航空機用アルミニウム合金開発の最近の動向...は767-300er(約90トン)に比べて約2割増加しているにも...

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航空機用アルミニウム合金開発の最近の動向 吉田 英雄 * ・林 稔 * ・則包 一成 * Journal of The Japan Institute of Light Metals, Vol. 65, No. 9 (2015), 441–454 © 2015 The Japan Institute of Light Metals Recent trend of development in aluminum alloys for aircraft Hideo YOSHIDA * , Minoru HAYASHI * and Kazushige NORIKANE * Keywords: aluminum alloy, aircraft, MRJ, 787, 380, Al–Li alloy 1. はじめに 日本の航空機用アルミニウム合金の開発の歴史について, 戦前の零式艦上戦闘機からボーイング 777 にいたるまでの航 空機との関連で別報にて述べた 1。そこで見えてきたもの は,戦前の日本は「航空機大国」であり,国策として,アル ミニウム産業がほとんど航空機材を生産していたこと,その ための設備投資が大規模に行われたことなどであった。戦後 のアルミニウム産業はこれらの設備を基盤に民需に転換し て,飛躍的な発展をとげた。一方の日本の航空機産業もま た,戦後の航空機禁止令から航空機の製造が解禁されるまで の「空白の 7 年間」を乗り越えて,米国のボーイング社の機 体生産の分担をすることで復活してきた。しかしながら,あ くまでもボーイング社の枠内での生産のため,国内のアルミ ニウム産業はボーイング社の材料認定取得のみで,新材料開 発には至らないのが現状である。米国の開発した合金の追試 や米国での材料製造の難しいところをカバーする形で研究開 発が進んできたのが実情であろう。日本での航空機用材料の 市場が小さいので,日本の航空機材料の研究開発に対する投 資は,米国と比べても比較にもならないほど少ない。航空機 材料の現実に起きている問題点はボーイング社に行かないと わからないと言われているが,この点でアルコア社はボーイ ング社と密接な関係で材料開発してきている。 現在,幸いなことに三菱重工業と三菱航空機が設計,生産 を行い,国産の小型ジェット旅客機 MRJ が飛び立つところ まできている。我々素材メーカーもこれをビジネスチャンス と捉え,これを契機に現状の航空機用アルミニウム合金の問 題点を把握し,新しい国産のアルミニウム合金が機体メー カーとともに開発できれば,日本での航空機材料の研究開発 も発展していくものと確信している。21 世紀になって新し い航空機が開発され,それに伴い新合金が適用されるように なってきている。ここでは最近の航空機用アルミニウム合金 開発の動向について整理し,我々の進むべき道を述べたい。 2. 最近の航空機とアルミニウム材料の動向 2. 1 ボーイング777 までの航空機とアルミニウム合金開発 1 は航空機用アルミニウム合金の開発の歴史とそれが最 初に適用された航空機の関係である 2。合金成分,調質等に よる強度,靭性,疲労強度,応力腐食割れ性の改善が反映 されていることがわかる。特に高強度高靭性が非常に重要 なキーワードで,1 は高強度でかつ高靭性材料の開発が依 然として求められていることがわかる 22 はボーイング 777 に使用されている合金である 3説:特集「航空・宇宙産業を支える軽金属」 1 航空機とそれに用いられた新合金 2機種 合金,調質 1903 Wright Brothers Al–Cu casting 1919 Junkers F13 2017-T4 1935 DC-3 2024-T3 1954 B-707 7075-T651, 7178-T651 1979 B-767 2324-T39, 7150-T651 1994 B-777 7055-T7751, 2524-T3 2004 B-777 ER 2324-T39 Type II (2624-T39) * 株式会社 UACJ 技術開発研究所(〒455–8670 愛知県名古屋市港区千年 3–1–12Research & Development Division, UACJ Corporation (3–1– 12 Chitose, Minato-ku, Nagoya-shi, Aichi 455–8670) E-mail: [email protected] 受付日:平成27 6 28 日  受理日:平成27 7 16 軽金属 第65 9 号(2015),441–454

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Page 1: 航空機用アルミニウム合金開発の最近の動向...は767-300ER(約90トン)に比べて約2割増加しているにも 関わらず,燃費は約21%低減したとしている。この理由は

航空機用アルミニウム合金開発の最近の動向

吉田 英雄*・林 稔*・則包 一成*

Journal of The Japan Institute of Light Metals, Vol. 65, No. 9 (2015), 441–454© 2015 The Japan Institute of Light Metals

Recent trend of development in aluminum alloys for aircraftHideo YOSHIDA*, Minoru HAYASHI* and Kazushige NORIKANE*

Keywords: aluminum alloy, aircraft, MRJ, 787, 380, Al–Li alloy

1. は じ め に

日本の航空機用アルミニウム合金の開発の歴史について,戦前の零式艦上戦闘機からボーイング777にいたるまでの航空機との関連で別報にて述べた 1)。そこで見えてきたものは,戦前の日本は「航空機大国」であり,国策として,アルミニウム産業がほとんど航空機材を生産していたこと,そのための設備投資が大規模に行われたことなどであった。戦後のアルミニウム産業はこれらの設備を基盤に民需に転換して,飛躍的な発展をとげた。一方の日本の航空機産業もまた,戦後の航空機禁止令から航空機の製造が解禁されるまでの「空白の7年間」を乗り越えて,米国のボーイング社の機体生産の分担をすることで復活してきた。しかしながら,あくまでもボーイング社の枠内での生産のため,国内のアルミニウム産業はボーイング社の材料認定取得のみで,新材料開発には至らないのが現状である。米国の開発した合金の追試や米国での材料製造の難しいところをカバーする形で研究開発が進んできたのが実情であろう。日本での航空機用材料の市場が小さいので,日本の航空機材料の研究開発に対する投資は,米国と比べても比較にもならないほど少ない。航空機材料の現実に起きている問題点はボーイング社に行かないとわからないと言われているが,この点でアルコア社はボーイング社と密接な関係で材料開発してきている。現在,幸いなことに三菱重工業と三菱航空機が設計,生産を行い,国産の小型ジェット旅客機MRJが飛び立つところまできている。我々素材メーカーもこれをビジネスチャンスと捉え,これを契機に現状の航空機用アルミニウム合金の問題点を把握し,新しい国産のアルミニウム合金が機体メー

カーとともに開発できれば,日本での航空機材料の研究開発も発展していくものと確信している。21世紀になって新しい航空機が開発され,それに伴い新合金が適用されるようになってきている。ここでは最近の航空機用アルミニウム合金開発の動向について整理し,我々の進むべき道を述べたい。

2. 最近の航空機とアルミニウム材料の動向

2. 1 ボーイング777までの航空機とアルミニウム合金開発表1は航空機用アルミニウム合金の開発の歴史とそれが最初に適用された航空機の関係である 2)。合金成分,調質等による強度,靭性,疲労強度,応力腐食割れ性の改善が反映されていることがわかる。特に高強度高靭性が非常に重要なキーワードで,図1は高強度でかつ高靭性材料の開発が依然として求められていることがわかる 2)。図2はボーイング777に使用されている合金である 3)。

解 説:特集「航空・宇宙産業を支える軽金属」

表1 航空機とそれに用いられた新合金 2)

年 機種 合金,調質

1903 Wright Brothers Al–Cu casting1919 Junkers F13 2017-T41935 DC-3 2024-T31954 B-707 7075-T651, 7178-T6511979 B-767 2324-T39, 7150-T6511994 B-777 7055-T7751, 2524-T32004 B-777 ER 2324-T39 Type II (2624-T39)

* 株式会社UACJ 技術開発研究所(〒455–8670 愛知県名古屋市港区千年3–1–12) Research & Development Division, UACJ Corporation (3–1–12 Chitose, Minato-ku, Nagoya-shi, Aichi 455–8670) E-mail: [email protected]

受付日:平成27年6月28日  受理日:平成27年7月16日

軽金属 第65巻 第9号(2015),441–454

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442 軽金属 65(2015.9)

