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新規研究開発事業 「新たな化学物質規制に必要な 国際先導的有害性試験法の開発」に関する 事前評価報告書 平成22年7月 産業構造審議会産業技術分科会

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Page 1: 新規研究開発事業 「新たな化学物質規制に必要な …...安井 至 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)理事長 庄野 文章 社団法人日本化学工業協会常務理事

新規研究開発事業

「新たな化学物質規制に必要な

国際先導的有害性試験法の開発」に関する

事前評価報告書

平成22年7月

産業構造審議会産業技術分科会

評 価 小 委 員 会

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1

はじめに

研究開発の評価は、研究開発活動の効率化・活性化、優れた成果の獲得や社会・経済への還元等

を図るとともに、国民に対して説明責任を果たすために、極めて重要な活動であり、このため、経

済産業省では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成20年10月31日、内閣総理大

臣決定)等に沿った適切な評価を実施すべく「経済産業省技術評価指針」(平成21年3月31日

改正)を定め、これに基づいて研究開発の評価を実施している。

今回の評価は、「新たな化学物質規制に必要な国際先導的有害性試験法の開発」の事前評価であ

り、実際の評価に際しては、省外の有識者からなる、化学物質管理分野における新規研究開発テー

マに関する事前評価検討会委員(座長:安井 至 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)理事

長)が事前評価を実施した。

今般、当該検討会における検討結果が評価報告書の原案として産業構造審議会産業技術分科会評

価小委員会(小委員長:平澤 泠 東京大学名誉教授)に付議され、内容を審議し、了承された。

本書は、これらの評価結果を取りまとめたものである。

平成22年7月

産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会

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2

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

化学物質管理分野における新規研究開発テーマに関する

事前評価検討会委員名簿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

新規研究開発テーマに関する事前評価審議経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

事前評価報告書概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第1章 技術に関する施策及び新規研究開発事業の概要 ・・・・・・・・・・・・・ 8

第2章 評価結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

第3章 評価小委員会委員からのコメント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

(参考)新規研究開発事業の実施に向けての評価小委員会委員からの

コメントに対する対処方針

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産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会

委員名簿

委員長 平 澤 泠 東京大学名誉教授

池 村 淑 道 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部教授

大 島 ま り 東京大学大学院情報学環教授

東京大学生産技術研究所教授

太 田 健一郎 横浜国立大学大学院工学研究院教授

菊 池 純 一 青山学院大学法学部長・大学院法学研究科長

小 林 直 人 早稲田大学研究戦略センター教授

鈴 木 潤 政策研究大学院大学教授

冨 田 房 男 北海道大学名誉教授

中小路 久美代 株式会社SRA先端技術研究所

リサーチディレクター

森 俊 介 東京理科大学理工学部経営工学科教授

吉 本 陽 子 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

経済・社会政策部主任研究員

(委員敬称略、委員長除き五十音順)

事務局:経済産業省産業技術環境局技術評価室

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化学物質管理分野における新規研究開発テーマに関する事前評価検討会

委員名簿

(座長)

安井 至 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)理事長

庄野 文章 社団法人日本化学工業協会常務理事

橋本 和仁 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科 教授

広瀬 明彦 国立医薬品食品衛生研究所

安全性生物試験研究センター総合評価研究室長

(敬称略、五十音順)

事務局:経済産業省製造産業局化学物質管理課

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新規研究開発テーマに関する事前評価

審 議 経 過

○事前評価検討会(平成22年6月3日~6月15日)

・評価の方法等について

・技術に関する施策及び新規研究開発テーマの概要について

・評価の進め方について

※外部有識者(評価者)を訪問するなどにより、上記3つの項目について説明を行った

後、メールレビューにて評価報告書(案)の審議を実施。

○第32回産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会(平成22年7月7日)

・評価報告書(案)について(包括審議)

