロンビーカーに加え,10 分間超

音波分散させた。超音波分散終了後,前述の方法で溶媒を除去した。次にエタノール 100ml

を加え,懸濁液を攪拌し,シラン剤を加えた。スターラーで 1 時間攪拌した後,遠心分離

機(CF15RXⅡ,日立工機株式会社)を用いて,条件 15,000rpm,25℃,3 分間にて遠心分離を

行い,120℃で乾燥させた。この試料をアセトンで洗浄,乾燥させ測定用試料とした。

5.2.4 シリカ粒子における表面改質評価

5.2.4.1 電位差滴定法

Fig.5.2 は,HNO3で pH3 に調製した水溶液中にシリカ粒子を懸濁させた系での pH 滴定曲

線の模式図である。図中の点線は,シリカ粒子を懸濁させていない系での滴定曲線(いわゆ

る中和滴定曲線(以下,blank と表記))であり,実線はシリカ粒子を懸濁させた系の滴定曲

線を示す。この 2 線の交点は等酸点と呼ばれており,等酸点より酸性の領域ではシリカ粒

子表面の水酸基が溶液中のプロトンを吸着し,正に帯電している。一方,等酸点よりも塩

基性の領域では水酸基のプロトンが溶液側へ放出されるため,シリカ粒子は負に帯電して

いる。

電位差滴定により得られた滴定曲線と Eq.(1)の式より,シリカ粒子の単位表面積あたり

の有効官能基数 N(本実験ではシラノール基の数)を算出可能である。式中のΔC は Fig.5.2

に記載した様に,同 pH における blank との KOH の滴下量の差を意味する。

∙∆ ∙ (1)

NA: Avogadro 定数[mol-1]

Sm: シリカ粒子の比表面積[m2/kg]

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5.2.4.2 測定方法

電位差滴定には,電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社,AT-510WIN)を用いた。滴

定溶液は,HNO3(試薬特級,和光純薬株式会社)で pH 3.0 に調製した水溶液に,支持電解質

として 0.01mol/l の KNO3(試薬特級,和光純薬株式会社)を加えたものを使用した。溶液調

製に用いた蒸留水は,超純水製造装置(日本ミリポア株式会社,MILLI-Q SP.TOC.) で限外ろ

過したものである。実験は,この滴定溶液 100ml にシリカ粒子 5.0g を懸濁させ,窒素ガス

バブリング下で 0.1mol/l の KOH 溶液(試薬特級,和光純薬株式会社)を速度 0.02ml/min で

合計 2.0ml 滴下することにより行った。

5.2.5 高分子材料中での粒子分散状態の評価

5.2.1~5.2.3 で作製したシリカ粒子の表面改質効果が,複合材料中での粒子分散におよ

ぼす影響について検討した。複合材料の母材には,光学顕微鏡を用いて粒子の分散状態の

評価を行うため,可視光で観察できるように半透明の高分子を使用した。また,粒子の分

散状態の定量化は,光学顕微鏡で撮影した画像を画像処理ソフト(Image hyperⅡ,サイエン

ス・アイ株式会社)を用いて評価解析した。この評価方法では,2 次元的な分散を対象とし

ているため,試料内の粒子が 3 次元的に広がることによる影響を避けるため,試験片はで

きる限り薄く作製した。

5.2.5.1 ゼラチン母材

ゼラチンは,コラーゲンを親物質とする動物性タンパク質で最大の特徴は,加熱・冷却

によって,ゼラチン溶液がゾルからゲル,ゲルからゾルに相変化することで,またこのゾ

ル-ゲル変化を常温に近い温度で可逆的に行えることである。本章では,このような性質

から,半透明のゲルを比較的容易に作製することのできるゼラチンを用いた。

実験は,以下の方法により実施した。蒸留水 20ml にシリカ粒子を 10wt%懸濁させ,この

懸濁液にゼラチンを溶媒に対して 10wt% (2.0g)加え,ホットスターラーを用いて 120℃,5

分間加熱,撹拌を行った。その後,加熱を止めて溶液が常温になるまで撹拌を続けた後,

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恒温槽(0.3℃)で 24 時間冷却して凝固させた。これをカッターで厚み約 1mm になるように

