新局面の欧州物流 - daily-cargo · 2009-06-30 ·...

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一大混載拠点 近年、中東欧市場の隆盛を背景に成長 を続けるFRA。中東欧諸国に隣接してい るという地理的条件や冷戦の歴史を背景 とした文化的親密さが、需要取り込みの ための好条件として働いていることは言う までもない。一大混載拠点としての成長し た要因の1つは、競争の激しい欧州にあ って中東欧向けフィーダーの軸となるトラッ ク輸送に不可欠な道路網が備わっている ことだ。空港の周りを車で走ればすぐに わかることだが、ドイツ国内を東西に走る A3道路と南北に走るA5道路が同空港の 目の前で交わっている。いわゆる“アウト バーン”だ。高速を降りた後も道路は幅広 く、貨物施設へのアクセスにも難はない。 加えて空港周辺には貨物施設拡大に最適 な用地が広がっている。これらの周辺環 境こそ、FRAが欧州の一大混載拠点と しての地位を確立できた大きな要素だ。 同空港の概要に触れておくと、開港は 1936年。滑走路は東西に走る平行滑走路 2本(ともに 4000 m)と南北に走る第3滑 走路の合計3本。旅客ターミナルは第1と 第2の2カ所だ。フライト・スケジュールを 見ると、今年夏季ダイヤでは 125 社が合計 週4580便の旅客便を運航。109カ国・307 都市との間を結んでいる。貨物便は31社 の週 250 便が就航し、仕向地は 42カ国・ 83 都市に及んでいる。 空港内の貨物施設は平行滑走路を挟ん で北部と南部に分かれる。北部のカー ゴ・シティー・ノース(CCN)には、同空港 CARGO NOVEMBER 2008 11 新局面の欧州物流 特集 1 特集 1 厳しさ増すもロシア・中東欧に市場性 物流サービスも堅実に機能強化 航空輸送編 数年来、欧州の生産拠点として注目を浴びている中東欧市場。EU(欧州連合) の拡大に伴い、荷主の生産拠点がより生産条件の整った国・地域に向けてシフト する中、中東欧への“空”のゲートウェーとして旺盛な需要の伸びを享受しているの がフランクフルト国際空港(FRA)だ。アムステルダム・スキポール空港と並んで、 欧州の混載取り扱い拠点としての地位を確立した同空港だが、旺盛な中東欧向け 貨物需要を取り込むことで近年、その存在を際立たせている。そしてFRAを拠点に ネットワークを広げるルフトハンザ・カーゴ(LCAG)は、中東欧市場の需要を取り 込むべくFRAでの貨物施設拡大に着手。またフランクフルトだけでなく、ミュンヘン、 ライプチヒを加えた“3 ハブ空港体制”を確立、今後の成長に向け先手を打ってい る。これに対し、世界のライバル・キャリアたちは、それぞれのハブ空港から各社独 自の戦略に基づきLCAGとのシェア争いに挑む。LCAGを中心としたFRAの現況 と各キャリアの欧州向けサービスなどをフォーカスした。(稲垣 健、山本佳典) 混載拠点フランクフルト空港の南部展開続く 旺盛なロ・中東欧需要にキャリア各社が対応 新局面の欧州物流 LCAG の MD11F ●航空輸送編 ●海上輸送編 ● ロジスティクス編 新局面の欧州物流 厳しさ増すもロシア・中東欧に市場性 物流サービスも堅実に機能強化 ●航空輸送編 ●海上輸送編 ● ロジスティクス編 米国を震源地にこの秋、突如として全世界を襲った金融危機。なかでも欧州各国は打撃が大きく、相 次ぐ金融機関の国有化をもたらした。欧州トレードにも停滞感が出ているが、拡大欧州連合(EU)の当 地たる中東欧やロシアなど新市場はなお堅調だ。物流サービスの取り組みも堅実に強化されている。 これらの地域にまつわる物流が新たな局面に入り、今後どのように変化していくかが注目される。今 回の特集では中東欧の物流の今後をにらみ、サービスの現状と取り組みを紹介する。航空編では、中 東欧への最大のゲートウェーであるフランクフルト空港を現地取材し、マーケットやサービスの現状 をリポート。海運編では向かい風に変わった欧州航路で、依然好調な中東欧市場への取り組みを紹介。 ロジスティクス編では中東欧・ロシア新市場になお挑むフォワーダー各社の動きをまとめた。 米国を震源地にこの秋、突如として全世界を襲った金融危機。なかでも欧州各国は打撃が大きく、相 次ぐ金融機関の国有化をもたらした。欧州トレードにも停滞感が出ているが、拡大欧州連合(EU)の当 地たる中東欧やロシアなど新市場はなお堅調だ。物流サービスの取り組みも堅実に強化されている。 これらの地域にまつわる物流が新たな局面に入り、今後どのように変化していくかが注目される。今 回の特集では中東欧の物流の今後をにらみ、サービスの現状と取り組みを紹介する。航空編では、中 東欧への最大のゲートウェーであるフランクフルト空港を現地取材し、マーケットやサービスの現状 をリポート。海運編では向かい風に変わった欧州航路で、依然好調な中東欧市場への取り組みを紹介。 ロジスティクス編では中東欧・ロシア新市場になお挑むフォワーダー各社の動きをまとめた。

