螺旋建築の形態表現にみる空間の連続性螺旋建築の形態表現にみる空間の連続性...

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螺旋建築の形態表現にみる空間の連続性 Spatial Continuity of Building Form in Spiral Architecture 奥山研究室 18M50559 宮崎 彩那 (MIYAZAKI , Ayana) 図3:軌道の断面方向の変化 外部アプローチ 図4:螺旋空間の建物全体に占める割合 図1:分析例 全体 全体 一部 到達の割合 螺旋空間が 建物全体に占める割合 部分 螺旋空間 58 52 建物外形 55 36 3 16 凡例 中間部 下部 91 19 3 16 全体一致 多角形 配置関係 平面形状 断面的変化 一定 外観の表出形式 内観の表出形式 表出形式に見る 形態表現の類型 外形表現型 部分的に見える コイル状 周辺環境 縮小 拡大 傾斜 一方向 多方向 変化あり 71 14 3 24 11 85 38 2 10 12 24 8 32 91 No.80 二重螺旋の家 】-2 変化なし 図2:軌道の平面形状 上端部 下端部 螺旋空間 ①螺旋状の動線空間 ②螺旋状の空間構成 を建築の全体形とし て採用している空間 建物外形 端部の連続性の強調表現 G1 端部・外部両方 周辺環境の延長あり 周辺環境への延長の種類 敷地境界 螺旋空間 吹抜空間 1. 序 螺旋は渦巻き状の空間曲線であることから、 それをモチーフとした動線空間は連続性を内在する形 状であり、古来より規模や用途を問わず様々な建築の形 態表現において用いられてきた。例えば、F .L . ライト によるグッゲンハイム美術館では、螺旋状の連続した 展示空間が内部の吹き抜け空間および外観双方におい て明快に形態として表現され、一方、ル・コルビュジ エによる無限成長美術館では、拡張可能な展示空間の 仕組みとして螺旋状の空間形式が採用されている。そ こで本研究では、螺旋状 の動線空間を持つ建築(以下、 螺旋建築) を対象に、それらの形態表現を検討するこ とで、空間の連続性を建築の形態の水準で明らかにす ることを目的とする。 2. 螺旋空間の性格   分析の対象とする螺旋建築から、螺旋状に回転・上下 移動して構成される動線空間あるいは諸室を抽出しこ れを螺旋空間とした(図1)。その上でまず螺旋空間の 性格を、軌道の平面形状、軌道の断面方向の変化、建 物全体に占める割合から整理した。軌道の平面形状は、 滑らかな軌道を描く円形、一定のリズムで進行方向を変 化させる多角形に大別した(図2)。断面軌道の断面形 状は、垂直方向に沿って軌道の形状が変化するものと、 変化がないものに大別でき、前者の中でも一定方向に のみ変化するものとランダムに変化するものがみられ た(図3)。螺旋空間が建物に占める割合は、螺旋空間 が建物全体を占めるものと建物の一部分にとどまるも 2) のに大別した(図4)。また高さ方向については全体に 到達するものと一部しか到達しないものの双方がみら れた。 3章 螺旋空間の表出形式 3-1. 外観・内観における表出形式  本章では螺旋建 築の形態表現を外観と内観における螺旋空間の表出形 式から検討する。まず外観における表出形式は螺旋空 間の形態が明快にあらわれているかにより表出の有無 で整理した(図5)。さらに表出ありのものについては、 螺旋空間が外形として表現されているものを《外形表現 型》、外形には表現されず透過性のある外壁によって建 物内部の螺旋空間の形態が外観にあらわれるものを《外 壁透過型》とした。《外形表現型》は全体の約半数を占 め紐状の螺旋空間が巻きつくように表現されるコイル 状と、建物全体が一枚の帯を巻くように表現されるロー ル状のものがみられた。《外壁透過型》は螺旋空間と外 壁面が一致するものと一致しないものがみられた。また 《非表出型》では、階段やスロープといった螺旋空間を 構成する要素が部分的に表出しているものも少数であ るがみられた。 次に、内観における表出形式については内部空間に おける螺旋空間が視認できるかによって表出の有無を 判断し、さらに表出するものについてさらに螺旋空間 全体を一望できるか否かにより、前者を〔全体が見え る〕、後者を〔部分的に見える〕とした。前者では螺旋 空間の内側の吹抜空間で一望できるものが大半を占め、 1)

