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TRANSCRIPT
哲学教育における組織的な情報共有の重要性
―哲学教育研究会の設立―
成瀬尚志(京都光華女子大学短期大学部)笠木雅史(京都大学・日本学術振興会)
稲岡大志(神戸大学)
日本哲学会男女共同参画・若手研究者支援ワークショップ
「哲学と導入教育――哲学教育の質的向上を目指して」
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教えるのが難しいのは
導入教育だけか?
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われわれの問題意識
哲学研究者の多くは哲学教育に関するトレーニング
を受けていない。
多くの哲学研究者が授業に関する悩みを抱えている
授業のノウハウに関しては共有可能な部分が多いの
ではないか。
授業に関する問題を解決するために組織的な支援が
必要ではないだろうか。
低コストで効果の高い支援(具体的な工夫の共有)
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哲学の授業の魅力を高めるために―授業設計の工夫と組織的な情報共有の必要性―
成瀬尚志(京都光華女子大学短期大学部)[email protected]
日本哲学会男女共同参画・若手研究者支援ワークショップ
「哲学と導入教育――哲学教育の質的向上を目指して」
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哲学の授業の魅力を高める
哲学の魅力や重要性について多くの人に知ってもらいたい(その必要がある)。
そのために、すでに存在している「哲学の授業」の魅力を高めることが有効ではないか?
そのためには何が必要か?
現状把握、方法論の検討、具体的な対策案の提示
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授業を工夫すれば学生はついてくる
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7第2回 大学生の学習・生活実態調査報告書 [2012年]、ベネッセ教育総合研究所
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具体的にどのような工夫をすればよいのか?
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哲学の授業の魅力をどこに置くか?
有用性アプローチ
→学生が理解できる形で、哲学の勉強(によって身につけられるスキルや知識)が何かの役に立つことをアピール
魅力・関心喚起アプローチ
→哲学の勉強が何に役立つかはわからないがとにかく哲学の魅力をアピール
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金子元久「大学教育と学生の成長」名古屋高等教育研究第12 号、2012 12
魅力のある授業設計
入り口←魅力・関心喚起アプローチ→動機づけがうまくなされているか?
授業設計←インストラクショナルデザイン・AL→形成的評価が取り入れられているか?→外化を伴うプロセスが盛り込まれているか?→適切な課題設定がなされているか?
出口←有用性アプローチ→哲学の授業で学んだことが他の授業や日常生活で活用できるか?
この枠組みを意識し、できるところから手をつけていく
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入り口
授業への動機づけ:ARCS モデルの4要因
注意(Attention) おもしろそうだな
関連性(Relevance)やりがいがありそうだな
自信(Confidence)やればできそうだな
満足感(Satisfaction) やってよかったな
John M. Keller(2010)『学習意欲をデザインする―ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン』、北大路書房.
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授業設計
インストラクショナルデザイン
到達目標から考える(逆向き設計)
→哲学の授業の到達目標は?
形成的評価を取り入れる
→診断的評価、形成的評価、総括的評価
授業を15~20分1パートで構成する
ガニェ他著「インストラクショナルデザインの原理」鈴木・岩崎監訳、北大路書房、2007
G・ウィギンズ&J・マクタイ(2013)『理解をもたらすカリキュラム設計―「逆向き設計」の理論と方法』西岡加名恵訳、日本標準.
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出口
スキルを身につけるためとしてのアクティブラーニング
アクティブラーニングとは
一方行的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う(溝上2014)
溝上 慎一、『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』、東信堂、2014 16
組織的な授業改善の取り組み事例
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組織的情報共有の事例
イベント系(教育系の学会のようなイベント)
大学教育研究フォーラム(京都大学高等教育研究開発推進センター、22年目)
→ 第22回は764名の参加者、約170件の個人研究発表(口頭+ポスター)
FDフォーラム(大学コンソーシアム京都、21年目)
アイデア、刺激、情報共有、お悩み相談
授業系
プレFD科目(東大、京大、阪大など)
→大学院生向けに授業設計の仕方などについてレクチャー18
組織的情報共有の事例
オンライン系
Interactive Teaching(東大・MOOC講座)
→全国のさまざまな大学・分野・領域の大学院生とインタラクティブに「大学で教える」ということについて考えオンラインで学べる場。
MOST(京都大学高等教育研究開発推進センター)
→オンラインで授業実践についての情報共有ができるプラットフォーム
asagaoメーリングリスト→高等教育関連のイベントが網羅されているML
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個別分野での取り組み
工学系数学基礎教育研究会
2005年設立
現在の会員数は200名程度
全国工学系学部に所属する数学教員の教育・研究に関する情報交換と教育の質的向上を目的として発足
活動概要
研究集会、調査報告、教科書プロジェクト、情報交換(HP,ML)
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検討テーマ
「工学系数学基礎教育研究会」での講演タイトル(抜粋)
「工学部で教える数学はいかにあるべきか」
磯祐介(京都大学情報学部)
「工学系数学基礎教育における存在定理の論証について」小林良和(中央大学)
「数学教育における WEB 利用例の紹介-“数学のプリント置き場”の運用-」梅野善雄(一関高専)
(組織的な)授業改善の取り組みにとって重要なことは継続的な活動にすることである
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共有可能な授業の工夫
Eric Mazur Peer Instruction: A User‘s Manual, New Jersey, 1997
物理学の授業でクリッカーを活用したピアインストラクションについてのテキスト
授業法についてのマニュアル部分は40ページ程度
残りの200ページは物理学の試験問題に当てられている
「よい問題がよい学習を作る」
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問題・問い・課題
鈴木 貴之『ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう: 意識のハード・プロブレムに挑む』勁草書房、2015
哲学は工夫次第でこうした魅力的な問いを立てることができる
こうした魅力的な問いは容易に共有可能→それをベースに授業を各自が組み立てられる
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哲学教育研究会の設立
設立趣旨
哲学の授業に関する具体的な工夫の共有
哲学の授業に関する意見交換の場
哲学の授業に関する情報共有の場
現在の活動
2015年の応用哲学会でWS「受講する価値のある哲学の授業とはどのようなものか? ―哲学教育の意義を考える―」を開催
HP(http://goo.gl/NESe6Z)において授業実践の報告などをおこなっている。
今後の活動に関しては本日のWSでいただいた意見を参考にして進めていきます。 24