若年発症痛風および女性痛風の病態に関する研究 ·...

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19 〔東女医大誌 第63巻 第12号頁1463~1470平成5年12月〕 若年発症痛風および女性痛風の病態に関する研究 東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター(所長:柏崎禎夫教授) サク ヤマ (受付 平成5年8月13日) Analysis of Clinical Data in Juvenile and Female Riko SAKUYAMA Institute of Rheumatology, Tokyo Women’s Medical Colleg It has been reported that gouty arthritis occurs mainly in middle in juvenlies and women. We evaluated these rare cases of gout fro and pathophysiology. The age of onset of gout has become younger in the last 20 characterisitcs of young patients with gout include obesity and hig fat, purine, and alcohol。 Frequency of women’s gout was 160ut of 1086 43women’s gout were observed their pathophysiology and clinical Secondary gout, which was probably caused by the use of diure dysfucntion, occurred more frequently量n women than in men. Howe groups, there were no significant differences in either hormonal level The incidence of gout increased more in men than in women decrease in cases of secondary gout associated with diuretics. 痛風は本邦においては明治以降に初めて記載さ れた疾患で,実際に患者数が著増したのは昭和40 年代になってからのことである1).痛風は,中年男 性に多い病気として知られているが,若年で発症 する痛風や女性の痛風症例もある.しかし,病例 数が少ないためか,その頻度や臨床像は必ずしも 明らかにされていない. 痛風患者数は疫学的に増加傾向にあると考えら れている1)が,同時に最近の日常診療でも20歳代 から30歳代前半の比較的若い年代で発症する症例 が多くなった印象がある.しかし,痛風の発症年 齢は本当に低下しているのかは必ずしも明らかで はなく,また若年発症痛風の病態も不明な点が多 い.そこで,①痛風の発症頻度を経年的に検討し, 痛風発症の低年齢化傾向を明らかにする,②若年 性痛風の発症に関与する要因を,特に栄養摂取面 から検討することを試みた. 一方,女性にみられる痛風は,症例数が少ない がゆえに,その頻度や臨床像については欧米2)~5), 本邦6)7)の報告が数回報告されているのみでいま だに十分に検討されていない.さらに,血清尿酸 値には男女差があるため,女性痛風の発症に何ら かの内分泌的異常の存在が指摘されている が8)~15),本邦例においては内分泌学的な:検討がな い.従って通院中の女性痛風患者について,①女 性痛風例の全痛風患者に占める比率を求め,欧米 の報告や本邦の過去の報告との比較,②今回得た 43例について,本邦における女性痛風と男性痛風 患者は臨床的に何らかの相違があるか否か,③女 性痛風は内分泌学的に特徴があるか否か,につい て解析した. 一1463一

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Page 1: 若年発症痛風および女性痛風の病態に関する研究 · (bmi)を計算した.③外来で24時間蓄尿を行い, cua, ccr,および1日尿中尿酸排泄量を測定した.

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原  著

〔東女医大誌 第63巻 第12号頁1463~1470平成5年12月〕

若年発症痛風および女性痛風の病態に関する研究

東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター(所長:柏崎禎夫教授)

 サク   ヤマ     リ    コ

 作 山  理 子

(受付 平成5年8月13日)

Analysis of Clinical Data in Juvenile and Female 60ut Patients

       Riko SAKUYAMAInstitute of Rheumatology, Tokyo Women’s Medical College

  It has been reported that gouty arthritis occurs mainly in middle・aged and elderly men, and rarely

in juvenlies and women. We evaluated these rare cases of gout from the perspective of epidemiology

and pathophysiology.

  The age of onset of gout has become younger in the last 20 years than in the past. The

characterisitcs of young patients with gout include obesity and high dietary intake of total calories,

fat, purine, and alcohol。 Frequency of women’s gout was 160ut of 1086 cases(1.47%)from 1989 to 1992.

43women’s gout were observed their pathophysiology and clinical features.

  Secondary gout, which was probably caused by the use of diuretics or the presence of renal

dysfucntion, occurred more frequently量n women than in men. However, between age-matched control

groups, there were no significant differences in either hormonal levels or clinical features of gout.

  The incidence of gout increased more in men than in women possibly because of a marked

decrease in cases of secondary gout associated with diuretics.