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  • 螺旋建築の形態表現にみる空間の連続性Spatial Continuity of Building Form in Spiral Architecture

    奥山研究室 18M50559 宮崎 彩那 (MIYAZAKI , Ayana)

    図3:軌道の断面方向の変化

    外部アプローチ

    図4:螺旋空間の建物全体に占める割合図1:分析例

    全体

    全体一部到達の割合

    螺旋空間が建物全体に占める割合

    部分螺旋空間

    58 52

    建物外形

    55 363 16

    凡例

    中間部下部

    9119

    316

    2章

    3章

    4章

    全体一致 多角形配置関係 平面形状 断面的変化

    一定外観の表出形式 内観の表出形式

    表出形式に見る形態表現の類型

    外形表現型 部分的に見えるコイル状

    周辺環境

    円形

    多角形

    縮小拡大傾斜一方向 多方向変化あり

    71

    14

    3

    24

    11

    85

    38

    2 10 1224 8

    32 91No.80 二重螺旋の家

    【Ⅰ】-2

    変化なし

    図2:軌道の平面形状

    上端部

    下端部

    螺旋空間①螺旋状の動線空間

    ②螺旋状の空間構成を建築の全体形として採用している空間

    建物外形

    端部の連続性の強調表現 G1

    イ 端部・外部両方

    周辺環境の延長あり

    周辺環境への延長の種類

    敷地境界

    螺旋空間

    吹抜空間

    1. 序  螺旋は渦巻き状の空間曲線であることから、それをモチーフとした動線空間は連続性を内在する形状であり、古来より規模や用途を問わず様々な建築の形態表現において用いられてきた。例えば、F .L . ライトによるグッゲンハイム美術館では、螺旋状の連続した展示空間が内部の吹き抜け空間および外観双方において明快に形態として表現され、一方、ル・コルビュジエによる無限成長美術館では、拡張可能な展示空間の仕組みとして螺旋状の空間形式が採用されている。そこで本研究では、螺旋状 の動線空間を持つ建築(以下、螺旋建築) を対象に、それらの形態表現を検討することで、空間の連続性を建築の形態の水準で明らかにすることを目的とする。2. 螺旋空間の性格  

    分析の対象とする螺旋建築から、螺旋状に回転・上下移動して構成される動線空間あるいは諸室を抽出しこれを螺旋空間とした(図1)。その上でまず螺旋空間の性格を、軌道の平面形状、軌道の断面方向の変化、建物全体に占める割合から整理した。軌道の平面形状は、滑らかな軌道を描く円形、一定のリズムで進行方向を変化させる多角形に大別した(図2)。断面軌道の断面形状は、垂直方向に沿って軌道の形状が変化するものと、変化がないものに大別でき、前者の中でも一定方向にのみ変化するものとランダムに変化するものがみられた(図3)。螺旋空間が建物に占める割合は、螺旋空間が建物全体を占めるものと建物の一部分にとどまるも

    2)

    のに大別した(図4)。また高さ方向については全体に到達するものと一部しか到達しないものの双方がみられた。3章 螺旋空間の表出形式3-1. 外観・内観における表出形式  本章では螺旋建築の形態表現を外観と内観における螺旋空間の表出形式から検討する。まず外観における表出形式は螺旋空間の形態が明快にあらわれているかにより表出の有無で整理した(図5)。さらに表出ありのものについては、螺旋空間が外形として表現されているものを《外形表現型》、外形には表現されず透過性のある外壁によって建物内部の螺旋空間の形態が外観にあらわれるものを《外壁透過型》とした。《外形表現型》は全体の約半数を占め紐状の螺旋空間が巻きつくように表現されるコイル状と、建物全体が一枚の帯を巻くように表現されるロール状のものがみられた。《外壁透過型》は螺旋空間と外壁面が一致するものと一致しないものがみられた。また

