香気成分と組織構造の比較解析による乾燥スィートバジルの ...basil leaγcs...
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香気成分と組織構造の比較解析による乾燥スィートバジルの品質評価
誌名誌名 日本食品科学工学会誌
ISSNISSN 1341027X
著者著者
佐川, 岳人西, 香菜子納富, 美穂平岡, 龍之塚本, 和巳早川, 和一
巻/号巻/号 58巻5号
掲載ページ掲載ページ p. 222-228
発行年月発行年月 2011年5月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat
-
、、JJ
F同
unペu,
rL
、222 Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 58, No. 5, 222~228 (2011) (101究ノート 〕
Keywords : sweet basil, od口r.activecOlllpouncl, herbal tea、
香気成分と組織構造の比較解析による
乾燥スィートパジルの品質評価
佐川岳人久匹l香:菜ヂ,納富美穂,平|司龍之,
塚本和巳ヘ早川和一村
エスビー食品株式会社商品本部分析センタ
*独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
食品総合研究所
料金沢大学医薬保健研究域
Quality Evaluation of Dry Sw巴etBasil Leaves with
Comparative Analysis o[ Aroma Compounds
and Leaf Tissue Structure
Takehito Sagawa号, Kanako !¥・ishi,Miho Notomi,
Tatsuyuki Hiraoka, Kazumi Tsukamoto本
and Kawichi Hayakawa叫
Rescarch and Analysis Ccnter, Research and Product
Dcvelopm巴ntDivision, S&B FOODS lncorporated,
38-8 Miyallloto-cho, lta bashi-ku, Tokyo 174-8651
* Food Engin巴巴ringDivision, National Food Rcs巴arch
lnstitut巴, National Agriculturc and Food Research
Organization, 2-1-12 Kannondai,
Tsukuba, lbaraki 305-8642
判 lnstitut巴 ofIVlcdical, Pharmaceulical ancl Health
Scienc巴, Kanazawa University, Kakuma-machi,
Kanazawa-shi, lshikawa 920-1192
A quality evalu日tionll1ethocl for clri巴clhcrbs was stucl.
iecl with sweet basil leaves (fr巴sh,air-clriecl, frcczc-clri巴CI
ancl vacuum-c1ri巴CIswcct basil lea vcs) as h巴rbalteas, in.
volving hot-water extraction. Sensory cvaluation revealecl
that the flavor of herbal tea with vacuum-c1riecl s、、 eet
basil leaγcs was similar 10 that wi1h fresh 1巴a¥.CS. Seven
oclor-activc compouncls (cincole, linalool, 巴ugenol,octanal,
I-octanol, (E)-2-h巴X巴nalancl IZ)ー3-h巴xcnol)from hcrbal teas
wer巴 icl巴ntifJeclby capillary gas chrol11atographic-mass
spectroll1ctry ancl olfactomctry analysis, ancl it was con-
siclerecl that three compouncls (octanal, (E).2.hexenal ancl
(Z)-3-hex巴nol)¥¥巴rek巴ycompouncls for CI巴scribingth巴
r巴sultsof s巴nsoryeγaluation. The structure of c1riccl
S¥V巴etbasil lca v巴swith、、'atcr社bsorptionancl fr巴shleavcs
was observccl by c1iff巴rentialint巴rfercncccon tact l11icros-
copy, ancl thcir rhcological charact巴risticswcre measurccl
for slorage 1110clulus. As a rcsult, the characteristics of
vacuul11-c1ri巴CIswcct basil w巴rcsimilar to lhos巴offresh
basil. Thes巴rcsultssugg巴stthat inv巴stigationof th巴
aroma using hot-water extraction, tissu巴 structureancl
rhcological charactcristics coulcl be eff巴ctl九巴 approaιhes
to qualitatively evaluatc c1riecl hcrbs.
