論文 - u-toyama.ac.jp...電子情報通信学会論文誌2008/9 vol. j91–b no.9 pφ(θ,φ)= 1...

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高速無線通信を支えるアンテナ・伝搬技術論文特集 ブランチ ある MIMO アンテナ a) An Analysis of the Channel Capacity of Handset MIMO Antennas under Received Power Imbalance Condition Koichi OGAWA a) , Satoru AMARI , and Atsushi YAMAMOTO あらまし PDA における MIMO アレーアンテナに して,ブランチ に対する った. に,4 ダイポールアレーアンテナを いて, ブラン した をモンテカルロ によって めた. すブランチ めた. に,PDA されたモノポールアン テナ F アンテナ(PIFA)から された 4 MIMO アレーアンテナに して, めた. ダイポールアレー MIMO アンテナ をブランチ MEGから MIMO アンテナ 4 ダイポールアンテナ について した. キーワード MIMO体影 MIMO チャネルモデリング 1. まえがき して MIMO 待されている.これま 多く によって MIMO あるい され ている [1][4]MIMO した LAN して (す わち移 いられる して に大 される. LAN PC AV された MIMO アン テナによって大 ファイル う. アンテナから して いるこ が多い さい.一 によって されてい るため MIMO アンテナ が大きい される. よう MIMO アンテナに対する える MIMO アンテナを するブランチ フェージング に対す ネットワーク センター, Network Development Center, Matsushita Electric Indus- trial Co. Ltd., 1006 Kadoma, Kadoma-shi, 571–8501 Japan a) E-mail: [email protected] ある.こ うちフェージング して ,移 における MIMO から アジマス する角 スペクトル がりが大きいため,ブランチ される [5], [6].これに対して, によってブランチ 大き じるこ されている [7][10]これにより, ダイバーシチアンテナ ダイバー シチ [11]アダプティブアレー じる [12].これに対して, MIMO してブランチ に対する ってきた [13]がメール インターネットによ (以 ‘PDA )における MIMO アレーアンテナに して,ブランチ に対する った. に,4 ダイポールアレーアンテナを いて, ブランチ した をモンテカルロ によって めた. すブランチ めた. 各スナップ ショットにおける チャネル から め,それら いを た. 948 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J91–B No. 9 pp. 948–959 c (社)電子情報通信学会 2008

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Page 1: 論文 - u-toyama.ac.jp...電子情報通信学会論文誌2008/9 Vol. J91–B No.9 Pφ(θ,φ)= 1 1+XPR Aφ exp θ− π 2 −mH 2 2σ2 H ⎤ ⎥ ⎦ (0 ≤ θ ≤ π, 0 ≤ φ

論 文 高速無線通信を支えるアンテナ・伝搬技術論文特集

ブランチ間受信電力差のある端末MIMOアンテナの伝送容量解析

小川 晃一†a) 天利 悟† 山本 温†

An Analysis of the Channel Capacity of Handset MIMO Antennas under Received

Power Imbalance Condition

Koichi OGAWA†a), Satoru AMARI†, and Atsushi YAMAMOTO†

あらまし 本論文では,PDA 姿勢における端末 MIMO アレーアンテナに関して,ブランチ間受信電力の差異と伝送容量の関係に対する検討を行った.最初に,4 素子ダイポールアレーアンテナを用いて,複数のブランチの受信電力が低減した場合の伝送容量の減少量と受信電力低減量の関係をモンテカルロ解析によって求めた.次に伝送容量の減少量と低減を課すブランチ数の関係を求めた.更に,PDA 姿勢で保持されたモノポールアンテナと板状逆 F アンテナ(PIFA)から構成された 4 素子端末 MIMOアレーアンテナに関して,伝送容量低減量と受信電力低減量の関係を求めた.上記ダイポールアレーと端末 MIMO アンテナの解析結果をブランチ間相関特性及び平均実効利得(MEG)特性の観点から調べ,端末 MIMO アンテナと 4 素子ダイポールアンテナの受信電力差–伝送容量特性の関係について考察した.

キーワード 端末 MIMO,受信電力差,伝送容量,人体影響,MIMOチャネルモデリング

1. ま え が き

将来の高速伝送の切り札として MIMO 伝送技術

が期待されている.これまで多くの研究者によって

MIMO の有効性が解析的あるいは実験的に検討され

ている [1]~[4].

MIMO 伝送技術の応用は,屋内を中心とした無線

LAN としての用途と屋外(すなわち移動通信環境)

で用いられる携帯端末としての用途に大別される.無

線 LANは PC や AV機器に搭載された MIMO アン

テナによって大容量のファイル伝送や映像伝送を行う.

この場合,使用者はアンテナから十分な距離を有して

いることが多いので人体の電磁的影響は小さい.一方,

携帯端末では端末は使用者の手によって所持されてい

るため MIMO アンテナと人体の電磁的結合が大きい

ことが予想される.

