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Ohta Geo-Research Technical Report VOL.15 1 Ohta Geo-Research Technical Report VOL.15 (1999.10.) 落石の解析と対策 落石シミュレーション解析を用いた検討

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  • Ohta Geo-Research Technical Report VOL.15

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    Ohta Geo-Research Technical Report VOL.15 (1999.10.)

    落石の解析と対策

    -落石シミュレーション解析を用いた検討-

  • Ohta Geo-Research Technical Report VOL.15

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    落石の解析と対策

    1.落石の解析式とその適用限界2.落石シミュレーション3.解析と対策計画の事例

    1.落石の解析式とその適用限界

    1-1 落石の解析式

    落石の調査・解析・対策のバイブル的図書として、日本では、「落石対策便覧」1がある。現在ほ

    とんどの落石の解析と対策は、上記図書に準拠して行われており、特に落石のエネルギーと衝撃

    力の計算は、次の式を用いている。

    【落石エネルギーの計算式】

      Et= (1-μ/tan θ)・(1+β)W・H   ただし、(1-μ/tanθ)・(1+β)≦1とする。   ここで、Et:落石エネルギー       μ:等価摩擦係数(表 2.1.2 参照)

    区分 μ 落石産状 落石形状 斜面凹凸 植生状況 実験から得ら

    れるμの範囲

    A 0.05 硬岩 丸状 凹凸小 立木なし 0~0.1

    B 0.15 軟岩 角~丸状 凹凸中~小 立木なし 0.11~0.2

    C 0.25 土砂・崖錐 角~丸状 凹凸中~大 立木なし 0.21~0.3

    D 0.35 巨レキ混じり・崖錐

    角状石 凹凸大~中 立木なし~有り

    0.31~

           β:回転エネルギーに関する係数≒0.1       W:落石重量       θ:斜面勾配       H:斜面比高 ただし、40mを最大とする。

    【衝撃力(鋼材倶楽部の式)】

        Pr= (W/ g)・α   ただし、Pr:衝撃力       W:落石重量       g:重力加速度=9.8m/s2

           α:衝突加速度         衝突加速度は以下の式より求める。          α=(4H0+10)・g       H0:換算自由落下高         換算自由落下高は以下の式より求める。          H0=Et/W

                     Etは落石エネルギー

    1 「落石対策便覧」昭和 58 年 7 月 社団法人日本道路協会 (近々に改訂予定)

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    【衝撃力(振動便覧の式)】

      Pr=2.455 ×W2/3×λ2/5×H0 3/5ただし、ラーメ定数(λ)は 100~50t/m2     H0;落下高さ 不足エネルギーEt/落石重量Wなお、ラーメの定数は、鋼材倶楽部の式での計算結果と大きく矛盾しない数値として選定する(p24 図1-17 1-18 p25 図 1-19 を参考にする)。

     これらの解析式は、理論式や現地実験結果を基に、現場で発生する落石現象を単純化したモデ

    ルとして数量化したものである。従って計算によって算出された落石エネルギーや衝撃力はある

    程度の幅を持っているものと考えることができる。

    1-2 解析式の適用限界

     1-1 のように落石エネルギーや衝撃力の計算結果は、落石規模の一般的な推定には用いることが

    できるが、複雑な斜面形態や落石発生源から保全対象に至る斜面の植生や表土の状況が違う場合

    はその推定が困難になる場合がある。

     たとえば、落石エネルギー計算では、1つの斜面に対して等価摩擦係数・斜面角度は1つしか

    定義することができず、しかも、斜面高さが 40m を越えるものについてはエネルギーが増加しな

    いという仮定にたっている。

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    2.落石シミュレーション

    前項の指摘でもはっきりしているように、「落石便覧」による落石エネルギーや衝撃力の計算は

    あくまで、斜面や落石を単純化して簡易に計算できるように工夫されたものである。この手法そ

    のものはこれで十分価値のあるものと考えられる。しかし、現実の斜面では、斜面勾配が変化し

    たり、植生や表土の被覆状態が斜面上部と下部で大きく異なることの方が多い。

    このような現場の状況を反映する手法としては、やはり、シミュレーションによる解析手法が

    有効であると考えられる。

    落石のシミュレーション手法としては、質点の移動を取り扱った質点力学的手法と、個々の落

    石の大きさと剛性まで考慮した DEM(個別要素法)などの手法がある。

    当社で行っている手法は、質点力学的手法2であり、DEM などの手法と異なり、入力諸条件が少

    ないので比較的簡易に種々の地形・植生(被覆)条件に対応して落石経路やエネルギーの推定が

    行える。

    下図は同じ地形条件で、小段の反発条件だけを変えて質量 50kgの落石を 20 個投下した場合で

    ある。このように斜面の諸条件を変化させることができればより現場の現象を再現しやすいもの

    と考えられる。

         小段の反発係数が大きい場合          小段の反発係数が小さい場合

    2 Warren D,Stevens ,(1988),"ROCFALL: A TOOL FOR PROBABLISTIC ANALYSYS, DESIGN OF REMEDIALMEASURES AND PREDICTION OF ROCKFALLS" , A thesis submitted in conformity with the requirements for thedegree of Master of Applied Science Gratitude Department of Civil Engineering University of Toronto .