切り出した。次に,切り出した試料をプレパラートにのせ,上部にカバーガラスを被せて

光学顕微鏡(EV5680B, aigo 社)により観察を行った。

5.2.5.2 エポキシ樹脂母材

エポキシ樹脂には,透明かつ機械的強度が強く,室温で硬化が可能という特徴を有する

Fig.5.3 に示すビスフェノール A 型のエポキシ樹脂を用いた。

実験は,以下の方法により実施した。ポリプロピレン製丸型容器にエポキシ樹脂(jER828,

三菱化学株式会社)に対してシリカ粒子を 20vol%加え 1 分間撹拌後,さらに硬化剤(jER キ

ュア LV11, 三菱化学株式会社)を樹脂に対し 33vol%添加し撹拌した。これをポリエステル

製 シ ー ト (76mm×26mm×0.1mm) 上 に , フ ィ ル ム ア プ リ ケ ー タ ー

(4-SidedApplicator,BYK-Gardner社)を用いてフィルム厚み50μmになるように調製した。

これを常温で 48 時間静置し,樹脂を硬化させた。

作製した試料を 2.5.1 と同様に光学顕微鏡で観察した。さらにシリカ粒子の分散状態を

定量化するため,上述の画像解析ソフトを用いて評価解析を行った。本実験では二次元的

な試料内での分散を対象としているため,粒子が分散している場合に比べ,凝集が著しい

場合は粒子の投影面積が実際より減少する。ここでは解析法として,大津法を用いた二値

化6,7)を行い,次に画像計測機能を用いて測定範囲における粒子部分の面積率(以下,粒

子面積率)を求め,粒子面積率によって分散状態の良否を評価した。粒子面積率は試料中

の 3 点について測定し,その平均値を算出した。

5.2.6 複合材料の機械的特性評価

5.2.5.2 で作製した複合材料の曲げ強度を測定し,シリカ粒子の表面改質状態,複合材

料中の粒子面積率と複合材料の曲げ強度の関連性を検討した。

実験では,シリカ粒子配合量 20vol%とし,5.2.5.2 と同様の方法を用いてフィルム厚さ

200μm の試験片を作製した。曲げ強度測定装置には,縦型サーボスタンド(JSV-H1000,日

本計測システム株式会社)とハンディーフォースゲージ(HF-1,日本計測システム株式会社)

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を組み合わせたものを用いた。Fig.5.4 にその概要を示す。試験台は平バイス,アタッチ

