高等学校国語科における「想像力」を伸ばす学習指 …- 1 -...

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- 1 - 高等学校国語科における「想像力」を伸ばす学習指導の研究 ―評論教材「ミロのヴィーナス」(清岡卓行)を中心に― 広島大学大学院教育学研究科 博士課程前期 言語文化教育学専攻 国語文化教育学専修 M122637 三樹亮太 ■資料構成■ 1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.1 2.アクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.1 2-1.研究動機とリサーチ・クエスチョン 2-2.アクションリサーチ実習Ⅰにおける成果と課題 3.アクションリサーチ実習Ⅱの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.3 3-1.授業の基礎的な情報 3-2.学習者について 3-3.教材について 4.評論教材を扱う授業において、「想像力」を伸ばすための仮説の設定・・・・・・・・・・・・・・p.6 4-1.評論教材において「想像力」を伸ばすために 4-2.仮説の設定 4-3.具体的な学習活動と仮説の検証方法 5.授業構想・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.8 6.仮説の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.9 6-1.仮説 1 の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.9 6-2.仮説 2 の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.13 7.アクションリサーチ実習Ⅱの成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.18 8.参考引用文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.21

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高等学校国語科における「想像力」を伸ばす学習指導の研究

―評論教材「ミロのヴィーナス」(清岡卓行)を中心に―

広島大学大学院教育学研究科 博士課程前期

言語文化教育学専攻 国語文化教育学専修

M122637 三樹亮太

■資料構成■

1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.1

2.アクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.1

2-1.研究動機とリサーチ・クエスチョン

2-2.アクションリサーチ実習Ⅰにおける成果と課題

3.アクションリサーチ実習Ⅱの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.3

3-1.授業の基礎的な情報

3-2.学習者について

3-3.教材について

4.評論教材を扱う授業において、「想像力」を伸ばすための仮説の設定・・・・・・・・・・・・・・p.6

4-1.評論教材において「想像力」を伸ばすために

4-2.仮説の設定

4-3.具体的な学習活動と仮説の検証方法

5.授業構想・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.8

6.仮説の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.9

6-1.仮説 1 の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.9

6-2.仮説 2 の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.13

7.アクションリサーチ実習Ⅱの成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.18

8.参考引用文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.21

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1.1.1.1.はじめにはじめにはじめにはじめに

本稿は、教職高度化プログラムの授業の一環である「アクションリサーチ実習Ⅱ」を行い、そこで高

等学校での「想像力」を伸ばす授業の在り方について考えたものをまとめたものである。アクションリ

サーチ実習Ⅱは 2012 年 10 月 9 日(火)~23 日(火)に、広島大学附属高等学校Ⅱ年生を対象に行われ

た。本資料では、「高等学校国語科における「想像力」を伸ばす学習指導の研究」をテーマに掲げ行った

授業実践での授業の実際及び、仮説とその検証を述べて、今回の「アクションリサーチ実習Ⅱ」におけ

る成果と課題を明らかにすることを目的とする。

2.2.2.2.アクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたってアクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたってアクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたってアクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたって

2222----1.1.1.1.研究動機と研究動機と研究動機と研究動機とリサーチ・クエスチョンリサーチ・クエスチョンリサーチ・クエスチョンリサーチ・クエスチョン

これからの社会を生きぬいていく子どもを育てたい。これは教育に携わるものならば誰でも抱く願い

だろう。だがそのために、国語という教科はどのような力を求められるのだろうか。

まずは、高等学校新学習指導要領における国語科の目標に注目してみよう。

国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力や想像力を

伸ばし、心情を豊かにし、言語感覚を磨き、言語文化に対する関心を深め、国語を尊重してその向上

を図る態度を育成する。

ここで一つの示唆を得るのが、「想像力」に関する新学習指導要領解説の記述である。新学習指導要領

解説によれば、これまで高等学校国語科では「心情を豊かに」の部分に「想像力」が含まれるとされて

いた。今回の改訂で「想像力」を明示したのは、小学校と中学校における指導を踏まえ、一貫性をもた

せるためである。では、小学校・中学校における指導をふまえ、高等学校段階における「想像力」を伸

ばすとはどういうことか。新学習指導要領解説(p.10)には次のように述べられている。(下線は稿者)

○想像力を伸ばすとは、実際には見たり経験したりしていない事柄などを頭の中に思い描く段階から

更に進んで、様々な資料を基に、これから起こるであろうことやどのように行動すればよいのかと

いうことを思い描くなど、将来の状況やあるべき姿を予測したり、見通しをもって行動したりする

ことの能力までを含めて身につけることである。

○高等学校段階における想像力には、物事の微妙なところまで感じ取る心情的な側面のみならず、根

拠に基づき先を見通すなど、論理的な側面もあること、そしてそのような想像力を一層発展させる

必要がある。

現代の社会は、進む国際化により多様な人間関係を形成しなくてはならないし、めまぐるしく変わる

政治や経済など変化の激しい社会である。そのような「変化」をする社会にあっては、相手の心情を微

妙なところまで読みとる必要性があるし、日々変化していく社会情勢や突然の事態に備え、予測・対処

していく必要がある。「想像力を伸ばす」ことができれば、この「変化」する社会を生き抜いていく子ど

もを育てていくことにつながるのではないか。「想像力を伸ばす」学習指導について考えていきたい。

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以上のような背景を踏まえ、リサーチ・クエスチョンを以下のように設定した。

高等学校新学習指導要領に明示された「想像力」には、物事の微妙なところまで感じ取る心情的な側面

のみならず根拠に基づき先を見通すなど、論理的な側面もある。この「想像力」を伸ばしていくには、

どのような学習指導が必要か。文学教材と評論教材の両面から研究したい。

2222----2.2.2.2.アクションリサーチ実習Ⅰにおける成果と課題アクションリサーチ実習Ⅰにおける成果と課題アクションリサーチ実習Ⅰにおける成果と課題アクションリサーチ実習Ⅰにおける成果と課題

リサーチ・クエスチョンをもとにして、稿者は前期に「アクションリサーチ実習Ⅰ」を文学教材『そ

の夜のコニャック』(遠藤周作)で行った。その時の成果・課題を示す。

○多様な観点を設定した授業構想について(文学教材)

本文に対して、視点人物・象徴的な表現・情景描写や状況・変換点・対象人物・書き手の意図という

六つの多様なアプローチを行うことで、 主人公の心情について理解をすることができた。一方で、六つ

の観点の第 1 時から第 4 時への増加・減少、出現・消失には、観点ごとで大きな差があった。「想像力」

に関わる観点を吟味していく必要がある。

○学習者中心-問答型中心の学習方法について

学習者の記述をまとめ、返却することで学習者同士の意見の共有を図り、多くの学習者が他者の意見

を自分の要約に反映させて、自分にない新たなものの見方を手に入れる場を設定できた。一方、問答型

中心の授業で扱った観点「象徴的な表現」は、新たな観点として第 4 時に学習者からほとんど出なかっ

た観点である。「どのような学習方法が「想像力」を伸ばすのか。」を稿者自身の授業構想について振り

返りながら、考えていく必要がある。

○「想像力」の概念の具体化

「何に」対しての「想像力」なのかを考えていく中で、仮説・仮説の検証方法・授業を構想する必要

がある。仮説 1 は「内容理解」、仮説 2 は「作者理解」としての仮説設定であり、想像する対象が異なっ

ていたために学習者の成果には大きな差が出た。さらに、学習者の記述には「もし、自分だったら」と

想像したものもあった。稿者の求める想像力がどのようなものなのか、もっと具体化していく必要があ

る。

アクションリサーチ実習Ⅰは、文学教材における「想像力」を伸ばす学習指導の困難さを感じながら

も、「想像力」を伸ばす学習指導に関して、成果と課題を得ることができ、次へつながる実習であった。

3.3.3.3.アクションリサーチ実習Ⅱの概要アクションリサーチ実習Ⅱの概要アクションリサーチ実習Ⅱの概要アクションリサーチ実習Ⅱの概要

アクションリサーチ実習Ⅱでは、アクションリサーチ実習Ⅰと異なり、評論教材「ミロのヴィーナス」

を扱った。アクションリサーチ実習Ⅰで行った文学教材とは異なる取り組みをする必要がある。文学教

材では登場人物の心情や場面などが、「想像力」を働かせる対象となり得た。だが評論教材には、当然な

がらそれらがない。

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再度、学習指導要領解説に示された「想像力を伸ばす」ことについて戻ってみると、「様々な資料を基