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Page 1: 新局面の欧州物流 - Daily-Cargo · 2009-06-30 · 同空港の概要に触れておくと、開港は 1936年。滑走路は東西に走る平行滑走路 2本(ともに4000m)と南北に走る第3滑

一大混載拠点

近年、中東欧市場の隆盛を背景に成長

を続けるFRA。中東欧諸国に隣接してい

るという地理的条件や冷戦の歴史を背景

とした文化的親密さが、需要取り込みの

ための好条件として働いていることは言う

までもない。一大混載拠点としての成長し

た要因の1つは、競争の激しい欧州にあ

って中東欧向けフィーダーの軸となるトラッ

ク輸送に不可欠な道路網が備わっている

ことだ。空港の周りを車で走ればすぐに

わかることだが、ドイツ国内を東西に走る

A3道路と南北に走るA5道路が同空港の

目の前で交わっている。いわゆる“アウト

バーン”だ。高速を降りた後も道路は幅広

く、貨物施設へのアクセスにも難はない。

加えて空港周辺には貨物施設拡大に最適

な用地が広がっている。これらの周辺環

境こそ、FRAが欧州の一大混載拠点と

しての地位を確立できた大きな要素だ。

同空港の概要に触れておくと、開港は

1936年。滑走路は東西に走る平行滑走路

2本(ともに4000m)と南北に走る第3滑

走路の合計3本。旅客ターミナルは第1と

第2の2カ所だ。フライト・スケジュールを

見ると、今年夏季ダイヤでは125社が合計

週4580便の旅客便を運航。109カ国・307

都市との間を結んでいる。貨物便は31社

の週250便が就航し、仕向地は42カ国・

83都市に及んでいる。

空港内の貨物施設は平行滑走路を挟ん

で北部と南部に分かれる。北部のカー

ゴ・シティー・ノース(CCN)には、同空港

CARGO NOVEMBER 2008 11

新局面の欧州物流特集 1

特集 1

厳しさ増すもロシア・中東欧に市場性物流サービスも堅実に機能強化

航空輸送編 数年来、欧州の生産拠点として注目を浴びている中東欧市場。EU(欧州連合)

の拡大に伴い、荷主の生産拠点がより生産条件の整った国・地域に向けてシフト

する中、中東欧への“空”のゲートウェーとして旺盛な需要の伸びを享受しているの

がフランクフルト国際空港(FRA)だ。アムステルダム・スキポール空港と並んで、

欧州の混載取り扱い拠点としての地位を確立した同空港だが、旺盛な中東欧向け

貨物需要を取り込むことで近年、その存在を際立たせている。そしてFRAを拠点に

ネットワークを広げるルフトハンザ・カーゴ(LCAG)は、中東欧市場の需要を取り

込むべくFRAでの貨物施設拡大に着手。またフランクフルトだけでなく、ミュンヘン、

ライプチヒを加えた“3ハブ空港体制”を確立、今後の成長に向け先手を打ってい

る。これに対し、世界のライバル・キャリアたちは、それぞれのハブ空港から各社独

自の戦略に基づきLCAGとのシェア争いに挑む。LCAGを中心としたFRAの現況

と各キャリアの欧州向けサービスなどをフォーカスした。(稲垣 健、山本佳典)

