幾何学入門第13回 色々な図形のホモロジー - osami...
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幾何学入門第13回色々な図形のホモロジー
山本修身名城大学理工学部情報工学科
1
いままでの流れ(1)
• やりたいことは図形の位相的性質を解析すること
2
いままでの流れ(2)
• 最初に考えたのは「基本群」というアイデアであった.
3
基点P
基点Pを出発してPへ戻るループが何種類存在するか.ただし,じわじわ変形させて重ねられるものは同じものとする.
結果として,左の例の場合,まんなかの穴の周囲を何回まわるかということが本質的であることがわかる.すなわち,基本群は
となる.π1 = {n|n ∈ Z}
いままでの流れ(3)
• これをもっと代数的(記号的)に表現したい
4
図形を記号で表すために図形を単体(点,線分,三角形など)の集合として定義し直す.
このようにしたとき,それぞれの点や線のつながり方が問題になる.
いままでの流れ(4)
• 記号で扱えるように,それぞれの単体に記号を付加する.
5
a
b
c
d
e
f<abc>
<ab>
<b>
K = {<abc>, <ab>, <b>, <c>, <ac>, ... }
複体 (complex)
いままでの流れ(5)
• 複体上での「ループ」とは何か
6
a
b
c
d
e
f
ループとは端のないものである.すなわち,「境界」を計算したとき,「境界」が0になってしまうもののことをループ(サイクル)と考える.
ループと考えられるもの(鎖)<ab>+<bc>
+<ca>の境界は,<b>-
<a> + <c> - <b> + <a> - <c> であり,すべて打ち消しあって0となる.
∂(サイクル) = 0
境界をとるという意味
いままでの流れ(6)
• サイクルには2種類存在する
7
a
b
c
d
e
f
ある図形の境界になっているサイクル(境界輪体)
ある図形の境界になっていないサイクル(境界輪体でない輪体)
∂(輪体) = 0
∂(図形) = 境界輪体
サイクル
いままでの流れ(7)• 基本群で本質的であったのは,じわじわと1点に変形できない(1点とホモトープでないループであった)
8
a
b
c
d
e
f
境界輪体を付加しても変わらない(じわじわ変形させるのと同じ).
本質的に異なるサイクルを計算したい. ↓境界輪体の差を無視したとき本質的違うものだけを取り出す
ホモロジー群
いままでの流れ(8)
• サイクル(輪体)は一般的な鎖のうち「境界が0になる」という線形な束縛を加えたもの.
• 境界輪体は一般的な鎖のうち,1つ次元の高い鎖の境界になっているもの.したがって線形である.
• サイクルの集合から境界輪体の違いを無視してできる集合のことをホモロジー群と呼ぶ.これは本質的には基本群のアイデアと変わらない.ただし,全く同じものではない.なぜならば考えているのがループではなくサイクルだから(基点もない).
9
ホモロジー群とは(復習)
• ホモロジー群を計算するには,輪体群と境界輪体群を計算し,群を群で割る(割る群によって同値関係を定義して,その同値関係で同値類を作ること).
10
単純な例1(1)
• 単体の定義:2つの三角形によって構成された四角形
11
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
第13回 色々な図形のホモロジーの世界
今回は色々な図形のホモロジー群を計算してみます.ここで得られた結果は,必ずしも基本群とは一致しませんが,似た様な構造をもつことが見えてきます.ホモロジー群は基本群で定義した道 (path) における順序を無視したようなものであり,それ以外についてはほぼ同じ思想の下で考えられたものであると言えます.このように順序による要素を無視することによって,すべてを可換群として扱うことを可能にします.このことを「可換化」などと呼ぶことがあります.
13.1 単純な図形のホモロジー群を計算するホモロジー群を計算することのは結構骨の折れることです.しかし,こ
の場合,方法論ははっきりしていますので,ひたすら機械的に計算すれば,答は出るものです.まず,単純な2つの三角形がくっついた図形のホモロジー群を計算してみます.図 13.1に図形を示します.複体としては,つぎのように定義されます:
K1 = {�abd�, �bcd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.1)
まず,1次元の鎖群は以下のようになります.
C1 = {c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db� |
ci ∈ Z (i = 1, 2, . . . , 5)} (13.2)
この要素の境界を計算するとつぎのようになります:
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= c1(�b� − �a�) + c2(�c� − �b�) +
137
単純な例1(2)
• 0次元のホモロジー群を計算する.
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第13回 色々な図形のホモロジーの世界
今回は色々な図形のホモロジー群を計算してみます.ここで得られた結果は,必ずしも基本群とは一致しませんが,似た様な構造をもつことが見えてきます.ホモロジー群は基本群で定義した道 (path) における順序を無視したようなものであり,それ以外についてはほぼ同じ思想の下で考えられたものであると言えます.このように順序による要素を無視することによって,すべてを可換群として扱うことを可能にします.このことを「可換化」などと呼ぶことがあります.
13.1 単純な図形のホモロジー群を計算するホモロジー群を計算することのは結構骨の折れることです.しかし,こ
の場合,方法論ははっきりしていますので,ひたすら機械的に計算すれば,答は出るものです.まず,単純な2つの三角形がくっついた図形のホモロジー群を計算してみます.図 13.1に図形を示します.複体としては,つぎのように定義されます:
K1 = {�abd�, �bcd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.1)
まず,1次元の鎖群は以下のようになります.