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    3.解析と対策計画策定の事例

    次に示す事例は、平成 10 年の秋 台風に伴って落石が発生し民家の屋根を直撃したものである。

    通常、落石の跳躍量は2mとして対策を立てるが、本現場の場合跳躍量は明らかに 2m を超えてい

    る。また、落石発生源は家屋から 100m 以上上方の斜面にあり、落石エネルギーの算定についても

    難しいものがあった。

                   落石箇所鳥瞰図

    落石が屋根を直撃

    屋根を直撃した落石

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    落石発生源にある露岩 すでに割れ目

    は開口している。

    落石の諸元をまとめると以下の通りである。

    落石の大きさ 長径 50cm 短径 40cm 重量約 100 ㎏

    落石の落下高さ 約 130m

    斜面の勾配 41゜

    斜面の等価摩擦係数 μ=0.25

    以上の条件で落石便覧にそって落石のエネルギーと衝撃力を算出すると下記のようになる

    ・落石エネルギー Et=3.41 t・m = 33,418 J(ジュール)

    ・落石の衝撃力(鋼材倶楽部の式) P=14.7 t f = 144,060 N (ニュートン)

    ・跳躍量    一般的な値から 2m

    この方法では、実際の跳躍量が判定しにくく、現場でも跳躍高さを示す証拠を見いだすのは非常

    に難しい。このため落石シミュレーションを行って跳躍量と落石エネルギーの妥当性について解

    析を行うこととした。

       落石発生源から下方斜面を望む

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     落石シミュレーション

    シミュレーションは、次のようなフローで実施した。

    落石経路断面図の作成

    経路上の反発係数の設定

    落石位置の設定・落石重量

    の設定

    落石初期シミュレーション

    現場との整合性があるか

    終了

    NO

    YES

    初回の設定は現地の露岩状況植生状況から判断して、過去のシミュレーションで設定された値を用いる。

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    ①初回のシミュレーション結果

    初回のシミュレーション結果を下記に示す

     シミュレーションでは、発生源から 300 個の落石を発生させた。計算結果では、そのうちの約 8

    割の落石が家屋まで到達し、最大の跳躍高さは 2m、エネルギーは 25,000J 前後を示した。

     

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    ②第2回目の計算

     初回計算の結果では、現場の状況(跳躍量)と整合がとれないので、落石エネルギーを落石便

    覧による値 33,000J 程度まで、上げて再計算した。

    再計算は、斜面の反発係数(落石の跳ね返り安

    さの係数)を調整した。その結果、落石便覧の

    エネルギー計算程度の斜面設定で、跳躍量が 3.3

    m程度になることが判明した。

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     再計算の結果をさらに詳しく分析すると下図のようになる。

    左図は、落石到達点(被災家屋)付近の落石経

    路である。この部分の落石のデータを示すと下

    図のヒストグラムのようになる。

     これによれば、落石便覧で計算されたような

    エネルギーは、300 個の落石うちわずか1回で

    あり、大半のエネルギーはその 7 割以下である

    ことが予想された。

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    ③対策工の位置設定

     ②の検討結果から、最大の落石エネルギーは 33,000J まで予想されるが、大半の落石は 22,000J

    以下であること、最終的な跳躍量は 3.3m 程度であることが考えられた。

     対策では、跳躍量の解析結果を参考に、落石が大きく跳躍する前の時点で防護することとし、

    再度防護工を入れたシミュレーションを行った。

    これによれば、ほとんどの落石は標

    高 10m 以上では大きく跳躍しない

    ことが予想され、最終的な防護工の

    位置を決定する基礎資料として用

    いることとした。

    また、防護工地点の落石エネルギー

    は下記のように 15%程度小さくな

    り、多少有利になることも判明した。

     

    防護工地点での落石の跳躍高さ(標高表示) 防護工位置での落石エネルギー

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     以上の結果から、落石防護工は、最大エネルギー33,000J・最大跳躍量 3mとして設計できるもの

    との結論に達した。なお、今回の落石の検討では、過去の実積や岩盤の割れ目の発達状況から落

    下する落石の最大径は 50cm 程度と予想し、それ以上の落石径が予想される危険な露岩に対しては

    発生源でロープネット工により予防を行うこととした。

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    合理的な落石シミュレーション解析例

     落石の速度分布・運動エネルギー分布・跳躍高・到達点分布が統計的に推定され、かつ対策工

    を予定している位置での、それぞれの要素の集計ができるようになっている必要がある。また、

    斜面の地形・地質・岩質を反映したシミュレーションである必要がある。