混載拠点フランクフルト空港の南部展開続く旺盛なロ・中東欧需要にキャリア各社が対応新局面の欧州物流

LCAGのMD11F

●航空輸送編●海上輸送編●ロジスティクス編

新局面の欧州物流厳しさ増すもロシア・中東欧に市場性物流サービスも堅実に機能強化

●航空輸送編●海上輸送編●ロジスティクス編

米国を震源地にこの秋、突如として全世界を襲った金融危機。なかでも欧州各国は打撃が大きく、相

次ぐ金融機関の国有化をもたらした。欧州トレードにも停滞感が出ているが、拡大欧州連合(EU)の当

地たる中東欧やロシアなど新市場はなお堅調だ。物流サービスの取り組みも堅実に強化されている。

これらの地域にまつわる物流が新たな局面に入り、今後どのように変化していくかが注目される。今

回の特集では中東欧の物流の今後をにらみ、サービスの現状と取り組みを紹介する。航空編では、中

東欧への最大のゲートウェーであるフランクフルト空港を現地取材し、マーケットやサービスの現状

をリポート。海運編では向かい風に変わった欧州航路で、依然好調な中東欧市場への取り組みを紹介。

ロジスティクス編では中東欧・ロシア新市場になお挑むフォワーダー各社の動きをまとめた。

米国を震源地にこの秋、突如として全世界を襲った金融危機。なかでも欧州各国は打撃が大きく、相

次ぐ金融機関の国有化をもたらした。欧州トレードにも停滞感が出ているが、拡大欧州連合(EU)の当

地たる中東欧やロシアなど新市場はなお堅調だ。物流サービスの取り組みも堅実に強化されている。

これらの地域にまつわる物流が新たな局面に入り、今後どのように変化していくかが注目される。今

回の特集では中東欧の物流の今後をにらみ、サービスの現状と取り組みを紹介する。航空編では、中

東欧への最大のゲートウェーであるフランクフルト空港を現地取材し、マーケットやサービスの現状

をリポート。海運編では向かい風に変わった欧州航路で、依然好調な中東欧市場への取り組みを紹介。

ロジスティクス編では中東欧・ロシア新市場になお挑むフォワーダー各社の動きをまとめた。

Page 2: 新局面の欧州物流 - Daily-Cargo · 2009-06-30 · 同空港の概要に触れておくと、開港は 1936年。滑走路は東西に走る平行滑走路 2本(ともに4000m)と南北に走る第3滑

