学校における肥満児童の状況と対策...the state of obesity in schoolchildren and...

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86 (86~91) 小児保健研究 学校における肥満児童の状況と対策 支援と腹囲測定の有用性について一 梅沢 幸子,近藤 朗,伊東 幸子 〔論文要旨〕 平塚市の小学4年生総数11747名中,春の健診時に肥満と判定された児童881名のうち,精査できた158名につい て肥満の状況と対策を検討した。1回の受診勧告で158名中108名(68.3%)に肥満度の改善が認められ,肥満度の 中央値は2.7%低下しWilcoxonの符号付き順位検定において有意であった。受診児童の診察所見では,全体の88% に腹囲/身長0.5以上, 46.8%に腹囲75cm以上の腹囲増大を認めた。軽度肥満児童においても腹囲増大は高率であっ た。腹囲75cm以上の児童では腹囲75cm未満の児童と比較すると動脈硬化と関連がある血液所見率が上昇していた。 肥満児童の受診率は肥満の程度に関係なく20%前後と低率であり,無自覚のうちの動脈硬化が進行することが懸念 された。肥満児童が学校での支援を受け,腹囲測定や肥満対策資料を活用し自己管理できる環境を作ることが必要 であると考えられた。 Key words:学校健診,肥満度,腹囲測定,肥満対策 1.はじめに 小児期肥満の70%前後は成人期まで続き動脈硬化性 疾患を発症し1),小児期の過体重は成人早期の死亡率 の増加と関連すること2),小児期肥満であった場合に 成人期の冠疾患の発症率が増加すること3)が報告され ている。動脈硬化は小児期から始まるため,早期に肥 満に介入していくことが将来の動脈硬化性疾患の予防 に重要である4)。近年小児のメタボリックシンドロー ムの診断基準(表1)が策定された。メタボリックシ ンドロームは,動脈硬化のリスクから形成された概念 であり,内臓脂肪の蓄積による腹囲の増大が必須項目 である。今回の検討では,肥満児童に対しての学校現 場における働きかけの重要性と腹囲測定の有用性につ いて考察した。 表1 日本人小児のメタボリックシンドロームの 診断基準(6~15歳) 「2010年度改訂版」 ①があり,②~④のうち2項目を有する場合にメタボリック シンドロームと診断する ①腹囲 ②血清脂質 ③血圧 ④空腹時血糖 中性脂肪 かつ/または HDLコレステロール 収縮期血圧 かつ/または 拡張期血圧 80crn以上(注1) 120mg/dl以上(注2) 40mg/dl未満 125mmHg以上 70rnmHg以上 100mg/di以上(注2) 注1:腹囲/身長が0.5以上であれば項目①に該当するとする。 小学生では腹囲75cm以上で項目①に該当するとする。 注2:採血が食後2時間以降である場合は中性脂肪150mg/dl 以上,血糖100mg/dl以上を基準としてスクリーニング を行う (この食後基準値を超えている場合には空腹時採 血により確定する)。 (厚生労働省研究班2011.3) The State of Obesity in Schoolchildren and Obesity Control Measures Support and Usefulness of Abdominal Circumference Measurement- Sachiko UMEzAwA, Hogara KoNDo, Sachiko ITo 平塚市子どもの生活習慣病予防対策委員会/平塚市医師会学校保健委員会(医師/小児科) 別刷請求先:梅沢幸子 間島医院 〒254-0814神奈川県平塚市籠城ヶ丘3番37号 Tel:0463-31-2774 Fax:0463-31-2511 〔2728〕 受イ寸 15,423 採用15.10.17 Presented by Medical*Online

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Page 1: 学校における肥満児童の状況と対策...The State of Obesity in Schoolchildren and Obesity Control Measures -Support and Usefulness of Abdominal Circumference Measurement-

