建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通 …−82 − (&É...

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82 分科会G1 建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通して 協働的な学びの中で、建設的な話し合い活動を生み出す 鎌倉市立山崎小学校 教諭 太一 キーワード:タブレットPC,建設的妥協点,協働的,モバイル性 1.はじめに 本校は児童数約700名の鎌倉市では大規模校であ り、周辺を緑で囲まれた市内でも珍しい自然環境が豊 かな学校である。また、1年生から6年生までのたて わり活動が1年間を通しておこなわれ、その集大成と して鎌倉の歴史ある文化のよさを再確認するために鎌 倉の寺社をたてわりグループで巡る“かまくら巡り” という行事が行われている。その他にも、全校児童に よる文化祭的な“山小祭”、保護者や地域の人びとの協 力を得て、児童達が町中を走り、走り終わった後はP TAから豚汁が振る舞われるという“マラソン大会” など、地域と学校が一体となった教育も行われており、 それらの行事によって子どもたちはたくましく成長し ていく伝統のある学校である。また、今は天国に召さ れたが、全校児童に愛されていた学校のシンボルであ るヤギの“サクラ”と“ワカバ”が委員会活動と保護 者の連携で学校の敷地内で飼育されていた特色のある 学校でもある。 そんな山崎小学校で過ごしている子どもたちに、素 晴らしい学校や地域、鎌倉の文化の良さを再確認させ、 それを相手に伝える活動の中から学ぶことのできた力 をここに紹介する。 2.実践の概要 (1) 身につけさせたい力 ・自分たちの学校、地域の良さをふり返り、ネット の向こう側にいる交流校にカルタで伝えようとい う意欲をもつ。 ・言葉や文章の内容から、試行錯誤しながら映像等 のデジタルに表現できる。 ・互いの作品に対しての相互評価の場面において、 建設的妥協点を探ることができる。 (2)学習の概要 <活動のゴール> 実際に各校がカルタをつくり、カルタ遊びをする。 自分たちのことをネット上の向こう側にいる同じプ ロジェクトのみんなにアピールするという相手意識、目 的意識をもった活動である。そして、他地域(他校)と の交流という点において差異やズレを比較し自分たち の地域を振り返る。 読み札と絵札の制作においては映像と言語の往復を 促し、絵札の制作段階においては自分たちのことを知ら ない人たちに伝えるという課題をもとに、子どもたち同 士が試行錯誤(クラスの中、そして交流を通した子ども たち同士の中の両方)しながら絵札をつくりあげていく。 コラボノートというソフト上で、交流相手と作品のブ ラッシュアップなどを伝え合う場面においては、子ども たちが他者(交流相手の子どもたち)とのかかわりの中 で試行錯誤するという学習活動をおこなう。この関わり の中で子どもたちが評価の観点(例:色づかい、見やす さ、写真の撮り方等)をもとにやりとりを行う際、交流 相手や学年の差異により尊重意識が生まれ、建設的妥協 点を探る場面を生み出していく。交流のメインアイテム となるカルタ作りの場面ではクラスや学校の自慢をカ ルタに表現する際に、子どもたちの柔軟な思考やインス ピレーションを冷ますことなく、レスポンス良くデジタ ル作品として作成できるモバイル性に優れたタブレッ トPCを使用することで、協働的な学習の姿を作り出す。 (3) 使用機器・ソフトウェア タブレットPC はっぴょう名人 コラボノート (4)参加校 鎌倉市立山崎小学校(本校) 4年生(神奈川) 関西大学初等部 2年生(大阪) 和歌山市立西脇小学校 5年生(和歌山) 白鷹町立鷹山小学校 6年生(山形) 3.実践の内容と学びの成果 (1)出会い この学習のキックオフとして、お互いの学校や学級 のスリーヒントクイズを作りコラボノート上で交流を スタートさせる。相手校のクイズに対して、どこの都 道府県の友だちなのだろう、何年生かな、などと考え ながら、コラボノートという掲示板的なバーチャル模 造紙に回答や感想をデジタル付箋で貼り付けてく。そ の際に子どもたちは、「どこの誰だか分からないのだ から失礼のないようにしないとね」などと、相手意識 を高く持つことができていた。この時点で地域による 差異からくる尊重意識も高まっていた。 お互いの地域を答えとして伝える際に、4校で同日 同時刻に撮影したクラスの記念写真をコラボノート上 に添付した。それを見た瞬間、「わー!雪国の6年生 だ。」「みんな同じ制服を着てるんだね。」などと、 写真1 協働的にカルタ作りに取り組む