を拠点とするLCAG

の全貨物を扱う施設、

ルフトハンザ・カーゴ・

センター(LCC)があ

る。同施設は72年の

オープンから、現在ま

での26年間、LCAG

のオペレーションの中

枢としてフル稼働して

いる。倉庫面積は7万

㎡。600台のセキュリ

ティーカメラを導入し、

TAPA認証も受けた

保安レベルの高い24

時間施設。セキュリテ

ィーに対する顧客の要

求は高まっており、貨

物輸送における必須

アイテムとして重要視

している。同施設に

は“セキュリティー・ハ

ブ”としての位置付けがある。LCCは第1

旅客ターミナルの西側に位置し、輸出棟、

輸入棟、トランジット棟のほか、ブレークダ

ウン専用スペースが3カ所、生鮮専用庫、

貴重品専用庫、アニマルセンターなどが林

立する。その隣にはフランクフルト空港公

団/貨物オペレーターとして同空港での航

空機積み込み、取り降ろしを一手に担う

フラポートの貨物施設とフェデラルエクス

プレスの専用上屋が存在する。

一方、南部のカーゴ・シティー・サウス(C

CS)では、西側施設にフラポート、スイス

ポート、LUGなどの貨物ハンドリング・オペ

レーターが施設に入居し、キャリアからの

業務を受託している。東側にはフォワーダ

ー施設が集中しており、日本通運、郵船航

空サービス、近鉄エクスプレス、DHL、パ

ナルピナなどが拠点を構えている。CCS

展開以前は空港北部のケルスターバッハ

地区がロジスティクス企業の拠点となって

いたが、現在は空港拡大の進むCCSがフ

ォワーダーの進出場所となっている。

LCAGのシェアは8割

昨年、FRAで取り扱われた貨物の総重

量は212.7万㌧。そのうちの約8割強に当

たる約180万㌧を手掛けるのが同空港を

拠点としてネットワークを広げるLCAGだ。

中東欧向けゲートウェーとしての地位を固

めたFRAにあって圧倒的な貨物シェアを

誇るLCAGだが、隆盛の一途にある現在

の中東欧市場動向について、どのようにと

らえているのか。同社のハッソ・シュミット

東欧地域統括マネージャーに現状を聞い

てみた。

シュミット氏は「LCAGにとって、中東欧

市場は近年の成長に欠

かせない重要な存在」

と語る。「旅客便ベリー

とトラッキングによる当

社のネットワークは競争

力が非常に高い。LC

AGでは全体の売上の

うち、中東欧地域での収入が7%を占め

る。中東欧市場での当社シェアは3割以上

と見ている」と分析する。

まずは収入シェアの“7%”という数字に

注目したい。世界の巨大市場間で貨物輸

送を手掛けるLCAGだが、人口規模とし

ては1億人に満たない中東欧市場で計上

されるこの数字は、LCAGのコミットメント

の表れとみていい。また、市場シェアの

“3割以上”は、中東欧向けの大動脈であ

るフランクフルトからのフォワーダーによる

トラック輸送分を除いた数字。さらに航空

貨物運賃の精算システムであるCASSに

対応していない国々からの数字も除かれ

ている。つまり、中東欧向け需要の半分近

くを同社が手掛けていると言っても差し支

えない。「中東欧市場の需要の高さは、欧

州・アフリカ地域の中でも牽引けんいん

役として大

きく貢献している。各国の規模は小さい

が、中東欧地域としてみればイタリアやフ

ランスといった大国にも引けをとらない市

場規模だ」とシュミット氏は評価する。

CARGO NOVEMBER 2008 13

新局面の欧州物流特集 1

ADルフトハンザカーゴ

シュミットマネージャー

図1 フランクフルト国際空港の施設概要

A3

A5

12

7

4

6

3

5

123

第1旅客ターミナル 第2旅客ターミナル カーゴ・シティー・ノース(CCN)

456

カーゴ・シティー・サウス(CCS) ルフトハンザ・カーゴ・センター 第4滑走路(予定)

7 第3旅客ターミナル(予定)

現在の施設

増設予定地

Page 3: 新局面の欧州物流 - Daily-Cargo · 2009-06-30 · 同空港の概要に触れておくと、開港は 1936年。滑走路は東西に走る平行滑走路 2本(ともに4000m)と南北に走る第3滑

特にEU加盟を果たしたルーマニアでは、

これまで国境周辺でのトラック渋滞が悩み

の種だったが、EU加盟後は出入国手続き

が簡素化されて渋滞が解消。今後の成長

株として期待を持って見ている」と話す。

一方、今年5月に世界貿易機関(WTO)