86 (86~91) 小児保健研究

報 告

学校における肥満児童の状況と対策

一支援と腹囲測定の有用性について一

梅沢 幸子,近藤 朗,伊東 幸子

〔論文要旨〕

 平塚市の小学4年生総数11747名中,春の健診時に肥満と判定された児童881名のうち,精査できた158名につい

て肥満の状況と対策を検討した。1回の受診勧告で158名中108名(68.3%)に肥満度の改善が認められ,肥満度の

中央値は2.7%低下しWilcoxonの符号付き順位検定において有意であった。受診児童の診察所見では,全体の88%

に腹囲/身長0.5以上, 46.8%に腹囲75cm以上の腹囲増大を認めた。軽度肥満児童においても腹囲増大は高率であっ

た。腹囲75cm以上の児童では腹囲75cm未満の児童と比較すると動脈硬化と関連がある血液所見率が上昇していた。

肥満児童の受診率は肥満の程度に関係なく20%前後と低率であり,無自覚のうちの動脈硬化が進行することが懸念

された。肥満児童が学校での支援を受け,腹囲測定や肥満対策資料を活用し自己管理できる環境を作ることが必要

であると考えられた。

Key words:学校健診,肥満度,腹囲測定,肥満対策

1.はじめに

 小児期肥満の70%前後は成人期まで続き動脈硬化性

疾患を発症し1),小児期の過体重は成人早期の死亡率

の増加と関連すること2),小児期肥満であった場合に

成人期の冠疾患の発症率が増加すること3)が報告され

ている。動脈硬化は小児期から始まるため,早期に肥

満に介入していくことが将来の動脈硬化性疾患の予防

に重要である4)。近年小児のメタボリックシンドロー

ムの診断基準(表1)が策定された。メタボリックシ

ンドロームは,動脈硬化のリスクから形成された概念

であり,内臓脂肪の蓄積による腹囲の増大が必須項目

である。今回の検討では,肥満児童に対しての学校現

場における働きかけの重要性と腹囲測定の有用性につ

いて考察した。

表1 日本人小児のメタボリックシンドロームの

  診断基準(6~15歳)                「2010年度改訂版」

①があり,②~④のうち2項目を有する場合にメタボリック

シンドロームと診断する

①腹囲②血清脂質

③血圧

④空腹時血糖

中性脂肪

 かつ/または

HDLコレステロール収縮期血圧

 かつ/または

拡張期血圧

80crn以上(注1)

120mg/dl以上(注2)

40mg/dl未満

125mmHg以上

70rnmHg以上100mg/di以上(注2)

注1:腹囲/身長が0.5以上であれば項目①に該当するとする。

  小学生では腹囲75cm以上で項目①に該当するとする。

注2:採血が食後2時間以降である場合は中性脂肪150mg/dl

  以上,血糖100mg/dl以上を基準としてスクリーニング  を行う (この食後基準値を超えている場合には空腹時採

  血により確定する)。

              (厚生労働省研究班2011.3)

The State of Obesity in Schoolchildren and Obesity Control Measures

- Support and Usefulness of Abdominal Circumference Measurement-

Sachiko UMEzAwA, Hogara KoNDo, Sachiko ITo

平塚市子どもの生活習慣病予防対策委員会/平塚市医師会学校保健委員会(医師/小児科)

別刷請求先:梅沢幸子 間島医院 〒254-0814神奈川県平塚市籠城ヶ丘3番37号

      Tel:0463-31-2774 Fax:0463-31-2511

   〔2728〕

受イ寸 15,423

採用15.10.17

Presented by Medical*Online

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第75巻 第1号,2016 87

II.対象および方法

 平成21~25年度までの平塚市立小学4年生,総数

11747名のうち,春の身体測定時に肥満度20%以上は

881名(7.5%)であり,4~5月の健診時にそのうち

の734名が学校医により医療機関への受診勧告をされ

た。その中で6~7月に実際に医療機関を190名が受

診した。対象は,受診した児童の中でデータのそろっ

ている158名(男児86名,女児72名)であり,肥満度

20%以上の児童の179%にあたる。なお,肥満度は性

別,年齢別,身長別標準体重から算出した。

 受診した児童に対して,身長,体重および腹囲の計

測,随時採血で血糖血中ALT(GPT),総コレス

テロール,HDLコレステロール,中性脂肪の測定を

行った。中性脂肪,HDLコレステロール,血糖の基

準値は日本人小児のメタボリックシンドロームの診断

基準「2010年度改訂版」(厚生労働省研究班.2011.3)

(表1)に用いられている値(中性脂肪150rng/dl以

上,血糖100mg/dl以上)を使用し, ALT 311U/1以上,

総コレステロール220mg/d1以上を異常値とした。

 統計解析はSPSS Ver15を用い, Wilcoxonの符号付

き順位検定,X2検定,単回帰分析, Pearsonの相関係

数を求めた。Receiver operating characteristic(ROC)