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Page 1: 建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通 …−82 − (&É >E>/ (&É >E>/ 建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通して

− 82 −

分科会G1

分科会G1

建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通して - 協働的な学びの中で、建設的な話し合い活動を生み出す -

鎌倉市立山崎小学校 教諭 上 太一

キーワード:タブレットPC,建設的妥協点,協働的,モバイル性

1.はじめに本校は児童数約700名の鎌倉市では大規模校であ

り、周辺を緑で囲まれた市内でも珍しい自然環境が豊

かな学校である。また、1年生から6年生までのたて

わり活動が1年間を通しておこなわれ、その集大成と

して鎌倉の歴史ある文化のよさを再確認するために鎌

倉の寺社をたてわりグループで巡る“かまくら巡り”

という行事が行われている。その他にも、全校児童に

よる文化祭的な“山小祭”、保護者や地域の人びとの協

力を得て、児童達が町中を走り、走り終わった後はP

TAから豚汁が振る舞われるという“マラソン大会”

など、地域と学校が一体となった教育も行われており、

それらの行事によって子どもたちはたくましく成長し

ていく伝統のある学校である。また、今は天国に召さ

れたが、全校児童に愛されていた学校のシンボルであ

るヤギの“サクラ”と“ワカバ”が委員会活動と保護

者の連携で学校の敷地内で飼育されていた特色のある

学校でもある。

そんな山崎小学校で過ごしている子どもたちに、素

晴らしい学校や地域、鎌倉の文化の良さを再確認させ、

それを相手に伝える活動の中から学ぶことのできた力

をここに紹介する。

2.実践の概要

(1) 身につけさせたい力 ・自分たちの学校、地域の良さをふり返り、ネット

の向こう側にいる交流校にカルタで伝えようとい

う意欲をもつ。

・言葉や文章の内容から、試行錯誤しながら映像等

のデジタルに表現できる。

・互いの作品に対しての相互評価の場面において、

建設的妥協点を探ることができる。

(2)学習の概要

<活動のゴール>

実際に各校がカルタをつくり、カルタ遊びをする。

自分たちのことをネット上の向こう側にいる同じプ

ロジェクトのみんなにアピールするという相手意識、目

的意識をもった活動である。そして、他地域(他校)と

の交流という点において差異やズレを比較し自分たち

の地域を振り返る。

読み札と絵札の制作においては映像と言語の往復を

促し、絵札の制作段階においては自分たちのことを知ら

ない人たちに伝えるという課題をもとに、子どもたち同

士が試行錯誤(クラスの中、そして交流を通した子ども

たち同士の中の両方)しながら絵札をつくりあげていく。

コラボノートというソフト上で、交流相手と作品のブ

ラッシュアップなどを伝え合う場面においては、子ども

たちが他者(交流相手の子どもたち)とのかかわりの中

で試行錯誤するという学習活動をおこなう。この関わり

の中で子どもたちが評価の観点(例:色づかい、見やす

さ、写真の撮り方等)をもとにやりとりを行う際、交流

相手や学年の差異により尊重意識が生まれ、建設的妥協

点を探る場面を生み出していく。交流のメインアイテム

となるカルタ作りの場面ではクラスや学校の自慢をカ

ルタに表現する際に、子どもたちの柔軟な思考やインス

ピレーションを冷ますことなく、レスポンス良くデジタ

ル作品として作成できるモバイル性に優れたタブレッ

トPCを使用することで、協働的な学習の姿を作り出す。

(3) 使用機器・ソフトウェア

タブレットPC

はっぴょう名人

コラボノート

(4)参加校

鎌倉市立山崎小学校(本校) 4年生(神奈川)

関西大学初等部 2年生(大阪)

和歌山市立西脇小学校 5年生(和歌山)

白鷹町立鷹山小学校 6年生(山形)

3.実践の内容と学びの成果

(1)出会い この学習のキックオフとして、お互いの学校や学級

のスリーヒントクイズを作りコラボノート上で交流を

スタートさせる。相手校のクイズに対して、どこの都

道府県の友だちなのだろう、何年生かな、などと考え

ながら、コラボノートという掲示板的なバーチャル模

造紙に回答や感想をデジタル付箋で貼り付けてく。そ

の際に子どもたちは、「どこの誰だか分からないのだ

から失礼のないようにしないとね」などと、相手意識

を高く持つことができていた。この時点で地域による

差異からくる尊重意識も高まっていた。

お互いの地域を答えとして伝える際に、4校で同日

同時刻に撮影したクラスの記念写真をコラボノート上

に添付した。それを見た瞬間、「わー!雪国の6年生

だ。」「みんな同じ制服を着てるんだね。」などと、

写真1 協働的にカルタ作りに取り組む

Page 2: 建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通 …−82 − (&É >E>/ (&É >E>/ 建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通して

