阪神電気鉄道 普通用車両5700系“ジェット・シルバー5700”...1 はじめに...
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阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 111
阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700”※岡
おか
本もと
正まさ
史し
写真 1 外観
要旨阪神電気鉄道株式会社(阪神電気鉄道)は、本線(梅田~元町)、阪神なんば線(大阪難波~尼崎)、武庫川線(武
庫川団地前~武庫川)、神戸高速線(元町~西にし
代だい
)の 4 路線を営業している。これらの路線は、いずれも駅間距離が短いという特徴がある(図 12 参照)。また、本線は、高速で走行する各種の特急・急行用車両と各駅に停車する普通用車両とが同じ線路上で運行している。このため、普通用車両は、特急・急行用車両の合間を縫って運行するために高加速・高減速性能をもつ専用車両を使用することで効率的な輸送を行い、この個性的な車両性能から“ジェット・カー”と呼ばれ、青系の車体色とともに、長年親しまれている。このたび、普通用車両の老朽化に伴い代替新造した 5700 系“ジェット・シルバー 5700”は、普通用車両としては 1995 年の 5500 系以来、20 年ぶりの新形式車両であり、従来の“ジェット・カー”がもつ俊足に加えて、人と地球へのやさしさを追求し、お客さまへのサービス設備の更なる改良と永久磁石同期電動機(PMSM)を用いた VVVF インバータ制御などの新技術とを積極的に導入した車両となっている。以下にその概要を紹介する。(編集部注:1000 系は本誌 233 号 2007 年 3 月参照)
1 はじめに5700 系普通用車両は、2007 年から導入している 1000 系
急行用車両のステンレス構体構造を基本として設計することで、最新の急行用車両の 1000 系と対をなす普通用車両であることを明確にするとともに、設計・製作期間の短縮及びイニシャルコスト上昇の抑制を図った車両である。客室設備については、今後の普通用車両の標準仕様とするため、サービス設備の更なる改良を図っている。新形普通用車両の開発に当たっては、お客さまを始め、乗務員及び検修係員の要望を取り入れるとともに、設計プロジェクトメンバが運行中の普通用車両に乗車して、ラッシュ時や昼間時の利用状況、設備の改良点などを抽出して、きめ細かに対応した。その結果、車内保温及び保冷のために、お客さ
※ 阪神電気鉄道㈱ 都市交通事業本部 車両部車両課
写真 2 室内
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2015- 9「車両技術 250 号」112
会社・車両形式 阪神電気鉄道㈱・5700 系使用線区 阪神本線、神戸高速東西線、山陽電鉄本線 軌間(㎜) 1 435基本編成 4M 使用線区の最急勾配 32 ‰用途 通勤用 電気方式 直流 1 500 V車体製作会社 近畿車輛㈱ 製造初年 2015 年台車製作会社 新日鐵住金㈱ 製作予定両数 52 両主回路装置製作会社 ㈱東芝 車両技術の掲載号 250
基本編成及び主な機器配置
凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 VVVF;主制御装置 SIV;補助電源装置 CP;空気圧縮機 BT;蓄電池 >;パンタグラフ ◎;車椅子スペース 連結器 ▽;密着 +;半永久
個別の車種形式 5701 5801 5801 5701車種記号(略号) Mc1 M1 M2 Mc2空車質量(t) 34.0 37.0 37.0 34.0 定員(人) 124 133 133 124うち座席定員(人) 41 45 46 41特記事項
電気駆動系主要設備
集電装置
形式/質量(㎏) PT7160-A/120方式 シングルアーム式
制御装置
形式/質量(㎏) SVF102-E/1 120
制御方式2 レベル IGBT-VVVF インバータ制御方式
仕様 1C1M 制御 4 群 2 ユニット
主電動機
形式/質量(㎏) SEA-545/637方式 永久磁石同期電動機1 時間定格(kW) 190回転数(min-1) 2 000特記事項 全閉自令式
最大限流値
力行(A) 189ブレーキ(A) 195
電気ブレーキの方式 回生ブレーキブレーキ抵抗器
形式/質量(㎏) -
補助電源設備
補助電源装置
形式/質量(㎏) NC-GAT150C/620方式 静止形 3 レベルインバータ出力 150 kVA
蓄電池種類/質量(㎏) MT 形焼結式アルカリ蓄電池/ 165容量(Ah) 50(5 時間率)主な用途 停電時のバックアップ
車両性能
最高運転速度(㎞ /h) 110加速度(m/s2) 1.11(4.0 ㎞ /h/s)減速度