メントは A 型を使用し,測定条件は圧縮試験,試験速度 5mm/min,支点間距離 10mm に定め,

三点曲げ試験を行った。

5.3 結果および考察

5.3.1 シリカ粒子の粒度分布

レーザー解析/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所,LA-300)を用いて粒度分

布を測定した。積算ふるい下,粒子径分布より算出した 50%中位径は,未処理品が

Dp=3.10μm,完全疎水化処理品が Dp=2.95μm であり,表面改質により粒子径の変化は明確

に認められなかった。

5.3.2 電位差滴定法を用いた表面改質評価

Fig.5.5 には未処理品,完全疎水化処理品について電位差滴定を行った結果を示す。完

全疎水化処理品の滴定曲線は blank 曲線とほぼ同じプロファイルを示しているのに対し,

未処理品の滴定曲線は特に高pH領域においてblank曲線とのずれが大きい点が特徴である。

滴定曲線が blank 曲線に近づくほど粒子が溶液の pH におよぼす影響が小さい,つまり粒子

表面の水酸基数が少ないと指摘でき,blank 曲線と同じプロファイルを示した完全疎水化

処理品は,粒子表面の疎水化を立証することができた。

なお未処理品では,粒子表面に水酸基が存在しているため,このサイトにプロトンが吸

脱着することにより blank 曲線と異なるプロファイルを示した,つまりシリカ粒子表面が

親水性であることを示唆するデータである。

5.3.3 シラン処理が電位差滴定におよぼす影響

Table 5.1 には,表面改質における処理条件を示す。Fig.5.6 は,炭素鎖の異なる 2 種

類のシラン剤を用いて表面改質(シラン剤濃度 1wt%,反応時間 20 分間)を行なったシリ

カ粒子の電位差滴定の結果である。以下,アルキル炭素鎖の長さにより,トリメトキシプ

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ロピルシランをC3,トリメトキシヘキシルシランをC6と表記する。図より,C6の方がblank