2. 2 ボーイング7871995年に就航開始した777に次ぐ機種の開発を検討してい

たボーイング社は,将来必要な旅客機は音速に近い速度で巡航できる高速機であると考え,2001年初めに250席前後のソニック・クルーザーを提案した。しかし運航経費を抑えたいという航空会社各社の関心を得ることができず,2002年末にこのソニック・クルーザー開発を断念して通常型7E7の開発に着手した。この通常型7E7は,速度よりも効率を重視したボーイング767クラスの双発中型旅客機である。2004年4月に全日空が50機発注したことによって開発がスタートし,呼称も787に改められた。2011年9月28日,初号機となった全日空向けの第1号機が東京国際空港に到着した 4), 5)。ボーイング社は787の開発では同じクラスの従来機より効率(主として燃費)を20%向上させることを最大の主眼としていた。20%向上させるために,エンジンが8%,空力,素材,新システムがそれぞれ4%の割合で改善するとし,素材としては,図3左に示すように機体のフレーム構造の約50%を複合材料,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とした 5)。CFRPの利点は,快適性の向上(客室気圧高度の低下,客室湿度の増加,大型の窓など),疲労と腐食の耐久性向上,重量の軽減,運航寿命の長期化,部品点数の削減,製造工程時間の削減などがあげられる。ここで興味深いことは,CFRPを用いても787の機体は必ずしも軽くなっていないことである。ANAのホームページでは,787-8の重量(約 115トン)は767-300ER(約90トン)に比べて約2割増加しているにも関わらず,燃費は約21%低減したとしている。この理由は

まずは新エンジンの効率がよいことにある。また787の重量増加は,スパン(翼幅)が大きいことと,航続距離を伸ばすために燃料搭載量増加に耐える構造としたためで,これを従来のアルミニウム構造としたらさらに重量は増加したとのことである 6)。

2. 3 A380エアバス社は1989年からボーイング747に対抗できる大型機UHCA(Ultra High Capacity Aircraft)構想の実現を発表し,1994年にはA3XXとして計画を着手,2000年A380として開発に入った。2005年欧州航空安全機関(EASA)と米国連邦航空局(FAA)の型式証明を同時取得し,2007年シンガポール航空に引き渡された。この機体は二階建ての客室を有し,客室総面積はボーイング747-400の約1.5倍で,A380-800の3クラス(エコノミー,ビジネス,ファースト)の標準客席数は525席となり,747-400の400席を大幅に超え世界最大の旅客機となった 5)。

A380の機体フレーム全体では図3中央に示すようにアルミニウム合金の使用比率が61%を占めている。CFRPを含む複合材料が22%,チタンとスチールが10%,その他7%としてグレア(アルミニウム箔とガラス繊維布を積層させた複合材料)が3%,その他の素材が2%,表面コーティング材が2%となっている。前部胴体と後部胴体の上面および側面パネルにグレアが適用されている。主翼が付く中央胴体,および前部胴体と後部胴体の下面には圧縮応力に強いアルミニウム合金が用いられている。主翼も基本的にはアルミニウム合金が用いられている。動翼の多くはCFRPだが,前縁のドループ・ノーズとストラット,後縁の内側フラップはアルミニウム合金製である。Al–Li合金はメインデッキ,クロス

図2 ボーイング777に使用されている航空機用アルミニウム合金 3)

図3 ボーイング787,エアバスA380,A350XWBの材料構成比 5)

図1 航空機用アルミニウム合金開発の高強度高靭性化の流れ 2)

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ビーム,床,ストリンガに 2099-T83, 2196-T8511押出材が,主翼の桁やリブなどの内部構造に2050-T84厚板が採用されている 7), 8)。尾翼は水平安定板,垂直安定板ともにCFRP製である。2階のデッキビームには剛性が要求されるため,CFRPが用いられている 7)。

2. 4 A350XWBA350は中型双発機として当初A330ベースに開発が構想されていたが,受注数で787に大きく水をあけられたため,再設計しA350 XWB(eXtra Wide Body)として 2006年発表された。この飛行機は真円の胴体断面から太いダブルバブル断面とすることで,787より多い座席数,大きな搭載量とし,ボーイング787さらには777に対抗できる機種となった。標準型のA350-900が3クラスで314席,胴体延長型のA350-1000が350席で,これに対し,ボーイングの標準型787-8では197席,胴体延長型の787-9では285席である。2014年9月EASAの型式証明を取得し,2014年12月カタール航空に最初の1機が引き渡された 5), 9)。

A350XWBの大きな特徴のひとつが,787と同様に機体構造に53%の複合材料を用いていることである(図3右)5)。胴体の製造では,787が円筒形を一体成形するのに対し,上下左右4枚の胴体パネルを製造し,それをチタン合金製ファスナで結合する方式をとっている。コックピット周辺はバードストライク対策のため衝撃に弱いCFRPに代わってアルミニウム合金が用いられている。CFRPの場合,衝撃によって炭素繊維の層が剥がれて(層間剥離)強度低下しても外観からは発見しにくい問題がある 10), 11)。また耐雷性のため,787ではCFRPに銅メッシュを重ねるが,A350XWBでは銅箔を重ねて導電性を確保している 6), 10), 11)。Al–Li合金では,主翼ボックスのリブ等に2050-T84厚板が,中央ビームに2050-T852鍛造材が用いられている。主脚格納部には2198-T851板材のロールフォーミングと切削による部品が使用されている 8)。

2. 5 国産旅客機MRJの登場MRJは 2002年NEDOが提案した 30~50席クラスの小型ジェット機開発「環境適応型高性能小型航空機」計画をベースに,三菱航空機(三菱重工業の100%子会社,2008年設立)が設計開発するジェット旅客機である。2015年秋に初飛行の予定である。三菱航空機は70~90席クラスのリージョナルジェット機が,今後20年間で5000機以上との需要予測のもとに2015年の型式証明取得から20年間で1000機以上の販売を目指している(2012年には1500機に引き上げた)12)。将

図4 座席数別のジェット旅客機の需要動向 14)

図5 MRJとその材料構成比 14)

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来の需要予測を図4に示す 13)~15)。この分野の航空機としてはすでにカナダのボンバルディアやブラジルのエンブラエルがあり,さらにロシアや中国も進出しようとしている。これらのライバル機に対し,MRJは 70席のMRJ-70と 90席のMRJ-90を開発し,燃費性能と乗客の居住性で優位性を示すことで対抗しようとしている。現時点でのシミュレーションではライバル機を約20%上回る結果が得られている。当初の構想ではCFRPも用いた機体構造で15%,エンジンで15%,合わせて30%の燃費向上を目指していたが,2009年に大幅な設計変更がなされ,主翼にはCFRPから7000系合金を用いることになった。この変更の理由は,次に挙げる5点ほどである。第1に787と異なり主翼面積が小さいため断面形状の曲率は大きく,丸みを帯びたものになる。CFRPでは曲率が大きくなると,しわができやすくなり,しわができると空力特性は大幅に下がる。しわを避けるためにシートを分割すると強度が弱くなり,そのため積層枚数の増加や補強材追加が必要になり軽量化効果が少なくなること 12), 16), 17)。第2に主翼の燃料タンクの点検口が多く,点検口の周囲は

CFRPだと補強が必要で,主翼の小さいMRJだと補強材の割合が787に比べて大きくなり重量も増して軽量化の効果も得られずコスト高になること 18)。

第3にCFRPの場合は高価な成形の型を派生機ごとにつくると費用がかさんでしまうこと 18)。第4に耐雷性では,CFRPを使用すると,機体に雷が落ち

た場合,雷電流は炭素繊維を伝って流れ,ボルト穴で隙間が空いていると放電する。もし主翼のボルト穴で放電現象が起こったら,燃料は一瞬にして爆発して,旅客機は墜落してしまう。したがって耐雷対策を厳重に行うと余分な重量を使用し,金属製主翼とCFRP主翼では重量はほとんど変わらないということになり,コスト的にもメリットが出せないこと 19)。第5に小型飛行機になると空港での地上車両等との接触の危険性が増し,追突すれば内部欠陥となり,「CFRPだとはっきりとした痕跡が残らないので気がつきにくい」ので見落とされる可能性が高いこと 20)などである。これに対しアルミニウム合金を用いると,落雷対策のための余分な対策も不要になり,既存の加工技術がそのまま活かせるメリットもある。機体構造を工夫することで5%の燃費削減が図られたと推定されている。エンジンではP&WのGTF(Geared Turbo Fan)という新型エンジンを用いることで燃費を約16%削減できる。図5にMRJの外観とその材料構成比を示す 13), 14)。しかし,今後,燃費削減がさらに要求されると,開発が予定されているMRJ-100では主翼のアルミ

図6 対潜哨戒機P-1(左)と大型輸送機C-2(右)22)

図7 航空機の部位と開発されたアルミニウム合金の関係 13)

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ニウム合金がCFRPになる可能性もある 16)。2. 6 Honda Jet2015年4月,日本公開されたHonda Jetは乗員含めて7名乗

りの小型ビジネスジェットで,ノースカロライナ州グリーンズボロ市にあるピードモント・トライアッド国際空港内のホンダ・エアクラフト・カンパニーの工場で生産が行われている。このHonda Jetでは,エンジンを主翼上面に配置し,空力的にも大きな効果を得る最適な位置と形状を備えたユニークな主翼上面形態にしている。この形態では胴体後部のエンジン支持構造が不要で内部スペースを最大限に利用できるため,広い客席と大きな荷物室が実現できた。胴体の組立てにおいては,CFRP複合材料を用いてハニカムサンドイッチパネルとスティフンドパネルの2種の構造様式を組み合わせて一体成型する製造技術により製造されている。主翼はアルミニウム一体削り出しスキン(外板)を用いて凹凸を極小にしているのが特徴である 21)。また川崎重工業では防衛省の大