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事前評価報告書概要

新規研究開発

テーマ

新たな化学物質規制に必要な国際先導的有害性試験法の開発※

※事前評価検討会の実施後、「リスク評価スキームの高度化に資する有害性試験

手法の開発(仮称)」は「新たな化学物質規制に必要な国際先導的有害性試験法

の開発」に名称を変更。

技術に関する

施策名 化学物質総合評価管理

事業担当課 製造産業局化学物質管理課

技術に関する施策及び新規研究開発テーマの概要

規制的手法や事業者による自主管理との組み合わせにより化学物質の最適管理を

実現するため、国として化学物質の有害性評価手法の開発を行う。このため、毒性

発現メカニズムを踏まえた、慢性毒性(28日反復投与毒性など)、および化学物質の

有害性評価に必要な各種毒性の予測に適用できる、新たなin vitro試験法の開発や

慢性毒性等発現に係る重要エンドポイントに関する毒性マーカーの探索による試験

法の開発を行う。

評価概要

1.事業の目的・政策的位置付け(新規研究開発事業の創設)の妥当性

昨今の欧米の動向(米国:Tox21、欧州:総合的試験戦略ITS)を踏まえると、

慢性影響を標的としたin vitro評価法開発や網羅的解析技術を用いたバイオマーカ

-の開発は、緊急を要する開発テーマであるとともに、比較的開発に時間を要する研

究課題と思われるので、早く着手することが望ましい。

リスク評価スキームの内容については、公的な関与が期待されている。化学物質評

価管理に関して国際的な協調体制が主流となりつつある現状においては、国が施策の

中心となって事業を展開することは妥当である。

今後開発される新規化学物質や一般化学物質の安全性・有害性の評価に当たって、

従来の化審法試験法では考慮されていない毒性に目を向けることは極めて重要であ

る。また、慢性毒性試験のように旧来の方法を踏襲したものは、試験動物への考え方

の変化等により、今後実施不能となることが考えられることから、in vitroなどの新

しい方法論を確立しておくことは必須である。本研究開発テーマは的を射たものであ

り、事業を遂行することは妥当である。

一方、この研究開発テーマに含まれる2つの課題は、各々がかなりの研究リソース

を要するテーマであると考えられるので、一つのプロジェクトの中で行うことで十分

なリソースを割り当てられるかどうかについて多尐の懸念を感じる。

具体的な研究課題の設定については、何故、反復投与毒性試験のin vitro試験法、

生殖発生毒性の遺伝子解析が必要なのか、その重要性や緊急性が明確でない。また、

培養細胞を用いた28日間反復投与毒性の評価系を確立するのであれば、エンドポイン

トの多様性を考慮して、毒性ターゲットや標的臓器を絞り、その重要性などを明確に

すべきである。さらに、生殖発生毒性の遺伝子解析については、生殖発生毒性のエン

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ドポイントの多様性を考慮すると、成果の達成は極めて困難な研究課題であり、催奇

形性など焦点を絞り、成果を明確にする必要がある。

2.今後の新規研究開発事業の実施に向けての提言

現時点で行われているリスク評価スキームは、多くのものが動物実験から得られる

試験データに依存しているが、欧米等の動向は動物実験から別の方法への移行を目指

している。まだ動物実験が可能なアジアで、動物実験との対比が可能なうちに、多く

の可能な評価スキームを確立する方向が望ましい。

in vitro評価法開発や網羅的解析技術を用いたバイオマーカ-の開発という2つの

課題は、各々がかなりの研究リソースを要するテーマであると考えられるので、開発

進めるに当たっては、利用可能な既存データやこれまでの研究成果(特に他省庁の研

究プロジェクト)の収集を最大限に行うことが肝要である。

Omics 技術等を用いた最新のハザード評価手法(日本はこの分野で大きな遅れをと

っている)による細胞レベルでの情報の集約とその解析が今後重要となると考えられ

る。Omics やHTS を用いた細胞レベルでの新たなリスク評価方法の開発、それらの情

報集約と解析のためのツール開発に期待する。

国際的な協調が必須である。海外、特にアジア諸国との連携を検討されることが望

ましい。

一方、現在の課題の一つに生殖毒性に関する遺伝子探索があげられているが、現状

の化審法上の評価物質の中では生殖毒性を示す物質数は尐なく、解析に有効な物質数

を得ることに多尐の懸念が感じられるため、開発研究を行う前の十分な情報収集や国

内外の他プロジェクトとの連携の可能性を探っておいた方が良い。

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第1章 施策及び新規研究開発テーマの概要

1.技術に関する施策の概要

(1)現在、世界中で数万種類を超える化学物質が製造され、幅広い産業で様々な用途に

使用されており、化学物質は我々の生活に必要不可欠なものである。

しかしながら、それぞれの化学物質は固有の有害性(ハザード)を持つ場合あり、人や

生物が、空気、水、食物等を通して化学物質にさらされると(暴露)、悪影響を受ける可

能性(リスク)がある。このため、化学物質の有用性を享受するには、化学物質のリスク

を適切に評価し、その結果を踏まえてリスクを的確に管理していく必要がある。

(2)化学物質の「リスク評価」については、化学物質の人や生物に対する暴露状況と有

害性の両面を考慮する必要がある。しかし、これらの情報が十分に揃っている化学物質は

尐なく、ある化学物質Xのリスクを懸念して代替物質Yに転換したものの、Yのリスク評

価が代替時には適切に実施できなかったため、後年Yの方が却ってリスクが大きいことが

判明したと言うような例も出てきている。

こうした状況を是正するために、暴露状況や有害性に関して不足するデータを推定し、

多種多様な化学物質のリスクを評価できる手法の開発が必要となっている。暴露状況につ

いては、環境媒体(大気・水等)中の化学物質濃度を計算する数理モデルの開発等が重要

である。また、有害性については、信頼に足るデータが不足している化学物質が既存化学

物質全体の9割以上を占めているため、多数の物質について動物を用いる有害性試験を行

うことは現実的でない。そのため、動物を用いない手法、即ち、遺伝子組換技術によって

作成した細胞系や遺伝子発現変動解析技術を活用した有害性評価手法、化学物質の構造情

報等から計算機を用いて有害性を予測評価する手法等の開発が重要である。

さらに、科学的にリスクが未解明なゆえに不安が生じている工業ナノ粒子について、リ

スク評価技術を開発し、リスク管理を適切に実施できる体制を整備する必要がある。これ

らは、我が国の優位性の確保を目指して工業ナノ材料の開発・応用を進めるために緊急性

の高い課題である。

より長期的な視点に立てば、種差の考慮(動物実験の結果を人間に適用する場合に重要

な考慮)や個人差の考慮(老人・子供等の弱者を考慮したリスクの評価・管理)、複合暴

露の影響をも評価できる高度なリスク評価技術や、毒性メカニズムを踏まえた有害性予測

技術、実環境中での化学物質モニタリング結果をフィードバックして高精度化した暴露状

況推定モデルが必要になると考えられる。

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(3)化学物質の「リスク管理」については、リスクの科学的な評価技術と削減技術の二