(Receivecl Oc1. 6, 2010; Acccptecl Jan. 3[, 2011)
〒]74-8651東京都板繍区常本IIIT38-8
*〒305-8642茨城県つくばrI'i観背台 2-]-]2
料干920-1192石川県金沢rli角間IIIJ~iili絡先 (Co r rcsponcling author), takehito甲 [email protected]】
hot-、vaterextrac1ion, tissue slructure キーワード スィ 卜パジル,香気成分,ハーブティ 守熱Iktl]1
IU,組織構J&{
近年ハーフは,調理時の使用場面だけではなく晴好性の
高いハーブティーにまで幅広く利用されるようになってき
た.そして最近では,乾燥ハーフーの風味とは異なるフレッ
シュな生ノ¥ーフの認知度も高まっている しかしながら,
乾燥品で生ハ ブ綴のフレッシュな風n~、を有するものがほ
とんどないために, フレ y シュな風味を有する乾燥ハーブ
が嘱望されている. シソ科のスィートパジルは広く認知・
利用されているものであり,オイゲノールおよびメチル
シャピコールを香りの特徴成分とする 2タイプが存在する
ことカ域日らhている.オイゲノールタイプのスィートパジ
ルでは主要香気成分としてシネオーノレ, リナロ -Jv,オイ
ゲノーノレなどが同定されている iトゾ また, メチノレシャヒ
コール タイプのスィートノ¥ジルでは主要香気成分としてリ
ナロール,メチルシャヒコールなとが同定されている け
ンソ科植物jにおいて精油成分は,葉表聞に存在する腺毛に
精油成分が貯えられている事が矢[]られておりり川,スィート
パジルについても盾状腺毛中に貯えられていることが報告
されている a) さらに, 乾燥方法の{単位性を評価すること
を目的とし,楯状腺毛に着目した乾燥ハーフの表面の形態
学的な変化や,香気成分変化についての報告もなされてい
る2トけil しかしながら,ハーブティーのようなハーフの利
用場面では,脱毛の破壊が伴わず8) 飾的にゆっくりと
ハーフから熱水中に溶出された香りを感じるものであり,
物理的に腺毛が破壊されて放出された香りと 同じではな
い 特に乾燥ノ、ーフの場合は,熱水中でl以水により構造を
復冗しながら香気成分が溶出する為,乾燥方法によって
は,細胞内から急激に水分が蒸発することに起因する組織
構造の物理的変化が汲水による組織復元後の乾燥ハーブ
の物理的性状に大きな影響を及ぼすことは容易に推察さ
れ,熱水中への香気成分の溶山挙動に影響を及ほす可能性
も十分に考えられるが,このような観点での報告はない.
そこで,本研究ではオイゲノールタイ プのスィートハジル
を熱風乾燥,凍結乾燥,真空乾燥という一般的な乾燥方法
で作られた乾燥スィートバジルと生のスィ ー卜 パジ Jレを
ハーブティ ーとして評価し f容出された香気成分バランス
の違いを組織権造やレオロジー特性と対比さることで,士会
に近い香りを有する乾燥状態を判断する評価}j法の検討を
試みた.
l 実験方法
(1) 試料および調製方法
ハーフは,オイゲノールタイフ.の沖縄産スィート パジル
を用い,熱風乾燥法・凍結乾燥法・真空乾燥法で乾燥ノ¥
フをそれぞれ作成し笑験用の試料とした.比較対象とし
-
( 37 ) 佐川・他スィートパジルの品質評価 223
て,同種の生のスィートバシルを用いた
ハーフティ ー調製は,生島ハ ーブl.0gに 90
-
224 |ゴ本食品科学:J-".学会誌第 58巻 第 5号 2011 年 5}=J ( 38 )
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b
c
(B)
生(未処理)
熱風乾燥
凍結乾燥
真宅乾燥
o 200000000 400000000 圏,シネオール; 口,リナロール; ロ,オイゲノール
図 l ハーブティーの主要香気成分の TIC
(~\ )と1:から淵絡したノ、ーフティーの GC-I¥日分析をわった際に得られた TICの代表例日 シネオール, b リナロール, c オイゲノ ル
(8)ハーブティーの中安香気成分
手ヰ,ttj、↓から日銅製したハーブティーのンネオ ル, リナロ ル.オイゲノールの TICTiií積の WJ~JliI'f の合計 (11 = 3 )
表 1 ハーブティー香気寄与成分においてオイゲノールと各成分の TICピーク面積比
化合物名 'cl". (水処HID 非1¥l!ii1';il:燥 ほiK:ili乾l設 ltzE乾燥
ン午、オ ノレ 5.5土0.50 () 3:t0. 05 6.0::¥:0.50 5.3主0.31リナローノレ 9.8土1.41 8. 5::t0. 51 7.7:t0.59 8.4土0.42オイゲノ ル 1.0 1.0 1.0 1.0
オクタナーノレ 0.108:i::0.017 O. 008::¥:0.002 0.015土0.007 0.015土0.001
1-オクタ/ーノレ O. 013:t0. 002 O. 039:t0. 004 0.028=0.014 0.018土0.001
(E)ー2ーへキセナール :..1.D.* :..1.D.' 0.101ニ0.006 :..1.D.*
(Z)-3ーへキセ/ール :..1.D率 :..1.D ・ 0.004土0.001 うJ.D.*
!1 =3. o l'-J土Jltl!( 土問iií毛 (I" H~一
GC-MSおよび GC匂い映さ分析において検:1¥限界以ト
と1:に近いIffi¥l川、を有するものが真空乾燥であるという7主;能評