曲線との差が少なくなり,アルキル炭素鎖の長いシラン剤の方が粒子表面の疎水化度がよ

り高いことが示唆された。

次に,シリカ粒子懸濁溶液のシラン剤濃度が,表面改質におよぼす影響について検討を

行った。シラン剤は C6 を使用し,反応時間は 20 分間とした。得られた結果を Fig.5.7 に

示す。この図より,シラン剤濃度が高濃度になるにつれ blank 曲線との差分の減少が認め

られた。これは,シラン剤の高濃度処理は,シリカ粒子表面の水酸基を置換が容易である

ことを意味する。しかし,シラン剤濃度 0.1wt%~5wt%の範囲内において,明確な差異が

認められないことを考慮に入れると,0.1wt%の濃度で置換可能なシリカ粒子表面の水酸基

は,殆ど置換されていると推測できる。

さらに,反応時間が表面改質におよぼす影響について検討を続けた。シラン剤は C6 を

使用し,シラン剤濃度は 1wt%,反応時間は 20 分間とした。その結果を Fig.5.8 に示す。

塩基性領域に着目すると,反応時間 60 分間が最も blank 曲線との差が小さく,最も疎水化

が進んでいると考えられる。

5.3.4 シリカ粒子の親水化処理

未処理品と親水化処理品における電位差滴定の結果を Fig.5.9 に示す。未処理品に比べ

親水化処理品の方が blank 曲線との差が大きい点が見られた。これは,親水化処理により,

粒子表面の水酸基数が増加したことを意味する。

さらに,電位差滴定において差が大きかった処理条件(C6,反応時間 60 分間,シラン

剤濃1wt%)の完全疎水性処理品,シラン処理品,未処理品,親水化処理品の 4 つの試料に

ついて検討を行った。

Fig.5.10 は,これらのシリカ粒子の電位差滴定の結果である。この図より,pH10 の時

の表面単位面積あたりの官能基数 N を Eq.(1)の式より算出し,その結果を Table 5.2 に示

す。その結果,完全疎水化処理品では官能基数がほぼ 0 という結果になったが,表面が親

水性を増すに従いシラノール基数が増加していることが判った。

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- 90 -

5.3.5 シリカ粒子の分散状態評価

5.3.5.1 ゼラチン母材

光学顕微鏡で撮影したゼラチン母材中の粒子の分散状態の画像を Fig.5.11 に示す。これ

らより,ゼラチン母材の中で親水性シリカ粒子は良分散し,疎水性シリカ粒子は凝集して

いる状態が観察された。Fig.5.11 の完全疎水化処理品は,他の試料に比べて粒子数が少な

いが,これは試料作製時,疎水性粒子がゼラチン溶液に分散せず,表面に浮遊したためで

あると考えられる。

5.3.5.2 エポキシ樹脂母材

親水化処理品,未処理品,シラン処理品,完全疎水化処理品の顕微鏡観察結果を Fig.5.12

に,粒子面積率を測定した結果を Table 5.3 に示す。粒子面積率は,親水化処理品が 65.3%,

完全疎水化処理品が 67.6%であった。

5.3.6 複合材料の曲げ強度評価

5.3.6.1 曲げ試験

シリカ粒子配合エポキシ樹脂の三点曲げ試験の結果を Fig.5.13 に示す。シリカ粒子表面

が親水性であるほど高強度になり,疎水性であるほど強度低下は著しい。また,図中の灰

色の実線は,エポキシ樹脂単体をフィルム上に塗布したものの測定結果である。この結果

から,樹脂身単体と比較して,粒子を配合した方が強度増加していることがわかった。

5.3.6.2 表面改質と分散状態が機械的強度におよぼす影響

Fig.5.14 は,Fig.5.13 から得られた最大強度ピーク値と Table 5.2 で求めたシリカ粒

子の水酸基数との関係である。水酸基数の増加に伴い,曲げ強度も増加している点が認め

られた。Fig.5.15には最大強度ピーク値とTable 5.3 で求めた粒子面積率との関係を示す。

粒子面積率は,ほぼ一定であるが,曲げ強度の増加の割合は極めて大きい。Fig.5.16 には,

単位面積当たりの官能基数と粒子面積率との関係を示す。水酸基の官能基数の大幅な増加

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- 91 -

にもかかわらず粒子面積率の減少は僅かであった。

一般的に粒子分散複合材料の曲げ強度は,粒子の分散状態および母材と粒子との親和性

の相乗効果により決定されることが数々の論文に報告されている8-10)。そのため,粒子

の分散性と母材と粒子の親和性は個別的に評価すべきである。しかし,粒子の分散性と両

層界面の親和性には関連性があるため,分散性のみを議論するには両層界面の親和性を同

程度に設定した条件にて分散性を議論することが必要不可欠である。

そのため,ここではシリカ配合エポキシ材料の曲げ強度とシリカ粒子の分散性の指標で

ある粒子面積率,シリカ粒子の親和性の指標である有機官能基との関係を求め,曲げ強度

に何れの特性の反映が大きいかについて検討を進めた。

その結果,シリカ粒子の表面官能基数が増加するに従い,曲げ強度が増加する結果が得

られた。要するに,本実験のシリカ配合エポキシ材料においては,シリカ粒子の分散性よ

りも樹脂とシリカ粒子の化学的親和性の方が複合材料の力学特性に,多大な影響を及ぼし

ていることが示唆された。

5.4 結言

高分子複合材料の機械的特性におよぼす表面改質剤の影響について検討を加えた。本実

験では,高分子複合材料作製の最適化のための材料指針を目指し,それに基づく高分子複

合材料の機械的特性におよぼす表面改質剤の影響について検討した。その結果,以下の点

が明らかとなった。

(1)シリカ粒子のシラン処理において,改質剤の量,濃度,反応時間による改質の程度

は電位差滴定により定量化が可能であり,シリカ粒子表面の水酸基数として数値化するこ

とができた。

(2)複合材料中の分散状態評価において,半透明樹脂を母材としてフィルム状の複合材

料を作製した。光学顕微鏡を用いて透過光を粒子に投影させて観察し,得られた画像中の

粒子面積率を算出することで,試料中の二次元的分散状態の定量化を図った。

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(3)複合材料における材料強度では,エポキシ樹脂/シリカ複合系において,曲げ強度

と上述したシリカ粒子表面の水酸基数との間には,相関関係があることを見出した。従っ

て,本実験の高分子複合材料においては,シリカ粒子の分散状態よりも配合したシリカ粒

子表面の官能基と樹脂の反応の方が材料の力学特性により大きな影響を与えたものと推察

される。

5.5 参考文献

1) 由井浩:“複合プラスチックの材料設計”,p70, プラスチックエージ社 (1982).

2) 日本ゴム協会:”フィラーハンドブック”,p.138, 大成社(1985).

3) 鈴木富士雄:”フィラー活用事典”, p.106, 大成社(1994).

4) 佐藤井一,木村啓作,Mark Swihart, 表面, 45, 347(2007).