つの技術が基盤である。技術開発としては、一つは数万に及ぶ化学物質のリスクを正確に

把握し、必要な対策を適時適切に行うため、有害性(分解性、蓄積性等を含む)、暴露、

リスク等の各種評価手法の開発と基盤情報の収集を行う「化学物質リスク評価・管理技術

開発」である。もう一つは、化学物質の製造・利用に伴う環境負荷の低減、省資源及び省

エネルギーを図るため、製造工程において有害化学物質を使用しない、使用量を削減する、

又は使用による排出を削減する等のプロセスを開発する「化学物質リスク削減技術開発」

である。(ただし、本稿においては、「化学物質リスク削減技術開発」には言及しない。)

(4)化学物質リスク評価・管理分野の技術開発においては、

・化学物質のリスク評価・管理に対する国民の信頼感増進(“安全・安心”の前提)のた

めの基盤、

・事業者が自主的にリスクを評価・管理する手段、及び

・国が規制等の施策を適切に講ずる際の手段 として、

化学物質のライフサイクルにわたるリスクの評価・管理を科学的、かつ、合理的に行うた

めの手法を確立することが肝要である。これにより、化学物質のリスクの総合的な評価・

管理を行うことができる技術体系が構築される。なお、化学物質の評価・管理に係る技術

は問題解決のために組み合わせて活用されるべき目的指向型の技術と言える。

(5)また、化学物質の適正管理を実現することは、極めて重要な国際合意となっている。

具体的には、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」において採択

された、ヨハネスブルグ宣言の実施計画第22項では、「ライフサイクルを考慮に入れた化

学物質と有害廃棄物の健全な管理のためのアジェンダ21(1992年地球サミット)の約

束を再確認するとともに、予防的取組方法に留意しつつ透明性のある科学的根拠に基づく

リスク評価・管理手法を用いて、化学物質が人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最

小化する方法で使用、生産されることを2020年までに達成する」ことが、各国首脳レベル

による国際合意(WSSD目標)となっている。

また、2006年2月にはこれを具体化するため、「国際的な化学物質管理のための戦略的ア

プローチ(SAICM)」行動指針が合意され取りまとめられている。

我が国としては、このWSSD目標達成のため、SAICMを踏まえつつ、リスク評価・管理に必

要な先進的技術の研究開発やその成果の国際的普及に取り組んでいくことが重要な責務で

ある。

(6)化学物質のリスクの評価・管理を適切に実施するためには、WSSD目標の達成のため

に改正された化学物質審査規制法(化審法)や、化学物質排出把握管理促進法(化管法)

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等関係法制の的確な制度設計・運用や、事業者の自主管理を促進することが重要である。

その実現には裏付けとなる技術が必要であり、こうした技術を確保するために必要な国に

よる研究開発として、経済産業省では、平成12年度から、化学物質のリスク評価・管理

技術に係わる体系的な研究開発を実施している。(図1)

図1 経済産業省における化学物質管理に関する研究開発

これまで、経済産業省が実施したプロジェクトの概要は、以下のとおり。

化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発(平成13~18年度)

【図1「化学物質のリスク評価手法の開発及び初期・詳細リスク評価」に該当】

平成18年度までに約150 の化学物質について、有害性評価、暴露評価を実施し、これ

らに基づきリスク評価手法を開発し、リスク評価を実施。化学物質は、化管法対象物質の

うち、高生産・輸入量の物質を中心に選定。

既存化学物質の安全性点検事業の加速化(平成12~18年度)

【図1「構造活性相関手法による生分解性・蓄積性の予測手法の開発」に該当】

早急に対応すべき物質の点検を行いつつ、既存のデータ及び新規に取得するデータの体

系化・集大成による知的基盤整備を図り、分解性・蓄積性に係る定量的な構造活性相関手

法を開発・活用することにより、化審法上リスク管理の必要性の高い既存化学物質に関す

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010(H15) (H17)(H12) (H20)(H13) (H14) (H16) (H18) (H19) (H22)(H21)

2011(H23)

化学物質のリスク評価手法の開発及び初期・詳細リスク評価

構造活性相関手法による生分解性・蓄積性の予測手法の開発

化学物質のリスクコミュニケーション支援システムの開発

リスクトレードオフ解析等、化学物質の精度の高いリスク評価手法の開発

構造活性相関手法による28日間反復投与試験結果の予測支援システムの開発

ナノ粒子の特性評価・リスク評価手法の開発

遺伝子発現解析技術を用いた長期毒性(肝発がん性)予測手法の開発

・培養細胞を用いた発がん性・催奇形性・免疫毒性の評価手法の開発・28日間反復投与試験結果と相関する遺伝子発現データセットの開発

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る分解性・蓄積性等の科学的知見に基づく点検を実施。

高精度・簡易有害性(ハザード)評価システム開発(平成13~17年度)

【図1「遺伝子発現解析技術を用いた長期毒性(肝発がん性)予測手法の開発」に該当】

急速に発展する遺伝子発現解析技術を応用して、化学物質の長期毒性に関する従来のラ

ットなどを用いた長期毒性試験法(がん原性試験等)と同等の評価精度が得られる簡易手

法を開発し、長期毒性試験に要するコストを百分の一程度に、期間を数十分の一程度に低

減する見込みがある評価システムを構築。

化学物質総合リスク評価管理システムの開発(平成13~17年度)