このような MIMO アンテナに対する生体電磁影響

を考える場合,MIMOアンテナを構成するブランチ間

のフェージング相関と受信電力差の二つの特性に対す

†松下電器産業株式会社ネットワーク開発センター,門真市Network Development Center, Matsushita Electric Indus-

trial Co. Ltd., 1006 Kadoma, Kadoma-shi, 571–8501 Japan

a) E-mail: [email protected]

る考察が必要である.このうちフェージング相関に関

しては,移動通信環境における端末MIMOでは基地局

からの到来波のアジマス方向に関する角度スペクトル

の広がりが大きいため,ブランチ間相関は十分に低い

ことが予想される [5], [6].これに対して,使用者の人

体の影響,特に手の影響によってブランチ間の受信電力

には大きな差が生じることが報告されている [7]~[10].

これにより,端末ダイバーシチアンテナではダイバー

シチ利得の低下を招き [11],端末アダプティブアレー

では伝送誤り率の劣化が生じる [12].これに対して,

筆者らは端末MIMO に関してブランチ間受信電力の

差異と伝送容量の関係に対する考察を行ってきた [13].

本論文では,使用者がメールやインターネットによ

る通信を行う姿勢(以下 ‘PDA姿勢’と呼ぶ)における

端末 MIMO アレーアンテナに関して,ブランチ間受

信電力の差異と伝送容量の関係に対する検討を行った.

最初に,4素子ダイポールアレーアンテナを用いて,

複数のブランチの受信電力が低減した場合の伝送容

量の減少量と受信電力低減量の関係をモンテカルロ

解析によって求めた.次に伝送容量の減少量と低減を

課すブランチ数の関係を求めた.解析では各スナップ

ショットにおける瞬時チャネル応答行列から固有値や

伝送容量を求め,それらの基本的な振舞いを調べた.

948 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J91–B No. 9 pp. 948–959 c©(社)電子情報通信学会 2008

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論文/ブランチ間受信電力差のある端末 MIMO アンテナの伝送容量解析

その際,伝搬モデルとして,到来波の三次元的な広が

り及び偏波の影響を考慮するため,仰角方向の角度ス

ペクトルと偏波間結合を有した複数のコヒーレント波

を散乱体群とした周辺散乱モデルを用いた.

次に,モノポールアンテナと板状逆 F アンテナ

(PIFA:Planar Inverted-F Antenna)[14] から構成

された 4素子端末MIMOアレーアンテナに関して,受

信電力低減量と伝送容量低減量の関係を求めた.更に,

上記ダイポールアレーと端末MIMOアンテナの解析結

果を,ブランチ間相関特性及び平均実効利得(MEG:

Mean Effective Gain)特性 [15] の観点から調べ,端

末MIMO アンテナと 4素子ダイポールアンテナの受

信電力差–伝送容量特性の関係について考察した.

2. 解析モデル

図 1 に解析に用いた MIMO アレーを示す.4 素子

アレーの給電点に図示のように減衰器を接続し,受信

電力を人為的に ΔGi(i = 1~4:i は素子番号)だけ

減衰させる.これによりブランチ間に受信電力差を生

じさせる.現実の端末アンテナでは人体等によるアン

テナ利得の減少は,他のブランチとの相互結合の変化

もともにもたらすが,本論文の解析にはこの効果は含

まれていない.

図 2に MIMOアレーアンテナのためのチャネルモ

デリングを示す [16].このチャネルモデルは多重波環

境における端末アダプティブアレーアンテナを解析す

るために開発されたものであるが [12],到来波数及び

端末側のアレー数を任意とすることによって MIMO

アレーの解析を可能としたものである.

基地局及び端末局はそれぞれ M 素子及び N 素子

のアレーから構成されている.基地局と端末間は見通

しがないとする.基地局の M 個の素子から空間に放

射された電波はビルや木などの地物によって反射や散

乱されて端末の位置に到来し,周辺に Km 個の二次波

源を形成する.このような状況は周辺散乱モデル(ク

ラークモデル [17])によってモデル化される.

この場合,基地局の異なったアンテナ素子から出た

電波は互いに異なった伝搬ルートで端末までたどり着

くと考えられるので,二次波源の角度配置や初期位相

も異なったものになると考えられる.すなわち,基地

局の M 個の素子は端末周辺に Km 個の波源からなる

M 組の無相関な波源群を形成するとする.このモデ

ルによると Km 個の波源群は一つのコヒーレント波

と考えられるので,M 個のコヒーレント波と端末に搭

図 1 MIMO アンテナモデルFig. 1 MIMO antenna model.

図 2 チャネルモデリングFig. 2 Channel modeling.

載されている N 個の素子の間でMIMO 伝送される.