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分科会G1

JAPET&CEC成果発表会

建設的な交流を生み出す実践“ネットdeカルタ”を通して - 協働的な学びの中で、建設的な話し合い活動を生み出す -

鎌倉市立山崎小学校 教諭 上 太一

キーワード:タブレットPC,建設的妥協点,協働的,モバイル性

1.はじめに本校は児童数約700名の鎌倉市では大規模校であ

り、周辺を緑で囲まれた市内でも珍しい自然環境が豊

かな学校である。また、1年生から6年生までのたて

わり活動が1年間を通しておこなわれ、その集大成と

して鎌倉の歴史ある文化のよさを再確認するために鎌

倉の寺社をたてわりグループで巡る“かまくら巡り”

という行事が行われている。その他にも、全校児童に

よる文化祭的な“山小祭”、保護者や地域の人びとの協

力を得て、児童達が町中を走り、走り終わった後はP

TAから豚汁が振る舞われるという“マラソン大会”

など、地域と学校が一体となった教育も行われており、

それらの行事によって子どもたちはたくましく成長し

ていく伝統のある学校である。また、今は天国に召さ

れたが、全校児童に愛されていた学校のシンボルであ

るヤギの“サクラ”と“ワカバ”が委員会活動と保護

者の連携で学校の敷地内で飼育されていた特色のある

学校でもある。

そんな山崎小学校で過ごしている子どもたちに、素

晴らしい学校や地域、鎌倉の文化の良さを再確認させ、

それを相手に伝える活動の中から学ぶことのできた力

をここに紹介する。

2.実践の概要

(1) 身につけさせたい力 ・自分たちの学校、地域の良さをふり返り、ネット

の向こう側にいる交流校にカルタで伝えようとい

う意欲をもつ。

・言葉や文章の内容から、試行錯誤しながら映像等

のデジタルに表現できる。

・互いの作品に対しての相互評価の場面において、

建設的妥協点を探ることができる。

(2)学習の概要

<活動のゴール>

実際に各校がカルタをつくり、カルタ遊びをする。

自分たちのことをネット上の向こう側にいる同じプ

ロジェクトのみんなにアピールするという相手意識、目

的意識をもった活動である。そして、他地域(他校)と

の交流という点において差異やズレを比較し自分たち

の地域を振り返る。

読み札と絵札の制作においては映像と言語の往復を

促し、絵札の制作段階においては自分たちのことを知ら

ない人たちに伝えるという課題をもとに、子どもたち同

士が試行錯誤(クラスの中、そして交流を通した子ども

たち同士の中の両方)しながら絵札をつくりあげていく。

コラボノートというソフト上で、交流相手と作品のブ

ラッシュアップなどを伝え合う場面においては、子ども

たちが他者(交流相手の子どもたち)とのかかわりの中

で試行錯誤するという学習活動をおこなう。この関わり

の中で子どもたちが評価の観点(例:色づかい、見やす

さ、写真の撮り方等)をもとにやりとりを行う際、交流

相手や学年の差異により尊重意識が生まれ、建設的妥協

点を探る場面を生み出していく。交流のメインアイテム

となるカルタ作りの場面ではクラスや学校の自慢をカ

ルタに表現する際に、子どもたちの柔軟な思考やインス

ピレーションを冷ますことなく、レスポンス良くデジタ

ル作品として作成できるモバイル性に優れたタブレッ

トPCを使用することで、協働的な学習の姿を作り出す。

(3) 使用機器・ソフトウェア

タブレットPC

はっぴょう名人

コラボノート

(4)参加校

鎌倉市立山崎小学校(本校) 4年生(神奈川)

関西大学初等部 2年生(大阪)

和歌山市立西脇小学校 5年生(和歌山)

白鷹町立鷹山小学校 6年生(山形)