表2 AAに登録されている航空機用アルミニウム合金の成分(Li含有合金を除く)23)

No. Date By Si Fe Cu Mn Mg Cr Zn Zr Ti

2013 2003 JAPAN 0.6–1.0 0.40 1.5–2.0 0.25 0.8–1.2 0.04–0.35 0.25 0.152014 1954 USA 0.50–1.2 0.7 3.9–5.0 0.40–1.2 0.20–0.8 0.10 0.25 0.20 Zr+Ti 0.152017 1954 USA 0.20–0.8 0.70 3.5–4.5 0.40–1.0 0.40–0.8 0.10 0.25 0.152024 1954 USA 0.50 0.50 3.8–4.9 0.30–0.9 1.2–1.8 0.10 0.25 0.20 Zr+Ti 0.152124 1970 USA 0.20 0.30 3.8–4.9 0.30–0.9 1.2–1.8 0.10 0.25 0.20 Zr+Ti 0.152424 1994 USA 0.10 0.12 3.8–4.4 0.30–0.6 1.2–1.6 0.20 0.102524 1995 USA 0.06 0.12 4.0–4.5 0.45–0.7 1.2–1.6 0.05 0.15 0.102624 2009 USA 0.08 0.08 3.8–4.3 0.45–0.7 1.2–1.6 0.05 0.15 0.102025 1954 USA 0.50–1.2 1.0 3.9–5.0 0.40–1.2 0.05 0.10 0.25 0.152026 1996 USA 0.05 0.07 3.6–4.3 0.30–0.8 1.0–1.6 0.10 0.05–0.25 0.062027 2001 FRANCE 0.12 0.15 3.9–4.9 0.50–1.2 1.0–1.5 0.20 0.05–0.15 0.082056 2003 FRANCE 0.10 0.12 3.3–4.3 0.10–0.50 0.6–1.4 0.40–0.82219 1954 USA 0.20 0.30 5.8–6.8 0.20–0.40 0.02 0.10 0.10–0.25 0.02–0.10 0.05–0.15 V2519 1985 USA 0.25 0.30 5.3–6.4 0.10–0.50 0.05–0.40 0.10 0.10–0.25 0.02–0.10 0.05–0.15 V2618 1954 USA 0.10–0.25 0.9–1.3 1.9–2.7 1.3–1.8 0.10 0.04–0.10 0.9–1.2 Ni

7010 1975 UK 0.12 0.15 1.5–2.0 0.10 2.1–2.6 0.05 5.7–6.7 0.10–0.16 0.067136 2004 USA 0.12 0.15 1.9–2.5 0.05 1.8–2.5 0.05 8.4–9.4 0.10–0.20 0.107037 2006 GERMANY 0.10 0.10 0.6–1.1 0.50 1.3–2.1 0.04 7.8–9.0 0.06–0.25 0.107040 1996 FRANCE 0.10 0.13 1.5–2.3 0.04 1.7–2.4 0.04 5.7–6.7 0.05–0.12 0.067140 2005 FRANCE 0.10 0.13 1.3–2.3 0.04 1.5–2.4 0.04 6.2–7.0 0.05–0.12 0.067049 1968 USA 0.25 0.35 1.2–1.9 0.20 2.0–2.9 0.10–0.22 7.2–8.2 0.107149 1975 USA 0.15 0.20 1.2–1.9 0.20 2.0–2.9 0.10–0.22 7.2–8.2 0.107249 1982 USA 0.10 0.12 1.3–1.9 0.10 2.0–2.4 0.12–0.18 7.5–8.2 0.067349 1994 FRANCE 0.12 0.15 1.4–2.1 0.20 1.8–2.7 0.10–0.22 7.5–8.7 0.25 Zr+Ti7449 1994 FRANCE 0.12 0.15 1.4–2.1 0.20 1.8–2.7 7.5–8.7 0.25 Zr+Ti7050 1971 USA 0.12 0.15 2.0–2.6 0.10 1.9–2.6 0.04 5.7–6.7 0.08–0.15 0.067150 1978 USA 0.12 0.15 1.9–2.5 0.10 2.0–2.7 0.04 5.9–6.9 0.08–0.15 0.067055 1991 USA 0.10 0.15 2.0–2.6 0.05 1.8–2.3 0.04 7.6–8.4 0.08–0.25 0.067255 2009 USA 0.06 0.09 2.0–2.6 0.05 1.8–2.3 0.04 7.6–8.4 0.08–0.15 0.067056 2004 FRANCE 0.10 0.12 1.2–1.9 0.20 1.5–2.3 8.5–9.7 0.05–0.15 0.087068 1996 USA 0.12 0.15 1.6–2.4 0.10 2.2–3.0 0.05 7.3–8.3 0.05–0.15 0.107075 1954 USA 0.40 0.50 1.2–2.0 0.30 2.1–2.9 0.18–0.28 5.1–6.1 0.25 Zr+Ti 0.207175 1957 USA 0.15 0.20 1.2–2.0 0.10 2.1–2.9 0.18–0.28 5.1–6.1 0.107475 1969 USA 0.10 0.12 1.2–1.9 0.06 1.9–2.6 0.18–0.25 5.2–6.2 0.067085 2002 USA 0.06 0.08 1.3–2.0 0.04 1.2–1.8 0.04 7.0–8.0 0.08–0.15 0.06

ESD 1936 JAPAN 1.5–2.5 0.3–1.0 1.2–1.8 0.1–0.4 6.0–9.0

表3 航空機各部位に要求される特性 7)

機体の部位 要求特性

胴体/与圧客室

下面外板 CYS, E, Corrosion上面外板 DT, TSストリンガ /フレーム CYS, E, DT, TSシート /貨物軌道 TS, Corrosion床ビーム E, TS

主翼上面(圧縮) 外板 /ストリンガ CYS, E, DT, TS桁 CYS, E, Corrosion

主翼下面(引張) 外板 /桁 /ストリンガ DT, TS

水平安定板 下面(圧縮) CYS, E, DT上面(引張) DT, TS

CYS:圧縮耐力,E:弾性率,TS:引張強さ, DT:損傷許容(疲労,疲労き裂進展,破壊靱性)

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446 軽金属 65(2015.9)

表4-1 MMPDSに登録されている航空機用2000系合金の特徴,使用形態,調質 24)

合金 特徴 形態 調質

2013 本合金は2024合金の代替材として使用することができる。静的強度は2024合金と同等かそれより高い。ベアリング強度は2024-T3511よりも20%高い。200°Cまでの温度での引張強さは2024-T62より高く,175°Cで高温に曝されても強度は低下しない。2013合金は2024合金と比較して腐食性や疲労亀裂進展速度は向上している。この合金は中空形状を含む複雑な形材を押出できる。このため一体化成形が可能となりコストダウンに寄与できる。また成形性も2024合金より優れている。密度も2024合金より2%小さい。

押出棒, 押出形材 引抜管

T6511

2014 本合金は広範囲な製品で利用されている。2014-T6圧延材,棒材,形材,鍛造品のST方向のSCC性はDランクである。これは最も悪いレベルで使用中にSCCが発生するか,何かしらの付加応力が働く場合にはSCCが発生することを予期したほうがよい。

薄板,厚板,クラッド板,押出棒, 引抜棒, 鍛造材

T6,T62, T651, T652, T6510, T6511

2017 本合金は棒材や線材,特にファスナ材として用いられている。 棒,引抜棒 T4, T451, T42

2024 本合金は広範囲な製品にいろんな調質で利用されている。T3やT4は靭性に優れているが,T6やT8は強度に優れている。また高温で優れた特性が得られ,耐クリープ性に優れている。T6やT8は耐食性にも大変優れている。しかしながら,2024-T3, T4, T42圧延材や押出棒,形材のST方向,2024-T6, T62鍛造材のST方向の応力腐食割れ性はDランクである。

薄板,厚板,クラッド板,押出棒, 引抜棒,管,押出形材

T3, T351, T3510, T3511, T4, T42, T361, T62, T72, T81, T851, T8510, T8511, T861

2124 本合金は1~6インチ厚の厚板で使用される。2024合金を高純度化した合金で特殊な工程で製造すると,通常の製造法の2024合金よりも肉厚方向の延性と破壊靱性が向上する。この合金はT851調質のみで製造されている。2024合金と同様に高温で優れた特性と耐クリープ性を有する。T851調質は耐応力腐食割れ性にも優れている。

