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石川県は安全か?その答えは「NO」です。だからこそ、普段の備えが大切 (月刊マイホームいしかわ 2006 年 3 月号) 石川県内でも過去には地震災害が発生している 石川県は揺れを体で感じることができる「有感地震」が都道府県別で最も少 ない県(注1)。そのため多くの方が近くで大きな地震は起こらないと考えがち です。しかし、実際はどうなのでしょうか? 過去に起こった被害地震の記録を見ると(図1、表1)、県内に被害を及ぼし た地震は 16 世紀以降で 20 回を超え、なかでも県内および県近海が震源の地震 は、10 回以上あります。つまり、約 400 年の間に 10 回以上、平均すると約 40 年に 1 度、マグニチュード(M)6 程度の地震が発生していることになります。 M 6といえば、その震源の深さにもよりますが、震度としては 6前後(注 2)。 2004 年に発生した新潟県中越地震をイメージすれば、その規模がつかめるかと 思います。 その被害状況の具体例を挙げると、1968 年 6 月 28日に発生した「福井地震」 では、死者 3,800人、家屋全壊 36,000頭以上のうち、石川県内では死者 41人、 家屋全壊 802 棟という大きな被害を受けました。こう地震をきっかけに気象庁 の震度階に震度 7 が制定され、その初めての適用例が 1995 年の兵庫県南部地 震でした。また、市街地を襲った地震としては、1799 年 6 月 29 日の「金沢地 震」があります。この地震の推定マグニチュードは 6.0 ですが、金沢城下から 能美、石川、河北郡で家屋全壊が 990 棟、損壊が 5,199 棟、死者 21 人が報告 されており、激しい地震動があったことがわかります。 注 1:平成 16 年度の統計調査結果では新潟県中越地震のため有感地震数は全国で 2 番目に少な い県となりました。 注 2:震度は地震の際の揺れの強さを表す量。震度 0(体には感じない)が一番小さく、有感と なる 1、2、3、4、5 弱、5 強、6 弱、6 強、7 の 10 階級に分けられている。

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石川県は安全か?その答えは「NO」です。だからこそ、普段の備えが大切 (月刊マイホームいしかわ 2006年 3月号) 石川県内でも過去には地震災害が発生している 石川県は揺れを体で感じることができる「有感地震」が都道府県別で最も少ない県(注 1)。そのため多くの方が近くで大きな地震は起こらないと考えがちです。しかし、実際はどうなのでしょうか? 過去に起こった被害地震の記録を見ると(図 1、表1)、県内に被害を及ぼした地震は 16 世紀以降で 20 回を超え、なかでも県内および県近海が震源の地震は、10回以上あります。つまり、約 400年の間に 10回以上、平均すると約 40年に 1度、マグニチュード(M)6程度の地震が発生していることになります。M 6 といえば、その震源の深さにもよりますが、震度としては 6 前後(注 2)。2004年に発生した新潟県中越地震をイメージすれば、その規模がつかめるかと思います。 その被害状況の具体例を挙げると、1968 年 6月 28日に発生した「福井地震」では、死者 3,800人、家屋全壊 36,000頭以上のうち、石川県内では死者 41人、家屋全壊 802 棟という大きな被害を受けました。こう地震をきっかけに気象庁の震度階に震度 7 が制定され、その初めての適用例が 1995 年の兵庫県南部地震でした。また、市街地を襲った地震としては、1799 年 6 月 29 日の「金沢地震」があります。この地震の推定マグニチュードは 6.0 ですが、金沢城下から能美、石川、河北郡で家屋全壊が 990 棟、損壊が 5,199 棟、死者 21 人が報告されており、激しい地震動があったことがわかります。 注 1:平成 16 年度の統計調査結果では新潟県中越地震のため有感地震数は全国で 2番目に少ない県となりました。 注 2:震度は地震の際の揺れの強さを表す量。震度 0(体には感じない)が一番小さく、有感となる 1、2、3、4、5 弱、5強、6弱、6 強、7 の 10階級に分けられている。

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図 1. 北陸地方の被害地震

表 1. 石川県の被害地震(石川県資料より)