上記したように提案する伝搬モデルでは,基地局の

M 個のアンテナ素子から放射された各信号は独立で同

一な(i.i.d:independent identically distributed)複

素ガウス分布に従うフェージングを受けるものとして

いる.またクロネッカーモデル [18]に従って,受信側

の相関特性と送信側の相関が互いに独立であると仮定

し,以下に述べるように受信側の到来波角度スペクト

ルとアンテナ指向性を考慮したチャネル応答を求める.

移動通信の伝搬環境では基地局からの到来波は水平

面より高い仰角方向に分布している [19], [20].この状

況をモデル化するため図 2の端末周辺の散乱体は図 3

のように三次元的に空間に配置する.添字の (k, m)

は m 番目の周辺散乱体群に属する k 番目のパスであ

ることを示す.端末はアジマス角度 φv の方向に移動

しているとする.到来波の角度スペクトルはアジマス

方向に対しては一様,仰角方向に対しては図 4に示す

ようにガウス分布として以下の式で定義する [15].

Pθ(θ, φ)=XPR

1+XPRAθ exp

⎡⎢⎣

{θ−

2−mV

)}2

2σ2V

⎤⎥⎦

(0 ≤ θ ≤ π, 0 ≤ φ < 2π) (1)

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電子情報通信学会論文誌 2008/9 Vol. J91–B No. 9

Pφ(θ, φ)=1

1+XPRAφ exp

⎡⎢⎣

{θ−

2−mH

)}2

2σ2H

⎤⎥⎦

(0 ≤ θ ≤ π, 0 ≤ φ < 2π) (2)

ここで XPR は交差偏波電力比で平均値によって定義

する.mV 及び mH は仰角方向の到来波電力スペク

トルの水平面から観測した θ 及び φ 成分の平均角度

である.σV 及び σH は電力スペクトルの θ 及び φ 成

分の標準偏差である.Aθ 及び Aφ は規格化のための

定数であって次式を満足する.∫∫© Pθ(θ, φ) dΩ =

XPR

1 + XPR,∫∫

© Pφ(θ, φ) dΩ =1

1 + XPR(3)∫∫

© [Pθ(θ, φ) + Pφ(θ, φ)]dΩ = 1 (4)

ここで mV = mH 及び σV = σH を仮定する.

図 3 散乱体の座標Fig. 3 Location of each scatterer.

図 4 到来波の仰角方向モデルFig. 4 Incident wave model in the elevation direc-

tion.

3. モンテカルロ解析の手順

2.で述べたチャネルモデルを用いてモンテカルロシ

ミュレーションを行う.図 2に示した基地局のアンテ

ナ素子に対応した M 個の到来波に関して,フェージ

ングの各スナップショットにおけるチャネル応答を,

乱数を用いて以下の手順で生成する.

1.m 番目の周辺散乱体群に対して式 (1) 及び (2)

で定義した角度スペクトルに比例した確率密度関数

(PDF)を用いて乱数により Km 個のパスを生成する.

2.m 番目の周辺散乱体群に属する k 番目のパスは

図 5に示すように垂直及び水平成分に対応したチャネ

ル応答 hV k,m 及び hHk,m を有すると仮定する.k 番

目のパス及び n 番目の端末アンテナに対応した垂直

及び水平成分のチャネル応答は次式で定義する.

hV k,nm =

√XPR

1+XPRhk,m

×EV n(θk,m, φk,m) exp(jϕV k,m) (5)

hHk,nm =

√1

1+XPRhk,m

×EHn(θk,m, φk,m) exp(jϕHk,m) (6)

ここで EV n(θk,m, φk,m) 及び EHn(θk,m, φk,m) は

n 番目の端末アンテナの (θk,m, φk,m) 方向の θ 成

分及び φ 成分に対応した複素電界指向性である.添

字 V,H を用いたのは図 3 に示す座標系において端

末アンテナが xy 平面内を移動するとき,指向性の

θ 成分と φ 成分はそれぞれ垂直 (V)成分と水平 (H)

成分に対応づけて考えられるためである.素波の等価

振幅 hk,m は k,m の値にかかわらず 1 であるとす

る.式 (5)及び (6)の中の垂直及び水平成分に対応し

図 5 垂直及び水平偏波成分のチャネル応答Fig. 5 Channel response for the vertical and horizon-

tal components.

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論文/ブランチ間受信電力差のある端末 MIMO アンテナの伝送容量解析

た位相 ϕV k,m 及び ϕHk,m は互いに無相関であると

し,[0, 2π) の範囲に一様に分布しているものとする.

3.図 5のようにそれぞれのパスに対して次式に従っ

て二つの偏波成分を合成する.

hk,nm = hV k,nm + hHk,nm (7)

4.n 番目の端末アンテナのチャネル応答は m 番目

の周辺散乱体群に属する Km 個のパスの合計として

表され,以下の式で求められる.

hnm =

Km∑k=1

hk,nm

× exp{

j2πd

λcos(φk,m−φv) sin(θk,m)

}(8)

λは自由空間波長である.dは図 3に示すように φv 方

向に進む端末の移動距離である.