に、これから起こるであろうことやどのように行動すればよいのかということを思い描くなど、将来の

状況やあるべき姿を予測したり、見通しをもって行動したりすることの能力までを含めて身につけるこ

とである。」とある。ここにある「様々な資料」として評論教材を位置づけ、予測する場面を設定した学

習を行えるのではないか。

評論教材を具体的な「資料」として位置づけるには、筆者の主張や、問題としている社会状況など、

教材に対する焦点の当て方次第でいくらでも可能性がある。だが、今回の評論教材である「ミロのヴィ

ーナス」は、テーマが「芸術論」であり、学習者の日常に直接的に還元しづらいものである。そこで教

科書編集者の立場という仮の立場を設定し、教材の「タイトル」を決定するという学習を行った。こう

すれば、教材を具体的に資料としつつ、予測を行う学習指導が可能である。

3333----1.1.1.1.授業の基礎的な情報授業の基礎的な情報授業の基礎的な情報授業の基礎的な情報

・対象・対象・対象・対象 広島大学附属高等学校Ⅱ年 39 名(男子 22 名、女子 17 名)

・メンター・メンター・メンター・メンター 新治功教諭(広島大学附属高等学校)

・指導教員・指導教員・指導教員・指導教員 田中宏幸教授(広島大学大学院教育学研究科)

・スーパーバイザー・スーパーバイザー・スーパーバイザー・スーパーバイザー 田中宏幸教授(同上)

・実習期間・実習期間・実習期間・実習期間 2012 年 10 月 9 日(火)~2012 年 10 月 23 日(火) (全 4 時間)

【第 1 時】10 月 12 日(金)5 時限目

【第 2 時】10 月 15 日(月)2 時限目

【第 3 時】10 月 19 日(金)5 時限目

【第 4 時】10 月 22 日(月)2 時限目

・・・・教材名教材名教材名教材名 評論(二)「ミロのヴィーナス」(清岡卓行)『高等学校 現代文Ⅰ「改訂版」』大修館書店

3333----2.2.2.2.学習者学習者学習者学習者についてについてについてについて

アクションリサーチ実習Ⅱにおいて担当するⅡ年生は、前期のアクションリサーチ実習Ⅰでも担当し

たクラスである。アクションリサーチ実習Ⅰを踏まえて、学習者について述べる。

本クラスの学習者は、教師が主導する授業ではなく、自らが疑問に思ったことを考える授業に主体的

に取り組む傾向がある。この傾向は表現活動における作成物などについても同じであり、自らが考えた

いと思う学習活動であれば、精一杯書く活動に取り組み、作成物の返却後は、他の学習者の作成物を参

考にして自らの学習に生かすなどの姿勢ができている。

話し合い活動に関しても、相手意識や目的意識を明確にするなど、話し合う場を整えることで充分な

話し合いをすることが可能である。

また、本クラスの学習者は、文章の読解や表現活動において、高い能力を有している。今回の文章で

言えば本文の内容について初読の段階で大意を把握することは充分に可能である。しかし、主に本教材

の表現様式に注目すると、本教材を的確に理解していくためには、以下の二つの工夫が必要である。

第一に、本文の語彙に注目する場を設定する必要がある。本文には抽象的な表現が数多く使われてお

り、これらを理解しないことが学習者にとって本文の的確な理解の妨げになることが予想される。

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第二に、本文をより具体的に、より身近なものとして理解していくためには、筆者のものの見方を具

体的に自分たちへと還元していく学習活動が必要になると考えられる。

3333----3.3.3.3.教材教材教材教材についてについてについてについて

○教材の概要○教材の概要○教材の概要○教材の概要

本教材は、清岡卓行『手の変幻』(講談社、1990)の中の一編である。『手の変幻』は、美術作品や詩、

映画など芸術を対象とした評論集である。「ミロのヴィーナス」は、そのなかの一つの章の題であり、副

題として「失われた両腕」がつけられている。大修館書店の教科書では、「ミロのヴィーナス」というタ

イトルが採用されているが、そのほかの教科書では「手の変幻」(第一学習社ほか)「失われた両腕」(筑

摩書房ほか)などが教材の題名として見られる。

本教材は大きく三つの意味段落に分けられている。第一の意味段落では、筆者の感じるミロのヴィー

ナスの美しさが「手を失ったこと」にあると述べられる。第二の意味段落では、ミロのヴィーナスを「復

元案」と比較しながらミロのヴィーナスの美しさをさらに強調していく。第三の意味段落では、失った

ものが「手」であることの重要性について、「手」の「人間存在における象徴性」を中心に述べている。

○筆者のもの○筆者のもの○筆者のもの○筆者のもののののの見方見方見方見方

本教材のタイトルになっているミロのヴィーナスは、広く一般に知られた美術作品の一つである。そ

の彫像の何よりの特徴は「両腕を失っていること」だろう。

一般に私たちは「完全なもの」を美しいと思う。「不完全なもの」は「完全なもの」として復元され、

保存され続けていくのが常である。「完全なものとして残っていくこと」はそのまま「美しくあり続ける

こと」なのである。しかし、ミロのヴィーナスは、両腕を失うという不完全な状態ながら、ルーブル美

術館で世界中の様々な人々に時代を超えて愛される彫像である。それは何故だろうか。私たちにはその

答えを容易に導くことはできない。

筆者は、「両腕を失ったからこそ」ミロのヴィーナスが美しいと実感している。だが一般的に言う「欠

損の美」と筆者の実感とは趣を異にする。というのは、ここには「失うこと」と「手」の二つの意味で

筆者独自のものの見方が現れているからである。

第一に、筆者にとって「失うこと」は「不完全」というネガティブなものではなく、肯定的なものと

してとらえうるということである。筆者は、ミロのヴィーナスが両腕を「失うこと」によって無数の美

しい腕をそこに想像できるとし、その「全体性」に美しさを見出している。ミロのヴィーナスは、「失う

こと」で「全体性の美しさ」を体現する一つの完成型なのである。

第二に、筆者が注目をするのはミロのヴィーナスが失ったものが「手」であるということである。筆

者は、「失われているものが、両腕以外のなにものかであってはならない」と述べ、「手の人間存在にお

ける象徴的な意味」について考察している。そこでは「手」が私たち人間にとって全ての関係を生み出

す根源・起源であるととらえている。

筆者は、以上の二つの視点によって、本文のキーワードである「ふしぎなアイロニー」「稿者注―ミロ

のヴィーナスは「関係性」を象徴する「手」を失うことで、あらゆる「手」=あらゆる「関係性」を生み

出すこと。」を述べている。「失っていること」に注目した逆説的な見方や、「手」の象徴的意味に迫る見

方は、筆者独自のものの見方であり、どちらも学習者にとっては新鮮なものとして感じられるだろう。

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○表現様式の特徴○表現様式の特徴○表現様式の特徴○表現様式の特徴