厚板 T851

2424 本合金は2024合金よりも延性に優れている。2424合金は裸板やクラッド板で利用されている。

薄板 T3

2524 本合金は他の2XXX板材よりも高靭性で疲労き裂進展抵抗が優れている。板材はT3で使用される。Alclad 2524-T3の機械的性質や一般耐食性はAlclad 2024-T3と同等である。この合金の製品は主にAlclad 2024-T3と同等の強度で疲労き裂進展抵抗や靭性を向上させたい成形用航空機部品に用いられる。

クラッド板 T3

2624 本合金は高強度で損傷許容性に優れている。2624合金はT39, T351厚板で使用される。成分と製造工程を最適化することで,通常の2XXX合金よりも損傷許容性に優れる。

厚板 T39, T351

2025 本合金は鍛造用合金で,特にプロペラ材に限定されている。 型鍛造品 T6

2026 本合金は押出棒,形材で用いられている。この合金押出材は,通常溶接はしないが,加工時に割れが生じやすい部品や切削時に極端に歪みやすい部品,高強度で損傷許容性が必要な部品に用いられる。ある工程手順では応力腐食割れに敏感になるときがある。

押出棒, 押出形材

T3511

2027 本合金は高強度で高損傷許容性を両立させる目的で開発された。高純度地金を用い,マグネシウム,マンガン量,ジルコニウム系分散相の量を最適化したために,静的特性および破壊靱性は従来の2000系合金より優れている。本合金は2027-T351厚板,2027-T3511押出材で使用されている。2027-T351厚板は主翼下面に,2027-T3511押出材は切削工程での寸法安定性や高強度で高損傷許容性が必要とされる切削部品に主に用いられる。

厚板, 押出形材

T351, T3511

2056 クラッド

本合金はAl–Cu–Mg–Zn合金で,他の2X24板材と比較して,耐疲労き裂進展特性,高強度で破壊靭性に優れている。Alclad T3板として用いられる。静的な機械的性質はAlclad 2024-T3より優れている。亜鉛は,芯材と通常のAA1050クラッド皮材との電位差を最適化し,クラッド材の寿命を高めるために添加されている。Alclad 2056は,主に胴体構造の成形部品に用いられる。

薄板 T3

2219 本合金は広範囲な製品で利用されている。2219-T351X, -T37圧延材,押出形材のST方向SCC性はDクラスである。比較的高温(204~316°C)で強度や耐クリープ性が必要とされる部材や極低温での用途に用いられる。

薄板,厚板,押出材,自由鍛造材

T62, T81, T851, T8510, T8511, T852, T87

2519 本合金は溶接が可能なAl–Cu合金で厚板で使用される。防弾用板は7039合金と同等な防弾特性を有し,5083合金よりも耐SCC性に優れる。2519合金の一般耐食性は2219と同等である。2519-T87の耐力は2219-T87材よりも20%高い。2519-T87材は溶加材2319で容易に溶接できる。溶接部の耐力は他の溶接できる合金よりも高い。2519合金は溶接後時効,あるいは溶接後焼入れ時効することで溶接ままの状態よりも機械的性質が向上する。

厚板 T87

2618 本合金は自由鍛造や型鍛造に用いられている。-269~316°Cの温度範囲で優れた特性を有し,高強度と耐クリープが重要な用途に用いられる。

自由鍛造品,型鍛造品

T61

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J. JILM 65(2015.9) 447

表4-2 MMPDSに登録されている航空機用7000系合金の特徴,使用形態,調質(その1)24)

合金 特徴 形態 調質

7010 本合金はクロムに替わってジルコニウムを用いることで焼入れ感受性を鈍感にさせ,特に厚肉の板で,高強度で耐応力腐食割れ性に優れ,良好な破壊靱性を併せ持つ合金として開発された。2インチ以上の厚板のT7451調質は,良好な靭性を有する7075- T651厚板と同等かそれ以上の静的強度を有する。T7451厚板の耐応力腐食割れ性は7075-T7651よりも優れている。T73が耐応力腐食割れ性では最も優れている。T76は7075や7178合金のT6より,剥離腐食性や耐応力腐食割れ性に優れている。T74の耐応力腐食割れ性と強度はT76とT73の中間にある。

厚板 T7451, T7651

7136 本合金は良好な高強度と耐食性を兼ね備えた合金である。剥離腐食性と耐応力腐食割れ性は他の7XXX-T76合金と同等である。

押出材 T76511

7037 本合金は従来の7XXX合金の強度と破壊靭性を向上させた合金である。焼入れ感受性を鈍感にするよう合金成分を最適化させていて,ランディングギア用鍛造品,フレーム,スパ,フィッティングなどのような大きな肉厚を有する部品や大きな鍛造品に有効である。7037合金は4インチ(100 mm)以上の厚みを有する自由鍛造品や型鍛造品で高強度高破壊靱性を示す。

自由鍛造品 T7452

7040 本合金は通常利用されている7010や7050合金よりも,特に8.5インチまでの厚板で高強度高靭性が得られるように開発された合金である。ジルコニウム,不純物,マグネシウム,銅量を適正化して7050合金よりも焼入れ感受性を鈍くし,非常に厚い板でも高強度高靭性が得られる。7040-T7451厚板は高強度高靭性高耐食性が要求される構造物には適している。切削加工で一体化加工したスパ(桁),リブ(小骨),胴体フレームなどの部品には有用である。7040合金は3.0~8.5インチの厚板材にも使用されている。残留応力を厳しく制御しているので,極めて寸法安定性がよい。このため切削後のひずみ矯正が必要とされる圧延材や鍛造材ではこれを使用することでコスト低減になる。

厚板 T7451

7140 本合金は7040合金の派生型で非常に厚い板に用いられる。7040合金よりも高強度で靭性がある。強度,破壊靱性と耐食性のバランスを考慮したT7451とT7651の2種類の調質で製造される。応力腐食割れ性と剥離腐食性は7XXX系合金のこのクラスのT7451, T7651調質と同等である。

厚板 T7451, T7651

7049/ 7149

本系合金は型鍛造品,自由鍛造品,押出材で使用されている。7149合金は7049合金の鉄,けい素量を低減させた合金である。T73XX調質は良好な静的強度と耐応力腐食割れ性に優れた特性を有する。T73XX調質の疲労強度は7075-T6とほぼ同程度であり,靭性はやや高い。

鍛造品, 押出材, 厚板

T73, T73511

7249 本合金は7149合金の派生型で,7249合金は主要成分の成分管理を厳しくし,けい素,鉄,マンガン,チタンによる化合物量を7149合金よりも低減化させている。7249- T7452は応力腐食割れと剥離腐食に敏感な7075-T6鍛造材の置き換えとして開発された。7249はより厚い領域でも高い強度を有し,7075-T6よりも高い延性がある。7249-T76511は高い強度と靭性を維持しながら,7075-T6511押出材よりも耐食性が優れている。この合金は一般にストリンガ(縦通材),スパキャップ(桁フランジ),ロンジロン(強力縦通材)用の狭幅の押出材に用いられてきたが,主翼のパネル,水平安定板,ストラット(支柱)などの広幅押出材にも拡張されている。本合金は,7075-T6511と同等の機械的性質を有し,耐食性と破壊靭性を向上させた合金である。

自由鍛造品,押出材

T7452, T76511

7349 本合金は 7150合金と同等の強度を有し,小型から中型の押出材に使用されている。T76511調質は高い引張強さと過時効材と同等のレベルの剥離腐食性を有している。

押出形材 T76511

7449 本合金は従来の7XXX系合金より高強度である。7449合金は板では2種類の調質,押出材では1種類の調質で使用されている。T7951調質は高い引張や圧縮特性,ほどほどの破壊靱性,過時効材と同等なレベルで定量化可能なレベルの耐応力腐食割れ性を示す。T7651調質は,他の7XXX系合金のT76調質と比較して,引張強さは低いがほどほどの破壊靱性を有し耐応力腐食割れ性は優れている。

厚板, 押出形材

T7651, T7951, T79511

7050 本合金は高強度,高耐応力腐食割れ性,良好な破壊靱性を有する合金として開発された。クロムに替わってジルコニウムを用いることで焼入れ感受性を鈍化させ,厚肉部材で高強度が得られるようにした。7050合金は各種の形態の製品や強度・靭性・耐食性を兼ね備えた調質が使用できる。一般に,7050-T76Xは良好な靭性と耐食性を有し最も高い強度を示す。T74XやT73XはT76Xと比較して強度は低下するものの靭性と耐食性のレベルを向上させている。

