信託の登記 - 駒澤大学...1 総説 (1)信託の意義 ・信託とは、信託法3...
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第23回 信託の登記 信託の登記 1 総説 (1)信託の意義 ・信託とは、信託法 3 条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的
に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為
をすべきものとすることをいう(信託法 2 条 1 項)。 (2)信託の方法 ・上記の「信託法 3 条各号に掲げる方法」とは、以下のとおりである。 ① 信託契約を締結する方法(信託法 3 条 1 号) ・「特定の者(受託者)との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定そ
の他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又
は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(信託契
約)を締結する方法」である。 ・この方法による場合、信託の効力は信託契約の締結によって生じる(信託法 4 条 1
項)。 ・「財産の処分」には受託者を権利者として抵当権、地上権等を設定し、これを信託財
産に帰属させることも含まれる。 ② 信託遺言による方法(信託法 3 条 2 号) ・「特定の者(受託者)に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨
並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目
的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法」である。 ・この方法による場合、信託の効力は遺言の効力の発生によって生じる(信託法 4 条
2 項)。 ③ 自己信託の設定証書を作成する方法(信託法 3 条 3 号) ・「特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の
当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書その他
の書面又は電磁的記録で当該目的、当該財産の特定に必要な事項その他の法務省令
で定める事項を記載し又は記録したものによってする方法」である。 ・つまり、自己信託とは、委託者自らが自己の有する一定の財産の管理・処分を、受
託者として管理・処分すべき旨の意思表示をする方法であり、例えば企業が、構成
財産の一部である工場を自己信託し、受益権を投資家に売却して資金の調達を図る
などの利用が想定されている。 2 信託の当事者 (1)委託者
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・委託者とは、信託法 3 条各号に掲げる方法により信託をする者をいう。(信託法 2条 4 項)。
・委託者の地位は、受託者および受益者の同意を得て、または信託行為において定め
た方法に従い、第三者に移転することができる(信託法 146 条 1 項)。 ・委託者が死亡した場合、契約による信託・自己信託における委託者の相続人は委託
者の地位を承継する。これに対し、遺言による信託における委託者の相続人は、委
託者の地位を承継しない(信託法 147 条)。ただし信託行為に別段の定めがあると
きはその定めによる。 (2)受託者 ・受託者とは、信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理または処分およ
びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者をいう(信
託法 2 条 5 項)。 ・遺言による方法によって信託がされた場合において、当該遺言に受託者の指定に関
する定めがないとき、または受託者となるべき者として指定された者が信託の引受
けをせず、もしくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申
立てにより、受託者を選任することができる(信託法 6 条 1 項)。 ① 権限 ・受託者は、信託財産に属する財産の管理または処分およびその他の信託の目的の達
成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制
限を加えることができる(信託法 26 条)。 ② 信託事務の委託 ・受託者は信託行為に信託事務の処理を第三者に委託することができる旨の定めがあ
るときは、信託事務の処理を第三者に委託することができる(信託法 28 条 1 号)。 ・このような定めのないときでも、信託の目的に照らして相当であると認められると
きは、信託事務の処理を第三者に委託することができる(信託法 28 条 2 号)。 ・第三者に委託してはならない旨の定めがある場合においても、信託事務の処理を第
三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認め
られるときは、信託事務の処理を第三者に委託することができる(信託法 28 条 3号)。
③ 員数 ・受託者は 1 人である必要はない。 ・受託者が 2 人以上いる場合 (ア)信託財産はその合有となり(信託法 79 条)、持分は登記しない(不登令 3 条⑨)。 (イ)信託事務の処理については、受託者の過半数をもって決する(信託法 80 条 1
項)。ただし保存行為については、各受託者が単独で決することができ(信託法
80 条 2 項)、信託事務の処理について決定がされた場合には、各受託者はその執
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行をすることができる(信託法 80 条 3 項)。 ④ 権利能力・行為能力 ・未成年者・成年被後見人・被保佐人を受託者とすることはできない(信託法 7 条)。 ・ 権利能力なき社団等、法人格のない団体の名義で登記をすることは一般的にでき
ず、法人格のない団体を受託者として信託の登記をすることもできない。 ・ 破産は除外したが、信託行為に別段の定めがない限り信託の終了事由とされてい
る(信託法 56③、Ⅲ)。 ⑤ 受託者が信託の受益者となることの可否 ・受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってす
るかを問わず、信託の利益を享受することができない(信託法 8 条)。 ・受託者が唯一の受益者となることは完全には禁止されない。ただし受託者が受益権
の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したときは当該信託は終了する(信託
法 163 条 2 号)。 ⑥ 受託者の利益相反行為の禁止 ・次のような行為により、受益者の利益を犠牲にして自己(受託者)の利益を図るこ
とは禁止されている。 (ア)信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、
または固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属
させること(信託法 31 条 1 項 1 号)。 (イ)信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に
帰属させること(信託法 31 条 1 項 2 号)。 (ウ)受託者と第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者が当