本文の表現様式には二つの特徴がある。以下列挙する。

1 点目として「言い換え表現」と「抽象的な語句」の多用がある。まず、「言い換え表現」についてで

ある。評論を読んでいく際は、抽象的な表現が具体的にどのようなことをさしているのか。あるいは具

体的な事例が抽象的にどのように言い換えられているか双方向から思考する必要がある。本文では「特

殊から普遍への巧まざる跳躍」「部分的な具象の放棄によるある偶然の肉迫」など、特に抽象的な表現が

多く見られる。次に、「抽象的な語句」についてである。本文では、「普遍」「特殊」「逆説」などの評論

で多用される「抽象的な語句」が多い。これらの語句を押さえていくことは、語彙を豊かにするだけで

なく、今後の評論の読解へもつながっていく。加えて、本文では、これらの抽象的な語句が、筆者のも

のの見方を示す部分に多く見られる。

2 点目として「対比構造」がある。評論においては筆者が自らの主張を述べるに際して、それと反する

主張を対比させることによって、自らの論の特性を明らかにし、強化する「対比構造」がある。その「対

比構造」を正確に読み取ることが内容の理解において重要である。本文では第 2 の意味段落に、ミロの

ヴィーナスと「復元案」の対比が明確に表れている。

以上、二つの表現様式がある箇所は、一読ではなかなか理解しにくい。この箇所に注目していくこと

で読解スキルの向上へとつながっていく。学習者に考えさせたい箇所である。

4.4.4.4.評論教材を扱う授業において評論教材を扱う授業において評論教材を扱う授業において評論教材を扱う授業において、、、、「想像力」を伸ばすための仮説の設定「想像力」を伸ばすための仮説の設定「想像力」を伸ばすための仮説の設定「想像力」を伸ばすための仮説の設定

4444----1.1.1.1.評論教材において「想像力」を伸ばすために評論教材において「想像力」を伸ばすために評論教材において「想像力」を伸ばすために評論教材において「想像力」を伸ばすために

アクションリサーチ実習Ⅱで扱う教材は、評論教材である。アクションリサーチ実習Ⅰでの文学教材

とは異なる。そのため、仮説の設定に際しては、評論教材を読むことに「想像力」がどのように関わる

のかを考える必要がある。まず、評論教材を読むことと「想像力」の関わりを考えたとき、以下に示す

三つの段階を想定する。「思考力を用いて本文を的確に読む段階」「想像力を働かせて豊かに読む段階」「想

像力を伸ばす段階」である。

研究テーマでもある「想像力」は、「思考力」と重なり合う部分がある。「評論を読むこと」では、筋

道だって考える「思考力」1(稿者注―言語を手掛かりとしながら物事を筋道立てて考える能力)が中心

となる。そこで本実践では、第一の段階として「思考力を用いて本文を的確に読む段階」を設定する。

この「思考力を用いて本文を的確に読む段階」を基本として、「想像力」が本文を的確に読む段階にど

のように寄与するのかという視点で、第二の段階に「想像力を働かせて豊かに読む段階」を設定する。

そして、第三の段階として、的確に読み取った本文や、話し合い活動を通して明確になった情報など

を根拠に、相手を想定して意見を考える段階を評論における「想像力を伸ばす段階」として設定する。

以上の段階に従って、指導仮説を設定したい。段階の違いを明らかにする意味でも、「想像力を働かせ

て豊かに読む段階」と「想像力を伸ばす段階」の二つについて、学習指導として成立させるためにはど

うすれば良いのかという視点から仮説を設定する。

1 「思考力」…高等学校学習指導要領解説 国語編 p10

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4444----2222 仮説の設定仮説の設定仮説の設定仮説の設定

○仮説 1…本文の叙述と筆者の考え方に沿って、自分の経験から具体例を想像することで、主体的に本文

を自分に引きつけ、より豊かに読むことができる。

「想像力を働かせて豊かに読む段階」の学習指導を成立させるための仮説である。「具体例」を考える

ということは、ある対象に対して自分の経験を引き出してくることで、対象と自分に関係を持たせるこ

とである。本文に対する具体例を、自らの経験から想起しテキストと結びつけることは、テキストを具

体的に理解することを可能にするだろう。また、自分以外の具体例を新たに知ることによって、テキス

トの意味は一層、豊かになるであろう。

○仮説 2…教材の的確な理解を根拠として、タイトルを設定し直すことで論理的な想像力を伸ばすことが

できる。

「想像力を伸ばす段階」の学習指導を成立させるための仮説である。「想像力」を伸ばす学習指導を成立

させるには、学習指導要領解説にも示されていたように、①「根拠」があるということ、②予測する、

という二つの要素が必要となる。①については教材の的確な理解を「根拠」として据え、②については

「3-3.教材について」で述べたように、本文のタイトルには三種類あることを活かして、「ミロのヴィー

ナス」「失われた両腕」「手の変幻」の三つから、教科書編集者の立場で選択する学習指導を設定した。

4444----3333 具体的な学習活動と具体的な学習活動と具体的な学習活動と具体的な学習活動と仮説の検証仮説の検証仮説の検証仮説の検証方法方法方法方法

まず、評論教材を読むことと「想像力」の関わりを見たとき、考えられる三つの側面(「思考力を用い

て本文を的確に読む段階」「想像力を働かせて豊かに読む段階」「想像力を伸ばす段階」)について、仮説

も踏まえ、どのような学習活動として成立するかを見る。

【思考力を用いて本文を的確に読む段階】の学習活動

①抽象的な表現を具体化することで、本文の内容を理解する。

②言い換え表現に注目することで、本文の内容を理解する。

【想像力を働かせて豊かに読む段階】の学習活動

①筆者のものの考え方を表している「手の人間存在における象徴的な意味」の具体例を想像する。

【想像力を伸ばす段階】の学習活動

①「ミロのヴィーナス」「手の変幻」「失われた両腕」というタイトルの違いを、班や全体での話し合い

活動を通して、比較し、意味内容(=タイトルが意味するところ)の違いを明確にする。

②的確な本文の理解、および三つのタイトルの違いに関する考察を踏まえ、教科書編集者の立場から適

切なタイトルを想像し、設定し直す。

先にも示した通り、仮説 1 は「想像力を働かせて豊かに読む段階」、仮説 2 は「想像力を伸ばす段階」、

それぞれの学習活動に対応する。

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これらの学習活動が「想像力を働かせて豊かに読む」または「想像力を伸ばす」学習指導として成立

しているかを検証していく。

検証方法は、仮説 1 では、授業の実際や学習者の感想から、この学習指導に対する評価を行う。また、

仮説 2 については、評価基準を設定し、学習者の記述に見られる変化を考察する。

具体的な検証方法及び検証については、「6.仮説の検証」で取り上げる。

5.5.5.5.授業の概要授業の概要授業の概要授業の概要

学習者、教材、仮説を踏まえて構想した授業について以下にミロのヴィーナス単元計画を載せる。□

で囲い、太字で示したものは、仮説とのつながりが強い学習活動である。

5555----1.1.1.1.「ミロのヴィーナス」「ミロのヴィーナス」「ミロのヴィーナス」「ミロのヴィーナス」単元計画単元計画単元計画単元計画

【目標】・抽象的な表現の意味内容を的確にとらえ、それらを踏まえて本文の内容や筆者の考えを理解す

ることができる。【現代文 B(ア)】

・筆者の述べていることを的確に理解したうえで、タイトルを批評し、他者との意見の交流を踏

まえることで、自分の考え方を深めることができる。【現代文 B(ウ)】

時時時時 学習活動学習活動学習活動学習活動

1111 ○第1の意味段落の内容と、筆者の考えを理解する。

○○○○三つ三つ三つ三つのタイトルからのタイトルからのタイトルからのタイトルから、、、、本文に最もふさわしいタイトルを選択し本文に最もふさわしいタイトルを選択し本文に最もふさわしいタイトルを選択し本文に最もふさわしいタイトルを選択し、、、、理由を述べる。理由を述べる。理由を述べる。理由を述べる。((((仮説仮説仮説仮説 2222))))

2222

○第2の意味段落の構成と、筆者の考えを理解する。

○第3の意味段落の構成と、筆者の考えを理解する。(前半)

