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酵素の安定性を高める 植物由来因子 福井大学 大学院 工学研究科 生物応用化学専攻 准教授 寺田 繊維工業研究センター 助教 佐久間 紹子 産学官連携本部 研究員 柳原 佳奈 2010年 8月 4日 新技術説明会 (科学技術振興機構)

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Page 1: 酵素の安定性を高める 植物由来因子 - JST酵素の安定性を高める 植物由来因子 福井大学大学院工学研究科 生物応用化学専攻 准教授 寺田

酵素の安定性を高める植物由来因子

福井大学 大学院 工学研究科

生物応用化学専攻 准教授 寺田 聡

繊維工業研究センター 助教 佐久間 紹子

産学官連携本部 研究員 柳原 佳奈

2010年 8月 4日 新技術説明会 (科学技術振興機構)

Page 2: 酵素の安定性を高める 植物由来因子 - JST酵素の安定性を高める 植物由来因子 福井大学大学院工学研究科 生物応用化学専攻 准教授 寺田

背景

生体で起こる化学反応に対して触媒として機能する分子

特定の分子にしか触媒作用をもたないタンパク質

酵素

食品分野、化学工業分野、医薬分野、研究分野など多岐にわたる分野に応用

産業分野

240億円

食品加工

洗剤

飼料

燃料エタノール

繊維/皮革

医薬・

研究分野

160億円

医薬原体

研究・その他

診断薬

400億円

産業酵素の応用技術と最新動向(2009年 シーエムシー出版)

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≪食品・日用品加工業≫

ビール製造に利用(βアミラーゼ)

→ 大麦を麦芽糖に分解する

味の素製造に利用(グルタミナーゼ)

→ さとうきびの糖蜜をグルタミン酸に分解する

洗剤に添加(プロテアーゼおよびリパーゼ)

→ タンパク質および油汚れを分解する

≪医療・製薬業≫

臨床検査に利用

→ 体内の代謝酵素の存在量の測定により疾病を診断する

バイオセンサーの実用化

→ 酵素の基質特異性と反応性を利用して化学物質を検出する

(例)市販の血糖値測定器(グルコースセンサー)

酵素の利用分野

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酵素活性 : 酵素を構成するタンパク質の 立体構造 が深く関与

熱、凍結融解、乾燥、pH変化、

塩濃度、溶媒、他の酵素による作用で

不可逆的に変化

いかに安定な状態に保つか

・溶液状態

・至適温度外 で活性を維持

・長期間

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従来の酵素安定化剤 ウシ血清アルブミン (BSA)

公知の感染性病原体の検査・検出しか不可能 = 院内感染の恐れ

品質の良いBSAの大量で安定的な入手が困難 = コスト高

院内感染、コスト高酵素製品

利点

• 溶解性が高い

• 高塩濃度の条件下でも析出しない

• 比較的広いpH域で使用できる

欠点

• 原料(牛血清)由来のプロテアーゼが含まれる

• 血液中の黄色の色素であるビリルビンが混入し、着色や酸化還元反応の阻害が生じる

• ロットによって品質にばらつきがある

• ウシ海面脳症(BSE)や口蹄疫などの人畜共通感染症の懸念がある

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酵素液の凍結乾燥過程における、劣化防止に使用

ショ糖(スクロース)、トレハロース

ラッキョウ フルクタン

冷水にも可溶

120℃でも安定

廃棄物の再利用

冷水にも可溶

120℃でも安定

廃棄物の再利用

酵素安定化剤 ラッキョウ フルクタン

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ラッキョウフルクタン

フルクタンの特徴・ 分子量 : 6 ~100 kDa・ n : m = 3 : 1・ 高い水溶性水100 mlに40 g以上溶解

・ 沸騰水中でも安定m

CH2OH

HOH2C

CH2OH

H2C O

CH2

HO

HO

OO

HO

HO

O

O

HOHO

OH

OO

OH

HO

HOH2C

CH2

n

b-2,6 bond

b-2,1 bond

Page 8: 酵素の安定性を高める 植物由来因子 - JST酵素の安定性を高める 植物由来因子 福井大学大学院工学研究科 生物応用化学専攻 准教授 寺田

期待される効果

医療・研究用酵素の市場は約160 億円

これら酵素の50%にBSAが使用されていると仮定した場合、

その半数に代替できれば、40億円の市場

医療・研究用酵素の市場は約160 億円

これら酵素の50%にBSAが使用されていると仮定した場合、

その半数に代替できれば、40億円の市場

現行品である

BSAの代替

市場の拡大

人畜共通感染症の懸念の払しょく

品質の安定化

供給の安定化

コスト削減

近年需要が拡大している、バイオエタノールや

洗剤といった産業用酵素にも利用できる可能性

近年需要が拡大している、バイオエタノールや

洗剤といった産業用酵素にも利用できる可能性

産業用酵素分野への展開

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これまでに得られた研究成果の紹介

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フルクタンの酵素安定化能の評価

高温加熱後の残存活性

溶液状態、高温(至適温度+10℃以上)で

静置した後の酵素の活性を測定

DNAポリメラーゼ(PCR反応に用いる酵素)

ペルオキシダーゼ(ELISAの呈色反応に用いる酵素)

目的

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実験1

DNAポリメラーゼ

PCR反応に用いる酵素

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PCR法とはPCR(polymerase chain reaction)とは、ポリメラーゼ