(m/s2)常用 1.25(4.5 ㎞ /h/s)非常 1.25(4.5 ㎞ /h/s)
ユニット当りの定格
ユニット構成 Mc+M出力(kW) 1 140速度(㎞ /h) 50引張力(kN) 19.1
ブレーキ制御方式
回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(応荷重、滑走防止制御付き)、直通予備ブレーキ
制御回路電圧(V) DC 100抑速制御 なし
運転保安装置連続誘導式階段制御方式ATS
列車無線 150 Hz 帯空間波無線装置非常時運転条件 なし
その他
表1 阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 車両諸元
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阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 113
その他の主要設備
空調装置形式/質量(㎏) CU703B/370方式 マイコン制御容量(kW) 24.4 × 2 台/両
暖房装置容量(kW)
Mc:12.5M1:13.6、M2:14.05
形式/質量(㎏) HF436/8.7、HF437/6.0、HF449/10.5
標識灯前部標識灯 LED後部標識灯 LEDその他 種別灯は後部標識灯と共用
その他
空気ブレーキ設備
電動空気圧縮機
形式/質量(㎏) C-2000ML圧縮機容量 2 000 ㍑/min圧縮機方式 レシプロ式 2 段圧縮
空気タンク元空気タンク 140 ㍑供給空気タンク 120 ㍑
ブレーキ制御装置 形式/質量(㎏) MS-4218/85
台 車
形式動台車 FS581M付随台車 FS581T
車体支持装置 ダイレクトマウント式けん引装置 ボルスタアンカ枕ばね方式 空気ばね
上下枕ばね定数/台車片側(N/㎜)
動台車Mc1:388、 M1:426、M2:416、 Mc2:384(空車)
付随台車Mc1:420、 Mc2:427(空車)
軸箱支持方式 モノリンク式軸ばね方式 コイルばね
上下軸ばね定数/軸箱
(空車時)(N/㎜)
コイルばね動台車 695付随台車 930
ゴムばね動台車 575付随台車 575
総合動台車 1 270付随台車 1 505
軸距(㎜) 2 100台車最大長さ(㎜) 3 147車輪径(㎜) 860基礎ブレーキ
動台車 片押し式ユニットブレーキ付随台車 片押し式ユニットブレーキ
ブレーキ倍率 3.4
制輪子動台車 合成制輪子付随台車 合成制輪子
ブレーキシリンダ×個数
動台車 4付随台車 4
駆動方式 平行カルダン歯数比(減速比) 6.06(97/16)継手 TD 継手軸受 密封式複列円筒ころ軸受
質量(kg)動台車 6 990付随台車 4 820
記事
車体の構造・主要寸法
構体材料/構造 ステンレス鋼(前頭部は普通鋼)車両の前面形状 非常用貫通扉付き運転室 全室
長さ(㎜)先頭車 18 380中間車 18 180
連結面間距離(㎜)
先頭車 18 980中間車 18 880
心皿間距離(㎜)
先頭車 12 980中間車 12 880
車体幅(㎜) 2 750
高さ(㎜)屋根(先頭部) 3 730屋根(中間車) 3 670屋根取付品上面 4 085(パンタ折り畳み高さ)
床面高さ(㎜) 1 130
車体特性・構造及び主要設備
相当曲げ剛性(MN・m2) 1.03×103(M1 車)相当ねじり剛性(MN・m2/rad) 29.7×10(M1 車)曲げ固有振動数(Hz) 14.9(M1 車)ねじり固有振動数(Hz) 4.4(M1 車)内装材 メラミン化粧板側窓構造 バランサ付き下降窓、固定窓妻引戸 片引戸
側扉構造 両引戸 1 300 ㎜片側数 3
戸閉め装置形式 Y4-NRC-A方式 単気筒複動式両引ベルト駆動
腰掛方式 ロングシート車体連結装置
先頭車 廻り子式密着連結器中間車 廻り子式密着連結器、半永久連結器
空調換気システム
冷房方式 セミ集中式ユニットクーラ暖房方式 シーズ線ヒータ(つり下げ式)換気方式 自然換気送風方式 ラインフローファン
室内灯照明方式 直接照明灯具方式 LED 灯
移動制約者設備 車椅子・ベビーカースペース
便所主要設備 -汚物処理 -
その他の主要設備
主幹制御器形式/質量(㎏) KL-5024/74
方式主幹制御器横軸、ブレーキ制御器縦軸 2 ハンドル
速度計装置 アナログ式(EL 板付き)車両情報制御システム
モニタ装置 イーサネット方式モニタ表示器 タッチパネル式
非常通報装置 通話機能付き
行先表示器前面 フルカラー LED側面 フルカラー LED
車内案内表示 32 インチハーフ液晶ディスプレイ
放送車内向け スピーカ:先頭車 8 台、中間車 9 台車外向け スピーカ: 4 台
車両間連結電気系 ジャンパ連結器空気管系 空気ホース、密着連結器(ユニット間)
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図1