C1 = {c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db� |
ci ∈ Z (i = 1, 2, . . . , 5)} (13.2)
この要素の境界を計算するとつぎのようになります:
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= c1(�b� − �a�) + c2(�c� − �b�) +
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1次の鎖群
第13回 色々な図形のホモロジーの世界
今回は色々な図形のホモロジー群を計算してみます.ここで得られた結果は,必ずしも基本群とは一致しませんが,似た様な構造をもつことが見えてきます.ホモロジー群は基本群で定義した道 (path) における順序を無視したようなものであり,それ以外についてはほぼ同じ思想の下で考えられたものであると言えます.このように順序による要素を無視することによって,すべてを可換群として扱うことを可能にします.このことを「可換化」などと呼ぶことがあります.
13.1 単純な図形のホモロジー群を計算するホモロジー群を計算することのは結構骨の折れることです.しかし,こ
の場合,方法論ははっきりしていますので,ひたすら機械的に計算すれば,答は出るものです.まず,単純な2つの三角形がくっついた図形のホモロジー群を計算してみます.図 13.1に図形を示します.複体としては,つぎのように定義されます:
K1 = {�abd�, �bcd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.1)
まず,1次元の鎖群は以下のようになります.
C1 = {c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db� |
ci ∈ Z (i = 1, 2, . . . , 5)} (13.2)
この要素の境界を計算するとつぎのようになります:
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= c1(�b� − �a�) + c2(�c� − �b�) +
137
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
t1t2 t3
単純な例1(3)
• 0次の境界輪体は,
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図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
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図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
単純な例1(4)
• 0次元の境界輪体群は,
• 0次の輪体群は鎖群と同じ.任意の輪体はつぎのように書ける:
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図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
4次元となります.任意の鎖について
a1�a� + a2�b� + a3�c� + a4�d�
= a1(�a� − �d�) + a2(�b� − �d�) + a3(�c� − �d�)
+(a1 + a2 + a3 + a4)�d� (13.9)
と書けますので,境界輪体分の差を無視すれば,�d�の係数の違いが本質的な違いということになります.これは一般的な整数ですから,ホモロジー群は,
H0 = Z (13.10)
となります.ホモロジー群の次元がベッチ数ですので,この場合,0次元のベッチ数は 1になります.実は,この数はもとの図形の連結性分の個数に等しくなっています(予習問題).つぎに1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体につい
て考えます.1次元の鎖は一般につぎのように書けます:
c = c1�ab� + c2�bc� + c3�cd� + c4�da� + c5�db� (13.11)
輪体はその境界が 0となるものですから,(13.3) の結果より
c4 − c1 = 0 (13.12)
c1 + c5 − c2 = 0 (13.13)
c2 − c3 = 0 (13.14)
c3 − c4 − c5 = 0 (13.15)
が成り立てば輪体となります.最後式は上の3つの式から導かれるので,結局,輪体は,
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da� + (c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.16)
139
! B0
ここの違いは境界輪体で吸収できない
単純な例1(5)
• 以上の議論から,0次元のホモロジー群は,
• つぎに,1次のホモロジー群を計算する.1次元の輪体を計算する:
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図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
4次元となります.任意の鎖について
a1�a� + a2�b� + a3�c� + a4�d�
= a1(�a� − �d�) + a2(�b� − �d�) + a3(�c� − �d�)
+(a1 + a2 + a3 + a4)�d� (13.9)
と書けますので,境界輪体分の差を無視すれば,�d�の係数の違いが本質的な違いということになります.これは一般的な整数ですから,ホモロジー群は,
H0 = Z (13.10)
となります.ホモロジー群の次元がベッチ数ですので,この場合,0次元のベッチ数は 1になります.実は,この数はもとの図形の連結性分の個数に等しくなっています(予習問題).つぎに1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体につい
て考えます.1次元の鎖は一般につぎのように書けます:
c = c1�ab� + c2�bc� + c3�cd� + c4�da� + c5�db� (13.11)
輪体はその境界が 0となるものですから,(13.3) の結果より
c4 − c1 = 0 (13.12)
c1 + c5 − c2 = 0 (13.13)
c2 − c3 = 0 (13.14)
c3 − c4 − c5 = 0 (13.15)
が成り立てば輪体となります.最後式は上の3つの式から導かれるので,結局,輪体は,
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da� + (c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.16)
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第13回 色々な図形のホモロジーの世界
今回は色々な図形のホモロジー群を計算してみます.ここで得られた結果は,必ずしも基本群とは一致しませんが,似た様な構造をもつことが見えてきます.ホモロジー群は基本群で定義した道 (path) における順序を無視したようなものであり,それ以外についてはほぼ同じ思想の下で考えられたものであると言えます.このように順序による要素を無視することによって,すべてを可換群として扱うことを可能にします.このことを「可換化」などと呼ぶことがあります.
13.1 単純な図形のホモロジー群を計算するホモロジー群を計算することのは結構骨の折れることです.しかし,こ
の場合,方法論ははっきりしていますので,ひたすら機械的に計算すれば,答は出るものです.まず,単純な2つの三角形がくっついた図形のホモロジー群を計算してみます.図 13.1に図形を示します.複体としては,つぎのように定義されます:
K1 = {�abd�, �bcd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.1)
まず,1次元の鎖群は以下のようになります.