①「手の人間存在における象徴的な意味」について言い換えを中心に理解する。

②②②②十分な理解のために十分な理解のために十分な理解のために十分な理解のために「手の人間存在における象徴的な意味」の具体例を考え「手の人間存在における象徴的な意味」の具体例を考え「手の人間存在における象徴的な意味」の具体例を考え「手の人間存在における象徴的な意味」の具体例を考え、自分の体験と、自分の体験と、自分の体験と、自分の体験と

結びつけ結びつけ結びつけ結びつける。る。る。る。((((仮説仮説仮説仮説 1111))))

3333

○第3の意味段落の構成と、筆者の考えを理解する。(後半)

①①①①「手の人間存在における象徴的な意味」を「手の人間存在における象徴的な意味」を「手の人間存在における象徴的な意味」を「手の人間存在における象徴的な意味」を前時に考えた前時に考えた前時に考えた前時に考えた具体例をもとに具体例をもとに具体例をもとに具体例をもとに理解理解理解理解する。する。する。する。((((仮説仮説仮説仮説 1111))))

②「ふしぎなアイロニー」について具体化によって理解する。

○筆者の考える「ミロのヴィーナス」の美しさやその理由とともに、筆者の考え方に対する自分

の考えを書く。

4444

○グループ○グループ○グループ○グループ((((4人4人4人4人))))でタイトルの違いを分析する。でタイトルの違いを分析する。でタイトルの違いを分析する。でタイトルの違いを分析する。((((仮説仮説仮説仮説 2222))))

①三つのタイトルの違いを各自で分析する。

②分析したタイトルの特徴について、話し合いを行って共有する。

③各班でタイトルの特徴を各グループで発表し、全体で共有する。

○○○○各各各各自で自で自で自で「教科書編集者」の立場から「教科書編集者」の立場から「教科書編集者」の立場から「教科書編集者」の立場から、、、、再びタイトルを決定再びタイトルを決定再びタイトルを決定再びタイトルを決定するするするする。三つ。三つ。三つ。三つのタイトルの違いについのタイトルの違いについのタイトルの違いについのタイトルの違いについ

ての分析をもとにての分析をもとにての分析をもとにての分析をもとに、、、、その理由をその理由をその理由をその理由をまとめる。まとめる。まとめる。まとめる。((((仮説仮説仮説仮説 2222))))

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5555----2222....授業のねらい授業のねらい授業のねらい授業のねらい

以上の単元計画について、学習活動と仮説の位置づけについて触れたい。

今回は、第 4 時に話し合いを踏まえた学習活動を設定している。これが本実践の主眼となる。そのた

め、本文の読解を第 3 時までに円滑に行う必要がある。第 1 時~第 3 時では、本文の的確な理解のため

に言い換えを中心に読解を行う。加えて、「ワークシート」、「疑問・感想の記入」を軸として、考えるべ

きことを明確にし、分からなかったことを的確に解決する授業展開を行う。

しかし、第3の意味段落の「手の人間存在における象徴的な意味」という表現は、言い換え表現を中

心にした読解作業だけでは、学習者の理解に実感が伴わない。そこで第 2 時に本文と自分の体験を結び

付ける具体例を考える学習活動を加える。さらに第 3 時では学習者の考えた具体例を踏まえ、全体で交

流を行い、より実感を伴った理解ができるように授業を行う。これが仮説 1 である。

第 4 時では、教科書編集者の立場から、タイトルを決定する学習を行った。タイトルの決定にあたっ

ては、本文の内容理解だけではなく三つのタイトルの意味の違いも分析する必要がある。個人、グルー

プ、全体と学習活動の形態を変化させ、他者の意見を踏まえたタイトルの意味分析を行う。そうするこ

とで、各学習者がよりよい根拠を出すことにつながる。以上を踏まえて、タイトルを選択させる。その

際、自分とは違う立場である「教科書編集者」の立場からタイトルを選択させることで一層、想像力が

喚起される学習となると考えた。これが仮説 2 である。

6.6.6.6.仮説の検証仮説の検証仮説の検証仮説の検証

6666----1.1.1.1.仮説仮説仮説仮説 1111 の検証の検証の検証の検証

仮説 1「筆者の考え方に対して具体例を想像することで、本文をより豊かに読むことができる。」の検

証を行う。まず授業において仮説 1 の取り組みがどのように設定されているかを押さえる。仮説 1 は第 2

時・第 3 時に行われた学習に反映されており、対象となる本文は「手の人間存在における象徴的な意味」

である。学習の大まかな流れは以下の通りである。

仮説 1 でなぜ「手の人間存在における象徴的意味」を取り扱うのか。それには二つの理由がある。

第 1 にこの箇所を理解することが容易ではないことが挙げられる。「3-3.教材について」で述べたよう

に、「手の人間祖存在における象徴的な意味」を含む第 3 の意味段落で「手」の象徴性に迫る見方は、筆

者独自のものの見方である。

第2時

第3時

該当箇所が本文の理

解において問題とな

ることを共通理解す

る。

授業冒頭に、具体例を

集約したものを返却。全

体で、交流する時間を設

ける。

学習者が該当箇所の

具体例を想像する。

各学習者の具体例を

集約する。

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今回、【思考力を用いて本文を的確に読む段階】の学習活動として、

①抽象的な表現を具体化することで、本文の内容を理解する。

②言い換え表現に注目することで、本文の内容を理解する。

という学習活動を中心に本文の読解を進めてきた。「手の人間存在における象徴的な意味」に関しても

「手」に関する「哲学者の比喩」や「文学者の述懐」などが「美しい」「厳粛」として具体化されて述べ

られている。ところがこの箇所を学習者の生活体験に結び付けることは容易ではない。つまり、的確な

読解につながる具体化された表現が本文中にない。また、本文において言い換えはなされているが「世

界との、他人との、自己との千変万化する交渉の手段」「そうした関係を媒介するもの」「その原則的な

方式そのもの」といったように、言い換えられた表現自体も抽象的で理解が容易ではない。この二つの

方法以外の何か手を講じる必要性がある。

第 2 に「手の人間存在における象徴的な意味」は、本文のキーワードになる「ふしぎなアイロニー」

を理解する上で欠かせない部分であるということである。確認をする形で学習者に理解させるのではな

く、どうにかして、学習者に具体的に理解してほしかった。

この問題を克服するため、筆者の挙げた具体例以上に、分かりやすい具体例を学習者に想像させた。

筆者の具体例が分かりづらいのであれば、自分で分かりやすい具体例を提示すればよい。私たちが日常

的に文章を読む際、分かりづらいところに対して「この部分はあのことと同じだろうか。」と自分の経験

や体験を踏まえて考え、理解していく場合があるが、それを学習活動として再現しようとした。もちろ

ん、具体例である以上、個別的な場合もある。加えて、そもそも理解が容易ではない部分であるから、

具体例として不十分な場合もある。だが、それらを集約して学習者にフィードバックすることで、数多

くの具体例が提示されることになり、「手の人間存在における象徴的な意味」を、具体的に実感を伴って

理解することが可能になる。第 2 時では、先に述べたように問題を共通理解させたうえで、各学習者に

具体例を想像する活動を求めた。それらを指導者が集約し、第 3 時に全体へフィードバックを行ってい

る。加えて数名の学習者に指名し、「良い」と感じた具体例について理由と合わせて聞き、意見の交流を

行った。このように全体で共有を行うことで学習者主体の学習活動になるように設定した。

以上を踏まえて行われた仮説 1 を検証したい。検証は

(1)各学習者の想像した具体例

(2)第 3 時において、全体で共有した際の授業の様子

(3)学習者の振り返り

の三つに考察を行う。

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((((1111))))各学習者の想像した具体例各学習者の想像した具体例各学習者の想像した具体例各学習者の想像した具体例