編成
図
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阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 115
ほろ
前部標識灯
後部標識灯
図 2-1 形式図 5701(Mc1)、5701(Mc2)
ほろ
図 2-2 形式図 5801(M1)
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ま自身が操作できる扉開閉ボタンや、従来よりも低い高さのつり手などの“人へのやさしさ”を追求した新たな設備を設置した。一方、普通用車両は、高加速・高減速性能をもち、起動・停止を繰り返す運転を行うため、1958 年の初代ジェット・カー 5001 形の開発当時から、運転電力量の削減が課題となっていた。このため、新形普通用車両5700 系は、永久磁石同期電動機(PMSM)を用いた VVVFインバータ制御の主回路システムを始めとして、照明装置及び冷房装置についても最新の省エネルギー技術を採用するとともに、軽量化と環境負荷の低減を目的に無塗装ステンレス構体を採用して、“地球へのやさしさ”についても徹底的に追求した車両となっている。
なお、普通用車両へのステンレス製構体の採用は、1959年に製造した 5201 形ステンレス試作車“ジェット・シルバー”以来、およそ半世紀ぶりとなることから、更なる環境性能を向上させた 5700 系普通用車両は、“ジェット・シルバー 5700”と呼ぶことにした。
2 編成及び車両性能と主な特徴2.1 編成及びユニット構成
5700 系は、Mc 車及び M 車の 2 両ユニットを 2 ユニット組み合わせた 4 両固定編成とし、従来車との併結運転は行わない構造としている。Mc 車を 5701 形、M 車を 5801形とし、車番は、大阪寄りユニットを奇数、神戸寄りユニットを偶数の連番としている。2010 年に 1 編成を導入した 5550 系と同様に編成全体では 3M1T 相当であるが、Mc 車を 0.5M0.5T とすることで回生電力量の向上による
省エネルギー化の推進と乗り心地の向上とを図った。2.2 定員
定員は、Mc 車が 124 人(座席定員:41 人)、M 車が 133人(座席定員:M1 車 45 人、M2 車 46 人)としている。2.3 車両性能
基本性能は、設計最高速度 110 ㎞ /h、起動加速度1.11 m/s²(4.0 ㎞/h/s)、 常 用 最 大 減 速 度・ 非 常 減 速 度1.25 m/s²(4.5 ㎞/h/s)である。
3 デザイン3.1 エクステリアデザイン
外観は、ステンレス製レーザ溶接構体を採用して、車体外板を無塗装とすることで環境に配慮した。車両の前頭部は、1000 系の造形テーマを進化させると同時に、新しいデザイン要素を取り入れている。前部標識灯の周りは、1000 系と共通の意匠にすることで阪神ブランドのイメージを継承しつつ、普通用車両のシンボルカラーであるブルー系の新色“カインド・ブルー”を前部標識灯の周囲及び前面窓の下部に配して、お客さまに普通用車両であることを分かりやすくした。前面窓の下部に配した“カインド・ブルー”は、斜め上がりのキャラクターラインとすることで、きびきびと俊足なジェット・カーにふさわしい“精
せ い
悍か ん
”なイメージを表現して、スピード感を演出している。車両の側面は、“カインド・ブルー”の円形のグラフィッ
クを側引戸の周りに配置した。このグラフィックは、出入口の位置を分かりやすく伝えるとともに、各駅に停車する普通用車両の“やさしさ”を表現して、“一
い ち
期ご
一駅のおもて
ほろ
図 2-3 形式図 5801(M2)
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阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 117
なしの心”と“かけがえのない青い地球”とをシンボリックにイメージしたデザインとなっている。3.2 インテリアデザイン
室内のカラーリングは、沿線に広がる摂せ っ
津つ
灘な だ
の豊かな海をイメージしたブルーを基調として、きらめく水模様を各所にアレンジすることで、室内に居ても普通用車両であることが一目で分かるようにして、全ての人にやさしく、使いやすい車両を目指した。
4 車体構造4.1 主要寸法
車体長は、Mc 車が 18 380 ㎜、M 車が 18 180 ㎜、車体幅 は 2 750 ㎜、 車 体 高 さ は Mc 車 が 3 730 ㎜、M 車 が3 670 ㎜、床面高さは 1 130 ㎜とした。4.2 構体
構体は、仕上がりの美しいレーザ溶接組立のステンレス鋼製で、外板を無塗装とした。ただし、先頭車の前頭部は、補修性を考慮して、普通鋼製の塗装仕上げとしている。先頭部は、1000 系と比較して更に柱構造及び外板を