C1 = {c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db� |
ci ∈ Z (i = 1, 2, . . . , 5)} (13.2)
この要素の境界を計算するとつぎのようになります:
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= c1(�b� − �a�) + c2(�c� − �b�) +
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図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
• この結果より,つぎの方程式が得られる:
• これより,任意の輪体はつぎのように書ける:
単純な例1(6)
16
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
4次元となります.任意の鎖について
a1�a� + a2�b� + a3�c� + a4�d�
= a1(�a� − �d�) + a2(�b� − �d�) + a3(�c� − �d�)
+(a1 + a2 + a3 + a4)�d� (13.9)
と書けますので,境界輪体分の差を無視すれば,�d�の係数の違いが本質的な違いということになります.これは一般的な整数ですから,ホモロジー群は,
H0 = Z (13.10)
となります.ホモロジー群の次元がベッチ数ですので,この場合,0次元のベッチ数は 1になります.実は,この数はもとの図形の連結性分の個数に等しくなっています(予習問題).つぎに1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体につい
て考えます.1次元の鎖は一般につぎのように書けます:
c = c1�ab� + c2�bc� + c3�cd� + c4�da� + c5�db� (13.11)
輪体はその境界が 0となるものですから,(13.3) の結果より
c4 − c1 = 0 (13.12)
c1 + c5 − c2 = 0 (13.13)
c2 − c3 = 0 (13.14)
c3 − c4 − c5 = 0 (13.15)
が成り立てば輪体となります.最後式は上の3つの式から導かれるので,結局,輪体は,
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da� + (c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.16)
139
4次元となります.任意の鎖について
a1�a� + a2�b� + a3�c� + a4�d�
= a1(�a� − �d�) + a2(�b� − �d�) + a3(�c� − �d�)
+(a1 + a2 + a3 + a4)�d� (13.9)
と書けますので,境界輪体分の差を無視すれば,�d�の係数の違いが本質的な違いということになります.これは一般的な整数ですから,ホモロジー群は,
H0 = Z (13.10)
となります.ホモロジー群の次元がベッチ数ですので,この場合,0次元のベッチ数は 1になります.実は,この数はもとの図形の連結性分の個数に等しくなっています(予習問題).つぎに1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体につい
て考えます.1次元の鎖は一般につぎのように書けます:
c = c1�ab� + c2�bc� + c3�cd� + c4�da� + c5�db� (13.11)
輪体はその境界が 0となるものですから,(13.3) の結果より
c4 − c1 = 0 (13.12)
c1 + c5 − c2 = 0 (13.13)
c2 − c3 = 0 (13.14)
c3 − c4 − c5 = 0 (13.15)
が成り立てば輪体となります.最後式は上の3つの式から導かれるので,結局,輪体は,
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da� + (c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.16)
139
この式は上の3式から得られる
単純な例1(7)
• 一方,1次の境界輪体群は,
となり,輪体と境界輪体は一致する.したがって,
17
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
と表現され,輪体群の次数は 2です.一方,1次元の境界輪体群を求めてみます.
∂(d1�abd� + d2�bcd�)
= d1(�ab� + �bd� + �da�) + d2(�bc� + �cd� + �db�) (13.17)
となります.これは,(13.16)と同じになります.したがって,1次元のホモロジー群は,
H1 = {e} (13.18)
となります.また,1次元のベッチ数は 0となります.同様にして,2次元のホモロジー群を求めます.2次元の輪体群は無条件に {0} となります.なぜならば,(13.17)を 0にするためには,d1 = d2 = 0 でなければなりません.一方境界輪体群も {0}になります.なぜならば,この複体には3次元の単体は含まれないからです.これより,2次元のホモロジー群 H2 は{0}ということになります.これより,2次元のベッチ数は 2となります.以上より,この図形(複体)の 0, 1, 2次元のホモロジー群はそれぞれ Z,
{0}, {0}となり,ベッチ数はそれぞれ 1, 0, 0となります.
13.2 穴があいた図形のホモロジー群つぎにもう少し複雑な図形のホモロジー群を求めてみます.前節で扱った図形とほぼ同じですが,2次元の単体(三角形)を一つ削除して,穴を作ります.このようにすると,状況が多少変わります.図形としては,図13.2に示す図形となります.このような図形について各次元でホモロジー群を計算してみましょう.この複体を式で書くとつぎのようになります:
K2 = {�abd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.19)
まず,0次元のホモロジー群について考えますが,これについてはK1 の場
140
と表現され,輪体群の次数は 2です.一方,1次元の境界輪体群を求めてみます.
∂(d1�abd� + d2�bcd�)
= d1(�ab� + �bd� + �da�) + d2(�bc� + �cd� + �db�) (13.17)
となります.これは,(13.16)と同じになります.したがって,1次元のホモロジー群は,
H1 = {e} (13.18)
となります.また,1次元のベッチ数は 0となります.同様にして,2次元のホモロジー群を求めます.2次元の輪体群は無条件に {0} となります.なぜならば,(13.17)を 0にするためには,d1 = d2 = 0 でなければなりません.一方境界輪体群も {0}になります.なぜならば,この複体には3次元の単体は含まれないからです.これより,2次元のホモロジー群 H2 は{0}ということになります.これより,2次元のベッチ数は 2となります.以上より,この図形(複体)の 0, 1, 2次元のホモロジー群はそれぞれ Z,
{0}, {0}となり,ベッチ数はそれぞれ 1, 0, 0となります.
13.2 穴があいた図形のホモロジー群つぎにもう少し複雑な図形のホモロジー群を求めてみます.前節で扱った図形とほぼ同じですが,2次元の単体(三角形)を一つ削除して,穴を作ります.このようにすると,状況が多少変わります.図形としては,図13.2に示す図形となります.このような図形について各次元でホモロジー群を計算してみましょう.この複体を式で書くとつぎのようになります:
K2 = {�abd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.19)
まず,0次元のホモロジー群について考えますが,これについてはK1 の場
140
単純な例1(8)
• 2次のホモロジー群の計算:• まず,この複体には3次の単体は含まれないので,境界輪体群は,{0}である.
• つぎに,輪体群は2つの三角形を足し合わせたものなので,境界をとって0にするには,もともと,すべてが0でなければならない.
• したがって,輪体群も{0}.