【図1「化学物質のリスクコミュニケーション支援システムの開発」に該当】

「化学物質のリスク評価及びリスク評価手法の開発」、「既存化学物質安全性点検事業

の加速化」及び「高精度・簡易有害性(ハザード)評価システム開発」で得られる化学物

質の有害性(ハザード)情報、暴露情報及びリスクに関する情報並びに評価手法等を体系

的に整理し、知識データベース「化学物質総合情報ライブラリー」の構築を図り、更に、

一般市民から専門家まで各利用者層のニーズに応じた情報提供を可能とする環境を整備す

るシステムを構築。

化学物質の最適管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発(平成19~23年

度)

【図1「リスクトレードオフ解析等、化学物質の精度の高いリスク評価手法の開発」に

該当】

リスクが懸念される物質の代替化が同一用途の物質群(以下、「用途群」という。)で

検討される点に着目し、用途群内の物質を対象として、リスクを科学的・定量的に比較で

き、費用対効果等の社会経済分析をも行える「リスクトレードオフ解析手法」を開発する。

代表的な化学物質用途である洗浄剤、プラスチック添加剤、溶剤・溶媒及び金属類(以下「4

つの用途群」という。)ごとにリスクトレードオフ評価書を策定し、併せて、リスクトレー

ドオフ評価指針を策定し、行政等による規制や事業者(団体)による評価において広く活

用できるように公開することを目的とし、①排出シナリオ文書(ESD)ベースの環境排

出量推計手法の確立、②化学物質含有製品からヒトへの直接暴露等室内暴露評価手法の確

立、③地域スケールに応じた環境動態モデルの開発、④環境媒体間移行暴露モデルの開発、

⑤リスクトレードオフ解析手法の開発、⑥4つの用途群の「用途群別リスクトレードオフ

評価書」の作成を実施する。

構造活性相関手法による有害性評価手法開発(平成19~23年度)

【図1「構造活性相関手法による28日間反復投与試験結果の予測支援システムの開発」

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に該当】

動物試験によらない化学物質の反復投与毒性の評価法を開発することを目的に、類似化

学物質の実測試験データ、類似化学物質の物理化学的性状データ、作用機序、生体内にお

ける代謝の挙動等の毒性評価・判断に必要な既知情報を、これらの情報を網羅的に統合し

たシステムから効率的に抽出する有害性評価支援システム統合プラットフォームを構築す

る。

高機能簡易型有害性評価手法の開発(平成18~22年度)

【図1「培養細胞を用いた発がん性・催奇形性・免疫毒性の評価手法の開発、28日間

反復投与毒性試験結果と相関する遺伝子発現データセットの開発」に該当】

化学物質のリスク評価管理の効率的な実施に貢献すべく、遺伝子導入、幹細胞分化誘導、

遺伝子発現等の近代生命科学を培養細胞や動物を用いた短期試験に活用し、高機能で簡易

な有害性評価手法を開発することを目的とし、以下の2項目について、研究開発を実施す

る。

①培養細胞を用いた有害性評価手法の開発

②28日間反復投与試験結果と相関する遺伝子発現データセットの開発

ナノ粒子特性評価手法の研究開発(平成18~22年度)

【図1「ナノ粒子の特性評価・リスク評価手法の開発」に該当】

フラーレン、カーボンナノチューブ、酸化チタン等の工業的に製造されるナノメートル

スケールの粒子(以下「工業ナノ粒子」という。)が人の健康と環境に及ぼすかもしれな

い潜在的な影響の可能性に関する知見の収集・整備を行う一方で、リスク評価に必要な物

理化学特性をはじめとした工業ナノ粒子のキャラクタリゼーション手法、環境濃度、環境

放出発生源、環境中の運命と挙動等の解析技術を含む暴露評価手法、及び基礎的な有害性

評価手法を開発し、さらに、これらの得られた知見を基に工業ナノ粒子のリスク評価の実

施と管理のための考え方を提言する。

なお、これらの事業の実施にあたっては、関係省庁における技術開発事業との連携と、

重複の排除を考慮しており、例えば、総合科学技術会議に設置された連携施策群(化学物

質リスク・安全管理のための研究開発、ナノテクノロジーの研究開発推進と社会受容に関

する基盤開発)においては、関係省庁における研究開発施策の連携を図っている(平成1

9~21年度)。

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「化学物質リスク・安全管理のための研究開発」連携の俯瞰図

国際社会をリードする化学物質のリスク・安全管理を実現する

対策技術

カテゴリー

リスク評価

リスク管理

基礎研究 社会的技術

目標成果の受け渡し

連携

化学物質情報プラットホームの構築とその活用に関する調査研究(補完的課題)

「資源性・有害性を持つ物質の循環管理方策の立案と評価」(環境省)「家庭系廃製品の残留性化学物質と3Rシナリオ解析」環

境省)

「室内空気汚染や家庭用品の安全対策に関する研究」(厚労省)「難分解性有機汚染物質(POPs)の胎児期暴露に関する研究」(厚労省)「化学物質の子どもへの健康影響に関するエピジェネティクス評価法の開発」(厚労省)「小児等の脆弱性を考慮したリスク評価検討調査」(環境省)

「化学物質リスク評価の基盤整備におけるトキシコゲノミクスの利用に関する研究」(厚労省)「構造活性相関手法による有害性評価手法開発」(経産省)「生態毒性簡易推計手法開発調査」(環境省)「化学物質リスク評価における(定量的)構造活性相関((Q)SAR)に関する研究」(厚労省)

「環境リスク評価手法に関する研究」(環境省)「化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による暴露評価」(環境省)「ナノマテリアルのヒト健康影響の評価方法に関する研究」(厚労省)「生態系に対する微量化学物質による水質リスクの評価手法の開発」(国交省)