解析はIBM SPSS Statistics22を用いて実施した。い

ずれも有意水準はOD5とした。

皿.結 果

 図1,表2に対象児童158名の身体測定時4月(春

肥満度)と受診時6~7月の肥満度改善状況を示した。

児童全体では,158名中108名(68.3%)に0.1%以上の

肥満度の改善が認められ,低下した児童の肥満度低下

平均は4.5%であった。この改善率は軽度肥満女児に

おいて高い傾向にあったが,x2検定において有意差は

認められなかった。Wilcoxonの符号付き順位検定で

は,全体肥満児童における春肥満度中央値30ユ%に比

較し,受診時肥満度の中央値は27.4%であり有意な低

下が認められ,肥満程度別,男女別比較においても同

様に有意な結果であった(p<0.01~OD5)。肥満程度

別人数も改善し,受診時には肥満度が正常になった児

童は24名認められた(表3)。

 表4に受診児童158名の肥満度別所見を示した。受

診児童全体の診察所見では,腹囲の増大している児童

は,腹囲/身長0.5以上が全体の88.0%,腹囲75cm以

上は46.8%であった。1項目以上の血液検査の異常値

(有検査異常値)を示した児童は44.3%,肥満度が上

がるにつれて有検査異常値の割合は増加した。

 肥満度が20%未満に改善された児童でも,腹囲/身

長0.5以上は66.7%,腹囲75cm以上は12.5%,有検査

異常値の児童頻度は29.2%であった。軽症肥満児童(肥

満度20%以上30%未満)では,腹囲増大児童(75cm

以上)は36.6%,有検査異常値の児童は45.1%であった。

[]身体測定時4月匡ヨ受診時6~7月 Wil。。.。,の符号付き1・1頁位検定’ P<。.。1,†P.。、。5

80

60

 

40

肥満度

20

0

 

 

O  e∩臼∨9

 ooo

Tーーー|1ー⊥ O

ー Tー上O

 ★  由

~o ー

ー I111嗣開翠1110

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†R睡

ーO

8

T11|甲ー⊥O

ーー

ーロU-

ーー

全体   軽度   中等度   高度   軽度   中等度   萬度   軽度   中等度   高度

  肥満児童全体          肥満児童:男        肥満児童:女

図1 身体測定時4月と受診時6~7月の肥満度の比較(158名)

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88 小児保健研究

表2 身体測定時4月に比較した受診時6~7月の肥満度改善状況

肥満度身体測定時4月

  児童数

   受診時6~7月

肥満度改善児童数と改善率

受診時6~7月肥満度低下平均

身体測定時4月

肥満度中央値

受診時6~7月肥満度中央値

20%以上30%未満

全体 78 54(692%) 3.6% 23.9 22ユ

男児 45 28(622%) 3.8% 23.7 21.7

女児 33 26(78.8%) 3.3% 24.5 22.6

30%以上50%未満

全体 71 48(676%) 5.4% 35.7 33ユ

男児 35 24(6&6%) 4.6% 37.1 34.5

女児 36 24(667%) 6.3% 34.7 32.2

50%以上

全体 9 6(66.7%) 62% 608 58.9

男児 6 5(83.3%) 6.7% 648 59.9

女児 3 1(33.3%) 3.2% 58.0 58.1

全体 158 108(68.3%) 45% 30.1 274

表3 身体測定時と受診時の肥満度別児童数の比較

肥満度 身体測定時4月 受診時6~7月

20%未満 0名 24名

20%以上30%未満 78名 71名

30%以上50%未満 71名 55名

50%以上 9名 8名

合計 158名 158名

表4

00000000

87654321

0

肥満度%

                   :◆◆                   .・A                   ◆  一一

                   ◆■

                 55      65      75      85      95      040  0,45  0 50  0 55  060  065  0,70

                  図2 肥満度と腹囲,肥満度と腹囲/身長の相関

小学4年4月肥満児童の受診時6~7月における有所見人数と割合

 Pearsonの相関係数         80 r=064(p<001}

        ◆         70    ◆          ◆

    ◆ も         60   ◆           .

         50   タ◆ ◆ ・◆◆く◆◆. ・

  カ も      ゆ         40°

洛・♪ :   ◆’ ●鯵 8  稔        30   さゆ キt3t. ”; t◆    2。

べ         10◆       y=098x-43.45

       腹囲cm         O

   Pearsonの相関係数肥満度% r=072(p<O.Ol)