価の紡栄を反|映しなかった.そこで GC-TCD-O分析によ
り七Jl吋虫肢が強い香気成分の定性を行い 7成分を香気笥
与成分と特定できた そして,オイゲノールのピーク 面積
をjZ準として名香気成分の ピーク面I責を,その比として定量伯を算出した(表1) 生および真空乾燥恥lこ共通した特
徴的な香気1&分としてシネ ル, リナロール,オイゲノー
ルの他に,オクタナール ーオクタノールが特定できた白
熱l'li¥乾燥品にのみ仙の乾燥処1If1にはない乾燥臭が存在した
が,物質の特定までは歪 らなかった.また,凍結乾燥品で
は, (E)ー2ーへキセナールI (2)-3ーへキセノールの存ιもli在認 忘れた.スティーブン員IJにより,感覚強度 Yに対し刺激
記 X,各刺激回有の定数を aとした場合にけくの関係式が成り立つことが知られている 11)
Y=a.X11
それぞれの成分に対する刺激固有定数 aの算定が出来
ない11.1で, 71jx5}を横、if;びてi七i校することは誤った感覚強
度を認識する可能性がある.そこで,シネオ ル, リナ
ロール,オイゲノ ルを三t:233成分(区12-A)として,オクタナール,トオクタノール, (E)-2ーヘキセナール, (2)-3-
ヘキセノールを微量成分(凶 2-B) として分けて解析を行
う事とした. 主安 3成分の比!校では,真雫乾燥品が, 最 も
生に近い比率をポし, この結果は1守能評価と 一致した(区l
2-A) 微号:成分の比較において,土1.::はオクタナールの比率
が!日く,真J壬乾燥J111でも仙の処旦H区 と比'1安してオクタナ
ル比ネが高いことから, このことがと|三の風味を特徴づける
因子の l つとなると考えられた (1~12-B). また,凍結乾燥
J111で、は, 青臭さを特徴とする (E)-2-ヘキセナールが多く
(2)-3-へキセノールも存在しており,青臭さを意味する
『草っぽい』という官能評価と 致するものであった.これ
らの結果から,止の風l川、を表現する因子 としては, 三t'fr.成分においてリナロール/シネオール比が高 く,微号成分 に
おいてはオクタナール比率が高く (E)-2ヘキセナールや
(2)-3へキセノ ルが存在しない事が考えられる.次に,
乾燥工程に起因する乾燥スィートパジルの組織精造変化が
ハーフティーに香気成分が溶出される|療にどのような影響
を及ぼしているかを,スィートパジル自体が保有している
香気成分と比較することてイ確認を行一った.主要成分では,
各乾燥処理において一様にハーブ植物体よりもリナロー
ノレ/シネオール比が低L叶犬態でi海山されていることが確認
された (口し,凍結乾燥品については,他に比べてハーフ
自体のリナロール/シネオール比が苦しく低L、傾向にあっ
た(図 3). これは,凍結後真誌下でイ吃燥する凍結乾燥i=1、は
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( 39 ) 佐川・他:スィートパジ Jレの品質評価
(A) (B)
什つ(未処理)
熱風乾燥
凍結乾燥
真空乾燥
生(未処理)
熱風乾燥
凍結乾燥
真空乾燥
0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 ・,オクタナール ロ,(Eト2ヘキセナール
0.00 1.05 1.00 1.50 2.00
ロ,(Z)-3ヘキセノール ロ,1オクタノール
図 2 オイゲノールを 1とした場合の各微量成分の TICピーク面積比
(A)オイゲノールを lとした113合のリナロ ール/シネオ ールTICピークirijf寅比(B)オイゲノ ールを lとしたl-t}合のオ クタナール. (E)-2ーへキセナール句 (Z)-3ヘキセノ ール,
1-オクタ ノールのTICピーク面積比
b)
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00
d)
It 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00
図 3 ハーフ"全量(1)とハーブティー(II )のリナロール/シネオール TICピーク面積比
a) ~t=. (水処国!). b)熱風乾燥. c)凍結乾燥, d ) 真空~'i吃燦
b)
;一一lIIレ斗0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 0.000 0.020 0.040 0.060
d)
:~ 0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 0.000 0.010 0.020 0.030 0.040
.,オクタナール;ロ,(E)-2へキセナール,口, (z) -3-へキセノール;口 ,1-オクタノール
図 4 ハーブ全量 0)と ハーブティー (11)の各成分とオイゲノールの面積比
a) ~ (未処叩),b)熱風乾燥,c) i.点結乾燥, d)点空乾燥
225
乾燥工程の中で,細胞中の水分が結品化してしまい,物理
昨Jに細胞壁をli皮壊することがある.その影響で,香気成分
が水とー絡にハーブ自{木から放出されやす くなってしまっ
た為と考えられる 一方,微量成分は主要成分とは異なる
挙動を示した(図 4). 凍結乾燥品で,ハーブ肉体とハーブ
ティーの両方でオクタナール, 1ーオクタノール, (E)-2-ヘ
キセナール, (2)ー3-へキセ/ールが確認された 生と真?