    《非表出型》では、階段やスロープといった螺旋空間を構成する要素が部分的に表出しているものも少数であるがみられた。 次に、内観における表出形式については内部空間における螺旋空間が視認できるかによって表出の有無を判断し、さらに表出するものについてさらに螺旋空間全体を一望できるか否かにより、前者を〔全体が見える〕、後者を〔部分的に見える〕とした。前者では螺旋空間の内側の吹抜空間で一望できるものが大半を占め、

    1)

  • 図5:螺旋空間の外観への表出形式

    図6:螺旋空間の内観への表出形式

    螺旋空間の外観の表出の有無51表出なし

    外壁の透過によって内部の螺旋空間が外観に露出している

    内観における螺旋空間の表出の有無

    視線透過見えない空間

    螺旋空間床スラブ

    図表記凡例

    建物全体が一枚の帯を巻くように表現され螺旋状の軌道のみ外形として表出している

    ロール状

    外壁透過型

    紐状の螺旋空間が巻きつくように表現され、螺旋空間そのものが外形として表出している

    螺旋空間が外観に表出していない

    非表出型60

    :螺旋空間を構成する要素が部分的に表出あり (7)

    28

    18

    14

    視線遮断

    表出あり

    凡例

    51

    中心に空間

    上端部

    下端部

    大開口 屋上テラス

    エントランス274

    螺旋空間が隣接するどの位置からも一望できる

    視点

    螺旋空間内側に隣接する中心空間から一望できる

    螺旋空間の中心の空間は壁で囲まれていて周囲からのみ一望できる

    螺旋空間に隣接する全ての空間が壁で囲まれているため、表出していない

    内部空間全体の構成が螺旋状に展開しており一望はできない

    床や壁により内部空間において一部視線が分断され、一望はできない

    22

    1352全体が一望できる 部分的に見える65

    外観全体に表出外観に部分的に

    表出総数

    nn’n

    82

    10

    224

    819 5

    9スラブ状

    4 9

    チューブ状

    ボリュームが段々状

    外壁がピラミッド状

    ボリュームが一体的

    113

    14

    9

    周囲に空間31

    動線・視線的連続形態的連続

    15

    9 650

    3 3437

    47 40

    螺旋空間と外壁面が一致

    415

    ( e )

    ( w ) ( t )

     表出あり 表出なし

    コイル状

    ( G1 )

    端部における連続性の強調表現の種類

    96

    螺旋空間が外形として表現されている

    外形表現型 46

    建物外形を超えて延長することで形態的に連続性を強調して表現するもの

    ( T )

    建物外形を超えて延長がみられる

    ( G2 )

    端部の軌道の先に端部と別の空間を設けることにより、動線・視線的に連続性を強調して表現するもの

    35 44

    建物外形を超えて延長はない ※端部の軌道の先にエントランスの

     出入口があるものに限る

    螺旋空間と外壁面が不一致

    螺旋空間と外壁面が一致

    螺旋空間と外壁面が不一致

    外壁不一致

    外壁一致

    図7:螺旋空間端部における外部への連続性の強調表現

    314

    開口が紐状

    建物外形の高さを超えて延長がみられる

    螺旋空間の周囲の空間にあるものは少数みられた。また後者では螺旋空間の内側に吹抜空間があるものの、床や壁により一部視線が分断されているものと、内部空間全体の構成が螺旋状に展開していることで螺旋空間を断片的に視認できるものがみられた。3-2. 螺旋空間端部における外部への連続性の強調表現   図1の分析例をみるとチューブ状の形態の螺旋空間が下端部においてアプローチ空間の方向に延長されていることがわかる。ここでは螺旋空間を延長するこのような表現を外部への連続性の強調表現として螺旋空間上端部・下端部双方において検討した。その結果螺旋空間上端部・下端部ともに建物の外形を超えて延長するといった空間の連続性を形態により表現するものと、端部の先に大開口や屋上テラス、エントランスを設けるといった動線・視線的関係により空間の連続性を表現するものの二つで捉えた(図7)。3-3. 螺旋空間の表出形式の類型

