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採卵鶏ひなにおけるBacillus subtilis JA-ZK株の Salmonella Enteritidisに対する増殖抑制効果 誌名 誌名 鶏病研究会報 ISSN ISSN 0285709X 巻/号 巻/号 433 掲載ページ 掲載ページ p. 148-153 発行年月 発行年月 2007年11月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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採卵鶏ひなにおけるBacillus subtilis JA-ZK株のSalmonella Enteritidisに対する増殖抑制効果

誌名誌名 鶏病研究会報

ISSNISSN 0285709X

巻/号巻/号 433

掲載ページ掲載ページ p. 148-153

発行年月発行年月 2007年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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《研究報告》

採卵鶏ひなにおける Bacillussubtilis JA-ZK株の

Salmonella Enteritidisに対する増殖抑制効果

熊谷直祐 ・今井康雄 ・田中剛志 ・小川めぐみ ・佐藤静夫

全農家畜衛生研究所, 干285-0043千葉県佐倉市大蛇町 7番地

要 約

新規に分離した Bacillussubtilis JA-ZK株を生菌剤としてひなに給与し,安全性および消化管内での

Salmonella Enteritidis (SE)の増殖抑制効果について評価した。試験 lでは,生菌剤を 106または 108

CFU/gになる ように飼料に混合してひなに給与し,増体重,飼料要求率の算出および剖検な らびに組織

検査を実施した。生菌剤給与により飼料要求率は改善され, JA-ZK株の臓器への侵入は認められず生菌

剤lの安全性を確認し,混合飼料として応用できることが示された。試験 2では,生菌剤の添加濃度を変

え SE増殖抑制効果を検討した。 初生ひなに生菌剤を 105または 106CFU/gになるように混合した飼料

を連続給与し, 7日齢時に 103CFU/羽の SEを経口接種した。 生菌剤lの添加率を上げることにより SE増殖抑制効果が高まることが確認された。試験3では, SEの増殖抑制効果の評価試験を 2回実施した。

初生ひなに生菌剤を 106CFU/gになるように混合した飼料を連続給与し 7日齢時に 103CFU/羽の SEを経口接種した。試験 3-1では感染後 7日から試験区の盲腸便の SE菌数が対照区のそれに比べ減少す

る傾向を示し,感染後 21日以降は有意に低値となった (p<O.Ol)。試験 3-2では感染7日後から試験期

間を通して試験区の SE菌数は有意に低値となった (p<0.01)。以上の成績より,B. subtilis JA-ZK株は

混合飼料として応用することが可能であり,それを給与したひなの消化管内でサルモネラ増殖抑制効果

が示されることが確認された。

キーワード :Bacillus subtilis,ひな,生菌剤,サルモネラ対策

緒 百

生菌剤は本来,家畜の生産性を改善する目的で畜産分

野に応用されてきたが,鶏のサルモネラ感染に対して効

果を示したとする報告もあり 1,14,16,17) 養鶏場におけるサ

ルモネラ対策の一手段として生菌剤lの応用が期待されて

いる。これらの報告にみられる生菌剤の多くはLactoba-

cillus属であるが,飼料に添加して給与するには,ぺレッ

トなどに加工しても生残する耐熱性および有機酸と併用

して給与できる耐酸性に優れている性質が求められる。

それらを満たす生菌剤として Bacillus属,Clostridium

属などの芽胞菌が第一候補に挙げられる。しかしながら,

これらの菌を生菌剤として給与した鶏の消化管でサルモ

ネラの増殖を抑制したという報告は限られている日)。 今

凪われわれが新たに分離した Bacillussubμlis JA-ZK

株は鶏に給与しても安全で, しかもサルモネラの増殖抑

制効果を有することを認めたので報告する。

2007年 8月 16日受付

鶏病研報 43巻 3号, 148~153 (2007)

材料と方法

1. 生菌剤

2000年に千葉県の土壌から分離した菌株を,生化学的

および分子生物学的検査により Bacillussubtilisと同定

し,B. subtilis JA-ZK株と命名 した。本試験には本菌株

の芽胞を乾燥粉末としたものを生菌剤lとして供試した。

2 感染菌株

1991年にコマ ーシャル採卵鶏の卵巣から分離した

Salmonella Enteritidis (SE)にリファ ンピシン耐性を

付与 した ZK-2ax株を使用しため。

3. 供試ひな

試験には,白色レグホーン採卵鶏 1日齢ひな (♀)を

用いた。ひな搬入直後にひな輸送箱のすべての敷き紙を

サルモネラ検査し,陰性であることを確かめた。

4. 飼料

試験には市販の育雛用配合飼料 (日本クレア)を基礎

飼料とし,それに生菌剤IJ(B. subtιlis JA-ZK株)を添加

して用いた。飼料中に含まれる生菌剤菌数は試験 lでは

-148-

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106または 108CFU/g,試験 2では 105または 106CFU/g,