32 名の提出があり、具体例として適切なものは 31 名であった。これは以下の五つに分類できる。

・手は他人と感情を共有する手段になる。

・手は、感情を表現するときに物を通して、媒介する。

・手はその人そのものを象徴する。

・手は何かしらの「意味」を象徴する。

・手はコミュニケーションの手段である。

具体的には次のような学習者の記述があった。各一つずつ記載する。

手は他人と感情を共有する手段になる。手は他人と感情を共有する手段になる。手は他人と感情を共有する手段になる。手は他人と感情を共有する手段になる。(11(11(11(11 名名名名))))

・緊張している自分の背を手でたたいて励ましてくれた友達の行動がとても嬉しかったのを思い出した

友人の手があれほど大きく、力強く思えたのは、あの時ぐらいかもしれない。それほど自分にとって力

強いものだった。

手は手は手は手は、、、、感情を表現するときに感情を表現するときに感情を表現するときに感情を表現するときに、、、、物を物を物を物を媒介する。媒介する。媒介する。媒介する。(3(3(3(3 名名名名))))

・私の友達はピアノを弾く時に、全身を使って弾く。その時、友達の手は体とピアノをつなぐ線のよう

なものだ。私もバスケをしていて、その時、ボールと自分の思い描いたプレーをつなぐのは手だから、

手とは、その人の体全体で表現したいことを表すものだと思う。あと、書道もしていたけど、よく思う

のは、手には感情がないのに字のきれいきたないがあるのは、その人の脳によるから、手は手であって

脳(というより気持ち)だと思う。

手はその人そのものを象徴する。手はその人そのものを象徴する。手はその人そのものを象徴する。手はその人そのものを象徴する。(6(6(6(6 名名名名))))

・よく手は人生そのものだと言われます。僕なんかも、ラケットを握ってたら部分的に皮が厚くなった

りします。それも一つの自分の象徴(特徴)だと思います。

手は何かしらの「意味」を象徴する。手は何かしらの「意味」を象徴する。手は何かしらの「意味」を象徴する。手は何かしらの「意味」を象徴する。(7(7(7(7 名名名名))))

・よく「絆」を表現する絵で握手している場面をえがくものが多い気がする。(地球を世界中の人が手を

つないで囲んでいたり)

・よくドラマで、死にそうな人に対して、その人の手を握って、死なないように願っているというシー

ンがある。それで、意識が戻ったらまずだいたい手から動き始める。

手はコミュニケーションの手段である。手はコミュニケーションの手段である。手はコミュニケーションの手段である。手はコミュニケーションの手段である。(4(4(4(4 名名名名))))

・言葉が通じなくてもジェスチャーで相手に気持ちを伝えることができて、その時に一番多用されるの

が「手」だと思うから、やはり手はコミュニケーションになくてはならないものだと感じたことがある。

この他にも多様な具体例が存在するが、各事例は、全てが適切であったわけではない。時にやや抽象

的であったし、時に本文を拡大解釈したものもあった。だが、学習者が自らの体験と「手の象徴的な意

味」をどうにかしてつなげようとした今回の取り組みは、各学習者なりの理解を成立させていた。

((((2222))))第第第第 3333 時において時において時において時において、、、、全体で共有した際の授業の様子全体で共有した際の授業の様子全体で共有した際の授業の様子全体で共有した際の授業の様子

第 3 時には、まず学習者の意見を A4 一枚にまとめたものを返却し、それを黙読する時間を設けた。そ

の後に行ったやりとりを以下に示す。なお指導者の応答は、途中から省略している。

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T「(具体例について)良いと思ったものがありますか。」 ―S1「不安なとき、身近な人の手を握る。」

T「どうして良いと思いますか。」(以下、教師の応答は略)―S1「(理由)なんか感動するから」

―S2「(良いと思ったもの)手紙だと気持ちが伝わる。」

―S2「(理由)メールだとうまく伝わらないことがある。」

―S3「(良いとおもったもの)シンボルマークを表す手。」

―S3「(理由)20 世紀少年のともだちマーク。」

―S4「どれにも納得しました。(具体的な応答を得ることができなかった。)」

4 名の学習者に、具体例の中で良いと思ったものはありますかと尋ねその理由を聞いた。学習者の意見

に対しては、納得しながら話を聞いた。周囲の学習者は、学習者一人ひとりの発言に対して時に笑った

り、時に納得をしたりしながら耳を傾けていた。このように身近に感じながら理解していることが分か

る。

((((3333))))学習者の振り返り学習者の振り返り学習者の振り返り学習者の振り返り

3 時間目終了後の感想と、授業終了後のアンケートに以下のような記述があった。

(第 3 時の感想から)

「手」わかりました!ありがとうございます。みんないいこと書いててすごいなーと思いました。

この学習者は前時の疑問に「手の人間存在における象徴的な意味」が分からないと疑問として挙げて

くれていた学習者である。具体例をまとめたものを読み、意見の交流を行うことで理解が深まったこと

が分かる。

(授業終了後のアンケートから)

最初ややこしい言葉が多くて全然分からなかったけど、著者の言いたいことが分かるようになったと

思う。あと、みんなの「手の象徴的意味」を読んで、いろいろ考えが深まった気がする。

前時(第 3 時)の学習を挙げてくれていたことは印象深い。この取り組みが少なくともこの学習者には意

義深いものだったのだろう。

○○○○仮説仮説仮説仮説 1111 のまとめとしてのまとめとしてのまとめとしてのまとめとして

国語という教科に関しても、学習者一人ひとりに得手不得手がある。短い実習期間であってもその一

端を見て取れるくらいであるから、教職に就けば、よりくっきりとそれは見えてくるのだろう。その得

手不得手を超えて、学習者一人ひとりが参加する授業を目指したい。今回の学習指導はその可能性を指

導者自身に示唆してくれた。

「手の人間存在における象徴的な意味」の具体例は、各学習者の体験と結びつき、豊かなものであっ

た。プリントにまとめて返却したとき、学習者たちは食い入るように黙読し、全体で意見を交流したと

きは、指名した以外の学習者も周囲と話を弾ませていた。感想自体にこの取り組みに対する直接的な記

述はさほど多くなかったかもしれない。だが、この学習を通して学びが深まった学習者が確かにいたと

みなすことができる。

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6666----2.2.2.2.仮説仮説仮説仮説 2222 の検証の検証の検証の検証

仮説 2「本文の的確な理解を根拠として、タイトルを設定し直すことで想像力を伸ばすことができる。」

について検証を行う。仮説 2 の検証を行うにあたって、まずその方法を明確にしたい。

本実践では仮説 2 に対応する学習活動として「もしも教科書の編集者だったら…」という、教科書編

集者の立場からタイトルを決定し、その理由を書く学習活動を第 4 時に行っている。仮説 2 のための授

業構造は次のとおりである。

「本文の内容の理解」、「タイトルの分析」、「読み手を想定する」、この三つを経て、第 1 時「タイトル

選択」と第 4 時「もしも教科書の編集者だったら……」における「タイトル選択の理由」がどのように

変化しているのか。具体的には、第 1 時「タイトルの選択」と第 4 時「もしも教科書の編集者だったら

……」という二つの学習者の記述を「本文の内容の理解またはタイトルの分析を根拠としているか。」「読

み手を想定しているか。」という観点から比較したい。この変化を見ることで、仮説 2 の検証を行うこと

ができる。以下に示した評価規準をもとにして、学習者の記述を評価しその変化を見る。

○相手意識について○相手意識について○相手意識について○相手意識について

a…読み手を想定しているもの b…読み手を想定していないもの

○根拠について○根拠について○根拠について○根拠について

・本文の理解

筆者の主張が「手そのものの象徴性」「ふしぎなアイロニー」(ミロのヴィーナスは「関係性」を象徴す

る「手」を失うことであらゆる「手」=あらゆる「関係性」を生み出す。)にあることを根拠としてい

るかを 3 段階で判断した。

・3…明示している。2…曖昧に示している。1…示していない。

・タイトルの分析

タイトル A、B、C の違いについて、「意味内容」または「効果」の面から、その差を明確にして、根

拠として示しているかを 3 段階で判断した。

・3…明示している。2…曖昧に示している。1…示していない。

本稿では、まず全体のデータを見ることで、第 4 時の学習活動の「想像力を伸ばす」有効性を検証す

る。次に、学習者別に記述を見ることで、具体的に学習者に起きた変化をみる。なお、今回の検証の対

象とした学習者は 39 名中 32 名であった。検証の対象としなかった 7 名は第 1 時または第 4 時の作成物

第1時

第4時 タ

イトルの選択と

理由の記述

教科書編集者

の立場

から、タイトルの選択

と理由の記述

本文の内容の理解

(第1時~第3時)