• 以上より,2次のホモロジー群は,
18
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
H2 = {0}
単純な例1(9)
• まとめ
ホモロジー群は それぞれ,
• ベッチ数はそれぞれ, 1, 0, 0
19
Z, {0}, {0}
図 13.1: 最初に解析する複体
c3(�d� − �c�) + c4(�a� − �d�) + c5(�b� − �d�)
= (c4 − c1)�a�+ (c1 + c5 − c2)�b�+ (c2 − c3)�c�+
(c3 − c4 − c5)�d� (13.3)
任意の整数 ciを用いて0次元のすべて鎖が表現できればよいのですが,この場合,すべての鎖を表現することができません.ここで,
t1 = c4 − c1 (13.4)
t2 = c1 + c5 − c2 (13.5)
t3 = c2 − c3 (13.6)
とおけば,c3 − c4 − c5 = −(t1 + t2 + t3) と書けます.これより,
∂(c1�ab�+ c2�bc�+ c3�cd�+ c4�da�+ c5�db�)
= t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) (13.7)
が得られます.すなわち,0次元の境界輪体群は,
B0 = {t1(�a� − �d�) + t2(�b� − �d�) + t3(�c� − �d�) | ti ∈ Z, (t = 1, 2, 3)}
(13.8)
と書くことができます.0次元については任意の鎖が輪体となりますので
138
単純な例2(1)
• 前述の複体から三角形を一つ削除する.
• この場合の複体の表現は,
• 0次,2次のホモロジー群は前の例と同じである.
• 1次のホモロジー群について考える.
20
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
と表現され,輪体群の次数は 2です.一方,1次元の境界輪体群を求めてみます.
∂(d1�abd� + d2�bcd�)
= d1(�ab� + �bd� + �da�) + d2(�bc� + �cd� + �db�) (13.17)
となります.これは,(13.16)と同じになります.したがって,1次元のホモロジー群は,
H1 = {e} (13.18)
となります.また,1次元のベッチ数は 0となります.同様にして,2次元のホモロジー群を求めます.2次元の輪体群は無条件に {0} となります.なぜならば,(13.17)を 0にするためには,d1 = d2 = 0 でなければなりません.一方境界輪体群も {0}になります.なぜならば,この複体には3次元の単体は含まれないからです.これより,2次元のホモロジー群 H2 は{0}ということになります.これより,2次元のベッチ数は 2となります.以上より,この図形(複体)の 0, 1, 2次元のホモロジー群はそれぞれ Z,
{0}, {0}となり,ベッチ数はそれぞれ 1, 0, 0となります.
13.2 穴があいた図形のホモロジー群つぎにもう少し複雑な図形のホモロジー群を求めてみます.前節で扱った図形とほぼ同じですが,2次元の単体(三角形)を一つ削除して,穴を作ります.このようにすると,状況が多少変わります.図形としては,図13.2に示す図形となります.このような図形について各次元でホモロジー群を計算してみましょう.この複体を式で書くとつぎのようになります:
K2 = {�abd�, �ab�, �bc�, �cd�, �da�, �db�, �a�, �b�, �c�, �d�}. (13.19)
まず,0次元のホモロジー群について考えますが,これについてはK1 の場
140
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
単純な例2(2)
• 境界輪体はつぎのように表現できる:
• 一方,輪体は,前述の例と同じで,
と書くことできる.
21
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
境界輪体群の要素 その他の要素
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
単純な例2(3)
• したがって,1次のホモロジー群は:
となる.
• 以上より,この図形のホモロジー群はそれぞれ
となる.ベッチ数はそれぞれ1, 1, 0となる.
22
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
図 13.2: 穴を持った複体
合と全く同じになります.それは,0次元,1次元の単体が全く同じだからです.1次元のホモロジー群について考えます.この場合,1次元の境界輪体群は,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) (13.20)
となります.ここで,任意の輪体は,つぎのように書くことができます:
c1�ab� + c2�bc� + c2�cd� + c1�da�(c2 − c1)�db�
= c1(�ab� + �da� − �db�) + c2(�bc� + �cd� + �db�) (13.21)
したがって,�ab� + �da� − �db� の分を差し引くと,残るのは,c2(�bc� +
�cd�+ �db�)です.ここで,c2は任意の整数とすることができますので,1次のホモロジー群は,
H1 = Z (13.22)
と書くことができます.最後に,2次元のホモロジー群について考えてみます.この場合,2次元の境界輪体群は,3次元単体が含まれないことから,{0} となり,輪体群については,
∂(d1�abd�) = d1(�ab� + �bd� + �da�) = 0 (13.23)
より,d1 = 0が解となり,やはり,{0}となります.したがって,2次元のホモロジー群は {0}となります.
141
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(1)
• 射影平面の単体近似:
• 単体分割では,2つの単体の交わりが単一の単体ならなければいけない.
23
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(2)
• この図形の1次のホモロジー群について考える.
24
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(3)
• まず,輪体群を計算する.そのために,鎖に境界演算子を掛けてみる.