該第三者の代理人となって行うもの(信託法 31 条 1 項 3 号)。 (エ)信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任
を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定すること、その他第三者
との間において信託財産のためにする行為であって受託者またはその利害関係
人と受益者との利益が相反することとなるもの(信託法 31 条 1 項 4 号)。 ・これらの規定にかかわらず、次の場合は利益相反行為となる行為も許容される。 (オ)信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき(信託法 31 条 2
項 1 号)。 (カ)受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき(信
託法 31 条 2 項 2 号)。 (キ)相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰
属したとき(信託法 31 条 2 項 3 号)。 (ク)受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認め
られる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、または
当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的および態様、受託者の受益者
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との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき(信
託法 31 条 2 項 4 号)。 ⑦ 受託者の権限違反行為の取消 ・受託者は、信託財産に属する財産の管理または処分およびその他の信託の目的の達
成のために必要な行為をする権限を有する。ただし、信託行為によりその権限に制
限を加えることを妨げない(信託法 26 条)。 ・受益者は次の場合、受託者の行為を取り消すことができる。 (ア)受託者が信託財産のためにした行為がその権限に属しない場合において、次の
いずれにも該当するとき。 ⅰ 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が信託財産のためにされたも
のであることを知っていた(信託法 27 条 1 項 1 号)。 ⅱ 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないこ
とを知っていた、または知らなかったことにつき重大な過失があった(信託法
27 条 1 項 2 号)。 (イ)受託者が信託財産に属する財産について権利を設定しまたは移転した行為がそ
の権限に属しない場合において、次のいずれにも該当するとき。 ⅰ 当該行為の当時、当該信託財産に属する財産について信託法 14 条の信託の登
記または登録がされていた(信託法 27 条 2 項 1 号) ⅱ 当該行為の相手方が、当該行為の当時、当該行為が受託者の権限に属しないこ
とを知っていた、または知らなかったことにつき重大な過失があった(信託法
27 条 2 項 2 号)。 ⑧信託財産管理者 ・受託者の任務が終了した場合において、新受託者が選任されておらず、かつ、必要
があると認めるときは、新受託者が選任されるまでの間、裁判所は、利害関係人の
申立てにより、信託財産管理者による管理を命ずる処分(信託財産管理命令)をす
ることができる(信託法 63 条 1 項)。 ・信託財産管理命令があった場合において、信託財産に属する権利で登記がされたも
のがあることを知ったときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、信託財産管理
命令の登記を嘱託しなければならない(信託法 64 条 5 項)。 ・信託財産管理者が選任された場合は、受託者の職務の遂行並びに信託財産に属する
財産の管理及び処分をする権利は、信託財産管理者に専属する(信託法 66 条 1 項)。 ・信託財産管理命令を取り消す裁判があったとき、又は信託財産管理命令があった後
に新受託者が選任された場合において当該新受託者が信託財産管理命令の登記の
抹消の嘱託の申立てをしたときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、信託財産
管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない(信託法 64 条 6 項)。 ⑨信託財産法人管理人 ・受託者である個人が死亡したことにより受託者の任務が終了(信託法 56 条 1 項第
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1号)した場合に、信託財産は法人となる(信託法 74 条 1 項)。 ・この場合において、必要と認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、
信託財産法人管理人による管理を命ずる処分(信託財産法人管理命令)をすること
ができ(同条第2項)、信託財産法人管理命令があった場合において、信託財産に属
する権利で登記がされたものがあることを知ったときは、裁判所書記官は、職権で、
遅滞なく、信託財産法人管理命令の登記を嘱託しなければならない(信託法 74 条 6項,64 条 5 項)。
・信託財産法人管理命令を取り消す裁判があったとき、又は信託財産法人管理命令が
あった後に新受託者が就任した場合において当該新受託者が信託財産法人管理命
令の登記の抹消の嘱託の申立てをしたときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、
信託財産法人管理命令の登記の抹消を嘱託しなければならない(信託法 74 条 6項,64 条 6 項)。
(3)受益者 ・受益者とは、受益権を有する者をいう(信託法 2 条 6 項)。 ・信託行為の定めにより受益者となるべき者として指定された者は、当然に受益権を
取得する(信託法 88 条 1 項)。受益の意思表示等は要しない。 ・受益者は、その有する受益権を譲り渡すことができる(信託法 93 条 1 項)。 ① 受益者の意思決定 ・受益者が 2 人以上ある信託における受益者の意思決定(信託法 92 条各号に掲げる
権利の行使に係るものを除く。)は、すべての受益者の一致によってこれを決する。
ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる(信託法 105条 1 項)。
・信託行為に受益者集会における多数決による旨の定めがあるときは、信託法 106 条
以下の定めるところによる(信託法 105 条 2 項)。 ② 受益者の定めのない信託(目的信託) ・受益者の定めのない信託とは、受益者の定めも受益者を定める方法の定めもない信
託で、受益権を有する受益者の存在を予定しない信託のことである。信託の管理処
分は信託行為で定められた信託の目的達成のためになされる。 ・相続人のない者が自己の死亡後におけるペットの世話を、必要な費用を信託し、第
三者に行ってもらう場合などの利用が想定される。 ・受益者の定めのない信託は、契約または遺言の方法によってのみすることができ(信
託法 258 条)自己信託の方法によることはできない。また、信託の存続期間は、20年を超えることができない(信託法 259 条)。
(4)信託管理人・受益者代理人・信託監督人 ① 信託管理人 ・信託行為においては、受益者が現に存しない場合に信託管理人となるべき者を指定