試験 3では1Q6CFU/gとした。

5. 細菌学的検査

1) 生菌剤菌数測定

飼料中の生菌剤菌数は,秤量した飼料を生理食塩水に

懸濁し, 10倍階段希釈液を SCD寒天培地で培養し,B.

subtιlis JA-ZK株の性状を示すコ ロニーをカウントし生

菌数を算出した。また盲腸便中の生菌剤l菌数は,秤量し

た盲腸便を生理食塩水に懸濁し, 750

Cで 20分加熱し,

急冷した後に 10倍階段希釈液を SCD寒天培地で培養

し,B. subtilis JA.ZK株の性状を示すコ ロニーをカウン

トし生菌数を算出した13)。

2) ひな輸送箱敷き紙のサルモネラ検査

滅菌済みのスキムミルク に浸 した滅菌ガーゼで輸送箱

敷き紙全体を拭き取り,これをハーナ・テトラチオン酸

塩培地 (HTT 栄研)で41.50C,24時間増菌培養した。

分離培養以降の検査方法は,鶏病研究会のサルモネラ検

査法6)に準じた。 さらに,遅延二次増菌培養法による検

査を実施した11)。

3) 新鮮盲腸使中の SE検査

採取した新鮮盲腸便を秤量後, 10 mlの滅菌生食液を

加え混和し,これを原液として 10倍段階希釈を行い,そ

第 43巻 2007 年

2) 試験 2

飼料への生菌剤の添加量を検討するために,生菌剤が

105または 106CFU/gになるように混合した飼料を給与

したひなを,それぞれ 105給与区,106給与区とし,初生

時から給与した。対照区のひなには生菌剤無添加の基礎

飼料を給与した。各区のひなを 10羽とし, 7日齢時にす

べてのひなに1Q3CFU/羽の感染菌株を畷嚢内に接種し

た。新鮮盲腸便中の SE菌数測定は,感染後 7,14, 21日

に実施した。

3) 試験 3

供試ひなを l区 10羽の 2区に分け,試験区のひなに

は生菌剤を 106CFU/gになるように添加 した飼料を初

生から給与し,対照区のひなには生菌剤無添加の基礎飼

料を給与した。7日齢時にすべてのひなに 103CFU/羽の

感染菌株を味嚢内に接種した。新鮮盲腸使中の SE菌数

および生菌剤菌数の測定は,感染後 7,14, 21, 28, 35日

に実施した。なお試験 3は同様の試験を 2回実施し,そ

れぞれを試験 3ー1,試験 3-2とした。

7. 統計処理法

盲腸使中の SE菌数は t検定を用いて解析した。

成 績

れぞれの段階希釈液をリファンピシン 100μg/ml添加 l. 試験 1

DHL寒天培地 (RFDHL)にコンラー ジ棒で塗抹して生 表 lに示すとおり, 106給与区の増体重は対照区を上

菌数を算出するとともに,原液と 2倍濃度の HTTを等 回る傾向にあり, 108給与区では対照区に比べて有意に

量混合して 41.50C,24時間増菌培養した。増菌培養後は 高値となった (p<0.05)。飼料摂取量および飼料要求率

RFDHLを用いて分離培養 (370C,24時間)し,サルモ は, 106給与区および 108給与区は対照区に比べ有意に改

ネラ様コロニーは定法にしたがって同定した6)。この増 普された (p<0.01または p<0.05)。剖検および各臓器

菌培養による検査でサルモネラが陰性の結果を示した検 の組織検査では全個体に異常はみられなかった。

体は,さらに遅延二次増菌培養を実施した。菌数は対数 2. 試験 2

値で表した。本方法の直接培養による新鮮盲腸使中の 表 2に示すとおり生菌剤を飼料中に 105または 106

SE菌数の検出限界は 400CFU/gであり,初回の増菌培 CFU/gになるように添加して給与し, 7日齢時に 103

養で陽性であれば 102CFU/g,遅延二次増菌培養で陽性 CFU/羽の SEを接種した。盲腸便中の SE菌数は,感染

であれば 101CFU/g,陰性であれば OCFU/gとした11)。 後7日の対照区で 1067CFU/gであったが, 105給与区およ

6. 試験方法 び 106給与区では,それぞれ対照区を下回る傾向がみられ

1) 試験 l

飼料安全評価基準の 「鶏ひなの成長試験J12)にしたがい

生菌剤lの安全性を評価した。生菌剤が 106または 108

CFU/gとなるように混合した飼料を給与 したひなをそ