         緒  言

 痛風は本邦においては明治以降に初めて記載さ

れた疾患で,実際に患者数が著増したのは昭和40

年代になってからのことである1).痛風は,中年男

性に多い病気として知られているが,若年で発症

する痛風や女性の痛風症例もある.しかし,病例

数が少ないためか,その頻度や臨床像は必ずしも

明らかにされていない.

 痛風患者数は疫学的に増加傾向にあると考えら

れている1)が,同時に最近の日常診療でも20歳代

から30歳代前半の比較的若い年代で発症する症例

が多くなった印象がある.しかし,痛風の発症年

齢は本当に低下しているのかは必ずしも明らかで

はなく,また若年発症痛風の病態も不明な点が多

い.そこで,①痛風の発症頻度を経年的に検討し,

痛風発症の低年齢化傾向を明らかにする,②若年

性痛風の発症に関与する要因を,特に栄養摂取面

から検討することを試みた.

 一方,女性にみられる痛風は,症例数が少ない

がゆえに,その頻度や臨床像については欧米2)~5),

本邦6)7)の報告が数回報告されているのみでいま

だに十分に検討されていない.さらに,血清尿酸

値には男女差があるため,女性痛風の発症に何ら

かの内分泌的異常の存在が指摘されているが8)~15),本邦例においては内分泌学的な:検討がな

い.従って通院中の女性痛風患者について,①女

性痛風例の全痛風患者に占める比率を求め,欧米

の報告や本邦の過去の報告との比較,②今回得た

43例について,本邦における女性痛風と男性痛風

患者は臨床的に何らかの相違があるか否か,③女

性痛風は内分泌学的に特徴があるか否か,につい

て解析した.

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Page 2: 若年発症痛風および女性痛風の病態に関する研究 · (bmi)を計算した.③外来で24時間蓄尿を行い, cua, ccr,および1日尿中尿酸排泄量を測定した.

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       対象および方法

 1.対象

 本研究における対象は,いずれもAmerican

Rheumatism Associationによる痛風関節炎の予

備基準16)をみたす痛風患者である.

 若年性痛風め発症年齢の対象は1984,1985年の

2年間および1992年目東京女子医大膠原病リウマ

チ痛風センター外来を初診した男性一次性痛風患

者それぞれ383例,239回目ある.

 若年発症の病態におよぼす要因の検討のための

対象は,1989年1月目り1992年12月末日までに当

センター外来を初診した男性一次性痛風患者693

名である.ただし尿酸排泄能に影響を及ぼすと考

えられる女性痛風を家系に含む遺伝性痛風患者17)

と糖尿病合併患者17)は除外した.

 女性痛風の頻度の対象は1991,1992年の東京女

子医大膠原病リウマチ痛風ヤンター外来を初診し

た女性痛風患者16例で,対照は同年の全痛風患者

1,086貫目ある.

 女性痛風の病態解析の対象は,東京女子医大膠

原病リウマチ痛風センター外来通院中の女性痛風

患者43名で,調査時平均年齢と標準偏差は58.3±

15.6歳である.対照として当センター外来通院中

の男性痛風患者60名(平均年齢59.9±9.8歳)を年

齢をあわせて選んだ.明らかな基礎疾患を有する

ものは原則として二次性痛風と分類した.なお,

内分泌学的検査の対照は年齢をあわせた閉経後の

健常女性11名を選んだ.

 2.方法

 1)若年性痛風の病態解析の検討

 (1)発症年齢の検討

 当センターを1983,1984年の2年間,1992年の

1年間に初診した男性一次性痛風患者,各々383

例,239例の発症年齢を10歳ごとの各年代にわけて

年代別発症頻度を検討し,1965年の大島の1,811例

のデータ28)と比較した.

 (2)若年発症に及ぼす要因の検討

 1989年に当センターを初診した男性一次性痛風

患者693名のうちまず,1992年の時点で30代の痛風

患者を33例を選び,発症年齢より10歳代発症,20

歳代発症,30歳代発症群に分けた.この3三間で

問診により痛風家族歴の有無を調べ,身体計測に

より肥満度の指標であるbody mass index

(BMI=体重(kg)/身長(m)2),生化学検査にて

尿酸クリアランス(Cua),クレアチニン・クリア

ランス(Ccr)を測定した.さらにアンケート方式

にて1週間の食事内容の調査を行い,総カロリー

(kcal),タンパク質(g),脂質(g),糖質(g),

アルコール(g),食事性プリン体摂取量(mg)の

1日平均値を算出し比較した.アルコールのうち

特にプリン体が多いとされるビールの摂取量につ

いても毎日大瓶3本以上,2~3本,2本以下に

分けて患者の割合を検討した.