社会における環境リスクのとらえ方(リスク認知)に関する研究(環境省)

「化学物質の国際調和分類基準(GHS)に対応した感作性化学物質リスト作りとその応用による化学物質の安全使用」(厚労省)「化学物質リスク評価の国際的バリデーションに関する研究」(厚労省)「化学物質安全情報の収集と発信に関する研究」(厚労省)「化学物質管理における世界戦略へ対応するための法規制等基盤整備に関する調査研究」(厚労省)「化学物質の最適管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発」(経産省)

「内分泌かく乱化学物質のヒト健康影響に関する疫学研究」(厚労省)内分泌かく乱化学物質の生態影響メカニズム(低使用量効果・複合効果を含む)に関する総合研究」(厚労省)「化学物質の内分泌かく乱作用に関するリスク評価・試験法開発及び国際協力推進経費」(環境省)

補完

有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発(経産省)

「化学物質の評価手法の迅速化、高度化、標準化に関する研究」(厚労省)「化学物質、特に家庭内の化学物質の暴露評価手法の開発に関する研究」(厚労省)

「化学物質の情動・認知行動に対する影響の評価方法に関する研究」(厚労省)「情動・認知機能を定量化する包括的な行動毒性試験の構築」(厚労省)「化学物質による神経伝達物質受容体を介した精神毒性発現機序の解明および行動評価方法の開発に関する研究」(厚労省)

「石油精製物質等簡易有害性評価手法開発」(経産省)

「前向きコホート研究による先天異常モニタリング、特にダイオキシン類、有機フッ素化合物と出生時体重、アレルギー症状、感染症などの関連性」(厚労省)

「受容体アッセイ4種からなるヒト核内受容体48種すべてに対する化学物質リスク評価スキームの構築」(厚労省)

「建設廃棄物のうちリサイクル可能なものに対し経済的な評価手法の確立」(国交省)「産業廃棄物を原材料としたリサイクル材料を建設工事現場で受け入れるための品質評価手法の開発」(国交省)「リサイクル材料が一般材料と同等の市場流通性を確保するためのビジネスモデルの確立」(国交省)

H21.3時点

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2.新規研究開発テーマの概要

1)リスク評価スキームの高度化に資する有害性試験手法の開発(仮称)

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3.テーマの目的・政策的位置づけ(新規研究開発テーマの創設)の妥当性

(1)化学物質の最適管理を行うためには、上記1の最後に述べたように、法令の的確な

整備・運用と事業者による自主管理の促進が重要である。

(2)これらを実現するために必要な技術は、①化学物質のリスク評価・管理に対する国

民の信頼感増進(“安全・安心”の前提)のための基盤、②事業者が化学物質の自主管理

を適切に行うための基盤であると同時に、③国が規制等の施策を適切に講ずる際の科学的

根拠でもあり、また、④OECDテストガイドライン等の国際標準への採用により発展途

上国も含めた世界中で活用される公共財でもあることから、必要な技術開発を国が中心と

なって実施すべきものである。

(3)化学物質の評価・管理の対象とする問題としては、①従来の化学物質のリスクに関

する問題と、②化学物質のリスクに関連して近年社会的関心が高まっている問題(①の問

題と同一の評価・管理手法がそのまま適用できない側面を持っている。)の大きく2つに

分けて考えることが出来る。

従来の化学物質のリスクに対応する技術としては、これまでに化学物質の有害性、暴露、

リスク等については一定の評価手法や判断基準が構築されてきており、引き続きそれらの

知見や科学技術の進歩を踏まえつつ、化学物質全体のリスクの総合的な評価・最適管理に

資することとなる。

一方の近年化学物質のリスクに関連して社会的関心が高まっている問題に対応する技術

としては、一般の化学物質のリスク対応する技術を背景としつつも緊急性が高いものとし

て、解明されていない有害性等当該分野の特異性に焦点を当てて対応を進めるものとなる。

なお、近年化学物質のリスクに関連して社会的関心が高まっている問題にかかる技術はい

くつか挙げられるが、経済産業省としては今後の成長産業分野と期待されるナノ材料のリ

スク評価・管理が最重要課題と考える。

従来の化学物質のリスクに関するテーマに関する必要性等について以下に記す。

①改正化審法により求められている“事業者に対する一般化学物質に関する有害性調査

・試験の指示”を的確に実施し、また、②生殖発生毒性、内分泌かく乱作用、免疫毒性等

化学物質のリスクに係る新たな問題に対応するため、効率的に実施できかつ幅広いエンド

ポイント(有害性項目)に関する試験データや予見的情報が取得できる試験法が必要であ

る。この実現に向けては、以下のとおり、既に実施している研究開発プロジェクトの成果

や関連科学分野の最新知見等を活かして、生殖発生毒性等の毒性が遺伝子発現に与える影

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響を明らかにするとともに、新たな慢性毒性の in vitro試験法を開発することが必要であ

