離島の健康と生活を守る -...
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急速に進行した嚥下障害の一例
名瀬徳洲会病院
竹内 麻希
症例:87歳 女性
[主訴]嚥下障害
[現病歴]
独居、ADL完全自立の方。
2010年10月10日頃から食べ物が飲み込みにくい、
肩が凝る、歯茎が痛い、ふらつくという訴えあり。
2010年10月19日に前記症状が持続するため
当院内科外来受診。後日GIF検査施行予定となる。
2010年10月22日に同症状が悪化し当院再受診。
頭部CT・MRIでは特記すべき異常所見なし。
症例:87歳 女性
[既往歴]高血圧症、脊柱管狭窄症、副鼻腔炎
[家族歴]兄:胃癌術後、妹:大腸癌術後
[内服歴]コニール4mg 1錠分1 朝食後
エバミール1mg 2錠分1 眠前
リバロ1mg 1錠分1 眠前
[社会歴]
加計呂麻島出身で奄美大島在住。
飲酒歴・喫煙歴なし。海外渡航歴なし。
[身体所見]
血圧 193/84 mmHg 他バイタル正常範囲内
意識状態:清明 認知症なし
全身状態:no acute distress
身長 138.5cm 体重 45kg
頭頚部:眼瞼結膜貧血なし、眼球突出なし
甲状腺腫大なし、リンパ節腫大なし
両側頚部圧痛なし 、項部硬直なし
胸部:呼吸音清、心音整 心雑音なし
四肢:浮腫なし
[神経学的所見]
脳神経系:瞳孔左右差なし、対光反射あり、
眼振なし、軟口蓋挙上正常
舌萎縮なし
立位・歩行: バランス悪く側方転倒あり
Romberg徴候:陽性
運動系:三角筋 4/4 上腕二頭筋 4/4
上腕三頭筋 5/5 腕頭骨筋 5/5
軽度の両手指巧緻運動障害あり
反射:膝蓋腱反射・アキレス腱反射亢進なし
下肢クローヌスなし
病的反射:Wartenberg +/+ Hoffman ー/ー
初診時および入院時検査所見
[胸部X線]
特記すべき異常なし
[頭部CT]
特記すべき異常なし
[頭部MRI]
特記すべき異常なし
[心電図]
NSR@75, NAD, no acute ST-T change
[呼吸機能検査]
%VC 97%, %FEV1.0 79%
[頚部MRI]
T1強調画像
[頚部MRI]
T2強調画像
入院時検査所見
[血液検査所見]
WBC 14910/μl Na 138mEq/l
Hb 11.6 g/dl K 4.4mEq/l
Ht 38.7 % Cl 101mEq/l
Plt 112.7万/μl BUN 18.7mg/dl
Cr 0.65mg/dl
BS 131 mg/dl
CRP 2.63mg/dl
入院後経過
入院当日 独歩入院、歩行時ふらつき見られず
ムセ込みあるが流動食10/10摂取
第2病日 食事摂取 5/10
第3病日 食事摂取 0/10
第4病日 トイレより帰室時にふらつきあり、
ドアで右側頭部を打撲し血腫となる
その3時間後GIF施行
GIF施行6時間後、開口障害著明となる
入院後経過
第5病日 唾液さえも飲み込めずムセ込みあり。
第6病日 開口障害、嚥下障害進行にて絶食状態
第7病日 耳鼻科にて喉頭ファイバースコープ施行
診察では開口障害あるが発語可能
軟口蓋挙上も良好
咽頭・喉頭の形状及び可動性に異常なし
[喉頭ファイバースコープ検査]
吸気時
[喉頭ファイバースコープ検査]
発声時
入院後経過
第7病日 耳鼻科受診後、嚥下造影検査施行の
ためストレッチャーへ移乗した瞬間に
呼吸状態悪化。
口唇チアノーゼ出現、 SpO2測定 不可
意識レベルJCS Ⅲ-200 ~300
全身強直性痙攣を認めた
エアウェイ挿入後SpO2 85% まで上昇
その後痙攣重責発作のため気管挿管
嚥下障害 鑑別診断
<解剖学的部位による鑑別診断>
1)口腔咽頭嚥下障害
・口唇 ・下顎 ・舌 ・軟口蓋 ・咽頭 ・喉頭
2)食道嚥下障害
・食道 ・頚部
口腔咽頭嚥下障害
1)神経疾患
パーキンソン病
脳血管疾患
多発性硬化症
筋萎縮性側索硬化症
2)筋疾患
皮膚筋炎
重症筋無力症
筋ジストロフィ
食道嚥下障害
1)器質的病変
内因性疾患
・腫瘍 ・憩室 ・ 術後 ・放射線 ・静脈瘤
外因性疾患
・血管走行奇形 ・動脈瘤 ・腫瘍 ・術後
2)機能的運動障害
・蠕動障害
・下部食道括約筋機能の障害
嚥下障害 鑑別診断
<神経筋疾患 発症様式による鑑別>
1)突発性 脳血管障害
2)急性 感染症などの炎症性疾患
3)亜急性 腫瘍、結核性、真菌性
4)慢性 変性疾患、遺伝性疾患
5)再発性 自己免疫性疾患、代謝性疾患
軸椎歯突起後方偽腫瘍
・軸椎歯突起後方に発生する非腫瘍性腫瘤性病変
・機械的ストレスが加わり靭帯が肥厚し形成される
・関節リウマチ患者や高齢者の頚椎、歯突起の骨
折瘢痕周囲に同様の腫瘤が認められる
・MRIにてT1強調画像で脊髄と等~低輝度
T2強調画像で低輝度に映り、どちらでも椎間板と
同等の信号強度である
その後のICUでの経過
・気管挿管後、人工鼻3LでSpO2 96%以上維持
・発熱はなく他バイタルも安定していた
・プロポフォール投与下であったが従命は入り
意思疎通可能であった
・血液検査では炎症反応高値が持続しており、
髄液採取後CTRXを投与開始
・気管切開施行
・その約48時間後にHR40台との報告ありCPAの
状態となりACLS開始
破傷風
第一期:潜伏期であり、肩こり、全身倦怠感、
舌のこわばり等の症状が1~7日間
認められる
第二期:痙攣発作前期であり、開口障害、
嚥下・発音障害、痙笑、歩行困難が
始まり数時間~1週間続く
破傷風
第三期:全身痙攣持続期であり、生命に最も
危険な時期である。全身痙攣、発汗、
後弓反張、発熱、呼吸困難、不整脈
が2~3週間続く。
●受診時期は第Ⅱ期が60%を占める
●発熱、四肢麻痺、知覚障害、意識障害は
発症初期では原則として認められない。
総括
・1週間という急速に進行する嚥下障害の一例を
経験した
・各科で精査されたが依然として原因不明である
・その病態は破傷風感染に極めて酷似しており、
完全に否定はできない
御清聴ありがとうございました
参考文献
・UpToDate
・神経内科ケース・スタディー
黒田康夫 新興医学出版社
・日本脊椎脊髄学会誌
・Review of Medical Biology and Immunology
LANGE