台湾航空宇宙産業調査報告 · 2013-06-19 · 4 fhi 永峰部長 gmtc mr. wilson chen 5...

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平成24年4月  第700号 1 1.今回訪問の主旨 現下の急激な円高の状況を受けて、我が国 航空機産業においては、各新興国との間で厳 しい競争下におかれている。一方、ボーイン グ社やエアバス社等の航空機メーカーはグ ローバルサプライチェーンの最適化を行って おり、今後、我が国企業がその中でどのよう にプレゼンスを維持・拡大できるかが課題と なっている。 このため、我が国の競争力を補強し、現下 の厳しい状況から脱却する布石とするため、 欧米から遠く、製造・整備ビジネスで我が国 と同様の環境にあり、かつ、コスト競争力が 相対的に高い台湾とどのような協業体制が構 築可能か分析・評価する材料を収集すること が必要である。 今回の官民合同ミッションは、我が国企業 と台湾企業との新たな関係構築の可能性を探 ることなどを主な目的として、具体的な国際 分業の在り方や生産技術等の革新方策につい て調査・検討を行うものである。 小林孝国際委員長を団長として、17の企業・団体から構成された総勢31名が台湾を訪 問した。3月5日から8日までの4日間の日程で、日本-台湾産業宇宙セミナーや、台湾企 業9社の視察を行った。 台湾航空宇宙産業調査報告 - 貿易会議に関する官民合同ミッション - 小林団長の日本-台湾航空産業セミナーでの挨拶

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Page 1: 台湾航空宇宙産業調査報告 · 2013-06-19 · 4 FHI 永峰部長 GMTC Mr. Wilson Chen 5 Nippi 大野部長 DPI Mr. Shawn Huang 6 新明和 福本グループ長 AIDC(Engine)

平成24年4月  第700号

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1.今回訪問の主旨現下の急激な円高の状況を受けて、我が国航空機産業においては、各新興国との間で厳しい競争下におかれている。一方、ボーイング社やエアバス社等の航空機メーカーはグローバルサプライチェーンの最適化を行っており、今後、我が国企業がその中でどのようにプレゼンスを維持・拡大できるかが課題となっている。このため、我が国の競争力を補強し、現下

の厳しい状況から脱却する布石とするため、

欧米から遠く、製造・整備ビジネスで我が国と同様の環境にあり、かつ、コスト競争力が相対的に高い台湾とどのような協業体制が構築可能か分析・評価する材料を収集することが必要である。今回の官民合同ミッションは、我が国企業と台湾企業との新たな関係構築の可能性を探ることなどを主な目的として、具体的な国際分業の在り方や生産技術等の革新方策について調査・検討を行うものである。

小林孝国際委員長を団長として、17の企業・団体から構成された総勢31名が台湾を訪問した。3月5日から8日までの4日間の日程で、日本-台湾産業宇宙セミナーや、台湾企業9社の視察を行った。

台湾航空宇宙産業調査報告- 貿易会議に関する官民合同ミッション -

小林団長の日本-台湾航空産業セミナーでの挨拶

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トピックス

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2.日本-台湾航空宇宙セミナー日本-台湾航空産業セミナーは、3月5日台

湾市内Taipei International Convention Centerに於いて、台湾から44の航空企業・団体で総勢約80名が集まり、日台合計約110人の参加を得て開催された。(1)台湾および日本側挨拶冒頭、台湾のIDB(Industrial Development

Bureau)のChou副局長から日本の航空宇宙訪問団の来訪を歓迎する旨挨拶があった。台湾の航空産業は規模が小く、中小企業が偏在していることなど特殊な産業であるにもかかわらず、日本の政府、企業、団体が来台したことは、記念すべきことである。台湾は航空産業に限らず「日台産業架け橋プロジェクト」の立ち上げを昨年12月16日に決定した。この直後に日本の航空宇宙産業の皆さん方が来台したことは喜ばしい。相互理解を深める中で、産・学・官といった多面的な協力関係が出来ることを期待している、と述べた。また、台湾航空宇宙工業会のHsu会長(AIDC

社長)からは、台湾企業は、日本企業はもとよりBoeing、Airbusなど欧米の企業ともすでに取引があり、世界のサプライチェーンの中

でなくてはならない存在になった。今回のセミナーや工場訪問の中で、複合材など新たな分野でも台湾企業が技術力を付けてきているところを是非日本側に見て頂き、日台合作によるビジネス連携に繋げて欲しい、という意欲的なメッセージを頂いた。一方、小林団長からは、冒頭今回の訪問団