5) 宮沢和之, 平山 綾, 佐久間健, 隅田如光, 前野克行, 武井啓吾, 工業材料, 54,

24(2006).

6) N.Otsu, “A Threshold Selection Method from Gray-Level Histograms,” IEEE Trans. Sys.,

Man, and Cybernetics, SMC-9, No.1, pp.62-66, (1979).

7) 大津, ”判別および最小2乗基準に基づく自動しきい値選定法,” 電子通信学会論文誌,

Vol.J63-D, No.4, pp.349-356(1980).

8) フィラー研究会編,“複合材料とフィラー”,CMC 出版,54-55(2004).

9) 北原文雄,“界面・コロイド科学の基礎”,講談社サイエンティフィ

ク,91-94,112-115(2001).

10) 化学工学会編,“基礎化学工学”,培風館,185-186(2003).

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Fig.5.1 The structure of trimethoxy silane

Fig.5.2 pH titration curve

Si

OCH3

OCH3

OCH3

R

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Fig.5.3 The structure of Bisphenol A epoxy resin

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Fig.5.4 Experimental device for Three-point bending test

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Fig.5.5 Potentiometric titration results of SiO2 sample

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Table 5.1 The condition of silane coupling treatment

Conditions

Structure of reagent trimethoxy(propyl)silane / trimethoxy(hexyl)silane Reaction time 5min / 20min / 60min

Concentration of reagent 0.1wt% / 1wt% / 5wt%

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Fig.5.6 Influence of reagent structure on surface modification

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Fig.5.7 Influence of reagent concentration on surface modification

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Fig.5.8 Influence of reaction time on surface modification

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Fig.5.9 Influence of hydrophilic treatment on surface modification

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Fig.5.10 Comparative titration curve of particle sample

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Table 5.2 The number of hydroxyl group per unit area (pH10)

Particle ΔC N(×1018)

hydrophilic treatment silica 0.34 2.62 untreated silica 0.20 1.72 silane treatment silica 0.12 0.99 hydrophobic silica 0 0

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Table 5.3 The area rate of particle in epoxy resin

Particle Particle area rate (%)

hydrophilic treatment silica 65.3

untreated silica 66.3

silane treatment silica 66.8

hydrophobic silica 67.6

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Fig.5.13 The result of Three-point bending test

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Fig.5.14 The correlation between Surface modification effect and

Mechanical intensity

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50

55

60

65

70

75

80

1 1.5 2 2.5 3 3.5

hydrophilic treatment SiO

2

untreated SiO

2

silane treatment SiO

2

hydrophobic SiO

2

pa

rtic

le a

rea

ra

te [

%]

Load Peak [N]

Fig.5.15 The correlation between Particle dispersion

and Mechanical intensity

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50

55

60

65

70

75

80

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

hydrophilic treatment SiO

2

untreated SiO

2

silane treatment SiO

2

hydrophobic SiO

2

pa

rtic

le a

rea

ra

te [

%]

Hydroxyl group per unit area [x1018/m2]

Fig.5.16 The correlation between Surface modification

effect and Particle dispersion

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第6章 総 括

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本論文では,高分子系複合材料のフィラー分散に及ぼすフィラー特性の要因を明確にし,

フィラーの分散メカニズムの解明を通して,フィラー粒子の表面設計および複合材料に応

じた表面処理技術を確立することを目的とした。このために,フィラー材料として幅広く

用いられ,広い pH 範囲で安定な,表面化学特性の異なるシリカ(SiO2)酸化チタン(TiO2)

