再開発関係で適用が少ない税制の紹介とお願いについて ·...

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市街地再開発事業や民間事業者の方による都市再開発法によらない再開発事業については、その促進 のため税制の特例措置が設けられていますが、いくつかの税制については、対象となる事業の数に比し 活用が図られない状況となっていると思われます。今回はそういった税制についてご紹介申し上げると ともに、税制について税務当局と折衝を行う立場として、この場をお借りし、いくつかのお願いをさせ ていただきたいと存じます。 1.保留床に係る税制 市街地再開発事業に係る税制のうち、保留床に係る税制については、 対象が事業用資産であること 保留床購入者が適用を申請する税制であること が主な原因となって、適用が少ないまま推移しています。 保留床に係る税制については恒久措置ではなく、時限措置であることから、ここ2年、両税制の延長 の折衝にあたっては、適用件数が少ないことや、具体の事業に照らした場合のメリットが不明確である として、延長が困難を極めたところです。 ○既成市街地等内の資産から施設建築物への買換特例[事業用資産の買換特例:所得税、法人税](租 特法第37条第1項表6号、第65条の7第1項表6号) 所得税は平成291231日まで、法人税は平成29年3月31日(注)までに、既成市街地等内(※)に、 土地等、建物又は構築物を有している者で、これらの資産を事業の用に供しているものが、当該資産を 譲渡し、当該譲渡と同一年度内(所得税は当該譲渡の年の1231日まで)に同一の既成市街地等内の市 街地再開発事業による施設建築物の一部等である土地等、建物、構築物又は機械及び装置を取得し、か つ、これを当該取得の日から一年以内に事業の用に供した場合又は供する見込みであるときは、譲渡資 産に係る譲渡所得の80%を繰り延べることができます。 (注)昨年12月に出された平成26年度税制改正大綱において、3年の延長が認められたものですが、買換資産を市 街地再開発事業の施行区域の面積が5,000㎡以上である場合のその施行区域内に限定するとともに、買換資産か ら地上階数4以上の中高層の耐火建築物以外のもの及び建築物のうち住宅の用に供される部分を除外すること とされました。 (※)既成市街地等内とは、 首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地、近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域、首 都圏、近畿圏及び中部圏の近郊整備地帯等の整備のための国の財政上の特別措置に関する法律施行令別表に掲 げる区域(名古屋市の一部)、二号地区又は二項地区を定めている市又は道府県庁所在の市の区域の都市計画 区域で、最近の国勢調査によるDID(人口集中地区)の区域を指します。 市街地再開発 2014年2月 第5266 制度の紹介等 再開発関係で適用が少ない税制の紹介とお願いについて 国土交通省 都市局 市街地整備課 市街地整備制度調整室

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Page 1: 再開発関係で適用が少ない税制の紹介とお願いについて · げる区域(名古屋市の一部)、二号地区又は二項地区を定めている市又は道府県庁所在の市の区域の都市計画

市街地再開発事業や民間事業者の方による都市再開発法によらない再開発事業については、その促進のため税制の特例措置が設けられていますが、いくつかの税制については、対象となる事業の数に比し活用が図られない状況となっていると思われます。今回はそういった税制についてご紹介申し上げるとともに、税制について税務当局と折衝を行う立場として、この場をお借りし、いくつかのお願いをさせていただきたいと存じます。

1.保留床に係る税制市街地再開発事業に係る税制のうち、保留床に係る税制については、対象が事業用資産であること保留床購入者が適用を申請する税制であること

が主な原因となって、適用が少ないまま推移しています。保留床に係る税制については恒久措置ではなく、時限措置であることから、ここ2年、両税制の延長

の折衝にあたっては、適用件数が少ないことや、具体の事業に照らした場合のメリットが不明確であるとして、延長が困難を極めたところです。

○既成市街地等内の資産から施設建築物への買換特例[事業用資産の買換特例:所得税、法人税](租

特法第37条第1項表6号、第65条の7第1項表6号)

所得税は平成29年12月31日まで、法人税は平成29年3月31日(注)までに、既成市街地等内(※)に、土地等、建物又は構築物を有している者で、これらの資産を事業の用に供しているものが、当該資産を譲渡し、当該譲渡と同一年度内(所得税は当該譲渡の年の12月31日まで)に同一の既成市街地等内の市街地再開発事業による施設建築物の一部等である土地等、建物、構築物又は機械及び装置を取得し、かつ、これを当該取得の日から一年以内に事業の用に供した場合又は供する見込みであるときは、譲渡資産に係る譲渡所得の80%を繰り延べることができます。(注)昨年12月に出された平成26年度税制改正大綱において、3年の延長が認められたものですが、買換資産を市

街地再開発事業の施行区域の面積が5,000㎡以上である場合のその施行区域内に限定するとともに、買換資産か

ら地上階数4以上の中高層の耐火建築物以外のもの及び建築物のうち住宅の用に供される部分を除外すること

とされました。

(※)既成市街地等内とは、

首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地、近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域、首

都圏、近畿圏及び中部圏の近郊整備地帯等の整備のための国の財政上の特別措置に関する法律施行令別表に掲

げる区域(名古屋市の一部)、二号地区又は二項地区を定めている市又は道府県庁所在の市の区域の都市計画

区域で、最近の国勢調査によるDID(人口集中地区)の区域を指します。

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制度の紹介等

再開発関係で適用が少ない税制の紹介とお願いについて

国土交通省 都市局 市街地整備課市街地整備制度調整室

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○施設建築物に係る減価償却の特例[10%割増償却:所得税、法人税](租特法第14条の2第1項及び