    前々節で検討した螺旋空間の外観と内観における表出形式について、前者を縦軸に後者を横軸にマトリクスを作成し資料の分布から8の類型が見出せた(図8)。ここで、外観・内観双方において螺旋空間が外形として表現される類型【Ⅰ】、透過性のある外壁によって内観に表出した螺旋空間が外観にもあらわれる類型【Ⅱ】、外観において螺旋空間を外形として表現するものの内観には表出しない類型【Ⅲ】、外形には表出しないが内観には表出する類型【Ⅳ】、外観・内観双方において表出しない類型【Ⅴ】の5つを、螺旋建築の表出形式の基本の類型と捉え、内観における表出の違いから小類型を得た。全体の傾向としては、外観において螺旋空間が表出する類型【Ⅰ】‒1、【Ⅰ】‒2、【Ⅱ】、【Ⅲ】は内観において部分的に見えるもの以外に分散し、外観において表出しない類型【Ⅳ】‒1、【Ⅳ】‒2、【Ⅳ】‒3、【Ⅴ】は内観における表出形式の全ての種類に分散した。外観・内観双方で表出がみられる類型【Ⅰ】は全体に対して比較的多くみられ、その中で内観への表出の違いから螺旋空間の中心から一望できる【Ⅰ】‒1 と螺旋空間が部分的に見える【Ⅰ】‒2 を得た。類型【Ⅱ】は螺旋空間の中心から全体が一望できるもののみに数の集中がみられた。類型【Ⅲ】は同じ外観の表出形式をもつ類型【Ⅰ】と比べると少数ではあるが、外観に螺旋空間が部分的に表出するものが比較的多い。類型【Ⅳ】は全体の約半数ほど占め、内観への表出の違いから類型

    【Ⅳ】‒1、【Ⅳ】‒1、【Ⅳ】‒1 を得た。その中でも特に内観において中心の空間から全体が見える【Ⅳ】‒1 が多く、これは螺旋空間が建物全体とは関係なく内部空間のみで独立した空間を象徴的に作り出し表現と捉えられる。また、外観・内観双方において表出していない類型【Ⅴ】は螺旋空間を構成要素する要素が部分的に表出しているものが大半を占めた。

  • No.54 海南市わんぱく公園 No.108  stir

    No.40 地底の森ミュージアム No.89  RIbbon Chapel

    図8:螺旋空間の表出形式からみる形態表現の類型

    螺旋空間の外観への表出形式

    部分的に見える 31

    螺旋空間の内観への表出形式

    20

    外形表現型

    外壁透過型

    非表出型

    表出あり

    表出なし

    全体が一望できる

    46

    14

    51 51

    60

    96 15表出なし

    周囲に空間45中心に空間

    表出あり65

    18

    0

    2

    16

    7

    0

    8

    吹抜空間螺旋空間 視線遮断 視線透過

    0

    【Ⅰ】-1 【Ⅰ】-2

    【 Ⅱ】

    【 Ⅲ】1

    凡例 No.              平面形状   断面形状 

    部分円形多角形 変化なし

    変化あり全体No. 外観に部分的に表出:螺旋空間を構成する 要素が部分的に表出

    図9:周辺環境への延長表現

    螺旋空間下端部と外部アプローチの2つによって敷地境界まで延長されている

    螺旋空間端部のみ

    周辺環境への延長表現

    10

    17

    5

    32

    外部アプローチのみで敷地境界まで延長されている

    螺旋空間下端部のみで敷地境界まで延長されている

    外部アプローチのみ

    端部・外部両方

    8

    9

    外部アプローチ

    図 10:周辺環境の開放性

    閉鎖的 開放的77 34

    端部の延長

    敷地境界線

    10

    5

    G1

    G2

    G2

    G1

    周辺が建物などにより囲まれている

    周辺は自然や公園など空地で空間が開けている

    ❶ ❶

    α

    β

    モデル図凡例 建物全体に占める割合

    23 10 12 7【 Ⅳ】-1 【 Ⅳ】-2 【 Ⅳ】-3 【 Ⅴ】

    11

    021 ○ ● ▲076 ○ ◆ ■078 ○ ● ■090 ○ ● ▲034 ○ ◆ ■054 ○ ● ▲002 ○ ● ■003 ○ ● ■046 ○ ● ■