厚板, 自由鍛造品, 型鍛造品, 押出形材

T73510, T73511, T74, T7451, T7452, T76510, T76511

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448 軽金属 65(2015.9)

型輸送機(C-2)や対潜哨戒機(P-1)(図6)を製造することで機体の設計製造がすべて国産化できる状況になってきている 22)。この技術を民間機に転用し世界に販売して行くことも日本の技術力を上げていくことに繋がると考えられる。

3. 最近の航空機用アルミニウム合金の動向

3. 1 2000系,7000系合金(Li含有合金をのぞく)図7に示すように2000年以降の航空機に,主翼桁やリブに 7085合金,主翼上面に 7056合金,胴体構造に 7140合金などが用いられている 12)。これらの合金は 2000年以降に

表4-3 MMPDSに登録されている航空機用7000系合金の特徴,使用形態,調質(その2)24)

合金 特徴 形態 調質

7150 本合金は第二世代の7050合金で,3インチまでの厚みで高強度が得られる。本合金は厚板や押出材として用いられる。T61は厚板の破壊靱性値を保証して高強度が得られる。T77は靭性と耐食性を保証して高強度が得られる。T77は他の7000系合金のT76と同等の剥離腐食性と耐応力腐食割れ性を示す。

厚板, 押出材

T6151, T61511, T7751, T77511

7055 本合金は7150合金よりも高強度を示す。本合金は薄板,厚板,押出材で使用される。T77は靭性(厚板のみ)と耐剥離腐食性を保証し,高い引張および圧縮強度が得られる。T77は他の7XXX系合金のT76タイプの調質と同等の耐剥離腐食性を有する。

薄板, 厚板, 押出材

T74511, T76511, T7751, T77511, T762

7255 本合金は損傷許容性が同等あるいはそれ以上を有する7XXX合金よりも強度と疲労強度が高い。本合金は厚板で使用される。T77は他の7XXX合金のT76に比べて引張および圧縮強度が高い。7225厚板は主に主翼上面パネルに使用されている。

厚板 T7751

7056 7056-T7651主翼上面のような比較的薄い厚板に使用されている。7056合金は高い引張および圧縮特性とほどほどの耐食性を有し,破壊靱性を向上させるために7449合金の最適化と拡張を図った合金である。応力腐食割れ性と剥離腐食性はこのクラスの7XXX系合金T7651と同等である。

厚板 T7651

7068 本合金は1990年代中ごろに軍需部品で7075合金代替材としてカイザーアルミニウムで開発された合金である。2インチから6.25インチ径の7068-T6511押出材が1995年から生産されている。最近ではロッカーアームやコネクティングロッドのような自動車部品にも利用されている。7068-T6511は断面で1~2インチを有する7075-T6511よりも長手方向の耐力で103 MPa高いので軽量化に寄与する。T6511は押出形材で応力腐食割れ性はCクラスで,ST方向応力が負荷されると割れが生じる可能性がある。同調質の切削性はCクラス,陽極酸化性はBクラスである。

押出材 T6511

7075 本合金は各種の製品形態で使用される高強度合金である。T6, T73, T76の調質で使用される。T6は最高強度が得られるが,靭性や耐応力腐食割れ性は最も低い。靭性は温度低下とともに減少するために,T6は極低温用の用途には推奨できない。7075-T6圧延材,棒材,押出形材,鍛造品のST方向のSCC性はDクラスである。T73調質はT6調質に比べて強度は低下するが,耐応力腐食割れ性は非常に向上する。T76調質はT6調質に比べてやや強度は低下するが,耐剥離腐食性は向上する。耐応力腐食割れ性の向上は限定的である。

薄板,厚板,クラッド板,棒,引抜棒,押出棒, 押出形材,型鍛造品

T6, T651, T652, T6510, T6511, T73, T7351, T7352, T73510, T73511

7175 本合金は高純度で高強度合金である。型鍛造品ではT66, T74, T7452が使用される。7175-T66型鍛造品は7075-T6鍛造品の疲労,破壊,耐応力腐食割れ性と同等で静的強度が高い。7175-T74型鍛造品や自由鍛造品は7075-T73鍛造品の靭性や疲労特性と同等かそれ以上を有し,7075-T6鍛造材と同等の静的強度を有することを目的に開発された。T74は7075合金のT76とT73の中間の耐応力腐食割れ性と強度を有する。

型鍛造品,自由鍛造品,押出

T73511, T74, T7452

7475 本合金は7075合金と同等の強度を持ちながら破壊靱性の向上を狙った合金である。薄板はT61やT761,厚板はT651, T7651が使用される。薄板材の強度は7075と同程度で,靭性は室温での2024-T3と同等である。厚板は7075と同程度の強度,7475-T651の靭性は7075-T7351と同等かそれを凌ぐ。耐応力腐食割れ性と剥離腐食性は7075合金と同等で,T73調質の耐応力腐食割れ性は,強度低下を伴うが,T6よりも優れる。T76はT6に比べて強度低下がややあるものの剥離腐食性と耐応力腐食割れ性が向上する。

薄板, 厚板, クラッド板

T61, T651, T7351, T761, T7651

7085 本合金は通常の7000系合金厚肉材の強度と靭性の向上を図った合金である。厚肉の板材にはT7651やT7451が,型鍛造品や自由鍛造品にはT7452が用いられる。本合金の焼入れ感受性は成分を最適化して鈍化させている。従来の7000系合金を改良した結果,広い肉厚で高い長手方向の耐力とL–T方向の破壊靭性が得られる。7085合金の耐食性(剥離腐食性,耐応力腐食割れ性)は従来の7000系合金と同等である。静的強度と破壊靱性の組合せにより7085合金は厚い断面の用途,スパ,リブ,一体化加工された切削部品に最適である。

厚板, 型鍛造品,自由鍛造品

T7651, T7452

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J. JILM 65(2015.9) 449

AA(The Aluminum Association)に登録された合金である。これらを含めAAに登録されている代表的な航空機用2000系,7000系合金の成分を表2に示す 23)。

7000系合金で特徴的なことは亜鉛が7~10%程度まで添加された合金が多くなっていることである。日本で戦前発明され零戦に採用された超々ジュラルミン(ESD)が表2最下段に示すように亜鉛は6~9%であったので,世界はようやく超々ジュラルミンのレベルまできたとも言えよう。もうひとつは2000系も含めて,使用する地金が高純度化されていることである。これは材料の不純物元素に起因する化合物を減少させて,高靭性化や疲労き裂の進展を抑制するためである。さらに厚板材や厚肉の鍛造品で焼入れ感受性を鈍感にするために,添加元素をクロムからジルコニウムに変えていること,マグネシウム,銅の添加量を適正化していることがある。航空機用アルミニウム合金に要求される特性を表3に示す 7)。材料が航空機に適用されるためには,まず米国のMMPDS(The Metallic Materials Properties Development and Standardization: 旧MIL-HDBK5)の規格に登録されることが求められる。このMMPDSには航空機用材料の強度等の設計データが含まれている。Al–Li合金を除くMMPDS-09(April 2014)に登録されている2000系と7000系合金の特徴と使用形態,調質を表4-1~4-3に示す 24)。それらの合金の強度比較を図8に示す 13)。表5にMRJのベース合金と今後適用される候補合金を示す 13)。

3. 2 第三世代Al–Li合金の動向Liは金属元素中最も密度が低く0.53 Mg/m3で,リチウムを

アルミニウムに1 mass%添加することで剛性は約6%上昇し,かつ密度は約3%低下することから,航空機用アルミニウム材料のさらなる軽量化を目的として1980年代に研究開発ならびに機体への適用検討が行われた。しかしながら,第二世代と呼ばれるこのAl–Li合金はLi含有量が2 mass%を超え密

度は小さくなったものの,(1)強度異方性,(2)低い破壊靭性,(3)低い耐食性,などいくつか問題があり航空機への適用は非常に限定的であった。1990年後半から第三世代のAl–Li合金としてこれらの問題点を克服しようと開発が行われており,現在も欧米を中心に開発が行われている 25)。第一世代から第三世代までのAl–Li合金開発の流れを図9に示す 26)。表6にAAに登録されているAl–Li合金の成分を示す 23)。