これを展開してまとめると…
25
り合わせ」のためです.ここから,まず 0次元のホモロジー群について考えてみます.前節で見たように,0次元の輪体群は鎖群と一致します.一方,0次元の境界輪体は,
c = ∂(c1�ab� + c2�ac� + c3�bc� + c4�af� + c5�ad� + c6�bd�
+c7�be� + c8�bf� + c9�cd� + c10�cf� + c11�ce� + c12�ae�
+c13�df� + c14�ef� + c15�ed�) (13.25)
となります.この式を変形すると,
c = (−c1 − c2 − c4 − c5 − c12)�a� + (c1 − c3 − c6 − c7 − c8)�b� +
(c2 + c3 − c9 − c10 − c11)�c� + (c5 + c6 + c9 − c13 + c15)�d� +
(c7 + c11 + c12 − c14 − c15)�e� +
(c4 + c8 + c10 + c13 + c14)�f� (13.26)
となります.それぞれの値は,係数は ciを変えることによって,ほぼ自由に選択することができますが,これらの係数をすべて足すと 0になりますので,最後の係数は上の5つの係数によって書くことができ,1次元の束縛が生じます.前節の議論と同様にして,0次元のホモロジー群は Zと同形になります.したがって,0次元のベッチ数は 1となります.つぎに 1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体を求め
てみます.式 (13.26)より,輪体を表現する式の係数はつぎのような方程式の解でなければなりません:
−c1 − c2 − c4 − c5 − c12 = 0 (13.27)
c1 − c3 − c6 − c7 − c8 = 0 (13.28)
c2 + c3 − c9 − c10 − c11 = 0 (13.29)
c5 + c6 + c9 − c13 + c15 = 0 (13.30)
c7 + c11 + c12 − c14 − c15 = 0 (13.31)
143
射影平面のホモロジー群を計算する(4)
• 展開してまとめると,つぎのようになる.
• 輪体群であるとは,この式が0になることであるような係数を求めることである.すなわち,
26
り合わせ」のためです.ここから,まず 0次元のホモロジー群について考えてみます.前節で見たように,0次元の輪体群は鎖群と一致します.一方,0次元の境界輪体は,
c = ∂(c1�ab� + c2�ac� + c3�bc� + c4�af� + c5�ad� + c6�bd�
+c7�be� + c8�bf� + c9�cd� + c10�cf� + c11�ce� + c12�ae�
+c13�df� + c14�ef� + c15�ed�) (13.25)
となります.この式を変形すると,
c = (−c1 − c2 − c4 − c5 − c12)�a� + (c1 − c3 − c6 − c7 − c8)�b� +
(c2 + c3 − c9 − c10 − c11)�c� + (c5 + c6 + c9 − c13 + c15)�d� +
(c7 + c11 + c12 − c14 − c15)�e� +
(c4 + c8 + c10 + c13 + c14)�f� (13.26)
となります.それぞれの値は,係数は ciを変えることによって,ほぼ自由に選択することができますが,これらの係数をすべて足すと 0になりますので,最後の係数は上の5つの係数によって書くことができ,1次元の束縛が生じます.前節の議論と同様にして,0次元のホモロジー群は Zと同形になります.したがって,0次元のベッチ数は 1となります.つぎに 1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体を求め
てみます.式 (13.26)より,輪体を表現する式の係数はつぎのような方程式の解でなければなりません:
−c1 − c2 − c4 − c5 − c12 = 0 (13.27)
c1 − c3 − c6 − c7 − c8 = 0 (13.28)
c2 + c3 − c9 − c10 − c11 = 0 (13.29)
c5 + c6 + c9 − c13 + c15 = 0 (13.30)
c7 + c11 + c12 − c14 − c15 = 0 (13.31)
143
この式はその他の式の和で表現できる
• すなわち,つぎの方程式系が得られる:
この方程式系で1度しか現れない変数がそれぞれの式にあるので,それらの変数を消去する.
射影平面のホモロジー群を計算する(5)
27
り合わせ」のためです.ここから,まず 0次元のホモロジー群について考えてみます.前節で見たように,0次元の輪体群は鎖群と一致します.一方,0次元の境界輪体は,
c = ∂(c1�ab� + c2�ac� + c3�bc� + c4�af� + c5�ad� + c6�bd�
+c7�be� + c8�bf� + c9�cd� + c10�cf� + c11�ce� + c12�ae�
+c13�df� + c14�ef� + c15�ed�) (13.25)
となります.この式を変形すると,
c = (−c1 − c2 − c4 − c5 − c12)�a� + (c1 − c3 − c6 − c7 − c8)�b� +
(c2 + c3 − c9 − c10 − c11)�c� + (c5 + c6 + c9 − c13 + c15)�d� +
(c7 + c11 + c12 − c14 − c15)�e� +
(c4 + c8 + c10 + c13 + c14)�f� (13.26)
となります.それぞれの値は,係数は ciを変えることによって,ほぼ自由に選択することができますが,これらの係数をすべて足すと 0になりますので,最後の係数は上の5つの係数によって書くことができ,1次元の束縛が生じます.前節の議論と同様にして,0次元のホモロジー群は Zと同形になります.したがって,0次元のベッチ数は 1となります.つぎに 1次元のホモロジー群について考えてみます.まず,輪体を求め
てみます.式 (13.26)より,輪体を表現する式の係数はつぎのような方程式の解でなければなりません:
−c1 − c2 − c4 − c5 − c12 = 0 (13.27)
c1 − c3 − c6 − c7 − c8 = 0 (13.28)
c2 + c3 − c9 − c10 − c11 = 0 (13.29)
c5 + c6 + c9 − c13 + c15 = 0 (13.30)
c7 + c11 + c12 − c14 − c15 = 0 (13.31)
143
射影平面のホモロジー群を計算する(6)
• つぎのように変形する.
• これを用いると,輪体はつぎのように表現できる.
