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� No.114(2012)

花粉症とスギ葉精油のスマートな関係

有限会社サクセス 髙野茂信

はじめに

花粉症は風媒花(スギ、ヒノキ、ブタクサ、マツ、イネ科、ヨモギ、ヤシャブシなど)が風に花粉を乗せて飛ばすので花粉症の原因とされることが多いが、虫媒花(セイタカアワダチソウ)でも花粉の量が多ければ花粉症の原因とされる。特にスギの花粉症の7割の人がヒノキの花粉症にも継続して罹患しているので、春から初夏にかけてはマスクが離せないことになる。

花粉症をスギ葉精油で対処すると言っても、「杉を以って杉を制す」という減感作療法を連想して納得される方が大半である。ところが、スギ葉精油は広範囲な花粉をアレルゲンとする花粉症の症状を軽減する可能性があるということは案外知られていない。

スギ葉精油の使用法

アレルゲンとなるスギ花粉を付けない季節のスギ葉から、水蒸気蒸留法で抽出したスギ葉精油を、

オリーブオイルで5%程度に希釈してソフトカプセルに封入し飲用する、あるいはキャリアオイルで5%に希釈して鼻粘膜に塗布することで症状が軽減されることは、2000年より試みられて成果を上げている。あらゆる花粉症に対して適用でき、しかも20分以内にその効果が体感できる可能性があるので試していただきたい。鼻粘膜に塗布することが直接的であるが、飲用することも意外なほどの効果が体感できる。カプセルが溶解するのに7 ~8分、胃壁から吸収され血中濃度が上昇して体内を循環するまでに5 ~10分程度であり、合計しても20分以内でスギ葉精油成分が毛細血管にまで浸透する。これによって体内からIgE抗体と肥満細胞の結合により絶えず産生されるヒスタミンの放出を抑制することができる。飲用のソフトカプセルは500万粒生産され20分以内に花粉症の症状が軽快する確率75±5%との安定した評価を得ている。

花粉症は即時Ⅰ型アレルギーに分類され、アトピー性皮膚炎や喘息、じんましんなどと同類タイプのアレルギーに分類される。花粉を抗原として引き起こされるアレルギー反応とされるが、IgE

図1 青葉アルコールが好酸球の無方向性運動およびLTB4(10nM)に対する遊走能に及ぼす影響

青葉アルコールが濃度依存的に好酸球の無方向性運動を完全に抑制することを示唆している。

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特集 花粉症─自然療法からのアプローチ

抗体が肥満細胞に結合し、ヒスタミンが放出されるという機序によって発症する。スギ葉精油は好酸球・好中球の無方向運動を濃度依存的に遊走の抑制をする1)、2)(図1、図2)。

また、ヒスタミンの放出を濃度依存的に抑制す

るという優れた生理活性を持っている。ラットによる動物試験ではあるがヒスタミンについては正常値にまで放出を抑制してしまうという驚くべき結果となっている1)、2)(図3)。

このことによって、即時Ⅰ型アレルギーの重要

図2 青葉アルコールが好中球の無方向性運動およびLTB4(10nM)に対する遊走能に及ぼす影響

青葉アルコールが濃度依存的に好中球の無方向性運動を完全に抑制することを示唆している。

図3 抗原─抗体反応に伴うラット腹腔肥満細胞からのHis遊離量

青葉アルコールが濃度依存的に作用し肥満細胞からヒスタミンの放出を抑制することを示唆している。抗原非添加群のラット腹腔肥満細胞にも最初から低いレベルでのヒスタミンは存在するが、抗原添加群にも青葉アルコールが濃度依存的に作用し、抗原非添加群と同レベルにまで低下することを示唆している。

図4 青葉アルコールが気管平滑筋におけるヒスタミンの収縮反応及ぼす影響

青葉アルコールが抗原-抗体反応によるラット気管平滑筋の収縮反応を抑制することが見いだされた。しかも青葉アルコールの即効性と持続性を示唆するものである。

� No.114(2012)