 2)女性痛風の病態解析に関して

 (1)女性痛風の頻度

 1991,1992年初診の全痛風患者1,086例に対する

女性痛風患者16例の頻度を検討した.

 (2)女性痛風の病型別分類と病態の検討

 ①問診により発病時期,痛風の家族歴の=有無

合併症の有無,利尿剤服用の有無,アルコール多

飲の有無を調べ,②女性痛風患者の関節症状を男

性痛風患者と比較し,身体計測により肥満度

(BMI)を計算した.③外来で24時間蓄尿を行い,

Cua, Ccr,および1日尿中尿酸排泄量を測定した.

④43例中8例の症例に対し以下の内分泌学的検査

を実施した.LH, FSH, ACTH, TSH,プロラ

クチン(PRL), PTH, FT3, FT4,デヒドロキ

シアンドロステロンサルフェート(DHEAS),エ

ストラジオール(E2),プロゲステロン,テストス

テロンを測定し,これらはラジオイムノアッセイ

法で,尿中コルチゾールの測定は蛍光偏光免疫測

定法で,尿中17KSの測定はガスクロマトグラ

フィー法で測定した.閉経前の女性については月

経開始後10日前後に来院させて採血採尿を行っ

た.

 統計学的解析はすべてt検定,λ:2検定および

Fisherの直i接確率計算法を用いた.

         結  果

 1.若年性痛風の頻度と病態解析

 1)痛風の発症年齢の変遷と若年性痛風の頻度

の変化

 1984,1985年の2年間および1992年の1年間に

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当科を初診した痛風患者の発症年齢別分布と,

1965年に報告された大島らの痛風発症年齢別分布

を図1に示す.

 1984,1985年の結果では,痛風の発症は30歳代

が最も多く次いで40歳代,50歳代の順であった.

1992年のデータでもほぼ同様の結果であった.一

方,1965年の大島らの報告では50立代が最も多く

次いで40歳代,30歳代の順であった.平均発症年

齢は大島らの対照群では46.2歳1984,1985年は

42.6歳,1992年は43.0歳で,1965年以降の明らか

な発症年齢の低年齢化がみられた(p〈0.01).た

30

 20ま

緊 10

0

一19  20・  30- 40-  50- 60- 70_

  29    39   49    59   69

     発症年齢   口1965(大島、11鋭例)   囲  1984,1985 (3831列)

   回  1992 (2391列)

図1 痛風の発症年齢の経年的推移

だし,1984,1985年と1992年の結果においては差

はなく,痛風発症の低年齢化は1965年から1984年

の20年間に起きていたことが示された.

 2)若年性痛風の病態の解析

 1992年間時点で30歳代の痛風患者33例の発症年

齢別の検討では,痛風の家族歴の有無には差は認

めなかった.腎機能の検討では,Cuaは30代発症

群が3.3±0.7と有意に低かったが,Ccrでは

78.8±10.1で有意の差はなかった.一方,10歳代

発症群は他の二丁に比較してBMIが27.2±5.5

と最も大きく,肥満傾向の存在が認められた(表

1a).

 痛風患者の食事内容を検討したところ,総カロ

リー,タンパク質,脂質,アルコール,食事性プ

リン体摂取量はいずれも10歳代,20歳代,30歳代

の順に多く,若年発症群においてより高エネル

ギー,高脂肪,高プリン体の摂取傾向があること

が認められたが,糖質の摂取量には差を認めな

かった(表1b).また,1日総アルコール量のうち

ビール摂取量のみを比較すると毎日大瓶2本以上

のむ患者の割合は10歳代,20歳代,30歳代の順に

多かった(表2).