28
この関係式から,15個の変数のうち,5個の変数はその他の変数によって,表現することができます.したがって,大雑把に言えば,自由に決められる変数は 15 − 5 = 10個であることがわかります.残りの 5個の変数については, で囲われている変数について解くことによって,以下のように定めることができます:
c4 = −c1 − c2 − c5 − c12, (13.32)
c8 = c1 − c3 − c6 − c7, (13.33)
c10 = c2 + c3 − c9 − c11, (13.34)
c13 = c5 + c6 + c9 + c15, (13.35)
c14 = c7 + c11 + c12 − c15. (13.36)
これらの式から,輪体は,
c = c1(�ab� + �fa� + �bf�) + c2(�ac� + �fa� + �cf�) +
c3(�bc� + �fb� + �cf�) + c5(�ad� + �fa� + �df�) +
c6(�bd� + �fb� + �df�) + c7(�be� + �fb� + �ef�) +
c9(�cd� + �fc� + �df�) + c11(�ce� + �fc� + �ef�) +
c12(�ae� + �fa� + �ef�) + c15(�ed� + �df� + �fe�) (13.37)
さて,つぎに 1次元の境界輪体群を求めてみましょう.この図形は 10個の三角形から構成されています.これより,境界輪体は,つぎの2次元単体の境界を線形に足し合わせたものです:
�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�, �dfe�, �afd� (13.38)
境界輪体はこれらの単体の境界を基底するわけですが,最終的に計算したいホモロジー群は,これらの基底で表現されるベクトルを適当に加えたものが同値であるという約束の下で定義される同値関係で輪体群を割ったも
144
射影平面のホモロジー群を計算する(7)
• この図形の1次元の輪体の一般形
• 一方,2次元の単体は,
29
この関係式から,15個の変数のうち,5個の変数はその他の変数によって,表現することができます.したがって,大雑把に言えば,自由に決められる変数は 15 − 5 = 10個であることがわかります.残りの 5個の変数については, で囲われている変数について解くことによって,以下のように定めることができます:
c4 = −c1 − c2 − c5 − c12, (13.32)
c8 = c1 − c3 − c6 − c7, (13.33)
c10 = c2 + c3 − c9 − c11, (13.34)
c13 = c5 + c6 + c9 + c15, (13.35)
c14 = c7 + c11 + c12 − c15. (13.36)
これらの式から,輪体は,
c = c1(�ab� + �fa� + �bf�) + c2(�ac� + �fa� + �cf�) +
c3(�bc� + �fb� + �cf�) + c5(�ad� + �fa� + �df�) +
c6(�bd� + �fb� + �df�) + c7(�be� + �fb� + �ef�) +
c9(�cd� + �fc� + �df�) + c11(�ce� + �fc� + �ef�) +
c12(�ae� + �fa� + �ef�) + c15(�ed� + �df� + �fe�) (13.37)
さて,つぎに 1次元の境界輪体群を求めてみましょう.この図形は 10個の三角形から構成されています.これより,境界輪体は,つぎの2次元単体の境界を線形に足し合わせたものです:
�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�, �dfe�, �afd� (13.38)
境界輪体はこれらの単体の境界を基底するわけですが,最終的に計算したいホモロジー群は,これらの基底で表現されるベクトルを適当に加えたものが同値であるという約束の下で定義される同値関係で輪体群を割ったも
144
この関係式から,15個の変数のうち,5個の変数はその他の変数によって,表現することができます.したがって,大雑把に言えば,自由に決められる変数は 15 − 5 = 10個であることがわかります.残りの 5個の変数については, で囲われている変数について解くことによって,以下のように定めることができます:
c4 = −c1 − c2 − c5 − c12, (13.32)
c8 = c1 − c3 − c6 − c7, (13.33)
c10 = c2 + c3 − c9 − c11, (13.34)
c13 = c5 + c6 + c9 + c15, (13.35)
c14 = c7 + c11 + c12 − c15. (13.36)
これらの式から,輪体は,
c = c1(�ab� + �fa� + �bf�) + c2(�ac� + �fa� + �cf�) +
c3(�bc� + �fb� + �cf�) + c5(�ad� + �fa� + �df�) +
c6(�bd� + �fb� + �df�) + c7(�be� + �fb� + �ef�) +
c9(�cd� + �fc� + �df�) + c11(�ce� + �fc� + �ef�) +
c12(�ae� + �fa� + �ef�) + c15(�ed� + �df� + �fe�) (13.37)
さて,つぎに 1次元の境界輪体群を求めてみましょう.この図形は 10個の三角形から構成されています.これより,境界輪体は,つぎの2次元単体の境界を線形に足し合わせたものです:
�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�, �dfe�, �afd� (13.38)
境界輪体はこれらの単体の境界を基底するわけですが,最終的に計算したいホモロジー群は,これらの基底で表現されるベクトルを適当に加えたものが同値であるという約束の下で定義される同値関係で輪体群を割ったも
144
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(7)
• これより,輪体は,適当な境界輪体を加えることによって,次の形に変形できる.