強化した。また、妻部は、柱構造の強化及び構体との結合を強化して踏切事故など衝突時の安全性向上を図った。
5 客室5.1 客室構造
客室内部の天井及び内張り板は、“鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準”の 2004 年に改正された火災対策基準に適合した材料を使用した。カラーデザインは、1000 系のデザインを踏襲した。内張り板は、明るいグレーを基調色として、側面には“江戸小判”をアレンジした模様を、妻面は木目柄の模様を配したメラミン化粧板を用いた。天井中央部には、ラインフローファン、車内放送スピーカを直線的に配置し、その両側に蛍光灯と蛍光灯ソケットとを一体化したように見えるグローブレスの直管蛍光形 LED 灯及び空調の吹出し口を配して、車両の長手方向へ連続性をもたせたデザインとしている。床材は、ノンスリップタイプの敷物を使用したほか、車体中央部にランダムな模様を配して、立席と着座エリアとを区別することで、着席者の足の投げ出し抑止効果を狙っている。
り
枠
り
図 3 車体断面
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5.2 室内設備座席は、オールロングシートであるが、出入口間の腰掛
を従来から 1 席減らした 7 人掛けとすることで、出入口横のスペースを拡大してスムーズに乗降できるようにするとともに、立席としての利用しやすさ及び大形の荷物を持ったお客さまの利便性向上を図った。ロングシートは、一人当たりの座席の有効幅を 470 ㎜としたバケットタイプを採用するとともに、従来のけ込み板式脚台構造から片持ち式に変更することで車内の開放感を向上させた。また、各ロングシートは、大形の袖仕切りを設けるとともに、5 人掛け及び 7 人掛けの中間部にも 2 人又は 3 人単位で中仕切りを設置して、万一の衝突時などに隣の着席者から受ける二次衝撃を軽減する効果を狙った。
大形の袖仕切りは、袖とスタンションポールとを組み合わせて仕切り機能をもたせ、袖自体の幅を最小限にとどめることで、室内空間の圧迫感を軽減するとともに、室内の見通しを極力妨げないように配慮した。また、袖は、中間部を“く”の字の形に曲げて出入口側に張り出した形状として、見た目にもすっきりした形状で立席と着座席とを区分した(写真 2 及び 3)。袖の“く”の字の形に曲げた部分は、立席者にとっては快適な腰当てとして、着席者にとっては肘当てとして使えるという二つの機能を同時に満たしている。中仕切りは、着席者の腰部を仕切板で区切るとともに、円弧形状のスタンションポールを設けて、立席者の姿勢保持だけでなく、着席者が立ち上がる時の補助としての機能も有している。さらに、Mc1 車の全ての 2 人掛け腰掛は、座面の高さを他の腰掛よりも 30 ㎜高くするとともに、座ぶとんの前端部を少し前に傾斜して、立ち座りがしやすいように配慮した “ちょい乗りシート”を試験的に設置している。
各出入口部には、握り棒を設置した。また、各出入口付近の天井には、車体の幅方向にもつり手を増設するとともに、従来よりも低い高さのつり手(床面高さ 1 550 ㎜)も設置して背の低い方にも配慮した。なお、つり手及び側出入口部の握り棒は、青色にして目立たせることで、意匠性だけでなく、とっさの場合でも、つかまりやすいように考慮している。荷物棚の床面からの高さについても、1000 系よりも 19 ㎜低くい 1 781 ㎜として、利便性の向上を図っている。5.3 窓及び扉
側窓は、出入口間に 2 枚窓を、車端部に 1 枚窓を配置し
た。2 枚窓は、片側の 1 枚を下降窓として開口面積を確保している。また、窓ガラスは、従来車よりも板厚を厚くした 6 ㎜の熱線吸収強化ガラスを採用して安全性を向上させた。カーテン装置は、操作性を考慮して溝島ラック・ピニオン形巻上げ式のフリーストップカーテンを採用した。
側出入口の有効幅は、2001 年以降の新造車と共通の1 300 ㎜とした。側引戸の窓ガラスは、従来車と同様に複層ガラスを用いているが、今回、新たに UV(紫外線)カットガラスを採用している。また、引戸を開く時に乗客の手を引き込み、戸袋部と引戸との隙間に指などが挟まれることを防止する指保護ゴムは、板状のゴムからブロック状のCR 皮膜付きスポンジゴムに変更した。さらに、引戸の戸尻部に風止めゴムを取り付け、車内の保温及び保冷性の向上と車内騒音の低減とを図っている。
妻引戸は、有効幅を 725 ㎜とした。引戸は、厚さ 8 ㎜の全面ガラス構造を採用して開放感をもたせている。戸閉め装置は、新たにエアークッション付きのぜんまい巻き取り方式の装置を引戸上部に設置した。5.4 バリアフリー・ユニバーサルデザイン対応設備
車椅子使用者に加えてベビーカー使用者も利用できるスペースを全車両に設置した。同スペースには、車椅子に乗ったままでの利用を考慮した非常通話装置及び横手すりを取り付けている。また、同スペース部に隣接する側出入口の引戸下レールは、車椅子の車輪が通行する部分を切り欠き、円滑に乗降できるように配慮している。