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する定めを設けることができる(信託法 123 条 1 項)。 ・信託管理人は、受益者のために自己の名をもって受益者の権利に関する一切の裁判
上または裁判外の行為をする権限を有する。(信託法 125 条 1 項)。 ・ 信託管理人の氏名または名称および住所は、信託の登記の登記事項である(不登
法 97 条 1 項 3 号)。 ・ 選任は信託行為における指定の他、裁判所による選任が可能(信託法 123)。 ② 信託監督人(新設) ・信託行為においては、受益者が現に存する場合に信託監督人となるべき者を指定す
る定めを設けることができる(信託法 131 条 1 項)。 ・信託監督人は、受益者のために自己の名をもって第 92 条各号(受託者の監督のた
めの権利)に掲げる権利に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有
する。 ・信託監督人の氏名等については、登記事項とはされていない。 ・選任は信託行為における指定の他、裁判所による選任が可能(信託法 131)。 ③ 受益者代理人 ・信託行為においては、その代理する受益者を定めて、受益者代理人となるべき者を
指定する定めを設けることができる(信託法 138 条 1 項)。 ・受益者代理人の制度は、受益者が変動したりまたは多数であるために受益者による
権利行使が困難である場合において、受益者の利益保護及び信託事務の円滑化を図
ることを目的としている。 ・受益者代理人は、その代理する受益者のために当該受益者の権利に関する一切の裁
判上または裁判外の行為をする権限を有する。(信託法 139 条 1 項)。 ・受益者代理人の氏名または名称および住所は、信託の登記の登記事項である(不登
法 97 条 1 項 3 号)。 ・選任は信託行為における指定のみで、裁判所による選任は不可(信託法 138)
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委託者、受託者、受益者以外の信託関係人のまとめ 当事者 選任される場面 選任方法 登記
信託財産管理者
受託者の任務が終
了した場合におい
て、新受託者が選
任されておらず、
かつ、必要がある
と認めるとき
裁判所の信託財
産管理命令 64 信託財産管理命
令の登記が裁判
所により嘱託さ
れる(信託財産管
理者は登記され
ない)。64⑤ 受託者関係 信託財産法人管理
人
受託者である個人
が死亡したことに
より受託者の任務
が終了(新信託法
第56条第1項第
1号)した場合に、
信託財産は法人と
され(新信託法第
74条第1項)、こ
の場合において、
必要と認めるとき
裁判所の信託財
産法人管理命令
74
信託財産法人管
理命令の登記が
裁判所により嘱
託される(信託財
産法人管理人は
登記されない)。
74⑥
信託行為におけ
る指定 123① 信託管理人
受益者が現に存在
しない場合
裁 判 所 の 選 任
123④
信託管理人を申
請により「信託目
録の受益者に関
する事項等」欄に
記録 信託行為におけ
る指定 132① 信託監督人
受益者が現に存す
る場合 裁 判 所 の 選 任
132④
登記しない 受益者関係
受益者代理人
現に存する特定の
受益者のため 信託行為におけ
る指定 138 受益者代理人を
申請により「信託
目録の受益者に
関する事項等」欄
に記録
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3 信託財産 ・信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託により管理または処分をすべき
一切の財産をいう(信託法 2 条 3 項)。固有財産とは、受託者に属する財産であっ
て、信託財産に属する財産でない一切の財産である(信託法 2 条 8 項)。 ① 内容 ・譲渡性のある財産権であれば、物権・債権を問わず、特許権等の無体財産権も信託
財産となる。 ② 範囲 ・信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、信託財産に属
する財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産(信託法
16 条 1 号)、信託法の規定により信託財産に属することとなった財産(信託法 16条 2 号)は、信託財産に属する。
・受託者が、信託財産である金銭で不動産を買い受けた場合等、財産の形を変えても、
信託財産に属するものは依然として信託財産である。 ③ 損失てん補・原状回復 ・受託者がその任務を怠ったことによって信託財産に損失が生じた場合は、受益者は
当該受託者に対し、当該損失のてん補を請求することができる(信託法 40 条 1 項 1号)。同じく信託財産に変更が生じた場合は、原状の回復を請求できる(信託法 40条 1 項 2 号)。
・ただし、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を
要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情が
あるときは、この限りでない(信託法 40 条 1 項ただし書)。 ④ 制約 (ア)強制執行の制限 ・原則として、信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分、担
保権の実行、国税滞納処分等をすることができない(信託法 23 条 1 項)。 ・例外的に、信託財産に属する財産について信託前の原因によって生じた権利等にか
かる債権については、強制執行ができる(信託法 23 条 1 項)。 ・信託による所有権移転の登記がある不動産について、その信託の登記前に発生した
債権を被保全権利として委託者に対する仮差押命令が発せられた場合における仮
差押えの登記の嘱託は受理されない(S61・4・30 民三 2777 号通達)。 ・委託者がその債権者を害することを知って自己信託をしたときは、信託法 23 条 1
項の規定にかかわらず、当該委託者(受託者であるものに限る)に対する債権で信
託前に生じたものを有する者は、信託財産に属する財産に対し、強制執行等をする
ことができる(信託法 23 条 2 項)。
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(イ)相続 ・受託者の任務は、受託者である個人の死亡によって終了し、信託財産は相続財産と
ならない(信託法 56 条 1 項 1 号)。 (ウ)破産手続開始決定 ・受託者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても、信託財産に属する財産は、
破産財団に属しない(信託法 25 条)。委託者が破産手続開始決定を受けた場合も同
様である。 4 信託の登記の申請手続 ・受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産
とを、分別して管理しなければならない(信託法 34 条 1 項)。 ・信託財産とされた財産が、受託者の固有財産でなく、信託財産であることを公示し、
それを第三者に対抗するために行うのが、信託の登記である。 ・A を委託者、B を受託者とする信託による建物の所有権の移転の登記および信託の
登記の申請書例
登録免許税 信託分 金 4 万円 移転分 登録免許税法第 7 条第 1 項第 1 号 *1