          ◆       .      ◆       ◆    ◆       ◆     ◆      φ

      ゆ     L” ・    の の せ   カ          やの

霧穰◆◆  “・C・・y.1、96.45x-,。94

         腹囲/身長

人数 腹囲/身長 腹囲 血糖 ALT 総コレステロール HDLコレステロール 中性脂肪

受診時の肥満度人 0.5以上

75crn

以上

100rng/dl

 以上

311U/1

以上

220mg/dl

 以上

40mg/dl

 未満

150mg/dl

 以上

有検査

異常値

20%未満 24 66.7% 12.5% 20.8% 0% 0% 8.3% 12.5% 29.2%

20%以上30%未満 71 87.3% 36.6% 11.3% 127% ll.3% 4.2% 18.3% 45.1%

30%以上 63 96.8% 71.4% 17.5% 19.0% 95% 9.5% 19.0% 492%

全体 158 88.0% 46.8% 152% 13.3% 89% 7.0% 17.7% 44.3%

表5 肥満度と腹囲についての各所見に対するスクリーニング効果の比較

    血糖:100mg/dl以上

ROC曲線  95%信頼区間

下面積  下限   上限P値

ROC曲線下面積

ALT:311U/1以上

 95%信頼区間

 下限   上限P値

  総コレステロール:220mg/dl以上

ROC曲線  95%信頼区間

下面積  下限   上限P値

肥満度

腹囲

0.558     0420     0.696

0.552     0423     0.681

0,365

0421

0,672

0,721

0.552   0792

0.614   0827

OOI1*

0.001*

0.586     0.469     0702

0.510     0.362     0659

0290

0898

 HDLコレステロール:40mg/dl未満

ROC曲線  95%信頼区間

下面積  下限   上限P値

ROC曲線下面積

中性脂肪:150mg/dl以上

   95%信頼区間

  下限   上限P値

      有検査異常値

ROC曲線  95%信頼区間

下面積  下限   上限P値

肥満度

腹囲

0625     0.434     0.816

0.631     0.468     0.793

0,167

0,148

0,597

0,600

0.485  0.709

0.478  0.722

0ユ09

0,097

0.608     0.520     0.695

0.614     0.525     0.702

0.020*

0.Ol4*

*p〈0.05

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第75巻 第1号,2016

30%

25%

20%

15%

10%

5%

*p<0.05,+p=0.05,X2検定

0%

   血糖   HDLコレステロール 中性脂肪    ALT

図3 小学4年肥満児童の腹囲(75cm)別有所見率

肥満度30%以上の児童では,腹囲増大児童(75cm以上)