乾燥iRiは,ハ ブ自体に1宇?lするオクタナール 1-オクタ
ノール, (E)-2ーへキセナール, (2) -3-ヘキセノールのう
ち,オクタナ ールと 1-オクタノールのみがハーブティーで
E在認 された. しかしながら,熱l毘乾燥品のハ フティーで
は, 生や真空乾燥品と同様にオクタナール,トオクタノー
ルが確認されたが,ハーブ自体では生や真空乾燥品とは異
なり ,(E)-2ーへキセナールはU在認されなかった.na物体lこ
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226 日本食品科学工学会誌第 58巻 第 5号 2011年 5月 ( 40 )
b)
d)
、
図 5 生および乾燥スィー卜パジルの内部組織(乾燥品は水戻し後)
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( 41 ) 佐川・他スィートパジルの品質評価 227
100000
E切い
1着ト 10000
記員縫逗長
1000
o 5 10 15 20 25 応力 (Pa)
一←,生(未処理);ー←,熱風乾燥凍結乾燥;→一真空乾燥
図 6 生および水戻し後乾燥スィートバジルの貯蔵弾性率
確認された植物組織構造の違いを数値として捉える為に,
水戻し後の各サンフ。ルの貯蔵弾性率を測定・比較を行った
(図的.貯蔵弾↑io率は,物体の凶体的な性質を示すものと
解釈できる 1~1 ハーブティーのような静的な熱71
-
228 日本食品科学工学会 誌第 58巻第 5号 2011年 5月 ( 42 )
(0) 塚本干LI己,大谷iJJJ:OI¥,杉111 滋,トウモロコゾでんぷん内部階造の AFi'v[観察, 表面科学,30, 484-490 (2009)
11) 府内哲嗣郎.におLゆョおり,フレグランスジャーナル社, 78
79 (2006).
12) 松JH住 ,杉本貢一,みとり の香り研究の最前線,香料,244, 21-34
13) J 11端晶子,食品物性学建同社, 65-68 (2000)
14) ¥ヘ'ang.D., Yoshimura,丁、 Kubota,K. and Kobayashi, A..
Analysis of glycosidically bound aroma pJ巴cursorsJJ1
t巴日 l巴aγ巴s.1. Qualitative and quantitati¥'c analyscs of
glycosicles with aglvcons as aroma compouncls. J Agric
Food Che711.. 48. 5411-5418 (2000)
(5) ¥Vang. D.. Kurasawa. E.. Yamaguchi, Y., Kulコot孔 K.ancl
Iくobayashi.A句 J主nalysisof glycosidically bouncl aroma
prccursors JJ1 t巴alcaγ巴s.2. Chang巴sin glycosicle con-
tents and glycosidas巴日ctlVJ ti巴sin t巴a1巴avesduring the
black t巴amanufacturing process. J Agric. Food Chem ..
49, 1900-1903 (2001)
16) ¥ヘ'ang,D., Kubota, K.. Kobayashi, A. and Juan, I-i'vI..
Analysis of glycosidically bound aroma prccursors in
t巴a1巳av巴s.3. Change in thc glycoside cont巴ntof tea
Ica¥-巴scluring th巴 oolongt巳amanufactUl一ingproscss. J
Agric. Food Chem.. 49句 5391-5396(20011
(平成 22年 10月 61二|受付, 工作成 23年 1月 31日受理)