およびアルミナ(Al2O3)を中心とした金属酸化物を対象とし,工業的に広く利用されて

いるイオン結合性のリン酸エステル,共有結合性とイオン結合性の両方の結合性を持つシ

ランカップリング剤を表面改質剤として用いて,表面改質剤の粒子表面での改質反応およ

び界面構造の評価手法を検討した。また,これら表面設計されたそれぞれのフィラーでの

応用事例として熱酸化劣化,材料物性(機械的物性,熱的物性),力学特性のそれぞれに及

ぼす表面改質フィラーの影響について検討した。

第2章では,フィラーの酸・塩基性特性(電位差滴定による等酸点評価)を評価解析す

る観点から,金属酸化物であるシリカ,酸化チタン,アルミナの表面にリン酸モノブチル

エステルを用いて水系で表面処理を行い,界面化学的手法である電位差滴定法を用いて,

表面処理挙動の解析および処理後における粉体表面でのリン酸エステル表面処理量の定量

を試みた。その結果,3 種の等酸点の異なる金属酸化物への表面処理反応は,OH2+サイト

上でリン酸エステルアニオンが強固なイオン結合をすることによって起こることが明らか

となった。さらに,粉体表面の電位差滴定法により算出した処理量の定量結果は,カーボ

ン分析を用いた定量値と一致し,リン酸エステルにて表面処理を行う際の表面処理量は,

電位差滴定法を用いてより迅速,簡便に定量可能であることが判った。

第3章では,高分子複合材料の熱酸化劣化に及ぼすカップリング剤の効果について検討

することを目的に,フィラー中に含まれる金属不純物とリン酸エステル系カップリング剤

によるキレート効果が熱酸化劣化過程に及ぼす影響を検討した。実験ではポリプロピレン

に表面処理を施した炭カルを配合した複合材料を作製し,熱酸化劣化試験を実施した。表面

処理剤には,アルキル鎖長の異なるモノアルキルリン酸エステル,アクリル酸系リン酸エス

テル,オレイン酸系リン酸エステル,フェニルホスホン酸,ステアリン酸を用いた。機械的性

質は,引張衝撃強度と加熱時間について評価した。色差測定では,加熱時間依存性に及ぼす

アルキル鎖長の影響について検討した。

その結果,ブロック共重合体系では,引張衝撃強度は表面処理することにより未処理と比

較して 2~4 倍の向上が認められた。ホモポリマー系では,未処理炭カル充填ポリプロピレ

ンは加熱時間 100Hr で脆化したが,表面処理を行うことにより,加熱時間 100Hr において

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もポリプロピレン単独程度の衝撃強度を保った。ホモポリマー系では,アルキル鎖長の炭