 2.女性痛風の頻度と病態の解析

 1)女性痛風の頻度

表1a 痛風発症の年代別にみた病態

発症年齢 現年齢家族歴L/無

 Cuaiml/min)

 Ccrim1/min)

BMIi%)

10歳代@発症群(n=4)

Q0歳代@発症群(n=23)

R0歳代@発症群(n=6)

19,25±3

Q6.9±4.2

R3.5±6.3

 28±2,1

R2.3±1.3

@34±6

1/4

Q/19

s明4P/5

s明1

4.18±1.6

F:嵩:;}

77.5±14.5

X1.9±17.9

V8。8±10,1

27.2±5.5

Q3.8±2.5

Q3.9±3.1

*p<0.01,他はNS=not significant.

表1b 痛風発症の年代別にみた栄養摂取量

総カロリー タンパク質 脂   質 糖   質 アルコール プリン体(kca1) (9) (9) (9) (9) 摂取量(mg)

10歳代 2,070.9±292.7 82.9±10.2 64±7.6 247.7±48.5 18,9±17.8 133±32,1発症群(n=4)

20歳代@発症群(n=23)

R0歳

1,994,8±677.8

P,822,3±359.4

 79±29.4

V1.6±8.4

58,5±25,7

T3,4±3,9

262.2±77.2

@263±52.8

::::認} 121.3±49

@82±17.1発症群(n=6)

象p〈0.05,他はNS=not signi丘cant.

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 1989~1992年に初診した全痛風患者1,086例中,

女性痛風は16名で,全痛風患者に占める頻度は

1.47%であった.

 2)女性痛風の九型別分類と病態の検討

 現在当科を通院中の女性痛風患者43例のうち,

閉経前発症は7例(16%),このうち3例が一次性

痛風であった.閉経後発症は36例(84%)で,こ

のうち22例が一次性であった.逆に女性痛風43例

中,一次性痛風は25例(58.1%),二次性痛風は18

表2 発症年齢別にみたビール摂取量の比較

毎日大瓶、

Q本以上毎日大瓶P本以下

計(人)

10歳代発症

Q0歳代発症

D30歳代発症

2(50%)

R(12.9%)

O(0%)

2(50%)

P7(85%)

U(10%)

4206

例(41.9%)であったが,年齢をあわせた男性痛

風60例(59.9±9.8歳)の内訳は各々57例(95%),

3例(5%)であり,女性痛風では明らかに工次

性痛風が多かった(p<0.00001).

 二次性痛風の原因となった病態の内訳は,女性

は腎障害11例でその内訳は家族性腎性痛風1例,

高血圧性腎障害5例,慢性腎炎2例,不明3例で

あった.薬剤性は5例ですべてフロセミドによる

ものであった.先天性心疾患は2例(ファロー四

徴症1例,動脈管開存症1例),男性は腎障害3例

(高」血圧性腎障害1例,不明2例)であった.

 表3に示すごとく痛風の発症年齢は女性におい

て平均52.6±16.7歳,男性が51.3±11.4歳で両群

に有意の差を認めなかったが,一次性痛風に限る

と女性での発症年齢の高い傾向がみられた.すな

わち女性は57.1±13.8歳,男性は51±12.8歳で

表3 女性痛風の臨床的背景因子

A女性痛風 B女性の一次性 C男性痛風 D男性の一次性P〈

検討項目 全体(n=43) 痛風のみ(n;25) 全体(n=60) 痛風のみ(n=57)A:C准 B:D*

現年齢(歳) 58.3±15.6 62,1±12.8 59.9±9.8 59,4±9.6 NS** NS発症年齢(歳) 52.6±16.7 57.1±13.8 51.3±11.4 51±12,8 NS 0.05

罹病期間(年) 6,2±4.6 5.1±3,7 8。6±6.6 8.8±5.8 NS 0.05

家族歴あり 9例(20.9%) 6例(24.0%) 9例(15.0%) 8例(14%) NS NS随伴項目

高血圧 8例(18.6%) 7例(28.0%) 11例(18,3%) 10例(17.5%) NS NS利尿剤服用 5例(11.6%) 0 0 0 0.05 NS腎機能不全 8例(18.6%) 1例(4.0%) 1例(1.7%) 0 0,005 NS腎結石 0 0 4例(6.7%) 3例(5,3%) NS NSアルコール多飲 2例(4,7%) 1例(4.0%) 11例(18.3%) 11例(19.3%) 0.05 NS糖尿病 2例(4,7%) 1例(4,0%) 5例(8.3%) 3例(5.3%) NS NS

BMI 24,0±3.3 24.3±2.9 24.3±2.9 24,9±5.8 NS NS

串A:C,B:Dは各々A群とC群,** mS:not significant.