が71.4%と高率で,有検査異常値の児童は49.2%に認

められた。

 受診時の肥満度と腹囲,肥満度と腹囲/身長の相

関を検討した。肥満度と腹囲(r=0.64),肥満度と

腹囲/身長比(r=0.72)は有意な相関を示した(p

<0.01)(図2)。直線回帰式y=098x-43.45から腹

囲75cmは肥満度30.1%に相当した。

 肥満度と腹囲の肥満児童合併症に対するスク

リーニング効果を評価するためにROC解析を行っ

た(表5)。ROC曲線下面積の差は95%信頼区間の

重なりの有無で評価した。肥満度と腹囲はALT上

昇,有検査異常値児童の検出に対して有意であった。

ROC曲線下面積について肥満度と腹囲を比較すると,

6項目中,ALT上昇, HDLコレステロール低下,中

性脂肪増加,有検査異常値の4項目で腹囲が大きかっ

たが,有意差は認められなかった。

 腹囲75cm以上の児童は受診児童全体の74名

(46.8%)であり,腹囲75cm未満の児童に比べ,動脈

硬化に関連した血液検査の所見率が増加しており,中

性脂肪増加24.3%は有意であった(p〈0.05,Jtf2検定)。

(図3)。

IV.考 察

 4月の身体計測後健診を経て受診までは3か月前後

であるが「肥満です。受診しましょう」と勧告をす

るだけで,受診時の肥満度は有意に低下し,158名中

108名(68.3%)の肥満度が減少し,24名の児童は正

常体重となっていた。この傾向は肥満の程度や性別に

関係なく認められた。要因として,受診勧告により肥

89

満改善に向けた動機づけがなされたことが考えられる

が,学校において肥満児童に適切な働きかけを行うこ

とは有効であると示唆された。養護教諭や学級担任に

よる肥満児童への働きかけは,「児童を精神的に傷つ

けるのでは」という理由で敬遠される場合がある。肥

満度腹囲や成長曲線を利用することで,肥満を早期

に発見し,生活習慣の見直しを計る形での介入ができ

れば,児童の精神的,肉体的ダメージを最小限にする

ことが可能ではないかと考えられる。

 メタボリックシンドロームの源流は内臓脂肪の過剰

な蓄積とされ,大関らは腹囲を用いた子どもの健康管

理として,小学生では腹囲75cm以上をメタボリック

シンドロームに対する赤信号,腹囲/身長0.5以上は

黄色信号と提唱している1)。腹囲測定は簡便であり,

小児のメタボリックシンドローム対策として学校健診

に取り入れるべきであるとされている5)。今回の検討

でも,腹囲75cm以上の児童では,動脈硬化と関連が

ある因子の有所見率が増加しており,中性脂肪増加は,

腹囲75cm未満の肥満児童に比べ有意であった。内臓

脂肪の増加がALT上昇,高脂血症,インスリン抵抗

性を惹起するというメタボリックシンドロームの機

序6)と一致していた。

 肥満度と腹囲の関係では,肥満度が20%未満に改善

されても,腹囲/身長0.5以上は66.7%,腹囲75cm以

上は12.5%存在するため,継続した支援が必要である

と考えられた。軽症肥満とされる肥満度20%以上30%

未満の児童においても,腹囲増大(75cm以上)児童

は36.6%認められた。軽度肥満児童に対する治療の基

本方針は,一般的には集団的な健康教育とされている

が7),その中にはすでに腹囲75cm以上でメタボリッ

クシンドローム相当として介入が必要な児童が含ま

れていることを学校健診の場でも,認識することが

重要であると考えられた。肥満度30%以上では,腹

囲75cm以上の児童の頻度は71.4%,腹囲/身長0.5以

上は96.8%,血液検査の異常児童数頻度49.2%であり,

動脈硬化の進展予防には,早期に対策をとることが必

要であると考えられた。

 肥満度と腹囲は有意な相関を示し,直線回帰式から

腹囲75cmは肥満度30.1%に相当した。肥満度と腹囲

測定の動脈硬化に関連深い所見に対するスクリーニ

ング効果を評価するためにROC解析を行った。肥満

度と腹囲はALT上昇,有検査異常値児童の検出にお

いて有意であった。また肥満度と腹囲を比較すると

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90 小児保健研究

ALT上昇, HDLコレステロール低下,中性脂肪増加

児童のスクリーニング効果は,有意ではなかったが腹

囲測定が優れているという結果であった。肥満度は,

身長に対する過体重度をあらわす指標であるのに対

し,腹囲は内臓脂肪蓄積の指標であるため,動脈硬化

性疾患の予防には,腹囲測定が有用であると考えられ

た。

 日本において現在40歳以上の成人男性の30%,成人

女性の11%はメタボリックシンドロームが強く疑わ

れると報告されている8)。肥満児童とメタボリックシ

ンドロームの関係は,肥満児童の一部は既にメタボ

リックシンドロームである場合と成人期まで肥満が

トラッキングしメタボリックシンドロームとなる場

合がある1)。頻度としては,圧倒的に後者が多く,小

児期における肥満対策は重要である。学校現場での腹

囲測定は,小児のメタボリックシンドロームのスク

リーニングとして必要であるばかりでなく,健康教育

と並行して実施することにより,児童生徒が肥満を認

識する機会となり,無自覚のうちに進む動脈硬化に対

する抑止力となると考えられた。

 平塚市において小学4年肥満児童の受診率は肥満の

程度に関係なく20%前後と低率である(図4)。動脈

40 受診率%

35

30

25

20

15

10

5

0

  H19   H20   H21

      図4

H22  H23  H24  H25 平均

肥満度別受診率の推移

de軽度肥満

r白中等度肥満

◆高度肥満

昏全体受診率

硬化は小児期から始まることが報告されており4),肥

満の程度によっては成人期を迎える頃にはすでに動脈

硬化が進行していることが危惧される。また肥満改善

には継続した支援が必要であるため,「平塚市子ども

の生活習慣病予防対策委員会」では平成24年度から生

活習慣改善を目的としたチェックリスト(図5)と健

康カードの2種の自己管理ツールを導入した。生活

習慣チェックリストは,肥満の認知行動療法になら

い9)作成したが,守りたい生活習慣10項目と体重グラ

フを児童が毎晩記入し,好ましくない生活習慣を改善

しながら体重を管理することを目的としている。図5

は受診した児童のチェックリストの1例であるが,児

童はクリスマス,お正月等で増えた体重を,1月末に

はまた戻すことができていた。健康カードは,医療機

関受診時や学校での計測時に,身長体重,肥満度腹

囲,血圧,検査結果を記入し,2~3年間自己管理す

るためのカードである。同委員会ではこれらの自己管

理ッールを誰でも利用可能にするため,他の肥満対策

資料とともに医師会と市役所のホームページで公開し

た。

V.結 △冊

昌一■口

 小学4年肥満児童において軽度肥満児童から腹囲増

大児童の割合は高く,将来の動脈硬化性疾患発症が懸

念された。肥満児童の受診率は肥満度に関係なく20%

前後と低率であり,学校での肥満指導は重要である。

