一般単独災害復旧事業債の活用について2...
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一般単独災害復旧事業債の活用について
質問
災害復旧事業債のうち、一般単独災害復旧事業の起債対象範囲は、「補助災害復旧
事業及び直轄災害復旧事業の対象とならなかったもの」とされていますが、この事
業の具体的な内容や起債協議を行うにあたって留意すべき点を教えてください。
回答
はじめに
近年、超大型台風の上陸や短時間に狭い範囲で非常に激しく降る雨(いわゆる
ゲリラ豪雨)の頻発等により、災害は大規模化かつ多様化しています。また、発
生の地域や時期、規模の予測が困難であり、いずれの市町村においても、いつで
も起こりうるものと言えます。
これらの災害により、河川や道路、公園、農林漁業施設、学校施設など地方公
共団体が管理している施設が被害を受けた際、施設を原形に復旧することを目的
に実施されるのが災害復旧事業です。
※災害復旧事業全般に係る起債制度の概要は、「大阪府 相談室 災害復旧事業債について」を
参照してください。
1 一般単独災害復旧事業の概要
一般単独災害復旧事業(以下「単独事業」という)とは、公共施設及び公用施
設に係る災害復旧事業のうち、補助災害復旧事業及び直轄災害復旧事業(以下「補
助事業」という)の対象とならなかったもので、次に挙げる事業を除いたもの並
びに単独の災害関連事業をいいます。
①災害対策基本法(昭和 36 年法律第 223 号)第 102 条第 1 項に基づく
歳入欠かん債及び災害対策債
②激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和 37
年法律第 150 号)第 24 条第 1 項及び第 2 項の規定に基づく公共土木
施設等小災害復旧事業及び農地等小災害復旧事業
③地方公営企業災害復旧事業
④公共施設及び公用施設に係る火災復旧事業
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災害が発生した際、災害復旧事業の実施にあたっては、まず補助事業の対象と
なるかどうか確認を行い、対象とならない場合は、単独事業を活用することがで
きるかどうか検討します。(図1)
【図1】災害復旧事業手続きの流れ
また、災害復旧事業は国が地方公共団体へ財政的な支援を行うという性質上、元
利償還金に対する基準財政需要額への交付税算入率は非常に高率(表1)となって
います。この趣旨に則り、災害の早期復旧を図るため、国庫補助申請の漏れなどが
ないよう留意し、適切に手続きを進めるよう心掛けてください。
【表1】地方債充当率/交付税算入率
(※1)災害終息後10日以内
(※2)通常、被災後2か月以内災
害
復
旧
事
業
手
続
き
の
流
れ
災
害
報
告
(※1)
災
害
査
定
事
業
費
の
精
算
工事費決定
失格・欠格
補 助 災 害 復 旧 事 業
成
功
認
定
(完
了
検
査
)
(
工
事
費
決
定
)
(※2)
災
害
発
生
現
地
調
査
及
び
設
計
図
書
作
成
国
庫
負
担
申
請
工事実施(応急仮工事・応急本工事含む)
・補助災害復旧事業の採択基準未満の事業
・補助対象外施設・災害関連工事・単独で実施する事業 等
一 般 単 独 災 害 復 旧 事 業
区 分 対象事業等地方債
充当率
元利償還金に対する
交付税算入率
【現年】
公共土木施設等 100%
農地・農林漁業施設 90%
【過年】
公共土木施設等 90%
農地・農林漁業施設 80%
公共土木施設等 100%
農林漁業施設 65%
95%
47.5%~85.5%
(財政力補正により変動)
補助・直轄災害復旧事業
一般単独災害復旧事業
(月刊「地方財務」平成29年8月号別冊付録「事業別 地方債実務ハンドブック 平成29年度版」より抜粋及び加工)
※3
3
(※3)単独事業は補助事業に比べて事業規模が小さく、事業の実態からみて維持修繕的な意味合いが強いも
のが少なくないことから、元利償還金に対する交付税への算入率が補助事業に対し低率となっていま
す。
2 対象事業・対象外事業について
単独事業の対象事業・対象外事業については、平成29年4月3日付総務省自
治財政局地方債課通知「平成29年度地方債についての質疑応答集」に示されて
いますが、詳しく示すと次のとおりです。
(1)対象事業