連鎖反応の略称である。DNAを増幅するための手法であ

る。次のような長所を持つことから、遺伝子型の判定や

ウイルス感染の有無を評価するといった、臨床での診断

に広く利用されている。

・ ヒトのゲノム(30億塩基対)のような非常に長大な

DNA分子の中から、自分の望んだ特定のDNA断片(数百か

ら数千塩基対)だけを選択的に増幅させることができる。

しかも極めて微量なDNA溶液で目的を達成できる。

・増幅に要する時間が2時間程度と短い。

・プロセスが単純で、全自動の卓上用装置で増幅できる。

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フルクタンのDNAポリメラーゼに対する安定化能

加熱時間条件 : 85℃、30min

フルクタン濃度 : 0、0.05、0.10、0.20、0.50% (in DEPC処理水)

cDNA : HepG2から抽出したもの

検出遺伝子 : ハウスキーピング遺伝子のACTB(β-actin)

プライマープローブ : TaqMan®Gene Expression Assays

ACTB gene (Applied Biosystems)

リアルタイムPCR装置 : Light Cycler®480 (Roche)

step1

• 各濃度のフルクタン水溶液を調製

• DNAポリメラーゼ(5units/μL)と混合

step2

• 酵素‐フルクタン

水溶液を85℃で

30分加熱

step3

• PCR反応液を調製

• リアルタイムPCR

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フルクタンのDNAポリメラーゼに対する安定化能

サイクル数

Intensity

0.2%フルクタンで加熱未処理と同等の活性を維持

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フルクタンのDNAポリメラーゼに対する安定化能

フルクタン含有でも Ct値に影響なし

加熱処理(85℃、30分)加熱未処理

フルクタン濃度

0% 0.05% 0.1% 0.2% 0.5% 0%

最大 Intensity(39サイクル)

11.8 27.1 31.5 32.8 30.3 33.0

残存活性(%)(加熱/未処理)

35.7 82.2 95.6 99.4 91.7 -

平均Ct値 20.21 20.83 20.92 20.95 20.63 21.12

標準偏差 0.11 0.02 0.02 0.02 0.02 0.04

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実験2

ペルオキシダーゼ

ELISAの呈色反応に用いる酵素

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ELISAELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay) は、試

料中に含まれる抗体あるいは抗原の濃度を検出・定量する際に用いられる方法である。生体試料中には、種々雑多なタンパク質が存在するた

め、特定のタンパク質を検出・定量するには、特に他のタンパク質と比べて微量にしか存在しない場合が多く、特異性の高さ(夾雑物からどれだけ正確に区別できるか)と定量性の良さ(微量であっても検出できる、あるいは低濃度における再現性の良さ)が求めらる。ELISAは特異性の高い抗原抗体反応を利用し、酵素反応に基づく発色・発光をシグナルに用いることで上記の条件をクリアしている。感染の有無やアレルギーなど、医療分野で診断として

広く利用されている。

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加熱時間条件 : 60℃、10min

フルクタン濃度 : 0、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2、0.5、 1、2%

(in リン酸緩衝液)

コントロールサンプル: BSA、イヌリン、レバン、トレハロース、フルクトース

(0.2、2%)

基質 : o-フェニレンジアミン+30%過酸化水素

反応緩衝液: リン酸クエン酸緩衝液

step1

• 各濃度のフルクタン溶液を調製

• ペルオキシダーゼ(0.8μg/mL)と混合

step2

• 酵素‐フルクタン溶液を 60℃で10分加熱

step3

• 基質と混合

• プレートリーダーで

カイネティック測定

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フルクタン濃度(%)

0 0.01 0.02 0.05 0.1 0.50.2 1 2

残存相対活性(%)

(加熱/非加熱)

残存活性(%)(加熱/未処理)

70.9 85.3 93.7 88.9 96.8 102.2 93.1 93.3 99.9

フルクタン含有で、加熱後も活性を維持

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残存相対活性(%)

(加熱/非加熱)

BSA、トレハロースよりも高い活性維持効果

2% 0.2% 2% 0.2% 2% 0.2% 2% 0.2% 2% 0.2% 2%

フルクタン イヌリン レバン トレハロース フルクトース BSA PBS

残存活性(%)

(加熱/未処理)

95.2 89.1 49.0 46.0 81.2 82.2 60.4 85.1 17.3 32.8 89.9 85.9

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今後の展開

1.多様な酵素に対する保護効果を実証

これまでに系統的な分類の違う2種類の酵素について

保護効果を確認、より多様な酵素に対して実証

2.長期保存に対する保護効果を検証

酵素保護剤として最も期待されている、長期間にわたる

保護効果を実証

3.分画し、保護剤として最も有効な分子構造を探索

将来的に一層の展開をはかるべく、分画を検討

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本技術に関する知的財産権

• 発明名称 :酵素安定化剤

• 出願番号 :特願2010‐029438

• 出願人 :福井大学、福井県

• 発明者 :寺田 聡、 佐久間紹子、

柳原佳奈、竹下悟史、

小林恭一、大浦 剛

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産学連携の経歴

絹タンパク質セリシンに関して• 2002年‐2010年

セーレン社と共同研究実施• 2007年‐2009年

JST育成事業に採択• 2009年

セリシンGIT培地(日本製薬)の市販

ラッキョウ多糖フルクタンに関して• 2009年‐2011年

農水省 新しい農業政策事業に採択

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福井大学 大学院

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生物応用化学専攻

准教授 寺田 聡

TEL 0776-27-8645

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e-mail [email protected]

〒910-8507福井県福井市文京3-9-1