5.式 (8) の hnm は m 番目の基地局アンテナと

n 番目の端末アンテナ間のチャネル応答であるから

s 番目のスナップショットにおけるアレー間のチャネ

ル応答行列は以下の式から求めることができる.

Hs = [hnm] =

⎡⎢⎢⎢⎢⎣

h11 h12 · · · h1M

h21 h22 · · · h2M

......

. . ....

hN1 hN2 · · · hNM

⎤⎥⎥⎥⎥⎦ (9)

6.式 (9) のチャネル応答行列に対して以下に示す

特異値分解を用いてMIMO 固有モード伝送における

固有ベクトルを求める.

Hs = U sDsVHs (10)

U s = [er1, · · · , erL] (11)

V s = [et1, · · · , etL] (12)

Ds = diag[√

λ1, · · · ,√

λL

](13)

ここで,上添字 H は複素共役転置を表し,L =

min(N, M)である(Lは行列Hs のランクを表してい

る).対角行列Ds の要素 λi は相関行列HsHHs(また

はHHs Hs)の i 番目(値の大きい順に i = 1, 2 . . . L)

の固有値であり,それぞれの固有モード(独立な SISO

チャネル)の利得を表している.eti は HHs Hs の固

有値 λi に属する送信(基地局)における固有ベクト

ル,eri は HsHHs の固有値 λi に属する受信(端末)

における固有ベクトルである.ここで U s 及び V s は

それぞれ N ×L 及び M ×L の行列である.したがっ

てそれぞれの固有ベクトルを送信及び受信アンテナの

重み付けとして用いることでMIMO の固有モード伝

送が実現できる [21].

7.式 (13)の固有値 λi を用いて s 番目のスナップ

ショットにおける瞬時シャノン容量(フィードバック

なし)を以下の式から計算する.

Cs =

L∑i=1

log2

(1 +

γλi

M

)[bit/s/Hz] (14)

ここで,γ は SNR であって,基地局側の全電力が

単一のアンテナで放射され,その結果垂直成分のみ

(XPR = ∞)で構成されるコヒーレント波が端末周辺に到来し(図 2 参照),それを垂直成分に対して感

度を有する等方性アンテナ(アンテナ利得:0 dBi)で

受信したときの移動区間にわたる瞬時 SNRの平均値

(平均 SNR)によって定義した.

8.上記の 1~7を,端末を移動させながら端末が終

点に到着するまで繰り返し実行する.総サンプル数を

S とすると端末の移動区間におけるチャネル容量の平

均値は,スナップショットにおけるすべてのチャネル

容量を用いて次式により求める.

C =1

S

S∑s=1

Cs (15)

4. ダイポールアレーによる基礎検討

基礎検討として 4素子半波長ダイポールアンテナを

自由空間において垂直に半波長間隔で設置する場合を

考察した [22].図 6にアレー構成を示す.アレーは素

子#1を原点に置き,アンテナ軸を z 軸方向に向けて

各素子を半波長間隔で y 軸上(正方向)に配置した.

解析周波数は 2GHz であるから隣り合うアンテナ同

士の間隔は 7.5 cm である.なお本論文では単一の周

波数(2GHz)のみを取り扱っているのでアンテナの

周波数特性は考慮されていない.

表 1に解析条件を示す.入力 SNRは 30 dBである.

XPR は 6 dB(市街地における代表値 [23])とした.

mV,mH は移動通信環境における到来波平均仰角

の測定結果(0~40◦)を考慮した [19], [20].標準偏差

は多賀の測定結果を参考にした [15].モンテカルロシ

ミュレーションではアレーを 50波長移動させて 0.01

波長間隔のスナップショットごとにチャネル応答を計

算し,式 (14)によって瞬時シャノン容量を求め,その

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電子情報通信学会論文誌 2008/9 Vol. J91–B No. 9

図 6 4 素子ダイポールアレーアンテナの構成Fig. 6 Configuration of the four-element dipole array

antenna.

表 1 解 析 条 件Table 1 Analysis condition.

後式 (15)によってチャネル容量の平均値を求めた.

図 7は 4素子ダイポールアレーアンテナの xy 平面

(水平面)における振幅及び位相指向性(θ 偏波成分:

EV n)である.位相特性の横軸は x 軸を基準とした

アジマス角度 φ である(図 3参照).解析方法はモー

メント法である.ダイポール単体の水平面における振

幅指向性は無指向性であるが図 7 より 4 素子アレー

では電磁結合によってひずみが生じていることが分か

る.アンテナ素子及びアレー配置が対称であるから素

子#1と#4及び素子#2と#3は互いに x 軸に対し

て対称な指向性となっている.

位相指向性はいずれの素子もほぼ正弦波状の変化を

示している.素子#4 の最大位相変化量は約 ±540◦

であって素子#1と#4の間隔(1.5波長)に対応した

変化をしている.