Ⅰ 補助災害復旧事業の採択基準に満たない事業
異常な天然現象により被災を受けているものの、その復旧工事が、災害復旧
事業となりえない国庫補助制度の「適用除外」事業があります。
・災害査定での決定額が限度額未満のもの
例えば、公共土木施設においては、1 箇所の工事の費用が都道府県、指定都
市に係るものにあっては、120万円、市町村に係るものにあっては 60万円に
満たないものは、国庫補助制度の対象として採択されません。
・工事の費用に比してその効果が著しく小さいもの
・維持工事とみるもの
・明らかに設計の不備又は工事の施行の粗漏に基因して生じたものと認められ
る災害に係るもの
・甚だしく維持管理の義務を怠ったことに基因して生じたものと認められる災
害に係るもの
・河川、港湾及び漁港の埋そくに係るもの。ただし、維持上又は公益上特に必
要と認められるものを除く。
・天然の河岸及び海岸の欠壊に係るもの。ただし、維持上又は公益上特に必要
と認められるものを除く。
・災害復旧事業以外の事業の工事施行中に生じた災害に係るもの
・直高1メートル未満の小堤、幅員2メートル未満の道路、けい流における直
高2メートル未満の石垣又は板さくに係るもの、道路の側溝のみに係るもの、
交通の著しい妨げとならない道路上の崩土の除去等小規模施設
ただし、洪水等異常な天然現象により生じた災害であると確認され、維持工
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事に類するものでなく、そのまま放置しがたいものに係る復旧工事である場
合には、単独事業債の対象となります。
Ⅱ 国庫補助制度があっても、補助災害復旧事業の対象となっていない施設の災
害復旧事業
Ⅲ 国庫補助制度のない施設の災害復旧事業
・庁舎、各種試験場等の公用施設等
Ⅳ 災害応急復旧工事
・本復旧に日時を要する場合に緊急に施工しなければならない道路、橋りょう
等の仮設工事又は河川、海岸、用排水路等の仮締切(暫定的な措置として施
行する工事) 等
Ⅴ 災害関連工事
・災害復旧事業として採択された箇所又はこれらを含めた一連の施設の再度災
害を防止するものであって、かつ、構造物の強化等を図る改良計画の一環と
して行われる工事。ただし、一般的基準として、
① 当該箇所について他の建設改良計画がないもの
② 災害関連工事の施行によって得られる効果が大であるもの
③ 総工事費のうち災害関連工事費の占める割合が原則として5割以下の
もの
については関連工事として対象とされる。
Ⅵ 維持上又は公益上特に必要と認められる河川、港湾又は漁港の埋そくに係る
しゅんせつ工事
Ⅶ 維持上又は公益上特に必要と認められる天然の河岸又は海岸の欠壊に係る
災害復旧工事
Ⅷ 災害復旧事業に伴って施設の移転建替えをやむを得ない理由により行う場合
における旧施設の解体撤去工事及び移転先の用地取得事業(被災前面積が上
限となる)
(2)対象外事業
単独事業は「補助災害復旧事業及び直轄災害復旧事業の対象とならなかったもの」
が対象とされていますが、国庫補助制度適用除外事業として挙げた項目のうち、維
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トンネルの巻立コンクリートの軽微な亀裂の修繕のみの工事
石積み又は石張りの破損を防止するためのコンクリート突込みのみの工事
間詰めのみの工事
堤体に被害のない場合の漏水止めのみの工事
木工沈床のわく木の軽微な破損の修繕のみの、又はその少量の脱石の補充のみの工事
少量の捨石の補充のみの工事
堤防、護岸等に直接影響のない程度の河床又は海岸地盤の低下に対する根固め、床止め又は
突堤のみに係る工事
橋梁又はトンネルの照明設備のみに係る工事
地すべり防止施設等の安定に影響しない程度の盛土の流失の補充のみの工事
待受け式擁壁に堆積した崩壊土砂で堆砂容量に満たないものの排除のみの工事
下水道の排水施設の埋そくで、埋そく土砂の断面積が管きょ等の断面積の3割に満たない
ものの排除のみの工事
持工事とみなされるものなど次に示す項目に該当する事業は、単独事業の対象とな
りません。そのため、補助事業として採択されなかった事業については、その理由
を把握しておく必要があります。
Ⅰ 工事の費用に比して、その効果が著しく小さいと認められるもの
・狭小な農耕地を保護するために多額な工事費を要する場合 等
Ⅱ 維持工事と認められるもの