30
のです.この同値関係を ∼=の記号で書くことにしますと,
c ∼= c1(�ab�+ �fa�+ �bf�) + c6(�bd�+ �fb�+ �df�) +
c7(�be�+ �fb�+ �ef�) + c9(�cd�+ �fc�+ �df�) +
c12(�ae�+ �fa�+ �ef�) (13.39)
と書くことができます.さらに,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�)
−(�af�+ �fd�+ �da�)− (�ad�+ �dc�+ �ca�) (13.40)
と書けることから,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.41)
と書けます.同様にして,
�bd�+ �bd�+ �bd� ∼= �be�+ �fb�+ �ef� ∼= −(�ae�+ �fa�+ �ef�)
∼= �cd�+ �fc�+ �df� (13.42)
と書けるので,結局,適当な整数 c� を用いて,
c ∼= c�(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.43)
と書けることになります.さらに,c� = 2とすると,適当に境界輪体を加えることによって
c ∼= 2(�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cb�+ �ba�+ �ac�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cf�+ �fd�+ �dc� = 0 (13.44)
145
この関係式から,15個の変数のうち,5個の変数はその他の変数によって,表現することができます.したがって,大雑把に言えば,自由に決められる変数は 15 − 5 = 10個であることがわかります.残りの 5個の変数については, で囲われている変数について解くことによって,以下のように定めることができます:
c4 = −c1 − c2 − c5 − c12, (13.32)
c8 = c1 − c3 − c6 − c7, (13.33)
c10 = c2 + c3 − c9 − c11, (13.34)
c13 = c5 + c6 + c9 + c15, (13.35)
c14 = c7 + c11 + c12 − c15. (13.36)
これらの式から,輪体は,
c = c1(�ab� + �fa� + �bf�) + c2(�ac� + �fa� + �cf�) +
c3(�bc� + �fb� + �cf�) + c5(�ad� + �fa� + �df�) +
c6(�bd� + �fb� + �df�) + c7(�be� + �fb� + �ef�) +
c9(�cd� + �fc� + �df�) + c11(�ce� + �fc� + �ef�) +
c12(�ae� + �fa� + �ef�) + c15(�ed� + �df� + �fe�) (13.37)
さて,つぎに 1次元の境界輪体群を求めてみましょう.この図形は 10個の三角形から構成されています.これより,境界輪体は,つぎの2次元単体の境界を線形に足し合わせたものです:
�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�, �dfe�, �afd� (13.38)
境界輪体はこれらの単体の境界を基底するわけですが,最終的に計算したいホモロジー群は,これらの基底で表現されるベクトルを適当に加えたものが同値であるという約束の下で定義される同値関係で輪体群を割ったも
144
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(8)
• 境界輪体を用いた変形(ホモトープな変形に対応している)
31
のです.この同値関係を ∼=の記号で書くことにしますと,
c ∼= c1(�ab�+ �fa�+ �bf�) + c6(�bd�+ �fb�+ �df�) +
c7(�be�+ �fb�+ �ef�) + c9(�cd�+ �fc�+ �df�) +
c12(�ae�+ �fa�+ �ef�) (13.39)
と書くことができます.さらに,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�)
−(�af�+ �fd�+ �da�)− (�ad�+ �dc�+ �ca�) (13.40)
と書けることから,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.41)
と書けます.同様にして,
�bd�+ �bd�+ �bd� ∼= �be�+ �fb�+ �ef� ∼= −(�ae�+ �fa�+ �ef�)
∼= �cd�+ �fc�+ �df� (13.42)
と書けるので,結局,適当な整数 c� を用いて,
c ∼= c�(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.43)
と書けることになります.さらに,c� = 2とすると,適当に境界輪体を加えることによって
c ∼= 2(�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cb�+ �ba�+ �ac�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cf�+ �fd�+ �dc� = 0 (13.44)
145
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(9)
• 同じように,これらのすべての経路はc→d→f→cというループと同値になる.
32
のです.この同値関係を ∼=の記号で書くことにしますと,
c ∼= c1(�ab�+ �fa�+ �bf�) + c6(�bd�+ �fb�+ �df�) +
c7(�be�+ �fb�+ �ef�) + c9(�cd�+ �fc�+ �df�) +
c12(�ae�+ �fa�+ �ef�) (13.39)
と書くことができます.さらに,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�)
−(�af�+ �fd�+ �da�)− (�ad�+ �dc�+ �ca�) (13.40)
と書けることから,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.41)
と書けます.同様にして,
�bd�+ �bd�+ �bd� ∼= �be�+ �fb�+ �ef� ∼= −(�ae�+ �fa�+ �ef�)
∼= �cd�+ �fc�+ �df� (13.42)
と書けるので,結局,適当な整数 c� を用いて,
c ∼= c�(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.43)
と書けることになります.さらに,c� = 2とすると,適当に境界輪体を加えることによって
c ∼= 2(�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cb�+ �ba�+ �ac�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cf�+ �fd�+ �dc� = 0 (13.44)
145
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
この関係式から,15個の変数のうち,5個の変数はその他の変数によって,表現することができます.したがって,大雑把に言えば,自由に決められる変数は 15 − 5 = 10個であることがわかります.残りの 5個の変数については, で囲われている変数について解くことによって,以下のように定めることができます:
c4 = −c1 − c2 − c5 − c12, (13.32)
c8 = c1 − c3 − c6 − c7, (13.33)
c10 = c2 + c3 − c9 − c11, (13.34)
c13 = c5 + c6 + c9 + c15, (13.35)
c14 = c7 + c11 + c12 − c15. (13.36)
これらの式から,輪体は,
c = c1(�ab� + �fa� + �bf�) + c2(�ac� + �fa� + �cf�) +
c3(�bc� + �fb� + �cf�) + c5(�ad� + �fa� + �df�) +
c6(�bd� + �fb� + �df�) + c7(�be� + �fb� + �ef�) +
c9(�cd� + �fc� + �df�) + c11(�ce� + �fc� + �ef�) +
c12(�ae� + �fa� + �ef�) + c15(�ed� + �df� + �fe�) (13.37)
さて,つぎに 1次元の境界輪体群を求めてみましょう.この図形は 10個の三角形から構成されています.これより,境界輪体は,つぎの2次元単体の境界を線形に足し合わせたものです:
�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�, �dfe�, �afd� (13.38)
境界輪体はこれらの単体の境界を基底するわけですが,最終的に計算したいホモロジー群は,これらの基底で表現されるベクトルを適当に加えたものが同値であるという約束の下で定義される同値関係で輪体群を割ったも
144
射影平面のホモロジー群を計算する(10)
• 以上より,すべての輪体は,境界輪体による同値関係を用いて,本質的に
と分類できる.さらに,c’ = 2とおくと,つぎのように変形できる…
33
のです.この同値関係を ∼=の記号で書くことにしますと,
c ∼= c1(�ab�+ �fa�+ �bf�) + c6(�bd�+ �fb�+ �df�) +
c7(�be�+ �fb�+ �ef�) + c9(�cd�+ �fc�+ �df�) +
c12(�ae�+ �fa�+ �ef�) (13.39)
と書くことができます.さらに,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�)
−(�af�+ �fd�+ �da�)− (�ad�+ �dc�+ �ca�) (13.40)
と書けることから,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.41)
と書けます.同様にして,
�bd�+ �bd�+ �bd� ∼= �be�+ �fb�+ �ef� ∼= −(�ae�+ �fa�+ �ef�)
∼= �cd�+ �fc�+ �df� (13.42)
と書けるので,結局,適当な整数 c� を用いて,
c ∼= c�(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.43)
と書けることになります.さらに,c� = 2とすると,適当に境界輪体を加えることによって
c ∼= 2(�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cb�+ �ba�+ �ac�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cf�+ �fd�+ �dc� = 0 (13.44)
145
図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(11)
• つぎのように計算できる:
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のです.この同値関係を ∼=の記号で書くことにしますと,
c ∼= c1(�ab�+ �fa�+ �bf�) + c6(�bd�+ �fb�+ �df�) +
c7(�be�+ �fb�+ �ef�) + c9(�cd�+ �fc�+ �df�) +
c12(�ae�+ �fa�+ �ef�) (13.39)
と書くことができます.さらに,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�)
−(�af�+ �fd�+ �da�)− (�ad�+ �dc�+ �ca�) (13.40)
と書けることから,
�ac�+ �fa�+ �cf� ∼= −(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.41)
と書けます.同様にして,
�bd�+ �bd�+ �bd� ∼= �be�+ �fb�+ �ef� ∼= −(�ae�+ �fa�+ �ef�)
∼= �cd�+ �fc�+ �df� (13.42)
と書けるので,結局,適当な整数 c� を用いて,
c ∼= c�(�cd�+ �fc�+ �df�) (13.43)
と書けることになります.さらに,c� = 2とすると,適当に境界輪体を加えることによって
c ∼= 2(�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cd�+ �fc�+ �df�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cb�+ �ba�+ �ac�)
∼= (�cd�+ �fc�+ �df�) + (�cf�+ �fd�+ �dc� = 0 (13.44)
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図 13.3: 射影平面の単体分割
以上より,図形K2の 0, 1, 2次元のホモロジー群は,それぞれ Z, Z, {0}
となります.また,ベッチ数は,それぞれ 1, 1, 0となります.
13.3 射影平面のホモロジー群はどうなるかつぎに単体分割するとかなり複雑なる図形である射影平面のホモロジー
群を計算してみます.これも同じように単体分割してみます.辺の本数などはなるべく小さくした方が計算が楽になります.ここでは,なるべく図形を単純かするために図 13.3に示すように単体分割します.このように分割すると,この局面は,10個の2次元単体(三角形)によっ
て構成されることになります.これを式として書き下すと,つぎのようになります.ここで注意が必要なのは,この図形の上下左右は貼り合わされているということです.
K3 = {�afb�, �bfc�, �fec�, �eca�, �bea�, �deb�, �cdb�, �adc�,
�dfe�, �afd�, �ab�, �ac�, �cb�, �af�, �ad�, �bd�,
�be�, �bf�, �cf�, �ce�, �ae�, �df�, �fe�, �ed�,
�a�, �b�, �c�, �d�, �e�, �f�} (13.24)
図形が複雑に見える割に辺のや点の個数は少なくなっています.これは,「貼
142
射影平面のホモロジー群を計算する(12)
• 以上より,この図形のホモロジー群はつぎのようになる:
この場合,フルに整数を含まないのでベッチ数は0
である.
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図 13.4: トーラスの単体分割
となります.基本群で見たのと同様にして,境界輪体とならないこのループは 2回回すと境界輪体になってしまいます.このことから,射影平面の1次元のホモロジー群は,
H1 = �a|a2� = {e, a} (13.45)
と書くことができます.このように,単体分割が複雑になると,ホモロジー群の計算はかなり複
雑になりますが,それでも,地道に計算することにより,計算可能です.計算する際は,なるべく単体の個数を少なくとる方が計算は楽になります.
13.4 予習問題1. 連結な図形の 0次のホモロジー群は常に Zと同形になることを示してください.
13.5 復習問題1. トーラスの単体分割を図 13.4とする.この図で示される単体分割で,トーラスの 0, 1, 2次元のホモロジー群を計算せよ.
146
オイラー数 = 1 - 0 + 0 = 1
6(点) - 15(辺) + 10(面) = 1一致する!
復習:射影平面の基本群は
• 射影平面の基本群を思い出そう.
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図 9.2: 射影平面上で点 Aを基点とする2周のループの変形
の事実は良く考えると当たり前です.aと張り合わせの部分の交差点を 180
度ゆっくりとずらしていけば,方向の逆になったループを作り出すことができます.Aを通過するという性質を保存しつつ,じわじわと変形しているのでこれはホモトープです.結局,射影平面の基本群 Gは G = �a|a2� = {e, a} という2つの要素で
構成される群になります.aを何重に重ねても結局偶数回回した分は回さないのと同じということになります.すなわち,
a2n+1 = a (9.3)
という公式が成り立つことになります.
9.2 クラインの壷の基本群つぎに多少複雑な例として,クラインの壷の基本群を計算してみましょ
う.もちろんクラインの壷は3次元空間では実現することができませんが,展開図として表現することができます.前述の射影平面と同様にこの図形
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まとめ
• いくつかの図形についてホモロジー群を計算した.
• 比較的,ホモロジー群は機械的に導出することができる.
• ホモロジーは位相不変量である.ベッチ数をみると,与えられた図形のオイラー数よりも細かな情報を得ることができる.
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学生による授業評価
• 授業評価実施日:2012年1月10日
• 授業科目名:幾何学入門• 76307-001
• 教員名:山本修身
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