登記の目的 所有権移転及び信託 原 因 平成 22 年 5 月 6 日信託 権 利 者 (住所省略) B (信託登記申請人) 義 務 者 (住所省略) A 添 付 書 面 登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書
住所証明書 代理権限証書 課 税 価 格 金 1,000 万円
*1 免除の根拠となる法令の条項を記載する(規則 189 条 2 項) 権利部 (甲区) (所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項 2
所有権移転
平成22年4月1日 第4001号
所有者 (住所省略) A
所有権移転
平成22年5月6日 第5006号
原因 平成22年5月6日信託 受託者 (住所省略) B
3 信託 余白 信託目録第
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(1)同時・一括申請 ① 同時・一括申請の原則 ・信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申
請と同時にしなければならない(98 条 1 項)。 ・信託の登記の申請と当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請
とは、1 つの申請情報によってしなければならない(令 5 条 2 項)。 ② 同時・一括申請が要求されない場合 ・売買を原因としてBがAから所有権取得の登記を受けている土地について、後日Cを
委託者としBを受託者とする信託財産の処分により買い受けた信託財産であるとし
て、Bから、信託登記の申請があった場合には、受理される(S41・10・31民甲2970号回答)。
B A C 金銭 金銭
信託 処分
土地受託者
・このように、信託財産の処分等(信託法 16 条)および信託財産の原状の回復(信
託法 40 条)においては、必ずしも信託による権利の移転または保存もしくは設定
の登記と信託の登記を同時に 1 つの申請情報によってする必要はない。 (2)申請人 ① 信託の登記の申請人 ・信託の登記は、受託者が単独で申請することができる(98 条 2 項)。 ・信託の登記は、権利の移転の登記と同時に申請しなければならず、権利の移転の登
記は原則として共同申請によるため、委託者や受益者の利益は、委託者や受益者が
権利の移転等の登記の申請人となることにより確保されうる。 ② 自己信託の方法によってされた信託による権利の変更登記の申請人 ・自己信託の方法により信託がなされた場合、その対象となる不動産に関する権利に
ついては、当該権利が信託財産になった旨の権利の変更の登記を信託の登記の申請
と同時にする。これは自己信託には、権利の「移転」は伴わないが、固有財産から
信託財産への「変更」が起こるためである。 ・この権利の変更の登記は受託者が単独ですることができる(98 条 3 項)。
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③ 代位による信託の登記の申請 ・受益者または委託者は、受託者に代わって信託の登記を申請することができる(99
条)。 (3)登記の目的、原因およびその日付 ① 権利の移転
権利 受託者 登記の目的 登記原因及び
原因日付 1 人 所有権移転及び信託 所有権 複数 所有権移転(合有)及び信託 1 人 何番地上権移転及び信託 所有権以外 複数 何番地上権(合有)移転及び信託
「年月日信託」 信託契約が成立した日
(信託法 4 条 1 項)
遺言信託 所有権
1 人 所有権移転及び信託 「年月日遺言信託」 遺言の効力の発生の日
(信託法 4 条 2 項) ② 権利の設定
権利 受託者 登記の目的 登記原因及び
原因日付 抵当権 1 人 抵当権設定及び信託 「年月日金銭消費貸借
年月日信託」 信託契約が成立した日
(信託法 4 条 1 項) ③ 信託法 16 条 1 号の規定により信託財産に属する不動産に関する権利を取得した
場合(例)
権利取得の態様 登記の目的 登記原因及び
原因日付 信託財産の処分によ
り不動産を取得した
場合
所有権移転及び信託財産の処分
による信託 「年月日売買」 売買の効力が生じた日
信託財産の管理とし
て抵当権を取得した
場合
抵当権設定及び信託財産の管理
による信託 「年月日金銭消費貸借 年月日信託」 抵当権設定の効力が生
じた日
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④ 信託財産の原状回復(信託法 40 条)の場合 ・例えば、受託者が信託の本旨に反して信託財産に属する不動産を第三者に売却した
場合、委託者または受益者による信託財産の原状の回復の請求に基づいて当該不動
産を買い戻したときは、信託の登記を申請する必要がある。
原状回復の態様 登記の目的 登記原因及び
原因日付 所有権の保存の登記
と同時にする場合 所有権保存及び信託財産の原状
回復による信託 なし
所有権の移転の登記
と同時にする場合 所有権移転及び信託財産の原状
回復による信託 「年月日売買」 売買の効力が生じた日
⑤ 代位申請の場合
信託の登記の時期 登記の目的 登記原因及び
原因日付 所有権移転の登記と
同時にする場合 所有権移転及び信託 「年月日信託」
信託契約が成立した日 (信託法 4 条 1 項)
所有権移転 「年月日売買」 売買の効力が生じた日
所有権移転の登記と
別にする場合(原状
回復の場合) 信託財産の原状回復による信託 なし
⑥ 自己信託の場合
登記の目的 登記原因及び原因日付 信託財産となった旨の 登記及び信託
「年月日自己信託」 ・公正証書等による場合、書面等の作成の日 ・公正証書等以外の書面等による場合、「受益者となる
べき者として指定された第三者に対する確定日付の
ある証書による通知がされた日」(信託法 4 条 3 項)
(4)申請情報 ・通常の権利の登記とほぼ同様であるが、注意すべき点は次のとおりである。 ① 持分の表示 ・登記名義人となる受託者(登記権利者)が 2 人以上である場合であっても、各受託
者の持分を記載することを要しない(令 3 条 9 号括弧書)。受託者が数人いるとき
は信託財産はその合有となるためである。 ② 信託の登記の登記事項 ・信託の登記の登記事項(97 条 1 項)は、その全てを登記記録に記録すると一覧性を
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欠くことになるため、登記官により信託目録が作成され、そこに記録される(97 条
3 項、規則 176 条 1 項)。信託目録に記録すべき事項については、申請情報として
ではなく、添付情報として提供する。 (5)添付情報 ① 登記原因証明情報 (ア)自己信託の方法による信託の場合 ・信託法 4 条 3 項 1 号に規定する公正証書等または、
・同項 2 号の公正証書等以外の書面もしくは電磁的記録および同号の通知をしたこ
とを証する情報(令別表 65 添付情報欄イ) (イ)自己信託の方法以外による信託の場合 ・提供すべき登記原因証明情報について限定はないが、原則どおり提供を要する(令
別表 65 添付情報欄ハ)。 ② 信託目録に記録すべき情報(令別表 65 添付情報欄ハ) ・登記官の信託目録の作成のため、信託の登記の登記事項(97 条 1 項各号に掲げる事
項)を明らかにする情報を提供しなければならない。 (ア)委託者、受託者および受益者の氏名または名称および住所(97 条 1 項 1 号) (イ)受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その
定め(97 条 1 項 2 号) (ウ)信託管理人があるときは、その氏名または名称および住所(97 条 1 項 3 号) (エ)受益者代理人があるときは、その氏名または名称および住所(97 条 1 項 4 号) (オ)信託法 185 条 3 項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨(97 条 1