優先席の表地及びつり手は、一般部と異なった配色(グリーン)とすることで、優先席スペースであることを明確にした(写真 3)。また、側出入口周辺のバリアフリー・ユニバーサルデザイン対応設備として、側出入口の車外ステップ部と車内水切り部とに黄色の識別帯を設けて視認性及び安全性の向上を図ったほか、側かもい点検ふたには、扉開閉予告ブザー、扉開閉予告灯、誘導鈴及び大形液晶ディスプレイの車内案内表示装置を設置した。さらに、側引戸の車内側には、文字及び点字で乗車位置に関する情報を表示する“車内乗車位置表示板”を貼り付けた。
6 運転室設備運転室の機器配置は、従来車を基本としたが、一部のス
イッチ及び遮断器の取付位置を低くするとともに、手掛け及び踏み段を取り付けて、増加しつつある女性乗務員などの操作性にも配慮した。主幹制御器及びブレーキ制御器は、5550 系に準じた 2 ハンドル式デスクタイプとした。5700 系は、他の形式と併結運転を行わないため、貫通扉ではなく、内開きの非常用貫通開戸を設置した。前面窓及び非常用貫通開戸の窓ガラスは、熱線吸収強化合わせガラスを採用したが、従来の飛散防止中間膜に加えて IR(赤外線)カット膜を追加し、運転室の環境改善と人身事故時の乗務員の安全性向上とを図った。また、側開戸の窓ガラスは、UV(紫外線)カットガラスを使用している。前部標識灯は、従来車を踏襲して中央上部に配置したが、光源はLED を採用した。後部標識灯は、両サイド下部に縦形のLED ユニットを配置した。
写真 3 優先席
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スタ
フ差
し
非常
通報
受報
器
空調
操作
箱
無線
LAN
アン
テナ
無線
LAN
アン
テナ
光線
よけ
運転
台表
示灯
スタ
フ照
明
モニ
タ情
報 表
示器
列選
設定
器
ATS
表示
灯
架線
電圧
計
リセ
ット
スイ
ッチ
スタ
フ照
明ス
イッ
チ
標識
灯・
後部
標識
灯ス
イッ
チ
後部
標識
灯・
標識
灯
速度
計
ワイ
パス
イッ
チ[
運転
台用
]
デフロス
タスイ
ッチ
車載 サーバ
列車無線
電線装置 電源
コンセン
ト ワ
イパスイ
ッチ[貫
通扉用]
笛弁
無線
装置
コン
テン
ツサ
ーバ
表示
板差
し
モニ
タ運
転台
ユニ
ット
直通
予備
ブレ
ーキ
スイ
ッチ
モニ
タス
ピー
カ(
モニ
タ装
置)
無線
操作
器 (
親器
)
ベル
押ボ
タン
ベル
押ボ
タンイ
ンタ
ーホ
ンス
ピー
カタ
ンブ
ラス
イッ
チキ
セ
ATS
確認
押ボ
タン
レバ
ーサ
スイ
ッチ
電流
計
マイ
ク箱(
子器
)
扉扱
切換
スイ
ッチ
車掌
スイ
ッチ
再開
閉ス
イッ
チ
非常
ブレ
ーキ
スイ
ッチ
扉予
告ス
イッ
チ
空気
取出
口コ
ック
PoE-
ハブ
車地
上伝
送電
源装
置
後部
標識
灯・
標識
灯
温風
暖房
器
圧力
計(
MR・
BC)
正 面 行 先 表 示 器 ・
種 別 表 示 器
正 面 行 先 表 示 器 ・
種 別 表 示 器
G P S 車 載 器
前 部 標 識 灯無
線LA
Nブ
リッ
ジ
パ ン タ 下 げ
ス イ ッ チ
ブ レ ー キ
制 御 器
主 幹 制 御 器
前 部 標 識 灯 点 滅
ス イ ッ チ
前 部 標 識 灯 減 光
ス イ ッ チ
図4
運転
室機
器配
置
写真
4 運
転台
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図5
床下
機器
配置
補助回路接地スイッチ箱
空気ばね
圧力計
主電動機コネクタ
DCPT箱
滑走防止弁
絶縁接地端子台
床下配電箱
モニタ中央装置
SIV開閉器・SIVヒューズ箱
扉開放
コック
制御圧力計
M60給気弁
L60減圧弁
(戸締機用)
置装湿除
計力圧ねば気空
空気ばね圧力計
母線断路器箱
クンタ気空生再ア フ タ ー ク ー ラ
扉 開 放 コ ッ ク
AW-5笛
め止歯手
子上車選列
笛気電
ATS受電器
ATS受電器
ATS床下つなぎ箱
床下つなぎ箱(84点)
C14-1H電磁給排弁
インバータ装置箱
リアクトルトランス箱
栓受つなぎ箱
(96芯×2栓側)
高圧コネクタ受
(主連結栓受)
(交流出力連結栓受)
栓受つなぎ箱
(96・55芯栓側)
電気笛
バンダ下げ電磁弁箱
主電動機
コネクタ
ATS
床下つなぎ箱
L 60 弁圧減
( 戸 閉 め 機 用 )
M 60 弁気給
計力圧御制主電動機コネクタ
め止歯手
栓受つなぎ箱
(96芯×2栓受側)
滑走
防止弁
主断路器箱
高圧コネクタ受
(主連結栓受)
(交流出力連結栓受)
(主回路連結栓受)
空気ばね
圧力計
扉開放コック
供給空気
タンク
元空気タンク
元空気タンク
HS-95ブレーキ作用装置
保安・制御2室空気タンク
受給電接触器箱
扉開放コック