な機序3 ヵ所のうち2 ヵ所について短時間にかつ有効的に阻止していることが示されている1)、2)(図4)。

また、ヒト臨床試験で、即時Ⅰ型アレルギーにスギ葉精油の優れた生理活性がそのまま適用できることが示唆されている。これによればIgE抗体が肥満細胞と結合してヒスタミンが放出されることを阻止するのであるから、花粉症の主たるケミカルメディエーター(情報伝達物質)が放出されず、「くしゃみ」「鼻水」「鼻詰まり」「目の痒み」など花粉症の諸症状を抑制してしまうことに繋がる3)。

一般的な「即時Ⅰ型アレルギーの発症機序」は1 ~8の経過をたどると言われている。1. 消化器・呼吸器・皮膚などからアレルゲンが

侵入する。

2. マクロファージがこれを捕食する。

3. 捕食しきれないと、アレルゲンの残骸をT細胞

に伝達する。

4. T細胞はこの情報を伝達し、白血球の成分であ

る好酸球・好中球を呼び集める。

5. IgE抗体を産生する。

6. 肥満細胞にIgE抗体が結合する。

7. 肥満細胞からヒスタミンが放出される。

8. このヒスタミンにより花粉症特有の「くしゃ

み」「鼻水」「鼻詰まり」「目の痒み」

などが起こる。これに対して精油成分は白血球の成分である好酸球・好中球に働きかける。

スギ花粉を加工してハードカプセルに詰め飲用に供したり、花粉のついたスギ葉を煮詰めて液体にして飲用食品として販売するケースがあるが、アナフィラキシーショック*を起こし問題となっている。抗原から抽出した成分を人体に注射する減感作療法は医師のみが行うことのできるデリケートな医療行為であり、長期にわたる根気の要る治療法である。花粉症の症状が発症する前から治療に取りかかり1 ~2年を要し、また微熱が発生することがあるなどの特徴がある。

一方、スギ葉精油の生理活性を用いた方法は、微熱が発生せず、きわめて短時間のうちに効果が体感できる可能性があるなどの、減感作療法と際

立った差異がある。また、スギ葉精油毒性についても詳細な毒性検査が完了しており、通常の飲用・塗布にも問題がない。

スギ(日本柳杉 学名:Cryptomeria japonica(L.F.)D.Don)は太古より、北海道を除く日本列島に生育しているユニークな樹木であり、一属一種と言われ、シナ南部または琉球諸島を原産とする広葉杉とは明瞭に区別されてきた。それほど日本人のDNAにとって身近であり、親しんできた代表的な樹木の一つである。

 原因についての考察

なぜ、これほど多くの花粉が悪者にされているのであろうか。また、最初はスギだけが悪者になっていたが、スギの抗原を克服しても別の抗原に感作した場合には、最初から減感作療法を始めなければならない。また、パッチテストで十数種類の抗原があるとされる人まで発生していることは、事態がますます深刻になっていることを示している。国民の3割が花粉症に悩まされている現状では、国民的なQOLの低下による損失は無視できないものになりつつある。

代表的なスギ花粉症について見ても、スギ花粉の飛散量に比例してスギ花粉症の発症が増減するのかというと、厳密な比例関係にはないので、あくまで花粉は花粉症のトリガー(引き金)ではないかと思われる。なぜなら、花粉の粒径は数十μmあり、そのまま粘膜から吸収できるものではなく、ただちに即時Ⅰ型アレルギーの発症機序により花粉症の発症に直結するとは言えないからである。発症には前提となるアレルギー要因の蓄積があり、花粉の吸入が一つの契機となり、発症するものと思われる。スギだけが悪者なのか、あるいはさまざまな花粉が直接の原因なのかについては諸説あるが一度個々の花粉を離れて考察してみたい。

近年、生活様式の変化によって化学物質の摂取量が著しく増大している。窒素酸化物NOXだけで

�No.114(2012)