第2項第1号、第47条の2第1項、第2項、第3項第1号)

平成27年3月31日までに地上階数4以上の中高層の耐火建築物で施行区域面積5,000㎡以上の市街地再開発事業において建築された施設建築物(権利床及び住宅の用に供する部分を除く。)を取得した個人又は法人は、当該施設建築物を当該個人又は法人の事業の用に供した日以後5年以内の日を含む各事業年度の当該施設建築物の償却限度額を、その用に供している期間に限り、10%割増することができます。

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このうち、買換特例の適用について当方において具体の案件を把握することはできておりません。また、来年度延長を迎える割増償却の特例についても、具体案件の把握を行う必要があります。

2.転出者に係る税制地区外転出者に係る税制は、建築許可がされない場合の申出による買取り、地方公共団体による買取

り、市街地再開発促進区域内の買取り、施行者による買取り、補償金を取得する場合の特別控除等の特例が設けられており、活用が図られているところですが、地権者にメリットがありつつ事業施行者になじみが薄く適用件数が少ない税制として、不動産取得税の特例があります。

○第一種市街地再開発事業における過小床不交付又はやむを得ない事情による転出の場合の代替不動産

の取得についての特例(地方税法第73条の14第8項第2号)

地区外転出者が施行者から交付された補償金で代替不動産を取得する場合、不動産取得税の課税が問題になりますが、地区外転出の原因が過小床不交付又は地方税法施行令で定めるやむを得ない事情による場合、不動産取得税の課税標準の算定においては、従前不動産の価格相当額を取得不動産の価格から控除することができます。やむを得ない事情として定められる場合とは、市街地再開発事業の施行者が、施設建築物の構造、配

置設計、用途構成、環境又は利用状況等につき、都市再開発法第71条第1項の地区外転出の申出をした者の従前の生活又は事業を継続することを困難又は不適当とする事情があることにより同項の申出がされたと認める場合とされています。

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本税制についても、地方公共団体の皆様から頂いている報告によりますと、適用件数が少なくなっています。第二種市街地再開発事業により土地が買い取られることとなった場合においても、同様の特例が設け

られています。

3.民間の再開発事業に関する税制都市再開発法に基づく市街地再開発事業ではありませんが、民間事業者による任意の事業について、

以下の税制特例が設けられています。○特定民間再開発事業(租特法第37条の5第1項表第1号、地方税法附則第34条の3)

土地、建物を特定民間再開発事業の用に供するために譲渡した個人が、次の場合に該当した場合に、それぞれ次のような税制上の特例を受けることができます。① 当該特定民間再開発事業により建築される中高層耐火建築物等を取得した場合について、買換特例(課税の繰延)が適用されます。(繰延割合:所得税100%)② 当該中高層耐火建築物等を取得することが困難な特別の事情により転出した場合について、次の特例措置が適用されます。譲渡資産がその所有期間が10年以下であっても、居住用財産に係る長期譲渡所得についての軽減

税率(特別控除後の譲渡益6,000万円以下の部分について所得税10%、住民税4%(通常税率は所得税15%、住民税5%))を適用。

○特定の民間再開発事業(租特法第31条の2第1項、第2項第11号、第62条の3第1項、第4項第11号、

地方税法附則第34条の2)

個人が、平成28年12月31日(注)までに、5年超所有の土地等を特定民間再開発事業の用に供するため譲渡した場合について、当該土地等の譲渡所得につき、軽減税率(2,000万円以下の部分について所得税10%、住民税4%(通常税率は所得税15%、住民税5%))が適用されます。(注)平成26年税制改正大綱において、3年の延長が認められたもの。

具体の要件については、下記表をご参照ください。

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本税制を適用可能な民間事業は多数あると想定されますが、適用が少ない状況であり、活用を図って頂きたいと考えております。

結びこれらの税制については、対象となる事業は一定程度行われているにも関わらず、税制はあまり活用

されていないようです。事業者・コンサルタントの皆様におかれましては、地権者の方々の理解を得て、事業を円滑に進める

手段として、上記のような税制があることにご留意いただければ幸いです。適用されました際には、事業地区の所在する市区町村にお知らせください。また、地方公共団体の皆様におかれましては、できる限り件数や適用実態の把握に努めていただきますようお願い致します。税務当局より、適用が少ない又は適用実態の把握できない租税特別措置については、全般的に廃止を

含めた見直しを図る旨、厳しく指摘をされているところです。今後も活用が図られない場合、特に来年度延長期限を迎える保留床に係る税制である施設建築物に係

る減価償却の特例のみならず、3年後延長期限を迎える保留床に係る税制である既成市街地等内の資産から施設建築物への買換特例や、恒久措置であるその他の税制についても廃止の可能性があります。なお、来年度税制改正において、第一種市街地再開発事業における過小床不交付又はやむを得ない事

情による転出の場合の代替不動産の取得についての特例と並びで措置されていた、大都市地域における住宅及び住宅地の供給に関する特別措置法において準用する場合について、恒久措置ではありましたが、適用件数がないために廃止が決定したところです。

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