る。

現在、実施しているプロジェクト「高機能簡易型有害性評価手法の開発」において、発

ガン性、催奇形性、免疫毒性にかかる培養細胞を用いた有害性評価手法と、化学物質の(2

8日間)反復投与によって毒性影響を受ける齧歯類の遺伝子の発現変動データセットが、

今年度中に開発される予定である。これらの成果やプロジェクトで培われた基盤技術(毒

性影響を受ける特徴的遺伝子の解析・選定技術等)を活かして、新たに生殖発生毒性等の

毒性が齧歯類の遺伝子発現にどう影響を与えるかを明らかにし、その成果を有害性の評価

に活用していくことが必要である。

また、最近の医学生物学、遺伝子工学等関連科学分野の発展により、毒性発現メカニズ

ムを解明して投与した化学物質によりそのメカニズムが働くかどうかを検出することで毒

性の有無を判定できる細胞系の開発や、毒性予測技術の可能性が広がってきており、これ

を踏まえた in vitro試験法を開発し、有害性評価に活用していくことも重要である。

以上の取り組みを推進することにより、改正化審法における一般化学物質に関する有害

性情報の取得と新規化学物質の審査を一層合理化・適正化するとともに、欧米での関係法

規の適用や化学物質ユーザー産業とのリスクコミュニケーションの際に我が国化学物質メ

ーカーが求められている説明能力の向上を通じて競争力向上にもつながる高度・効率的な

有害性評価の枠組みを構築する必要がある。

上述の必要性を踏まえて想定される事業概要は以下のとおり。

1)リスク評価スキームの高度化に資する有害性試験手法の開発(仮称)

今後、①改正化審法リスク評価スキームにおいて件数が大幅に増加すると見込まれ

る一般化学物質に関する有害性調査指示や、②新規化学物質に関するリスク評価に当

たって、注目すべきエンドポイントの選定等を科学的根拠を持って的確に実施するた

め、毒性発現メカニズムを考慮した、高度・効率的な毒性試験法の開発を行うととも

に、既存の試験方法を高度化し、一回の試験から様々なエンドポイントに関する知見

を取得できる有害性評価の枠組みを構築する。具体的には、慢性毒性(28日間反復投与

毒性など)の予測に適用できる新たな in vitro 試験法の開発を行うとともに、生殖発

生毒性等重要エンドポイントの発現に関連する特徴的遺伝子の探索による有害性評価

法開発を行う。

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化学物質管理施策体系図

化学物質の最適管理の実現

リスク評価手法の開発

ばく露評価手法の開発

有害性評価手法の開発

リスク管理手法の開発

規制的手法

(化審法等)

国による

技術開発

自主管理の促進

(化管法等)

体系図②

近年社会的関心の高まっている

リスクへの対応

規制のための手法作り(レギュラトリー・サイエンス)

体系図①(ナノマテリアル)

4.技術施策体系図

化学物質管理の施策体系図(概要)

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化学物質の最適管理の実現

28日間反復投与毒性試験

濃縮度試験

変異原性試験

分解度試験

有害性評価手法の開発

化審法における既存の有害性評価手

化学物質管理施策体系図②(有害性評価手法)

28日間反復投与毒性試験にかかるマルチエンドポイント化

有害性をより広く予見できる

新たな評価手法

新たなin vitro試験手法

リスクベースの化学物質管理へ

高度化

マルチエンドポイント化

・・・・

簡易化

既存の試験手法

詳細は俯瞰図参照

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エンドポイント(毒性の種類)

有害性評価手法に関する技術開発俯瞰図

リスク評価スキームの高度化に資する評価手法

既存スキームに用いる評価手法 反復投与毒性試験

AMES試験

染色体異常試験

形質転換試験による発がん性試験

免疫毒性試験

催奇形性試験

構造活性相関手法

既存試験法 開発中の試験法

・・・・

・・・・

新規化学物質審査のための試験法のマルチエンドポイント化

既存化学物質の点検の優先順位付け

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第2章 評価結果

テーマ:リスク評価スキームの高度化に資する有害性試験手法の開発(仮称)

(委員のコメント要約)

昨今の欧米の動向(米国:Tox21、欧州:総合的試験戦略ITS)を踏まえると、

慢性影響を標的としたin vitro評価法開発や網羅的解析技術を用いたバイオマーカ

-の開発は、緊急を要する開発テーマであるとともに、比較的開発に時間を要する

研究課題と思われるので、早く着手することが望ましい。

リスク評価スキームの内容については、公的な関与が期待されている。化学物質

評価管理に関して国際的な協調体制が主流となりつつある現状においては、国が施

策の中心となって事業を展開することは妥当である。

今後開発される新規化学物質や一般化学物質の安全性・有害性の評価に当たって、

従来の化審法試験法では考慮されていない毒性に目を向けることは極めて重要であ

る。また、慢性毒性試験のように旧来の方法を踏襲したものは、試験動物への考え

方の変化等により、今後実施不能となることが考えられることから、in vitroなど

の新しい方法論を確立しておくことは必須である。本研究開発テーマは的を射たも

のであり、事業を遂行することは妥当である。

一方、この研究開発テーマに含まれる2つの課題は、各々がかなりの研究リソース

を要するテーマであると考えられるので、一つのプロジェクトの中で行うことで十

分なリソースを割り当てられるかどうかについて多尐の懸念を感じる。

具体的な研究課題の設定については、何故、反復投与毒性試験のin vitro試験法、

生殖発生毒性の遺伝子解析が必要なのか、その重要性や緊急性が明確でない。また、

培養細胞を用いた28日間反復投与毒性の評価系を確立するのであれば、エンドポイ

ントの多様性を考慮して、毒性ターゲットや標的臓器を絞り、その重要性などを明

確にすべきである。さらに、生殖発生毒性の遺伝子解析については、生殖発生毒性

のエンドポイントの多様性を考慮すると、成果の達成は極めて困難な研究課題であ

り、催奇形性など焦点を絞り、成果を明確にする必要がある。

【肯定的意見】

・慢性毒性のテストのように、旧来の方法を踏襲したものは、試験動物への考え方の

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変化などによって、今後、実施不能となることが考えられる。In Vitroなどの新し