蓄電池箱
整流装置
モニタ端末装置
供給空気タンク
VVVFインバータ
装置箱
断流器箱
床下
配電箱
ブレーキ受信装置箱
滑走防止弁
母線つなぎ箱
高圧コネクタ受
(主連結栓受)
(交流出力連結栓受)
(主回路連結栓受)
フィルタ
リアクトル
フィルタ
リアクトル
保安・
制御
2室空気
タンク
HS-95ブレーキ
作用装置
同期回路開閉器
電動空気圧縮機
滑走防止弁
コンプ接触器箱
ブレーキ継電器箱
高速度
遮断器箱
補助回路接地
スイッチ箱
a)床
下機
器配
置
5701(
Mc1
)、57
01(M
c2)
補助回路接地スイッチ箱
空気ばね
圧力計
主電動機コネクタ
DCPT箱
滑走防止弁
絶縁接地端子台
床下配電箱
モニタ中央装置
SIV開閉器・SIVヒューズ箱
扉開放
コック
制御圧力計
M60給気弁
L60減圧弁
(戸締機用)
置装湿除
計力圧ねば気空
空気ばね圧力計
母線断路器箱
クンタ気空生再ア フ タ ー ク ー ラ
扉 開 放 コ ッ ク
AW-5笛
め止歯手
子上車選列
笛気電
ATS受電器
ATS受電器
ATS床下つなぎ箱
床下つなぎ箱(84点)
C14-1H電磁給排弁
インバータ装置箱
リアクトルトランス箱
栓受つなぎ箱
(96芯×2栓側)
高圧コネクタ受
(主連結栓受)
(交流出力連結栓受)
栓受つなぎ箱
(96・55芯栓側)
電気笛
バンダ下げ電磁弁箱
主電動機
コネクタ
ATS
床下つなぎ箱
L 60 弁圧減
( 戸 閉 め 機 用 )
M 60 弁気給
計力圧御制主電動機コネクタ
め止歯手
栓受つなぎ箱
(96芯×2栓受側)
滑走
防止弁
主断路器箱
高圧コネクタ受
(主連結栓受)
(交流出力連結栓受)
(主回路連結栓受)
空気ばね
圧力計
扉開放コック
供給空気
タンク
元空気タンク
元空気タンク
HS-95ブレーキ作用装置
保安・制御2室空気タンク
受給電接触器箱
扉開放コック
蓄電池箱
整流装置
モニタ端末装置
供給空気タンク
VVVFインバータ
装置箱
断流器箱
床下
配電箱
ブレーキ受信装置箱
滑走防止弁
母線つなぎ箱
高圧コネクタ受
(主連結栓受)
(交流出力連結栓受)
(主回路連結栓受)
フィルタ
リアクトル
フィルタ
リアクトル
保安・
制御
2室空気
タンク
HS-95ブレーキ
作用装置
同期回路開閉器
電動空気圧縮機
滑走防止弁
コンプ接触器箱
ブレーキ継電器箱
高速度
遮断器箱
補助回路接地
スイッチ箱
b)床
下機
器配
置
5801(
M1)
、58
01(M
2)
-
阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 121
7 機器配置7.1 床下機器配置
Mc 車の台車間の大阪寄りには、電動空気圧縮機などの空気制御機器、神戸寄りに補助電源装置(SIV)を配置した。また、M 車の台車間の山側には主制御装置(VVVF)、浜側にブレーキ受信装置などの空気制御機器や蓄電池を配置した。なお、ブレーキシリンダ、供給空気タンク、保安空気タンクなどのコック類は、可能な限り浜側の車側から操作可能な位置に統一し、作業性向上を図っている。7.2 屋根上機器配置
各車両の屋根中央部に空調装置を 2 台配置し、Mc 車の先頭部に VHF 無線アンテナを配置した。シングルアーム式パンタグラフは、M1 車に 2 基、M2 車の神戸寄りに 1基を取り付けている。また、M 車神戸寄りには、母線ヒューズ箱、主回路ヒューズ箱、避雷器などを配置した。7.3 車両間設備
各車両間には、貫通口、貫通路、さん板及び大形 1 枚ほろを設けている。また、連結間への転落防止のため、隙間を 70 ㎜と狭くした新タイプの転落防止ほろを採用した。
連結器は、先頭部及びユニット連結間(M1 - M2 車間)に廻り子式密着連結器、固定連結間(Mc - M 車間)に半永久連結器を装備した。
8 主要機器8.1 主制御装置
主制御装置は、主回路素子に IGBT を用いた 2 レベル方式の VVVF インバータ制御装置を採用した。永久磁石同
期電動機(PMSM)を制御するには、1 台の電動機に 1 台のインバータを接続する個別制御が必要となるが、5700 系の VVVF インバータ装置は、4 台のインバータを内蔵したインバータユニットを 2 ユニット搭載した新形パワーユニットとした。これを M 車に搭載することで、M 車に搭載した 4 台の PMSM と Mc 車に搭載した 2 台の PMSMとをそれぞれのインバータユニットで個別制御する構成とした(図 9 参照)。制御面では、変調時にキャリア分散方式を採用して、低騒音化を実現するとともに、従来車両よりも回生ブレーキ領域を拡大することで、回生電力量の向上を図った。8.2 主電動機(PMSM)
主電動機は、省エネルギー性能に優れた高効率の全閉自
ユニットクーラユニットクーラ
ユニットクーラ ユニットクーラ
ユニットクーラユニットクーラ
VHF無線アンテナ
パンタ上げヒューズ箱 パンタグラフ パンタグラフ