この表に示した2094合金以降が第三世代Al–Li合金と呼ばれるもので,化学組成の特徴としてはLi含有量が2%以下となっている。各種Al–Li合金の強度を図10に示す。図11にリチウム含有量と合金密度の関係を示す 19)。第二世代の密度低下は 7075合金と比較して 3~6%であるので,比強度は7075合金に比べて増加するものもある。このMMPDS-09(April 2014)に登録されているAl–Li合金の特徴と使用形態,調質を表7に示す 24)。第二世代と第三世代のAl–Li合金の機械的特性,破壊靭性,耐食性や製造プロセスを比較すると,第二世代のAl–Li合金は(1)低密度,(2)高剛性,(3)高疲労寿命などの良好な特性を持つ反面,(1)機械的特性の面内異方性が大きい,(2)板厚(ST)方向の破壊靱性が低い,(3)平面応力下の破壊靱性が低いなどの欠点があった。第三世代のAl–Li合金ではこれらの欠点を改善するため,(a)強化機構,(b)靱性制御,(c)再結晶制御,(d)結晶粒径および集合組織制御,(e)疲労特性向上および(f)耐食性向上に関して各種第二相粒子および添加元素の働きについて詳細な研究が行われている。Al–Li合金において最適な機械的特性を得るためには,可能な限り未再結晶組織として製造するためにクロス圧延や溶体化処理前に回復焼鈍を実施するなどの加工熱処理法が検討されている 25)。一般的に構造設計時には最も低い方向の特性を基準として

表5 MRJの基本材料(ベースライン)と今後使用される候補材料 13)

部 ベースライン 候補材料

主翼上面

板7075-T651 7075-T7351 7150-T7751

7055-T7751 (B777) 7055-T7951 (A390)7449-T7951 7056-T7951

押出材7075-T6511 7075-T73511 7150-T77511

7055-T77511 (B777) 7055-T79511 (A390)7349-T76511 7449-T79511

主翼下面板 2024-T351 2324-T39 2027-T351

押出材 2024-T3511 2224-T3511 2026-T35112027-T3511

胴体

板 2024-T3 2524-T3

押出材 2024-T3511 2026-T35117075-T73511 7150-T77511 7349-T76

フレーム 7075-T73 (sheet) 7055-T762 (sheet)7075-T7351 7050-T7451 7040-T7451 2026-T3511

シート・トラック 7075-T73511 7150-T77511 7349-T76

フロア・ビーム 7075-T7351 7050-T7451 7150-T7751 7055-T7751

スタンション 7075-T73511 7150-T77511 7349-T76

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450 軽金属 65(2015.9)

行われるため,機械的特性の異方性は最小にすることが望まれている。また第二世代Al–Li合金は面内異方性が大きく,特に45°方向の強度が低いという問題点があった。これらは主に集合組織や結晶粒の粒径や形状および析出相によるもので,第三世代Al–Li合金では面内異方性および板厚方向の異方性が改善されている 25)。

破壊靱性の向上には不溶性の第二相粒子の影響が大きく,結晶粒界近傍のPFZの制御や不溶性の第二相粒子の低減および未再結晶組織あるいは再結晶粒の形状制御によって破壊靱性の向上が図られている。さらに第三世代Al–Li合金は耐応力腐食割れ性についても大きく向上しており,現行材の2000系,7000系合金や第二世代Al–Li合金と比べてSCCが生

図9 Al–Li合金開発の流れ 26)

図8 MMPDSに掲載された各種航空機用7000系合金の引張強さ(Ftu)と耐力(Fty)13)

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J. JILM 65(2015.9) 451

じるしきい応力が高いことが言われている 25)。以上のように第三世代Al–Li合金は合金自体の密度は大き

くなっているが,合金によっては比強度は第二世代Al–Li合金を超える場合もある。打ち上げ用ロケットのタンクに使用したAl–Li合金の特性の一例をLiを含まない従来合金と比較して表8に示す 27)。第三世代Al–Li合金はエアバス社のA380のフロアビームやボンバルディア社のGlobal C-Seriesに採用されており,今後もエアバス社のA320neo, A330neo, A380neoなどに照準を合わせて欧米を中心に開発が行われている。現在海外アルミメーカーではAl–Li合金鋳造設備の増強が行われているとの情報もあるが,Al–Li合金の大きな課題はコストであり,現

行材の2~4倍と言われている。またリサイクル性に関しても懸念が残る。航続距離の長い大型機や中型機においてはCFRPに対抗するべくAl–Li合金が開発されていると言えよう。

3. 3 戦後初の国産の航空機用2013合金の開発最近の航空機材開発の流れは,従来からの超々ジュラルミンを超える高強度高靭性材料の開発ともうひとつは航空機製造のコスト低減化に寄与できる材料,技術開発がある。後者における材料開発では,耐食性で優れている6000系合金が注目され,米国では6013合金が開発された。2024合金に比

表6 AAに登録されているAl–Li合金の成分 23)

No. Date By Si Fe Cu Mn Mg Zn Ag Li Zr Ti

8090 1984 EAA 0.2 0.3 1.0–1.6 0.1 0.6–1.3 0.25 ̶ 2.2–2.7 0.04–0.16 0.12090 1984 USA 0.1 0.12 2.4–3.0 0.05 0.25 0.1 ̶ 1.9–2.6 0.08–0.15 0.158091 1985 UK 0.3 0.5 1.6–2.2 0.1 0.50–1.2 0.25 ̶ 2.4–2.8 0.08–0.16 0.12091 1985 FRANCE 0.2 0.3 1.8–2.5 0.1 1.1–1.9 0.25 ̶ 1.7–2.3 0.04–0.16 0.18093 1990 FRANCE 0.1 0.1 1.0–1.6 0.1 0.9–1.6 0.25 ̶ 1.9–2.6 0.04–0.14 0.1

2094 1990 USA 0.12 0.15 4.4–5.2 0.25 0.25–0.8 0.25 0.25–0.6 0.7–1.4 0.04–0.18 0.12095 1990 USA 0.12 0.15 3.9–4.6 0.25 0.25–0.8 0.25 0.25–0.6 0.7–1.5 0.04–0.18 0.12195 1992 USA 0.12 0.15 3.7–4.3 0.25 0.25–0.8 0.25 0.25–0.6 0.8–1.2 0.08–0.16 0.12097 1993 USA 0.12 0.15 2.5–3.1 0.10–0.6 0.35 0.35 ̶ 1.2–1.8 0.08–0.16 0.152197 1993 USA 0.1 0.1 2.5–3.1 0.10–0.50 0.25 0.05 ̶ 1.3–1.7 0.08–0.15 0.122297 1997 USA 0.1 0.1 2.5–3.1 0.10–0.50 0.25 0.05 ̶ 1.1–1.7 0.08–0.15 0.122397 2002 USA 0.1 0.1 2.5–3.1 0.10–0.50 0.25 0.05–0.15 ̶ 1.1–1.7 0.08–0.15 0.122196 2000 USA 0.12 0.15 2.5–3.3 0.35 0.25–0.8 0.35 0.25–0.6 1.4–2.1 0.04–0.18 0.12296 2010 France 0.12 0.15 2.1–2.8 0.05–0.50 0.20–0.8 0.25 0.25–0.6 1.3–1.9 0.04–0.18 0.12098 2000 USA 0.12 0.15 3.2–3.8 0.35 0.25–0.8 0.35 0.25–0.6 0.8–1.3 0.04–0.18 0.12198 2005 USA 0.08 0.1 2.9–3.5 0.5 0.25–0.8 0.35 0.10–0.50 0.8–1.1 0.04–0.18 0.12099 2003 USA 0.05 0.07 2.4–3.0 0.10–0.50 0.10–0.50 0.40–1.0 ̶ 1.6–2.0 0.05–0.12 0.12199 2005 USA 0.05 0.07 2.3–2.9 0.10–0.50 0.05–0.40 0.20–0.9 ̶ 1.4–1.8 0.05–0.12 0.12050 2004 USA 0.08 0.1 3.2–3.9 0.20–0.50 0.20–0.6 0.25 0.20–0.7 0.7–1.3 0.06–0.14 0.12055 2011 USA 0.07 0.1 3.2–4.2 0.10–0.50 0.20–0.6 0.30–0.7 0.20–0.7 1.0–1.3 0.05–0.15 0.12060 2011 USA 0.07 0.07 3.4–4.5 0.10–0.50 0.6–1.1 0.30–0.50 0.05–0.50 0.6–0.9 0.05–0.15 0.12076 2012 France 0.1 0.1 2.0–2.7 0.15–0.50 0.20–0.8 0.3 0.15–0.40 1.2–1.8 0.05–0.16 0.12065 2012 France 0.1 0.1 3.8–4.7 0.15–0.50 0.25–0.8 0.3 0.15–0.50 0.8–1.5 0.05–0.15 0.1

図 10 MMPDSに登録された各種Al–Li合金の引張強さ(Ftu)と耐力(Fty)19)

7075

2098

2090

20602050/2195

21982196

2099

2091

8090

2.5

2.55

2.6

2.65

2.7

2.75

2.8

2.85

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3Li含有量(mass%)

合金密度(M

g/m

3 )