    073 ○ ◆ ■080 ○ ◆ ■093 ○ ● ■095 ○ ◆ ■099 ○ ● ▲109 ○ ◆ ■110 ○ ◆ ■111 ○ ◆ ■004 ○ ● ■005 ○ ● ■043 ○ ● ■049 ○ ● ■088 ○ ◆ ■104 ○ ◆ ■105 ○ ● ▲001 □ ● ■

    106 ○ ◆ ▲031 □ ● ■

    029 □ ● ▲039 □ ● ■050 □ ● ▲052 □ ● ■057 □ ● ■048 □ ● ■

    030 ○ ● ■041 ○ ● ▲100 ○ ◆ ■

    015 □ ● ■

    009 ○ ◆ ■014 ○ ● ▲071 ○ ● ■072 ○ ◆ ■079 ○ ◆ ■059 □ ● ■075 □ ● ■

    008 ○ ● ■053 ○ ● ■065 ○ ◆ ■087 ○ ● ■016 □ ● ■061 □ ● ■101 □ ● ▲006 □ ◆ ■019 □ ● ■020 □ ● ■026 □ ● ■037 □ ● ■038 □ ● ▲055 □ ● ▲

    012 □ ● ■018 □ ● ■017 □ ● ■028 □ ● ■033 □ ● ■047 □ ● ▲056 □ ● ■068 □ ◆ ▲082 □ ● ■083 □ ◆ ■

    010 ○ ● ■044 ○ ● ■051 ○ ◆ ▲063 ○ ● ■064 ○ ◆ ■066 ○ ◆ ■074 ○ ◆ ■084 ○ ● ▲085 ○ ◆ ▲089 ○ ◆ ■103 ○ ◆ ■011 □ ● ■

    040 ○ ● ▲067 ○ ◆ ▲069 ○ ◆ ▲081 ○ ◆ ■092 ○ ◆ ■096 ○ ◆ ■107 ○ ● ■

    024 ○ ◆ ▲098 ○ ● ■108 ○ ● ▲022 □ ● ▲025 □ ● ■

    032 □ ● ■013 □ ● ■023 □ ● ■

    035 ○ ● ■

    036 □ ● ■045 □ ● ■027 □ ● ■007 □ ● ■042 □ ● ■077 □ ◆ ▲

    058 □ ● ■060 □ ● ■062 □ ◆ ■070 □ ◆ ■086 □ ● ▲091 □ ● ■094 □ ● ▲097 □ ◆ ▲102 □ ● ▲

    3

    ( cl ) ( op )

    4章 螺旋建築の空間の連続性と周辺環境への拡がり 資料とした螺旋建築の中には建物の周辺環境へ連続するように螺旋空間の途中から空中回廊を伸ばしたり、アプローチを建物内の螺旋空間へと接続させるといった、建物内の螺旋空間を周辺環境まで延長するような表現がみられる。本章ではこうした螺旋建築の周辺環境への延長表現を検討し、さらに前章までに捉えた螺旋空間の表出形式の類型との関係を検討する。4-1. 螺旋空間と周辺環境への延長表現

    周辺環境への延長表現については、建物から敷地境界までのアプローチ表現および建物自体の携帯の延長を検討した。後者は前章(図7)で検討した螺旋空間端部の強調表現のうち下端部の形態的連続のみに着目した(図9)。螺旋空間端部と外部アプローチの双方が敷地境界まで延長する[イ端部・外部両方]、外部アプローチが敷地境界から螺旋空間までを接続する[ロ 外部アプローチのみ]、螺旋空間端部が敷地境界まで延長する[ハ 螺旋空間端部のみ]から捉え、[ハ 螺旋空間端部のみ]については、建物外形が敷地境界に接するこ

    とで螺旋空間端部が延長することなく直接的に敷地境界に接続するものもみられた。また、周辺環境について、建物に囲まれるものを閉鎖的、自然や公園など空地であるものを開放的として大別した(図 10)。4-2. 螺旋建築の空間の連続性と周辺環境への拡がり 前章で捉えた螺旋空間の表出形式の類型と前節で捉えた周辺環境への延長表現との対応関係を示したのが図 11 である。また、前章で検討した螺旋空間の上端部における強調表現についても合わせて示した。まず延長表現の有無について類型ごとに比較すると、螺旋空間が外観に表出する類型【Ⅰ】‒1、【Ⅰ】‒2、【Ⅱ】、【Ⅲ】において延長表現があるものが多い一方で、螺旋空間が外観に表出しない類型【Ⅳ】‒1、【Ⅳ】‒2、【Ⅳ】‒3 においては周辺環境への延長表現がないものが多数を占めた。これより螺旋建築の形態表現における周辺環境への連続性は外観の表出の有無と深く関連すると考えられ、外観への表出が外形として形態に表現されているものほど周辺環境への連続性が高い。 次に類型ごとの傾向をみると、類型【Ⅰ】は周辺環境