れぞれ 106給与区,108給与区とした。対照区のひなには

生菌剤l無添加の基礎飼料を給与 した。l試験区につき 3

群を設定し,1群を 7羽とした。生菌剤l給与区のひなには

生菌剤添加飼料を 8日齢から 6日間給与 した。試験終了

時に個体体重,飼料摂取量を計量し増体重,飼料要求率

を算出した。また, ~J検, 病理組織学的検査を実施した。

表1. ひなの成長試験における増体重,飼料摂取晶'

飼料要求率(試験1)

試験区 増体重 飼料摂取量 飼料要求率(g/羽 (g/羽)

106給与区 65.4:1: 1. 2a) 111. 6:1: 1. 8** 1. 7:1:0.7*

108給与区 67.6:1:2γ 113.0:1:0.6* 1.7土0.1*

対照区 64.2:1: 1. 0 116.4:1: 1. 6 1. 8:1:0.1

a)ー平均値±標準偏差

ホ,**対照区との聞に有意差あり (*: p<0.05, **: pく0.01)

- 149-

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鶏病研究会報

た。感染後 14日には 106給与区で有意に低下し (p<0.05).

感染後 21日では対照区の SE菌数は1Q2"CFU/gに対し,

105給与区は 1005CFU/g.106給与区では 100'CFU/gと有

意に低値であった (~、ずれも p< O.0 1) 。

3. 試験 3

試験 3-1では. 103CFU/羽の SEを7日齢ひなに感染

させ,感染後 35日までの盲腸便中の SE菌数を測定し

た。表3にSE菌数を,表 4にSE陽性率を示した。感染

後 14日までは,試験区の SE菌数は対照区に比べわず

かに低い値であった。 SE陽性率は, 各区とも 100%で

あったが, 感染後 14日では直接培養での SE陽性率は,

表 2. 生菌剤添加量と盲腸便中の SE菌数 (試験 2)

感染後日数

7 14 21

105給与区 6. 2:t0 .60) 4.0土0.9 0.5:t1.1帥

106給与区 5.6:t1.6 3.4:t0.9・ O. 4:t0. 9**

対照区 6.7:t0.7 4.5:t1.1 2.7:t1.7

対照区が 90%であるのに対し,試験区では 40%であっ

た。 感染後 21日には. SE菌数は対照区が 1066CFU/g

であるのに対し,試験区では1Q29CFU/gと有意に低値

となった (p<O.01)oSE陽性率は,感染後 21日から 28

日にかけて,試験区で 100%から 50% まで大きく減少

した。感染後 35日には,対照区の SE陽性率が 90%で

あるのに比べ,試験区は 10% と低く. SE菌数も有意に

低値であった (p<0.05)。また,試験区の盲腸使中の生

菌剤菌数は 106.5_106

.8CFU / gの範囲にあり,飼料中の

生菌剤菌数Cl060CFU/g)を試験期間を通して上回って

いることを確認した。

試験 3-2の SE菌数および SE陽性率の成績をそれ

ぞれ表 5.6に示す。試験期間を通して試験区の SE菌数

は 101.0CFU/g以下の低値で推移し,対照区との聞に有

意差が認められた (p<0.01)。また,試験区の SE陽性率

は感染後 7日の 10%から緩やかに上昇したものの,感

染後 28日の 50%がピークであった。対照区の SE菌数

は感染後 7日の W OCFU/gから緩やかに増加し感染後

28日にピーク値である1Q13CFU/gを示した。対照区の

0) SE平均菌数(IogCFU/g)士標準偏差 SE陽性率は 80-100%であったが,感染後 7および 14

..** .対照区に対して有意差あり (・:p<0.05. **:pく0.01) 日における直接培養での陽性率は 50-60%を示し,そ

表 3. 生菌剤jを給与したひなの盲腸便中の SE菌数 (試験3-1)

7 14

試験区 4.7士1.90) 5.0:t1.6

対照区 6.3:t2.1 5.4:t2.0

O)SE平均菌数(IogCFU/g):t標準偏差

対照区に対して有意差あり (p<O.01)