項 5 号) (カ)信託法 258 条 1 項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨(97
条 1 項 6 号) (キ)公益信託ニ関スル法律 1 条に規定する公益信託であるときは、その旨(97 条 1
項 7 号) (ク)信託の目的(97 条 1 項 8 号) (ケ)信託財産の管理方法(97 条 1 項 9 号) (コ)信託の終了の事由(97 条 1 項 10 号) (サ)その他の信託の条項(97 条 1 項 11 号) ③ その他の添付情報 (ア)信託による権利の保存、設定または移転の登記と信託の登記を同一の申請情報
で申請する場合 ・通常の権利に関する登記を申請する場合と同様の添付情報の提供が必要となる。 (イ)信託による権利の変更の登記と信託の登記を同一の申請情報で申請する場合
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ⅰ 登記識別情報(令 8 条 1 項 8 号) ・信託による登記と、自己信託による権利の変更の登記を同一の申請情報で申請
する場合、受託者の単独申請による登記であるので、申請人の権限を証するた
めに提供する。 ⅱ 印鑑証明書(規則 47 条 3 号イ) (6)受益者または委託者の代位による登記の特則 ・受託者 Aが信託財産である建物の原状回復による信託の登記を申請しなかったため、
受益者である B が A に代位して、信託の登記を申請する場合の申請書例。
登録免許税 金 4 万円 *4 課 税 価 格 金 1,000 万円 添 付 書 面 登記原因証明情報 代位原因証書*3 代理権限証書 代 位 原 因 不動産登記法 99 条 *2 (受益者) 代位申請人 (住所省略) B *1 (受託者) 信託登記申請人(住所省略) A 登記の目的 信託財産の原状回復による信託
*1 受益者または委託者が受託者に代わって信託の登記を申請するときは、申請人
(受益者または委託者)が代位者である旨、他人(受託者)の氏名または名称お
よび住所ならびに代位原因を申請情報の内容としなければならない。 *2 代位原因は「不動産登記法 99 条」とする。 *3 代位原因を証する情報(令 7 条1項 3 号)として、申請の目的である不動産が
代位申請人を受益者または委託者とする信託財産であることを証する情報を提
供する *4 課税標準金額(不動産の価額)の 1,000 分の 4(登税法別表第一 1(10)イ) 申請後の登記記録 権利部 (甲区) (所有権に関する事項)
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
2
所有権移転
平成22年4月1日 第4001号
原因 平成22年4月1日 売買 所有者 (住所省略) A
3
信託財産の原状
回復による信託
平成22年5月6日 第5006号
信託目録第何号 代位申請人(受益者) B 代位原因 不動産登記法99条
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(7)登録免許税
登記の態様 権利の登記 信託の登記 信託による所有権の移転
の登記と信託の登記を申
請する場合
非課税 (登税法 7 条 1 項 1 号)
信託財産の処分(または現
状の回復)による所有権の
移転の登記と信託の登記
を申請する場合
通常の所有権の登記と同
様(登税法別表第一 1(2)各号)
不動産価額の 1,000 分の 4(登税法別表第一 1(10)イ)
所有権以外の権利の移転
の登記と信託の登記を申
請する場合
非課税 (登税法 7 条 1 項 1 号)
所有権以外の権利の保存
または設定の登記と信託
の登記を申請する場合
通常の所有権以外の権利
の設定と同様(登税法別表
第一 1(3)、(5)各号)
先取特権、質権、抵当権の
信託 債権金額または極
度額の 1,000 分の 2 (登税法別表第一 1(10)ロ)
その他の権利 不動産価額の 1,000 分の 2
(登税法別表第一 1(10)ハ)
自己信託による所有権の
変更の登記と信託の登記
を申請する場合
不動産1個につき 1,000 円
(登税法別表第一1(14))不動産価額の 1,000 分の 4(登税法別表第一 1(10)イ)
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受託者の変更による登記、信託の変更の登記等 1 受託者の変更による登記 (1)受託者の変更 ① 意義 ・受託者の変更とは、受託者の任務が終了し、新たな受託者が選任され、受託者の地
位が承継されることをいう。受託者の任務が終了しても、信託は直ちに終了せず、
新たな受託者によって継続される。 ② 終了事由 ・受託者の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次に掲げる事由によって終了
する。(信託法 56 条 1 項)。 (ア)受託者である個人の死亡(同条同項 1 号) (イ)受託者である個人が後見開始または保佐開始の審判を受けたこと(同条同項 2
号) (ウ)受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の
決定を受けたこと(同条同項 3 号) (エ)受託者である法人が合併以外の理由により解散したこと(同条同項 4 号) (オ)信託法 57 条の規定による受託者の辞任(同条同項 5 号) (カ)信託法 58 条の規定による受託者の解任(同条同項 6 号) (キ)信託行為において定めた事由(同条同項 7 号) ③ 新受託者の選任 ・信託法 56 条 1 項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、 (ア)信託行為に新受託者に関する定めがないとき、 (イ)信託行為の定めにより新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受
けをせず、もしくはこれをすることができないとき これらのときは、委託者および受益者は、その合意により、新受託者を選任するこ
とができる(信託法 62 条 1 項)。 ・上記の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは、
裁判所は、利害関係人の申立てにより、新受託者を選任することができる(信託法
62 条 4 項)。 ④ 受託者の変更による登記 (ア)権利義務の承継時期 ・信託法 56 条 1 項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、
新受託者が就任したときは、新受託者は、前受託者の任務が終了した時に、その時
に存する信託に関する権利義務を前受託者から承継したものとみなされる(信託法
75 条 1 項)。 ・ただし、信託法 57 条 1 項 5 号の規定による受託者の辞任(裁判所の許可による辞
任を除く)により受託者の任務が終了したときは、前受託者は、新受託者等が信託
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事務の処理をすることができるに至るまで、引き続き受託者としての権利義務を有
するため(信託法 59 条 4 項)、新受託者は、新受託者等が就任した時に、その時に
存する信託に関する権利義務を前受託者から承継したものとみなされる。 (イ)登記手続 ・信託財産が不動産の所有権その他の権利である場合には、受託者の変更により、信
託に関する権利義務は前受託者から新受託者へ承継されるため、前受託者から新受