タイトルの分析

(第4時)

読み手を想定する

(第4時)

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が未提出の学習者であり、充分な検討ができないと判断した。

○全体的なデータから見る○全体的なデータから見る○全体的なデータから見る○全体的なデータから見る仮説仮説仮説仮説 2222 の検証の検証の検証の検証

まずは、全体データから、仮説 2 の検証を行いたい。学習者が「想像力を伸ばす」学習指導であるた

めには、①「根拠が明示される」②「予測する」という二つの条件から見ていく必要がある。①に関し

ては、「本文の内容」と「タイトルの分析」についてそれぞれ根拠として明示できているか 3 段階(3-2-1)

で評価を行い、「3-3」(「本文‐タイトル」)のように評価した。「3-3」が最も高い評価で、「1-1」が最も

低い評価となる。②に関しては「読み手を想定したか」で想定していたものを「a」とし、想定していな

いものを「b」とした。この二つの観点を合わせて評価を行っている。たとえば、「読み手を想定してお

り、根拠として本文の内容が明示され、タイトル分析も明示されていた」場合は「a-3-3」という風に表

記している。なお、この「a-3-3」が最も高い評価であり、逆に「b-1-1」が最も低い評価である。

本稿における仮説の検証では、①については「「本文の内容」か「タイトルの分析」どちらか一方を根

拠として明示している。(どちらかで 3 の評価が出ている。)」について、また②に関しては、「読み手を

想定しているもの(a)」について、それぞれ条件を満たしたとした。以上の観点をもって第 1 時の記述

と第 4 時の記述を比較した。第 4 時で「根拠を明示している」または「相手を想定している」状態へと

変化していれば、仮説 2 が検証されたといえる。

以下の表は第 1 時と第 4 時の学習者の記述をそれぞれ、先に挙げた評価規準をもとに評価し、学習者

に起きた変化をまとめたものである。表をできるだけ簡略化するため、「予測」における「第 4 時で読み

手を想定しなくなった」や、「根拠」における「第 1 時、第 4 時ともに根拠を明示している」「第 4 時で

根拠を明示しなくなった」など、学習者が該当しない項目は示さなかった。

実線で示した部分では学習者の 8 割が読み手を想定するようになったことが分かる。この中には(C)の

項目にあたる「第 1 時、第 4 時ともに読み手を想定した学習者」が含まれるが、この学習者を除いても

23 名(71.8%)の学習者が新たに読み手を想定している。加えて、破線で示された「根拠」という軸で

第 4 時に根拠を明示

するようになった

第 1 時、第 4 時ともに

根拠を明示しなかった

第 4 時に読み手を想定

するようになった

16 名(A)

7 名(B) 読み手を想定した学習者

26/32 名(81.2%)

第 1 時、第 4 時ともに

読み手を想定している 3 名(C)

第 1 時、第 4 時ともに

読み手を想定しない 5 名(D) 1 名(E)

読み手を想定しなかった

学習者

6/32 名(18.7%)

根拠を明示した

学習者

24/32 名(75%)

根拠を明示しなかった

学習者

8/32 名(25%)

根拠 予測

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見ると、24 名(75%)の学習者が明確な根拠を示すようになっている。「想像力」は学習指導要領解説

に「様々な資料を基に、(中略-稿者)将来の状況やあるべき姿を予測したり、見通しをもって行動したり

することの能力」「根拠に基づき先を見通すなど、論理的な側面もある」と説明されている。その「想像

力」を伸ばす授業について、「本文の内容の理解(第 1 時~第 3 時)」、「タイトルの分析(第 4 時)」、「読

み手を想定する(第 4 時)」という三つの学習の設定で、具体的に実現できたと今回のデータは示してい

る。

○各学○各学○各学○各学習者別にみる習者別にみる習者別にみる習者別にみる仮説仮説仮説仮説 2222 の検証の検証の検証の検証

ここからは 4 名の学習者の作成物を挙げ、具体的に学習者にどのような変化が起きたのかを見たい。

なお、学習者の記述に A、B、C という表記があるが、これはそれぞれ、A「ミロのヴィーナス」B「失

われた両腕」C「手の変幻」の三つのタイトルをさしている。

○「タイトル」と読者の出会いを想像した記述の例

時 選択し

た題名 選択した理由 評価

第1時

失われた両腕

本文を通してミロのヴィーナスについて書かれているけど、本文で主に書かれ

ていることは、ミロのヴィーナスが両腕を失っているからこうだとかというこ

とだと思うし、両腕が無いからこそ、ミロのヴィーナスが成り立つのだと思う

から。C の「手の変幻」だとたしかに、人々の想像しだいで手は無数に変幻す

るけど、やはり、述べているのは手が無いという事実だから。

b-1-2

第4時

失われた両腕

この文章はミロのヴィーナスを利用しながら、そのミロのヴィーナスを失われ

た両腕について書かれていると思う。「手の変幻」というのも両腕が失われて

いるからこそ考えられることである。両腕が失われているためにミロのヴィー

ナスは人々をひきつけるのだと思う。このタイトルによって“両腕が失われて

いるからどうなのか”という感じに読者をひきつけると思う。

a-2-3

第 1 時の段階では、本文の内容の理解に関して不十分な点が見られる。他のタイトルとの比較を行っ

ていた点では評価できるが、比較する際の共通項が不明瞭であった。

第 4 時の取り組みでは、まずそれぞれのタイトルが本文においてどのような位置づけになっているか

を確認し、本文の中心が B「失われた両腕」にあることを指摘している。加えて、タイトルの効果とし

て「読者をひきつける」ものとして述べている。本文の中心が B「失われた両腕」にあることについて、

もう少し詳しく説明をする必要は感じるが、B がタイトルであることの正当性をタイトルの分析を踏ま

えて行っている点が良い。

なお、タイトルの効果として「読み手をひきつける」という意見を書いた学習者は他にもいた。内容

の理解に入る前、最も早い段階でタイトルを見た場合を想定して、タイトルの効果に注目している。普

段の学習から、タイトルに注目をしているのだと推察できる。これとは反対の考え方をしているものと

して次のようなものがあった。

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○読者により深く考えさせる「タイトル」とは何かに注目した例。