表 2 に 4 素子ダイポールアレーアンテナの放射効

率及び平均実効利得(MEG)[15]を示す.図 7で示す

ように電磁結合による指向性のひずみは観測されるが

表 2から放射効率の劣化は小さいことが分かる.また

表 2から本論文で取り扱う伝搬環境(表 1参照)にお

図 7 4 素子ダイポールアレーアンテナの振幅及び位相指向性

Fig. 7 Amplitude and phase radiation patterns of the

four-element dipole array antenna.

表 2 4 素子ダイポールアレーアンテナの放射効率及び平均実効利得

Table 2 Radiation efficiencies and mean effective

gains of the four-element dipole array an-

tenna at 2GHz.

いては各素子とも等方性アンテナ(isotropic antenna)

の利得(0 dBi)と同等の MEG が得られることが分

かる.なおブランチ間相関(電力相関 [24])は隣接す

るブランチ間においても 0.01 であって十分に小さい.

図 8 に素子#1 及び#2 の受信電力の低減量 ΔGi

を変化させたときの固有値の瞬時値変動と累積分布関

数(CDF)を示す.図 8 (a)及び (c)から分かるよう

に電力低減を課さない場合(ΔG1 = ΔG2 = ΔG3 =

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論文/ブランチ間受信電力差のある端末 MIMO アンテナの伝送容量解析

(a) ΔG1 = ΔG2 = ΔG3 = ΔG4 = 0dB (b) ΔG1 = ΔG2 = 20dB, ΔG3 = ΔG4 = 0dB

(c) ΔG1 = ΔG2 = ΔG3 = ΔG4 = 0 dB (d) ΔG1 = ΔG2 = 20dB, ΔG3 = ΔG4 = 0dB

図 8 4 素子ダイポールアレーにおいて 2 素子(#1 と#2)の受信電力を低減した場合の (a),(b) 固有値の瞬時値変動と (c),(d) 累積分布関数(CDF)

Fig. 8 (a), (b) Instantaneous variations and (c), (d) CDF of the eigenvalues for

different reductions in received power ΔG at elements #1 and #2.

ΔG4 = 0dB)は四つの固有値が有意な大きさを有し

ており,4 素子 MIMO アレーとして動作しているこ

とが分かる.

一方,ΔG1 = ΔG2 = 20 dB,ΔG3 = ΔG4=0dB

として素子#1 及び#2 の受信電力を低減すると,

図 8 (b)及び (d)から分かるように,第 1及び第 2固

有値(λ1,λ2)と比較して第 3及び第 4固有値(λ3,

λ4)は 1/100の大きさとなって 4素子アレーとしての

機能が大きく損なわれている.固有値の大きさはそれ

ぞれの固有値に対応した固有パスが形成する伝送チャ

ネルの容量を示しているので ΔG1 = ΔG2 = 20dB,

ΔG3 = ΔG4 = 0dB の状態では伝送容量が低下して

いることが予想される.

このことを定量的に知るために電力低減する素子

数と受信電力低減量を変化させたときの伝送容量を

求めた.図 9に解析結果を示す.横軸は受信電力低減

量 ΔG を示している.なお以降簡略化のため複数素

子に対して同じ電力低減を課す場合 ΔG の記号を用

いることにする.図の (a),(b),(c) はそれぞれブラ

ンチ (#1),(#1,#2),(#1,#2,#3)を ΔG(0~

30 dB)だけ減衰させたときの平均伝送容量である.例

えば図 9 (c)の場合は ΔG = ΔG1 = ΔG2 = ΔG3 で

ある.なお図 9において他の組合せ(例えば 2素子電

力低減の場合の#1,#4)に対してもほぼ同じ結果に

なることを確認している.

図の 4 本の特性は上から入力 SNRが 40,30,20,

10 dBの場合である.図においてΔG = 0dBのときの

平均伝送容量はそれぞれの SNRにおいて 47.8,34.6,

21.9,10.7 [bit/s/Hz]である.一方,表 2で示したよ

うに各アンテナ素子は等方性アンテナ利得(0 dBi)に

近い MEG 値を有しかつブランチ間相関は十分低い.

したがって ΔG = 0dB のときの平均伝送容量は i.i.d

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電子情報通信学会論文誌 2008/9 Vol. J91–B No. 9

(a) Gain Reduction: #1

(b) Gain Reduction: #1, #2

(c) Gain Reduction: #1, #2, #3

図 9 電力低減を課す素子数をパラメータとしたときの受信電力差と平均伝送容量の関係

Fig. 9 Average channel capacity of a four-dipole ar-

ray as a function of ΔG with SNR as a pa-

rameter where the number of elements with

reduced received power is varied.

チャネルにおける伝送容量の理論値 [25], [26]に近い値

を示しており,このことから本論文における解析の妥

当性が理解される.

表 3 受信電力差に対する伝送容量の傾き ΔC

Table 3 Gradient of the average channel capacity

shown in Fig. 9 in the region ΔG < 10 dB.