感染後日数

21 28 35

2.9:t1.5** 2. 8:t2. 4** 0.4:t1.3**

6.6:t1.6 6.4:t1.8 5.8:t2.1

表 4. 生菌剤を給与したひなの盲腸便の SE陽性率 (試験3-1)

感染後日数検査法

7 14 21 28 35

試験区 直接培養 800) 40 40 30 10

増菌培養 20 60 60 20 。遅延 2次増菌培養 。 。 。 。 。

結果b) 100 100 100 50 10

対照区 直接培養 100 90 90 90 90

増菌培養 。 10 10 10 。遅延 2次増菌培養 。 。 。 。 。

結果 100 100 100 100 90

0) SE陽性率 (%)

b) 3つの検査法で lつでも陽性となった率

- 150一

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第 43巻 2007 年

表 5. 生菌剤を給与したひなの盲腸使中の SE菌数(試験 3-2)

感染後日数

7 14 21 28 35

試験区 0.2::!::0.6料 O. O::!::O. 0" O. 6::!:: 1.0帥 1.0::!::1.1柿 O.O::!::O.O"

対照区 3.0::!::1.9 3.5::!::2.3 5. 8::!:: 1. 8 7 .3::!::0. 5 6.5::!::2.3

a) 平均菌数(JogCFU/g)土標準偏差

.. .対照区に対して有意差あり (p<O.01)

表 6. 生菌剤を給与したひなの盲腸便の SE陽性率(試験 3-2)

感染後日数検査法

7 14 21 28 35

試験区 直接培養 oa) 。 。 。 。増菌培養 10 。 30 50 。

遅延2次増菌培養 。 。 。 。 。結果b) 10 。 30 50 。

対照区 直接培養 60 50 90 100 90

増菌培養 20 30 10 。 。遅延 2次増菌培養 。 10 。 。 。

結果 80 80 100 100 90

a) SE陽性率(%)