第2世代合金

第3世代合金

7075

2098

2090

20602050/2195

21982196

2099

2091

8090

2.5

2.55

2.6

2.65

2.7

2.75

2.8

2.85

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

第2世代合金

第3世代合金

図11 第三世代のAl–Li合金のLi含有量と密度の関係 19)

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452 軽金属 65(2015.9)

べ耐食性が優れるためクラッド材を用いる必要がなく,さらに腐食環境にさらされた後の疲労強度は2024合金と同等である。

日本においても,川崎重工業と住友軽金属(現 UACJ)は日本航空宇宙工業会の委託研究として,2024合金 -T3材の強度に匹敵し,6013合金より高強度の6000系板材を開発し,

表7 MMPDSに登録されている航空機用Al–Li系合金の特徴,使用形態,調質 24)

合金 特徴 形態 調質

2050 本合金はAl–Cu–Li–Mg–Zr合金で0.50–5.00インチ厚板用に設計され,調質としてはT84が登録されている。本合金は2098合金のMn, Mg, Liを適正化した合金である。高強度,高靭性,高耐食性を有し,従来2000系 /7000系航空機材に比べ高剛性,低密度を示している。

厚板 T84

2090 本合金はAl–Cu–Li合金で,7075-T6と同等の強度を有し,密度を8%低減,剛性を10%向上させた合金である。薄板はT83で使用される。2090薄板は7075-T6と同等の強度を有しながら,耐剥離腐食性に優れている。

薄板 T83

2098 本合金はAl–Cu–Li–Mg–Ag合金で,7075-T6と同等の強度を有し,損傷許容や耐疲労き裂進展性は7475-T7351と同等である。7475合金に比べて3%の密度低下と5%の剛性が向上している。薄い厚板ではO材,薄板ではT8調質で製造される。溶体化処理,引張矯正,時効処理して熱的に安定な -T82P調質とする。この最終の熱処理で耐食性に優れた製品になる。

厚板, 薄板

T82P, T8

2198 本合金はAl–Cu–Li–Mg–Ag合金で,2098の派生合金である。2198合金は高純度地金を使用し,成分の最適化を図ることで,強度を維持しつつ損傷許容性を高めた航空機部品用に開発された。薄板用でT8調質が登録されている。

薄板 T8

2099 本合金はAl–2.7Cu–1.8Li–0.7Zn–0.3Mg合金で,主に押出棒や形材として利用されている。これらの押出材は高強度,高剛性,低密度,高耐食性が必要な部品に適用される。またこの合金は機械加工性,良好な仕上げ加工性,成形性にも優れる。厚板としても利用されている。調質としてはT86, T83, T81の3種類が登録されている。

厚板, 押出形材

T86, T83, T81

2195 本合金はAl–Cu–Li–Mg–Ag合金である。薄板あるいは主に0.500–2.250インチの厚板用に用いられる。T34状態で製造され,ユーザーの成形・時効処理によって最終T82調質として用いられる。規格としてはT8とT82が登録されている。低密度,高強度,高損傷許容性,高耐応力腐食割れ性を必要とする航空機部品向けに開発された。

薄板, 厚板

T8, T82

2196 本合金はAl–Cu–Li–Mg–Ag合金で,低密度,高強度,高剛性で切削時の形状安定性が要求される航空機部品用に開発された。押出用で調質はT8511が登録されている。

押出 T8511

2297 本合金はAl–Cu–Li–Mn–Zr合金で厚板用に用いられ,高強度で破壊靭性および損傷許容性に優れている。特に6インチまでの厚板では板厚方向の機械的特性および耐応力腐食割れ性に優れる。また45度方向の強度はやや低いものの引張特性は面内等方性を有している。T87は溶体化処理後焼入れ,引張矯正による応力除去,人工時効により最高強度とする。破壊靭性は高温にさらされてもほとんど低下しない。ただし,溶接用には設計されておらず,ファスナによる接合のみが推奨されている。

厚板 T87

2397 本合金はAl–Cu–Li–Mn–Zn–Zr合金で2297合金にZnが添加されており,特性は2297合金同様,高強度で疲労特性,破壊靭性および耐応力腐食割れ性に優れていて損傷許容が要求される用途に用いられる。また6インチまでの厚板では板厚方向の機械的特性および耐応力腐食割れ性に優れる。また機械的特性の面内異方性も小さい。厚板用としてT87調質が登録されている。接合にはファスナが一般的に用いられる。

厚板 T87

表8 各種Al–Li合金の物理的性質と機械的性質 27)

合金・質別・製品密度 弾性率(引張) 引張耐力(L) 破壊靱性(L–T)

KIC, *KC 比強度 比剛性(Mg/m3) (103GPa) (MPa) (MPa m1/2)

2090-T83 Sheet 2.59 79.3 517 *44 200 30.62195-T8R78 Plate 2.71 76.0 530 37 196 28.02099-T86 Plate 2.63 77.9 483 45 184 29.62055-T8EX Plate 2.70 76.6 655 28 243 28.42219-T851 Plate 2.84 73.1 352 36 124 25.75456-H116 Plate 2.66 71.0 255 ̶ 96 26.77075-T651 Plate (**) 2.81 71.0 546 28 194 25.37050-T7451 Plate (**) 2.83 71.0 494 43 175 25.1

(**)は吉田英雄:学位論文(1991)より

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J. JILM 65(2015.9) 453

航空機に適用する検討を行った 28)。この板材を用いると,従来2024-O材で成形し,焼入れしていた工法が,T4で成形し成形後人工時効する工程が可能となり,成形加工後の焼入れによるひずみ矯正が不要で製造コストが約30%低減する。この合金はまた,図12に示すように,従来の2000系合金ではできなかった中空薄肉ホロー形材が押出可能で,複雑な形状の航空機部品の一体化成形ができ,従来のリベット接合が不要になり重量軽減が図れ,図13に示すように低コストで製造できることが明らかとなった 29)。この高強度高成形 6000系合金は 2013合金として,米国のAAに国際登録され,その押出材は米国の航空機規格MMPDSを取得している 30)~37)。日本で最初にMMPDSに登録された国産合金である。この合金は航空機のコスト低減が可能で軽量化に寄与できるもので,今後の航空機の設計にぜひ織り込んで欲しいと考える。戦後,住友を見学した堀越二郎氏は,現場でホロー形材をみて,こんなものがアルミニウムでできるならばもっと違った航空機もできただろうとの感想を述べている 38)。航空機の設計者にアルミニウムの製造現場を見ていただくのはとても重要なことである。

4. 航空機用材料の今後の課題

4. 1 航空機用材料の市場,欧米との比較アルミニウム産業における国内の航空機向けアルミニウム材の生産量は 2012年約 4000トンで,アルミニウム圧延品(板,押出)の年間国内生産量200万トンの0.2%程度である。国内での航空機生産に使用するアルミニウム材料は約36000トンで約9割が輸入材である。日本航空宇宙工業会「航空機用アルミニウム合金の生産能力の実態及び課題の調査」(平成14年3月)の資料では2016~2020年民間機(大型機,リージョナル機)用アルミニウム素材市場推定では世界で約27万トン/年あるといわれている 39)。日本の航空機メーカーはアルミニウムの素材を,米国をはじめとして圧倒的に海外に依存している。この原因は,大型設備で大量生産された海外製品が安いということと日本国内ではその製造工程が複雑で生産性が低く,それよりも缶材などの製品を大量に生産した方が時間当たりの利益が大きいといったことが挙げられる。そのため日本でしか製造できないような特殊な航空機材料しか注文がこないことになる。さらに,アルコア社は7055-T7751といった特殊な熱処理された合金を特許化して,それをボーイング社に認定させ他社が参入できないようにしていることも挙げられる。かくして日本製品は航空機材料市場にほとんど入れていないのが現状である。このため高強度材料の開発や製造技術もまた海外勢に遅れを取っている。海外勢に対抗するには航空機材の生産性が課題で,生産性を上げ低コスト化を図るか,短納期で寸法精度が高く残留応力の少ない高品質の素材を生産し,機体メーカーや部品メーカーでの加工コスト低減に寄与できる製品を製造していくかにかかっている。いずれにしても機体メーカー,部品メーカーの協力が必要である。需要のないところでは技術も研究も廃れていくのは当然である。戦前の国策として航空機のためにアルミニウム産業を育成してきた状況とは大きく異なっている。

4. 2 航空機材料開発の課題,軽金属学会東海支部航空機材料部会の活動に即して 40)