時 選択した

題名 選択した理由 評価

第1時

手の変幻

本文の内容はミロのヴィーナスについて(A)→彼女の失われた腕の効果

(B)→人間の「手」対する考え(C)という展開になっているように感じ

たので、一番大切そうな C を選びました。 b-1-2

第4時

手の変幻

本文全体を読んではじめてタイトルの意味が分かるので、その方がおもし

ろいと思い、C にしました。AB は具体的なものまたは事実なので、タイト

ルを見て本文内容が想像できますが、C では難しいと思いました。教科書

に載せるものなので、分かりやすさよりもより深く考えさせるもののほう

が良いのではないかと思いました。でも学習者としては、「ミロのヴィーナ

ス」の方がタイトルだけで内容を思い出しやすいなと思いました。

a-2-3

第 1 時では、本文の流れという共通項で三つのタイトルを位置づけている。この点は良い。一方で C

「手の変幻」を選択した理由が「一番大切そうな」となっている。本文の概要をつかみ、どこが大切か

をある程度理解はできているが、それが明確になっていない。当然ではあるが、それぞれのタイトルが

本文においてどのような位置づけであるかも明確にできていない。

だが第 4 時では、A「ミロのヴィーナス」と B「失われた両腕」を具体的なもの、事実と捉え本文の内

容が想像しやすいものと位置付け、C「手の変幻」では逆にそれが難しいものと位置付けて、各タイトル

の差を明確にしている。C「手の変幻」が筆者の主張にもっとも近いことをもう少し明確に示す必要はあ

るものの、「教科書には深く考えさせる教材が載るべきである。」という考え方のもとで、それに適合す

るタイトルを選択したのはとても良かった。

先の学習者とは異なり、「本文全体を読んではじめてタイトルの意味が分かる」と述べた上で、「本文

の内容理解とタイトルの結びつき」について言及している学習者であった。また、「想像力」という点か

らいえば、「でも」以下の文章が印象に残る。「教科書編集者」が「学習者」とは違う立場であることが

明示され、まさに想像を行っていたことが分かる。

○「タイトル」のイメージと「本文の内容」の差が読者に与えることに注目した例

時 選択し

た題名 選択した理由 評価

第1時

失われた両腕

筆者がいいたいのは、ミロのヴィーナスの両腕が失われたことによって、生ま

れるものと、それが生まれる理由だと思うので大きなテーマは失われた両腕だ

と思った。 b-1-1

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第4時

ミロのヴィーナス

題名に「ミロのヴィーナス」と書いてあると「あの腕の折れたやつ…」と絶対

みんな思い浮かべると思うので、特に何とも思っていなかった腕の欠落にひそ

むアイロニーについて読んで、びっくりしてほしい。B と C は少し難しいし、

ネタバレ感がある気がする。 a-2-3

第 1 時の段階で、ある程度本文の内容を理解していた可能性があるが、その「生まれるもの」「生まれ

る理由」が具体的に何であるかを明示できていないため、1 の評価を行った。タイトルにおいては「テー

マ」が一番大事だと捉え、他のタイトルとの比較・検討が根拠として示されないまま、決定している。

第 4 時では、A「ミロのヴィーナス」というタイトルの読む前に与える印象と、腕の欠落による「アイ

ロニー」という本文の内容の差が、読み手に与えることに注目している。具体的に読み手を想像した結

果だと言える。タイトルの分析という点ではもう少し、根拠として明示してほしいが、自分が想像した

場面をもとに、三つのタイトルを、「ネタバレ」=「題名によって本文の内容が予測できてしまうこと」

という「タイトル」と「本文」のかかわりの視点において選別している。

「びっくりしてほしい」という言葉に表れているように、先の 2 人が、「タイトル重視」「内容重視」

だったのに対して、その二つに注目をして「タイトル」の与えるイメージと「本文の内容」との差に注

目している記述だった。

○読者に想定される「国語の学習」を想像した例

時 選択し

た題名 選択した理由 評価

第1時

失われた両腕

単純に B が一番内容に興味をそそられるから。どんな話だろう!ってなる。A

だったら、「“ミロのヴィーナス”かー。ふーん。」で読んでみたい!って思える

ところまではいかないしCでも興味をそそられる面はそんなにかわらないけど、

今、内容を知っている立場から考えると、本文とはちょっと違う気がする。C

だと、何かマジックとか、影絵の話とかの方がしっくりくる気がする。なんか

感覚的な話でごめんなさい。

b-1-2

第4時

失われた両腕

〝失われた両腕〟というマイナスイメージの言葉が入っていることによって、

本文の内容もマイナスイメージのものを想像しがちだが、「しかし」や「だから

こそ」といった表現で美しさや、無限の可能性を孕んだプラスのイメージの内

容の本文に持っていくことが出来ると思う。(ここら辺で文章構造も学ぶことが

出来るのではないかと思う。) A だと本文の内容をもろに出しすぎていて、お

もしろくない。C も面白いけど、あまりに抽象的すぎるかなーと。B がタイト

ルでも C へのつながりはあると思います。

a-3-3

第 1 時でタイトルを比較しているということは評価できるが、本人が「感覚的な話」と述べているよ

うに各タイトルを印象によって違いを示しているところを、明確にする必要があった。また、一方で当

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然ではあるのだが、「本文とはちょっと違う気がする」と言っているように、本文の内容の理解もまだ十

分でないことがうかがえる。

第 4 時では、タイトルの分析についてより明確に行うことができるようになっている。C「手の変幻」

がどう抽象的であるのかをもう少し詳しく説明してほしかったが、三つのタイトルのうち B「失われた

両腕」にのみ、「マイナスイメージ」があるとし、本文の内容との差を意識している点は非常に面白い考

察である。「タイトルのイメージ」と「本文の内容」の差という点では「タイトル」のイメージと「本文

の内容」の差が読者に与えることに注目した例で挙げた学習者と同じ視点から書いているといえる。

またこの学習者のように数名の学習者が「表現」や「文章構造」についてなど普段の具体的な学習と

の関係を意識した意見が述べていた。普段、国語の授業において自分たちがどのような学習をしている

かという場面を想像したのだと考えられる。

○○○○仮説仮説仮説仮説 2222 のまとめのまとめのまとめのまとめ

今回の「もしも教科書の編集者だったら……」の学習指導では、全体的なデータから、「予測」と「根

拠」の二つの観点をもつ学習者が第 4 時で顕著に増加したことを踏まえ、新学習指導要領解説に示され

た「想像力」を伸ばすことについて、具体的に授業のなかで実現できた。また、学習者の事例で見たよ

うに、具体的な読み手を想像し、根拠とともにタイトルを選択するという豊かな記述を見ることができ

た。今回の学習指導は総じて「想像力を伸ばす」学習指導になったと考える。

7.7.7.7.アクションリサーチ実習Ⅱの成果と課題アクションリサーチ実習Ⅱの成果と課題アクションリサーチ実習Ⅱの成果と課題アクションリサーチ実習Ⅱの成果と課題

アクションリサーチ実習Ⅱの最終的なまとめを行いたい。本実践は想像力を「伸ばす」学習指導の在

り方を求めて行われた。アクションリサーチ実習Ⅰが「文学教材」を対象に登場人物のより微妙な心情

まで迫ろうとしたのと異なり、アクションリサーチ実習Ⅱは「評論教材」を対象に論理的な「想像力」

を求めた取り組みである。論理的な「想像力」とは、学習指導要領解説によれば、「様々な資料を基に、

これから起こるであろうことやどのように行動すればよいのかということを思い描くなど、将来の状況

やあるべき姿を予測したり、見通しをもって行動したりすることの能力までを含めて身につけること」

であった。

本実践では、この記述にあることを具体的な学習指導として成立させるために仮説を設定した。これ

が仮説 2「教材の的確な理解を根拠としてタイトルを設定し直すことで論理的な想像力を伸ばすことがで

きる。」になる。この仮説 2 に対応する学習活動を成立させるために、学習指導要領解説にある「様々な

資料」として、本文の読解、タイトルの分析を位置づけ、想像力を喚起させるために「教科書編集者」

の立場を設定することで、同じく学習指導要領解説にある「あるべき姿を予測」させる取り組みを行っ

た。

また仮説 2 に基づいた学習指導をより有効に成立させるためにも、「ミロのヴィーナス」という本文を

学習者にとって実感をもって理解できるようにする必要がある。そのために「手の人間存在における象

徴的な意味」の具体例を考え、本文と学習者の体験を結ぶ学習指導を設定した。これが仮説 1「筆者の考

え方に対して自分の経験から具体例を想像することで、主体的に本文を自分に引きつけ、より豊かに読

むことができる。」に対応する学習指導となる。

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以上二つの学習指導は、先の「6.仮説の検証」で見てきたように、学習者の豊かな取り組み、全体的な

データから充分に成立したことが分かった。ここでは、今回の取り組みによって得られた成果と課題を

明確にすることを目的とする。

○学習指導の成立から学んだこと(授業研究の視点から)