なお,図 9において素子 (#1,#2)の受信電力が低

減する端末の具体的な使用状況としては,次章で述べ

る 4素子端末MIMOアンテナ(図 11)のように二つ

の内蔵アンテナ(PIFA)に手あるいは指が近接して,

同時に利得の低減が生じるような状況が想定される.

このような状況で生じるアンテナ利得の低減量は

10 dB程度以下であることが多い.したがって図 9に

おいて ΔG = 10dB 以下の領域が実用上特に重要であ

る.そこで ΔG = 10 dB までの領域を詳しく調べた.

図 9から分かるように,いずれの場合も ΔG = 10 dB

まではほぼ直線的に平均伝送容量は減少している.表 3

は ΔG = 10 dB までの範囲における平均的な傾きで

ある.表 3 から例えば 2 素子減衰の (b)の場合 SNR

が高い順番に ΔG = 10dB 当りの傾きは 6.6,6.3,

5.7,3.9 [bit/s/Hz] となっている.

このように直線の傾きが分かれば任意の ΔG に対し

て平均伝送容量の値を簡便に求めることができる.例え

ば SNR = 30 dB で二つの素子の受信電力が低減する

場合,電力低減量ΔG = 3dBのときの平均伝送容量は

ΔG = 0dB のときの平均伝送容量が 34.6 [bit/s/Hz]

であるから 34.6 − 6.3 × 3/10 = 32.7 [bit/s/Hz]と推

定できる.このとき ΔG = 3dB の場合の伝送容量の

解析値は 32.7 [bit/s/Hz] であるから推定値とよく一

致する.

表 3から SNRが大きいほど傾きが大きく受信電力

差による影響は顕著であることが分かる.また,低減素

子数と伝送容量の傾きは比例関係にあることが分かる.

例えば SNR = 40 dB では低減素子数が 1 素子多く

なるごとに ΔG = 10 dB 当りの傾きは 3.3 [bit/s/Hz]

だけ大きくなっている.

更に,図 9 から ΔG が 20 dB 以上の領域では平

均伝送容量は一定値に漸近していることが分かる.

ΔG = 30dB の縦軸にプロットした記号は,(a)の場

合は 3 素子,(b)の場合は 2 素子,(c)の場合は 1 素

子のダイポールアンテナを用いた場合の計算値であっ

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論文/ブランチ間受信電力差のある端末 MIMO アンテナの伝送容量解析

図 10 2 素子ダイポールアレーにおける受信電力差と伝送容量の関係

Fig. 10 Average channel capacity of a two-dipole

array as a function of ΔG with SNR as

a parameter when the received power of ele-

ment #1 is reduced.

て 4本の曲線が対応する四つの記号に漸近しているこ

とが分かる.(b)の SNR = 30 dB の曲線上の★及び

☆の意味は次章で説明する.

図 10 は 2 素子ダイポールアレー(図 6 の#1 及

び#2 のみによって構成)において#1の受信電力を

低減したときの受信電力差と伝送容量の関係である.

基地局側のアレー数は 2素子として 2 × 2 MIMO の

場合を示した.他の解析条件は表 1と同じである.

ΔG = 10 dB までの範囲における平均的な傾きは,

SNRが高い順番に ΔG = 10dB 当り 3.3,3.2,2.8,

1.8 [bit/s/Hz]である.この値を 4素子アレーで#1の

受信電力を低減したとき(表 3 (a))と比較すると近い

値であることが分かる.このことは,伝送容量の傾き

はアレー素子数にかかわらず電力低減する素子数で決

まることを示唆している.

5. 端末MIMOアレーによる検討

PDA 姿勢における端末 MIMO アンテナのアレー

構成と人体モデルを図 11 に示す.1/4 波長モノポー

ルアンテナと PIFAをそれぞれ 2素子備えた 4素子ア

レー構成とした.

人体は円柱状の頭,楕円柱状の胴体,コの字型の手,

円柱状の腕によって構成した.アンテナの指向性の計

算は表面インピーダンス法を適用したモーメント法に

よって行った [27].求めた指向性は式 (5),(6)の EV n

及び EHn として用いる.解析周波数は 2GHzである.

端末は人体の正面に鉛直から角度 α だけ傾けて胴体

(a) (b)

図 11 (a) PDA 姿勢における端末 MIMO アンテナのアレー構成と (b) 人体モデル

Fig. 11 (a) Configuration of a handset MIMO an-

tenna, and (b) human body model.

から距離 D の位置に設置する.端末の傾き角度 α 及

び胴体からの距離 D は PDA姿勢における携帯端末の

保持姿勢調査 [28]の結果から α = 40◦,D = 200 mm

とした.他の解析条件は表 1と同じである.