B群とD群の比較を示す.

表4 女性痛風の罹患関節部位の比較

罹患関節所見P

A女性痛風S体(n=43)

B女性の一次性ノ風のみ(n=25)

C男性痛風S体(n=60)

D男性の一次性ノ風のみ(n=57)

A:α B:D喰

単関節型

@上肢罹患(例)

@下肢罹患(例)

@ 第1趾罹患(例)

ス関節型(例)

053394

NS傘*

mSmSmS

NSmSmSmS

*A:C,B:Dは各々A群とC群,** mS:not significant.

B群とD群の比較を示す.

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表5 女性痛風の腎機能

A:女性痛風 B:女性の一次性 C:男性痛風 D:男性の一次性P<

腎 機 能 全体(n;43) 痛風のみ(n=25) 全体(n;60) 痛風のみ(n=57)A:C* B:Dホ

Cua(ml/min) 4.5±2.2 4.8±L9 4.8±1.7 4.7±L5 NS** NSCcr(ml/min) 69,1±32,3 73.4±28.6 74.6±19.3 76±16.0 NS NSCua/Ccr(%) 6.3±2.6 6.3±2.4 6.5±2.0 7.5±9.2 NS NS1日尿酸排泄量 0.4±0.2 0.5±0.1 0.7±0.3 0.6±0,3 0,001 NS

(9/day)

Ccr<40ml/min 8例(18.6%) 0 1例(1.7%) 0 0,001 NS

率A:C,B:Dは各々A群とC群, B群とD群の比較を示す.** mS:not significant.

あった.家族歴を有する症例の頻度は男女で有意

の差はなかった.この両三において,高血圧,利

尿剤投与,腎機能不全,腎結石,アルコール多飲,

糖尿病を有する症例数を比較した.女性痛風全体

と男性痛風の比較では,女性痛風に利尿剤服用回

数,腎機能不全二二が有意に多く,男性痛風にア

ルコール多飲者が有意に多く認められたが,一次

性痛風のみに限って比較すると男性例との差を認

めなかった.

 痛風の病態を表わすもののひとつとして,急性

関節炎の罹患関節部位を男女の一次性痛風間で比

較検討したが,有意の差を認めなかった(表4).

 腎機能の比較検討では,Cua, Ccr,およびCua/

Ccrには男女で有意の差を認めなかったが, Ccr

40ml/min以下の腎不全例は女性例に多く,1日

尿酸排泄量は表5に示すごとく女性例で著しく低

かったが,一次性痛風のみで検討すると女性と男

性痛風との間に差がなかった.

 女性痛風例の内分泌学的検討として,1名の閉

経前,8名の閉経後女性痛風患者について下垂体

機能検査,甲状腺機能検査,副腎機能検査,性腺

機能検査を行った.閉経前の1例では内分泌学的

検査はすべて正常範囲であったので,閉経後の女

性痛風患者8名と閉経後対照群11名の内分泌学的

検査の比較を行ったが,いずれの項目でも対照群

との間に有意の差は認められなかった(表6).た

だし,女性痛風群に慢性甲状腺炎例が2例存在し,

甲状腺機能は正常であったが,サイログロブリン

抗体と,抗マイクロゾーム抗体が高値であった.

表6 女性痛風の内分泌学的検討

閉経後 健常女性痛風群 対照群 P

(n=8) (n=11)

下垂体機能検査

LH(mlU/ml) 22.4±7.5 13.9±34.5 NS*

FSH(mIU/m1) 94.9±35.5 82.9±38.4 NSPTH(P9/ml) 34.4±5.3 23.6±7.4 NSPRL(ng/m1) 3.7±1.5 6.0±4.6 NS

甲状腺機能検査

TSH(μU/m1) 1.2±0.4 0.6±3.4 NSFT4(ng/dl) 1.0±0.3 1.2±0.2 NSFT3(P9/ml) 3.2±0.4 3.2±0,9 NS副腎機能検査

ACTH(P9/ml) 31.7±25.1 37.1±29.3 NS170HCS(mg/day) 4.8±2.7 4.9±2.3 NSDHEAS(ng/m1) 510.0±209.5 727.0±436.2 NSCortisol(mg/day) 100.9±40.9 100.1±33.5 NS

性腺機能検査

E2(P9/ml) 22.1±49.1 9.3±6.0 NSTestosterone(ng/ml) 1.5±0.7 1.3±0.6 NSProgesterone(ng/ml) 0.3±0.04 0.3±0.3 NS

*NS:not significant.