託者への権利の移転登記が必要になる。 (ウ)共同受託者の 1 人の任務終了による所有権等の変更の登記 ・受託者が 2 人以上いる場合、信託財産はその合有となるため、その任務が終了した
時に存する信託に関する権利義務は他の受託者が当然に承継し、その任務は他の受
託者が行う。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによ
る(信託法 86 条 4 項)。 ・この場合、信託財産である不動産の所有権その他の権利については、変更(合有登
記名義人の変更)の登記をする。 (2)受託者の変更による所有権移転等の登記の申請手続 ① 登記原因 ・「受託者の任務終了(または死亡・辞任等)による受託者の変更」とする。 ・または単に「受託者変更」(H19・9・28 第 2048 号通達第三・17)とする。 ② 原因日付 ・原則として前受託者の任務が終了した日(信託法 75 条 1 項)。 ・辞任(裁判所の許可による辞任を除く)により受託者の任務が終了したときは、新
受託者または信託財産管理者が就任した日。 ③ 申請人 (ア)単独申請 ・受託者の任務が死亡、後見開始もしくは保佐開始の審判、破産手続開始の決定、
法人の合併以外の理由による解散または裁判所もしくは主務官庁の解任命令に
より終了し、新たに受託者が選任されたときは、信託財産に属する不動産につい
てする受託者の変更による権利の移転の登記は、新たに選任された当該受託者が
単独で申請することができる(100 条 1 項)。 (イ)共同申請 ・受託者の任務が辞任、解任、信託行為において定めた事由により終了し、新たに
受託者が選任されたときは、信託財産に属する不動産についてする受託者の変更
による権利の移転の登記は、新たに選任された当該受託者を登記権利者、前受託
者を登記義務者とする共同申請による(60 条)。
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④ 添付情報 (ア)登記原因証明情報(令別表 66 添付情報欄)
・受託者の地位の承継を証する情報の提供を要する。 ・100 条 1 項により新たに選任された当該受託者が単独で申請する場合は、100 条
1 項に規定する事由により受託者の任務が終了したことを証する市町村長、登記
官その他の公務員が職務上作成した情報、および新たに受託者が選任されたこと
を証する情報を提供しなければならない。 (イ)その他の添付情報 ・所有権その他の権利の移転の登記の申請と同様の添付情報を提供する。 ・新たに選任された受託者と前受託者の共同申請によるときは、 ⅰ 登記義務者の登記識別情報または登記済証(22 条) ⅱ 登記義務者の印鑑証明書(令 16 条 2 項) の提供を要する。 ⑤ 登録免許税 ・非課税である(登税法 7 条 1 項 3 号)。 ⑥ 職権による信託の登記の変更 ・登記官は、信託財産に属する不動産について、信託法 56 条 1 項各号に掲げる受託
者の任務終了事由による新受託者への権利の移転の登記をするときは、信託の登記
事項として信託目録に記録されている受託者についても変更をする必要があり、職
権で当該信託の変更の登記をしなければならない(101 条 1 号)。 (3)共同受託者の 1 人の任務終了による所有権変更等の登記申請手続 ① 登記の目的 ・「何番合有登記名義人変更」とする。 ② 登記原因 ・「受託者何某任務終了(または死亡・解任等)」とする(H19・9・28 第 2048 号通達第
三・18) ③ 原因日付 ・原則として前受任者の任務が終了した日(信託法 75 条 1 項)。 ・辞任(裁判所の許可による辞任を除く)により受託者の任務が終了したときは、新
受託者または信託財産管理者が就任した日。 ④ 申請人 (ア)単独申請 ・受託者が 2 人以上ある場合において、そのうち少なくとも 1 人の受託者の任務が、
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死亡、後見開始もしくは保佐開始の審判、破産手続開始の決定、法人の合併以外の
理由による解散または裁判所もしくは主務官庁の解任命令により終了し、新たに受
託者が選任されたときは、信託財産に属する不動産についてする当該受託者の変更
による権利の変更の登記は、新たに選任された当該受託者が単独で申請することが
できる(100 条 2 項)。 (イ)共同申請 ・受託者が 2 人以上ある場合において、そのうち少なくとも 1 人の受託者の任務が
辞任、解任、信託行為において定めた事由により終了したときは、信託財産に属
する不動産についてする受託者の変更による権利の変更の登記は、他の受託者を
登記権利者、前受託者を登記義務者とする共同申請による(60 条)。 ⑤ 添付情報 (ア)登記原因証明情報(令別表 67 添付情報欄)
・受託者の地位の承継を証する情報の提供を要する。 ・100 条 2 項により他の受託者が単独で申請する場合は、100 条 1 項に規定する事
由により一部の受託者の任務が終了したことを証する市町村長、登記官その他の
公務員が職務上作成した情報を提供しなければならない。 ・その他の添付情報については、受託者の変更による所有権移転等の登記の申請の
場合と同じである。 ⑥ 登録免許税 ・非課税である(登税法 7 条 1 項 3 号)。 ⑦ 職権による信託の登記の変更 ・受託者が 2 人以上ある信託において、登記官は、信託財産に属する不動産につき、
受託者の 1 人から信託法 56 条 1 項各号に掲げる受託者の任務終了事由による新受
託者への権利の変更の登記をするときは、信託の登記事項として信託目録に記録さ
れている受託者についても変更をする必要があり、職権で当該信託の変更の登記を
しなければならない(101 条 2 号)。 (4)法人の合併または分割による受託者の変更 ① 受託者である法人の合併または分割による受託者の変更に伴う登記 ・受託者である法人が合併をした場合、信託行為に別段の定めがない限り、合併後存
続する法人または合併により設立する法人は、受託者の任務を引き継ぐ(信託法 56条 2 項・3 項)。
・受託者である法人が分割をした場合における分割により受託者としての権利義務を
承継する法人も、同様である(信託法 56 条 2 項)。 ・法人の合併または会社分割による権利の移転の登記は、不動産登記法 100 条の規定
による受託者の任務の終了による権利の移転の登記としてではなく、合併について
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は不動産登記法 63 条 2 項により、会社分割については不動産登記法 60 条の共同申
請によってなされる。 ・受託者が 2 人以上ある場合において、そのうち少なくとも 1 人の受託者につき法人
の合併または会社分割があったときは権利の変更の登記を申請する。 ② 受託者である法人の合併または分割と所有権移転等の登記手続 合併による権利の移転 分割による権利の移転 登記原因 「合併」 「会社分割」 原因日付 合併の効力が生じた日 会社分割の効力が生じた日
申請人
単独申請 申請人:存続法人または
新設法人
共同申請 登記権利者:新設分割設立会社または
吸収分割承継会社 登記義務者:新設分割会社または
吸収分割会社
添付情報 合併による権利の移転の 登記と同様
会社分割による権利の移転の 登記と同様
登録免許税 非課税(登税法 7 条 1 項 3 号) ③ 共同受託者の 1 人の合併または会社分割による所有権変更等の登記申請手続
「受託者 A 合併」または「受託者 A 会社分割」 登記原因
(H19・9・28 第 2048 号通達第三・19) 原因日付 合併または会社分割の効力が生じた日
申請人
会社分割による権利の変更登記 共同申請 登記権利者:新設分割設立会社または