髙野 茂信Shigenobu Takano

有限会社サクセス 取締役CTO。1970年 明治大学経営学部経営学研究科卒業。1980年 明治大学大学院経営学研究科修了。専攻:経営管理論

〈連絡先〉〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町1-9-5E-mail:[email protected]

特集 花粉症─自然療法からのアプローチ

も20mL/日、食品添加物10g/日、合成界面活性剤、合成化粧品などが否応なく摂取されていることが大きな問題である。昔から大過なく共存してきたさまざまな花粉が、突然アレルゲンとして人々を悩ませていることは、こうした化学物質の摂取と無関係ではないと思われる。

これらすべてが悪い因子とは言えないにしても、中には異物としてIgE抗体で対抗する必要があるものとして、免疫系に認識される事態になっている。花粉症の自然的免疫寛容を獲得できるのは全罹患者の1 ~2割であり、免疫寛容になりにくいのは、花粉が飛散する範囲が広大で数十km~三百kmに達し、多種の化学物質をハプテンや化学物質として花粉に付着させ、その化学物質を鼻粘膜や他の粘膜から人体に吸収するからではないか。花粉には直接抗原として作用する化学物質やハプテンの有能な運搬役としての役割があるのではないかと推論することができる。

また、高機能なマスクによってトリガーとしての花粉を吸入しないことも有効であるが、花粉以外から摂取する化学物質の蓄積がIgE抗体の産生を必要とするほどの異物として免疫系が突然働き始めたとき、即時Ⅰ型アレルギーのほかの症状に転化して発症することが見られるようになった。ハウスダストも花粉症類似のアレルギー症状を呈する、花粉症に先行して発生するアレルギーとして広く認知されるようになった。アトピー性皮膚炎の患者は花粉症の季節になると痒みが増す。喘息患者も花粉症飛散時期には症状が重くなるなどの転化が発生するようになった。

また、小学校に入学した児童が、教科書・ノートや鉛筆に含まれる化学物質に感作し、突然鼻血を出したり、スーパーで買い物中の主婦が突然鼻血を出したりするような化学物質に直接感作してしまう例も見られるようになった。これらは、タンパク質を介することなく直接ヒトの免疫系に警鐘を鳴らしていると受け止めることができる。

これまで、スギ葉精油による花粉症の症状軽快に着目してきたが、自然的免疫寛容という根治に

到達するには、化学物質の過剰な摂取を意識して減少させる生活スタイルが求められる。ファーストフードからスローフードに象徴される食品添加物たっぷりの調理済み食品から手料理への回帰、合成界面活性剤の使用から純石鹸の使用、薬品への安易な依存をやめる、腸管免疫を含む免疫機能の強化などが取り入れられてはじめて、後天的免疫寛容に到達することができる。

3年以上花粉症が発症しない状態が根治と定義されるのであるが、風媒花の花粉などにより広範囲な地域の化学物質が運ばれて人体に吸着・摂取されている現状からは焦点の絞りにくい症状ということも言えるが、スギ葉精油の生理活性の活用と、生活様式を昔に戻す努力により、QOLを正常な生活に戻すことが可能になる。

謝辞

東京大学名誉教授・谷田貝光克先生の長きにわたるご指導に感謝致します。

*: ヒトや他の哺乳類で認められる急性の全身性かつ重度なアレルギー反応の一つで、わずかなアレルゲンが生死にかかわる反応を引き起こすことがある。

参考文献

1) 小林隆弘・谷田貝光克他著,「自然生態からの有用資源開発手法に関する総合的研究」平成7年3月 富山県

2) 谷田貝光, 『植物の香りと生理活性-その科学的特性と機能性を科学する』,フレグランスジャーナル社, 208-210

3) 髙野茂信, 関江里子, スギ葉精油のアトピー性皮膚炎に起因する「かゆみ」抑制効果の検証, 「アロマリサーチ」, Vol.13 No.2 , 60-66 , 2012