図 12 はモノポールアンテナと PIFA の三次元指向

性である.図の左側が θ 偏波成分(EV n),右側が

φ 偏波成分(EHn)である.人体モデルと放射の関係

が理解しやすいように各図の左隅にモデルの概観図を

挿入した.図 12 からモノポールアンテナと PIFA で

偏波特性に大きな差異があることが分かる.すなわち,

二つのモノポールアンテナは θ 偏波成分が主要な放射

成分となっているのに対して PIFA は φ 偏波成分が

主要な放射成分となっていることが分かる.このこと

は,以下で述べるようにブランチ間受信電力の差異と

伝送容量の関係に影響を与える.

表 4はアンテナ素子の反射損及び素子間相互結合特

性である.表 4から分かるように反射損は整合回路な

しでモノポールアンテナが −8dB,PIFA が −22 dB

程度である.PIFA のアイソレーションの劣化は素子

間の距離が近いことが原因である.

図 13 は二つの PIFA の受信電力を低減したときの

平均伝送容量の解析結果である.これは筐体上部に設

置された PIFAに筐体下部を握っている使用者の手が

近接している場合や最悪の場合として PIFAに手が覆

いかぶさる状況を模擬している.

このような状況における受信電力の低減には三つの

要因がある.すなわち,手に放射電力の一部が吸収さ

れる吸収損,インピーダンス不整合による不整合損,

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電子情報通信学会論文誌 2008/9 Vol. J91–B No. 9

図 12 モノポールアンテナと PIFA の三次元指向性Fig. 12 Three dimensional radiation patterns of the

monopoles and PIFA at 2GHz in dBd.

表 4 アンテナ素子の反射損及び素子間相互結合特性Table 4 Return losses of the antennas and isolations

between the antenna pairs at 2GHz in dB.

更には指向性の変化による損失(あるいは利得増加)

である [27].しかし本論文ではこれら三つの要因に対

する分析には立ち入ることなく,図 13 の横軸である

受信電力差 ΔG はこれらの要因から生じる電力変化

量の合計が考慮されているものとしている.

図 13 では 4 素子のうち 2 素子の電力を低減して

いるので図 9 の 4 素子ダイポールアレーで考えれば

(b)の解析結果に対応する.そこで図 13と図 9 (b)の

結果を比較すると図 13 では大幅な伝送容量の低下が

見られる.容量低下の原因はブランチ間相関の上昇と

図 13 端末 MIMO アンテナにおいて PIFA の受信電力を低減したときの伝送容量の変化

Fig. 13 Average channel capacity of a 4-element

handset MIMO array as a function of ΔG

with SNR as a parameter when the received

power of the PIFA is reduced.

表 5 端末 MIMO アンテナのブランチ間相関Table 5 Fading correlation between branches for

a handset MIMO antenna.

受信電力低減の二つの可能性がある.そこでまずブラ

ンチ間相関を計算した.

表 5 に端末 MIMO のブランチ間相関(電力相関)

を示す.表 5に示すようにブランチ間相関は最大でも

0.32 であって,MIMO 伝送特性の観点からは十分低

いことが分かる.したがって伝送容量低下の原因は受

信電力であると考えられる.多重波環境中に置かれた

端末の受信電力特性はMEG特性によって評価できる.

図 14に到来波の仰角と広がりの標準偏差を図 13と同

じに設定したときの XPRに対する端末 MIMO アン

テナのMEG特性を示す.

アンテナ構造が対称であるので二つのモノポール

(Monopole1と 2)とPIFA(PIFA1と 2)はほぼ同様

のMEG特性を示している.更にモノポールと PIFA

では XPR に対する MEG 特性の挙動が異なること

が分かる.この原因は図 12 で示した二つのアンテナ

の放射特性に違いがあることに起因している [16].す

なわち,XPR = 30dB の場合は θ 偏波成分が優勢

であるのでモノポールアンテナが高い MEG を示し,

XPR = −30 dB の場合は φ 偏波成分が優勢であるの

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論文/ブランチ間受信電力差のある端末 MIMO アンテナの伝送容量解析

図 14 端末 MIMO の XPR に対する MEG の変化Fig. 14 Changes in MEG as a function of XPR for

a handset MIMO antenna.

で PIFAが高いMEGを示している.

考察している伝搬環境は XPR が 6 dBであるので

アンテナの動作点は図 14 の●印で示したポイントに

なる.この動作点でモノポール及び PIFAのMEGは

それぞれ −3 dB及び −7.3 dBとなる.すなわちブラ

ンチ間の受信電力差(図 14の ΔG)は 4.3 dBである.

更に,同じ伝搬環境において自由空間で垂直に設置さ

れた半波長ダイポールアンテナ単体のMEGが 0.1 dB

であることから,端末のモノポールアンテナは垂直設

置半波長ダイポールアンテナと比較して受信電力が

3 dB低いことになる(図 14の ΔMEG).

上記の端末と自由空間中のダイポールアンテナの

MEG特性から,両者の受信電力差と伝送容量の関係を

考察する.今,端末MIMOアンテナに SNR = 33dB

の到来波が入射する場合を考える.このとき,端末の

モノポールとダイポールアンテナの出力端子(給電点)

における受信電力が等しいとすると,ダイポールアン

テナにおける到来波の SNRは 30 dBである.