素数 4 の場合の色差が最小値を示した。さらに加熱時間を増加させるとアルキル鎖長の炭

素数が大きいもの程,ポリプロピレン系複合材料の色差は増加し黄変が進行することが明

らかとなった。

第4章では,高分子系複合材料の作製時の因子である混錬順序に着目し,ポリプロピレ

ンに塩基性フィラーであるタルクと炭酸カルシウムを混練した場合の混練順序が高分子系

複合材料の機械的性質,熱的性質に及ぼす影響について検討した。実験ではタルクと炭酸

カルシウムの混合順序を変えた材料を作製し,混練順序が複合材料の機械的性質,熱的性

質に及ぼす影響を超音波探査法によるフィラーの分散状態計測結果及び走査型電子顕微鏡

によるフィラーの配向状態観察結果などを基に解析した。さらに,フィラーの表面処理の

有無がポリプロピレン複合材料の物性に及ぼす影響についても検討を行った。その結果,

最初にタルクを樹脂に配合した後,炭酸カルシウムを添加するとタルクが配向すると共に

炭酸カルシウム粒子がタルク間隙に装填され,衝撃強度が大幅に増加する点が示された。

また,ポリプロピレン/フィラー界面には空気層等の空隙が極めて少ないことが超音波探

査法から確認された。一方,炭酸カルシウムを最初に樹脂に配合すると,タルクの配向が

阻害され,空気層等の空隙が前者と比較して,2倍以上に増加し衝撃強度の大幅な低下を

もたらす結果が得られた。さらに,カップリング剤処理(脂肪酸処理)は,タルクの配向

とポリプロピレン/フィラー界面での空気層等の空隙を低下させることを明らかにした。

第5章では,複合材料の力学特性に及ぼす表面処理状態の影響として,高分子材料に酸

性フィラーであるシリカを配合した高分子複合材料の機械的特性におよぼすカップリン

グ剤の影響について検討した。実験では高分子樹脂との化学的結合性の異なるシラン系カ

ップリング剤を用いて,高分子系複合材料の引張強度やシリカの樹脂中での分散性につい

ても検討した。その結果,シリカ粒子のシラン処理において,処理剤の量,濃度,反応時

間による処理の程度は電位差滴定により定量化が可能であり,シリカ粒子表面の水酸基数

として数値化することができた。一方,複合材料中のシリカ粒子の分散状態評価では,半

透明樹脂を母材としたフィルム状の複合材料を作製し,光学顕微鏡を用いて透過光をシリ

カ粒子に投影させて観察し,得られた画像中の粒子面積率を算出することで,試料中の二

次元的分散状態の定量化を図った。また,複合材料における材料強度では,エポキシ樹脂

/シリカ複合系において,曲げ強度と上述したシリカ粒子表面の水酸基数との間には,相

関関係があることを見出した。従って,本実験の高分子複合材料においては,シリカ粒子

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の分散状態よりも配合したシリカ粒子表面の官能基と樹脂の反応の方が材料の力学特性

により大きな影響を与えたものと推察される。

以上,本研究では統合的なフィラー粒子の表面設計および複合材料に応じた表面処理技

術の確立を目指した。このために,フィラー材料として幅広く用いられ,広い pH 範囲で

安定な,表面化学特性の異なるAl2O3,TiO2及びSiOを中心とした金属酸化物を対象とし,

表面改質剤として,工業的に広く利用されているイオン結合性のリン酸エステル,共有結

合性とイオン結合性の両方の結合性を持つシランカップリング剤を取り上げ,電位差滴定

法を用いてこれら表面改質剤と粒子表面での改質反応および界面構造を検討すると共に,

粒子の物理特性,表面改質剤の溶液中での吸着特性,溶液中における粒子の界面化学特性

などを測定した。また,それぞれのフィラーでの応用事例として炭酸カルシウム表面の微

量の金属酸化物がポリプロピレン(PP)系複合材料の熱酸化劣化に及ぼす影響,および炭

酸カルシウムの表面処理と炭カル充填 PP 材料の熱酸化劣化との関連性,PP/タルク/炭

酸カルシウム複合材料における材料物性(機械的物性,熱的物性),力学特性のそれぞれに

及ぼす表面改質フィラーの影響について,実系での複合材料にした場合の物性との間の相

関関係についても検討を加えた結果,これらの表面設計されたフィラーとそれぞれの特性

には相関関係があることを見出した。

電位差滴定法を中心としたこれらの手法により,これまで得られなかった表面処理剤の

フィラーへの酸・塩基的な関わりを明確に評価することができた。これらの分析手法は,

新規な評価技術の確立が必要不可欠な機能性粉体を取り巻く工業化学分野での注目度が極

めて高く,近い将来における材料設計の指針と実用化に向けた解決策に寄与するものと期

待している。

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謝 辞

本研究の遂行や本論文の作成にあたり,終始ご懇篤なご指導とご鞭撻を賜りました

岡山大学大学院 後藤邦彰教授に厚くお礼申し上げます。

また,本論文をご精読頂きました岡山大学大学院 小野努教授,藤井達生教授に深く感

謝致します。

本論文の執筆にあたりご懇切なご助言を頂きました岡山大学 高田潤名誉教授,田里伊

佐雄名誉教授,前岡山県工業技術センター技術次長 光石一太博士に深く感謝いたします。

おわりに,本研究に協力していただいた岡山県工業技術センターの皆様に感謝の意を表

します。

平成28年3月

児 子 英 之