い方法論を確立しておくことは、必須である。体系図による表現も妥当だと考えら

れる。

・緊急性に関しては、比較的開発に時間を要する研究課題のように思われるので、で

きるだけ早く着手しておくことが望ましい。

・昨今の米国のTox21や欧州の総合的試験戦略(Integrated Testing Strategies)に

おける、動物を用いた安全性試験結果以外にin vitroやオミクスデータなどの様々

なエンドポイントの結果やデータベースを統合的に利用したリスク評価を推進して

いる動向を踏まえると、慢性影響を標的としたin vitro評価法開発や網羅的解析技

術を用いたバイオマーカ-の開発は、緊急を要する開発テーマであると考えられる。

・緊急性(次年度予算で要求する必要性)は妥当と判断。

・リスク評価スキームの内容については、公的な関与が期待されている。それは、日

本の社会構造と密接な関係があるが、いわゆるお墨付きの無い成果については、社

会的な理解が得られにくい。この意味で、国が主導的に取り組むことが必須である。

・WSSDでの合意や動物愛護の観点からも、当該研究開発テーマは極めて重要な解決策

を提供するテーマであると共に、化学物質評価管理の国際的な協調体制が主流とな

りつつある現状においては、国が施策の中心となって事業を展開することは妥当で

あると考えられる。

・国が実施する必要性(民間とのデマケ)は妥当と判断。

・法的規制・自主管理による化学物質の最適な管理の実現に向けて、毒性予測手法の

開発、簡易試験法の開発(in vitro試験)、新たな毒性マーカーを指標とした試験

系の開発を目指しており、本研究テーマやその方向性については妥当と考える。

・今後開発される新規化学物質や一般化学物質の安全性・有害性の評価に当たって、

従来の化審法試験法では考慮されていない生殖発生毒性、免疫毒性等を判断するこ

とは極めて重要である。これらの評価に当たっては、毒性発現メカニズムの解析な

どに効果が見込まれる遺伝子工学的手法などを積極的に取り入れることが有効であ

ろう。以上の観点からみて、本研究開発テーマは的を射たものであり、事業を遂行

することは妥当であると判断する。

・省内外の他の事業との重複に関しては、現時点で国内外に類似・同趣旨の事業は存

在しない。

【問題点・改善すべき点】

・この研究開発テーマに含まれる2つの課題は、各々がかなりの研究リソースを要す

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るテーマであると考えられるので、一つのプロジェクトの中で行うことで十分なリ

ソースを割り当てられるかどうかについて多尐の懸念を感じる。

・具体的な研究課題の設定については、慢性毒性試験(28日間反復)のin vitro試験

法の開発、生殖発生毒性試験の遺伝子解析・探索の2つに取り組むものとされてい

るが、何故、慢性毒性試験のin vitro試験法が必要なのか?生殖発生毒性の遺伝子

解析が必要なのか?その重要性や緊急性が明確でないと思われる。即ち、慢性毒性

試験のin vitro試験法については、2010年までのプロジェクトにおいて、培養細胞

を用いた発がん性評価系がすでに確立しており、重複する研究課題である。また、

培養細胞を用いた28日間反復投与の評価系を確立するのであれば、エンドポイント

の多様性を考慮して、毒性ターゲットや標的臓器を絞り、その重要性などを明確に

すべきと考える。また、生殖発生毒性の遺伝子解析については、生殖発生毒性のエ

ンドポイントの多様性を考慮すると、成果の達成は極めて困難な研究課題と思われ

る。催奇形性など焦点を絞り、成果を明確にする必要があると思われる。

【その他の意見】

・総合的な試験戦略に基づくリスク評価を推進していく観点からは、経済産業省で現

在進行している他の化学物質管理に関する事業と共に最終的に大きな同じ目標に向

かって進んでいるものと考えられ、研究開発テーマ間の調整や連絡機能、共同事業

などの実行等の連携が可能な枠組みがあると、より効率的な研究開発が可能となる

ように思われた。

・今回の新規開発テーマの枠外になるかもしれないが、遺伝子発現以外の、プロテオ

ミクスやメタボロミクス、sRNA解析なども将来的な開発項目として考慮しておいて

もよいと思われた。

・評価法の開発に当たっては従来程度のコストで必要な情報を取得できることに留意

する必要があろう。

・技術施策体系図について、目的に応じたリスク管理のあり方について直接的に有害

性評価、複合暴露の有害性評価手法と位置づけられているが、本来は有害性や暴露

に関する解析・分析技術の一分野としてとらえるべきではないか。こういった意味で、

本有害性試験方法は複数の化学物質を同時にその評価が出来るようにすべき。(要す

るに単一培養細胞やリセプター等と単一の化学物質の相互作用を指標にするだけで

はなく複数の物質の作用を想定した試験法の開発が望まれる。)

2.今後の新規研究開発テーマの方向等に関する提言

(委員のコメント要約)

現時点で行われているリスク評価スキームは、多くのものが動物実験から得られ

る試験データに依存しているが、欧米等の動向は動物実験から別の方法への移行を

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目指している。まだ動物実験が可能なアジアで、動物実験との対比が可能なうちに、