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有感地震が少ないからこそ普段の備えが重要 このように、普段、体に感じる地震が少ないからといって、石川県内で被害を及ぼすような大きな地震が起きないとは限りません。むしろ、逆に静かすぎて不気味なくらいです。ある程度の小規模な地震が起こっていた方が地震の力が発散されている状態で、それが起こっていないということは、次の大きな地震への力が蓄えられているとも考えられるからです。 「有感地震」の少なさは、私たちを油断させ、過去の地震災害の教訓も忘れさせてしまいます。兵庫県南部地震や新潟県中越地震でも、普段、地震が少なかったことから、多くの人が「大きな地震災害が起こるわけがない」と思い込んでいました。しかしそれは単に思い込みであり、過去を調べれば大きな地震災害が起こっているのです。 私たちは、地震が起こる可能性のある土地の上に住んでいる、そう常に心において、耐震リフォームをはじめ、食料の備蓄などふだんの備えをしっかりと行うことが大切ではないでしょうか。 県内の活断層はいつ活動するのか? 兵庫県南部地震や新潟県中越地震のように、日本の内陸部で起こる地震は「活断層」(注 3)で起こります。図2は、北陸地方の主な活断層示したもの。県内では、森本富樫断層帯や邑知型断層帯が知られていますが、これらを含めて 49の活断層があります。では、これらの活断層がいつ活動するのか?現在の地震学では予知は非常に困難ですが、長期的な活動については地震調査委員会によって評価が行われています。 その評価によると、金沢市を横切る森本・富樫断層帯が 30年以内に活動を起こす確率は、0~5%となります。天気予報でよく耳にする降水確率の感覚でみれば、ほぼ地震は起こらないように感じますが、この数値は過去にいつ地震が発生したのかが十分に明らかでないためで、逆に言えばいつ地震が発生してもおかしくないことを表しており、油断は禁物です。ちなみに、兵庫県南部地震発生前の野島断層を同じ方法で評価すると、30年確率は 0.4~8%になります。 注 3:活断層とは最近の地質時代(約 200 万年)に繰り返し活動し、将来も活動することが推定される断層。

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図 2. 北陸地方の活断層 活断層が近くにないから安全。それは間違いです。 活断層の位置を示した図を紹介すると、「活断層を示す線が引かれていない地域は、地震が起こらないから安全だ」と思う方もいるかもしれませんが、それは間違いです。活断層とは、地表に現れている断層が確認されているだけであり、地中にも確認できていない断層が存在するからです。福井地震も、こうした隠れた断層が活動し発生しました。 また活断層から離れた地域だからといって安全ということも、一概には言えません。地震の揺れは地盤の強弱にも関係しており、地盤の弱い地域では揺れが増幅されるからです。実際、福井地震の際には、震源から離れた地域でも地盤が弱いところでは広範囲で家屋が全壊しました。このほかにも、がけや山沿いの地域ではがけ崩れが起こったり、後ろの山の木が倒れてきたりといった災害もあります。このように地震災害は複数の要因によって起こります。それらを総合的に考慮して、備えを行うことが重要です。 地震は起こるものと考え備えをしっかりと これまで説明したように、体に感じる地震が少ないからといって、石川県で大きな地震災害が起こらないとは決して言えません。「県内でも地震は起こる可能性があるんだ」ということを意識して、それに対してどんな備えができるか

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を考え、実行することが大切です。また、災害時の避難経路や避難場所なども確認しておきましょう。お年寄りや子供がいる家庭では、どこに避難するのかなども確認しておきたいものです。 さらに耐震リフォームももちろん重要ですが、地震災害では家具などの下敷きになり、ケガをしたり、ひどい場合には死亡するケースもあります。そこで、自分の家ではどこが危険かを総点検して、危険な家具などがあれば移動するか、固定するなどの対策を施しましょう。こうしたちょっとした工夫で、命が助かることもあります。ぜひ、耐震リフォームをはじめとしたさまざまな備えを、行っていただきたいものです。

金沢大学大学院自然科学研究科 平松良浩