このことから端末 MIMO アンテナ(図 13)にお

ける SNR = 33 dB の曲線は 4 素子ダイポールアン

テナ(図 9 (b))では SNR = 30 dB の曲線に対応す

る.この条件下において端末 MIMO アンテナでは

ブランチ間に 4.3 dB の受信電力差が存在するから,

図 13で ΔG = 0dB の★印のポイントは図 9 (b)では

ΔG = 4.3 dB の★印のポイントに対応することにな

る.具体的に伝送容量を読み取ると,図 9 (b)と図 13

の★印はそれぞれ 32 bit/s/Hz 及び 31.5 bit/s/Hz と

なってほぼ一致する.

図 13 における☆印のポイントは端末の PIFA の受

信電力を更に 5 dB だけ低減させた場合であって,こ

の場合は図 9 (b) では ΔG = 9.3 dB の☆印のポイ

ントに相当する.この場合も伝送容量を読み取ると,

図 9 (b)と図 13の☆印はそれぞれ 28.3 bit/s/Hz及び

28 bit/s/Hzとなる.

以上の考察から端末 MIMOアンテナと 4素子ダイ

ポールアンテナの受信電力差–伝送容量特性は端末ア

ンテナのMEG特性を介して互いに関係づけられるこ

とが分かった.

6. む す び

本論文では,PDA姿勢における端末MIMOアレー

に関して,ブランチ間受信電力の差異と伝送容量の関

係に対する検討を行った.最初に,4素子ダイポール

アレーアンテナを用いて,複数のブランチの受信電力

が低減した場合の伝送容量の減少量と受信電力低減量

の関係をモンテカルロ解析によって求めた.次に伝送

容量の減少量と低減を課すブランチ数の関係を求め

た.更に,モノポールアンテナと板状逆 F アンテナ

(PIFA)から構成された 4素子端末MIMO アレーア

ンテナに関して,受信電力低減量と伝送容量低減量の

関係を求めた.上記ダイポールアレーと端末 MIMO

アンテナの解析結果を,ブランチ間相関特性及び平均

実効利得(MEG)特性の観点から調べ,端末MIMO

アンテナと 4素子ダイポールアンテナの受信電力差–

伝送容量特性の関係について考察した.以上の検討に

より以下のことが分かった.

( 1) 受信電力差による平均伝送容量の減少は SNR

が大きいほど顕著である.

( 2) 低減素子数と平均伝送容量の傾きは比例関係

にある.例えば検討した 4素子ダイポールアレーでは

SNR = 40dB において低減素子数が 1素子多くなる

ごとに ΔG = 10dB 当りの傾きは 3.3 [bit/s/Hz] だ

け大きくなる.

( 3) 平均伝送容量の傾きはアレー素子数にかかわ

らず電力低減する素子数で決まる.

( 4) 検討した 4素子端末アンテナでは平均伝送容

量低下はブランチ間相関の上昇ではなく受信電力低減

が主な要因であった.

( 5) 端末 MIMOアンテナと 4素子ダイポールア

ンテナの受信電力差–伝送容量特性は端末アンテナの

MEG特性を介して互いに関係づけられる.

謝辞 本研究に関し,有益な助言を頂きました東京

工業大学高田潤一教授に感謝致します.

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電子情報通信学会論文誌 2008/9 Vol. J91–B No. 9

文 献

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(平成 20 年 1 月 7 日受付,3 月 30 日再受付)

958

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論文/ブランチ間受信電力差のある端末 MIMO アンテナの伝送容量解析

小川 晃一 (正員)

昭 54 静岡大・工・電気卒.昭 56 同大大学院修士課程了.同年松下電器産業(株)入社.以来,研究開発部門において,マイクロ波・ミリ波機器,衛星通信無線システム,移動体通信用アンテナ・高周波部品の研究に従事.デンマーク・オールボー大学客員

教授(平 17).千葉大学・非常勤講師(平 12~16)及び特任教授(平 15~20).IEEE AP-S Kansai Chapter Vice-Chair.工博(東工大).平 2 オーム技術賞,平 13 テレコムシステム技術賞受賞.IEEE シニア会員.

天利 悟 (正員)

平 13 武蔵工大・工・電子通信卒.平 15

同大大学院修士課程了.同年松下電器産業(株)入社.以来,研究開発部門において,生体電磁環境,移動体通信用アンテナに関する研究に従事.平 18 本会アンテナ・伝播研究専門委員会若手奨励賞受賞.

山本 温 (正員)

平 7 岡山大・工・電気電子卒.平 9 同大大学院修士課程了.同年松下電器産業(株)入社.以来,研究開発部門において,移動体通信用アンテナ及び電波伝搬の研究に従事.平 14 YRP 奨励賞.IEEE 会員.

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