多くの可能な評価スキームを確立する方向が望ましい。

in Vitro評価法開発や網羅的解析技術を用いたバイオマーカ-の開発という2つの

課題は、各々がかなりの研究リソースを要するテーマであると考えられるので、開

発進めるに当たっては、利用可能な既存データやこれまでの研究成果(特に他省庁

の研究プロジェクト)の収集を最大限に行うことが肝要である。

Omics 技術等を用いた最新のハザード評価手法(日本はこの分野で大きな遅れを

とっている)による細胞レベルでの情報の集約とその解析が今後重要となると考え

られる。Omics やHTS を用いた細胞レベルでの新たなリスク評価方法の開発、それ

らの情報集約と解析のためのツール開発に期待する。

国際的な協調が必須である。海外、特にアジア諸国との連携を検討されることが

望ましい。

一方、現在の課題の一つに生殖毒性に関する遺伝子探索があげられているが、現

状の化審法上の評価物質の中では生殖毒性を示す物質数は尐なく、解析に有効な物

質数を得ることに多尐の懸念が感じられるため、開発研究を行う前の十分な情報収

集や国内外の他プロジェクトとの連携の可能性を探っておいた方が良い。

【各委員の提言】

・現時点で行われているリスク評価スキームは、多くのものが動物実験に依存してい

る。しかし、欧米等の動向はさらなる動物実験から別の方法への以降を目指してい

る。国際的にみても、まだ動物実験が可能なアジアにおいて、動物実験との対比が

可能なうちに、多くの可能な評価スキームを確立する方向が望ましい。

・in vitro評価法開発や網羅的解析技術を用いたバイオマーカ-の開発という2つの

課題は、各々がかなりの研究リソースを要するテーマであると考えられるので、開

発進めるに当たっては、利用可能な既存データやこれまでの研究成果の収集を最大

限に行うことが肝要であると考えられる。特に、他省庁における研究プロジェクト

で、たとえ対象物質が異なることがあっても、様々なデータベース共有化や情報交

換などを行うことは有効であると考えられる。一方、現在の課題の一つに生殖毒性

に関する遺伝子探索があげられているが、現状の化審法上の評価物質の中では生殖

毒性を示す物質数は尐なく、解析に有効な物質数を得ることに多尐の懸念が感じら

れ、この観点においても開発研究を行う前の十分な情報収集や国内外の他プロジェ

クトとの連携の可能性を探っておいた方が良いのではと思われた。

・毒性発現メカニズムを考慮した試験法開発の観点では、すでにOECDレベルでAOP等

のコンセプトを導入した評価システムが進められつつあり、Omicsと進化したITツールを

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駆使した新たな取り組みが開始されている。日本はこの分野で大きな遅れをとって

いることは否定できない。Omics 技術等を用いた最新のハザード評価手法による細

胞レベルでの情報の集約とその解析が今後重要となると考えられる。そのために、

①Omics やHTS を用いた細胞レベルでの新たなリスク評価方法の開発、②それらの

情報集約と解析のためのツール開発、(QSAR 手法の導入やin silico 解析ツー

ル、動態解析モデルの開発を含む) に期待する。

・日本の取り組みのあり方として今後、唯我独尊的な進め方は好ましくない。国際的

な取り組み状況、研究状況を詳細に解析し、このなかで国際的協調も図りながら日

本が貢献できる研究・技術分野は何かを精緻に見極める必要がある。一方で

Regulatoryな評価手法として適用するものであれば、その内容について国際レベル

の学会あるいは投稿により一定の客観的評価と検証が必要である。

・安全性評価方法に関しては国際的な協調が必須である。本研究開発を進めるにあた

っても、海外、特にアジア諸国との連携を研究の初期段階から強化すべきであろう。

また、分子生物学に代表されるように、生命科学分野の研究の進展は著しい。安全

性評価に関しても最新のサイエンスの成果を積極的に取り入れることが望ましい。

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第3章 評価小委員会委員からのコメント

評価小委員会委員から本研究開発事業に対して頂いたコメントは以下のとおり。

・ 課題の多様性を勘案すると、バイオマーカーの開発費が分散する傾向にある。WHO等

の研究においても同様のことが指摘されている。

・ 重要な課題であり、我が国のこれまでの「リスク評価」実績を生かして世界をリード

する成果が望まれる。また、他の化学物質管理に関する事業と共にプログラムの一環と

して推進することが望ましい。

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「新たな化学物質規制に必要な国際先導的有害試験法の開発」プロジェクト事前評価

新規研究開発事業の実施に向けての評価小委員会委員からのコメントに対する対処方針

コ メ ン ト 対 処 方 針

○課題の多様性を勘案すると、バイオマーカーの開発費が分散

する傾向にある。WHO等の研究においても同様のことが指

摘されている。

○重要な課題であり、我が国のこれまでの「リスク評価」実績

を生かして世界をリードする成果が望まれる。また、他の化

学物質管理に関する事業と共にプログラムの一環として推進

することが望ましい。

○本プロジェクトでは、「課題の多様性」という観点を踏まえ、化学物質の

毒性の多様なエンドポイントについて、汎用的でかつ効率的な評価手法の

開発を目的としており、バイオマーカー開発の方向性の集約に貢献するも

のと考えている。

○発がん性、催奇形性、免疫毒性等の有害性評価手法の簡素化(in vitro化)

は、化学物質の多様な毒性を効率的に評価可能な手法として世界に先駆け

た開発であり、国際標準を目指していく。また、本プロジェクトは、他の

化学物質管理に関する事業とともに化学物質のリスク評価・管理技術に係

わる体系的な研究開発を実施している(図1)。

(参考)