の受け入れへの感謝や東日本震災に対する台湾の大きな支援への謝辞を述べた後、今回の目的として、台湾企業への理解を深めることであると挨拶した。そしてB787の機体・エンジンなどで日本は国際的に大きな役割を果たし、堅調な展開を行っている。その一方で、台湾の航空宇宙分野での成長には目を見張るものがあり、その実情をよく視察したいと思っている。今回の訪問による相互理解の深化で、ビジネスにつながる事を希望している、と結んだ。

(2)セミナー講演内容以下のとおり日台それぞれの団体が航空産

業の概要を紹介した後、個別企業のプレゼンテーションとして、日本から11社、台湾から9社が企業紹介を行った。

会場全景

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CASID(Committee for Aviation and Space Industry Development)による台湾航空産業の説明概要は、以下の通りである。

2000年から2012年までの売り上げデータを図1に示すように、2012年は26億米ドル(約2,100億円@80円/米ドル)で、日本の約1兆1,000

億円に比べ20%の売り上げ規模ではあるが、その伸びは12年間で約3倍に増えている。年率で約9%も増えていることを示し、2001年の同時多発テロや2008年のリーマンショックの影響も顕著でない。

  日本側 台湾側No. 団体・企業名 講演者 団体・企業名 講演者1 SJAC 板原部長 CASID Mr. James Lei2 MHI 久野部長 AIDC(Structure) Mr. Gary Lo3 KHI 久保サブプロマネ Chenfull Mr. Allen Chang4 FHI 永峰部長 GMTC Mr. Wilson Chen5 Nippi 大野部長 DPI Mr. Shawn Huang6 新明和 福本グループ長 AIDC(Engine) Mr. Peter Pan7 富士インダストリーズ 鳴川執行役員 Aerowin Dr. Kuo-Hao Tseng8 IHI 塚田部長 AvioCast Mr. Jeff Lin9 SPP 辻田支配人 Magnate Mr. Aleen Yu

10 Honda 西田主任研究員 TAS Dr. Charlie Chang11 Koito 浦田部長 - -12 JRC 小野寺部長 - -

表1 日台双方の講演者

図1 台湾航空宇宙産業の売り上げ

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質疑応答のセッションでは、「台湾の急速な発展の理由は何か」の問いに対して、台湾は、「政府の航空に対する支援と相まって、AIDCがBoeingやAirbusなどから受注し、それを台湾の下請け企業が着実に加工し、その実績が評価された結果、海外との取引が増えてきたことによる」、という回答があった。また、「AIDCの役割は何か、下請け企業が海外企業と直接受注を行うようになると、AIDCと競合しないのか」の問いに対しては、台湾は、「基本的には海外からの受注はAIDCが一手に引き受けている。しかし、下請け企業がAIDCと競合しない範囲で直接受注するケースもあるが、現在は競合していない」との回答があった。

3.台湾企業訪問訪問先企業の概要を以下に示す。

(1)AIDC社(機体) 同社は1969年に設立された、台湾で唯一の

航空機開発・製造メーカー。国家が株式を保有する国営企業で、傘下の企業数は約100社ほどである。台中市には、本社の他、部品製造工場、最終組立工場、複合材工場(Taiwan Advanced Composite Center)の3つの大きな工場がある。そのうち、複合材工場は2010年に設立され、複合材の設計、開発、製造、組立を一貫して担当している。国産戦闘機「経国」の開発や政府からの支

援により培った技術力をてこにして、民間航空機の分野に進出しており、2011年の受注は

図2 日台協力関係モデル

また、将来の日台関係強化のモデルと題して3つのシナリオを提案した(図2)。1つ目は現在のように日本をTier 1とする下請け関係を継続するもの、2つ目は中国への進出を目指して、日本ブランド製品の部品供給や台中

窓口機能を強化するもの、3つめは、日本が機体の最終組み立てを行う際、台湾がリスク・シェア・パートナーとなる協力体制である。なかなか興味ある提案で、考える余地のあるテーマであろう。