  • No.4 ソニービル

    No.80 二重螺旋の家

    No.41 潟博物館

    No.94 南相馬市消防防災センター

    No.51 House SA 1999

    螺旋空間の表出形式の類型【Ⅰ】-1

    【Ⅰ】-2

    【 Ⅳ】-1

    【 Ⅳ】-2

    【 Ⅳ】-3

    【 Ⅴ】

    【 Ⅱ】

    周辺環境への延長表現あり 周辺環境への延長表現なし

    図 11:螺旋建築の空間の連続性と周辺環境への拡がり

    凡例 No.

    大開口 テラスT/ 高さを超える

    t/w//G1,/G2※周辺環境と無関係の場合 /G2

    建物外形を超える上端部強調表現 下端部強調表現 開放性

    エントランス/e表現なし・/ 表現なし/・

    上端部に強調表現なし

    文:文化系 博物館ホール など商業施設遊戯施設 など

    学:学校系オ:オフィス系個:個人住宅集:集合住宅

    商:商業系

    建物の主用途閉:閉鎖的op:開放的

    【 Ⅲ】

    16

    20

    8

    14

    23

    10

    12

    7

    18 57上端部に強調表現あり

    7

    3

    5

    1

    4

    4

    6

    4

    2

    1

    2

    1

    3

    1

    4

    9

    3

    8

    16

    8

    5

    2

    6

    5

    35 75 No.77 CS PLAZA

    No.78 Ring Around a Tree

    延長表現イ:端部・外部両方ロ:外部アプローチのみハ:螺旋空間端部のみ

    /G1 ハ op 文 /G2 ハ cl 文/G1 ハ cl 集/G1 ハ op 商/G2 ロ op 学

    ロール状034 t036 -042 t054 -077 -

    コイル状021 -/G2 ロ op 文090 -/G2 ロ op 文

    コイル状032 - /- - cl 集076 - /G2 -op学α031- /- - cl 文ロール状

    013 t /- - cl 文023 T /- - cl 文

    ロール状005 t /G2 ハ op 集104 t /G1 ハ cl 個

    ロール状043 t /- - cl個105 T /G2- op個

    ロール状004 - /e - cl 商049 - /G2 - op文088 - /- - cl 集

    024w/- -cl文 025 - / - - cl 文029 - / - - cl 文039 - / - - cl 文048 - / - - cl 文

    コイル状035 t /G2 ロ op 商

    ロール状014 t /G2 - cl 文072 t /G2 - op 個

    ロール状009 - /-- cl 個059 - / - - cl 文

    006 - /G1 イ op 文062 - /G2 イ cl 文101 T /e イ op 文008 - /G2 ロ op 文037 - /G2 ロ cl 集

    026 t /- - cl 文102 t /- - op オ

    016 - /- - cl 商019 - /- - cl 文020 - /- - cl 文038 - /e - cl 文053 - /G2-cl 文055 - /G2-cl 学

    068 t /G2ロcl文 047w/- - cl商 012 - /- - cl 文017 - /- - cl 学018 - /- - cl 文028 - /- - cl 商