への加盟を果たしたウクライナでは、ポー

ランドでの賃金上昇を背景に、繊維関係

の生産機能が流入し始めているという。た

だ、これについては、フォワーダーの中で

「現時点でWTO加盟は効力を発揮してい

ない。このままでは、ただのアドバルーン

にすぎない」と慎重な声も聞かれる。同国

の通関体制について「依然、グレーな取引

が続いており、早期の市場展開は見込め

ないだろう」との見方があり、現時点では、

潜在市場ではあるものの、昨年、EU加盟

が実現しなかった点から見ても、その他

の中東欧諸国とはまだ一線を画した部分

があると言えそうだ。

浮上する新市場

シュミット氏が前段で言及した“シェンゲ

ン協定”について少し補足しておこう。シ

ェンゲン協定とは、協定国で構成される領

域内(シェンゲン域内)での国境出入国管

理の廃止、また領域外との出入国管理に

関する協定国同士の調和を実現するもの

だ。初回の調印は85年。ベルギー、フラ

ンス、ドイツ、ルクセンブルク、オランダの5

カ国により調印された。その後、協定国が

増加し、99年のアムステルダム条約でEU

憲法に取り込まれることが決まった。現在

では、ベルギー、フランス、ドイツ、ルクセ

ンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、

イタリア、オーストリア、ギリシャ、デンマー

ク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、

スウェーデン、エストニア、ラトビア、リトア

ニア、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、

スロベニア、チェコ、マルタの計24カ国が

調印し、領域内でのボーダーレス化が実

現している。来年にはキプロス、11年には

EU加盟が実現したブルガリア、ルーマニ

アでの国境管理廃止が実施される予定

だ。ここに、また1つ新市場の浮上が予想

される。

FRAは南部拡張

今後もしばらく高需要が続くと見られる

中東欧市場だが、ゲートウェーであるFR

Aでもキャパシティー拡大に向けた計画が

着 と々実行に移されている。第4滑走路の

CARGO NOVEMBER 2008 15

新局面の欧州物流特集 1

ポーランド、チェコが高需要

フランクフルトから中東欧向けの大動脈

になっているのが、フォワーダーが手掛け

る同地止め混載貨物の転送トラック輸送

だ。一方、中東欧市場の仕向地にFRAか

らの旅客便と陸路のトラック輸送(中東欧

発貨物にはウィーンでの混載対応も)で対

応するLCAGとしては「実際のところ、中

東欧向け貨物の全体量は正確に把握でき

ていない」(シュミット氏)というのが現実

だ。それを踏まえた上で、同社の中東欧

市場実績を見よう。

LCAGによる今年1~9月期の中東欧地

域実績(輸出ベース)は前年同期比9.3%

増。その中でも、伸び率の高いポーラン

ドで40%増、チェコで約30%増と、需要

の取り込みに成功している。市場規模とし

ては、ハンガリー、チェコ、ポーランドの順

に僅きん

差さ

で並んでおり、LCAGのシェアは、

ハンガリー発着で40%、チェコ発着で

44%、ポーランド発着で36%となってい

る。3大国に続くのは、ブルガリア、ルーマ

ニアのほかスロベニアなどだ。

ポーランド、チェコが高成長を続ける

中、ハンガリーはシェアとしては最大規模

を誇るが、「一部の企業が拠点を置いてい

るため需要は高いが、最近は伸びが鈍化

している」(シュミット氏)状況という。イン

フラ開発が滞っていることから、進出企業

の生産体制がハンガリーからルーマニアや

スロベニアにシフトする可能性があり「そ

の動きによっては中東欧市場に大きな影響

が出るだろう」との見方をシュミット氏は示

している。

EU加盟で成長する市場

中東欧に限ったことではないが、新興

工業地域での生産拠点展開には、EU拡

大に見られるような経済圏拡大の動きと、

それに付随する規制緩和の進捗しんちょく

状況が

大きく影響する。LCAGのフローリアン・フ

ァフ副社長(欧州・アフ

リカ地域担当)は中東

欧市場の発展につい

て「これまでEU拡大

とともに段階的な成長

を遂げてきた。昨年初

めにはブルガリアとル

ーマニアがEU加盟、

今年明けにはシェンゲン協定が発効し、欧

州24カ国間のボーダーレス化が実現した。

CARGO NOVEMBER 200814

ファフ副社長

Page 4: 新局面の欧州物流 - Daily-Cargo · 2009-06-30 · 同空港の概要に触れておくと、開港は 1936年。滑走路は東西に走る平行滑走路 2本(ともに4000m)と南北に走る第3滑