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防衛関係が約55%だが、2018年には民間機が約55%と逆転するという。その際、売上は1.5倍に増えるという。MRJプロジェクトにも参加して、スラット、フラップ、ラダー、エレベーター等の主要な部位を担当しており、現在も生産準備が進められている。同社の下請け業者の管理は、「Collaboration

Manufacturing System」という管理システムを用いて、台湾国内の94社のサプライヤーの生産管理状況を監視している。また、サプライヤーの品質レベルを4段階に評価し、指導などを加えることで、品質向上を図っている。また最新設備の複合材センターは、同社が

30年以上に渡って蓄積してきた複合材技術を集結させたものである。回転翼機の外板などへの適用が75%を占めているが、2年後にはMRJの生産開始やAirbus社からの受注が増えることが期待され、固定翼機の製品が売り上げの半分を超えるとみている。このため、今年度中にはM.Torres社の自動積層機も導入する設備投資が計画されている。完成したばか

りの同センターには、新しいオートクレーブ3基(直径4m×長さ9mx2基、直径4.8m×長さ13mx1基)が据え付けられていた。

(2) AIDC(Engine)社高雄郊外の岡山地区に位置した空軍敷地内

で、1969年から、航空機用エンジンの部品製造や組み立て運転を行ってきた。国産戦闘機用のライセンス生産エンジン「TF1042」の製造が終了後、民間エンジン部品の製造に転換した。この時、AIDCが受注した加工の一部は、国産戦闘機の製造で協力してきた下請け加工業者に依頼し、国内での航空エンジン生産活動を継続した。主要顧客は、GE社、RR社、Honeywell社、Snecma社、P&W社で、それぞれ売上の内訳は63%、22%、10%、 2%、3%で、GE社に依存していることが判る。当該工場には3つのショップがあり、それらはケーシング部門、一般加工部門、鋳物製造部門である。ケーシング部門では、4軸、5軸の縦型ミリ

No. 分類 企業名 主要製品・事業

1 機体 AIDC(Aerospace Industrial Development Corporation)

40年近い歴史を持つ航空機メーカー。軍用機・民間機の構造部分の製造も手掛け、ビジネスジェットの主翼・垂直尾翼・ヘリコプターのコクピットなどの製造も行う。

2 エンジン AIDC(Aerospace Industrial Development Corporation)

1と同じ会社だがEngine関係の部門で、高雄に位置する。台湾国産戦闘機エンジンF124(Honeywell社)の全体組み立てを行ったほか、現在は民間エンジンの部品製造を行う。

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機械加工

Chenfull International Co., Ltd 1976年設立、CNC精密金属、溶接、ポスト処理等加工。国際航空宇宙産業の認定サプライヤーとして20年の経験を持つ。

4 MAGNATE TECHNOLOGY Co. エンジン部品の精密加工で、ケーシング、マウント、ファンや圧縮機の翼など。

5 DPI(Drewloong Precision,Inc)1990年設立、加工精密部品、航空、海洋、工業用の製作に関与。航空宇宙産業は重要な市場部門の1つで、商業旅客機、ビジネス機、ヘリコプターの製造にも力を入れている。

6 Aero Win Technology Corporation

1974年設立、Pratt & Whitney、Snecma、Hispano-Suiza、 Techspace Aero、 MHI and MTU認定サプライヤー。プレス、加工、溶接、ろう、板金を成形&作製、ブロアム、プラズマ溶射コーティング テスト及び検査、金型設計等。

7 鍛造素材 Gloria Material Technology Corporation (GMTC)

1988年設立、Ti合金、工具鋼、高速鋼、P・M高速鋼、ステンレス鋼等、世界的に高品質な ESR材料の素材を提供。

8 複合材 TOPKEY1.2次構造部材とインテリアでは、B757/777の脱出装置、C-17トイレなど2.主構造部品では、MDヘリのタイルブーム組立部品など3.ラケット、ヘルメットなど複合材製品

9 機体・エンジン整備

EverGreen Aviation Technologies Corp.