吸収分割承継会社 登記義務者:新設分割会社または
合併による権利変更の登記
単独申請 申請人:合併後の存続法人
または新設法人
吸収分割会社 添付情報 合併または会社分割による権利の移転の登記と同様
登録免許税 非課税(登税法 7 条 1 項 3 号)
2 信託の変更の登記 (1)意義 ・信託の登記の登記事項(97 条 1 項各号に掲げる事項)に変更が生じたときはその
変更の登記をしなければならない。97 条 1 項各号は信託目録に記録されるため
(97 条 3 項)、登記事項に変更が生じたときは、信託目録の記録も変更される。
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(2)信託の登記の申請手続 ① 登記官の職権
・信託法 56 条 1 項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了し、権利の移転ま
たは変更の登記が申請されると、登記官は登記を実行するとともに、職権で信託
の変更の登記をしなければならない(101 条 1 号・2 号)。 ・また、受託者である登記名義人の氏名もしくは名称または住所についての変更・
更正の登記の登記が申請され、登記官がこれを実行するときは、信託目録に記録
されている受託者についても職権で信託の登記の変更がなされる(101 条 3 号)。 ② 裁判所書記官による嘱託 ・裁判所書記官は、受託者の解任の裁判があったとき、信託管理人もしくは受益者
代理人の選任もしくは解任の裁判があったとき、または信託の変更を命ずる裁判
があったときは、職権で、遅滞なく、信託の変更の登記を登記所に嘱託しなけれ
ばならない(102 条 1 項)。 ③ 主務官庁による嘱託 ・主務官庁は、受託者を解任したとき、信託管理人もしくは受益者代理人を選任し、
もしくは解任したとき、または信託の変更を命じたときは、遅滞なく、信託の変
更の登記を登記所に嘱託しなければならない(102 条 2 項)。 ④ 受託者の単独申請 ・上記①~③の場合を除き、信託の登記の登記事項について変更があったときは、
受託者は、遅滞なくその信託の変更の登記を申請しなければならない(103 条 1号)
・この登記は受益者または委託者が受託者に代位して申請することができる(103条 2 項、99 条)。
3 信託登記の抹消の登記 (1)信託登記の抹消
① 意義 ・受託者が信託財産である不動産を第三者に処分した場合、信託財産が受託者の固
有財産となった場合、信託が終了した場合はその不動産は信託財産ではなくなる。
これらの場合は信託登記の抹消を申請しなければならない。 ② 信託の登記の抹消が必要になる各場合 (ア)受託者が信託財産である不動産を第三者に処分した場合 ・不動産の処分を目的とする信託(処分信託)においては、受託者は信託によって
定められた目的および方法に従い不動産を処分しなければならない。「処分」に
は売却のほか、物権の設定も含まれるが、売却された場合は信託財産ではなくな
り、買主の固有財産となるので、所有権の移転登記と信託登記の抹消の登記を申
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請しなければならない。 (イ)信託が終了した場合
・信託は当事者の終了の合意(信託法 164 条 1 項)のほか、信託法 163 条 1 項各号
に掲げる事由の発生により終了する。 ・信託が終了した場合、原則として信託法 175 条以下の手続によって清算をしなけ
ればならず、信託は清算が結了するまではなお存続するものとみなされる(信託
法 176 条)。 ・信託債権者に対する弁済が終了した後に残った残余財産は、信託法 182 条の規定
により帰属者となるものに帰属するので、「信託財産引継」を原因として権利の
移転の登記および信託登記の抹消の登記を申請する。 (ウ)信託財産が受託者の固有財産となった場合
・信託財産に属する財産を受託者の固有財産に帰属させることは利益相反行為とし
て禁止されている(信託法 31 条 1 項 1 号)。ただし次の場合は例外的に認められる。 ⅰ 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき(信託法 31 条 2
項 1 号)。 ⅱ 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき(信
託法 31 条 2 項 2 号)。 ⅲ 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に
帰属したとき(信託法 31 条 2 項 3 号)。 ⅳ 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認
められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、また
は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的および態様、受託者の受益
者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき
(信託法 31 条 2 項 4 号)。 ・この場合「委付」を原因とする受託者の固有財産となった旨の変更の登記および
信託登記の抹消の登記の申請をする(H19・9・28 第 2048 号通達第三・22、23)。 (2)登記申請手続 ① 同時申請 ・信託財産に属する不動産に関する権利が移転、変更または消滅により信託財産に
属しないこととなった場合における信託の登記の抹消の申請は、当該権利の移転
の登記もしくは変更の登記または当該権利の登記の抹消の申請と同時にしなけ
ればならない(104 条 1 項)。 ・この場合の信託の登記の抹消の申請と信託財産に属する不動産に関する権利の移
転の登記もしくは変更の登記または当該権利の登記の抹消の申請とは、一の申請
情報によってしなければならない(令 5 条 3 項)。
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② 申請手続 信託財産の処分(売買
等)による権利の移転の
登記と同一の申請情報
による申請
信託の終了による移転の
登記の申請と同一の申請
情報による申請
信託財産が固有財産とな
ったことによる権利の変
更の登記の申請と同一の
申請情報による申請
登記の目的 「所有権移転及び何番信託登記抹消」 「受託者の固有財産とな
った旨の登記及び何番信
託登記抹消」
登記原因 「売買」等 「信託財産引継」 「委付」
原因日付 売買等の契約があった
日
信託が終了した日 委付がされた日
所有権移転登記
権利者:買主
義務者:受託者
所有権移転登記
権利者:引継ぎを受けた者
義務者:受託者
権利の変更の登記
権利者:受託者
義務者:受益者
申請人
信託登記の抹消の登記
申請人(単独申請):受託者
登記原因証
明情報
売買契約等があったこ
とを証する情報等
信託財産の引継があった
ことを証する情報
信託財産が固有財産とな
ったことを証する情報
登記識別情
報または登
記済証
受託者の権利取得の際に通知または交付を受けた登
記識別情報または登記済証
受益者については不要
(104 条の 2 第 2 項後段)
登記義務者
の印鑑証明
書
書面申請の場合に要
添
付
情
報 住所証明情
報
所有権移転の登記権利者となる者につき提供を要す
る
受託者につき不要
(変更登記であるため)
通常の権利の移転と同様 *1 登記の形式としては変更
登記であるが、実質的には
移転登記であり、通常の権
利の移転と同様となる
登録免許税
信託登記の抹消の登記
不動産の個数 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(15))