建設、南部貨物地区CCSの拡張、第3旅

客ターミナル建設の3つだ。このうち、滑

走路建設については近隣住民との協議が

まとまっておらず、正式決定に至っていな

いが、建設予定地はA3道路を挟んだ空

港北部に決まっており、誘導路を引くにあ

たって北部施設再編の話も進んでいる。

夜間フライト制限に関する協議がまとまれ

ば、建設に向けてゴーサインが出ることは

間違いない。

注目したいのは南側CCS拡張の動きだ。

現在、CCSにはフラポートの所有施設があ

り、邦人系キャリア3社をはじめ航空貨物

関連企業200社以上(フォワーダー、エクス

プレス含む)が利用している状況だ。施設

の拡大はそのさらに南で進んでおり、今後

の滑走路建設による需要増に対応するも

のとなる。

「空港南部での展開は、FRAとして大

成功」とファフ氏が評価する中、LCAGも

平行滑走路の南側、ランプ際に今後の航

空市場にどんどん投入されていく見込み

のA380型専用ハンガーを建設。そして今

年6月、今後の貨物事業展開で軸となるだ

ろう“ルフトハンザ・カーゴ・サービス・セン

ター”(LCSC)の建設に着手した。LCSC

は倉庫面積が2万㎡、オフィス面積が8000

㎡。現在、ケルスターバッハにある欧州セ

ールス部門を移管し、来年9月に稼働する

予定だ。

中東欧向け3空港体制

LCAGのハブとして現在最も大きな比重

を占めるのがFRAであるが、ファフ氏は

「われわれの戦略は、FRAだけでなく、ミ

ュンヘン、ライプチヒの2空港も加えた3空

港ハブ体制で成り立っており、3拠点とも

中東欧向けでは戦略的に重要な位置にあ

る」と説明する。

FRAが貨物便、旅客便ともに乗り入れ

る最大の拠点である一方、ドイツ南部に位

置するミュンヘンは旅客便ネットワークの

ハブ空港として成長してきており、貨物面

では旅客機ベリーを使用したスピーディー

な接続輸送が戦略として重要な位置を占

めてきた。ファフ氏は「欧州域内路線で比

較すると、ミュンヘン空港は既にFRAを上

回る62以上の就航地に接続しており、全

世界で80都市に乗り入れている。ハブ空

港として位置付けるには十分な規模に成

長した」と語る。また欧州域内ネットワーク

CARGO NOVEMBER 200816

では、航空便だけでなくトラ

ッキングでも豊富なキャパシ

ティーを提供している。

「FRAが成熟を迎える中、

LCAGでは成長著しいミュン

ヘンからのネットワーク拡大

に力を入れる方針。既に旅

客便の新規開設はミュンヘン

に集中している。正式には

決まっていないが、ミュンヘ

ンの貨物施設を拡大する計

画も検討されている」とファ

フ氏は話す。LCAGのミュン

ヘン拡大の動きに合わせる

ように、フォワーダー大手のド

イツ日本通運でもFRAのバ

ックアップとしてミュンヘンの

中東欧向け拠点化を打ち出

しており、同空港の存在に注

目が集まりつつあることは確

かなようだ。

一方、LCAGが第3ハブと

して重視しているライプチヒ

空港は、3つのハブ空港の中

で最も東に位置し、中東欧向け輸送に最

適な場所となっている。3600mの並行滑

走路2本に加え、未開発の広大な敷地を

有しており、LCAGにとっては夜間便制限

のあるフランクフルトでのキャパシティー補ほ

填てん

という意味でも重要な戦略的位置を占

めるだろう。同空港の主役となるのは、今

年1月にLCAGとDHLが設立した貨物専

用航空会社、エアロロジック航空だ。同社

の就航に先立ち、LCAGではDHL向けに

運航していたケルン発の貨物便フライトを

同空港に移管。また、DHLでも欧州の拠

点機能を同空港に移管している。エアロ

ロジックは来年後半の就航を目途に、現

在、パイロット訓練の最中。来年4月まで

に最新双発機のB777-200Fを2機受領、