運航者であるとともに、機体エンジンの整備部門を持つ。特に、B787胴体輸送用にB747を改造したDream Lifterはここで機体改造作業を行った。

表2 台湾企業訪問先一覧

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ング機、縦型旋盤などを有し、第一工場でCFM56、CF34などのGE系の高圧圧縮機ケーシングを、第2工場でV2500、BR710、Trent XWBなどRR系の圧縮機の最終仕上げ加工を行っている。荒加工は、Magnate社など下請け企業に工程委託している。また、圧縮機ケーシング内側には、アブレーダブル加工など特殊加工も行い、完成品として納めている。生産量は、CFM56が年産750台、V2500が年産400台で、前者は第2供給者、後者は単独供給者となっている。さらに、GE系の圧縮機加工では、LEAP Xの加工も受注すると述べている。一般機械部門では、5軸NC機械、ブローチ

機械などにより、GE90タービン部静止部品のシュラウド支持部品、TFE731エンジン・低圧タービン翼、Trentエンジン・カービック加工、GE CT7HPCディスクなどの加工を行っている。また、板金部門も含まれ、CF34、CFM56のエアダクト、TFE104のアフターバーナ用火炎保持器など電子ビーム設備を用いた加工を行っている。鋳物部門では、小型ながら真空溶解、ワッ

クス整形、自動Dipping装置などを有し、V2500 用静止部品のTOBI Duct、PW4000の排気案内翼、501K用静翼などを製造している。先進技術である単結晶翼製造は、CMSX-3材料による試作を行っているという。生産管理について、特に下請けの管理を

しっかり行っていることを強調した。仕事の流れとして、AIDC社がGE社やRR社から受注をし、下請けが可能な機会加工を下請けにさせ、特殊工程、最終仕上げを同社が行うという分業を行っている。入手はできなかったが、説明資料の中には、32社の下請け企業(実名入り)に対し、月別に、満足度を多面的に評価しており、今回訪問した会社はその上位に入っていた。同社の内作/外注の区分け方針として、最終組み立てと最終検査、コーティ

ングなど特殊工程(下請けに機械・装置がない工程)を同社内で行い、荒加工などは外注するという。エンジン修理については、空軍が自分で行えない大修理は同社が引き取って行い、再組み立て、エンジン試験の後に出荷する、ということも行っている。

(3)Chenfull社1982年の設立で、靴製造機械では世界有数

の会社である。航空宇宙事業は1986年に政府の支援を受けて開始し、機械加工ではアルミを中心に、チタン、ステンレス鋼やインコネル等の加工も行う。昇降用脚部品をはじめ、各種航空機構造部品のほか、エンジン部品の加工を担っている。現在、航空宇宙分野は全体の売上の10%程度で、従業員は100人程度であるが、今後、世界の航空機市場は拡大するものと見込んでおり、台中市の工業団地に工場を新設したり、最新鋭のNC機械を購入するなど、積極的な設備投資が行われている。工場内では、AIDCから受注したCFM56や

CF34のエンジンケースが多い。表面処理設備が同工場にないため、同ケーシングはAIDCに戻してコーティング加工等を行っている。また、大型のフライス盤は約27mの長さがあり、Boeing747の尾翼加工を行なっている。台湾でこの規模の設備を持つのは、同社とAIDCのみである。現在は、航空宇宙関連の加工はすべてAIDCから受注しているが、エンジンのOEM会社と直接契約できる道を探しているという。

(4)Magnate社1987年創業の機械加工会社で、設立当時は

日本の工具の製造から出発した。1992年に日本の食品機械製造メーカーの指導を受け、ス

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テンレス加工を得意とするようになった。1997年には国産戦闘機「経国」のエンジン部品の加工をAIDCから受注し、ここから航空関係の仕事を始めた。2000年以降は、鋳物製ハウジングの加工や、主脚部品の加工など航空部品にも事業を広げてきた。2009年には社屋を移設し、大きな顧客であるAIDCから20分程度の距離にある高雄工業団地の中に新家屋を建設した。今年は第2工場の工場建屋が完成し、床面積は約2倍に増え、従業員は310名である。航空関係が売り上げの2/3、残りは産業用、食品機械用である。航空機の内訳として、AIDCからの受注が約半分を占めている。主な加工品として、CFM56とV2500のHPCケーシングが主力で、CFM用は年産750台、V2500用は年産400台を製造しており、前者は第2加工業者として、後者は単独加工業者として受注している。また、ケーシングでは、低圧タービン部品も手掛けている。エンジンマウント(フランス・ロシアのSAM146)の加工、組み立て、タービン静翼の端面加工、降着装置加工や産業用部品加工を行っている。