・災害復旧事業は、自然災害によって被災した公共土木施設等を現状復旧する
事業です。そのため、例えば、単なる道路側面の法面崩壊による、道路上へ
の土砂撤去工事であり、道路そのものに機能損壊が無いものなど現状復旧の
伴わない工事は、維持工事にあたります。
(参考)維持工事とみるものについて(のみ災)
公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法事務取扱要綱第12によると以下のように定義されて
います。
Ⅲ 明らかに設計の不備又は、工事施行の粗漏に基因して生じたと認められるも
の
・特に工事竣工後1年以内に被災した施設に係る災害復旧については、その原
因をよく調査する必要があります。
Ⅳ 甚だしく維持管理の義務を怠ったことに基因して生じたと認められるもの
・災害復旧事業は、被災前に適切に維持管理していることが前提となるため、
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甚だしく維持管理を怠ったことに基因して生じたものと認められる災害に係
るものは適用除外となります。維持管理の実態を証明するものとして、施設
の管理台帳などの提出を求める場合があります。
Ⅴ 災害復旧事業以外の事業の工事施行中に生じた災害に係るもの
Ⅵ 農地に係る災害復旧事業
ポイント!
法定外公共物(里道・水路・ため池など)の災害復旧について
地方公共団体が現に維持管理を行っている法定外公共物の災害復旧については、
起債対象となります。起債申請を行う際は、現に維持管理を行っているものと証明
するため、台帳等管理実態が分かる資料の提出が必要です。
3 起債申請に必要な資料について
本府が行う起債申請ヒアリングにおいて、災害発生の原因となった異常気象や被
災箇所の詳細な状況を確認するために、以下の資料の提出をお願いしています。
なお、資料は大阪府提出用と近畿財務局提出用の合計2部必要ですので注意して
ください。
Ⅰ 災害発生現場の写真(カラー)
被災写真は、起債申請を行う際に、被災状況等の確認や復旧範囲の適否を判断す
る重要な資料となります。そのため、被災状況が的確に把握できるよう構図を考え、
ポール等を用いて状況が分かりやすく撮影されたものが必要です。
特に起債申請前に着工する箇所については、写真が被災の状況を示す唯一の手段
となりますので、被災の事実、形状、寸法、数量等が判定できる写真を撮影してか
ら着手する必要があります。また、今後の増破があった場合の比較資料とするため、
被災箇所の起終点前後の未災部分についても撮影し、保存しておくよう心掛けてく
ださい。被災写真について規定されたものはありませんが、撮影に際し留意すべき
点等は、災害査定を受ける際の写真の取扱いを準用し運用されています。その準用
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されている留意事項については、次に示す通りです。
≪一般的留意事項≫
・写真には、「撮影年月日」「流水の方向(又は路線の方向)」「起終点」等を朱イ
ンク等で記入する。
・横断地形が容易に判断できるよう工夫すること。また、工種及び復旧工法に応
じた部分撮影すること。
・数箇所を一括して申請する場合には、全貌を表すもののほか、個々の箇所が判
定できる写真が必要です。
例1 全図
例2 全景写真
・全貌を表している
・個々の箇所が判定出来る
・撮影方向が分かる
・全貌を表している
・起点・終点が記入されている
・被災箇所の規模が分かりやす
く記入されている
・「撮影年月日」「被災箇所名」
等が記載されている
資料番号と対応
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例3 被災箇所
≪ 河川に係る留意事項 ≫
天然河岸の被災については、背後地、堤内地側、上下流側の状況が撮影されたも
のが必要です。河床が洗掘し、護岸の根継工を申請する災害については、根浮きの
高さ(垂直高)、根切れの深さ(水平長)等の状況をポール等で表示してください。
※水深の深い大きな河川ではポール等の設置は行わず、上記例2のような画像編集
ソフト等を用いて表示してください。
≪ 道路に係る留意事項 ≫
道路の幅員等が分かるようにポール、リボンテープ等で表示し、縦横断勾配も分
かるように工夫して撮影されたものが必要です。
・崩土を伴うもの