        考

本研究においては,

          まず若年発症の痛風に焦点

を当て検討した.痛風の発症年齢は,1965年の大

島らの報告以後20年間で著しく低年齢化し,1984

年以後は変化がなかった.若年性痛風のなかには,

ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランス

フェラーゼ(HGPRT)欠損症や家族性二二痛風な

どの先天的要因を持つ患者も存在すると考えられ

るが,遺伝的背景を持つ痛風患者が一定の割合以

上に増加するとは考えにくく,この経年変化の原

因は何らかの環境要因の関与が示唆される.痛風

一1467一

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患者の低年齢化が起こったと推察される1965年か

ら1984年の20年間に,国民栄養学的には食生活の

質的量的変化が起きている1).そこで発症年齢別

に病態に差があるかどうかを解析した.その結果

発症年齢が低い群ほど肥満度が高く,総カロリー,

タンパク質,脂質,プリン体,アルコールの摂取

量が多いことが示された.糖質摂取においてはあ

まり差がなかったが,アルコール摂取量は若年発

症群において多く,特にビールの摂取量が多いの

が注目され,豊かな時代め反映と考えられた.

 飲酒に伴う尿酸の一過性の上昇は,アルコール

飲料中の多量のプリン体の摂取,乳酸産生に伴う

腎臓からの尿酸排泄の低下,エタノールの代謝過

程における尿酸合成の充進,細胞内脱水,などの

複数の要因によることが示されている18).しかし,

長期的な血清尿酸値の上昇に関しては,ビール中

のプリン体の過剰摂取と高カロリー摂取による肥

満が重要な作用を及ぼすものと考えられてい

る19)~25).すでに,痛風患者では健常者と食事内容

では差がないがアルコール摂取量が有意に多いこ

とが複数の研究で報告されている19)~25).特に,

ビールの中に含まれるプリン体の含量は他のアル

コール飲料に比して明らかに多く,約5mg/dlで

あるため19)20)大瓶2本に含まれるプリン体の量は

約70mgで,ヒトの1日のプリン体産生量である

600mgに比しても決して無視のできない量であ

る.これらのことからも,我が国の若年の痛風患

者の増加は,過食傾向とビール消費量の増加に伴

う食事性プリン体の過剰摂取が一要因である可能

性が考えられた.

 女性痛風の頻度と病態の解析では,今までに報

告されたことのない興味あるデータが示された.

一次性痛風と二次性痛風の分類については,必ず

しも明確でない症例もあったが,原則として明ら

かな原因のあるものを二次性として分類した.二

次性痛風としては先天性心疾患に伴う症例があっ

たが,これは持続する低酸素血症,二次性多血症

に伴って起こることがすでに報告されている26).

 今回解析したデータから,本邦の女性痛風,特

に一次性痛風の臨床像は男性痛風患者と類似して

いることが明らかになった.痛風全体では男女差

の認められた腎機能低下も,一次性痛風のみに

限って比較すると差がみられなかった.つまり,二

次性痛風,なかでも利尿剤投与例,腎機能低下例が

男性より有意に多いことのみが確実な男女差であ

る.二次性痛風患者は男性にも認められるが,男性

では一次性痛風患者が圧倒的に多数で,二次性痛

風患者は比較的少ない.それに対して女性では男

性に比べ一次性痛風が極めて少ないことが二次性

痛風の割合を高くしているものと考えられる.