(5)DPI社1990年に設立され、航空機部品の機械・板

金加工、金型鋳造等が主な事業で、主な顧客は、AIDC、BoeingやAirbusである。工場は拡張の一途で、設立当初は工場床面積は2,000㎡だったが、現在は約4倍で8,690㎡に達し、今年第二工場の10,000㎡が加わることで、床面積は倍増する。約25年で10倍に増えたことになる。この第二工場完成により、アノダイズ処理、プライミング等の表面処理加工が可能となり、今までAIDCに依存していた工程を内作することができる。また、それに伴い非破壊検査設備等も新設し、設備投資が旺盛である。これまで表面処理等の特殊な加工設備は

AIDCが担当し、操業負荷が高いと生産工程上のネックとなっていたが、これが解消されるという。一方、第一工場では3軸や5軸の機械加工、

プレスや熱処理、板金加工や組立等を行っている。作業現場には若年の作業者が多く、手作業のエリアには女性の姿が目立った。従業員数は120名程度だが、繁忙期には150名ほどに増員し、柔軟な雇用調整を行っている。

AIDCやBoeingのほか、Spiritも主要顧客で、2007年に最初の契約を締結した。一時期Spirit社は、中国本土に一部の部品加工を転注したが、期待した成果が得られなかったため、再度全ての加工を台湾の同社に戻した。このような経緯を経て、現在はSpirit社と良好な関係を保っている、という。

(6)Aero Win社1974年にカーテン製造会社として設立した

が、約30年前に空軍の修理部門の作業者を受け入れてから、航空エンジンの仕事を増やしてきた。当初はAIDCの仕事から始めたが、現在は売り上げのうち8%程度とその依存度を下げてきている。主な顧客は、SNECMAを含むSafranグループで、MHI名誘、高砂の仕事も行っている。主力分野は、機械加工、板金加工、板金組み立てで、従業員170名で年間約20億円売り上げがある。

CFM56エンジンの静止系の板金部品がたくさん流れており、4アイテムは、単独発注を受けており、月産120個程度という。しかし、単独サプライヤーになるためには、在庫を6ヵ月も保有する必要があり、経済的な負担も伴うという。戦略としては、板金加工、板金組み立てを

指向するという。その理由は、機械加工は人件費の安いところに移ってゆく可能性があるが、板金加工は、作業者の技量を求められる

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ゆえ、台湾で行うべき事業と考えたという。チタン部品の熱間加工では、プレス機械に独自に電気ヒータを取り付ける追加改修を行い、熱間加工を可能にしているという。

(7)Gloria Material社 1988年にEvergreenグループの素材会社

Evergreen Super Alloy Corpとして設立された。高速度鋼、ステンレス鋼、工具鋼など鉄系材料の鍛造素材を出荷してきたが、最近ではチタン、ニッケル基ベースの耐熱鋼を手掛けるに至り、輸出比率は72%である。しかし、台湾の国産戦闘機やそのエンジンに素材を供給することはなく、2000年から航空機分野への素材供給を開始している。現在では約450億円の売り上げのうち8%を占めるに至ったものの、大きな取引分野はエネルギーで、発電用ガスタービン部品などで、日本国内のメーカーへの供給も始めている。従業員は1,100人で、台湾南部の嘉義市郊外にある工業団地に数年前に移設し、この際、ニッケル系耐熱材料の鍛造加工用を行う工場建屋が新設されている。まだ敷地には空き地もあり、生産能力拡張の余地もある。会長のHsing-Shin Chen 氏の挨拶の中で、「自分たちは炭素鋼鍛造のチャンピオンだ。ユーザがニッケル系のチャンピオンであれば、チャンピオン同志が一緒に仕事をすることで、お互いにチャンピオンになれる。」との強気な姿勢を示し、日本の機体、エンジン等企業との積極的な関係構築を期待した。

(8)Topkey社 1980年に炭素繊維を使ったテニスラケット

メーカーとして、事業を開始した。その後、培った複合材技術を伸ばし、現在ではラケットメーカーおよび複合材自転車メーカーとして世界一で、中国に4工場、アメリカに1工場

有する。航空分野では、複合材料を使ったヘリコプターの外板やダクト等の構造材、民間旅客機の座席の構造部分、化粧室や内作に必要なプレプリグの製造も行っている。航空部品の製造は、1995年からで、MDヘリのファンダクトの製造を行うため、ワシントン州の工場(Composite Solutions:従業員数80名)を買収したことから始まる。なお、台湾での航空関連の複合材製品を製造能力の増強のため、積層機、検査設備の設備導入を積極的に行っている。