学校健診で得られた肥満度や腹囲測定結果を,児童と

保護i者に積極的に提供し,動機づけにすることが有効

であると考えられた。学校健診で肥満を自覚した児童

が,医療機関を受診できない状況であっても,学校で

の支援を受け,肥満改善に向け生活習慣を自己管理す

るスキルを身につけることを期待する。

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謝 辞

 平塚市子どもの生活習慣病予防対策委員会の事業に御

協力頂いている学校関係者,医療機関の皆様に御礼申し

上げます。論文作成にあたりご指導頂いた「たなか成長

クリニック」田中敏章先生に深謝致します。

 本論文の要旨は第44回全国学校保健・学校医大会で発

表した内容に症例数を追加して検討した。

 利益相反に関する開示事項はありません。

図5 生活習慣チェックリスト

Presented by Medical*Online

Page 6: 学校における肥満児童の状況と対策...The State of Obesity in Schoolchildren and Obesity Control Measures -Support and Usefulness of Abdominal Circumference Measurement-

第75巻 第1号,2016

                  文   献

1)大関武彦,加藤令子,西田志穂.肥満.小児科

   2011 ;52:1215-1221.

2)Franks PW, Hanson RL, Knowler WC, et al.

   Childhood obesity, other cardiovascular risk fac-

   tors, and premature death. N Eng J Med 2010;

   362:485-493.

3)Baker JL, Olsen LW, Sorensen TIA, Childhood

   body-mass index and the risk of coronary heart

   disease in adulthood. N Eng J Med 2007;357:

   2329-2337.

4)中村隆広,鮎沢 衛.成人および小児の動脈硬化.

   大関武彦編.小児メタボリックシンドローム,小児

   科臨床ピクシス6.東京:中山書店,2009:70-72.

5)藤原 寛学校におけるメタボリックシンドロー

   ム.大関武彦編小児メタボリックシンドローム.

   小児科臨床ピクシス6.東京:中山書店,2009:

   176-179.

6)有阪 治.生活習慣病の病因・病態.清水俊明編.

   小児生活習慣病ハンドブック.東京:中外医学社,

   2012二12-18.

7)小坂喜太郎,衣笠昭彦.小児の肥満の実態.清水俊

   明編.小児生活習慣病ハンドブック.東京:中外医

   学社,2012:84-87.

8)厚生労働省平成23年国民健康・栄養調査報告.

   http://wwwmhlw.gojp/bunya/kenkou/eiyou/h23-

   houkoku.html(参照2014-5-10)

9)朝山光太郎,子どもの肥満症の治療とケア 9行動

   療法のしくみと実際 日本肥満学会編.小児の肥満

   症マニュアル.東京:医歯薬出版,2005:75-78.

91

〔Summary〕

  Of a total of 11,747 fourth-grade elernentary school

students in Hiratsuka City,881 were judged to be obese

in the spring health checkup;of these 881,158 who could

undergo detailed examination were examined for the

state of obesity to consider measures to prevent it. A

recommendation to see a physician improved the per-

cent overweight in lO80f the l58 students(68.3%)and

reduced the median percent overweight by 2.7%, which

were judged as being statistically significant by the Wil-

coxon signed rank test. According to the findings in the

children who saw a physician,88%had an abdominal

circumference/height ratio of≧05 and 46.8%had an ab-

dominal circumference of≧75 cm. Children with mild

obesity also showed increased abdominal circurnference

at a high frequency. Blood findings related to arterio-

sclerosis were more commonly seen in children with an

abdominal circumference of≧75 cm than in those with

an abdominal circumference of<75 cm. The proportion

of obese children who saw a physician was as low as ap-

proximately 20%, regardless of the severity of obesity,

raising concerns that arteriosclerosis rnight progress in

children while they/their guardians are still unaware of

the problem. It was considered necessary to create an

environment in which obese children can receive support

from the school and manage themselves by abdorninal

circumference measurernent and reading material on

obesity control measures.

〔Key words〕

school health examination, percent overweight,

abdominal circumference measurement,

obesity control measures

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