b) 3つの検査法で lつでも陽性となった率

の後 90~100% に上昇した。

試験 3-2 において盲腸使中の生菌剤菌数は 1064~106g

CFU/gの範囲にあり,試験期間を通して飼料中の生菌

剤菌数を上回っていた。

考 察

家畜の生産性を改善する目的で畜産分野に応用されて

きた生菌剤]3)だが, 現在では養鶏場におけるサルモネラ

をはじめとする病原細菌の対策として検討されてい

る1.14.16.17)。 しかしながら,加熱加工飼料に応用できる熱

耐性および有機酸添加飼料と併用できる耐酸性を有し,

さらに飼料への添加後も長期に安定して存在する芽胞形

成細菌を生菌剤として給与し,鶏のサルモネラに対して

効果を示 したとの報告は限られている5.8)。そこで本試験

ては,土壌から分離した B抑制的 JA引〈株を鶏に給

与して安全性を確認し,鶏の SE感染試験でのサルモネ

ラ増殖抑制l効果について検討した。

試験 lでは.106および 108給与区で体重の増加が認め

られ,飼料要求率の改善が確認された。試験期間中にお

けるひなの健康状態,試験終了時の剖検所見および組織

所見に異常は認められなかった。これらの結果から,生

菌剤がひなの発育に悪影響を及ぼすことはなく安全性が

確認され,混合飼料として活用できることが示された。

試験 2では,生菌剤jの添加濃度を検討するため 105お

よび 106給与区を設定した。生菌剤の給与区は対照区に

比べ消化管内での SEの増殖を有意に抑制する効果がみ

られた (p<0.01)。また. 106給与区は 105給与区よりサ

ルモネラ抑制効果が高く,生菌剤lの添加率を上げること

によって SE増殖抑制効果が高まることが確認された。

試験 3では 2回の試験を実施した。いずれの試験にお

いても盲腸使中の生菌剤菌数は給与した飼料中の生菌剤

菌数を上回っていた。摂取後の飼料は飲水および消化液

と混合され,消化管内容物およひ。排池物の水分含量は飼

料のそれに比べて極めて高くなる。このことから,摂取

後の生菌剤は希釈されていると考えられ,生菌剤lが消化

管内で増殖していなければ盲腸使中の菌数は飼料中に比

べて低値を示すことが予想される。 しかし,今回の調査

では盲腸便中の生菌剤菌数は飼料中よりも高かったこと

から,生菌剤が鶏の消化管を通過中に増殖している可能

性が示された。

試験 3-1において試験区の SE菌数は感染後 14日ま

で対照区に比べてわずかに低く推移し,感染後 21日以

- 151ー

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鶏病研究会報

降に SE菌数が大きく減少し対照区との聞に有意差が認

められた。この傾向は試験 2と同様と思われた。今井ら

の報告5)においても生菌剤j給与区の SE菌数が有意に減

少したのは感染後 25日であり,同時期に SE菌数が減

少したことが示された。一方,試験 3ー2では,対照区の

SE菌数ならびに SE陽性率は緩やかに増加し,感染後

28日にピークを迎え,その後減少に転じた。試験区の

SE菌数は試験期間を通して有意に低値を示した (p<

0.00。感染後のサルモネラの増殖が緩やかな場合,ひな

の消化管内における生菌剤j菌数が SE菌数に対して相対

的に高くなるため,生菌剤の効果がより得られやすい可

能性が推測された。

生菌剤給与による飼養成績改善の作用機構については

諸説あり,腸内有害菌の増殖抑制,消化酵素の産生とビ

タミン合成,免疫機構の刺激などが可能性として考えら

れている8)。腸内有害菌の増殖抑制の作用機構について

は,抗生物質の産生,消化管への定着による競合排除,

栄養素の競合,有機酸産生などが考えられているが,わ

れわれは本菌株が抗生物質を産生しないことおよび消化

管粘膜への長期の定着性が低いことを既に確認している

(未発表)0Tamら15)はB.subtilis PY-79株が動物の消

化管内を通過中に発芽,増殖していることを明らかにし

ており,本菌株も消化管内を通過中に発芽,増殖してい

る可能性が示された。 さらに,生菌剤菌数が SE菌数に

対して相対的に高くなると盲腸便中の SE菌数の減少が

みられることから,本生菌剤jが鶏の消化管内でサルモネ

ラなどの病原性細菌と栄養素を競合している可能性が考

えられる。 また,試験 2および 3-1で SE菌数の有意な

減少が認められた感染後 21日前後は,鶏の腸内細菌叢

の完成9) 自然免疫の獲得7)の時期と重なることから,病

原体に対する鶏の自然抵抗性の獲得と生菌剤が関連して

SEの増殖が抑制された可能性も考えられる。今後は,

消化管内での生菌剤と腸内細菌叢の推移および免疫系の

獲得についてさらに検討を重ね作用機構を明確にする必

要があると考える。

サルモネラの防除には,清浄なひなの導入,鶏舎の洗

浄 ・消毒,ネズミ対策などの一般衛生管理を徹底するこ

とで鶏がサルモネラに感染するリスクを最小限に抑え,

さらに飼養環境を改善してストレスを軽減し,鶏の自然

抵抗性を強化することが重要である。 このように基本的

な対策を実施した上で本生蘭剤を給与することが農場の

サルモネラ対策に役立つものと考えられる。

文 献

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- 152ー

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第 43巻 2007 年

Bacillus subtilis JA-ZK Prevents SalmonellαEnteritidis Colonization

in Chickens

Naosuke Kumagae, Yasuo lmai, Tsuyoshi Tanaka, Megumi Ogawa

and Shizuo Sato

Zen-noh Institute of Animal Health, 7 Ohja-machi, Sakura-shi, Chiba 285-0043

Summary

Bacillus subtilis strain JA-ZK was assessed as a new probiotic in poultry by studying its

ability to promote growth rate, to increase f巴edconversion efficiency, and to prevent Salmonella

Enteritidis (SE) colonization in chicks. In experiment 1, adding the probiotic to the feed was found

to improve the growth rate and feed conversion efficiency in chickens. In experiment 2, chicks

were fed 105 or 106CFU/g of probiotic. All groups were challenged per os with 103 SE on day 7. SE

in the feces decreased in the chicks provided the probiotic. The 106 group in particular exhibited

higher efficacy than the 105 group. In experiment 3, two trials were performed to evaluate

prevention of SE colonization in chicks. Chicks were fed 106CFU/g of the probiotic. All chicks

were challenged per os with 103 SE on day 7. In both trials, the SE in the feces decreased

significantly (p<O.Ol) in the chicks provided the probiotic. These studies demonstrated that B

subtilis JA-ZK had positive effects on chicks as a probiotic and protected chicks against Salmonel-

la

(J. Jpn. Soc. Poult. Dis., 43, 148-153, 2007)

Key words : Bacillus subtilis, chicks, probiotics, Salmonella control

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