(9)EGAT/Eva Airways社海運のEvergreen社が1989年に航空輸送部門に参入し、その機体・エンジンの整備部門がEGAT社で、資本はGE社が20%を占めている。自社整備から開始し、現在では社外の仕事が7割を占めている。2011年の売り上げは約5億米ドルで、従業員は約2,200名である。そのうち作業者は、機体の定期整備に850名、飛行場(Ramp)に350名、機器修理に120名、エンジンに250名の合計1,470名である。機体部門では、定期整備に加え、内装の換

装、翼端ウイングレットの組み付けなどの改修工事も手掛けている。すでに終わった工事ではあるが、Beoing747を改造した大型輸送機Dream Lifterは2006年に初飛行し、現在は、改造した4機全てが運航中である。この旅客機から貨物機への換装工事で、コックピットのすぐ後ろに設けられた、圧力隔壁の形状が通常のおわん形でなく、平板型を採用したため、強度を確保する点から厚い部材を採用した。この重い圧力隔壁からの荷重と自重を分散するため複雑な締結構造をもち、この工事が難航したという。また、ほとんどの改修に必要な部品をBoeing社から支給してもらうが、この部品を旧構造部材に組み付けると貫通穴の位置が一致しないため、手直しに苦労したと

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いう。エンジンショップでは、GE90、CF6、CT7

といったGE系のエンジンのほか、V2500のオーバーホールも行い、年間180基を出荷している。部品の修理、機器の機能試験など数多くの工程をこなせるよう設備投資がされていた。運転セルは1基で、GE90といった90万ポンドクラスのエンジンの運転試験が可能である。

4.所感(1)台湾の航空宇宙産業は、ここ12年で3倍の売り上げと急激な成長を遂げてきた。欧米メーカーがコストダウンを追求した結果、安価で品質の良い製品を作る台湾に加速して依頼してきていることを如実に見た気がする。日本企業が手放した機体部品製造が台湾で行われたり、150席クラスの民間機用エンジンの高圧圧縮機ケースの機械加工のうち全世界の2/3が台湾で加工されたりと、日本が認識しないうちに、世界のサプライチェーンの中で存在感を増してきている。

(2)今回の企業訪問の印象として、台湾企業が設備投資に積極的であること、が挙げられる。工作機械の購入、工場家屋の増設、工業団地への移転といったことがあちこちで起きている。その背景には、欧米が価格の安い、かつ品質の安定している台湾をパートナー先とし、仕事量が急に増えていることに対応していると考えられる。一方、ある企業の投資資金の調達は、銀行の借り入れとオーナーの投資が半分といった、話

も聞かれ、日本に比べ比較的資金が豊富であったり、決済が早いなど原因はいろいろありそうである。

(3)AIDCが台湾企業を代表する主契約契約を行い、傘下の企業と分業化を図って共に成長する構図がある一方、鍛造会社を中核として機械加工会社を巻き込んだTaiwan Aerospace Industry Supply Chain Alliance(TAS)という受注協力体が出来上がっていた。これは、「One Stop Shop」の考えで、素材の入手から、荒加工、仕上げ加工を経て、表面処理などの特殊工程や最終検査まですべての工程を台湾内で行うというものである。AIDCと別の受注形態をとることになり、一部の企業は、AIDCの下請け仕事から独立してゆく、という新たな動きである。

(4)エンジン関係の部品製造についていえば、年間の圧縮機ケースの加工はV2500エンジンで400台、CFM36エンジンで700台と少品種・多量生産を行っていることも、台湾の特徴であろう。日本では、部品の種類が多い割に生産量が少ない、多品種・少量生産を行っており、構造的に生産性向上が行いにくい状況と対照的に見える。

(5)現在、台湾の航空機産業の売り上げは、日本のそれの1/5程度ではあるが、日本の航空宇宙産業も台湾のような国の追い上げがすぐ後ろまで来ており、こういった国とどう付き合ってゆくかは、日本の将来を決める重要な課題と思われる。

(財)日本航空機開発協会     立野 朱里(財)日本航空機エンジン協会  吉浦 健一郎(一社)日本航空宇宙工業会    板原 寛治

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日本からの参加者No. 会社名 氏名 MR/MS Name 役職