 女性痛風の多くは閉経後に発症することが知ら

れている.実際に今回の検討でも36例(84%)の

症例が閉経後発症で,閉経前発症例は7例のみで

あった.女性痛風で閉経前発症する場合は,家族

歴の濃厚な腎不全を伴う家族性腎性痛風であるこ

とが多いとされる17)が,今回の検討では1例のみ

認められた.Leeperらは女性痛風では甲状腺機能

異常などの内分泌学的特徴が存在すると報告して

いるが12),今回の検討では,健常対照群との問に差

を認めなかった.その原因のひとつに女性で二次

性痛風が多いことが影響している可能性がある

が,女性の一次性痛風のみで検討した結果でも,

有意の差は認められなかった,なお,女性痛風に

おける利尿剤使用例は男性痛風に比し有意に多

かったが,43例償わずか5例であり従来の報告よ

り少なかった.これは我が国において高血圧治療

に降圧利尿剤を投与される症例が減っていること

と関連していると思われる.

 1年間の外来の痛風患者の新患のデータから,

女性痛風の比率1.47%を得,これを種々の報告と

表7 女性痛風の痛風全体に占める頻度の報告例

報告年全痛風ウ者数

女性痛風@患者数i頻度=%)

文献

Turner et al(米国) 1960 74 19(25.7) 5)

大島ら(日本) 1965 1,840 46(2.5) 28)

本間ら(日本) 1965 129 14(10.8) 7)

Graham et al(英国) 1970 1,010 98(9.7) 9)

Hadler et a1(米国) 1974 102 10(9.8) 27)

西岡ら(日本) 1974 2,447 23(0.94) 6)

Chen et al(台湾) 1989 3,355 194(5.78) 29)

Puig et a1(スペイン) 1991 336 37(11.0) 3)

作山ら(日本) 1992 1,086 16(1.47) 本研究

一1468一

Page 7: 若年発症痛風および女性痛風の病態に関する研究 · (bmi)を計算した.③外来で24時間蓄尿を行い, cua, ccr,および1日尿中尿酸排泄量を測定した.

25

比較して表7にまとめた.今回の研究で得た痛風

患者の男女比は,米国,スペイン,台湾,英国の

報告より明らかに低い.しかし,本間ら7)は1965年

の報告で本邦の女性の痛風患者の頻度を痛風患者

全体の10.8%としており,これは同時代の米国の

報告27)に近い値である.以前にも指摘されたよう

に,本邦の女性痛風患者の女性対男性の比は1965

年から現在までに経年的に低下してきている可能

性がある6).その理由のひとつに,降圧利尿剤の使

用頻度の減少が考えられる.以前は降圧利尿剤は

高血圧治療の第一選択剤として積極的に用いら

れ,女性に多い特発性浮腫に対しても美容上の観

点で利尿剤が投与されることも少なくなかった

が,近年は他の有効な薬剤も多く開発されたため

使用頻度は激減した.本研究でも,降圧利尿剤使

用例は男性痛風より女性痛風において多かった

が,その頻度は従来の諸家の報告より少なかった.

第二の要因として考えられるのは,本邦における

一次性痛風の増加である.1965年頃より,生活の

欧米化によって日本人の栄養摂取量は飛躍的に増

加し,糖尿病,肥満が増加していることはよく知

られている1).一次性痛風もそれに伴い増加して

いる可能性が強いが,今回の検討でも示されたよ

うに女性痛風に占める一次性痛風の比率は男性痛

風より小さいので,結局のところ,一次性痛風の

みの増加が相対的に女性痛風の比率を低下させて

きた可能性が高い.

         結  論

 以上,若年発症の痛風と女性痛風という従来稀

とされてきた痛風の病態の最近の動向を解析し

た.その結果,若年性痛風は1965年以降増加して

おり,その原因として過食とアルコール摂取量の

増加が示唆された.その一方で,女性痛風は降圧

利尿剤の使用頻度の減少と男性の一次性痛風の増

加により相対的に減少しているという結果を得

た.これらの変化に及ぼす大きな要因は過栄養で

あり,痛風患者やその予備群である高尿酸血症患

者における適正なカロリー摂取の重要性を示唆す

る結果であると考えられた.なお,女性痛風の内

分泌学的な異常は今回の検討では明らかにするこ

とができなかった.

 最後に東京女子医大膠原病リウマチ痛風センター

柏崎禎夫教授・山中 寿講師の御指導,第三内科学教

室大森安恵教授の御指導,御校閲並びに教室の先生方

の御協力に深謝いたします.

         文  献

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一1469一

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