・仮説1のもたらした成果

本文の叙述と筆者の考え方に沿って具体例を想像することは、学習者の想像する具体例が「本文や筆

者の考え方に適しているかどうか」という基準を与える。その基準をもちながら全体で共有する時間を

設けることで、相互に補完し合う関係になる。つまり次の三つの条件、

①学習者の経験に基づいた具体例であること

②本文に寄り添う形で考えられた具体例であること

③相互に補完し合えるように全体で共有する時間を設けること

これを満たすことで学習者の多様な理解をもとにしながら、実感を伴った理解を生み出す学習指導を

成立させることができる。問答型に終始して、各学習者の意見を無視してしまったこともあった前回の

授業と比して、大きな進歩であった。

・仮説 2 のもたらした成果

「予測」という活動を促すためにはどのような取り組みが必要か。それは具体的な相手、場面を想定

するということである。編集者の立場に立つことによって、各学習者の記述にも表れていたように、学

習者は具体的な相手や、その相手が普段どのような状況にあるかも含めて想像をしていた。相手、場面

といった条件を設定することが学習者の想像を促すことが分かった。

また、前期のアクションリサーチ実習Ⅰでは「その夜のコニャック」の主人公「彼」の心情をより微

妙なところまで捉えるとして、様々な視点からその心情を追ったが、そこに「判断する」という要素は

なかった。あくまで主人公の心情を明確化する学習指導だった。だが今回の教科書編集者の立場からタ

イトルを選択する取り組みは「私はどのように判断をするか」を明示しなくてはならない。つまり何か

しらの根拠をもとに想像をすることは、自分が「判断すること」につながっていた。変化に対応する力

を学習者につけたいと望む稿者としては、想像力を「伸ばす」ことが、学習者の判断力を伸ばすことに

つながった今回の取り組みは、大きな意義があった。

①教材に対する理解を深めていくことで教材を根拠として用いられるようにすること。

②具体的な相手や場面を設定することが想像することを促すこと。

③根拠をもとに想像するという学習は、学習者に「自分が判断する」という意識を喚起すること。

前回のアクションリサーチ実習では①の段階までしか到達できていなかったが、今回のアクションリ

サーチ実習Ⅱでは②③の段階について迫ることができた。「教科書編集者」の立場でタイトルを選択する

学習指導は、評論における想像力を「伸ばす」学習指導の一つの方法として成立していた。

○生徒理解から学んだこと(授業実践の視点から)

今回のアクションリサーチ実習Ⅱでは、授業でのやり取り、疑問・感想でのやり取り、放課後のやり

取りという三つの学習者とのやり取りに変化があった。

授業前日の放課後に教室に行ったときに、前回担当した教材である『その夜のコニャック』にちなん

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で、「コニャックさんだ。」と言われた。授業日の放課後には教室に足を運び、残っている学習者と話を

した。毎時、疑問・感想を書いてもらい、次の授業の初めにコメント付きで返却していた。そのやり取

りで、気軽に授業外のことを書き添えてくれる学習者がいた。授業においても、自然体でやり取りでき

た。アクションリサーチ実習Ⅰのときのように、強引に正解に持っていくようなことはせず、できるだ

け冷静に意見を引きだし、学習者に任せた。言語活動や全体での意見交流も含めて、自然体で授業がで

きていたように思う。

アクションリサーチ実習Ⅰにおいて 1対 1の問答型の授業に陥ってしまうことは稿者の悩みであった。

だが今回、その悩みを超えて学習者主体の授業展開ができたのは、指導者が学習者を理解していたこと、

そして学習者が指導者を理解していたことが大きい。あらためて生徒理解の重要性を再認識した。次の

実習ではまた異なる学習者と向き合っていくことになる。その学習者たちに対する生徒理解を深めるた

めにどのような工夫ができるか。その問題意識を得ることができたのは大きな価値があった。

○今後の課題

二回のアクションリサーチ実習を通して、想像力を「伸ばす」学習指導にどのような観点が必要か明

確になってきた。この点に関して今後、理論と実践の両面から考察を重ねていきたい。以下 2 点から述

べる。

①想像を喚起する条件の明確化

今回の実践では、「教科書編集者」という立場を設定し、「タイトル」を選択するという取り組みを行

った。場面や相手を設定したことの意義はあったが、一方でまだ条件として不十分であるように思った。

なぜなら。学習者の記述には「読者」や「生徒」といった言葉が混在し、各学習者が想像したことが一

定のものではなかったように感じたからである。方向付けをしながら、学習者の多様性を確保していく

ことは難しい問題であるが、想像を喚起する条件をうまく制御できれば、それも可能になると考える。

そのためにも、どのような条件が想像を喚起するのかを検討していかなくてはならない。

②先行理論の理解

今後、想像力の仕組みについての様々な理論を理解していくことで、学習者の想像を個別的・具体的

にとらえられるようになりたい。加えて、学習指導の成立に援用していきたいと考える。

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8888....参考引用文献一覧参考引用文献一覧参考引用文献一覧参考引用文献一覧

・阿武泉監修『読んでおきたい名著案内 教科書掲載作品 13000』(紀伊国屋書店平成 20 年 4 月)

・岩間輝生『高校生のための現代思想ベーシックちくま評論入門』(筑摩書房 平成 21 年 3 月)

・内田伸子『想像力―創造の泉を探る』(講談社現代新書 平成 6 年 9 月)

・岡本恵子ほか「新学習指導要領の下での授業実践 1―「想像力」を育てる漢詩・漢文の学習―」(「広

島大学学部・附属学校共同研究機構研究紀要」第 40 号所収 広島大学学部・附属学校共同研究機構 平

成 24 年 3 月)

・岡山県立総社南高等学校編『「想像力を伸ばす」ための効果的な指導―新学習指導要領の実施に向けて

―』(岡山県立総社南高等学校 平成 24 年 3 月)

・北川透「「ミロのヴィーナス」をどう教えるか」(「日本文学研究」第 42 号所収 梅光学院大学日本文

学会 平成 19 年 1 月)

・清岡卓行『ひとつの愛』(講談社 昭和 45 年 9 月)

・清岡卓行『手の変幻』(講談社 平成 2 年 9 月)

・田中宏幸『発見を導く表現指導 作文教育におけるインベンション指導の実際』(右文書院 平成 10

年 5 月)

・「 文 化 審 議 会 国 語 分 科 会 第 9 回 議 事 要 旨 」 ( 文 化 庁 文 化 審 議 会 国 語 分 科 会 HP

〈http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/011/030101.htm〉より参照 最終閲覧日平成

24 年 12 月 14 日)

・文部科学省『高等学校学習指導要領解説 国語編』(教育出版 平成 22 年 6 月)

【謝辞】

アクションリサーチ実習Ⅱを行うにあたっては、広島大学附属高等学校 新治功先生にメンターとして

教科指導だけでなく、教師としての心構えも含め、幅広くご指導いただきました。新治先生にはアクシ

ョンリサーチ実習Ⅰに引き続き、お忙しいなか、懇切丁寧に指導していただいたこと、この場をお借り

して深く御礼申し上げます。学習者一人ひとりの意見を大切にされる新治先生の指導を心に刻んでこれ

からも進んで参りたいと思います。

また、二回のアクションリサーチ実習で、私が授業を担当した広島大学附属高等学校 Ⅱ年生の皆さん。

拙い授業であっても向き合ってくれたことに心から感謝します。疑問・感想において素直に意見を述べ

てくれたことが自分自身を奮い立たせる何よりの活力になりました。皆さんの将来が輝きあるものにな

るよう、心から願っています。

また、指導教員・スーパーバイザーとして、田中宏幸先生には、授業の計画から実施、そのまとめに

至るまで、ご多忙のなか、きめ細やかに指導していただきました。教科指導だけでなく学習者指導につ

いてもご助言を賜り、改めて自分の姿勢を問い直す機会にもなりました。ありがとうございました。

さらに、先輩である渡辺博之先生、小野奈央先生、辻尚実先生にもご助言を頂きました。合わせてお礼

申し上げます。