同年末までに4機に拡大し、最終的には

11機体制とする計画だ。就航地はアジア

が中心。日本でも中部空港、羽田空港な

どが候補地に挙がっている。

また、資本関係にある深 の翡翠航空

とのコンビネーションで世界周航ネットワー

クを確立することも視野にあるという。欧

州とアジア、アジアと米国、米国と欧州。

グループでの世界周航ルート確立が目指

すところだろう。現在はアジア~欧州間の

みを運航する翡翠航空もエアロロジックの

就航によって太平洋線への道が開けてく

る。B777F型11機体制が整えば、DHL向

けに運航しているMD11FのスペースがL

CAGに戻る。世界への展開に応じてキャ

パシティーも順調に増えることになる。

統合でシェア拡大

燃油価格高騰の影響から統廃合の波が

航空業界に押し寄せる中、ルフトハンザグ

ループは今年9月、経営難に陥ったSNブ

リュッセル航空の株式買収に合意した。数

年のうちには100%買収する方針だ。アフ

リカに多くの就航地を持つブリュッセル航

空のグループ化はLCAGにとっても将来的

に有意義な土台作りとなる。また、オース

トリア航空買収に向けた動きも中東欧市

場でのシェア拡大に向けて大きな意味を

持つ。「当社とオーストリア航空は、既にス

ターアライアンスのメンバーとして提携関係

にあるが、中東欧市場に対してネットワー

クを1つにし、1つのチームで臨むことは

非常に関心がある。中東欧での地位固め

によい機会」とファフ副社長は期待を述べ

る。「9月に入って表面化した米国金融破は

綻たん

の影響で、今後も経営難に陥るキャリア

は出てくるだろう。航空業界内の統廃合へ

の動きは加速する。そんな中で前向きな

戦略を打ち出せることがLCAGの状況を

反映している」と自信を示している。

均 訓

CARGO NOVEMBER 2008 17

新局面の欧州物流特集 1

ルフトハンザ・カーゴ・サービス・センター完成イメージ

ワルシャワワルシャワ

プラハプラハ

ウイーンウイーン

アアムステルダムステルダムム

ブリュッブリュッセセルル

パリパリ

モスクワモスクワ

ヘルシンキヘルシンキ ストッストックホルムクホルム

ブタペストブタペスト

ワルシャワ

プラハ

ウイーン

アムステルダム

ブリュッセル

パリ

モスクワ

ヘルシンキ ストックホルム

ブタペスト オオーースストトリリアア

アアイイルルラランンドド

イイギギリリスス ベベルルギギーー

フフラランンスス

ススロロベベニニアア ススペペイインン ポポルルトトガガルル

ススイイスス

ノノルルウウェェーー

ススウウェェーーデデンン

エエスストトニニアア

ララトトビビアア

リリトトアアニニアア

ポポーーラランンドド

チチェェココ

ドドイイツツ

ハハンンガガリリーー

セセルルビビアア

モモンンテテネネググロロ

ククロロアアチチアア

イイタタリリアア

ギギリリシシャャ トトルルココ

ブブルルガガリリアア

ルルーーママニニアア

オオラランンダダ

デデンンママーークク

ウウククラライイナナ

フフィィンンラランンドド

ロロシシアア

ススロロババキキアア ルルククセセンンブブルルググ

オーストリア

アイルランド

イギリス ベルギー

フランス

スロベニア スペイン ポルトガル

スイス

ノルウェー

スウェーデン

エストニア

ラトビア

リトアニア

ポーランド

チェコ

ドイツ

ハンガリー

セルビア

モンテネグロ

クロアチア

イタリア

ギリシャ トルコ

ブルガリア

ルーマニア

オランダ

デンマーク

ウクライナ

フィンランド

ロシア

スロバキア ルクセンブルグ

フランクフルト

ミュンヘンミュンヘン ミュンヘン

ライプチヒ

チューリッヒ

コペンハーゲンコペンハーゲン コペンハーゲン

サンクトペテルブルク

図2 欧州各国と主要都市