軽金属学会東海支部は,2010年,こうした最近の東海地区の航空機産業の状況を鑑みて,アルミニウム材料を継続的に用いていただくために,産として素材メーカー,機体メーカー,部品加工メーカー,表面処理メーカー,官として中部経済産業局,愛知県労働産業部,産業技術総合研究所,中部航空宇宙技術センター,学として名古屋大学,大同大学などを入れた産官学の航空機材料部会(部会長 名古屋大学 金武直幸教授)を発足させた。ここで航空機用アルミニウム材料の現状把握と課題の抽出を行い,素材製造WG,切削加工WG,リサイクルWG,表面処理WGの4つのワーキンググループに分けて,ワーキンググループごとに将来の技術課題を検討した。素材WGからは,形材の寸法精度向上技術,ブリスター発生抑制技術,高強度高剛性合金の開発,大型素材の国産化,切削加工WGからは素材の残留応力低減技術,切削後の変形予測技術,加工発熱の少ない高速加工技術などの開発,リサイクルWGからは can to canのようなリサイクルシステム構築,二輪車部品への再利用技術の開発,表面処理WGからは,素材,表面処理,使用環境が耐食性に及ぼす影

図12 AA2013合金押出材を用いて一体化加工した部品例 30)

図13 従来の製造法とAA2013合金を用いた一体化押出による製造法とのコスト比較 34)

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454 軽金属 65(2015.9)

響の解明,環境適合でかつ自己修復機能を持った表面処理技術の開発が将来の技術課題として提案された。この活動をさらに発展させ,素材メーカー,機体メーカー,部品メーカーが一緒になって課題を解決できる仕組みができれば,さらに素晴らしい材料開発ができるものと考える。

5. お わ り に

東海支部航空機材料部会では将来技術課題をまとめたが,これを実行に移していくには個別の会社ごとに取り組むのは非常に難しいのが現状で,ぜひ,国家プロジェクトとして総合的に取り組んでいく必要がある。航空機産業は自動車産業と並んで東海地区の基幹産業で発展の原動力となっている。航空機産業を支えていくには各種の基盤技術の確立が必要であるが,アルミニウムに関してはこのような基盤技術を促進させるセンターがないので,国はこれを設立させ基盤技術を牽引していくことが切望される。高強度合金開発では,超々ジュラルミンの発見から80年近い年月が経っていて,この間の製造技術も大きく発展しているが,合金成分で見る限りクロムがジルコニウムに置き換わっただけであまり進んでいないとも言える。いま,この超々ジュラルミンを超える材料が求められている。しかし既存のプロセスだけでは限界があることも確かである。強度を上げようとすると,延性や靭性が低下してしまうことである。これらの原因の一つに,鋳造時に晶出物が生成し,これが粗大化し結晶粒界に残存することがある。晶出物の生成を抑制あるいは微細化できる鋳造技術が必要である。また生成しても,その後の加工熱処理で晶出物を粒内に取り込むことができれば粒界割れを抑制でき,延性,靭性を向上させることができるであろう。日本の英知を結集して超々ジュラルミンを超える材料を開発して,世界に通用する航空機材料として貢献できることが必要である。また最近欧米で復活してきたAl–Li合金については,機体メーカーとあらためてその必要性を議論したうえで,アリシウムの経験を踏まえ,合金成分,溶解鋳造について国家プロジェクトとして検討すべき課題であろう。こうした課題を実行していくためにもナショナルセンターが必要である。

参 考 文 献 1) 吉田英雄:軽金属,65(2015),432–440. 2) A. S. Warren: Proceedings of the 9th International Conference on

Aluminium Alloys, Edited by J. F. Nie, A. J. Morton and B. C. Muddle, IMEA, (2004), 24–31.

3) M. V. Hyatt and S. E. Axter: Science and Engineering of Light Metals (RASELM’91), Edited by K. Hirano, H. Oikawa and K. Ikeda, The Japan Institute of Light Metals, (1991), 273–280. アルミニウムの製品と製造技術,軽金属学会,(2001),273.

4) ボーイング 787:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0787

5) 青木謙知:図解 ボーイング 787 vs.エアバスA380,BLUE BACKS,講談社,(2011).

6) ANA SKY WEB: http://ana.vacau.com/ 7) R. J. H. Wanhill: ALUMINUM–LITHIUM ALLOYS, Processing,

Properties, and Applications, Edited by N. E. Prasad, A. A. Gokhale and R. J. H. Wanhill, Butterworth-Heinemann, Elsevier, (2014).

8) M. Kunüwer: (Plenary talk) Aerospace Aluminium 2014̶111Years of Success, Aluminium Alloys 2014-ICAA14, Trondheim, Norway, (2014).

9) エアバスA350XWB:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%

E3%82%A2%E3%83%90%E3%82%B9A350_XWB10) 阿施光南:AIRLINE 9(月刊エアライン),イカロス出版,No.

423,9月号(2014),22–27.11) 阿施光南:A350XWB & AIRBUS Family,イカロス出版,(2016),

58–83.12) MRJ: https://ja.wikipedia.org/wiki/MRJ, http://www.mrj-japan.com/j/13) 八代充造:国産旅客機MRJ事業への挑戦と適用軽量化材料̶

Flying into the future̶,平成22年度軽金属学会東海支部 第一回講演会,(2010).

14) 藤江 壮:MRJの開発状況,http://www.jasst.jp/archives/jasst11n/pdf/S1.pdf

15) 平成26年度民間輸送機関連データ集(YGR-0185),一般財団法人日本航空機開発協会,平成27年3月.

16) 杉山勝彦:日本のものづくりはMRJでよみがえる!,SB新書,SBクリエイティブ,(2015),72.

17) 杉本 要:翔べ,MRJ世界の航空機市場に挑む「日の丸ジェット」,日刊工業新聞社,(2015).

18) 前間孝則:AIRLINE 9(月刊エアライン),イカロス出版,No. 423,9月号(2014),46–49,AIRLINE 12(月刊エアライン),イカロス出版,No. 426,12月号(2014),54–67.

19) 中沢隆吉,伊原木幹成:JFA,45(2014),17–27.20) 青木謙知:ジェット旅客機を作る技術,サイエンス・アイ新

書,SBクリエイティブ,(2013),212.21) 阿施光南:AIRLINE 7(月刊エアライン),イカロス出版,No.

433,7月号(2015),62–69.22) 野久 徹:大型機開発のトピックス,平成23年度軽金属学会

東海支部 第一回講演会,(2011).23) International Alloy Designations and Chemical Composition Limits

for Wrought Aluminum and Wrought Aluminum Alloys: The Aluminum Association, (2015).

24) MMPDS-09 (Metallic Materials Properties Development and Standardization) Chapter 3 Aluminum Alloys (2014), Federal Aviation Administration.

25) R. J. Rioja and J. Liu: Metall. Mater. Trans., A Phys. Metall. Mater. Sci., 43A (2012), 3325–3337.

26) 吉田英雄:住友軽金属技報,54(2013),250–263.27) R. J. Rioja, D. K. Denzer, D. Mooy and G. Venema: 13th International

Conference on Aluminum Alloys (ICAA13), Edited by H. Weiland, A. D. Rollet and W. A. Cassada, TMS, (2012), 593–598.

28) 日本航空宇宙工業会:航空機部品・素材産業振興に関する調査研究,高強度高成形6000系新合金の研究,住友軽金属工業,川崎重工業,成果報告書,No. 806(1994),No. 904(1995).

29) 日本航空宇宙工業会:航空機部品・素材産業振興に関する調査研究,新6000系合金の航空機用鍛造/押出材の開発,住友軽金属工業,川崎重工業,成果報告書,No. 1004(1996),No. 1102(1997).

30) 佐野秀男,松田眞一,吉田英雄:住友軽金属技報,45(2004),168.

31) 佐野秀男,加藤勝也:住友軽金属技報,46(2005),126.32) 加藤勝也,佐野秀男:住友軽金属技報,47(2006),105.33) 佐野秀男,加藤勝也:住友軽金属技報,51(2010),166.34) 日本航空宇宙工業会:環境調和型航空機技術に関する調査研

究(CD版),複雑形状の押出可能な高強度合金2013の一次構造体への適用研究,住友軽金属工業,川崎重工業,成果報告書,No. 1615(2005),No. 1705(2006).

35) 日本航空宇宙工業会:環境調和型航空機技術に関する調査研究(CD版),高成形合金2013板材の開発及び低コスト構造への適用研究,住友軽金属工業,川崎重工業,成果報告書,No. 1914(2008),No. 2006(2009).

36) 岩村信吾,小関好和,吉田英雄:住友軽金属技報,51(2010),32.

37) 小関好和,岩村信吾,上向賢一,山田悦子:住友軽金属技報,51(2010),61.

38) 深井誠吉:軽金属,29(1988),87.39) 日本航空宇宙工業会:平成13年度航空機用アルミニウム合金

の生産能力の実態及び課題調査,(2002).40) 金武直幸:軽金属学会東海支部「航空機材料部会」について,

平成24年度軽金属学会東海支部 第一回講演会,(2012).