3.実践の内容と学びの成果

(1)出会い この学習のキックオフとして、お互いの学校や学級

のスリーヒントクイズを作りコラボノート上で交流を

スタートさせる。相手校のクイズに対して、どこの都

道府県の友だちなのだろう、何年生かな、などと考え

ながら、コラボノートという掲示板的なバーチャル模

造紙に回答や感想をデジタル付箋で貼り付けてく。そ

の際に子どもたちは、「どこの誰だか分からないのだ

から失礼のないようにしないとね」などと、相手意識

を高く持つことができていた。この時点で地域による

差異からくる尊重意識も高まっていた。

お互いの地域を答えとして伝える際に、4校で同日

同時刻に撮影したクラスの記念写真をコラボノート上

に添付した。それを見た瞬間、「わー!雪国の6年生

だ。」「みんな同じ制服を着てるんだね。」などと、

写真1 協働的にカルタ作りに取り組む

ネットを通すことで出会うことができた仲間に対する

興味や関心が、この学習に対する意欲につながってい

くことを確認できた。

(2)カルタづくり

これから交流を進めていくにあたってどのように

進めていくかを子どもたちに問いかけると、遊びた

い!と言う声が必ず出てくる。その声をきっかけに、

日本全国どの児童でも遊べ、自分たちで作り出すこと

のできるカルタで交流しようと促していくのだが、こ

こが教師の腕の見せ所。子どもたちから出てくる思い

や意見を上手く拾い、学習へと導いていく技量は他教

科での授業でも大いに役立つ授業力へとつながると考

えている。

いよいよカルタ作りに入っていく場面では、児童に

は学校や地域の自慢を表現したカルタの読み札から作

らせていく。地域や学校を調べ、実は誇れるところが

たくさんあったことをここで再確認していく。自分が

自慢したいことが読み札として明確に文章化されたら、

絵札に表現していく。その際はタブレットPCを使っ

て読み札の言葉から、絵札という映像を生み出してい

く。ひらめいたアイデアをタブレットPCのモバイル

性を活用して様々な場所や角度から絵札となる写真を

撮影し、「はっぴょう名人」を使って写真を加工して

いくのだ。そして、この行程の中で、制作に悩んでい

る児童や、作品を任意にピックアップして学級内でア

イデアを出し合い、ブラッシュアップしてくことにな

る。これらの場面では、タブレットPCを活用するこ

とにより、1つの特性であるモバイル性が効果を発揮

するだけでなく、手書き入力を指導することにより誰

かの分担作業としての制作ではなく、友だちとお互い

の頭をつきあわせながら考え、共に作成していく協働

的な学びの場面を多く生み出すことができた。デスク

トップやラップトップなどの画面を正面から見るしか

ない形状と、小学生にとっては難しさがあるキーボー

ド入力ならばこの場面は生まれていなかったのではな

いかと考える。

(3)交流

ひとまずできたカルタ作品をコラボノート上にア

ップして、他校の友だちに見てもらう。そして改善点

などをコメントしてもらいながら、さらに自分の作品

の映像と言語を行き来しながらブラッシュアップを重

ねる。

この場面では、カルタに表現した自分たちの周りに

は当たり前にあった文化や環境が、異文化、他地域、

異学年の友だちには当たり前ではなかったことに気づ

いていく。鎌倉では鶴岡八幡宮で行われる「流鏑馬」は

誰もが知る文化であるが、他地域の2年生には「これ

はなんと書いているのですか。」と聞かれたり、読め

たとしても「やぶさめってなんですか。」と回答され

たりする等の場面が現われる。また、自分たちでは絵

札に表現できていると考えていたが、他者から見ると

読み札の言葉と絵札の映像の関連性がわかりにくいこ

とに、コラボノート上の相互評価での交流を通して気

づいていく。当然伝わると考えていた自分たちの思い

が伝わっていないのだ。このようなカルタ作品の相互

評価の交流を通して、自分たちで作り上げたという思

いと、相手に伝えるための映像や言語のスリム化やボ

リューム化などの接点を探すことになる。遠く離れた

交流校という相手意識が、他者の思いと自分の思いの

着地点を探すという建設的な妥協点を見つける学習活

動を活発化させていくことにつながるのだ。

これは、作り上げたデジタル作品を簡単に加工・修

正することができ、また、インターネットを通すこと

で普段なら出会うことのできなかった友だちと一緒に

学習を進めることができるという特性によるものであ

り、タブレットPCがなければ生み出すことのできな

かった学習の姿ではないだろうか。

4.今後に向けて この活動を通して、タブレットPCがもつ学習への

効果を非常に感じることができた。とくに児童達が頭

をつきあわせて一緒に考え、一緒に制作していく協働

的な学習の場面が多く見られたことに大きな学びの可

能性を見いだすことができた。今後は、この活動の魅

力を鎌倉市の教員に伝え、停滞しているICTの活用

を活発化させていきたいと考えている。

写真2 できあがった読み札

写真3 ブラッシュアップから加工された絵札