    044 - /G2 ロ cl 個051 - /G2 ハ cl 個064 - /G2 ハ cl 商089 t /G2ハ cl 個

    011 t /- - cl 文063 t /- - cl 個085 t /- - cl 個

    010 - / - - op文066 - / - - cl 商074 - / - - cl 集

    084 - /G2 - cl 個103 - /G2 - cl 個

    040 - /G2 イ op 文069 t /G2 ハ cl 商

    096 t /G1 ハ cl 集107 - /G2 ハ cl 個

    092 t /G2 - cl 集 067 - /- - cl 集081 - /- - cl 集

    022 - /G2 ハ cl 集052 - /G2 ハ cl 集108 - /G1 ハ cl 個β030w/G2ハ op 商β041 t /G2ロ op 文

    コイル状078 t /- -op商α 106 t /- -cl 個

    コイル状073 - /- - cl 個093 - /- - cl 個095 - /G2 - cl 個

    050 - / - - op文057 - / - - cl 文098 - /G2- cl 商β100-/- -cl オ

    058 - /- - cl 文060 - /- - cl 文061 - /- - cl 個065 - /- - op 商070 - /e - op 文086 - /- - op オ

    087 - /- - cl 個091 - /- - cl 文094 - /e - op 文097 - /- - cl オ

    033 - /- - cl 文056 - /- - cl 学082 - /- - op 文083 - /- - op オ

    ロール状002 - /- - op 学003 - /- - op 学007 - /e - cl 文027 - /- - cl 個045 - /- - cl 集046 - /- - op 学

    コイル状001 w/ - - cl 文110 t /- - op文

    コイル状080 - /G2 イ cl 個099 t /G1 ハ op文111 t /G2 ハ cl 商109 t /G2 ロ op個

    ロール状071 -/G2 ロ cl 個075 t /G1 ハ cl 個

    079 - /G2 - op 文

    a

    b

    c d

    e

    f

    g

    a

    b

    c

    d

    e

    f

    g

    註1)螺旋の定義:螺旋の線は数式で表現され、「軸方向に回転速度と一定の比をなす速度で移動してできる曲線(「図学概論」(須藤利一著,東京大学出版会)より引用)」と定義されていることから、①一筆書きである、②一定の回転運動をする、③立体的に移動する、以上3つの条件を伴う動線空間を持つ建築を研究の対象とする。2)本研究では、国内における建築雑誌の中で代表的なものである「新建築」、「新建築 住宅特集」に掲載された現代日本建築 (1945 ~ 2019 年 ) のうち、図面や建築写真より螺旋状の動線空間を建物全体に渡って形態として明確に表現していると判断できる 111事例を対象とする。3)螺旋建築 111 事例のうち、13 事例ほど螺旋空間が2つ存在する事例が確認できたため、螺旋空間は 124 空間とする。

    への延長表現において、分布に大きく偏りはないものの、周辺環境への延長表現がないものもみられた。これらは敷地の環境に呼応して馴染むように形態を表現するものもあれば、周辺環境に関係なく、その建築自体が自立して外観に螺旋空間を表現するものもある。類型【Ⅱ】は資料全体で比較しても上端部の強調表現が少ない。類型【Ⅳ】‒1、【Ⅳ】‒2、【Ⅳ】‒3 に着目すると、周辺環境への開放性がなく閉鎖的であるものが多いため、螺旋空間の作り出す独立した内部組織を建物内部に完全に包含するものがある一定数みられることがわかった。また延長表現のみられる資料は周辺環境が開放的となるものが比較的多いが、【Ⅳ】‒3 では周辺環境が全て閉鎖的で建物の主用途は個人住宅が多い。これよりこの類型は、小規模の建物において螺旋空間を建物の内部から周辺の都市環境まで連続させる表現といえる。類型【Ⅴ】は他の類型に比べて、周辺環境への延長表現があるものの割合が最も高いことがわかる。これよりこの類型は外観・内観双方においても表出しないが、螺旋空間を構成する要素のみ部分的に外観へ表出して

    いるものが多いため、建物の表層そのものの存在感を形態によって表現していると考えられる。5章 結  以上、螺旋建築の形態表現における空間の連続性を外観・内観に表出形式と周辺環境への延長表現との関係から検討した。その結果、螺旋空間が外観・内観双方において表出するものは周辺環境への延長表現があるものが多く、内部空間から都市空間まで連続する形態として表現され、螺旋空間が内観において表出し外観に表出しないものは周辺環境への延長表現がなく、内部空間のみで独立した閉鎖的な空間を連続する形態を持つ螺旋空間によって作り出している。これより螺旋建築の形態表現における空間の連続性は周辺環境まで延長させるものと、螺旋建築内で完結するものに二極化すると考えられる。