*1 信託の終了による権利の移転登記の登録免許税 (ア)委託者への移転の場合
・信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である
信託の信託財産を受託者から当該受益者(当該信託の効力が生じた時から引き続
き委託者である者に限る。)に移す場合における財産権の移転の登記は非課税と
なる(登税法 7 条 1 項 2 号)。
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(イ)委託者の相続人への移転の場合 ・委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託の信託財産を受託者から受益者
(委託者)の相続人に移転する場合には、その移転の登記を相続による財産権の
移転の登記とみなして登録免許税が課される(登税法 7 条 2 項)。所有権の移転
であれば課税標準金額(不動産の価額)の 1,000 分の 4(登税法別表第一 1(2)イ)
である。 (ウ)(ア)および(イ)以外の者への移転の場合 ・委託者またはその相続人以外の者に、信託財産引継を登記原因として所有権その
他の権利の移転の登記を申請するときは通常の権利の移転の登記と同様の登録
免許税を要する。 4 信託の併合または分割と権利の変更 (1)信託の併合 ① 意義 ・「信託の併合」とは、受託者を同一とする 2 以上の信託の信託財産の全部を 1 の新
たな信託の信託財産とすることをいう(信託法 2 条 10 項)。 ・信託の併合がなされた場合、併合前の各信託は終了するが、その財産は信託の清算
を経ずに新たな信託の信託財産を構成する。 ・信託の併合前に信託の信託財産責任負担債務であった債務は、信託の併合後の信託
の信託財産責任負担債務となる(信託法 153 条)。 ② 手続 ・原則として従前の信託の委託者、受託者および受益者の三者の合意によってなされ
る。合意に際して信託法 151 各号に掲げる事項を明らかにするよう定められている。 ・受託者は信託の併合をしても信託債権者を害するおそれのないことが明らかである
ときを除き、信託法 152 条 2 項以下の債権者保護手続を行わなければならない。 (2)信託の分割 ① 意義 ・「信託の分割」とは、吸収信託分割または新規信託分割をいう(信託法 2 条 11 号)。 (ア)吸収信託分割 ・「吸収信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする他の信
託の信託財産として移転することをいう。 (イ)新規信託分割 ・「新規信託分割」とは、ある信託の信託財産の一部を受託者を同一とする新たな
信託の信託財産として移転することをいう。
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② 手続 ・信託の併合と基本的に同じである。当事者の合意事項や債権者保護手続が信託法 155
条~162 条に定められている。 (3)信託の併合または分割と登記手続 ・信託の併合または分割が行われ、信託財産に属する不動産に関する権利の帰属に
変更が生じても、信託の併合または分割は受託者が同一である信託についてされ
るものであるため、当該権利の登記名義人には変更がない。 ・そのため、自己信託がなされた場合と同様、信託の併合または分割を原因とする
権利の変更の登記による(104 条の 2 第 1 項前段)。 ① 同時・一括申請 ・信託の併合または分割を原因とする変更の登記を申請する場合、当該権利の変更の
登記と併せて、当該不動産に関する権利が属していた信託についての信託の登記を
抹消し、新たに当該権利が属することとなる信託についての信託の登記をする。 ・これらの信託の登記の抹消の申請および信託の登記の申請は、信託の併合または分
割を原因とする権利の変更の登記の申請と同時にしなければならない(104 条の 2第 1 項前段)。
・この場合の信託の登記の抹消および信託の登記の申請と権利の変更の登記の申請と
は、一の申請情報によってしなければならない(令 5 条 4 項)。 ② 登記の目的 ・「信託の併合(または分割)により別信託の目的となった旨の登記」、 「何番信託登記抹消及び信託」とする(H19・9・28 第 2048 号通達第三・26)。
③ 登記原因 ・「信託併合」または「信託分割」とする。 ④ 原因日付 ・信託の併合または分割がされた日である。 ・一般的には委託者、受託者および受益者の合意のあった日。債権者保護手続を要す
る場合に、手続が終了する日を前もって効力発生日として定めたときはその日。 ⑤ 申請人 ・信託の併合または分割による権利の変更の登記については当該不動産に関する権利
が属していた信託の受託者および受益者を登記義務者とし、当該不動産に関する権
利が属することとなる信託の受託者および受益者が登記権利者となる(104 条の 2第 2 項前段、表三)
・信託の登記および信託の抹消の登記は受託者の単独申請である(98 条 2 項、104 条
2 項)
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⑥ 添付情報 (ア)登記原因証明情報(令別表 65 添付情報欄ロ) (イ)登記義務者の登記識別情報または登記済証 ・ただし受益者については不要(104 条の 2 第 2 項後段)。 (ウ)印鑑証明書 ・受益者についても要すると解される。 (エ)債権者保護手続が適法に行われたこと等を証する情報(令別表 66 の 2 添付情
報欄ハ)
⑦ 登録免許税 (ア)信託の併合(または分割)により別信託の目的となった旨の登記 ・不動産の個数 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(14)) (イ)信託登記の抹消の登記 ・不動産の個数 1 個につき 1,000 円(登税法別表第一 1(15)) (ウ)信託の登記 ・登税法別表第一 1(10)による。所有権の信託の登記であれば不動産価額の 1,000
分の 4(登税法別表第一 1(10)イ)。 (2)固有財産に属する財産を信託財産に帰属させること等による登記 ・信託法では、信託財産に属する財産が固有財産に帰属すること、固有財産に属する
財産が信託財産に帰属すること、または信託財産に属する財産が他の信託の信託財
産に帰属することは原則としてできないが(信託法 31 条 1 項)、信託行為にこれを
許容する旨の定めがあるとき(信託法 31 条 2 項 1 号)等、一定の場合には許容さ
れる。
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・例えば、次のような帰属の変更(表左)があれば、それに応じた権利の変更の登記(表右)が必要となる。また申請人については 104 条の 2 第 2 項の特則による。
帰属の変更の態様 権利の変更の登記 受益者の承認を得ることにより、信託財産に
属する財産を固有財産に帰属させる (信託法 31 条 1 項 1 号、2 項 2 号)
受託者の固有財産となった旨の登記 登記権利者:受託者 登記義務者:受益者
受託者と受益者の協議による共有物の分割
により固有財産に属する共有持分を信託財
産に帰属させる(信託法 19 条)
信託財産となった旨の登記 登記権利者:受益者 登記義務者:受託者
信託の併合または分割により、信託財産に属
する財産を他の信託の信託財産に帰属させ
る
信託の併合(または分割)により別信
託の目的となった旨の登記 登記権利者:当該他の信託の受益者お
よび受託者 登記義務者:元の信託の受益者および
受託者
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