崩土を伴うものについては、その状況が確認できるよう撮影されたもので、そ
の崩土が、通行の妨げになっている場合は、横断写真についてもポール等で表示
してください。
・法面工を申請する場合
法面工を申請する場合は、前後の施設や地質状況が復旧工法の確認の参考にな
る場合がある(復旧工法により適債性を判断することはありません)ため、これ
らも含めて撮影されたものが必要です。また、法面に湧水やクラックがある場合
等は、その状況、位置、幅、深さ等が判るようにしてください。
・高低差が把握しやすい
・被災した道路の状況が分かり
やすい
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Ⅱ 被災当日の異常な天然現象を証明する気象概況資料
被災当日の気象概況に係る公的機関による「観測資料」を用い、本災害が「異常
な天然現象※4」に基因するものか判断します。観測資料は被災した地点の最寄り
の観測所で観測されたデータを用い、異常な天然気象と判断される箇所をマーカー
などで塗り分けてください。また、雨と風の影響による被災など複数の天然現象に
よる災害と認められる場合については、関連するすべての気象データが必要となり
ます。
※4異常な天然現象とは、暴風、降雨、洪水、高潮、波浪、降雪、融雪出水、低温、地震、津波、
地すべり、噴火、干ばつ、落雷等を指し、以下の要件を満たす場合について災害復旧の対象とされ
ています。 ≪ 降雨量 ≫
・最大24時間雨量80㎜以上あるいは時間雨量が20mm 程度以上
≪ 風 速 ≫
・最大風速(10分間平均風速の最大)15m以上
※最大瞬間風速ではないので注意すること
≪ 洪 水 ≫(河川災害、河川沿いの道路等の場合)
・警戒水位以上の水位あるいは河岸高の5割程度以上の水位(警戒水位の定めがない場合) 参考 URL
【気象庁 HP】
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
【国土交通省 川の防災情報】
https://www.river.go.jp/kawabou/ipKozuiMap.do?areaCd=86&gamenId=01-0401&fldCt
lParty=no
【大阪府土砂災害の防災情報】
http://www.osaka-bousai.net/sabou/R_Hantei_imi.htm
【大阪府河川室 河川防災情報】
http://www.osaka-kasen-portal.net/suibou/frame/top.html
Ⅲ 工事施行箇所を明示した位置図及び平面図等
図面から被災箇所付近の状況が確認できるよう、堤内地の建物、道路、地形等は
出来るだけ記入し、復旧工事の箇所が分かるもの。
Ⅳ 起債対象事業費の分かる資料(必要に応じて提出)
設計書や契約書等の事業費が分かる資料により、金額に基本設計等の対象外経費
が含まれていないか確認します。
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4 その他の注意事項 ~現年、過年の別について~
災害復旧事業における現年の定義は、当該年の1月1日から12月31日までに
発生した災害とされていますが、これは補助事業の充当率について適用されるもの
で、単独事業には「現年・過年」の別はありません。
過年度に発生した災害による復旧事業について、起債の申請を行うことは可能で
すが、なぜ現年に申請しなかったのか、また、どの時点の異常気象に基因するもの
か説明する必要があります。
発生から時間が経過すればするほど、それらを説明することが困難になりがちで
すので、この点にも留意が必要です。
おわりに
災害により公共施設が被災した場合、住民生活や公共の福祉に影響を及ぼすとと
もに、その被害規模によっては、復旧に多額の財政負担と時間を要することになり
ます。
速やかに復旧工事を行うには、復旧工事の内容が国庫補助制度を利用できるのか、
又は単独事業となるのか、その事業内容に適した財政措置を有効に活用するための
迅速な判断が求められます。
そのためにも、発災時には、財政担当課と事業担当課は十分に情報共有を行い、
被災状況や災害復旧の方法等について確認、把握することが重要です。
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【参考文献】
一般社団法人 全日本建設技術協会『平成 29 年 災害手帳』