パンタグラフ
母線ヒューズ箱
母線ヒューズ箱
パンタ上げヒューズ箱
パンタ上げヒューズ箱
避雷器
避雷器
主回路ヒューズ箱
主回路ヒューズ箱
図 6 - 1 屋根上機器配置 5701(Mc1)、5701(Mc2)
図 6 - 2 屋根上機器配置 5801(M1)
図 6 - 3 屋根上機器配置 5801(M2)
写真 5 主電動機(PMSM)
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2015- 9「車両技術 250 号」122
冷式 PMSM を採用して、消費電力量及び騒音の低減を実現した。定格出力は、従来車よりも大きい 190 kW とした。また、全閉構造のため、内部清掃が不要であり、さらに回転子と固定子とを分解することなく軸受交換が可能な構造を採用することで、保守性の向上を図っている。8.3 集電装置
パンタグラフは、1000 系などで実績のあるシングルアーム式パンタグラフを採用して、構造の簡素化による軽量化と保守の軽減とを図っている。8.4 ブレーキ装置
ブレーキは、従来車と同様の MBSA 形回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを採用した。常用ブレーキ、非常ブレーキ系統とは別に直通予備ブレーキを有している。ブレーキ受量器(受信装置)は、M 車に搭載して、Mc-M車の 2 両単位で制御する。常用ブレーキは、各車の EP 弁によって 1 車単位でブレーキシリンダ圧力を調節する。回生ブレーキ時は、動台車でブレーキ力を負担するが、回生ブレーキ力だけでは不足する場合は、全台車に均等に補足空気ブレーキが作動する。また、車輪フラット抑制に効果のある滑走防止制御装置を全車に装備している。8.5 電動空気圧縮機
電動空気圧縮機は、交流駆動による容量 2 000 ㍑/minのレシプロ式空気圧縮機を編成で 2 台搭載して、同期運転を行う。8.6 補助電源装置
補助電源装置は、スイッチング素子にハイブリッド SiCを使用した高効率の静止形 3 レベルインバータ(SIV 装置)である。出力 AC 200 V 150 kVA 60 Hz の SIV 装置を編成で 2 台搭載している。1 台の SIV 装置が停止した場合でも、空調などのサービスを維持するのに必要な電力を確保するため、受給電装置を M1 車に搭載している。8.7 蓄電池
蓄電池は、50 Ah の容量をもつ MT 形焼結式アルカリ蓄電池を M 車に搭載している。架線停電の際、ブレーキ、予備灯、放送、列車無線などの機器を 30 分以上稼働させることが可能である。8.8 冷暖房装置
冷房装置は、5500 系以降の車両と同様に、24.4 kW のセミ集中式クーラを 1 両当たり 2 台搭載している。また、天井中央部に配した低騒音形のラインフローファンを併用することで体感温度を下げ、冷房効果を向上させている。暖
房装置は、腰掛下につり下げて取り付けることで、足もとにゆとりを持たせるとともに、暖房効率の向上を図った。1 両当たりの暖房能力は、先頭車が 12.4 kW、中間車は、M1 車が 13.6 kW、M2 車が 14.05 kW とした。
冷暖房の制御は、外気温、湿度、乗車率、扉の開閉状態などを加味したマイコン制御方式を採用し、体感温度を考慮したきめ細かな制御を行う。また、運転台のモニタ情報表示器は、空調動作モードの設定、温度・湿度の表示、運転電力量の表示を行う。なお、空調動作モードは、各車を個別に設定できるため、検修や回送時などは、必要な車両のみに空調を作動させることが可能となり、電力量の低減に貢献している。8.9 戸閉め装置
戸閉め装置は、従来と同様の単気筒複動式両引きベルト駆動方式であるが、戸閉め後、一定時間、戸閉め力を弱める“戸閉力弱め制御”を新たに追加して、戸挟み時の引き抜きの容易化を図っている。車掌スイッチには、扉電源と全扉が閉じたこととを知らせる表示灯を設置して、電源の供給及び扉の状態を分かりやすくした。また、今回新たに、扉個別スイッチ(写真 6)を各側出入口部に設置した。扉個別スイッチは、乗客自身が操作して扉の開閉を行えるため、特急・急行列車の待避などで長時間停車する際の客室内の保温・保冷性の向上を図っている。8.10 モニタ装置
モニタ装置は、基幹伝送に汎用性が高く、高速・大容量のデータ通信が可能な 100 Mbps イーサネット伝送を使用している。Mc 車にモニタ中央装置、M 車にモニタ端末装置を搭載し、運転室にはモニタ表示器を設置した。モニタ表示器は、各機器の状態、行先・車内案内表示装置及び空調装置の制御、乗務員への音声・表示による注意喚起などを行う。また、乗務員の省エネルギー意識の向上のため、運転及び空調に要した電力量を表示する機能をもつほか、各装置の状態記録及び運転状況記録機能をもっている。これらのデータは、CF カード及び内蔵メモリに保存され、車掌台にあるモニタ運転台ユニットに読み出し器を接続して、データの確認及び読み出しを行う。8.11 運転保安装置