1 三菱重工業株式会社(MHI) 小林   孝 MR Takashi Kobayashi 代表取締役、常務執行役員、航空宇宙事業本部長

2 三菱重工業株式会社(MHI) 久野  哲郎 MR Tetsuro Hisano 民間航空事業部 副事業部長 兼 民間機事業管理部長

3 川崎重工業株式会社(KHI) 高羽  謙哉 MR Kenya Takaha 航空宇宙カンパニー 営業本部 民間航空機部長

4 川崎重工業株式会社(KHI) 久保  正幸 MR Masayuki Kubo 航空宇宙カンパニー 大型機民転事業サブプロジェクトマネージャー

5 川崎重工業株式会社(KHI) 山田  勝久 MR Katsuhisa Yamada 理事 ガスタービンビジネスセンター 生産統括部長

6 富士重工業株式会社(FHI) 永峯  義隆 MR Yoshitaka Nagamine 航空宇宙カンパニー 航空機第二部長

7 株式会社IHI 塚田   央 MR O Tsukada 航空宇宙事業部 生産センター 資材部 部長

8 株式会社IHI 森田  昭彦 MR Akihiko Morita 航空宇宙事業部 生産センター 相馬第2工場生産技術部 部長

9 日本飛行機株式会社(NIPPI) 大野  俊仁 MR Toshihito Ono 航空宇宙機器事業部 品質保証部長

10 日本飛行機株式会社(NIPPI) 坂口  広文 MR Hirofumi Sakaguchi 航空宇宙機器事業部 製造部生産管理課長

11 日本飛行機株式会社(NIPPI) 平野   暁 MR Akira Hirano 航空機整備事業部生産管理部生産技術グループ長

12 新明和工業株式会社 福本  哲也 MR Tetsuya Fukumoto 航空機統括本部 民間機技術部 787量産グループ グループ長

13 新明和工業株式会社 関   幸大 MR Yukihiro Seki 航空機統括本部 生産技術部 金属グループグループ長

14 住友精密工業株式会社(SPP) 辻田  光大 MR Mitsuhiro Tsujita 支配人

15 株式会社 本田技術研究所 西田  浩明 MR Hiroaki Nishida 航空機エンジンR&Dセンター開発室第3開発グループ 主任研究員

16 ㈱小糸製作所 浦田   晃 MR Akira Urata 航空製造部・航空計画課 部長

17 民間航空機株式会社 松尾  則久 MR Norihisa Matsuo 代表取締役社長

18 民間航空機株式会社 山内  康英 MR Yasuhide Yamauchi 常務取締役

19 ㈱富士インダストリーズ 鳴川  典男 MR Norio Narukawa 執行役員

20 ㈱富士インダストリーズ 佐々木 祐一郎 MR Yuichiro Sasaki 東京支店長

21 日本無線株式会社(JRC) 小野寺 輝明 MR Teruaki Onodera 海外営業部

22 財団法人 日本航空機エンジン協会(JAEC) 斉藤   隆 MR Takashi Saito 理事

23 財団法人 日本航空機エンジン協会(JAEC) 吉浦 健一郎 MR Kenichiro Yoshiura プロジェクト室 課長代理

24 財団法人 日本航空機開発協会(JADC) 北爪 由紀夫 MR Yukio Kitazume 副理事長

25 財団法人 日本航空機開発協会(JADC) 一丸  清貴 MR Kiyotaka Ichimaru 専務理事

26 財団法人 日本航空機開発協会(JADC) 立野  朱里 MS Akari Tateno 管理室・総務部

27 財団法人 航空機国際共同開発促進基金(IADF) 松﨑  博樹 MR Hiroki Matsuzaki 企画調査部 部長

28 社団法人 日本航空宇宙工業会(SJAC) 今清水 浩介 MR Kosuke Imashimizu 専務理事

29 社団法人 日本航空宇宙工業会(SJAC) 板原  寛治 MR Hiroharu Itahara 国際部長

30 経済産業省(METI) 近藤  智洋 MR Tomohiro Kondo 製造産業局 航空機武器宇宙産業課長

31 経済産業省(METI) 荒木  健史 MR Takeshi Araki 製造産業局 航空機武器宇宙産業課企画調整係長