運転保安装置は、従来車両と同様の連続誘導式階段制御方式の自動列車停止装置(ATS)を搭載している。8.12 車内案内表示装置
車内案内表示装置は、32 インチハーフサイズの液晶式
写真 6 扉個別スイッチ 写真 7 車内案内表示装置
-
阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 123
ユニット
ブレーキ
ブレーキ配管
自動高さ調整装置
揺れ枕
台車枠
輪軸
空気ばね
ボルスタアンカ
軸箱支持装置
図7
動台
車(FS
581M
)
写真
8
-
2015- 9「車両技術 250 号」124
速度発電機
軸箱支持装置
空気ばね
揺れ枕
台車枠
輪軸
軸端接地装置
ブレーキ配管
排障器
ボルスタアンカ
自動高さ調整弁
ユニットブレーキ
図8
付随
台車(
FS58
1T)
写真
9
-
阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 125
図9
主回
路つ
なぎ
-
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数
図10
力
行性
能曲
線
数
図11
ブ
レー
キ性
能曲
線
-
阪神電気鉄道 普通用車両 5700 系“ジェット・シルバー 5700” 127
表示器を出入口上部に 1 両当たり 3 箇所に千鳥掛けで配置した。停車駅、乗換案内、駅設備、開扉方向などの情報をイラスト及び大きな文字を用いて分かりやすく表示する。旅客案内については、インバウンド対応として 4 箇国語表示(日本語・英語・中国語・韓国語)を行う。画面のデザインは、駅の表示板などで使用している配色と統一感をもたせるとともに、画面を左右に分割して表示することで、右側に運行案内、左側に静止画又は動画コンテンツを同時に表示する(写真 7)。また、駅接近時及び到着時には、全画面を使って大きく駅名を表示することで、めりはりをつけた案内を行っている。8.13 行先表示器
行先表示器は、前面窓ガラスの内側及び側面にフルカラー LED 方式の表示器を装備した。前面窓ガラスの左側の表示器は、種別を表示して、右側の表示器は、行先を表示する。また、側面表示器は、お客様にとって分かりやすい案内となるように、種別及び行先に加えて、次の停車駅名も表示している。なお、LED 画面の寿命を延ばすこと及び省エネルギーを目的に、走行中は画面を消灯する制御を行っている。8.14 放送装置及び非常通話装置
放送装置のシステム構成は、従来から実績のある AVC(自動音量調整機能)付き分散増幅方式とした。車内スピーカは、1000 系及び 5550 系と同様の高音質タイプのスピーカを先頭車に 8 個、中間車に 9 個を天井中央部に設置し、車外スピーカは、各車の側面上部に各 2 個を設置した。また、各駅での扉開閉時の案内及び注意放送を効率的に行えるように、これまでの放送回路の切替モード(車内、車外及びインターホン)に加えて、車内外放送を同時に行える機能を追加するとともに、扉予告スイッチの操作によって音声案内を行う閉扉予告放送機能を新たに設けた。その他、モニタ装置との連携によって、扉個別スイッ
チをご利用いただく際の案内放送や非常ブレーキ作動時の注意放送を自動で行う。非常通話装置は、1000 系及び5550 系と同様に乗務員と直接通話できるシステム構成を採用して、先頭車は車椅子スペース部に 1 台、中間車は妻部と車椅子スペース部とにそれぞれ 1 台ずつ設置した。
9 台車台車は、付随台車が FS581T 形、動台車が FS581M 形
で、新形のモノリンク式ボルスタ付き(ダイレクトマウント)台車である。待避線への入線が多い普通用車両であること並びにイニシャル及びランニングコストを総合的に判断して、8000 系以来となるボルスタ付き台車を採用した。軸箱支持装置は、5500 系以降で実績のあるモノリンク式としている。台車枠は 4 面合わせ構造とし、ロボット溶接による品質の安定化、高応力発生部を溶接部位とせず母材とする構造設計、点検部位の低減などが図られている。駆動装置は、1000 系などと共通であるが、歯面形状の最適化によって低騒音化を図った歯車を採用し、継手は、風切り音を低減した新形式の TD 継手を採用した。なお、ボルスタ付き台車で 5500 系以降の車両と同じ床面高さ 1 130 ㎜の低床化を図るため、新タイプの小形ユニットブレーキを採用している。
10 おわりに5700 系“ジェット・シルバー 5700”は、当社のジェット・
カーの伝統・性能を受け継ぎながらも新しい技術、設備を積極的に取り入れ、人と地球へのやさしさを追求して設計・製作した。是非、みなさまにご乗車頂き、忌
き
憚た ん
のないご意見を賜りたいと考えている。
最後に、設計・製作に当たり、関係各位のご指導、ご協力に対し心より感謝を申し上げる。
図 12 路線図(出典:鉄道要覧)
阪神電気鉄道株式会社:複線:単線